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はじめに:サルコペニアと低栄養

 サルコペニアは、加齢による筋肉量減少を意味する言

葉として1989年に提唱された1)。2010年の European

Working Group on Sarcopenia in Older People (EWGSOP)のコンセンサス論文では、サルコペニアは 進行性、全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり、 身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うと定義され た2)。つまり、サルコペニアの定義は、狭義では加齢によ る筋肉量減少、広義ではすべての原因による筋肉量減少、 筋力低下、身体機能低下となる。ここでは広義のサルコ ペニアで考える。原因別では、加齢のみが原因の場合を 一次性サルコペニア、その他(活動:廃用、栄養:飢餓、 疾患:侵襲、悪液質、原疾患)が原因の場合を二次性サ ルコペニアと分類する(表1)2)  米国栄養士会と米国静脈経腸栄養学会では、成人低 栄養の原因を飢餓(エネルギー・たんぱく質摂取不足: マラスムス型、クワシオルコル型)、侵襲(急性疾患・外傷、 急性炎症)、悪液質(慢性疾患、慢性炎症)に病態別に分 類した3)。飢餓、侵襲、悪液質は、すべて二次性サルコペ ニアの原因でもある。つまり、高齢者で低栄養を認める 場合、二次性サルコペニアのことが多いといえる。一方、 高齢者でサルコペニアを認める場合、低栄養だけでなく 加齢、活動、疾患によるサルコペニアの考慮が必要であ

特集:Quality of Lifeを高める栄養管理

サルコペニアと栄養療法‐高齢者の栄養状態と QOL*

keywords:

低栄養、サルコペニア肥満、リハビリテーション栄養

若林秀隆 Hidetaka WAKABAYASHI ◆横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科

Department of Rehabilitation Medicine, Yokohama City University Medical Center

 サルコペニアの定義は、狭義では加齢による筋肉量減少、広義ではすべての原因に よる筋肉量減少、筋力低下、身体機能低下となる。成人低栄養の原因である飢餓、侵襲、 悪液質は、すべて二次性サルコペニアの原因でもある。つまり、高齢者で低栄養を認め る場合、二次性サルコペニアのことが多い。高齢者では低栄養と QOLに関連を認め、 栄養改善で身体的 QOLと精神的 QOLを改善できる。サルコペニアと QOLの関連も 示唆されるが、サルコペニアの改善による QOL改善のエビデンスは乏しい。  サルコペニアに対する栄養補給は、高齢者の筋肉量と筋力を改善させる。ただし臨 床現場では、広義のサルコペニアの原因である加齢、活動、栄養、疾患の有無をそれぞ れ評価したうえで対処する。サルコペニアの原因によって、レジスタンストレーニングの 可否や栄養療法の内容が異なるからである。サルコペニア対策では、リハビリテーショ ン栄養の考え方が有用である。

*Sarcopenia and nutrition therapy – nutritional status and quality of life in the elderly 一次性サルコペニア  加齢の影響のみで、活動・栄養・疾患の影響はない 二次性サルコペニア  活動によるサルコペニア:廃用性筋萎縮、無重力  栄養によるサルコペニア:飢餓、エネルギー摂取量不足  疾患によるサルコペニア   侵襲:急性疾患・炎症(手術、外傷、熱傷、急性感染症など)   悪液質:慢性疾患・炎症(がん、慢性心不全、慢性腎不全、       慢性呼吸不全、慢性肝不全、膠原病、慢性感染症など)   原疾患:筋萎縮性側索硬化症、多発性筋炎、甲状腺機能亢      進症など 表1 サルコペニアの原因

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る。本稿では、高齢者の低栄養とQOL、サルコペニアと QOL、サルコペニアの栄養療法とリハビリテーション(以 下、リハと略)栄養、やせのサルコペニアとサルコペニア 肥満、老嚥(Presbyphagia)とサルコペニアの摂食嚥下 障害について解説する。

高齢者の低栄養と QOL

 高齢者の低栄養とQOLについて調査した系統的レ ビューとメタ解析の論文を紹介する4)。対象は2011年4月 までに発表されたコホート研究および介入研究である。 低栄養の場合、有意に QOLが低かった(オッズ比2.85、 95%信頼区間:2.20~ 3.70)。また、栄養改善を目標と した栄養介入を行うと、身体的 QOL(標準化平均差0.23、 95%信頼区間:0.08~ 0.38)と精神的 QOL(標準化平 均差0.24、95%信頼区間:0.11~ 0.36)がそれぞれ有 意に改善した。  以上より、高齢者では低栄養とQOLに関連を認め、 栄養改善で身体的 QOLと精神的 QOLを改善できると いえる。ただし、レビューに含まれた研究の質が低く、栄 養状態とQOLの評価方法が研究によって異なるため、 慎重に結果を解釈すべきとしている。今後の研究では、 標準化された栄養状態とQOLの評価方法の使用を推 奨している。

サルコペニアとQOL

 QOL・生き甲斐は、健康関連 QOL、健康に関連しな い QOL、生き甲斐・幸福人生の満足の3種類に分類で きる5)6)。重度の低栄養の場合には、下位項目である健康 関連 QOLが重要となる。一方、栄養状態良好の場合に は、上位項目である生き甲斐・幸福人生の満足がより重 要となる。健康関連 QOLは、医療評価のための QOL として個人の健康に由来する事項に限定した概念である。 健康関連 QOL尺度は、効用値尺度(EQ-5D、HUIな ど)とプロファイル尺度に分類され、後者はさらに包括的 尺度(SF-36、SIPなど)と疾患特異的尺度(GOHAI、 SWAL-QOLなど)に分類される5)6)  サルコペニアと虚弱(フレイルティ)の QOLに関する 2013年のレビュー論文では、サルコペニアと虚弱の疾患 特異的尺度は存在していない7)。そのため、サルコペニア と QOLに関する先行研究では、包括的尺度である SF-36や効用値尺度であるEQ-5Dを用いて健康関連 QOLを評価していることが多い。しかし、高齢者のサル コペニアや虚弱の QOLを SF-36で評価することには限 界がある7)。また、サルコペニアに対する栄養療法で QOL改善の効果をみた介入研究は、2013年11月時点で 報告されていない。これらの限界を踏まえたうえで、先行 研究を紹介する。  韓国の50歳以上の男性を対象としたサルコペニア(筋 肉量のみで判定)とQOL(EQ-5D)の研究では、多変量 解析でもサルコペニアとQOL低下に関連を認めた8)。北 欧の25~ 70歳の方を対象とした sarco-osteopenia(骨 密度減少と筋肉量減少の合併)とQOL(SF-36)の研究 では、40歳以上の3~ 9%に sarco-osteopeniaを認め た9)。また、sarco-osteopeniaの場合、SF-36の下位尺 度である日常役割機能(身体)、活力、日常役割機能(精 神)が有意に低かった9)  一方、閉経後の過栄養と肥満の女性では、サルコペニ ア(筋肉量のみで判定)とQOL(Medical Outcomes Study General Health Survey questionnaire)に

関連を認めなかった10)。また、高齢女性を対象としたサ ルコペニア(筋肉量のみで判定)とQOL(SF-36)の研究 では、11人がサルコペニア肥満、13人がサルコペニアを 認めた11)。サルコペニアおよびサルコペニア肥満とQOL に有意な関連を認めなかったが、握力は SF-36の下位 尺度8項目中6項目で有意な相関を認めた11)。高齢者にお ける握力とQOL(SF-36)の関連は、別の横断研究でも 報告されている12)  日本の同種造血幹細胞移植前患者(年齢中央値50 歳)を対象としたサルコペニア(筋肉量のみで判定)と QOL(SF-36)の研究では、164中83人(50.6%)にサルコ ペニアを認めた13)。サルコペニアの場合、SF-36の下位尺 度である身体機能、体の痛み、活力が有意に低かった13) また、日本の関節リウマチ患者(平均年齢63歳)を対象 とした BMIと QOL(EQ5D)の研究では、BMIと QOLに関連を認め、筋肉量減少が BMI低値とQOL低 下に影響していると思われた14)  以上の研究結果より、筋肉量減少とQOLには多少の 関連を認めることが推測される。筋肉量減少より筋力低

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下のほうが、QOL低下とより強く関連することが示唆さ れる。一方、身体機能は広義のサルコペニアと QOL (SF-36の下位尺度)の両者に含まれる。そのため、筋肉 量減少と身体機能低下を認めサルコペニアと判断された 場合、QOLは当然低下すると推測される。EWGSOP の定義では、サルコペニアは QOL低下を伴うとされてい る。今後、サルコペニアの疾患特異的 QOL尺度の開発 および疾患特異的尺度を用いた栄養療法の介入研究の 実施が望まれる。

サルコペニアの栄養療法と

リハビリテーション栄養

 サルコペニアに対する栄養補給は、高齢者の筋肉量と 筋力を改善させるという系統的レビューがある15)。ただし、 NSTなどの臨床現場では、広義のサルコペニアの原因で ある加齢、活動、栄養、疾患の有無をそれぞれ評価した うえで対処する。サルコペニアの原因によって、筋肉量増 加を目的としたレジスタンストレーニングや積極的な栄養 管理の可否が異なるからである。サルコペニア対策では、 リハ栄養の考え方が有用である。リハ栄養とは、栄養状 態も含めて国際生活機能分類で評価を行ったうえで、障 害者や高齢者の機能、活動、参加を最大限発揮できるよ うな栄養管理を行うことである16)。リハ栄養評価のポイ ントを表2に示す。ここでは加齢、活動、栄養によるサル コペニア対策を解説する。  加齢によるサルコペニアの場合、レジスタンストレーニ ングとトレーニング直後の分岐鎖アミノ酸の摂取が最も 有用である17)。その際、必須アミノ酸の一種であるロイシ ン単独で補給するよりも、多種類の必須アミノ酸を補給 することが望ましい。レジスタンストレーニングとたんぱ く質補給の効果をみたメタ解析では、若年者、高齢者と も除脂肪量が増加し筋力が改善した18)。高齢者では、た んぱく質摂取量が少ないと筋肉量減少を認めやすい19) エビデンスに基づいた高齢者の最適なたんぱく質摂取 量に関する方針論文では、少なくとも1~1.2g/kg/日の たんぱく質摂取が推奨されている20)。持久性トレーニング とレジスタンストレーニングの実施も推奨され、これらを 実施している場合には1.2~1.5g/kg/日のたんぱく質摂 取が推奨されている20)。コクランレビューでは、高齢者に 対するエネルギーたんぱく質補給で、体重が2.2%増加 し、低栄養の高齢者では死亡率が減少した21)。しかし、 機能改善や入院期間の短縮は認めなかった21)  カロリーリストリクションにサルコペニア予防効果があ ることは、アカゲザルで検証されている22)23)。しかし、現 時点でも賛否両論があり24)25)、ヒトでの明確なエビデン スは存在していない。カロリーリストリクションによるカロ リー摂取は、1日摂取カロリー=体重×0.4単位(1単位= 80kcal)を一つの目安とする26)。しかし、低栄養のサルコ ペニアでは、カロリーリストリクションによって低栄養とサ ルコペニアが悪化する可能性があることに留意する。一 方、サルコペニア肥満では、体重減少を目的とした意図 的なカロリーリストリクションは適切である。  活動によるサルコペニアの場合、不要な安静や禁食を 避けて、四肢体幹や嚥下の筋肉量を低下させないことが 治療となる。つまり、早期離床、早期経口摂取で廃用性 筋萎縮をできる限り予防することが重要である。ただし、 廃用症候群の入院高齢患者では88%に低栄養を認める ため、活動以外のサルコペニアの原因も存在すると考慮 する27)。廃用性筋萎縮を軽減させる栄養管理として、十 分なたんぱく質の摂取や必須アミノ酸の投与が重要であ り、クレアチンや n-3系不飽和脂肪酸が有用な可能性が ある28)  栄養(飢餓)によるサルコペニアの場合、栄養改善を考 慮した栄養管理が必要である。1日エネルギー消費量=1 日エネルギー摂取量の場合、現在の栄養状態を維持で きても栄養改善は困難である。低栄養の改善を目指す 場合、1日エネルギー必要量=1日エネルギー消費量+エ ネルギー蓄積量(200~ 750kcal)とする。リハは、飢餓 で基礎エネルギー消費量>1日エネルギー摂取量の場合、 レジスタンストレーニングは禁忌である。飢餓のときに筋 肉量増加を目的としたレジスタンストレーニングを行うと、 ・栄養障害を認めるか評価する。認める場合、何が原因でどの程 度か。 ・サルコペニア(広義)を認めるか評価する。認める場合、何が原 因でどの程度か。 ・摂食・嚥下障害を認めるか。 ・現在の栄養管理は適切か、今後、栄養状態はどうなりそうか。 ・機能改善を目標としたリハを実施できる栄養状態か。 表2 リハ栄養評価のポイント

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る副作用、低栄養、嚥下筋力低下、舌圧低下、嚥下筋のサ ルコペニアによって、老嚥を認めやすい。  老嚥の状態で誤嚥性肺炎を生じると、活動(禁食と安 静臥床)、栄養(不適切な栄養管理)、疾患(誤嚥性肺炎 による侵襲)による二次性サルコペニアを合併しやすい。 その結果、嚥下筋のサルコペニアが悪化して、サルコペニ アの摂食嚥下障害を認めることがある。第19回日本摂 食・嚥下リハ学会のシンポジウム「サルコペニアと摂食嚥 下リハ」(座長:藤島一郎、若林秀隆)において、サルコペ ニアの嚥下障害の診断基準案が提唱された33)(表3)。サ ルコペニアの摂食嚥下障害に対する栄養療法でも、リハ 栄養の考え方が有用である。

おわりに

 高齢者では加齢によるサルコペニアだけでなく、低栄 養による二次性サルコペニアを合併することが少なくな い。高齢者の低栄養を改善することで QOLが改善する エビデンスはあるが、高齢者のサルコペニアを改善する ことで QOLが改善するエビデンスは乏しい。ただし、サ ルコペニアとQOLには多少の関連を認め、適切な栄養 療法とリハの併用でサルコペニアを改善することで、 QOLも改善する可能性がある。今後、サルコペニアの疾 患特異的 QOL尺度の開発および疾患特異的尺度を用 いたリハ栄養の介入研究の実施が望まれる。 訓練によるエネルギー消費量増加によって低栄養が悪 化して、筋肉量がむしろ減少するためである。しかし、エ ネルギー摂取量不足時に1日中、安静臥床で過ごすと骨 格筋分解が加速する29)。そのため、廃用性筋萎縮の予防 を目標に、離床と2~ 3 メッツ以下の活動やADLを行う。  すべてのサルコペニアの原因を合併した場合には、適 切な栄養療法、アミノ酸・たんぱく質補給、レジスタンス トレーニング、早期離床、禁煙、薬物療法を含めた包括 的治療が最も有用である17)

やせのサルコペニアとサルコペニア肥満

 やせのサルコペニアとサルコペニア肥満では、適切な 栄養療法の内容が異なる。やせのサルコペニアでは、エ ネルギー蓄積量(1日200~750kcal)を加味して栄養改 善、筋肉量増加を目標とした栄養管理を行う。ただし、運 動を行わずにエネルギー蓄積量を加味すると脂肪で体重 が増加するため、レジスタンストレーニングの併用が必要 である。一方、サルコペニア肥満では、カロリーリストリク ションを行いながら、たんぱく質を十分摂取する(1g/ kg/日以上)栄養管理を行う。栄養管理とレジスタンスト レーニング、持久性トレーニングの併用が、なるべく筋肉 量を維持しながら体重減少するのに最も有用である30)  やせと肥満では、活動係数の設定が異なる。回復期リ ハ病棟に入院中の脳卒中患者で、良好な栄養状態を維 持するために必要な平均の活動係数は、やせ群1.7、標 準群1.4、肥満群1.2であった31)。また、活動係数が1.7で は体重減少を認め、2.0にしてはじめて栄養改善が得ら れた患者がいる32)。やせのサルコペニアでは、活動係数 を高めに設定したうえで、エネルギー蓄積量を加味した 積極的な栄養管理が重要である。

老嚥(Presbyphagia)と

サルコペニアの摂食嚥下障害

 老嚥(Presbyphagia)とは、健常高齢者における嚥下 機能低下である。老嚥は嚥下の虚弱(フレイルティ)であり、 嚥下障害ではない33)。高齢者では味覚・嗅覚低下、感覚 閾値低下、唾液分泌量減少、喉頭低下(下垂)、咽頭腔拡 大、咳反射低下、歯牙数減少、義歯不適合、多剤内服によ ①嚥下障害が存在している ② 全身のサルコペニアと診断されている(全身の筋肉量と筋力 の低下) ③画像検査(CT、MRI、超音波エコー)で嚥下筋のサルコペニア と診断されている ④嚥下障害の原因として、サルコペニア以外の疾患が存在しな い ⑤ 嚥下障害の原因として、サルコペニアが主要因と考えられる (他に嚥下障害の原因疾患:脳卒中、脳外傷、神経筋疾患、頭 頸部癌、膠原病などが存在しても)  Definite diagnosis:①、②、③、④  Probable diagnosis:①、②、④  Possible diagnosis:①、②、⑤ 表3 サルコペニアの嚥下障害:診断基準案

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