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税 効 果 会 計 と将 来CFの リ ンケ ー ジ

大 沼 宏

1.は じ め に

平 成11年4月1日 以 降 開 始 す る 事 業 年 度 か ら税 効 果 会 計 が 全 面 的 に導 入 され る こ と に な っ た 。 平 成10年10月 に 公 表 さ れ た 『税 効 果 会 計 に係 る 会 計 基 準 』 に よる と,税 効 果 会 計 とは 次 の よ う に説 明 され る。

企 業 会 計 上 の収 益 ま た は 費 用 と課 税 所 得 計 算 上 の 益 金 ま た は 損 金 の認 識 時 点 の相 違 等 に よ り,企 業 会 計 上 の 資 産 ま た は負 債 の 額 と課 税 所 得 計 算 上 の 資 産 また は負 債 の 額 に相 違 が あ る場 合 にお い て,法 人 税 そ の 他 利 益 に 関 連 す る金 額 を課 税 標 準 とす る税 金(以 下 「法 人 税 等 」 と い う)の 額 に適 切 に期 間 配 分 す る こ と に よ り,法 人 税 等 を控 除 す る 前 の 当期 純 利 益 と法 人 税 等 を合 理 的 に対 応 させ る こ と を 目的 とす る手 続 きで あ る。

一 般 的 に,税 効 果 会 計(taxeffectaccounting)と は,法 人 税 等 と 当 期 純 利 益 と を 適 正 に 期 間 対 応 させ る 発 生 主 義 会 計(accrualaccounting)に 則 し た 会 計 処 理 と理 解 され る。 税 効 果 会 計 を 適 用 す る こ と で 当期 の 税 引 前 利 益 と期 間 的 に対 応 し な い 法 人 税 等 支 払 額 は繰 延 税 金 資 産 また は負 債 と し て貸 借 対 照 表 に計 上 され る。 しか し,税 効 果 会 計 を 導 入 した か ら と い っ て,当 期 に 支 払 う税 金 キ ャ ッ シ ュ ア ウ トフ ロ ー に は 変 化 は な い 。 あ く まで も税 引 前 当期 純 利 益 に対 応 し て支 払 うべ き税 額 を損 益 計 算 書 に 表 記 す る こ とが 税 効 果 会 計 の 目的 とい え る 。 キ ャ ッ シ ュ フ ロー を重 視 す る観 点 か らす れ ば,税 効 果 会 計 を適 用 しな か っ た と きの 方 が,当 期(制 度 上 は 次 期)に 支 払 う法 人 税 等 の キ ャ ッシ ュ ア ウ トフ ロ ー

〔163〕

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164 第52巻 第1号 を損 益 計 算 書 にお い て ス ト レー トに表 示 す る 。

最 近 雑 誌 ・新 聞 等 を賑 わす の は,キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を要 とす る 企 業 経 営 の 必 要 性 に関 す る 議 論 で あ る 。 機 関投 資 家 が 企 業 評 価 を行 う場 合 は,今 日で は キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 中 心 と した 分 析 が 行 わ れ る と い う。 ま た 最 近 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー ベ ー ス の 経 営 とい う論 調 は,会 計 上 の利 益 と は別 に 現 金 の流 れ を重 視 して 経 営 を行 うべ し と い う主 張 が 根 底 にあ る。 これ は会 計 的 にい え ば,現 金 主 義 的 とい っ て も よか ろ う。 対 照 的 に,税 効 果 会 計 は 対 応 概 念 に基 づ く発 生 主 義 会 計 そ の もの の論 理 を追 求 して い る 。 表 面 的 に は,発 生 主 義 会 計 と現 金 主 義 志 向 と が 混 在 し,矛 盾 を は らん で い る とい う様 相 が,近 年 の 会 計 ビ ッグ バ ンの 根 底 に 伺 え るの で あ る 。

そ こで 本 稿 は 次 の 問 題 意 識 を持 っ て 臨 む。 第 一 に,税 効 果 会 計 は キ ャ ッシ ュ フ ロ ー と矛 盾 す る もの で は な く,何 らか の リ ンケ ー ジ を持 つ の で は な い か とい う点 で あ る。 具 体 的 に は,税 効 果 会 計 適 用 に よ り計 上 され る繰 延 税 金 資 産 ・負 債 は キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の予 測 に有 用 で あ る との 仮 説 の検 証 で あ る。 対 応 概 念 を 中心 に 置 く発 生 主 義 会 計 は 会 計 情 報 の 有 用 性 を 高 め て い る とい う点 を 本 稿 は検 討 す る 。 第 二 に,税 効 果 会 計 を取 り巻 く制 度 改 革,具 体 的 に は1994年 か ら適 用 さ れ たFASB基 準 書(以 下SFAS)109号 法 人 税 等 の会 計 」 に よ る繰 延 法 か ら資 産 負 債 法 へ の 変 更 は繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の キ ャ ッ シュ フ ロ ー予 測 能 力 に何 らか の 影 響 を与 え て い る の か 否 か。 この 研 究 を 通 じて税 効 果 会 計 の 制 度 改 革 が 企 業 に 与 え る影 響 を検 討 す る。 最 後 に,以 上 の 結 果 を踏 ま えて 次 の研 究 につ な が る イ ン プ リケ ー シ ョ ンを得 た い。

2.先 行 研 究 の レ ビ ュ ー

税 効 果 会 計 の 株 価 へ の 何 ら か の 影 響 を 調 査 す る 株 価 関 連 性 研 究(valuerele‑

vanceresearch),あ る い は 繰 延 税 金 は キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能 力 を 持 つ と い う 予 測 能 力(predictivevalue)に 関 す る 研 究 は こ れ ま で も 少 な く な か っ た 。 例 え ば 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 株 価 へ の 影 響 を 検 証 し た リ サ ー チ と し て は,

(3)

税 効 果 会 計 と将 来CFの リ ン ケ ー ジ 165 BeaverandDukes[1972],Rayburn[1986],Ayers[1998],Amir,etaL

[1997]な どが 挙 げ られ る。 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 資 産 性 な い し負 債 性 の 評 価 研 究 と し て は,ChaneyandJeter[1994コ,GivolyandHayn[1992]が 挙 げ られ る。売 掛 債 権 や 棚 卸 資 産,繰 延 税 金 資 産 ・負 債 な どの発 生 処 理 額(accrual) の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 能 力 に 関 す る リサ ー チ と して は,Lorekand Willinger[1996],Sloan[1996],Cheung,etal.[1997コ が 指 摘 で き る。

発 生 処 理 額 と株 価 変 動 との 関 連 性 に か か る株 価 関 連 性 研 究 の 嗜 矢 とな っ た の はRayburn[1986]で あ っ た 。 彼 女 は,営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と発 生 処 理 額 は 年 次 異 常 収 益 率(abnormalrateofreturn)を どの 程 度 説 明 で きる か20年 間 に わ た り,横 断 面 デ ー タ を用 い て検 証 した 。 この 中 で彼 女 は発 生 処 理 額 を,発 生 主 義 に よ る利 益 と減 価 償 却 費,運 転 資 本 の 変 動 額 及 び 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 変 動 額 と して い た 。 検 証 の 結 果,発 生 処 理 額 の 中 で繰 延 税 金 資 産 ・負 債 が 異 常 収 益 率 につ い て き わ め て 高 い 説 明 能 力 を持 つ こ とが 証 明 され た 。

また 税 効 果 会 計 の キ ャ ッシ ュ フ ロ ー予 測 能 力 に係 る研 究 の 中 で 代 表 的 な の が Cheung,etaL[1997コ の 研 究 で あ る。 彼 らは,税 効 果 会 計 を適 用 す る こ とで 計 上 され る繰 延 税 金 負 債 と法 人 税 等 調 整 額 が 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 に 有 用 で あ る か に つ い て 検 証 した 。FASBは 概 念 基 準 書 第2号 に お い て,会 計 情 報 の基 本 的 な特 性 と して 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー に対 す る予 測 能 力 が 期 待 さ れ て い る と記 述 す る 。 そ こ で 彼 らは こ う したFASBの 演 繹 的 な論 理 が 果 た して 実 態 に合 致 して い るか につ い て,ア メ リ カ企 業 延 べ 約4万 社 あ ま りの 財 務 デ ー タ を 利 用 して リサ ー チ を行 っ た 。 そ の 際 行 わ れ た リサ ー チ は次 の2つ で あ っ た 。 第 一 に,法 人 税 等 調 整 額 と繰 延 税 金 負 債 は将 来 の 法 人 税 等 支 払 額 の 予 測 に有 用 と の 仮 説 の 検 証 で あ る。 第 二 に,LorekandWillinger[1996]が 構 築 し た MULT(MultivariateTime‑SeriesModel)と 呼 ば れ る多 重 回 帰 分 析 を 用 い て キ ャ ッ シ ュ フ ロー 予 測 を 行 っ た。 検 証 の結 果,法 人 税 等 調 整 額 と繰 延 税 金 負 債 は将 来 支 払 税 金,将 来 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の 予 測 に有 用 で あ る とい う結 論 に至 っ た 。

(4)

ヱ66 第52巻 第1号

3.リ サ ー チ デ ザ イ ン 3.1仮 説 の展 開

本 稿 の 出 発 点 は,発 生 主 義 会 計 の 典 型 とさ れ る税 効 果 会 計 適 用 に よ っ て計 上 さ れ る 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 は,単 な る 対 応 計 算 上 の 残 余 で は な くキ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 実 現 可 能 性 を基 礎 に 認 識 さ れ て い る と い うCheung,etal.[1997]の 想 か らで あ る。 一 般 に繰 延 税 金 資 産 及 び 負 債 を計 上 す る場 合,将 来 減 算 一 時 差 異 を税 金 の 前 払 い 分 と して あ る い は 将 来 加 算 一 時 差 異 を税 金 の 未 払 い 分 と して 把 握 す る。 だが 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を認 識 す る に は,経 営 者 の 確 率 論 的 な判 断 が 必 要 と され る 。 す な わ ち 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 認 識 測 定 及 び 評 価 に は,実 効 税 率 の 予 測 や 一 時 差 異 の 回 収 期 問,課 税 所 得 の 計 上 可 能 性 な ど実 に多 くの 見 積 要 素 が 介 入 す る。 特 に繰 延 税 金 資 産 の 実 現 可 能性 に は慎 重 な 判 断 と確 実 な利 益 予 測 が 求 め られ る 。 も し利 益 の 計 上 に 疑 念 が 生 じ る の で あ れ ば,評 価 性 引 当金 を設 定 して,十 分 に控 除 す る こ と が 求 め られ る1)。

繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の認 識 の 基 礎 に は,キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー が 将 来 的 に実 現 可 能 か 否 か の 判 断 が根 底 に あ る。 そ こ か ら税 効 果 会 計 とキ ャ ッ シ ュ フ ロー は,時 間軸 の 現 在 と将 来 で つ な が っ て い る と解 釈 で き るの で あ る 。

Beaver[1989]は 以 上 を 踏 ま え て 次 の よ う に 指 摘 す る 。

発 生 主 義 会 計 は キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー デ ー タ を 変 換(transforming)及 び 合 計 す る(aggregating)会 計 処 理 法 で あ る 。 … よ り一 般 的 に い え ば,発 生 処 理 額(accrual)は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー へ の 経 営 者 の 期 待 を 反 映 し て い る の で あ り,現 在 及 び 過 去 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 情 報 よ り も包 括 的 に 種 々 の 経 済 事

1)SFASIO9号 に よ る と,評 価 性 引 当 金 が 設 定 さ れ る の は,繰 延 税 金 資 産 の 一 部 ま た は 全 部 が 実 現 し な い 「可 能 性 が 高 い 」(morelikelythannot)場 合 と さ れ る

(par.17)。 こ の 可 能 性 は50%超 の 確 率(alikelihoodofmorethan50percent)

と 一 般 に は 理 解 さ れ て い る が,MillerandSkinner[1998]は こ れ に つ い て の 判 断 は 経 営 者 の 裁 量 に任 さ れ す ぎ て い る と して,し っ か り と した 原 則(formulae) や 明 確 な 実 務 指 針(clearguidance)の 確 立 を 求 め る。

(5)

税 効 果 会 計 と将 来CFの リ ン ケ ー ジ 167

象 を 反 映 し て い る 。(p.7)

発 生 主 義 会 計 は 繰 延 勘 定(deferrals),費 用 配 分 要 素(allocations),評 価 勘 定(valuations)な どの 発 生 処 理 額 に基 づ い て 利 益 計 算 が な さ れ る 。 分 析 者 の 立 場 に立 て ば こ う した 主 観 的 要 素 に左 右 さ れ る発 生 主 義 会 計 は,分 析 を す る の にあ ま り に曖 昧 で あ る。 しか し経 営 者 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー へ の 予 測 要 素 を 反 映 す る とい う きわ め て 有 効 な シ ス テ ム で もあ る 。 税 効 果 会 計 を適 用 して 計 算 され る繰 延 税 金 資 産 ・負 債 は,様 々 な 予 測 要 素 及 び そ の実 現 可 能 性 を踏 ま え る こ とで 本 質 的 に経 営 者 の 将 来 予 測 を包 含 す る。 分 析 を行 う際 に,税 効 果 会 計 に 代 表 さ れ る発 生 主 義 に よ る会 計 情 報 とキ ャ ッシ ュ フ ロ ー情 報 とあ わせ て 活 用 す

る こ とで,企 業 分 析 は よ り有 効 な もの と な る と期 待 さ れ る 。 そ こ で 次 の 仮 説 を検 証 す る 。

HO‑1:繰 延 税 金 資 産 と負 債 を含 む 発 生 処 理 額 は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ーの 予 測 に 有 用 で は な い 。

繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む発 生 処 理 額 は経 営 者 の 将 来へ の 期 待 や 予 測 を含 ん で 認 識 され る。 と りわ け繰 延 税 金 資 産 ・負 債 は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ーへ の 予 測 要 素 が 含 ま れ る と予 想 さ れ る。 こ の 点 か らCheung,etal.[1997]の 研 究 は 最 も参 考 とな る の だ が,当 該 研 究 で は モ デ ル の検 定 は行 っ て い ない 。 本 稿 で は検 定 を 中心 に 進 め て い る。

ア メ リ カ にお け る 税 効 果 会 計 の 会 計 基 準 の歴 史 につ い て 簡 単 に振 り返 る と, 1967年 にAPB(会 計 基 準 審 議 会)意 見 書11号 法 人 税 等 の 会 計 」 が 公 表 さ れ て 以 来,長 くこ の基 準 書 が 税 効 果 会 計 の 主 要 な会 計 基 準 の 地 位 に あ っ た 。1987 年 に大 幅 な 改 正 内 容 を含 むSFAS96号 が 公 表 され た もの の,反 対 意 見 が 数 多 く 寄 せ られ,結 局1992年 に よ うや くSFAS109号 法 人 税 等 の会 計 」が 公 表 され, 1994年 か ら税 効 果 会 計 に つ い て 大 幅 な制 度 改 革 が 実 施 され た2)。 当 該 基 準 書 に

よ る と1994年 以 降SEC基 準 に準 拠 す る企 業 は繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 計 算 は資 2)FASB基 準 の 変 遷 と ア メ リ カ以 外 の 会 計 基 準 の 変 遷 に つ い て は,中 田[1999]

が 詳 し い 。

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168 第52巻 第1号

産 負 債 法 に よる こ と に な っ た 。 資 産 負 債 法 が採 用 さ れ た こ と に よ り,適 用 さ れ る税 率 は一 時 差 異 解 消 時 の税 率 とな っ た 。 従 っ て 適 用 税 率 が 変 わ れ ば,繰 延 税 金 資 産 ・負 債 価 額 は 再 評 価 され る。 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の キ ャ ッシ ュ フ ロ ー と

して実 現 す る可 能 性 も高 ま る と予 想 され る。

そ こで 次 の仮 説 も検 証 して み る。

HO‑2:税 効 果 会 計 の 制 度 改 革 は そ の 前 後 で キ ャ ッ シ ュ フ ロー 計 算 に 一 切 の 影 響 を与 え な い 。

Cheung,etal.[1997]は1979年 か ら1994年 ま で の デ ー タを使 っ て キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー予 測 を行 っ た が,こ う した 制 度 改 革(基 準 書 の公 表)を 考 慮 して い な い。

キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー そ の も の に つ い て も1987年 にSFAS95号 「キ ャ ッ シ ュ フ ロー 計 算 書 」 公 表 さ れ て い る。 こ の基 準 書 以 前 は,キ ャ ッ シ ュ フ ロー 計 算 書 は 作 成 され て お らず,そ れ 以 前 は連 結 財 政 状 態 変 動 表 が 開 示 され て い た 。 本 稿 で は 特 に,SFAS109号 公 表 が キ ャ ッ シ ュ フ ロー に与 え る影 響 を 検 証 す る 。

3.2キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 モ デ ル

繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む 発 生 処 理 額 の 認 識 と測 定 に は,先 ほ どのBeaver [1989]の 言 葉 に あ る よ う に,経 営 者 の 将 来 に 対 す る予 測 や 見 積 も りな ど が 介 入 す る。 した が っ て繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む 種 々 の 発 生 処 理 額 に は利 益 の 予 測 要 素 と し て の 能 力 が まず 期 待 さ れ る。 そ の 上 でFinger[1994コ が 立 証 した よ うに,利 益 数 値 に は キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の 予 測 数 値 と して の 能 力 も期 待 され る。

一 方 で 「利 益 は 意 見,キ ャ ッ シ ュ フ ロー は事 実 」 とい う言 葉 で 指 摘 され る よ う に,利 益 数 値 は あ る程 度 操 作 可 能 と理 解 さ れ る の に対 し,キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー は 操 作 の 余 地 の少 な い 業 績 に つ い て か な り客 観 的 な指 標 で あ る と考 え られ る。 経 営 者 の 将 来 予 測 は この キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して体 現 す る とい う前 提 を こ こ に置

く。

そ こで 問 題 とな るの が,将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と は な に か で あ る。 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 が 将 来 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー予 測 に有 用 とい っ て も,将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー そ の もの が は っ き り して い な い。 本 稿 は将 来 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の代 理 変 数

(7)

税 効 果会 計 と将 来CFの リンケー ジ ヱ69 を 「次 期 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー 」 とす る。 営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー は営 業 損 益 計 算 の対 象 とな っ た 取 引 の ほ か,投 資 活 動 及 び 財 務 活 動 以 外 の 取 引 に よる キ ャ ッ シ ュ フ ロー を計 算 した結 果 で あ る。 つ ま り,企 業 の 営 業 活 動 か ら獲 得 す る キ ャ ッ シ ュ フ ロー を も っ と も明確 に表 示 す る 区分 が 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー とい え る。

ま た 次 期 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー の 予 測 変 数 と し て は,営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー の 獲 得 に 強 い 関 係 を持 つ 発 生 処 理 額 に 関 係 す る 変 数 と し た い 。 そ こ で Finger[1994コ が 示 す よ う に,過 去 の 累 積 的 な 情 報 内容(incrementalcontent ofinformation)を 含 む 変 数 と し て1期 前 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー を含 め る。

そ の 上 でRayburn[1986]の 変 数 選 択 を参 考 に,運 転 資 本 の変 動 額 を モ デ ル に 含 め る。 具体 的 に は 売 掛 金 と受 取 手 形 の合 計 と して 計 算 した売 掛 債 権 の変 動 額 をモ デ ル に 含 め る。 続 い て棚 卸 資 産 の変 動 額 を,友 び 買 掛 金 と支 払 手 形 の 合 計 と し て計 算 した 仕 入 債 務 の変 動 額 も説 明 変 数 に含 め る。 ま た本 稿 の 主 題 で あ る 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 変 動 額 もモ デ ル に含 め る 。

具 体 的 に は 先 の仮 説HO‑1を 踏 ま え て次 の モ デ ル を使 っ て 検 証 を行 う。

CF,=β1+β ・ ㎝ 一1+β ・i〜EC,一,+β ・ 刀V「71‑1+β ・PAY,‑1+β ・DTAし 一1+ε'・ ・… … ・(1)

CF,=β1+β ・CF,‑1+β ・1〜EC,一,+βi7Nレ り一1+β ・ 」PAY,‑1+B'・DT.乙 日+&・ … … 。(2)

当 該 モ デ ル はLorekandWillinger[1996]の 多 重 回 帰 分 析 モ デ ル か ら一 部 変 数 を 除 き,繰 延 税 金 資 産 と負 債 を含 め る こ とで よ り多 くの発 生 処 理 額 の 影 響 を 検 証 す る こ とが で き る よ う変 形 した3)。 各 変 数 につ い て で あ る が,CFは 算 日時 点 で の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー を意 味 す る。RECは 売 掛 債 権 合 計 で あ り,

3)LorekandWillinger[1996]は4半 期 デ ー タ を 用 い て い る の に対 し,本 稿 は 決 算 日 の デ ー タ を 用 い て い る。 ま たLorekandWillinger[1996]で は 変 数 の ひ とつ に 減 価 償 却 費 控 除 前 の 営 業 利 益 を変 数 と し て 採 用 し て い る が,ラ グ 内 生 変 数 で あ る1期 前 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と多 重 共 線 性 の 問 題 が あ っ た の で,除 去 した 。

と は い え,予 測 能 力 を 測 定 す る 場 合 は 回 帰 分 析 に よ る 適 合 性(thegoodnessoffit) テ ス トだ け で は 不 十 分 と のLorek,etal[1993],LorekandWillinger[1996]の

指 摘 も あ る。 本 稿 も 第5節 でMAPEを 用 い て 正 確 性 に つ い て も検 証 し て い る 。

(8)

170 第52巻 第1号

内訳 は 売 掛 金 と受 取 手 形 の 合 計 で あ る 。INVは 棚 卸 資 産 で あ る。PAYは 入 債 務 の 合 計 で あ り,内 訳 は買 掛 金 と支 払 手 形 の 合 計 額 で あ る。DTAは 繰 延 税 金 資 産 で あ る。 そ してDTLは 繰 延 税 金 負 債 で あ る。 こ れ らの 数 値 は各 企 業 の 連 結 貸 借 対 照 表 と連 結 キ ャ ッ シ ュ フ ロー 計 算 書 か ら抽 出 し,1期 前 か らの 変 動 額 を使 っ て い る4)。

ま た仮 説HO‑2を 踏 ま え,税 効 果 会 計 の 制 度 改 革 前 後 で ど うい う変 化 が キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー に与 え られ るか を検 証 す る た め に,ダ ミー 変 数 を用 い て構 造 変 化 を 検 証 す る。 モ デ ル は 次 の よ う に 設 定 す る 。

CF,=β1+β ・CF,‑1+β ・REC,‑1+β ・IVV,‑1+β ・PAY,一 ・

+δ ユD1,DTA,‑1十 δ,1)2,DTA,一 ユ+εt (3)

CF,=β1+β ・CF,‑1+β ・ ・1〜EC,‑1+βiflZV'V,一,+β ・PAY,‑1

+δ1Dl,DTL,‑1+δ 証)2,Z)TL,一,+ε, (4)

D1はDlt=1(t<1994),0(t≧1994)と な る ダ ミ ー 変 数 で あ る 。 ま たD2 はD2tニ0(t<1994),1(t≧1994)と な る ダ ミ ー 変 数 で あ る 。DIDTAと DIDTLは こ の 係 数 を 通 じ て1988年 か ら1993年 ま で の 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー へ の 予 測 能 力 を 見 る 。 ま た,D2DTAとD2DTLは こ の 係 数 を 通 じ て1994年 か ら1999年 ま で の 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー へ の 予 測 能 力 を 検 証 す る 。 基 準 書 公 表 に よ っ て 繰 延 税 金 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能 力 に 変 化 が 見 ら れ る か を 検 証 す る 。

3.3サ ン プル とデ ー タ

税 効 果 会 計 を継 続 的 に適 用 す る企 業 は 昨 年 度 まで は そ れ ほ ど多 くな か っ た。

とい うの も,税 効 果 会 計 が全 面 的 に適 用 と な る の は平 成11年4月1日 以 降 開始 す る事 業 年 度 か ら に な っ て い る。.本稿 の 主 題 は 過 去 の繰 延 税 金 資 産 ・負 債 か ら

4)本 稿 で は 説 明 変 数 と 被 説 明 変 数 の 同 質 性 を確 保 す る た め に,す べ て1期 前 の 数 値 と の 差 額(変 動 額)を 使 っ て 検 証 を行 っ て い る 。た とえ ば1999年 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 予 測 す る 場 合,説 明 変 数 は1997年 と1998年 の 変 動 額 を 使 う こ と に な る 。

(9)

税 効果 会計 と将 来CFの リ ンケ ー ジ

17Z

将 来 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー な ど を予 測 可 能 か検 証 す る もの で あ る。 従 っ て 過 去 の デ ー タ も必 要 とす る の で,残 念 な が ら平 成11年 度 の財 務 デ ー タ は利 用 困 難 で あ る。

一 方 で1987年 にSFAS95号 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 計 算 書 」 公 表 さ れ る 以 前 は, キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 計 算 書 で は な く連 結 財 政 状 態 変 動 表 が 開 示 さ れ て い た 。 そ の 中 で 開 示 さ れ て い た の は 現 金 及 び現 金 同等 物 と して の キ ャ ッシ ュ フ ロー で は な く,運 転 資 本 で あ っ た。 この 節 で は キ ャ ッシ ュ フ ロ ー 自体 の 数 値 の 同 質 性 を重 視 す る の で,SFAS95号 の 公 表 以 前 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー は こ こ で は 使 わず, 1988年 度 か ら1998年 度 ま で の10年 聞 に わ た り米 国SEC基 準 を採 用 し て きた 企 業29社 の 有 価 証 券 報 告 書 内 の 連 結 財 務 諸 表 か らデ ー タを採 取 した5)。そ の 上 で, デ ー タは 蓄 積 させ て,プ ー ル デ ー タ と し て検 証 を行 っ た 。 た だ20年 間 繰 延 税 金 負 債 を一 度 も計 上 しな か っ た 企 業(3社),繰 延 税 金 資 産 を計 上 し な か っ た企 業(1社)に つ い て は 分 析 を一 部 だ け と し,1998年 ま で にSEC基 準 採 用 を止 め た 企 業(4社)は 採 用 を止 め た期 まで 検 証 し た6)。 ま た繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の デ ー タ は長 期(固 定 資 産 ・負 債)と 短 期(流 動 資 産 ・負 債)に 分 か れ るが, 本 稿 で は 分 析 の都 合 上,合 計 して繰 延 税 金 資 産 ・負 債 デ ー タ と して扱 っ た 。

蓑 谷[1998]に 従 い,プ ロ イ シ ュ ・ペ ー ガ ンテ ス トを行 って,当 該 モ デ ル に つ い て 誤 差 項 の 分 散 不 均 一 性(heteroskedasticity)の 検 定 を 行 っ た 。 結 果 と して 分 散 不 均 一 性 が 確 認 さ れ た7)の で,こ れ を緩 和 す る た め に,変 数 は す べ

5)サ ン プ ル と し て 採 用 し た 企 業 は 以 下 の29社 で あ る。 東 芝,三 菱 電 機,本 田技 研, NEC,三 洋 電 機,キ ャ ノ ン,三 菱 商 事(〜98年 度),富 士 フ イ ル ム,ク ボ タ,リ コ ー,伊 藤 忠 商 事,丸 紅,三 井 物 産,TDK,イ トー ・ヨー カ 堂,オ ム ロ ン,コ マ ツ,京 セ ラ,パ イ オ ニ ア,村 田 製 作 所,日 本 ハ ム,ワ コー ル,ソ ニ ー,マ キ タ, 松 下 電 器 産 業,日 立 製 作 所,旭 光 学(〜93年 度),大 日本 印 刷(〜92年 度),オ

ン パ ス 光 学(〜90年 度)。

6)Cheung,etal.[1997]は1975年 か ら1994年 ま で 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を計 上 す る 企 業 約4万 社 あ ま り を デ ー タ と して 用 い た の に 対 し,本 稿 は サ ンプ ル 企 業 が そ も そ も少 な い の で,結 果 に 対 して は そ れ な りの 留 保 も必 要 で あ る。

7)プ ロ イ シ ュ ・ペ ー ガ ン テ ス トの 結 果,デ ー タ が 均 一 分 散 で あ る とい う 帰 無 仮 説 は 1%水 準 で 棄 却 さ れ た 。 な お 各 数 値 を 総 資 産 価 額 に よ っ て デ フ レー トし た 結 果, デ ー タ が 均 一 分 散 で あ る と い う帰 無 仮 説 は10%水 準 で も棄 却 さ れ な か っ た 。

(10)

ヱ72

第52巻 第1号

て 決 算 日時 点 で の 各 企 業 の 資 産 総 額(簿 価)で デ フ レ ー トした 。 各 変 数 の 基 本 統 計 量 は 表1の 通 りで あ る 。

表1基 本統 計 量

営 業CF売 掛 債 権 棚 卸 資産 仕 入債 務 繰延税金資産 繰延税金負債

平 均0.0530 標 準 偏 差0.0380 分 散0.0014 範 囲0.2125 最4、‑0.0419 最 大0.1707 標 本 数325

0.20540.1362 0.09530.0569 0.00910.0032 0.65970.3972 0.02000.0268 0.67960.4240

325325

0.1616 0.0787 0.0062 0.3731 0.0300 0.4031 325

0.0216 0.0177 0.0003 0.1009 0.0000 0.1009 325

0.0081 0.0156 0.0002 0.1184 0.0000 0.1185 325

4.検 証 結 果

繰 延 税 金 資 産 及 び負 債 を含 む発 生 処 理 額 は 次 期 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 に 対 して どの 程 度 の 予 測 能 力 を持 つ か に つ い て 検 証 す る 。 本 稿 はCheung,et a1,[1997]やLorekandWillinger[1996]及 び そ の他 の 研 究 と は違 い,繰 延 税

金 資 産 ・負 債 を含 め た モ デ ル の 適合 性(thegoodnessof趾(R))を 検 証 す る。

よっ て モ デ ル 自体 の説 明 能 力 に つ い て は基 本 的 に調 整 済 み 決 定 係 数 か ら判 断 す る 。 そ して各 変 数 の 予 測 能 力 に つ い て は,係 数 につ い て のt値 を も って 判 断 す る 。 なお,次 期 の 営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ーへ の 影 響 とい う点 を踏 ま え る と,各 係 数 に つ い て は β2が+,β3は 一,β4は 一,β5は+と 推 測 され る 。

(1)と(2)の決 定 係 数 と調 整 済 み 決 定 係 数 とF値 及 びDW(ダ ー ビ ン ・ワ トソ ン統 計 量)は 表2の 通 りで あ る。

各 モ デ ル に つ い てす べ て 調 整 済 み 決 定 係 数 が40%を 超 えて い る こ とか ら,モ デ ル の 説 明 能 力 は 問題 が ない と判 断 され る 。 次 に モ デ ル(3)と(4)に関 し て税 効 果 会 計 の 制 度 改 革 は営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー に影 響 を与 え た か ど うか を検 証 す る 。 先 の帰 無 仮 説HO‑2の 意 味 は,δ1=δ2=0と い う こ とで あ る。 これ につ い

(11)

税 効 果会 計 と将 来CFの リンケー ジ 173 表2各 モデ ル と各係 数 の結果

Model

adjR2

DW F‑value β1 β2

(1>

t‑value (2)

(3)

(4)

0.448

0.457

0.454

0.456

2.46253.334***

2.44955.232***

2.46245.589***

2.44946.072***

0.018 (6.698)***

0.018 (6.772)***

0.018 (6.556)***

0.018 (6.770)***

0,656 (15.702)***

0.656 (15.867)***

0.665 (15.905)***

O.656 (15.855)***

平均

0.454 2.453 0.02 0.66

β3 β4 β5 β6,β6' δ1 δ2

一〇.172 (‑4.518)***

‑0 .172 (‑4.559)***

‑0 .168 (‑4.424)***

‑0 ,173 (‑4.583)***

一〇.133 (‑2.569)**

‑0 .151

(‑2.904)***

‑O .138 (‑2.674)***

‑0 .147 (‑2.815)***

0.087 (2.161)**

O.083 (2.112)**

0.073 (1.79)*

0.084 (2.148)**

0.152 (1.074)

‑0 .399 (‑2.516)**

0.47 (2.241)**

‑O .802 (‑1.486)

0.133 (0.945)

‑0 。393 (‑2.469)**

一〇.17 一〇

.14

0.08

***1%水 準 で有 意,**5%水 準 で 有 意,*10%水 準 で有 意

てF値 を見 る とす べ て1%水 準 で 有 意 に棄 却 さ れ る。 従 っ てSFAS109号 の 公 表 は,キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 計 算 に も何 らか の影 響 を与 え た と解 釈 で き る。 更 に, DWの 数 値 を見 る 限 り,ど れ も2近 辺 で あ る こ とか ら誤 差 項 εの 自己 相 関 に つ い て は 大 きな 問 題 は な さそ う に思 わ れ る8)。 各 変 数 の 結 果 は 以 下 の通 りで あ る

8)し か し 山 本[1995]に よ る と,モ デ ル に ラ グ付 きの 内 生 変 数 を 含 む 場 合,DW の 数 値 は2に 偏 りや す く な る。 つ ま り,DWだ け で は 誤 差 項 の 自 己 相 関 の 有 無

に つ い て は 判 別 で き な い とい う こ と に な る 。 そ こ で 山本[1995]はDWの 代 替 的 な 指 標 と して,Durbin'salternativesとDurbinのh統 計 量 と い う2つ の 指 標 を 自 己 相 関 の 判 別 指 標 と し て 説 明 す る 。 も っ と もDurbinのh統 計 量 は 計 算 上 若 干 の 問 題 が あ る た め,こ のDurbin'salternativesの ほ うが 問 題 は 少 な い と し て い る 。Durbin'salternativesを 推 定 し た 結 果,モ デ ル(1)につ い て は 一〇.41,(2)は 一

〇.40,(3)も 一〇.41,(4)は 一〇.41で あ っ た 。そ れ ぞ れ 問 題 の な い 数 値 と考 え られ る 。

(12)

ヱ74

第52巻 第1号 (係数 と カ ッコ 内 がt値 で あ る)。

4.1仮 説HO‑1に つ い て

各 係 数 の 符 号 条 件 はお お よそ 予 想 通 りで あ っ た 。 こ の結 果 か ら,発 生 処 理 額 は 次 期 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー 予 測 に と っ て 有 用 で は な い とい う帰 無 仮 説H O‑1は 棄 却 で きる と判 断 で き る。 発 生 処 理 額 は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 に 十 分 に有 用 で あ る とい う点 は 実 証 で きた と考 え られ る9)。

具 体 的 に見 て い く。 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能 力 とい う点 か らい え ば,前 年 度 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー が も っ と も良 い 指 標 と な る。 こ の 結 果 は,Finger [1994]の 結 果 と同様 の もの で あ っ た 。Finger[1994]で は次 期 あ る い は そ の 次 の期 の 営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー を 予 測 す る の に,営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー は よ り

よい 指 標(bettershort‑termpredictor)で あ る と結 論 付 け て い た が,本 稿 の 結 果 も こ れ を裏 付 け た こ と に な る 。 こ れ 以 外 に も発 生 処 理 額 は ほ ぼ す べ て が 1%水 準 あ る い は5%水 準 で 有 意 な 結 果 を 出 した 。前 期 の 売 掛 債 権,棚 卸 資 産, 仕 入 債 務 は次 期 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー に対 して,す べ て 有 意 な予 測 指 標 で あ る こ

とが 裏 付 け られ た 。 ま た この 中 で 目 を 引 くの が 繰 延 税 金 負 債 を表 すDTLの 数 で あ る。 繰 延 税 金 負 債 の係 数 は5%水 準 で 有 意(t‑value=‑2.516)と な っ た 。 この 数 値 を 踏 ま え る と,将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロー の予 測 能 力 を持 つ の は繰 延 税 金 負 債 と推 測 され る。

繰 延 税 金 資 産 と比 べ て繰 延 税 金 負 債 の ほ う が 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 能 力 が 高 い と い う点 に 税 効 果 会 計 の特 徴 が 見 られ る 。 こ の 点 に税 効 果 会 計 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー予 測 能 力 の相 違 が 浮 か び 上 が る。繰 延 税 金 負 債 が計 上 され る の は, 実 際 の法 人 税 等 支 払 額 が 財 務 諸 表 上 で 計 算 さ れ る 支 払 額 よ りも少 な い とい う意 味 で あ る10)。 支 払 が 繰 延 べ られ た と は い え,租 税 負 担 か ら免 れ る こ と は で き

9)多 重 共 線 性 の 指 標 と してVIF(varianceinfiationfactor)が あ る。 蓑 谷[1998]

に よ る と,こ の 数 値 が10を 超 え る と,不 偏 推 定 量 の 信 頼 度 に 深 刻 な 問 題 が 生 じ る。

本 稿 で は 最 大 で1.69(モ デ ル(4)の 売 掛 債 権)に 止 ま っ た の で 共 線 性 に つ い て は 問 題 が な い と解 釈 す る。

10)繰 延 税 金 負 債 が 計 上 さ れ る 理 由 と して 考 え られ る の は,租 税 特 別 措 置 法 の 準 備 金

(13)

税効 果 会計 と将 来CFの リンケー ジ 175 な い か ら税 金 支 払 い を通 じて 繰 延 税 金 負 債 か らは 最 終 的 に キ ャ ッシ ュ ・ア ウ ト・

フ ロ ー は 生 じる 。

こ れ に 対 して繰 延 税 金 資 産 が 計 上 され る の は,実 際 の法 人 税 等 支 払 額 が 財 務 諸 表 上 で 計 算 さ れ る支 払 額 よ り も多 い とい う意 味 で あ る。 この 支 払 税 金 超 過 額 が 将 来 的 に は支 払 税 額 を減 額 させ る の で,繰 延 税 金 資 産 か ら は キ ャ ッ シュ ・イ ン ・フ ロ ー が 期 待 され る。 しか し表3の 結 果 か ら は,繰 延 税 金 資 産 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 能 力 につ い て は 疑 義 が 生 じる。 この 結 果 に つ い て は い くつ か の 解 釈 が 必 要 と さ れ る 。 第 一 に,繰 延 税 金 資 産 は キ ャ ッシ ュ フ ロー と して 実 現 す る 可 能 性 が そ もそ も低 い とい う もの で あ る。 繰 延 税 金 資 産 が キ ャ ッシ ュ フ ロー と し て実 現 す る に は,対 象 とな った 一 時 差 異 が所 得 計 算 に お い て 損 金 算 入 され な けれ ば な ら な い。 こ う した 一 時 差 異 の 中 に は繰 越 欠 損 金 や繰 越 税 額 控 除 な ど も含 ま れ る の だ が,実 際 に将 来 の 支 払 税 額 を減 少 させ るか ど うか は状 況 次 第 で あ る。 経 営 状 態 が 良 け れ ば キ ャ ッ シ ュ ・イ ン ・フ ロー と して 実 現 す る が,そ で な け れ ば そ の ま ま償 却 さ れ る 。 日本 公 認 会 計 士 協 会 が 「個 別 財 務 諸 表 に お け る税 効 果 会 計 に 関す る 実 務 指 針 」の な か で 「繰 延 税 金 資 産 の計 上 に当 た っ て は, 当該 資 産 の 回 収 可 能 性 につ い て 十 分 に検 討 し,慎 重 に決 定 しな け れ ば な らな い

(par.21)」 と述 べ て,繰 延 税 金 資 産 の 回収 可 能 性 に つ い て 言 及 す る の は,キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して 実 現 す る か ど う か につ い て は 不 十 分 な 能力 しか な い と理 解 され て い る か らで あ る。 第 二 に,税 制 の 相 違 が 原 因 とな っ て い る と い う もの で あ る。 日本 で は欠 損 金 の 繰 り越 せ る期 間 が5年 で あ るの に対 し,ア メ リカ で は20年 と な っ て い る。 ア メ リ カ子 会 社 が 負 っ た繰 越 欠 損 金 を基 に す る繰 延 税 金 資 産 は 次 年 度 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して実 現 す る とは 期 待 さ れ て い な い とい う もの で あ る。 これ 以 外 に も税 制 の 違 い か ら繰 延 税 金 資 産 が キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して 実 現 して い ない ケ ー ス は あ り得 る。

あ る い は 特 別 償 却 準 備 金 な ど に よ り税 金 支 払 い が 繰 り延 べ られ て い る こ とが 考 え ら れ る 。 ま た ア メ リ カ で 事 業 展 開 して い る 企 業 で あ れ ば,ア メ リ カ 国 内 に 持 ち 株 会 社 を 設 立 し て 税 務 計 画 を行 っ て い る こ と な どが 考 え ら れ る 。 詳 細 に つ い て は 伊 藤[2000]を 参 照 。

(14)

ヱ76

第52巻 第1号

符 号 の 向 きか ら,繰 延 税 金 資 産 は将 来 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー に対 し プ ラ ス の 効 果 を持 つ こ と は 明 らか で あ る。 しか し有 意 性 の 低 さ よ り次 年 度 の キ ャ ッ シ ュ フ ロー と して 必 ず し も実 現 して い な い と予 想 さ れ る 。 繰 延 税 金 負 債 に将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能 力 が備 わ っ て い る と解 釈 で きる 。

4.2仮 説HO‑2の 結 果 に つ い て

各 係 数 の符 号 条 件 は ほ ぼモ デ ル(1)と(2)の結 果 に 一 致 し た。 繰 延 税 金 資 産 に つ い て は,SFAS109号 公 表 以 前 は5%水 準 で 有 意 で あ っ た が,制 度 改 革 後 は そ の有 意 性 を低 め て し まっ た 。 一 方 繰 延 税 金 負 債 につ い て は,繰 延 税 金 資 産 と対 照 的 な 結 果 が 得 られ た。SFAS109号 公 表 前 は 有 意 で は な か っ た も の の,制 改 正 以 降 す な わ ち1994年 以 降 は 有 意 水 準 が 上 が っ た こ とか ら,制 度 改 革 に よ っ て繰 延 税 金 負 債 の 予 測 能 力 が 向上 した とい え よ う。 これ につ い て 考 え る と次 の よ う な解 釈 が で き る。

SFAS109号 の 公 表 に よ っ て 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 計 算 が 繰 延 法 か ら資 産 負 債 法 に変 更 に な った 。 これ に よ り従 来 認 識 が 難 しか っ た 繰 越 欠 損 金 や 繰 越 税 額 控 除 に基 づ く繰 延 税 金 資 産 も計 上 で き る よ う に な っ た11)。 しか しSFAS109号

に よっ て 認 識 で き る よ う に な っ た繰 延 税 金 資 産 は キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して実 現 す る可 能 性 の 乏 し い 資 産 だ っ た の で あ る。 こ う し た 資 産 は 必 ず し も キ ャ ッ シ

ュ ・イ ン フ ロ ー と して実 現 して い る わ け で は ない 。 表3は こ れ を 如 実 に あ らわ して い る。

対 照 的 に 繰 延 税 金 負 債 はSFAS109の 公 表 前 は 有 意 で は な か っ た が,公 表 後 に有 意性 を 向上 させ て い る。こ れ につ い て は 次 の よ う に解 釈 で き る。SFAS109 公 表 以 前 の繰 延 税 金 負 債 は 将 来 へ の 課 税 繰 延 額 を示 す だ けの 貸 方 項 目 に過 ぎな

11)SFAS109号 以 前 の 会 計 基 準 で あ るAPB意 見 書11号 法 人 税 等 の 会 計 」 の も と で は,繰 越 欠 損 金 を も と に し た 繰 延 税 金 資 産 を 計 上 す る こ と は 実 質 的 に で き な か っ た 。SFAS109号 に よ っ て 連 結 貸 借 対 照 表 に お い て 特 に 表 記 上 の 変 更 は 見 ら れ な か っ た が,脚 注 情 報 は そ れ 以 前 と比 較 し て か な り充 実 した 。 こ う した 点 を ふ ま えAyers[1998]はSFAS109号 に よ っ て,以 前 よ り株 価 適 合 的 な情 報 が 開 示 さ れ る よ う に な っ た と指 摘 す る。

(15)

税 効果 会計 と将 来CFの リ ンケ ー ジ 177 か っ た 。 中 田[1999コ に よれ ば,繰 延 税 金 負 債 が 計 上 され た後,税 率 が 変 更 さ れ て もそ れ に合 わせ て 再 評 価 され る こ とは なか っ た 。 従 っ て繰 延 税 金 負 債 が 認 識 され て も,次 期 以 降 の 税 金 支 払 額 に は そ れ ほ ど関係 が あ っ た と はい え な い 。 しか しSFAS96号,109号 へ の 改 訂 を 通 じて 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 計 算 は繰 延 法 か ら資 産 負 債 法 に変 わ っ た。SFAS109号 公 表 に よ っ て繰 延 税 金 負 債 も再 評 価 さ れ る よ うに な り,結 果 的 に次 期 以 降 の 支 払 い 税 額 との 連 携 が 強 ま っ た 。 こ れ に よ り繰 延 税 金 負 債 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロー へ の 関 係 性 が 高 ま り,予 測 能 力 が 高 ま っ た。結 果 と して1994年 以 降繰 延 税 金 負 債 の 有 意 性 が 高 ま っ た の で あ る。

5.正 確 性 検 証

こ れ まで の分 析 は繰 延 税 金 資 産 と負 債 そ れ ぞ れ の予 測 能 力 を比 較 す る こ と を 主 な 目的 と して い た。 この 節 で は そ も そ も繰 延 税 金 資 産 と負 債 を モ デ ル に含 め た場 合 と含 ま な か っ た 場 合 とで は 予 測 能 力 に差 が 見 られ る か ど うか を 検 証 す る。 さ ら に,前 節 ま で は 各 社 の デ ー タ を 蓄積 させ た 上 で,プ ー ル デ ー タ と して 分 析 して い た。個 々 の 企 業 ご と に分 析 を す る と ど う な るか も本 節 の 課 題 で あ る。

WattsandLeftwich[1977]とLorekandWillinger[1996]は 適 合 性 が 高 い か ら とい っ て 必 ず し も予 測 能 力 が 高 い と は い え ない と指 摘 す る。 そ こで 個 々 の企 業 ご とに 予 測 の精 度 を測 定 す る。 これ に よ り繰 延 税 金 資 産 ・負 債 が 入 っ た モ デ ル の 方 が 入 っ て い な い モ デ ル よ り も予 測 の精 度 が 高 い とい う こ と を示 す 。

具 体 的 に はCheung,etal.[1997コ と 同 様,MAPE(MeanAbsolutePer‑

centageError:平 均 絶 対 誤 差 率)と 平 均 ラ ン ク(averagerank)を 用 い て繰 延 税 金 資 産 ・負 債 が 入 っ た モ デ ル と入 らな い モ デ ル を比 較 す る。

MAPEと は実 測 値(X、)と 予 測 値(F、)と の差 異(誤 差)の 絶 対 値 を計 算 し, こ れ を 平 均 す る こ とで 求 ま る。 計 算 式 は次 の 通 りで あ る 。

ΣIPE,l

t・1

砿4PE=

(16)

ヱ78

第52巻 第1号 X,‑F,PE

,=*100X ,

MAPEは 数 値 が 小 さい ほ ど予 測 能 力 の 精 度 が 高 い と い う こ と を意 味 す る。

い ま一 つ の指 標 で あ る平 均 ラ ンク と は,次 の よ うに して 計 算 す る 。 各 企 業 の 実 測 値 と予 測 値 との 差 異(誤 差)か ら絶 対 誤 差 率(AbsolutePercentageError)

を計 算 し,同 じ く繰 延 税 金 資 産 ・負 債 が 入 っ た モ デ ル と入 らな い モ デ ル と を比 較 す る 。 そ の 上 で 絶 対 誤 差 率 の低 い モ デ ル に1点,相 対 的 に高 い モ デ ル に2点

と点 数 をつ け る 。 点 数 の低 い モ デ ル の ほ うが 予 測 精 度 は高 い と判 断 で きる 。 デ ー タ につ い て は結 果 の 信 頼 性 を上 げ る た め に1978年 ま で さ か の ぼ っ て収 集 し,1978年 か ら1998年 まで の20年 の デ ー タ を 用 い て検 証 す る。 も っ と も1987年 にSFAS95号 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 計 算 書 」公 表 され る以 前 は,キ ャ ッ シ ュ フ ロー 計 算 書 で は な く連 結 財 政 状 態 変 動 表 が 開示 され て い た 。 そ の 中 で 開 示 さ れ て い た の は現 金 及 び現 金 同等 物 と して の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー で は な く,運 転 資 本 で あ っ た。 桜 井[1991]に よ る と,連 結 財 政 状 態 変 動 表 の 中 で 「営 業 活 動 か ら得 ら れ た 資 金 」 と して 公 表 され て い た もの に,現 金 以 外 の 流 動 資 産 及 び 負 債 の 変 動 を加 算 減 算 して 運 転 資 本 が 計 算 さ れ る。 本 稿 で は1978年 か ら1987年 ま で の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー は この 営 業 活 動 か ら得 られ た 資 金 を営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の代 理 変 数 と し て 用 い る。 モ デ ル に 関 し て も,Cheung,etal.[1997]モ デ ル を ベ ー ス に利 用 し,一 部 の 変 数 の み を変 更 し て作 成 した 。 モ デ ル は以 下 の とお りで あ

る。

CF,=β1+β ・CF,一,+β ・OII)P,‑1+β ・1〜EC,一,+β ・ 刀V「Vl,‑1+β ・PAY,‑1++ε'・ ・…(5)

CF,=β1+β ・CF,一 ・+β ・01D」P,‑1+β ・ ・RE()t‑1+β ・1フV「V,‑i+β ・PAY,‑1

+β ・DTA,一 ・+Et (6)

CF,・=β1+β ・CF,‑1+β ・OII)LP,‑1+β ・1〜EC,一,+β ・INV,一,+β ・PAY,‑1

+β ・DTL'一,+ε' (7)

各 変 数 は モ デ ル(1)(2)の そ れ と大 き な 違 い は な い 。Cheung,etal.[1997コ デ ル と の 違 い は,変 数 で あ るOIDPに つ い て 税 引 前 当 期 純 利 益 と 減 価 償 却 費

(17)

税 効果 会計 と将 来CFの リ ンケ ー ジ 179 の合 計 額 を使 っ て い る 点 で あ る。 また 本 稿 は 繰 延 税 金 資 産 を説 明 変 数 に含 め て い る 。

検 証 方 法 と して は,外 挿 法(extrapolation)を 用 い る12)。 当該 モ デ ル に従 っ て,1978年 か ら1996年 まで の デ ー タ を使 っ て1997年 の営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 予 測 す る。 同様 に1978年 か ら1997年 まで の デ ー タ を使 っ て,1998年 の 営 業 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー を 予 測 す る 。 そ して1978年 か ら1998年 ま で の デ ー タを使 っ て1999 年 の 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を予 測 す る。 こ う して 算 出 した 予 測 値 と実 測 値 か ら 絶 対 誤 差 率 を計 算 しこ れ か らMAPEと 平 均 ラ ン ク を算 出 す る。

以 上 よ り,途 中SEC基 準 の 採 用 を止 め た4社 及 び モ デ ル の 適 合 性 が 異 常 に 低 い3社 を 除 くサ ン プ ル 企 業22社 に つ い てMAPEと 平 均 ラ ンク を計 算 し て み

る。 結 果 は以 下 の 通 りで あ る。

表4MAPEと 平 均 ラ ン ク を 使 っ た1期 先 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー一の 予 測 結 果 (1997‑1999) 1997年(n=21)1998年(n・22)1999年(n=22)1997‑1999年(n=65)

表A

モ デ ル㈲ 対(6)

平 均 ラ ンクMAPE平 均 ラ ン クMAPE平 均 ラ ン クMAPE平 均 ラ ンクMAPE

モ デ ル(5)1.6823.5 モ デ ル(6)1.3222.2

1.68 1.32

21.7 20.1

1.64・24.4

1.3615.4

1.6723.2 1.3319.3 モ デ ル(5)対(7)

表B

平 均 ラ ンクMAPE平 均 ラ ン クMAPE平 均 ラ ン クMAPE平 均 ラ ンクMAPE

モ デ ル(5)1.6823.5 モ デ ル(7)1.2818.1

1.6821.7 1.3221.0

1.64 1.32

24.4 13.3

1.67 1.31

23.2 17.5

1997年 か ら1999年 の 各 年 度 に お い て 平 均 ラ ンク 及 びMAPEと も に繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む モ デ ル(6)と(7)のほ うが,モ デ ル(5)よ りも予 測 精 度 は 高 い とい

12)MakridakisandWheelwright[1989](訳 書[1995])に よ れ ば,正 確 性 の 検 証 に つ い て は,予 測 し よ う とす る デ ー タ に合 致 し た期 間 を 設 定 す べ き とあ る 。 本 稿 で は 計 測 期 間 を 通 じた 予 測 精 度 と直 近 の 予 測 精 度 を知 りた い の で 過 去17〜19年 の デ ー タ を 用 い て 過 去3年 間 の 予 測 精 度 に つ い て 計 測 した 。

(18)

180 第52巻 第1号

う結 果 に な っ た。 この 結 果 はCheung,etal.[1997]の 検 証 結 果 と数 値 は 違 え ど も一 致 す る13)。1997‑1999年 の 平 均 数 値 で は平 均 ラ ン ク,MAPEと も に繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む モ デ ル(6)と(7)のほ う が 繰 延 税 金 を含 ま な い モ デ ル(5)よ

り も低 い 数 値 を示 す 。 こ の 結 果 か ら繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を変 数 に含 め て キ ャ ッ シ ュ フ ロー を予 測 す る方 が よ り正 確 に営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を算 出 で き る。

適 合 性 検 定 に よ る結 果 は繰 延 税 金 負 債 の 将 来 キ ャ ッシ ュ フ ロー の予 測 能 力 に つ い て は 高 い と判 断 さ れ る。MAPEと 平 均 ラ ン ク を踏 ま え る と,繰 延 税 金 負 債 の み な らず 繰 延 税 金 資 産 もモ デ ル に含 め た ほ うが よ り高 い予 測 精 度 を 持 っ て キ ャ ッシ ュ フ ロ ー を 予 測 で きる 。 繰 延 税 金 資 産 も繰 延 税 金 負 債 と 同様 キ ャ ッシ ュ フ ロ ー予 測 に有 用 で あ る と結 論 付 け る こ とが 出 来 る。

6.結 論 と今 後 の 展望

従 来 連 結 財 務 諸 表 に の み 任 意 で の 適 用 が な さ れ て きた 税 効 果 会 計 が,我 が 国 で も平 成11年4月1日 以 降 開始 す る事 業 年 度 か ら個 別 財 務 諸 表 に お い て も全 面 的 に 適 用 さ れ る こ とに な っ た。 税 効 果 会 計 が 必 要 と され るの は,財 務 会 計 に 基 づ く資 産 負 債 の 評 価 額 と法 人 税 法 に 基 づ く評 価 額 で は 差 異 が 生 じ るケ ー ス が 極 め て 多 い か らで あ る 。 「税 効 果 会 計 に係 る会 計 基 準 」 は この 差 異 を一 時 差 異 と 永 久 差 異 に分 類 す る。

こ の う ち一 時 差 異 に,回 収 ま た は 支 払 が 行 わ れ る と見 込 まれ る期 の 実 効 税 率 を乗 じて 得 られ た 金 額 が,将 来 減 算 一 時 差 異 につ い て は 繰 延 税 金 資 産 と して, 将 来 加 算 一 時 差 異 に つ い て は繰 延 税 金 負 債 と して 貸 借 対 照 表 にお い て 認 識 す る。 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を計 上 す る こ と に よっ て,法 人税 等 の 費 用 を複 数 期 間 に渡 り期 間 配 分 で き る の で あ る。 しか し将 来 減 算 一 時 差 異 が 課 税 所 得 を減 算 す る か ど うか あ る い は将 来 一 時 加 算 差 異 が 課 税 所 得 に加 算 され る か とい う の は極

13)数 値 的 に はCheung,etal.[1997]と 比 べ か な り大 き い 。 こ の 原 因 と し て は 彼 ら の モ デ ル と の 相 違,変 数 の 相 違 が 考 え ら れ る。 た だ し決 定 係 数 を ふ ま え る 限 り当 該 数 値 は 不 自然 な もの で な い の で,モ デ ル そ の も の を改 良 す る必 要 が あ る 。

(19)

税効 果会 計 と将 来CFの リンケー ジ

ヱ8ヱ

め て 主 観 的 な 問 題 で あ り,経 営 者 に よ る相 当程 度 の 見 積 も りや 判 断 を 必 要 とす る。 一 時 差 異 を繰 延 税 金 資 産 ・負 債 と し て認 識 す る に は,綿 密 な利 益 予 測 あ る い は税 率 予 測,回 収 可 能 性 の 見 積,タ ッ クス プ ラ ンニ ング の 存 在 な ど経 営 者 の 判 断 や 裁 量 に依 存 す る要 素 が 非 常 に多 い 。 税 効 果 会 計 は こ う した 予 測 な どの 将 来 要 素 に 大 き く依 存 した会 計 手 法 で あ る た め に,発 生 主 義 会 計 の典 型 と さ れ る 。 本 稿 は こ う した経 営 者 予 測 に 従 っ て計 上 さ れ た繰 延 税 金 資 産 ・負 債 な どの 発 生 主 義 会 計 に 不 可 欠 な 発 生 処 理 額 は実 は キ ャ ッシ ュ フ ロ ー と無 関 係 で は な く,き わ め て深 い 関 係 を持 っ て い る とい う視 点 か ら出発 して い る 。 具 体 的 に は,繰 延 税 金 資 産 ・負 債 は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 に 有 用 とい う仮 説 の検 証 を行 う

こ と で あ っ た 。

本 稿 は 時 系 列 的 に売 掛 債 権 や 棚 卸 資 産,仕 入 債 務,及 び繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を変 数 とす るモ デ ル を持 っ て 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロー の 予 測 を行 っ た。 税 効 果 会 計 基 準 が 全 面 的 に 導 入 さ れ た と は い え,時 系 列 デ ー タ と して 有 用 な サ ンプ ル は 過 去SEC基 準 を採 用 して きた 企 業29社(5節 で は 更 に22社 に絞 った)と 少 な い 。 また 本 稿 は 時 系 列 分析 で あ る た め,横 断 面 デ ー タの 検 証 と比 べ て検 証 方 法 に 問 題 が な い と はい い きれ な い 。

要 約 す る と次 の 点 が 本 稿 で 得 られ た 知 見 で あ る 。

(1)1期 先 の営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロー と見 た て て 検 証 を行 っ た 。 売 掛 債 権 や 棚 卸 資 産,仕 入 債 務 とい っ た発 生 処 理 額 と繰 延 税 金 資 産 を含 む モ デ ル,繰 延 税 金 負 債 を含 む モ デ ル の2モ デ ル を用 い て 検 証 を 行 っ た 。 結 果 と して,繰 延 税 金 資 産 よ り も繰 延 税 金 負 債 の ほ う が 高 い 予 測 能 力 を持 つ こ とが 明 らか に な っ た 。

(2)続 い てSFAS109号 公 表 に よ る制 度 改 革 を モ デ ル に織 り込 ん で 検 証 した 。 当該 基 準 書 は繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 計 算 法 を資 産 負 債 法 に変 更 し,税 効 果 会 計 に つ い て の 脚 注 に お け る情 報 内 容 を充 実 させ,会 計 情 報 の意 思 決 定 有 用 性 を 高 め る こ と を 目的 と し て い た。SFAS109号 公 表 に よ り,繰 延 税 金 資 産 の 幅 は広 が っ た が,そ れ とは 対 照 的 に キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の予 測 能 力 は 下 が っ て し まっ た 。 こ の 点 をふ ま え る と,繰 越 欠 損 金 や 繰 越 税 額 控 除 な ど

(20)

ヱ82 第52巻 第1号

を基 に した繰 延 税 金 資 産 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して の 実 現 可 能 性 は低 い 。 一 方,繰 延 税 金 負 債 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー予 測 能 力 は基 準 書 公 表 前 は 高 くは な か っ た が,公 表 後 向 上 した。 税 率 改 定 に よ る資 産 負 債 の 再 評 価 は繰 延 税 金 負 債 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能力 を 向上 させ た の で あ る。

(3)繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む予 測 モ デ ル と含 ま な い予 測 モ デ ル とで は各 企 業 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能 力 に 違 い が あ る か を 検 証 し た 。 具 体 的 に は MAPEと 平 均 ラ ン ク を使 っ て,実 測 値 と予 測 モ デ ル に よ っ て算 出 され た 予 測 値 の 近 似 性 を測 定 した 。 こ れ に よ る と,MAPEに つ い て も平 均 ラ ン ク に つ い て も繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 ま な い モ デ ル と繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を そ れ ぞ れ 含 む モ デ ル とで は,含 め た モ デ ル の ほ うが 近 似 性 は高 か っ た 。 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 む モ デ ル の ほ う が 高 い キ ャ ッシ ュ フ ロ ー予 測 能 力 を有 す る とい う こ とが 明 らか とな っ た 。

繰 延 税 金 負 債 は5%水 準 で 有 意 で あ っ た 。 一 方MAPEと 平 均 ラ ン ク を 用 い て 予 測 精 度 に つ い て 検 証 す る と,繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を 含 め て キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を予 測 す る方 が 実 測 値 に 近 い 数 値 を 計 算 す る こ とが 出 来 る 。 繰 延 税 金 資 産 に つ い て も完 全 で は な い も の の,あ る程 度 は営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と して 実 現 して い る とい う こ とが 明 らか とな っ た。

以 上 か ら次 の 指 摘 が で き る。 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 予 測 能 力 を持 つ と考 え られ る。 また 制 度 改 革 に よ り繰 延 税 金 資 産 ・負 債 の 計 算 法 が繰 延 法 か ら資 産 負 債 法 に変 わ る こ とで 資 産 性 負 債 性 に変 化 が 生 じた とい う こ と も実 証 され た 。 そ して 繰 延 税 金 資 産 ・負 債 を含 め て 営 業 キ ャ ッ シ ュ フ ロー を予 測 す る 方 が 正 確 性 の 高 い数 値 を計 算 で き る の で あ る。 もっ と も繰 延 税 金 資 産 の 回 収 可 能性 につ い て は,か な り慎 重 に判 断 す る必 要 が あ る よ うに 思 わ れ る 。

わ が 国 で も平 成10年 以 降 連 結 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 計 算 書 の 作 成 が 義 務 付 け ら れ,税 効 果 会 計 も個 別 財 務 諸 表 に お い て も義 務 付 け され る こ とに な っ た。 本 稿 の 結 果 を踏 ま え て 推 測 す れ ば,貸 借 対 照 表 項 目の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 予 測 能 力 は 以 前 よ りも 向 上 す るで あ ろ う。 もち ろ ん,ま だ ま だ会 計 実 務 に混 乱 が 見 られ る よ うで あ り,今 後 ど の よ う な か た ち で 根 付 い て い くか,あ る い は税 効 果 会 計 と

参照

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