わが国における保険金詐欺の実態と研究
⎜⎜ 偽装自動車盗難による保険金詐欺を中心に ⎜⎜
山 田 高 弘
■アブストラクト
保険制度は善意の保険契約者を前提として成立している。そのため,不正 請求者を放置することは,単に保険会社が保険金を取られることだけでは済 まず,保険制度自体を崩壊させかねないものである。
現在,損害保険業界は一連の不払問題等の影響によって,厳しい状況にお かれている。しかし,社会情勢がどうであれ,不正請求事案に厳正に対処し ていくことは保険会社に課せられた責務である。むしろ,このような状況で あるからこそ,保険金詐欺防止への取組みが大切でありその対策が重要とな るのである。
本稿では,わが国の保険金詐欺の実態を偽装自動車盗難による不正請求を 中心に分析し,今後業界が取り組むべき不正請求対策について論じる。
■キーワード
不正請求等防止制度,損害調査費用,保険詐欺罪
1.不正請求類型と分類
一般に保険金詐欺と聞いてまず思いうかぶのは,生命保険の死亡保険金を 目的とした保険金殺人であろう。金銭を得たいがために,他人の生命を踏み にじるこの犯罪が悪質極まりないことは言うまでもなく,保険金殺人に対し
*平成20年9月27日の日本保険学会関東部会報告による。
/平成21年6月30日原稿受領。
ては重罰が科せられている 。
しかし,保険金詐欺全体の被害件数からすれば,保険金殺人は極めて少数 である。不正請求者はよりリスクが少なく,確実に保険金を受け取ることが でき,万が一捕まったとしても重罰が下らないように不正請求する。また,
インターネットの発達によりこれまで闇社会内だけで行われてきた不正請求 の手口が明らかになるにつれて,不正請求者の裾野が急速に広がっており,
一般の会社員や主婦,学生等でも,不正請求に手を染める例が増えつつある。
特に損害保険契約は保険種類が多岐に渡るため,不正請求の手口も様々であ る。そのため本稿ではまず,保険金詐欺の手法や態様を分類し保険金詐欺の 全体像を把握することから始める。
不正請求の類型をまとめたものが表1である。まず保険金詐欺は請求類型 として,事故偽装型と事故便乗型に大きく分けることができる。事故偽装型 とは事故自体を作出する詐欺行為であり,事故便乗型とは事故自体は実際に 発生しているがそれに便乗して不正請求をするものである。
事故偽装型はさらに火災保険をかけて保険対象の建物への放火,車両保険 を狙った偽装自動車盗難事故のような事故作出型と,別で発生した損害を保 険事故と偽って請求する架空事故型とに分けることができる。自ら事故を発 生させた上で,別の事故を真実の保険事故と偽って請求する態様の詐欺であ るため内容はより悪質である。
一方,事故便乗型も捏造請求型と過大請求型とに分けることができる。保 険事故に乗じて実際には窃取されていない商品を盗まれたとして請求する捏 造請求型や,実際に盗難された被害を過大に申告する過大請求型である。こ れらの請求は実際の保険事故に便乗して不正請求する点では出来心詐欺的な 性格をもつため,請求者が罪の意識をあまり感じることがない。
このように,保険金詐欺の態様はその方法や請求者の意識等においてかな
1) 最近の保険金殺人の事件では,猛毒のトリカブトや市販の風邪薬と酒を大量 に飲ませる等して2人を保険金目的で殺害した等として,主犯格の男に死刑が 確定している。(最判小平20・7・17)
り異なる。不正請求には各詐欺の態様ごとに対策を講じる必要があるだろう。
2.交通事故特殊事件の検挙状況における保険金詐欺の状況
保険金詐欺は,検挙が困難であり正確な被害額の把握が難しいため,欧米 各国においても保険金詐欺の件数や被害額等に関する正確な統計は存在しな いようである 。その点はわが国も欧米諸国と同様の状況であり,被害額の 全体を把握することは困難である 。
表1 不正請求類型
出典:㈳日本損害保険協会 わが国における保険金詐欺の実態と研究 ,17頁
2) ㈶損害保険事業総合研究所研究部 諸外国における防犯・防災対策の実態−
保険犯罪防止を中心として− 2005年 14頁,108頁,120頁等参照。
3) ㈳日本損害保険協会による加盟の会員会社22社(2007年12月現在)に対する 調査では,2006年度の保険金不正請求訴訟において損害保険会社が勝訴した事 案の件数と保険金額は,合計125件,42億5,700万円(勝訴事案の確認ができた 8社の合計)である(出典:㈳日本損害保険協会 わが国における保険金詐欺 の実態と研究 ,80頁)。なお,本件数,金額には,保険会社が免責通知を出し て請求が取り下げられた事案や実質勝訴の和解事案は含まれていない。そのた め,この数字は氷山の一角を表わしているに過ぎない。
そのような状況ではあるが,交通事故特殊事件 に限定した保険金詐欺の 被害額・検挙件数・検挙人員の内訳は警察庁によって明らかになっている。
これはわが国の公的機関が公表している数少ない保険金詐欺に係る資料であ る。
表2は,平成16年から平成20年の交通特殊事件における保険金詐欺事件の 検挙状況をまとめたものである。年次によって被害額の増減はあるものの,
毎年数億円の被害が発生し,検挙件数は200件から300件,検挙人員は400人 から600人で,概ね推移している。
交通特殊事件において検挙される保険金詐欺の最も代表的な例は,自賠責 保険を狙った当たり屋である。当たり屋は保険制度を熟知しており,自賠責 保険が被害者救済の保険であることを逆手にとって被害者を装い自賠責保険 の保障の範囲内でおさまるケガを繰り返し,入退院を繰り返す。
そもそも保険は公的な性格を帯びているが,強制加入である自賠責保険を 狙った当たり屋は公金横領にも匹敵する悪質な犯罪である。このような不正 請求に対しては,警察との連携を密にして積極的な取締りを促す必要がある。
3.自動車を窃取することの困難さ
自動車は,一般の個人が所有する財産としては住宅の次に通常高価なもの
4) 交通特殊事件とは,交通事故による偽装殺人・傷害,保険金詐欺,当たり屋 等の事件の総称を意味する。
表2 交通特殊事件における保険金詐欺事件の検挙状況
警察白書統計資料,警察庁ホームページを基に筆者が作成。
検挙人員(人) 596 421 592 検挙件数(件) 276 220 326 被害額(万円) 83,430 41,420 104,165
年次 平成16年 17年 18年 19年 20年 58,953 64,386
232 204
573 438
である。そのため,自動車を専門に狙った窃盗犯も存在し,最近では,国内 でも大規模な窃盗団が検挙され,その被害規模の大きさは度々紙面を賑わせ ている 。海外に目を向けても,自動車窃盗犯罪は深刻な状況である。
しかし,なかには犯行不可能な明らかに不審な事故,つまり盗難事故を作 出した偽装盗難による不正請求を疑わざるを得ない事案もある。偽装自動車 盗難は個別性が強い案件ではあるためその手口を一般化して論じることは困 難ではあるが,本節ではイモビライザ 搭載車の窃取可能性について車の技 術的な側面から考察する。
⑴ 最判平成19年4月17日の事件における盗難事故の不審点
本判決は,最高裁が自動車盗難における盗難の偶然性の立証責任は保険会 社にあると判断したことで有名ではあるが,その盗難の事件内容については あまり報じられていない。イモビライザ搭載車を窃取することの困難さを説 明するにあたり,本判決の事件内容を分析し,盗難態様から事故の不審点を 検証したい。
原審である福岡高裁及び一審の福岡地裁によって事実認定された事故状況 を,時系列でまとめたものが表3である。本事件では,マンションの防犯カ メラに不審者がセルシオに近づいてから窃取されるまでの一部始終が録画さ れていた。犯行当時契約者は出国していたため,このセルシオを自走させた 不審者が契約者以外の者であることは明らかである。
しかし,原審の事実認定によると,セルシオに近づき自走させるまでの時
5) 最近の大規模な窃盗団の検挙事例では,神奈川県においてトヨタ車を中心に 3年間で約1,000台の盗難車を不正輸出したとして窃盗容疑等で17人が逮捕さ れた。本事件による被害総額は数十億円に上るとされている。(毎日新聞平成 21年3月24日)
6) イモビライザとはキーに内蔵されたトランスポンダから出される複雑な暗号
(IDコード)を車両本体内のコンピュータで照合し,正規のキーと判定されな いとエンジンが掛からない盗難防止装置のことである。(注:メーカー純正品 の場合)
間が49秒程度と短時間であったことが判明している。このように,極めて短 時間の作業で車を自走させることは可能であろうか。通常,窃盗犯が車を自 走させて窃取するには,ドアロックの解除,ハンドルロックの無効化,キー シリンダーの破壊等が必要条件となる。さらに,イモビライザ搭載車であれ ば,これらの作業に併せてイモビライザの無効化の作業も必要になるのであ る。全ての作業を行って車を窃取しようとすると,とても49秒で自走させる ことはできない。
それでは,このような短時間で車を窃取するにはどのような方法があるの だろうか。結論を先に述べれば,スペアキーによって自走させる以外の方法 は考えられない。イモビライザのスペアキーを作成するには
ID
コードの複 製も必要になるので窃取現場において1分足らずの時間でキーを複製するこ とはできないことから本事件における窃取方法としては,元々あったスペア キーを用いて自走させたと考えるのが最も妥当である。契約者は ダッシュ ボードの中にスペアキーを入れていた とも主張しているが,たとえダッシ ュボードにスペアキーがあることを窃盗犯が知っていたとしても,ドアロッ クの解除だけでも相当の時間がかかってしまう。客観的な状況から判断すれ ば,本件は予めスペアキーを所持していた者によって自走された可能性が高 く,契約者と自走させた者との間に何らかの関係を疑わざるを得ない。実際,原審の福岡高裁では客観的な事実認定としてこういった形で車が窃 取されたことについて所有者の関与は疑いようがないと認められ,保険会社 が勝訴となった原因となっている。
⑵ イモビライザ搭載車の窃取方法
たしかに,イモビライザといえども人間が作ったものである以上,万能の 防犯システムではない。しかし, イモビライザ搭載車であっても盗まれる 場合がある との一言をもってイモビライザの防犯性能を否定するのは,偽 装盗難を否定する理由付けとしては,いささか乱暴にすぎる。なぜなら,イ モビライザは高度なセキュリティシステムであるため,一定条件下でなけれ ばシステムを解除することは技術的に不可能だからである
それでは,イモビライザ搭載車を窃取するにはどのような方法があるのだ ろうか。以下に代表的な窃取方法である レッカー移動・積載車の利用 と,
合鍵の作成 ,
ECUの交換 を説明の上,その方法による窃取の可能性に
ついて論じる。表3 最判平成19年4月17日判決の事件概要
平成12年11月 契約者は,それまで所有していた車両の下取価格を60万円とし,こ れに頭金80万円を加えて,割賦金263万円を支払う約定でトヨタセ ルシオ(以下本件車両とする)を購入した。
契約者は自宅マンション1階にある駐車場に本件車両を駐 車した。
契約者は福岡空港から同日午後4時発便でフィリピンに出 発した。
契約者以外の何者かによって本件車両が自宅駐車場から持 ち去られた。(駐車場に設置された防犯ビデオにより確認。
本件車両に近づいてから49秒程度で持ち去られている)
契約者は保険会社との間で,自動車保険契約(車両保険金額:450 万円)を締結した。
契約者は本件車両にかかわる割賦金を完済した。
契約者は車両保険を利用して本件車両を修復した。
13:00
16:00
19:21
契約者はフィリピンから帰国した。
平成13年11月12日
平成14年7月 平成14年夏頃 平成14年10月12日
平成14年10月22日
①レッカー移動・積載車の利用
車を自走させることなく窃取する方法としては,レッカー車や積載車を使 用することが考えられる。車を運ぶための車を使用するわけだから,自走さ せることなく窃取することは可能である。
しかし,この方法は窃盗犯にとって最も忌避すべき方法である。なぜなら,
作業中に騒音が発生し,盗難作業が大掛かりになるため発見される危険があ まりに高いからである。自動車盗難の大部分は深夜に発生している。夜間人 目を忍んで窃取を試みる窃盗犯が,わざわざ目立つ方法で車を窃取すること は通常考えられない。
②合鍵の作成
キーを複製すれば,もちろん車を動かすことは可能である。合鍵の複製は,
盗難現場で複製する方法,前もって何らかの方法で所有者から正規キーを預 かり複製する方法,窃盗犯が本人に成り代わってメーカーに申請し正規キー を入手する方法等がある。
しかし,イモビライザのキーを複製するには,単純に鍵穴の形状を合わせ ただけでは足りない。IDコードの複製も必要になる。そのため,現場にお いて短時間でキーの複製を行うことはまず不可能である。また,申請時には 本人確認が徹底されているため,窃盗犯が本人に成り代わって合鍵を入手す るのは現実的に困難である。
③
ECU
の交換ある程度の技術をもっている窃盗犯がイモビライザ搭載車を窃取する方法 が
ECU(Engine Control Unit)の交換・改竄である。ECUとは車の電子
制御装置のことであるが,車の様々な機能がECU
によって制御されており,イモビライザの
ID
照合を行っているのもこのECU
である。そのため,ECU
自体を交換,もしくは,ECUのシステムを不正に改竄すれば,正規キ ーがなくても窃取することは技術的には可能である。これは偽装盗難が争われている裁判においても,裁判官がイモビライザの有効性を否定する際に,
たびたび用いられる理屈でもある。
しかし,ECUを交換する作業は,例えばメーカーの修理工場のような最 適条件下においても,作業に相当の時間がかかる。自動車盗難は夜間に発生 することが多いが,作業に支障がある環境において窃盗犯が人目を忍んで作 業をすることを考えれば,さらに時間が必要になる。しかも,ECUを入手 すること自体にメーカーによって厳しい制限がなされているため,誰もが実 行可能な方法ではない 。
以上のとおり,イモビライザ搭載車を窃取するには方法的な困難さや技術 的な制約がある。偽装盗難が争われている訴訟においては,この点を今一度 認識し主張することが必要であろう。
4.最高裁判決以降の偽装自動車盗難の判例傾向
最高裁判決によって新しい判断は示されたものの,実務上は間接事実の積 み上げにより事故が偽装盗難であることを立証していくことに変わりはない。
現に,最高裁判決以降も次々と偽装自動車盗難による保険会社勝訴判決が下 されているが,それらは,間接証拠の積み重ねによって,偽装盗難であるこ とを立証して勝訴判決を得ているのである。
そのため,保険会社が勝訴判決を得るにはどのような間接事実を積み重ね るべきか,偽装自動車盗難の特徴を検証することは不正請求防止対策として 重要になる。表4は,平成19年4月17日最高裁判決以降に保険会社が勝訴判 決を得た偽装自動車盗難裁判例33件をまとめた一覧である。本資料から偽装 自動車盗難事例の特徴を検証する。
7) 自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチームによる自動車の防 盗性能試験調査研究レポートでは,ある同一車種でイモビライザが搭載されて いない車とイモビライザが搭載されている車の防盗性能を比較したところ,正 規キーを使用せずイモビライザ搭載車を自走させるには,約8倍の作業時間が かかることがアタックテストによって判明している。
①保険金額
被保険車両の保険金額が300万円を超えている割合は66.7
%(33件中22件)
であり,全体的に保険金額は高額である。一般的に高級車ほど車両保険を付 保する傾向が高いため一概に比較はできないが,不正請求者は実入りを大き くするため高額契約を締結しやすい高級車を選んでいるものと推測される。
②盗難車種
偽装盗難の車種はベンツが突出しており(33件中12件),続いてセルシオ が多くなっている(33件中4件)。両車ともに高級車であり保険金額も高額 になるため,偽装盗難の車種として多いものと考えられる。
しかし,たいていの高級車や外車は,イモビライザはもとよりその他の防 犯装置も標準装備になっている場合が多いため,技術的に盗むことは困難で ある 。
なお,最近の自動車盗難状況では必ずしも高級車が狙われているわけでは なく,むしろ狙われているのは,イモビライザが未装備であり,年式が古く 防犯性能が十分でない車,発展途上国で需要のあるようなトラックタイプの 車や国内需要が高い軽自動車等である 。
8) 例えば,高級SUV(Sport Utility Vehicle)の代表であるトヨタ社のラン ドクルーザー(200系)は,自動車盗難多発を契機にして,イモビライザはも ちろん,侵入センサー付きオートアラーム(不正なドア開けによる侵入だけで なく,ウィンドウからの侵入にもオートアラームが作動)と傾斜センサー付き オートアラーム(キーオフ時にジャッキアップや車両の持ち上げ等を行うと,
車両の傾きを検知して警報を発する)も標準装備になっている。
9) ㈳日本損害保険協会の2008年度自動車盗難事故実態調査によると,最も盗難 被害に遭った上位5車種は,1位ハイエース,2位ワゴンR,3位マークX,
4位ランドクルーザー,5位セルシオであった。トラック型の車や軽自動車の 被害が上位にきており,必ずしも高級乗用車ばかりが盗難被害に遭っているわ けではない。
③盗難場所
盗難場所は,路上が最も多く(33件中11件),続いて,月極駐車場(33件 中7件),自宅駐車場(33件中4件)となっている。
通常,窃盗犯は人目につきにくい夜間や人通りの少ない場所に駐車してあ る自動車を狙うことから,保険金詐欺を企図する者も実際の自動車盗難事故 に見せかけて保険金請求する場合が多い。
④盗難車両が発見されるケース
盗難届出後に車両が発見されるケースがある(33件中7件)。このように して発見された車両は経済全損によって保険金を騙し取ろうと企てているた め,車両が執拗に傷つけられているケースもある(No26)。損壊状態が激し い場合は,擦過痕の深さや形状をよく確認し,保険金目的の意図的な損壊が なされていないか十分に確認する必要がある 。
また,発見された車両にキーシリンダーの破壊や
ECUの交換の形跡がな
く不正に動かした形跡がないことも疑義が生じる点である(No17,No24)。不正に動かした形跡がないということは,正規キーを使って走行したという ことであり,正規キーを使用したということは,所有者つまり契約者の関与 が疑われるからである。
10) 寺澤弘 車両疑義事故への対応 (2007年改訂版)114〜116頁参照
表4 平成19年4月17日最判以降の偽装自動車盗難裁判例(保険会社勝訴
① ②
車種
ベンツ
BMW
ベンツ
セルシオ
アリスト
オデッセィ
ロールスロイス
BMW
BMW
ベンツ
ベンツ
リンカーン
ベンツ
ベンツ
キャデラック
ランドクルーザー 保険金額
(万円)
365
310
250
455
140
340
700
375
280
430
410
400
350
395
135
300 判決日
平成19年4月24日
平成19年4月27日
平成19年7月30日
平成19年8月30日
平成19年9月5日
平成19年9月11日
平成19年9月21日
平成19年9月26日
平成19年11月30日
平成19年12月11日
平成19年12月12日
平成19年12月26日
平成20年1月22日
平成20年1月29日
平成20年1月31日
平成20年2月28日 裁判所
横浜地裁
(平成17年(ワ)340) 名古屋地裁
(平成18年(ワ)1637) 大阪地裁
(平成18年(ワ)2701) 名古屋地裁
(平成18年(ワ)3597) 福岡地裁
(平成18(ワ)607) 大阪地裁
(平成18年(ワ)5935 東京地裁
(平成18年(ワ)17568) 名古屋地裁
(平成18年(ワ)4530) 大阪地裁
(平成17(ワ)11521) 大阪高裁
(平成19年(ネ)2329) 名古屋地裁
(平成18年(ワ)328) 東京高裁
(平成19年(ネ)3069) 名古屋地裁
(平成18年(ワ)4056) さいたま地裁 (平成17年(ワ)2274) 東京地裁
(平成19年(ワ)8990) 横浜地裁
(平成18年(ワ)772) No
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
事案)分析表
③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
盗難場所
路上
路上
空地
自宅駐車場 マンション 駐車場
路上
飲食店駐車場
路上
月極駐車場
飲食店駐車場 パチンコ店
駐車場 飲食店駐車場
路上
月極駐車場 コインパー キング 寺院駐車場
盗難車の 発見╱
未発見 未発見
未発見
未発見
不明
発見
未発見
未発見
未発見
未発見
不明
未発見
未発見
未発見
未発見
未発見
未発見
超過 保険
非該当
非該当
該当
不明
非該当
非該当
非該当
不明
該当
不明
非該当
該当
非該当
非該当
不明
非該当 保険料
払込 方法 分割
分割
分割
一括
分割
分割
分割
分割
分割
分割
分割
分割
分割
分割
分割
分割
保険料 払込 状況 不良
正常
正常
正常
正常
正常
不良
不明
正常
正常
正常
正常
正常
正常
正常
正常
イモビ ライザ
有
有
有
有
無
不明
無
不明
有
有
有
有
無
有
不明
無
被保険車両の 購入方法
ディーラー オーク ション 中古車 販売店 不明
個人間売買
不明
債務弁済
個人間売買 中古車 販売店 知人から
譲渡 中古車 販売店 中古車 販売店 中古車 販売店 中古車 販売店 不明 中古車 販売店
請求歴
有
有
無
有
有
不明
無
有
無
有
有
無
無
不明
有
有
32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 No
水戸地裁 (平成19(ワ)130) 東京地裁
(平成19年(ワ)6645) 最高裁
(平成20年(受)832) 名古屋地裁 (平成19年(ワ)418) 千葉地裁
(平成19年(ワ)2701) 名古屋高裁
(平成18年(ワ)5343) 名古屋高裁
(平成19年(ネ)909) 大阪地裁
(平成18年(ワ)12752) 大阪地裁
(平成19年(ワ)11517) 札幌地裁
(平成18年(ワ)1006) さいたま地裁 (平成18年(ワ)657) 高松高裁
(平成19年(ワ)380) 東京高裁
(平成19年(ネ)4742) 大阪地裁
(平成19年(ワ)284) 大阪地裁
(平成18年(ワ)7670) 東京地裁
(平成19年(ワ)1705) 裁判所
平成20年9月26日 平成20年8月28日 平成20年8月20日 平成20年7月31日 平成20年7月30日 平成20年7月16日 平成20年6月26日 平成20年6月13日 平成20年5月30日 平成20年5月9日 平成20年4月25日 平成20年4月24日 平成20年4月23日 平成20年3月28日 平成20年3月4日 平成20年3月4日
判決日
180 250 150 770 920 780 295 665 270 740 155 460 640 405 230 340 保険金額
(万円)
ステップワゴン セルシオ クラウン ベンツ ベンツ ベンツ ランサー セルシオ アリスト ベンツ インテグラ センチュリー
ベンツ ボルボ セルシオ
ベンツ 車種
②
①
ジャガー 900
平成20年12月16日 最高裁
(平成20(受)1523) 33
※本資料は2008年度に自動車盗難対策プロジェクトチームにおいて実施した偽装 ている。なお本資料は損保協会会員会社から提供された裁判例に限定しており
不明 不明 有 有 無 有 無 無 不明
無 有 無 有 不明
有 不明 請求歴
中古車 販売店 友人 個人間売買 ディーラー ブローカー ディーラー 個人間売買 中古車 販売店 不明 不明 友人 不明 不明 個人間売買 個人間売買 中古車 販売店 被保険車両の
購入方法
有 有 無 有 有 有 不明
有 不明
有 無 不明
有 有 不明
有 イモビ ライザ
正常 正常 不良 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 正常 保険料
払込 状況
一括 分割 分割 分割 分割 分割 分割 分割 分割 分割 分割 一括 一括 分割 分割 分割 保険料
払込 方法
非該当 非該当 非該当 非該当 該当 非該当
不明 非該当
不明 不明 非該当
不明 不明 該当 該当 非該当
超過 保険
未発見 未発見 発見 発見 未発見 未発見 不明 発見 発見 不明 未発見
不明 不明 未発見 未発見 発見 盗難車の
発見 未発見
商業施設 駐車場 月極駐車場 自宅駐車場 自宅駐車場
路上 路上 月極駐車場
路上 月極駐車場
商業施設 駐車場 月極駐車場
路上 自宅駐車場
路上 コインパー
キング 月極駐車場
盗難場所
⑨
⑧
⑦
⑥
⑤
④
③
路上 未発見 非該当 分割 正常 有 中古車
販売店 無
自動車盗難の裁判例調査研究(2007年4月以降の裁判例を対象)を参考に作成し 2007年4月以降の偽装自動車盗難に係る裁判例全てを網羅しているわけではない。
⑤超過保険
保険金詐欺目的の超過保険が認められたのは,33件中6件であるが,被保 険車両が手元にない状況では超過保険の認定が難しいことを考えれば,実際 はさらに多い可能性もある(不明は33件中9件)。
一般消費者は少しでも保険料を抑えたい傾向があるが,不正請求者は少し でも多くの保険金を得たいがために被保険車両の価値を超えた保険金額での 契約を希望する。偽装自動車盗難においては,オプションパーツを装着して いないにも係わらず 被保険車両にオプションパーツを装着した 等と主張 して保険金額をつり上げたり,被保険車両の売買において売り手と契約者が 通謀して契約金額をつり上げる等の方法がある。
なお,この点,2010年施行の保険法第9条では超過保険を有効としている が,同条が利得禁止原則を排除するものではない以上,故意による事故招致 等の免責事由が認められる場合には,契約が無効になるものと考えられる 。 ただ,超過保険は保険会社の引き受けの問題も絡んでくるため,不正請求を 目的とした超過保険を排除するために,引き受け段階での更なるチェック機 能強化は今後課題として挙げられる。
⑥保険料払込方法・保険料払込状況
33件中29件が分割による保険料払込を選んでおり,さらに29件中3件は保 険料払込が延滞していた。保険料が延滞していた3件の保険金額は必ずしも 高額ではなく(No1.365万円,No7.700万円,No30.150万円),保険金額と 延滞との関連性は見受けられない。
もちろん払込方法を一括支払にするか,分割支払にするかは契約者の自由 であるが,少なくとも恒常的に保険料を延滞するということは,契約者に経 済的困窮が認められ不正請求の動機の一つになり得る。この点,裁判所も契 約者の経済的困窮を保険金詐欺の動機として認定することが多い。
11) 福田弥夫/古笛恵子編 逐条解説 改正保険法 36〜38頁参照
⑦イモビライザ装備の有無
33件中20件にイモビライザが装備されていた。外国車(33件中20件)にイ モビライザが装備されている割合が高い(20件中16件,国産車は13件中4 件)理由は,欧州などでは既にイモビライザの装備が義務付けられているた めである。
多くの裁判例はイモビライザの有効性を高く認めているが,防犯性能を過 小評価している裁判例も見受けられる。このように裁判官によってイモビラ イザの性能評価が異なっているのは,十分にイモビライザの性能を裁判官が 理解していないことが原因と考える。
したがって,まず,イモビライザとはいかなるものであるか,裁判官に丁 寧に説明する必要がある。併せて,新しい車種に装備されているものほどイ モビライザの性能は向上しているため,被保険車両の初度登録を確認するこ とも重要である。一口にイモビライザといっても,発売当初のイモビライザ と最新式のイモビライザとでは性能は全く別物といってもよい。技術的な裏 づけをもって,イモビライザの防犯性能を主張することも効果的である。
⑧被保険車両の購入方法
被保険車両の購入方法は,中古車販売店からの購入が最も多い(33件中11 件)。保険金を多く得たいがために,中古車販売店と原告が通謀して被保険 車両に超過保険契約した疑義があった裁判例もある(No9,No12)。続いて,
個人間売買で購入した車両が多くなっているが(33件中5件),個人間売買 等で購入した場合は,購入価格の客観性が担保されにくいため,その車両の 価値を正確に把握することは困難である。
⑨保険金請求歴
過去に保険金請求歴があった裁判例は33件中15件である。半数近くが過去 に何らかの保険金請求をしていることが裁判で判明している。
保険金詐欺犯は一度保険金詐欺によって保険金を不正に得ると,同じよう
な内容の不正請求を繰り返す傾向がある。また,本人だけでなく,本人の周 辺にも事故多発者が存在することもあり,請求者の周辺状況から詐欺が発覚 することもある(No18)。
保険金詐欺を繰り返す者を排除するには各社の情報を業界としてシステム 化することが最も効果的であろう。システム化の検討案については後述する。
5.不正請求防止対策の今後の課題について
最後に,損害保険業界が今後取り組むべき保険金不正請求対策の課題につ いて私見を述べる。
⑴ 不正請求等防止制度のシステム化
損害保険業界では,不正請求を防止するため各種の情報交換制度を構築し ている。そのなかでも中核を担っているのが,不正請求等防止制度による情 報交換制度である。しかし,現状では各社が保有する情報が業界として一元 的に管理されていない。
そのため業界の今後の検討課題として,不正請求等防止制度を完全システ ム化することが挙げられるだろう。具体的には,各社が社内で不正請求と判 断した事案の不正請求者情報を自社で登録すると,自動的に業界のデータベ ースとして登録されるようなシステムの構築である。そして,そのデータベ ースに登録された情報は各社の情報端末によって,内容を随時確認できるよ うにすることも必要である。
このように不正請求等防止制度をシステム化することができれば,不正請 求者情報が漏れなく業界全体に共有化され,かつ,各社が不正請求をチェッ クする際の利便性が大幅に向上することから保険金詐欺防止の有効な対策と して機能する。
⑵ 損害調査費用の損害賠償請求
現状では,不正請求者にとっては 言い得 ,つまり,不正請求をしても
要求がとおらなかっただけで,不正請求者は何も失うものがない状態である。
そこで,少なくとも,民事で確定判決を得た事案については損害調査費用 を損害賠償請求することで,民事的な責任を不正請求者に負わすべきである。
これは調査費用を回収することが真の目的ではなく,善良な契約者の保護を 図ることが真の目的である。
なお,損害賠償請求をすると,訴訟事務や債権回収の手続きが各社の負担 になるが,少額訴訟の利用やサービサーに債権譲渡する等して効率よく債権 回収するスキームを構築する必要があろう。
⑶ 保険詐欺罪の制定
米国やドイツ等では,通常の詐欺罪とは独立した,保険金詐欺を取り締ま るとともに不正請求の抑止を目的とした保険詐欺罪が制定されている 。保 険金詐欺が保険料の増加に大きな影響を及ぼすことを考えれば,善良なる一 般市民が保険難民とならないように国家として保険金詐欺を取り締まる責務 があるはずである。
わが国では保険金詐欺を罰する刑罰は刑法246条の詐欺罪であるが,現実 には詐欺罪での保険金詐欺の立件は検挙につながりづらい。そして,このよ うに検挙されないことが,保険金詐欺の繰り返しを許してしまう最大の要因 であろう。
そのため,今後の課題として欧米各国に倣い,保険金詐欺の立件を容易に するために,刑法典に保険詐欺罪の制定を検討していく必要があるものと考 える。
(筆者は社団法人日本損害保険協会勤務) 12) ㈶損害保険事業総合研究所研究部 諸外国における防犯・防災対策の実態―
保険犯罪防止を中心として― 2005年27頁等参照。例えばニューヨーク州刑法 では,保険詐欺に対する独立した,刑罰規定が制定されており,さらに詐取金 額等に応じて刑罰が区分されている。最も重い第1級保険詐欺罪では,最高で 25年以下の懲役刑が科されることになっている。