不動産譲渡担保における実行と受戻権 :弁済期到来
後の目的物処分の場合について
著者名(日)
太矢 一彦
雑誌名
東洋法学
巻
52
号
1
ページ
107-133
発行年
2008-09-30
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000651/
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不動産譲渡担保における実行と受戻権
1弁済期到来後の目的物処分の場合についてー
一 はじめに 二 判例の状況 ︵1︶ 弁済期到来後に担保目的物が処分された場合 の受戻権についての判例の見解 ︵2︶ 担保目的物の所有権帰属と譲渡担保権者の処 分権限についての判例太 矢
三 学説の状況 ︵1︶ 譲渡担保の法律構成 ︵2︶受戻権の性質についての学説 五 検討 六 終わりに一
彦
107はじめに 近時、不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期到来後に目的不動産が差し押さえられた場合 に、被担保債権の弁済による目的不動産の受け戻しを理由として、第三者異議の訴を提起し、当該目的不動産に対 する強制執行を排除することができるかという事案が争われた。 これについて最判平成一八年一〇月二〇日︵民集六〇巻八号三〇九八頁Vは、﹁不動産を目的とする譲渡担保に おいて、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたとき は、設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはで きないと解するのが相当である﹂とし、さらに傍論において、﹁上記と異なり、被担保債権の弁済期前に譲渡担保 権者の債権者が目的不動産を差し押さえた場合は、少なくとも、設定者が弁済期までに債務の全額を弁済して目的 不動産を受け戻したときは、設定者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができると解するの が相当である﹂との判断を示した。 これまでの学説では、不動産譲渡担保権者が、目的不動産を第三者に処分した場合、譲渡担保の法的構成につい て所有権的構成をとる見解からは、もともと完全な所有権が債権者に移転しているとすることから、第三者への処 分は有効とされ、担保権的構成をとる立場からは、第三者と譲渡担保設定者との関係を対抗問題として処理する か、あるいは九四条二項の類推適用をもって処理するというように、譲渡担保の法的構成からのアプローチがなさ ︵1︶ れ、そのさい、弁済期到来の前後については、あまり意識せずに論じられてきたように思われる。 しかし、この平成一八年判決においては、弁済期到来前の部分は傍論であるものの、弁済期到来の前後におい 108
て、目的物が第三者に処分された場合の受戻権の可否についての理論構成が異なるということを明らかにしたもの であり、重要な意義を有するであろう。 さらに、不動産譲渡担保における受戻権についても、これまでの学説では、譲渡担保設定契約において、帰属清 ︵2︶ 算型と、処分清算型とを区別し、その契約類型を基礎に考察がなされてきたのであるが、後でみるように、最判平 成六年二月二二日︵民集四一巻一号六七頁︶において、判例上、帰属清算と処分清算というのは契約類型としては 意味を失うこととなり、譲渡担保権者の清算方式の違いに過ぎないとされ、そして、いずれの清算方式であって も、弁済期到来後に目的不動産が第三者に処分された時には、受戻権が消滅するとされることとなる。 しかし、これまでの学説では、処分清算が認められるためには、あくまで、担保目的物を第三者に処分した上で ︵3︶ 清算金の支払いを認めるということを、あらかじめ当事者が合意していることを前提としていたため、第三者へ処 分されることによって受戻権が消滅するのは、その特約の側面から理解することができたのであるが、前記平成六 年判決のように、譲渡担保権者が、設定者との合意なくして任意に担保目的物を処分しうるとすれば、譲渡担保設 定者にとって不測の損害をもたらすことになるのではないかとの疑問を生じる。また、その一方で、弁済期到来後 の処分の場合に限ってみれば、債権者が債務者の債務不履行によって、担保目的物を第三者に処分することは、譲 渡担保権の実行の場面とみることができることから、弁済期到来前の処分とは、明らかに契約当事者の利害関係が 異なるともいえそうである。 このように、これまで、譲渡担保に関する問題は、譲渡担保の法的構成を中心とした解釈がなされてきたのであ るが、特に問題状況を、弁済期到来後の第三者への目的物処分の場合に限定するならば、譲渡担保権の実行概念と ︵4V の関係で、その権利関係を考察することも意義があるのではないかと思われる。このようなことから本稿では、特 109
に弁済期到来後の第三者への目的物処分の場合に限定し、 ︵5︶ みたい。 二 判例の状況 譲渡担保の実行と受戻権行使との関係について考察して ここではまず、不動産譲渡担保において、弁済期到来後に目的物が処分された場合の受戻権の帰すうについて近 時の判例の見解と、譲渡担保権者の処分権限と担保目的物の所有権の帰属についての判例の見解を整理してみた い。 ︵1︶ 弁済期到来後に担保目的物が処分された場合の受戻権についての判例 最判昭和五七年一月二二日︵民集三六巻一号九二頁︶は、﹁不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者 が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得﹂するとしたうえで、﹁債務者は、 債務の弁済期の到来後も、債権者による換価処分が完結するに至るまでは、債務を弁済して目的物を取り戻すこと ができる﹂とし、﹁換価処分の完結﹂まで、譲渡担保設定者の受戻権行使を認めた。しかし、この昭和五七年一月 判決は、受戻権の消滅時効を争った事案について、受戻権を一個の形成権と法律構成する余地はなく、したがっ て、これに民法一六七条二項を適用することはできないとの判断を示したものであり、ここで受戻権の消滅をもた らす、﹁換価処分の完結﹂とは具体的に何を意味するかについては示されてはいなかった。 その後、最判昭和五七年四月二一二日︵金法一〇〇七号四三頁︶は、事案は不明であるものの、債務者が弁済期に 債務を弁済しない場合において、債権者が担保不動産の﹁所有権を第三者に譲渡して所有権移転登記がされたとき 110
は、右清算がなされていない場合であっても、右不動産の所有権が譲渡担保権者を経て第三者に移転するものと解 するのが相当である﹂と判示し、譲渡担保権者が、清算前に担保目的物を第三者に処分した場合に、受戻権の消滅 を示唆する判断をなした。 さらに最判昭和六二年二月二一日︵民集四一巻一号六七頁︶では、清算金額の確定時期が争われた事案におい て、帰属清算型の譲渡担保においても、清算手続前に、﹁債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債 務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生すると ともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である﹂とする。 そして、弁済期到来後に目的不動産が第三者に処分された場合の受戻権行使の可否が直接の争点とされた最判平 成六年二月二二日︵民集四一巻一号六七頁︶において、﹁不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁 済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型である とを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権限に基づいて目的物を第三者に譲渡したとき は、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその 支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなると解するのが相当 である﹂との判断が示されるのである。 この点について従来からの学説は、譲渡担保についての契約類型として、帰属清算型のものと、処分清算型のも のとを区別する立場からの検討がなされてきたといえる。すなわち、最判昭和四六年三月二五日︵民集二五巻二号 二〇八頁︶で、譲渡担保においても清算義務が認められ、債権者は、担保目的物を適正に評価し、その評価額と被 担保債権額との差額を清算金として、設定者に交付しなければならないとされたことから、その清算方法として、 111
債権者が清算金を支払って目的物の所有権を確定的に自己に帰属させる方式をとる型︵帰属清算型︶と目的物を第 三者に処分し、そこで取得された売却代金をもって債権の回収をすると同時に残額を清算金として設定者に交付す る方式をとる型︵処分清算型︶があるとされたのである。 そして、帰属清算型では、清算金の支払︵または提供あるいは清算金のないことの通知︶があるまでは、処分清 算型では、第三者との間で処分契約が締結されるまでは、譲渡担保権設定者は被担保債務を弁済して、目的物の所 ︵6︶ 有権を回復しうるとされ、また、そのいずれの契約類型によるかは、譲渡担保権設定時の当事者の契約によって決 ︵7︶ められるとされてきたのである。しかし、前述のように、最高裁平成六年判決が、債務者が履行遅滞に陥った場 合、﹁債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず﹂としたことで、判 例においては、帰属清算型、処分清算型という契約類型による区分は意味を失うことになり、譲渡担保において は、債権者は清算金を支払い目的物の所有権を自らに確定的に移転させることと、第三者に処分したうえで清算金 を支払うこととのいずれかを常に選択でき、いずれの契約類型にあっても、弁済期到来後に、目的物が第三者に処 ︵8︶ 分された時には、受戻権は消滅するという判例法理が確立されたとみることができる。 しかし、このように当事者の意思による契約類型として帰属清算、処分清算が区別されなくなったことからすれ ば、譲渡担保の実行として、譲渡担保権者が、帰属清算方式をとる場合には、清算金の支払︵または提供あるいは 清算金のないことの通知︶を行わなければ受戻権は消滅しないにもかかわらず、処分清算方式をとる場合には、譲 渡担保権者が清算金を支払わなくても第三者に目的物が処分された時点で、受戻権が消滅することを、当事者︵特 に譲渡担保設定者︶の意思から導くことができなくなり、結果として譲渡担保権設定者にとって不利な結果となる のではなかろうか。 112
また、担保目的物の所有権帰属についても、帰属清算方式の場合には、清算金の支払い︵または提供あるいは清 算金のないことの通知︶が、債権者が目的物の所有権を確定的に自己に帰属させるための要件とされているのに対 し、処分清算方式の場合には、清算金が第三者に完全な所有権を取得させるための要件とはされないこととなる。 このように、譲渡担保権者の清算方法の違いによって、それぞれ所有権の帰属のための要件が異なり、さらに受戻 権の行使可能な時期も異なってくるということは妥当であるのか。そして仮に妥当であるとすれば、どのような理 論構成によって説明しうるのかを明らかにする必要があると思われるのである。 さらにこの点を検討するため、目的物の所有権帰属と譲渡担保権者の処分権限との関係に絞って、これまでの判 例を検討してみたい。 ︵2︶ 担保目的物の所有権帰属と譲渡担保権者の処分権限についての判例 不動産譲渡担保権の実行における譲渡担保権者の処分権限と担保目的物の所有権の帰属との関係について、近時 の最高裁判決を整理すると次のようになろう。 まず、最判昭和五七年一月二二日︵民集三六巻一号九二頁︶は、﹁不動産を目的とする譲渡担保契約において、 債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づいて、当 該不動産を適正に評価された価額で自己の所有に帰せしめること、又は相当の価格で第三者に売却等をすることに よつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権の弁済に充てることができる﹂とす る。 そして、最判平成五年二月二六日︵民集四七巻五号一六五三頁︶では、﹁譲渡担保が設定された場合には、債権 113
担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ目的不動産の所有権移転の効力が生じるにすぎず、譲渡担保権 者が目的不動産を確定的に自己の所有に帰させるには、自己の債権額と目的不動産の価額との清算手続をすること を要し、他方、譲渡担保設定者は、譲渡担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的不 動産を受け戻し、その完全な所有権を回復することができる﹂とする。 また、最判平成六年二月二二日︵民集四一巻一号六七頁︶は、﹁不動産を目的とする譲渡担保契約において、債 務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算 型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権限に基づいて目的物を第三者に譲渡 ︵9︶ したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得﹂するとする。 ここまでの判例の立場を整理すると、まず担保目的物の所有権の帰属については、譲渡担保の設定により、所有 権は譲渡担保権者に移転するが、そこには﹁債権担保の目的を達成するのに必要な範囲内﹂という限界がもうけら ︵10︶ れており、客観的にみて清算金が発生する場合に、帰属清算方式によるときには、清算金が支払われなければ完全 な所有権が移転しないが、客観的に清算金が発生する場合であっても、処分清算方式によるときには、清算金が支 払われなくても、第三者に処分された時点で、第三者に完全な所有権が移転するとする。そして、担保目的物の処 分権限については、弁済期の経過によって、譲渡担保権者は﹁目的不動産を処分する権能を取得﹂し、この権限に ︵11︶ おいて完全な所有権を第三者に処分しうるとしている。 しかし、ここでの判例の見解に対しては、次のような疑問が生じる。判例は、帰属清算方式においては、清算し ないと確定的に所有権を取得しえないとする。しかし、清算義務は最判昭和四六年三月二五日︵民集二五巻二号 二〇八頁︶によって判例法上債権者の義務とされたものであるが、そもそも清算義務と所有権の移転が結びつく理 114
由が不明確である。仮に、仮登記担保法二条を類推して、実行通知の到達した日から二か月を﹁清算期間﹂とし、 その期間の経過によって、譲渡担保権者が所有権を取得することを前提とすれば、清算義務と所有権移転との関連 ︵12︶ を見出すことができるが、判例は、仮登記担保法を不動産譲渡担保に類推することの適否には触れていない。ま た、これまでの判例から帰属清算方式では、清算しなければ確定的に所有権を取得しえないとしながら、担保目的 物が第三者に処分された場合には、清算がされていなくても、完全な所有権が第三者に移転するとする理由も明確 ではないと思われる。すなわち先にみたように平成六年の判決からすれば、帰属清算、処分清算の契約類型は、も ︵13︶ はや意味を失い、清算方式の違いに過ぎないと解されることとなるが、それを前提とすれば、帰属清算方式、処分 清算方式それぞれで、完全な所有権の帰属の要件について異なることの説明が十分になされているといえないでは なかろうか。 以上、弁済期到来後に、目的不動産が第三者に処分された場合の受戻権行使の可否および譲渡担保の実行におけ る担保権者の処分権限についての判例を検討したが、ここでの判例理論は必ずしも明確なものとはいえないであろ ・つ。 では、この問題について、学説は、どのように解しているのであろうか。まず譲渡担保の法的構成および受戻権 の性質についての見解を検討した上で、譲渡担保権の実行の場面における、譲渡担保権者の処分権限と受戻権の行 使について考察してみたい。 115
三 学説の状況 ︵14︶ ︵1︶ 譲渡担保の法律構成 譲渡担保の法律構成については、所有権譲渡の形式を重視し、物権として完全な所有権の移転を認める所有権的 構成と、担保の実質にそくした理論構成を試みる担保権的構成とに大きく分けることができ、さらに、担保権的構 成は、何らかの形で所有権が譲渡担保権者に移転すると構成する見解と、所有権の移転を全く認めない見解とに分 ︵15︶ かれる。 ここでは、譲渡担保の実行権限について注目しながら、簡略に学説の整理を行なってみたい。 ① 所有権的構成 ︵i︶信託的譲渡説 この説は、目的物の所有権が債権者に信託的に譲渡されると解するものである。すなわち、譲渡担保設定契約に よって、目的物の所有権は設定者から債権者に移転し、債権者はその所有権を担保目的を超えて行使しないとの債 権的な拘束を受けるに過ぎないとする。したがって、譲渡担保権者︵債権者︶が、目的物を処分する場合、第三者 は有効にその所有権を取得することができることとなり、設定者には、第三者に対抗する何らの物権的権利も認め ︵16︶ られない。初期の判例がこの学説をとったとされるが、先にみたように、現在の判例は、譲渡担保設定時におい て、譲渡担保権者が完全な所有権を有するとはしておらず、またこの立場では譲渡担保の有する実質面が結果的に 軽視されることから、現在この説をとるものはほとんどみられない。 116
② 担保権的構成 ︵・11︶授権説 ︵17︶ 債権者は、債権担保の目的の範囲内において、担保目的物を処分する権限を授権されたとする見解。または、譲 渡担保設定者は、譲渡担保権者に所有権の帰属主体としての外観を与えたにすぎず、債務者の債務不履行によって ︵18︶ 担保の目的物を処分する権限を授権したとみる見解がある。 ︵⋮皿︶設定者留保権説︵二段物権変動説︶ 目的物の所有権が譲渡担保権者に移転することをいちおう認めたうえで、ただそれは、担保の目的に応じた部分 に限られ、所有権の残余の部分︵所有権マイナス担保権H設定者留保権︶は、設定者に留保されるとし、この設定 者留保権も物権であるとする。この見解の中には、譲渡担保権の設定によって、いったん所有権が完全に担保権者 に移転し、同時に、目的物の担保価値的側面を除いた部分が設定者に返還されるとする見解︵二段物権変動 ︵19︶ ︵20︶ 説︶と、端的に、所有権から設定者留保権を差し引いたものが設定者から譲渡担保権者に移転するとする見解があ る。 ︵短︶ 物権的期待権説 債権者は譲渡担保権の設定により、未だ完全な所有権を取得するものではないが、譲渡担保権の実行によって、 完全な所有権を取得する期待権を有し、また担保権設定者も債務の弁済により所有権を留保または復帰させうる意 ︵21︶ 味での期待権を有するとする。 ︵v︶担保権説︵抵当権説︶ 譲渡担保において所有権は譲渡担保権者に移転しないとし、譲渡担保の設定を、一種の制限物権としての担保権 117
の設定ととらえる。この見解は、譲渡担保を端的に私的実行特約付︵流抵当特約とするものもある︶ ︵22︶ ︵23︶ とらえる見解と、抵当権とは異なり、私的実行ができる一種の制限物権とみる見解とがある。 抵当権設定と ︵2︶ 受戻権の性質についての学説 次に譲渡担保における受戻権の性質に関する学説を、特に仮登記担保法における受戻権との関係で整理してみ ︵24V たい。 受戻権は、まず仮登記担保について認められ、その影響を受ける形で、譲渡担保においても、判例・学説上一般 に受戻権が認められるものとされている。しかし、仮登記担保法上の﹁受戻権﹂については、﹁この権利は、形成 権であって、債務者︵または物上保証人︶は債権が消滅しなったものとすれば支払うべき金銭を債権者に提供し て、受戻しの意思表示をすれば、その意思表示が債権者に到達した時に、土地または建物の所有権は、法律上当然 ︵25︶ に債務者︵または物上保証人︶に復帰する﹂と説明されており、受戻権は、仮登記担保法二条において、いったん 完全に仮登記担保権者に移転した所有権を、設定者に復帰させるための独立の権利とされている。 そのことから譲渡担保においても、この仮登記担保法を私的実行に関する原則法として、類推すべきとする見解 と、譲渡担保における受戻権の性質については、仮登記担保と同様であることを否定する見解とに大きく分類する ことができる。 ①︻仮登記担保法の類推適用を肯定する見解︼ 仮登記担保法二条の類推により﹁清算期間﹂ の経過による所有権の移転を認め、受戻権とは、債権者に帰属した 118
所有権を、債務相当額を支払って受け戻すことができる債務者の権利であると解する。 近江教授は、仮登記担保法は私的実行の準則と考えるべきであるから、同法二条の類推により、実行通知の到達 した日から二か月を﹁清算期問﹂とし、その期間の経過によって、譲渡担保権者は所有権を取得すると解すべきで ︵26︶ ︵27︶ あるとされる。そして、そのことを前提に、受戻権は債権者に帰属した所有権を受け戻す権利であるとされる。こ の見解によると、清算期間の経過によって譲渡担保権者が完全な所有権を取得するとすることから、その時点で被 ︵28︶ 担保債権が消滅すると解されることとなろう。 ②︻仮登記担保法の類推適用を否定する見解︼ 受戻権とは、被担保債権の存続を前提とし、 する。 債務者が債務を弁済して目的不動産を取り戻すことを意味すると解 最判昭和五七年一月二二日︵民集三六巻一号九二頁︶は、﹁債務者によるいわゆる受戻の請求は、債務の弁済に より債務者の回復した所有権に基づく物権的返還請求権ないし契約に基づく債権的返還請求権、又はこれに由来す る抹消ないし移転登記請求権の行使として行なわれるものというべきであるから、︵省略︶債務の弁済と右弁済に 伴う目的不動産の返還請求権等とを合体して、これを一個の形成権たる受戻権であるとの法律構成をする余地は ︵29︶ な﹂いとし、学説もこの立場を支持するものが多数である。 道垣内教授は、仮登記担保法においては、目的物の所有権が担保仮登記権者に移転した後、一定の時期までは債 119
権等の額の支払︵債務の弁済ではない︶により受戻しを認めるという構造をとっているが、譲渡担保に関しては、 一定の時期に譲渡担保権者が完全な所有権を取得し、さらに受け戻しにより設定者が所有権を取り戻すという二重 構造を考える必要はないとされ、問題は、設定者留保権の消滅時効はいつか、いつまでに被担保債権を弁済できる ︵30︶ かであって、特別の受戻権なる権利を観念することは不要であるとされる。 そして、このいつまで譲渡担保設定者の弁済が可能であるかという点について、さらに、譲渡担保の実行の完了 ︵3 1︶ ︵処分清算方式においては、客観的に清算金が生じる場合には、清算金の支払いまたは提供︶までとする見解と、 実行の着手︵処分清算方式においては、第三者への処分がなされた時︶までとする見解とに大きく分けることがで ︵3 2V きる。 五 検討 譲渡担保の法律構成について、学説の見解は、三︵1︶でみたように、そのほとんどのものが担保権的構成をと るが、その具体的な理論構成は多岐に分かれている。しかし、最近では、譲渡担保の法律構成が必ずしも個々の問 題の結論までを左右するわけではなく、各固有の問題については、担保的構成を念頭に置きつつも、個別的に処理 ︵33︶ するのが妥当であるとの見解が主張されている。本稿でも、そのような観点より、被担保債権の弁済期到来後にお ける担保権者の目的物処分の場合に絞って検討してみると、担保的構成をとる学説は、次の二つの点において共通 する性質を有しているといえるのではなかろうか。 すなわち、第一に、担保権的構成をとる学説においては、担保としての性質から、被担保債権の存続を前提とし た解釈がなされており、譲渡担保権設定時に、担保権者に完全な所有権が移転すると解する見解はみられない。第 120
東洋法学第52巻第1号(2008年9月) 二に、譲渡担保権者は、弁済期の到来によって、担保目的物を処分する何らかの権限を取得するとする。すなわ ち、︵・11︶授権説では、担保目的物を処分する権限の授権と構成し、︵⋮m︶設定者留保権説では、﹁設定者留保権を 消滅させ、譲渡担保権者が有する所有権を完全なものにする手続﹂ととらえ、︵短︶物権的期待権説では、譲渡担 保の実行により完全な所有権を取得する期待権を有しているとし、︵v︶担保権説では、担保権者は私的実行権を 有するとする。また、そのことからすれば、債務者の債務不履行と同時に、目的物の完全な所有権が譲渡担保権者 に帰属するとは解されておらず、譲渡担保権設定者は、譲渡担保の実行がなされるまでは、所有権を回復すること ができると解されているとみることができる。 では、担保的構成に共通すると思われるこの二つの性質が、弁済期到来後に目的物が第三者へ処分された場合の 受戻権行使の可否を考察するにあたって、どのような意味を有するであろうか。まず、三︵2︶①の見解が主張す るように、譲渡担保において、仮登記担保法の類推適用を認めるのが妥当であるかを検討する必要がある。 この問題については、譲渡担保における私的実行という実現方法は、民法典上の担保物権における権利実現の原 則と調和するものではなく、仮登記担保法は、私的実行に関する準則として、譲渡担保権の実行についても、原則 ︵3 4︶ 的に類推適用すべきとの見解が主張されており、説得力があるものと思われる。 しかし、仮登記担保法では、担保目的物の処分について帰属清算方式だけを規定しており、それを基礎として仮 登記担保法全体の構成がなされている。これに対して譲渡担保では、判例、学説上、処分清算方式が認められてい ることから、譲渡担保においても、帰属清算方式で一本化するのか、あるいは、帰属清算方式とは別に処分清算方 ︵35﹀ 式を認める必要があるのかをという観点から考察する必要があろう。 この点について、譲渡担保において処分清算を認める必要性について論じる見解を検討してみたい。 121
譲渡担保権において、帰属清算方式とともに処分清算方式を認める実益として、次のような理由が挙げられてい る。︵a︶処分︵目取引︶自体が取引市場への放出であり、売却価格はおのずと市場価格によって客観的に形成さ ︵36︶ れるところに、処分清算のメリットがある。︵b︶処分清算型を認めないと、債務者が弁済したのではもう処分で きないということで売買契約がキャンセルになり、債権者は買主に違約金を支払わされる場合もでてくるかもしれ ︵37︶ ないことから、売買契約は不安定なものになり、ひいては買主を探すのが困難となる。︵c︶たとえば一億円の金 銭債権の担保のために五億円の不動産を譲渡担保の目的にした、という場合を考えると、処分清算方式を認めない ︵38︶ と、譲渡担保の実行は著しく困難になる︵四億円の現金を用意しなければならない︶。 しかしこれらの理由全てが説得力のあるものかは疑問である。まず、︵a︶については、第三者に売却すること ︵39︶ で、正当な担保目的物の評価が行われるとすることに関しては古くから疑問が呈されており、また︵b︶について は、債権者または、譲受人において清算金の支払を済ませれば︵第三者への売却と同時に清算金を提供すれば︶、 ︵40︶ ここでいう不安定な状態は解消するとも考えられる。しかし︵c︶については、目的物を処分しない限り、清算金 を用意できない譲渡担保権者も想定することができ、この点において、処分清算を認める有用性があるといえよ ・つ。 また、仮登記担保法において、帰属清算方式が採用されたのは、債務者が本登記に必要な書類を持っており、債 権者が合理的な評価・清算をしない以上、本登記をするための協力を拒絶することはできる︵清算金支払義務と本 登記協力義務とは同時履行の関係に立つ︶ことから、清算の合理性が担保されるためであるが、譲渡担保の場合に は、すでに所有権移転登記がなされており、清算金の支払いがなされない場合には、債務者には、引渡しを拒絶す ︵41︶ ることができるにすぎない。このことからすれば、処分清算方式においても、清算金を確保するために目的物の引 122
︵42︶ 渡しに対し留置権の主張を認める判例の立場を前提とすれば、帰属清算方式一本にする必要性もないと考える。 以上のことから、私見としては、譲渡担保の実行として処分清算方式をも認める実益があり、そのことから、譲 渡担保においては帰属清算方式のみを前提とする仮登記担保法二条を類推する必要は必ずしもないのではないかと ︵43︶ 解する。 それでは、債務者の債務不履行後に担保目的物が第三者に換価処分された場合、設定者は、いつまで受戻権を行 使して目的物を取り戻すことができるであろうか。仮登記担保法の類推を否定し、受戻権の性質について三︵2︶ ②の立場をとるとすれば、受戻権は、債務者が被担保債務を弁済することによって目的物の所有権を取り戻すこと であるとされる。つまり、不動産譲渡担保における受戻権は、被担保債務の存続と切り離された特別の権利とする ことはできず、右受戻権はあくまでも被担保債務の存続を前提に成立するのである。 そのことからすれば、受戻権の消滅を論じるにあたっては、この被担保債権がいつの時点で消滅するのかという ことを明らかにする必要があろう。その点、先に挙げた昭和六二年の最高裁判決では、﹁債務者が目的不動産を第 三者に売却等したときは、債務者は、その時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担 保債権消滅の効果が発生する﹂とし、受戻権の消滅と被担保債権の消滅の効果は同時に発生するとする。 一般に、譲渡担保の実行手段として、処分清算方式とは、目的物を適正額によって第三者に処分し、そこから得 ︵必︶ られた売却代金によって、被担保債権の弁済充当にあて、差額をもって清算を行う方法であるとされる。そしてそ の弁済充当については、法定担保である抵当権では優先弁済手続は競落人の代金納付において完了する︵民事執行 法一八八条・七九条︶。しかし、譲渡担保においては、債権者自らが売主となり、その計算において、担保権の実 行として換価処分が行われるものであることからすれば、換価処分が成立し、譲渡担保権者が売却代金債権を取得 123
︵45︶ した時点で、被担保債権の弁済充当が行われたのと同様な状態が生じるとみることができるのではないか。そし て、そのように考えうるとすれば、譲渡担保の実行において処分清算方式をとる場合には、担保目的物を第三者に ︵46︶ 処分した段階で、設定者の受戻権が失われると解されることとなろう。 以上、弁済期到来後に第三者に目的物が処分された場合には、譲渡担保の実行として、被担保債権が消滅し、そ ︵47︶ のことから受戻権も消滅すると解することになる。 また、帰属清算方式の場合には、いつの時点で被担保債権の弁済充当がなされ、被担保債権が消滅したのかが明 確ではない。そのことから、帰属清算方式による場合には、従来の判例と同様に、明確な評価額が確定する清算金 の支払い︵または提供あるいは清算金のないことの通知︶時に弁済充当があったとして、その時点で被担保債権権 が消滅し、受戻権の行使もなしえなくなると解するのが妥当であろう。 ここまでの私見の結論は、近時の最高裁の判断と結論においては同様であるが、一で紹介した最判平成一八年 ︵48︶ 一〇月二〇日︵民集六〇巻八号三〇九八頁︶については疑問である。 すなわち、平成一八年判決では、譲渡担保権者の債権者による目的不動産の強制競売による換価も、譲渡担保権 者による換価処分と同様であると解することで、譲渡担保権者の債権者による差押がなされた場合には、もはや受 戻権の行使がなしえないとする。 しかし、譲渡担保権者による換価処分は、債権者自身が売主となり、その計算において行なわれる換価方法であ ることからすれば、この判決が述べるように、強制競売による換価と同様に考えることができるかは疑問であり、 差押債権者による強制競売による換価の場合には、抵当権実行の場合と同様に、競落人の代金納付段階において弁 済充当がなされるとみるのが妥当ではなかろうか。 124
また、平成一八年判決では、あたかも﹁被担保債権の弁済期の前後﹂によって、受戻権行使の可否ひいては第三 者異議の訴えの可能性を画するように読むことができる。すなわち平成一八年判決は、﹁設定者が債務の履行を遅 滞したときは、譲渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得するから⋮︵省略︶⋮被担保債権の弁済期後は、設 定者としては、目的不動産が換価処分されることを受忍すべき立場にあるというべきところ、譲渡担保権者の債権 者による目的不動産の強制競売による換価も、譲渡担保権者による換価処分と同様に受忍すべきものということが できるのであって、目的不動産を差し押さえた譲渡担保権者の債権者との関係では、差押え後の受戻権行使による 目的不動産の所有権の回復を主張することができなくてもやむを得ないというべき﹂とし、﹁上記と異なり、被担 保債権の弁済期前に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押えた場合は、少なくとも、設定者が弁済期までに 債務の全額を弁済して目的不動産を受け戻したときは、設定者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求め ることができると解するのが相当である。なぜなら、弁済期前においては、譲渡担保権者は、債権担保の目的を達 するのに必要な範囲内で目的不動産の所有権を有するにすぎず、目的不動産を処分する権能は有しないから、この ような差押えによって設定者による受戻権の行使が制限されると解すべき理由はないからである﹂とする。 しかし、私見の立場からすれば、受戻権行使の可否は、﹁被担保債権の弁済期の前後﹂によって画されるのでは なく、あくまで不動産譲渡担保権の実行によって、受戻権行使の基礎である被担保債権が消滅するためであり、そ れは、設定者が受忍すべき性質のものではないと考えられるのである。したがって、第三者異議の訴えの可能性に ︵49︶ ついては、不動産譲渡担保権の実行時をもって判断されるべきものと考える。 125
六 終わりに 以前より、不動産譲渡担保は高利貸しなどの悪質業者によって利用されている実態が指摘されており、また、不 ︵50V 動産譲渡担保は、担保として合理性を欠くことから、その利用は奨励されるべきものではないとする見解がある。 しかし、その一方で、譲渡担保や仮登記担保はいずれもその根底において民事執行法による公的実行手続を嫌っ たものであり、私的実行方法を備えた簡易で効率的な実行手続を求め、それについて法的認知を獲得してきたもの ︵5 1︶ との見方もある。 現在のところ、抵当権における不動産競売手続においては、平成一六年四月一日の﹁担保物権及び民事執行制度 の改善のための民法等の一部を改正する法律﹂によって多くの改善はなされたものの、やはり売却手続に時間がか ︵52︶ かり、またそのことから売却額の下落率も大きいとされている。このような状況においては、不動産譲渡担保のよ うな私的実行方法を備えた担保というものも、その清算手続きが厳格に確保されるという前提のもとでならば、認 める余地も残されているのではなかろうか。 しかしその一方で、他国の動向をみると、フランスでは、二〇〇六年の大規模な担保法改正に伴い、不動産執行 手続についても一連の改正が行われ、そのなかで、任意売却の活用を主要な目的の一つと掲げ、新たな不動産執行 法においては、司法売却とは別に任意売却について特に一章が設けられたうえで、その促進が図られているようで ︵53︶ ある。 またわが国においても、平成二〇年六月三日の新聞報道によると、自民党の司法制度調査会が、担保不動産の処 分を巡って、裁判所による競売にかける前に民間主導で売却する﹁任意売却﹂の手続きを簡素化する方針を固め、 126
担保権者全員の同意がなくても、すべての抵当権を抹消し、売却できる制度を導入するための関連法案を次期国会 ︵54︶ に提出することを目指しているようである。このように不動産譲渡担保においては、諸外国およびわが国での抵当 権を中心とした不動産競売手続の動向をもみながら、今後はそのあり方が検討されていくことになろう。 ︵1︶松岡教授は、譲渡担保権者が担保目的物を処分した場合、﹁︵1︶弁済前の処分﹂﹁︵2︶被担保債務の弁済後の処分﹂﹁︵3︶弁 済期到来後清算前の処分﹂と三つの紛争類型に分けられ、︵3︶の紛争類型が、︵1︶︵2︶と﹁独立して観念されていたかどうか はきわめて怪しい﹂との指摘をされている︵松岡久和﹁最判平成六年二月二二日判批﹂民商一一一巻六号︵一九九五年︶九四二 頁、田井義信編﹃物権・担保物権﹄︵法律文化社、一九九九年︶三二九頁︹松岡久和執筆︺︶。また、判例も、最判昭和六二年一一 月二一日︵民集四一巻一号六七頁︶は、譲渡担保権の被担保債務が弁済された後に、債権者が目的不動産を第三者に譲渡し、その 所有権移転登記が経由されたという事案において、﹁右第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合は格別、そうでない限り、譲 渡担保設定者は、登記がなければ、その所有権を右第三者に対抗することができないと解するのが相当である。﹂と判示するが、 この判例について譲渡担保権者の処分権能から考察するならば、被担保債権の弁済があった時点で、譲渡担保権は消滅しており、 第三者への譲渡は不当処分となるであろう︵道垣内弘人﹁最判平成六年二月二二日判批﹂法協一一二号︵一九九五年︶九九三頁︶。 ︵2︶棋悌次﹃担保物権法﹄︵有斐閣、一九八一年︶三四七∼三四八頁参照。 ︵3︶高木多喜男﹃担保物権法︹第四版︺﹄︵有斐閣、二〇〇五年︶三四頁、棋・前掲注︵2︶三四七∼三四八頁。 ︵4︶以前より、譲渡担保の実行に注目されていた見解として、鳥谷部茂﹁不動産譲渡担保の実行権能と実行方法﹂ジュリスト 一〇九八号︵一九九六年︶二一七頁以下、同﹁非典型担保の検討方法﹂﹃民法学の軌跡と展望﹄︵日本評論社、二〇〇二年︶三二五 頁以下がある。 ︵5︶椿寿夫教授が﹁譲渡担保権の現状と課題﹂法時六五巻九号︵一九九三年︶七頁において指摘されるように、譲渡担保は、それ 自体としての共通的な検討を行うとともに、目的物の特殊性を考慮しながら考えていく視座が不可欠であると思われる。そのなか 127
で、不動産譲渡担保は、典型担保としての抵当権との関連をも考慮する必要があり、したがって、本稿では、不動産譲渡担保にお ける権利関係に絞り考察を行ってみたい。 ︵6︶道垣内教授の説明によると、﹁帰属清算型の譲渡担保である、ということは、とりもなおさず、債務者等からの目的物の所有権 を完全にとりあげるにあたっては、通知をしたうえで、清算金を支払います、と債権者が約束しているということなのだから、そ の約束が果たされるまで、つまり︵清算金が生じるときには︶清算金が支払われるまでは、債権者は完全な所有権を取得できず、 債務者等は受戻権を行使できる。これに対して、処分清算型の譲渡担保である、ということは、清算金を支払う前に第三者に目的 物を処分する、ということを設定者が債権者に認めているということなのだから、第三者に対する処分が行われれば、清算金は未 だ支払われていなくても、その時点で目的物の所有権は完全に第三者に移転し、受戻権は失われる﹂とされる︵道垣内弘人﹁最判 平成六年二月二二日判批﹂法学教室一六二号︵一九九四年︶二八∼一一九頁、同・前掲注︵1︶九八九頁︶。 ︵7︶前掲注︵2︶の学説参照。 ︵8︶道垣内・前掲注︵1︶九八六頁以下。 ︵9︶さらに、最判平成一八年一〇月二〇日︵民集六〇巻八号三〇九八頁︶においても﹁設定者が債務の履行を遅滞したときは、譲 渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得する﹂としている。 ︵10︶同様の趣旨を述べる判例として、最判昭和五七年九月二八日︵判時一〇六二号八一頁︶、最判平成七年一一月一〇日︵民集四九 巻九号二九五三頁︶などがある。 ︵n︶かつての判例は、客観的にみて清算金が生じない場合には、被担保債権の弁済期到来と同時に目的不動産の所有権が譲渡担保 権者に確定的に移転し、もはや債務者は所有権を回復することはできないと解するものがあった︵最判昭和五一年九月二一日判時 八三二号四七頁︶。しかし、その後、判例は、最判平成六年二月二二日︵民集四一巻一号六七頁︶において、譲渡担保権者が、設 定者に対して、﹁目的不動産の適正価額が債務の額を上回らない旨の通知﹂した時点、または、譲渡担保権者が﹁目的不動産を第 三者に売却等をした﹂時点で、債務者は目的不動産の所有権を確定的に失うとしている。 ︵12︶最高裁判例では、第三者に担保目的物が処分されたことで、受戻権が消滅するとしていることからすれば、ここでの仮登記担 128
保法二条一項の類推適用は、否定していると解されるであろう。高木・前掲注︵3︶三四六頁参照。 ︵13︶道垣内・前掲︵1︶九八九頁。 ︵14︶譲渡担保の法律構成については、さまざまな文献において詳細な検討がなされているが、ここでは特に、以下の文献を挙げさ せていただく。生熊長幸﹁譲渡担保の法的構成﹂鈴木禄弥睦竹内昭夫編﹃金融取引法大系五﹄︵有斐閣、一九八四年︶三三七頁以 下、庄菊博﹁譲渡担保における所有権の移転−体内関係において﹂﹃金融担保法講座皿巻 非典型担保﹄︵筑摩書房、一九八六年︶ 二三頁以下、竹内俊雄﹁譲渡担保の法的構成と効力﹂ジュリスト増刊﹃民法の争点1﹄︵有斐閣、一九八五年︶一八O頁以下、米 倉明﹁不動産譲渡担保の法的構成−抵当権説でなぜいけないのかー﹂蜂・目Φヨ①筥二号︵一九九八年︶二頁以下、柚木馨・高木多 喜男編﹃新版注釈民法︵九︶ 物権︵四︶﹄︵有斐閣、一九九八年︶九三二以下︹福地俊雄執筆︺。 ︵15︶鳥谷部教授は、担保の実質を考慮する学説において、所有権が移転する構成と所有権が移転しない構成との区別が重要である とされる。鳥谷部茂﹁譲渡担保における法律構成1﹁所有権的構成と担保権的構成﹂への疑問﹂﹃谷口知平先生追悼論文集三﹄︵信 山社、一九九三年︶一八四頁以下、同・前掲注︵4︶﹁非典型担保の検討方法﹂三二五頁以下。 ︵16︶判例は当初、譲渡担保をもって外部的移転型︵期関係的所有権理論︶と構成していた︵大判明治四五年七月八日民録一八輯 六九一頁︶。しかし、関係的所有権論への反対説︵鳩山秀夫﹁売渡名義ヲ以テナシタル担保ノ効力﹂法学志林一二巻六号 ︵一九一〇年︶六六頁以下、松本丞描治﹁売渡抵当及動産抵当論﹂私法論文集第二巻︵厳松堂、一九一六年︶二五〇頁以下、中島玉 吉﹁売渡抵当二就テ﹂京都法学会雑誌九巻九号︵一九一四年︶一〇五頁以下など︶が相次いで主張されるなかで、学説の批判を容 れてか、関係的所有権移転、すなわち﹁外部的移転﹂を原則とする立場から、当事者の意思いかんによっては、内外部共移転の形 態がありうるとの判断へと移行することになり︵大判大正四年一二月二五日民録一二輯二二一二頁︶、さらには、内外部共移転が 推定されるとする立場に至ることとなる︵大連判大正一三年二一月二四日民集三巻五五五頁︶。 ︵17︶石田文次郎﹁売渡担保における二形態﹂京都帝国大学法学会法学論叢三二巻二号︵一九三五年︶二〇四頁以下。 ︵18︶浜上則雄﹁譲渡担保の法的性質﹂阪大法学一八号︵一九五六年︶三二頁以下。 ︵19︶鈴木禄弥﹃物的担保法の分化﹄︵創文社、一九九二年︶三五三∼三五四頁、四八O∼四八八頁。 129
︵20︶道垣内弘人﹃担保物権法︹第二版︺﹄︵有斐閣、二〇〇五年︶二九八頁。 ︵21︶川井健﹃担保物権法﹄現代法律学全集七︵青林書院、一九七五年︶一二頁・一八五頁、同﹃民法概論二物権︹第二版︺﹄︵有斐 閣、二〇〇五年︶四六一頁、竹内俊雄﹃譲渡担保論﹄︵経済法令研究会、一九八七年︶八三頁。 ︵22︶私的実行特約付抵当権と解する見解︵米倉明﹃譲渡担保の研究﹄︵有斐閣、一九七六年︶四頁以下、同・前掲注︵14︶二頁以 下、吉田真澄﹃譲渡担保﹄商事法務研究会︵一九七九年︶七二頁︶と、流担保特約付抵当権と解する見解︵田高寛貴﹃担保法大系 の新たな展開−譲渡担保を中心として﹄︵勤草書房、一九九六年︶二二九頁︶に分かれている。 ︵23︶高木・前掲注︵3︶三四二頁、近江幸治﹃民法講義皿担保物権︹第二版︺﹄︵成文堂、二〇〇七年︶三九五頁。 ︵24︶受戻権の性質については以下の文献が詳しい。荒川重勝﹁譲渡担保権設定者の﹃受戻権﹄と清算金請求権﹂立命館法学 二三丁二三二号︵一九九三年︶一二〇七頁以下、鳥谷部茂﹁最判平成八年一一月二二日判批﹂広島法学二一巻二号︵一九九七 年︶二六三頁以下。 ︵25︶法務省民事局参事官室編﹃仮登記担保法と実務﹄︵金融財政事情研究会、一九七九年︶一一九頁。 ︵26︶近江・前掲注︵23︶三〇三頁。同趣旨のものとし、鈴木禄弥﹁仮登記担保法雑考︵4︶1仮登記担保法の適用される契約の範 囲﹂︵一九七八年︶五∼六頁、吉田真澄﹁譲渡担保と仮登記担保法二・完﹂法時五一巻二号︵一七七九年︶一二八頁、棋.前掲 注︵2︶三四九頁、高橋眞﹃担保物権法﹄︵成文堂、二〇〇七年︶三一八∼三一九頁。 ︵27︶近江・前掲注︵23︶二九九頁。 ︵28︶生熊長幸﹁仮登記担保﹂﹃民法講座3物権︵二︶﹄︵有斐閣、一九八四年︶二七六頁。 ︵29︶道垣内弘人﹁最判昭和五七年一月二二日判批﹂法協一〇〇巻九号︵一九八三年︶一二〇頁、清水誠﹁最判昭和五七年一月二二 日判批﹂判例評論二八五︵一九八二年︶二六∼二七頁、伊藤進﹁最判昭和五七年一月二二日判批﹂ジュリ七九二号︵一九八三年︶ 七二頁、宇佐美大司﹁最判昭和六二年二月一二日判批﹂法時六〇巻一号︵一九八八年︶一〇四頁、魚住庸夫﹁最判昭和六二年二月 一二日判例解説﹂﹃最高裁判所判例解説民事篇︵昭和六二年︶﹄︵法曹会、一九九〇年︶四〇∼四一頁、北秀昭﹁最判昭和五七年一 月二二日判批﹂椿寿夫編集代表﹃担保法の判例H﹄︵有斐閣、一九九四年︶四〇頁以下、林良平ほか編﹃注解判例民法・物権法﹄ 130
︵青林書院、一九九九年︶六二六頁︹占部洋之執筆︺、平井一雄﹃民法拾遺第一巻﹄︵信山社、二〇〇〇年︶六四六∼六四七頁、川 井健”鎌田薫編﹃物権法・担保物権法﹄︵青林書院、二〇〇〇年︶三〇八頁︹角紀代恵執筆︺。 ︵30︶道垣内・前掲注︵20︶三一六頁。同様の立場をとる判例としては、最判昭和五七年九月二八日判時一〇六二号八一頁、最判昭 和六二年二月二一日民集四一巻一号六七頁、最判平成八年一一月二二日民集五〇巻一〇号二七〇二頁などがある。 ︵3 1︶清水・前掲注︵29︶二八五頁、伊藤・前掲注︵29︶七二頁。 ︵3 2︶平井・前掲注︵29︶六四六∼六四七頁、道垣内・前掲注︵20︶三二〇頁。 ︵33︶近江・前掲注︵23︶二九五頁、高木・前掲注︵3︶三三四頁、田井・前掲注︵1︶三一六頁、福地・前掲注︵1 4︶八四六頁。 反対する立場のものとして、米倉・前掲注︵14︶一六頁がある。 ︵趾︶高橋・前掲注︵26︶一三五頁。同趣旨のものとして、福地・前掲注︵憩︶六一八頁がある。 ︵35︶すなわち、仮登記担保法の類推適用を前提とすれば、論理的には譲渡担保についても、帰属清算方式で行われることが原則と なり、第三者への処分は、いったん、帰属清算方式で譲渡担保権者に帰属した所有権を、改めて第三者に処分すると考えられるこ と になろう。 ︵36︶近江・前掲注︵23︶三〇〇頁。 ︵37︶現代財産法研究会編﹃譲渡担保の法理﹄︵有斐閣、一九八七年︶二二∼一二二頁︹岩城発言︺。 ︵38︶道垣内・前掲注︵20︶=二六頁。 ︵39︶前掲注︵37︶一一二頁︹椿寿夫発言︺。 ︵40︶道垣内弘人﹁最判平成六年二月二二日判批﹂法学教室一六七号︵一九九四年︶一一九頁、湯浅道男﹁判例セレクト、九四︹法 学教室一七四別冊付録︺﹂︵一九九五年︶二三二頁、山野目章夫﹁最判平成六年二月二二日判批﹂︵一九九五年︶七九頁。 ︵41︶近江・前掲注︵23︶三〇〇∼三〇一頁、高橋・前掲注︵26︶三二〇頁。 ︵42︶判例は、清算金の支払い︵あるいは清算金がない旨の通知︶がなされていなくても、第三者へ目的物が譲渡されると受戻権は 行使しえなくなるとする一方で、この場合に清算金請求権を確保する方途として、債務者に留置権の主張を認めてきたといえる。 131
︵最判平成九年四月一一日裁時一一九三号一頁、最判平成二年二月二六日判タ九九九号二一五頁、最判平成一五年三月二七日金 法一七〇二号七二頁。︶しかし、これらの判例の立場に対し、学説からは次のような理論上の疑問が述べられている。すなわち ﹁第三者は、清算金支払債務は負っていないので、︵⋮省略⋮︶第三者に対して設定者が留置権を主張できるとするためには、いっ たん清算金支払いについての債務者である譲渡担保権者のもとで成立した留置権が、目的物の第三者に対する所有権の譲渡によっ て、第三者に対しても主張できることになるという構成をとらざるをえない。しかし、処分清算型の場合には、清算金支払請求権 は、第三者に対する処分によって成立する。すなわち、清算金支払請求権が発生するのは、目的物の所有権が確定的に第三者に移 転した時点であるので、留置権の発生する余地はないといわざるをえない﹂とされるのである。︵小林秀之日角紀代恵﹃手続法か ら見た民法﹄︵弘文堂、一九九三年︶一〇六頁︹角執筆︺︶。このような批判がなされるのは、帰属清算型の譲渡担保では、譲渡担 保権者に担保目的物が帰属した段階で、清算金が発生することから、清算金支払いと目的不動産の引渡しが引換給付たることに問 題を生じないが、処分清算型において、債権者が清算金支払未了の間に第三者へ譲渡した場合には、清算金請求権は、目的不動産 の第三者への売却等の処分時において発生するとする判例︵最判昭和六二年二月一二日民集四一巻︼号六七頁︶があるからといえ る。さらに弁済期到来後の処分による留置権の成立について、最判昭和三四年九月三日︵民集一三巻二号︶との整合性を問題視 する見解もある。すなわち、昭和三四年判決は、弁済期到来前に譲渡担保権者が目的不動産を第三者に処分したとき、当該第三者 からの目的不動産の明渡請求に対して、債務者は、譲渡担保権者に対して有するに至った損害賠償請求権を被担保債権として留置 権を行使することはできないとするもので、この判決を前提にすると、不当処分の相手方のほうが強い保護を受けることになるの ではないかということとなる︵道垣内弘人﹁最判平成一一年二月二六日判批﹂私法判例リマークスニ○号︵二〇〇〇年︶一七頁。 し たがって、処分清算型の場合には、理論上、清算金請求権を被担保債務とする留置権の成立は認められないとの見解も主張され ている︵高木・前掲注︵3︶三四八頁︶。 ︵43︶このことからすれば、被担保債権額や不動産の見積額を算定し、清算金の有無などを設定者に通知する、いわゆる実行通知に ついても、譲渡担保の実行においては、必ずしも必要とはいえないであろう。 ︵44︶福地・前掲注︵14︶八六一頁。 132
︵45︶上杉晴一郎﹁代物弁済とその予約に関する判例の研究﹂司法研究報告書二三輯三号一四七頁︵一九七四年︶では、代物弁済予 約担保権に基づく換価処分について、換価代金債権を取得すること、すなわち換価処分成立によって優先弁済は完了するとされる。 ︵菊︶この場合、設定者の清算金の確保について、判例は、担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張す ることができるとする︵最判平成九年四月一一日裁判集民事一八三号二四一頁、最判平成二年二月二六日判時一六七一号六七 頁︶。 ︵47︶担保物権に共通の消滅原因として最も重要なことは、被担保債権の消滅とされる。我妻栄﹃新訂担保物権法︵民法講義皿︶﹄ ︵有斐閣、一九六八年︶一五九頁、道垣内・前掲注︵20︶一七二〇頁。 ︵48︶詳しくは、拙稿﹁最判平成一八年一〇月二〇日判批﹂銀行法務21六七七号七二頁以下を参照していただきたい。 ︵49︶この点を指摘するものとして、山野目章夫﹁ハノイの思い出と譲渡担保の新しい判例﹂金商一二五六号一頁︵二〇〇七年︶参 照。 ︵50︶鈴木禄弥﹃物権法講義︹四訂版︺﹄︵創文社、一九九四年と三〇頁。 ︵51︶横・前掲注︵2︶三四四頁。 ︵5 2︶黒木正人﹃担保不動産の任意売却マニュアル﹄︵商事法務、二〇〇六年︶二一∼二三頁。 ︵53︶フランスにおける担保法の改革については、駄﹄\蕊鵠“鋤巽o 。o 。﹄錺ρ一9質①ωΦ旨呂8号寅同窪自日①8ωω母雪需︵○艮p.88− ωぷ器B震ω88︶㍉Gト9ド88/また、不動産差押制度の改革については、9﹄“曽8鋤譜5砂ω90一ω器δ冒Bo区δ話 ︵U9おけ昌.88−8ρミ甘∈980①︶㍉禽●9ド88日本語における不動産差押制度の改革についての紹介として、山本和彦﹁フラ ンスの不動産競売手続﹂︵民事局 競売制度研究会 海外制度調査報告書︶≦≦≦B・茜9壱\ζH呂H\Bぼ一一置○ 。や一ぜ島が詳しい。 ︵54︶日本経済新聞 二〇〇八年六月三日朝刊 ーたや かずひこ・法学部准教授1 133