HIV感染女性のケア
Providing Care for HIV-infected Woman
Amneris E. Luque, MD
SMH AIDS Center Medical Director
日本語訳 : 高田 昇
広島大学医学部附属病院エイズ医療対策室 2002/07/01
アメリカにおける女性のエイズ発生率
(1986年1月∼1999年6月)
エイズ患者に占める割合 女性エイズ患者数 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 診断年度(半期ごと、報告の遅れは補正済み) 0 2000 4000 6000 8000 0 5 10 15 25 30 20アメリカの女性エイズ患者のうちわけ
人種・エスニック群別
1999年度
*21人の女性は人種・エスニック群が不明であるが合計には加えてある。 人種/エスニック群 人 (%) 100,000当たりの人数 非ヒスパニック系白人 1924 (18) 2 非ヒスパニック系黒人 6784 (63) 49 ヒスパニック系 1948 (18) 15 アジア系・太平洋系 63 (1) 1 アメリカ原住民/ アラスカ原住民 40 (<1) 5 合計* 10,780 (100) 9.3アメリカの女性エイズ
1999年の州別100,000人あたりの発生率 アメリカ全体の率: 9.3 N=10,780 10+ 5 9.9_ <5 発生率/100,000人 <5 cases * 3.0 2.1 2.5 1.9 1.6 1.7 1.2 3.6 1.3 2.0 2.0 2.7 2.1 1.8 1.2 2.5 2.1 0.9 3.4 9.1 11.0 5.9 30.0 15.0 13.4 23.2 6.3 6.7 7.4 5.5 1.8 9.2 7.4 0.9 1.5 4.7 4.6 5.2 1.6 PR 21.3 VI 30.1 14.8 21.0 1.2 7.2 13.0 19.6 14.1 93.4 MA NH RI CT NJ DE MD DC * * * *女性のエイズ
• 初期は静注薬使用者の感染がはじまり • 1991年以降は静注薬使用男性やバイセクシャル男性 との性的接触がふえた • 1995年以降はハイリスクでないパートナーからの性的 な接触による感染が増えているHIVの性的接触による感染の危険因子
• HIV陰性のパートナーに他の性感染症
があるとき
• 解剖的な因子
• 性行為の内容
性的接触でHIVの
感染率を増加させる因子
• HIVに感染している側の臨床的進行度
• 特定のHIVのサブクラス
女性のHIV
• 病気としての特徴
• HIV感染症におよぼす妊娠の影響
アメリカのHIV感染女性の
疫学的な特徴
• 年令: 15-44 才
• 大多数は民族・社会背景でマイノリティー出身者
• 64% は年収 10,000ドル以下の貧困層
• 23%は独身、 2%は施設収容、 1%はホームレス
女性HIV感染者の医療へのアクセス
• 女性は男性よりも抗HIV療法を受けることが少なく、 エイズ関連疾患で入院することが多いという研究あり • 家事や子育ての務めがあり受診できない
女性のHIVには違いがあるのか?
• ウイルス量の違い論争
– 感染早期には同じCD4細胞数でも男性よりウイル ス量が少ない – 生存期間や病気の進展速度は男性と同じようだ – さらに研究が必要女性のHIV感染症の早期症状
• 最も多いのはカンジダ性膣炎 (37%)
• 全身性リンパ節腫脹 (15%)
その他の婦人科領域の感染症
• 骨盤内感染は重症化しやすい
• 単純性ヘルペスが多い
• 細菌性の膣炎も多い
• 梅毒
月経の異常
•無月経
– CD4 細胞数は低い – 血清アルブミン値が低い – ヘロイン使用者に多い •その他の月経不順
– その他の疾患と差はない – RIT実施中の4人の女性での過多月経報告抗HIV療法の女性への毒性
• 女性の方が、リトナビルで吐き気や口周囲の異常知 覚の頻度が高い
• 女性の方が、ネルフィナビルの腹痛が多い • 女性の方が、デラビルジンの皮疹が多い
抗HIV療法の女性への毒性
• 女性の方がネビラピンで肝毒性の頻度が高い • 女性では抗HIV薬による脂肪再分布症候群のパター ンが異なる。 – 腹囲の増加が多い – 乳房の大きさが増大することが多い女性における抗HIV療法の毒性
• 妊娠中にスタブジン(d4T)とジダノシン(ddI)を
併用して、急性脂肪肝によって死亡した例の報
告がある。
エチニル・エストラジオールと
抗HIV薬の相互作用
併用しない EEの濃度↓ リトナビル 通常量 相互作用なし アンプレナビル 併用しない EEの濃度↓ ネルフィナビル 通常量 相互作用なし インジナビル 通常量 EEのAUC 37%↑ エファビレンツ 併用しない EEのAUC 19% ↓ ネビラピン 推奨事項 エストラジオール (EE)への影響 抗HIV薬女性におけるAIDS定義疾患
• 男性と同様な分布
• 2つの例外がある:
– カポジ肉腫 – 子宮頚癌
HIV感染女性における子宮頚癌
• 臨床経過の進行が早い
HIV感染女性における
HPV感染症に関する研究
Amneris E. Luque, Lisa M. Demeter,研究のデザイン
研究のデザイン
• 対象はロチェスター大学エイズ研究センターでケアを行 っているHIV感染女性 • HIV感染女性におけるHPV感染に関する長期観察研究 • HIV感染で妊娠していない204人から研究についてイン フォームド・コンセントを得た研究のデザイン(続)
• 受診時に月経中であった女性と子宮摘出術を受けてい た女性は除外した (n=16) • 研究対象者全員に対し: – 標準的な病歴聴取と身体診察 – 婦人科的なアンケート – 骨盤腔検査研究デザイン(続)
研究デザイン(続)
– 骨盤腔検査: • 子宮頸部の細胞診: Cervex-Brush® • 子宮頸部から淋菌とクラミジア・トラコマティスの培養 • 子宮頸部の湿式包埋標本作製 • 子宮頸部からHPV DNAの検査ウイルス学的な検査
ウイルス学的な検査
• HIV-1 RNA 検査 ロシュ社のアンプリコア® • HPV DNA 検査 DIGENE® ハイブリッド・キャプチャー・アッセイ • 危険度が低い: (LR HPV): HPV 6, 11, 42, 43, 44 • 危険度が高い: (HR HPV): HPV 16, 18, 31, 33, 35, 45, 51, 52, 57 • HPV 抗体検査: VLPを使ったELISA法結果
– 横断的研究
• HIV-1 RNA 量が 10,000 以上のものでは発癌関
連の
HPV があり、細胞診の異常率も高かった
結果-横断的研究
• 細胞診の異常は HIV-1 RNA > 10,000 copies/ml
で多く見られた。
(P = 0.0016)
• 発ガン性の HPV は細胞診異常と強く関連していた。
(P = < 0.001)
HIV感染女性におけるHPV (1)
• 細胞診(Pap smear)の結果 (n=191)
– 123 (64%) normal – 31 (16%) ASCUS – 25 (13%) LGSIL – 7 (4%) HGSIL – 3 (2%) dysplasia nosHIV感染女性におけるHPV (2)
• 抗HIV療法
– 評価開始前: • 104 (51%) 人が抗HIV療法を受けていた • 37 (18%) 人はNRTIの2剤であった • 61 (30%) 人はNRTI 2剤 + PI 剤であった • 6 (3%) 人はNRTI 2剤 + NNRTI剤であった抗HIV療法にともなう経過観察中の108人の女性における 細胞診と子宮頸部の HPV DNA 初診時 治療 無治療 再診時 治療 無治療 Median CD4 count (cells/ml) 357 422 429 270 Median HIV-1 RNA (copies/ml) 1,056 11,968 572 33,667 Normal Pap smear 50 (69%) 22 (31%) 58 (76%)* 18 (24%) Abnormal Pap smear 18 (51%) 17 (49%) 16 (53%) 14 (47%) HPV DNA - 42 (63%) 25 (37%) 46 (77%)** 14 (23%) HPV DNA + 24 (62%) 15 (38%) 16 (50%) 16 (50%)
初診時の細胞診で異常が見られ、 抗HIV療法をおこなった34人の再診時の細胞診結果 87% 87% 53% 53% 13% 13% 47% 47% 0 20 40 60 80 100 正常 異常l 抗HIV療法あり 抗HIV療法なし P<.03
初診時にHPV DNAが陽性であった53人の女性 再診時の頸部検体でのHPV DNAの陽性率 22% 22% 80% 80% 78% 78% 20% 20% 0 20 40 60 80 HPV DNA+ HPV DNA– 治療群 無治療群 P<.01
まとめ (1)
• 抗HIV療法を実施中の女性では無治療の女性に比べ て細胞診の結果が正常である確率が高かった。 • 初診時の細胞診が異常であった女性では、抗HIV療 法を行わなければ再診時における細胞診の異常が続 いている確率が高かった。 (P = 0.03, OR: 0.17, 95% CI: 0.03-0.97)まとめ (2)
• 抗HIV療法を実施中の女性では再診時の頸部
検体から
HPV DNAが検出される確率が低かっ
た。
(P
= <0.01, OR: 0.07, 95% CI; 0.013-0.416)• これらの所見は血漿HIV RNA量やCD4細胞数
で補正したあとでも有意であった。
HIV感染症が妊娠に及ぼす影響
• 32人の女性(SHCS)を416人の対照と比較した。
• 妊婦のエイズ指標疾患では再発性肺炎が多い。
• エイズ進行の促進については定説がない。
垂直感染 (1)
• 子宮内
• 周産期
垂直感染 (2)
• 子宮内感染
– 胎児組織からPCR法でHIVを証明 – 妊娠10週でHIVが検出された – 経胎盤感染 – 絨毛羊膜炎の存在垂直感染 (3)
• 周産期感染
– 子宮膣分泌液中にHIVが存在 – 双生児での感染率に差がある – 母親のHIV株に比べて、感染した新生児のHIV の遺伝的多様性が少ない垂直感染 (4)
• 子宮内感染
• 周産期感染
• 出産後感染
垂直感染の危険因子 (1)
• 母親の血中および頚管・膣のウイルス量が高
いこと
• 母親のHIV感染症の病期が進行していること
• 母親の免疫応答能が低下していること
垂直感染の危険因子 (2)
• 経膣分娩
• 破水から出産までの経過時間の長さ
• 早産と出生時低体重
ACTG 076 研究
• 妊娠14-34週にAZT 500 mg/日を開始
• 出産が始まったら1時間以上かけてAZTを
2mg/Kgで点滴し、その後出産まで 1mg/Kgの
点滴を継続
• 新生児には生後8-12時間以内にAZTを 2
mg/Kgで6時間ごとに与薬、 6週間継続
アメリカ保健福祉省の推奨
• 全ての医療従事者とHIV感染者にACTG 076の
研究結果を知らせる
• HIV感染者に垂直感染の危険性を減らすことは
できるが、皆無にはできないことを伝える
• 妊娠14週以前のAZT使用はしないよう警告する
妊娠中のAZT使用
• AZTは胎盤を通過する
• AZTは新生児でも忍容性がある
HIVの周産期感染に対する
AZT予防療法のまとめ
1 21-32.7 63 (26.6) 237 (25) 無治療 0.69 (0.35-1.36) 7.7-34.3 7 (18.40 38 (4) 生後3日以後 0.35 (0.19-0.65) 4.1-17.5 8 (9.3) 86 (9.2) 生後48時間 以内 0.38 (0.18-0.81) 3.3-21.8 5 (10) 50(5.3) 出産中 0.23 (0.16-0.34) 4.1-8.9 26 (6) 423(45) 出生前 95% CI N (%) 相対危険度 PCR陽性数 新生児の 数 ZDVの タイミング推奨
• 妊娠中にAZTを服用しなかった妊婦には、出産
時に
AZTを提供する
• 出産後48時間以内の女性がHIV陽性かどうか
わからない時は、予防治療を考慮して迅速検
査法を実施する。
ZDV 25% NVP 13% (↓ 47%NVP) ZDV 4 mg/Kg を2回/日 x 7日 または NVP 2 mg/Kg ZDV 300 mgを2 回/日で経口投与 出産まで3時間毎 または出産時に NVP 200 mg なし ウガンダ 1999 ZDV 15.7% 対照 25% (↓ 37%) なし(母乳許可) ZDV 300 mgを2 回/日で経口投与 出産まで3時間毎 36週から ZDV 300 mgを 2回/日 象牙海岸 1999 ZDV 9.2% 対照 18.6% (↓ 51%) なし ZDV 300 mgを経 口投与し、出産まで 3時間毎に追加 36週から ZDV 300 mgを 2回/日 タイ 1999 ZDV 8.3% 対照 25% (↓ 67.5%) ZDV 2 mg/kg を経口で6時間お きに6週まで ZDV 2 mg /Kgを 静注し、出産まで 1mg/kg/hrで点 滴 14-36週に ZDV 500mg/分5 経口 アメリカ PACTG 076 1994 分娩後 分娩中 分娩前 HIV-1 感染率 抗HIV療法の与薬用 研究
母子垂直感染の予防
HIVNET-012 試験 • ウガンダで311人の妊婦は分娩開始時に、NVP 200 mgを1回だけ経口投与。 • 新生児には生後72時間以内にNVPを投与。 • ZDVを比較対照とした。 • 垂直感染はNVPのほうがZDVよりも47%低かった。母子垂直感染の予防
HIVNET-012 試験 • NVP 耐性の発現は – 6-8週の時点で母親の19% – 新生児の46%に見られた • 母親で最も多い耐性変異はK103で、新生児には Y181Cが多かったアメリカの母子垂直感染予防での
NVPの役割 (1)
• PACTG 316
– 無作為化した多施設共同の第3相試験 – 出産中はNVP 200 mg + 新生児に72時間以内に 2 mg/kg を投与 偽薬と比較する – ほとんどの妊婦は抗HIV薬服用歴があった • 41%は、プロテアーゼ阻害剤を含む3剤療法 • 28%は、 ZDV + 3TC • 21-24%は、ZDV単剤療法 • 2%だけが、 NVPの経験があったアメリカの母子垂直感染予防での
NVPの役割 (2)
PACTG 316 研究のまとめ
• HIV 感染率は低かった。 (1.5%)
• 出産前の抗HIV療法は有効
(50%がウイルス量は検出限界以下だった)
アメリカの母子垂直感染予防での
NVPの役割 (3)
PACTG 316
– アメリカの標準的なレジメンにNVPを追加して
も感染率には影響がない
• ZDV 23% • ZDV + 3TC 28% • PI 含んだレジメン 41%母乳栄養とHIV感染に
かかわる危険因子
• 母親の年令が若い
• 収入が低い
• 授乳期にHIV感染した
• 授乳期間の長さ
• 乳腺炎や乳腺膿瘍の存在(無症状を含む)
乳児のHIV感染症に関連するもの
早期 vs 晩期
• 早期の感染 (< 生後2ヶ月以内)
– 陰部潰瘍 – CD4 < 200 – 未熟児 – 母乳栄養 – 乳頭からの出血があった – ウイルス量 ( 血漿と膣液)乳児のHIV感染症に関連するもの
早期 vs 晩期
• 晩期の感染 (生後2ヶ月以降)
– 母親の血漿 HIV RNA > 43,000 コピイ – 乳腺炎の存在 – 乳腺膿瘍母子垂直感染を防ぐことを
めざした帝王切開の役割
• 15の前方視研究 (5はヨーロッパ、 1つがアメリカ) • 母子 8,533 組 – すでに帝王切開の適応あり – 子供の HIV 感染状況が判明したもの • 4,675 組はZDVを服用しなかった • 7,840 組にロジスティック回帰分析を行った結果、選 択的帝王切開と母子感染の低下に関連ありと判定 The International Perinatal HIV group.NEJM 1999: 340:977-87推奨されることがら (1)
• 妊娠・出産ケアを受けること
• HIVに感染していない妊婦と同じように婦人科
的な問題を評価を受けること
• 子宮頸部の細胞診を実施し、その他の性感染
症の治療を行うこと
推奨されることがら (2)
• 鬱病がないか検査すること、麻薬の使用がな
いか調べ、あれば治療すること
• 家庭内暴力がないか調べること
• 女性では抗HIV薬は副作用のあらわれかたが
違う可能性があることを意識すること
目まぐるしく変化するHIV医療の領域においては、この情報も急 速に時代遅れになる可能性があります。利用者におかれましては、 このスライドと最新のガイドラインとをぜひ比較して下さい。 このスライドは、演者や会議の組織委員会によって配布用に提 供されたものです。これらのスライドは、内容や属性に変更を加え ないで使用して下さい。使用者はこれらの意図を十分に留意して下 さい。またこのスライドを利用する際には、著者名を適切に記して下 さるようお願いします。 -AETC NRC