学力偏差値と性格偏差値の導入(1)
佐藤良一郎*・宇喜多義昌**・小野英夫***
1.はじめに
学生生徒の学力テストの成績を偏差値で評価を行い,これによって進学方向の適否や,
入試合否の予測を行っている。これについては近頃異論があるがこの方法に代るものはま
だ提案されていない,まずこれはどうしてかを考察する。つぎに偏差値は,各学科の学力を計る数量として使われるだけでなく,明朗性とか誠実性とかはたまた美人性とかのよう な質的なものものでもその順位さえつくならぽ偏差値で表すことが出来ることを示す。
したがって学力偏差値と性格偏差値を合せ考察し,綜合された学力偏差値Xと綜合され た性格偏差値Yの点(X,y)によって入試合否の決定を行なうならぽ,現行の学力偏差
値のみによる方法よりは更に合理的になり,学力偏差値は完補されることを示す。
2.粗点から修正点へ(数量から数量へ)
一般に学科のテストの粗点Xを修正して,修正点yで表すことが多い,その時の基準は,
(1)粗点エ1とx2にエ1≦エ2のとき, Xlに対応する修正点ylと,エ2に対応する 修正点y2ではY1≦Y2でなければならない,(単調増加性という),すなわち順位
がそのまま保持されることが必要である。
(2) 粗点を修正する大抵の場合は,粗点の分布に不適性とか,不都合がある場合で,
例えば,粗点の分布が低い数値に偏りすぎているとか,出題が易し過ぎて,高い点 数が殆んであったとかで客観的な実体にそぐわない場合に修正を行う。したがって 粗点エの分布と,修正点yの分布が考察の対象として取り上げられるべきである。
(3) 出来るだけxの変域とyの変域が同じであって欲しい。
これら基準の(1),(2)は特に大切だと思う。
さて現行よく用いられている修正法をあげて見よう。そしてその一つとして偏差値があ
ることを示そう。〈例1>y=104τ,0≦x≦100,でxからyへ修正する。この方法では,
x=0 なら y=O x==100 なら yニ100
で,関数10 VIEは単調増加関数である,したがって基準(1)は満足され,基準 (3)も満されている。基準(2)は,xの確率密度関数f(x)が分かれば, yの 確率密度関数g(y)はつぎの形で求まる
*明星大学名誉教授 ***一般教育教授 数学
**一般教育教授 数学
9(・)当蓋)☆ただし・≦・≦…
注1.確率密度関数は分布を示す関数である。これを以後p.d.fとがくこともある。
〈例・〉・一箭・・≦・≦・…で・から・へ修正する・・の方法でも
x・=0 なら y=o x==100 なら y=100
−(…関数箭ぱ調増加関数であ・・した…て基準(・)嚇足翫難
(3)も満されているし,基準(2)は,xの確率密度関数∫(づが分かれば, y の確率密度関数g(y)も 一
戸 ・(・)=s(1°vv) 吉
として求まる。
〈例3>y=ax+ろ, a>0,すなわち傾きa>0の1次関数として修正する場合。この場 合例えぽ40点は60点に,100点は100点に,1次関数で修正しようとすると,
・÷+一聖
となる。ただ,一般に1次関数(a>0)での修正なら基準(1)は満足されるが基 準(3)は満足されない,基準(2)で,yのク. d.fは
・(・)一や三ろ)÷
で求まり,xのp. a.f∫(X)と比較して関数形は変らず,グラフで見ると原点の
移動と拡大縮小が行われるだけである。例3の型での変換では,教育評価でよく採 用されているzスコアや,標準之スコアはこの1次関数変換型である。・ス・ア・・典欝嶺纂鑛嚢鐵警2)
x− 11(7刀σ)
標準Zスコア
x−m x= ×10十50
σ一子+(・・一竺)
注2.標準xスコアを偏差値という人がいるがこれは誤りである。これについては後
述する。
例1,2,3は共通して基準(1)は満足されている。基準(2)のyの確率密度関数(p.
d.プ)g(y)は元のXのp.d. ff(X)によって決まるものである。しかし元のp. d.∫
∫(x)には関係なく,あらかじめyの分布を決定しておくXからyへの変換法(修正法)
の例をあげよう。 .
〈例4>粗点xの累積分布関数をF(x)とすると,
y=100F(x),0≦x≦100 (パーセンタイル法)
(累積分布関数とは,粗点Xに対して,それ以下の粗点の者の人数の,全体数に対
する割合(累積相対度数)を理想化したものである)。
0点以下の割合は0であるから,F(0)=0
100点以下の割合は全体であるから,F(100)=1
もし50点以下が全体の30%ならF(50)=0.3 、 このときも基準(1),基準(3)は満足され,基準(2)は,
・(y)一昔((Fω)・㌃・り
一∫(・)・、。。ナ(。)一品r・・≦・≦…
となり,元のエの分布F(X)の如何にかかわらずパーセントスコアyの分布は 一様分布であることが分る。 ・
我々が問題としている偏差値Vは,この基準(1)を満足し,基準(2)については,
元のxの分布にかかわらず,正規分布(平均50,分散102)として分布するもので,基準
(3)は満さないものであることを次節で述べよう。
3.正しい偏差値とその特性
偏差値について説明している解説書のうちに,先の標準Zスコア,すなわち
x−77z
z= ×10十50 σ
をもって偏差値と述べてあるものが見うけられるが,これは間違である。
偏差値とは,つぎの表1にしたがって算出した数値である。この表の見方は,ある基準 にしたがって順序ずけられた数量X(場合によってはxは数量でなくてもよい,明朗性と か,芸術性とかの数量化が困難な属性的なものでもよい)。このX未満のものの割合(累 積相対度数)を,左端の列と上端の行でみる,例えぽ素点で50点未満のものの累積相対 度数が0。42なら,0.4を左端の列で見て,0.02を上端の行で見出し,表内の交叉点に あたる48.0を,この場合素点50に対応する偏差値とする。素点70未満の累積相対度数 が0.75なら,同様に素点70に対応する偏差値は56.7とする。
素点50→累積相対度数0.42→偏差値48.0
〃 70→ 〃 0.75→ 〃 56.7
であって,偏差値の直接決定は累積相対度数であることに着目願いたい。
表1 現行偏差値 Z・・2×10+50 累積相対度数
確 率 P
0.0 0.1
0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09
2685o5248
344455556 7147025︸82
・− − ・ − ︐ −﹇ . .
26.737.7 41.9 45.0 47.7 50.352. 8
55.5 58.8 63.4
29.5 38.3
42. 3
45. 3
48.0 50.5
53.1
55.8 59.264.1
31.2 38.7 42.6 45.6 48.2 50.8 53.3
56.1
59.5 64.832.5 39.2 42.9 45.9 48.5 51.0 53.6 56.4 59.9 65.5
33. 6
39.6 43. 3
46.1
48.7 51、3 53.9 56.7 60.4 66,434.5 40.1
43. 6
46.4 49.0 51.5
54.1 57.1
60.8 67.535.2 40.5 43.9 46.7
49. 2
51.8 54.4 57.4 61.3 68.8
35.9 40.8 44.2 46.9 49.5 52.0 54.7 57.7 61.7 70.5
36.6 41.2 44.5 47.2 49.7 52.3 55.0
58.1
62.3 73.3○偏差値はいかなる数か説明しよう(偏差値の定義)。
素点Xのある数値X未満のものの,全調査数に対する割合(数値Xの累積相対度数)を (3. 1) R(X≦x) =F*(x),RはRatio比の意味
であらわす。
一方,変量Yが平均50,分散102したがって(標準偏差10)の正規分布をするとき,
Yのある数値yの未満のものの累積相対度数FAr(50,1。・)(y)を考えると,
(3.2) 1)(Y≦2ノ)≡≡1Pムr(50,107(y)
一∫1.Of.、。・xp[(t−50)22×102]dt
粗点xに対応する累積相対度数F*(x)と,(3.2)が等しくなるように,yを決定す
る,
(3・3)
F*(f)=万一(・}(臨粕畢議難)すなわち,
(3.3) !ノ=F−1N(50,102)(F*(x))
このようにして決定されたyがXの偏差値である。
面積F (x)
面
X
図1 図2
(3.3)ノをグラフで説明すると,次のようになる。
粗点についての累積相対度数曲線(階段関数のグラフになる)z=.F*( )と,平均50,
分散102の正規分布をする変量の累積分布曲線2=.FN(5。,1。・)(t)を図3のように画き,横 軸上に素点Xを取り,矢印のように流して偏差値yを決める。
Z
t O 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
図3
(3.3)「の変換でえられる偏差値は(2)での基準(1)の単調増加性は満足する。表か
ら分るよように偏差値は25点から,75点の間にあらわれることから基準(3)は,成り立たない。
基準(・)は,F悩瀬分可能℃カみ∫ω一昔F・ωをもつとき,Yの
カ.d. f.9(y)は
・ω一∫ω・㌃L.、( )
として求められる。いまF*(x)=瓦・(5。,1。・)(y)の両辺をxで微分して,
S(・)−n(・r・・…2書一㌃一・(・1・・・…)/f(・)
より偏差値のp.d.fは,
醐・(・)一・1(・1・・…2)=・di、。・xp[一(郷2]
となり,偏差値は平均50,分散102の正規分布をなす。
注3.実際データーでのF*(x)は階段関数で,すべての点で連続ではなく微分可能で
もないし,連続点での微分係数は0である。したがって先述の説明では.F*(x)は 理論的な極限累積相対度数分布関数(C.d. f)を用いた。
粗 点 累積相対度数
偏差値
23 25 26
4041
42 4361 62 63 70 71
7275
78 8081
82 83 8496
9798 99
1000.04 0.08 0.12 0.16 0.20 0.24 0.28 0.32 0.36 0.40 0.44 0.48 0.52 0.56 0.60 0.64
0. 68
0.72 0,76 0.80 0.84 0,88 0.92 0.96 1.00
32.5
35.9
38.3 40.1 41.6 42.9 44.2 45.346. 4
47.5 48.5 49.5 50.5 51.5 52.5 53.6 54.7 55.8
57.1
58.4 59.9 61,7 64.1 67.5(75)
注4.Xのc. d. f Fh(。)(x) =P[X≦x lp. d. S h(x)]に対してYのc. d. f.Fa (v)(y)
=P〔Y≦ylp. d.fg(y)コでxからyへの変換を
.Fれω@)=Fv(の(y)→y ・・ Fg(の 1[凡ω(x)]
とすると,Yのp.d.fは,Xのp. d.fh(x)の如何にかかわらず,g(y)にな
ることは数理統計上は面白い定理である。
例題25人の中学生のある数学の粗点が,23,25,26,40,41,42,43,61,62,63,
70,71,72,75,78,80,81,82,83,84,96,97,98,99,100これ等を偏差値で表し
てみる。その表をp.13に示してある。この粗点の分布表と偏差値の分布表を下に示す。
粗点の度数分布表 粗 点 度数 20〜30未満 30〜40 〃
40〜50〃
50〜60 〃 60〜70 〃 70〜80 〃
80〜90〃
90〜100〃
30403555
粗点のヒストグラム
20 30 40 50 60 70 80 90 100
偏差値の度数分布表
偏差値1 度数
25〜30未満
0
30〜35 〃
1
35〜40〃 2 40〜45〃 4 45〜50〃 5 50〜55〃 5 55〜60〃 4 60〜65〃 2
65〜70 〃
1
70〜75 〃
1
偏差値のヒストグラム
25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75
偏差値の特性について考察する
(1)偏差値の変域は普通25〜75の間である,したがって,低い粗点は偏差値に直す と高くなるし,高い粗点はそれより低い偏差値になる,全部の偏差値の平均は50,分散
102となり,分布は正規分布をする。
(2)偏差値の求め方から分るように,実は粗点エから直接決定されるのでなくて,
.F*(x)で決定される。したがってエそのものが具体的に数量化されていなくとも,順位 さえつけられているなら,累積相対度数が求められ,偏差値が求まる。
4.性格偏差値の導入と利用について
1.で述べたように学力偏差値のみで,児童,生徒の進路決定を行ったり上級校入試合否
の予測を行うことに対する批判が強い,しかし入試の合否の場合,入学定員があり,学力
のみによる選抜入学なら,学力序列を表す学力偏差値は有効である。(資格試験なら学力の絶対評価が有効と思われる)
もし,上級校入学の合否が,学力のみでなく,性格も学力と対等に評価して決定される
なら望ましい選抜法であるといえるし,世論のなっとくも得られるであろう。そこで性格偏差値の導入が可能かどうか考えよう。
性格といっても,学力にいろいろの学科があるように多面性がある。そこで例えば性格
を,(1)積極性,(2)明朗性,(3)協調性,(4)計画性,(5)自主性,(6)社交性,
(7)耐久性,(8)誠実性,(9)研究心,(10)責任感の10項目に分けて,各項目につ いて,生徒の偏差値を出して10項目の偏差値の平均値をもって生徒の性格偏差値とする ことを考えてみる。
る劣
や
るや
劣ー価
舗ー
評
の神
枠
格
性
働ー
却
A A A A AA A A A A
1234567890 vvUくJJUくUO
性 明性性性性性性心感
極
朗 調画主交久実究任
積
明協計自社耐誠研責
例えぽ,A君の積極性について偏差値を算出する方法を提案する。
A君のクラス全部の友人(30名以上あるとしよう)で,A君の積極性について,5段階 評価を行い,クラス担任の先生は学友1の10倍のウエイトで同様な評価を行う,その総 合点数をつくる。これはA君だけでなくクラスの全生徒について同様に行い,各人の総合
点数を出して,これからA君の積極性についてのクラスでの順位を求める。
A君の総合点数に対応する累積相対度数が0.6なら,A君の積極性偏差値は,偏差値表 により52.5とし,B君の累積相対度数が0.55なら, B君の積極性偏差値は51.3とす
る。
観
察 内容
積− 麩 性
優・(・)麓(・)普通(・)薦(・)劣・(・)l l l
先の偏差値は,元の測定値よりも元の測定値の順位が問題で,順位から累積相対度数が
決まり,これから偏差値が定まる。
このようにして測定された各生徒につき,
積極性偏差値Xl 協調性 〃 x3 自主性 〃 x5 耐久性 〃 X7 研究心 〃 Xg
を求め,性格総合偏差値として
明朗性偏差値x2 計画性 〃 X4 社交性 〃 x6 誠実性 〃 x8
責任感 〃 xエ。
エひ
・一
苫品を採用す…のとき…平均・・,分散音( エロ バほ10×102+ΣΣσε」 t≒」)の正規分布を活
(σw=cov(li, Vj)のこと)。
一方,学力総合偏差値として9教科の偏差値yl, Y2,…, ygから む
y− ,購
を採用す・と・…1・・平均・⇔散す(・…+皇≠・のの正規分布をなす(φ・・−
60刀(暫iうY5)のこと)。
各生徒について,(X,y)を求めて,採否を決めると,学力偏差値yのみによる採否よ
り有効な方法といえると思う。
5. これからの問題
性格総合偏差値として10項目Xl, x2,…, Xl。の平均値を採ったが,平均値は総合化量 として適当か否か,学力総合偏差値も同様で平均値でもって総合化して適当か否か,情報
量はどの程度保持されるか,また他により多く情報量を保留する総合化法はないか,検討 を要する。最後に縮約された(x,y)は2元ベクトルであるが,この2元ベクトルを対象として合 理的な採否決定法はどういう統計的決定方法があるかを研究することである,これ等につ いては実験的にデータについて性格偏差値を出して調査したものとともに,次号の紀要で
研究発表しようと思う。
〈追記〉標準zスコアと偏差値の混同について,3.で,標準zスコアをもって偏差値と
する書物を見受けるがこれは間違であることを述べた。なぜ混同されるのか調べてみる。
素点xの偏差値yは,2つのc. d.fを使い
万ω(・)一恥一・ω一∫1..・(tl・軌聯
として求める,
右辺のFf(。)(勾は, Xのp. d. fが∫(x)である粗点xの理論的累積(相対)度数分
布である。上式からyを求めるとき計算の都合上,
輪ω一F・…,1・)(・)一∫二.n(ti…2)・dt
とし,エに対してxを数表から求め,このXとyの関係は
∫:..・(tl・…2)dt−∫1.n(tl・・・…)・dt
より
y=10z+50……(附1)
となる。また,附1式のzは,基準正規変数
z〜N(0,12)……(附2)
である,
標ue zスコアは,素点x,その期待値E(X),分散Y(X)から (いまE(X)=21z,
Vγ(x)=σとする)
(x−m)/σ≡2
=⇒E(2)=0,V(£)=1
よって,2の分布は平均0,分散12の分布だが,そのp.d.fg㈲は,Xのp.d.fを
∫(X)とすると,
g(2)=ザ[允十mコσ……(附3式)
であり,一般に2は基準正規変数でない,この基準正規変数でない2から,0を
g=102十50
とつくっても,0はE(9)=50,V(0)=102とはなっても正規分布はしないからである。
ただ粗点xの分布が」v(m,σ2)の分布なら
(附・)・り・(・)一嵩・xp[一({・Si;・・)]1。.、。+m
一毒・xp[一劃
=IZ(210,12)
となりこの場合の,Zスコアは偏差値となる。
参考図書
青山博次郎,「教育統計学」,産業図書(1957発行)
荻野忠則,「教育評価のための統計法」,日本文化科学社(1983)
宇喜多義昌他1名,「例解現代統計学入門」,オーム社(1982)