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(シンポジウム 注目すべき感染症とその対策)輸血にともなう感染症

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(1)

シンポジウム

〔書略慈65第三、溜言〕

はじめに

注目される感染症とその対策

輸血にともなう感染症

東京女子医科大学 シ      ミズ

清  水

輸血部  マサル

 勝

(受付平成4年2月17日) 表1血液を介して感染する病原体の種類  近年輸血療法は急速に安全に実施できるように なってきた.しかし,それは一定の手順を踏むこ とによって保障されているということを忘れるべ ぎではない.  輸血療法の歴史は長いが,それが安全に行える ようになるためには免疫反応への対応,抗凝固保 存剤の開発および病原体対策が効果的に行われな ければならなかった.しかしながら,血液型を中 心とした免疫反応の大方は克服されたものの,最 近では輸血による移植片対宿主病(graft versus host disease, GVHD)や免疫抑制反応,保存期間 延長に伴う細菌汚染などが新たな問題となってき た.さらに,外国との往来が頻繁になってきたこ とから,わが国においては既に過去のものとなっ た感染症(例えばマラリア)あるいは全く問題と ならなかった感染症(シャーガス病,バベジオー シス)なども,問題となりうることを念頭におい て置く必要があると思われる.  本稿では輸血との関係で従来より問題とされて きた感染症ないしは近年問題視されるようになっ てきたウイルス感染症を中心として,院内感染予 防を含めて総括的に述べることとする.  1.輸血に伴う感染症の種類  血液を介して感染する病原体としては,表1に 示すようなものが問題となりうるとされている.. しかし,わが国の現状としては主にHBV, HCV, HTLV−1, HIV・1, CMVなどによる感染であり, 1.ウイルス  肝炎ウイルス(HBV承, HDV, HCVつ  成人T細胞白血病ウイルス+          (HTLV−1*, HTLV−II, HTLV−V)  ヒト免疫不全ウイルス(HIV−P, HIV−2)  サイトメガロウイルス(CMV*)  Epstein・Barrウイルス (EBV)  パルボウイルス(Parvovirus B19)  (プリオン(Creutzfeldt−Jacob病)2) 2.スピロヘータ  梅毒トレポネーマ(7=加〃4π彫) 3.原虫  マラリア     (P.毎鷹,P.脚‘α磁θ,P.卿」⑳α剛〃ちP.oθ碗)  トキソプラズマ(7=gOη漉の  フィラリア(肱6ぬ6劣θ7♂α とPζzη6πりを∫など)  トリパノゾーマ(7=c剛認,Chagas病)  バベジア(8.厩αηガ) 4.細菌  グラム陽性菌  グラム陰性菌   妊冷菌:Pseudomonas      Achromobacter      Escherichia      Yersinia *現在のわが国で問題とされる主な病原体. +わが国では成人T細胞白血病ウイルスと呼称されているこ とが多いが,human T lymphotropic virus(HTLV)type Iとの呼称に統一されたことから,ヒトTリンパ球向性ウ イルスと称する方が望ましいといえる. 外国との交流が盛んであることから警戒を要する ものとしては,HDV, HTLV・II, HIV−2,マラリ ア,トリパノゾーマ,(バベジア)などであろう. Masaru SHIMIZU〔Department of Transfusion Medicine, Tokyo Women’s Medical College〕:Infectious diseases with blood transfusion

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以前より問題視されてきた輸血梅毒は新鮮血の使 用量が多いのにもかかわらず近年報告をみなく なった.しかし,輸血マラリアは近年2例の報告 をみるに過ぎないが,輸入マラリアの国内発症例 は毎年認められていることなどから,今後共注目 すべき疾患であろう.  2.輸血に伴うウイルス感染症  わが国で認められる血液を介して感染するウイ ルス(HBV, HCV, HIV, HTLV・1)には共通の 感染経路と感染状態がある.つまり,感染経路と しては血液を介するもの(輸血,汚染針など)の 他に性行為,母一間の感染があり,感染状態とし てはウイルスの持続感染,特に無症候性持続感染 者(asymptomatic carrier, ASC)の存在するこ とである.  1)肝炎ウイルス  (1)輸血後肝炎  輸血後肝炎(post−transfusion hepatitis, PTH) は輸血用血液に対する血液事業上の対策により著 減した(表2)1)2).まず1964年に売血から献血に移 行することにより,PTHの発症率は売血全盛期 の50.6%から,移行期の31.1%へ,さらに総て献 血となることによって16.2%へと減少した.その 後,1972年よりHBs抗原のスクリーニングが当 初は電気泳動法,次いで100倍以上も高感度の逆受 身赤血球凝集反応(RPHA)により行われるよう 表2 輸血用血液の安全確保対策と輸血後肝炎発症  率の推移(国立療養所東京病院)D2) 年次 追跡症例数 輸血量(u) 肝炎発症 @切(%) 安全体策 1963 385 11 195(50.6) 商業血液銀行 ∼64 1965 386 12 120(31.1) 献血への移行期 ∼67 1968 537 12 87(16.2) 献血制度 ∼72 1973 290 12 28(9.7) HBs抗原(1) ∼76 1977 473 15 84(17,8) HBs抗原(2) ∼84 成分輸血 1985 182 12 21(11.5) HBs抗原告知 ∼89 HIV抗体 自己申告 (1)電気泳動法,(2)RPHA. 1985∼89年については片山2)の報告を集計したもの になり,GPTのスクリーニングも導入されたこと により,PTHが更に減少することが期待された が,余り成果が上がらなかった.その一因として 成分輸血療法の普及による1症一当たりの輸血単 位数の増加も考えられたが,真の理由は不明であ

る.しかし,全PTH中のB型肝炎の割合はHBs

抗原スクリーニング実施前の46.3%から21.4%, さらに4.8%へと激減した1).PTHの主体はいわ ゆる非A非B型肝炎が占めることとなった.  1985年からはHBs抗原陽性者への告知,翌年

には抗HIV,抗HTLV・1抗体スクリーニングが

導入され,HIV感染の高危険度のある行為につい ての問診並びに匿名による自己申告制が導入され た.全PTH発症率は減少傾向が認められる程度

であったが,B型PTHは殆ど認められなくなっ

た.HBs抗原陽性者への告知を行うことによっ て,献血者のHBs抗原陽性者の検出率が漸減し たこと,さらに社会全体として初回献血老,特に その若年層におけるHBs抗原陽性者の明らかな 減少傾向とが関与しているものと考えられる,

 しかし,HBs抗原のスクリーニングとして

RPHAの導入以来,少数例といえどもB型PTH

の発症が認められ,しかも劇症肝炎が相対的に目 立つことが注目されてきた(表3)3}.1985年前後 に米国より抗HBc抗体スクリーニングにより非 A非B型肝炎が減少するとの報告4)が出された が,わが国では献血者中の抗HBc抗体陽性率は 10数%もあることから,抗HBc抗体価の高い献

血者を除外することによって,B型PTHをさら

に少なくする方法が取られることとなった.即ち, 1989年11月より抗HCV(c100−3)抗体と共に抗 HBc抗体(HI抗体価26以上)のスクリーニング 表3 輸血後B型肝炎の転帰3) 転  帰 例数(%)  治癒 @劇症化 Lャリア化 13 (65) S率1 (20) R*2 (15) 串1 S例死亡 寧2フ炎遷延化  1例は原病(子宮癌)で8ヵ月後に死亡

(3)

表4 抗HCV抗体(c100−3)と抗HBc抗体スク  リーニングの導入前後における輸血後日A非B八月  炎発症率の比較5) 肝炎発症 輸 血 P位数 スクリーニング@前  後 追 跡 ヌ例数 例数 % 1∼10 前後 1,189 @784 58 P5 4.9 k9 *  ホ

@ns

11∼20 前後 392 P24 64 S 16.3 R.3 前:1988−1989, 後:1989。1レ1990 *:p〈0.001(t検定),ns:not signi丘cant 減少率:61.3%(1∼10単位),81.6%(11∼20単位) が導入されることになった.これにより,非A非 B型輸血後送=炎の主体はHCVによるものである ことから,PTHは輸」血量別にみても約1/3に減少 し(表4岬,特に二二例が著減している.このこ とは,PTHの診断基準の見直しを要することに なるであろう.しかも,今回の検討ではスクリー ニング実施前には0.25%(4/1,581)に発症をみた B型PTHは908例中1例も認められなかった5).

 さらに第2世代の抗HCV抗体スクリーニング

の導入(1992年2月より実施)によって,PTHの より一層の減少が期待されている.

 なお,非A非B型のPTHは全世界的に認めら

れているが6),抗c100−3抗体の陽性率は北欧の 0.2%から南欧の1.2%と北山南高である.わが国 では一般献血者における抗c100−3抗体の陽性率 は1.1%であるが,地域別の陽性率はHBs抗原陽 性率ほど明確ではないものの,東低西高の傾向に あり,男性(1.2%)では女性(1.0%)よりも有 意に高く,また,加齢と共に有意に高率(50歳以 上で26.1%)となるものの,20歳未満の若年齢層 では0.22%と極めて低率である7). (2)輸血歴と肝硬変・肝癌との関連性  B型あるいはアルコール性以外の肝硬変(1iver cirrhosis, LC)あるいは原発性肝癌(hepatocel− lular carcinoma, HCC)の症例には,輸血歴が有 意に高率であることが指摘されてきた8)9).PTH で抗c100・3抗体陽性例では90%以上もの症例が 遷延化し,また遷延化症例の大部分が抗c100−3抗 体陽性である.さらに,輸血後10数年から30年経 過して肝硬変・肝癌を発症した症例では,慢性肝 疾患時より抗c100−3抗体が持続陽性(キャリア)

であるlo).これらのことはHCVによるPTHは

遷延化・慢性化し,肝硬変・肝癌へと進展するこ とを示すものと考えられる.  献血者血について抗c100−3抗体と共に抗HBc 抗体のスクリーニングを行うことは長期的な観点 からして,予後不良なC型慢性肝炎を予防すると 共にB型劇症肝炎の予防にも役立っているもの といえよう. (3)肝炎ウイルスの院内感染11)  HBVの院内感染予防のために,最近職員に対 して曝露前にワクチンを接種することが推奨され る風潮にある.しかしながら,このような方法に 対する問題点としては,先ず,対象をどの範囲に 限定するかということであり,ことなかれ主義的 な発想からは,多少とも感染の危険性があり得る 場合には全職員に接種するということになるであ

ろう.しかし,HBワクチン接種によっても抗

HBs抗体の産生を認めない職員の取扱い方,ある いは抗体価の低い職員に対する追加接種の在り 方,さらにはHBワクチンの接種を無視ないし希 望しない職員への対策などを考慮しておく必要が あるであろう.  一方,HBV曝露後対策としては,事故後速やか

にHBIGを投与し, HBe抗原陽性の場合には

HBワクチンを追加接種すること(受動・能動免 疫)によって,HBe抗原陽性血による感染事故で も96%の発症予防効果が得られている12》.このよ うな事実を踏まえると,医療職でのHBワクチン の曝露前接種を必要とする対象者はかなり限定さ れてくるものと考えられる.さらに,たとえ曝露 前にHBワクチンを接種したとしても,感染事故 を起こした場合には未接種者に対するのと同様の 対応を必要とされることから,曝露前の一般的な 予防対策(手洗いの励行,清潔な職場環境の確保 など)と共に,曝露後にも適切に対処できる体制 を機能的に維持することの方がより重要であろ う.

 非A非B型肝炎ウイルスによる院内感染のあ

(4)

ることは,既に明らかにされていることであるが, 問題はその頻度である.8年3ヵ月間に110件の抗 c100・3抗体陽性血による感染事故で4例(4%,

95%CI:1∼9%)の非A非B型肝炎の発症を

み,そのうち3例が抗c100−3抗体陽性の肝炎とな り,患者血は110件ともGOT/GPTが異常であっ たという13).我々の経験では,過去10年間に約600 品目感染事故例を経験して追跡してきたが,非A 非B型肝炎例は1例も認めていない.そのうち患

者血のGOT/GPTが異常の100件について抗

c100・3抗体を測定し,抗体陽性の25件の被事故職 員を含めて抗c100−3抗体検査を事故時と5∼6 ヵ月後に行ったが全例陰性であり,その他の症例 でも抗体の陽転例は認められなかった14).  さらに職員の抗c100・3抗体陽性率は抗HBs抗 体陽性率に比して遙かに低く,われわれの検討で は0.2%であったが,年齢別では献血者群とほぼ同 様である14).  これらのことは,HCVによる感染事故により

C型肝炎は起こりうるが,その頻度はHBVに比

すれば明らかに低いと考えられ,それは血液中に おけるHCV量が少ないことと,現在の抗c100−3 抗体陽性例の中には既往反応のみを示している例 も含まれている可能性もあることによるものと考 えられる.  HCVの感染事故後の感染予防法としては未だ 有効な方法はないが,米国のCDCでは通常の免 疫グロブリンの投与を推奨しているが,その有効 性は不明である.発症後にはインターフェロンの 治療効果が期待されているが,その評価は今後の 問題である.  2)成人丁細胞白血病ウイルス(HTLV−1)4) 近年成人T細胞白血病(adult T−cell leukemia,

ATL)がRNAウイルスであるHTLV−1(human

T−lymphotropic virus)によることが明らかにさ

れたが,HTLV−1感染者の殆どはいわゆるASC

であることを考えると,白血病ウイルスという呼 称は学問的にはともかく一般の人にとっては余り に刺激的であることかち,HTLVの日本名として はヒトTリンパ球向性ウイルスと称することが 望ましいと考えられる.抗体陽性者はHTLV・1の キャリアと考えられている.  ATLはわが国では九州・沖縄地方が多発地域 であり,抗体陽性率も8%と高率であるが,その 他の地方では0.3∼1.2こ口ある15).  抗HTLV−1抗体陽性の血液の輸血による感染 は,白血球を含む成分の輸血によるものであり, 輸血後51日以上追跡した症例では64.4%に感染が 成立する16).しかしながら,現在までのところ輸血 により感染し,ATLを発症した症例の報告はな い.しかし,それは潜伏期間が非常に長いことに よる可能性は否定しえない.また,感染事故によ る感染者の報告もないことは,事故時に血球成分 の注入が無いか,あっても極めて微量であること (総ての白血球がHTLV−1に感染しているわけで はない)によるものと考えられる.

 ただし,HTLV−1感染後にHAM(HTLV・I

associated myelopathy)の発症をみることがあ り,輸血歴のある症例では高率であることが示さ れている17).  なお,1986年11月に全国的に抗HTLV−1抗体の スクリーニングが導入されてからは,輸1血による HTLV・1感染例は報告されていない.  3)ヒト免疫不全ウイルス (1)わが国におけるHIV感染の現状と血液対策

 後天性免疫不全症候群(acquired

immunode丘ciency syndrome, AIDS)は1981年に 米国厚生省防疫センター(Center for Disease Control, CDC)より報告された男性同性愛患者が

最初である.HIVはRNAウイルスであり,抗体

陽性者はキャリアであると考えられている.わが 国における第1例は昭和60年であるとされてい る.その後発症例数と感染者数とは漸増傾向にあ り,厚生省エイズサーベイランス委員会報告によ れぽ,1991年6月末までの患者数は397人であり, その74%が外国から輸入された凝固因子の使用に よる感染者である(表5).また,HIV感染者数は 1,810人に達し,そのうち1,529人が凝固因子使用 による感染である(図1).血友病患者でのHIV 感染率は約40%であり,凝固因子使用者数は約 3,600人といわれていることから,その感染者数は 約1,500人ということになる.したがって,1991年

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表5 わが国におけるエイズ累積患者報告数     一1991年6月末現在一 男 性 女 性 計 異性間性的接触 @男性同性愛 テ固因子製剤 サの他・不明 18(4) T1(17) c(一) Q4(6) 8(2) E(・) c(一) S(一) 26(6) T1(17) Q92(一) Q8(7) 計 …(28) ・(2) 397(30) ()内は外国人(再掲)     (厚生省エイズサーベイランス委員会) 2,000 感 染 例 数 160 140 120 100 80 60 40 20 1,500 ●一→全例数 冷一一X凝固因子除外 ◎一・Q男性同1性愛者     1 ○一●男性同性愛者 H]異性間性的接触者 (□女性団男性) ’甲   ’叩     ’銑1

5791!13579!11357

感 図2 わが国における性的接触関係別のHIV感染者  の累積届出数一1991年6月末現在一      (厚生省エイズサーベイランス委員会) 染 例1,000 数 400 300 200 1OO 乃  / D,,∼く  xノ¢ ・×’    〆x @,x〆,X’ ’ 罪x’ f   ’85    ’86     ’87     ’88     「89     ’90     ’91

  371491④9⑪2581⑤①⑦①⑦

図1 わが国におけるHIV感染者(患者を含む)の累  積届出数一1991年6月末現在一  〇凝固因子使用による感染者の報告月を示す      (厚生省エイズサーベイランス委員会) 以降の感染者数の増加の殆んどは凝固因子使用に よる感染を除外した原因によるものということに なる.現在血友病の治療には加熱凝固因子が使わ れており,新たな感染例はみられていないからで ある.  しかしながら,最近のHIV感染の特徴として は性的接触,なかでも異性間性的接触による感染 の増加傾向が強く,男女共に同様の傾向にある(図 2)(1991年末には異性間性的接触による感染者数 が男性同性愛による感染者数を上回った).  わが国では1986年11月より全国の日赤血液セン ターにおいて,献血血液の抗HIV抗体スクリー ニングが実施されている.さらに各献血老には献 血時にHIV感染の高危険度要因のある場合には 献血を自粛するか,後刻(3時間以内)匿名電話 による通告を依頼している.  1990年12月迄の献血者公約3,500万人中に抗 HIV抗体陽性者が68人目0.19人/10万人)見出され ており,毎年漸増傾向にある.この68人中45人 (66%)はいわゆる首都圏(東京,横浜,埼玉,千 葉)で見出されており,陽性率は0.53人/10万人で ある.この値は欧米における頻度の10∼100分の1 程度と低値であるが,これらの国では陽性率が近 年低下しつつあるという.  一方,献血者の自己申告制については,申告者 では有意に抗体陽性率が100倍も高く,(1.754%対 0.015%),その有効性が評価されているが18),わが

国においては自己申告者の中からは1例の抗

HIV抗体陽性が見出されていないことから,その 有効性を疑問視する見解もある.  しかしながら,抗HIV抗体陰性期(いわゆる window期)の血液の輸血によりHIv感染する例 のあるとの報告19)あるいは,HIV感染の高危険度 集団ではウイルスRNAが検出されるにもかかわ らず,かなり長期間抗体は陰性のままである (silent infection)との報告20)などは,自己申告制

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が有意義であることを示すものと考えられる.わ が国では未だHIV感染者が少ないものの,近い 将来感染者の増加する危険性のあることからし て,今後自己申告性の価値は高まるものといえよ う.  現在HIV感染者が多発しているサンフランシ スコで輸血によるsilent infectionは献血者 61,171人中1人(95%CI上限:1/10,695)である ということ21)から,彼我の献血者中の抗体陽性率 が米国では低下,日本では増加していることを勘 案すると,今後,わが国でも.1∼2年に1例位の 輸血によるsilent infectionが起こりうる可能性 があるといえよう.その予防対策は抗HIV抗体 検査の目的で献血をしないこと,諸般の事情でや むを得ず献血しなけれぽならなかった場合には自 己申告を確実に行うことである.  HIV感染では抗体の出現に先だって一過性な がら抗原が検出されることから,いわゆるwin− dow期にある献血者を除外するために抗原のス クリーニングをすることが欧米で検討されたが, 少なくとも使用した試薬では抗体陽性者以外から は1例の抗原陽性者を検出することがでぎなかっ た.しかし,HIV感染者が目下急増しているタイ (1984年の1例から1991年6月までに31,812例)で は男性供血者の抗HIV抗体陽性率も急増(1987 年の1/5,000から1989年の1/140)しており,最近 3例の抗体陰性期の血液の輸血による感染例をみ たことから,抗原検査を行ったところ3,432人の供 血者中1例の抗原陽性(抗体陰性)例を認めたと いう22).この例は後日抗体陽性となったが,自己申 告制により除外できた可能性があったという.  わが国でも輸血によるHIV感染例はあるが, いずれも抗HIV抗体スクリーニング実施以前の 輸血例であり,スクリーニング実施後には国内で の輸血による感染例の報告はない. (2)HIVの院内感染23)  血友病患者以外のHIV感染者が少ないわが国 の現状では,通常の診療においてHIV感染者を 診る機会は未だ稀であることより,院内感染はあ まり問題とならないであろうが,今後は少しなが らも漸増するものと考えられる.厚生省エイズ研 究班による各種集団における調査・検討では, HIV感染者のほとんどがいわゆる高危険度集団 に属している(表6).これは1989年の報告である が,その後母数は増加しても感染率には殆ど変化 がない.しかし,標準管理血清のほとんどは輸入 によるものと考えられ,その陽性率は著減してい るものの,血漿を大量にプールすることによる一 高6 わが国における各対象群別の抗HIV抗体陽性者数(率) 対 象 者* 期  間 例 数 陽性者数 % 1.血友病患者 1988 462 193 41.8 2,男性同性愛者 1985.4∼1989.2 2,646 54 2.04 3.性病クリニック受診者 _寧零 2,024 1 0.05 4.売春行為常習者 1985∼1981.1 742 1(?)÷ 0.14(?) 5.静注薬物濫用者 1985.10∼1989.2 2,753 1 0,036 6.輸血患者 1986.6∼1988.4 7,431 0 0 7.透析患者 1988.1∼1989.1 1,991 0 0 8.妊 婦 1988.1∼1989.1 7,114 0 0 9.献血者(全国) 1986。2∼1988。8 16,610,443 28 0.17人/10万人 (東京)(再掲) 1986.2∼1988.4 1,910,619 17 0.89人/10万人 10.院内供血者(東京) 1986.1∼1988,12 17,499 0 0 11.標準管理 1987.1∼12 242 62 26.0 血清 1988.1∼12 140 11 7.9 1988.4∼12 144 1 0.7 *1は池松から(1989年), 榊1985年 +確認試験未実施 2∼5は南谷(1989年),6∼11は清水(1989年)の総括による

(7)

表7 医療職のHIV感染事故後の追跡例におけるHIV感染例数(率) 施 設 名

感染経路

対象例数

R体(+)抗HIV (%) CDC (90日以上追跡) 1,070 4串 (0.4) (1987.12) 血液(非経口) 874 4* (0.5)+ 血液(粘膜,傷口) 104 0 体 液 96 0 血液(検体有り) 489 3 (0.6)++ NIH 針事故 103 0 (1987.4) 血液,体液 691(2,000回以上) 0

UC

(1987) 針事故,粘膜 235(644回) 1掌* (0,4)

臨]

非経口,粘膜,皮膚 220 0 零1例は性的パートナーが抗HIV抗体(+),桝針事故後 +95%信頼限界の上限:1.1%,++95%信頼限界の上限:1.6% (文献24より要約) 釈あるいは対象サンプルの収集上の問題もあるこ とから,なお注意が必要と考える.  院内におけるHIV感染は欧米においても稀な ものと考えられている(表7)24).しかし,感染事 故によって感染しないわけではなく,事最後に抗 HIV抗体が陽転した15例の感染経路についてみ ると,針事故が9例,粘膜付着2例,生傷2例な どである.感染率は0.4%であり,HBVに比する とはるかに低いといえる.  感染予防対策はHBVのそれに準ずることで十 分である.  3..その他の感染症  最近の血液事業上の進展と関わりの深い細菌感 染と国際的な人口移動に伴い新たな問題となる可 能性のある原虫感染とを取り上げることとする.  1) γ6rsノη伯 eηオe1て)co〃オ’c∂

 1980年代になって,新しい赤血球保存剤

(SAGM液)が開発され25),赤血球の保存期間が従 来の21日間から35∼42日間に延長されたことによ るものである.このZθη彪70001薦ωは4℃でも 増殖する好冷菌であり,保存期間中に漸増し,3 週間を越えると,septic shockを起こしうるに十 分な菌量となる26).最近,採血後に実験的にX 6忽670001薦。αを少量:混入し,数時間してから白血 球を除去して保存すると,菌の発育が認められな くなるということが報告された27).

 わが国においても最近SAGM液の変更処方で

あるMAP液の有効性と安全性が明らかにさ

れ28),厚生省の製造承認も得られたことから,近く 臨床に用いられるようになるが,}惚窺θzooo砺。α .竪, Washington  ●   o 融㎞(交

?@回心。

             5.G ●    も 1.6 Quito   ●  0.1 身,1ぎ Santiago  LO 畜9留・・ ,2。 Brasiiia ●14,0 ‘・9 %71き・.6’o ●        LO Montevideo 12.O    L7 Buems Aires(市内)    4、9 〃  〃 (郊外) ⇔ 図3 中南米地域のTゆαηo∫o挽αo㍑寵感染率(%)  (文献29により作図)

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の感染によるseptic shockは稀なものではある が,他の細菌によるものと同様に死亡率が高いこ とから注意を要するといえよう.  2)7以ρ∂ηosom∂crαz’  中南米の各地域にみられるChagas病の病原体 であるが,アフリカねむり病の病原体とは異なる.、 地域住民の感染率(抗体陽性率)は,都市部では 1∼3%であるが,郊外ないし田舎では15∼30% と高率である(図3)29).輸血は主要な感染経路の 1つとされている.したがって,近年経済的事情 による人口の都市部への集中化,先進国への移住 の増加により,これらの人々の中には売血により 生計を維持する場合もあることから,輸血による

26鰯認感染が拡大されることが懸念されてい

る.最近ロサンゼルスでは献血者の1.8∼2.4%に 抗体が検出されたということである.わが国にお いても中南米諸国からの来訪者が増加しているこ とから,注目しておく必要があるであろう.  症状としては輸血後4週以降に単核球増多症様 の症状(発熱,リンパ腺腫大,肝脾腫など)を認 める.診断は血清学的に特異抗体の検出により行 う.       文  献  1)片山透:輸血後非A非B型肝炎の疫学.肝胆    膵  14:523−527, 1987  2)片山透:輸血後C型肝炎の発症に関する研究.   厚生省血液研究事業 輸血後肝炎に関する研究    平成元年度研究報告書:2−9,1991  3)清水勝:輸血とウイルス感染一日本の現状一.    日輸血会誌 31:207−212,1985  4)清水勝:輸血の副作用とその対策一感染一・    「新出科学体系6」(出月康夫他編),pp.236−262,    中山書店,東京(1988)  5)Japanese Red Cross Non・A,Non−B Hepatitis   Research Group i Effect of screeniIlg for hep・   atitis C virus antibody and hepatitis B core   antibody on incidence of post−transfusion hepa・   titis. Lancet 338:1040一ユ041; 1991  6)高梨美乃子,清水勝:非A非B型の疫学.世界    と日本の輸血後肝炎.Medical Practice 7:   .589−593, 1990  7)西岡久寿弥:血清疫学研究班総括報告.厚生省非   A非B型肝炎研究 平成元年度研究報告書:25   −33,1990  8)Kiyosawa K, Akahane Y, Nagata A et a1:   The significance of blood transfusion in non・A,   non・B chronic liver disease in Japan. Vox Sang   43:45−52, 1982 9)大林 明,田中 慧,大竹寛雄ほか:輸血と肝硬   変,肝細胞癌との関連についての臨床疫学的研究。   肝臓 24:521−525,1983 10)Kiyosawa. K, Sodeyama T, Tanaka E et a1:   Causal relationship between non−A,non−B he・   patocellular carcinoma after post−transfusion   hepatitis and hepatitis Cヤirus.1勿Viral Hepati・   tis and Liver Disease(Hollinger FB ed)pp592   −594,williams&Wilkins, Baltilnore(1991) 11)清水勝:急性ウイルス肝炎の予防.「最新内科学   大系48 ウイルス肝炎一肝感染症」(井村 裕他   編)ppユ87−204,中山書店,東京(1991) 12)Mitsui T, Iwano K, Suzuki S et al:Combined   hepatitis B immune globulin and vaccine for   post・exposure prophylaxis of accidental hepati・   tis B virus in hemodialysis staff members:   Comparison with immune globulin without   vaccine in historical controls. Hepatology 10:   324−327, 1989 13)Kiyosawa K, Sodeyama T, Tanaka E et a1:   Hepatitis C in hospital employees with needle.   stick injuries. Ann Intern Med 115:36卜369,   1991 14)清水 勝,高木 滋,田中 慧ほか:医療機関内   における抗HCV抗体陽性率についての検討.厚   生省非A非B型肝炎研究 平成元年度研究報告   書:40−42,1991 15)Maeda Y, Furukawa M, Igata A et al:Prev.   alence of possible adult T・cell leukemia virus。   carriers among volunteer blood donors in   Japan:anat量on−wide study. Int J Cancer 33:   717−720, 1984 16)大河内一雄,佐藤博行:輸血による成人T細胞白   血病ウイルス(ATLV, HLV type I)の感染.日   輸血会誌 31:219−222,1985 17)Osame M, Izumo S, Igaoa A et al:Blood   transfusion and HTLV・I associated myelopath.   y.Lancet ii:104−105, 1986 18)Nusbacher J, Chiavetta J, Naiman R et a旦:   Evaluation of a con且dential method of exclud・   ing blood donors exposed to human   immunodeficiency virus. Transfusion 26:   539−541, 1986 19)Ward JW, Holmberg SD, Allen JR et al:   Transmission of human immunodeficiency   virus(HIV)by blood transfusion screened as   negative for HIV antibody. N Engl J Med 318:   473−478, 1989 20)Imagawa DT, Lee MH, Wolinsky SM et al:   Human immunode且ciency virus type l infec・

(9)

   tion in homosexual men who remain sero−    negative for prolonged periods. N Engl J Med    320:1458−1462, 1989 21)Busch MP, Eble BE, Khayam・Bashi H et al:    Evaluat三〇n of screened blood donation for    huπ}an immunode五ciency virus type l infection    by culture and DNA amplification of pooled    cells. N Engl J Med 325:1−5,1991 22)Chiewship P, Isarangkura P, Poonkasem A et    al:Risk of transmiss量on of HIV by sero・    negative blood. Lancet 338:1341, 1991 23)清水 勝:後天性免疫不全症候群と院内感染予防.    対策.「肝炎・エイズの手引き」(透析療法合同専    門委員会.編)pゆ54−69,(1990) 24)Center for Disease Control: Update:    Acquired immunode且ciency syndrome and    human immunode丘ciency virus iafection    among health・care workers. MMWR 37.:    229−234, 239, 1988        サ 25)Hδgman CF, Aekerb藍om O, Eriksson L et ah    Red cell suspensions in SAGM medium. Fur一    ther experienc合of in vivo surviva玉of red cens,    clinical usefulness and plasmasaving effects.    Vox Sang 45:216−222,1983 26).Tipple MA, Bland I、A, Murphy JJ et al:    Sepsis associated with transfusion of red cells    contaminated with Yersinia enterocolitica.    Transfuslon 30:207−213,1990 27)μ6gman CF, Gong J, Eriksson L et al:    Transfusion transmitted bacterial infection    (TTBI). International Society of Blood Trans−    fusion,2nd Regional Congress Western Paci且。    Region(Hong Kong),1991, p14 28)清水 勝,藤井寿一,溝口秀昭ほか:新しい赤血    球保存液(MAP)添.加に.よる長期保存濃厚赤血球    の安全性ならびに有効性についての多施設共同臨    床評価.臨床血液 33:149−156,1992 29)Scb璽nu五is GA:T.rypanosoma cruzi, the    etiologic agent of Chagas’disease:Status in    the bloo“supply endemic and nonendemic    co.untries. Transfusion 31:547−557,1991

参照

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そのうち HBs 抗原陽性率は 22/1611 件(1.3%)であった。HBs 抗原陰性患者のうち HBs 抗体、HBc 抗体測定率は 2010 年 18%, 10%, 2012 年で 21%, 16%, 2014 29%, 28%, 2015 58%, 56%, 2015