日本の国際連帯税導入への課題(伊藤)
日本の国際連帯税導入への課題
伊 藤 悟
はじめに Ⅰ フランス航空券連帯税 Ⅲ 日本での国際連帯税構想 Ⅳ 国際連帯税の税法学的課題 結語 はじめに 現代の国際社会は、ヒト、モノ、カネ、情報が大量かつ迅速に移 動するグローバリゼーションが急展開し、外国において発生する事 件や社会・政治・経済問題が他国のこと、他人ごとして看過できな い時代であることを私たちに認知させている。そして、国際間題 は、かつての中心的問題であった戦争・世界平和(近年のテロや海 賊問題も含む)のみならず、経済上の南北間題に伴う貧困等の諸問 題、さらにエイズ問題、環境問題、情報技術格差(デジタル・デイ バイド)など地球規模の問題へと広く展開してきている。先日2011 年10月31日、世界の人口が70億人に達した。人口増加は、さらなる 食糧問題、貧困問題などを拡大させる要因でもある。現在でも、こ の地球上に暮らす人々の多くが、日々の食事、飲み水、教育、医療 を十分に受けられない状況にある。世界銀行などが発表している国 際的貧困ライン1日1ドル以下で生活する人々は、この地球上で約 10偉人ほどもいる。貧困は、様々な不平等、疾病の原因であると認 識される。 国際社会において先進国は、国際的問題を率先して解決すべき −13−であり、また途上国が抱える問題を解決することも地球規模問
題の解決でもあり、発展途上国等に対する国際開発支援貢献が自国の国益にもつながるとの認識で、ODA(OfficialDevelopment
Assistance:政府開発援助)のドナー国となっている。日本は、1991年より10年間、アメリカを抜きODA実績世界一を続けていた
が、2009年には世界5位へと落ちてきている(l)。今日、先進諸国 の経済状況が悪化し、ODA資金調達も難しい時代となっているのは事実である。そこで、ODA改革とともに、ODA資金調達のあ
り方が問われている。ODA資金は、政府の一般会計からの財政
支出として行われる。しかし、国内経済事情、財政事情が厳しく なると、ODA資金に投じるより国内経済支援への要請が高まり、 ODA支出実績が減少してくるということが、先進国の国際貢献と の関係で重大な課題とされている。この間題解決として導入が検 討されるのが本稿の対象である国際連帯税(1a taxe de solidarit6internationale,InternationalSolidaritylevy)(2)である。そして、
フランスは、シラク大統領のときに国際連帯税の一種として航空券連帯税(Taxedesolidarit6surlesbilletsd’avion、SolidarityTax
on aircraft tickets)を創設し、マラリア、結核、エイズの医療品購入資金とし、UNITAID(ユニットエイド、IDPF:International
Drug Purchase Facility、Ia Facilit6Internationale d’Achat de
M6dicaments(国際医薬品購入ファシリティ)への資金管理・配
分を行う機関)への財源提供を実行している。 この国際連帯税は、日本において、所得税や法人税のように国民周知の税ではなく、未だ馴染みのない税であるといえる。しかし、
これは、今最も世界中で注目されている税の一つである。本稿で紹 介するフランスの航空券連帯税は、その一つであり、フランス以外 の国々でも同種の税・課徴金として採用され、また採用予定されている。日本の外務省も、ここ数年度の税制改正要望事項として、
「制度名:国際協力を使途とする資金を調達するための税制度の新 設」と題して「税目:国際開発連帯税」をあげ、国際連帯税の導入日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) を要望している(3)。また、政府税制調査会専門委貞会国際課税′ト委
員会においても、2010年9月の第1回および第2回会合のテーマが
「国際連帯税を巡る国際的な動向の整理等」であった(4)。しかし、 2011年度税制改正大綱は、今後真筆に検討するとしたが、導入を示 唆しなかった(5)。日本は、この税をいまだ導入していないが、国際 的には導入する国が増加してきており、日本での導入も近いのでは ないかと推量される。 国際連帯税の発端は、2000年9月に開催された国連ミレニアム・ サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」(6)と1990年代の国 際会議等での開発目標を基にまとめられた「ミレニアム開発目標(MillenniumDevelopmentGoals:MDGs)」(7)と、この達成のた
めに、2002年にメキシコのモンテレー(Monterrey)にて開催さ
れた国連開発資金国際会議の場において、革新的資金メカニズム(InnovativeFinancingMechanisms=IFM)が発表されたことに
ある。そして、その一つとしてフランスが提案したのが、国際連 帯税であるは)。提案国であるフランスは、シラク大統領の下、2006 年7月に航空券連帯税(税法上は民間航空税(Lataxe del’aviation civile)の割増額である)を導入した。この税は、別名「シラク 税」とフランスでは呼ばれている。その後、数カ国がこれを導入し ている。 本稿は、国際連帯税としてのフランスが採用した航空券連帯税を 紹介するとともに、日本でもミレニアム開発目標を達成するために 国際連帯税導入を推進する動きがあり、それらの動向を紹介し、新 たなODA資金調達としても期待されている国際連帯税について税 法学から検討するものである。 ー15−Ⅰ フランス航空券連帯税
1 フランスのミレニアム開発目標への対応
フランスの国際連帯税は、ODA資金財源確保のための税として 考案された税の一つである。これは、いわゆる「グローバル・タッ クス」(9)の一つと考えられる。ODAは、政府または政府の実施機関によって開発途上国また
は国際機関に供与されるもので、開発途上国の経済・社会の発
展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供による協力
である(10)。ODAは、第二次世界大戦前のブロック経済への反省 とその後の世界経済の安定のために締結されたブレトン・ウッズ協定(1944年7月に締結)に基づき、国際通貨基金(IMF:
InternationalMonetary Fund)と国際復興開発銀行(IBRD:
the International Bank for Reconstruction and Development,
通称「世界銀行」)が設立され、アメリカ中心の支援が世界的に 開始されたことに始まるといえる。アメリカは、戦後、欧州復興計画(ERP:European Recovery Program、提唱者の名を冠し
て「マーシャルプラン」と呼ばれる)構想を出し、西側ヨーロッパ経済をアメリカ支援のもとで復興、大発展を遂げさせた。その
後、先進国と発展途上国との間の大きな経済格差、すなわち南北
間題が指摘され、1960年代に国際開発協会(IDA:International
Development Association、通称「第二世銀」)などの国際的支
援体制が整備され、アメリカ中心のODAが世界経済を発展させてきた。ODAのドナー国は、一般には先進国である。特に、OECD
(OrganizationforEconomic Co−Operation and Development、
経済協力開発機構)加盟国、その中でもDAC(Development
Assistance Committee、開発援助委員会)加盟国22カ国がODAド
ナー国として有名である。ODAには、二国間援助(途上国への直接の無償または有償援
助)と多国間援助(国際機関への資金拠出)がある。また、近年の日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) ODAは、港湾等のインフラ整備のためのハード支援から、「人間
の安全保障」や「良い統治(GoodGovernance)」の考えが国際的
に認められソフト支援へと拡大している。そうした中で、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミ
レニアム宣言」と1990年代の国際会議等での開発目標を基にまとめられた「ミレニアム開発目標(Millennium DevelopmentGoals‥
MDGs)」が提起された。これは、国際社会の支援を必要とする課 題に対して2015年までに達成するという期限付きの8つの目標((∋ 極度の貧困と飢餓の撲滅、②普遍的初等教育の達成、③ジェンダー の平等の推進と女性の地位向上、(彰幼児死亡率の削減、(9妊産婦の 健康の改善、⑥HIV・エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止、⑦ 環境の持続可能性の確保、(沙開発のためのグローバル・パートナー シップの推進)、21のターゲット、60の指標を掲げている(11)。 このミレニアム開発目標の達成には、市場メカニズム(貿易等) を活用したドナー国による発展途上国等に対する支援のみでは達 成できないこと明白であり、先進国によるODAが必要である。国連は、ODAの対GNI(Gross NationalIncome、国民総所得)比が
0.7%に達するように目標設定している(12)。ミレニアム開発目標を
達成するための資金メカニズムが要請された。それが、2002年にメ キシコのモンテレーにて開催された国連開発資金国際会議で検討 され、「革新的資金メカニズム」構想として提案されたのである。 その結果、いくつかのイニシアティブ(Initiative)が実施されて いる。医療品購入補助機構としてのUNITAID(国際医療品購入フ ァシリティ)、疫病などの予防接種資金調達補助のためのIFFIm(TheInternationalFinanceFacilityforImmunisation)(イギリ
スが提唱した予防接種のための国際金融ファシリティ)、そしてドイツ、フランス、スペイン、韓国などが導入する航空券連帯税が実
施されており、このほか通貨取引税の導入なども検討されている。 フランスのミレニアム開発目標への対応策は、2003年12月に「ランドー・レポート」(Le RapportduGroupLandau)としてまと
−17一められ、シラク(Jacques Ren6Chirac)前大統領が2005年1月の
ダボス会議(世界経済フォーラム(WorldEconomicForum)の年
次総会、スイスのダボスで開かれている)にて国際連帯税構想と して発表した。この国際連帯税構想が航空券連帯税(正確には民 間航空税の割増額)として具体化したのは、連帯税に関する法案が2005年11月22日政府決定され、12月8日に国民議会(Assemb16
Nationale)で可決、12月19日には元老院(S畠nat)で可決され、 2005年度修正財務法律(2005年12月30日法律1720号)22条に規定さ れたことによる。その施行日は、2006年7月1日とされた。同条項は、現行の租税一般法典(Codeg6n6raldesimp6ts)302bisK条
第6項(paragrapheⅥ)に規定されている。Codeg6n6raldesimp6ts 租税一般法典
ChapitreⅦ:Taxedel’aviationcivile 民間航空税
Article302bisKVI.TLes montants mentionn畠s aux deuxieme et troisieme
alin6asduIIfontlrobjetd−une majorationau profitdufonds
de solidarit6pourle d6veloppement.Un d6cret fixele
montantdecettemajoration,danslalimiterespectivementde
leurosetde4euros,Ou,lorsquelepassagerpeutb6n6ficier
SanS Supp16ment de prixえbord de services auxquels
l−ensemble des passagers ne pourrait acc6der gratuitement,
delOeuroset de40euros.
La majoration est perCue selon la destination
finale du passager.E11e nlest pas percuelorsqu’ilest
en correspondance.Est consid6r6comme passager en
correspondanceceluiquiremplitlestroisconditionssuivantes
a)L■arriv6e a eulieu par voie a6rienne surl’a6roport
日本の国際連帯税導入への課題(伊藤)
systさme a6roportuaire au sens du reglement(CEE)n0
2408/92duConseil,du23juillet1992.concernantl.acc6sdes
transporteursa6riens communautaires auxliaisons a6riennes
intracommunautaires;b)Le d61aimaximum entreles heures programm6es
respectives dellarriv6e et du d6part n’excede pas vingt−
quatreheures;
c)L’a6roport de destination finale est distinct de celuide
provenanceinitiale et ne fait pas partie du meme systeme
a6roportuaire.
Ces sommes sont recouvrees dansles conditions
fiⅩ6es au V.E11es sontrevers6es mensuellementえ1TAgence
francaisededeveloppement.
2 ランドー・レポートとフランス航空券連帯税 ランドー・レポートは、通称であり、正式には「Les nouvelles contributions負nancieresinternationales」(新たな国際財政貢献) と題するシラク前大統領からの2003年10月21日付要請(Lettre de Mission)に基づいて、当時ロンドン大使館駐在財務官(Conseillerfinancier Ambassade de FranceえLondres)であったランドー
(Jean−Pierre LANDAU)財政監察官(Inspecteur g6n6raldes
Finances)を代表とする研究グループがまとめたフランス公式報告書(2004年9月)の一つである(13)。
報告書は、第1部「発展途上国へのより良い援助(Plus et
mieux financerle d6veloppement)」、第2部「国際課税制度と
は(Quellefiscalit6internationale?)」、第3部「オリエンテーシ ョン(Orientations)」の3部構成をとり、これに冒頭に要旨(レ ジュメ)がおかれ、次にはしがき、序文、本文と続き、最後に結語 とコメントがつき、PDF形式で148頁にもなるものとなっている。 報告書は、国際支援としての革新的資金メカニズムに関して、イギ ー19−
リスが主導したIFF(InternationalFinanceFacility、国際金融フ
ァシリティ)より、国際課税の活用が有効であるとする。そして、
ここでの国際課税は、従来の国単位での課税制度ではなく地球的規 模での税制を実現することを想定しており、その課税形式方法としては、金融取引税(les taxes surles transactionsfinancieres、
為替、有価証券取引への課税)、環境税(1es taxesえvocation
environnementale、CO2、航空・航海に対する課税)、武器売買課
税(1ataxation desventesd’armements)、企業利益付加税(1a
taxeadditionnellesurle b6n6fice desentreprises)が推奨提示さ
れた。 フランスが航空券連帯税の導入への過程は、先に記した通りであ るが、何よりもシラク前大統領の導入への推進力が大きかったと言 える。それゆえ、航空券連帯税は、別名、シラク税と呼ばれている。ランドー・レポートではいくつかの推奨税目があげられて
いたが、航空券連帯税は、すでにある「民間航空税」(Taxe de l’aviation civile)の一部として、すなわち、その割増税額として航 空券に対する課税として導入された。したがって、フランスの一般 租税法典に「航空券連帯税」という名称の税はない(メディアや公 的解説において航空券連帯税の名称が使われている)。なお、フラ ンスでは、taXeという語は、税(imp6t)と比べると、「税」とい うより「料」に近い法的性質を有する公的課徴金である。 航空券連帯税に関する規定は、現行の租税一般法典第302bis K条(または302条の2のK)の第6項に規定されている(前掲引用
条文)。この302bis K条は、租税一般法典において国税税目と
して、そして、そのうちの取引高税等の一つとしてある民間航空
税(La taxe del’aviation civile)に関するものである。航空券連帯税は、その割増(une majoration)である。航空券連帯税とし
て、エコノミークラスの乗客(民間航空税が貨物にも課税するの に対して、乗客課税のみである)で国内および欧州圏内便(EU加 盟国、欧州経済圏国、スイス)搭乗に際して1ユーロ、国際便搭乗日本の国際連帯税眉入への課題(伊藤) に際して4ユーロの徴収が、さらにファースト・ビジネスクラスの 乗客で国内・欧州圏内便搭乗に際して10ユーロ、国際便搭乗に際 しては40ユーロの徴収がなされている(下記のようにまとめられ る)(乗継便には課税しない)(14)。この増額は、開発連帯基金の
ために(aupro飢dufondsdesolidarit6pourled6veloppement)
実施されている。開発連帯基金は、2005年度修正財務法律22条1項により、「その目的は、開発途上国の財政に寄与するとともに
『ミレニアム開発目標』を特に健康分野において実現させるためにあるIlest cr毎un fonds de solidarit6pourle d昌veloppement
dontl−objet est de contribuer au financement des pays en
d6veloppementetdetendreえr6aliserles■’objectifsdumi116naire
pourle d6veloppement”,nOtamment dansle domaine dela
sant畠.」とし、その運営は、フランス開発局(l’Agence francaise de d6veloppement)にて行うものとされた。航空会社は、毎月、 民間空港行政機関より送付される所定用紙に搭乗者数や税額等を記載し、航空管理運営に関する付属予算(Budgetannexe《Contr61e
etexploitationaeriens》:BACEA)所管の会計官に納付する。
フランス航空券連帯税の税率表(15) 乗客の最終目的地 乗客の移動条件 適用税率 国内、DOM/TOM、EU加盟国、 欧州経済圏国、スイス その他(エコノミークラス) 1ユーロ その他 ファースト・ビジネスクラス 40ユーロ その他(エコノミークラス) 4ユーロ 3 航空券連帯税とUN汀A旧 航空券連帯税は、立法過程からも理解できるように、開発連帯基 金の財源確保のために創設された。税収等は、フランス開発局の下 にて運営される。その目的は、ミレニアム開発目標、特に健康に関 する国際貢献支援のためとされている(2005年度修正財務法律22粂 1項)。 −21−世界的にはイギリス主導の国際金融ファシリティが先行し、ミ レニアム開発目標の達成するための革新的資金メカニズムに関す
る検討が続き、フランスは、ランドー・レポートでの推奨する国
際連帯税構想として航空券連帯税を創設し、国際的支援の資金の確保をしようとした。この資金は、国際的機関であるUNITAID
(16)を通じて医薬品購入資金として、他の国際機関であるWHOやUNICEFなどに提供される。UNITAIDは、国際医薬品購入ファシ
リティ(1aFacilit6Internationaled’AchatdeM6dicaments)であ
る。その目的は、三大感染症とされるエイズ(1e sida)、結核(1atuberculose)およびマラT)ア(1e paludisme)に関する発展途上
国における治療薬入手改善にある。UNITAIDは、航空券連帯税を導入した諸国の税収等の提供に基づき道営されている。UNITAID
への資金提供国は、29カ国とビル&メリンダ・ゲイツ財団であり、 そのうち航空券連帯税を採用している国(2008年末現在)は、チ リ、コート・テタィボアール、フランス、マダガスカル、モーリス、 ナイジェリア、韓国およびコンゴなどとされる(17)。フランスがUNITAID資金として航空券連帯税を導入しても、早々に、関係諸
国での航空券連帯税の導入とはならなかった。多くの国では、空港 関係負担がすでに高額となっている場合もあり、すべての関係国が 航空券連帯税の導入に至っていない。フランスの航空券連帯税の税収は、当初、年額2億ユーロを見込
んでいたが、2007年度収入が1億600万ユーロと低調であったと報道 されている(18)。フランスの航空券連帯税は、その当初見積税収を下回ったとしても、国際医薬品購入ファシリティUNITAIDの資金
調達としては有用であったといえる。日本の国際連帯税導入への課題(伊藤)
Ⅱ 日本での国際連帯税構想
1 外務省「国際間発連帯税」 ミレニアム開発目標の達成は、日本政府にとっても、重要な課題 である。 国際連帯税の一つとして、日本の外務省は、近年の税制改正要望 事項として「国際開発連帯税」の新設を要請している。外務省の平成24年度税制改正要望(19)事項の内容は、「飢餓や感
染症など地球規模課題への対処を始めとするミレニアム開発目標 (MDGs)の達成等、世界の開発需要に対応するためには、伝統的 ODAのみでは資金量が十分ではないとの認識から、革新的資金調 達に対する関心が高まっている。こうした革新的な資金調達のた めの税制度として、既に航空券連帯税が一部の国で実施されているほか、通貨取引開発税等も検討されている。」とし、「右を踏まえ
て、以下のとおり要望する。(∋MDGsの達成等、世界の開発需要に 対応するため、納税者の理解と協力を待つつ、国際開発連帯税につ いての検討を進めた上、必要な税制上の措置を講ずる。(∋その税収 の使途として、世界の開発需要への対応を明確に位置づける。③課 税方法として、我が国としてどのような方式のものを導入すること が適当かについては、今後国内外の動向を踏まえつつ検討する。」 というものである。 その新設を必要とする理由として、まず(1)政策目的に「本件は、我が国において開発資金のための国際開発連帯税を導入し、
MDGs等、国際的に合意された開発目標の達成に貢献するために、 世界の開発需要に対応し得る幅広い開発資金を調達するもの。これ は、外務省政策評価、基本目標Ⅵ「政府開発援助(二国間)または多国間の支援を通じ、国際社会の平和と安定に貢献し、これによ
り我が国の安全と繁栄を確保すること」、施策Ⅵ−2「地球規模の 諸問題への取組」と整合するものである。」(改行)「平成21年虔 第1回税制調査会に対する鳩山監理諮問には、調査審議を求める事 一23−項として、F(6)法人課税や国際課税等の分野において、グロ
ーバル化にともなって生じている世界規模の課題に対応できる税制 のあり方を検討する」と言及されている。また、民主党政策集2009 においても、国際連帯税の検討につき言及がなされている。』と記述し、(2)施策の必要性に「①MDGsが設定されてから10年が経
過し、2010年のMDGs国連首脳会合で達成に向けたコミットメント も強化されたところである。しかし、国連のMDGsレポート2011に よれば、いくつかの目覚ましい進展が見られる一方で、最脆弱層が 取り残されている現状がある。世界的な経済・金融危機により経済 の不安定性が拡大する中、伝続的なドナー国の資金動員力も低下し ている。②日本政府としても、MDGs達成に向けた国際社会の取組 を主導してきており、進捗が遅れている部分に懸念を有している。 また、東日本大震災に際し世界から差し伸べられた温かい支援に対 し、国際貢献として恩返ししていく。③MDGs達成期限である2015 年以降も貧困削減などの課題は引き続き重要であり、中長期的に幅 広い開発資金を追加的に確保する必要がある。」と記述している。 この外務省の要請に対して、税制調査会は、新税導入を今のとこ ろ認めていない。しかし、国際連帯税は、すでに平成22年度および 平成23年度税制改正大綱にて検討対象とされている。 外務省平成24年度税制改正要望事項「これまでの要望経緯」 より 平成22年度税制改正要望として当省より「国際開発連帯税」 の新設を提出し、平成22年度税制改正大綱に「地球規模の問題 解決のために国際連帯税の検討を早急に進めます」と記載され た。 【平成22年度税制改正大綱】 「国際連帯税 国際金融危機、貧困問題、環境問題など、地球規模の問題へ の対策の一つとして、国際連帯税に注目が集まっています。金日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) 融危機対策の財源確保や投機の抑制を目的として、国際金融取 引等に課税する手法、途上国の開発支援の財源確保などのため に、国境を越える輸送に課税する手法など、様々な手法が議論 されています。すでにフランスやチリ、韓国などが航空券連帯 税を導入するなど、国際的な広がりを見せています。我が国で も、地球規模の問題解決のために国際連帯税の検討を早急に進 めます。」 平成22年慶安望に引き続き、当省より「国際開発連帯税」の 新設を平成23年度要望として提出し、平成23年度税制改正大綱 に「今後,・‥真筆に検討を行います」と記載された。 【平成23年度税制改正大綱】 「国際連帯税 国際連帯税については、貧困問題、環境問題等の地球規模の 問題への対策のための財源確保を目的としたものであり、代表 例として航空券連帯税や通貨取引税が挙げられます。航空券連 帯税については、既にフランスや韓国等で導入されています。
また、通貨取引税については、フランスやベルギーにおいて、
他の全てのEU加盟国での実施等を前提として導入することとされています。今後、上記「論点整理」も参考にしつつ、真筆
に検討を行います。」 2 税制調査会専門家委員会国際課税小委員会 2010年9月6日に税調専門家委員会に国際課税小委員会(座長: 中里実(東京大学教授))が設置され、その第1回会合がテーマ 「国際連帯税を巡る国際的な動向の整理等」と題して開かれた。そ こでのプレゼンテーションとして、金子宏東京大学名誉教授が主 張される「国際人道税」に関する書面報告があった。参考資料と して、①「国際航空運賃と消費税」(税研1998年9月号6頁)伽)、②「ProposalforInternationalHumanitarian Tax−A Consumption
Tax onInternationalAir Travel」(Tax NotesInternational.
Dec.14,1998,p.1911)、③2006年8月3日日本経済新開朝刊25頁掲載
「経済教室」(「人道支援の税制創設を」の見出し)記事、3点が 挙げられている。①では国際人道税という名称は使用されていない が、「国際航空運賃に消費税(付加価値税)」を課するとの主張が され、②では国際人道税の提唱がされ、③では国際人道税を創設推 奨し、フランス航空券連帯税の導入に関して両税の比較コメントを している。 その後、第2回(2010年9月21日)テーマ「国際連帯税を巡る国 際的な動向の整理等」においても、国際連帯税について、財務省説 明のほか、有識者からのヒアリングとして上村雄彦(横浜市立大学 准教授)、小川英治(一橋大学教授)、山内弘隆(一橋大学教授) からの報告がなされている。第5回(2010年10月20日)テーマ「国 際課税の分野に関する諸課題(国際連帯税を含む)について等」においても、国際連帯税に関する資料が提示されている。そして、
2010年11月9日、『国際課税に関する論点整理』が専門家委員会に おいて報告されている。 税制調査会は、国際連帯税につき論議はしたが、これを採用するに至っていない。しかし、国際連帯税については、税制調査会とし
ても、前掲の平成22年度および平成23年度税制改正大綱において配 慮している傾向を見せている(前掲、平成24年度税制改正要望事項 「これまでの要望経緯」で引用した平成22年度および平成23年度税 制改正大綱参照)。 3 国際連帯税の国内的推進運動 国連の「ミレニアム開発目標」の達成のための革新的資金メカニ ズムとしてフランス航空券連帯税の導入は、日本国内でも、これに 賛同する様々な動きが出現している。 航空券連帯税の施行は2006年7月であることから、これらは日本 国内での民主党への政権交代(2009年9月)以前のことである。そ日本の国際連帯税導入への課題(伊藤)
れゆえ、旧政権下においても、これらに呼応した日本国内での動
きがあった。たとえば、「国際連帯税創設を求める議員連盟」(21)
(2008年2月設立、超党派で構成する議員グループ)がある。そして、国際連帯税は、現政権下でも、税制調査会税制改正大綱や国際
課税小委員会などで検討され、外務省からも創設提言されている。また、外務省以外の府省では、環境省が「地球環境税等研究会」
(委員長:植田和弘京都大学教授)において環境税としての国際連 帯税(炭素税など)の検討をし、『平成20年度地球環境税等研究会報告書』(平成21年3月)を発表している(22)。
また、民間においても「国際連帯税推進協議会」(座長:寺島実郎・三井物産戟略研究所会長、日本総合研究所会長、多摩大学学
長、通称寺島委員会)が発足され、2009年12月に中間報告、2010年 9月に最終報告書「環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実 現をめざして一地球規模課題に対する新しい政策提言−」を出して いる(23)。Ⅳ 国際連帯税の税法学的課題
1 国際連帯税の本質と課税主権 国際連帯税の構想としては、フランス等の航空券連帯税のほかに 多様なものが考えられている。ランドー・レポートでは、金融取引 税(為替、有価証券取引への課税)、環境税(CO2、航空・航海に対する課税)、武器売買課税、企業利益付加税が推奨された。国際
連帯税の元祖的税制としてトービン税があげられる。これは、現
在、国際金融取引税として検討されているものである。環境省地球 環境税等研究会の報告書、また国際連帯税推進協議会の最終報告書 などでも、多様な税制が提示されている。その目的も多様である。 国際連帯税の基本的構想の一つとして、国連等が課税権者になる というものがある(24)。グローバル社会の到来とともに、地球環境 問題が地球市民の問題とされ、「Onlyoneearth(かけがえのない −27一地球)」というスローガンが1972年国連人間環境会議(ストックホ ルム会議)でとりあげられた。国連を中心とした多様な取組みは、 国連加盟国の国連分担金により経費支弁担保される。日本の負担割 合は、実質的に世界1位である(アメリカが1位であるが、滞納し ている)。しかし、地球が抱える問題が国連中心で解決するとは必 ずしも言えず、国家間支援のほか、民間団体、NGOなどによる支
援活動も重要なものとなってきている。その経費は、公的補助金、
民間寄付などにより賄われている。資金量は、活動量に比例すると 言える。いかに多額の資金を得ることができるかが、これら支援活 動の継続性とその質量の充実に関係する。 これら支援活動資金を国等の補助金や寄付金ではなく、直接的に 税システムを用いて地球市民から徴収することができるのか。課税 権は国家主権の属性である(この課税権を課税主権という)。主 権国家でなければ税の創設はない(植民地にも税があるが、それは統治母国の課税主権の下で成立する)。税は、国家経済の中で、
その経済循環において、国家(中央・地方政府)の財源確保としてある。それゆえ、国際機関が課税権を有すると構想することは、国
家主権の一部をこの機関に移譲することとなる。これは、SFや漫 画での話(アメリカのSFテレビドラマ『スタートレック、エンタ ープライズ』での「地球連合宇宙艦隊(Earth Starfleet)」、松本 零士(SF漫画家)の太陽系連邦軍旧地球連邦宇宙防衛連合艦隊な ど)ではあり得ても、現実的システム化することは相当困難であ る。それとも、このような事態が現実化しつつあると認識すべきな のか。 しかし、フランスの航空券連帯税は、現実のものである。ただ し、この税も、基本的には、フランスの国税、取引高税(付加価 値税が代表)のうちの一つ、個別消費税としての民間航空税の割 増税額である。直接、UNITAIDが課税権を有するものではなく、UNITAID参加国が航空券連帯税という共通の税制を採用し、その
税収入額をUNITAIDに提供している。これは、通常の国際機関ヘ
日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) の国家支出と理解しうるが、特定加盟国が国際連帯し、特定の国際 的公益事業のため連帯した資金提供システムを採用することに意義 を見出すことができる。
なお、フランスでは、国や地方公共団体の付属機関等に課税権
を与えること、法令上では「の利益のために徴収されるpercu au profitde」税・課徴金が一定の制限の下でなされている(租税一般 法典1600粂∼1635ter条)。そのため、フランスでは、国際機関の 利益のために徴収する税を創設することは、法制度からも可能であ り、特段異例というものでもないと考える。EUの共通財源となっ ている付加価値観制度もあり、ヨーロッパでは、国際連帯税を受け 入れる基盤があったといえる。 先進国の一員である日本の市民は、金銭的経済的に裕福であり、 1日1ドルでの生活を強いられ十分な食料(3秒に1人が飢餓で死 んでいるとされる)、教育、医療など最低限度の人間的生活を営め ない人々が世界に未だいることを認識(最貧国の認識)し、その人 たちに関心をもって、国際連帯意識をもち、数ドルの寄付をするこ とはいとも容易いことであろう。それが、国際連帯税の本質である と理解している。 国際連帯税、グローバル・タックスの名を用いることは、基本的 に「国際連帯」のために徴収される税である必要がある。単に税収 不足を新税による増税で賄うために、国際連帯税が創設されることは許されない。少なくとも、国際連帯税は、数カ国による国際支援
ファシリティの資金調達として導入されるべきものである。 2 「税」か「料」か フランスは、航空券連帯税として「税」を創設した。しかし、こ れに同調した韓国では、「国際貧困対策協力金」とし、税ではない システムを採用し資金捻出した。日本の外務省は、「国際開発連帯 税」を要望している。 まず、「税」方式か、「料」方式でのODA資金の調達が想定さ −29−れる。従来のODA資金は、一般財源により拠出されていた。それ ゆう、普通税(所得税、法人税、消費税)の収入が充てられてい た。一般財源からのODA拠出は、普通税収入にてまかなわれるこ
とから、市民的理解も得られる。料の名称での徴収は、国際連帯税
(料)がODA財源のための課徴であることから、対価性がない支 出であるゆえに、基本的には税財政法的視点からは認められない。 使用料や手数料は、税財政法において特定人に対する行政サービス の対価として徴収される。それゆえ、外務省が要望しているように 「税」方式での財源確保が適正である。 しかし、韓国のような「協力金」という第三の手法もありうる。 料金、使用料という名目で資金調達をすることは、対価サービスもない課徴金となり、税財政法的問題を発生する。しかし、協力金と
いう名称で強制課徴されるのも、問題が残ると考える。強制課徴す るのであれば「税」の名称が用いられるべきである。 税としてODA等の資金財源を調達する場合、その税は、普通税 (一般会計財源税)ではなく、目的税(特定財源税)として創設さ れるものと考えられる。これは、税の本質(税は支出を特定しない というノンアフェクタション原則の適用)からみて例外である。そ の例外の根拠論が国際連帯税にあるのかが問われる。単純に税収を 安易に得られるものとして国際連帯税を提案することは、論外であ る。日本では、2009年4月22日成立、30日公布・施行された「道路 整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律等の一部を改正 する法律」(2009年法律28号)により、道路特定財源制度が廃止さ れ一般財源化されたばかりであり、新たな目的税の創設には課題が 多い。この種の特定財源税構想に市民の賛同が得られるか疑問であ る。しかしながら、これは、環境税問題と同様、先進国日本の市民と
して、国際的問題に対して知識・関心・行動力を伴って対応するか に関わるところである。日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) 3 消費課税の基本・国内消費課税と国際連帯税 外国への旅行代金でもある航空券は、消費課税の国内消費課税原
則に従い、消費税の課税対象とならない。したがって、これに消費
税としての国際連帯税を課税することには、基本的課題があるとい える。 この点に関して、金子氏は「国内旅行と国際旅行、国内出張と国 際出張に対する税制の中立性に反すると考えることも可能である」 とし、グローバル社会での課税のあり方として国際人道税である国 際空港運賃への消費課税を提言している(25)。 航空券を購入する際には、国内便については消費税の負担が伴う が、国際便については消費税の負担がないのが現状である。これを 負担公平論、中立論からみると、金子説のように主張されることも 理解できる。課税の本質は、課税権の行使作用である。課税権は、国の課税主
権に基づき慈法に定める統治組織に基づく課税権能の設定(日本は 中央政府と地方政府が課税権能を有する)、そして税立法権と税執 行権(税行政権と税裁判権に細分)として具体的な課税権の作用は、国内法に基づき実行される。結論的には、国際連帯を考慮し、
国の課税権行使として国際連帯税が創設されるものと理解する。フ ランスは、空港財源の拡充の一環として、また、ODA財源不足を 新規税目による増税によってシラク前大統領の政治力で押し切った といえるが、これもフランスの課税権の行使結果である。 4 国際連帯に対する租税回避、フリーライダー防止 国際連帯による国際支援ファシリティのための資金調達として課 徴される国際連帯税の導入は、環境税がそうであるように、租税回 避やフリーライダーの問題を抱える。通常、市民は新たな負担を回 避する傾向をもつものである。この租税回避は悪いとは言い切れな い。これは、人の自然的行動であると理解する。消費税増税があれ ば、買い物を一時であれ控えるのが一般的行動である。また、国際 −31−支援ファシリティに加盟する国すべてが、同一課税をすることが理 想であるが、それぞれの主権国家における国内事情もあり、行動が 不統一となることも予想される。それがいかに最良のものであって もである。たとえば、地球温暖化に対する京都議定書へのアメリカ 不参加のごとくである。フランス主導でのUNITAID加盟国すべて が航空券に対する国際連帯税を課していない状況にある(課税しな い国では別途資金調達している)。したがって、行動をした国に負 担が強いられ、行動しない国は、一種のフリーライダーとなる。国 際連帯税の導入は、全世界一斉または加盟国一斉に導入することが 望ましい。 これら租税回避やフリーライダーは、この種の負担を求める場合 には、ある意味仕方のないものである。これらをいかに防止するか が課題となる。その課題は、やはり市民の国際連帯意識により解消 されなければならない。 フランスは、世界一の観光立国である。経済への中立性を考える と、この新税は、観光業に従事する産業には痛手である。しかし、 飛行機のみが、フランスへのアクセスではなく、飛行機よりむしろ 鉄道(TGVなど)によりフランスヘアクセスする観光客が多い。 日本では、旅行者に課税すると、観光客数は減少するのではなかろ うか。この点が、日本において航空券に対する国際連帯税を導入す る場合の最大の懸念材料である。
結語
筆者は、かつて「グローバル福祉」(26)という語をもって、環境
時代における環境税の目的として地球市民の福祉実現を提言した ことがある。それゆえ、国際連帯税構想自体には賛同できるところ である。このようなグローバル福祉実現のためには、国内的な公平 税制ではなく、グローバルな公平税制が要請される。環境ODA、 福祉ODAを通じて、先進国は地球市民に福利をもたらす貢務があ日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) る。国内福祉の実現のための国内的富の再配分ばかりでなく、地球 的規模での富の再配分がグローバル福祉に求められる税財政構造で ある。先進国の市民は、グローバル福祉のための財源を供給すべき 要務を有する。このために、国内的な税負担公平を考慮しながら、 均一のグローバル福祉税(食糧・医療難民等の救済)を先進国市民 が負担することは、税負担公平原則に反するものではないと考え る。これは、先進国での大衆課税の拡大を推奨するものでもない。 先進国の市民は、1日1ドル以下の生活を強いられている同胞である 地球市民が多いことを、3秒に1人が飢餓で死んでいることを認識 し、先進国市民がその救済に力・経済的負担をすべきではないかと 考える。このような負担は、一時的なものでなく、継続的になされ るべきである。それゆう、寄付金募集より、税として設定し、その 資金調達を行うことが望ましい。 日本は、国際連帯税をはじめとする「革新的な資金創出メカニズ ム」のリーディンググループに最初からかかわり、議長国も務めて いる。21世紀における日本の世界貢献は、国連の理事国に選出され なくとも、先進国として、経済大国として、国連分担金上位負担国 として、続けていくべきであろう。日本経済も、その財政も非常に 厳しい状況にあるが、日本は、まだ十分に国際支援のドナー国とし て継続しうる能力をもっていると認識する。
ODA等の国際支援財源確保は、世界的に厳しい状況にある。ミ
レニアム開発目標も、2015年までに達成できるかも厳しいものと認 識する。しかし、地球市民の人口増加とともに、最貧国での食料、 教育、医療などの問題は深刻になりつつある。これらの国では、市 場メカニズムでの救済は不可能に近く、実質的支援を必要としてい る。一時的、暫定的であれ、国際連帯税がこれらの国やこれら問題 を抱える地球市民の救済のための資金源となるのであれば、日本は これを採用すべきであると考える。ただし、課題が多いことは確か である。しかしながら、それも、日本の納税者・市民が国際連帯意 識をもち国際連帯税を承認することで、解決される。 −33−最後に、日本における国際連帯税の導入が単なる税収増額のため
の増税である場合には、これに賛成するものではない。日本は、
UNITAIDのサポーターでもなく、その他の国際支援ファシ1)ティ を設立し、その資金調達として国際連帯税を提案しているものでも ない。この状況下での、日本の国際連帯税は、まったく国際連帯 性がなく、単なるODA資金調達のための新目的税の創設であり、 単なる増税でしかないと言える。これに市民的承諾を与えることはできない。また、かつてのような「ひも付き援助」であるよう
なODA資金調達のために国際連帯税が活用されてはならない。国 際連帯税は、グローバル福祉の実現のために有用であると信じてい る。21世紀の税制として国際連帯税は注目されている。日本政府、日本の市民は、国際連帯意識をもち、世界の状況を認識し、最貧国
などでの問題がほんの僅かな経済援助■負担によって解決しうるこ とを知り、そのための行動として、国際連帯税の導入に積極的に行動すべきであると提言する。国連が提唱するODAの対GNI(Gross
NationalIncome、国民総所得)比0.7%は、市民レベルでみると、 それぞれの所得の0.7%であり、所得500万円の市民のODA負担は35,000円である。これを高額負担と見ることはできないであろう。
先進国の市民が国際連帯意識をもって、0,7%負担をすることが期待 される。日本の国際連帯税導入への課題(伊藤) 注 1 E[本のODA実紬こついては、外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp) 内掲載の「主要DAC加盟国の政府開発援助実績の推移」を参照(トップベ pジ>ODA(政府開発援助)>ODAとは?>ODAって何?>ODAって何だろう >ODAの実績>主要DAC加盟国の政府開発援助実弟の推移)。 2Internationalsolidaritylevyが国際連帯税の英語表記とされ、taXを使用しな い。これは、国際会議などでも使用されている国際連帯税としてのフランス 語表記としてのpr61evementdesolidarit6international(国際連帯課徴金)と 一致する。国際連帯税のフランス語表記としては、本文において使用したtaxe internationalle de solidarit色となる。現実の航空券連帯税は、El本的表現とし ては「税」でなく「課徴金」に近いものといえる。フランス以外の導入国で も、税ではい国もある。 3 内閣府ホームページ(http://www.cao.go.jp)内税制調査会(トップページ >内閣府の政策>施策紹介・その他>税制調査会)の「税制改正要望」ページ 2010年度、2011年度および2012年度の外務省の改正要望事項を参照のこと。年 度を追って、具体的な要望となっていることに注目される。 4 内閣府ホームページ(前掲)内税制調査会の国際課税′ト委員会2010年9月6日と 同月21日に開催された第1回および第2回議題を参照(税制調査会トップペー ジ>会談資料>国際課税小委員会)。 5 内閣府ホームページ(前掲)内税制調査会の「」27頁参照(税制調査会トップ ページ>諮問、大網、報告等>2010年度>平成23年皮税制改正大網)。 6 匡l連ミレニアム宣言については、日本の外務省ホームページ(前掲)内に仮訳 が掲載されている(トップページ>会談・訪問>過去の記録>森総理大臣>国連 ミレニアム・サミット出席>ミレニアム宣言(仮訳))。 7 国連開発計画(UNDP)東京事務所ホームページ(http://www.undp,Orjp)内 の「ミレニアム開発目標(MDGs)とは」の記事参照(トップページ>UNDP について>MDGsとUNDP)。そこでは、ミレニアム開発目標(MDGs)と は、「2000年9月、ニューヨークの国連本部で開催された国連ミレニアム・サ ミットに参加した147の国家元首を含む189の国連加盟国代表が、21世紀の国 際社会の目標として、より安全で豊かな世界づくりへの協力を約束する「国 連ミレニアム宣言」を採択しました。この宣言と1990年代に開催された主要 な国際会議やサミットでの開発目標をまとめたものが『ミレニアム開発目標 (MillenniumDevelopmentGoals:MDGs)』です。MDGsは国際社会の支援を 必要とする課題に対して2015年までに達成するという期限付きの8つの目標、 21のターゲット、60の指標を掲げています。」と記述している。 8 国際連帯税のほかに、革新的資金メカニズム(IMF)として、イギリスが先行 的に2003年に国際金融ファシリティを設立している。また、1970年代にノーベ ル経済学賞を受賞しているジェームズ・トービン(JamesTobin、イエール大 学経済学部教授)が1972年に提唱した「トービン税」に類似する「通貨取引開 発税(CurrencyTransaction DevelopmentLevy)」もEUでの導入が検討さ −35−
れている。トービン税に関しては、デT)ユノ・ジュタン(BrunoJetin)(和 仁道郎訳)「トービン税入門j(2006年、社会評論社)を参考。革新的資金メ カニズムに関する研究としては、秋山孝允・大村玲子編著 r開発への新しい資 金の流れ」(2010年、FASiD:財団法人国際開発高等教育機関国際開発研究セ ンター、開発援助動向シリーズ6)を参照(同ホームページ内掲載のものを参 照http://www.fasid.or.jp/shuppan/hokokusho/enjo/06.html)。 9 グローバル・タックスという語は、様々な内容概念として使用されている。ラ ンドー・レポートにおいても、国際連帯税のほかにもいくつかの税が挙げられ ていた。日本での議論としては、上村雄彦rグローバル・タックスの可能性』 (2009年、ミネルヴァ書房)が代表的であり、長坂寿久「通貨取引税(トービ ン税)の動きとNGO∼発足した連帯税(航空券税)とUNITAID」季刊 r国際 貿易と投資」(2006年冬号、No.66)83頁以下、三木義一「グローバル化と税 制と納税者」世界2011年12月号200−207頁、金子文雄「金融取引税から国際連 帯税へ」世界2011年12月208−215頁、本稿注14で示す論考が有益である。 10 0DAの定義については、外務省ホームページ(前掲)内「ODAって何だろ う」の記事から引用した(トップページ>ODA(政府開発援助)>ODAとは ?>ODAって何?>ODAって何だろう)。 11ミレニアム開発目標は、①ゴール1:極度の貧困と飢餓の撲滅、②ゴール 2:初等教育の完全普及の達成、③ゴール3‥ジェンダー平等推進と女性の 地位向上、(初ゴール4:乳幼児死亡率の削減、⑤ゴール5:妊産婦の健康の 改善、(参ゴール6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止、 (ヨゴール7:環境の持続可能性確保、(秒ゴール8:開発のためのグローバル なパートナーシップの推進を挙げている。この詳細は、日本の外務省ホーム ページ内「MDGs一覧」参照(トップページ>ODA(政府開発援助)>ODA とは?>ODAって何?>重点的な政策>ミレニアム開発目標>MDGs一覧)。ま た、国連開発計画(UNDP)東京事務所ホームページ(前掲)内「ミレニア ム開発目標日本語パンフレット」3頁に掲載れている「ミレニアム開発目標
(Millennium Development Goals)」参照(トップページ>UNDPについて >MDGsとUNDP>ミレニアム開発E[標日本語パンフレット)。 12 国連は、ODAの対GNI比率0.7%を実現することで、世界的問題が解決するも のと計算している。国連は、ミレニアム開発目標の達成に向けた取組につき 2010年にまとめ、「ほとんどのドナーによる援助額は、国民総所得の0.7%とい う国連目標にはるかに及ばない。2009年にこの目標を達成または超過したのは デンマーク、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、スウェーデンのわず か5カ国である」と報告した(国際連合広報センター(UNIC)「匡l連ミレニ アム開発目標報告El本譜版2010」67頁、UNICホームページ内掲載http://unic. or.jp/pdf/MDG_Report_2010.pdf)。 13 本稿は、このレポートをフランスのオフィシャル資料検索サイト La documentation Francaise(http://www.1adocumentationfrancaise. fr/rapports/index.shtml)掲載のものを使用した(http://1esrapports. 1adocumentationfrancaise.fr/BRP/044000440/0000.pdf)。
日本の国際連帯税導入への課題(伊藤)
14 フランスの航空券連帯税については、日本の税制調査会専門家委月会国際 課税′ト委員会の第1回会議の参考資料として紹介されている金子宏氏の各
論稲(「国際航空運賃と消費税」(税研1998年9月号6頁)、「Proposalfor InternationalHumarLitarian Tax−AConsumption TaxonlnternationalAir
Travel」(Tax NotesInternational.Dec.14.1998,p.1911)、2006年8月3日日本 経済新聞朝刊25頁掲載「経済教室」記事)、第2回会議での財務省提出資料 (国際連帯税について)、上村横浜市立大准教授「日本発国際連帯税の実現に 向けて」他3点、山内一橋大教授「航空券連帯税について」、第5回会議の資 料などにおいて紹介されている。また、秋山孝允・大村玲子編著ー開発への 新しい資金の流れj(2010年、国際開発高等教育機構国際開発研究センター (FASID)、開発援助動向シリーズ6)の第3車「MDGs達成のための資金 調達と配分」(稲田十一、秋山スザンヌ、大村玲子、中山朋子の担当)67−72 頁などが、日本での紹介文献である。 エコノミークラスとファースト・ビジネスクラスの乗客により、負担額が異 なる。条文では、「danslalimite respectivement deleuroset de4euros. Ou.lorsquele passagerpeutb6n6ficier sans supplementde prix畠bord de Servicesauxquelsllensembledespassagersnepourraitaccedergratuitement. delOeuroset de40euros.(1ユーロ及び4ユーロ、また当該乗客が全乗客 が無償では受け入れることのできないサービスに搭乗対価の追加ではなくその 利益を享受するときには、10ユーロ及び40ユーロ、それぞれの限度内におい て)」と漫走しており、明確にファースト・ビジネスクラスとは規定せず、呼 称の問題ではなく、全席ファーストクラスという飛行機もあることから、キ ャビンや座席の快適さに応じて増額すると解する(InstructionfiscaleN0107 du27JUIN2006,BulletinO爪cieldesImp6ts3P−1」)6)。 15 税率表は、環境・持続可能な開発・運輸および住宅に関する省(Minist畠re de l’色cologie,duD6veloppementDurable,desTransportsetduLogement)の 通達(NoticeCerfan051173#5Taxedesolidarit6surlesbilletsd’avion)5 頁に掲載されていたものを一部修正したものである。DOM/TOMとは、フラ ンス本土(France m6tropolitaune)のほかのフランス領土で、海外県・海外 領土(territoiresetcouectivit畠sd’outre−merfrancais:)を意味する。海外県 としては、グアドループ、マルティニク、ギアナ、レユニオンおよぴサンーピ エール・エ・ミクロンの5県があり、海外領土としては、仏領ポリネシア(タ ヒチを中心とする群島)、ニューカレドニアなどがある(詳細、滝沢正「フラ ンス法 第3版」(2008年、三省堂)168−169頁)。欧州経済圏国としては、 アイスランド、リヒテンシュタインおよぴノルウェーが該当する。 16 UNITAIDに関しては、上村葦彦・前掲香第iO章「rミドル・ガヴァナンスJ の展開一航空券連帯税とUNITAIDを事例に−」275−314貢が詳しい。 17 UNITAIDホームページ(http://www.unitajd.eu/fr/)内>PARTENAIRES> Donateurs.他の資科(http://fr.wikipedia.org)では、25カ国が航空券連帯税を 採用しているとする(未確認)。 18 ラジオ・フランス・インターナショナル(沌)ホームページ内の掲哉記事 −37一
(http://www.rfi.fr/francais/actu/articles/092/article_55734.asp)(OLes recettesdela・taXeChirac>reVueSÅlabaisse{parMyriam Berber.Article publiele27/08/2007Derni畠remiseえjourle27/08/2007Å17:02TU)。税制 調査会専門部会国際課戟小委月会第2回および第5回での財務省資料では、こ の税収を2008年皮、1.73倍ユーロ(約199億円)と報告している。 19 内閣府ホpムページ(http://www.cao.go.jp)>内閣府の政策>税制調査会>税 制改正要望2012年度>外務省改正要望事項(PDF形式)を参照した。 20 この金子宏論稿は、名称提示がないが、国際人道税の提言論稿であり、1998年 当時のものであり、国際連帯税の初期提言したものとして注目される。金子氏 が国際連帯税の「生みの親」とするネット記事もあるが、未確認である。 21設立時は、津島雄二(元自民党衆議院議員・厚生労働大臣・自民党税調)が代 表となっていた。現在は、林芳正自民党政調会長代理が代表となっている。 22 環境省ホームページ(http://www.env.go.jp)>審議会・委員会等>その他の委 員会等>研究会等>地球環境税等研究会>平成20年度地球環境税等研究会報告 書。 23 2010年9月21日開催の政府税調の第2回国際課税小委員会の資料として出されて いる。また、国際連帯栽を推進する市民の会ホームページ(httpノ/www.acjst. jp/)>国際連帯税とは>国際連帯税に関する資料>国際連帯税推進協議会が最 終報告番を完成させる>国際連帯税推進協議会最終報告昏。 24 金子氏の国際人道税論も、国際機閑への転送という手続を想定している(前 掲・日経新聞記事)。また、上村雄彦・前掲昏 Fグローバル・タックスの可能 性j 第11車での「ハード・ガバナンス」諸構想は、世界租税機関などの諸説を 検討している。 25 金子宏「国際航空運賃と消費税」税研1998年9月号6頁。 26 佐藤進・他F現代社会保障・福祉′ト事典j(法律文化社、2007年)193頁、項 目「環境税と社会保障」(筆者分担)参照。