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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 利用統計を見る

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではない

のか?

著者名(日)

並木 茂

雑誌名

東洋法学

47

2

ページ

27-67

発行年

2004-02-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000164/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか?

はじめに

東洋法学

 ﹁形成の訴えは、給付の訴え、確認の訴えのように一般的に認められる類型ではなく、法がそれとしてカズイ       ︵−︶ スティックに認めたものの総称でしかな﹂いとし、従来は形成の訴えの亜類型とされてきた訴訟法上の形成の訴 ︵2︶       ︵3︶ えを﹁形成の訴えとするのは誤解を招く。訴訟法の認めた特殊な訴えの類型として理解すれば足りる﹂とする見        ︵4︶ 解が有力である。本稿は、民事実体法における裁判上の形成権が形成の訴えの訴訟物になりうるか否かを検討す るものであるから、いずれにしても実体法上の形成の訴えのみを対象とすることになる。  形成の訴えの訴訟物についての学説は、大別すると、㈲一元説と⑧多元説とに分かれる。㈹説はさらに@形成        ︵5︶      ︵6︶     ︵7︶ 権説、㈲形成要件説、⑥形成原因説、法的地位説などに、⑧説はさらに@三分説、㈲二分肢説などに分かれるも ののようである。しかし、若干のタイムラグがあるとはいえ、鈴木正裕教授は、わが国では形成原因説が今日で 27

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか?       ︵8︶ は支配説の観を呈しているとされるので、 ㈹、@の形成原因説︵㈲の形成要件説も、形成原因説とは用語の違い にすぎず、実質的には同じ説と思われるから、それを併せて︶のみを取り上げて検討し、結局、㈲、@の形成権 説が正当であることを論証したいと思う。

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︵5︶ ︵6︶ ︵7︶  新堂幸司・新民事訴訟法[一九九八年、弘文堂]一七八頁  従来は、形成の訴えを、①実体法上の形成の訴え、②訴訟法上の形成の訴えおよび③形式的形成の訴えに分類して いた。  新堂・前出注︵1︶一八三頁  訴訟物は、多義的で、判決手続において原告の被告に対する権利主張をいうのが一般であるが、主張される権利関 係自体であることもある。本稿においては、前者を︵訴訟上の︶請求といい、請求の内容である権利もしくは法律関 係︵以下、両者を併せて﹁権利関係﹂という︶またはその存否を訴訟物ということにする。  一定の形成を求めうる法的地位とする説である︵斎藤秀夫編著・注解民事訴訟法㈲[一九七五年、第一法規出版] 二五頁く斎藤V、齋藤秀夫・民事訴訟法概論︹新版︺□九八二年、有斐閣]一二二頁、納谷廣美・民事訴訟法︹現代 法律選書︺[一九九七年、創成社]九四頁︶。  ①国家に対する形成要求権︵民七四四、八〇四以下、四二四など︶、②裁判上行使を必要とする実体法上の形成権 ︵民七七〇、八二二など︶および③相手方に対する既存の権利関係の変更請求権︵民一〇三一など︶に三分する説で ある︵中村宗雄・増補改版訴と請求並に既判力[一九六一年、敬文堂]一〇九頁。なお、中村英郎・民事訴訟法 [一九八七年、成文堂]一五九頁、同・新民事訴訟法講義[二〇〇〇年、成文堂]一〇二頁︶。  ①法律が形成要件として明定している事実関係ごとに訴訟物を別個とする可能性を原告が選ぶことができるし、 ②逆に一一つの事実関係を同一の形成を求める法律上の地位を基礎づけるための手段として︵攻撃方法として︶使うこ ともできるという事実関係の二重構造を認めつつ、それに立脚して形成訴訟の訴訟物理論を構成するのが適当であ 28

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 るとする説である︵三ケ月章・民事訴訟法︹第三版︺[一九九二年、初版は、一九七九年。弘文堂]  は形成要件が、②では裁判上の形成を求める法的地位が訴訟物であろう。 ︵8︶ ﹁非訟事件と形成の裁判﹂新・実務民事訴訟講座8□九八一年、日本評論社]一四頁 二二二頁︶Q①で 形成要件説、形成原因説とは、どのような学説か?

東洋法学

 ω 形成要件説  わが国においてこの説を最初に唱えられたのは、兼子一博士であろう。兼子博士は、形成の訴えを﹁請求が﹃一 定の法律要件の存在に基き判決に依り既存の法律状態が変更︵即ち新たな法律関係の形成︶せらるべき旨の主張﹄ である訴えを云ふ﹂といわれるのである。が、それに続いて﹁此の法律要件を或は形成権とも称する﹂といわれ たり、﹁形成の訴に於ける原告勝訴の判決は形成判決で、其の既判力に依り形成の法律要件の存在を確定すると共 に、其の形成力として直接其の宣言する法律状態の変更を生ずる︵之に反し原告敗訴の本案判決は形成要件の不       ︵9︶ 存在を確定する確認判決である⋮⋮︶﹂といわれたりもする。       ︵−o︶  兼子博士は、その後の著書でも、同様の論旨を述べられるが、前著よりも明確性を増し、﹁この訴は、特に訴を もって裁判所に権利関係の変更を請求することのできる旨の規定されている場合に限って認められる特殊なもの である。⋮⋮場合によって、法律が一定の原因を法律関係の変更の要件としながらも、現実の変動の効果は、そ の原因事実の成立や当事者の意思表示では、直ちに生じないものとし、その形成要件︵これを形成権と呼ぶ場合 29

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? もある︶の存在を訴をもって主張させ、これを確認する判決の確定をまって、始めて生じさせることとしている﹂ といわれる。  兼子博士は、このように請求の内容となるコ定の形成要件H形成権﹂を形成の訴えの訴訟物とされるのであ ︵n︶ るが、その具体的な内容は、それほど明確ではない。それかあらぬか、鈴木正裕教授によれば、兼子博士は、離       ︵1 2︶ 婚訴訟においては不貞行為や悪意の遺棄の事実そのものが訴訟物になると考えておられるとのことである。形成 要件が事実であるとすると、民訴法は、証書真否確認の訴えを定め、事実の存否の主張を請求とすることを認め るが、民訴法二二四条︵旧民訴二二五︶は、証書真否確認の訴えにかぎってその主張を認める趣旨だったのでは ないだろうか。旧民訴法二二五条は、明治民訴法の大正一五年の大改正の際に新たに設けられたものであるが、 その起草担当者である松岡義正博士は、その著書において、﹁積極的確認ノ訴ハ⋮⋮権利又ハ法律関係成立ノ確認       ︵13V 判決ヲ求ムル訴ナリ故二法律関係及権利力積極的確認ノ訴ノ目的物ナリトス﹂と注釈したうえ︵消極的確認の訴        ︵14︶       ︵15︶ えにおいても同旨の注釈をする︶、権利について別に項を立てて注釈するとともに、法律関係について﹁絶対権上 ノ関係タルト相対権上ノ関係タルト身分上の関係タルトヲ間ハス確認ノ訴ノ目的タルコトヲ得無形財産上ノ関係 殊二著作権、専売特許権、商標権及意匠権等モ亦然リ⋮⋮之二反シテ事実ハ法律関係ノ発生又ハ消滅二関スル重       ︵16︶ 要ナルモノト錐モ確認ノ訴ノ目的ト為ルコトヲ得ス唯例外トシテ証書ノ真否二関スル確認ノ訴アルノミ﹂とし、 以上を締めくくって﹁証書ノ真否ハ一個ノ事実ニシテ法律関係二非ス従テ証書ノ真否確認ノ訴ハ事実二付テノ確        ︵17︶ 定判決ヲ求ムル唯一ノ訴ナリトス﹂と注釈されるからである。 30

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ハ  パ  パ

11109

)  )  ) パ  パ  ハ  ハ  ハ  パ 17 16 15 14 13 12 )  )  )  )  )  ) 前出注︵13︶一四一五頁  前出注︵13︶一四〇七頁  前出注︵13︶一四〇八頁  前出注︵13︶一四一四頁  新民事訴訟法註釈第六巻口九三九年、清水書店]一四〇六頁  ﹁形成訴訟の訴訟物﹂民事訴訟雑誌五号口九五八年]一五一頁 院]八九頁︿中島弘雅﹀なども、この説に属するものと思われる。 義□九九八年、有斐閣]三〇頁︿徳田和幸﹀、石川明u小島武司編・新民事訴訟法︵補訂版︶口九九八年、青林書 民事訴訟法口九八八年、法学書院]一二二頁、新堂・前出注︵1と七七頁、中野h松浦H鈴木編・新民事訴訟法講 頁、四五頁︿中野﹀、岡徹﹁訴えの類型論の意義﹂講座民事訴訟②ロ九八四年、弘文堂]二二五頁、上田徹一郎・  中野貞一郎H松浦馨匪鈴木正裕編・民事訴訟法講義︹第三版︺[一九九五年、初版は、一九七六年。有斐閣]三八  新修民事訴訟法体系︹増訂版︺口九六五年、初版は、一九五四年。酒井書店]一四五頁︶  民事訴訟法概論口九三八年、岩波書店]一六二∼三頁

東洋法学

 ω 形成原因︵甲︶説  この説は、﹁形成の訴とは、その請求が、法律上一定の事由︵形成原因︶に基いて、とくに裁判所の判決によっ て、法律関係が新たに形成︵発生・変更・消滅︶せられるべきことの主張である訴をいう﹂﹁形成の訴に基く原告 勝訴の判決を形成判決といい、その内容に従って、⋮⋮形成力を生ずるが、その根底においては、原告主張の形 成原因の存在を確認し、形成が法律上正当になされたことを関係者において争うべからざるものとする点では、 31

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 矢張り既判力を有する﹂﹁以上に反し、形成の訴を棄却する判決は、原告主張の形成原因の不存在を確定する確認      ︵18︶ 判決である﹂とする説である。つまり、請求の内容が一定の形成原因であるとする説である。  ところが、この説は、﹁わたくしは、訴訟物とは何か、何がその訴訟における審判の対象であるかは、原告の訴 状における陳述の客観的内容についての合理的解釈によって定まるのであり、しかもその客観的基準は、やはり       ︵19︶ 実体法規をおいて他には存しないと信ずるものである。﹂﹁形成訴訟の訴訟物も、他の種類の訴訟におけると同じ く、単なる形成の要求、たとえば離婚もしくは婚姻取消の要求または婚姻解消の要求でなく、むしろ、かかる要 求をなすについての法律的根拠として主張せられるもの、たとえば離婚原因または婚姻取消原因である。あるい は、かかる形成原因︵OΦω富一窪轟ω9ωδ&・ぬ益⇒8︶を主体化して、︵判決による︶形成︵請求︶権︵○のω琶ε鑛ω− おo浮︶、たとえば離婚請求権・婚姻取消請求権または単に離婚権・婚姻取消権と呼んでもよい︵通説︶﹂として、 形成の要求をするについての法的根拠として主張されるもの目形成原因旺形成︵請求︶権としながら、他方にお いて﹁形成訴訟の場合にも、裁判官の主たる任務は、原告が訴をもって主張してきた形成原因の存否の認定にあ ること、そして、形成判決の主文における形成の宣言︵例、決議の取消、原被告の離婚など︶は、かかる形成原        ︵20︶ 因の認定を基礎とし、そこから必然的に導かれる結果の表明にすぎないことが知られるのである﹂ともいい、形 成原因を裁判官の認定の対象である具体的な事実であるとするかのごとくである。  こうして、この説では、形成原因の意味がかならずしも明らかでないのである。 32

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︵18︶ 中田淳一﹁訴訟上の請求﹂民事訴訟法学会・民事訴訟法講座第一巻口九五四年、有斐閣]  事訴訟法講義上巻□九六一年、有信堂]六八頁︵なお、八八頁︶にも、同様の説明がある。 ︵19︶ 中田﹁形成訴訟の訴訟物﹂民事訴訟法雑誌一号口九五四年]二二二頁 ︵20︶ 前出注︵19︶一三三頁 一七五∼七頁。同・民

東洋法学

 ⑥ 形成原因︵乙︶説  鈴木教授は、﹁権利が訴訟物に位置づけられたことによって、形成原因が原因事実・原因関係から抽離され、も し、形成原因のみをとりあげてこれを観念するとすれば、権利と事実の中間に位いする一種の法状態、とでも称 するよりほかないものに転化してしまった、ということである。たとえば、⋮⋮婚姻取消原因と詐欺強迫の事実       ︵21︶ とは法的には︵法律要件とこれを構成する法的事実として︶区別して取扱われることが必要となった﹂といわれ るのであるが、この権利と事実の中間にくらいする一種の法状態とか、婚姻取消原因とかの内容がしかく明瞭で はないのである。  形成原因が原因事実・原因関係から抽離されるものであることからすると、婚姻取消原因でいえば、具体的な 詐欺強迫による婚姻の事実から抽出したものをいうのであろうから、これが一種の法状態として婚姻取消しの訴 えの審判の対象である請求の内容となるもの︵訴訟物︶であることになるのであろうが、婚姻取消しの訴えを請 求および法的三段論法の適用の関係でいえば、婚姻取消権︵民七四七11、七四八参照︶と、裁判規範の要件事実 としての①婚姻の成立、②その婚姻が詐欺または強迫によったものであること、および、③婚姻取消しの訴えを 33

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 提起したこと︵民七四三、七四七1︶、具体的な事実、ならびに、その事実がこの裁判規範の要件事実に該当する との判断︵いわゆるあてはめ︶以外にはないのではないか。取り分け、民法七四七条二項、一項が条文で定めて いる婚姻取消権︵の存在︶を排除してまでそれ以外の法状態を訴訟物にする理由がいま一つ明確でないのである。 ︵2 1︶ 前出注︵12︶一三二∼三頁  ㈲ 法律要件腫形成原因説  形成訴訟における訴訟物を、法律要件すなわち形成原因とする説がある。伊藤眞教授は、﹁民法七七〇条にもと づく離婚訴訟や、商法二四七条にもとづく株主総会決議取消訴訟に代表されるように、実体法が、婚姻や決議の 効力などの法律関係の変動について一定の法律要件を規定した上で、その要件にもとづく変動が判決によって宣 言されたときに、当該法律関係の変動が生じる旨を規定することがある。この場合に原告としては、まず請求の 内容として、法律関係とその変動の原因となる法律要件を主張し、その上で、訴えの内容として、法律関係の変 動を宣言する本案判決を求める。離婚訴訟の場合についていえば、婚姻関係と離婚原因が請求の内容にあたり、 婚姻関係の消滅、すなわち離婚の宣言が訴えによって求められる本案判決の内容にあたる。[改行]形成訴訟にお        ︵22︶      ︵23︶ ける訴訟物は、上の意味での法律要件すなわち形成原因であ﹂るといわれる。  この短い文章の中で、法律要件という用語が二回使用されている。一つは実体法が規定するものであり、一つ 34

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は請求の内容として主張されるものである。したがって、この二つの法律要件の意味は、異なるものとなる。す なわち、前の法律要件は法規上のものである以上抽象的一般的なものであるが、伊藤眞教授は、請求を被告に対        ︵24︶ するもので審判の対象となり、その視点から訴訟物とも呼ばれる、訴訟物とは、原告の訴え、具体的には訴状の       ︵25︶ 請求の趣旨および原因によって特定され、裁判所の審判の対象となる権利関係を指すといわれるのであるから、 後の法律要件は、特定的な権利関係であるはずである。ところが、﹁上の意昧での法律要件﹂というのは、後の法 律要件を指すものと思われるが、この﹁法律要件﹂と﹁すなわち﹂で結ばれる﹁形成原因﹂は、﹁離婚訴訟の場合 についていえば、婚姻関係と離婚原因﹂を指すことになる。そうなると、この婚姻関係と離婚原因は、被告に対 する特定の婚姻関係と離婚原因でなければならないだろう。しかし、その内容が具体的にどのようなものなのか ︵たとえば、離婚原因でいうと、原告は被告と婚姻を継続し難い重大な事由があるといった抽象的なものなのか︶ が判然としない。形成訴訟の訴訟物ついては、別のところではこの形成原因が突如として形成を求める法的地位   ︵26V       ︵27︶ になるのであるが、法的地位というからには、事実でないことは明らかである。ただいえることは、それが発生 という法律効果により存在することになる法律関係ではなく、その変動︵これは、法律効果である︶の原因とな るものだということである。これが離婚訴訟における訴訟物であるとすると、権利関係ではない。事実、伊藤教 授は、﹁訴訟物たる形成原因は、それにもとづいて原告が判決による形成を求められるという趣旨から形成権と呼        ︵28︶ ばれるが、上の理由から実体法上の形成権とは区別される﹂といわれ、形成原因である﹁形成権﹂を﹁実体法上       ︵29︶ の形成権﹂ではないことを明言される。 35

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? ハ  パ 2322 )  ) 民事訴訟法︹補訂版︺ 伊藤教授は、実体法が、 [二〇〇〇年、初版は、一九九八年。有斐閣]二一六頁        一定の法律要件にもとづく変動が判決によって宣言されたときに、当該法律関係の変動が 生じる旨を規定することがあるといわれるが、横線のようなことを規定している実体法はないのではないだろうか。  並剛出注︵22︶一一=二百ハ  前出注︵22︶一六二頁  前出注︵22︶一七〇頁。すなわち、形成訴訟の訴訟物について﹁給付訴訟における請求権を形成訴訟における形成を 求める法的地位に置き換えれば、形成訴訟についても妥当する﹂といわれるのである。しかし、給付訴訟における訴 訟物とされる請求権は、権利であり、その発生という法律効果により存在するに至るものであるが、形成原因は、発 生という法律効果により存在するに至るものではなく、法律効果の原因である法律要件であるはずであるから、前者 は特定のものとはいえ本質的には思考上の産物であるのに対し、後者は特定のものとはいえ本質的には社会に生起 するもろもろの事象を類別したうえそれから必須の要素を抽出した類型であって、性質の異なるものであるから、置 き換えることはできないのではないだろうか。  ところが、訴訟物である請求は、具体的な権利ないし法律関係の存否の主張であるとする立場からすれば、﹁離婚 の訴では、一定の離婚要件すなわち民法が離婚原因として定める一定の事由のいずれかに該当する事実の存在する ことについての原告の主張がその訴訟物を成すものといわなければならない﹂とする見解があり︵山木戸克己・民事 訴訟理論の基礎的研究[一九六一年、有斐閣]一四二頁︶、この見解によれば、離婚原因は、事実の存在であること になる。  前出注︵22︶二一六頁  なお、前出注︵22︶一七〇頁参照。 36 パ  ハ  パ

262524

)  )  ) ︵27︶ 2928 )  )

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二 形成要件説・形成原因説の理論的根拠は、どのようなものか?

東洋法学

 それでは、形成要件説・形成原因説の理論的根拠はなにか。鈴木教授は、次のようにいわれる。﹁形成原因説を 合理づけるにたる理由は、現在のところ次の一事のみである。すなわち、かりにいま、この説をしりぞけたとき、 つまり旧来の﹃権利﹄構成を維持しようとするときのわれわれを考えてみよう。この場合、利用し得る実体権概 念としてわれわれに残されているのは、形成権のみである。ところがこの形成権には、それが私人の意思によっ て権利変動を招来し得る権利として規定されるものであるところから、利用範囲に大きな制限が課せられていた。 消極的に表現すれば、形成が第一次的には私人によって遂行される旨を表象することが不適切な場合、﹃私人によ る形成﹄を本来の建前としているが︵私的自治︶、ただ法律関係の錯綜︵判決の抵触︶を回避するためやむをえず 訴の形式を要求する、と説明づけることが不適切な場合には、形成権概念を利用することはできない︵この権利 概念についての法理論上の従来からの約束がこれを許さない︶。そして、先学の教えるところによれば、これに該 当するのは、抗告訴訟、訴訟法上の形成訴訟などである。しかもこの種の場合においても、その訴訟事件性を肯 定する限り、形成判決請求権概念を利用することが許されないのは勿論である。とすれば、もはやここにおいて は﹃形成原因﹄なる表現を使用するほかないのではないだろうか。なぜなら、さしものドイツ法学もこの種の場       ︵30︶ 合にみあう他の権利範疇をわれわれのために用意しておいてくれなかったからである﹂。  この理由づけでは、形成原因説が妥当するのは、基本的には訴訟法上の形成の訴えと行政事件訴訟における抗 37

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 告訴訟であることになり、実体法上の形成の訴えは、﹁ただ法律関係の錯綜︵判決の抵触︶を回避するためやむを えず訴の形式を要求する、と説明づけることが不適切な場合﹂ではないことになろうか。が、それはそれとして、 形成権﹁が私人の意思によって権利変動を招来し得る権利として規定されるものである﹂とどうして断言できる のであろうか。ドイツはいざしらずわが国の民事実体法学では、形成権には裁判外の形成権と裁判上の形成権が あることが一般に承認されているのではないだろうか。裁判外の形成権のみをもって形成権のすべてであるかの ごとくいわれるのは、納得し難いことである。加えて、裁判上の形成権も、後に詳述するように、法によって制 限されるのはその行使だけであって、その変動の態様は裁判外の形成権と異なるところはないのである。そうす ると、形成原因説を合理づけるにたる唯一の理由である、形成権﹁が私人の意思によって権利変動を招来し得る 権利として規定されるものである﹂ことは、根拠のない理由となって、形成原因説は、少なくともわが国では、 成り立ちえないのではないだろうか。 ︵30︶ 前出注︵12︶一五五頁 38 三 形成要件説・形成原因説には、論理的な矛盾が内在するのではないか?  このように、鈴木教授が今日の支配説の観を呈しているといわれる形成原因説︵形成要件説をも含む趣旨であ ろう︶も、その内実をみていると、訴訟物を事実としたり法状態としたり法的地位としたりで、いうなれば呉越

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東洋法学

同舟あるいは同床異夢﹁の観を呈している﹂のである。  そもそも、形成要件説・形成原因説の基本的発想は、形成訴訟の勝訴判決またはその確定によって形成力が生 じるから、形成力を有する権利すなわち裁判上の形成権の存在をそれ以前に観念することができない︵実は、こ れが後に詳しく検討することから明らかなように形成要件説・形成原因説の論者の誤解なのであるが⋮⋮︶。だが、 訴訟物の存否の主張は、訴えにおいて原告が定立するものである。だから、そのような形成権を訴訟物とするこ とはできない。となると、形成の訴えの訴訟物は、判決の確定によって生ずる形成力ないし裁判上の形成権発生 の直前の段階のもので考えざるをえない。形成要件説・形成原因説は、こうして、裁判上の形成権が発生する直 前の状態、すなわち、形成訴訟の事実審の最終口頭弁論終結時点において裁判所が認定した事実が裁判規範の要 件事実に該当する高度の蓋然性をもつ状態−通常であるならば、訴訟物である権利関係の発生・存在が判断さ れうる状態ー⋮を形成要件・形成原因として捉え、それを形成の訴えの訴訟物とする以外に手がなかったのであ ろう。  いずれにしても、形成要件説・形成原因説によれば、訴訟物となるのは、形成要件・形成原因︵の存在︶であ       ︵31︶ って、形成力は、法が形成訴訟における原告勝訴の判決またはその確定に付与したものになり、形成訴訟の原告 敗訴の判決には形成要件・形成原因の不存在につき既判力が生じるとするからには、形成訴訟の原告勝訴の判決 には、形成要件・形成原因の存在につき既判力が生ずるだけであるということになるのではないだろうか。そう だとすれば、審判の対象である請求もそれに見合うものでなければならないから、形成の訴えを、請求が権利関 39

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 係の変動を宣言する判決を求める訴えということはできず、せいぜい請求が判決により新たな権利関係の形成さ れるべき旨の主張である訴えということになるのではないだろうか。すなわち、離婚請求の訴えでは、原告は、 請求の趣旨として﹁原告と被告とを離婚すべきである﹂との判決を求めることができるだけである。また、この 論法でいえば、形成要件説・形成原因説のうち形成力がいわゆる形成判決の確定によって生ずるとする見解によ るときは、形成判決は、形成力発生の縁由ないし条件を宣言することができるだけになるのではないだろうか。 すなわち、形成判決の主文は、﹁この判決が確定したときは、原告と被告とを離婚する﹂となるのではないだろう か。 ︵31︶ 形成要件説・形成原因説の中には、形成力ないし裁判上の形成権の発生を、法が裁判所の形成判決に付与したかの   ように説明するものがあるが、この説明が形成要件説・形成原因説の基本的発想と整合性をもつものであるかについ   ては疑間がある。この説明は、請求の内容を形成請求権の存在とすることによってのみ成り立ちうると考えられるか   らである。しかし、そうなると、形成訴訟は、訴訟事件でなくなるのではないか。 40 四 形成権説に対する批判に対して、反論することができるか?  1 以上にみてきたように、形成要件説・形成原因説には多くの疑間点があって、これに賛意を表することは 到底できない。結局、形成権説を支持することになるが、この形成権説を支持するためには、まず、形成権説に 対する批判を払拭しておく必要があるであろう。

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 2 鈴木教授は、形成権説を批判されて次のようにいわれる。﹁形成訴訟の訴訟物にこの形成権が措定されたの は、なにも右のように給付訴訟、確認訴訟と体系的な整合性をはかるという、理論上の意図からだけではなく、 当時の時代思想にもマッチした、いささかイデオロギi的な意図も含まれていたのである。﹂﹁当時の自由主義思 想、ないし夜警国家的な思想に適合する要素をもっていたのである。[改行﹂このイデオロギー的な発想は、それ として今日においても尊重されるべきであろうが、しかし、この説には、この珍重すべき発想をも吹きとばすよ うな、理論上の致命的な欠陥が伏在していたのである。それは、判決による権利形成を当事者である原告の意思 表示の効果、つまり、形成権行使による効果とみると、形成判決の独自性、判決による権利形成をその効果とし て導くという、形成判決の独自性がみ失われてしまうことになる。権利形成をその判決の独自の効力−形成力 1によって導くというところに、形成判決の特殊性がみられ、給付判決、確認判決に対する相違点とされてい たのに、権利形成を原告による意思表示の効果とみると、形成力の存在意義は失われてしまい、形成判決はたん に原告の形成権の存在を確認する確認判決に堕してしまう。形成判決の独自性を強調し、その訴訟物に形成権を 措定していたのに、その前提である形成判決の独自性が失われて、いわば元も子もなくなってしまったような形    ︵3 2︶ となる﹂、と。  形成判決の独自性は、判決による権利形成をその効果として導かれる、あるいは、権利形成をその判決の独自 の効力i形成力1によって導くというところに、形成判決の特殊性がみられるとすることが、いかにも公理 であるかのようにいわれるが、私権の変動は、民事実体法が定めるものであるところ、わが民事実体法には、裁 41

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 判上の形成権が判決ないしその確定によって生ずる旨の規定や、変動が判決によって宣言されたときに、当該法 律関係の変動が生じる旨の規定は見当たらないのである。たとえば、民法でみると七七〇条一項は﹁夫婦の一方 は、左の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。﹂と、七四八条一項は﹁婚姻の取消は、その効力を既 往に及ばさない。﹂と、人事訴訟手続法でみると一八条一項は﹁婚姻ノ⋮⋮取消、離婚又ハ其取消ノ訴二付キ言渡 シタル判決ハ第三者二対シテモ其効力ヲ有ス﹂と、商法でみると一〇九条一項は﹁合併ヲ無効トスル判決ハ第三 者二対シテ其ノ効力ヲ有ス﹂と、一一〇条は﹁合併ヲ無効トスル判決ハ合併後存続スル会社又ハ合併二因リテ設 立シタル会社、其ノ社員及第三者ノ間二生ジタル権利義務二影響ヲ及ボサズ﹂と、二四七条一項は﹁左ノ場合二       ︵33︶ 於テハ株主、取締役又ハ監査役ハ訴ヲ以テ総会ノ決議ノ取消ヲ請求スルコトヲ得﹂と、二八○条ノ一七第一項は       ︵34︶ ﹁新株発行ヲ無効トスル判決ガ確定シタルトキハ新株ハ将来二向テ其ノ効力ヲ失フ﹂と規定するだけである。その          ︵35︶ うえ、確認訴訟原型説は、﹁通説は、給付判決の執行力は、国家の被告に対する給付命令︵又は執行機関に対する 執行命令︶[括弧内2行割注]に基くので︵したがって、判決主文も、﹃金何円を支払え﹄という命令形が必要で あり、﹃支払う義務がある﹄というのでは、確認判決にすぎず、執行力はないという︶[括弧内2行割注]、給付の 訴はこの給付命令の発付を求める訴である点で、確認の訴と区別されるものとする。しかし、実体上給付義務の ある以上被告が履行しなければならないのは当然で、重ねて給付命令を発することは無意義であり︵何故に国家 がかかる命令を発し得るかの根拠も疑間である︶[括弧内2行割注]、執行力は、当事者間に具体的な給付義務の 確定されたことを執行機関として尊重して執行すべき職責を負うことに基くものと見ればよい。したがって、給 42

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      ︵36︶ 付の訴は、請求内容が被告の原告に対する給付義務の存在の主張である点で、確認の訴の特殊な場合に過ぎない﹂ としながらも、給付判決の独自性や特殊性を承認するのである。こうして、形成訴訟の独自性ないし特殊性を、 判決による権利形成をその効果として導かれること、あるいは、権利形成をその判決の独自の効力i形成カー によって導くことに求める法的根拠も理論的根拠もないのではないだろうか。私は、後に述べるように、裁判上 の形成権の内容的効力である形成力がその行使である形成の訴えでの勝訴判決の確定により完結されなければな らないのは、立法政策から、訴訟前にすでに存在している裁判上の形成権を、形成権者が訴えで行使することに よって生じた権利関係の変動を受訴裁判所が認容し、判決でもってそのことを当事者間においてあるいは第三者 に対する関係においても明確にする必要があるとされたからであって、法が、形成判決に、裁判上の形成権の存 在とその行使を当事者間または当事者および対第三者との関係において明確にする効力を付与したものであると 考えており、それで十分に形成判決の独自性または特殊性を担保することができると思っている。  次いで、裁判上の形成権を民事実体法上の形成権つまり私権とすることに対する批判に反論しておきたい。﹁裁 判上行使を要する形成権を私権として認めるということは、実は矛盾しているのである。なぜならその行使の意       ︵37︶ 思表示、すなわち私的な権利行使だけではいささかも形成の効果は生じないからである﹂という見解があるから である。  しかし、裁判上の形成権であるとされる離婚請求権を取り上げてみても︵離婚請求権については、後に詳述す る︶、裁判上の形成権が私権であることは明らかである。すなわち、離婚の訴えを提起する場合には、その前に家 43

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 事調停の手続を経ていなければならないのが原則である︵家審一八︶が、家事調停が成立したときは、その基本 となるのは、当事者の合意である︵家審二一︶。また、離婚の訴えを提起した場合でも、和譜︵人訴一三︶に基づ       ︵38︶︵39︶ き原告が訴えを取り下げて協議離婚をすることもできる。裁判上の形成権であるとされる株主総会決議取消権︵株 主総会決議取消権については、後に詳述する︶を取り上げてみても、株主は、自らの意思でそれを放棄すること          ︵40︶ ができるとされている。このように、裁判上の形成権は、私権であることが明らかである。 3332 )  ) パ  ハ 3534 )  ) もっとも、私は、確認訴訟原型説には反対である。私は、後に若干の言及をするが、確認の訴えにおける訴訟物  判決の効力が原則としてその確定によって生ずることは、形成判決にかぎらず判決の通則である。 れたことではなく、裁判外の形成権においても同じことなのである︵民一二〇︶。 えの特徴であるかのようにいわれることがあるが、取消権者が一定の者に限定されるのは、裁判上の形成権にかぎら る﹂︵中田・前出注︵18︶﹁訴訟上の請求﹂一七五∼六頁︶というように、原告が一定の者に限定されるのが形成の訴 って、始めてその変動が生じることとしているのであって、形成の訴は、かかる場合にのみ認められる訴訟類型であ 必要であるような法律関係では、法律は、とくに一定範囲の利害関係人の訴と、これに基く裁判所の確定判決とをま  ﹁人の身分関係や会社その他の社団関係のように、その変動が一般第三者との関係においても画一的であることが  前出注︵8︶一三∼四頁 は、利益享受または意思支配を法律的に可能にする︵法律的に正当づける︶ことを内容とする権利関係であり、給付 の訴えにおける訴訟物は、給付請求権の存在、その現在または将来における行使可能性の存在およびその現在までに されたまたは将来においてされる行使であり、訴訟物はあくまでも権利関係の存否でなければならないというので あれば、現在または将来において目的とする利益享受または意思支配を実現したまたは実現する︵現在までに行使さ れたまたは将来において行使される︶給付請求権の存在であり、形成の訴えにおける訴訟物は、裁判上の形成権の存 44

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)  )  ) ︵39︶ ︵40︶ 在およびその訴えによる行使であり、これを権利関係の存否でいうと、目的とする利益享受または意思支配を実現し た︵訴えの提起により行使した︶裁判上の形成権の存在であると考えている。詳しくは、拙著・要件事実原論四一頁 をみられたい。  兼子・前出注︵10︶一四四∼五頁  三ケ月・前出注︵7︶一二六頁  ただし、これらの場合には、離婚請求権者の一方的な意思表示性は全面的に後退するが、これらの場合も、離婚 請求権の行使による法的処理の一つの態様であるに相違しない。  制定公布された︵ただし、施行日は、未定︹附則こ︶人事訴訟法︵平成一五年法律一〇九号︶三七条一項は、離 婚にかかる訴訟における和解について民事訴訟法二六七条の規定の適用を認める。  上柳克郎日鴻常夫H竹内昭夫編・新版会社法㈲ロ九八六年、有斐閣]三三二頁︿岩原紳作﹀など通説。 五 形成権説を積極的に理由づける論拠は、どのようなものか?

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 ω 概  説  裁判上の形成権は、以下に述べるような理由により、裁判外の形成権と同じように、民事実体法の個別的法規 範を構成する行為規範の定める・裁判上の形成権の発生という法律効果の原因となる法律要件を充足する社会事 象が生起した途端に、いわゆる形成力︵その意味は、後述する︶を伴って発生し、存在するに至り、その変更ま たは消滅という法律効果の原因となる法律要件を充足する社会事象が生起した途端に、変更または消滅すると考 えざるをえない。裁判上の形成権が裁判外の形成権と異なるのは、裁判上の形成権がその行使を法によりいろい       ︵41︶ ろな角度から制限されるだけである。そして、形成の訴えにおいては、形成権者により行使されて現実化した具 45

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか?        ︵42︶ 体的な裁判上の形成権の存在が請求の内容になるというべきである。 ︵4 1︶ ︵4 2︶ 以下にその理由を詳述する。  同旨か、菊井維大・民事訴訟法・下︵法律学講座叢書︶口九五八年、弘文堂]二二六頁は、﹁およそ法律が形成権 を認め、裁判所をして法律上の効果の形成に関与せしめて、私人の一方的意思表示に放任しないのは、事件の性質が 重大であるか、公益に関する理由に基く、法律上の効果形成方法の制限に他ならないから、法律上の効果形成の根拠 は、意思表示による場合と等しく、原告が形成権を有するためである﹂という。  その内容が私見と同じかどうかはかならずしも定かでないが、形成権説は、岩田一郎・民事訴訟法原論︵訂正一六 版︶[一九一九年、初版は、一九〇七年。明治大学出版部]三七一頁、仁井田益太郎・民事訴訟法要論中巻︵訂正五 版︶ロ九一五年、初版は、一九〇八年。有斐閣書房]五〇五頁︵もっとも、権利変更の訴え︹形成の訴え︺の性質 は、非訟事件とするもののようである︶、細野長良・民事訴訟法要義第二巻︵全訂一一版︶口九三三年、初版は、一 九二〇年。巖松堂書店]六九頁、前野順一・民事訴訟法論第二編乃至第五編口九三七年、松華堂書店]八一七頁、 菊井・前出注︵41︶二二六頁、中野H松浦”鈴木編・前出注︵11︶民事訴訟法講義一五〇頁︿上村明廣﹀、吉村徳重11竹 下守夫U谷口安平編・講義民事訴訟法[二〇〇一年、青林書院]五二頁︿本間義信﹀などにより支持されている。  ② 身分法および会社法上の形成の訴えについて       ︵43×44︶  それでは、これから身分法または会社法において形成の訴えとされているものについて、個別的に検討を加え、 その訴訟物が裁判上の形成権の存在とその行使とすることによってなんらかの障害が生じるかどうかをみてみた い。 46

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︵43︶ ︵44︶  民法では、身分法のほかに、財産法に属する民法三九五条ただし書の規定する抵当権者の抵当物件の賃貸人および 賃借人に対する短期賃貸借の解除の訴えが、形成の訴えであると解されている︵柚木馨口高木多喜男編・新版注釈民 法⑨[一九九八年、有斐閣]六五一頁︿高木﹀、中野口松浦“鈴木編・前出注︵11︶新民事訴訟法講義三一頁︿徳田﹀ など︶が、﹁形成宣言があるから形成訴訟とみるとしても、⋮⋮真正の形成訴訟に対して、疑似形成訴訟にすぎぬと して区別することが形成訴訟の理論の散漫化を防ぐために適当である﹂︵三ケ月・前出注︵7︶五五頁︶とする見解も ある。ちなみに、同条は、平成一五年法律二二四号により改正される。  会社法のほかに、特別法上の社団についても形成の訴えと解されるものがあるが、本稿では取り上げない。

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 i 身分法上の形成の訴えについて  ω 離婚の訴えについて  以下に述べることからいって、取り分け民法七四七条二項が条文上で婚姻﹁取消権﹂を明記し、七七五条およ び七七六条が同様にそれぞれ﹁否認権﹂を明記していることとの対比からいって、夫婦の一方または双方に生起 した社会事象が民法七七〇条一項一∼五号の定める離婚事由に該当すると、相手方または双方に離婚を要求する ことのできる私権が発生することを否定することはできないのではないだろうか。この私権が離婚請求権︵離婚       ︵45V 権︶であって、離婚請求権を承認する以上、それが裁判上の形成権であることについては異論がないのであろう。  ところで、離婚には、協議離婚、調停離婚、審判離婚および裁判離婚がある。協議離婚の場合には、同条項各 号の定める離婚事由がなければならないものではないが、調停離婚の場合には、家事調停が訴訟に前置される︵家       ︵46︶ 審一八︶趣旨からいって、離婚の調停の申立てにこの法定離婚事由がある場合も少なくないのではないだろうか。 47

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? そのうえ、調停が成立せず、加えて、いわゆる二四条審判がなかったり、あっても異議の申立てにより審判が効 力を失った場合には、当事者がその旨の通知を受けた日から二週間以内に離婚の訴えを提起しさえすれば、調停 の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなされる︵家審二六H︶のであるから、調停の申立てにおい       ︵47︶ て裁判上の形成権である離婚請求権の行使がされているということができるであろう。また、離婚訴訟が係属し ている場合にも、裁判所は、いつでも、職権でその事件を家庭裁判所の調停に付することができ、調停が成立し たときは、訴えの取下げがあったものとみなされるのである︵家審一九︶。        ︵48︶  離婚訴訟には審理手続などに通常の民事訴訟とは異なる規制があり︵人訴五∼一四など︶、また、請求の放棄・        ︵49︶ 認諾および和解は認められないが、それらは、一つの法律関係に関する争いを迅速にあるいは一挙に解決してそ の全面的安定をはかるとか、身分関係が公益に重大な関係があるとかなどの理由から法が定めるものであり、離       ︵5 0︶ 婚訴訟でも﹁訴えの提起・審判対象の決定・訴の取下⋮⋮は当事者の意思にゆだねられている﹂のであるから、 訴訟物を裁判上の形成権である離婚請求権とすることの障害になることはないといってよい。  なお、離婚訴訟では、民法七七〇条一項一∼四号の離婚事由が存する場合でも、裁判所の裁量で請求が棄却さ れることがある︵同条H︶が、それは、同条一項一∼四号は婚姻が破綻する類型を規定したものであるところ、 社会事象が外形的にはこれらの規定を充足しても、実質的には婚姻が破綻しているとはいい難いような場合、換 言すると婚姻の継続が相当と認められる場合があり、その場合には、離婚請求権がもともと発生していないか、 いったん発生してもその後消滅した︵たとえば、夫婦の一方が不貞行為をしたが、他方がそれを明示または黙示 48

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に許して婚姻生活を続けていたような事情がある場合︶からであって、離婚請求権の存否の判断がすべて裁判所 の裁量にゆだねられていることを意味するものではないというべきである。

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︵45︶ ︵4 6︶ ︵47︶ ︵48︶ ︵49︶  離婚訴訟の訴訟物については、これを民法七七〇条一項各号ごとに生じる離婚請求権とするか、﹁婚姻を継続し難 い重大な理由﹂という包括的に生じた一個の離婚請求権とするか、原告が離婚を求める法定地位とするかの争いがあ る。  調停離婚においては、﹁調停の理念が単なる合意の斡旋ではなく、事実の確定とそれについての責任の有無⋮⋮な どを基礎とする合理的な解決案の作成と当事者の説得にあ﹂るのであるが、﹁その事実の確定や責任の有無の判断に ついて、個人の利益が十分に保障されない﹂︵我妻榮・親族法︹法律学全集︺[一九六一年、有斐閣]一八五頁︶のが 実情であろう。とはいえ、このことは、反面において、調停でも、離婚請求権の存否が重要な要素であることを示し ているといえるであろう︵同書一八四頁参照︶。そうであればこそ、調停が成立してこれが調書に記載されたときは、 その記載が確定した審判と同一の効力を有する︵家審一二1︶ことになるのはないだろうか。もっとも、調停離婚な いし審判離婚が裁判上の離婚であるか否かについては、議論があるところである︵島津一郎編・注釈民法⑳[一九六六 年、有斐閣]二二八頁、二三五頁︿糟谷忠男﹀参照︶。  家庭裁判所が調停を行う事件のうち人事に関する訴訟事件︵家審一七︶についての調停の申立ては、民事訴訟にお ける訴えと同様に、申立人の相手方に対する権利行使行為と家庭裁判所に対する調停成立の要求行為であるという べきであろう。  人事訴訟手続法五∼一四条は、人事訴訟法では、五、六条が二三条に、七条が一七条一項に、八条が一八条に、九 条が二五条に、一〇条が一九条に、二一条が一二条に、一四条が二〇条にそれぞれ類似の規定があるほか、若干の規 定が廃止または新設されている。  人事訴訟法三七条が和解について民事訴訟法二六七条の規定を適用する旨を定めていることは前述したが、人事 訴訟法三七条一項本文は、請求の放棄および認諾についても、民事訴訟法二六六条および二六七条の規定を適用する 49

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか?  旨を定める︵ただし、請求の認諾については、制限がある︹人事訴訟法三七条一項ただし書、  人事訴訟法の下では、本文で述べたようなこれに関する制約はなくなるわけである。 ︵50︶ 山木戸克己・人事訴訟手続法︹法律学全集︺口九五八年、有斐閣]二七頁 三項︺︶。したがって、  ㈹ 婚姻および離婚取消しの訴えについて  民法七四三条ないし七四七条の規定する婚姻の取消しの訴えや、七六四条の規定する離婚の取消しの訴えが形        ︵5 1︶ 成の訴えであることについては異論がないようである。そして、七四三条、七四四条一項および七四五条二項は、       ︵52︶ 七四一条の規定に違反した婚姻の取消しと追認を、七四三条および七四七条一、二項は、詐欺または強迫による 婚姻の取消しと追認を、七六四条、七四七条は、詐欺または強迫による離婚の取消しと追認をそれぞれ定める。 ここに婚姻または離婚の取消しとは、不完全ながらも有効に成立した婚姻または離婚の合意を完全に無効なもの とすることであり、婚姻または離婚の追認とは、不完全に有効に成立した婚姻または離婚の合意を完全に有効な ものとすることであるが、法律行為の取消しと追認とは対となる法概念であって、法律行為の成立を前提として、       ︵53︶ その不完全な有効を完全な無効にするのが取消しであり、不完全な有効を完全な有効にするのが追認である。煎 じ詰めていうならば、取消権の行使つまり取消しが追認権の放棄であり、追認権の行使つまり追認が取消権の放 棄である。そうだとすると、一定の者に訴訟外における追認権が認められている以上、一定の者に訴訟外におけ る取消権が認められているといえるのではないだろうか。民法七四三条により取り消しうべき婚姻でも、当事者 間の合意および家事審判法二三条の審判または取消しの訴えによらないで、婚姻を解消するつまり離婚すること 50

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ができると一般に解されているが、離婚した後はもはや婚姻取消しの訴えを提起することはできないとするのが         ︵54︶ 判例、多数説であり、この見解によれば、離婚により既存の婚姻取消権が消滅すると解することになろう。  また、民法七四五条一、二項は、七三一条の規定に違反した婚姻でも、不適齢者が適齢に達した後三か月を経 過すると、その取消しを請求することができない旨、七四六条は、七三三条の規定に違反した婚姻でも、前婚の 解消もしくは取消しの日から六か月を経過し、または女が再婚後に懐胎したときは、その取消しを請求すること       ︵55︶ ができない旨規定するところ、ここに取消しを請求することができないとは、取消権の消滅であるとされ、しか も、七四六条の立法趣旨からいって、取消訴訟の提起後でもその終了前、つまり係属中にもこの六か月が満了し たときは、取消権は消滅すると解されている。それどころか、七四七条二項は、詐欺または強迫による婚姻の﹁取 消権は、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し⋮⋮たときは、消滅する。﹂と規定し、条文で取 消権が消滅することを明確にするのである。これらの取消権は、まさに裁判上の形成権そのものである。これら のことは、いわゆる形成力を内容的効力とする裁判上の形成権が形成の訴えの提起前に、したがって形成訴訟に おける勝訴判決の確定前に存在していることを如実に示すものではないだろうか。  さらに、婚姻の取消しの訴えや離婚の取消しの訴えにおいても、訴えの提起、審判対象の決定および訴えの取 下げが当事者の意思にゆだねられていることは、離婚の訴えにおけるのと同じである。婚姻または離婚の取消し についても調停前置主義が採られ、合意が成立したときも家審法二一二条の規定する審判があるとはいえ、婚姻ま       ︵56︶ たは離婚の取消しも基本的には当事者の合意によって成立する家事調停に適応するものであることを示している 51

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? のであるが、この調停の申立ても、離婚の場合と同じく取消権の行使と解すべきであろう。 パ  パ  パ    54 53 52 51 ハ  パ 5655  人事訴訟法の制定に伴い、民法七四四条一項の﹁裁判所﹂は、﹁家庭裁判所﹂に改正される。  前出注︵5 1︶と同じく、民法七四七条一項の﹁裁判所﹂は、﹁家庭裁判所﹂に改正される。  青山道夫H有地亨編・新版注釈民法⑳[一九八九年、有斐閣]二九一頁︿沼正也﹀  大判明治三三二一二七民録六輯一〇巻八二頁、最日判昭和五七・九・二八民集三六巻八号一六四二頁、我妻榮U 立石芳枝・親族法・相続法︹法律学体系コンメンタール篇︺口九五二年、日本評論新社]八二頁、我妻・前出注︵46︶ 六三頁、山木戸・前出注︵50︶二九頁など。なお、この最高裁判例の解説︵四一事件解説︿鷺岡康雄﹀︶は、多数説は、 取消権を否定しているとし︵そのため、訴えが不適法になるということであるか、請求が理由がないことであるかは、 かならずしも明らかではない︶、この最高裁判例は多数説の見解を肯認したものということができるとする。  我妻U立石・前出注︵5 4︶八二頁など。  家事審判法一二条二項は、二三条に掲げる事件への同条一項の規定の適用を排除するが、二三条審判においても、 当事者間の合意が基調になっており、その合意の正当性が確認されるにすぎないのではないだろうか。 ㈹ 嫡出否認の訴えについて 以上のことは、離婚または婚姻もしくは離婚の取消しの場合に尽きるものではない。 52  まず、民法七七五条の規定する嫡出否認の訴えについてであるが、この訴えは、形成の訴えであるとするのが     ︵57︶ 通説である。七七四条ないし七七八条は、婚姻中に妻が不貞行為でもうけた子や離婚後に懐胎された子などにつ       ︵58︶       ︵59︶ き夫に嫡出推定を覆す否認権︵その法的性質は、裁判上の形成権であろう︶と、その行使および承認を規定して

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いる。この承認は、夫が、自らの意思により、推定を受ける子が真に自己の嫡出子であることを積極的または消 極的に表明する旨の意思の表示であると解されている。そして、夫がその出生を知った時から一年以内に嫡出否 認の訴えを提起しなければならないとは、実体法上は裁判上の形成権である否認権が消滅することを意味する。 ということは、否認権が、嫡出の推定を受ける子が夫と自然的血縁関係の存在しないことと、夫がそのことを知 ったことによって発生することにほかならない。そうだとすると、この訴えの訴訟物は、裁判上の形成権である       ︵60︶ 否認権ということになる。 ︵57︶ この訴えの法的性質については、確認の訴えとする説もある。くわしくは、中川善之助編・注釈民法⑳のー口九   七一年、有斐閣]二二二頁︿岡垣学﹀。 ︵58︶ 中川編・前出注︵57︶二九頁く岡垣Vが、私法上の形成権というのも同旨であろう。 ︵59︶ 否認権の行使は、家事調停の申立てによってもすることができるが、当事者間に合意が成立した場合でもいわゆる   二三条審判が必要である︵家審二三H、1︶。 ︵60︶ 同旨、中川編・前出注︵57︶一三二頁く岡垣V

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 ㈹ 認知の訴えについて  次に、認知の訴え︵民七八七︶についてである。       ︵61︶ よる民法の改正後においては判例、通説である。 この訴えが形成の訴えであることは、昭和一七年法律七号に 53

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか?  民法七八七条は、認知の訴えは父または母の死亡の日から三年を経過すると提起することができない旨規定す       ︵6 2︶ る。認知請求権は、父または母の死亡が客観的に明らかになった時から起算して三年間に訴えをもって行使しな        ︵63︶ ければならないが、この三年間は除斥期間と解すべきであろう。除斥期間の意義についてはいくつかの考えがあ るが、いずれの考えによっても、対象となる権利が既存であることを前提とするから、この三年間が除斥期間で あるとすると、認知請求権は、子が父または母と自然的血縁関係をもって出生することによって発生し、存在す るに至るというべきである。認知請求権の放棄の許否については判例、学説上議論の存するところであるが、放 棄の許否が議論になるということ自体、認知請求権が認知の訴えの勝訴判決の確定以前に存在していることを表 している。 ︵6 1︶ 最口判昭和二九・四・三〇民集八巻四号八六一頁 ︵6 2︶ 最口判昭和五七・三二九民集三六巻三号四三二頁 ︵63︶ 同旨、中川善之助監修・註釈親族法口九四九年、法文社]一九二頁︿山崎邦彦﹀︵もっとも、認知の訴えの性質   を確認の訴えとする。同書一九〇頁︶、前出注︵6 2︶の解説︵五七事件解説︿遠藤賢治﹀︶。同解説は、この最高裁判例   もこの考え方による方法を採用したものと思われるとする。 54 @ 離縁および養子縁組取消しの訴えについて さらに、民法八一四条︵七七〇条二項の準用を含む︶        ︵64︶ および八一五条の規定する離縁の訴えならびに民法

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      ︵65︶ 八〇三条ないし八〇六条、八〇六条の二、八〇六条の三 ︵八〇六条の二第二項の準用を含む︶、八〇七条ならび に八○八条一項、七四七条および七四八条の規定する養子縁組の取消しの訴えについてであるが、これらの訴え の法的性質が形成の訴えであり、取消しと追認との関係やいわゆる出訴期間などについても、はたまた訴えの提 起、審判対象の決定、訴えの取下げが当事者の意思にゆだねられていることについても、八〇五条の規定する養       ︵66︶ 子が尊属または年長者である場合を除き、離婚の訴えおよび婚姻の取消しの訴えと基本的には同じに考えてよい。       ︵6 7︶ なお、この出訴期間は、実体法上は除斥期間と解されているようである。  したがって、これらの取消権も、その法的性質はいわゆる形成力を内容的効力とする裁判上の形成権であり、 この裁判上の形成権は、形成訴訟における勝訴判決の確定前に存在していることになり、訴えの提起が裁判上の 形成権の行使であり、形成訴訟の勝訴判決の確定の意味なども離婚、婚姻または離婚の取消しの訴えと同様に解 することになろう。

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︵64︶ 人事訴訟法の制定に伴い、離縁の訴えは、家庭裁判所に提起することになる︵人訴四、二⑥︶。 ︵65︶ 前出注︵64︶と同様のことから、民法八〇四条、八〇六条一項、八〇六条の二、八〇六条の三第一項および八〇七条   の各﹁裁判所﹂は、それぞれ﹁家庭裁判所﹂に改正される。 ︵66︶ 八〇五条に規定する縁組の取消権の行使は、公益的取消しであるから、期間の経過や追認によって消滅することが   ないと解されている︵我妻目立石・前出注︵54︶二三〇頁、中川監修・前出注︵63︶二一二頁︿山崎﹀︶。 ︵6 7︶ 中川善之助H山畠正男編・新版注釈民法⑫の[一九九四年、有斐閣]三六三頁、三七一頁︿阿部徹﹀。   ちなみに、これらの取消権の除斥期間の経過による消滅を一種の法定追認と解する説がある︵八〇四条につき、我 55

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか? 妻11立石・前出注︵50︶二二九頁、中川H山畠編・前掲三六四頁︿阿部﹀︶。  ㈹ 会社法上の形成の訴えについて        ︵68︶  引き続き、会社法上の形成の訴えを検討することになるが、会社法上の形成の訴えも多種多様であって、それ らをすべて検討することは煩にすぎるように思われる。そこで、全般的な問題を瞥見したうえ、個別的には株主 総会決議取消しの訴えを代表的に取り上げるにとどめることとする。 ︵68︶ 株主総会決議取消しの訴えのほかにも、合名会社の合併無効の訴え︵商一〇四∼一〇六、一〇八∼二〇︶、合名   会社の設立無効の訴え︵商一三六∼一三九︶、一定の株主の取締役解任の訴え︵商二五七m、W︶、新株発行無効の訴   え︵商二八Oノ一五∼一七︶、株式会社の合併無効の訴え︵商四一五、四一六︶、株式会社の設立無効の訴え︵商四二   八︶、有限会社の合併無効の訴え︵有六三1︶など多種多様な形成の訴えがある。  ω 会社法上の形成の訴え全般について  会社法上の形成の訴えにおいては、身分法上の形成の訴えのような調停前置主義の定めはないが、﹁会社の設立、       ︵69︶ 社員、株主と会社との関係等に関する紛争も﹃商事の紛争﹄である﹂とすると、商法による裁判上の形成権を民 事調停のうちの特殊調停である商事調停︵民調三一︶の申立てとして行使することができることになり、調停委 員会により事件が性質上調停をするのに適当でないと認められて調停をしないものとして終了させられる場合が 56

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ある︵民調一三︶とはいえ、訴えをもって請求することが唯一の方法ではないことになるばかりでなく、その終 止を当事者の意思の合致つまり当事者間の合意で図ることができることになる︵民調一六参照︶。そして、調停の 不成立によりその事件が終了し、または調停に代わる決定がされずもしくはされたが異議の申立てにより決定が        ︵70︶ 効力を失った場合において、申立人がその旨の通知を受けた日から二週間以内に調停の目的となった請求につい て訴えを提起したときは、調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなされる︵民調一九︶ことも、 身分法における裁判上の形成権の存在およびその行使と同じことになる。  会社法上の訴えの根本的なねらいは、第一は、法律関係の画一的確定の要求であり、第二は、無効の遡及効阻       ︵71︶ 止の要求であり、第三は、無効の主張の可及的制限の要求であるといわれる。そうであるとすれば、裁判上の形 成権が、取消事由に当たる決議または無効事由に当たる合併、設立等があると、ただちに発生して存在するに至 り、その行使を訴えの提起等ですると解することの障害になることはないといわなければならない。

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7069 )  ) ︵7 1︶  小山昇・民事調停法︹新版︺︵法律学全集︶[一九七七年、初版は、一九五八年。有斐閣]二四二頁  ただし、裁判所が調停に代わる決定をすることができるかについては疑間がある。最㈹判昭和三五・七・六民集 一四巻九号一六五七頁が、性質上純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんにかかわらず、終局的に事実を確定 し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、公開の法廷における対審および判決によってされな いとするならば、それは憲法八二条に違反するとともに、同三二条の趣旨をも没却するものであると判示するからで ある。  鈴木竹雄H竹内・会社法︹新版︺︵法律学全集︶[一九八七年、初版は、一九八一年。有斐閣]八三頁 57

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裁判上の形成権こそ、形成の訴えの訴訟物ではないのか?  ㈲ 株主総会決議取消しの訴えについて  商法二四七条の規定する株主総会決議取消しの訴えが形成の訴えであることについては異論がないようである が、訴訟物については、決議の効力を否定することの宣言を求めるものであれば、決議取消事由にかぎらず無効 事由や不存在事由をも併せて一個と構成すべきだとする見解が多数である。この見解が昭和五六年の改正によっ       ︵7 2︶ て取消事由が拡大整備された後においてもなお従前の考えを維持するつもりなのか否かは、新訴訟物論によると        ︵73︶ きは二分肢説を別として肯定することになろうが、旧訴訟物論によるときは明らかでない。しかし、決議の不存 在および無効の訴え︵商二五二︶が確認の訴えであるとすると、形成の訴えと確認の訴えが一個の訴訟物である とすることは、旧訴訟物論において成り立つ考えではないであろう。そうなると、旧訴訟物論によるかぎり、商 法二四七条一項の規定する決議取消事由をすべて包括して一個の訴訟物とするか、同条項各号の規定する決議取 消事由ごとに訴訟物が異なるとするかのどちらかということになろうが、同条項一∼三号の規定する決議取消事 由は、各号ごとに保護されるべき利益が異なっており、しかも、次に述べる裁量棄却が認められるのは、招集手 続・決議方法の著しい不公平の場合を除く一号にかぎられるから、各号ごとに訴訟物を異にすると構成せざるを えないのではないだろうか。  さて、前述したように、株主は、決議取消しの訴え提起前にその決議取消権を自らの意思で放棄することがで きると解されている。このことは、いわゆる決議取消権が形成判決の確定以前に存在することを意味する。その うえ、決議取消しの訴えは決議の日から三か月以内に提起しなければならない︵商二四八1︶が、この期間は、 58

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