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中学校社会科における絵画史料と歴史理解

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Academic year: 2021

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

中学校社会科における絵画史料と歴史理解

教科教育高度化分野(20821001)門 脇 明 保

本研究の目的は,絵画史料を通した授業を行うことにより,生徒の歴史理解は深まるの か。授業実践を通して明らかにすることを検討することである。『蒙古襲来絵詞』を用いた 授業では,当時の歴史を描いたものを読み取り,その絵画史料に対する違和感や疑問点を 書かせた。生徒自身が歴史へのイメージを持つことを促した。絵画史料を静止したものと 捉えるのではなく,動きのある流れのあるものとして捉えた時,そこには当時の様子や情 景といったものが生徒の中に明確なイメージとして現れることが明らかになった。

[キーワード] 中学校社会科,歴史的分野,歴史教育,絵画史料

1 問題の所在

これまでの日本史研究は,「史料」といえば,古 文書などの文献史料を中心に扱ってきた。しかし,

1980 年代から絵画・絵図・写真・映像など「視覚 的に歴史的情報が載っている」史料に注目する研 究が始まった。黒田日出男を中心にした絵画史料 分析研究である。黒田らは「絵画史料」を通して,

歴史を新たに解釈しようとした。ここで黒田の考 えている「絵画史料」は歴史の「史料」である。

その考えに基づき,「絵画史料」と記述する。

この研究を受けて絵画史料を活用した授業が 1980 年代以降注目を集めている。佐藤(1996)は次 のように述べている。

「①文字資料に対する抵抗感が強いという現代 の子どもたちの実態への対応,②思考力や判断力 の育成が疎かにされてきた従来の歴史教育の問題 点への対応,という観点から見て,それぞれ意義 が認められる。

①については文字史料に対する抵抗感が強いと いう現代の子どもたちの実態を問題視している。

子どもは,文字のみの史料ではつかみにくい歴史 のイメージや事実を絵画史料の活用により,つか みやすくなる。

②については,これまでの歴史教育は実際にあ ったことをそのまま暗記するという指導方法であ った。教科書の内容をただ教え,「これが日本の歴 史である」と教えるだけであった。そこでは「ど うして」「なぜ」この出来事が起こったのか,こ の出来事は日本の歴史においてどんな意味を持っ ているのか,それらを多面的・多角的な目で見る

力の育成を疎かにしてきた。「絵画史料」を使うこ とにより,生徒の「なぜ」や「どうして」などの 疑問や違和感などを引き出せると考える。

梅津(1995)は「歴史授業は子どもの『歴史理解 の深化の過程』を論理的にふまえねばならならな い」と述べている。子どもが持っている既有のイ メージや経験を,イメージや経験に根ざす事実理 解へと変えていくことが重要だとしている。筆者 は歴史理解を「生徒自身が,歴史の出来事をイメ ージや経験を通した事実理解をし,自分なりに歴 史事象を解釈すること」と定義する。

山形県内の A 中学校の 1 年生に絵画史料の『蒙 古襲来絵詞』を用いた授業実践を行った。その際,

M さんの振り返りの中に「最初,絵を見たときは 戦っているだけだと思ったけど,意外と奥が深か った」という感想があった。M さんは『蒙古襲来絵 詞』を見た時に「戦っている」という一場面でし か捉えていなかった。だが,改めて絵画史料を見 たときに「戦っている」部分だけではなく,描か れている人々の服装や様子についても着目してい た。絵に描かれている事柄を生徒なりに理解した り,読み取ったりすることにより,その絵画史料 に対する考えが深まると考える。絵画史料を読み 解くことにより,歴史の情景を想像するだけでは なく,歴史的な背景をつかみ,その時代の特色を つかむことに繋がる。

本研究の課題は, 絵画史料を活用した授業を行 うことにより,生徒の歴史理解がどのように深ま るのかを明らかにすることである。

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2 先行研究の検討

佐藤(1996)は絵画史料活用にあたり,二つの意 味があると指摘している。

①絵画史料に描かれている事物や表現をめぐる 特色(自然的意味)

②絵画表現とその絵の作者の生きた社会の状況 との関係についてより合理性の高い解釈(社会 的意味)

佐藤は子どもたちに①自然的意味を読み取らせ,

「なぜこのような絵が描かれなければならなかっ たのか」という問いを持たせると同時に②社会的 意味を把握させていくことが絵画史料活用におい て重要であるとしている。

絵画史料の特性について加藤(1995)は「文献史 料と違って自ら歴史を言語的に語ろうとはしない」

と述べている。文字史料と違い,絵画史料には人 物や風景,当時の様子が細かく描かれている。絵 画史料は,見て分かる情報と見ている側が考えな ければいけない情報が存在している。絵画史料か らその当時の「歴史」を探ろうとした時,見てい る側が主体的に歴史的な意味や事実を読み取る必 要がある。絵画史料を読み取る際,今まで持って いた既存のその時代に対する「漠然としたイメー ジ」の中で,絵画史料に描かれている事実を読み 取ろうとする。その際,生徒は自分の知識やイメ ージだけでは対応できない事実に気づく。加藤は こう述べる。「教師が外から設定した問題ではなく,

生徒自身が発見し,ぜひ解決したい疑問を生徒自 身の納得のいく形で解決されれば,それらは彼ら の時代認識を発展させる生きた糧となるはずであ る。

絵画史料は文字史料と違い,読み手が目で見て 考える当時の情景や様子,描かれた背景を推測し ていかなければならないものである。現代から見 た違和感や自分自身が理解できないことに直面す る。子どもがその違和感に向き合い,考えていく ことが深い学びに繋がっていくと言える。

絵画史料研究として,取り上げる『蒙古襲来絵 詞』は,様々な解釈がされている。『蒙古襲来絵詞』

は絵画史料としての価値は高い。だが,『蒙古襲来 絵詞』で竹崎季長と対峙している 3 人のモンゴル 人は後世の加筆だったのではないかと橋本(2017) は述べている。橋本は,『蒙古襲来絵詞』は長年の 時間をかけて補修や改作が行われていたとしてい る。一方,服部(2017)はこの 3 人のモンゴル人は

最初から描かれていたとしている。このように,

『蒙古襲来絵詞』を始めとした絵画史料には様々 な解釈があり,史料批判が絶えず行われている。

3 実践と結果

(1)授業計画と単元構成

山形県内 A 中学校の 1 年生の 2 クラスで計 6 時 間の授業実践を実施した。

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学習活動

1 「海をこえてせまる元軍」

課題:なぜ蒙古襲来絵詞は書かれたのだろうか?

2 「南北朝の内乱と新たな幕府」

課題:どうして建武の新政は失敗したのだろう?

3 「東アジアの交易と倭寇」

課題:どうやって明と日本は貿易していたのだろ う?

(2)『蒙古襲来絵詞』を用いた授業実践

『蒙古襲来絵詞』は多くの生徒が小学校の時に 見たことがあり,「元軍と日本人」が戦っている絵 という基本情報はほとんどの生徒が知っている状 況であった。まず基本説明などは行わず「この『蒙 古襲来絵詞』を見て気づいたこと,疑問に思った ところ,変な部分を書いてみよう」と指示し,一 人で考えさせた後にグループで共有する時間を設 けた。最初,どこをどのように見ればいいか分か っていなかった生徒に対して「両軍の服装や,違 いに着目しよう」と視点を狭めると色々な発言が 出てきた。

図 1 『蒙古襲来絵詞』鎌倉時代(13 世紀) 九州大学コレクション 宮内庁所蔵より https://catalog.lib.kyushu-

u.ac.jp/opac_detail_md/?lang=0&amode=MD820&b ibid=411726#?c=0&m=0&s=0&cv=0&r=0&xywh=- 1%2C-687%2C9823%2C9197(最終閲覧日2020 年12 月 22 日)

山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

中学校社会科における絵画史料と歴史理解

教科教育高度化分野(20821001)門 脇 明 保

本研究の目的は,絵画史料を通した授業を行うことにより,生徒の歴史理解は深まるの か。授業実践を通して明らかにすることを検討することである。『蒙古襲来絵詞』を用いた 授業では,当時の歴史を描いたものを読み取り,その絵画史料に対する違和感や疑問点を 書かせた。生徒自身が歴史へのイメージを持つことを促した。絵画史料を静止したものと 捉えるのではなく,動きのある流れのあるものとして捉えた時,そこには当時の様子や情 景といったものが生徒の中に明確なイメージとして現れることが明らかになった。

[キーワード] 中学校社会科,歴史的分野,歴史教育,絵画史料

1 問題の所在

これまでの日本史研究は,「史料」といえば,古 文書などの文献史料を中心に扱ってきた。しかし,

1980 年代から絵画・絵図・写真・映像など「視覚 的に歴史的情報が載っている」史料に注目する研 究が始まった。黒田日出男を中心にした絵画史料 分析研究である。黒田らは「絵画史料」を通して,

歴史を新たに解釈しようとした。ここで黒田の考 えている「絵画史料」は歴史の「史料」である。

その考えに基づき,「絵画史料」と記述する。

この研究を受けて絵画史料を活用した授業が 1980 年代以降注目を集めている。佐藤(1996)は次 のように述べている。

「①文字資料に対する抵抗感が強いという現代 の子どもたちの実態への対応,②思考力や判断力 の育成が疎かにされてきた従来の歴史教育の問題 点への対応,という観点から見て,それぞれ意義 が認められる。

①については文字史料に対する抵抗感が強いと いう現代の子どもたちの実態を問題視している。

子どもは,文字のみの史料ではつかみにくい歴史 のイメージや事実を絵画史料の活用により,つか みやすくなる。

②については,これまでの歴史教育は実際にあ ったことをそのまま暗記するという指導方法であ った。教科書の内容をただ教え,「これが日本の歴 史である」と教えるだけであった。そこでは「ど うして」「なぜ」この出来事が起こったのか,こ の出来事は日本の歴史においてどんな意味を持っ ているのか,それらを多面的・多角的な目で見る

力の育成を疎かにしてきた。「絵画史料」を使うこ とにより,生徒の「なぜ」や「どうして」などの 疑問や違和感などを引き出せると考える。

梅津(1995)は「歴史授業は子どもの『歴史理解 の深化の過程』を論理的にふまえねばならならな い」と述べている。子どもが持っている既有のイ メージや経験を,イメージや経験に根ざす事実理 解へと変えていくことが重要だとしている。筆者 は歴史理解を「生徒自身が,歴史の出来事をイメ ージや経験を通した事実理解をし,自分なりに歴 史事象を解釈すること」と定義する。

山形県内の A 中学校の 1 年生に絵画史料の『蒙 古襲来絵詞』を用いた授業実践を行った。その際,

M さんの振り返りの中に「最初,絵を見たときは 戦っているだけだと思ったけど,意外と奥が深か った」という感想があった。M さんは『蒙古襲来絵 詞』を見た時に「戦っている」という一場面でし か捉えていなかった。だが,改めて絵画史料を見 たときに「戦っている」部分だけではなく,描か れている人々の服装や様子についても着目してい た。絵に描かれている事柄を生徒なりに理解した り,読み取ったりすることにより,その絵画史料 に対する考えが深まると考える。絵画史料を読み 解くことにより,歴史の情景を想像するだけでは なく,歴史的な背景をつかみ,その時代の特色を つかむことに繋がる。

本研究の課題は, 絵画史料を活用した授業を行 うことにより,生徒の歴史理解がどのように深ま るのかを明らかにすることである。

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

以下,『蒙古襲来絵詞』を見て気づいたこと,疑 問・変に思った部分を記述しているものを抜粋し たものである。

生徒名 1・気づいたこと 2・疑問・変に思った部分 KN くん ・服装が違う

①顔つきが違う TY さん ・幕府軍はよろいを着

ていて戦っているが,

モンゴル軍はかるそう な布が使われた服を着 ている。

・元軍の服が前の3 人の服 より色が違う服を着てい る。

②多分,日本では戦う前に あいさつみたいなのをす るけど元軍の戦いではそ んな事は行われていない から幕府軍はあいさつを しようとしているけど,元 軍はおかまいなし NK くん ・服装が違う

・弓を持っている人た ちが多い

③どうして戦いにてきし た服装じゃないのか(モン ゴル)

ST くん ③日本の武士はよろい をきていて,元軍はう すい服みたいな動きや すそうな服をしている

④元軍の服装はなぜ動き やすく,薄い服なのか

・元軍の服装はなぜ一人 一人違うのか

①について,KN くんは「描かれている顔の表情」

について言及している。服装についても言及して いる生徒が多かったが,KN くんは,服をまとって いる人物にも注目している。「顔つき」に注目して いる生徒は KN くん以外にいなかった。「どんな人 物」が描かれているか,生徒にとってあまり関心 がないことが分かった。

②について,TY さんは絵画史料を「静止画」で はなく,「ストーリー性のあるもの」として流れを 意識している。TY さんは『蒙古襲来絵詞』の中心 にいる人物と背後にいるモンゴル軍の服装の違い に気づいていた。絵画史料を見る時,それをひと つの画面として捉えることが多い。だが,TY さん は右から左に場面が流れているように捉えていた。

これは,服部(2017)が指摘していた異時同図法的 な読み取りである。服部は「三人の蒙古兵出現以 前の様子が,異なる時間帯として,画面前方,左 側に盛り込まれた」と記述している。TY さんの着 眼点や感じ方は,絵画史料研究に通じるものであ った。

③について,描かれている人物の服装の機能に ついても考えている。NK くんは「どうして戦いに てきした服装じゃないのか」と疑問に思っている。

他の生徒は着ている服の違いを蒙古軍と日本で比 較している生徒が多かった。NK くんは「戦い」と いう視点から服装を吟味して考えている。『蒙古襲 来絵詞』は戦いの場面を描いている。戦いの要素 の中に「弓矢」「刀」「馬」などの要素を発見して いる生徒はいた。戦いにその服装が適しているか 考えている生徒もあまり見られなかった。NK くん は今まで持っている知識を使いながら,描かれて いる蒙古軍の服装が戦いに適しているのか考察し ていた。これは,絵画史料をそこに描かれた事実 としてだけ捉えているのではなく,実際の情景を 想像しながら,絵画史料を読み取っていたものと いえる。

④について,蒙古兵が着ている材質について着 目していた。着ている蒙古軍の服の材質は推測す るほかないが,ST くんは「うすくて動きやすそう」

と表現している。日本の甲冑を着た竹崎季長の服 装との比較から生まれた見方だとも考えられる。

実際に薄い材質なのかは分からないが,これは,

蒙古軍が竹崎季長に向かっていく際の動いている 様子を見て,想像したと推測する。ST くんは蒙古 兵の動きを自分で読みとった。自分が知っている 布の知識や経験を使い,自分なりに歴史解釈をし たといえる。

4 全体的考察

本研究では,絵画史料を活用した授業を行うこ とにより,生徒の歴史理解は深まるのか,授業実 践を通して明らかにすることを目的とした。その 結果,以下の二点が分かった。

生徒が『蒙古襲来絵詞』を見て何に気が付いた のか,何に違和感や疑問を抱いたのかである。生 徒の解釈は二つある。

第一に TY さんは「多分,日本では戦う前にあい さつみたいなのをするけど元軍の戦いではそんな 事は行われていないから幕府軍はあいさつをしよ うとしているけど,元軍はおかまいなし」と書い ていた。一枚の絵から,人々の動きや流れといっ たものを自分なりに読み取っている。TY さんはそ の場面の流れについて自分なりに解釈していた。

絵画史料は描かれている事象から推測する作業の 中で,過去の出来事を一つのストーリーのように

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捉えていた。

絵画史料を静止画の一場面として捉えるのでは なく,動きのあるものとして捉えた時,当時の様 子や情景といったものを明確なイメージとして描 き出す。生徒自身が歴史の出来事をイメージや経 験を通した事実理解をし,自分なりに歴史事象を 解釈する。それが「歴史理解」になる。

第二に生徒が絵画史料の細部に注目し,疑問を 取り出していることである。例えば,服装や顔つ きを取り出して,「元軍の服装はなぜ一人一人違う のか」と言う。これは生徒が違和感をおぼえたと ころである。このことは,元軍の構成(混合軍)を 説明する糸口になるものである。

本実践には,二つの課題を指摘できる。

一つ目は生徒の多くは,絵画史料の部分に注目 してストーリーとしてとらえられなかった。今回 は「絵画史料を見た疑問点や違和感」を生徒に読 み取らせるにとどまった。どうすればストーリー 性のあるものとして捉えることが出来るか。その 一例として,『蒙古襲来絵詞』に描かれている登場 人物一人一人に吹き出しをつけることが考えられ る。こうすれば、登場人物の動きや表情,仕草と いったものに注目することができる。歴史をただ の出来事として考えるのではなく,流れを伴った ストーリーとして捉えることによって歴史の流れ を理解することに繋がっていくと考える

二つ目は絵巻物の製作者の意図を加えることで ある。今回の『蒙古襲来絵詞』はモンゴル兵と苦 戦する武士を描いただけの作品ではない。竹崎季 長が「恩賞」をもらうために自分が先駆として活 躍した様子を描かせたものである。絵画史料を扱 う際,「誰が,なぜ,描かせたのか」を考えていく 必要がある。絵画史料にはそれを描いた製作者と 何のために描いたのかという史料批判を絶えず行 わなければならない。

しかし,絵画史料には,必ずしもその歴史を全 てそのまま反映したものとはいえない。今回の実 践で ST くんは蒙古兵の服を「薄い服」と考えてい た。だが,実際の蒙古兵の服はあまり薄い素材の 服ではない。歴史事実と生徒の考えが必ずしも合 致しないことがある。生徒が抱いたイメージや気 づきと歴史事実として捉えなければならない部分 は明確に分ける必要がある。今回の授業実践では

『蒙古襲来絵詞』が描かれた背景などを推測する 授業を行ったが,一時間で収まる内容ではなかっ

た。生徒からは『蒙古襲来絵詞』を読み取ったこ とにより様々な意見が出てきたがそれをフィード バックする時間があまり取れなかった。生徒の読 み取りや考えがそのまま流れてしまった。

5 到達点と課題

本研究から言えることは以下のことである。

「絵画史料」を読み取る授業を行った際,絵画 史料を一つの画面としてではなく,ストーリー性 のあるものとして捉えることができた生徒がいた ことである。絵画史料を静止した画面として捉え るのではなく,一人一人の人物の動きや表情,服 装にまで着目することで,絵画史料の中の流れを 自分で読み取っていた。

これからの課題として,絵画史料を授業の中で どう位置付けていくか教師自身が検討する必要が ある。

引用・参考文献

橋本 雄(2017)「蒙古襲来絵詞を読みとく ―二つ の奥書の検討を中心に―」,http://www.aisf.

or.jp/sgrareport/Report82.pdf( 最 終 閲 覧 日 2020 年 12 月 22 日)

服部英雄(2017)『蒙古襲来と神風』,中央公論新社 加藤公明(1995)『考える日本史授業2 絵画でビ

デオで大論争!』,地歴社.

黒田日出男(2007)『増補 絵画史料で歴史を読 む』,筑摩書房.

坂本多加雄(1998)『歴史教育を考える 日本人は 歴史を取り戻せるか』,PHP 研究所.

佐藤廣(1996)「絵画史料を活用した歴史授業構成 の研究」『社会系教科教育学研究』,第 8 号,

53-58.

千葉県歴史教育者協議会日本史部会(1993)

『絵画史料を読む 日本史の授業』,国土社.

梅津正美(1995)「歴史授業における資料教材の構 成に関する一考察:「新しい学力観」をふまえて」

『中等教育研究紀要』,5 号,31-40.

The Historical Understanding Based on The Historical Picture Materials in The Junior High School Social Studies Courses.

Akiho KADOWAKI

山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

以下,『蒙古襲来絵詞』を見て気づいたこと,疑 問・変に思った部分を記述しているものを抜粋し たものである。

生徒名 1・気づいたこと 2・疑問・変に思った部分 KN くん ・服装が違う

①顔つきが違う TY さん ・幕府軍はよろいを着

ていて戦っているが,

モンゴル軍はかるそう な布が使われた服を着 ている。

・元軍の服が前の3 人の服 より色が違う服を着てい る。

②多分,日本では戦う前に あいさつみたいなのをす るけど元軍の戦いではそ んな事は行われていない から幕府軍はあいさつを しようとしているけど,元 軍はおかまいなし NK くん ・服装が違う

・弓を持っている人た ちが多い

③どうして戦いにてきし た服装じゃないのか(モン ゴル)

ST くん ③日本の武士はよろい をきていて,元軍はう すい服みたいな動きや すそうな服をしている

④元軍の服装はなぜ動き やすく,薄い服なのか

・元軍の服装はなぜ一人 一人違うのか

①について,KN くんは「描かれている顔の表情」

について言及している。服装についても言及して いる生徒が多かったが,KN くんは,服をまとって いる人物にも注目している。「顔つき」に注目して いる生徒は KN くん以外にいなかった。「どんな人 物」が描かれているか,生徒にとってあまり関心 がないことが分かった。

②について,TY さんは絵画史料を「静止画」で はなく,「ストーリー性のあるもの」として流れを 意識している。TY さんは『蒙古襲来絵詞』の中心 にいる人物と背後にいるモンゴル軍の服装の違い に気づいていた。絵画史料を見る時,それをひと つの画面として捉えることが多い。だが,TY さん は右から左に場面が流れているように捉えていた。

これは,服部(2017)が指摘していた異時同図法的 な読み取りである。服部は「三人の蒙古兵出現以 前の様子が,異なる時間帯として,画面前方,左 側に盛り込まれた」と記述している。TY さんの着 眼点や感じ方は,絵画史料研究に通じるものであ った。

③について,描かれている人物の服装の機能に ついても考えている。NK くんは「どうして戦いに てきした服装じゃないのか」と疑問に思っている。

他の生徒は着ている服の違いを蒙古軍と日本で比 較している生徒が多かった。NK くんは「戦い」と いう視点から服装を吟味して考えている。『蒙古襲 来絵詞』は戦いの場面を描いている。戦いの要素 の中に「弓矢」「刀」「馬」などの要素を発見して いる生徒はいた。戦いにその服装が適しているか 考えている生徒もあまり見られなかった。NK くん は今まで持っている知識を使いながら,描かれて いる蒙古軍の服装が戦いに適しているのか考察し ていた。これは,絵画史料をそこに描かれた事実 としてだけ捉えているのではなく,実際の情景を 想像しながら,絵画史料を読み取っていたものと いえる。

④について,蒙古兵が着ている材質について着 目していた。着ている蒙古軍の服の材質は推測す るほかないが,ST くんは「うすくて動きやすそう」

と表現している。日本の甲冑を着た竹崎季長の服 装との比較から生まれた見方だとも考えられる。

実際に薄い材質なのかは分からないが,これは,

蒙古軍が竹崎季長に向かっていく際の動いている 様子を見て,想像したと推測する。ST くんは蒙古 兵の動きを自分で読みとった。自分が知っている 布の知識や経験を使い,自分なりに歴史解釈をし たといえる。

4 全体的考察

本研究では,絵画史料を活用した授業を行うこ とにより,生徒の歴史理解は深まるのか,授業実 践を通して明らかにすることを目的とした。その 結果,以下の二点が分かった。

生徒が『蒙古襲来絵詞』を見て何に気が付いた のか,何に違和感や疑問を抱いたのかである。生 徒の解釈は二つある。

第一に TY さんは「多分,日本では戦う前にあい さつみたいなのをするけど元軍の戦いではそんな 事は行われていないから幕府軍はあいさつをしよ うとしているけど,元軍はおかまいなし」と書い ていた。一枚の絵から,人々の動きや流れといっ たものを自分なりに読み取っている。TY さんはそ の場面の流れについて自分なりに解釈していた。

絵画史料は描かれている事象から推測する作業の 中で,過去の出来事を一つのストーリーのように

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参照

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