【原著論文】
Jリーグ観戦者の動機因子:
J リーグの導入期における二次的データの検証
仲澤眞
1)吉田政幸
2)岩村聡
3)Motivational Factors of J. League Spectators:
Investigating Secondary-Data in the Late 1990’s
1)筑波大学、2)びわこ成蹊スポーツ大学、3)東日本国際大学 連絡先: 仲澤眞 筑波大学 〒 305-0006 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学体育系
Address Correspondence to: Makoto Nakazawa, University of Tsukuba
Inst. of Sports Sciences, 1-1-1, Ten-nodai, Tsukuba, Ibara-ki, 305-0006, Japan
E-mail: [email protected]
Abstract
The drivers of team attachment and repurchase behavior are complex. What remains unexplored is to examine the effects of spectator motives on team attachment and repurchase behavior among event attendees of a new profes-sional sport league. Using a sample of 1228 attendees at J. League games in 1998, the authors demonstrate that (1) spectator motives consist of six factors, (2) the attraction-stage motives have significant effects on the attachment-stage motive (soccer club attachment) that in turn influences attendance frequency, and (3) the effects of the attrac-tion-stage motives on the attachment-stage motive are enhanced by two moderating variables (gender and stadium size). The results suggest that managers must differentiate the marketing of individual athletes from the marketing of game, soccer, and club, specifically for male consumers and spectators attending games at small stadiums.
Key words: spectator motives, points of attachment, team attachment, moderating effect, sporting events, J. League
緒言
人々をスポーツに引き付け観戦へと駆り立て るスポーツイベントの魅力は、スポーツ観戦者 の 中 に 潜 在 す る 心 理 的 な 動 機(motives) と 密 接に関係している(Sloan, 1989; Trail and James, 2001; Wann, 1995)。これまで研究者はスポーツ観 戦者の動機因子の特定と(James and Ross, 2004; Milne and McDonald, 1999; Sloan, 1989; Trail and James, 2001; Wann, 1995)、それらが実際の観戦 行動に及ぼす規定力を分析してきた(Funk et al., 2002; Funk et al., 2003; Kahle et al., 1996; Trail et al., 2003a)。これらの研究の大半は、北米を中心に 取り組まれてきたが、動機因子に部分的な共通 項はあっても、測定する動機の内容や因子の体 系に強い一貫性がなく、研究者間で主要な動機 因子を特定する段階に至っていない。このため、 共通の主要因子を用いた研究間の比較やスポー ツ種目間の比較が十分に実施されておらず、汎 用性の高い尺度が必要であることが指摘されて い る(Funk et al., 2009; James et al., 2006)。 さ ら に、先行研究の多くが、観戦型スポーツとして既 に長く定着し、成熟した市場を形成する米国四 大プロスポーツ1)(Major League Baseball: MLB、
National Football League: NFL、National Basketball Association: NBA、National Hockey League: NHL) や米国カレッジスポーツの来場者の観戦動機を中 心に検証してきた点も無視できない。北米の成熟 したスポーツリーグの観戦者を対象に開発された 動機尺度が、諸外国の未成熟なスポーツリーグの 観戦者の動機因子の測定に応用が可能かどうかを 検証することも必要と考えられる。例えば、わが 国の場合、1993 年に開幕した日本プロサッカー リーグ(以下 J リーグと略す)のような歴史の浅 いプロスポーツリーグの観戦者の動機を測定する ためには、北米の研究群が探究しなかった新たな 研究の課題があるものと思われる。本研究が用い るデータを収集した 1998 年当時は J リーグが開 幕してから 5 年が経過し、J リーグ開幕時のブー ムが過ぎ去った後、観客動員数が減少した時期で あることから、この時期の J リーグは誕生して間 もない上、未成熟なプロスポーツ市場2)として みなすことができる(図 1)。 これまでのスポーツマネジメント研究は、成熟 したスポーツ市場3)(米国プロスポーツや米国カ レッジスポーツなど)において観戦行動を検証し てきた(Funk et al., 2002; Funk et al., 2003; Kahle et al., 1996; Trail et al., 2003a; Trail and James, 2001)。 こうした環境では、観戦者の行動を規定する主な 要因はチーム4)への愛着であり、他の愛着の対
象(スポーツ、選手、競技レベル、コーチなど) の影響力は小さいことが報告されている(Kwon et al., 2005; Robinson et al., 2004)。一方で、新しい スポーツリーグの観戦者に着目し、複数の愛着の 対象(チーム、種目、選手、地元地域など)と観 戦行動の関係を探求した研究は決して多くない。 このため、新しいスポーツリーグが誕生し発展を 遂げる初期段階で、観戦者がどのような対象に愛 着を形成するのかという疑問に答えることは学術 的な新規性を有している。さらに、吉田(2011) が報告するように、これまでの観戦動機に関する 研究群は普遍的な動機因子の特定を意図してきた ことから、スポーツ観戦者を全体的に扱ってきた。 このため、性別や年齢などの基準変数によって細 分化される顧客セグメント5)ごとに、動機因子 と観戦行動の関係を分析する研究が不足してい る。そこで本研究はその目的を、(1)リーグ発 足後間もない 1990 年代後半の J リーグに着目し、 クラブに加え、地域、選手、スポーツ種目(サッ カー)を愛着の対象に含めた観戦動機の 6 因子 モデルを開発し、その妥当性を検証すること、(2) 仮定された動機因子が観戦行動に及ぼす影響を検 証すること、(3)仮定された要因間の関係性を 強める調整変数の影響を検証すること、とした。 これらの目的を達成することで、米国の成熟した プロスポーツ市場3)を中心にスポーツチームへ の愛着を測定してきた観戦動機の研究群に対し て、本研究は新しい知見を提供するものである。 本研究は 1990 年代後半に J リーグのスタジアム 観戦者を対象に収集されたデータを二次的に活用 し、新しいプロスポーツリーグとして誕生した J
リーグの観戦者の動機を検証するものである。 概念的枠組み 1.動機因子の設定 「動機(motive)」という言葉は、「行動を引き起 こしたり駆り立てる」という意味の形容詞として、 あるいは「行動に対する刺激として働く心理的特 徴(感情、欲求、ニーズ)」という意味の名詞と して捉えられる(American Heritage Dictionary of the English Language, 2000)。スポーツ観戦者の観 戦動機は主に社会的欲求と感情的欲求から構成さ れ、その内容が複雑であることから、因子の多 次元性が指摘されている(Trail and James, 2001)。 Sloan(1989)はスポーツ観戦者の動機を、心理 的欲求を反映する 5 つの要因(健康増進効果、ス トレスと刺激探索、浄化作用と攻撃性、エンター テインメント、達成感探索)に分類し、さらにそ れらを測定する尺度(Sports Need for Achievement and Power Scale)を開発している(Sloan, 1987)。 Wann(1995)はユーストレス(eustress:心地よ いストレス)、自尊心便益、日常からの脱却、エ ンターテインメント、(ギャンブルなどに関連す る)経済的要因、競技の審美性(aesthetics)、集
団的所属、家族との時間の 8 要因を含む Sport Fan Motivation Scale を開発し、その信頼性および 妥当性を確認している。カレッジスポーツを対象 とした Sloan(1987)や Wann(1995)の研究と は対照的に、Trail and James(2001)はプロスポ ーツに着目し、メジャーリーグベースボール観戦 者の動機因子を検証した。その結果、達成感、試 合のドラマ性、日常からの脱却、家族との時間、 選手の身体的魅力、選手の身体的技術、競技の審 美性、観戦の社交性、試合・チーム情報の獲得か ら構成される 8 因子尺度を開発している。Wann (1995)や Trail and James(2001)の尺度が多次元 性に富む一方で、Madrigal and Howard(1999)の FANDIM 尺度は緊張感、技術的側面、代理的達 成、身体的魅力の 4 因子で観戦動機を捉えている。 これら 4 つの尺度で、最も共通していた因子は ユーストレス(ドラマ性)であった(表 1)。次 に共通性の高い動機は、競技の審美性、代理的達 成、エンターテインメント、日常からの脱却、家 族との時間、選手の身体的魅力であった。 本研究が検証する動機因子は、2 名の日本人研 究者(これまでに J リーグ観戦者の消費者行動に 関して複数の論文を発表してきた大学教員)が協 議し、動機因子の採用を検討した。表 1 に示す 17976 19598 16922 13353 10131 1198211658 11065 165481636817351 189651876518292190811927819126 18428 15797 17566 5000 7000 9000 11000 13000 15000 17000 19000 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 平均入場者数 データ収集 シーズン (単位:人) 図1 J リーグディビジョン 1 における 1 試合あたりの平均入場者数の推移(1993 年から 2012 年まで) † 出典:http://www.j-league.or.jp/data/view.php?d=j1data&g=j1_0&t=t_visitor&y=2012
ドラマ性と審美性以外の要因については、先行研 究で見解が分かれることから、日本の J リーグへ の適合性を 2 名の日本人研究者が検討し、両者 が内容的妥当性を認めた場合、その動機因子を本 研究に含めることとした。 まず、先行研究の多くがドラマ性および競技 の審美性の重要性を報告していることから、本 研究の動機因子に、これらの 2 因子を含めるこ ととした(Madrigal and Howard, 1995; Sloan et al., 1987; Trail and James, 2001; Wann, 1995)。 一 方、 Madrigal and Howard(1995)、Sloan et al.(1987)、 Wann(1995)が提唱する代理的達成はチーム への愛着と概念的に重複する点が多いことから (Funk et al., 2004; Kwon et al., 2005)、本研究から 除外した。さらに、本研究はエンターテインメ ントについても含めないこととした。Funk and James(2001)によると、エンターテインメント はドラマ性や競技の審美性と同様に快楽的な動機 因子(hedonic motives)の一種である。特に、エ ンターテインメントと試合のドラマ性はともに観 戦者の感情的反応であり、概念的に重複すること から(Oliver, 1997)、本研究では先行研究の多く が検証しているドラマ性を採用し、エンターテイ ンメントを除外することとした。 次に、J リーグ観戦者の愛着の対象(attachment points)に関する動機因子を特定するため、ス ポーツ観戦者の愛着に関する研究群を概括した (Kwon et al., 2005; Trail et al., 2003b)。その結果、
スポーツ観戦者が愛着を形成する対象として、 (1)チーム、(2)選手、(3)監督、(4)地元地域、(5) スポーツ種目、(6)大学が存在することが明ら かとなった。これらのうち、大学は米国カレッジ スポーツに限定される愛着の対象であること、監 督についても米国カレッジスポーツと異なり J リ ーグでは監督を中心としたプロモーションが概し て多くないことなどの理由から、本研究の枠組み には含めないこととした。こうして、J リーグ観 戦者の愛着の対象として、クラブ、選手、地元地域、 スポーツ種目(サッカー)の 4 つが設定された。 2.動機因子の定義 文献研究と専門家の判断により、本研究は J リ 表 1 観戦動機に関する先行研究
Sloan(1989) Wann(1995) Madrigal and Howard(1999) Trail and James(2001) 本研究
ストレスと刺激探索 ユーストレス 緊張感 試合のドラマ性 試合のドラマ性 競技の審美性 技術的側面 競技の審美性 競技の審美性 地域の誇り クラブへの愛着 サッカーへの愛着 選手への愛着 達成感探索 代理的達成 達成感 日常からの脱却 日常からの脱却 エンターテインメント エンターテインメント 家族との時間 家族との時間 身体的魅力 選手の身体的魅力 健康増進効果 浄化作用と攻撃性 自尊心便益 経済的要因 集団的所属 観戦の社交性 試合・チーム情報の獲得 † ストレスと刺激探索、ユーストレス、緊張感、試合のドラマ性はいずれも緊迫した試合観戦において観戦者が味わう緊張感に関係しているこ とから、同様の要因として捉えることができる。 †† 達成感探索、代理的達成、達成感はいずれも応援するスポーツチームの勝利や成功を観戦者が共有することで得られる達成感に関係してい ることから、同様の要因として捉えることができる。
ーグ観戦者の観戦行動を規定する動機因子として ドラマ性、競技の審美性、地域の誇り、選手へ の愛着、サッカーへの愛着、クラブへの愛着の 6 要因を設定した。各要因の定義については次の通 りである。ドラマ性とは、試合が接戦で緊迫し最 後まで決着が分からない際に味わう緊張感に対 して個人が示す興味のことである(Madrigal and Howard, 1995; Sloan et al., 1987)。競技の審美性と は、選手の華麗なパフォーマンスや芸術的なプ レイに対する個人的関心のことである(Madrigal and Howard, 1995; Trail and James, 2001; Wann, 1995)。地域の誇りとは、J リーグクラブがホー ムタウンの知名度を向上させることに対して個人 が示す関心のことである(Funk et al., 2004; James et al., 2002)。選手への愛着とは、特定の選手に対 する興味・関心によって観戦が動機づけられるこ とである(Funk et al., 2004; Trail et al., 2003b)。サ ッカーへの愛着とは、応援や観戦などの行動が主 にサッカーへの関心によって引き起こされること である(Funk et al., 2004; Trail et al., 2003b)。クラ ブへの愛着とは、個人がクラブに対して形成する サポーターとしての心理的つながりである(Funk and James, 2001; Wann and Branscombe, 1993)。
スポーツマネジメント領域において、いくつか の先行研究は観戦動機の中に愛着の対象(points of attachment)を含めず、これらを区別する見方 も存在する(Kwon et al., 2005; Trail et al., 2003b)。 一方で、本研究は観戦動機の中にクラブへの愛 着、サッカーへの愛着、選手への愛着、地域の誇 りなどの要因を含め、ドラマ性および審美性と併 せて 6 因子モデルとして観戦動機を概念化する。 マズローの欲求階層説(Maslow, 1943)は社会的 欲求や感情的欲求に加え、尊厳欲求や自己実現欲 求の重要性を示唆しており、本研究における愛着 の対象は特に尊厳欲求と密接に関係しているもの と考えられる。観戦者は応援するクラブ、地元地 域、好きなスポーツ種目、好みの選手とのつなが りで自尊心を高める傾向にあり(Funk and James, 2001; James et al., 2002; James and Ross, 2004)、こ うしたスタジアム観戦を通じた尊厳欲求の充足 も、観戦動機の一種と考えられる。 理論的枠組みおよび仮説 1.観戦動機と観戦頻度の関係 スポーツ観戦者とはスタジアムにおける直接観 戦もしくはテレビなどのメディアを通じた間接観 戦を積極的に行う個人であり(Wann et al., 2001)、 この中にはサッカーを観戦するサポーターも含ま れる。一方で、Wann et al.(2001)が指摘するよ うに、観戦者とスポーツファンの間には違いも存 在し、ファンが特定のチーム、選手、スポーツ種 目に対して強い関心を持つのに対し、観戦者は必 ずしもこうした愛着を持たない個人である。本研 究は J リーグクラブのサポーターと一般の観戦者 を分ける基準として、特にクラブへの愛着に着目 し、この要因が他の独立変数、従属変数、調整変 数とどのような関係を示すかどうかについて検証 する。 図 2 は本研究の理論的枠組みおよび仮説を示 している。仮説が示す要因間の関係性は Funk and James(2001)の心理的連続モデル(psychological continuum model: PCM)を理論的根拠としている。 PCM は 認 知(awareness)、 魅 力(attraction)、 愛 着(attachment)、 忠 誠(allegiance) の 4 つ の 段 階から成り、観戦者がスポーツファンへと成長す る過程を説明するモデルとして用いることができ る。認知および魅力の段階の消費者は観戦者で あり、特定のスポーツチームに対する愛着は弱 い(Funk and James, 2001)。一方で、愛着および 忠誠の段階に至った消費者はスポーツファン(プ ロサッカーの場合のサポーター)に該当し、試合 結果や順位に関わらず好みのスポーツチームを 支援する姿勢が安定する(Funk and James, 2001)。 PCM によれば、スポーツ観戦者がファンに成長 する際に形成する心理的特徴こそがチーム・アイ デンティティ(team identity)であり、好みのス ポーツチームへの愛着の表れとして自己とチーム を同一視(チームアイデンティフィケーション: team identification)するようになる。魅力の段階 の観戦動機は快楽的(ドラマ性、競技の審美性) かつ社会・環境的(地域の誇り、サッカーへの愛
着、選手への愛着)な欲求であるのに対し、愛着 の段階の観戦動機は自己表現的であり、応援する スポーツチームとの関係によって自身を定義する 自己顕示欲の一種と考えられる(Funk and James, 2006)。本研究はこの理論的枠組みを用いて、6 つの動機因子を(1)PCM における魅力の段階の 動機(観戦者関連の動機)と(2)愛着の段階の 動機(サポーター関連の動機)に分類し、魅力の 段階の動機因子がクラブへの愛着を介して観戦頻 度に影響するものと予想した。これらの要因の連 続性は、J リーグ観戦者が複数の試合に来場する リピーター(再来場者)へと成長するためにはク ラブへの愛着が欠かせず、そのためにはまず魅力 の段階の動機因子の充足が重要であることを説明 するものである。ここで仮定する要因間の連続性 は、先行研究で明らかにされているように、クラ ブへの愛着の方が魅力の段階の動機因子よりも観 戦行動への影響力が強いことが根拠となっている (Kwon et al.,, 2005)。 また、魅力の段階の動機因子のうちドラマ性と 選手への愛着はクラブへの愛着に負の影響を及ぼ すものと予測した。その根拠として、試合観戦に おいてリスク回避の心理が働き、接戦の試合を観 戦したくない者ほど、クラブへの愛着が強くな り、応援クラブの一方的な勝利を好むようにな ること(Funk and James, 2001, 2006)、選手への愛 着は好きな選手の移籍や引退によって弱まる一時 的な反応であり、人気選手に関係なく継続的にク ドラマ性 地域への愛着 選手への愛着 サッカーへの愛着 競技の審美性 クラブへの愛着 観戦頻度 性別 スタジアムの規模 人口動態的特性 市場特性 H1 (-) H2 (+) H3 (+) H4 (-) H5 (+) H6 (+) H7(男性>女性) H8(小規模>大規模) 観戦者関連の動機 (PCM の魅力の段階) サポーター関連の動機 (PCM の愛着の段階) 観戦行動 観戦動機(6因子) 図2 本研究の理論的枠組みおよび仮説 † 点線内に示す要因は本研究で扱った観戦動機である。 †† 観戦動機は潜在変数であることから、楕円で示す。 ††† 観戦頻度(比例尺度)、性別(名義尺度)、スタジアムの規模(名義尺度)は一項目で 測定される観測変数であることから、四角で示す。
et al., 2005)、市場特性(スタジアムの規模や競合 相手の存在)(Nakazawa et al., 2000; Seiders et al., 2005)の有効性を確認している。これらのうち、 本研究は特に人口動態的特性および市場特性に着 目し、魅力の段階の動機因子がクラブへの愛着に 与える影響が強い来場者とそうでない来場者の特 定を試みる。心理的特性については、クラブへの 愛着が動機因子の一つに挙げられるように、調整 変数としてではなく因子間の媒介変数として設定 した。 人口動態的特性の中でも性別に基づくセグメン トマーケティング6)は、基本的なマーケティン グ戦略として位置付けられており、米国四大プロ スポーツリーグや米国女子プロバスケットボール リーグなど多くの北米のプロスポーツで実践され ている。観戦動機と性差を扱う先行研究では、女 性の方が男性よりも選手への愛着が強く、この傾 向は対象スポーツのアスリートが男性の場合も 女性の場合も確認されていること(Robinson and Trail, 2005)、男性は女性に比べ、試合情報、選手 統計、チームの伝統などの知識面において詳し いこと(James and Ridinger, 2002; James and Ross, 2004)、男性の方が女性よりもクラブへの愛着に よって観戦行動が規定されることが明らかとなっ ている(Yoshida and Gordon, 2012)。これらの研 究結果は、女性の場合、クラブに加え選手に対し ても愛着を形成する観戦者が多い一方で、男性の 場合、クラブに愛着を抱く過程において選手への 愛着が必ずしも必要でないことを示唆している。 このことは、選手への愛着とクラブへの愛着の関 係が性別によって調整されることを間接的に支持 している。仮説 4(H4)において、一時的な選 手への愛着はクラブへの愛着に負の影響を及ぼす と予測したが、この関係は女性の場合は弱く、一 方で男性の場合は強いことが予想される。したが って、ここでは以下の仮説を導き出した: H7: 選手への愛着がクラブへの愛着に与える 負の影響は、男性の方が女性よりも強い。 また、市場特性の中でもスタジアムの特性につ いて、仲澤(1998)はスタジアムの規模によっ て来場する観戦者のクラブへの関与(involvement) ラブを支援する愛着の気持ちと必ずしも一致しな いこと(Hunt et al., 1999)などが挙げられる。さ らに、米国カレッジフットボール観戦者を対象と した Trail et al.(2003)の研究では、チームへの 愛着と地元地域に対する愛着が相互に強く関係し 合う(β = .74 - .91)一方で、選手への愛着は他 の愛着の対象と類似しないこと(β = .05)が明ら かとなっている。このことは、本研究においても 選手への愛着とクラブへの愛着が概念的に異質で あることを支持する結果である。また、その他の 地域の誇り、競技の審美性、サッカーへの愛着に ついては、先行研究と同様にクラブへの愛着に対 して正の影響を及ぼし、さらにクラブへの愛着は 観戦頻度に対して正の影響を与えるものと考えら れる(Heere et al., 2011; Kwon et al., 2005; Trail and James, 2001)。以上をまとめ、以下の仮説を導出 した: H1: ドラマ性はクラブへの愛着に負の影響を 及ぼす。 H2: 地域の誇りはクラブへの愛着に正の影響 を及ぼす H3: 競技の審美性はクラブへの愛着に正の影 響を及ぼす。 H4: 選手への愛着はクラブへの愛着に負の影 響を及ぼす。 H5: サッカーへの愛着はクラブへの愛着に正 の影響を及ぼす。 H6: クラブへの愛着は観戦頻度に正の影響を 及ぼす。 2.調整変数の影響 魅力の段階の動機因子がクラブへの愛着に及ぼ す影響の強さは顧客セグメントによって異なる ことが予想される(Evanschitzky and Wunderlich, 2006; Homburg and Giering, 2001; Mittal and Kamakura, 2001; Seiders et al., 2005)。先行研究は 調整変数として、人口動態的特性(性別、年齢、 居 住 地 な ど )(Homburg and Giering, 2001; Mittal and Kamakura, 2001; Yoshida and Gordon, 2012)、 心理的特性(コミットメント、チーム・アイデン ティティなど)(Madrigal and Chen, 2008; Seiders
の程度が異なることを報告している。すなわち、 地方都市の小規模スタジアムの方が観戦者のクラ ブへの関与の水準が高く、一方で人口の多い都市 部の大規模スタジアムは集客力が高いものの、観 戦者のクラブへの関与のレベルは低い傾向にあ る。さらに、その後の研究において小規模スタジ アムの観戦者の方が大規模スタジアムの観戦者よ りもクラブへの愛着が強いものの、ドラマ性や選 手への愛着などの動機については小規模スタジ アムの観戦者の方が大規模スタジアムの観戦者 よりも弱いことが示されている(Nakazawa et al., 2000)。これらの結果はスタジアムの規模によっ てクラブへの愛着の先行要因が変わることを示唆 している。特に、魅力の段階の 5 つの動機因子 の中でもサッカーへの愛着がクラブへの愛着に及 ぼす正の影響は、スタジアムの規模が小さいほ ど強まるものと考えられる。ホームアドバンテ ージ(home advantage)に関する研究群は、スタ ジアムにおけるファンの熱気や会場の賑わいがホ ームチームのプレイをより攻撃的で積極的なもの にし、試合観戦においてファンを魅了すること につながると報告している(Schwartz and Barsky, 1977)。さらに、Mizruchi(1985)はこうした傾 向はスタジアムの規模が小さいほど強く、熱狂的 な観戦環境が生まれやすいと述べている。さらに、 Mizruchi(1985)はスポーツチームの歴史や伝統 が感じられるスタジアムであるほど、ファンがチ ームをより支援するようになると指摘しており、 このような特徴は新しく建設された大規模スタジ アムよりも地方都市に古くから存在する小規模ス タジアムに見られる現象である。以上から、会場 に熱気がありクラブの歴史や伝統の感じられる小 規模スタジアムほど、サッカー観戦を通してクラ ブへの愛着がさらに強まるものと考えられる。こ のことは、小規模スタジアムがサッカーへの愛着 とクラブへの愛着を強める働きを持つことを示唆 することから、以下の仮説を設定した: H8: サッカーへの愛着がクラブへの愛着に及 ぼす正の影響は、小規模スタジアムの方 が大規模スタジアムよりも強い。 方法 1.活用したデータの概要 本研究が活用するデータは、1998 年 8 月 29 日から同年 9 月 19 日までに、筑波大学体育科学 系レジャー論研究室(当時)により、東京首都圏 にある 5 つのスタジアムで開催された J リーグ公 式戦 5 試合に来場した観戦者から収集されたも のである。 調査はその対象を 12 歳以上の男女個人とし、 自計式質問紙が試合開始前に配布された。サンプ リングは、便宜的抽出に層化抽出の要素を取り入 れ、各調査員が担当したエリアに来場した観戦者 の性別(女性、男性)および年齢構成(12 - 18 歳、 19 - 29 歳、30 歳以上)に基づく 6 つのカテゴ リーの割合を観測し、その比率に応じて標本を抽 出する方法が使用されていた。合計で 2,016 人 の観戦者が調査票を受け取り、2,012 票が返却さ れていた(回答率 99.8%)。主な調査内容は、観 戦者の人口動態的特性(性、年齢、職業、居住地 など)、観戦行動の特徴(席位置、観戦頻度、応 援クラブや選手の有無、同行者の規模と関係、情 報入手経路、サッカー経験、観戦歴など)、観戦 者の心理的特性(観戦動機など)であった。 2.質問項目の選定と活用
本 研 究 は Mowen and Minor(1998) お よ び Mahony et al.(2002)に準拠し、観戦動機を「観 戦行動に対する刺激として働く心理的特徴(感 情、欲求、ニーズ)」と定義する。二次的データ を活用する本研究は、既に収集された 28 項目 から得られた動機に関するデータ7)のうち、文 献研究と専門家の判断により特定された 6 つの 動機因子(ドラマ性、地域の誇り、競技の審美 性、選手への愛着、サッカーへの愛着、クラブへ の愛着)を測定する 22 項目を選定した(表 2)。 観戦頻度については、調査時前年度(1997)の 観戦回数のデータを活用した(Evanschitzky and Wunderlich, 2006; Seiders et al., 2005)。さらに、観 戦者の基本属性を捉えるため人口動態的特性に関
する質問も含めてデータを活用した。 前述のとおり、本研究は 1998 年に東京首都圏 にある 5 つのスタジアムに来場した観戦者から 収集したデータを活用した。1 試合あたりの平均 観客動員数の年次推移(図 1)によると、当時は 開幕のブームが去り(Nakazawa et al., 1999)、再 び観客動員数が増加に転じる前の段階であった。 この時期の二次的データを用いることで、市場が 未成熟な段階の J リーグの観戦者の動機構造の分 析が可能となることから、本研究の仮説検証のデ ータとして適切であると判断した。また、スタジ アムの所在地が地方都市であるか、都市部である か、といった所在地の都市規模の影響を排除し、 スタジアムの規模(小規模スタジアムと大規模ス タジアム)に絞って動機因子との関係を検証する ため、首都圏のスタジアムの来場者を対象に収集 されたデータを活用した。オリジナルのデータは、 2,012 サンプルから構成されていたが、本研究で は、愛着の評価対象を持たない観戦者(応援する クラブや好みの選手のいない観戦者(784 人)) を分析から除外した。その結果、回答者のうち、 好みの選手およびクラブに関する質問に回答した 1,228 サンプルのデータを活用し、本研究の分析 対象とした。 結果 1.調査対象者の特性 表 3 は対象者の人口動態的特性および行動的 特性を示している。回答者の 54.0% が男性であ 表 2 確認的因子分析による構成概念妥当性の検討 要因 質問項目 λ CR AVE ドラマ性 1. 私は、最後の最後まで結果のわからない試合が好きだ .62 .77 .54 2. 好きなクラブの試合では、試合のほとんどが一点差で続くような緊迫した試合が好きだ .84 3. 好きなクラブの試合では、一方的な試合よりも接戦の方がいい .72 地域の誇り 1. J リーグのクラブは、そのホームタウン地域の重要なシンボルである .70 .70 .58 2. J リーグのクラブは、そのホームタウン地域のステイタスを上げている .75 3. J リーグのクラブは、そのホームタウン地域のイメージを向上させている .83 競技の審美性 1. どちらのクラブが勝つか、ということよりも、質の高い試合を見ることの方が、大切だ a) - .61 .34 2. 私は、試合中の選手たちの素晴らしいプレイを楽しんでいる .56 3. 選手のテクニックが素晴らしいので、J リーグが好きだ .62 4. プロサッカーでプレイするために、選手に求められる自己管理とトレーニングはすごいと思う .57 選手への愛着 1. 「その選手」が所属しているので、応援するクラブを決めた .78 .75 .50 2. 応援する選手を持つことは、応援するクラブを持つことよりも大切である .69 3. 「その選手」が J リーグを去ったら、J リーグへの関心は弱くなると思う .64 サッカーへの愛着 1. 特定の選手やクラブのファンというよりも、まず私はサッカーのファンである .62 .64 .38 2. 一にも二にも、私はサッカーのファンだと思う .71 3. 特定のクラブや選手に興味を持つよりも、一つのスポーツとしてサッカーに興味を持つことの方が、 自分にとって大切だと思う .50 クラブへの愛着 1. 私は、「そのクラブ」の熱心なファンだ .88 .82 .62 2. どのクラブが相手でも、私は「そのクラブ」の試合がみたい .60 3. 「そのクラブ」がいつも低迷していたならば、ファンであることを考え直すかもしれない a) - 4. 私は、まず「そのクラブ」のファンで、次にサッカーのファンである a) - 5. 「そのクラブ」が J リーグを去ったら、J リーグへの興味はなくなってしまうと思う a) - 6. 私は、「そのクラブ」の大ファンだと思う .84
† モデル適合度:χ2 (df) = 840.05 (120), p < .01; χ2/df = 7.00; RMSEA = .070; CFI =. 93; NNFI = .90; AGFI = .90;λ = 標準化因子負荷量; CR (Construct
Reliability) = 構成概念信頼性;AVE (Average Variance Extracted) = 平均分散抽出.
り、年齢については 20 歳代が最も多く 47.1% で あった。職業については会社員が最も多く、次 に学生が多かった(25.6%)。居住地に関しては、 ホームタウン外から来場している観戦者が 61.0% を占めた。行動的特性では、ゴール裏の観戦者が 半数以上に上り(55.1%)、応援年数については 1 年未満の者(16.4%)から 10 年以上の者(11.4%) まで幅広い観戦歴を持っていることが明らかとな った。前年度の観戦頻度は 1 試合から 3 試合の 者が最も多く、続いて 4 試合から 6 試合、7 試 合から 10 試合、0 試合の順であった。スタジア ムの規模に関しては、4 万人の収容人数(日本サ ッカー協会のスタジアム標準においてクラス S で あること)を基準として、大規模スタジアムと小 規模スタジアムに分類した。大規模スタジアムの 観戦者が東京と神奈川の会場を合わせると全体の 55.1% であり、小規模スタジアムの観戦者は神奈 川と千葉の会場を合わせて 48.9% であった。調 査実施当時、いずれの小規模スタジアムも建設さ れてから 5 年以上が経過し、クラブのホームス タジアムとして定着した施設であると判断した。 2.記述統計および因子間相関 IBM SPSS Statistics 20.0 によって記述統計(要 因の平均値および標準偏差)と因子間相関を算出 した(表 4)。本研究は推計統計を用いて研究結 果を母集団(5 会場におけるスタジアム観戦者) に一般化することから、測定した変数が正規分布 の条件を満たす必要があった。心理的要因の合成 変数および観戦頻度の歪度を検証した結果、ドラ マ性、地域の誇り、競技の審美性、選手への愛着、 サッカーへの愛着、観戦頻度の統計量が基準値内 (±1.0)に収まり、正規分布を示唆する結果が得 られた(Hair et al., 2006)。クラブへの愛着の歪度 表 3 対象者の人口動態的特性および行動的特性 人口動態的特性 n % 行動的特性 n % 性別 座席 男性 655 54.0 メインスタンド 241 19.7 女性 558 46.0 バックスタンド 309 25.2 年齢(平均= 27.53;標準偏差= 9.61) ゴール裏 674 55.1 10 代 242 20.1 観戦歴(平均= 4.56;標準偏差= 2.32) 20 代 566 47.1 1 年未満 198 16.4 30 代 245 20.4 1 年以上 2 年未満 87 7.2 40 代 107 8.9 2 年以上 3 年未満 132 10.9 50 代 35 2.9 3 年以上 4 年未満 155 12.8 60 歳以上 7 0.6 4 年以上 5 年未満 177 14.6 職業 5 年以上 6 年未満 206 17.0 学生 309 25.6 6 年以上 10 年未満 117 9.7 主婦/主夫 111 9.2 10 年以上 138 11.4 会社員 602 49.8 観戦頻度(平均= 4.71;標準偏差= 4.22) 公務員 74 6.1 0 試合 230 18.7 無職 30 2.5 1 試合から 3 試合 362 29.5 その他 83 6.9 4 試合から 6 試合 251 20.5 居住地 7 試合から 10 試合 247 20.1 ホームタウン内 471 39.0 11 試合から 15 試合 120 9.8 ホームタウン外 737 61.0 16 試合以上 17 1.4 スタジアムの規模 大規模(東京) 361 29.5 大規模(神奈川) 265 21.6 小規模(神奈川) 299 24.4 小規模(神奈川) 163 13.3 小規模(千葉) 137 11.2 † 欠損値があるため、グループの合計が標本数(n=1228)と一致しない変数が存在する。
結果であった他、RMSEA(root mean square error of approximation)=.070 も 許 容 範 囲 内( ≦ .080) であったことから(Hu and Bentler, 1999)、モデ ルがデータに適合したものと判断した(表 2)。 さらに、表 2 は潜在変数と観測変数の関係(構 成概念妥当性)を示している。構成概念の収束 的妥当性は構成概念信頼性(construct reliability: CR)によって検証し、すべての要因において基 準値(CR ≧ .60)を上回る結果を得た(Bagozzi and Yi., 1988)。さらに、収束的妥当性を支持する 追加の指標として平均分散抽出(average variance extracted: AVE)を用いて検証したところ、ドラ マ性、地域の誇り、選手への愛着、クラブへの愛 着において基準値(AVE ≧ .50)を上回った(Fornell and Larcker, 1982)。 弁別的妥当性は次の二段階の方法によって検証 された。まず、各因子の AVE と因子間相関の二 乗を比較したところ、地域の誇りと競技の審美性 を除くすべての因子間で因子間相関の二乗より も AVE の方が高く、弁別的妥当性を有すること が示唆された(表 2、表 4)。次に、Anderson and Gerbing(1988)が推奨する手順に従い、因子間 相関(Φ)を 1.00 に強制したモデルと因子間相 関を自由に許容したモデルのカイ二乗(χ2)値を 比較したところ、15 通りの相関(心理的要因間 の相関)のすべてにおいて、因子間相関を許容す るモデルの方が制約したモデルよりも統計的に優 は若干基準値よりも大きかったが(1.22)、7 要 因中 6 要因において正規分布を満たしているこ とを確認したことから、推計統計としてその後の 分析を行った。 各要因の平均値は、選手への愛着が最も低く (3.65)、クラブへの愛着が最も高い結果となっ た(5.79)。また、標準偏差については競技の審 美性(1.02)が小さい一方で選手への愛着(1.82) については比較的大きな数値であった。また、表 4 は動機因子に加え観戦頻度を加えた因子間の相 関行列を示しており、特に地域の誇りと競技の審 美性の関係がやや強い傾向がみられた(Φ =.68)。 3.確認的因子分析の結果 本研究はクラブへの愛着、ドラマ性、地域の誇 り、競技の審美性、選手への愛着、サッカーへ の愛着の 6 因子モデルとした。次に、本研究の 理論的枠組みを検証するため、1998 年に収集し たデータを用い、LISREL8.8 による確認的因子分 析を用いて、尺度モデルの精緻化を行った。本研 究における 6 因子モデルの構成概念妥当性をさ らに高めるため、Hair et al.(2006)の尺度開発の 手順に習い、因子負荷量が .50 に満たない項目を 除外した(表 2)。尺度モデルのデータへの適合 度については、CFI(comparative fit index)=.93、 NNFI(non-normed fit index)=.90、AGFI(adjusted goodness of fit index)=.90 が基準値(.90)以上の
表 4 記述統計(平均、標準偏差、歪度、尖度)および因子間相関 要因 平均 標準偏差 歪度 尖度 相関(Φ 行列) 1 2 3 4 5 6 7 1. ドラマ性 4.91 1.50 -.55 -.21 1.00 .04 .18 .09 .04 .00 N.A. 2. 地域の誇り 5.58 1.25 -.72 .14 .20** 1.00 .46 .01 .06 .12 N.A. 3. 競技の審美性 5.70 1.02 -.82 .85 .43** .68** 1.00 .03 .16 .18 N.A. 4. 選手への愛着 3.65 1.82 .19 -1.04 .30** .10** .17** 1.00 .03 .02 N.A. 5. サッカーへの愛着 5.28 1.24 -.59 .03 .19** .24** .40** -.16** 1.00 .24 N.A. 6. クラブへの愛着 5.79 1.38 -1.22 1.05 -.05** .35** .43** -.13** .49** 1.00 N.A. 7. 観戦頻度 4.72 4.22 .74 -.31 -.22** -.02 .03 -.20** .12** .34** N.A. † 記述統計については IBM SPSS Statistics 20.0 を用いて合成変数の平均および標準偏差を算出した。 †† 因子間相関については LISREL 8.8 を用いて算出した Φ 行列を対角線から左下半分に表示した。 ††† 因子間の二乗を対角線から右上半分に表示した。
†††† 歪度と尖度については、IBM SPSS Statistics 20.0 を用いて合成変数の統計値を採用した。歪度が ±1.0 の範囲内の時、正規分布が示唆される(Hair et al., 2006)。
れていることが明らかとなった(表 5)。以上の 結果は、本研究で用いる心理的要因の収束的妥当 性および弁別的妥当性を支持するものであった。 これらの手順を通じて、本研究は 18 項目からな る動機因子の構成概念妥当性を検証し、新たに動 機尺度を開発した。 4.仮説の検証:観戦動機と観戦行動の関係 本研究は魅力の段階の観戦動機がクラブへの愛 着を介して観戦頻度に及ぼす影響を検証するもの であるが、別の因果性を説明する競合モデルが存 在することが想定できる。著者らはドラマ性がク ラブへの愛着に負の影響を及ぼすものとして仮説 を導出したが、一方でクラブへの愛着が強い者ほ ど試合にドラマ性を求めないという逆の因果関 係(クラブへの愛着がドラマ性に負の影響を及ぼ す)も考えられる。そこで本研究は、LISREL 8.8 による構造方程式モデリング(structural equation modeling)を用い、仮説モデル(ドラマ性からク ラブへの愛着に矢印を引いたモデル)と競合する モデル(クラブへの愛着からドラマ性に矢印を引 いたモデル)の比較を通じて、適合度指標とパス 係数を検証した(表 6)。その結果、仮説モデル の適合度の方が競合モデルよりも統計的に優れて おり(Δχ2(Δdf)=223.59**(4))、さらに競合モデル の中でクラブへの愛着がドラマ性に与える影響に ついても統計的に有意でなかった。このことから、 「試合にドラマ性を求めない者の方がクラブへの 愛着が強い」とする説明の方が、「クラブへの愛 着が強い者の方が試合にドラマ性を求めない」と いう説明よりもデータにより適合することが結果 から示された。よって、本研究は仮説モデルを用 いて要因間の関係性を分析することとした。 表 6 は観戦動機と観戦行動の関係を検証した 結果である。構造方程式モデリングを用いて因子 間の関係を分析したところ、理論的モデルがデー タに適合したことが示唆された(χ2 (df) = 966.67
(137), p < .01; CFI =. 92; NNFI = .90; AGFI = .89; RMSEA = .070)。仮説検証に関しては、クラブへ の愛着に対して競技の審美性(γ = 35, p < .01)お よびサッカーへの愛着(γ = .37, p < .01)が正の 影響を及ぼし、逆にドラマ性(γ = -.27, p < .01) が負の影響を与えることが明らかとなった。さら に、クラブへの愛着は観戦頻度に対して正の影響 表 5 カイ二乗相違テストを用いた弁別的妥当性の検証 因子間相関 等値制約のあるモデルの χ2(df) 等値制約のないモデルの χ2(df) Δχ2(Δdf) ドラマ性⇔地域の誇り 1802.90(121) 840.05(120) 962.85(1)** ドラマ性⇔競技の審美性 1129.45(121) 840.05(120) 289.40(1) ** ドラマ性⇔選手への愛着 1664.98(121) 840.05(120) 824.93(1) ** ドラマ性⇔サッカーへの愛着 1212.49(121) 840.05(120) 372.44(1) ** ドラマ性⇔クラブへの愛着 2380.54(121) 840.05(120) 1540.49(1) ** 地域の誇り⇔競技の審美性 1008.71(121) 840.05(120) 168.66(1) ** 地域の誇り⇔選手への愛着 1735.72(121) 840.05(120) 895.67(1) ** 地域の誇り⇔サッカーへの愛着 1293.70(121) 840.05(120) 453.65(1) ** 地域の誇り⇔クラブへの愛着 2268.71(121) 840.05(120) 1428.66(1) ** 競技の審美性⇔選手への愛着 1206.62(121) 840.05(120) 366.57(1) ** 競技の審美性⇔サッカーへの愛着 1102.41(121) 840.05(120) 262.36(1) ** 競技の審美性⇔クラブへの愛着 1123.10(121) 840.05(120) 283.05(1) ** 選手への愛着⇔サッカーへの愛着 1102.41(121) 840.05(120) 262.36(1) ** 選手への愛着⇔クラブへの愛着 1123.10(121) 840.05(120) 283.05(1) ** サッカーへの愛着⇔クラブへの愛着 1238.54(121) 840.05(120) 398.49(1) ** † 自由度が 1 の時(Δdf = 1)の Δχ2 の棄却限界値は 5% 水準の場合が 3.84(p < .05),1% 水準の場合が 6.64(p <.01)である。 ** p < .01
(β = .33, p < .01)を及ぼした。よって、H1、H3、 H5、H6 は支持された。 5.仮説の検証:調整変数の影響 本研究は因子間の関係に加え、魅力の段階の動 機がクラブへの愛着に及ぼす影響が強い消費者層 と弱い消費者層を特定するため、二種類の調整変 数(性別およびスタジアムの規模)の影響を多 集団構造方程式モデリング(multi-group structural equation modeling)を用いて検討した(表 7)。分 析ではグループ間でパス係数に等値制約を設けた モデル(グループ間でパス係数に差がないモデ ル)と等値制約のないモデル(グループ間でパス 係数の差を許容するモデル)のカイ二乗値を比較 し、この差が統計的に有意かどうかを分析した (Homburg and Giering, 2001; Palmatier et al., 2007)。
最初に、選手への愛着がクラブへの愛着に及ぼす 負の影響が性別によって調整されるかどうかを分 析したところ、男性(γ = -.20, p < .01)の方が女 性(γ = -.04, n.s.)よりも有意に強い負の影響を示 表 6 モデル比較および要因間のパス係数(t 値)の検証 競合モデル 仮説モデル 要因間の関係性 パス係数 パス係数 仮説 クラブへの愛着→ドラマ性 -.03(-.90) - ドラマ性→クラブへの愛着 - -.27**(-6.53) H1 (-):支持された 地域の誇り→クラブへの愛着 .11(1.95) .07(1.30) H2 (+):支持されなかった 競技の審美性→クラブへの愛着 .24**(3.66) .35**(4.52) H3 (+):支持された 選手への愛着→クラブへの愛着 -.14**(-4.09) -.07(-1.80) H4 (-):支持されなかった サッカーへの愛着→クラブへの愛着 .35**(8.91) .37**(8.83) H5 (+):支持された クラブへの愛着→観戦頻度 .33**(11.02) .33**(11.11) H6 (+):支持された R2 ドラマ性 .001 - クラブへの愛着 .33 .38 観戦頻度 .11 .11 適合度指標 χ2(df) 1190.26 (141) 966.67 (137) RMSEA .077 .070 CFI .90 .92 NNFI .87 .90 AGFI .88 .89 競合モデルと仮説モデルの比較:Δχ2(Δdf) 223.59**(4) † 競合モデルはクラブへの愛着がドラマ性に及ぼす影響を検討するものである。 †† 自由度が 4 の時(Δdf = 4)の Δχ2の棄却限界値は 5% 水準の場合が 9.49(p < .05),1% 水準の場合が 13.28(p <.01)である。 ††† パス係数は標準化解を用い、カッコ内に t 値を表示した。 * p < .05; ** p < .01 表 7 仮説の検証:調整変数(性別およびスタジアムの規模)の影響 調整変数 等値制約のないモデルのパス係数(t 値) Δχ 2 (Δdf) 仮説の検証 性別 選手への愛着 男性 -.20**(-4.39) 5.79* H7:支持された → クラブへの愛着(-) 女性 -.04(-.58) -1 (男性>女性) スタジアムの規模 サッカーへの愛着 小規模 .42**(7.44) 10.63** H8:支持された → クラブへの愛着(+) 大規模 .13(1.88) -1 (小規模>大規模) † 自由度が 1 の時(Δdf = 1)の Δχ2の棄却限界値は 5% 水準の場合が 3.84(p < .05),1% 水準の場合が 6.64(p <.01)である。 * p < .05; ** p < .01
した(Δχ2 = 5.79, Δdf = 1, p < .01)。続いて、サッ カーへの愛着がクラブへの愛着に与える正の影響 がスタジアムの規模によって調整されるかどうか を分析したところ、小規模スタジアムの観戦者(γ = .42, p < .01)の方が大規模スタジアムの観戦者(γ = .13, n.s.)よりも有意に強い正の影響を示す結果 が得られた(Δχ2 = 10.63, Δdf = 1, p < .01)。これら の結果から、H7 および H8 は支持された。 考察 本研究の目的は、(1)新しく誕生したプロス ポーツリーグの観戦者の動機因子を測定するため の 6 因子モデルを開発し、その妥当性を検証す ること、(2)開発した動機因子が観戦行動に及 ぼす影響を検証すること、(3)仮定された要因 間の関係性を強める調整変数の影響を検証するこ とであった。先行研究の多くが成熟市場を形成し ている北米の 4 大スポーツの観戦者を全般的に 扱った全体的な分析に留まっていることから、本 研究は特に以下の 3 つの学術的貢献を果たすも のと考えられる。 第一に、北米の成熟した四大プロスポーツおよ びカレッジスポーツを中心とした先行研究とは対 照的に、本研究は日本の J リーグ観戦者の動機因 子を測定する尺度を開発した。新しく誕生してか ら間もない 1990 年代後半の J リーグ観戦者の動 機因子として、ドラマ性、地域の誇り、競技の審 美性、選手への愛着、サッカーへの愛着、クラブ への愛着を特定し、これら 6 因子で構成される モデルの収束的妥当性および弁別的妥当性を支持 する結果を得た。J リーグ公式戦が行われた 5 会 場において 1,000 人を超える回答者から収集し たデータによって検証した因子構造は、母集団へ の一般化の水準を高めるものであり、データ自体 に学術的価値が認められる。さらに、アメリカ型 のスポーツエンターテインメントとしての四大プ ロスポーツやカレッジスポーツを扱う先行研究に 対して、日本のプロサッカーの観戦者の動機構造 を明らかにした点も本研究が独創性を有する点で ある。 本研究が果たす学術的貢献の二つ目は、観戦 動機の中で階層性の存在を確認したことである。 Funk and James(2001)の PCM の理論的枠組み を援用し、J リーグ観戦者の動機因子を魅力の段 階の動機(ドラマ性、地域の誇り、競技の審美性、 選手への愛着、サッカーへの愛着)と愛着の段階 の動機(クラブへの愛着)に分類した。さらに、 構造方程式を用いた仮説の検証結果は、魅力の段 階の動機因子の間で、クラブへの愛着に対して正 の影響を及ぼす要因(競技の審美性、サッカーへ の愛着)と負の影響を及ぼす要因(ドラマ性)を それぞれ特定した。さらに、クラブへの愛着は観 戦頻度に正の影響を及ぼし、サポーターがリピー ターとして再観戦に踏み切る際の重要な心理的反 応としてクラブへの愛着があることを確認した。 一方で、地域の誇りはクラブへの愛着に対して有 意な規定力を示さなかった。これは、J リーグ観 戦者における地域貢献の評価と観戦行動(年間観 戦頻度)に有意な関係を確認できないことから、 「地域貢献活動は特定の観戦者層ではなく、広く マスの層に訴求する可能性がある」という報告(仲 澤,2013)と軌を一にするものであることと推 察された。以上の考察から、本研究は PCM を基 礎とした理論的枠組みを日本の J リーグ観戦者に 適応させた点において学術的貢献を果たすものと 考えられる。 学術的貢献の三つ目は、二種類の基準変数(性 別およびスタジアムの規模)が PCM における魅 力の段階の動機(ドラマ性、地域の誇り、競技の 審美性、選手への愛着、サッカーへの愛着)と愛 着の段階の動機(クラブへの愛着)の関係を調整 する機能を持つことを明らかにした点である。ま ず性別に関しては、男性(γ = -.20, p < .01)の方 が女性(γ = -.04, n.s.)よりも選手への愛着がクラ ブへの愛着に対して強い負の影響を示した。この ことは、男性が選手への愛着を持つとクラブへの 愛着が減少することを支持する結果であり、特定 選手との結びつきによって男性観戦者のクラブへ の愛着を強めることは難しいものと考えられる。 次に市場特性としてのスタジアムの規模に関して は、サッカーへの愛着とクラブへの愛着がより強
く結びついているのは、小規模スタジアムの観戦 者(γ = .42, p < .01)の場合であることが明らか となった。この結果は小規模スタジアムに来場す る観戦者のクラブへの愛着は、競技の審美性に加 え、サッカーという競技自体への愛着によって高 まることを裏付けるものである。小規模スタジア ムと大規模スタジアムの間で、クラブへの愛着を 高める先行要因が異なることを明らかにしたこと は、学術的貢献に加え実践的貢献にもつながるこ とが期待される。 本研究は仮説モデルを縦断的に検証するもので はないが、特に 1990 年代後半の J リーグ観戦者 のクラブへの愛着とその先行要因を特定し、併せ て観戦頻度への影響を分析した点に学術的な独自 性があるものと考えられる。本研究結果は、これ から成長期を経験する歴史の浅いプロスポーツリ ーグ(なでしこリーグ、bj リーグ、F リーグなど) に応用が可能であり、歴史の浅いチームのファン の愛着を高めるための先行要因の特定につながる ものと期待される。これらのリーグの実務担当者 は、本研究の動機尺度を用いることで、マーケテ ィング戦略における新しい取り組み(芝かぶり席 などのプレミアムシート、ホームタウン活動の拡 充、選手を起用したプロモーション活動、新しい グッズの販売など)が、ドラマ性、競技の審美 性、地域の誇り、選手への愛着、クラブへの愛着 などの動機因子の充足にどのようにつながるのか を確認することができるだろう。特に、新しいス ポーツチームの場合、クラブへの愛着が不安定な 観戦者も少なくないことから、魅力の段階の動機 の中でもクラブへの愛着に正の影響を及ぼす競技 の審美性やサッカーへの愛着に絡めたマーケティ ング戦略を展開していくことが重要になると思わ れる。 研究の限界と今後の展望 本研究の限界としては、まず、過去に収集され たデータを二次的に使用したために、1998 年当 時に存在しなかったスタジアム環境(e.g., 地方都 市に建設された大規模スタジアム)、マーケティ ング手法(e.g., スマートフォン、ソーシャルメデ ィア、IT を用いた顧客関係管理)、社会現象(e.g., 震災復興支援とスポーツ)に関する知見を本研究 に適応することができなかった点があげられる。 このため、本研究は新たな動機因子としてホーム タウン活動、会員プログラム(ワンタッチパス)、 震災復興支援などに関する要因の設定に至らなか った。さらに、本研究結果が 1998 年に実施した 1 回限りのアンケート調査に依っていることも、 仮説検証に対して制約をかけることとなった。本 研究では一般の観戦者がクラブへの愛着の形成を 通して魅力の段階から愛着の段階への移行するも のとして仮説を設定したが、この関係を時間的経 過の中で説明することはできなかった。今後は、 観戦者の追跡調査を行い、本研究の理論的枠組み を縦断的に検証すべきだろう。 次に、分析の対象がプロサッカーであったこと は、研究結果の外的妥当性において課題が残る。 F リーグ、bj リーグ、女子プロ野球などの他の新 しいプロスポーツや、同じサッカーでもヨーロッ パの伝統あるプロサッカーリーグにおいても、本 研究と同様の結果が確認されるのかどうか継続的 な分析を行う必要がある。 研究の限界の三つ目は、本研究が一時点のデー タを扱う横断的研究であった点である。スポーツ マネジメント領域においても、特に顧客ロイヤル ティの検証では縦断的な調査の必要性が指摘され ている(Heere and Dickson, 2008)。しかしながら、 追跡調査には膨大なコストがかかることに加え、 個人の特定につながるデータへのアクセスの難し さを理由に、こうした研究はこれまでほとんど実 施されてこなかった。一方で、最近の研究(吉田ら, 2013)の中には、J リーグ観戦者から収集した アンケート調査のデータを、クラブ側が集約した 観戦履歴のデータベースにつなげ、縦断的な分析 を行っているものもある。今後は、本研究の理論 的枠組みを縦断的に分析し、要因間の関係性を経 年的に詳しく検証していく必要があるだろう。 四つ目の限界は、観戦を促進する動機因子と併 せて、観戦を妨害する阻害要因を分析しなかった 点である。Kotler and Keller(2008)によると、消
費者行動を阻害する要因には様々なリスクがあ り、(1)期待通りの結果が得られない機能的リ スク、(2)消費によって健康に危害が加わる身 体的リスク、(3)製品が支払った対価に見合わ ない金銭的リスク、(4)消費が周囲から承認さ れない社会的リスク、(5)消費によって精神的 な負担が増える心理的リスク、(6)消費に膨大 な時間と労力を要する時間的リスクなどがある。 今後はこれらの阻害要因の影響と併せて、J リー グ観戦者の観戦行動に関する意思決定プロセスを 検証する必要がある。 研究の限界の五つ目は、クラブへの愛着が観戦 頻度に与えた影響を十分に確認できなかった点で ある(β = .33, p < .01)。本研究は動機因子間の関 係の強さを決定付ける調整変数を検討したが、一 方でクラブへの愛着と観戦頻度の関係を調整す る変数については分析に含めなかった。調整変 数には人口動態的特性、心理的特性、市場特性 などがあり(Homburg and Giering, 2001; Mittal and Kamakura, 2001; Seiders et al., 2005)、今後はこれ らの変数とともにサポーターがリピーター化する メカニズムを検証していくべきだろう。 また、本研究では心理的な潜在変数の測定にお いていくつかの課題が残った。第一に、サッカー への愛着の AVE(.38)が基準値に満たなかった ことから、収束的妥当性を十分に確認できなかっ た点がある。本研究はサッカーへの愛着を測るた めに、他の愛着の対象であるクラブや選手と比較 してサッカーとのつながりがどれくらい強いかを 対象者に尋ねた(Trail et al., 2003b)。今後はこう した比較表現を避け、個人とサッカーとの心理的 なつながりを測定し、収束的妥当性を高めていく 必要がある。第二に、概念的に異なる地域の誇り と競技の審美性の間で、弁別的妥当性が十分に確 認されず、課題が残った。これは、競技の審美性 の AVE(.34)が低かったことに加え、地域の誇 りとの相関(Φ = .68)が高かったことに原因が あるものと思われる。本稿では競技の審美性を、 競技の卓越性、技術性、アスリートとしての自己 管理などの側面から測定した。一方で、Trail and James(2001)のように焦点を競技的な美しさに 絞ることで収束的妥当性が高まり、他の動機因子 との間の弁別的妥当性を確保しやすくなることも 考えられる。このように、サッカーへの愛着と競 技の審美性の測定方法については、今後も継続的 に検証していかなければならない。 結論として、本研究は J リーグというまだ歴史 の浅いプロスポーツリーグを研究の対象とし、特 に 1990 年代後半の時期の観戦者の動機構造を明 らかにした。J リーグ観戦者がサポーターへと成 長する過程を理論的に説明することで、スポーツ マネジメント研究に新たな知見を提供したものと 考えられる。本研究結果はプロスポーツ観戦の消 費者の動機、顧客ロイヤルティ、調整変数の理解 をさらに深めるものであり、わが国のプロスポー ツイベントを対象としたマーケティング研究の更 なる発展に貢献することが期待される。 【謝辞】 本研究に関して査読者の方々から多数の貴重なご 助言をいただきました。特に 1990 年代後半の二次的 データの検証および本稿の理論的枠組みについて丁 寧なアドバイスをいただきましたことに厚くお礼申 し上げます。 【注】 1)本稿においてメジャープロスポーツの中のメジャ ーという形容詞は、プロスポーツリーグの「頂点に 立つ」という意味で用いられている(Noll, 2003)。 多くのプロスポーツリーグが競技レベルに応じて 階層的な構造を取っており、最もレベルの高いリ ーグはメジャー(プロ野球)、プレミア(ヨーロッ パサッカー)、ディビジョン 1(J リーグ)などの 名称で呼ばれ、その下に位置づくリーグをマイナ ーリーグやディビジョン 2 などで表現される(Noll, 2003)。 2)1997 年に J リーグ観戦者を対象として大規模調 査(n = 2841) を 実 施 し た Nakazawa et al.(1999) に よ る と、 当 時 の フ ァ ン は ブ ー ム 時(93 年 か ら 95 年:53.6%)、 ブ ー ム 後(96 年 か ら 97 年: 25.2%)、ブーム前(開幕前:21.2%)に分かれ、 このうち過半数を占めたブーム時(93 年から 95 年: 53.6%)のファンはクラブへの愛着がやや高く(ク ラブへの愛着5 段階評価尺度= 4.07)、観戦頻度は平均 で 6 試合であった。この結果を最新の J リーグス タジアム観戦者調査(2014)の結果(クラブへの 愛着5 段階評価尺度= 4.53、観戦頻度J1= 10.3、観戦頻 度J2= 13.0)と照らし合わせると、ブーム時のフ ァンのクラブへの愛着と観戦頻度の両方が現在の ファンよりも低いことが分かる。さらにブーム後
のファンについてはクラブへの愛着(3.44)と観 戦頻度(5.10)の両方において低い数値であった。 以上の結果から、1990 年代後半の観戦者がファン として未成熟であったことが示唆される。 3)Shank(2005)は米国四大プロスポーツをプロダ クトライフサイクル論に当てはめると、すべての リーグが成熟期の後半から衰退期に差し掛かって いると指摘している。 4)本研究は先行研究や理論的枠組みに関する記述に おいてスポーツチームという、より一般的な表現 を用いる一方で、J リーグ観戦者を対象とした本稿 の研究環境や結果に関する内容においてはサッカ ークラブとして表記した。 5)本研究では B2B(Business to Business)コンテク ストにおいても用いられる顧客という表現を、消 費者を扱う B2C(Business to Consumer)コンテク ストにおいても同様に用いた(MSI, 2010)。そのた め、本稿で用いる顧客セグメントおよび顧客ロイ ヤルティなどの概念における顧客は消費者を対象 としている。 6) マ ー ケ ッ ト・ セ グ メ ン テ ー シ ョ ン(market segmentation)は、ターゲットの細分化の程度によ ってマス・マーケティング(mass marketing)、セグ メントマーケティング(segment marketing)、ニッ チマーケティング(niche marketing)、ミクロマー ケティング(micromarketing)に分けられ、本研究 のように対象が二グループに大きく分類される場 合はセグメントマーケティングと呼ばれる(Kotler and Armstrong, 2001)。 7)オリジナルのデータ収集に際しては、本研究の著 者の一部を含むグループ(アメリカ人研究者 4 名、 日本人研究者 2 名)が観戦動機に関する質問項目 を設定した。彼らは、代理的達成、ドラマ性、地 域の誇り、競技の審美性、選手への愛着、サッカ ーへの愛着、クラブへの愛着の 7 因子の定義に基 づき、各因子について 10 項目から 15 項目の質問 を作成し、項目の意味の明確性と項目の表面的妥 当性の観点から適切な項目を選択し、データ収集 を行った。回答者は 28 項目からなる動機尺度につ いて、「まったくあてはまらない(1)」から「大い にあてはまる(7)」までの 7 段階で評価した。 【文献】
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