日本の国際貢献と学術交流
著者名(日)
塩川 正十郎
雑誌名
井上円了センター年報
号
14
ページ
3-18
発行年
2005-09-20
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002758/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja︿記念学術講演﹀
日本の国際貢献と学術交流
塩川正十郎§ぎミきー
ご紹介いただきましたように、私もこの東洋大学と、ふとした縁で長いお付き合いをさせていただくようにな りました。その間、東洋大学のためにも働きましたが、自分自身もずいぶんと勉強になったと懐かしく思ってお ります。 実は二日ほど前になってから秘書に﹁演題は何だ﹂と聞いたら、こういった難しいテーマでして︵笑︶。しか し、長い政治活動の中で私が経験したこと、また将来の日本のあり方の一つとして、学術交流を通じての国際貢 献は非常に大きいテーマになって来ると思っておりますので、そのような面について、自分がかねてから思って いるようなことを申しあげたいと思っております。 二週間ほど前、京都で国際ガン治療学会がございまして、その記念講演として﹁国際貢献と学術﹂という、不 思議と同じようなテーマでお話しいたしました。しかし、今日は全く違いまして、日本はどの程度、実際に学術 的な面で国際貢献し得るかということ等について、若干申しあげてみたいと思っております。 奈良に薬師寺がございますが、実は、私はその責任役員を四〇年間、ずっと若いときからやっております。そ の縁がございまして、シルクロードのサマルカンドに行きました。実はウズベキスタンは中央アジアの真ん中な 3 日本の国際貢献と学術交流のです。タジキスタンとかカザフスタンとか色々とございますが、そのちょうど真ん中です。そこに、かつての シルクロードとして、日本の多くの方々が行っておりますけれども、そこを中心にした鉄道の建設をやりたいと いうことがございました。中央アジアには五つの国がございますが、それらの国が集まってお互いに連絡し合う にも何もない。道路も満足に続いていないのです。しかし、同じ民族の関係にある国ですから、ぜひ自分達でお 互いの国が連絡できる鉄道が欲しいというのが念願なのです。 それと同じ頃、アメリカがアフガニスタンを制圧いたしまして、現在、その民主化を進めております。それに 関連してパキスタン、アフガニスタン及び中央アジアを経由して、ロシアにつなぐ鉄道を建設して、南北を結ぶ 鉄道を造ることこそウズベキスタンが描いている鉄道でございまして、それに日本の力を借りようということで あります。行きましたら、鉄道の知識など何もないところで、中央アジアの五ヵ国の大統領がみんな集まって、 とにかく﹁やりたい、やりたい﹂とばかり言っておりました。しかし、私はJICA︵国際協力機構︶を通じて ﹁研究してみよう﹂ということで話をまとめて帰ってまいりました。 そのときに私がふと思いましたのは、こういう社会基盤の基になる技術が、発展途上国では不足していて、こ のような面に我々はもっと力を尽くしてあげたらいいなと考えました。ウズベキスタンのような発展途上国で 今、一番必要なのは、真を極める学術の大学とか、あるいは教養も大事でしょうが、そういったものよりはもっ と実務的なもの、すぐに役立つ、例えば機械とか、あるいは土木、建築、あるいは文科系でしたら読み書きそろ ばんのテクニック、簿記とか会計とか、そのような実務に通じたものなのです。しかし、これらに対する日本の 貢献は非常に薄い。日本の外国との関係としては、大学の研究交流はやっているけれども、そのように実際に明 日から間に合う、極端に言えば職人として必要なもの、あるいは生活基盤、社会基盤を作るために必要な技術の 4
交流は外国に対して非常に少ないということが分かってまいりました。 そこで私はJICAとJBIC︵国際協力銀行︶に、まずウズベキスタンを中心とした中央アジアに鉄道の建 設と同時に技術の学校を作ってやってもらったらどうだろうかと考えました。さもないと、鉄道を造っても、ど うやって動かすのかということから教えていかなければなりませんし、また、その技術が多少はあったとして も、メンテナンスとか、あるいはそれをうまく活用していくソフトの面について、多大な教育分野が残されてい ると思います。そういったものについて、やはり日本がやるべきだと私は思います。 従来から日本のODA︵政府開発援助︶は、国際交流のたびに膨大な資金を使ってまいりました。従来は年間、 約一兆二〇〇〇∼三〇〇〇億円も使ってきたのです。私が財務大臣になってから、無駄がないように、この金の 使い方を思い切り締めました。しかし、それでも今、一兆円近くもございます。 日本の予算が苦しい中で、外国との交流でこれだけお金を使っているのですから、少しは日本のことを、外国 も喜んでくれればいいと思うのですが、全く違います。ODAを受ける側は例えば国民 人あたり一五〇〇ドル 以下の国とか、人口と面積の比率として、非常に広大な国土を持っているため密度の低いところとか、色々と条 件がございますが、いずれにしても、そのようなODAの資金を使っているのに、それを受ける国民の側は﹁日 本が本当に我々の国のためにやってくれた﹂という感じがほとんどない。 その つの極端な証左として、二〇〇八年に北京でオリンピックが開会されますが、このオリンピックを北京 にするか日本の大阪にするかということで、10Cの投票がございました。そのときの参加国は一〇〇ヵ国あり ましたが、日本に賛成した国はたった四票。中国は二六ヵ国です。何もやっていない中国が二六ヵ国も投票支持 を受け、 生懸命、ODAでアフリカとか中南米に施設を作り、あるいは食料援助なども色々やって来た日本が 5 日本の国際貢献と学術交流
たった四票です。しかも、東南アジアのごく一部の限られた国しか、日本に投票してくれなかったのです。つま り、ODAというものは多大な金を使いながら、日本の貿易の一形態であるというぐらいにしか思われていない のです。即ちハードの面で色々な施設や建物は造るが、それを有効利用するソフトの面の支援をしていないから ODAの金が真の価値ある支援となっていないのであります。﹁これは改めなければいけない﹂ということで、 ODAのあり方を反省したわけです。ちょうどそのときに、先ほど申しあげた中央アジアの話が出てまいりまし た。これを提案いたしましたら、確かにそういった生活の技術、生活の匠となるような分野における学術の交流 や、支援というものを全くやっていないということになり、支援について今、色々と関係する方々で協議してお ります。その中心となっているのが、先ほど出たJBIC、JICAでありますが、最近は大学が直接その国の 大学と提携して技術提供することも出てきました。 IRRI︵国際稲研究所︶というものがございます。これはフィリピンのマニラ郊外、ルソン島を ○○キロ 北へ上がったところに研究所がございまして、なかなか景色のいいところです。これは日本では全く知られてお りませんが、国際的に非常に評価の高い研究所で、三〇年前設立されたときは日本が多額の拠出金を提供してい ます。 ここに世界各国の学者が四〇〇人集まっているのですが、日本の学者がたった ○人なのです。ほとんどは外 国の人、しかも外国の中でも東南アジアの方も少しおりましたが、インドの方が非常に多く、それから、やはり アメリカの方が多いのです。アメリカでも白人ではなく褐色の方なのです。こういった人達が多くいて、私も交 流してまいりました。 その施設を、中心となって運用しているのは国際機関ですが、そこに一番大きな金を注ぎ込んでいるのは、実 6
は世界銀行と日本なのです。私も見てびっくりしたのですが、日本の負担として、年に一〇億円近く注ぎ込んで いるのです。そのくせ、学者がたった四人で、しかも学生のような学者です。その中で大塚先生という方から私 達は色々と説明していただきました。﹁確かに施設を作るのに日本はものすごく出してくれたし、世界銀行も出 してくれた。ところが、年間の研究費が約一億ドル近く要るけれども、日本は持分が非常に少ない﹂﹁どこが多 いのか﹂と聞いたら、やっぱりアメリカなのです。ですから、アメリカに頼って研究していることになってい る。﹁おかしいじゃないか。なぜ、日本にもっと言ってくれないのだ﹂と言うと、﹁日本はこういう面には一銭も お金を出してくれない。あなたのところの財務省が一番渋っている﹂と。それで省に聞いてみたら﹁いや、全然 要求が出て来ないから、主計局のほうで計算しようがありません﹂と。 つまり、もので見えるものには日本はお金を出した。﹁病院を建てろ、学校を建てろ。﹂しかし、そのような 学術の研究費、世界的に活躍している研究所の研究費には金を出さない。こんな変なことをやっているのです。 やはり、どこかボタンを掛け違っているところがあります。 今度、交渉いたしまして、日本のほうからいいテーマを出しています。日本からIRRI研究所に出している テーマは﹁あまり水を使わないで稲を育てていく技術を開発する﹂ということです。世界的に稲作をしていると ころには水が足りない。水の豊富な日本の稲作りは水稲ですが、この技術は世界には通用しません。すると、水 はあまり使わないけれども立派な、おいしい米を作る。この]番の原型となる研究が最も進んでいるのはカリフ ォルニアなのです。 そこで、日本とカリフォルニアとの共同で﹁これには日本はお金も沢山出しましょう。そして、その成果を東 南アジアや中東の地域に普及してもらいたい﹂ということを伝えました。すると、あちらからもこちらからも、 7 日本の国際貢献と学術交流
要するに﹁学術のソフト面で応援してほしい﹂と言ってくるものがずいぶん出てきました。﹁日本はそんなもの に金を出さない﹂と思っていたのはやはり違っていた。 やはり日本は﹁知識﹂に金を出すということをしてこなかったのです。﹁知識﹂に金を出そうという運動をし なければ、いかに﹁国際貢献と学術の交流﹂を言ってみても始まらない。そこで私は今﹁良かったな﹂と思うこ とが一つあります。それは、平成 六年度から適用されているのですが、一五年度に成立した試験研究費の大幅 な増額です。この増額のときに問題になったのは、実は大学のあり方なのです。今まで国・公立の大学の教授 は、教育公務員特例法に縛られて、先生の意志を尊重するばかりで、先生に対して文教政策に協力させる方法が なかったのです。 ところが、国立大学が文部科学省の管理から離れ、独立大学法人になった。そのときに大学側で二つに意見が 分かれました。﹁大学が独立行政法人になるのはいいけれども、やはり文部科学省の管轄下に置いておいてもら わないと、月給が保証されない﹂そんな先生方がいる一方、﹁いや、教育公務員の特例法に縛られないで、おれ 達が自由に活動できるように身分の束縛を解いて欲しい﹂という先生、この二つがありました。優秀な先生ほど 後者のほうであります。ところが、いち早く東大と京大、阪大に東北大が、﹁教育公務員の特例法を撤廃してく れ﹂と言って、今はそうなっています。ところが、義務教育の先生方はこの特例法撤廃又は改正に反対していま す。撤廃できないなら、先生の異動とか人事権というものを教育委員会がしっかりと握れるようにしようという のが、今、知事が言っている﹁義務教育を一般財源に換えてくれ﹂ということです。 大学のほうは将来の展望に自信があるから﹁おれ達の自由にやらせてくれ﹂と言ってきましたが、﹁その代わ り、金は満足に付くか、付かないか分からないそ、更に、試験研究費をもっと増額してくれ﹂という要望でし 8
た。一つの例があります。﹁税金で試験研究費を作ってくれたらいい。会社が払う試験研究費の枠を思い切り撤 廃してくれ。そうすれば、大学の研究者が会社と共同で話をして、こういうテーマで一緒に勉強しよう、研究し よう、という運動が起こってくる。そういった競争をやる。そこに我々学者の生きる道ができる﹂と主張してい きました。日本には未だ活力がある。やはり規制撤廃が正しいと認識しました。私は﹁これは確かに経済の活性 化に結びつく﹂と思って、平成一六年度から、そのような税制措置、試験研究費の枠を一兆円増額しました。こ れはずいぶん効いています。 これは非常に大きい小泉の改革です。﹁小泉は何も改革していない﹂と新聞はぼろくそに言っていますが、新 聞は勉強が足りないから、こんなことを言っているのです︵笑︶。それはものすごい活力になって、今の経済界 の活力の源泉になって来ているのが事実です。この税制改革に着目して外国企業が日本企業を買収して研究費を 経費で落とさせようと合理的に考えてきました。 これは日本の経済、日本の学術振興にとっては非常にいいことなのですね。世界各国から学者が集まって来 て、研究を活力化する。ことを構えて学術貢献、あるいは国際的にどうつきあっていくかと計画を立てなくて も、色々なスタイルでこれに貢献し得ると思います。 ODAの検討を国際貢献の面から反省してもっと知的貢献に協力することが必要であると同時に、これからの 国際的な活動の中で、どうやって日本が繁栄を保っていくかということです。今の日本の経済はものづくりを中 心として働いてきたわけです。確かに日本人は器用だし、また、物真似がうまい。ですから、どんどんいいもの を取り込んでいって、自らの新しいアイデアを加えて経済の成長、貿易の振興に努力し、今日の繁栄を築いてま いりました。これは東西冷戦の状態の中において、日本の高度経済成長が成功したのです。しかし、地球全体が 9日本の国際貢献と掌術交流
一つの市場経済になった場合どうなるだろうか。日本にとっては非常に不利な条件になってきます。 第↓に労働力が全然違うということ。それから流通のネットワークが全く違うということです。そのようなこ とを思うと、ものづくり、通商貿易を中心とした日本の経済だけで、今まで得て来たような付加価値の確実な経 済効果というものを把握できるだろうか。これは非常に問題だと思います。従来の貿易による付加価値は、労働 分配率として我々の所得の向上に役立ってきました。これが頭打ちになると、新たに生産性に代わるものを見つ け出さなくてはならない。実は、それには国際交流が一番大きな問題だろうと思います。﹁国際交流﹂あるいは ﹁国際貢献﹂というと、何か知りませんが、すぐにイラクと結びつけた軍事行動をおっしゃる方がいます。しか し皆さん、よく考えてみてください。国際貢献を怠ったときこそ、日本は非常に苦境に立ったのです。 明治以来、日本は絶えず西洋の大国のあいだで協力し合ってきました。ある人に言わせると﹁日本は隷属し た﹂と言うかもしれません。そうではない。日本はお互いに協力しあって来た。その一例として日英同盟です が、このバックボーンの中で、日本は確実に近代化を進め、そしてある程度、国の基礎も固めてまいりました。 第 次大戦が終わって、日本は﹁五大大国だ﹂などとおだてられて、もう日本は近代国家として成功したとい うことで孤立の道を歩きました。大正末期から昭和にかけてのことです。世界から見ると、日本が孤立してしま っていることを日本人自身が分かっていない。﹁これが国威の発揚だ﹂などとばかな感覚でものを言う。とたん に起こったのが貿易摩擦、要するに関税障壁です。一変に日本は貧乏になりました。そして、昭和二∼四年の不 況のさなか、銀行はつぶれる、会社はつぶれる。食っていくために、満州へ出てしまったのです。ますます孤立 化への道を歩き、結局は昭和二〇年の悲劇に結びついたわけです。 日本は、資源もない小さい国です。孤立してどうするのかということなのです。しかし、最近、どうも孤立化 10
への道を歩みつつあるのは非常に残念なことです。一方において、経済界はますますグローバリゼーション化し ていこうとしている。この二つの流れをどこで政治が中和し、それをうまく日本の真の実力に結びつけるか、こ れは政治家の大きな使命です。ひとつのテーマとして、良きにつけ悪しきにつけ問題となるのはイラクの貢献、 そしてまた北朝鮮への介入の仕方です。また、ASEAN諸国と日本とのつきあいをどう考えるか、中国との交 流をどうするか、こういったことを大人としての気持ちで話をしなければならない。どうも今、日本人の考え方 は小児病的、子供っぽい考え方なのです。 三〇年前、アメリカはベトナム戦争を収めるため、どうしてもパリ条約を成立させなくてはいけないときに、 中国はかたくなに反対し、パリで平和会議が開かれなかったのです。そこで、ニクソン大統領が急に決心して、 側近中の側近であったキッシンジャー国務長官に某夜、密かに北京を訪問させ周恩来と話をして、とにかくベト ナム問題を平和解決するためにパリ条約の交渉を始めるのです。﹁中国はものを言わないでくれ、その代わりに アメリカは中国のために協力しよう﹂という約束をいたしました。そのときの約束は何だったか。﹁台湾には 是々非々主義で付き合うから、絶対、従来の台湾とは違う﹂ということを約束いたしました。この会談でベトナ ム休戦が成立したのです。 国際問題というものは、そういった手があります。ですから今、日本がどこと対立している、どこと仲がいい ということは、永遠不滅のものではないわけです。それに対応して、絶えず柔軟な態度を持って進まなければい けないと思います。そのような態度を持って国際貢献に望まなければならない。そうすることが一つの生きる道 なのです。最近、私達のところに、こういったお話がございました。 今、ラオス、カンボジア、ベトナムの三国は社会主義政権から脱却し、独立国家として細々と食っていけるの 11 日本の国際貢献と学術交流
ですね。確かに惨めなところです。私もその合同会議に呼ばれ、日本の政府代表として、ラオスの首都のビエン チャンに行ってきましたが、本当に惨めな生活でした。そのような国が六ヵ国︵中国、ミャンマー、タイ、ラオ ス、カンボジア、ベトナム︶集まりまして、﹁メコン川の総合開発をやってくれ﹂と言うのです。しかし、これに 対して日本は今まで﹁金がない﹂と逃げてきたのです。金がないと言うけれども、先ほど言ったODAの金、一 兆円以上のものを使っているではないか。これはいったい何に使っているのか。足もとのASEAN諸国で﹁メ コン川の開発をやってくれ﹂といって、なぜできないのか。 彼らの言うには、メコン川の源流は中国の青海省、一番山奥です。揚子江の源流とそんなに離れていません。 そこから延々と五〇〇〇㎞にわたって川が流れているのです。そして、まず雲南省に入り、雲南省からミャンマ ーに入り、ミャンマーからタイに流れ、タイからラオスに流れ、カンボジアに流れてベトナムに注ぐ。延々五〇 〇〇㎞です。この間、落差が四七〇〇mありますので、簡単なフィージビリティをやったら、ここでうまくやれ ば七〇〇〇万ぽの電力ができるだろうというのです。 黒四ダムには第一、第二、第三、第四とダムがあって、黒部川には全部で七つのダムがあります。あそこで発 電されるものを全部集めても三〇〇万⋮⋮しかない。それがメコン川で七〇〇〇万鼎出る。しかも、これをやるこ とによってダムを作り、そこから導水を引っ張って来て、それで田んぼの灌慨用水を作るのです。﹁ゴールデン トライアングル﹂と言われた麻薬の巣の辺りも、豊富な農地となり農民は喜ぶでしょう。あんなカサカサのとこ ろでは麻薬、ケシの花しか作れないのが、水で潤って来るのです。同時に、それによって電気ができる。電気が できたら政治が変わります。電気のないところに文化は興らず、民主主義はありません。ですから、電気を作 る、これは大変な国益に繋がってきます。六ヵ国が集まったところに、その私の計画書が出ました。 12
私達が昭和四五年から琵琶湖総合開発というものに手を付けました。今、近畿地方は水害もないし水の供給も 何も心配ない。いわゆる理想的な水の管理ができている地域です。つまり、琵琶湖の平均水位をだいたい海から 八五mに設定し、一m五〇㎝増えても減っても、三mの幅で調整ができる。そうすれば、一〇〇日間、一滴の雨 が降らなくても水の供給に不自由はないのです。やっと二〇年で何とかなった。メコン川は五〇〇〇㎞あるので すから、その総合開発は二〇年どころか、おそらく一世紀掛かるであろう。しかし、この間に日本が技術的、人 事的、経済的にどんどん応援し、そこでの産業は日本の企業で起こしてもいいではないかということです。技術 指導もできる。学術的な教養と、いわば知識の供給もやっていける。そういったものに取り組んでみようではな いか、と小泉総理に申しあげましたら、小泉さんは大賛成です。 ちょうどそういった話が出て、外務省もこれに非常に力を入れております。外務省のアジア局第二課というも のがございますが、そこらがその地域を担当して今、一生懸命です。今、測量とか基礎研究、フィージビリテ ィ・スタディ︵実行可能性調査︶を行う基礎資料を集めております。同時に行政能力を勉強する機関や大学を建設 して土木・工学の技術を教育する機関も必要になっているのであります。 こうすると、ちいさな貿易で稼こうとして、コストダウンだ、リストラだと言って、お互い同士でいがみあっ ているような状態から思い切って転換する。これにはやはり若い方が﹁そうだ、それで行こうじゃないか﹂とい う空気ができなければいけない。そういった空気を作るのは、私は大学だろうと思うのです。大学が﹁明日、ど こへ就職するか﹂といった小さいことで学生の尻を叩いていたのではいけない。やはり、昔の学者ではありませ んが、遠大な理想を学生に与え、学生が感動するようなプログラムを開示していく必要があるのではないかと思 うのです。 13 日本の国際fi献と学術交流
そして、日本の産業の構造は通商貿易、ものづくり中心、これは離してはいけません。日本の基本的な産業の 基盤はものづくりです。しかし、これのみによって今までに蓄積したような富にさらに追加して富を得ようとい う、こういった考え方では通用しません。もっと国際貢献の中で、日本の新しい経済力の実力を発揮する方法を 考えなければいけないということです。 これとよく似た話が、実は北朝鮮を中心とした地域に出てきています。いずれは北朝鮮の問題も片を付けなけ ればならない。片付くだろうと思います。あんな状態で、いつまでも独裁政権が維持できるとは思いません。 今、北朝鮮ではものすごいインフレが起こり、実に貧富の差がひどくなって来ました。その原因は、二年前に北 朝鮮で経済改革をいたしまして、一ドルが○・八ウォンだった。これを一ドルが一五〇ウォンに改革して、もの すごい切下げをしたのです。約二〇倍ですね。すると結構、北朝鮮の貨幣が国際的に通用するのです。そこで起 こって来たのが﹁ヤミ経済﹂なのです。どんどん南から北へ、闇物資が流れていくのです。核兵器がどうのこう のと言っていますけれども、そんな問題などより、要するにそういった現実の進行状態を見た場合、いずれは北 朝鮮のほうも平和的な解決をせざるを得ないだろうと私は思います。 そうなった場合、北朝鮮だけの経済開発というわけにはいきません。これは国のメンツもあるだろうと思いま す。北朝鮮を中心とした中国の吉林省、ロシアのアムール川、沿海州、シベリア、この地域を一体とした北北東 アジアの開発が世界的に一番遅れているところにランクされます。メコン川も世界的に非常に遅れた地域です。 ここの開発はロシアも期待しているし、中国も期待している。もちろん北朝鮮も期待するでしょう。 そういったときに日本がやはり主導権を取っていく。そのときには国際貢献のあり方が問題になってきます が、日本は、今のような﹁グッドウィル﹂、人の善意によって日本の平和と安定を保つというような憲法の下で 14
いいのか。ここが非常に大事なところです。ですから、日本は自由な、自分の意志による安全保障の確保という ことをきちんとしておかなければなりません。 そのようなことを思いますと、日本がこれからやるべき問題はたくさんある。その一つとして、この演題の原 点に戻りまして﹁学術交流﹂というものをどうするか。学術と言っても、先ほど冒頭に申しあげたように、色々 なテリトリーの学術があります。その中で日本として﹁この分野においては国際貢献を思い切りできる﹂という 分野です。 今、よく言われるように﹁選択と集中の時代﹂です。選択を間違って﹁あれもこれも﹂とやったところはみん な失敗します。﹁まず、これをやろう﹂という方針を決めなければならない。それには実務的、専門的な知識を、 そのような開発途上国に植え付ける。この学術交流を通じて、これを国際貢献のいわば仕事に結びつけていって 成果を挙げる。こういったことをやらなくてはならないのではないかと思っております。 質疑応答 質問1 こんにちは。東洋大学の五八年卒のスズキと申します。気宇壮大なテーマでお話しいただいたときに 恐縮なのですが、ファイナンシャルプランナーの仕事をやっておりまして、仕事がら、年金がことあるごとに引 かれるのですけれども、一般家庭で例えれば、年収四〇〇万円のお父さんが、毎年八〇〇万円浪費する嫁さんを 抱えて、しかも一億円の借金があるという。こういった家計で、本当に将来やっていけるのかということです。 私は立場上﹁公的年金第一だ﹂と一生懸命訴えているのですけれども、いま一つ、説得力がないのです。本当 に将来この国は大丈夫なのかと。塩川先生のお考えをお聞きしたいのですが、いかがでしょうか。 15 日本a)国際貢献と学術交流
塩川 それなら年金をテーマにしてください。またいずれこちらに来て、年金をきちんとお話しします。中途 半端な時間内でお答えすると、かえって誤解を受けますから。 年金はやはり根本的に変えなくてはいけない。どこを変えなくてはいけないか。今の日本の年金の制度は説得 保証の年金制度なのです。これを生活保障の年金に変えなければいけない。それは色々なテーマがありますか ら、それはそれで私はちゃんと説明いたします。質問としてはいいだろうけれども、今日はそんなテーマではな いし、それをテーマにして話すと三〇分、四〇分頂かないと誤解が起こってもいけませんから、どうか、そのつ もりでお願いいたします。 質問2 メコン川のお話は非常に感動いたしました。ちょっと生臭くなりますけれども、小泉さんは、福田さ んをお兄さん、塩川さんをお祖父さんですか、お父さんですか? そのようなことを新聞で見たことがあるので すが、塩川さんの言うことだと聞いてくださるというお話なので、期待したいと思います。一方では全く人の意 見を聞かないのではないかという話もあるのですが︵笑︶。 それはどうでもいいのですが、ODAで今、中国の方にも日本がお金をたくさん出しているという話を聞きま す。今はもう中国は開発途上国ではなく、日本よりも発展しているのではないか。もうこの辺でODAを切って もいいのではないかという話もあるのですが、その辺はいかがでしょうか。 塩川 今、まさに問題でして、中国にはODAの残高として、おそらく合計で二兆四〇〇〇億円ぐらいあるで しょう。これで、さらに従来のペース、年問二五〇〇億∼三〇〇〇億円のペースで中国に支援していくかという ことになれば、これは問題があるということで、二年ほど前からこのペースを落としてきました。今年はおそら く、一六〇〇億ぐらいになっていると思います。では、これからどうするかというと、いわば新しい投資に対す 16
る中国のODAはもう中止、もうやらないということです。 しかし、従来から進めている電力開発、河川改修、それから一部の通信施設、及び医療や教育といった人道的 配慮の事業、そういった社会基盤に関する継続事業に対しては、やはり続けていく。もう一つは中国の西部開発 があります。主として北のほうでは蘭州、それから南のほうでは重慶、四川省から西の方。これらの地域開発に ついてはケースバイケースで実施しましょうということです。すると、今後の日中経済関係で新しい形の資金を 考えなければいけない。それは合弁事業です。それから、共同開発という面に対する援助は新しい分野としてや らなくてはいけないということだと思います。 質問3 こんにちは。私は生命科学部に今、↓年として在籍しています。先ほどバイオでアジアの中で貢献で きるのではないかというお話がございました。今、私は生命科学部で、まだあまり専門的なことは学んでいない のですが、やはり将来、研究などの分野で海外にも出て行きたいと考えています。今、大学生のあいだに何かし ておいたほうがいいというアドバイスがあれば、お願いいたします。 塩川 そうですか。それは非常に真面目に考えておられますね。例えば色々な研究所があります。私は先ほど 一例としたIRRIなどは稲を中心としたもの。その他にインドネシア等においては、穀物を中心としたもの、 それから動物もあります。色々なものがあります。もちろん食物だけではなくて、医学や鉱山に関するものもあ ります。 ですから、もしあなたが﹁こういう分野で国際的な研究所で一回、勉強したい﹂ということであれば、その所 属の学部長と相談されて、どの分野がいいか。自分がやりたいという意志を明確にすることが大事です。そうす れば、そのような研究機関でどこがいいかという、そういった紹介は私がやってあげます。世界各国にあります 17 日本の国際貢献と7術交流
から、それだけの意欲を持って、東洋大学でどんどん積極的なものに取り組んでください。先生と相談されて、
あなた自身が何を勉強したいかということをまず決める。それなら私もお手伝いさせていただきます。