Title
地域教材の収集とそのデジタル化を基盤とした社会科「伝
統工業」の単元開発 : 美濃和紙・美濃焼の複合的教材化と
授業実践( 本文(Fulltext) )
Author(s)
後藤, 信幸; 益子, 典文; 村瀬, 康一郎; 加藤, 直樹; 興戸, 律子
Citation
[岐阜大学カリキュラム開発研究] vol.[23] no.[2] p.[71]-[80]
Issue Date
2006-03
Rights
Version
岐阜県大垣市立赤坂中学校 / 岐阜大学総合情報メディアセ
ンター
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/23382
地域教材の収集とそのデジタル化を基盤とした社会科「伝統工業」の単元開発
-美濃和紙・美濃焼の複合的教材化と授業実践-
後藤信幸
*1・益子典文
*2・村瀬康一郎
*2・加藤直樹
*2・興戸律子
*2 小学校社会科「伝統工業」の単元では,県レベルの地域の伝統工業の素材をもとに,地域の特徴を知ると ともに,地域を誇りに思う心を育てることが目標となっている.地域の社会科副読本などもこの目標に沿っ て開発されてきているが,より充実した授業を展開するためには資料が不足しており,近隣の様々な資料を 収集して地域教材を開発することができる単元でもある.本研究では,小学校 4 年生の社会科「伝統工業」の 素材として,岐阜県の伝統工業である美濃和紙,美濃焼を取り上げ,教師自身が取材活動を通じてデジタル コンテンツの開発を行い,さらに「複合的教材化」と命名した教材化を行った.複合的教材化とは,特定の 話題のみならず,複数の地域素材を複合的に扱うことにより,一つのテーマへと集約する単元レベルの学習 を展開する教材開発方法である.この手法により開発したデジタルコンテンツを用いた授業実践を行い,単 元目標達成への効果を検証した. 〈キーワード〉 複合的教材化,学習の具体化,単元開発,デジタルコンテンツ I. はじめに 前回の学習指導要領の改訂により,これまで,小学校 5 年生・社会の国土の学習に位置づけられていた「伝統工 業」が,4 年生の県の学習へ移行統合された.つまり,旧 学習指導要領においては,日本の工業生産の特色を考え るために存在した伝統工業であったが,現在の学習指導 要領の下では,社会科において岐阜県の特色を考えるた めの教材として 4 年生の県の学習に位置付いているので ある. 通常,教科書に掲載される素材は限られたものであり, 例えば筆者の勤務する地域で利用している小学校社会科 教科書(東京書籍)の当該単元では,宮城県の「雄勝す ずり」を取り上げている.そのため,教科書をそのまま 岐阜県の伝統工業の学習に適用することは困難であり, 日本の各地域ではさまざまな副読本を開発している.岐 阜県でも「あたらしい岐阜県のくらし」が開発されており, 活用することができるが,この副読本は,県内の各種素 材を網羅的に掲載しているため,「岐阜県を誇りに思う 心」を育てるためには一つの伝統工業を深く掘り下げる 必要があり,その観点からは単元についての資料の絶対 量が不足していると言わざるを得ない.不足部分は,授 業を行う教師や,岐阜県の社会科を専門とする教師の教 材研究にゆだねられている部分であると考えることがで きるだろう. 小学校 4 年生の社会科に必要になってくるのは,学習 の具体化であろう.社会の学習の中に,具体的製品,具 体的人物,具体的地域を登場させることにより,学習を 深めることができるのではないだろうか.つまり,具体 的な伝統工業の話題を厳選し,それらの話題を具体的に イメージできるレベルにまで教師が教材研究を行うこと で,単元全体のねらいに迫ることができるのではないか と考えている.小学校 4 年生の子どもにとって,具体的 な学習を進めることが,教材に対して共感を得ることに なり,それが取り上げた地域を実感的に捉える要因とな ると考えるからである.そのためも,岐阜県の伝統工業 を自分の手で新たに単元開発することから研究を始めた のである. また,益子は,デジタルコンテンツのメディア特性と して次の 4 点を明記している(益子,2003). (1)即理解性 (2)データ即時性 (3)即加工性 (4)蓄積性 このようなメディアの特性を生かし,教師自身が地域へ 足を運び,地域を多様な観点から取材する活動を通して, *1 岐阜県大垣市立赤坂中学校 *2 岐阜大学総合情報メディアセンター 岐阜大学カリキュラム開発研究 2006.3,Vol.23,No.2,71-80新たな知見を得る.さらに新たに得た知見をデジタル化 した素材を収集・加工することで,よりよい単元目標達 成のための授業を創造できると考えられる. そこで本研究では,社会の学習を具体化させるために 必要な地域素材の掘り起こしと地域素材の特性に適合す る単元開発,そして,それらをデジタル化することでデ ジタルコンテンツの活用モデルを開発する.これらは, 教師自身の取材活動を通じて行われる活動である.さら に,開発したデジタルコンテンツを用いて,小学校社会 科授業での効果の検証をねらいとするものである. II. 地域教材の収集と単元開発 1. 地域教材収集の目的 小学校学習指導要領解説「社会編」によれば,本単元の 目標は,「自分たちの住んでいる県に対する誇りと愛情を もつようにすることが大切」と明記されている.本単元の 学習を,岐阜県に対する誇りと愛情を持たせるような学 習に深化させていくためには,具体的に学習を進めるこ と以外に方法はないと考えている.そのためには,教師 自身が地域を知り,その知見を持って地域教材を開発す ることが重要である.教科書に掲載されている素材や内 容から学習を展開することと比較すると,教師自身が足 を運んで地域素材を知ることにより,授業の教材ばかり でなく,教室での学習者とのやりとりや,このことから 本研究では,具体性のある教材化を目標にし,子どもに とって実感的な教材開発を積極的に進めたのである. また,岐阜県の伝統工業は,地道に伝統を守り続けて いる手工業が数多く存在し,全国的にも有名なものもあ り,生きた教材として大変魅力的な素材が多い.その中 でも,東濃地方の「美濃焼」は,その生産量が 50%以上を 占める日本一の陶磁器産業であり,芸術性の高い桃山古 陶の再生は伝統的手法で多くが作られている.その教材 化に不可欠な具体的人物の発掘と伝統工業の営みを取材 することを第 1 の目的とした. 2. 地域教材収集の方法 素材収集の方法として,まず,インターネットでの情 報収集を行った.ネットには,公式サイトから美濃焼の 販売店・工房まで,数多くのサイトが掲載されており, とても参考になった. 次に図書館の本をレンタルし,総計,数万円の本も購 入して読みあさった.しかし,そのうちそれだけでは満 足できず,桃山古陶と呼ばれる本物の美濃焼を鑑賞した くなり「岐阜県陶磁資料館」へおもむき,実際の美濃焼に ふれたのである.その場所で偶然,出会ったのが河合氏 (伝統工芸士)であった. 3. 地域教材収集の結果 (1) 複合的教材化に至る経緯 河合氏は,織部焼の専門家で桃山古陶の淡い緑色を出 す釉薬の研究に長年取り組んできた.また,芸術性の高 いオリジナルの織部にこだわり,茶器,花器,オブジェ など創り出し,個展を開いたり,数多くの展覧会で入選 を果したりし,名実とも美濃焼を代表する伝統工芸士で ある.ネットや図書で見た美濃焼とは違う生の素材に接 することで教材化への意欲が湧出してきたのは明白であ る.ところが,教材を研究するうちに,美濃焼の伝統が いったん途切れ,昭和に入ってから桃山古陶の復活・再 生を行ってきていることが分かってきた. ここで私は,本当にこれは伝統と言えるのかという疑 念を抱き始めた.なぜなら,伝統工業には,「古くから伝 え続けられてきた原材料や技術を生かして」という概念 があり,美濃焼に関しては,脈々と伝承されてきた訳で はないのではないかと考えたためである.しかし,後に なって冷静に考えれば,これは浅はかだったとしか言え ない.伝統の製法と技術が伝わっているから,桃山古陶 を復活させ,継承しようという動きが現在でも存在する のだから.そのような理由で,私は,何と美濃和紙の取 材を決心してしまったのである. 美濃和紙には,機械化された現代においても,古くか ら脈々と伝わる伝統的製法で手漉きを行い,生計を立て ている職人が十数名,存在する.本研究の教材化の対象 として選んだ澤村さんも美濃和紙(本美濃紙)の製造工 程は,一部(撹拌にビータを用いる)以外は,ほとんど が歴史的に,その伝統的手法の形を変えず,国の重要無 形文化財に指定されている伝統工業である.脈々と伝わ ってきた伝統の技術が力強く根付いているのである.2 つの伝統工業を取材していくうちに一見,タイプの違う 両者が多くの共通点で結びついていることが見えてきた.
それは,以下の通りである. ◇両者の共通点 1 自然条件(原材料)立地条件の恵み 2 歴史条件(時の権力者からの保護) 3 大市場での売買(流通経路の確立) 4 技術の伝達・伝承 5 その時代のニーズ(要求)への応答 6 現代の大量生産化(機械化・効率化) →伝統的な物への希少価値 7 地域での産業の支え 8 新しい分野・手法の開発,発展 両者の共通点を基に,伝統工業の単元構成を構造的に まとめたのが図 1 である.この構成要因は,両者に限ら ず,どの伝統工業にも合致する分析的手法だと考えてい る.この分析を基盤にして,単元計画を立案することが できることが分かってきた. 両者の共通点を伝統工業の構成要因として設計し,同 時に伝統工業とは,上記のような共通点で結ばれている ことを理解させることで,子どもに伝統工業の特色をよ り深く考えさせることができると考えた.そのため,本 研究では,両者を複合的に並列で学習する図 2 のような 単元指導計画を設計した. (2) 単元開発の手法 今回,両者への取材は合計 20 回を超えた.この取材か ら単元構想を練るプロセスにおいてその手法について提 案したい. 私は,プライオリティを取材においた単元開発の手法 をとった.つまり,取材を何度も重ね,デジタルカメラ・ ビデオカメラを片手に撮れるものは何でも撮影し,その 結果収集できた素材を並べて単元設計したのである.取 材する中で具体的人物(両氏)と親しくなり,両氏の好 意に甘える格好で取材を繰り返してきた.しかし,その 手法では,相手方に多大な負担をかけてしまう.また, 教育現場にいながら単元開発をすることを考えると時間 的ゆとりがないため現実的に不可能な手法であると言わ ざるを得ない. また,撮影したデジタル素材は,静止画にしろ動画に しろ大変便利である.撮影した素材の確認・修正・編集・ 提示方法の多様性など加工の自由度が高い上,アナログ とは違い,劣化しないよさがある.しかし,どのような 素材でもデジタル化すればそれでよいというわけではな い.便利だからよい教材作りができるのではなく,その 便利さを生かしながら,単元開発の手法の本質について 考える必要があるということである.その本質は,昔の アナログ時代でも現代のデジタル化時代においても変わ ることのない本質である.それは,プライオリティが取 材ではなく,事前の単元設計にあるということである. 単元目標をはじめ,授業のねらい,学習展開等,単元 開発の構想デザインを明確にするからこそデジタル素材 の収集は,極めて有効にはたらくのである.何のために, 何を撮るのか,また,授業で何を考えさせたいからなの か等,取材の前に綿密に計画することがあるということ である. また,人から与えられた物を教材として子どもに教え ることほど,勇気がいることはない.よい教材があるか 図 1 伝統工業の単元構成要因 図 2 複合的単元構想図
ら使えるわけではない.やはり,教師自身が手を加えた り,教師自身が足を運んで取材をしたりするからこそ, その教材が初めて使える物,よい教材になるのである. 教材を開発する行為自体が,その教師の教材への願いや 思いを生み出す.教材開発のプロセスにおいては,取材 を繰り返すことで「子どもに~を考えてほしい」とか「子 どもに~を理解してほしい」などの教師の願いが確かな 物になり,「素材」を「使える教材」に変容させていくの である. 本研究では,図 3 のように具体的人物を取材すること を通して単元設計を行う.この過程では,取材の後に単 元構想を練り直し,また取材する,というプロセスを経 て学習を具体化する.これにより,教材に具体性,実感 性,共感性が育まれるのである.その過程の中で,苦労 して得た具体的人物の願い,営み,生き方は,教材の命 となり,子どもに語る時の真実性や説得力となっていく のである.具体的人物が作り出す製品,具体的人物が住 む地域というように具体的人物を媒介にすることによっ て,教材に一貫性が出る.このことは,単元を通して学 習する際に,重要なファクターとなる. (3) 教材の具体化 教材開発のプロセスを経る最大のメリットは,「教材を 具体化」できることであろう.教材の具体化とは次のよ うに考えることができる. ①具体的人物からしか学ぶことができない願い・営 み・生き方を掘り起こすこと. ②具体的人物を中心に具体的製品や地域を教材化す ることができ,一貫性のある単元構成を可能にする こと. ③具体的人物と取材の繰り返しによる単元再設計や それに伴ったデジタルコンテンツの再設計により 教材を深化させること. ④授業の展開やデジタルコンテンツの提示等に対 して教師の意図やねらいが明確になること. III. デジタルコンテンツの設計と意図的配置 1. デジタルコンテンツの設計 (1)美濃和紙の製造工程の学習 美濃和紙の製造工程を考える授業では,図 4 のように, 「並べ替え教材」を Macromedia 社の Flash を使って作成 した.子どもがドラッグ&ドロップで上段の枠に写真を 自由に配置し,並べ替えることができる.上段の枠から 下のスペースへ写真を戻すこと等も可能にしており,自 由に写真を動かせるように配慮している.これらは,ク イズ形式で子どもの追究意欲を高めたり,1 つのディス プレイで 6 枚の写真を見比べることにより工程の意味や 工程間のつながりを考えることをねらいとしている. 子どもにとって美濃和紙の製造工程は,順序性が分か りにくいため,ヒントとして補助資料を位置づける. ヒント 1:入り口と出口の写真を提示する. ヒント 2:写真だけでは分かりにくいAとCの動画を準 備する. これは,提示される情報の不完全さの軽減を図ること で学習意欲を高め,欠落部分の補充を行うことでその工 程の意味を考えやすくするためである. 図 3 伝統工業の教材開発のプロセス 図 4 美濃和紙の並べ替え教材の画面
次に,本時のねらいである美濃和紙の技術に迫る過程 では,Cの紙漉きを一斉にみるための動画を作成した. 脈々と伝わってきた技術を考えるコンテンツとして紙漉 きの工程だけを取り上げるのには,理由がある.他の工 程が忍耐強く行う仕事であるのに対し,紙漉きの工程は かなりの技術が必要とされるからである. 紙漉きに技術が必要であることを伝え,どんな所にど んな技術が必要なのかという視聴の視点を与えて動画を 視聴することで技術についてより深く考えることができ るものと思われる. (2)美濃焼の製造工程の学習 美濃焼の製造工程でも図 5 のように,美濃和紙と同様 に製造工程を「並べ替え教材」として Flash で作成した. 美濃和紙との相違点は,順序性の分かりやすさであろう. そこで,この工程から意図的に素焼きの写真を抜いてお き,後に素焼きの写真がどこに入るか発問する.素焼き の工程がなければ皿が固まらず,次の絵付けの工程には 進めないことを考えるための手法である.これは,順序 性の分かりやすいコンテンツに対して,あえて不完全な 情報を提示することで順序構造を複雑化しそのことによ り工程間のつながりを再び考えようとするのがねらいで ある. 次に,本時のねらいである美濃焼の伝統の技術に迫る 場面である.ここでも美濃和紙との相違点が挙げられる. 美濃和紙とは違って,美濃焼は工程のほとんどに技術が 必要とされるという点である.そこで,美濃焼について は,図 6 のように動画クリップをホームページビルダー で作成した. このコンテンツ では,子どもが自 分で技術が必要だ と思ったクリップ を視聴する.繰り 返し視聴したり,部 分 的 なシ ー ンを 視 聴 し たり す る学 習 活 動 の中 で 技術 の 必要性やすごさに気づけるのがこのコンテンツのよさで ある. また,この工程で制作した皿は,単元の導入で実物(具 体的製品)として子どもに提示するものである.目の前 にある皿が実際に作られていく様子を視聴することは, 子どもにとってリアリティがあり,このことが社会科の 授業の具体化であり,単元のねらいに迫る要因となり得 るであろうと考える.いわば,コンテンツは教材間のつ ながりを持たせるための道具と捉えることもできる. (3)美濃焼の伝統を守る姿に迫る授業 この授業では,日本一の陶磁器生産量の主体である機 械工場と河合さんの手作りの美濃焼を対比することを導 入に位置づけた. はじめに,機械工場(山津製陶)の静止画を見せ,何 をしている場面かを考えさせる.静止画を見せる理由は, 次の通りである. 1 不完全な情報を提示し興味関心をひく 2 作業工程に子どもの視点を集中させる 図7 実物の写真 図 5 美濃焼の並べ替え教材の画面 図 6 美濃焼の動画クリップの画面
動画の視聴の視点として,「河合さんの手作りとどこが 違うのだろう」を与える. 機械工場の成形工程の要素は次のようである. 1 全て機械が作り,人は監視をしている 2 コンベア上で次々に成形を行っている (大量生産,速さ,確実さ) 動画から得た情報と生産数・値段の違いの資料を結び つけて,課題「機械で作れば,速く,確実に作れるのに, 河合さんはなぜ手作りにこだわっているのだろう?」の 設定を行い,子どもの追究意欲を高めることができると 考えた. IV. 授業実践による検証 1. 評価の方法 評価の方法として大きく以下の 2 つを考えた. (1) 評価方法1(単元前後のアンケート) 単元前後に同じ内容でアンケートを作成した.このア ンケートでは,社会科の授業そのものへの好感度,単元 のねらいに関わる内容項目を厳選して作成した.いずれ も単元導入前と単元終了時にアンケートをとり,その変 容を捉えるための内容項目にしている. (2) 評価方法2(ワークシートに評価項目を挿入) 授業の中で意図的に配置したコンテンツの効果を確か めるための評価項目をワークシートの中に盛り込んだ. 授業が途中で中断することなく子どもの情意面,認知面 を捉えるため,簡単な質問項目を必要最低限入れ,4 件 方で子どもたちにアンケートをとった. 2. 授業評価の結果 (1) 動画コンテンツの効果 A 課題設定の場面 美濃焼の伝統を守る姿の授業における課題設定では, 機械工場の機械成形の動画を視聴した. 設定した課題に対する課題追究の意欲を見ると,表 1 のように 25 人中 24 人が知りたいとし,内,とても知り たいという子どもが 16 人という結果になった. 表 1 課題解決の意欲の割合 このことから,子どもが機械化の有利点を動画によっ てより実感的に捉えることができたことが指摘できる. また,製造工程に着目した視点を持って動画を視聴した ことも有利に働いたと言えよう.「機械がこんなにすごい のに,河合さんは…」という機械のすごさ(速さ,正確さ) は,動画だからこそ十分に表現できるのである.課題設 定において動画を意図的に配置することで課題への追究 意欲が高まったことが言える. B 課題追究の場面 『2 時間目 美濃和紙の伝統製法』 表 2 は,授業後段の伝統的製法の技術に迫る場面での 動画(紙漉き)を視聴した時のデータである.「見たい」 のうちの「とても見たい」とした子どもは 26 人全員であ る. 図 7 機械工場の成形過程の動画 図 8 動画視聴後に提示した比較表
授業前段での工程写真の並べ替え学習では,つかめな かった紙漉きの工法を知りたいと思っていた子どもが多 かったと言える.また,伝統の技術の様子が伝わりにく い美濃和紙の中で唯一技術の高さが分かる工程だけに, 技術を見つけたいという子どもの意欲が高まったと言え る. 表 2 美濃和紙の動画視聴の情意面・認知面 認知面では,紙漉きに技術が必要だとした子どもが全 員,理解度が 26 人中 21 人がA判定であった.技術を見 つけることを視聴の視点としたために,子どもたちが技 術を見つけようと動画を集中して視聴することができた ということも指摘できる.また,技術を見つけるという 限定された観点で,技術に絞った動画を見せることは, 学習の上で極めて有効に働くと言えよう.これは,美濃 焼の製造工程でも同様の結果となった.美濃焼は,技術 的要素が多いため 6 つの動画クリップを視聴したが,情 意面,認知面ともによい結果となった. また,動画の提示の在り方についても述べておきたい. 美濃和紙は,全員で視聴し,美濃焼はパソコン上で子ど もが各自で視聴した.子どもにどちらがよいかアンケー トをとった.結果は,「両方ともいい」が 1 人,「美濃和紙 がよかった」が 3 人,「美濃焼がよかった」が 22 人となっ た.美濃焼を選択した子どもの理由のほとんどが「好きな 所から見れるから」「何度も見れるから」を主な理由に挙 げ,コンテンツのハード面の便利さをよいとした結果に なった.自分で視聴することで納得いくまで視聴を繰り 返したり,必要な場面を選んで視聴したりすることで, 学習の活性化が生まれたことが指摘できる. C 課題追究の検証場面 表 3 伝統を守る(認知面)の理解度・共感度のクロス集計 表 3 は,第 5,6 時間目の伝統を守る姿に迫る授業の検 証資料コンテンツの活用結果である.子どものワークシ ートへの記述を掘り起こし,理解度,共感度を表 4 のよ うな観点で分析した結果である. このコンテンツでは,美濃和紙は,文章(スクリーン) で提示し,美濃焼は河合さんの語り(動画)で提示した. どちらも,情意面では,動画を見たいとした子どもが 90%をこえる結果となったが,認知面では,表 3 のよう にこちらが期待した結果を下回った部分があった. それは,美濃和紙に比べて,美濃焼は,理解度・共感 度ともに低い結果がでた点である.これについて以下の ような考察ができる. 1 文章提示と動画提示では,前者の方が言葉が記述と して後に残り,記述を足場にワークシートへ自分の 考えを書くことができる. 2 仮に河合さんが授業に来て子どもの前で自分の思 いを語るのと動画で河合さんが語るのとでは,本人 が語るという点では,同じことのように思える.確 かに,どちらも本人の口から話を聞くことは,子ど もの興味をひく.子どもの感想にも「ビデオで河合 さんから話が聞けてよかった」という感想も多かっ たのは事実である. 表 4 観点別(認知面)の集計結果
しかし,両者は,実は根本的に違う.前者は,そ の場で子どもが分からなかったことを聞けたり,子 どもの反応を見ながら河合さんが語ることができた りといった双方向性のやりとりが可能な点が挙げら れる.つまり,仮に河合さんが来てくれるとしたら, 双方向性を重視した授業過程を設計しなくてはなら ない.後者の河合さんの動画は,そういった意味で も,提示のねらいが明らかに違うと考える.それは, 動画であっても見せる映像自体が社会科の資料なの だという認識を持つ必要があるということである. 動画は,視聴した物自体が事実である特性をもつ社 会科資料なのであって,安易に本人さえ登場すれば いいというものでないということである.もっと言 えば,この授業のこの場面でねらったことが,河合 さんの「創造性」と「挑戦」であるなら,それが分 かる映像を製作しなくてはならなかったと言える. 河合さんが座ったまま語る動画は,この場面での社 会科の資料として提示する意味があまりなかったの ではないかと考えている. これらのことから,動画を使って子どもたちに考え させる学習活動を仕組む際には,動画でなければならな い場面,或いは動画であればより有効にその場面の学習 活動を活性化させる場面での活用を意識する必要がある ことが言える.いずれにしても,本人の口から思いを語 ってもらうことは,情意面において子どもの学習意欲を 高めたのは明らかである.今後は,どの場面で語っても らうと有効なのか考えていきたい. (2) 単元設計とコンテンツの活用 図 9 のように,単元終了後に授業で活用した全てのコ ンテンツを提示し,どの授業のどの場面が心に残ったの かについてアンケートを行った. その結果は表 5 の通りである. 子どもが「心に残った」とした授業は,美濃和紙,美濃焼 ともに製造工程の学習である.26 人中 13 人が並べ替え 教材を支持し,その理由として「自分で並べ替えることが できた」「作り方を考えるのが楽しかった」「クイズみたい でよかった」等のコンテンツのハード面のよさを挙げて いる子や「知りたかった作り方が分かってよかった」等の 単元構想の流れに沿った感想を述べている子どももいた. これらのことから,実物に触れ,製造工程に至るまでの 単元計画の流れは子どもの思考に沿った自然なものであ ることが言える. また,コンテンツは教師が一斉型に提示する方法ばか りではなく,子ども自身が主体となって学習できるもの が有効に働くことが分かった. V. 終わりに 1. 研究の成果 単元の終了後にアンケートを 2 つとった.その結果は, 表 6・表 7 のグラフの通りである.社会の勉強が「好き だ」の割合が約 74%→約 96%へ増加し,その中でも「と ても好きだ」とした子どもが 3 人→15 人へ激増した. また,単元のねらいに関わって,「岐阜県には,自慢で きるものがあるか」の問いにいたっては,「そう思う」の 図 9 全コンテンツ掲載のアンケート 表 5 コンテンツ別アンケート集計結果
割合が,48%→88%と高い増加率を示した.中でも「と ても自慢に思う」とした子どもが 0 人→15 人へと大きく 変容し,単元を通して「岐阜県への愛着や誇り」をもつ ような学習指導が展開できたと言える. このような結果になった理由は次のように考察できる. ①両者を複合的に教材化するプロセスにおいて,伝統 工業の共通点を基盤にした単元構想を練り上げるこ とができ,両者を比較しながら学習が展開できたこ とが子どもの学習意欲を高めた. ②教師によって人物を媒介にして取材で掘り起こした 具体性のある教材が,子どもの共感的理解を得るこ とができた. ③デジタル化を基盤にして,教材の特性に応じたコン テンツを設計したことが子どもの学習意欲を高め, そのことが学習への理解度を高めた. ④教師が何度も足を運ぶこと自体が,教師の教材観を 錬磨し,優れた教材作りにつながった.また,その ことが,子どもへの説得力となり,授業を成立させ る大きな要因となった. 2. 研究の課題 授業時間が計画より過多になってしまった.その理 由を以下のように考察した. ①授業を実際に行うと,想定外に時間がかかる場面が ある.美濃焼の動画クリップを視聴する等の子ども のペースで行う追究場面の学習過程の設計の工夫が 必要である. ②厳選したつもりで授業に臨んでも,子どもにとって 資料が過多になってしまった傾向にある.同じ要素 を含んだ資料のさらなる厳選が必要である. また,効率的・計画的な単元開発の手法を今後も考察 していく必要がある.Do→See→Plan の単元開発の手法 ではなく,Plan→Do→See の単元開発の手法を心がけた い.どのようなコンテンツが必要かは,全体像を明らか にすることで見えてくるからである.この全体像を描く 力を教師は磨く必要があるということである.そのこと で教材は,より「使える」ものへと変容していくにちが いない. 引用・参考文献 1)益子典文(2003):「デジタルコンテンツを活用した【わ かる授業】【考える授業】の設計」 http://www.edu-c.pref.kumamoto.jp/ws/e-class/s ekkei.htm 2)文部科学省(1999):「小学校学習指導要領解説―総則 編」 3)文部科学省(1999):「小学校学習指導要領解説―社会 科編―」 4)羽豆成二(1997):「子どもの生きる力が育つ社会科の 授業改造」文教書院 5)北俊夫(2004):「新学習指導要領を生かした社会科の 授業―中学年―」小学館 6)安野功(2005):「社会科授業が対話型になっています か」明治図書出版 7)安野功・柳下則久(2005):「図解 社会科授業」東洋 館出版社 8)岐阜県小学校社会科研究会(2000):「あたらしい岐阜 県のくらし」文渓堂 岐阜県には自慢できるものがある 7人 1人 7人 2人 13人 8人 15人 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 単元終了後 単元導入前 1 ぜんぜんそう思わない 2 あまりそう思わない 3 まあまあそう思う 4 とてもそう思う 社会の勉強が好きだ 7人 1人 14人 8人 3人 17人 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 単元終了後 単元導入前 1 ぜんぜんそう思わない 2 あまりそう思わない 3 まあまあそう思う 4 とてもそう思う 表 6 単元終了後のアンケート結果① 表 7 単元終了後のアンケート結果②
9)美濃市教育委員会(2002):「わたしたちの美濃市」美 濃市教育委員会 10)多治見市教育研究所(2005):「わたしたちの多治見 市」多治見市教育委員会 11)土岐市教育研究所(2004):「わたしたちの土岐市」 土岐市教育委員会 12)久米康生(1994):「美濃市の伝統」美濃市役所 13)実方浩信(2005):「日本人の特権 やきものと茶の 湯」朱鳥社 14)佐々木秀憲(2003):「すぐわかる やきものの見わ け方」東京美術 15)中島誠之助・中島由美(2003):「やきものを楽しむ ―美濃焼―」小学館 16)全国手すき和紙連合会(1996):「和紙の手帖Ⅱ」わ がみ堂 17)河合竹彦(清山窯) http://www1.odn.ne.jp/~seizan/index2.htm 18)岐阜県陶磁資料館 http://www.minoyaki.com/siryoukan/ 19)土岐市美濃焼伝統産業会館 http://www.minoyaki.gr.jp/minoyaki2/densan/ densan.htm 20)美濃和紙の里会館 http://www.city.mino.gifu.jp/minogami/ 21)障子紙 澤村正さんに聞く http://www.press.tokai.ac.jp/webtokai/Atenar uMono-04_indd.pdf