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<環境 リスクと責任 ルールの再構築> - ドイ ツ環 境 責任 法 をめ ぐって -

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長 崎 大 学 総 合 環 境 研 究 1 1 (1998)

<環境 リスクと責任 ルールの再構築>

‑ ドイ ツ環 境 責任 法 をめ ぐって ‑

Envi r onme nt alRi s kandLi abi l i t yRul e s

小 野 隆 弘 ONO,Takahiro

Ⅰ、環境政策 と責任法的 アプローチ

Ⅱ、市場経済 と環境責任ルール (1)ドイツ環境責任法の特徴 と構成 (2)環境責任 ルールの経済分析

Ⅲ、環境 リスクの不確実性 と危険責任 ルール (1)環境問題の複雑性 と不確実性 の分類学 (2)危険責任 ルールの実効性確保

Ⅳ、政策手法 としての責任 ルールの再構築

Ⅰ、環境政策 と責任法的アプ ローチ

199012月 に ドイツで は 「環境責任 に関す る 法律(GesetztiberdieUmwelthaftung)

(いわゆ る ドイ ツ環境責 任法Umwelthaftungs gesetz:UHG)が公布 され、199111日か ら 施行 されている1)。環境責任法 の展開 は国際的

にみて さまざまな形態を とって きたが、近年 に み られ る基本的な共通点 は、環境被害を引 き起 こした活動 や施設 に対 して無過失責任である危 険責任 ルールを取 り入れて きた点 にあるといわ れ る(Fnhr:S.101). 厳格 な無過 失責任 の採 用 で有名 なのは、 アメ リカの198012月に制定 さ れたいわゆるスーパーファン ド法であ り、EU には19916月 に修正案 が提 出 され た廃棄物 に 関す る民事責任指令案がある2)0

わが国における環境法 は、 まず民事不法行為

法 における損害賠償法、差止訴訟 か ら始 まった といわれ るが、無過失責任の規定 は、特別法で ある鉱業法、原子力損害賠償法 などを別 にすれ ば、公害紛争時代 に制定 された大気汚染防止法 および水質汚濁防止法 における健康被害 に限定 した ものがあるにす ぎない。 しか し、 日本 の経 験 は ドイツにおける責任法の議論 において成功 例 として しば しば持 ち出 され る。 日本の不法行 為法 は法文上 の過失責任主義 に もかかわ らず、

司法運用上 は、因果関係の立証問題 における事 実的因果関係を受 け入れ、公害健康被害補償法 (1973年) の制定 など、緊急避難 的 に は事実上 無過失責任 に近 い被害救済 システムを確立 した か らである3)。 しか し、近年、 環境 問題 の中心 は地域的産業公害か ら都市生活型公害 と地球環 境問題 との複合的影響へ転換 したといわれて く

るに したが って、頻発す る廃棄物処分場問題 な ど環境損害 の事後的処理 の課題 はますます緊急 にな って きているの も関わ らず、わが国におけ る責任法的 アプローチの成果 は忘れ られて きた ように思われ る。

ドイツでの環境責任法 の議論が興味を引 くの は、環境問題 の構造変化 をへた現在 において、

責任法的 アプローチは環境政策手法の重要 な柱 のひ とつ と して位 置づ け られて きた ことで あ る4)。 その底流 には、責任 ルールに関 す る視角 の転換がみ られ る。

‑ ll‑

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伝統的 (法的)見方 によれば、UHGは、環 境損害が発生 したときに誰がその補償 の責任を 負 うべ きかを決定す ることが 目的であ り、発生 した損害を誰が負担す るか とい う分配問題であ り、事後的な処理問題 として考察 されて きた。

それに対 して、最近20年間 において特 に 「法 と 経済学」が開拓 した経済的な見方 によれば、事 前的な把握が基本 になる。損害 を後か らどのよ うに分担す るかが重要で はな く、汚染源での排 出をで きるだけ抑制 して、望 ま しくない結果 を まねかないようにす る損害の抑止が根本課題 に なる(Kirchgassner:S.284).

したが って、本稿では、責任 ルールをめ ぐる 日独の対応 の現状 をふ まえなが ら、 ドイツにお ける環境責任法 の議論 を考察す るなかで、環境 政策 の手法 として責任法が どのよ うな特徴 と射 程を もっているのかを検討 してお きたい。

Ⅱ、市場経済 と環境責任ルール

(1)ドイツ環境責任法の特徴 と基本構成

ドイツ環境責任法の趣 旨は、環境影響 を介 し て発生す る損害の賠償責任 のルールを規定す る ところにあるが、何 よ りの特徴 は、責任 を負 う 要件 と して過失が必要 とされない危険責任 の考 え方 を導入 したところにある。UHGは、従来 水管理法第22条 に認 め られていた無過失責任 を 大気や水 など環境媒体 を問わずその適用範囲を 広 げ、環境責任 に関す るよ り包括的な規定 を与 えている。

この責任 ルールは規制対象 として は汚染源で あ る 「施設」 に限定 し、個 々の行為 に関連づ け ないだけでな く、有害物質 などの指定を通 して 素材 や物質 に関連 づ け る こと も して いない。

施設」 は、環境‑の影響 を媒介 に して損害 を 与え る適性 を もった96種類の施設が列挙 され、

廃棄物関連施設だけではな く、マテ リアルフロー 全体 を通 して環境負荷が大 きい施設 を網羅す る ものになっている。 また、UHGの付録第一 に 挙 げ られた施設 リス トは完結的な もので、 その

追加 または削除 は、政令 に依 らず必ず立法府が 行 うこととされ、対象範囲の安易な拡張 を防い でいる。行為関連で はな く、施設関連での環境 リスクを意識的に対象 に した理 由 は、 「行為 関 連的な危険責任の導入 によって 日常生活 の多 く

の行為 に環境責任法 の網 をかけることを避 ける ためといわれ るが、 しか し、 この施設への限 定 は対象範囲が狭 い ことにはな らない。施設 の 範囲 として 「未だ完成 していない施設」や 「 在操業 していない施設」 を も含 んでお り、既知 の損害ばか りでな く、 ス トック型汚染や未知 の 汚染 を も規制対象 に しているか らである(以上、

春 日 ・松村 ・福田:22頁)。 したが って、担害賠 償責任 を負 う主体 は施設 の保有者 になるが、 そ の責任が成立す るには環境損害その もので はな く、環境影響 を介 しての人格的権利侵害を保護 法益 として必要 と し、純粋財産損害 は補償 され な い。

責任ルールは、本来、私人間の自由な経済関 係 を規制対象 に し、事故 や環境汚染 によって損 害が発生 した場合 にその損害をどのよ うに補填 し、被害を救済す るかを規定するものであるが、

従来、民事 における不法行為法、主 に損害賠償 責任 において取 り扱 われて きた。 この私人間の 関係 を市場 システムになぞ らえれば、ある行動 がまね く他者への損害 は外部性 と把握す ること がで き、賠償責任 ルールはその外部性 を内部化 す るためのひ とつの制度的方策 とみ られ る。

私人間における損害 の責任分担 ルール として は機能的にみればふたっある。 ひとつ は、 ドイ ツ民法823条やわが国の民法709条 にみ られ るよ うに、個人 の活動 の自由を前提 に した上でその 濫用 を規制す る目的で、責任要件 として因果関 係だけでな く、過失 を必要 とす る過失責任 ルー (Verschuldenshaftung)で あ る。 も うひ と つ は、要件 として違法性や過失 を問わない無過 失責任 ル ール(Gefahrdungshaftung)で あ る。

過失責任 ルールでは、過失 とは適切 な注意を 怠 ることにな るので、逆 に言 えば、適切 な注意

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<環 境 リス ク と責 任 ル ールの再構 築 >

を払 っていれば過失 を免れ、損害 を引 き受 ける のは結局被害者 とい うことにな る。 それに対 し て、危険責任 ルールは、法規制 を遵守 し、適切 な注意を払 っていたと して も、損害か事故 をお こせば、加害者が損害のすべてを負担す ること になる。 したが って、UHGで は、正常操業 の 場合 に も原則上適用 され る。 ただ し、責任要件 が軽 くな った分、 どれだけ負担すべ きかを不安 にす るので、責任限度額が規定 され、人的損害 と物的損害 とそれぞれに16千万 マルクと設定 した。 また、新規 の技術革新 などに もとづ く開 発損害 について免責 は認 めていないが 「外来性」

異常性「防止不可能性」 に もとづ く損害 は不 可抗力 として免責対象 に している (4条)0

したが って、過失を問わない責任法で は、責 任根拠 として施設 の環境影響 によ り環境被害が 発生 した因果関係 を立証す ることが最大 の論点 になる。UHGは、そのために、因果関係 の推 定規定 (61項) をおいて、被害者 にとって 困難 な立証 を緩和す る方策 を とっている。 さら にまた、因果関係の推定 とい う証明軽減が図 ら れたとして も、通常、被害者が施設 の操業 に関 す る必要 な情報 を入手す ること自体が困難であ るために、加害者 との情報 の非対称性が立証活 動のネ ックになることが多 い。 そ こで、 この情 報収集 の可能性 を改善す る目的のために、被害 者 の施設 の所有者 (8条) な らびに官庁 (9 条) に対す る情報請求権 を認 めている。

ただ、正常操業 の場合 には推定規定 は排除 さ れている (第6条2項) し、 また、複数 の汚染源 があ り、複数の原因が絡み合 い、 しか も特定施 設 の環境 影響 へ の適性 が認 め られ な いよ うな

集積損害」 や 「遠隔損害」 の場合 は この推定 規定 は適用で きないことになる (7条)。 した が って、 とりわけ環境問題 に固有 な複雑 な現象 の場合 に、責任 ルールが果 た して どのように対 応で きるのか とい う点が問われて くる。

環境責任法 には一般的に言 えばふたっの役割 があるといわれ る5)。第一 には、 発生 した環境

損害を補償す ることであ り、第二 に、で きるだ け被害を前 もって抑止 しよ うとす る方向に各主 体 の関心 を向けることによって、環境損害を予 防す る役割 で あ る(EK:S.661)。 す まわ ち、 責 任法 における責任 ルールの設定 は、加害者 と被 害者 との間 における損害の割 り振 り、調整を規 制す ることがね らいであるだけでな く、潜在的 な加害者 に対 して注意 と損害の回避 を促 して予 防効果を図 ることである。事後的な分配機能 と 事前的なイ ンセ ンテ ィブ機能である。 また、汚 染者負担原則 と予防原則 とに同時 に対応す るも のである(Dreher.u.a.:S.133;EK:S.661)。 した が って、その意味で外部効果 の内部化 の手段 と して、 もっと正確 に言えば、 「結果責任 を内部 化 す る こと(LbbeWolff:S.135;EK:S.661)

として位置づ け られ得 る。

(2)環境責任ルールの経済分析

従来、 とりわけ法学 において古典的な損害補 償機能 に もっぱ ら目が向け られて きた責任 ルー ルが、近年 にな って、 その予防的機能 に注 目を 転 じて きたのは、「法 と経済学」 を は じめ とす る経済学 の法や制度への分析が進展 して きた こ とによるので、ふたっの責任ルールの比較的特 徴を明 らかに し、危険責任 ルールが環境政策手 法 として導入 され る理由を検討 してお きたい。

経済学で は、 ある人 の行動が市場取 引を介 さ ないで他者 に及ぼす影響 を (技術的)外部性 と 捉え るが、 この外部性 ゆえに個 々の主体 の分権 的選択行動 は社会的 に最適 な結果 を導 かない市 場 の失敗が生 じる。 この失敗 の改善 のために、

市場では把握 されない社会的費用分 を個 々の主 体 の費用負担 に還元す る外部性 の内部化策が必 要であるとい う考え方が、公共政策 の基本をな している。 その際、内部化 の方向 としてはふた つの道が提示 されて きた。 ピグーが開拓 した政 府 による介入策であ り、他方で は、 コースの原 理 として、市場での主体相互 の交渉 による内部 化策であ り、責任ルールの分析 は、後者の主要

‑13‑

(4)

な研究 テーマとして取 り上 げ られて きた。

環境損害 の発生 は、典型的な外部性 の事例 に 当たるが、各主体 の選択行動、特 に損害 の発生 を抑止 す るために適切 な注意が払われたか どう かに注 目 して、ふたっの責任 ルールの機能 を分 析 してみよ う。 ここでは、責任 ルールの特徴 を 浮かび出させ ることが 目的なので、で きるだけ 簡単 な経済的基本 モデルを使 ってお きたい6)0

基本 モデルで前提 され る仮定 は次 のよ うな も のである。

1.潜在的加害者Aと潜在的被害者Bの二者 か らなる、 しか も一方的にAがBに損害 を 与 え る関係が仮定 され る。

2.Aだけが損害 を抑止す る注意 を払 うとす

3.潜在的加害者 は責任 ルールの内容、 お よ び注意 のための コス トと期待損害額 との関 連 を知 っている。 また、政策 当局 は社会的 最小費用点を知 ってい る。 (完全情報 の仮 定)

4.市場交渉費用、取引費用がない 5.期待損害額 と期待損害賠償額 は等 しい

以上 の仮定 の もとで、各主体 は注意 のための コス トを払 って、で きるだけ期待損害額 を削減 しよ うとす るとい う関係 のなかで、注意行動 の 最適 な水準 を求 めて行動す る。 したが って、加 害者 の不法行為 によ って社会 的 に生 じる費 用 KGは、 このモデルでは、 加害者 が払 った注意 のための コス トと期待損害額 とを合計 した もの となる。

KG‑KA()+ES()

ここで、KG:社会的限界損害費用曲線 環境損害の社会的費用

KA():Aの限界注意(防止)費用曲線

ES(Ⅹ):限界損害費用曲線

加害者Aが注意 を払 えば払 うほど注意 費 用

KA()は右上 が りに増加 す る。 その反対 に、

期待損害費用ES(Ⅹ)は右下 が りに小 さ くなる。

KGは両者 を合計 した ものである。

まず、図① によって危険責任ルールの場合 を みてみ ると、加害者 が過失 ‑注意 とはかかわ り な く一切 の責任 を もっので、 社会 的費用KG 最小 になる注意水準 は、図の Ⅹ'の点 になる。

次 に、図② によって過失責任ルールの場合を み ると、政策当局 が社会的に最適 な損害水準 を

X●

園(争 最適規害水準 :危険責任ルールの場合

図② 最適親書水準 :過失責任ルールの場合

設定で きるとして、加害者Aは法制的注意基準 を下 まわ る間 は、すなわ ち0<Ⅹ<Ⅹ*にお いて は、加害者が負担す る費用 は社会的費用 に等 し い。 しか し、法制的注意基準をク リアーすれば、

すなわち

Ⅹ >

Ⅹ書になれば、加害者Aが支払 う費

用 は注意 のための コス トKA()だ けにな り、

社会的費用 との帝離が生 じる。

以上 の ごく簡単 な基本 モデルでの検討を経て、

ふたっの責任 ルールの特徴が理解 されよう。

過失責任であれ、危険責任であれ、最適注意 水準 は一とな り、同一 の資源配分結果 を示 し ている。 しか しなが ら、過失責任 ルールの場合 には、加害者が法制的注意基準を遵守すれば、

結果 として被害者が損害を引 き受 けることにな

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<環境 リスクと責任ルールの再構築>

るが、危険責任 ルールの場合 には、 いっ も加害 者が損害費用 を負担す ることになる。 この分配 上 の違 いは一見 して明 らかであ り、 この ことが 次 のよ うな資源配分上 の違 いになると指摘 され る。すなわち、過失責任 ルールの場合 には、加 害者 は注意 さえ払 っておけば、 その私的 コス ト 負担 はいっ も社会的 コス トと帝離す ることにな

り、 その分加害者 の過大 な生産拡大 などをまね くか らである。 したが って、主体的均衡点 と社 会的均衡点 が等 しくなる危険責任 ルールが、 よ り望 ま しい政策手法 と判断 され ることになる。

Ⅲ、環境 リスクの不確実性 と危険責任ルール (1)環境問題の複雑性 と不確実性の分類学

以上 の基本 モデルによる考察 は、 ごく限定的 な仮定 の うえに責任 ルールの特徴 を鮮やかに描 き出す ことにあ ったが、現実 ははるかに複雑で あ り、単一 の加害者 と単一 の被害者だけか らな る環境損害 は稀であ り、両者 とも複数で、損害 が発生す る原因が多様で、損害の種類 も複雑 に な る可能性が高 い。加害者 と被害者の関係 も一 方向的な影響 だけではな く、双方向的損害関係 を含 むのが多 く、単純 に特定 の加害者 に責任を 課せばよいとい うわけにはいかな くなる。

したが って、経済学 の基本 モデルが前提 した 完全情報 と取引費用がゼ ロという仮定を離れて、

交渉 にコス トがかか り情報 も不完全 ななかで、

将来何 が起 こるか予見で きない不確実 な世界 を 想定 し、UHGが直面す る多様 な現実 に接近す る手 だてをふ まえて、責任 ルールのあ り方 を検 討す る必要 がある。

Watzoldは、環境政策や環境経済学 の議論 に おいて長 い間、排 出者 一排出一拡散 ‑イ ミッシ オ ン‑被害 一被害者 とい う環境問題の因果連鎖 が従来 は完全 に把握可能 な もの として理解 され て きたが、ようや く80年代末になってエコロジー の不確実性 と取 り組む ことについての体系的な 研究 がな され るよ うにな った、 と述 べて い る

(watzold/simonis:S.3). しか も、 この エ コ

ロジーの不確実性 と取 り組 む代表的な政策手法 として責任法を とりあげ、 さらに次のふたっを 挙 げている。一般的な リスク ・プ レミアムな ら びにイノベーシ ョンに もとづ く環境政策 の合わ せて三つの手法である。

そ こでまず、Watzoldの 「エコロジーの不確 実性 についての分類学」 をみてお くことに した い。かれは以下 の三っの視点 を複合的に利用 し て、類型化を試 みている。

(1)各排出の環境属性 に もとづいた類型化 1.損害の不確実性

排 出 と損害 との直接的関係 を示す損害関数 が 自然科学 の知識で は不十分 なために生 じる 不確実性であ り、事例 としては、薬 の主 な効 能 は知 られていて も、その他の副作用が化学 ・ 生物学 の限界か ら未知 なために発生す る医薬 品の問題が挙 げ られ る。

2.シナジー (相乗作用)の不確実性(62) 排 出 ・損害関数 は知 られているが、他 の排 出 と結合す ることによって発生す る不確実性 であ り、事例 として、有害物質が人間に及ぼ す全体影響、毒性学 における全体状況が示 さ れ る。「ひとはひとつ の物質 に曝 されて い る だけではない 。 有害物質 の海 のなかで生活 し ている」7)0

3.蓄積 (累積)の不確実性

有害物質が知 られない うちに蓄積 して生 じ る不確実性で、事例 として 「森 の死」が挙 げ られ る。被害が は じめて観察 され る以前 に重 金属等の汚染物質が土壌 に浸透 ・蓄積 して起

こる現象。

4.空間的拡散 の不確実性

有害物質が空間的に広が って、特定の環境 媒体での影響 を把握 で きな くなる場合である。

同 じく 「森の死」が事例になるが、煙突によっ て有害物質が拡散 し、無害化す るとい う誤解 をまねいた点が指摘 され る。

5.時間的拡散 の不確実性

物質 の性質が知 られるようになるのに長期

‑ 15‑

(6)

1 エコロジーの不確実性に関する分類学(W畠tzold/simonis:S.5)

分類基準 エコロジーの不確実性

エコロジー 損害の 相乗効果の 累積の 空間的拡散 時間的拡散 の属性 不確実性 不確実性 不確実性 の不確実性 の不確実性

不確実性の程度 エコロジーの リスク エコロジーの不確定性 排出者の 多数排出者の排出による 少数排出者の排出

間かか り、後 にな って は じめてその有害 な作 用 が発見 された フロ ンの例 が挙 げ られ る。

(2)環境問題 につ いて の知識 の程 度 に もとづ く類型化

1.環境 の不確定性(Ungewiβheit)

あ る有害 な排 出作用 につ いてその排 出が潜 在 的 には危険 だ と して も何 の知識 もない場合 で、 オゾ ン層 ‑の有害 な影響が知 られ る前 は、

燃焼性 が な くまた、人 間への直接 的 な害 もな い環境 にや さ しい物質 のモデルで あ った フロ

ンが、事例 と して示 され る。

2.エ コロジーの リスク

その物質 の特定 の否定 的 な影響 につ いて高 い確実性 を もって推 測で きる場合 で、特定 の 有害性 の発生 につ いて多少 と も正確 な確率 で 予見 で きる。事例 と して、気候温暖化 が挙 げ られ、特定 の物質 の排 出による温暖化作用 に つ いて は学 問的合意 があ り、不確定 なの は、

どの程度 の影響 か とい う点 と して い る。

(3)排 出者 の数 によるて分類

1.多数 の排 出者 の排 出 によ る不確実性 事例 :気候温暖化

2.少数 の排 出者 の排 出によ る不確実性 事例 :予見不可能 な副作用 を もった医薬 品 Contergan

(2)危険責任 ルールの実効性確保策

以上 のよ うな環境 リスクの さまざまな不確実 性 に対 す る制御策 と して、責任 ルール はどの よ

うな役割 を もち うるのか。不確実 な現実 のなか で は損害額 と軍害補償額 とが一致 す る保証 はな い以上、外部性 であ る環境損害 が責任 ルールに よ って完全 に内部化 され ることは非常 に困難 に な る(Brenck/Ewers:S208)。 この期待損 害額

と期待損害補償額 との帝離現象 を責任 ルールの

機能障害(Wirkungsbrtiche)」 8)と して把握 し た上 で、多 くの環境経済学 の理論 的な検討 が進 め られて い る。責任法 の環境政策手法 と しての 成否 は この機能障害 をいか に克服 す るか に懸 か

ることにな る。

したが って、UHGの場合、 この多様 な機能 障害 に対 して どのよ うな対応 が可能 なのか とい う観点か ら検討す ることによって、危険責任 ルー ルの政策手法 と しての特徴 と射程 を描 くことが で きよ う。項 目と して はWatzoldの整理 をか り て進 め ることにす ると、

1.責任限度 と強制保 険

経済 的 な基本 モデルの場合、危 険責任 ルール の もとで は、加害者 が損害額 のすべてを支払 わ なければな らないが、実際 そ うな るためには、

まず第一 に、因果関係 の証 明がお こなわれ、立 証負担 の分担 が ど うな るか に依存 して い る し、

また他方 で、発生 す る損害 に保 険がか け られ る か ど うか に も依存 して い る。

したが って、損害額 が最高責任限度額 よ り大 き くなれば、 当然、期待損害額 と姐害補償支払 額 との帝離 が生 じる。 に もかかわ らず責任 限度 が要請 され るの は、 まず第一 に、個 々人 の所有

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< 環 境 リス ク と責 任 ル ールの再構 築>

資産 に限界があること、第二 に、国 による最高 限度額 の設定、第三 に、損害 リスクに保険がか け られ ることが関係 している。すなわち、 この 3点 は関連 してお り、 リス クの プール と分散機 能 を もつ保険が必要 になるのは、一方では潜在 的な加害者が保有す る資産 の限界を克服す るた めであ り、他方で は、保険 自体 を可能 にす るた めに国の最高限度額 の議論がでて くる。

期待損害額 に正確 に対応 した保険料を課す強 制的環境責任保険の導入が可能であれば、資源 配分 の歪 みは回避 され るが、現実 には、保険者 が被保険者 の注意行動 について完全情報 を得 る ことはで きないので、情報 の非対称性 によるモ ラル‑ザー ドが発生す る。 この発生者 における 意識的な注意怠慢行動 に対 して、および無過失 責任 ルールにともな う被害者側の注意怠慢行動 に対 して、損害 の自己負担制度、あるいは免責 条項が設定 され、 この間題 の緩和が図 られて き た。 しか し、排 出者がかれの社会的費用 をすべ て負担す るよ うな完全 な内部化 は達成で きず、

この機能障害 を取 り除 くことはで きない(Kirc hgassner:S.28718;Watzold:S.68‑9).

2.因果関係 の立証問題

環境問題 において責任 ルールが有効性を これ まで発揮で きない基本的な原因 は、 ある環境損 害発生の因果関係 を証明す ることが困難 な こと に因 る。 とりわけ、過失を問わない責任法では、

責任根拠 として立証問題が最大 の論点 になる。

UHGは、 そのため に、 因果 関係 の推定規定 (6条1項) をお き、被害者 に とって困難 な立 証 を緩和す る方策を とるとともに、さらにまた、

加害者 との情報 の非対称性が立証活動 のネ ック にな ることが多 いのを配慮 して、被害者 による 情報請求権 を認 めている。

しか し、責任法の考えは、加害被害関係を二 者間の関係 として把握す ることか ら出発 してい るので、環境損害 の場合 には全 く異 な った不確 実性 の問題状況 に直面す る。相乗作用の不確実 性 の場 合 に立証緩和 を図 る方策 は、 連帯責任

(わが国 における共同不法行為 との比較が必要) の導入であ り、加害者が多数の場合 に当てはま る。 このルールでは、各加害者 は、 まず、全損 害額 に対 して責任を負 い、次 に、加害者 の内部 において責任分担 に応 じた配分を図 ることにな る。 したが って、被害者 は損害 を個 々の加害行 為 に帰責す る負担か ら免れ ることがで きる。 た だ、非常 に多数 の、 しか も小規模 の加害者か ら なる環境損害 の場合 には、 この連帯責任 は適用 が困難 になる現代 の環境損害で は無数 の汚染 者が関わ ることが多 くな ってお り、 その場合 は 責任 ルールが情報 コス トと取引 コス トが高 くな るために適用 されない。 この蓄積 の不確実性が 大 きい集積損害 に対 しては、伝統的な政策手段 (直接規制、税、排 出権) を別 にすれ ば、 責任 基金 の手法が提起 され る。

また、Watzoldが提案 しているのは、確率責 任 とい う構想である。例えば、 ある地域 の年間 の肺病患者数が採炭時 の排 出 によ って900人 か 1000人 に増大す ると しよ う。追加的な排出が なければ、1000人のうちどれだけが催患 しなかっ たか は算定 Lがたい。 その場合、すべての汚染 者 は各損害 に対 して汚染を与 えた確率 に応 じた 分担割合で責任を負 う。先の事例でいえば、汚 染者 はすべての疾患 の10%の責任 があるので、

それぞれの病人 に対 して10%の損害補償を しな ければな らない ことにな る。確率責任が適用で きるか どうか は、統計的な因果関連 の情報が存 在す ること、すなわち環境 リスクと捉え られ る か どうかに懸か っている。 そ うでなければ、 エ コロジーの不確定性 にな り、確率責任を適用で きない。 また、被害者 の訴訟意欲 に も依存す る (Watzold:S.69‑70)0

3.損害の貨幣評価 の不可能性

損害が修復 によ って原状回復 がで きるか、 あ るいは貨幣額 に正確 に測定で きるよ うな ら、損 害額 の評価 は問題 にな らない。 しか しなが ら、

多 くの環境被害 は不可逆的であ り、 この場合、

原状回復 は不可能か、膨大な費用が必要 となる。

‑ 17‑

(8)

また、健康被害や死亡事故 につなが る場合 は、

納得で きるよ うな金銭的な評価基準 はないので、

期待損害額 は貨幣額 として は表現で きない(W‑

atzold:S.701)0

4.被害者 の特定化が不可能 な場合

大気汚染、景観破壊、 ビオ トープや種の破壊 など生態損害 の場合、 しば しば個人的な所有権 には帰属 しないので、 いかなる責任 の請求 もで きない場合が多 い。

環境財 に対 して私的所有権 の設定が困難であれ ば、国の所有権 の設定、 あるいは自然保護団体 など共益団体への所有権 の帰属 も考え られよ う

(Watzold:S.71)0

5.被害者側 の合理的な無関心

高す ぎる訴訟費用のために告訴 を取 りやめる 場合がある。1982年 までのすべてのアスベス ト 訴訟 において、損害賠償支払額、66100万 ド ルの うち原告が手 に した ものは37%にす ぎない

といわれ る。 アスベス ト問題が紛糾 しなか った ことを思 えば、 その他 の事例で は、 この数値 は もっと低 くなるであろう(Watzold:S.71)0

Watzold自身 は、不確実性 の分頬学 をふ まえ て、責任 ルールがよ く機能す る領域 とそ うでは ない領域 の区分 をお こな っているが、 ごく一般 的な結論以上 の ことをのべ るには詳細 な分析が 必要 なので、 この点での包括的な検討 は今後 に 期 したい。

Ⅳ、政策手法 と しての責任ルールの再構築 わが国の環境政策 の議論 において、近年、 こ の責任 ルールの位置づ けが積極的に図 られたと はいえないであろう。 しか しなが ら、 日本 の50 年代、60年代の公害対策の経験 は、この責任ルー

ルと公害健康被害補償法 (公健法 :1973年成立)

の政策手法 による先駆的成功例 として ドイツで は しば しば取 り上 げ られて きた9)。 わが国 にお ける無過失責任 ルールの導入 は、公害 による悲 惨 な人身被害 と深刻 な健康被害 に直面 して被害 者 の救済が緊急 の課題 にな った ことを契機 に し

てお り、民事的な損害賠償法、差止訴訟か ら環 境政策 の進展が図 られた。 そのために、逆説的 な ことに、 この民事的な過失責任原則が事実上 無過失責任 ルールに 「直行 した」 といわれ る。

過失責任 の拡大解釈、因果関係 についての蓋然 性説、間接反証説、統計的 ・疫学的因果関係 の 導入、立証責任の転換 など被害者 の立証責任 を 大幅 に軽減す る手法 によって、公害訴訟 の展望 が開かれた し、 また、 アメ リカのスーパーファ

ン ド法(1980制定) よ り早 い1970年 に制定 され た公害防止事業費事業者負担法 とともに、損害 補償のための財源確保 のあ り方、 また賦課料率 による費用負担 の手法 において新 たな工夫が試 み られ、事後的な被害救済 システムとして は大 きな成果 を挙 げて きたいえよう。

今 日の環境問題 の多 くは、通常 の事業活動や 日常生活一般 に起因す ることが多 くな り、 した が って、環境政策が 目指すべ き基本方向 として は、各主体 の自主的、積極的な環境保全 に対す る参加 を通 して、経済 システムや ライフスタイ ルその ものの見直 しが必要であることが共通理 解 にな っていると思 われ る。 このよ うな政策 の 基本的な思考転換を示唆 しているのが、 リスク ・

コ ミュニケー シ ョンとい う考え方で あ る10)。 行 政 ・企業 ・市民 を従来 のよ うに政策 の主体 と客 体 とにその役割 を機能分離す るのではな く、 そ れぞれが環境保全 の主体であることをふまえて、

その関係のなかで情報効果や監査 などの自主的 な環境保全的手法 を組み入れよ うとす るもの と いえ る。一方向的な情報 と責任 の義務づ けとは 区別 され るべ き双方 向的 コ ミュニケーションを 目指す ことになる。法規制手法で は規制 されな いよ うな リスクで も情報 を公開す ることによっ て各主体 にその リスクを認識 させ選択 を委ね る

ことが不可欠 にな って きたのである。

思えば、 アメ リカのスーパーファン ド法 もラ ブカナル事件 を契機 に、有害廃棄物管理 を過去 に遡 って厳格責任を導入 .したが、 ドイツにおけ る議論 において も、EKの膨大 な文献が示 して

(9)

<環境 リスクと責任 ル ールの再構築>

いるよ うに、廃棄物政策 が循環経済型へ と転換 す るなかで、 マテ リアルフロー全体 のマネジメ ン トをめざす手法 を検討す るなかで、責任法が もつ二重の役割が注 目されて きた。物質循環政 策 と して、有害物質政策 と一般的物質政策 の二 元論 を提唱 したRehbinder(1995)の意図 も、責 任 ルールの再構築 の議論 をふ まえての もの とい え る。

翻 って、わが国 における昨年春 の廃棄物処理 法 の改正で は、逼迫す る産業廃棄物の処分問題、

不法投棄等 の不適正処理 の横行 に対 して、 とり わけ許可業者 だけでな く委託 した排 出事業者の 処理責任 のあ り方 が大 きな課題 として残 ったが、

責任 ルールの再構築 をふ まえて抜本的な解決策 が今後尚検討 され る必要がある。

責任 ルールの考え方か らすれば、 ダイオキ シ ン問題や廃棄物 の処分問題 とい う発生 した環境 損害を事後的にどのように補償 し、結果責任 を 内部化 してい くことが単 に事後処理 とい うだけ でな く重要 となる。Idw(Institutfiir6kolo gischeWirtschaftsforschung)が危険責任ルー

ルを有害物質法 に関す る最 も有効 な形式だ と捉 えているのは、結果責任 の追求があ って こそ、

汚染者が遵守すべ き注意水準 を超えて、 さらに 活動 を抑制す るイ ンセ ンティブを もち、 またさ らに、 技術革新 へ の誘 因 も生 じるか らで あ る (F也hr:S.104)。 その意味で、 立証責任 の転換 を ともな う危険責任 ルールは、重要 な市場経済 手段 となる。その他の政策手段 (直接規制、税 ・ 課徴金 など) に対比 して、政治 の場で負担 の上 限を設定 した り、限界削減費用 について情報 を いれた りす る必要が全 くないという長所がある。

しか も、UHGは、「未だ完成 していない施設」

や 「操業 していない施設」 を も規制対象 に加 え てお り、 ス トック型 の環境汚染 に対 して も目を 逸 らす もので はない11)。

とはいって も、責任最高限度額 の低 さと巨大 事故 の際の立証責任転換 の限界 などUHGには 問題 な点 も残 り、Kirchgassnerが結論 づ けた

‑ 19‑

よ うに、 ドイ ツ環境責任法 が今後環境政策 の

鋭利 な」手法 とな りうるのか、 それ と も 「鈍 重 な」手法 に終 わるのかは未だ未確定であろう が。

1)UHGの全文 な らびに詳細な解説 は、(春 日 ・ 松村 ・福田) をみ られたい。 その他、法学か ら の検討 として、(Rehbinder)(吉村) を参照 さ れたい。

2)アメ リカで は環境被害 の 「貨幣評価に重点 がおかれ るが、国際的な取 り決 めにおいて は補 償を 「適切 な原状回復策」 に限定す ることがみ られ る。EUの これまでの提案 も環境被害 に対 す る金銭的補償を否定 して い る(Fnhr:S.101)0 3)「日本では、過失責任主義 の根拠が必ず しも 十分 に明確 にされないまま、過失認定論 さらに は、無過失主義 に直行 している」 (山田:11貢)0 また、わが国 における 「裁判所 の過失認定 は、

事故が発生 し、損害が生 じた以上、 どこかに過 失 といえるものがあ ったに違 いないとす る考え 方である」 (山田:12貢)。 また(野村)を参照。

4)新制度学派であるEndres,A.の研究 は当然 と して も、 ドイツ連邦議会 「人類 と環境 の保全」

調査委員会(EK)の一連 のマテ リアル フロー ・ マネジメ ン トに関す る膨大 な研究 において も責 任法 は重要 な政策手法 として位置づ け られてい る。 例 えば、(Brenck/Ewers:S.190)は環 壇 政策 における市場経済的手段を、国が 自然環境 の利用規模 を前 もって規定す るよ うな、国の管 理概念 の有無 によって類型化 している。環境責 任法の手法 は、所有権 の設定 とな らんで国の管 理概念 なき市場経済手段 と して位 置づ け、 「所 有権手段」 とも捉 えている。

5)主 にLandsberg/Lullingによ るとい う ( 日 ・松村 ・福 田) の解説 に したがえば、環境責 任法 には次 の三つの任務があるとされ る。第一 は、個 々人の権利 の侵害 に対す る妥当な損害補 償をはか ること、第二 は、損害の発生防止をは

表 1 エコロジーの不確実性に関する分類学 ( W畠t z ol d /si moni s: S. 5 ) 分類基準 エコロジーの不確実性 エコロジー 損害の 相乗効果の 累積の 空間的拡散 時間的拡散 の属性 不確実性 不確実性 不確実性 の不確実性 の不確実性 不確実性の程度 エコロジーの リスク エコロジーの不確定性 排出者の 多数排出者の排出による 少数排出者の排出 間かか り、後 にな って は じめてその有害 な作 用 が発見 された フロ ンの例 が挙 げ られ る。 ( 2) 環境問題 につ

参照

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