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(1)

生殖補助医療(ART)後に妊娠・出産した母親におけ る母乳育児継続に向けた課題と支援

著者 嶋 雅代, 上澤 悦子

雑誌名 福井大学医学部研究雑誌

巻 18

ページ 1‑9

発行年 2017‑12‑26

URL http://hdl.handle.net/10098/10303

(2)

* 京都橘大学 看護学部 Abstract:

The purpose of the present study is to identify factors related to breastfeeding continuation in mothers who conceived with assisted reproductive technology (ART), and to consider breastfeeding support. Six databases were searched for articles published from 2006 to 2016, using the following keywords: infertility, sterility, infecundity, infertile, fertility treatment, fertilization treatment, sterility treatment, assisted reproductive techniques, assisted conception and breastfeeding, lactation, and infant feeding. Of the 419 studies considered, 8 studies that best suited our purpose were selected for analysis. Studies indicated that in comparison with mothers of spontaneous conception, cessation of breastfeeding was earlier and the percentage of exclusive breastfeeding was lower. On the other hand, some studies observed no significant difference in the feeding frequency or method 1 month postpartum, or the percentage of breastfeeding 18 months postpartum. Some mothers who conceived by ART ceased breastfeeding early for reasons other than those involved in the mode of conception. The present study suggested that giving breastfeeding support to mothers who conceived by ART not only enables successful continuation of breastfeeding, but also promotes regaining of confidence, both as women and as mothers.

Key Words: assisted reproductive technology (ART), breastfeeding, intention, emotion, literature review

要旨:

 本研究における目的は,生殖補助医療(assisted reproductive technologyART)後に妊娠・出産した母親における 母乳育児継続に関連する要因について文献レビューし,必要な母乳育児支援について検討することである。6データ ベースにより,2006年から2016年に発表された文献を検索した。用いたキーワードは,不妊:infertility / sterility / infecundity / infertile,不妊治療:fertility treatment / fertilization treatment / sterility treatment,生殖補助医療:assisted reproductive techniques / assisted conception,母乳育児 / 母乳:breastfeeding / lactation / infant feedingであった。検索で きた文献は419件で,選択基準に合った8文献を分析対象とした。ART後に妊娠・出産した母親は,自然妊娠の母親 よりも母乳育児を早期に中断していることや,完全母乳率が低いことが示された。一方で,産後1ヶ月の授乳回数や授 乳方法,産後18か月の母乳育児率に有意差はないとする報告もあった。ART後妊娠・出産した母親の母乳育児は,高 年齢に伴う妊娠・分娩の異常など,妊娠成立過程以外の要因の影響によって、母乳育児期間が短くなったり、中断した りすることが考えられた。また,ART後妊娠・出産した母親に母乳育児支援をすることは、単に母乳育児が確立・継 続するだけではなく、女性としての自信を取り戻し、母親役割獲得にもつながることが示唆された。

キーワード:生殖補助医療(ART),母乳育児,意思,感情,文献レビュー

生殖補助医療 ( ART ) 後に妊娠・出産した母親における 母乳育児継続に向けた課題と支援

嶋 雅代, 上澤悦子

看護学科 臨床看護学講座 母子看護学・助産学分野

Issues and Support of Breastfeeding Continuation for Mothers Who Conceived with Assisted Reproductive Technology

SHIMA, Masayo, KAMISAWA, Etsuko*

Department of Maternal and Child Health Nursing, Midwifery, Faculty of Medical Sciences, University of Fukui

(3)

嶋 雅代,上澤悦子

− 2 −

Ⅰ . 緒言

 母乳育児は母子の生涯にわたる保健行動と して世界的に認識されており,わが国におけ る妊娠中の女性の93.4%は母乳育児を希望し ている (1)。母乳育児には,「赤ちゃんとの絆が 深まる感じがする」「幸せな気分になる」「赤ちゃ んが安心や愛情を感じる」のように,これまで の母乳育児に関する体験を通して得てきた母親 自身の感情が,母乳育児を「したい,続けたい」

という「母乳育児の意思」に最も強い影響を与 えることが明らかとなっている(2)。また,一般 に言われている母乳のメリットや利便性だけ ではなく,母親が母乳育児を通して母子間の 相互作用を実感し,母親としてのアイデンティ ティを獲得する体験が母乳育児継続には重要

である[2-3]

  一 方, わ が 国 で は 生 殖 補 助 医 療(Assisted Reproductive Technology:以下ART)の普及が 年々進んでおり,2014年の総治療数は39万 3745件,出産児は4万7322人となり(4),その 年の出生児全体(5)の約21人に1人がARTに よる出生児となった。ART後の妊娠について は,妊娠初期に流産の不安をもち,これらの 不安が高いほど母親役割への適応が低いこと や(6),慢性的な抑うつのリスクファクターで ある(7)という報告がある。そのため,妊娠成 立過程から出産に至るまでの体験や母親の感 情は,出産後の母乳育児に影響を及ぼすこと が考えられる。よって,ART後妊娠・出産し た母親が母乳育児を継続できるように,母親 の感情に焦点を当てて支援を行うことは,単 に希望する児への栄養法の確立だけではなく,

母親としての自己形成や,母親役割獲得を支 援することにもつながることが考えられる。

 以上のことから,ART後妊娠・出産した母 親における母乳育児状況と,母乳育児継続に関 連する要因について文献レビューを行い,ART 後妊娠・出産した母親への母乳育児継続に向 けた支援を検討することを目的とする。

Ⅱ . 用語の操作的定義

 母乳育児:児に1日に1回以上,直接授乳 や搾乳などで母乳を与える育児方法。

Ⅲ . 研究方法

1. 文献検索の手順 ( 図 1)

 PubMed, CINAHL with Full Text,MEDLINE,

The Cochrane Library(CCRCT & CDSR), 医 中 誌Webの6デ ー タ ベ ー ス に よ り, 2016年 か ら 過 去10年 間 に 発 表 さ れ た 文 献 を 検 索 し た。 検 索 時 期 は, 2016年3月1日 で あ っ た。用いたキーワードは,「不妊」:infertility / sterility / infecundity / infertile,「 不 妊 治 療 」: fertility treatment / fertilization treatment / sterility treatment,「 生 殖 補 助 医 療 」:assisted reproductive techniques / assisted conception,

「母乳育児」「母乳」:breastfeeding / lactation / infant feedingであった。

 重複した文献を除外し,タイトル,抄録か らARTや母乳育児に関連しない文献を削除し た (一次スクリーニング)。その後,文献本文 を収集してフルテキストを読み,①ART後妊 娠・出産した母親を対象とした調査であるこ と,②母乳育児の状況や母乳育児継続に関連 する要因について検討されていること,の2 点について記述されている論文であるか精査 した(二次スクリーニング)。

2. 分析方法

 対象とした論文を,「ART後妊娠・出産した 母親における母乳育児の状況」と「ART後妊娠・

出産した母親における母乳育児継続に関連す る要因」に焦点を当てて検討した。

1 文献検索の手順

(4)

Ⅳ . 結果 1. 文献の概要

 ART後妊娠・出産した母親における母乳育 児についての記述があった論文は,8件であっ た。研究方法は,量的研究が6件、質的研究 が2件であった。

2. 文献の内容

1) ART後妊娠・出産した母親における母乳育

児の状況(表1)

 Fisherらの報告(文献③)では,ART群の 完全母乳育児率は退院時63.6%,産後4ヶ月 41.3%, 一 方, 非ART群 は 退 院 時76.5%, 産

後4ヶ月53.8%であり,ART群の完全母乳育

児率は非ART群よりも低かった。また,ART 群 は, 退 院 時(OR=0.545[95%CI: 0.360-0.824], p=0.004),および産後4ヶ月 (OR=0.529[95%CI:

0.350-0.800], p=0.003)の完全母乳に影響を及ぼ す予測因子であると報告している。Cromiらの 報告(文献⑥)では,母乳育児の開始や産後6ヶ 月における完全母乳率は両群で有意差はないが,

ART群は産後6週以内で母乳育児をやめる危険 性がより高いと指摘している(OR=65.3[95%CI:

1.5-2889.3], p=0.003)。Hammarbergらの報告(文 献②)では,オーストラリア保健調査(the 2001 National Health Survey)による,一般的なオー ストラリアの母親と比較した結果,退院時は ART群の方が母乳育児率は高かったが(ART群 89% vs 非ART群83.3%, p=0.05),産後6週間 にはART群の母乳育児率は77%に減少し,産 後3ヶ月の完全母乳育児率はART群の方が少 ない割合であった(ART群46 % vs非 ART群 57.3 % , p = 0.004 )。

 しかし,Leeらの報告(文献①)では,産後 18ヶ月の母乳育児については有意差がなかっ た (ART群5.9% vs 非ART群6.4%)。また,坂 上らの報告(文献④)では,35歳以下の若年 不妊治療群と若年自然妊娠群で産後1ヶ月にお ける24時間の授乳回数を比較したところ,不 妊 治 療 群9.7±2.7回, 自 然 妊 娠 群9.1±2.9 回で不妊治療群の授乳回数の方が多かったが

(p<0.05),35歳以上の高年不妊治療群と高年自

然妊娠群では有意差はなかった。また,一般不

妊治療群とART群における産後1ヶ月の授乳 方法においても,有意差はなかった。

2) ART後妊娠・出産した母親の母乳育児継続

に関連する要因

(1) 母児の背景要因との関連(表2)

 対象者の平均年齢について,Leeらの報告

(文献①)では,ART群33.2±4.1歳,非ART 群28.8±4.9,Fisherらの報告(文献③)では ART群35.3±4.7歳,非ART群32.0±4.6歳と,

ART群 の 年 齢 が 有 意 に 高 か っ た(ど ち ら も p<0.001)。また,Hammarbergらの報告(文献②)

では,ART群はオーストラリアの平均出産年 齢よりも有意に高かった(p<0.001)。また,坂 上らの報告(文献④)では,不妊治療群と自 然妊娠群の平均年齢を比較したところ,不妊 治療群の方が有意に高かった(不妊治療群35.1

±4.3歳 vs自然妊娠群31.0±4.7歳, p<0.01)。 またLeeらの報告(文献①)では,ART群は 早産の割合が高く(p<0.001),Hammarbergら の報告(文献②)では,妊娠週数が有意に短かっ た(p<0.001)。さらに,ART群は帝王切開(文 献①~③)(p<0.05~0.001) ,多胎(文献②③)

(p<0.001)が有意に多く,児の出生体重に有意

差がある(文献②③)(p<0.001)ことが示された。

坂上らの報告(文献④)では,不妊治療群と自 然妊娠群で比較し,不妊治療群は自然妊娠群よ りも平均年齢が高く(p<0.01),糖尿病や妊娠糖 尿病(p<0.01),婦人科系疾患(p<0.01),予定 帝王切開(p<0.01)および緊急帝王切開(p<0.01) の割合が有意に高かった。また不妊治療群は,

分娩時出血量が多く(p<0.01),退院前のヘモ グロビン値は低かった(p<0.01)。児の入院中 の異常(p<0.01)や児のNICU入院加療(p<0.01) も有意に多かった。希望する授乳方法につい て,35歳以下(若年)の不妊治療群と自然妊 娠群で比較したところ,若年自然妊娠群の方 が「絶対母乳」と回答したものが有意に多かっ た(p<0.05)。Castelliらの報告(文献⑥)では,

母乳育児群と人工乳育児群で比較し,人工乳 育児群は2年と超える不妊(p=0.002),帝王切

開(p=0.04)の割合が高かった。

(2) 母親の心理的要因との関連

Fisherらの報告(文献②)では,ART後妊娠・

(5)

嶋 雅代,上澤悦子

− 4 − 出産した母親において,妊娠後期の不安(POMS 緊 張 高 得 点 ) が 高 い こ と は, 母 乳 育 児 期 間 が 産 後6週 未 満(OR=2.57[95%CI: 1.06-6.21], p=0.04),8ヶ 月 未 満 (OR=2.24[95%CI: 1.01-

5.01], p=0.05)で終了する予測因子であった。

 Barnes らの報告(文献⑦)では,ARTを経

験した女性を対象とした質的分析から,ほとん どの参加者は妊娠前または妊娠中に母乳育児 の決定をしていたと報告している。また,ART が必要なことや経腟分娩ができないことは,母 乳育児の考え方に影響を与え,体外受精の過 程が母乳育児への衝動を強化していると感じ

ていたと述べている。さらに,母乳育児の決 定は正常と自然の両方の感覚に結びついて繰 り返し行われること,母乳育児は,困難な体 験やARTの過程に伴って生じた失望に対抗す る方法であると述べている。またLadoresらの 報告(文献⑧)では,不妊であった母親にとっ て母乳育児には「内在化された圧力」がある としており,母乳育児は自然に妊娠できない という不妊の病歴を相殺する手段であり,「自 然と母親になる」「唯一のチャンス」であり,「母 乳育児でなければ完璧な母親になれない」と 認識されていたと述べている。

1 文献の概要および母乳育児に関する2群間比較・独立予測因子

(6)

2 ART群と非ART群で有意差のある変数(一部)

(7)

嶋 雅代,上澤悦子

− 6 − (3) 母乳育児支援との関連

 Fisherらの報告(文献③)によると,入院中 の母乳育児支援について,ART群は非ART群 よりも満足度が高い (ART群45.2% vs 非ART 群52.4%, 有意差あり)。しかし,Hammarberg ら(文献②)の報告では,産後入院中の母乳育 児に関するアドバイスが不十分な場合,母乳育 児期間が産後6週未満 (OR=2.85[95%CI: 1.09- 7.44], p=0.03),8ヶ 月 未 満(OR=2.22[95%CI:

1.08-4.57], p=0.03)で終了する予測因子である と報告している。

 Barnesらの報告(文献⑦)では,ある参加 者は,「自分の赤ちゃんに人工乳を補足する必 要があるかもしれない」と考えたが,それを認 めないスタッフの態度に驚いたと述べている。

一部の参加者は,母乳育児へのプレッシャー から,母乳育児に困難が生じたら,人工乳や 哺乳びんが必要な場合があるという認識もな いことや,社会や医療関係者から母乳育児へ の圧力があると感じていたと述べている。

Ⅴ . 考察

1. ART 後妊娠・出産した母親の母乳育児に関 連する要因

 本研究で取り上げた三文献において,ART 群の母乳育児率は非ART群よりも低いことが 示された。ARTによる妊娠は,自然妊娠より 高年齢であることが知られる。わが国におけ る第1子出産年齢は,2016年では30.7歳と(5), 出産年齢の高齢化が知られるが,同様にART 受療者の年齢も上昇傾向にあり,2015年の40 歳以上のART受療者は43.4%となった(4)。高 年齢での妊娠は流産・死産,早産,妊娠高血 圧症候群,妊娠糖尿病,前置胎盤,常位胎盤 早期剥離,妊産婦死亡などの異常発症頻度が 高く,分娩時には難産や帝王切開のリスクも 増加する(16)。さらに出産後も,体力の低下や 合併症によって母体の回復が遅れ,心理的に も育児上の様々な不安やストレスを抱えてい ることが多い(17)。そのため,出産後の疲労が スムーズに回復せず,体力が低下したまま母 乳育児を開始せざるを得ないことも少なくな い。加えてARTによる妊娠は,児のリスクも

高く,染色体異常や先天奇形,多胎,低出生 体重児の発症頻度も高い(16)。出生後の児の状 況によっては,産後早期から哺乳を開始でき ないことや,早産児や低出生体重児に認めら れる弱い哺乳力によって,母乳育児の開始や 継続が困難であることが考えられる。

 また,余剰胚を凍結保存している母親には,

「次のARTを始めるまでに,母乳育児をやめな ければならない」という意思が同時に存在す る(19)。すなわち,凍結胚の有無が母乳卒乳の 決め手になっていることが考えられる。特に,

高年齢であるほど妊娠成立や継続は困難とな るため,生まれた子どもの育児や将来を考え て,できるだけ早いうちに治療を始めたいと いう気持ちになると予測され,非ART群との 母乳育児期間の差になっていると考えられる。

 質的研究の二文献からは,「ARTによる妊娠 であったからこそ,最も自然な母乳でわが子を 育てたい」という母親の感情や思いが明らかと なっている。不妊であることは身体,自己存在,

他者との関係に影響を与える身体・心理学的な 危機(18)であり,妊娠の継続に至らず落胆する 体験は,パートナーへの罪償感と女性としての 劣等感を強めていく(20)。つまり,医療技術の 介入なしに妊娠できない状態であることは,発 達課題である生殖性に関する危機的状況であり,

女性としてのアイデンティティ低下につながる と考える。さらに,母乳育児については,産前 から継続的な専門家による支援を受けることで 母乳育児を開始し,母乳育児継続期間が延長す る(21)ことが知られる。しかし,妊娠経過にお ける異常が発生した場合,妊娠継続に対する不 安が強くなり,出産や育児への期待が高まらず,

妊娠中の母乳育児支援を受け入れられないこと も予測される。そのため,自分の『意思』では 全くコントロールできなかった妊娠成立や妊娠 継続を経験した母親にとって,最も自然な母乳 育児をしたいという意思は,自然妊娠した母親 よりも強くなると考える。また,母乳育児中の 母親たちは,母乳育児に対して肯定感と負担感 両方の感情が同時に存在しており,とりわけ初 産婦は母乳育児に対するアンビバレントな感情 を持つ傾向にある(22)。そのため,ART後妊娠・

(8)

出産した母親の「母乳育児をしたい」という思 いが強いほど,母乳育児に対する不満や負担な どのネガティブな影響も強くなると考える。

2. ART 後妊娠・出産した母親への母乳育児継 続に向けた支援

 医療者による母乳育児支援との関連につい ては,三文献に記述があった。妊娠中から継 続的に母児に関わることができる助産師や看 護師が,母乳育児支援の大きな役割を担って いることは言うまでもない。しかし,母乳育 児支援を信頼できる専門家に頼ることができ た女性は,母乳育児に関する困難に直面して も母乳育児を継続した一方で,母乳育児を継 続しなかった女性は罪悪感や不全感、孤独感 を抱くことや(23) ,保健医療者から授乳のつら さや不安を受け止められていないと感じるこ とにより,授乳に対して劣等感や失敗感を抱 き,退院後の対応に困難を抱えたままでいる(24) という報告もある。ART後出産した母親の母 乳育児に対する強い思いを考慮すると,医療 者による母乳育児支援は,母親の感情に大き な影響を与える一方で,その後の母親役割獲 得に欠かすことのできない,大変重要な支援 であると考える。そのため,母乳育児を「する,

しない」「続ける,やめる」の二者択一で母親 に選択させるのではなく,「母乳育児の何が自 分にとって重要なのか」ということを母親と ともに考え,今後の母乳育児について,母親 自身が納得して決めることができるような支 援が必要であると考える。

 

3. ART 後妊娠・出産した母親における母乳育 児支援に関する研究の課題

 本研究で抽出された分析対象の文献には,

ランダム化比較試験やシステマティック・レ ビューは含まれておらず,ART後出産の母親 における母乳育児支援についてエビデンスレ ベルの高い研究はまだない。また,母乳育児 の定義やデータ収集時期は研究によって違う ため,何をもって「母乳育児をしている」「母 乳育児が継続している」とするのかは,研究 者個々の判断に任せられているのが現状であ

る。しかし,母乳育児は授乳状況における個 人差が大きく,母乳育児期間や授乳内容(完全 母乳栄養や混合栄養など)について,統一した 基準を設けることも難しい。

 母乳育児についてWHO/UNICEFは,生後6ヶ 月間は完全母乳育児を行い,その後も栄養を 補いながら生後2年以上を続けることを勧告

しており(25) ,長期的に母乳育児支援をする必

要があると考える。そのため,その母親一人 一人に適切な母乳育児が継続できるような検 討が重要であると考える。

 また,ARTは開発途上国でも行われるが,

正確な実施施設数は把握されておらず26),本 レビューにおいて使用した文献においても,途 上国における論文は文献検索の手順において 抽出されなかった。母乳育児は社会的要因も 影響を受けることが予測されるため,今後の 検討課題とする必要がある。

Ⅵ . 結語

 ART後妊娠・出産した母親における母乳育 児について,8件の論文で文献レビューを行い,

以下のことが明らかとなった。

1. ART後妊娠・出産した母親の母乳育児は,

非ARTの母親と比較して,母乳育児率が低 く,母乳育児期間が短いことが示された。

2. ART後妊娠・出産した母親の母乳育児は,

高年齢に伴う妊娠・分娩の異常など,妊娠 成立過程以外の要因が影響していることが 示唆された。

3. ART後妊娠・出産した母親の母乳育児支援

は,母乳育児を「する,しない」「続ける,

やめる」だけではなく,妊娠成立過程から 妊娠中の体験や感情にも焦点を当て、母乳 育児を通した母親役割獲得を支援する必要 がある。

 本研究は,31st ICM Triennial Congressで発 表した内容に加筆修正したものである。

 本研究内容に関連する利益相反事項はない。

【文献】

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結果の概要.

(9)

嶋 雅代,上澤悦子

− 8 − http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou- 11900000-Koyoukintoujidoukateikyo ku/0000134207.pdf, (2017.2.3)

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表 2   ART 群と非 ART 群で有意差のある変数(一部)

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