家庭の揚げ廃油の劣化度と炒め調理への再利用
久 保 加 織
*・池 田 和歌子
*・北 島 美 樹
*・伊 藤 知 子
** アブストラクト邦訳 28 家庭の揚げ廃油を回収し、劣化度を調べるとともに、炒め調理に用いることの可能性について 検証した。その結果、1 回の揚げる調理で油を廃棄する家庭が最も多く、油の廃棄理由は揚げ油の 色と回答した人が最も多かった。家庭から回収した揚げ廃油のカルボニル価、酸価、相対粘度、極 性物質量、トコフェロール含量を分析した結果、今回回収した全ての揚げ廃油はまだ使用可能な油 であると考えられた。揚げ廃油を用いて玉ねぎを炒め、炒めた玉ねぎから抽出した油を分析した結 果からは、多くの揚げ廃油が炒め油に用いることができると考えられた。家庭では揚げ油の廃棄基 準を油の色や揚げ回数で判断することが多かったが、分析データから、油の粘度を廃棄基準として 用いることができる可能性が示唆された。Deterioration of waste frying oil in the home
and reuse for stir-fry cooking
Kaori Mukai KUBO・Wakako IKEDA・Miki KITAJIMA・Tomoko Fujimura-ITO
Abstract
We collected frying oil discarded after deep-frying (waste frying oil) from 28 homes, and examined their degree of deterioration. Much of waste frying oil is disposed after a single deep-frying, and the most common reasons for discarding oil were the color and number of times used for frying. An analysis of the carbonyl values, acid values, relative viscosities, polar substance content, and tocopherol content revealed that all waste frying oils were considered to be usable. We stir-fried onions with waste frying oil and analyzed the oil extracted from the onions. As a result, it was thought that most waste frying oil could be used for stir-frying. The data suggested that the viscosity of the oil could be used as the standard for disposal.
キーワード: 揚げる調理、揚げ廃油、炒め調理、劣化、粘度、Deep fry cooking, Waste frying oil, Stir-fry cooking, Deterioration, Viscosity
緒言 食用油の酸化がヒトの健康に悪影響を及ぼす という情報は広く知られている。健康志向の高 まりもあり、これまでのアンケート調査から得ら れた結果の報告では、家庭の揚げる調理で用い られた油が、劣化がそれほど進行していなくて も廃棄されている可能性が指摘されている1-3) 。 揚げる調理に用いた油は、暫定油脂分析試験法 * 滋賀大学 ** 帝塚山大学 による官能評価における風味の分類で、油っぽ く、重く、油臭く、口中での消去性の悪い状態 である「風味点数 3」になった時点が使用限界 の目安とされている4) 。「風味点数 3」になるま での揚げ回数は、揚げ種によって異なるが、動 物性食品で 2 ∼ 3 回、植物性食品で 4 ∼ 5 回程 度であり、「風味点数 3」になった時点の揚げ 油のカルボニル価、過酸化物価、アニシジン価 の値はいずれも食品衛生上問題がないと報告さ れている5,6) 。しかし、家庭での調理において、 「風味点数 3」を調理担当者が適切に判断する基
準を持つことは難しく、また、食用油がどの程 度劣化しているかの科学的指標を家庭に取り入 れ、測定して判断することも難しい。家庭では、 油の劣化を油の色や臭いから判断することがほ とんどであるという報告もある3) 。 本研究は、家庭での揚げる調理によって廃棄 される油(以下、揚げ廃油という)の性状が実 際にどの程度であるか実測し、家庭における油 の廃棄状況を把握することを目的とした。そし て、家庭で揚げる調理に用いた油を適切な時期 に廃油にする判断指標についても考察した。さ らに、使用に問題のない揚げる調理に用いた油 が破棄されることを解決する一つの方策とし て、揚げる調理に用いた油を炒め油に利用する ことの可能性についても検討した。 実験方法 1.試料 2005 年 12 月に食用サラダ油(日清オイリオ、 1,500 g)30 本を購入し、29 家庭に配布した。各 家庭に、通常に行う揚げる調理を配布した油で 実施するとともに、揚げる調理を実施した日、 揚げ種の種類とおよその量、使用後の処理等に ついて調査票に記入するように依頼した。さら に、各家庭の調理担当者が廃棄すると考える油 となったもの(揚げ廃油)を提出するように依 頼した。2005 年 12 月から 2006 年 7 月に、28 家 庭から揚げ廃油を回収し、実験に用いるまでの 間、直ちに窒素を注入して冷凍保存した。家庭 に配布しなかった食用サラダ油 1 本は、対照の 新鮮油として用いた。 2.揚げ廃油を用いた炒め調理と炒め油の抽出 対照の新鮮油と各家庭から回収した揚げ廃 油を用いた炒め調理は、下記のように行った。 すなわち、炒め調理当日、もしくは前日に大津 市内あるいは京都市内のスーパーマーケットで 購入した玉ねぎを約 0.5㎝角のみじん切りにし て部位に偏りがないように全体を混ぜ、120 g を採取して炒め具とした。ステンレス製フライ パン(直径 20cm、アカオアルミ)を電磁調理 器(MR-121、東芝)の上に置いて目盛を弱温 と中温の間にセットし、フライパンの表面温度 が 90℃になったところへ油 20 gと炒め具(玉 ねぎ)を投入した。菜 を用いて撹拌しながら 5 分間炒め、炒めた玉ねぎから直ちに後述する 方法で脂質を抽出し、炒め油とした。また、炒 め操作中の温度変化をデジタル温度計(D612、 TAKARA)で測定した。炒め具(玉ねぎ)を投 入せずに新鮮油 20g を用いて同様の操作を行っ た時を空炒めとした。
炒めた玉ねぎから、Brigh and Dyer7)
の方法に よって脂質を抽出し、炒め油とした。なお、脂 質抽出時に脂質が酸化されるのを防ぐために、 予め最初の抽出溶媒であるクロロホルムとメタ ノールの混液(1:2)に BHT を 0.01% 混合し た。抽出した炒め油含量の測定は、常法の乾燥 法8) で行った。 3.試料油の科学的性状の測定 脂質の酸化の程度を測定するために、カルボ ニル価(CV)と酸価を日本油化学協会による基 準油脂分析法に準じて測定した9,10) 。また、オス トワルド粘度計を用いて、50%グリセリンを指 標とし、40℃における相対粘度を測定するとと もに、極性化合物量(PC)を極性化合物簡易測 定装置 PC テスター(住友スリーエム)により 測定した。なお、炒め油は、抽出物であるため に、粘度と PC の測定は行わなかった。 脂質を 14%ボロントリフルオロライドメタ ノール溶液(シグマアルドリッチジャパン)を 用いてケン化及びメチルエステル化し、ガスク ロマトグラフ(GC-14B、島津)により分析し た。カラムには HR-SS-10(0.25㎜×25m、シン ワ化学)を用い、キャリアガスはヘリウムとし て、スプリット比は 1:30 とした。カラム温度 は、200℃で 12 分間保持した後、1 分間に 10℃ ずつ 220℃まで昇温し、220℃で 120 分間保持し た。注入部及び検出部温度は 230℃とした。な お、検出器には FID を用い、データ処理はクロ マトパック(C-R6A、島津)により行った。 脂質に含まれるトコフェロールは高速液体 クロマトグラフ(LC10AD、島津)を用いて定量 した。カラムにはコスモシール 5SL-Ⅱ(4.6mm ×250mm、ナカライテスク)を用い、移動相に はヘキサンと 2- プロパノールの混液(99.5:0.5) を使用し、流速は 1.0ml/min とした。検出は蛍
光検出器(RP-10Axl、島津)を用いて蛍光光度 (Ex297nm,Em327nm)により行い、内部標準 には 2,2,5,7,8- ペンタメチル -6- ヒドロキシクロマ ン(エーザイ)を用いた。データ処理はクロマ トパック(C-R8A、島津)で行った。 結果及び考察 1.家庭における揚げる調理の状況と揚げ廃油の 性状 各家庭から回収した揚げ廃油の状況を表 1 に 示した。各家庭が廃油にするまでの家庭での揚 げ回数は、1 回が 32.1%で最も多く、次いで 3 回と 4 回が 21.4%、2 回が 10.7%、5 回と 7 回が 7.1%であった。これまでの報告と同様に、多く の家庭で使用回数の少ない油が廃棄されている ことが明らかになった1-3) 。 揚げ種は、手作りの動物性食品(鶏肉の唐揚 げ、エビフライなど)が最も多く、次いで手作 りの植物性食品(野菜の天ぷらなど)、冷凍の動 物性食品(豚カツ、メンチカツなど)、冷凍の植 物性食品(コロッケ、フライドポテトなど)で あった。出現頻度は、フライが最も多く、次い で唐揚げ、天ぷらであった。北尾ら1) は、揚げ 調理の出現頻度をフライ、天ぷら、唐揚げと報 告しており、今回の結果もほぼ同様であった。 使用後の油は、油を 2 回以上使用した 19 家庭 のうち、1 家庭を除き、紙もしくは金網で濾し てから保存しており、紙を用いる家庭のほうが やや多かった。また、使用回数の多い家庭のほ うが、紙で濾す割合が高かった。 油の廃棄理由は、油色が最も多く、次いで揚げ 回数、油粘度であった。梶本は、学生を対象とし た調査で、廃棄理由が最も多かったのは油色で、 次いで使用回数であったと報告しており11) 、今回 の結果はこれと同じであった。油を 1 回使用し て廃棄にした家庭では、自由記述に油の酸化に ついて言及していることが多かった。表には示 していないが、普段の廃油の処理方法を尋ねた ところ、紙に吸わせたり凝固剤で固めたりして 捨てる家庭が 18 家庭(64.3%)と最も多く、廃 油の回収に出すが 3 家庭(10.7%)、炒め油とし て使用するが 3 家庭(10.7%)であった。滋賀県 は、琵琶湖の汚染防止に対する意識が高く、廃 油回収システムが整備されている地域もあり、 廃油の回収に出す家庭が 1 割あった可能性があ る。 回収した揚げ廃油の CV、酸価、相対粘度、 PC、トコフェロール含量を表 2 に示した。新鮮 油の CV は 3.2 で、この値よりも低い揚げ廃油 はなかった。新鮮油の酸価は 0.03 で、揚げ廃油 の中には、新鮮油より酸価の低い油(No.7)も あった。厚生労働省は、弁当及びそうざいの原 材料となる油脂は酸価 1 以下(ただしごま油は 除く)、過酸化物価 10 以下に適合するものを用 いることとし、揚げ処理中の油脂が、発煙、い わゆるカニ泡、粘性等の状態から判断して、酸 価が 2.5 を超え、発煙点 170℃未満、CV50 を超 えた状態に該当するに至り、明らかに劣化が認 められる場合にはその全てを新しい油脂と交換 することとしている12) 。厚生労働省の指導基準 である酸価 1 以下、CV50 以下に適合しない揚 げ廃油はなかった。 新鮮油の PC は 2.3%で、揚げ廃油の中で新鮮 油の値よりも低い値のものはなく、最も高い値 は 13.3%(No.11)であった。日本では、PC を 廃油の基準としていないが、欧米では、PC が 法規制上の基準となっていることが多く、各国 の許容値は、25%前後である13) 。藤村は、PC20 ∼ 25%で厚生労働省の基準を満たすことから、 この値を廃棄の指標として推奨している14) 。一 方、原らは、酸化指標だけでなく、風味評価も 合わせて検討を行い、PC15%程度までの揚げ油 を使用するのがよいと報告している15) 。本研究 で得られた家庭の揚げ廃油は、いずれも欧米の 国々の廃棄基準に比して低い値であり、原らの 示した嗜好面も考慮した廃棄指標の 15%を超 えていなかった。さらに、相対粘度やトコフェ ロール含量の値からも破棄すべき揚げ油と判断 する要素はなかった。 油の劣化程度の指標値からは、揚げ回数が多 い揚げ廃油ほど劣化が進んでいる傾向がみられ たが、必ずしも揚げ回数順や使用日数順に劣化 が進んだ油とはいえなかった。また、揚げ種の 種類等からの傾向も認められなかった。北尾ら の報告では、揚げ回数とともに酸価は高い値を 示したとされ16) 、揚げ種が動物性食品のほうが 野菜類よりも CV の値が高くなるという報告17)
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もあるが、本研究での家庭の揚げ廃油の場合に は、様々な条件が組み合わされているため、明 確な傾向が認められなかったと考えられる。 新鮮油の脂肪酸組成は、オレイン酸 42.5%、 リノール酸 38.0%、パルミチン酸 8.2%、α-リ ノレン酸 7.4%、ステアリン酸 2.7%、イコセン 酸 0.5%、アラキジン酸 0.3%、パルミトレン酸 0.1%であった。揚げ廃油のほとんどは新鮮油と 同じような値であった。揚げ種に海産物を用い た家庭の揚げ廃油にイコサペンタエン酸が含ま れる場合があったが、微量であった。 以上のように、今回の研究で得られた家庭か ら回収した揚げ廃油は、すべてまだ使用が可能 な油であった。揚げ回数が 7 回という揚げ廃油 でも、酸化の指標を示す科学的データから、使 用に適さないと判断される値は認められなかっ た。特に、揚げ回数が 1 回の揚げ廃油の劣化はあ まり進んでいないと判断できるものであった。 2.家庭揚げ廃油の炒め調理への利用の可能性 玉ねぎを各種油で炒めた時の温度変化を図 1 に示した。玉ねぎを投入せずに油(新鮮油)のみ を加熱した空炒めの場合、温度上昇は継続し、5 分後には約 250℃になった。しかし、玉ねぎを s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s ț ⥲㔞 㓟౯ ࢺࢥࣇ࢙࣮ࣟࣝྵ㔞PJ ࢝ࣝ࣎ࢽࣝ౯ 1R ᴟᛶ ྜ≀ 㸦㸣㸧 ┦ᑐ ⢓ᗘ Ș ș Ț 表 2 家庭から回収した揚げ廃油の科学的性状 1)No.0 は、新鮮油(未使用油)を示す。 2)平均値±標準偏差を示す(N ≧ 3)。
投入した場合は、100℃を超えた温度にまで上昇 することはなく、玉ねぎの水分の蒸発に伴う気 化熱により、温度が 100℃以上には上昇しない ことが明らかになった。このことは、今回用い たサラダ油だけでなく、未使用の大豆油や菜種 油、オリーブ油でも確認している(データは示 していない)。一方、家庭からの揚げ廃油を用 いて玉ねぎを炒めた場合、新鮮油に比べ、温度 の上昇がさらに抑えられており、揚げ回数の多 い揚げ廃油(No.1)ほどその傾向が大きかった。 玉ねぎに含まれる水分以外に、揚げ種から揚げ 廃油に移行した水分による気化熱の影響もうけ るためではないかと考えられる。 揚げ廃油を用いて炒め調理をし、炒めた玉 ねぎから抽出した脂質の CV、酸価、トコフェ ロール含量を表 3 に示した。新鮮油の CV は 9.7 で、揚げ廃油を用いた炒め油のなかには、それ より低い値を示したものもあった。炒め調理後 の CV が揚げ廃油の時より低くなった検体も約 半数あった。これらは、炒め操作によって、そ れまでに生じたカルボニル化合物が分解された り、揮発したりして減少したためではないかと 考えられる。酸価は炒め操作後のほうが高くな る傾向がみられたが、例外もあった。トコフェ ロール含量はほとんどの油で炒め調理により減 少していたが、全くなくなった検体はなかっ た。炒め調理による脂肪酸組成の変化はほとん ど認められなかった。福井らは炒め調理を行う ことで、リノール酸やリノレン酸などが減少し たと報告している18) が今回はそのような減少傾 向は見られなかった。 厚生労働省の指導基準である CV50 以下に適 合しない炒め油は 1 検体(No.2)、酸価が 2.5 を 超えた炒め油は 1 検体(No.1)であった。これ らの 2 検体は、油を開封してから 140 日間以上 にわたり、7 回の揚げる調理を行い、揚げ種は 動物性、植物性の多岐にわたる食品であり、他 の検体と比較して揚げる調理に多く使用されて いると判断される。特に No.2 の調理担当者か らは、泡の状況も廃棄理由としてあげられてお り、油の状況を調理担当者が適切に判断してい る様子が推察できる。今回の結果からは、No.1 や No.2 の揚げ廃油は炒め油に使用せず廃棄し たほうがよいと考えられた。しかし、これ以外 の家庭から廃棄された揚げ油は、炒め調理に使 える可能性があると考えられる。 以上の結果から、本研究において家庭から回 収した揚げ廃油には、使用に適さないほど劣化 が進んでいたものはなく、No.1 と No.2 の揚げ 廃油以外は、廃棄と判断されて以降も何回かは 使用可能な油であると考えられた。さらに、そ れらは、炒め油に使用しても問題はほとんど無 いと考えられた。北尾らは、冷凍ミンチカツを 用いた揚げる調理を繰り返して行った際に、初 回の新鮮油を使用した時よりも数回揚げる調理 で使用した油を用いて得られたミンチカツのほう ✵⅗ࡵ ᪂㩭Ἔ ᥭࡆᗫἜ1R ᥭࡆᗫἜ1R 㻜 㻟㻜 㻢㻜 㻥㻜 㻝㻞㻜 㻝㻡㻜 㻝㻤㻜 㻞㻝㻜 㻞㻠㻜 㻞㻣㻜 㻟㻜㻜 ᗘ Υ ⅗ࡵ㛫⛊ 図 1 玉ねぎの炒め調理時の温度変化 フライパンの表面温度が 90℃になったところに油 20g と約 0.5 ㎝にみじん切りにした玉ねぎ 120g を投入し、菜箸を用いて撹 拌しながら 5 分間炒め調理を行った。
が官能評価で高得点であったと報告しており16) 、 我々も同様のデータをアジの衣揚げ(フライ) 調理においてこれまでに得ている(データは示 していない)。池上らは、揚げ回数 1 回の魚の素 揚げについて、揚げ油と魚の油の間に質的交代 が起きることを認め、魚を揚げることで淡白な 食味になる原因を植物油が吸収されることにあ ると報告しており19) 、揚げ油と揚げ種に含まれ る油の質的交代が何度か起こった時が食味に深 みが増すと考えられる。これらのことからも、 家庭で用いられる揚げ油の廃棄の在り方につい て、今後さらに詳細な検討を重ねるとともに、 その結果を広く広報し、家庭で、まだ使える揚 げ油を早期に廃棄せずにおいしい揚げ物を作る 油として利用するよう働きかける必要があると 考える。 本研究では、家庭で揚げ油を廃棄する基準に なっているものには、油の色と揚げ回数が多い ことが明らかになった。今回分析した揚げ廃油 のデータの相関係数からは、相対粘度と CV、 PC との間にそれぞれ r=0.701、r=0.664 の正の相 関が、相対粘度とトコフェロール含量の間に r= −0.427 の負の相関が認められた(表 4)。市川 は、モデル実験の加熱油において、過酸化物価 と CV と酸価を合算した値と PC との間に強い 相関を認めたが、実際に厨房で用いられていた s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s s 1R Ș ș Ț ț ⥲㔞 ࢺࢥࣇ࢙࣮ࣟࣝྵ㔞PJ 㓟౯ ࢝ࣝ࣎ࢽࣝ౯ 表 3 家庭から回収した揚げ廃油を用いた炒め調理後の油の科学的性状 1)No.0 は、未使用油を示す。 2)平均値±標準偏差を示す(N ≧ 3)。
油では、モデル実験のような相関は認めなかっ たと報告している20) 。家庭では、過酸化物価や CV、酸価だけでなく、PC テスターを準備して 油の劣化度を測定することは難しい。また、揚 げ種の種類や量は様々であり、科学的性状値へ の影響も多様であるため、どれか一つの指標を 測定して、それを劣化の指標にすることも難し いと考えられる。そのようななかで、油の粘度 を家庭での揚げ廃油の判断指標として用いるこ とができれば、より適切な油の廃棄につながる 可能性がある。各家庭での揚げ調理の実態に近 い形で研究を進め、油の粘度と劣化についての データを集積し、廃油の判断指標の確立に向け た検討を進めていく必要があると考える。 要約 28 家庭の揚げ油を回収し、劣化度を調べる とともに、炒め調理に用いることの可能性につ いて検証した。その結果、1 回の揚げる調理で 油を廃棄する家庭が最も多く、油の廃棄理由は 揚げ油の色と回答した人が最も多かった。家庭 から回収した揚げ廃油の CV、酸価、相対粘度、 PC、トコフェロール含量を分析した結果、今回 回収した全ての揚げ廃油はまだ使用可能な油で あると考えられた。揚げ廃油を用いて玉ねぎを 炒め、炒めた玉ねぎから抽出した油を分析した 結果からは、多くの揚げ廃油が炒め油に用いる ことができると考えられた。家庭では揚げ油の 廃棄基準を油の色や揚げ回数で判断することが 多かったが、分析データから、油の粘度を廃棄 基準として用いることができる可能性が示唆さ れた。 本研究を進めるにあたりご協力いただいた 方々に深く感謝いたします。 参考文献 1 ) 北尾敦子、倉賀野妙子、奥田和子:家庭におけ る揚げ油の使用−環境にやさしい食生活−、日 本調理学会誌、29、17-24、1996 2 ) 安藤真美、西池珠子、原知子、深見良子、藤村 浩嗣、的場輝佳、水野千恵、村上恵、山下貴稔、 湯川夏子、伊藤知子、井上吉世、大野佳美、櫻 井愛子、杉山文美、高村仁知、武智多与理、中 原満子:家庭における食用油の利用状況と健康 に対する意識、日本調理科学会誌、36、274-283、 2003 3 ) 細矢理奈、和泉眞喜子、赤坂和昭:一般家庭に おける植物油(揚げ油を中心に)の使用状況と 品質管理および意識についての調査、尚嗣学院 大学紀要、69、129-136、2015 4 ) 日本油化学協会:暫定油脂分析試験法、日本油 化学会(東京)、2、1981 5 ) 日本調理科学会近畿支部揚げる・炒める分科会: フライ油の使用限界に関する研究(Ⅱ)揚げ種に よる違い、日本調理科学会誌、29、26-30、1996 6 ) 原知子、石津日出子、井上吉世、大鹿淳子、大 江隆子、梶本五郎、金谷昭子、高村仁知、竹井よ う子、中原満子、西池珠子、林淑美、深見良子、 福井広子、藤井美沙子、堀内撮之、真砂佳美、 的場輝佳、水野千恵、椴山 薫、夜久富美子、湯 川夏子:フライ油の使用限界に関する研究(Ⅲ) フライ油の風味点数と揚げ物の評価、日本調理 学会誌、31、214-219、1998
7 ) E.G.Bligh and W.J.Dyer:A rapid method of total lipid extraction and purifi cation,
、37、911-917、1959 8 ) 日本食品科学工学会:「新・食品分析法」、光琳 (東京)、2006、pp.6-9 9 ) 日本油化学協会:基準油脂分析試験法、日本油 化学会(東京)、2.5.4、2003 10) 日本油化学協会:基準油脂分析試験法、日本油 &9 㓟౯ ᴟᛶ≀㉁ ┦ᑐ⢓ᗘ ࢺࢥࣇ࢙࣮ࣟࣝྵ㔞 &9 㓟౯ ᴟᛶ≀㉁ ┦ᑐ⢓ᗘ ࢺࢥࣇ࢙ ࣮ࣟࣝྵ㔞 表 4 家庭から回収した揚げ廃油の科学的分析値の相関係数 Pearson の相関係数,*<0.05,**<0.01
化学会(東京)、2.3.1、2003 11) 梶本五郎:家庭における食用油の使用と使用し たフライ油の廃棄処理、日本調理科学会誌、33、 387-391、2000 12) 厚生労働省:弁当及びそうざいの衛生規範につ いて、 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00t a5751&dataType=1&pageNo=11995(2019 年 9 月 20 日閲覧) 13) 日本油化学会:第四版油化学便覧−脂質・界面 活性剤−、丸善(東京)、2004、p.334 14) 藤村浩嗣、穴田剛範、白砂尋士、高村仁知、的 場輝佳:フライ調理現場における総合的な揚げ 油管理手法、日本食品科学工学会誌、49、422-427、2002 15) 原知子、安藤真美、伊藤知子、井上吉世、大塚 憲一、大野佳美、岡村由美、白砂尋士、高村仁 知、武智多与理、露口小百合、中原満子、中平真 由巳、西池珠子、林淑美、深見良子、藤村浩嗣、 松井正枝、的場輝佳、水野千恵、村上恵、山下 貴稔、湯川夏子、渡辺健市:揚げ物および揚げ 油の風味と極性化合物量の関係、日本食品科学 工学会誌、51、23-27、2004 16) 北尾敦子、倉賀野妙子、奥田和子:少ない油量 での揚げ物−環境にやさしい食生活−、日本調 理科学会誌、30、329-334、1997 17) 古賀秀徳、利根尚子、伊藤(竹田)弘美、村本 信幸、櫻井英敏、片山脩:フライ油性状への揚げ 種の影響、日本調理科学会誌、31、24-29、1998 18) 福井裕美、薄木理一郎、金田尚志:炒め物の際 の劣化について、調理科学、11、139-142、1978 19) 池上茂了、村田安代、一寸木絢子、国埼直道: 揚げ物に関する研究:魚の素揚げについて、家 政学雑誌、24、376-383、1973 20) 市川和昭:食用油の加熱劣化の評価−PV/CV/ AV 値と極性化合物量の相関−、名古屋文理大 学紀要、12、121-130、2012