偶登性蜘蛛膜下腔出血の一治験例
東京女子讐肇專門學校今村内科敏室(主任 今村i教授)林 梅 民
リン バイ Eン (受付 昭和16年3月4日)内 容 目 次
(一)緒 言 (二)症 例 (三) 総括並びに考按 (四)結 論一 緒
言 偶獲性蜘蛛膜下腔出血に就ては,近年に至り一般二二三家の注目する塵と成り,本症に關する報 告が途次に増加する傾向を示して居る。1819年佛蘭西の竺を氏が臓膜出血と臓出血とを匠別して 以來一般臨三家の注意を惹く様になり,1857年バイヤルジエ氏が蜘蛛膜下腔を隅膜出血の好獲部 位として指摘し,1859年ウイルクス氏は4例を記載し,1869年ヂァンドラ.ック氏は文献上に34 例を見しと報告し,1891年クインケ氏に依りて腰椎穿刺が試みらるるに及び,本症の臨林的診断 が容易となった。猫逸に於ては,1912年工一レンベルグ氏の著述以來始めて報告を見る様になり しと云はる。我國に於ては,從來其の報告は誠に少なく,最近6∼7年以來漸く報告例を多数見る 様になり,昭和3年竹田氏Q報告に始り,次で佐k廉李氏,佐々貫之氏,細谷氏,柿沼氏,及び小 金井氏等の自家實験例並びに綜読等の記載に依り,近年俄然興味の中心と成り,其の報告例が著し く増加し,今日既に百籔十例にも達して居る。就中深川病院の宮入氏等の如きは本年1月迄に75 例も経験せられて居るとの事である。私も最近1例を経験致せしを以て,こ玉に報告致す次第であ る。 二 症 例 患者 山○段0 41歳 男子。 初診 昭和15年4月2日。 主講 激烈なる頭痛及び項部痛。 族歴 父系の租父は不明,父は肝臓病,母は謄盗血,同胞4名中1名腎臓病,1名赤痢,1名原肉不明にて 夫々死亡す。妻健在,子女1人健在,患者は22歳にて健康なる婦人と結婚す。妻に流産死産早産無し,其の他一52一
199 の遣傳的尉面全く不明なVo 血塗歴 幼時は健康,種痘,麻疹1百日咳を経過す。2蟻の時淋疾を患った以外特記すべき事無し,酒は嗜ま ず,煙草は曉,さかえ.等1日に10本位喫煙す。 現病歴 獲病1週間前より,別に睡眠障碍無力通しも,・朝起きる際にのみ頭痛を畳え,書問勢働に際しては苦 痛を感ぜぬ程でありしと云ふ。然るに4月2日午前4時頃突然意識不明に階窮約1時間位にて畳醒し,其の後 激烈なる頭痛並びに頂部痛を訴へ,患者は時々奇聲を獲し,苦痛の爲床上に跳起きる程なりしと云ふ。かかる歌 態が約2分毎に下作性に起y,三熱,嘔吐,腰痛等は無ぐ,三川より縢浴血の診臨を受け,午前8時本院外來を 訪れ,直ちに入院せらる。 入院時現症 榮養自前共に中等度,顔貌苦痛状を呈し,紅潮を認めす,皮膚正常,獲疹,出血及 び黄疸等無し,溜涙35.50C,脈臓55,正応,緊張中等度,意識明瞭良く応答す,淋巴腺腫脹を認 めす,頭部異常無し。眼所見にて結膜異常無し,瞳孔左右同大,封光反慮正常,眼球魚商無く,舌 漁潤にして粗,多少白苔附着す。ロ蓋扁桃腺異常無し。項部強直認めざるも他動的頭部廻曹に依り多 少抵抗を感じ昏怠を訴ふ。心臓,境界濁音正常,各鳶口藍診部位に於て軽度の牧縮期性雑音を慕画し, 第二大動脈音の昂進を認む。肺肝境界は第六肋骨.ti縁,肺臓は呼吸音弱く,蝿音無し,腹部多少陥 凹す。肝臓,脾臓は酒手し得す,排尿,排便機能正常にして失禁無し。膝蓋腱反射及び「アヒレス」 腱反射溝失,b一ノヒ..,Z摂氏症候陽性なるも,バビンスキー現象陰性,膝蓋及恋病搦認めす,皮膚戯書 症無し,筋肉自家牧縮等無きも左側下肢に多少のしびれ感訴ふ。言語障碍は全く認められす,血墜
は「タイコス」にて最高右140mm左160mm,最:小右60mm左70mm水銀柱,心癖髄液は血.
性洞濁放置するも凝血を見す,遠心沈澱に依り上清液は著明に黄染す,初出63Gmm水柱,探取量 30c.c絡墜95)mpn水柱,比重1011,ノンネ及びパンジー氏反滋強陽性,細胞徴850個,沈渣に 無歎の赤血球と少数の白血球(主として淋巴細胞)を認む。蛋白ニッスル記法にて2.5「隷書i,ワ“r セルマン氏及び:村田氏反対陰性なり。糞便は黄褐色・有形,磁化良好,潜血反感陰性,寄生轟卵を 認めす。尿は黄禍色,錦嚢渥濁,酸性,蛋白中等度陽性なれども,沈渣には赤血球なく白血球散在 し,圓塘,膀胱上皮,細菌等齢す,血液像は赤血球537・5萬,血色素ザーり一にて75,色素係数 0.7,白血球7060にして,其内中性嗜好性白血球58.5%(桿歌核細胞5.5%,分葉核細胞53.0%) 「エオジン」嗜好性白血球無し,淋巴球36.5%,軍核細胞及び移行型5.0%なりQ 入院後の経過並に治療法 罷温37.50Cに上昇,脈臆数75,呼吸数22,頭痛激しく,入院後直 ちに腰椎穿刺施行,血性沼濁謄脊髄液約30e.c.を得て,頭痛輕快安眠す。4月3日3艦温最高37.4℃ 午前中頭痛輕度なりしも,午後に至り再び塘強第2同腰椎穿刺施行,同様血性瀬濁液を得,穿刺後 二分良く睡眠可良となる。項部強直明瞭ならざるもケルニッヒ氏現象陽性,膝蓋腱反射弓失,嘔吐 無く食慾二二。4月4日;艦温最高38.5℃迄,二三92,頭痛猫二度に訴へ,希望に依り第3同腰 椎穿刺施行,初墜455mm水柱,約15e・c・採取,前臼より色調多少稀薄と成る。穿刺後氣分爽快良 く眠るQ4月5日;頭痛並びに項部彊直島減,氣分爽映痴話最高38・5℃迄なるも,食慾可良にし て良く睡眠す。眩量無きも右眼複覗を訴へ,爾脚にしびれ感ありと云ふ。ケルニッヒ氏現象陰性と 一 53 ptなるも,膝蓋腱反射依然として溝失す。4月6日,7臨同心の状態にして,11H目頃よウ艦温血 常と成れ)i。四病初陽性なりし尿蛋白も,8日目頃よPl 1,itく陰性となれり。12日目以後頭部及び項 部痛全く去り,氣分良く,食慾漸次進み,爾脚のしびれ感も去)1,一般ナ伏態順調にして,入院第17 日Eil第4同腰椎穿刺施行,白色透明の謄脊随液を得,初雷180mm水柱,約10c.c.主取,絡堅120 mm水桂,ノンネ陰性,パンジー溺陽性,糊包撒45,蛋白ニッスル氏法にて1匿書となれり。18 日目より食事時1同起床,順次2同,3同となし,室内室外歩行を試みるも異常無し,入院後24 日目入浴するも攣りなく,右眼複覗,膝蓋腱反射清失せる僅かの後遺症を残して,25日目退院す。 治療としては,患者に維樹安静及び面會謝絶を命じ,頭部に氷枕,氷嚢を用ひ,室内を薄暗くし, 出面得る限Pl刺戟を避けしめ,種々の謄症の輕快を期待致し,腰椎穿刺を行ひしに,頭痛立ち所に 輕減,患者の氣分も非常に爽決となりしを以て・謄墜低下に依る再出血に注意しつつ反覆施行・其の 敷を見たり。内服としては,沃度剤,止血剤,其他臭素「ナトリウム」及び「カリウム」を與へ, 心臓衰弱の徴ある時は「カンフル油」,「ビタカンファー」等の注射を行へり。
羅 繕四隅に考按
以上述べし所見を概括するに,患者は4月2日未明,突然意識障碍を起し,約1時聞経過せる後畳 醒,非常に激烈なる頭痛,而も項部輪台を随俘,苦痛の愚論吟ずる程なりき。前述せる如く,本病 の多くは,外見上健康なるものが,晴天の心慮の如く,突賦するを普通とするも,申に前騒症状を 伴ひて詩病せし報告例もあ%熱獲は襲作直後は無く,第2病日頃より中等度護熱,第6,第7病 日頃には微熱の程度となり,第10病日頃より全く油凪.と成る。一般状態は比較的可良にして,病 竃症状は現はれなv・。本例に於て興味ある症状は、眼底所見にして,外旋神経麻痺を嘉し事なり。 此れが爲,患者は退院時,猫右眼に複覗を訴へ居りしなPl。本病に於て,児玉,關澤の諸氏は53 例中4例,佐藤氏は92例中12例に於て眼底に学齢を認めたるも,多くは欝血乳頭,或は網膜出 血にして,外衡中維麻痺は稀なりと報告し居らるD 血墜は正常, 尿所見は一過性蛋白尿認めらる。 血液所見は僅かに淋巴囎多認めらる。 血液並に強脊髄液の温点反語は陰性なり。 白焼髄液は第3斎日迄,血性癌濁,初墜630mm水柱にして愚慮高度に上昇・細胞敏も増加を示 し,蛋白増量「グロブリン」反癒陽性,第17病日,第4同穿刺施行,臓脊髄液所見ほぼ正常に復 す。 類症鑑別として,(1)畷盗血,本病にては出血に依る局所漏壷を呈せざるが,ヌ呈するも極めて 一過性なるに反し,臓盗血にては,牛身麻痺等の局所症状著明にして,腱反射充進,バビ∠スキー 等陽性なり。比較的高年者に多く,項部彊直,ヶルtッヒ氏徴候を訣く。(2)各種臓膜炎,面素症 歌,経過,臓脊髄画所見高に依りて匪別し得るb(3)謄腫瘍,徐々に獲現し・漸次一般症状面舵 r dr4 一2Cl し,眼底欝血乳頭,局所症状を呈し,且つ経過長き事により匪遇す。(4)脹徽毒,症朕急速に攣化 する事,エ血清詳細脊髄液の蛇毒反慮陽性,ノンネ,パンジー共に陽性なる事によりて旺別す。(5) 出血.下立硬臓膜炎,心血獲現が本病程急激ならすして,局所症状を呈し,脳脊髄液pli thL液を混ずる 事少なく,「キサン1・ク・ミーv」を呈する事多し。以上獲病朕態,臨躰症朕,脳脊髄液所見,虻に鑑 別すべき既述諸疾患の症状とを饗照して,旧例を:蜘蛛膜下腔出血と診断せり。本病の原因的事項と して種汝の要約墾げらる。今文献を渉猟するに,血上落進,動脈硬化,動脈瘤,徽毒,腎炎,萎縮 腎,頸部外傷,臓盗血面作,心臓病・血小板減少症,出.血性素因,月経の代償性出血等あげらるX も伺原因不明のもの少なからず,菅原氏は本病の原因有無に依り,是を績護性或は徴候性と原護性 或は特獲性とに南面せり。
Goldfam, Herman, Matzdorff, Kroll Hess等は斯くの如くe所謂特嚢生のものの多くは,」凱管 運動神経の機能的障碍に依る毛細管よpiの滲透性臨且に画塾するものならんと云ひ,叉Tohs, Symmonds, Serve高等は本病の剖槍に際し,屡々謄表面に小動脈瘤の破綻を認めたりと云ふ。本 義験例の原因が,血管運動神経の機能障碍に依る毛細管よりの滲透性出血に由來する・ものなりや, 叉は血管系統の器質的攣化に依るものis )1や,筒不明なれども,家族歴中に記載せる如く,本患者 は前廊通エ,同胞は腎臓病にて死亡せる貼よpi,患者は多分に循環難,特に一血替呼続疾患に關する素 質を有するものと思はれる。本病の好獲年齢に諭しては,泰西にては若年者に多く起ると稻せらる るも本邦諸家の統計に依れば,佐藤,堀の諸氏は,20歳よ1;)50歳迄は高率を示し,40歳にて最 高位を占め,20歳以下は極めて少数なりと云へり。性別には,一般に男性の罹患率大にして,季節 的にはGoidflamは秋及冬の初めに多しと主張せるもHerman,の例では特別の季節的堂幅は認め られなV・。而して一般に冬季多く夏季に多少の増加を認むると宮入氏は云へP。 甘塩は比較的良好とせらるるも,出血程度如何に依Plて決定せらる。可なpl重篤にして全く絶望 状態の如く見ゆる場合にも,案外良く治癒致し,殆んど何等の後始症を淺さぬものも相當に見らる。 再訪は面面重洞様屋k是を見,治療上細心の注意を要すると云はる。本病の療法としては,臓堅 輕滅:り目的にて腰椎穿刺を第一義とせらるるもCiuillainは重症の場合は禁忌としGemet,柿沼氏 は,腰椎穿刺に依り,症状増悪し,途に死亡せる例を報告せり。Hollは脳心骨這心心の,増進する 傾向無き時は穿刺を避け,自然に放置するを良とし,細谷,飯室の諸氏は,注意深く徐々に,且つ少 量宛採取すれば煽るるに足らすと云へり○本例は初診時可なり重篤にして,全く絶望の様に見え居 りしも,臓墜低下の爲の再出血に注意しつつ,虚血穿刺反覆施行に依り,頭痛項部痛論V・に愈々, 奇士かの後貼症を残して治癒,入院25N嬉々として退院せり。 四 結 論 以上本例は,患者の血管榊凝立の異常性が原因して起りし,所謂善後性に來たる蜘蛛膜下腔出血 にして,腰椎穿刺反覆施行に依1),ほぼ完全に治癒せる1例なり。 稿を終るに臨み,終始御懇篤なる御指導並びに御校閲を賜はりました今村教授に厚く御里申しあげます。 . .. :“v5 ’
孟 要 玄 献 D 森戸耕作,野村幽鄭,森本丈鶏:治療及虎方 243號 (昭和15年3月) 2) 植 村 上=鹿発島讐學薙誌 17年 3號 (昭和15年3月) 3)宮入清四耶1治療及虎方241號(昭和15年3月) 4)宮下謙=,松岡松玄:實験讐報303, E98,(昭和15年1月)
5)宮下年譜=日本内科學三脚誌27巷11號(昭和15年2月)
6)宮入清四郎:讐學輯覧特輯號38(昭和11年11月)ケ)佐々駕之:磨學輯覧特輯號串(昭和9年12月)
8)宮入清雪辱:東西轡學4巻7號,9號,12號・5巻2號}4號,11號,12號(昭和12年7,9,12月・ 13年2,4,1ユ,12月) 9)宮入三智郎=實欝欝報291號(昭和14年1月) 10)野口猪之助:臨}沐甲羅27年8號(昭和14年8月) 11) 爾里翌三家郎: 野鶴斤と乎台墨 臨晴…鱈干〔r 259 (昭不p13年9月)12)宮入藩圏郎:臨豚讐學26年9號(昭和13年9月)
13)酒井 威:「日本内科學會新誌2蜷7號(昭和13年10月)14)宮入潜国郎:臨林内科4巻8號(昭和13年8月)
ヨ5) 楠 i井 轡i造=臨林讐學 26年 5號 (昭和13年5月)16)佐々廉牢:實験予報280號(昭和13年2月)
Z7) E・ Bramwell : Brit. .“.1. 」. 2. Sept. a4tN,35.
18) ’ 狽浴D A. Hameed : ludian M. Gaz. 70. SepttvP)bV.
19) llYr. G. twas’ten : Wsiconsin M. 1. 34. Mar’ch.w35. maJrs)35.
20う出射毒騙郎=眼科臨抹警報34巻11號(昭和ユ4年11月) 21)河 合 稔1熊本馨四四難誌 13雀 4號 (昭利12年5月) 22)蝉騒榮u郵:治療及男方207號(昭和12年5月) 23)宮入溝四fiB,片油島肘瀬健史・賊軍納科2悠3,・4,・5・6,8・9,10・エ1,12號(昭le・11年3・4・5,6, 8,9,10,11/12月) 24) 佐藤恒丸,堀庫一 . 器機iと治療 23巻 1號 (昭和11年1月)