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Neuro-Oncology (Tokyo)

2011. vol21. No1

41

ニューロ・オンコロジィの会(

2011,8

)機関誌

共催:ニューロ・オンコロジィの会

M S D 株 式 会 社

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Neuro-Oncology (Tokyo)

2011. vol21. No1

主題

“診断・治療に苦慮した症例、珍しい症例など”

“遺伝子診断時代の神経膠腫 grade 2/3 に対する治療戦略”

41

ニューロ・オンコロジィの会(

2011,8

)機関誌

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目 次

High grade glioma において手術摘出度が予後に与える影響 ··· 1

北海道大学医学研究科脳神経外科 山口 秀 ほか 治療戦略立案のために有用な神経膠腫グレード 2 及び 3 の遺伝子診断 ··· 7 東京大学医学部 脳神経外科 武笠 晃丈 術中急性脳腫脹をきたした結果、容易に全摘しえた髄膜腫の一例 ··· 14 東邦大学医学部脳神経外科学講座(大森) 野本 淳 ほか 下垂体腺腫に対する放射線治療後に発生したトルコ鞍底部の骨肉腫の 1 例 ··· 18 帝京大学ちば総合医療センター 脳神経外科 山田 昌興 ほか 中枢神経原発性悪性リンパ腫とその周辺 ··· 23 北里大学 医学部 脳神経外科 萩原 宏之 ほか

Pineal Region Tumors of Childhood: Report of Two Cases ··· 30 Department of Neurosurgery,

Faculty of Medical Sciences, University of Fukui Hiroaki TAKEUCHI ほか

当施設で経験した Gliomatosis cerebri の一例 ··· 34

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High grade glioma において手術摘出度が予後に与える影響

The Impact of Extent of Resection on the Outcome of

Adult Patients with High-grade Gliomas

北海道大学医学研究科脳神経外科

山口 秀、寺坂 俊介、小林 浩之、宝金 清博

【はじめに】

悪性神経膠腫(HGG:high grade glioma)に対する手 術の役割、つまり摘出が予後延長に寄与するかどう かに関してはこれまでに多くの検討が報告されてい る。特に Glioblastoma multiforme (GBM)を中心とし た high grade astrocytoma に関しては術後 MRI を詳細 に検討した量的解析で摘出度が予後延長に貢献して い る こ と が 示 さ れ て い る 1-4)。 一 方 、 anaplastic

oligodendroglioma などの high grade oligodendroglial tumor は、放射線治療や化学療法の感受性が高く astrocytoma 系腫瘍と比較し予後良好な腫瘍として近 年注目されているが、手術摘出に関する検討はさほ ど多くない。このたび、北海道大学における 2000 年以降の 10 年超の HGG の予後解析を行った。そこ で特に oligodendroglial component の有無と手術摘出 度に注目して生存解析を行うことを試みた。 【対象と方法】 2000 年以降の北海道大学病院で初期放射線治療 (54~60Gy)が施行された初発成人症例が対象。小児 例、brain stem glioma、gliomatosis cerebri、follow up 期間が 3 カ月未満の症例は除外した。また、何らか の理由で初期治療に放射線治療が行われなかった症 例や follow-up 期間が 6 カ月未満の症例も除外した。 対象症例は北海道大学腫瘍病理学講座の神経病理医 により WHO 2007 に基づいて再評価され、anaplastic astrocytoma:AA、anaplastic oligoastrocytoma:AOA、 anaplastic oligodendroglioma : AO 、 glioblastoma multiforme:GBM、さらに GBM with oligodendroglial component : GBM with OC と 再 分 類 さ れ た 。 Oligodendroglial component の 有 無 で high grade astrocytoma 群 (AA と GBM) と high grade oligodendroglial tumor 群(AOA、AO と GBM with OC) の 2 つの群に分類して予後因子の解析を行った。 手術摘出度は術直後(ほとんどの症例が術後 24 時 間以内)の MRI を用いて評価した。術後に増強病変 が残っていない症例を complete resection 群、一部ま たは多くの残存増強病変があった症例を incomplete resection 群 と し 、 診 断 確 定 の み の 目 的 で mass reduction を行わなかった症例を biopsy 群とした (needle biopsy も含む)。 腫瘍摘出度以外の予後因子として、①年齢、②術 前 KPS、③腫瘍最大径、④腫瘍部位(eloquent area が 含まれているかどうか)、⑤悪性度(WHO grade III または IV)、⑥術後 Temozolomide(TMZ)使用の有無、 を挙げた。Endpoint は全生存期間(OS)と無増悪生存 期間(PFS)とした。

統 計 学 的 手 法 と し て は 、 生 存 期 間 に 関 し て は Kaplan-Meyer 法 を 用 い た 。 予 後 因 子 は Cox proportional hazard model を用いて単変量解析を行い、 これを参考にして摘出度と予後の関係を多変量解析 にて検証した(調整因子として、全生存解析で p≦ 0.25 となった予後因子を選択)。

【結果】

163 例が対象基準に合致した。AA:21 例、AOA: 34 例、AO:23 例、GBM:71 例、GBM with OC:14 例であり、high grade astrocytoma が 92 例、high grade oligodendroglial tumor が 71 例となった。病理診断再 評価で GBM with OC となった 14 例の初回診断は、 GBM が 12 例で AOA が 2 例だった。それ以外の病 理診断変更例は、GBM→AA が 2 例、GBM→AOA が 1 例、AA→AOA が 3 例、AOA→AO が 3 例、AO → AOA が 3 例 だ っ た 。 Table 1 に high grade astrocytoma 群と high grade oligodendroglial tumor 群の 患 者 特 性 を ま と め た 。 両 群 を 比 較 す る と 、 Oligodendroglial tumor 群の方が、有意差をもって発 症年齢が若く、術前 KPS が高かった。腫瘍摘出度に 関しては両群で有意差を認めなかった。Follow up 期 間は全体で 20.8 ヶ月、astrocytoma 群では 16.3 ヶ月、 oligodendroglial tumor 群 で は 32.1 ヶ 月 で あ り 、 astrocytoma 群では 64 例(70%)がすでに死亡、83 例 (90%)が再発していたが、oligodendroglial tumor 群で は死亡例は 18 例(25%)、再発例も 30 例(42%)にと どまっていた。

(5)

<high grade astrocytoma 群>

Table 2 に Cox proportional hazard model で統計解析 した high grade astrocytoma 群における予後因子が生 存に与える影響を示した。有意差を認める予後不良 因子は、腫瘍が eloquent area に含まれていることの みであった。Figure 1 に腫瘍摘出度における生存曲 線(左:全生存期間、右:無増悪生存期間)、Table 3 に腫瘍摘出度における OS と PFS に与える影響の多 変 量 解 析 の 結 果 を 記 す 。 多 変 量 解 析 は 腫 瘍 が eloquent are に含まれているかどうか、WHO grading、 術後 TMZ 使用の有無を調整因子とした。Complete resection 群は Incomplete resection 群と比較し、有意 差を持って OS、PFS が共に延長していた(それぞれ p=0.022、p=0.042)。一方、Biopsy 群と Incomplete resection 群に OS と PFS の差は認めなかった。 Table 1.Patient Characteristics

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Figure 1.Survival of high grade astrocytomas

Table 3.Multivariate analysis of high grade astrocytomas

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<high grade oligodendroglial tumor 群>

Table 4 に high grade oligodendroglial tumor 群の単 変量解析の結果を示す。発症時の年齢は OS、PFS に強く影響していた。また、腫瘍の最大径が 4cm を 超えていた場合と WHO grade IV (GBM with OC)も OS、PFS 共に予後不良の因子であった。発症前 KPS が悪い群も OS が有意に短縮していた。Figure 2 が摘 出度における 生存曲線、Table 5 が多変量解析の結 果である。調整因子は発症時年齢、術前 KPS、腫瘍 の大きさと WHO grading であるが、complete resection 群と incomplete resection 群では OS は生存曲線がほ ぼ重なることが判明し、多変量解析でも有意差は全 く認めなかった(p=0.84)。PFS は complete resection 群でやや延長している傾向があった(p=0.12)。一方、 biopsy 群は OS、PFS 共に明らかに予後不良であった。 【考察】 この研究では、HGG を oligodendroglial component の有無にて分類した。Grade III glioma において、AOA

や AO の生存期間が AA と比べて長いことはよく知 られている5-7)。また、Oligodendroglial component を 有した GBM が通常の GBM と比べて予後良好であ る こ と が 報 告 さ れ て い る 8-11)。 Oligodendroglial component の存在が放射線療法や化学療法に良好な 反応を示し、これが予後改善に繋がっていると考え られている11)。これらの後療法の前段階に行われる 手術において、その摘出度が予後に及ぼす影響が oligodendroglial component の有無により異なってい ると予想し、別々の群として検証を試みた。 これまでにも、GBM や AA において、術後の MRI 画像を用いた量的解析にて摘出度が予後に貢献して いることは明瞭に示されている 1-4)。Lacroix らは新 規発症の GBM では 98%以上の摘出率が予後改善に 繋がっていることを示しており 3)、McGirt らは AA において増強病変の完全摘出が独立した予後良好因 子であることを示している 12)。我々の結果でも high-grade astrocytoma 群において、これらの報告と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。 す な わ ち 、 high-grade Figure 2.Survival of high grade oligodendroglial tumors

(8)

astrocytoma 群においては、術後増強病変の消失が OS、PFS 共に有意な予後良好因子として示され、術 後増強病変が残存した場合は、biopsy 単独群と比較 しても生存期間の延長が認められなかった。

一方、high grade oligodendroglial tumor においては、 この傾向がはっきりと異なっていた。術後の増強病 変残存の有無は生存期間に有意な差を与えなかった が、biopsy 群と比較すると OS・PFS 共に明らかな生 存期間の延長が示された。AO や AOA の phase III trial のサブ解析においても、tumor debulking surgery が独

立した予後延長因子であることは示されている13,14)

今回の検証でもその報告と矛盾しない結果であり、 high grade oligodendroglial tumor においては増強部分 の全摘が難しい場合でも可能な限りの cytoreduction が重要であることが示されたと考えている。 【結語】 HGG において、腫瘍の組織型や腫瘍の発生部位に よらず、可能な限りの cytoreduction を試みるべきで あ る と 考 え て い る 。 し か し な が ら high-grade astrocytoma と high-grade oligodendroglial tumor では、 手術摘出度が予後に及ぼす影響が異なっている可能 性が高い。もちろん、この研究は対象患者数が 163 例と比較的少ない。また、high-grade oligodendroglial tumor 群の患者は長期生存が得られているため、更 なる follow up が求められる。これらはこの研究結果 の評価に制限を与えることは確かである。しかし、 今後新たな技術により術前診断の精度が高まった場 合などで、この組織型の違いによる手術摘出度の影 響の相違点が重要となりうる可能性があると我々は 考えている。 【References】

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治療戦略立案のために有用な神経膠腫

グレード 2 及び 3 の遺伝子診断

The Role of Genetic Analyses for Grade II/III Malignant Gliomas to

Determine a Therapeutic Strategy Based on Proper Diagnoses

東京大学医学部 脳神経外科

武笠 晃丈

【はじめに】 悪性神経膠腫の治療は、病理診断に基づいて計画 されるものであるにもかかわらず、実際は熟練した 病理医の間でも診断に相違が生じる事も珍しくない ため、正確な治療戦略立案のためには、従来の病理 診断を補完するような遺伝子診断の役割が期待され るところである。今回我々は主に、神経膠腫の遺伝 子 異 常 の 網 羅 的 探 索 の 成 果 と し て 発 見 さ れ た isocitrate dehydrogenase 1 (IDH1)遺伝子変異1)の自験 例での解析結果に基づき、遺伝子異常の解析が神経 膠腫の病理診断補助および治療方針決定において果 たしうる役割について考察を行った。 IDH1変異は初めは膠芽腫において発見されたが、 その後の研究により特に低悪性度の神経膠腫におい て高頻度に変異が認められることが分かり、その頻 度は 59-90% 2-6)にものぼる。IDH 変異はまた、神経 膠腫発生過程 gliomagenesis の初期に起こり、腫瘍形 成にとって重要な役割を果たす異常と考えられてい る。IDH は主にエネルギー代謝に関わる機能を有す る酵素であり、NAD(P)+を補酵素としてイソクエ ン酸をα-ケトグルタル酸 (α-KG)に変換する。人 においては 3 種の IDH 酵素が存在するが、そのうち 神経膠腫に高頻度に認められるのは、細胞質やペル オキシソームに存在する IDH1 の遺伝子変異である 1-6)。ミトコンドリアに存在し、クエン酸回路におい て重要な働きを有する IDH2 の遺伝子変異は稀に認 められるのみであり、IDH3 の神経膠腫での遺伝子変 異は現在のところ報告されていない。IDH1 変異は、 そのほとんどにおいて、基質との結合や酵素反応に 関係する 132 番目のアミノ酸残基に生じるミスセン ス変異であることが知られており、IDH2 においても、 これと機能的に同様の部位に相当する 172 番目のア ミノ酸残基の置換が生じる。基本的に、IDH1 か IDH2 のいずれかの変異のみを持つにとどまり、また変異 は一対の染色体の片側アレルのみに生じることが知 られ、野生型の遺伝子が残存していることが特徴的 である1,3,5,6) IDH 変異を有する WHO グレード 4 1,4,6-8)とグレー ド 3 4,6,8-10)の悪性神経膠腫の患者では、変異を有さな い場合と比較して、無再発生存期間(progression-free survival; PFS)8-10)と 全 生 存 期 間 (overall survival; OS)1,4,6-10)が長いことが知られている。しかしながら、 グレード 2 の神経膠腫では、IDH 変異と予後との関 連は、依然意見の分かれるところである8,11-13) 今回は特に、この新たに発見された IDH 変異に加 え、従来より神経膠腫の診断や予後との関連におい て重要性が知られている、染色体 1p/19q のヘテロ接 合性喪失(loss of heterozygosity;LOH)、TP53 変異、 MGMT プロモーターメチル化の同定も行い、それら の予後との関連も含めて、遺伝子診断の臨床的な意 義についての自験例での解析結果を基にした総合的 な考察を行った14) 【対象と方法】 手術摘出した脳腫瘍 250 検体とペアになる血液を、 東京大学倫理委員会の承認及び、患者からインフォ ームド・コンセントを得て使用した。IDH 変異は、 変異ホットスポットである IDH1 ではコドン 132、 IDH2 ではコドン 172 を含む領域のダイレクト・シー クエンスにて同定した 8,14)。染色体 1p19qLOH はマ イクロサテライト解析 15)、または MLPA (multiplex

ligation-dependent probe amplification)法にて同定し た。TP53 遺伝子変異は、エクソン 5-8 を PCR-SSCP 法にてスクリーニングし、シフトの見られた PCR 産 物をダイレクト・シークエンスすることで同定した 16)。MGMT プロモーターのメチル化は、MSP(メチ レーション特異的 PCR)にて同定した。統計解析は、 群間の比較はフィッシャーの正確確率検定にて、 OS・PFS はカプラン・マイヤー法にて、また生存曲 線の有意差の有無はログランク検定にて検証した。

(11)

【結果】 神経膠腫における IDH 変異の頻度とその様式 解析したヒト神経膠腫 250 検体の内訳は、膠芽腫 (glioblastoma;GBM)が 125 検体、退形成性星細胞腫 (anaplastic astrocytoma;AA)が 29 検体、びまん性星 細胞腫(diffuse astrocytoma;DA)が 29 検体、乏突起 膠 細 胞 系 腫 瘍 が 52 検 体 、 毛 様 細 胞 性 星 細 胞 腫 (pilocytic astrocytoma;PA)が 9 検体、神経節膠腫 (ganglioglioma;GGL)が 6 検体であった。このうち IDH1 変異を 73 例(29%)、IDH2 変異を 2 例(1%)に 認めた。同定された変異は全て片側アレルのみのミ スセンス変異であった。73 例の IDH1 変異のうち G395A(R132H)の置換が最も多く 70 例(96%)に認 め、C394A(R132S)置換を 2 例に、C394T(R132C)置 換を 1 例に認めた。2 例の IDH2 変異のうち、1 例は G515A(R172K) 置 換 で あ り 、 も う 1 例 は A514T (R172W)置換であった。IDH 変異(IDH1 または IDH2 の変異)は、GBM で 13 例(10%)、AA で 8 例(28%)、 DA で 17 例(59%)、乏突起膠細胞系腫瘍で 37 例 (71%)に認めた(図 1)。52 例の乏突起膠細胞系腫瘍 のうち、IDH 変異は、乏突起膠腫(oligodendroglioma; OG) の 19/25 例 (76%) 、 乏 突 起 星 細 胞 腫 (oligoastrocytoma;OA)の 4/7 例(57%)、退形成性乏 突起膠腫(anaplastic oligodendroglioma;AOG)の 10/15 例 (67%) 、 退 形 成 性 乏 突 起 星 細 胞 腫 (anaplastic oligoastrocytoma;AOA)の 4/5 例(80%)に認めた。毛 様細胞性星細胞腫と神経節膠腫には変異を認めなか った。二次性(secondary)GBM での IDH 変異の頻度 は 6/13 例(46%)であり、原発性(primary)GBM の 6/109 例 (6%) よ り 高 頻 度 で あ っ た 。 3 例 の GBMO(glioblastoma with oligodendroglioma component)のうち 1 例に IDH1 変異を認めた。

図 1.IDH 変異の頻度

(12)

IDH 変異と 1p/19q 共欠失、TP53 変異、MGMT プロモーターメチル化の関連 1p/19q 共欠失と TP53 変異の頻度を図 2 に示した。 予想通り、1p/19q 共欠失は乏突起膠細胞系腫瘍に多 く、特に星細胞腫のコンポーネントのないもので頻 度が高かった(OG 76%, AOG 67%)。TP53 変異は低 悪性度の星細胞腫に多かった(DA 45%)が、1p/19q 共欠失と共存することはなかった。また、グレード 2 神経膠腫における IDH 変異と、これらの異常との 腫瘍検体ごとの関係を図 3 に示す。OG では、1p/19q 共欠失は IDH 変異と有意に相関しており(p< 0.001)、 1p/19q 共欠失を有する乏突起膠細胞系腫瘍のほとん ど全て(28/30, 93%)に IDH 変異を認めた。TP53 変異 は AA(34%)や原発性 GBM(22%)より DA(45%)に より多く認めた。IDH 変異を認める腫瘍では、TP53 変異の頻度はより高く、DA の 12/17 例(71%)、AA の 5/8 例(63%)、原発性 GBM の 3/6 例(50%)に認め た。TP53 変異を有する星細胞腫系腫瘍における IDH 変異の頻度は、野生型 TP53 を有する腫瘍より高く (DA; 92% vs 31%、AA;50% vs 16%、原発性 GBM; 13% vs 4%)、TP53 変異と IDH 変異との相関は DA では有意(p= 0.0018)であったが、AA と GBM では 有意な相関を認めなかった。TP53 変異を有する DA のほとんど(12/13 例, 92%)に IDH 変異を認めたが、 TP53 変異を有する原発性 GBM で IDH 変異を認める ものはごく僅か(3/23 例, 13%)であった。 神経膠腫 250 例のうち、MGMT プロモーターメチ ル化は東京大学医学部附属病院にて手術を行った 132 例の神経膠腫(grade 2, 3, 4)にて解析を行った。 メチル化は GBM の 37/69 例(54%)、AA の 5/18 例 (28%)、DA の 10/17 例(59%)、AOG と AOA の 8/10 例(80%)、OG と OA の 13/18 例(72%)に認めた。IDH 変異と MGMT プロモーターメチル化の相関は、グレ ード 2(p< 0.001)とグレード 3(p= 0.02)の神経膠腫に おいて有意であったが、グレード 4(p= 0.11)では有 意な相関を認めなかった。 IDH 変異とその他の遺伝子異常の予後との関連 WHO グレード 2、3、4 の神経膠腫において、IDH 変異とその他の遺伝子異常の予後との関連について 検討した。 グレード 2 の神経膠腫患者では、IDH 変異は OS (p= 0.07)、PFS(p= 0.29)のいずれにも関連を認めな かった(図 4;A, B)。1p/19q 共欠失と野生型 TP53 は、 いずれも若干の PFS 延長(各々、p= 0.014 と p= 0.029)と相関していたが、OS との相関は認めなかっ 図 3. 神経膠腫グレード 2 における IDH 変異と 1p / 19q 共欠失・TP53 変異との関係。 各行が個々の腫瘍検体を表す。(OG;乏突起膠腫、OA;乏突起星細胞腫、 DA;びまん性星細胞腫、mut;変異、wt;野生型、LOH;欠失あり、-;欠失なし)

(13)

図 4. 神経膠腫グレード 2 における IDH 変異(A・B)と 1p / 19q 共欠失(C・D)の OS(A・C)と PFS(B・D)との関連(カプラン・マイヤー生存曲線)。 *;有意差あり(ログランク検定)。 図 5. 神経膠腫グレード 3 における IDH 変異(A・B)と 1p / 19q 共欠失(C・D)の OS(A・C)と PFS(B・D)との関連(カプラン・マイヤー生存曲線)。 *;有意差あり(ログランク検定)。

(14)

た(図 4;C, D)。MGMT プロモーターメチル化もま た予後との相関を認めなかった。同様に、DA にお いても IDH 変異と予後に有意な相関を認めなかっ た(OS; p= 0.10、PFS; p= 0.58)。 グレード 3 の神経膠腫患者では、IDH 変異と OS (p= 0.0004)、PFS(p< 0.0001)の延長との相関は有意 であり(図 5;A, B)、また 1p/19q 共欠失も OS(p= 0.028)、PFS(p= 0.0025)の延長と有意に相関していた が(図 5;C, D)、TP53 変異と MGMT プロモーターメ チル化は共に、予後と相関していなかった。ここで、 1p/19q 共欠失を有する神経膠腫のほとんど全てに IDH 変異が認められることから17)、グレード 3 の神 経膠腫はその遺伝子異常のパターンから主に 3 群に 分類するのが合理的と考えた。それは、(a) 1p/19q 共欠失を有する神経膠腫(ほとんど全てが IDH 変異 を認め、乏突起膠腫様の病理像を呈する。) (b)1p/19q 共欠失は認めないが IDH 変異を有する神経膠腫 (c) 1p/19q 共欠失も IDH 変異を認めない神経膠腫。この ような分類において、(c)の 1p/19q 共欠失も IDH 変 異も有さないグレード 3 の神経膠腫患者では、明ら かに著しく短い OS(p< 0.0001)と PFS(p< 0.0001)を 示す(図 6;A)。これとは対照的に、1p/19q 共欠失も IDH 変異も認めないグレード 2 の神経膠腫患者では、 このように有意に短い生存期間は示さなかった(図 6;B)。1p/19q 共欠失を有さないグレード 3 の神経 膠腫とは、その多くが AA(AA 28 例、AOA 5 例、AOG 5 例)であり、1p/19q 共欠失を認める AA は 1 例のみ であった。そして AA の患者ではやはり、IDH 変異 は OS(p= 0.0064)と PFS(p= 0.0001)の延長に有意に 相関していた。TP53 変異もまた PFS(p= 0.013)の延 長と相関していたものの、MGMT プロモーターメチ ル化は PFS や OS との有意な相関を認めなかった。 原発性 GBM では、IDH 変異、1p/19q 共欠失、TP53 変異のいずれも予後との相関を認めなかったが、 MGMT プロモーターメチル化は OS(p= 0.0043)と PFS(p= 0.0038)ともに、その延長と有意な相関を認 めた。 【考察】 IDH 変異は、びまん性星細胞腫、乏突起星細胞腫、 乏突起膠腫といったグレード 2 の神経膠腫に非常に 多く認められたのに対し、より悪性度の高い神経膠 腫ではその頻度は低く、原発性膠芽腫では 10%以下 であった。この結果は、IDH 変異が低悪性度神経膠 腫の形成に特に重要な働きを有するという、これま での仮説を支持するものであった。また、グレード 1 の毛様細胞性星細胞腫と神経節膠腫には IDH 変異 を認めず、これらの腫瘍がグレード 2 以上のびまん 性神経膠腫(diffuse glioma)とは異なる病因を有する ものと思われ、その鑑別にまた、IDH 変異の有無が 役立つものと考えられた。 これまでの報告と同様15)、染色体 1p/19q の共欠失 と TP53 変異は、グレード 2 や 3 の神経膠腫に高頻 度であり、1p/19q 共欠失は主に乏突起膠腫系腫瘍で、 TP53 変異は星細胞腫系腫瘍で高頻度であった。 IDH 変異は 1p/19q 共欠失や TP53 変異に先だって生 じる、神経膠腫発生初期の異常と考えられており3,5) この仮説を支持するように、1p/19q 共欠失か TP53 変異を有するグレード 2 の神経膠腫のほとんどは、 IDH 変異をも認めていた。びまん性星細胞腫におい ては、TP53 変異と IDH 変異が相関していたが、退 形成性星細胞腫や原発性膠芽腫ではこのような相関 を認めず、TP53 変異は特にこれら悪性度の高い神経 膠腫では、IDH 変異とは独立して腫瘍形成に寄与し ていると考えられた。IDH 変異を有するほとんどの 神経膠腫は、1p/19q 共欠失または TP53 変異を有し ており、やはり IDH 変異とそれに引き続く遺伝子異 常により低悪性度神経膠腫が形成されるという仮説 図 6. 1p19q 共欠失を認めない神経膠腫グレード 3(A)及びグレード 2(B)における IDH 変異と OS との関連(カプラン・マイヤー生存曲線)。 *;有意差あり(ログランク検定)。

(15)

を支持する結果であった。しかしながら、IDH 変異 を有するものの、1p/19q 共欠失も TP53 変異も認め ない神経膠腫も少ないながら存在しており、これら の神経膠腫において、どのような遺伝子異常が IDH 変異と相まって腫瘍形成に寄与しているのかは、今 後明らかにされるべき点と考えられる。 IDH 変異と予後との関連は、WHO グレードの違 いにより異なっていた。今回の我々の結果では、こ れまでの報告と異なり、膠芽腫患者において IDH 変 異群での PFS や OS の予後延長を認めなかった。こ れは、IDH 変異を有する膠芽腫患者が少なかったた め、十分な統計解析が出来なかったことによる可能 性もある。いずれにせよ、テモゾロマイド感受性に 関わる MGMT プロモーターメチル化は、膠芽腫患者 において、PFS と OS の延長と良く相関しており、 やはり膠芽腫においては、まず MGMT プロモーター メチル化の状態が、予後を判断する上で、非常に重 要な因子であると考えられた。 グレード 2 の神経膠腫患者においても、IDH 変異 の予後との関連を認めなかった。野生型 TP53 と 1p/19q 共欠失は、共に PFS 延長と相関していたが、 これは、グレード 2 の神経膠腫において、1p/19q 共 欠失を有する腫瘍は、ほぼ必ず野生型 TP53 を有す ることにも関連すると考えられる。低悪性度神経膠 腫における、IDH 変異の予後やテモゾロマイド反応 性との相関については意見の分かれるところである。 我々と同様に、Kim ら13)は、IDH 変異は低悪性度神 経膠腫において予後と関連しないが、TP53 変異は短 い生存期間の、1p/19q 欠失は長い生存期間の有意な 予測因子と報告している。これに対し、Sanson ら8) は、IDH1 変異がグレード 2 の神経膠腫において良好 な治療成績と関連するとしている。Dubbink ら11)は、 IDH 変異が、以前に放射線治療を受けた星細胞腫の 再発時における良好な治療成績と相関するが、IDH 変異とテモゾロマイドの反応性は無関係と報告した。 Houillier ら12) は、IDH1 または IDH2 変異は、テモ ゾロマイドによる治療をうけた神経膠腫の良好な予 後を予測しうるが、その治療を受けていない神経膠 腫の予後には明らかな影響を与えないとした。これ らのことから、IDH 変異の低悪性度神経膠腫に予後 における意義は、テモゾロマイド反応性の予測因子 であり、予後因子でもあるとされる 1p/19q 共欠失と は異なるものと考えられる。このように、低悪性度 神経膠腫における IDH 変異と治療成績との関連を調 べた研究結果が、報告によって異なる原因の一つと して、グレード 2 とする神経膠腫に含まれる乏突起 膠腫と星細胞腫の割合が、研究ごとにそもそも異な ることが考えられる。1p/19q 共欠失を有する乏突起 膠細胞系腫瘍のほとんど全てに IDH 変異を認めるこ とが報告されており17)、対象症例のうち多くに、よ り良好な予後を有するはずの乏突起膠腫を含む場合 は、これらのほとんどが IDH 変異群に組み入れられ るため、IDH 変異を有する低悪性度神経膠腫の全体 の予後が、これのみにより良好になることがあり得 ると考える。そこで、このような乏突起膠腫の良好 な予後といった交絡因子の影響を避けるため、通常 1p/19q 共欠失も TP53 変異も有さない、野生型 IDH を有するびまん性星細胞腫に対象を絞った検討も行 ったが、これらも、IDH 変異を有するびまん性星細 胞腫とあまり変わらない予後という結果であった。 この結果は、野生型 IDH を有するびまん性星細胞腫 は、IDH 変異を有するものと比較して必ずしもより 悪性ではないということを示唆している。これは、 野生型 IDH を有する退形成性星細胞腫患者では、 IDH 変異を有するものと比較して著明に予後が不良 (OS; p= 0.0064、PFS; p= 0.0001)であることと、明ら かに異なる結果といえる。 グレード 2 や 4 の神経膠腫の場合とは対照的に、 グレード 3 の神経膠腫の予後における IDH 変異の関 連は明白であり、これは過去の報告とも一致してい る8,9,18)。グレード 3 の乏突起膠細胞系腫瘍の多くが 1p/19q 共欠失を有し、この 1p/19q 共欠失を有するほ とんど全ての神経膠腫は IDH 変異を有することから 17)、IDH 変異の有無の情報は、臨床的には 1p/19q 共 欠失を認めないグレード 3 の神経膠腫、つまりその ほとんどの場合は退形成性星細胞腫の患者において 重要性が高いと考えられる。実際、特に退形成性星 細胞腫と膠芽腫やびまん性星細胞腫の病理学的な鑑 別は、しばしば主観的判断によっており、経験豊富 な神経病理医間でも診断が異なることが少なからず ある15)。放射線照射や化学療法などを適切に計画す るためには、正確な病理診断が非常に重要であるに もかかわらず、退形成性星細胞腫と病理診断がつい た腫瘍が、必ずしも均一な予後をもった同種のもの でない可能性があるわけである。そのようななかで、 IDH 変異は神経膠腫発生に重要な役割を担っている ことが予想され、その分ある程度腫瘍の性質を反映 していると考えられることから、IDH 変異の有無を 調べることで、退形成性星細胞腫と診断された腫瘍 が、本当は IDH 変異を有すことの多い低悪性度神経 膠腫により近いのか、あるいは、野生型 IDH を有す ることの多い原発性膠芽腫により近いのかを正しく 判断する助けになるのではないかと、強く期待され るわけである。つまり、IDH 変異の同定は、乏突起 膠細胞系腫瘍における 1p/19q 共欠失の場合と同様に、 腫瘍の生物学的性質を反映しうる、腫瘍化の原因と も考えられる本質的な遺伝子異常明らかにするとい った、病理診断を補助しうる再現性の高い遺伝子診 断法と成りうると考えられる。従って、IDH 変異の 有無を、乏突起膠細胞系腫瘍と星細胞腫系腫瘍とを

(16)

鑑別しうる 1p/19q 共欠失と共に同定することを、特 にグレード 3 の神経膠腫患者における予後を判断す る上での有用な遺伝子診断法として、より一層活用 していくことが大切であると考えた。 【結語】 IDH 変異は、グレード 2、次いでグレード 3 の神 経膠腫に高頻度に認め、1p/19q 共欠失と MGMT プロ モーターメチル化と強く相関していた。この IDH 変 異は、特に 1p/19q 共欠失を有さないグレード 3 の神 経膠腫、つまり主には退形成性星細胞腫において、 その悪性度の評価と治療戦略立案のための遺伝子マ ーカーとして非常に有用であると考えられ、治療の 現場においても臨床試験の際にも一層の活用が望ま れる。これに対し、低悪性度神経膠腫では、依然、 1p/19q 共欠失の有無を検出して乏突起膠腫と星細 胞腫を鑑別することが重要であり、一方、膠芽腫で は、MGMT プロモーターのメチル化の同定が予後予 測と治療法の判断に重要と考える。 【文献】

1) Parsons DW, Jones S, Zhang X, et al.: An Integrated Genomic Analysis of Human Glioblastoma

Multiforme. Science 321(5897): 1807-1812, 2008. 2) Balss J, Meyer J, Mueller W, et al.: Analysis of the

IDH1 codon 132 mutation in brain tumors. Acta

Neuropathologica 116(6): 597-602, 2008.

3) Ichimura K, Pearson DM, Kocialkowski S, et al.: IDH1 mutations are present in the majority of common adult gliomas but rare in primary glioblastomas. Neuro-Oncology 11(4): 341-347, 2009.

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6) Yan H, Parsons DW, Jin G, et al.: IDH1 and IDH2 mutations in gliomas. N Engl J Med 360(8): 765-773, 2009.

7) Nobusawa S, Watanabe T, Kleihues P, et al.: IDH1 Mutations as Molecular Signature and Predictive Factor of Secondary Glioblastomas. Clinical

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8) Sanson M, Marie Y, Paris S, et al.: Isocitrate Dehydrogenase 1 Codon 132 Mutation Is an Important Prognostic Biomarker in Gliomas.

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10) van den Bent MJ, Dubbink HJ, Marie Y, et al.: IDH1 and IDH2 Mutations Are Prognostic but not Predictive for Outcome in Anaplastic

Oligodendroglial Tumors: A Report of the European Organization for Research and Treatment of Cancer Brain Tumor Group. Clinical Cancer Research 16(5): 1597-1604, 2010.

11) Dubbink HJ, Taal W, van Marion R, et al.: IDH1 mutations in low-grade astrocytomas predict survival but not response to temozolomide.

Neurology 73(21): 1792-1795, 2009.

12) Houillier C, Wang X, Kaloshi G, et al.: IDH1 or IDH2 mutations predict longer survival and response to temozolomide in low-grade gliomas.

Neurology 75(17): 1560-1566, 2010.

13) Kim Y-H, Nobusawa S, Mittelbronn M, et al.: Molecular Classification of Low-Grade Diffuse Gliomas. American Journal of Pathology 177(6): 2708-2714, 2010.

14) Mukasa A, Takayanagi S, Saito K, et al.: The Significance of IDH Mutations Varies with Tumor Histology, Grade, and Genetics in Japanese Glioma Patients. Cancer Sci, 103(3): 587-592, 2012. 15) Ueki K, Nishikawa R, Nakazato Y, et al.:

Correlation of histology and molecular genetic analysis of 1p, 19q, 10q, TP53, EGFR, CDK4, and CDKN2A in 91 astrocytic and oligodendroglial tumors. Clin Cancer Res 8(1): 196-201, 2002. 16) Mukasa A, Ueki K, Matsumoto S, et al.: Distinction

in gene expression profiles of oligodendrogliomas with and without allelic loss of 1p. Oncogene 21(25): 3961-3968, 2002.

17) Labussiere M, Idbaih A, Wang XW, et al.: All the 1p19q codeleted gliomas are mutated on IDH1 or IDH2. Neurology 74(23): 1886-1890, 2010. 18) Hartmann C, Hentschel B, Wick W, et al.: Patients

with IDH1 wild type anaplastic astrocytomas exhibit worse prognosis than IDH1-mutated glioblastomas, and IDH1 mutation status accounts for the unfavorable prognostic effect of higher age: implications for classification of gliomas. Acta

Neuropathologica 120(6): 707-718, 2010.

【補足】本研究は、がん研究開発費(23-A-20)より資 金的支援を受け実施されました。

(17)

術中急性脳腫脹をきたした結果、

容易に全摘しえた髄膜腫の一例

Case report : meningioma resected entirely and

easily following acute brain swelling

東邦大学医学部脳神経外科学講座(大森)

野本 淳、原田 雅史、桝田 博之、植草 啓之、北島 悟、

近藤 康介、原田 直幸、根本 匡章、周郷 延雄

【はじめに】 髄膜腫は多くが良性腫瘍のため緩徐に成長し、摘 出時には既に巨大になっていることが多い。そのた め、腫瘍摘出手術の際には、内減圧操作が必要にな る症例が多い。今までに、髄膜腫の手術において内 減圧操作中に大量出血し、その結果として急性脳腫 脹をきたし腫瘍が押し出されてしまった報告がある。 今回われわれは、患者の咳嗽により急性脳腫脹をき たし腫瘍が押し出されてしまい、これを容易に全摘 出しえた症例を経験したので報告する。 【症例】 <患者> 62 歳 女性 主 訴 右上下肢の不全麻痺および痙攣 既往症 うつ病 現病歴 1 年前より無気力感があり近医でうつ病と 診断され内服加療を行っていた。ほぼ同時期に、右 上下肢の不全麻痺と数秒間の痙攣を自覚し、近医整 形外科を通院していた。その後、頭痛が出現してき たため近医で頭部 CT を行ったところ、左頭頂葉に 腫瘍性病変を認めたため当院を紹介され受診となっ た。 入院時神経学的所見 意識清明。瞳孔 2.5mm 左右同 大、対光反射正常。右不全麻痺 2/Ⅴ(MMT)、右上下 肢痛あり。 神経放射線学所見 頭部 CT では左頭頂部に 50× 42mm 大の等吸収な腫瘤を認め、一部大脳鎌と接し 周囲に浮腫を伴っていた(Fig. 1)。腫瘤は MRI では T1 強調画像で低信号、T2 強調画像で高信号を呈し、 均一に増強されていた(Fig. 2)。脳血管撮影では、左 側中硬膜動脈だけでなく両側浅側頭動脈からも栄養 される濃染像を認めた(Fig. 3)。以上より術前診断は、 傍矢状部髄膜腫であった。 手術 手術は、腹臥位で頭部を三点固定器で固定し 頚部を 15°背屈し体幹より高い位置とした。術中に SEP、MEP モニタリングを行うため、筋弛緩剤は麻

(18)

酔導入時にのみ使用した。皮膚切開時に、栄養血管 である両側浅側頭動脈遠位部を切断した。硬膜切開 前に高浸透圧利尿薬(マンニトール)300ml を急速静 注した。硬膜の緊張は軽度で、腫瘤と硬膜や正常脳 との癒着は軽度であった。内減圧術を行いながら、 周囲脳との境界を剥離していき、腫瘤赤道面を越え る前に、突然患者が咳嗽をしだした。その後、徐々 に腫瘤が膨隆し始めたため、摘出操作を中断し、麻 酔担当医に麻酔深度を深くするように指示した。し かし、腫瘤の膨隆は止まらず、あたかも娩出される が如く腫瘤の大半が脳表から突出してしまった(Fig. 4)。可及的に腫瘍を切断摘出していった結果、非常 に短時間で肉眼的に全摘出された。摘出腔の止血を 確認し、脳腫脹が重度でないことを確認し、人工硬 膜を用いて硬膜形成を行い、自家骨片を戻して通常 通り閉創した。 病 理 学 的 所 見 摘 出 し た 腫 瘤 の 病 理 診 断 は 、 meningotheliomatous meningioma であり、悪性所見は Figure 2. Contrast-enhanced T1weighted image (WI), A: axial, B: coronal, and C: sagittal MR images (MRI)

demonstrating heterogenous enhancement of the tumor in the left parietal region . MRI T2WI shows an isointensity mass lesion with massive perifocal edema (D).

Figure 3. Cerebral angiography showed a tumor stain feeding from the right superficial temporal artery (A) as well as the left middle meningeal artery (B).

(19)

認めなかった。 治療経過 麻酔終了後、覚醒良好で指示動作可能な ため抜管した。右片麻痺は、術前と同程度であった。 術後頭部 CT では、異常出血はみられなかった。術 後 2 日目には、リハビリテーションを開始し、術後 5 日目には独歩可能となり、術後 20 日目に退院した。 退院翌日から理容師として社会復帰し、利き手で鋏 を使用することできた。 考察 髄膜腫は発育が緩徐であり、症状が出現して から発見されるまでには既に巨大になっていること が多い。本症例のように巨大髄膜腫が摘出手術中に 急激な脳腫脹を呈し押し出された報告がある5)。ま た、術前にも脳腫脹が増大し、脳ヘルニアを来たし た報告もある1)。術前に急激に症状が出現する原因 として、脳内出血や急性硬膜下血腫などの出血が多 い4,6,7)。髄膜腫は、摘出手術前に腫瘍栄養血管塞栓術 が行われることが多いが、塞栓術後に腫瘍が壊死し て脳浮腫が増悪した報告がある2)。これらは、いず れもmass effectが高度な症例であり、脳腫脹が増悪し た結果症状が急激に悪化している。 術中に髄膜腫が押し出されてしまった理由として、 巨大髄膜腫周囲には既に虚血に陥っている部位が存 在しており、硬膜切開や腫瘍摘出操作により脳への 圧排が軽減した際に腫瘍周囲脳の血流増加がおこり、 脳腫張がおこりやすい状態にあることが示唆されて いる1,2)。本症例にように、術中に患者が咳をしたこ とにより、さらなる頭蓋内圧亢進要素が加わった結 果、押し出されてきてしまうことがありうる。危険 性としては、架橋静脈や腫瘍周囲動脈の断裂などが 挙げられ、麻酔担当医と緊密に情報交換し麻酔深度 を深くさせて頭蓋内圧を下げたり、腫瘍が飛び出そ うになった場合には徒手的に押さえて娩出しないよ うにするのが望ましかったと考えた。 【文献】

1) Hayashi K, Takahata H, Nakamura M, Iwasaki K: A case of atypical meningioma associated with acute deterioration and cerebral herniation. No Shinkei Geka 31: 1309-1313, 2003

2) 小宮山雅樹:頭頸部腫瘍の塞栓術,動注化学療 法.滝和郎(編):症例から学ぶ脳血管内手術, 東京,メディカ出版,2001,pp223-234

3) Ohlgashi Y, Tanabe A: A huge frontal meningioma associated with intraoperative massive bleeding and severe brain swelling – case report. J Clin Neurosci 8 Suppl 1: 54-58, 2001

4) 清水 純,田澤俊明,松本容秋,片野てい子, 松葉弥一,黒岩俊彦:急性硬膜下血腫で発症し た髄膜腫の一例.No Shinkei Geka 26: 743-747, 1998

5) Suga Y, Tsutsumi S, Higa T, Kondo A, Abe Y, Yasumoto Y, Ito M: Huge falx meningioma resected en bloc following acute brain swelling: a case report. No Shinkei Geka 36: 819-823, 2008 6) 若本寛起,宮崎宏道,林 拓郎,島本佳憲,石

山直巳:経過中に腫瘍内出血をきたした嚢胞性 Figure 4.The tumor of expulsion from brain. (A→B→C→D)

(20)

髄膜腫の1例.No Shinkei Geka 26: 247-252, 1998 7) 吉田宏幸,鮄川哲二,加藤幸雄,徳田佳生,大

林直彦,渋川正顕:脳内出血で発症し急激な転 帰をとった髄膜腫の1例.No Shinkei Geka 23: 79-84, 1995

(21)

下垂体腺腫に対する放射線治療後に発生した

トルコ鞍底部の骨肉腫の 1 例

A case of osteosarcoma at the sellae induced by irradiation

after pituitary adenoma surgery

帝京大学ちば総合医療センター 脳神経外科

1)

、日本医科大学付属病院 脳神経外科

2)

山田 昌興

1)

、石井 雄道

2)

、山田 創

1)

、後藤 芳明

1)

中口 博

1)

、村上 峰子

1)

、保谷 克巳

1)

、松野 彰

1)

Key words:radiation;osteosarcoma;skull base;pituitary adenoma;therapy

【要旨】 背景:放射線照射により生じる頭蓋底部の骨肉腫 (RIOS:radiation-induced osteosarcoma)に対する確立 された治療法はなく、予後は非常に不良で術後の平 均生存期間 6.5 ヶ月とされている。 症例:75 才女性が、低血糖発作による意識障害で入 院した。21 年前、下垂体腺腫摘出術後、残存腫瘍に 50Gy の放射線照射を施行された既往があり、MRI 検査を行なった。その結果、蝶形骨洞内~トルコ鞍 底に造影される腫瘤を認め、内視鏡下経蝶形骨洞内 腫瘍摘出術を施行し、海綿静脈洞浸潤部は残し亜全 摘に終わった。病理学的に骨肉腫と診断され、Cahan らの診断基準に基づき、RIOS の確定診断に至った。 術後 5 ヶ月で腫瘍が著しく増大し、内視鏡下経蝶形 骨腫瘍摘出術を施行し、ICE 療法(ifosfamide, cisplatin, etoposide)を行った。化学療法により腫瘍の増大は認 められなかったが、白血球 400/mm3,血小板 1 万以 下/mm3まで低下し 4 クール目を断念した。4 ヶ月後 に腫瘍の再増大のため右視力低下し、内視鏡下経蝶 形骨腫瘍摘出術を施行した。その後、cyber-knife 治 療を行い、右視力は回復しなかったが、照射から 6 ヶ月経過した(術後 23 ヶ月)時点でも、腫瘍の再発は 認められず、自宅で生活している。 考察:従来の報告と比較すると、本例の生存期間は 非常に長い。手術で腫瘍を全摘することが予後を良 くすると報告されているが、頭蓋底部に発生した骨 肉腫は解剖学的特徴から全摘不可能である。それ故、 補充療法が重要であるが、化学療法は確立されたも のがなく、文献ごとに異なった抗腫瘍薬を使用して いる。本症例では ICE(ifosfamide, cisplatin, etoposide) 療法を選択し、腫瘍増殖抑制という点では効果があ った。しかし、化学療法中止後、腫瘍の再増大が著 しく早かったことから、RIOS に対し ICE 療法は腫 瘍死滅作用に乏しいと判断した。X 線照射により発 生した RIOS に対し cyber-knife 治療を行うことは、 一般的な治療ではないが、本例には cyber-knife 治療 を施した。 結論:予後不良な頭蓋底部の RIOS に対し、神経内 視鏡下経蝶形骨腫瘍摘出術、ICE 療法、cyber-knife 照射を行なった1例を報告した。 【はじめに】 放 射 線 照 射 に よ り 生 じ た 骨 肉 腫 (RIOS : radiation-induced osteosarcoma)は極めて珍しく、0.01 ~0.03%と報告されている 1,2)。頭頸部に発生した場 合、原発性の骨肉腫の 5 年生存率 70%に対し3)、RIOS では 17%と明らかに予後不良である 4)。RIOS に対 する最も有効な治療は全摘することであるが、頭蓋 底部に発生した場合は解剖学的理由から全摘困難で あり、より生命予後不良である 5)。従来の報告と比 較すると、本例は非常に生存期間が長く、ここに報 告する。 【症例報告】 <症例> 75 才女性 <現病歴> 2009 年 10 月低血糖発作による意識障害に て、当院内科に入院し、精査の結果、汎下垂体機能 低 下 を 認 め た 。 頭 部 magnetic resonance imaging (MRI)にて蝶形骨洞内~トルコ鞍底に造影される腫 瘤を認め、下垂体腺腫再発疑いで当科に紹介された (Fig.1)。 <既往歴> 21 年前、非機能性下垂体腺腫に対し経蝶 形骨腫瘍摘出術を受け、残存腫瘍に 50Gy(2Gy×25 回)の放射線照射を施行された。以降、ホルモン補充

(22)

Figure 1.入院時 MRI トルコ鞍部から蝶形骨洞内にかけて T1W 上 iso-intensity の腫瘤を認め、造影剤にて一様に造影され、矢 状断にて斜台部にも及んでいる。しかし、下垂体および下垂体柄は正常構造を保っている。 Figure 2.腫瘍組織の病理像 細胞密度が著しく高く著明な異形成や核分裂像も認められ、類骨細胞も混在している(a, b)。また、vimentin 強陽性(c)であった。MIB-1 index 20%と高値であり(d)、骨肉腫と診断された。

(23)

療法を受けていたが、3 年前に自己中止した。 <経過> 1 回目の手術:2009 年 11 月に内視鏡下経蝶形骨腫瘍 摘出術を施行。腫瘍は白色弾性であり、腫瘍の本体 は蝶形骨洞内にあったが骨破壊が強く、蝶形骨洞内 の腫瘍を切除すると、下垂体底部の硬膜とはしっか り境界があり、下垂体と腫瘍とには連続性がなく、 下垂体腺腫とは異なる腫瘍であることが判明した。 両側海綿静脈洞内に伸展した部分を残し、可及的に 腫瘍を切除した。 病理組織:組織学的に腫瘍は下垂体腺腫とは全く異 なるものであり、細胞密度が著しく高く著明な異形 成も認められ、類骨細胞が混在している(Fig.2a, 2b)。 また、vimentin 強陽性であった(Fig.2c)。MIB-1 index 20%と高値であり(Fig.2d)、骨肉腫と診断された。 1 回目の術後経過:手術 2 週間後の MRI では、両側 海綿静脈洞内に残存腫瘍が確認されるが蝶形骨洞内 の腫瘍は摘出されていた(Fig.3A)。術後 5 ヵ月の時 点で鼻閉感を訴え、MRI を再検査した結果、腫瘍が 再発しており、蝶形骨洞内のみならず、鼻腔にまで 達する大きさに増大していた(Fig.3B)。 2 回目の手術および術後経過:2010 年 4 月に、2 度 目の内視鏡下経蝶形骨腫瘍摘術を施行し、その後に、 化学療法(ICE 療法:ifosfamide, cisplatin, etoposide) を行った。3 クール終了した時点での MRI では、腫 瘍の明らかな増大は認められなかったが(Fig.4A)、 化学療法により食欲不振、汎血球減少症を認め、3 回目の ICE 療法後には、白血球 400/mm3, 血小板 1 万以下/mm3まで低下し、回復に 2 カ月半を費やした ことから、本人、家族と相談の結果、4 回目の ICE 療法は施行しなかった。3 回目の ICE 療法終了から 4 か月後の外来受診した時には、右視力はほぼ喪失 し、follow-up MRI 上、腫瘍が再増大し、右視束管に まで伸展していた(Fig.4B)。 3 回目の手術および術後経過:本人、家族と相談の 結果、2011 年 1 月に 3 度目の内視鏡下経蝶形骨腫瘍 摘術を施行し可及的に腫瘍を切除し(Fig.5A)、その 後、2 月に MRI にて造影される広い範囲に、5 分割 での cyber-knife 照射を行った。Cyber-knife 治療 4 ヵ 月後の MRI では、明らかな腫瘍増大は認められない (Fig.5B)。現在、最初の手術から 23 カ月経ており、 右視力は回復しないが、患者は独歩可能であり自宅 生活を続けている。 【考察】 放射線照射により発生した肉腫の条件として、 1948 年に Cahan らが以下の 4 つの項目を呈示してい る6)

1. The initial and secondary neoplasms are of significantly different histological type.

Figure 3.術後 MRI

A. 手術 2 週間後の MRI では、両側海綿静脈洞内の残存腫瘍以外は、ほぼ全摘である。

(24)

Figure 4.ICE 療法後 MRI

A. 2 回目の手術を施行し、ICE 療法 3 クール目が終了した時点の MRI では、腫瘍の増大が認められてい ない。

B. 化学療法中止後 4 ヶ月してからの MRI では、蝶形骨洞内に腫瘍が伸展している。

Figure 5. Cyber-knife 前後の MRI A. 3 回目の手術施行後の MRI。

(25)

2. The secondary neoplasm must arise within the irradiated area.

3. There must be a long latency period (>5 years). 4. All sarcomas must be proven histologically.

本例では、上記 4 つの条件を満たしており、RIOS と診断した。放射線照射後に発生する肉腫の多くは、 fibrosarcoma であり、osteosarcoma の発生は非常に稀 であるため、単発の case report が多いが、報告では、 平均生存率は 6.5 カ月と非常に短く、半年の生存率 が 60% と 極 め て 予 後 不 良 で あ る 7)。 Primary

osteosarcoma よりも RIOS はより aggressive とされ8,9)、 それゆえ有効な治療は全摘であるが、頭蓋底部に発 生した場合は、解剖学的理由から、全摘は不可能で ある。文献上 methotrexate, ifosfamide, doxorubicin, carboplatin, vincristine, etoposide など諸々の化学療法 が試みられているが、効果も様々でありプロトコー ルが確立されるまでには至っていない 10,11,12)。本例 では、これら 過去の報告を基に、 ICE(ifosfamide, cisplatin, etoposide)療法を選択し、投与していた期間 は腫瘍の増大は認められず、腫瘍増殖抑制という点 では効果があった。 本疾患に対し cyber-knife 治療を行った報告は過去 になく、今回、cyber-knife 照射を試みた理由は、他 に打つ手立てがなかったからである。Linac 照射(X 線)にて誘発された腫瘍であり、異なった線種である γ-knife 照射(γ線)を第一選択と考えた。しかし、 右視束管に浸潤した腫瘍により右側は完全に失明状 態であり、腫瘍が左視神経にも接しているためγ -knife 照射にて左視力低下を来し、全盲になる可能 性もあり、γ-knife 治療は断念した。X 線照射にて 誘発された腫瘍に対し、X 線照射(cyber-knife 治療) を行うことは、矛盾する治療と思われたが、本症例 では非常に良い結果を得た。 正常下垂体機能温存の観点より、下垂体腺腫摘出 術後に放射線治療を行うことは少なくなっている。 しかし、既に照射を受けている患者では、RIOS が発 生する可能性があり、そのような症例に対し、どの ような治療をすべきかが問題となる。本例では、頭 蓋底部に発生した RIOS に対し、積極的な摘出術、 化学療法および cyber-knife 治療を用いた総合的治療 が有効であった。RIOS は稀な病態であるが、今後、 有効な治療方法の確立が望まれる。 【文献】

1) Goodman MA, McMaster JH.Primary osteosarcoma of the skull. Clin Orthop Relat Res. 1976; 120: 110-4.

2) Salvati M, Ciappetta P, Raco A. Osteosarcomas of the skull. Clinical remarks on 19 cases. Cancer. 1993; 71: 2210-6.

3) Patel SG, Meyers P, Huvos AG, Wolden S, Singh B, Shaha AR, Boyle JO, Pfister D, Shah JP, Kraus DH. Improved outcomes in patients with osteogenic sarcoma of the head and neck. Cancer. 2002; 95: 1495-503.

4) Chabchoub I, Gharbi O, Remadi S, Limem S, Trabelsi A, Hochlef M, Ben Fatma L, Landolsi A, Mokni M, Kraiem C, Ben Ahmed S. Postirradiation osteosarcoma of the maxilla: a case report and current review of literature. J Oncol. 2009; 2009: 876138.

5) Patel AJ, Rao VY, Fox BD, Suki D, Wildrick DM, Sawaya R, DeMonte F. Radiation-induced

osteosarcomas of the calvarium and skull base. Cancer. 2011; 117: 2120-6.

6) Cahan WG, Woodward HQ, Higinbotham NL, Stewart FW, Coley BL. Sarcoma arising in irradiated bone: report of 11 cases. Cancer 1948; 1: 3–29.

7) Berkmann S, Tolnay M, Hänggi D, Ghaffari A, Gratzl O. Sarcoma of the sella after radiotherapy for pituitary adenoma. Acta Neurochir (Wien). 2010; 152: 1725-35.

8) Robinson E, Neugut AI, Wylie P: Clinical aspects of postirradiation sacromas. J Natl Cancer Inst. 1988; 80: 233-40.

9) Wiklund TA, Blomqvist CP, Raty J, Elomaa I, Rissanen P, Miettinen M. Postirradiation Srcoma. Analysis of a nationwide cancer registry material. Cancer 1991; 68: 524-31.

10) Sugita Y, Shigemori M, Miyagi J, Ochiai S, Lee S, Watanabe T, Abe H, Morimatsu M.

Radiation-induced osteosarcoma of the

calvaria--case report. Neurol Med Chir (Tokyo). 1992; 32: 32-5. Review.

11) Carpentier AF, Chantelard JV, Henin D, Poisson M. Osteosarcoma following radiation treatment for meningioma: report of a case and effective treatment with chemotherapy. J Neurooncol. 1994; 21: 249-53.

12) Watanabe T, Fuse T, Umezu M, Yamamoto M, Demura K, Niwa Y. Radiation-induced

osteosarcoma 16 years after surgery and radiation for glioma--case report. Neurol Med Chir (Tokyo). 2006; 46: 51-4.

(26)

中枢神経原発性悪性リンパ腫とその周辺

Primary central nerve system lymphoma as a one of

general malignant lymphoma

北里大学 医学部 脳神経外科

1)

、病理部

2)

、神経内科

3)

、大阪大学 医学部 神経内科

4)

萩原 宏之

1)

、岡 秀宏

1)

、原 敦子

2)

、宇津木 聡

1)

、宮島 良輝

1)

安井 美江

1)

、増田 励

3)

、望月 秀樹

4)

、藤井 清孝

1)

Key wards:中枢神経系原発悪性リンパ腫、診断、治療

【はじめに】 中 枢 神 経 系 原 発 悪 性 リ ン パ 腫 (primary central nervous system lymphoma;PCNSL)は、高齢者や免疫 不全状態者に好発し、近年増加傾向にある。病理組 織学的分類では、B 細胞リンパ腫が 90-95%を占め、 悪性度は intermediated grade である diffuse large B cell type を呈することが多い。

CHOP(D) 療 法 (cyclofosfamide 、 doxisolbicine 、 vincristine、dexamethazone)など、他の部位の悪性リ ンパ腫に有効とされる化学療法に抵抗性を示すこと が多く1)、現在の標準治療には high-dose methotrexate (HD-MTX) と そ れ に 続 く 全 脳 照 射 (whole brain radiotherapy;WBRT)の併用療法の有用性が示されて いる。これらにより生存期間中央値(median survival time;MST)は 30-40 か月と延長2,3)したものの、全身 性悪性リンパ腫と比較すると、依然予後不良と言わ ざるをえず、治療の有害事象にも遅発性神経毒性を 高率に認めることから機能的側面にも問題は多い 4,5) 本稿では頭蓋内病変のみならず、全身性悪性リン パ腫と関連した症例から、画像診断、特に全身への FDG-PET の必要性や、生検による病理組織学的特徴 を踏まえ、この疾患への更なる積極的加療の必要性 について検討する。 【症例提示】 (症例 1) 26 歳男性。数ヶ月の間に職場での仕事上のミスが 増加し、下痢など胃腸障害を煩う様になったことか ら、周囲からは鬱状態とみなされ、精神科受診を促 された。画像診断で両側基底核、右中脳と多発性病 変を認め(図 1A-C)、当科紹介に至る。初診時 JCS Ⅱ-10 と意識障害が進行しており、左不全麻痺を呈 していた。Karnosky performance scale (KPS) 50。準

緊急での右基底核病変に対する部分摘出術を施行、 病理免疫学的診断にて diffuse large B cell lymphoma (DLBCL)を診断した(図 1D, E, F, G, H)。術後に血液 検査で human immunodeficiency virus (HIV)抗体陽性 かつ cytomegalovirus (CMV) IgG、CMV IgM 陽性を 確認した。ほか LDH 168U/l、s-IL2 receptor 284IU/ml と正常値内にあるものの、CD4<50μ/l と低値であり、 CMV の 合 併 感 染 を 呈 し た 免 疫 不 全 状 態 に あ る acquired immune deficiency syndrome (AIDS)と診断 した。術後には HD-MTX (3.5g/m2)を 3 コース施行

後、感染症内科での highly active anti-retroviral therapy (HAART 療法)と合わせ、WBRT (total 50Gy)を追加 加療とした。現在初診時から 18 か月経過中だが、画 像上で腫瘍は縮小(図 1H)し、全身状態も良好であり、 KPS90 で職場復帰されている。 (症例 2) 60 歳女性。右上肢の脱力、失語症状と中枢神経症 状が初発症状であった。画像診断で左前頭葉病変を 指摘した(図2A, B)。診断時には全身症状に倦怠感、 発熱、盗汗などの B 症状は認めないものの、左頸部 をはじめとしたリンパ節腫脹が目立ち、FDG-PET に て全身リンパ節腫脹が確認された(図 2C)。LDH 257U/l、s-IL2 receptor 1550IU/ml。左頸部リンパ節生 検の結果は indolent な follicular lymphoma (FL)であ った(図 2D)。骨髄生検の結果も同様であったが、通 常 FL の頭蓋内転移は稀であり、診断目的に頭蓋内 病変の生検術を追加。結果は aggressive な DLBCL で あ っ た ( 図 2E) 。 し た が っ て FL の malignant transformation の結果、DLBCL が頭蓋内転移したも の と 診 断 の 上 、 化 学 療 法 の 内 容 は HD-MTX + citarabine で開始した。さらに WBRT 30Gy 照射とし た上で、次に R-CVAD (ritukisimab、cyclophosfamide、 vincristin、adriamycine)を追加し、交互に化学療法を

(27)

図 1.意識障害の進行で来院した AIDS 関連 PCNSL の 26 歳男性症例 A:拡散強調画像,B:Gd 造影 T1 強調画像,C:Gd 造影 FLAIR 強調画像

MRI にて両側基底核を中心とした多発性病変を認める。病変周囲の浮腫が強い。ring enhance を 呈し、DWI では病変内は high intensity を認めない。

D:HE 染色

病理診断は DLBCL である。CD10-(図1E),Bcl-6-(図1F),MUM-1+(図1G)であり non-GCB type となる。

H:EBER-ISH

EBER-ISH は強く陽性となった。 I:Gd 造影 T1 強調画像

(28)

組 み 合 わ せ て の 加 療 中 で あ る 。 頭 蓋 内 病 変 は complete response (CR)となり、全身状態に関しても 現在 11 か月経過中、良好な成績にある。 (症例 3) 70 歳男性。37℃台の微熱が続くようになり、近医 受診。原因不明の感染症とし、抗生剤での加療とな る。その後急激に進行する歩行障害と認知症のため、 当院神経内科受診。大脳での多発性脳梗塞所見と小 脳病変が合併しており、同病変部位は造影剤では斑 な結節状の造影効果を一部にのみ認めた(図 3A-C)。 採血上では、LDH 675U/l、s-IL2 receptor 5500IU/ml と異常高値を認め、全身 FDG-PET では右肺上葉お よび両側副腎に高集積を認めた(図 3D)。以上から intravascular lymphoma が強く疑われ、生検目的に当 科紹介となる。ただし造影画像からも脳生検は比較 的困難であり、まず皮膚科でのランダム皮膚生検を 先行した。特に異常所見のない腹部で 5 カ所のラン ダム生検を施行し、病理免疫組織学的に intravascular large B cell lymphoma (IVLBL)が診断された(図 3E)。 しかし診断の間にも画像および臨床症状の急速な進 行が見られ(図 3F)、化学療法を HD-MTX+citarabine で開始した。1 回目治療後の画像所見では病変の進 行はないものの、骨髄抑制を強くきたし、肺炎合併 のため、発症から 5 か月で死亡となる。 【考察】 PCNSL は 中 枢 神 経 系 組 織 原 発 の 節 外 性 non-Hodgkin リンパ腫で、そのほとんどが B 細胞由 来である。我が国の全国脳腫瘍集計では原発性脳腫 図 2.全身性悪性リンパ腫の脳転移を生じた 63 歳女性症例 A:拡散強調画像 B:Gd 造影 FLAIR 強調画像 左前頭葉の小病変だが、周囲に比較的広範な浮腫を伴う。 C:FDG-PET:左鎖骨上窩リンパ節、右肺門リンパ節を始め、全身に及ぶ FDG の異常集積を認める。 D:H.E.染色 頚部リンパ節病変は結節を形成する follicular lymphoma である。 E:H.E.染色

頭蓋内病変の病理診断は DLBCL である。CD10-,Bcl-6-であり non-GCB type となる。EBER-ISH は強く陽性となった。

(29)

瘍に占める発生率は、1993 年に 1.9%、2003 年で 2.9%、 2009 年では 3.1%と増加傾向にある。全年齢に発症 するが、80%以上が 50 歳以上で、そのピークは 60 歳代にあることから 6)、高齢化社会へ向け、今後も 発生率の上昇が予測される。ほか免疫能低下時の発 症 も 知 ら れ て お り 、 特 に AIDS 患 者 全 体 で は 1.6-9.0%に PCNSL が発症している7,8)。現時点で本 邦での AIDS の発生は稀と考えられているが、既に 欧米では増加の一因となっている。 臨床的には、症状出現からの進行が早いことが特 徴であり、それが早期の診断や治療を困難としてい る。近年不顕性(全身性)リンパ腫との関連も示唆さ れているが、本来、リンパ組織の存在しない中枢神 経系になぜリンパ腫が発生するかは未だ不詳である。 これには発生機序の解明が待たれるところである。 発生部位には脳室や脳表くも膜下腔など髄液腔と 接することが多い。前頭葉、側頭葉、小脳を中心に、 基底核、側脳室周囲や脳梁など脳深部にも発生し、 25-50%は多発性病変として診断される8)。MRI で周 囲には広範な強い脳浮腫を認め、病変は造影剤によ る均一で強い増強効果を示すことが多い。また増殖 する腫瘍細胞が小さく、細胞密度が高いことから、 細胞密度を反映する拡散強調画像(diffusion weighted image;DWI)での ADC 値は低値となり、高信号を 呈する。しかし AIDS 関連 PCNSL では、さらに多発 性病変は 65-85%と高率となり、病変内部には壊死組 織がより多く存在するため、DWI での高信号は必ず しも認められない。疑わしければ即時に HIV 抗体検 査を追加することも重要である。 画像所見での鑑別には、ほかの悪性腫瘍(神経膠芽 図 3.Intravascular large B cell lymphoma の 70 歳男性症例

A:拡散強調画像 B:FLAIR 強調画像 C:Gd 造影 T1 強調画像 半卵円中心に大脳白質を首座に多発性病変が観察される。 D:FDG-PET:右肺上葉、両側副腎に異常高集積を認める。 E:H.E.染色 小血管内に大型の核をもつリンパ球様腫瘍細胞の増殖を認める。病理診断は IVLBL である。 CD10+であり non-GCB type となる。 F:FLAIR 強調画像 急速な病変拡大を認める。

Table 2 に Cox proportional hazard model で統計解析 した high grade astrocytoma 群における予後因子が生 存に与える影響を示した。有意差を認める予後不良 因子は、腫瘍が eloquent area に含まれていることの みであった。Figure 1 に腫瘍摘出度における生存曲 線(左:全生存期間、右:無増悪生存期間)、Table 3 に腫瘍摘出度における OS と PFS に与える影響の多 変 量 解 析 の 結 果 を 記 す 。 多 変 量
Table 4 に high grade oligodendroglial tumor 群の単 変量解析の結果を示す。発症時の年齢は OS、PFS に強く影響していた。また、腫瘍の最大径が 4cm を 超えていた場合と WHO grade IV (GBM with OC)も OS、PFS 共に予後不良の因子であった。発症前 KPS が悪い群も OS が有意に短縮していた。Figure 2 が摘 出度における  生存曲線、Table 5 が多変量解析の結 果である。調整因子は発症時年齢、術前 KPS、腫瘍 の
Figure 3.  Cerebral angiography showed a tumor stain feeding from the right superficial temporal artery (A) as  well as the left middle meningeal artery (B)
Figure 5.  Cyber-knife 前後の MRI  A.  3 回目の手術施行後の MRI。
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