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自閉症児の心に音楽の楽しさが喚起されることを目指して―特別支援学校の音楽科「器楽」を通して―

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Academic year: 2021

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―特別支援学校の音楽科「器楽」を通して―

The aim of Helping Autistic Children Awaken the Joy of Music in Their Hearts

  :Through a Music course “Instrumental music”at Special Schools

川島 民子

Tamiko KAWASHIMA

(滋賀大学教育学部附属特別支援学校) Ⅰ 問題と目的 滋賀大学教育学部附属特別支援学校の自閉症スペク トラム児の中には、音楽の時間に耳をふさいだり、興 味をもてずに別の活動をしていたりする児童や、「音 楽の教室になかなか入りにくい」「教室に入っても寝 っ転がっている」「姿勢が崩れている」という姿が見 られる児童がいた。知的障害者である児童に対する教 育を行う特別支援学校の音楽科(以下、「音楽科」)の教 科書の解説書には「人間は生まれながらにして音楽を 聴いてその美しさに感得したり、表現したりしようと する潜在的な能力をもっている」と書かれている。ま た日常生活では、休み時間にCDをかけて童謡を楽し んだり、気分の良いときには鼻唄を歌ったりする姿を みせており、本来は音楽が好きであると考えられる。 しかし、音楽の授業になると前述のような姿を見せる ことに対しては、何らかの要因があると考えた。そこ で、その要因に対して手だてを講じることによって、 本来自閉症スペクトラム児がもっている音楽への興味 関心を引き出し、自閉症スペクトラム児の心に音楽の 楽しさが喚起されることを目指して、音楽科の授業を 見直してきた。 このような姿の背景には、障害特性と音楽の特質と の関係があると考える。文部科学省(2011)は、自 閉症スペクトラム障害には、「対人関係の質的な問題」 「コミュニケーションの質的な問題」「想像力の障害と それに基づく行動」という3つの特性や、「感覚の異常」 「運動のぎこちなさ」といった特性をあげている。音 楽は、リズム、メロディー、ハーモニー、拍子の要素 があるが、形のないもの、目に見えないもの、消えて しまうものという特質をもっている。この音楽の特質 から考えると、想像力の障害をもっており、イメージ することが難しい自閉症スペクトラム児にとって音楽 は苦手な学習活動の一つになると言える。 もたちの間に目に見えるような接点を作る支援を行っ た。特に学習環境と学習内容の面に焦点を当てて行っ た。学習環境からは、何人かで背もたれがなく柔らか い座面のソファーに座っていたが、個別の学習椅子に 座るという環境に変え、学習室と自分の居場所に接点 を作り、座る場所が明確になるようにした。その結果、 学習室に頑なに入らなかった子どもが、学習開始前か ら椅子に座って待っているようになり、寝っ転がって 姿勢が崩れていた子どもも、前を向いて座り学習に意 欲的に取り組むようになった。また、学習教室を全校 児童生徒60名弱が集まれる広いプレイルームから音 楽室を使用した学習環境に変えたことで、空いたスペ ースで違う活動をしていた子どもが、集中して学習に 取り組めるようになった。 さらに学習内容「音楽遊び」の活動では、長いロー プという道具を使って、山登りに関連する音楽を聴き ながらロープ渡りをするという山登りをイメージでき るような活動を設定することで、音楽に全く参加しな かった子どもが教師の支援がなくても活動に向かえる ようになった。また、「歌唱」の活動では、行事と関 連させ実体験と結び付けて、イメージできる題材設定 や、やりとり歌の歌詞をグループごとに色分けし、グ ループの立ち位置を場所で分けることで、大きな声を 出して歌うようになった。この歌では、楽器を取り入 れ、接点を作ることで、歌うことには積極的に参加し ない子どもが、出番の歌詞に合わせて楽器を大きく振 って鳴らす姿も見られるようになった。 以上のように、前述の姿をみせていた自閉症スペク トラム児に音楽の楽しさを喚起させることができた。 本研究ではさらに、自閉症スペクトラム児に音楽の 楽しさを喚起していきたいと考えた。 音楽では「実際の活動では、児童が好み受け止めや すい音を発する楽器を使用することが効果的である」

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に音を鳴らす体験をし、振動なども感じながら音を体 感することが重要である」とも言われている(文部科 学省 2011) 前研究で、楽器を取り入れたことで、歌詞に合わせ て楽器を大きく振って鳴らす姿が見られるようになっ たことからも、楽器を接点にすることは自閉症スペク トラム児に音楽の楽しさを喚起させるために有効な方 法になるのではないかと考えた。 そこで、本研究では知的障害特別支援学校の音楽科 において、子どもたちの心にさらに音楽の楽しさが喚 起される姿を目指し、楽器を使った支援を行うことで、 その支援の有効性を検証することにした。 知的障害特別支援学校小学部の音楽科の内容は「音 楽遊び」「鑑賞」「身体表現」「器楽」及び「歌唱」で 構成されているが、前述の川島(2014)では「音楽 遊び」「歌唱」に焦点をあてたので、本研究では「器楽」 に焦点をあてることとする。「器楽」の内容は以下の 通りである。 器楽 第2段階の内容  (3) 打楽器などを使ってリズム遊びや簡単な合 奏をする。 に焦点を当てた取り組みについてまとめる。 Ⅱ 方法 1.対象児 対象児A 対象児B 知的障害をあわせもつ自閉症スペクトラム。 小学部3年生男児。 発達年齢1歳10 ヶ月(新版K式発達検査2001)  身辺処理はほぼ自分ででき、日常生活の流れも理解できているので、学校生活でするべき 活動に対しても自ら取り組むことができる。体を動かすことが大好きで、追いかけてもらっ たり、ブランコから飛び降りたり、アスレチックで走り回ったりして遊ぶことが多い。跳び 箱や棒跳びも身軽にできる。  コミュニケーションに関しては、「ください」「いらない」「いや」といった単語で表現す ることが多い。文字は拾い読みができるが、写真と文字が組み合わされている方が理解しや すい。つもりと違ったり、思うように表出できなかったりすると不安定になることがある。  感覚の過敏さをもっており、泣き声やうるさい音が聞こえると気になり、イヤーマフを使 う場面もある。また、暑さにも過敏で暑い時期は不安定になったり、大きな集団を避けたり することが多い。  朝の会、帰りの会の歌は近くにいる教師が歌うと耳をふさぐことが多い。ただ、学習の始 めに取り組む手遊び歌は、スピードを速めるととても嬉しがって、笑い声をあげながら一緒 に楽しむこともある。 知的障害をあわせもつ自閉症スペクトラム。 小学部2年生男児。 発達年齢3歳(新版K式発達検査2001)  身辺処理はほぼ自分ででき、日常生活の流れも理解できているので、学校生活でするべき 活動に対しても自ら取り組むことができる。手先を使った活動に対して苦手意識があり、強 い抵抗感を示す。    コミュニケーションに関しては、日常生活であれば言葉でのやりとりが可能である。初め ての活動に対しても抵抗感をもつことが多く、その場から離れたり、わざと違うことを言っ たりする姿がみられる。  歌では歌詞は理解しているが、違う歌詞を歌ったりすることがある。トーンチャイムを使 った活動では、叩く印を手がかりに曲に合わせてリズム通りに鳴らすことができる。朝の会 や帰りの会の曲はあまり関心を示さず、別のことに意識が向いていたり、学習の始まりの手 遊び歌も、隣の教師に働きかけたりしていることが多い。 障害名 学年・性別 発達年齢 日常生活の実態 音楽に関する実態 障害名 学年・性別 発達年齢 日常生活の実態 音楽に関する実態

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2.支援期間  平成26年9月5日~平成26年10月16日。 週一回40分間の音楽の授業。計4回。 対象児C 知的障害をあわせもつ自閉症スペクトラム。 小学部5年生男児。 発達年齢1歳10 ヶ月(新版K式発達検査2001)。 身辺処理はほぼ自分ででき、日常生活の流れも理解できているので、学校生活でするべき 活動に対しても自ら取り組むことができる。コミュニケーションに関しては、日常では言葉 の指示を理解して活動に向かうことができる。表出言語は、豊かにもっており、目の前の状 況を「○○先生、□□してるな」と伝えたり、「△△にみたい」と自分なりのイメージを表 現したりする。ただ、気持ちの切り替えに時間がかかることが多い。 音楽に関しては、歌が大好きで童謡はよく知っている。遊びの中で歌を歌ってもらうと笑 顔が出る。楽器を朝の会や帰りの会の曲は大好きで、自分のクラスはもちろん、他のクラス で歌が始まると教室の傍まで行って、じっと聞いている姿が見られる。 障害名 学年・性別 発達年齢 日常生活の実態 音楽に関する実態 4,支援内容 児童が好み受け止めやすい音を発する楽器を用意 し、音を体感できる活動を取り入れる。その際に、児 童が直接楽器に触れ、実際に音を鳴らす体験をし、振 動なども感じられるような支援を行う。 (1)楽器 カバサを用意した(図1)。円柱形で本体の回りに ひもを通した小さな玉が巻き付けられており、柄が付 いている楽器である。付いている玉を本体にこすりつ けて音を出す。    音楽科で扱われる楽器には、鍵盤ハーモニカや木琴、 鉄琴などの鍵盤楽器、太鼓やツリーチャイムなどの道 具を使って鳴らす打楽器、タンブリンやコンガなど手 のひらで打つ打楽器がある。どの楽器も音を鳴らすだ けではなく、振動を感じられる楽器であるが、その中 でもカバサは、形が変わっており、音色に興味関心を 触覚のあらゆる感覚に働きかけられる。このような特 徴から、活動の幅が広がる楽器であり、どのような児 童も受け止めやすい楽器になると考え、本学習で扱っ た。 3.音楽での支援前の実態とねらい 支援前の実態 始まる前から音楽室に移動するようになった。 音楽の流れている中でロープを渡るような視覚的 な手がかりがある活動に向かえるようになった。 楽器には興味をもっており、トーンチャイムを自 分で鳴らす姿がみられた。 自分の席にはいるが、近くの教師に働きかける など学習とは違う活動をしていることが多い。ト ーンチャイムは持って鳴らすことができる。 知っている歌の時は歌詞カードに近付いたり、 大きな声で歌詞の一部を歌ったりする。トーンチ ャイムは自分で振り音が出るのを楽しむ。 ねらい ・ 音や音楽に興味関心をもち、気持ちを安定させ て活動に取組むことができる。 ・ 自分から楽器に触れたり、鳴らしたりすること ができる。 ・音や音楽に興味関心をもつことができる。 ・ 教師からの働きかけを受けて楽器に触れたり、 鳴らしたりすることができる。 ・ 音や音楽に興味関心をもち、気持ちを安定させ ながら感じたり受け止めたりすることができる。 ・楽器に触れることができる。 対象児A 対象児B 対象児C

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(2)支援内容  ①学習の展開 教師の支援とその意図 ①何も説明せずにカバサを見せる。 ・形の面白さから「なんだろう」「おもしろそう」という姿や、 前の時間の活動を思い出すことによって「これ、やった」「お もしろかった」「やってみたい」という姿を引き出し、児童の 興味を引きつける。 ②「カバサ」という名前を知る。 ・児童が、楽器の名称を知るとともに「やってみたい」という 要求を伝える時に使えるようにする。 ③どのように鳴らすかを知る。 ・教師が手のひらで鳴らしたり、腿や腕、背中にこすりつけて 見本を示すことにより、活動の見通しをもたせたり、カバサの 鳴らし方を知ることで「わたしはこうやってならしたい」とい う気持ちを高める。 ④「カバサをならそう」の曲に合わせて、アシストの教師が児 童一人ずつ順番にカバサを身体の部位にこすりつけていく。 ・実際にカバサをこすりつけてもらうことによって、児童それ ぞれが視覚、聴覚、触覚のあらゆる感覚を通してカバサを楽し めるようにする。 おおまかな学習活動 1 はじまりの歌を歌ったり、聴いたりする。 2 「ならそう」の活動をする  (1)カバサをならそう  (2)コンガをならそう 3 終わりの歌を歌ったり、聴いたりする。 ②カバサのならしかた 図2のように教師がカバサをならしながら、児童の 手や足や背中などの身体の部位をカバサでなでる。ま たは、教師がカバサを差し出し、児童がカバサに触れ る。 図1 カバサ 図2 カバサのならし方

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ビデオの記録を表1にまとめる。また、一緒に活動 した教師の記録を以下にまとめる。 9月25日 カバサは箱が出てきたときからじーっと見つめて興 味津々だった。身体に触れている部分の様子をよく見 て振動を感じていた。太鼓は運ばれてきた時から前に 出てたたいたりしていた。 10月9日 タンブリンが来ると叩く。カバサは出てきた瞬間に 嬉しそうに見る。足に最初する。自ら背中を指し、し てほしいことを伝える。もう一回してみたい人と言わ れたら手を挙げてもう一度してもらう。お腹にしても らうと、こそばゆそうにしていた。 10月16日 「くもり」「あそぶ」「さいご」などの言葉を発しな がら泣くのを繰り返す。 カバサはあごをしてもらうのはそれなりに気持ち良 かった様子。足やお腹にしてもらう。 リズム打ちは、手の練習の時は少しいらいらしてい た。太鼓を見て叩くと状況が分かるとにこにこ顔にな る。活動として何をやるのか分かるときは泣きやみ落 ち着いており、待ち時間になると泣くという様子であ った。 Ⅲ 結果 (1)対象児A 表1 対象児Aの様子 (2)対象児B 表2 対象児Bの様子

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同じように、ビデオの記録を表2にまとめる。また、 一緒に活動した教師の記録を以下にまとめる。 9月5日 棒で遊んでいたが、声かけでやめて椅子に座れる。 教師の手を引っ張って自分の席に連れて行こうとす る。太鼓が出てくると興味を示してちょっとだけ叩き にいく様子はあったが、活動になると後ろを向き、「初 めてで恥ずかしい」と言って拒否をする。カバサの時 はなかなか離さないほど気に入っていた。 10月9日 「かばさー」と名称を伸ばして言うことを楽しむ。 みんながいろんなところにしてもらっているのを見 て、背中に挑戦。こそばゆくて逃げ回る。2回目した いという気持ちをもつが、直前で逃げる。表情はにこ にこしていた。 はちの歌は、不安に思ったのか教師の所へ行く。印 で手を叩くことは理解し、何度かする。実際にやって みたときにはブーンと蜂を飛ばすことを楽しんでい た。 10月16日 カバサの時には箱を見た瞬間に「かばさ、かばさ」 と言うが順番が回ってくると思うと席から離れる。友 だちがしてもらっているときは見ている。「にがてな んだ」とつぶやく。リズム打ちは、友だちがしている 時は耳をふさぎ目を閉じている。しばらくすると顔を 腕で隠す(耳は聞こえるようにしていた)自分の番で は「ねむたいよ」と言う。 対象児C 表3 対象児Cの様子

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同じようにビデオの記録を表3にまとめる。一緒に 活動した教師の記録を以下にまとめる。 9月5日 カバサは初めて見る楽器であったこともあってか、 目の前に提示されると逃げていた。手をもって楽器に 触らせようとしたがダメであった。コンガ、ボンゴは 最初はやらなかったが、友だちの様子を見ているうち に、やりたくなり、最後に名前を呼んでもらうと前に 出てできた。 9月25日 最初のタンブリンは教師と一緒にできた。カバサが 出てきた時には怖いのか手が出なかったが、最後に隣 の友だちの所にカバサを持っていったときには手が出 た。コンガ、ボンゴは腰を押されただけで前に出るこ とができ、教師と一緒に音楽を感じながらできた。 10月9日 落ち着いて活動に参加していた。常に顔が上がって いて前向きに学習に向いている。リズム打ちは最初見 ているが、途中から手を打ち始める。トントントンひ ざもモデルを見てできている。 Ⅳ 考察 それぞれの支援内容から考察していきたい。 児童が好み、受け止めやすい音を発する楽器を用意 したことについて考察する。 今回は児童が好み、受け止めやすい音を発する楽器 としてカバサを選択した。この楽器は知的障害の教科 書である音楽☆で一番最初に登場する楽器である。 対象児Bは積極的に名前を言っており、対象児Cは じっと遠まきに見ていた。これらの姿は、児童にとっ ては見たことがなく、形も変わっており、名前も聞い たことがないという楽器の新奇性が児童の興味関心を 引きつけたと考えられ、カバサを楽しそうであり、面 白そうな興味をそそられる楽器であると受け止めるこ とができた姿であると捉えられる。 また対象児Aは、表情や目線などにはあまり変化が ないような姿であった。このことは、嫌がることなく 待っている姿と捉えることができ、楽器に対する抵抗 感はなかった姿と考えられる。 これらのことより児童が好み受け止めやすい音を発 する楽器を用意したことは音楽の楽しさを喚起させる ために有効な支援の一つであったと言える。 次に、音を体感できる活動を取り入れ、その際に児 童が直接楽器に触れ、実際に音を鳴らす体験をし、振 動なども感じられるような支援を行ったことに対して 考察する。 対象児Aは、腿や背中で振動を感じられるようにな らすと10秒ほど続けられたり、その際にも自分から手 触ろうとするような姿が見られた。さらには、回数を 重ねることであごにやって欲しいと自分がやって欲し い場所を要求する姿もみられるようになった。 このように音を体感できる活動、特に音を鳴らしな がら、身体で振動を感じられるような支援をすること で、自分から手を伸ばしたり、別の場所を要求したり するなど、主体的に楽器に触れようとしたり、感じよ うとしたりする姿が見られたことから、この支援も音 楽の楽しさを喚起させる支援として有効であったと言 える。 対象児Bも逃げ回る姿は見られたが、背中にやって 欲しいと背中を見せたり、自分の順番の時には避ける ことが多かったが、友だちの順番になると近付いてき て様子をうかがったり、教師のすぐそばで見ていたり するようになった。対象児Cも同じように自分の順番 では、楽器を払いのけることが多かったが、友だちの 順番の時には目で追ったり、リズムに合わせて踊った りする姿もみられた。 これは、「音は目に見えず、また、すぐに消えてし まうのでとらえにくいという特性があるから、実際の 活動では、児童が好み受け止めやすい音を発する楽器 を使用することが効果的である」と言われていること が表れており、楽器を使うことによって音が目に見え るようになり、消えてしまわなくもなり、捉えやすい という状況になったということで有効であったと考え られる。 最後に器楽という学習活動全体を通してカバサがど うであったかについて考える。 カバサは、小学部全体で合奏をすることを目指した 単元計画の一部として取り上げた。合奏はいろいろな 楽器を組み合わせることによって成り立つことから、 児童の実態にあった楽器による参加が可能である。ま た、それぞれの楽器の鳴らし方を合わせて一つの曲に することによって、友だちの存在を感じ、一緒に活動 する心地よさを感じられるいと考えたからである。  今回カバサは、手で叩く楽器(コンガ)、道具を使っ て叩く鍵盤楽器(木琴)と展開していく予定の合奏の 第一段階として取り扱った。 対象児以外の自閉症スペクトラム児が、楽器を呈示 するとすぐに前に出てきて触ろうとしたり、回数を重 ねる毎に「せなかをやってほしい」「くびをやってほ しい」と要求したりする姿を見せた。また、順番に働 きかけていくことにより、自分の順番が来るまで、友 だちがやってもらっている様子を真剣に見つめる姿 や、教師の様子を見て、教師の代わりに友だちにカバ サをこすりつけてあげる児童の姿も見られるようにな り、合奏の導入以上の活動の広がりが見られたと言え る。

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トーンチャイムと異なり、自分で鳴らすだけではな く、相手からの働きかけを受けるというやりとりが成 立する楽器であることも人や友だちを意識できる効果 があった。また楽器が一つしかなかったことで、友だ ちの様子を見る、活動の見通しをもつことができ、つ もりをもつことができる、自分の順番まで期待できる といった付加効果もあった。 今後の課題としては、楽器の有効性を活用していき、 児童が好み受け止めやすい音を発する楽器を探りなが ら、楽器を通して音楽の楽しさを喚起できるような取 り組みをしていきたい。 参考文献 文部科学省(2011) おんがく☆ 東京書籍  文部科学省(2011) おんがく☆ おんがく☆☆ お んがく☆☆☆教科書解説書 東京書籍 2011 川島民子(2014) 自閉症児の心に音楽の楽しさが喚 起されることを目指して~特別支援学校の音楽科を見 直す~、滋賀大学教育学部附属教育実践総合センター 紀要、22、33 - 39.

参照

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