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他者からの評価に対する情緒的反応

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Academic year: 2021

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(1)

問 題

私たちは一日の生活時間の大半を他者との相互作用に費やしているといって過言ではない。 対人相互 作用には会話や情報交換といった直接的なもの、 他者の存在が刺激となって認知や行動に影響が及ぶ間 接的なものなど、 その種類や内容に違いがあるが、 直接間接を問わず他者の存在をまったく意識しない で過ごす時間はごく限られた時間であろう。

このような対人相互作用場面における自己呈示では、 しばしば、 自分の行動や外見が他者からどのよ うに評価されているか (あるいはされ得るか) を推測する。 その推測には、 主として他者の自分に対す

他者からの評価に対する情緒的反応

−賞賛獲得欲求・拒否回避欲求および調整焦点による検討−

小 島 弥 生

*1

*1 立正大学心理学部 (2005年4月より:埼玉学園大学人間学部)

旨: 自分の行動に対して他者から評価された場合に、 その評価に対してどのような 情緒を感じるかについて、 個人のもつ対人相互作用上の目標という観点から検討 した。 検討した要因は、 1) 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求、 2) 調整焦点として の現実自己と自己指針 (理想自己あるいはあるべき自己) のずれの認知、 の2点 であった。 前者は、 自己呈示における目標 (肯定的評価の獲得あるいは否定的評 価の回避) を欲求としてとらえた尺度 (小島・太田・菅原, 2003) を用いて検討 した。 後者は、 自己指針をさらに、 自分自身の自己指針と他者の目からみた自己 指針 (他者が自分に対して抱くと思われる理想像ないしあるべき姿) とに分けて 検討した。 評価に対する情緒的反応を目的変数とした重回帰分析を行った結果、

分析1では、 現実自己と自分自身の自己指針とのずれの認知という要因より、 賞 賛獲得欲求・拒否回避欲求の方が、 評価に対する情緒的反応を説明できることが 示された。 分析2では否定的な評価に対する情緒的反応についてのみ、 拒否回避 欲求の方が他者視点の自己指針とのずれの認知よりも情緒的反応を説明できるこ とが示された。 相互作用上の目標にはポジティブ−ネガティブの次元以外にも異 なる様相が考えられることが示唆された。

キーワード:評価的フィードバック、 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求、 調整焦点、

自己指針とのずれの認知、 情緒的反応

(2)

る行動が用いられるが、 自己呈示の際にどのような印象を相手に呈示したいと思っているか、 つまり、

自己呈示における目標の設定の仕方によって、 推測の手がかりとなる (自分に向けられた) 他者の行動 の受けとめ方が異なってくるであろう。 尊敬に値する立派な人物であることを印象づけたいと思ってい る人が、 他者との相互作用において相手から褒められたならば、 その相手の行動を非常に快い反応とし て受けとめる可能性が高い。 しかし、 人並みに無難に物事をこなせる人物であることを印象づけたいと 思っている人が同じように褒められたならば、 相手の褒め言葉を快いと受けとめるよりも重荷として捉 えかねないと思われる。

本研究では、 自分の行動に対して他者から何らかの評価を示された場合に感じる気持ち、 すなわち他 者からの評価に対する情緒的反応が、 個人のもつ対人相互作用上の目標の違いにより異なることを検討 する。 対人相互作用上の目標を示す概念として、 1) 自己呈示上の目標設定を欲求という観点で定義し ている賞賛獲得欲求・拒否回避欲求 (小島・太田・菅原, 2003) と、 2) 望ましい目標状態の多様性と 目標状態への接近方法の多様性を視野にいれた自己制御方法である調整焦点 (regulatory focus;

Higgins, 1998) を本研究では取り上げる。 そして、 相互作用の目標の多様性を示すこれらの個人的な 特徴が、 他者からの評価に対する情緒的反応にどのように影響を与えているかを検討する。

1. 賞賛獲得・拒否回避欲求と調整焦点:対人行動における目標のあり方

小島・太田・菅原 (2003) は、 個人の自己呈示上の目標設定の特徴を測定する尺度として 「賞賛獲得 欲求・拒否回避欲求尺度」 を作成している。 賞賛獲得欲求とは、 他者からの賞賛や尊敬・敬意といった 自分に対する他者からの肯定的な評価を獲得したいという欲求の強さであり、 自己呈示の際に他者から の肯定的な評価の獲得を目標とする程度の強さである。 一方、 拒否回避欲求とは、 他者からの批判や嘲 笑・蔑みなどの自分に対する否定的な評価を回避したいという欲求の強さであり、 自己呈示において他 者からの否定的な評価の回避を目標とする程度の強さである。

この2つの欲求は、 一見、 同じことの裏表のように思われるが、 独立した概念であると考えられてい る。 自己呈示における目標設定という観点とは異なるが、 同じ行動や対象への志向性・目標の違いとい う現象は、 友人関係における目標 (黒田・桜井, 2001) や学習や課題の達成における目標 (村山, 2004) などで、 ポジティブな目標への接近とネガティブな目標の回避という枠組みを中心に指摘されている。

賞賛獲得欲求は他者からの評価についてある一定水準以上の評価を獲得しようとする志向性であり、 拒 否回避欲求は評価が一定水準以下にならないようにする志向性である。 言い換えると、 賞賛獲得欲求は 他者評価についてポジティブな目標をイメージする強さであり、 拒否回避欲求は他者評価についてネガ ティブな目標をイメージする強さといえる。 例えば、 拒否回避欲求が極端に強い人にとって、 他者から の高い評価という目標は設定し難い目標である。 彼らにとって指針となるのは、 あくまでも他者からの 低い評価が回避できるか否かであり、 低い評価を得ないことが目標となっているのである。 この意味で、

賞賛獲得欲求と拒否回避欲求は互いに独立した概念といえる。 ただし、 個人がどちらか一方の特徴に分 類されるというものではなく、 個人の中にこの2つの欲求は矛盾なく存在しうるものであるため、 両方 の欲求が強い人も、 両方の欲求が弱い人もいると考えられる (太田・小島, 2004)。

さて、 Higgins (1998) は人が 望ましい と考える目標状態は次の2つに大別できるとしている。

第1に何らかのポジティブな結果 (成長、 達成、 理想の実現) が得られた状態であり、 第2に何らかの

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ネガティブな結果 (損失、 不安定、 義務の不履行) が避けられた状態である。 Higgins は、 2つの目標 状態のどちらにより焦点をおいて、 我々が自分自身の快・不快の状態や、 他者との相互作用における快・

不快の状態を調整するかについて、 「促進焦点 (promotion focus)」 と 「防衛焦点 (prevention focus)」

という2つの調整焦点を主張している。 Higgins は調整焦点の用いられ方に関する個人差と状況要因に ついて述べており、 促進焦点はポジティブな結果の有無に敏感になる状態で、 理想を追求しようとする 人が用いやすい、 あるいは、 利益の獲得が強調される状況で用いられやすいとしている。 一方、 防衛焦 点はネガティブな結果の有無に敏感になる状態で、 義務を果たそうとする人が用いやすい、 あるいは、

損失の回避が強調される状態で用いられやすいとしている。

さらに、 Higgins とその共同研究者たちは、 目標への接近可能性という操作的定義を用いて調整焦点 の測定を行っている (e.g. Higgins, Shah, & Friedman, 1997)。 調整焦点の個人差の測定法の1つと して、 Higgins, Klein, & Strauman (1985) の Selves Questionnaire (SQ) を元にした、 現実自己と 自己指針 (self-guide;理想自己とあるべき自己) とのずれの測定を提唱している。 この場合、 2つの 自己指針である理想自己とあるべき自己がその人物の目標状態であり、 理想自己と現実自己との間のず れの認知は、 その人が理想の状態・実現に焦点づけられている指標として用いることができ、 現実自己 とあるべき自己との間のずれの認知は、 その人物が果たすべき義務に焦点づけられている指標として用 いることが可能であるという定義である。

小島 (2002) では、 賞賛獲得欲求、 拒否回避欲求と促進焦点、 防衛焦点との関連について、 尺度間の 相関関係という観点から検討している。 ここでは促進焦点、 防衛焦点の指標として、 現実自己として自 由記述させた10の特性語について、 1語1語が自分の理想像や義務としてもつべき姿とどのくらい近い と思うかを5件法で回答させた評定値を単純集計したものを用いている。 したがって、 得点が高いほど 現実と理想 (/あるべき) のずれを認知していない という指標である。 結果として、 現実とあるべ き姿の近さが拒否回避欲求と弱い負の相関関係があることが示されている。

2. 他者からの評価に対する情緒的反応と賞賛獲得・拒否回避欲求、 調整焦点との関連

対人相互作用上の目標には上述したように、 ポジティブな結果の獲得とネガティブな結果の回避とい う2つの目標状態がある。 では、 これらの2つの目標を人がどのように持ち、 それが対人相互作用上で の他者からの評価に対する情緒的反応にどのように影響を与えているのであろうか。

小島・太田・菅原 (2003) は、 場面想定法を用いて、 自分の行動に対して他者から肯定的なあるいは 否定的な評価的フィードバックが与えられた場合に感じる情緒的反応と2つの欲求の強さとの関連を検 討している。 その結果、 肯定的な評価的フィードバックが示された場合に、 賞賛獲得欲求の強さは満足 感の強さと正の関連をもち、 拒否回避欲求の強さはポジティブな羞恥心であるテレの感情の強さと正の 相関があることが示されている。 また、 否定的な評価的フィードバックについては、 賞賛獲得欲求の強 さは怒りの強さと、 拒否回避欲求の強さはネガティブな羞恥心であるハジの感情の強さと、 それぞれ正 の相関関係があるとしている。

一方、 Higgins, Klein, & Strauman (1985) では、 現実自己と理想自己のずれが sad, gloomy, disappointed といった落胆関連感情 (dejection-related emotion) と関連し、 現実自己とあるべき自己 のずれが tense, restless, nervous といった動揺関連感情 (agitation-related emotion) と関連するこ

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とを示している。 その後 Higgins と共同研究者たちは、 ネガティブな感情だけではなくポジティブな 感情についても、 理想と義務のどちらの自己指針と現実自己とのずれが認知されているかということと の関連を明らかにしている (e.g. Higgins, 1998)。 現実自己と理想自己とのずれの認知は、 快活 (cheerfulness) −落胆の感情次元での感情体験と関連し、 現実自己とあるべき自己のずれの認知は、

平穏 (quiescence) −動揺の感情次元での感情体験と関連するとしている。

他者からの評価に対する2つの欲求と調整焦点の2つの次元が、 他者からの評価の受けとめ方をどの 程度規定できるかについて、 小島 (2003) では、 ポジティブな結果に着目するという点で賞賛獲得欲求 と促進焦点 (現実自己と理想自己のずれの認知) が類似し、 ネガティブな結果に着目するという点で拒 否回避欲求と防衛焦点 (現実自己とあるべき自己のずれの認知) が類似するという点に注目している。

そして、 自分の行動に対する他者からの評価的フィードバックへの情緒的反応について、 賞賛獲得欲求 および理想とのずれの認知が、 肯定的なフィードバックに対する満足感や快活関連感情を、 否定的なフィー ドバックに対する怒りや落胆関連感情をそれぞれ説明できるのではないかと予測している。 また、 拒否 回避欲求および義務 (あるべき自己) とのずれの認知が、 肯定的なフィードバックに対するテレの感情 や平穏関連感情を、 否定的なフィードバックに対するハジの感情や動揺関連感情を説明できるのではな いかと考えている。 しかし、 ずれの認知の測定方法や調査対象者の少なさから、 欲求とずれの認知の相 関関係も、 欲求やずれの認知が情緒的反応の説明力をどの程度もち得るかについても、 明確な結論を出 すことができていない。

3. 本研究の目的

以上の議論をふまえ、 本研究では、 自分の行動が他者から評価される際に感じる気持ち (情緒的反応) について、 個人のもつ目標への志向性の観点から説明を試みることとする。 賞賛獲得欲求と拒否回避欲 求、 自己指針と現実自己のずれの認知という個人変数が、 評価に対する情緒的反応にどのように影響し ているかを検討する。

具体的には、 以下の仮説を検証することが本研究の目的である。

仮説1a 賞賛獲得欲求が強いほど、 肯定的な評価的フィードバックに対する満足感および快活感情 が強いであろう

仮説1b 現実自己と理想自己のずれが大きく認知されているほど、 肯定的な評価的フィードバック に対する満足感および快活感情が強いであろう

仮説1c 現実自己と他者視点の理想自己のずれが大きく認知されているほど、 肯定的な評価的フィー ドバックに対する満足感および快活感情が強いであろう。 また、 自分の理想自己とのずれ の認知と比較して、 満足感および快活感情に与える影響力は他者視点の理想自己とのずれ の認知の方が大きいであろう。

仮説1d 拒否回避欲求が強いほど、 肯定的な評価的フィードバックに対する羞恥心 (テレ) が強い であろう

仮説1e 現実自己とあるべき自己 (義務) のずれが大きく認知されているほど、 肯定的な評価的フィー ドバックに対する平穏感情が強いであろう

仮説1f 現実自己と他者視点のあるべき自己 (他者視点の義務) のずれが大きく認知されているほ

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ど、 肯定的な評価的フィードバックに対する平穏感情が強いであろう。 また、 自分のある べき自己とのずれの認知と比較して、 平穏感情に与える影響力は他者視点のあるべき自己 とのずれの認知の方が大きいであろう。

仮説2a 賞賛獲得欲求が強いほど、 否定的な評価的フィードバックに対する怒りが強いであろう 仮説2b 現実自己と理想自己のずれが大きく認知されているほど、 否定的な評価的フィードバック

に対する落胆感情が強いであろう

仮説2c 現実自己と他者視点の理想自己のずれが大きく認知されているほど、 否定的な評価的フィー ドバックに対する落胆感情が強いであろう。 また、 自分の理想自己とのずれの認知と比較 して、 落胆感情に与える影響力は他者視点の理想自己とのずれの認知の方が大きいであろ う。

仮説2d 拒否回避欲求が強いほど、 否定的な評価的フィードバックに対する羞恥心 (ハジ) と動揺 感情が強いであろう

仮説2e 現実自己とあるべき自己 (義務) のずれが大きく認知されているほど、 否定的な評価的フィー ドバックに対する羞恥心 (ハジ) と動揺感情が強いであろう

仮説2f 現実自己と他者視点のあるべき自己 (他者視点の義務) のずれが大きく認知されているほ ど、 否定的な評価的フィードバックに対する羞恥心 (ハジ) と動揺感情が強いであろう。

また、 自分のあるべき自己とのずれの認知と比較して、 羞恥心 (ハジ) および動揺感情に 与える影響力は他者視点のあるべき自己とのずれの認知の方が大きいであろう。

方 法

1. 調査時期および被調査者

2003年6月に、 芝浦工業大学の一般教養 「心理学1」 の受講生314名 (男性267名、 女性47名) を対象 にして質問紙調査を実施した。 授業中に質問紙を一斉配布して回答を求めた。 受講生には事前に、 調査 協力に対して単位認定の評価への加点がなされることを予告していた。

2. 測定変数

本研究で問題とする概念のうち、 賞賛獲得欲求と拒否回避欲求については、 小島・太田・菅原 (2003) の 「賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度」 18項目を用いて測定した。 回答は 1. あてはまらな から 5. あてはまる までの5件法で求めた。

促進焦点と防衛焦点については、 Higgins (1998) に従い、 理想の追求を動機づけると考えられる

「現実自己と理想自己とのずれ」 を促進焦点の指標とし、 義務の追求を動機づけると考えられる 「現実 自己とあるべき自己とのずれ」 を防衛焦点の指標とした。 現実自己、 理想自己、 あるべき自己のそれぞ れについて5つの特性語を自由記述させ、 Higgins, Vookles, & Tykocinski (1992) に従い、 「現実−

理想のずれ得点」 および 「現実−義務のずれ得点」 を算出した。 詳しい算出方法については後述する。

さらに、 本研究では 自分の行動に対して他者からの評価的フィードバックを受けた際の情緒的反応 を問題とするため、 理想あるいは義務の追求を動機づけるものとして 「他者の視点からみた理想像ある いはあるべき像から現実の自己がどの程度ずれているか」 という観点が考慮できると考えた。 そこで、

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促進焦点および防衛焦点の指標として、 理想自己/あるべき自己とのずれ得点とは別に 「現実−他者視 点理想のずれ得点」 および 「現実−他者視点義務のずれ得点」 を算出することにした。 詳しい測定方法 および算出方法については後述する。

自分の行動に対する他者からの評価的フィードバックの提示には、 場面想定法を用いた。 場面は、 肯 定的フィードバック場面と否定的フィードバック場面の2種類を用意し、 ランダムに回答者に配布した。

場面の内容については後述する。

場面を想定させた後に、 小島 (2003) と同様の36の情緒項目への回答を求めた。 これらの項目は、 小 島ら (2003) で用いた 「満足」 「テレ」 「ハジ」 「怒り」 の4つの情動と、 Higgins (1998) で考慮され ている 「快活関連感情」 「落胆関連感情」 「平穏関連感情」 「動揺関連感情」 の4つの情動に分類できる (表1)。 想定場面を読んだ後に感じる気持ちについて、 各項目に 1. あてはまらない から 5. あ てはまる までの5件法で回答を求めた。

3. 質問紙の構成

質問紙は、 1) 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度、 2) 現実自己、 3) 自己指針 (理想・あるべき)、

4) 日常生活での重要他者の選定、 5) 想定場面と情緒項目、 の5つの部分から構成した。

本研究では、 自己指針を2種類 (自分が理想/あるべきと考える自己、 他者の視点からみた理想/あ るべき自己) 考慮し、 別々に分析することとした。 そこで質問紙の構成部分のうち、 3) 自己指針と4) 日常生活での重要他者の選定は、 回答者によって提示順序および提示内容を変えた (提示順序の流れは 図1に示した)。

他者の視点の自己指針 (理想自己・あるべき自己) と現実自己とのずれの得点を促進焦点や防衛焦点 の指標とする分析の対象者には、 2) 現実自己への回答を求めた後、 4) 日常生活での重要他者の選定 を求めた。 なお、 重要他者の選定については ふだんの生活の中であなたと交流のある人物のうち、 あ なたにとって大切な人で、 自分がその人にどう思われているかが気になる人を1人、 思い浮かべてくだ さい。 という教示をし、 家族 (父母・兄弟姉妹、 ほか) や友人 (同性・異性) など合わせて18種類の 人物の中から、 あてはまる人物を1名選択させる形で回答を求めた。 重要他者の選定につづいて、 んだ人物が、 あなたに対して抱いている 理想像 (/ あるべき姿 ) についてうかがいます。 という 教示で、 他者視点の自己指針について回答を求めた。 他者視点の理想自己については その人物が、 あ

表1 情緒項目

情緒の種類 項目数 項 目 内 容

満 足 4 誇らしい 満足な ここちよい うれしい

テ レ 5 照れくさい はにかむ くすぐったい 照れる はじらう ハ ジ 5 きまりが悪い ばつが悪い みじめである 恥じる 自己嫌悪 怒 り 5 くやしい 腹立たしい 許せない 頭にくる ばかばかしい 快 活 関 連 3 幸せな 楽しい 得意な

平 穏 関 連 4 落ち着いた くつろいだ のんきな 穏やかな 落 胆 関 連 5 悲しい 臆病な 憂鬱な 不安な ふさぎこんだ

動 揺 関 連 5 緊張した オロオロする 動揺する あせった イライラする

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なたに対して 「こういう人であってほしい」 と思い描いている姿を、 ここでは その人物の思うあなた の理想像 とします。 その人物があなたの理想像として思っていると思われる性格特性や特徴を5つ考 え、 カッコ内にそれぞれ書き入れてください。 と教示した。 他者視点のあるべき自己については の人物が、 あなたについて 「あなたはこういう人であるべきだ」 と信じている姿を、 ここでは その人 物の思うあなたのあるべき姿 とします。 その人物があなたのあるべき姿として思っていると思われる 性格特性や特徴を5つ考え、 1つずつ書き入れてください。 と教示した。 なお、 理想像とあるべき姿 の教示順序は分析対象者の約半数は理想像の回答後にあるべき姿を回答し、 残る半数はあるべき姿の回 答後に理想像を回答するよう、 カウンターバランスをとった。

自分自身の自己指針 (理想自己・あるべき自己) と現実自己とのずれの得点を促進焦点や防衛焦点の 指標とする分析の対象者には、 2) 現実自己への回答を求めた後、 3) 自己指針を尋ねた。 あなたの

賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度 18項目

現実自己 5特性の自由記述

(どちらか1パタンに回答)

(どちらか1パタンに回答)

理想自己

重要他者の視点で の理想自己

重要他者の視点で のあるべき自己 5特性の自由記述

5特性の自由記述 5特性の自由記述

5特性の自由記述

重要他者の視点で の理想自己

5特性の自由記述 5特性の自由記述

重要他者の視点で のあるべき自己

5特性の自由記述 5特性の自由記述

あるべき自己

あるべき自己 理想自己

日常生活の重要他者選定

肯定的な評価 否定的な評価 肯定的な評価 否定的な評価

(場面提示)

情緒項目 36項目

(分析1:肯定的FB) (分析1:否定的FB) (分析2:肯定的FB) (分析2:否定的FB)

日常生活の重要他者選定 1)

2)

3)

4)

5)

↓ ↓

↓ ↓

図1 質問紙の構成 (質問項目の順番)

(8)

理想とする自分の姿 (理想像) (/ こうあるべき自分の姿 ) についてうかがいます。 という教示 に続いて、 理想自己については あなた自身が 「自分はこうありたい」 と希望したり、 自分の目標にし ていたりする姿を、 ここでは 理想像 とします。 あなたが自分の理想としてもちたいと思う性格特性 や特徴を5つ、 カッコ内にそれぞれ書き入れてください。 という教示を、 あるべき自己については あなた自身が 「自分はこうであるべき」 と自分を戒めたり、 自分にはもつ義務があると思う自分の姿 を、 ここでは あるべき姿 とします。 あなたが自分の義務としてもっているべきと思う性格特性や特 徴を5つ、 カッコ内にそれぞれ書き入れてください。 という教示を行った。 自分自身の自己指針につ いても、 他者視点の自己指針と同様に、 回答順序についてカウンターバランスをとった。 なお、 自由記 述の後に4) 日常生活での重要他者の選定を行わせたが、 これは他者視点の自己指針を尋ねる質問紙の 回答者と回答時間に大きな差異を生じないようにするための対処であり、 分析には用いなかった。

すべての回答者が、 質問紙の最後の部分として5) 想定場面と情緒項目に回答したが、 想定場面には、

小島 (2003) で用いた 自分の行動に対して友人から評価的フィードバックを受ける場面 を一部改変 して用いた。 場面には 「他者からの肯定的な評価的フィードバック」 と 「他者からの否定的な評価的フィー ドバック」 の2種類があり、 回答者にはどちらか1つの場面がランダムに割り当てられた。

想定場面の前半は、 すべての回答者に共通の内容を提示した。 その文面は あなたは仲の良い友人と 世間話をしていました。 そのうち、 友人がグチを言い始め、 あなたは聞き役にまわりました。 グチの内 容は友人がある知人との間で起こした、 ちょっとしたトラブルの話で、 あなたは初めて聞く話でした。

友人の言い分を聞いているうちに、 あなたは、 その相手も問題があるけれども、 友人の態度にも悪いと ころがあるように思いました。 そこであなたは、 自分の感じたことを言ってみることにしました とい うものであった。

場面の後半は、 条件によって提示される文章が異なった。 肯定的フィードバックの場面の文章は なたの発言に対して、 友人はときどきうなずきながら聞いた後、 「確かにね」 「そうか、 そうかもね」 と、

あなたの意見を聞いてよく分かったといった反応を示し、 「そういう意見を言ってくれて、 ありがとう」

と言いました。 というもので、 自分の行動 (=発言) が他者から受け入れられ、 感謝という肯定的な 反応が返ってきたという内容であった。 これに対し、 否定的フィードバックの場面の文章は あなたの 発言に対して、 友人はときどき眉をしかめながら聞いた後、 「何それ?」 「そんなことないよ」 と、 あな たの意見が的外れであるといった反応を示し、 「何でそんなこと言うの、 ひどいなあ」 と言いました。

というもので、 自分の行動が他者から拒絶され、 非難されるという否定的な内容であった。

結 果

1. 分析対象者

回答者314名のうち、 回答の不備のあった88名を除いた226名が分析対象者となった。 なお、 分析から 除去した88名の内訳は、 自由記述で記入を求めた理想自己とあるべき自己の各5項目がすべて同じ内容 であった66名、 自由記述の数に不備のあった10名、 その他の回答に不備のあった12名となった。 分析対 象者226名のうち、 男性は188名、 女性は38名となったが、 本研究では性差を考慮せずに分析を行った。

分析対象者の平均年齢は19.2歳 (SD=.88) であった。

226名中、 自分自身の理想自己・あるべき自己の回答を求められた対象者は123名、 他者視点の理想自

(9)

己・あるべき自己の回答を求められた対象者は103名であった。 前者については分析1、 後者について は分析2の分析対象者とした。

2. 変数の算出

1) 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度

尺度のうち、 賞賛獲得欲求を測定する9項目を単純集計して賞賛獲得欲求尺度得点を算出した。 平均 値は28.1点 (SD=7.5) であった。 また、 拒否回避欲求を測定する9項目を単純集計して拒否回避欲求 尺度得点を算出した。 平均値は30.2点 (SD=6.9) であった。 いずれの値も先行研究 (小島・太田・菅 原, 2003;小島, 2002;小島, 2003) と同様の数値を示していた。 ただし、 賞賛獲得欲求尺度得点につ いては、 分析1の対象者 (M=27.1) と分析2 (M=29.3) の対象者で差がみられた (t(224)=2.22,

p<.05)。

2) ずれ得点

促進焦点および防衛焦点の指標とする 「ずれ得点」 の算出は、 Higgins, Vookles, & Tykociuski (1992) で用いられた Selves Questionnaire (SQ) の算出手続きを一部改変して行った。 Higgins, et al.

(1992) で使用された SQ は、 現実自己、 理想自己、 あるべき自己として挙げられた各10の特性語の内 容を、 現実自己1語に対して理想自己 (/あるべき自己) を1語ずつ比較し、 反義語であれば ずれが ある と判定して正の値を、 類義語であれば ずれがない と判定して負の値を、 関連のない語同士で あれば ずれとは無関係 と判定してゼロの値をそれぞれ算出した上で、 すべての対の値を単純集計す るというものである。

本研究では調査対象者の回答への負担を考慮して、 各自己にあたる特性語の記述を、 Higgins et al.

(1992) の10語から5語へと減らした。 また、 SQ の算出は特性語対に対して類義・反義・無関連の判 定を行う必要があるが、 Higgins et al. (1992) と本研究のデータでは言語体系が異なるため、 日本語 での判断基準を設定する必要があった。 そこで本研究では、 山本・松井・山成 (1982) の 「自己認知の 諸側面測定尺度」 で示されている自己認知の11の側面 (「社交」、 「スポーツ能力」、 「知性」、 「優しさ」、

「性」、 「容貌」、 「生き方」、 「経済力」、 「趣味や特技」、 「まじめさ」、 「学校の評判」) を基準に用いること とした。

表2 対の判定結果

類 義 無関連 反 義

分析1

現実−理想 143 (4.7) 2719 (88.4) 211 (6.9) 現実−義務 170 (5.5) 2701 (87.8) 203 (6.6) 分析2

現実−他者視点理想 171 (6.6) 2249 (87.3) 145 (5.6) 現実−他者視点義務 212 (8.2) 2218 (86.1) 143 (5.6) note:数値は対の数。

カッコ内の数値はすべての対の数 (全数) を100とした割合。

分析1の全数は3075、 分析2は2575。

(10)

ずれ得点の算出手続きは図2に示した。 評定者 (心理学を専攻する大学院生2名) はまず、 自由記述 で挙げられた自己を示す言葉・語が11の側面のどれに該当するかを評定した。 つづいて、 現実自己と理 想自己 (/あるべき自己) を1語ずつ対にし、 2つの語が同じ側面に属しているかを判定した。 ここで 同じ側面に属していない2語は関連がないと定義し、 この対の評定値は0とした。 2語が同じ側面に属 していた場合には、 その意味が類義か反義かを評定した。 意味が類似していれば類義と評定し、 この対 の評定値は−1とした。 互いに逆の意味を示している2語は反義と評定し、 この対の評定値は+2とし た。 ここで類義と反義の絶対値に差をつけたのは、 本研究で扱う現実自己と自己指針のずれという指標 をより強調するためであった。 表2に示したように、 この対評定では 「類義」 「無関連」 「反義」 の評定 のうち 「無関連」 と評定される対の数が圧倒的に多く、 「類義」 と 「反義」 の割合にそれほど大きな差 異がない。 もし類義と反義の絶対値を同値にすると、 単純加算をして得るずれ得点の分散が非常に小さ くなる恐れがあった。 そのため、 反義の絶対値を類義の絶対値より大きくすることで、 指標を分かりや すくする必要があった。 なお、 2名の評定者間で評定が一致しない対については、 筆者が各評定を比較 し、 より妥当と思われる評定を採用した。

このように現実自己と理想自己のずれ、 現実自己とあるべき自己のずれを回答者ごとに算出して、 促 図2 ずれ得点の算出方法

1) 各特性語が、 自己認知の11側面の何に該当するかを評定 現実自己 (5語)

おとなしい ⇒ 社交性

消極的 ⇒ 社交性

理想自己 (5語) 積極的 ⇒ 社交性 頭がいい ⇒ 知性

あるべき自己 (5語)

控えめ ⇒ 社交性

早起きする ⇒ その他

2) 現実自己と理想自己 (/あるべき自己) を1語ずつ対にし、 側面の一致・不一致を評定 おとなしい

(社交性) ⇔ 積極的 (社交性)

一 致

おとなしい

(社交性) ⇔ 頭がいい (知性)

不一致

おとなしい

(社交性) ⇔ 控えめ (社交性)

一 致

3) 側面が不一致の対は 「無関連」 と評定する。 側面が一致の対は、 語の意味が類似していれば 「類義」、

語の意味が反対であれば 「反義」 と評定する おとなしい ⇔ 積極的

「反 義」

おとなしい ⇔ 頭がいい

「無関連」

おとなしい ⇔ 控えめ

「類 義」

4) 「反義」 に2点、 「無関連」 に0点、 「類義」 に−1点を割り当て、 現実自己5語×理想自己5語の25対 の得点 (/現実自己5語×あるべき自己5語の25対の得点) を単純集計してずれ得点を算出する

図中の 「理想自己」 「あるべき自己」 は、 分析1の対象者は 自分自身の自己指針 、 分析2の対象者は 重

要他者の視点での自己指針 となる。

(11)

進焦点および防衛焦点の指標とした。 分析1の対象者の 「現実−理想のずれ得点」 は平均2.3点 (SD=

3.4, レンジ:−4〜14)、 「現実−義務のずれ得点」 は平均1.9点 (SD=3.4, レンジ:−5〜12) となっ た。 分析2の対象者の 「現実−他者理想のずれ得点」 は平均1.3点 (SD=3.6, レンジ:−9〜11)、 「現 実−他者義務のずれ得点」 は平均.74点 (SD=3.5, レンジ:−9〜10) となった。

3) 情緒得点

本研究の従属変数 (目的変数) である 場面を想定した後の情緒的反応 については、 表1に示した 8つの情動をそれぞれ得点化した。 各情動に対応する情緒項目の評定値を単純加算して情緒得点を算出 した。 肯定的フィードバック場面を想定して回答した分析対象者 (分析1=63名, 分析2=49名) につ いては、 8つの得点のうち 「満足」、 「テレ」、 「快活」、 「平穏」 の4得点を分析に用いた。 否定的フィー ドバック場面を想定した分析対象者 (分析1=60名, 分析2=54名) については、 「ハジ」、 「怒り」、

「落胆」、 「動揺」 の4得点を分析した。 なお、 対象者によって分析に用いる変数が異なるため、 情緒得 点の基本統計量については表3にまとめた (表3の下半分、 目的変数が情緒得点に該当する)。

3. 分析1:自分自身の自己指針を回答した対象者の分析 1) 肯定的フィードバック条件の分析

仮説1a, 1b, 1d, 1eを検証するために、 肯定的な評価的フィードバックの場面を想定した対 象者63名のデータについて、 「満足」、 「テレ」、 「快活」、 「平穏」 の4得点のそれぞれを目的変数とする 重回帰分析を行った。 重回帰分析の説明変数には、 「賞賛獲得欲求尺度得点」 (以下、 賞賛獲得と略す)、

表3 重回帰分析に用いた変数の基本統計量

分析1 (n=123) 分析2 (n=103)

肯定的 FB(n=63) 否定的 FB(n=60) 肯定的 FB(n=49) 否定的 FB(n=54) 平均値 (SD) 平均値 (SD) 平均値 (SD) 平均値 (SD) 説明変数

賞賛獲得欲求 27.1 (8.1) 27.1 (7.6) 29.8 (7.2) 28.8 (6.6) 拒否回避欲求 31.1 (7.2) 29.4 (7.7) 30.2 (6.3) 29.9 (6.3)

現実−理想のずれ 2.5 (3.6) 2.1 (3.1) − −

現実−義務のずれ 1.9 (3.5) 2.0 (3.3) − −

現実−他者理想のずれ − − 1.0 (3.9) 1.4 (3.4)

現実−他者義務のずれ − − 6.8 (3.5) .8 (3.5)

目的変数 (論理的最小値−最大値)

満足 (3−15) 11.7 (4.0) − 11.4 (3.9) −

テレ (5−25) 13.2 (5.0) − 11.9 (5.0) −

快活 (3−15) 7.0 (2.6) − 6.8 (2.4) −

平穏 (4−20) 9.6 (3.7) − 9.1 (3.5) −

ハジ (5−25) − 11.6 (4.5) − 12.1 (3.9)

怒り (5−25) − 13.0 (5.2) − 13.9 (5.3)

落胆 (5−25) − 13.0 (3.9) − 12.5 (4.1)

動揺 (5−25) − 14.3 (4.7) − 13.9 (4.2)

(12)

「拒否回避欲求尺度得点」 (拒否回避)、 「現実−理想のずれ得点」 (理想とのずれ)、 「現実−義務のずれ 得点」 (義務とのずれ) の4変数を投入した。 なお、 各説明変数ならびに目的変数の基本統計量は、 分 析1・2の条件別に表3に示した。 また、 2変数間の相関については表4に相関係数を示した。

SPSS ver.10.0J の線形回帰プログラムで重回帰分析 (ステップワイズ法) を行った結果、 「満足」、

「快活」、 「平穏」 の3得点に対しては、 賞賛獲得の標準偏回帰係数が有意な正の値を示した (順に、 β=.

27, β=.31, β=.30, いずれも

p<.05)。 「テレ」 に対しては、 拒否回避の標準偏回帰係数が有意な正

の値を示した (β=.31,

p<.05)。

理想とのずれ、 義務とのずれの標準偏回帰係数は、 いずれの分析においても有意とはならなかった。

よって、 分析1の肯定的フィードバック条件では、 仮説1aと仮説1dが支持され、 仮説1bと仮説1 eは支持されなかった。

2) 否定的フィードバック条件の分析

仮説2a, 2b, 2d, 2eを検証するために、 否定的な評価的フィードバックの場面を想定した対 象者60名のデータについて、 「ハジ」、 「怒り」、 「落胆」、 「動揺」 の4得点のそれぞれを目的変数とする

表4 2変数間の相関係数

分析1 説 明 変 数 目的変数:否定的 FB 条件

賞賛獲得 拒否回避 ずれ:理想 ずれ:義務 満 足 テ レ 快 活 平 穏

明 変 数

賞賛獲得 − .34** −.17 −.07 .05 .17 .04 .15

拒否回避 .34** − .18 .33* .30* .25 .47** .57**

ずれ:理想 −.25 .09 − .51** .24 .13 .27* .39**

ずれ:義務 −.37 .03 .64** − .23 .06 .29* .41**

目 的 変 数

肯 定 的 F B 条 件

満足 .27 −.03 −.01 .10 − − − −

テレ .21 .31* .22 .14 − − − −

快活 .31* .25* .01 −.01 − − − −

平穏 .30* −.06 −.03 −.05 − − − −

分析2 説 明 変 数 目的変数:否定的 FB 条件

賞賛獲得 拒否回避 ずれ:理想 ずれ:義務 満 足 テ レ 快 活 平 穏

明 変 数

賞賛獲得 − .24 −.09 −.22 .03 .17 .07 .11

拒否回避 .16 − .18 .10 .27 .20 .42** .41**

ずれ:理想 .12 .15 − .40** .18 .19 .06 .15

ずれ:義務 .19 .12 .20 − .08 .17 .01 .04

目 的 変 数

肯 定 的 F B 条 件

満足 .05 −.16 .40** .11 − − − −

テレ −.14 −.14 .26 −.08 − − − −

快活 .03 −.01 .26 .06 − − − −

平穏 −.11 .03 .18 .01 − − − −

note:肯定的フィードバック (FB) 条件群の結果を対角線左下に、 否定的フィードバック (FB) 条件群の結果 を対角線右上に示した。

**p<.01, *p<.05

分析1 肯定的 FB で n=63, 否定的 FB で n=60.

分析2 肯定的 FB で n=49, 否定的 FB で n=54.

(13)

重回帰分析 (ステップワイズ法) を行った。 重回帰分析の説明変数には、 肯定的フィードバック条件の 分析と同様、 賞賛獲得、 拒否回避、 理想とのずれ、 義務とのずれの4変数を投入した。

重回帰分析の結果、 「怒り」 に対していずれの説明変数の標準偏回帰係数も有意とはならなかった。

「ハジ」 と 「落胆」 の2得点に対しては、 拒否回避の標準偏回帰係数が有意な正の値を示した (順に、

β=.30,

p<.05;β=.47, p<.01)。 「動揺」 に対しては、 拒否回避 (β=.52) と理想とのずれ (β=

.29) がそれぞれ1%水準で標準偏回帰係数が有意となった。 「動揺」 を目的変数とする重回帰分析によっ て得られた重相関係数は

R=.64、 決定係数は R

2=.39となった。

賞賛獲得、 義務とのずれの標準偏回帰係数は、 いずれの分析においても有意とはならなかった。 よっ て、 分析1の否定的フィードバック条件では、 仮説2dが支持された。 仮説2a, 2bについては支持 されず、 仮説2eについては予測とは異なる結果 (義務とのずれではなく理想とのずれが動揺感情を説 明する) が示された。

4. 分析2:重要他者の自己指針を回答した対象者の分析 1) 重要他者の選定

分析2の対象者には、 ふだんの生活でその人物からどのように思われているか気になる他者を1名選 定させ、 その他者が自分に対してどのような理想像あるいはあるべき姿を抱いていると思うかについて 自由記述で回答を求めた。 ここで、 回答者がどのような人物を重要他者に選んでいたかを明らかにして おく必要がある。 重回帰分析で扱う情緒得点は、 想定場面で示した 仲の良い友人からの評価的フィー ドバック に対する情緒的反応の測定変数とみなしているため、 「友人」 を重要他者として選ぶ分析対 象者があまりにも少ないと、 重要他者の視点からみた自己指針と現実自己とのずれを情緒的反応の説明 要因として取り上げる意義が薄れる可能性があると思われるからである。

表5に示したように、 重要他者として選定された割合がもっとも高かった人物は 「同性の友人」 であ り、 ついで 「恋人」、 「異性の友人」 の順に割合が高かった。 この結果から、 想定場面の重要他者を 「友 人」 としたことと実際の重要他者として選定される人物との間には大きな乖離はないと判断した。 ただ し本研究では、 分析対象者の減少を避けるため、 「家族」 や 「恋人」 を重要他者と選んだ対象者も含め て以下の分析を行った。

2) 肯定的フィードバック条件の分析

仮説1a, 1c, 1d, 1fを検証するために、 肯定的な評価的フィードバックの場面を想定した対

表5 重要他者の選定 (分析2対象者103名の結果の内訳)

重要他者のカテゴリー 度数 (%) 同性の友人 (親友を含む) 37 (35.9)

恋人 27 (26.2)

異性の友人 (親友・先輩後輩を含む) 26 (25.2) 家族 (父母, 兄, 祖父) 8 ( 7.8)

その他 5 ( 4.9)

(14)

象者49名のデータについて、 「満足」、 「テレ」、 「快活」、 「平穏」 の4得点のそれぞれを目的変数とする 重回帰分析 (ステップワイズ法) を行った。 重回帰分析の説明変数には、 分析1と同様、 賞賛獲得と拒 否回避を投入したほか、 「現実−他者理想のずれ得点」 (以下、 他者理想とのずれ、 と略す)、 「現実−他 者義務のずれ得点」 (他者義務とのずれ) を投入した。

重回帰分析の結果、 「テレ」、 「快活」、 「平穏」 の3得点に対しては、 いずれの説明変数の標準偏回帰 係数も有意とはならなかった。 「満足」 に対して、 他者理想とのずれの標準偏回帰係数が有意な正の値 を示した (β=.40,

p<.01)。 よって、 分析2の肯定的フィードバック条件では、 仮説1cが一部支持

され、 その他の仮説は支持されなかった。

3) 否定的フィードバック条件の分析

仮説2a, 2c, 2d, 2fを検証するために、 否定的な評価的フィードバックの場面を想定した対 象者54名のデータについて、 「ハジ」、 「怒り」、 「落胆」、 「動揺」 の4得点のそれぞれを目的変数とする 重回帰分析 (ステップワイズ法) を行った。 重回帰分析の説明変数には、 肯定的フィードバック条件の 分析と同様、 賞賛獲得、 拒否回避、 他者理想とのずれ、 他者義務とのずれの4変数を投入した。

重回帰分析の結果、 「ハジ」 と 「怒り」 の2得点に対しては、 いずれの説明変数の標準偏回帰係数も 有意とはならなかった。 「落胆」 と 「動揺」 の2得点に対して、 拒否回避の標準偏回帰係数が有意な正 の値を示した (順に、 β=.42, β=.41, いずれも

p<.01)。 よって、 分析2の否定的フィードバック

条件では、 仮説2dが一部支持され、 その他の仮説は支持されなかった。

考 察

1. 肯定的な評価的フィードバックに対する情緒的反応

自分の行動に対して肯定的な評価的フィードバックを与えられたときの情緒的反応を場面想定法で検 討した結果、 分析1の対象者と分析2の対象者の分析結果に矛盾が生じた。

分析1では、 賞賛獲得欲求の強さが、 肯定的な評価に対する満足感 (満足得点) や評価されたことに よる快感情 (快活得点) あるいは安心感 (平穏得点) を説明するという結果が得られた。 また、 拒否回 避欲求の強さが、 肯定的な評価に対する戸惑いや照れくささ (テレ得点) を説明していた。 これらの結 果は、 小島・太田・菅原 (2003) の知見と一致する結果であった。 しかし、 分析2では、 賞賛獲得欲求 得点も拒否回避欲求得点も、 各情緒得点を説明する変数とならなかった。 分析2で有意な標準偏回帰係 数を示した説明変数は、 満足得点を説明する 「現実−他者理想のずれ得点」 のみであった。 これは自分 が認知する現実の自己像と重要他者が自分に対して抱いている理想像との間にずれがあると、 自分の行 動が肯定的に評価されることに満足感を感じるという結果であった。 この結果は、 満足感を快活関連感 情に含むと考えれば、 Higgins (1998) で述べられている理論を検証する結果といえる。

なぜこれらの結果が得られたのか。 次のことが説明可能性として考慮できよう。 第1に、 分析対象者 の偏りが結果に影響を与えた可能性である。 第2に、 用いた場面の性質から、 他者からの評価に対する 欲求 (賞賛獲得欲求や拒否回避欲求) よりも、 他者を基準とした自己指針と現実自己のずれの認知が、

評価の受けとめ方に影響を与えていた可能性である。

第1の可能性については、 まず、 分析1の対象者と分析2の対象者で、 賞賛獲得欲求得点の平均値に 有意な差があったことが挙げられる。 分析2の対象者の賞賛獲得欲求が相対的に高かく分布に偏りがあっ

(15)

て、 情緒的反応の説明要因を検討するのにふさわしくない指標となった可能性がある。 また、 分析1の 対象者と分析2の対象者では、 説明変数間の相関関係の様相が大きく異なっている (表4)。 互いに独 立な標本にもとづく2つの相関の差の検定 (岩原, 1965) を行った場合に、 「現実−理想のずれ得点」

と 「現実−義務のずれ得点」 の相関関係は、 分析1 (r=.60) と分析2 (r=.20) で有意な差が示され ている (CR2=8.02,

p<.01)

1)。 「賞賛獲得欲求得点」 と 「拒否回避欲求得点」 の相関関係については、

分析1 (r=.34) と分析2 (r=.16) で有意差はなく (CR2=.97, n.s.)、 拒否回避欲求得点と2つのず れ得点との相関関係も分析1と分析2で違いはなかったが、 賞賛獲得欲求得点と2つのずれ得点との相 関係数はともに有意な差があった (賞賛獲得−理想とのずれで

CR

2=3.58,

p<.05, 賞賛獲得−義務と

のずれで

CR

2=8.68,

p<.01)。 こうした説明変数間の相関関係の違いが、 重回帰分析の結果が異なる

原因となった可能性もあるであろう。 いずれにしても、 本研究のデータのうち、 肯定的フィードバック 条件のデータについては、 明確な結論を出すことができない不安定なデータであった可能性がある。

第2の可能性については、 本研究で用いた想定場面がどのような目標を刺激し得たかという問題であ る。 友人に忠告をしたら、 感謝された という肯定的な評価的フィードバックは、 他者からの肯定的 な評価を獲得したいという賞賛獲得欲求や否定的な評価を回避したいという拒否回避欲求の示す目標と 合致しなかった可能性がある。 この点は、 例えば、 村山 (2004) に示された目標表象の3つの次元 (基 準の次元、 達成の次元、 結果の次元) などを考慮して、 刺激とする想定場面のもつ意味を検討する必要 があるだろう。

2. 否定的な評価的フィードバックに対する情緒的反応

次に、 自分の行動に対して否定的な評価的フィードバックを与えられたときの情緒的反応について述 べる。 肯定的な評価的フィードバックを与えられた場合の分析結果とは異なり、 否定的な評価的フィー ドバックを与えられたときの情緒的反応に関する結果は、 分析1と分析2で大きな矛盾はなかった。

いずれの分析においても、 拒否回避欲求の強さが、 否定的な評価に対する落ち込み (落胆得点) やあ せり (動揺得点) を説明していた。 否定的な評価をうけて感じる恥ずかしさ (ハジ得点) については、

分析1では拒否回避欲求の標準偏回帰係数が有意となったが、 分析2では有意とならなかった。 しかし、

拒否回避欲求得点とハジ得点の相関係数 (表4) を、 互いに独立な標本にもとづく2つの相関の差の検 定を用いて比較すると、 分析1の

r=.30と分析2の r=.27には有意な差はなかった (CR

2=.03,

n.s.)

ため、 断言はできないが、 拒否回避欲求の強さは、 否定的な評価に対するあせりや不安、 恥ずかしさな どを説明できる要因であると考えられるであろう。

分析1の動揺得点の重回帰分析で、 拒否回避欲求得点のほかに、 現実自己と理想自己のずれ得点が、

動揺得点を説明する変数として示された。 自分が認知する現実の自己像と自分の描く理想像との間にず れがあると、 自分の行動への否定的に評価に対して動揺するという結果であった。 当初は想定していな かった結果であるが、 拒否回避欲求と理想とのずれの双方が動揺関連感情に影響しているという結果は 興味深いものである。 これは、 人がもつ理想自己の形成の源泉が、 他者のもつ価値観である可能性を示 唆しているかもしれない。 人から嫌われたくないという欲求をもち、 自分は (一般的にはこうであると 良いとされている) 理想像からはほど遠いと自己認知している人が、 何かのきっかけで他者から否定的 に評価された場合には、 嫌われないという目標の非達成・理想への接近という目標の非達成によって動

(16)

揺をおぼえるという図式である。 他者からの否定的な評価を避けることはネガティブな事柄への焦点づ けであり、 理想とのずれの認知はポジティブな事柄への焦点づけであるが、 理想像が何によって築かれ るかということを考慮したときに、 拒否回避欲求と理想自己とのずれの認知の間に、 共通項がある可能 性がある。

3. 評価に対する欲求と調整焦点

分析1の結果から、 自己指針と現実自己のずれの認知によって測定される目標状態 (理想の追求/義 務への意識) よりは、 自己呈示上の欲求によって測定される目標設定 (賞賛の獲得/拒否の回避) の方 が、 対人相互作用にみられる他者からの評価に対する情緒的な反応を説明できると思われる。 しかし、

当初想定していたような、 ポジティブな目標への注目という観点での賞賛獲得欲求と促進焦点との類似 性、 あるいは、 ネガティブな目標の回避への注目という観点での拒否回避欲求と防衛焦点との類似性は、

本研究で扱ったデータでは示されなかった。

分析2の結果から、 他者の視点での自己指針と現実自己のずれの認知、 特に他者視点の理想自己と現 実自己のずれの認知が、 他者から肯定的な評価的フィードバックを与えられた場合の満足感・快感情を 説明できる可能性が示唆された。 ただし、 既に述べたように、 肯定的なフィードバック条件での結果は、

分析1と分析2で大きく異なるため、 より多くのデータを集めて再分析を試みる必要があるだろう。 少 なくとも本研究で得られたデータでは、 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求と他者視点の自己指針とのずれの 認知の間になんら関係は示されなかったため、 他者からの肯定的な評価を獲得することや否定的な評価 を回避することと、 他者が自分に対してどのような理想像やあるべき姿を抱いていると認識することは、

同じ目標次元としては扱えないことが示唆された。

本研究では、 個人がもつ目標という観点で調整焦点を検討しているが、 Higgins (1998) で指摘され ているように、 目標は状況規定的に生じることもある。 今後は、 状況として他者からの肯定的な評価を 引き出すことが目標となる場合と、 否定的な評価を避けることが目標となる場合で、 目標が達成できた 場合・できなかった場合の情緒的反応と、 個人の自己呈示上の目標である賞賛獲得欲求と拒否回避欲求 の関連を検討する必要がある。

1) 岩原 (1965) によると、 2つの相関の差の検定は、

CR

(臨界比) を代用することができる。

CR

の2乗は、 近似的に自由度1のカイ2乗値となる。

引用文献

Higgins,E.T. 1999 Promotion and prevention as a motivational duality: Implications for evaluative processes. In S.Chaiken & Y.Trope (Eds.),

Dual-Process theories in social psychology.

The Guilford Press: New York, pp.503−525.

Higgins,E.T., Klein,R., & Strauman,T. 1985 Self-concept discrepancy theory: A psychological model for distinguishing among different aspects of depression and anxiety.

Social Cognition, 3,

51−76.

(17)

Higgins,E.T., Sah,J., & Friedman,R. 1997 Emotional responses to goal attainment: Strength of regulatory focus as moderator.

Journal of Personality and Social Psychology, 72, 515−525.

Higgins,E.T., Vookles,J., & Tykocinski,O. 1992 Self and health: How patterns of self-beliefs predict types of emotional and physical problems.

Social Cognition, 10, 125−150.

岩原信九郎 1965 新訂版教育と心理のための推計学 日本文化科学社

小島弥生 2002 賞賛獲得・拒否回避傾向と調整焦点との関連 (1) 日本心理学会第66回大会論文集, 846.

小島弥生 2003 賞賛獲得・拒否回避傾向と調整焦点との関連 (2) −他者からの評価に対する感情的 反応への影響− 日本心理学会第67回大会論文集, 1004.

小島弥生・太田恵子・菅原健介 2003 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度作成の試み 性格心理学研究 11, 86−98.

黒田祐二・桜井茂男 2001 中学生の友人関係場面における目標志向性と抑うつとの関係 教育心理学 研究, 49, 129−136.

村山 2004 ポジティブな目標表象とネガティブな目標表象− 3次元の枠組み の提唱− 教育 心理学研究, 52, 199−213.

太田恵子・小島弥生 2004 第6章 職場での評価をどう意識するか?−評価懸念について− 菅原健 介 (編著) ひとの目に映る自己− 「印象管理」 の心理学入門− 金子書房 (pp.153−181)

山本真理子・松井 豊・山成由紀子 1982 認知された自己の諸側面の構造 教育心理学研究, 30, 64−

68.

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