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かみ合い部分における損失

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Academic year: 2021

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(1)

8章 かみ合い部分における損失

遊星歯車機構の効率を取り扱うには、1組の歯車のかみ合い損失を吟味する必要があ る。ここでかみ合い損失は摩擦に起因しているが、摩擦現象を理論的に説明することは 非常に難しい。そのため摩擦係数が一定として処理されるのが一般的である。このよう な前提で従来から歯車の摩擦損失の大きさを算出する計算式はいくつも提案されてい るが、ここではそれらの計算式の解説をまず行う。このような摩擦現象によって発生す る歯車の損失で定まる効率は通常の平歯車では非常に高く99%に達する。歯車が動力 伝達を目的とする以上、高効率は望ましいことであり歯車はその優れた特性によりこれ を実現している。しかし歯車の効率を測定するには効率が入出力の動力の比率で定義さ れているので、1%しか差のない入力と出力の大きさを測定する必要がある。これを精 度良く測定することもまた非常に難しい。そのために効率を直接測定するのではなく、 損失量を測定する方法で効率を求める方法を著者は開発し、これを油浸法と名付けた。 その測定結果をここでは述べ、歯車の損失が影響される因子を明らかにする。また、歯 車は回転角に関しては100%確実に伝達することが出来る。一方、摩擦による損失があ ると言うことはトルクの伝達で損失が発生することに他ならない。そこで損失のある場 合の力の状態についての考え方を併せて考察する。 1.理論解析 1. 1 問題提起 遊星歯車の効率を取り扱うには1組の歯車の損失を明らかにする必要がある。しかし歯車 の損失量を正確に求める計算式は今の所まだない。これは歯車の効率が通常のものでも9 9%近くあり、従来はその損失の大きさが他の機械の効率に比べて格段によかったことと、 測定法の難しさの為それほど重要な対策課題にならなかったと思われる。ところで最近に なって歯車の効率を正確に計算したいという要求が高まってきたが、歯車の損失を左右す る因子は幾つもあり、これらを整理した形で正確に求める方法がないというのが実情であ る。 一方、歯車の損失を歯面の接触部分での滑り摩擦問題に限定して解くことはできる。そ してその解析解は既に現在では定着した形で与えられているが、じつはここに大きな問題 がある。この解析解としては既に古典的とも言えるMerrittが発表したもの1が著者が目に した文献の中でも最も古いものである。その後Buckinghamが名著Analytical Mechanics of Gearの中で効率の解析解を示し、それが今日では効率式として定着している。ところで この両者の示した式は形の上では全く同じである。従ってその誘導過程も同じように思わ れるが、この間には大きな相違がある。

(2)

すなわちMerrittの式は効率の近似式を与えたにも関わらず、後の式(Buckinghamの式を 含む)は全て厳密な解析解のような紹介をされたために、現在では逆にこの近似式から出発 して厳密解を求めるとする理論まで出てきている。このような理論は砂上の楼閣を築くに 等しく、無意味であるばかりでなくむしろ有害でさえある。不十分な文献考証を基にした 理論構築の過ちを防ぐためにここではかび臭い理論の考察を行いたい。 1.2 定着している効率の解析解 かみ合っている歯車の損失または効率を解析的に求めるための条件としては次の2個の 仮定を基礎にしている。この条件はMerritt以来変らない。 z 歯面がかみ合っている期間中の摩擦係数は一定である。 z 2対噛み合いをしている歯車の法線力は2個の歯に均等に配分される。 このような前提のもとに得られた理論的な平歯車の損失率ζ(=1-効率)あるいは効率 ηの大きさは次式のようにして表される。

(

1

1

),

1

(

1

1

)

i

k

i

k

±

η

=

±

=

ς

(8.1-1) ここで i は速度伝達比1であり、複号のうち+は外歯歯車のかみ合い、-は外歯と内歯の かみ合いを示す。また k はその式を誘導した条件によって様々な値が与えられる。ここで はその代表的な式として、次のようなBuckingham、およびNiemannの式の2例がよく知 られている理論式である。 (1 ) Buckingham の 式 2、 有 名 な 式 で あ り 、 変 形 し た 形 で 初 版 以 後 のGear Handbook3, 4にも紹介されている。ここでは1対噛み合い歯車において、近寄りかみ合い 領域と、遠退きかみ合い領域の摩擦係数が異なると考え次のように表される。

k

r

g

g

g

g

b m m n n m n

=

+

+

1

2

2 2

μ

μ

(8.1-2) ただし、μは摩擦係数、gはかみあい長さ、rbは駆動歯車の基礎円半径、また下添字 m は近寄りかみ合い、n は遠退きかみ合い領域を示す。 (2) Niemannの式 5 ,6、 この式は2対噛み合い領域をもつ歯車の摩擦損失率のk を次のようにして表している 。

k

z

=

π μ ε ε ε

− +

+

1 1 2 2 2

1

(

)

(8.1-3) 1 ここでは伝達比ではなく規格で用いられる速度伝達比を用いた。

2 Buckingham,E. Analytical Mechanics of Gear,McGraw Hill , (1949), 395-406 3 Dudley,D. Gear Handbook, 1st edition, McGraw Hill, New York,(1962),14-4

4 Townsend, D. P., Gear Handbook, 2nd edition, McGraw Hill, New York,(1992),12.4-12.13 5 Niemann. G. Maschinenelemente, Bd.2, Springer, Belrin, (1965),

6 Niemann. G.,und Winter, H., Maschinenelemente, Bd.2, Springer, Belrin,(1983)

(3)

ただし、ε1=gm/ pb ε2=gn/ pb、ここでpbは法線ピッチ、εはかみあい率を示 す。 これらの式はそれ以前に発表された Merritt の一対噛み合い領域での損失式と内容的に は同じものである。しかし Merritt の式との違いは誘導の仕方に相違があり、ここではそ のことを問題としている。そのMerritt の式は次の通りである。 n m n m

g

g

g

g

r

r

+

+

⎟⎟

⎜⎜

+

=

2 2 2 1

1

1

cos

2

1

α

μ

η

(8.1-4) ただしr1、r2は駆動側と被動側のピッチ円半径を、αはかみ合い圧力角である。 この式の意味を述べる前に、上に示した二つの式(1)、(2)の誘導経過を追ってみることにす る。 1.3 Buckingham の式の誘導 ここでは噛み合い率=1として取り扱う。つまり噛み合い区間全体で2対噛み合い領域 はないものとし、噛み合い状態の幾何学的関係を図8.1-1 に示す。そして噛み合い点での摩 擦係数は近寄りかみ合い区間と、遠のき噛み合い区間では異なり、それぞれμ1、μ2とし、 その区間内では一定とする。またO1を回転中心とする歯車を駆動側とする。さらに噛み合 い長さgはピッチ点Pを原点として遠のき噛み合い側を正とする。 b a 図8.1-1 噛み合い状態での諸量 ここで噛み合い点Mでの歯面上の周速を求めると、駆動側の歯面に対してはA点を瞬間

(4)

回転中心とし、線分AMを半径とする回転運動をするので、歯面上の周速度v1は線分AM とω1の積で表される。同様にして被動側の歯面の周速v2は線分BMとω2の積で表される。

v

1

=

AM

ω

1

,

v

2

= −

BM

ω

2 2 (8.1-5) 従ってこの駆動側歯面の被動側に対する相対速度vsは、両歯車の基礎円での周速が互いに 等しい(rb1ω1=-rb2ω2)ことを考慮するれば次のようにして与えられる。

v

v

v

r

g

r

g

r

r

g

g

s b b b b

= −

=

+

+

=

+

+

=

1 2 1 1 2 1 1 2 2 1 2 1 2

(

tan

)

(

tan

)

(

) tan

(

)

(

)

α

ω

α

ω

ω

ω

α

ω ω

ω ω

(8.1-6) ここで接点Mの作用線上の移動速度(dg/dt)は

dg

dt

=

r

b1

ω

1 (8.1-7) 一方、微小時間dtの間に生じた摩擦による損失エネルギdLは

(

)

dg

g

i

r

F

dg

r

g

F

dt

v

F

dL

b n b n s n

⎛ +

μ

=

ω

ω

ω

μ

=

μ

=

1

1

1

1

1 1 1 2 1 (8.1-8) ただし

i

= −

ω

ω

12 したがって、全かみ合い領域(a-f間)での損失エネルギは近寄りかみ合い区間と遠の き噛み合い区間の間で上式を積分することにより得られる。

(

2

)

2 2 2 1 1 1 0 1 2 0 1 2

1

1

2

1

1

1

1

1

1 2

g

g

i

r

F

dg

g

i

r

F

dg

g

i

r

F

L

b n g b n g b n

μ

+

μ

⎛ +

=

⎛ +

μ

+

⎛ +

μ

=

(8.1-9) このときの入力エネルギWinを作用線上をf点からa点まで法線力が作用したとして次の ようにおけば

(

g

2

g

1

F

W

in

=

n

)

(8.1-10) 損失率ζは次のようになる。

(

)

(

)

2 1 2 2 2 2 1 1 1 2 2 2 2 2 1 1 1

1

1

2

1

1

1

2

1

φ

φ

φ

μ

φ

μ

μ

μ

ς

+

+

⎛ +

=

+

⎛ +

=

=

i

g

g

g

g

i

r

W

L

b in (8.1-11) 8 章 1 v2.2 - 4 -

(5)

故に効率ηは

(

)

1 2 2 2 2 2 1 1 1

1

1

2

1

1

1

g

g

g

g

i

r

b

+

⎛ +

=

=

μ

μ

ς

η

(8.1-12) ここではg1に負の符号がついているが、これはピッチ点を原点として噛み合いに方向を考 えたためについたものであり、添字1とm、2とnの記号の対応と符号をあわせれば上式 はBuckingham の与えた式(8.1-2)が得られる。 1.4 Niemann の式の誘導 この場合も同様の方法を用いて求められる。ただしここでは2対噛み合い状態での法線 力Fn は等分に配分される、つまりFn/2 が作用するものとし、摩擦係数μは全区間に亘 って一定とする。そして作用線上のかみ合い位置を図8.1-2 のようにとる。すなわち1対噛 み合い領域はgfとgaの区間で、噛み合いはx1座標の位置より始まり、x2座標の位置で 終わるものとする。座標はピッチ点Pを原点にとりその右側を正とする。なおpbは法線ピ ッチである。

0

g

x

x

1 2

p

p

b b

g

g

f a

A

F

n

P

B

図8.1-2 作用線上の諸量 先に得たのと同様の方法により、一つの歯が噛み合いを初めて、x2で噛み合いが終わる までの損失はそれぞれの区間での損失の和を求めることにより、次のようになる。

{

}

{

}

⎥⎦

⎢⎣

+

+

+

⎛ +

μ

=

+

+

+

⎛ +

μ

=

2 2 2 2 2 2 1 2 1 0 0 1

2

4

1

1

2

2

1

1

2 1 a f n a f n b x g n g n g n g x n b

g

g

F

g

x

x

g

F

i

r

dg

g

F

dg

g

F

dg

g

F

dg

g

F

i

r

L

a a f f (8.1-13) ここでgf、およびgaは

g

f

=

x

2

p

b

,

g

a

=

x

1

+

p

b より

(

)

(

)

{

}

(

) (

⎥⎦

⎢⎣

+

+

+

+

+

⎛ +

=

2 1 2 2 2 1 2 2 2 2 2 1 1

2

1

1

1

2

b b b b b n

p

x

p

x

p

x

x

p

x

x

i

r

F

L

μ

)

(6)

(

)

{

b b

}

b n

p

x

x

p

x

x

i

r

F

2 1 2 2 2 2 1 1

1

1

2

+

+

+

⎛ +

μ

=

(8.1-14) いまεを噛み合い率とし、

x

1

=

ε

1

p

b

,

x

2

=

ε

2

p

b とすると、

x

1

x

2

= −

ε

p

b、より、こ れを上式(8.1-14)に代入すると

{

ε

ε

ε

}

μ

+

+

⎛ +

=

1

1

1

2

2 2 2 1 2 1 b b n

p

i

r

F

L

(8.1-15) 一方、入力Winを作用線上の移動距離と法線力の積とすれば

W

F

g

x

F g

F g

F

x

g

F p

in n f n f n a n a

=

+

+

+

=

2

1

2

2 (8.1-16) n b さらに

p

b

=

m

π

cos

α

,

r

b1

=

mz

1

cos

α

の関係を使うことにより、損失率は

(

2

)

2 2 1 1

1

1

1

ε

ε

ε

π

μ

ς

+

+

⎛ +

=

=

i

z

W

L

in (8.1-17) Buckingham の式と Niemann の式はこのような誘導方法によって得られている。 次に述べるMerrittの式との論点を明らかにするため、上の2個の式の共通の問題点をそれ ぞれアンダーラインで示した。すなわち両式とも入力Winを作用線上の移動距離と法線力の 積としていることを指摘しておく。 1.5 Merritt の式の考察 (1) 考察のための準備 Merritt の式の考察をするための準備として、2個の問 題を最初にとりあげる。その一つは簡単な摩擦系の問題であり、他の一つは歯面での摩擦 力の作用方向の問題である。 (a)摩擦系の力の関係 初等的な問題として図 8.1-3 に示す簡単な摩擦系の力学 を考える。ここでは水平面と質量mを持つ物体の間に摩擦係数μの摩擦面があり、物体に は垂直面に対してθの方向から力Fが作用しているとする。このような系では摩擦面に働 く法線力Foはmの重力mgと作用力Fの垂直成分Fnの和であり、摩擦力fはこの法線力 Foと摩擦係数μの積で表される(f=μFo)。ところで作用力の水平成分Faはmの加速 度

a

と摩擦力とに釣り合っている。したがってこの系の運動方程式は次のようになる。

F

sin

θ

=

ma

+

μ

(

mg

+

F

cos )

θ

(8.1-18) ここでの主張は摩擦力は外力ではないということである。 さらに摩擦力は床面に対しては物体の動く方向に作用する。すなわち考察している側に 働く摩擦力の方向は、相手側の相対速度の方向に作用するといえる。図8.1-3 の例で言えば 物体に働く摩擦力は物体から見て床面は右方向に動くので右向きの摩擦力が働き、床面に 作用する摩擦力は物体が動く方向と同じ左向きの力が作用する。つまり物体の動きに引き 8 章 1 v2.2 - 6 -

(7)

ずられるような力として働く。この相対速度は相手側との立場を逆にすれば互いに反対の 方向に向くので、摩擦力はそれの働く両側で互いに逆向きの力として働き、この部分では 平衡がとれていると考えられる。

m

mg

F

F

n

F

a

μ

θ

ρ

図8.1-3 摩擦の働く点での力関係 ここでμ=tanρとして表したとき、このρを摩擦角と呼ぶ。この摩擦角は摩擦力の作用 する方向によって、法線力を挟んで左右に振れることになる。以上の事象は力学の初等的 課題であるが、後の問題のためにあえて述べた。 (b)歯面に作用する摩擦力の方向 α ρ x α α ρ ρ ρ r r b1 2 2 A A A' A'' P P O O O O2 2 1 1 P'e M' M'' α v' v' 1 2 P''ev'' v'' 1 2 (a) (b) r b1 r11 図8.1-4 摩擦のある場合の力の作用線が中心軸線と交わる位置

(8)

かみ合っている歯面間の相対速度の方向を考えると、近寄りかみ合い状態では駆動側の 歯面周速 v‘1は被動側のそれ v’2よりも小さい。その結果、駆動側歯面には被動側歯面に引 きずられるような摩擦力が働く。法線力と作用力の間の角は摩擦角ρ(=tan―1μ)に等し いので、噛み合い点M‘ に作用する合力は作用線に対して摩擦角だけ傾いた方向に働き、 軸心を結ぶ線との交点はピッチ点よりも被動側によったところP’eにある(図 8.1-4(a))。 これに対して遠のき噛み合い領域においては駆動側の歯面周速が被動側のそれよりも大 きいために、駆動側歯面には被動側歯面を引っ張るような力が働く、そのためこの領域の 摩擦力の方向は近寄り噛み合い領域の方向とは反転する。そして摩擦角ρも近寄り噛み合 い領域とは逆の方向にふれ、軸心を結ぶ線との交点 P’’e の位置は、この場合もやはりピッ チ点よりも被動側によった場所にある(図 8.1-4 (b))。 (2) Merritt の効率式 Merritt は上述のようにPeの位置の考察を行った上で、作 用線上の力で摩擦損失が求まるかを考察している。そのため次のように理論を展開してい る。すなわち摩擦を考慮したときの力の作用点はPからPeに移動しているので、駆動側歯 車のモーメントをM1、被動側のそれをM2とすると

M

M

O P

O P

e e 1 2 1 2

=

(8.1-19) ここで摩擦を考えなければ上式はO1P/O2Pに等しくなる。それはまた速度伝達比iに等 しい。一方、効率はその定義と上の関係を用いれば次のようにして表される1

P

O

P

O

P

O

P

O

i

M

M

M

M

e e t 2 1 1 2 1 2 1 2 1 2

1

=

=

ω

ω

=

η

(8.1-20)

α

ρ

M'

P'

P

m

α

ρ

P

P''

n

M''

(a)

(b)

e e

図8.1-5 近寄り噛み合い領域と遠のき噛み合い領域でのPとPe間の長さの違い 1 Merritt はこの関係を旧版(1946)でも改訂版(1954 年版)でも次のようにして表しているが、その後に 続く記述からしても矛盾していて本文の式が正しい。 e e t

P

O

P

O

P

O

P

O

2 1 2 1

=

η

8 章 1 v2.2 - 8 -

(9)

いまピッチ点から接触点(M’,及び M’’)までの距離をxとしたとき、同じ大きさのxの 位置でのPPeの長さは近寄り側よりも、遠のき側のほうが小さい( )。このこと は△PP’eM’と△PP’’eM’’において高さ P m 或いは P n を共通辺とする関係によって明らか にすることができる。すなわち図8.1-5(a)においては∠PP’em=π/2-(α+ρ)よ り、 e e

PP

PP

'

>

"

(

)

x

PP

e

ρ

α

ρ

+

=

cos

sin

'

(8.1-21) また図8.1-5(b)では∠P”eP n=π/2-(α-ρ)、したがって

(

)

x

PP

e

ρ

α

ρ

=

cos

sin

''

(8.1-22) ここでcos(α-ρ)>cos(α+ρ)が常に成立するので、PP’’e<PP’e である。したが ってO1P”e >O1P’e で、ピッチ点から同じ距離xにある噛み合い点の効率は式(8.1-20)よ り図8.1-5 (b)の場合つまり遠のき噛み合い領域では、図 8.1-5 (a)の近寄り噛み合い領域の 効率よりも大きいことがわかる。 Merritt はこのような考察をした上で、次のように述べている。

“Ignoring this difference, which is quite negligible, the mean normal tooth reaction for a tangential load F will be Fsecα.”

すなわち、「このPPeの違いの差(噛み合い領域による効率の差)は十分小さいので無視 すると、(ピッチ円の)接線力Fに対する歯の平均的な法線方向の反力はFsecαとなる」 と。 しかしこの記述には少し飛躍がある。すなわちO1P”e 、O1P’e の大きさを議論している にもかかわらず、それをいきなりO1P とO1Peの差にすり替えて、歯に作用する反力を法 線力としていることを指摘できるが、ここでの問題からみれば、このことは上記のような 仮定をおいたということで本質的な事柄ではない。 いま、ピッチ円上の変位をδuとすれば 1歯車の角変位は駆動側はδu1、被動側 はδu /r2であるので、かみ合い点での歯面間の滑りの量δsの大きさは

⎟⎟

⎜⎜

+

δ

=

δ

2 1

1

1

r

r

u

x

s

(8.1-22) ここでμ=μ1=μ2とすると、摩擦による損失は、

u

x

r

r

F

δ

α

μ

⎟⎟

⎜⎜

+

2 1

1

1

cos

(8.1-23) 駆動歯車が行った仕事はFδuであるので瞬間的な効率は 1 原文ではδuδxとしている。このような表示にすると作用線上の微小変位と紛らわしのでここでは δxをδuとした。

(10)

x

r

r

u

F

L

u

F

t

⎟⎟

⎜⎜

+

=

=

2 1

1

1

cos

1

α

μ

δ

δ

η

(8.1-24) 歯がかみ合っているときの全体の損失はこの瞬間的な損失を噛み合い区間に亘って積分す れば得られる。そしてそのときの入力は

δ

=

F

u

W

in (8.1-25) ここで作用線上の微小変位δxとδuの関係はδx=δucosαを考慮すれば、Buckigham の式を誘導したのと同じ方法により、効率式は式(8.1-4)と同じように次のように与えら れる。 n m n m

g

g

g

g

r

r

+

+

⎟⎟

⎜⎜

+

=

2 2 2 1

1

1

cos

2

1

α

μ

η

(8.1-26) この式はrcosα=rbであることを考えれば、先に示したBuckingham の式と全く同じで ある。 1.6 Merritt の式と Buckingham の式との考え方の違い

Merritt の式と Buckingham の式の決定的な違いは上記の英文部分と次の Buckingham の記述にある。

“The efficiency can be written more simply and exactly by considering the work input to be equal to Fnrb1ω1“ 「入力をFnrb1ω1(この記号は本文に合わせて書き換えてある)に等しいと考えることに よって効率は正確に、そしてより簡単に書き表すことができる」。 すなわちBuckingham は前提条件なしに作用線上の力と作用線上の変位の積を入力とし たのに対して、Merritt は摩擦力を考察した上で、論理的には無理があったがピッチ円の接 線力とピッチ円周上の変位の積を入力とした。なおピッチ円上の仕事で考えるか、法線上 の仕事で考えるかは基本的には同じことである。ここでの問題はBuckingham は入力を考 えるのに摩擦による作用力の変化を考慮することなく、効率式を得た誘導過程にある。 Buckingham は 1893 年から 1917 年までに発表された3件の文献名を紹介し、それらを まとめた式としてClapp 教授の式を引用したとしているので、入力を取り扱う上での前提 条件(つまり作用線上の力は近似値として扱うという条件)は念頭にあったどうかは定か でない。しかしこれ以後の文献ではBuckingham の式を厳密解のようにして紹介している ことに問題がある。 8 章 1 v2.2 - 10 -

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