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業績評価とABC(2)(水地宗明教授退官記念論文集)

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業績評価とABC(2)

頼 誠 ③効率的業績管理のための業績測定の特徴  原価管理は,活動そのものの管理によって効率的に行われ,業績測定基準が 検討されていく必要がある。コスト・ドライバー(製品の複雑性や品質,機械 停止時間その他)の選択は,総原価と業務の効率性に対して重要なインパクト を持つ可能性がある。ほとんどのコスト・ドライバーは,製品デザインや製造 業務の特性に関係づけられているので,業績測定基準の多くも非財務的である。  Greeneらが述べている業績測定がもつべき特性は,以下のとおりである。 (1)業績測定基準は新しい戦略目的が出現したり,現存する成功要因の重要性が 変化するたびに修正されること。(2)業績測定基準は,理解されやすいこと。(3) 業績測定基準は,4個から6個であること。(4)実績は,タイムリーに報告され ること。(5)業績測定の結果は,目に見えること。(6)業績測定に関する管理者 のコミットメントがあること。(7)業績測定は従業員の評価プロセスと明確にリ ンクされていること。  業績管理システムの成功は,システムが以上の属性をどれくらいもっている       31) かに依存しているという。 2−6アクティビティ・ペースト貴任会計にみられる考え方の評価  経済活動を写像した結果である会計数値ではなく,ABCにみられる原価発 生源泉である活動そのものをコントロールするという考え方は,特に新しいも のではない。ただし,(1)継続的改善を部下に委任し上司はそれを支援する立場 31) Greene, A. H. & P. Flentov, “Managing Performance: Maximizing the Benefit of  Activity−Based Costing”, Cost Management, Summer 1990, pp. 54一一55.

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にあること,(2)顧客の満足を最終的目標として,それをオペレーショナルな下 位目標に分解できると考えると共に,水平的関係にある工程間では顧客である 後工程へのサービスの提供についてその貢献度で業績評価を行うというクロス ・ファンクショナルな業績測定の捉え方,(3)個人業績から集団業績への移行, 等の特徴は,従来の責任会計における業績測定と異なる点で評価できよう。 III.日米のコントロールの相違と責任会計  II節では,業績管理会計および責任会計の変化とアクティビティ・ペースト 責任会計(以下ABRAと略す)について述べたが,ここで,加護野他(1983), 吉田(1993),小田切(1992)その他を参考にして,日米企業間の経営管理の相違 とそれをもたらしている要因(制度,文化,環境等)について検討する。        32)  まず加護野他(1983),青木(1989)(1992)(1993)における日米企業の類型化に 注目する。伝統的責任会計はS型あるいはA型組織,ABRAはH型あるいはJ       33) 型組織の組織戦略において使用されやすいと考えられるからである。  マネジメント・コントv一ル・システムとして,伊丹教授は8つのシステム      34) をあげている。責任会計システムはそのうちの一つにすぎない。国籍により, それらのシステム間の関係,運用形態,重要性に相違がある場合,責任会計シ ステムの内容(構造あるいは運用)も異なったものとなるだろう。  以下では,日本型経営の特徴が「責任システム」「業績測定システム」「イン センティブ・システム」,組織構造の枠となる「権限と役割のシステム」等にど う反映しているかをみていぎだい。 3−1日米企業の特徴と業績管理会計 32)青木昌彦『日本企業の組織と情報』東洋経済新報社,1989年;青木昌彦『日本経済の制  度分析』筑摩書房,1992年;青木昌彦「日本企業の経済モデル序説」『日本の企業システム  ①企業とは何か』第9章,1993年。 33)加護野忠男他『日米企業の経営比較』日本経済新聞社,1983年,p.233,図6−3参照。;拙  稿「エイジェンシー・モデルと水平的調整」彦根論叢,第282号,1993年。 34)伊丹敬之『マネジメント・コントm一ルの理論』岩波書店,1986年,pp.49−66。

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①組織構造:機械的組織と有機的組織(日本企業の曖昧な権限と責任)  谷教:授によれば,「統合システムとして規則・手続,組織階層,計画・業績測 定のシステムだけを適用している組織」を機械的組織と呼ぶ。機械的組織は, 高度の職務細分化,責任・権限関係の垂直的・水平的明確化により,組織階層 による調整または統合が重視され,下位管理者の責任・権限に属さない例外的       35) 事項は上位管理者が調整する。責任・権限が明確に規定されている場合は管理 者の業績は独立的に測定しやすく,管理可能性原則が適用しやすい状況といえ る。  これに対し,環境の複雑化・不確実化に伴う調整コストが高くなるのに対応 して有機的組織の組織形態がとられる。連邦的分権化に基づく事業部制組織(自 己充足的組織)を作ったり,プロジェクト・チーム,マトリックス組織等がこ    36) れである。事業部制組織では短期利益計画の権限が委譲され,また,水平的関 係の設定のための組織では決定権限の委譲を前提にして下位管理者間での調整 が行われる。有機的組織では,資源配分,生産物の振替等の相互依存性が存在 する。このような組織では,組織の統合は管理者間の水平関係を利用すること

  37) 38)

になる。有機的組織の場合,権限・責任は曖昧になる。 ②分権化の程度  日本企業では権限・責任が曖昧であるという傾向は加護野教授によっても指      39) 摘されている。Campbellらによっても,日本企業は集権的であるが,計画と政 策は広範な意見の一致をもとに決定・実行され,責任は本社と事業部で分担さ       40) れているという。曖昧な職務記述にも日本企業の特徴がでている。 35)谷 武幸『事業部業績の測定と管理』税務経理協会,1987年,p.25. 36)谷前掲書pp.28−29. 37)前掲書 pp.29−30. 38)加護野他 前掲書 p.226.表6−1参照。 39)加護野他 前掲書 p.74. 40) Campbell, N., M. Goold, and Kimio, K., “The Role of The Center in Managing Large  Diversified Companies in Japan”, Manchester Business Schgol, September 1990, pp. 26  −28.

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 他方,岡橋(1992)では,日米企業の組織構造の集権化・分権化の程度につい て以下のように述べられている。加護野他(1983)では米国企業の方が日本企業 よりも集権化されているという結果になっているが,ヴァンシル,神戸大学管      41) 理会計研究会,浅田助教授らの調査結果を比較検討した結果,それとは逆の結 果(日本企業の方が集権的)になっている。米国企業の方が事業部の自己充足 性が高く,日本企業の方が本社が事業部に対して干渉する程度が高い。この点 について,岡橋氏は「日本企業は予算編成プロセスにおいて,通常の責任・権 限構造を越えて,本部が事業部の意思決定に干渉・修正する傾向にあるのかも        42) しれない」と推察している。 ③コントロール・モードの違いと日本型経営  ③一1画面可能性原則  前述のように,有機的組織においては,管理可能性原則の運用は,権限・責 任構造を越えて行われる。すなわち,権限のない要因によって発生した結果に ついてまでも責任を負わされることがある。もっとも,権限も責任も曖昧な場 合は,「原則」どおりになっているかどうか自体,判断のつかない場合がある。 このことは,必ずしも有機的適応をとっている日本企業の方がこの原則に反し ていることを意味しない。けれども,米国企業の方が,より「原則」どおりに なっていると推測される場合はある。  例えば,小林(1986)では,本社費・共通費の配賦基準として,米国企業では 日本企業よりも利用高基準の採用割合がはるかに大きいことから,米国企業の        43) 方が管理可能性原則をより考慮している可能性のあることが指摘されている。  また,浅田(1989)によれば,事業部長の業績評価尺度として,日本企業では, 41) Vancil, R, F,, Decentralization: Managerial Ambiguity by Design, Dow Jones’  Irwin, 1979. 42)岡橋充明「事業部制組織における業績測定と業績評価について」六甲第論集,第38巻第  4号,1992年,p.37. 43)小林哲夫「分権的組織構造における管理会計」会計,第13Q巻第6号,1986年, pp.26−  28.

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売上高,本社費配賦後利益,売上高利益率,管理可能利益,売上高成長率,製 造原価,米国企業では,資本利益率,管理可能利益,本社費配賦後利益,売上 高成長率,売上高利益率の順で多く使用されている。これらをみたかぎりでは, 米国企業の方が管理可能利益を重視している。その理由の一つは,米国企業の       44) 場合,業績と報酬との比較的強い結合が関係しているのかもしれない。  逆に,従業員の報酬に対する影響可能性という面に注目すれば,欧米企業に おける報酬システムは結果に重点があるのに比べて,日本企業におけるそれは 努力・態度を反映している点でより「原則」に忠実になっているという考え方 はできる。しかし,私見では,人事考課の行われるルールが不明確であったり, 人事考課が主観的で評価する上司の情実に左右される傾向が大きければ,必ず しも努力・態度が金銭的報酬や昇進に反映されないであろう。次に,日米企業 における業績評価値と報酬の関係について比較することにしよう。  ③一2業績評価とインセンティブ・システム  第1に,組織と業績尺度との関係である。浅田(1989)によれば,米国企業で は利益中心の尺度が使用されているのに対し,日本企業では業績尺度の範囲が       45) 収益,費用,利益に及び,より広範である。これは,一一つには米国企業が自己 充足性の程度が高く,日本企業が製販分離組織をとっていることが一因になっ ていると思われる。  第2に,予算業績と報酬の結合関係である。浅田調査によれば,米国では予 算業績という財務的短期的業績がボーナスや給与に比較的よく反映している。 しかも,金銭的報酬は公式によって客観的に決定される傾向がある。  これに対し,日本では,むしろ「人事考課」が重要な働きをしている。人事 考課による短期的評価において,「努力・意欲」が報酬に反映する。また,昇進 および昇進に伴う金銭的報酬は長期的に決まってくることから,長期的な観点 44)浅田孝幸「予算管理システムの日米企業比較について(2・完)」企業会計,1989年5  月,p.117. 45)浅田 前掲論文 p.116.

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で意思決定を行いやすくなる。  一方,米国においては経営者は短期的観点で業績をあげざるを得ないといわ れる。その背景には,株主の圧力の強さ,労働市場が発達しているために,よ り大きな金銭的報酬を求めて企業間を移動しやすいということがある。短期的 業績に応じた金銭的報酬によってインセンティブを与える効果が重視されてい るのだろう。  第3に,小田切助教授は日本企業が「昇進」をインセンティブの手段として 重視している理由として,昇進が組織構成員の才能・努力を反映する手段であ ること,昇進に伴う便益や社会的満足が日本では大きいことをあげている。さ らに,日本では「成長」を過度に追求する結果になっている。その理由は,内 部より昇進してきた経営者の労働者への一体感,「成長」による昇進機会の増       46) 大,株主支配力の弱さ等にあるという。  ③一3主観的評価・相対的評価  「昇進」は,年功(勤続年数や年齢),評価(能力・努力・達成度・資格その 他の評価)に依存している。ところが,日本の場合必ずしも明確なルールがな い。しかしこれは敗者復活の可能性があることを意味し努力を引き出し続ける        47) 動機づけになると小田切助教授は述べている。  また評価は主観的になりがちである(複数の上司,同僚による評価によって その弊害を減らそうという努力はなされている)。昇進が労働意欲や技能形成に 役立つ程度は,評価の厳密さ,公平性,長期的に行われているか,評価が重視 される程度に依存しているという。そして「終身雇用」「内部昇進」「配置転換」       48) 「社内試験制度」はそのような評価を支える制度になっているといわれる。  他方,欧米企業の場合,予算業績が賞与に反映するという場合のように,比 46)小田切宏之『日本の企業戦略と組織』東洋経済新報社,1992年,p.78, pp.85−87. 47)小田切 前掲書p.79. 48)小田切 前掲書p.83.;ただし,部課長は米国でも内部昇進が基本であり,給料は決ま  っているわけではない(小池和男「米国のホワイトカラー1①一⑥日経新聞,1992年9月  29日一10月4日〉。

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較的客観的な評価が裏付けになっているか,あるいは,アメリカの工場労働者       49) の場合のように厳格な年功序列がある。  また,日本企業の場合,「競争」は相対的評価に基づいている。この競争が効 率的な条件として,小田切助教授は次の3つをあげている。 (1)参加者が共謀して努力レベルを下げないこと。(2)競争者間の能力差が大き すぎないこと。(3)勝者と敗者との報償の差が激しいこと。  日本企業の場合,(1)については社内研修や会社人間を創り出すさまざまな政 策,日本人の文化的特性によって共謀が妨げられているとも考えられる。ただ し,佐藤(1989)に述べられているように,トーナメント方式の欠点として,能 力差が歴然としている場合,共謀でなくても怠慢が均衡解となる場合がある。 また,小田切氏によれば,(2)については教育水準の高さと慎重な新規採用によ り,(3)については労働市場への出入り(転職)が自由ではないこと(閉鎖性)       50) によってある程度満足されている。また,能力・業績は正規分布に従う相対評 価であり,日本企業においては大多数の従業員は敗者になっていないという印 象を与えるように,標準的成果をあげた者と高い成果をあげた者との差は小さ く逆に成果をあげていない者との差は大きいという調査結果がある。他方,典 型的な米国企業の場合はトップの成果をあげた者とそうでない者との差が大き    51) いという。このような傾向が日米の企業にみられるとすれば,日本企業は金銭 的報酬に関しては標準以下の者に対してはペナルテ4一をきつくするが,標準 以上の者の間では差をあまりつけずに,金銭的報酬による個人間の競争から生 じるコンフりクトを和らげ,むしろ情報交換等の協調をもたらすことに重点を 置いた政策をとっているのに対し,米国企業では,個人の能力・業績を明確に して差をつけることによって,個人にモチベーションを与えることを重視して いるように思われる。これは米国の文化的環境が個人主義的で外部労働市場が 49)小田切 前掲書p.79. 50)小田切 前掲書pp.24−25.;佐藤紘光「相対業績評価」産業経理, Vo1.49, No.3,  1989, pp.58−59. 51)ヴラディミール・プーチック「日本企業の経営人事戦略の変容」組織科学,Vol.24. No.  2.1991年,pp。18−19.

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発達していることもあって金銭的報酬による動機づけ効果が大きいと考えられ ているせいかもしれない。そしてまた,所得格差を少なくするという意味での 平等主義が日本により妥当し,機会均等を重視する欧米の文化との差が反映さ れている可能性がある。日本企業でこれらの条件の満足されていることが,相 対的評価を効果的にして従業員の努力を引き出すのに役立っている。  ③一4コントv一ル方法の違いと日本型経営  以上,簡単に述べたが,ここで日米のコントU一ル方法の違いと日本型経営 の特色,制度との関係について吉田(1993),小田切(1992),その他を参考にし てまとめておきたい。 *競争と協調  吉田教授は,米国企業の経営システムは市場との行き来が可能な「競争」に よるメカニズムを中心に成り立っており,日本企業は「協調」の利益を生かす        52) メカニズムになっており,インセンティブはあまり重要でないと述べている。 その理由は,個人主義の社会と人間の相互依存関係を重視する社会との違いと して説明されている。しかし,日本企業のシステムは「協調」の側面と小田切 助教授のいう意味での「競争」の側面とのバランスの上に立っているとみるこ ともできる。  吉田教授によれば,日本の組織は「自己の利益の追求」と「人間関係の維持」 とのうち後者に価値をおき協調行動をとる傾向がある。建前として上位が下位 に指令し報告を受けインセンティブを与えるとしても,意思決定は社会の「場」 によって行われる。ハイアラーキ・システムとの違いは,各要素が上位の指令 だけを情報源とはせずに,相互依存関係の中で他の組織構成員の支配を受け支 配をしながら上位から独立した意思決定を行う点にある。したがって,意思決 定プロセスも分業も曖昧で責任の所在もはっきりしない。  協働によって成果が生み出される場合,個人の組織への貢献度が明確に測定 52)吉田和男『日本型経営システムの功罪』東洋経済新報社,1993年,p.ユ55, p.ユ66, p.  175.

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できず(限界生産力を測定できず)貢献度に応じた報酬によってインセンティ ブを与えることは困難になる。  また,そのようなインセンティブと違った仕組みで動機づけがはかられる協 働の成果は,責任,貢献度による分配ではなく,生活保障的,平等主義的な分       53) 配になる。会計的個人的業績と報酬が連結されない理由はここにある。さらに, 近視眼的意思決定や個人的競争を防止するという理由,短期的な業績に応じて 金銭的報酬を与えるというインセンティブよりも,人事考課と昇進(およびそ れに伴う金銭的,社会的満足等)により勤労意欲を引き出すコントロールが効 率的であると考えられているせいであろう。  そして,個人は,相互扶助組織(保険機構)としての機能や年功賃金への期 待から,組織に留まり,組織全体の共同の利益が大きくなれば,組織全体の成 長が分配分および昇進ポストの増加につながる可能性がある(組織活動への協 力が個人の利益と整合的な)ことから個人は組織に貢献するよう動機づけられ る。これは,結局は個人の利益を追求する行動であり,必ずしも道徳律として の「忠誠心」によるものではない。吉田教授が述べている日本型経営に関する       54) 集団主義は,原理やイデオロギーに基づくものではない。  他方,小田切氏も,日本企業の経営を「温情主義」や「忠誠心」に基づく「調 和」のみで説明するのはおかしいのであって,競争原理(長期的競争)によっ て説明すべきだという。  「内部昇進制」も規範としての「終身雇用制」も合理的制度である。すなわ ち,「終身雇用制」を温情主義のための制度や慣習とだけとらえるのは間違いで あり,規則的な配置転換,修得した技能の維持を可能にする合理的制度として とらえるべきである。「内部昇進制」にしても社外の者は社内の者ほど当該会社 の知識をもっていないのが通常であることから発生したと考えるべきである。        55)そして,「昇進」は勤労意欲を高め技能を身につけさせる誘因となる。 53)吉田 前掲書 pp.161−166. 54)吉田 前掲書 p.,172,p.131. 55)小田切 前掲書pp.76−77.日本的雇用慣行の真の意味:競争要因としての解釈:そも/

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 しかし,不況と高齢化によって勤続年数に応じて支給額が高まるという意味 での「年功賃金」は維持困難になり,管理職については年俸制(職務内容や能 力に応じた給与の支払い)の導入にみられるように,日本企業も欧米型の能力 主義を基礎にした報酬制度に近づき,職能毎に企業外の労働市場が形成され,       56) 「終身雇用制」も崩壊していく可能性がある。  このような状況の変化により,定期的配置転換および企業内教育による幅広 い技能の修得は抑制され,若者の親密な人間関係を嫌う傾向も相まって「価値 ・情報の共有によるコントV一ル」が困難になっていくだろう。これは日本型 から欧米型への管理システムの移行の必要性を暗示しているのかもしれない。 このことは,後述の青木教授が述べているA型とJ型の組織はしだいに収敏し ていくという仮説と整合する。  一方,吉田教授は,相互依存システムは普遍的であり日本独自のものではな く,また,経済成長が鈍化するにしたがってインセンティブ・システムよりも        57) 相互依存システムが重視されるという。このあたりに,欧米で相互依存関係を とり入れようとしている理由(そしてABRAの発想)があるのかもしれない。  ここでは,組織の階層,対象とする年齢層,業種,企業規模,欧米企業でも 国籍を区別せずに一括して論じたが,それらを分類して実態調査をする必要が ある。  表3は便宜的なものであり,実際の企業は,JタイプとAタイプの折衷型で ある。 \そも日本的雇用慣行と言われる「終身雇用制」「年功制」「企業別組合」に関しては誤解が  ある。高梨昌(1993)によれば,「終身雇用制」の真の意味は,中途退社も解雇もなく定年ま  で雇用が保証されているということではない。現実には,そういう例はごく稀で,競争は  激しい。年功制とはいっても,人事考課により実力と能力を評価する人材開発のシステム  が存在している。企業別組合は,労使協調の交渉力の弱い「御用組合」ではない。賃金引  き上げ,労働条件の維持・改善のための交渉と協議を行う。競争的側面をもっているので  ある(高梨昌「日本的慣行 崩れず」日経新聞,1993年6月16El)。 56)吉田 前掲書 pp.206−208.;サービス関連の職種の場合,仕事内容が他企業でも共通  すること,転職しやすいこと,職種ごとの横断的労働市場が形成されていることが指摘さ  れている(日本労働研究機構雇用研究会「岐路に立つ日本の雇用」日経新聞,1993年7月  13日)。 57)吉田 前掲書 pp.155−157.

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表3 経営管理システムの比較 経営管理システムJ 経営管理システムA 組織構造 曖昧なルール:有機的組織中心 明確なルール:ハイアラーキ・計画・業 曖昧な分業関係(チームワークの重視) 績測定システムによる統合1機械的組 織中心 高度な職務細分化 製販分離組織が多い 自己充足的事業部が多い 垂直・水平に重複した権限・責任,権限の 明確な権限・責任→独立的業績測定,管 分散と曖昧な責任(集団決定1根回し) 理可能性原則が適用しやすい状況 分権化の 集権的(責任・権限構造を越えた本部の 分権的 程度 事業部への干渉)浅田調査 *J骨組織(青木) *A型組織(青木) 分権的情報システム 集権的情報システム 集権的人事管理システム 分権的人事管理システム コントロ *H型組織(加護野他) *S型組織(加護野他) 一ル方法 現場の人聞が,体験や知識の共有によ アウトプット・コントロール(結果を報 り問題に対処する(横断的統合),価値・ 酬に結び付ける,職務割当と報酬によ 情報の共有によるコントロール,リス るコントロール) クの分散,協働 管理者の 収益・費用・利益 利益・ROI←自己充足的事業部 業績評価 広範,多元的←製販分離組織 尺度 管理可能 *努力・意欲を反映した報酬(原則に合 *事業部長の業績評価尺度(管理可能 性原則の 致) 利益重視) 適用 (長期的業績) *本社費・共通費の配賦:利用高基準に よる配賦多い米国企業 (主観的・相対的評価中心) しかし,現実の配賦への「原則」の適 評価と →長期的観点からの意思決定 用はケース・バイ・ケース(Merchant) 報酬 人事考課・・…・業績評価(半期毎)能力評 予算業績とボーナスの結合強い(短期 価(長期)により職能等級が決まる 的・財務的業績)←強い株主の圧力 相対的評価が有効な条件が揃っている 報酬決定における会計数値と公式の利 人事考課:主観的評価の積み重ね(客観 用(客観的評価の可能性),部課長レベ 性をもちうる)長期・短期成長追求と内 ルは内部昇進 部昇進 競争とイ 勤労意欲を高める長期的競争 短期的競争 ンセンテ 技能を身につけさせる誘因 部長・課長(マネージャー),将来マネー  “ Cフ・シ 目標としての終身雇用制 ジャーに昇進するグループの年俸制 ステム 規則的配置転換・企業内教育→幅広い (業績が悪いと給与が下がる可能性が 仕事をこなす(柔軟性) ある) 価値・情報の共有に役立っ各企業独自 時給の事務職 の知識・技能の存在と未発達な労働市 米国工場労働者の場合,厳格な年功序 場(閉鎖性)→崩れつつある 列制(明確なルール) 3−2戦略と組織編成による類型化  上述の内容は,加護野他(1983)の実証研究のフレーム・ワークによって説明 することができる。  加護野他(1983)は,日米企業の環境適応方法の違いを,戦略(オペレーショ

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ン志向とプロダクト志向)と組織編成(グループ・ダイナミクスとビュロクラ       58) ティック・ダイナミクス)という2つの次元に基づいて対比している。  オペレーション志向の戦略とは,生産に重点をおきながら,周辺分野での知 識の集積を行い,競争優位を帰納的でインクリメンタルに確立しようとする戦 略であり,プVダクト志向の戦略とは,製品に重点をおきながら環境の機会や       59) リスクを精緻に分析し,機動的な資源展開を行う戦略である。  ビュロクラティック・ダイナミクスとは,「公式化された組織階層を構築し て,規則や計画を通じて組織的統合や環境バラエティの削減をはかる組織編成 の方法」であり,グループ・ダイナミクスとは,「価値情報の共有をもとに,成 員間ならびに集団問の頻繁な相互作用を通じて,組織的統合と環境バラエティ       60) の削減をはかる組織編成の方法である。」加護野教授らによれば,これら2つの       61) 軸によって,日米企業の4つの環境適応の類型化が行われている。       図1 日米間,企業間の戦略や組織の差を生みだす要因        規模の増大         グループ・ダイナミクス     ビュロクラティック・ダイナミクス

H

オペレーション 志向    変    化    の    大    き    さ  プvダクト  志向     」1.

惣tt

B

懸s

技術のルーチン化    変化の予測可能性         加護野他(1983)pp,237−239より作成 58)加護野他前掲書 第6章。 59)加護野他前掲書pp.103−104, p,226. 60)加護野他前掲書 p.227. 61)加護野他 前掲書 p.233.

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      表4 *環境適応戦略 日本型 (1)オペレーション志向の戦略 ①自由度の高いビジョン的な定義 ② 内部からの累積的資源蓄積・展開 ③人的資源重視。学習・活性化のための資 源展開→長期生存志向 ④帰納的・インクリメンタルな競争優位 の確立。生産戦略 *組織編成の方法 (3)グループ・ダイナミクス ①現場の自発性と微調整的適応行動の許 容 ②価値・情報の共有とそれを支援するル ースなシステムによるコントロール ③集団内・集団間の相互作用を通じた学習 ④トップ・マネジメントが組織構成員に 緊張や脅威を与え活性化させ自主的に変化 に対処させる ⑤ トップ・マネジメントの地位は安定的 →持続的ポリシーの追求可能 ⑥行動規範:臨機応変な適応を許容        業績評価とABC(2) 環境適応戦略と組織編成(加護野他(1983)より作成)        米国型 (2)プロダクト志向の戦略 特定的なドメイン(事業活動の領域)の定義 環境の機会やりスクの精緻な認知・分析と 機動的な資源展開 財務的経営資源重視型の資源農開→短期業 績志向 論理的・演繹的な競争戦略の確立。製品戦略 (4)ビュロクラティック・ダイナミクス 階層構造 精緻な統合システムによるコントロール 専門能力の個人別蓄積 トップ・ダウン トップ・マネジメントの地位は不安定業績 主義 明示的・普遍的な価値行動規範     (加護野他(1983)pp.225−227.)  環境変化によって,各組織は図1の矢印のような方向へ移行し,日本企業は H型へ,米国企業はS型へ移行する傾向があり,それらがもっている特徴が業       62) 績管理会計の特徴に影響を与えている。  他方,青木教授は,組織内における情報構造の相違に基づいてAタイプとJ タイプの企業モデルを区別し,2つのタイプの組織活動の効率性を比較対照し ている。  Aタイプの組織は縦方向の情報の流れによって管理される組織と定義できる。 Aタイプの組織では分業と職務割当てによって効率性を向上させようとしてお り,作業と現場の問題を解決する仕事は分離されている。  他方,Jタイプの組織は,ハイアラーキに沿った情報構造(垂直的コミュニ ケーション)に加えて,水平的コミュニケーションをひきおこすような機構が 62)加護野他 前掲書 p. 230.

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重要な役割を=果たしている組織と定義される。例えば,現場での体験や知識の 共有により,労働者集団が現場で発生した問題を自分達で発見し対処するとい        63) う能力を重視するのである。  青木教授はさらに,集中的情報システム(CI)と分権的な情報システム(D I),分権的・市場志向的人事管理制度(DP)と集中的・組織志向的な人事管

理制度(CP)との組み合わせのうち,欧米の事業組織(A企業)はCI−D

P,日本の事;業組織(J企業)はDI−CPの組み合わせをとる傾向があると 述べている。この青木モデルにおけるJ企業において,伝統的責任会計の特徴,        64) 原則は変化せざるをえない。 3−3アクティビティ・ペースト責任会計(ABRA)の有用性  以上のような類型化によれば,日本企業はJ型あるいはH型,米国企業はA 型あるいはS型の特徴をもつ傾向がある。しかし,米国の製造業においても, J型,H型組織の特質を備えているとみられる企業が存在している。  IIで概説したABRAの特徴は,これらの組織タイプのうち, AあるいはS型 組織よりも,JあるいはH型の組織がもつ特徴(前提)とより多くの整合性を        65) もつように思える。  その理由は明らかではないが,ABRAの考え方は,有機的組織は欧米にもみ られること,そして日本のエクセレント・カンパニーのシステムを部分的に模 倣しようという試みからでてきた可能性がある。  例えば,MIT産業生産性調査委員会の調査・分析によれば,成功企業には顧 客と密接な連携関係を維持することによって,市場の需要の変化を知り迅速に 63)青木(1992) 前掲書,p.19. 64>青木(1989)前掲書,pp.109−121;会計フuンティア研究会編「管理会計のフロンティ  ア』第6章,中央経済社,近刊;拙稿(1993)では,単純なエイジェンシー・モデルがJタ  イプの組織の分析には限界があると述べたが,.単純なエイジェンシー・モデルの有用性を  否定したわけではない。 65)ただし,このことは,必ずしも,ABRAがJあるいはH型の組織においてうまく機能す  ることを意味していない。

(15)

対応できる可能性を高めようとしている。そのために成功企業は階層・部門数 を少なくして,部門間の障害を除去している。各階層の業務の範疇が少なくな れば,特定業務に関わる責任範囲が拡大する。さらに意思決定の分散化も必要 になる。Dertouzosらによれば,成功への鍵は「参加意識チームワーク,組織 の低い階層で意思決定を行うこと等を奨励し支持する,企業風土の変革」であ       66) ることが指摘されている。これらは,JあるいはH型の組織の特質の一部を構 成している。  けれども,「情報の共有化」「継続的改善」がおこなわれるためには一定の前 提条件が揃っている必要がある。「情報の共有化」についてはQCサークル,配         67)

置転換,大部屋主義,インフォーマルなつきあいの代わりにCIM,SISに

よる支援が期待できる。しかし,「継続的改善」のためには,顧客満足を高めコ ストを下げるようなアクティビティの組み合わせを分析できる人材と,協力を 引き起こす誘因がなければならない。どこまで微調整を現場に任せるシステム の設定と制度の変更が可能であろうか。  J型組織におけるように,DI−CPの組み合わせ,すなわち低い組織レベ ルに決定権を広く委譲する場合,集中化された単一のランク・ヒエラルキーに よる統合が必要となる。何か本社による集中的人事管理に代わるシステムがあ るのであろうか。ABRAでは,協力の側面が協調されているが,昇進システム がもつ激しい競争の側面が見落とされていないだろうか。  また,結果(会計数値)による管理ではなく,活動そのものをコントV一ル するための仕組みについても検討する必要がある。権限・責任の垂直的・水平 的重複,価値・情報の共有,現場での微調整などが望ましいケースやそれらを 可能にする具体的方法についてもさらに検討を要する。 66)MIT産業生産性調査委員会(ダートウゾス.M. L.他)依田直也訳『Made in America』  草思社,1990年,p. 174, pp.178−180. 67)吉田 前掲書 p.62.

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IV.結び  責任会計では,職能部門あるいは事業部などの組織単位・責任者等毎に,収 益・原価・利益差異等の会計数値を集計し,責任を負わせることになる。だが, 相互依存性の強い組織においては,組織単位や管理者個人の責任を公平に決め ることは困難になる。そして,組織メンバーの動機づけのためには,従来の責 任会計ないしその基礎にある仮定や諸原則の修正が必要になる。  責任会計上,管理可能性原則は特に重要な原則とされてきたが,この原則の 適用の仕方はケース・バイ・ケースである。公平な共通費の配賦,業績評価尺 度の選択等に際して,リスク分散,公平性等を考慮に入れて管理者の動機づけ を中心とした目的に役立つように,管理可能性原則の運用方法が状況に応じて どのように異なるのか,そして他の原則との関係についても実態調査をする必 要がある。  環境の変化に応じて,伝統的責任会計は変化せざるをえないのであり,小倉

(1992)によるABCやMcNairによるABRAの利用は,従来の責任会計に対

する挑戦であると捉えることができる。  責任会計システムは,米国型組織の場合は従業貝の動機づけのために不可欠 なシステムであろうが,日本型組織の場合には少なくとも個人の動機づけ目的 におけるその重要性は少ない。というのは,日本型組織ではインフォーマルな 情報伝達や情報の共有化が重要な役割をもち,ハイアラーキ・型の情報システム を重視する欧米型に対し,決定の基本になる原理原則が不明確で要素間の相互 依存性・協調行動の中で意思決定が行われるからである。そのため責任の所在 も曖昧になる。前述のように,日本型組織のコントP一ルの特徴は,昇進とい        68) うインセンティブ・システムと吉田教授がいう「相互依存システム」の混合に ある。つまり,長期的・短期的「競争」と「価値と情報の共有」を前提とした 「協調」のバランスの上に成り立っている。そして,日本型組織では,集権的 人事管理システムを初めとしたさまざまな制度の上にのっかったコントロール 68)吉田 前掲書 p.186.

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や非公式な仕組みによるコントロールの方が責任会計システムによるコントロ ールよりも重要なのかもしれない。  日本型組織では米国型組織におけるような意味での責任会計の重要性がなく, また,すでにQCサークルや小集団活動等をやっていることから, ABRAのよ うなものは必ずしも必要ではないという解釈もなりたちうる。  一方,欧米型組織においては,ABRAがうまく機能するための前提が満足さ れにくい。ABRAが意図している「継続的改善」や「相互依存性」は,日本型 組織の「相互依存システム」に類似点がみられ,「相互依存システム」が成立す るためには,前述のような制度的・文化的前提条件の揃うことが重要であると 思われる。競争と協調のメカニズムをどのように組み合わせるべきか,日本型 経営管理システムの海外移転を考える場合にもこの問題は重要なポイントとな る。というのは,カルチャーの違いが最適なコントロール方法を左右する可能 性が高いからである。本稿で指摘した,業績評価と報酬のリンク(成果分配の やり方),責任の負わせ方,組織構造等の違いも,カルチャーに依存している。  ABRAは,現場の人間自らカイゼンを行う事を意図しているが,それがイノ ベーションを引き起こすことは困難である。  野中(1993)では,「組織的知識創造」のためには,異なる暗黙知をもつ個人間 の相互作用の「場」を作るだけではなく,企業内部の情報,事業活動,経営責 任の重複によるコミュニケーションの促進,人事交流や情報へのアクセスを容        69) 易にする工夫,データベース化野が必要であるとされる。ABRAはこれらのう ちのいくつかに役立つことを意図しているようにも思えるし,「リエンジニアリ ング」を意識しているとも思われる節がある。  職能間の壁を低くして水平的な情報の流れを促進するような方法の工夫は, 責任会計ないし業績管理会計を大きく変貌させるものとなろう。イノベーショ ンを引き起こすためのメカニズムの解明は今後の課題である。 69)野中郁次郎「企業知識創造」『日本の企業システム ①企業とは何か』1993年,pp.91−92. (付記〉本稿の作成に先立ち,神戸大学管理会計研究会の諸先生および滋賀大学藤村博之先 生から有益な御助言をいただきました。ここに謝意を表明致します。

参照

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