• 検索結果がありません。

大規模殻模型計算による中性子過剰N=82近傍核の核構造研究Large-scale shell-model calculations for neutron-rich nuclei near N=82

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "大規模殻模型計算による中性子過剰N=82近傍核の核構造研究Large-scale shell-model calculations for neutron-rich nuclei near N=82"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

hp160146 「京」以外 HPCI 一般利用 HPCI other than K General Use

大規模殻模型計算による中性子過剰

N=82 近傍核の核構造研究

Large-scale shell-model calculations for neutron-rich nuclei near N=82

清水則孝 富樫智章

Noritaka Shimizu and Tomoaki Togashi

東京大学 大学院理学系研究科 附属原子核科学研究センター Center for Nuclear Study, Graduate School of Science, The University of Tokyo 要旨 中性子数N=82 近傍の中性子過剰原子核の構造は、鉄より重い元素がどのように合成されたの かを解明するための鍵となる要素の一つである。本研究では、原子核殻模型計算と呼ばれる理論 模型を採用し、先行研究より広い模型空間を採用することによりN=82 近傍の中性子過剰核の核 構造を理論的・統一的に記述する枠組みを構築した。これにより、中性子数82,81 アイソトーン の陽子分離、中性子分離エネルギーや、励起エネルギーという核構造に重要な原子核の物理量の 記述に成功した。さらに、元素合成r 過程で重要となるガモフテラー遷移によるベータ崩壊の半 減期の理論計算をおこない、実験値との妥当な一致が見られたが、完全な一致とはいかず、さら なる模型の高精度化が期待される。 キーワード: 中性子過剰核、原子核殻模型計算、魔法数、元素合成 r 過程、ベータ崩壊 Abstract

Nuclear structures of neutron-rich nuclei around the neutron number 82 (N=82) are key ingredients to elucidate the nucleosynthesis of elements heavier than iron. In the present work, we adopt nuclear shell-model calculations as a theoretical model to describe these nuclei. By using the larger model space than that of earlier works, we successfully construct a theoretical framework to provide a unified description of the neutron-rich nuclei around N=82. Based on this framework, we successfully describe the proton and neutron separation energies and excitation energies of N=82,81 isotones, which are important physical quantities of nuclear structure. We also obtain the half-lives of the beta decay caused by the Gamow-Teller transition. The results show reasonable agreements with the experiment, but not perfect. Further study is needed to improve the accuracy of the framework.

Keywords: Neutron-rich nuclei, nuclear shell-model calculation, magic number, r-process nucleosynthesis,

beta decay

© 2021 Research Organization for Information Science and Technology All rights reserved. Received: 17 December 2020

Accepted: 13 July 2021 Available online: 19 July 2021

(2)

2 1. 研究の背景と目的 近年、中性子星合体から生じる重力波の発見とキロノバの観測により、元素合成r 過程の理解 に大きな興味が集められている。元素合成r 過程とは、中性子星合体や超新星爆発など天体的爆 発現象において、軽い核が中性子捕獲とベータ崩壊を繰り返すことによって鉄より重い原子核を 合成する現象である。この通り道である中性子数 82 の魔法数近傍の中性子過剰核は、束縛エネ ルギーが周囲の核種に比して大きく、r 過程における中性子の捕獲反応を滞留させる。そのため、 これら中性子過剰核のベータ崩壊の性質は元素合成r 過程に大きな影響を与えると考えられてい る。これらの核種は核構造研究からも注目されており、近年重イオン加速器実験により精力的に 調べられている。本研究では、この領域の核種をカバーするような大規模原子核殻模型計算にお ける有効相互作用を構築し、原子核構造を微視的に記述することにより、実験で得られていない 原子核構造の予言を試みることを目的とした。 2. 計算モデル 原子核構造研究では、陽子と中性子(まとめて核子と呼ぶ)を構成要素とした原子核の構造を、 量子多体計算により研究する。本研究で採用した殻模型計算では、空間を調和振動子基底で展開 して、核子をその一粒子軌道に詰めていき、様々な軌道の占め方(配位)の状態を重ね合わせるこ とで核子多体量子状態を記述する。具体的には配置間相互作用で構成されるハミルトニアン行列 を対角化することで波動関数を求める。ここで物理として問題となるのは、対象とする原子核の 状態を精度良く記述するのに必要な軌道のセット(模型空間)と、模型空間外の効果を有効的に取 り込んだ核子間の相互作用の構築である。(注:有効相互作用がハミルトニアン行列を規定する。) 我々の研究グループでは先行研究として中性子過剰なZr 同位体(陽子数 40, 中性子数 50~60)の系 統的な殻模型計算をおこなった[1]。文献[1]での模型空間と有効相互作用は本研究で対象とした中 性子数82 近傍核(Z=46-51, N=79-82)にも適用可能であり、ハミルトニアン行列の直接対角化が可 能な計算スケールとなるように文献[1]の模型空間を抽出し、模型空間を陽子側 0f5/2, 1p3/2, 1p1/2, 0g9/2, 0g7/2, 1d5/2, 1d3/2, 2s1/2, 0h11/2の9 軌道、中性子側 0g7/2, 1d5/2, 1d3/2, 2s1/2, 0h11/2の5 軌道とした。さ らに、計算可能であるように陽子0f5/2, 1p3/2, 1p1/2軌道からあわせて2 ホールまでの励起、陽子 0g7/2, 1d5/2, 1d3/2, 2s1/2, 0h11/2軌道には3 粒子までの励起を許すよう、配位に制限を課する。中性子配位に 制限は課さない。有効相互作用は文献[1]のものを基に、2 体相互作用要素としてペアリング相互 作用と0g9/2軌道内の行列要素、 0g9/2−0h11/2軌道間の行列要素を調整し、1 粒子エネルギーを二重 魔法数核132Sn (陽子数 50、中性子数 82)に 1 核子増やした、あるいは 1 核子減らした核種(陽子数 49-51, 中性子数 81-82)の励起準位のエネルギーを再現するように決めた。殻模型計算による中性 子数 82 核の半減期の計算には幾つかの先行研究[2-4]があるが、本研究での模型空間は先行研究 より大きく、より広範な領域をカバーすることができると期待される。 半減期はβ崩壊におけるガモフテラー遷移強度分布をLanczos 強度関数法[5]により計算し求め

(3)

3 ることとした。Lanczos 強度関数法では、親核の波動関数に遷移演算子 (今の場合はガモフテラ ー遷移演算子)を作用させて初期ベクトルを作る。その初期ベクトルにハミルトニアン行列を繰り 返し作用させて、クリロフ部分空間を張り、その部分空間内で遷移強度分布を求める手法である。 半減期などの物理量が収束するまで繰り返し回数を増やせば、良い近似となる。本研究では繰り 返し回数を250 回として計算を行った。殻模型計算コードとしては後述の KSHELL を用いた[6]。 3. 並列計算の方法と効果(性能) 原子核殻模型計算とは、量子化学における配置間相互作用法 (CI 計算)に相当し、シュレディン ガー方程式をハミルトニアン行列の固有値問題に帰着して数値計算によって解く手法である。こ のハミルトニアン行列は一般に疎行列であり、考慮すべき配位の数がハミルトニアン行列の次元 に相当する。しかしながら、このハミルトニアン行列の次元は中重核において巨大になり、本研 究では 31 億次元にも達する。このような巨大次元の行列の固有値問題をランチョス法によって 数値的に解くが、その行列要素をすべてあらかじめ計算してメモリーに保持することは困難であ る。我々は原子核殻模型計算コードKSHELL の開発をおこない、ランチョス法に現れる行列・ベ クトル積において必要となるたびに、行列要素をオンザフライで高速に生成する方式を採用した。 同コードはMPI+OpenMP のハイブリッド並列に対応し、「京」で 8000 コア程度までの良好な並 列効率が確認されている。さらに、Thick-restart block Lanczos 法による固有値問題解法も実装さ れ、1 千億次元規模の大規模疎行列の固有値問題を効率よく解くことができる世界有数のコード である。本項目の詳細は、参考文献[6]に発表した。 4. 研究成果 中性子数82 の4つの核種と、中性子数 81 の 4 つの核種について、束縛エネルギー・励起エネ ルギーの実験値を再現するような理論模型を構築し、ガモフテラー遷移強度・ベータ崩壊半減期 を求めた。 図1 に 1 陽子分離エネルギーと 1 中性子分離エネルギーの計算結果と実験との比較を示す。横 軸のZ は陽子数を示す。本研究結果は系統的に既存の実験データを再現している。実験データが 存在しない核種では実験データの代わりに、実験値の系統性から外挿した値[7]をプロットしてい る(白抜きのシンボル)が、計算値は外挿値とほぼ一致している。1 中性子分離エネルギーは特 にr 過程において重要なβ遅延中性子放出のしきい値エネルギーとなるため重要な核データとな り得る。

(4)

4 図1. 1 陽子分離エネルギー(Sp)と 1 中性子分離エネルギー(Sn) 横軸のZ は陽子数を示し、中性子数 82 のアイソトーン(左パネル)、中性子数 81 のアイソトー ン(右パネル)を示す。理論計算の結果を実線、実験データ[7]を点線で表している。白抜きは実 験データの代わりに外挿値[8]を示す。 図2 は中性子数 82 のアイソトーンの励起準位を示したものである。計算結果は実験データを 系統的にほぼ再現している。中性子数 81 のアイソトーンについても同様に実験によって得られ た励起準位を良く再現する。実験データはAg(Z=47)の同位体の情報がほぼ未確定であり、本研究 の計算結果は理論による予測を与えている。 図2. 中性子数 N=82 のエネルギーレベル 理論計算の結果を赤、実験データ[9]を黒で示す。実験データがないものについては計算値のみを 示す。

(5)

5 図3 に模式的なベータ崩壊の図を示す。左側に親核の基底状態を示しており、この状態からガ モフテラー遷移によって、陽子数が1 増え、中性子数が 1 減った娘核に移る。角運動量・パリテ ィによる選択則があるので、必ずしも直接に娘核の基底状態には遷移せず、いったん娘核の励起 状態にガモフテラー遷移し、そこからガンマ線を放出して基底状態に脱励起する。各々の励起状 態の励起エネルギーと、それらへのガモフテラー遷移強度を理論模型によって求めれば、ベータ 崩壊の寿命を算出することができる。親核と娘核の基底状態のエネルギー差はQ 値と呼ばれる。 図4 に理論計算によって得られた中性子数 82 の 4 つの核種、131In, 130Cd, 129Ag, 128Pd のガモフテ ラー遷移強度分布を示す。各励起状態のガモフテラー遷移強度分布は実験では未測定なので、計 算結果は予測を与える。 図4. 理論計算によって得られた中性子数 82 核種の崩壊のガモフテラー遷移強度分布 横軸は娘核から見た励起エネルギー、縦軸はガモフテラー遷移強度関数の値を表す。矢印で示す 値はQβ値を表し、この値よりエネルギーが小さいガモフテラー遷移強度関数の寄与を合わせる ことにより半減期が計算される。 図3. ベータ崩壊の模式図 左の親核(Z,N)から、右側の娘核(Z+1,N-1)核の 励起状態へ崩壊する。青太線が基底状態、黒破 線が娘核の励起状態を表している。

(6)

6 図5 に、理論計算によって得られた中性子数 81 の核種、130In, 130Cd, 129Ag, 128Pd のガモフテラー 遷移強度分布を示す。励起エネルギー Ex=4MeV 周辺の低励起エネルギー領域に比較的強いガモ フテラー遷移強度を持つ状態が現れている。 図5. 理論計算によって得られた中性子数 81 核種のβ崩壊のガモフテラー遷移強度分布 詳細は図4 と同様。 図4 と図 5 に示したガモフテラー遷移強度分布をもとにして、理論計算によって得られたベー タ崩壊半減期を表1 に示す。得られた半減期は、最近測定された実験データ[10]の傾向を概ねよ く再現している。特に中性子数81 の核種の半減期については先行研究[2,3,4]では与えられておら ず、本研究における並列化による計算の効率化により、殻模型計算による理論計算の結果を与え ることが可能となった。しかしながら、中性子数82 では131In の半減期を過小評価してしまって いる。これは131In のガモフテラー遷移強度分布(図 4 左上)において、励起エネルギーが 2.2MeV の励起状態に強度が集中し過ぎているために半減期を短く評価してしまっている。この改善のた めに模型空間や有効相互作用のさらなる検証が必要である。

(7)

7

1. β 崩壊による半減期

理論計算の結果(Calc.)、実験データ[10](Exp.)ともにミリ秒(msec)で示す。

N=82 Calc. (msec) Exp. (msec) N=81 Calc. (msec) Exp. (msec)

131In → 131Sn 160.27 261±3 130In → 130Sn 294.32 284±10 130Cd → 130In 162.49 127±2 129Cd → 129In 169.17 154.5±2.0 129Ag → 129Cd 45.16 52±4 128Ag → 128Cd 50.58 59±5 128Pd → 128Ag 28.45 35±3 127Pd → 127Ag 33.32 38±2 5. まとめと今後の課題 大規模殻模型計算により、中性子数82 近傍の中性子過剰核(陽子数 46~51, 中性子数 79~82)の核 構造研究をおこなった。励起準位や束縛エネルギーなど、核構造研究において重要な物理量を統 一的に記述する殻模型有効相互作用の構築に成功した。元素合成r 過程の理解に重要となるベー タ崩壊の半減期の計算結果は、実験値と妥当な一致を示している。特に、中性子数 81 のアイソ トーンのベータ崩壊の殻模型計算による記述は、これまで計算量の大きさゆえになされていなか ったが、本研究で可能となった。今後の課題としては、131In の半減期を過小評価しているため、 さらなる模型空間・有効相互作用の検証の必要性を示唆している。また、計算についてはβ崩壊 のガモフテラー遷移のみを今回考慮したが、核種によっては第一禁止遷移の寄与が無視できない 可能性もあり、今後は第一禁止遷移も入れた計算の検討も必要であろう。今後、加速器実験によ って測定されるであろう中性子数 82 近傍のさらなる中性子過剰核(陽子数が少ない核種)におけ る核構造、特に半減期の予測を与えることが期待される。 参考文献

[1] T. Togashi, Y. Tsunoda, T. Otsuka, and N. Shimizu, Phys. Rev. Lett. 117, 172502 (2016).

[2] G. Marínez-Pinedo and K. Langanke, Phys. Rev. Lett. 83, 4502-4505 (1999).

[3] J. J. Cuenca-García, G. Marínez-Pinedo, K. Langanke, F. Nowacki, and I. N. Borzov, Eur. Rhy. J. A 34, 99-105 (2007).

[4] Q. Zhi, E. Caurier, J. J. Cuenca-García, K. Langanke, G. Marínez-Pinedo, and Sieja, Phys. Rev. C 87, 025803 (2013).

[5] R. R. Whitehead, “Moment Method in Many-Fermion Systems”, p.235 (1980).

[6] N. Shimizu, T. Mizusaki, Y. Utsuno, and Y. Tsunoda, Comp. Phys. Comm. 244, 372 (2019).

[7] NuDat 2.7β, http://www.nndc.bnl.gov/nudat2/.

[8] M. Wang, G. Audi, A. H. Wapstra et al., Chi. Phys. C 36, 1603-2014 (2012). [9] B. Fogelberg and J. Blomqvist, Phys. Lett. 137B, 20-22 (1984).

表 1. β 崩壊による半減期

参照

関連したドキュメント

Tumornecrosisfactorq(TNFα)isknowntoplayaCrucialroleinthepathogenesisof

AbstractThisinvestigationwascaniedouttodesignandsynthesizeavarietyofthennotropic

(実被害,構造物最大応答)との検討に用いられている。一般に地震動の破壊力を示す指標として,入

ドリフト流がステップ上段方向のときは拡散係数の小さいD2構造がテラス上を

neurotransmitters,reSpectivelyPreviousfinClingsthatcentralG1usignaling

1)まず、最初に共通グリッドインフラを構築し、その上にバイオ情報基盤と

金沢大学学際科学実験センター アイソトープ総合研究施設 千葉大学大学院医学研究院

氏名 小越康宏 生年月日 本籍 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目..