原 著 〔東女医大誌 第57巻 第4号頁 286∼295 昭和62年4月〕
進行性低酸素状態の蘇生における補助心マッサージの効果について
東京女子医科大学 第2外科学教室(主任 セキ ユ キ ォ 関 由 紀 夫 織畑秀夫教授) (受付 昭和62年1月28日)Effectiveness of Assisted Closed Chest Cardiac Massage in Dogs
with Hypoxic Shock Yukio SEKI
Department of Surgery(Director:Prof. Hideo ORIHATA>
Tokyo Women’s Medical College
Hypoxic shock state was produced in thirty one mongrel dogs, and the effectiveness of assited
closed chest cardiac massage on recovery was evaluate by measuring aortic blood pressure(AP),
respiratory rate(RR), central venous pressure(CVP), carotid blood flow(CF), carotid artery oxygen
pressure(PaO2)and electrocardiogram(EEG)during the course of resuscitation. The following results
have been obtained.
1)Recovery from hypoxic shock was much better in dogs treated with assisted closed chest
cardiac massage(group I)as compared to those without cardiac massage(group II), 2)There were no differences in AP and RR in the group I and II dogs.
3)The change in CPV after cario−pulmonary resuscitation(CPR)in the group I was less than
that in the group II.
4) CF as well as PaO2 was much higher in the group I dogs during the course of CPR.
These observation a indicate that closed chest cardiac massage restore circulatory failures and
prevent the fall of CF and PaO2. Thus, assisted closed chest cardiac massage is a useful method for CPR in hypoxic shock. The author recommends to use cardiac massage as soon as possible in patients with hypoxic shock whether or not cardiac beat is arrested or not.
緒 言 実 験 1.実験方法 目 次 1)実験動物および麻酔 2)血行動態の測定 3)進行性低酸素状態の作成 4)対照群 5)補助心マッサージ群 2.実験結果 考 察 結 論 文 献 緒 言 心肺蘇生法は,古くは旧約聖書の一部にまで記 載されている1)ように,古代より様々な形で行な われていた2)と言われている.その後,種々の歴史 を経て,現在に入り,積極的に心マッサージ法が 行なわれるようになった3).しかしながら,この心 マッサージも当初は開胸式によるもので,現在一 般的に行なわれているような,閉胸式心マッサー ジについては,1960年にKowenhovenら4)が胸壁 外心臓圧迫法として初めて考案し,報告してから に過ぎない. 一方,ショックはたとえその原因がいかなるも のによるものであっても,あるレベルを超えたら,
可及的速やかに,そして強力な心肺蘇生法を必要 とするものであり,そのタイミングならびに方法 等を臨まれぽ,ショヅクからの離脱は不可能であ り,当然重篤な冠循環不全,脳循環不全に至る. 冠循環不全はやがては,心筋のhypoxiaから心臓 のポンプ作用の低下を招き,一層全身の循環状態 を悪化させる事になる.また,脳循環不全は,3 ∼4分で脳細胞に変化をもたらし始め,5∼8分 では不可逆性の変化をもたらす5>のは常識であ る. さて最:近では,救急医療施設の増加や,心肺蘇 生法の一般的理解,あるいは,シ・ックに対する 治療法の進歩等により,蘇生される率が著しく向 上してきている.しかしながら,現実には,心肺 蘇生に成功したもののうちでも,20%以上になん らかの脳障害がみられる6)ともいわれている.蘇 生後の脳障害を引き起こす機序としては,特に脳 細胞のhypoxia anoxiaに対する脆弱性のみだけ でなく,ショック状態における脳循環停止後,た とえ蘇生しても,心停止中に発生した血管内血液 停滞,血管内血液成分の凝集などにより,脳循環
が再開通しない,いわゆるno・re飾w
phenomenon7>などが関与しているといわれてい る.このことについて,Saferら8)は心肺蘇生法 (CPR:cardiopulmonary resuscitation)は従来 の心肺のみの蘇生を目的とするぽかりでなく,蘇生後の脳障害を予防する面も考え合わせCPCR
(cardiopulmonary cerebral resuscitation)とし て考えられねばならないと提唱している. 以上の重要問題も含めて,当教室においても, 心マッサージを重点テーマの一つと考え,従来よ り様々な研究を行なっている.1960年,織畑9)が生 後7日目の新生児の心停止に対して閉包式の心 マッサージを行ない救命した症例を含む有効例を 示したのに始まり,栗原10),飯塚ら11)は,補助閉
胸転注マヅサージが出血性ショック等の
hypovolemiaの際にも脳循環,冠循環等に対して 血流増加をもたらし有効であると報告し,さらに, 徳田12)は動物実験,臨床において,補助閉胸式心 マッサージを用いてその際の有効な圧迫回数や圧 迫幅等について報告している.また,大舘13)は呼吸 性hypoxic shockの病態解析とその蘇生限界等 について報告している. これら諸研究を踏まえ,著者は呼吸性hypoxia を原因としたショックの蘇生においても,hypox− ia改善を目的とした人工呼吸だけを行なうより も,人工呼吸に閉胸式心マッサージを併用する方 が循環動態の上で有効であると考え,呼吸性 hypoxic shock犬を作成し,それを人工呼吸だけ を行なうA群と人工呼吸に閉胸極心マッサージを 併用するB群に分けて蘇生を試み,頚動脈血流量 や頚動脈酸素分圧等により循環動態を比較検討し たのでここに報告する. 実 験 1.実験方法 1)実験動物および麻酔 実験動物として,体重8∼16kgの雑種成犬を用 いた.犬は実験前の1週間,山稼にて飼育し健康 犬と考えられるもののみを使用した.実験当日は 前処置として水分投与のみによる絶食とした. 麻酔はベントバルビタール(ミソタール,武田 薬品KK)20mg/kgを静脈内投与し,自発呼吸 を保ちながら,書毛反射等は消失する程度の浅い 麻酔を維持した.経口的に#28∼30のカブ付チュー ブを気管内に挿入した.実験中は体動や反射が現 われない程度にベントバルビタールを少量ずつ緩 徐に追加投与した.なお,麻酔操作に当り狂暴性 を呈したものについては,あらかじめケタラール (ケタラール10,三共K.K.)を1.Omg/kg筋肉内注 射を行ない,鎮静させた後に同様の操作にて麻酔 した. 2)血行動態の測定 麻酔を施した実験犬は右側臥位をとらせ四肢を 固定した..頚部および鼠径部の手術野を電気バリ カンにて悌毛,露出させた.実験中の血行動態の 指標として,大動脈圧(aortic pressure以後AP と略す),呼吸数(respiratory rate以後RRと略 す),平均中心静脈圧(central venous pressure以後CVPと略す),頚動脈血流量(carotid How以 後CFと略す),頚動脈酸素分圧(carotid artery
oxygen pressure以後PaO、と略す),心電図
た. これらの,具体的方法は以下のごとくである. a)AP測定のために右大腿三角部に皮切を加 え,右大腿動脈を十分剥離し露出させ,19Gロング エラスター(艶出K.K.)を挿入し,血圧トランス デューサーP・50(日本光電K,K)に接続した. b)CVP測定のために,右大腿三角部の皮切部 より,右大腿静脈を露出,16G中心静脈栄養用カ テーテル(アーガイル社)を右心房付近まで挿入 し血圧トランスデューサーP・50(日本光電K.K.) に接続した. c)CF測定のために左頚部に皮切を加え,左総 頚動脈を剥離露出させ,電磁血流計プローブ, type−FC(blood now transducer,日本光電K.K.)
を装着,電磁血流計MFV−1200(日本光電K.K.) に接続した. d)PaO2測定のために, CF測定の時に露出し た左総頚動脈の電磁血流計プローブ装着部より末 梢にインサーションアダプター(クラレK.K.)を 用いて,微少クラークタイプPO2センサー(クラ レK.K。)を留置しイントラバスキュラーPO2モニ ター636(クラレKK.)に接続した. e)ECG測定は,両上肢と両下肢に針電極を刺 入留置し,標準四肢誘導法の第二誘導を記録した. 以上,AP, CVP, CF, ECGはポリグラフ (multlpurpose polygragh。140.6チャンネル,三 栄測器K.K.)に接続して観察し,ポリコーダー(三 栄測器K.K.)に実験全経過を連続的に記録した. PaO2については,イントラバスキュラーPO2モ ニター636の記録紙に同様に実験全経過を記録し た. なお,カテーテル類については,血栓防止のた めに,各カテーテル挿入と同時に,ヘパリン(ノ ボヘパリソナトリウム,武田製薬KK.)を1mg/kg 静脈内に投与した. 3)進行性低酸素状態の作成 実験犬の気管内チューブを写真1に示したよう な容積8,8リットルの吸引瓶を改造したものに接 続し外気と完全に遮断し閉鎖腔を作成した. 4)対照群(A群) 対照群として,16頭の実験犬を用いて,進行性 写真1 閉鎖腔として用いた吸引瓶 低酸素状態を作成し,呼吸停止に至らしめ,さら に心停止に近い状態(即ち心電図上高度の徐脈を 呈し,大動脈圧および頚動脈血流量の何れか一方 が殆んど0になった状態)を確認後,直ちに100% 酸素により人工呼吸器(ACOMA AR・300)を用い て,一回換気量を20ml/kg前後として毎分20回目 人工呼吸のみによる蘇生を5分間行なった,この 際の,AP, RR, CVP, CF, PaO2, ECG,を経時的 に記録した.5分間の人工呼吸による蘇生を行 なった後に,さらに5分間人工呼吸を止めて, 100%酸素の自発呼吸で同様の項目について記録 した. 5)心マッサージ併用群(B群) 15頭の実験犬を用いて,前項のA群と同様に, 進行性低酸素状態を作成し,呼吸停止から心停止 に近い状態(A群と同様)を確認後,A群と同様 の人工呼吸を行なうと同時に,用手胸壁圧迫心 マッサージを併用し蘇生を行なった.心マッサー ジは,実験犬を右側臥位にして,側胸部で心拍動 を最も強く触れる部分を,大動脈圧のモニターで 有効と考えられる強さで,毎分60回で行なった. 5分間の心マッサージ後は,さらに5分間A群と 同様に100%酸素の自発呼吸で同じ項目について 記録した. 以上の各測定の概略を要約すると,図1のごと
.ノ ※※ 血管内酸素分圧 測定装置 医^、 ※※ 電磁血流計 AP. CVp. CF. ECG. ※ 表1 実験経過時間と蘇生可否 A群(対照群) B群(心マッサージ併用群) ※ ポリグラフ 図1 実験模式図 くなる.なお有意差は各項目ともt検定にて算出 した. 実験結果 表1に実験経過時間と蘇生成功の可否を示し た.A群では実験開始より呼吸停止まで,5分か ら16分30秒まで分布,平均12分5秒であった.さ らに,呼吸停止より心停止状態,即ち人工呼吸に よる蘇生開始までの時間は,1分から4分まで, 平均2分10秒であった.同様に,B群では,呼吸 停止まで,8分50秒から21分で,平均12分30秒で あった.さらに,心マッサージ併用による蘇生開 始までの時間は,1分から4分で平均1分54秒で あった.これらの経過時間については,当然両群 の間に有意差は認めなかった.しかしな:がら,A 群では,16頭中11頭が人工呼吸のみで蘇生されて いるのに対し,B群では,15頭中14頭が蘇生に成 功している.蘇生成功率をみると,A群68.8%に 対し,B群では93.3%で明らかにB群での蘇生率 が局かった. 次に,それぞれ両群の中で蘇生に成功したもの について比較した. 1)APの変動について
図2にA群の,そして図3にB群の実験開始か
ら蘇生後までのAPの経過を示した. APはA群, B群共に,実験開始より約10分間はほとんど変化 を認めなかった.両群共に,呼吸停止の頃より急激 な血圧低下を示した.呼吸停止の時期の血圧はそ 呼吸停止 ? 間 ェ秒 心停止 ? 間 ェ秒 蘇生 ツ否 No. 呼吸停止 ? 間 ェ秒 心停止 ? 間 ェ秒 蘇生 ツ否 1 13’5” 2’10” 否 1 9’30” 3’30” 可 2 9’ 1’ 可 2 10’ 2’30” 可 3 16’30” 1’40” 可 3 16’ 2’ 可 4 14’10” r30” 可 4 9145” r10” 可 5 10’ 2’20” 否 5 9〆 40” 可 6 16’ r2D” 可 6 10’30” 1130” 可 7 14ダ40” 3’15” 可 7 1r 2’ 可 8 5「 3’20” 可 8 8κ50”r
可 9 5’20” 4’ 可 9 9’10” 2’10” 可 10 1r50” 2’30” 可 10 13κ50”r
可 11 12’ 2’ 可 11 21’ 2’20” 可 12 14’10” r40” 否 12 18’30” 4’ 可 13 13’ 2’ 可 13 13’45” 1’45” 可 14 15’30” rlO” 可 14 12’30” 1’50” 否 15 1r 2’40” 否 15 15’ 1’ 可 16 12’10” 21 否 mmHg 300 200 100一収縮期
・一一一.拡張期 人工呼吸 0 mmHg 300 200 5 工0 15 20 25min 図2 APの変動(A群) 100 一)収縮期 ・一一・拡張期 0 5 10 15 20 図3 APの変動(B群) 25min れそれ,A群で105.2±45.5/57.0±30.2mmHg, B 群で130.3±50。1/61.4±29.9mmHgであったが, その後輪か2分前後で両群共に心停止状態を来た している.そして,5分間の蘇生終了後には,A 群が,105.2±28.8/45.3±18.7mmHgでB群が, 143.5±40.2/67.3±29.5mmHgであった.それからさらに5分間経過した時点では,A群が127.4± 52.ユ/65.0±36.5mmHgで, B群は158.3±62,5/ 83。4±44。2mmHgであった.それらいずれの時点 においても,両群間に有意差は認めなかった. 2)RRの変動について
図4にA群の,図5にはB群のRRの変動を示
した. A群は実験開始時に26回/分の平均呼吸回数が 最大72回/分に,B群では,開始時28回/分が88回/ 分にと増加している.両群とも,APの低下と殆ん RR./面n 100 50 人工呼吸一
RR./min 100 50 0 5 10 15 20 25rnin 図4 RRの変動(A群) O D lO 15 20 25min 図5 RRの変動(B群) ど同時に急激にほぼ直線的にRRの低下を示して 呼吸停止に至っている.蘇生中は,両群ともに20 回/分の人工呼吸を行なっており,その蘇生直後の 平均呼吸回数は,各々30回/分と32回/分で,その 後は多少減少して,両群共に28回/分となった.こ れらの蘇生後の平均呼吸数の変動については,有 意差を認めなかった.そして,実験開始の時の呼 吸数と比較しても変らず,呼吸数に関しては,蘇 生の前後による影響を受けていないと考えられ た. 3)CVPの変動について図6にはA群の図7にはB群のCVPの変動を
示した. A群では,実験開始時0.8±0.4cmH20であっ たCVPは心停止時に最大15.5±7,5cmH,Oとな り,蘇生開始5分で4。1±2.2cmH20,10分で3.2± 2.8cmH20であった. B群では,実験開始時0.3± 0.2cmH20であり,心停⊥と時に最大,14.8±7,8 cmH20,蘇生開始後5分で3.4±1.9cmH20,10分 で2.0±1.3cmH20であった.両群ともに, APの 変動(図2,図3)とは対称的にCVPは,実験開 始より約10分間はほとんど変動せずに,そと後急 激に上昇し,心停止の時点で,最高値を示してい る.ここで,蘇生が施されると,蘇生中に著名に CVPは低下した.蘇生後のCVPを比較すると, cmH20 20 10 0 5 !0 15 20 25mln 図6 CVPの変動(A群) ml/min 200 100 o 5 10 15 20 図8 CFの変動(A群) 25mir1 cmH20 20 ⊥0 人工呼吸+ 心マッサージ 、 、 、 、 、\ト升
0 5 10 15 20 25min 図7 CVPの変動(B群) m〃mln 200 100 人丁』郵吸+ 心マッサージー
0510152025nlirユ
図9 CFの変動(B群)蘇生後10分を経過した時点の数値はB群で有意 (p<0.10)に低値であった. 4)CFの変動について
図8にはA群の,図9にはB群のCFの変動を
示した. A群では実験開始時のCFは113.2±38.5ml/ minであったが,低酸素状態の進行に伴いCFは 漸増し,最大165.3±55.2ml/minと約42%の」血流 増加を示した.この血流量は,低酸素状態がほぼ 10分を経過した時点より急激に減少し始めて,心 停止に近い時点では,2.0±1.1ml/minほとんど 0に近い値となった.同様に,B群では,開始時 のCFが116.4±42.5ml/minで,最大血流量が 153.0±62.3ml/min,心停止に近い状態の血流量 は,1.7±1.4ml/minであった.心停止に近い状態 より開始した蘇生により,両群ともにCFは著明 に増加し,蘇生中の時点で比較すると,A群が, 29.2±25.5ml/minであるのに対し, B群では 57.4±21.7m1/minと有意差(p<0.01)を認めた. さらに,蘇生終了後で比較しても,A群が48.3± 23.2ml/minでB群では79.0±27.8m1/minと,こ の時点でも有意差(p<0.02)を認めた.しかしな がら,蘇生終了10分を経過した時点での比較では, それぞれA群が73.0±30.3ml/min, B群が90.4± 24.8ml/minと有意差は認めなかった. mmHg lOO 50 人工呼吸 0 mmHg 100 50 5 10 15 20 25min 図10 PaO2の変動(A群) 入山n乎旧吸→一 心マッサージ 0 5 10 15 20 25min 図11PaO2の変動(B群) 5)PaO2の変動について 図10にはA群の,図11にはB群のPaO2の変動 を示した. PaO2は両建ともに実験開始より4∼5分間ま では比較的急激に低下し,その後,緩徐に低下, あるいは代償的に僅かな増加を示し,10分を過ぎ た頃より,AP, RR, CFの低下, CVPの上昇と殆 ど同調して低下した.A群の呼吸停止時のPaO2 は28.5±12.2mmHgで実験開始時の29.4%に相 当した.心停止に近い状態の時点のPaO2は, 15.9±8.5mmHgで,16.4%に相当した.同様にB 群では,呼吸停止時のPaO2が22.9±11.5mmHg で,実験開始時の24.0%,そして,心停止に近い 時点では,13.3±9.3mmHgで13.9%であった.両 群ともに蘇生を試みると明らかなPaO2の上昇を 認めた.これを蘇生終了直後の時点で比較してみ ると,A群では,55.0±22.5mmHg, B群で, 75.9±22.9mmHgとA群に比し,有意(p〈0.05) に高値を示した.同様に,蘇生10分後の状態をみ ると,それぞれ,A群61.2±20.1mmHg, B群で 80.2±19.OmmHgでやはり巨群間に有意差(p〈 0.05)を認めた. 6)ECG異常についてA群,B群ともに心停止までのECGの主変化
は全て高度の洞性徐脈であり,心室細動や,心室 粗下等を呈したものは全く認めなかった.また,蘇生された後のECGにもやはりA群B群ともに
特別な異常は認めなかった. 考 察1874年にMartiz and Schiffがchloroform麻
酔剤による実験動物の心停止に対して,心マッ サージが有効であると提唱し,その後,臨床に於 ては,Hank14)が初めて心マッサージを行ない,さ らには,1901年にKristian Igalsudが開胸下心 マッサージの臨床での成功例を報告15)して以来, 心停止に対しては当然のごとく開胸式心マッサー ジが行なわれ続けた. 1960年にKouwenhovenら16)により報告された 閉胸式心マッサージは,それ以後の多数の報告を みても,実に有効な方法であるといえる.閉胸式 心マッサージ法は言い換えるならぽ,胸壁外心臓
圧迫法とも言える.これは,胸骨の下1/3を圧迫す る事で心臓を胸骨と脊椎の間にはさみ,圧縮する ことにより,心臓内腔の血液を,他動的に送り出 し,元来の心臓の有するポンプ作用を代行しよう としたものであった.閉胸専心マッサージは,先 ず,いっでも,どこでも,誰にでも簡単に行なえ る点で,開胸式心マッサージに比べて,明らかに 蘇生の方法としての利点が認められている.一方, 合併症については,閉胸翻心マッサージについて
も今までに実に数多くの報告がなられてい
る17)18).しかしながら,Saferら19)は,閉胸式心マッ サージによって引き起される程度の損傷は,患者 の予後や生存に対してあまり影響を与えないと述 べている.実際の臨床においても,従来より肋骨々 折を起こすくらい,強く積極的に行なわれないと, その十分な効果を期待できないとし,止むを得な い合併症として是認する意見が多いのも事実であ る.最も重要と考えられる心筋障害については, Stephensen20)は閉胸式心マッサージを行なった 17,000例の集計より心筋の障害は,ほとんど認め られなかったと報告している. 手技の簡単さ,合併症がさほど大きな問題にな らないことに加えて,1961年には,Reddingら21) が,犬を用いて,閉胸式と開胸式のそれぞれの心 マッサージ施行時の頚動脈血流量の測定により, その有効性については,両者間に差を認めないと 述べており,その循環動態改善の効果においても, 閉胸爆心マッサージの効果は認められている. 今回,著者の実験において作成したhypoxiaの 状態は,決められた量で閉鎖された酸素を消費し, 徐々に進行性の低酸素状態を来たすのと同時に, 呼気中の炭酸ガスを同じ閉鎖腔内に放出している ので,当然,炭酸ガスの蓄積を伴っている.した がって,hypercapneaを伴なう形の呼吸不全であ る.Hypoxiaも緩徐に進行した場合と,著者の実 験の様に急激に進行した場合とでは,当然生体の 代償機転が異なり,急激な進行性のhypoxiaにお いては,慢性のhypoxiaに際して見られるような 骨髄の代償作用は全く関与しているとは考えられ ず,呼吸,循環によってのみ代償される.実際に, 今回の実験において,実験開始後に大動脈圧の上 昇,呼吸数,頚動脈血流量の増加としてこのこと が示された. ショックについては,種々の分類があるが22),下 記の3つの形を基本として考えることが妥当であ る. 1.Cardiogenic shock(心臓性ショック) 心機能の急激な滅退によるもの 2.Hypovolemic shock(低量性ショック) 循環血液量の減少によるもの 3.Vasogenic shock(血管性ショック) 魚期抵抗の急激な減少によるもの 今回,著者の実験で作成した進行性hypoxic shockは,心原性ショックに相当する.いずれの ショックであっても,それが高度の場合には, ショック離脱のためには心肺蘇生法は必要不可欠 のものである.従来より,心肺蘇生法については, 先ず,第一選択として,人工呼吸を行ない,しか る後に,脈拍が触れないのが確認されてから心臓 マッサージを行なうという手順で説明され,行な われてきた.しかしながら,臨床の実際において は,脈拍が触れなくなる心停止以前に心臓マッ サージを開始し蘇生に有効な成果を得ていること がすでに報告されている.織畑はこれを補助心臓 マッサージとし,以前より有効性を説いている. 著者は,予備実験として,hypoxic shock犬に おいて蘇生法を施行するにあたり,先ず,人工呼 吸を行なってから心臓マッサージを行なうか,あ るいは,先ず心臓マッサージを行なってから引き 続いて人工呼吸を行なうかのいずれの方法が有効 であるかを比較した.すなわち,今回の実験で用 いた方法と同様にして,実験犬を心停止に近い状 態に至らしめ,一群は先ず人工呼吸による換気を 行なってその後心臓マッサージを行ない,他の一 群では心停止後先ず,心臓マッサージを行なって から人工呼吸による換気を行なった.これら両群 について比較してみたが,蘇生率,および蘇生中 あるいは蘇生後の循環動態においても,有意差を 認めなかった.そこで人工呼吸と心臓マッサージ の有効性を確かめる目的の為,今回は,人工呼吸 による蘇生と,人工呼吸に心臓マッサージを併用 した蘇生法の両者を行ない,特にその蘇生法の施行中から蘇生後にかけての循環動態を測定し検討 を加えた. 循環動態の指標として今回用いたのは,AP, RR, CVP, CF, PaO,である. AP, RRについては, 蘇生法開始の時期や蘇生した後の自発呼吸検討の 為の指標として考えた.CVPについて教室の大館 は,その実験において,呼吸性hypoxic shockで はその程度を知るのに,CVPが最も鋭敏な指標で あると報告23)しており,著者は今回の実験で,確か にRRがhypoxiaの進行とともに増加し,それが 急激に減少するのにあたかも反比例するように CVPの上昇を認めた.しかしながら,実験開始初 期においては,CVPにさほど大きな変化はみられ なかった. 他方,Kouwenhovenらにより提唱された,閉胸 式量マッサージ法以後,現在まで約20年間に蘇生 率は飛躍的に進歩向上したと考えられるが,一方, いわぽ,post−resuscitation diseaseといわれる脳 への障害も多く報告がなされてきている.蘇生後 の脳障害については,以前は,襟細胞のanoxiaや hypoxiaに対する脆弱性がいわれていたが,現在 では,それ以外にも次のようなことがいわれてい る. (1)Amesら24)や,浅野ら25)がいう蘇生後血流 が再開しても,心停止中に起こった血管内血液貯 留,血管内血液成分の凝集により,循環が一様に ならない,no−renow phenomenon.(2)根本26)の いう脳血管のautoregulation失調等による蘇生 後の血管床の異常増大.(3)新井27)のいう脳血管 内皮細胞の変性による血管透過性の異常充進とそ れに伴なう脳組織への水分の移行.(4)Hossman ら28)や,Drewesら29)のいう,脳のhypoxiaによる 傍細胞機能低下を維持するためのglucoseの枯 渇,ATP合成能の低下による脳組織の変性,があ げられている.これらはいずれにしても,脳浮腫 の形で現われ,頭蓋内圧充進,さらに,脳潅流圧 の低下,脳血流量の低下を引き起こす.そしてま た,脳のhypoxiaを増悪する悪循環となりうる. これらの病態に対して,最近Saferらの提唱して
いるCPCR (cardiopulmonary−cerebral
resuscitation)が必要とされている.それで,今回 はCPRのみでなく, CPCRの面を考えて脳への 血流量,脳のhypoxiaの程度の指標として,CFや PaO,の測定を行なった.その結果についてみる と,実験開始とともにPaO2はかなり急速に低下 を示し,その後実験中期になると,比較的緩徐な 低下に変わる.これと対応して,CFはPaO2の低 下する実験初期より,このPaO2低下を代償する ように増加を示した.そして,PaO2低下が緩徐に なる頃になると,CFの増加傾向も緩徐になった. その後は,閉鎖腔の酸素が消費されPaO2が急激 に低下しだすと,それまで代償していたCFも代 償しきれずに急激な低下を示すようになった. 心停止に近い状態よりの蘇生において,人工呼 吸のみでの群と,心マッサージを併用した群につ いての比較では,心マヅサージ併用群で蘇生成功 率が高くなるのは,教室の大舘16)が報告している とうりで当然の結果と考えられる.これは,織 畑8)∼12)のいう,補助心マッサージの有効性をみて も明らかである.今回,呼吸停止より心停止に近 い状態,すなわち,蘇生法を開始するまでの時間 が,対照群で2分10秒,心マッサージ併用群で1 分54秒であった.教室の固鎚16)は,実験で,呼吸停 止後の経過と蘇生成功の可否について, 安全;期(100%酸素下に人工呼吸を行なうと確実 に蘇生する時期) 危険期1(上記に心マッサージを加えると確実 に蘇生する時期) 危険期2(上記の方法でも蘇生が不確実な時期) 蘇生不能期(上記の方法では蘇生が全く不可能 な時期) の4期を提唱している.それぞれ時間的には,呼 吸停止より安全期が2分5秒以内,危険期1は, 3分25秒以内,危険期2は10分40秒以内,蘇生不 能期は10分40秒以後と述べている.これと比較し てみると,今回の実験では,表1でみられるよう に,蘇生開始までに4分間かかっていても,人工 呼吸のみで蘇生されたものもあり,また,1分50 秒でも心マッサージを併用しても蘇生されなかっ たものなどもあった.これは,主に蘇生を開始し ようとした時期,すなわち心停止に近い状態の判 定の差によるためと考えられた.蘇生開始時期については,今回の実験では,APの脈圧が0になっ た時点か,あるいは,CFが0になった時点か,い ずれかの早い時点とした.この時点では,多くは ECG上では,まだ電気的活動を認めていた.その 時点の電気的活動の程度がぼらつきを生じた主因 となったと考えた. 蘇生中あるいは蘇生後の循環動態についてみる と,APについては,蘇生施行後の時点においては 両群間に全く有意差を認めな:いが,当然,心マッ サージを併用して蘇生を行なった群においては, 心マッサージ施行開始の目安をAPの波形によっ て判断したので,少なくとも冠循環,脳循環に対 しては,最低限の血液の供給は保たれたと考えら れ,実際にはこれが,対照群と心マッサージ併用 群の蘇生成功率の差となったと思われた. CVPについては,蘇生中や蘇生直後の時点で は,対照群と心マッサージ併用群の問に有意差を 認めなかったが,蘇生後5分を経過した時点にお いては,心マッサージ併用群でCVPが有意に低 くなっていた.大館の言う,呼吸性ショックの指 標としてはCVPが最も鋭敏かつ有効であるとい う事と考え合せると,心機能の回復に対しては, 心マッサージを併用した方が良好であると思われ た. CFについては,当然,心マッサージを併用して いる群では,対照群と比較して高値を示すのは理 解出来るところである.心マッサージが有効に行 なわれれば,一層この頚動脈への血流増加は顕著 であると考えられる.さらに,脳循環に対する, no・reHow phenomenonを考え合せると,現実的 にも,頚動脈の血流が一時的にでも静止されるよ うな状況においては,極力早期に心マッサージを 施行し,頚動脈内の血液を循環させる必要がある. PaO2を考えてみると,今回の実験においては,蘇 生過程あるいは蘇生後の全経過において心マッ サージ併用群では,有意にPaO2の上昇を認め,心 マッサージを併用することで,より酸素化された. 酸素分圧の高い血液を末梢循環に送っている事に な:る.この点からみても,心マッサージを併用す る事が明らかに蘇生を行なう上で有効である. 以上,CVP, CF, PaO2の蘇生中ならびに蘇生後 の変動についてみると,心マッサージを併用した 群について,CVPの低下, CFの増加, PaO2の上 昇を認めた.これらは,低酸素性ショヅク状態か らの蘇生において,人工呼吸のみによる方法と, それに心マッサージを併用した場合の両者の蘇生 成功率に差が生じたことを示した. 実際の臨床においては,従来よりいわれている ように,まず人工呼吸を行ない,脈拍が触れなく なってから初めて心マッサージをするのではな く,脈拍が触れなくなる前に人工呼吸と同時に心 マッサージが開始されなくてはならないことを示 唆した.今回の実験により,臨床上でも,特に心 マッサージを早期に行なうことがCPRとしての みでなく,CPCRの面から考えても,明らかに有 効かつ必要であると思われた. 結 論 閉鎖腔の空気を呼吸させることにより作成し た,進行性hypoxic shock犬を用いて,その心停 止に近い状態からの蘇生を,一群は,人工呼吸の みで行ない,翼々は人工呼吸に補助心マッサージ を併用して行ない,両群について蘇生させる過程 の循環動態を比較することで次のような結果が得 られた. (1)人工呼吸のみの群の蘇生成功率は,68.8% で,人工呼吸に心マッサージを併用した群の蘇生 率は,93.3%であり,進行性hypoxic shockより の蘇生成功率は明らかに心マッサージ併用群で高 値であった. (2)大動脈圧,呼吸数,各々の変動については, 人工呼吸のみによる群と,心マッサージ併用群の いずれも,蘇生の過程,あるいは,蘇生後におい ても両潮間に有意差は認めなかった. (3)平均中心静脈圧の変動は,蘇生中,蘇生後 よりも,その後において,心マッサージ併用群で 有意に低値であった. (4)頚動脈血流量の変動は,蘇生中ならびに蘇 生直後では,心マッサージ併用群で有意に高値で あった. (5)頚動脈血酸素分圧の変動は,蘇生の全経過 を通して,心マッサージ併用群で有意に高値で あった.
以上の結果により,進行性低酸素状態の蘇生に おいては,人工呼吸単独よりも,人工呼吸に,補 助心マッサージを併用する方が,有効であること が明らかとなった. 稿を終わるにあたり,御懇篤なる御指導,御校閲を 賜わりました東京女子医科大学第2外科学教室主任, 織畑秀夫教授に謹んで感謝の意を表します.さらにま た,終始,御助言,御協力いただいた教室の諸先生な らびに,直接御指導を賜わりました鈴木忠助教授に 心より感謝申し上げます. なお,本論文の要旨は,昭和61年7月5日,第21回 日本救急医学会関東地方.会において発表した. 文 献 1)旧約聖書:列王紀下掛4章.32∼34節,日本聖書協 ’ 会東京(1960)
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York(1977) 9)織畑秀夫ほか:閉胸式心臓マッサージーその手技 と効果一.小児科臨床 15:1012−1020,1962 10)織畑秀夫:小児の蘇生法,とくに心臓マッサージ を主に.小児科 4:89−95,1965 11)織畑秀夫:救急処置としての心臓マッサージー特 に閉胸忠心マッサージー.災害医学4: 635−643, 1962 12)織畑秀夫:閉胸式心臓マッサージ.呼吸と循環 10 :745−751, 1982 13)栗原正典:出血状態における「補助閉胸式心マッ サージ」の効果に関する研究.東女医大誌 47: 576−593, 1977 14)飯塚邦雄1出血性ショックにおける「補助心マッ サージ」の効果に関する研究,東女医大誌47: 751−764, 1977 15)徳田剛爾=胸骨圧迫心マッサージにおける循環動 態の検討一特に胸骨圧迫率と圧迫持続時間の及ぼ す影響一.東女医大誌 55:311−322,1985 16)大回敬一:呼吸性hypoxic shockの病態と蘇生 法の効果と限界について.東女医大誌47: 12−24, 1977
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