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大正大学大学院研究論集33号 007渡辺隆明「心的記述は物的記述へとなぜ還元できないのか」

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Academic year: 2021

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で き な い こ と、 ⒉ 数 千 年 用 い ら れ て い る が、 進 化 が な い こ と、 ⒊ 他 の 諸 科学と折り合いが悪いこと、である。そして、さらに一歩進んで、その ような素朴心理学による記述は消去されるべきであるという。チャーチ ランドによる素朴心理学へのこのような批判は、物理学を基準とした強 い意味での理論を素朴心理学へも求めたことによると考えられる。 しかしながら、素朴心理学は必ずしも理論的でなければならないと考 え な く と も よ い と 筆 者 は 考 え る。 こ の こ と は、 素 朴 心 理 学 が、 ( チ ャ ー チランドに批判されるような)強い意味での理論であるとみなされてき た理由について、水本正晴が示した議論をみれば明らかである。すなわ ち、素朴心理学が「理論」であることが求められた理由とは、心とみな される私たちの 「内的」 過程が直接観察されるようなものではないので、 理論的に説明することによって、その間接的な証拠を求めようとしたこ とによる、と水本は論じるのである(石川幹人・渡辺恒夫編『入門・マ インドサイエンスの思想︱︱心の科学をめぐる現代哲学の論争』 新曜社、 2 00 4 年、一七七頁) 。 したがって、素朴心理学が本質的に強い意味での理論である必要はな いことがわかる。なぜなら、素朴心理学にとって、それが「理論」と見 な さ れ ね ば な ら な い 理 由 が、 「 内 / 外 」 の 区 別 の と ら え 方 を 支 持 す る た め で あ っ た の だ と す る な ら ば、 「 理 論 」 で あ る こ と に こ だ わ ら ず に「 内 /外」の区別を成立させることもできるからである。 そ こ で、 心 的 枠 組 み の 特 徴 に つ い て 論 じ て い る デ イ ヴ ィ ド ソ ン の 議 論( Davidson, D., Essays on Actions and Events, Oxford Univ ersity Press, 1980 ( 服 部 裕 幸・ 柴 田 正 良 訳『 行 為 と 出 来 事 』 勁 草 書 房、 19 90 年 ) が参考になる。彼によれば、心的枠組みの特質を主張するのは、私たち が「根元的解釈( radical interpretat ion )」を行っているとするからであ る。 それによれば私たちが誰かの何らかの発話やふるまいを観察する時、 私たちは必ず、その相手に対して人の内的状態に言及した信念を帰属さ

心的記述は物的記述へとなぜ還元できないのか

渡 

辺 

隆 

私たちは、自分たちのふるまいについて、多くの場合「〜と信じてい る」や「 〜 したい」というような信念や欲求によって説明している。自 分たちについてなされる心的記述は、ふるまいについて説明が行われる 場面で数多く出現する。そのような時、信念や欲求は、存在論的に確か められなくとも、 存在するものとみなされている。 このように、 私たちは、 自分たちについて言及する時、日常的に信念や欲求などといった心的状 態にコミットした説明をする。私たちの自分たち自身についての心理学 的 説 明 の 枠 組 み は「 素 朴 心 理 学( folk psycholog y ) と 呼 ば れ る。 こ の ことは、私たちの日常的な見解が、心の実在論を必ずしも前提しなくと もよいということの一つの証左である。そのような存在は、理論的措定 物のようなものとして扱われている。素朴心理学は、信念や欲求に依拠 しながら人々の行動を説明する枠組みを理論が支えているのだと見なさ れている。 近年の物理主義(存在するものはすべて物的なものである、 等の主張) に属する主張を支持するために用いられることが多い見解の一つに、消 去主義がある。消去主義者たちは、心的な記述は消去されるべきである と主張する。消去主義者の代表的な一人であるポール・ M・チャーチラ ン ド は 論 文「 消 去 的 唯 物 論 と 命 題 的 態 度 」( 信 原 幸 弘 編『 シ リ ー ズ 心 の 哲学 Ⅲ 翻訳篇』勁草書房、 2 00 4 年、所収)の中で、素朴心理学によ る記述は不完全なものであると述べ、それらを科学的な記述へと還元す るということは到底出来るものではないと主張する。素朴心理学の欠点 と は、 ⒈ 精 神 病、 創 造 性、 知 的 能 力 の 個 人 差、 知 覚 や 錯 覚 な ど を 説 明

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せ、さらに、信念の性質から合理的存在とみなさなければならない。人 の信念に特有の性質とは、規範的性質と全体論的性質である。したがっ て、心的枠組みにおける記述は、物理学における記述のような法則論的 な記述へと還元することができない(心的記述の非法則論的性質) 。 素朴心理学は、それが主張する心的枠組みが理論的であるとされてき たが、その枠組みをデイヴィドソンの議論に基づき、規範的性質と全体 論 的 性 質 に よ っ て 説 明 す る こ と が で き る。 し か の み な ら ず こ の こ と に よって、素朴心理学を理論であるとみなすことによって生じた困難を回 避することができるようになるのである。 以上のように、 心的記述は、 それが基づく心的枠組みの特徴によって、 物理的枠組みへと還元できないのである。 (大学院文学研究科宗教学専攻修士課程)

参照

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