課題
著者名(日) 武田 明典, 村瀬 公胤
雑誌名 神田外語大学紀要
巻 21
ページ 309‑330
発行年 2009‑03‑31
URL http://id.nii.ac.jp/1092/00001270/
日本における大学生スクールボランティアの 動向と課題
武田明典 * 村瀬公胤 **
昨今の日本では、大学生が地域の学校において教育活動を支援するスクー ルボランティアが導入されつつある。これに関連し、フレンドシップ、イン ターンシップ、そしてサービス・ラーニングなどがあり、これらは、ボランティ ア学生を受け入れる学校の教師や児童生徒に対して支援補佐できるばかりで はなく、学生自身にとっても現場に入り教職に対する理解が深まるメリット がある。しかしながら、スクールボランティアの導入が一巡し幾つかの実践 例が報告されるなかで、問題点が指摘されるようになった。本稿は、スクー ルボランティアについてこれまでの実践研究を包括的にレビューし、主に、
大学教育養成としての学生支援に関する 6 つの課題点について検討を行っ た。
キーワード: スクールボランティア、フレンドシップ、インターンシップ、
サービス・ラーニング、教員養成
1.問題
学校教育の現場と教員養成課程にまたがる大きな変革が起こりつつある。
OECD の PISA 調査などで明らかになった学力問題の解消や多様な児童生徒
* Akenori TAKEDA
神田外語大学
** Masatsugu MURASE 麻布教育研究所
のニーズへの対応など、学校教育が担うべき役割は拡大した。しかし、財政 難による教員増配の困難や地域教育力の疲弊など、教育現場を取り巻く環境 はむしろ悪化している。国や地方自治体の教育行政がこうした問題の解決を 模索している一方で、教員養成の側でも、教員養成 GP(資質の高い教員養 成推進プログラム)や教職大学院の創設など、教育の “ 質 ” が再検討され始 めた。このような背景において、学校教育を効率的かつ柔軟なものにするた めに教職志望の大学生を人材として活用する、スクールボランティア(学校 ボランティア)活動が広まっている。また、スクールボランティアは、学生 をボランティアとして送り出す側の大学にとっても、教育実習以外に学生が 教育現場に接する機会が増すという教育的効果、ひいては教員採用上の効果 というメリットが期待される活動である。さらに、大学の地域貢献にもつな がり、スクールボランティアは、教育行政と大学、そして地域社会から大き な期待が寄せられている。以上の問題意識のもとに、本稿の大学生によるス クールボランティアとは、「学校、教育委員会、教育関連 NPO 等において、
それらの組織の指導のもとに大学生が主体性・自主性を持ちつつ行う教育支 援活動である。」と定義し、昨今の日本における動向を整理し、今後の課題 点について検討する。
ところで、もともと教育に関わるボランティアが導入されたころは、大学
生よりも保護者や地域の人々が活動の中心であった。たとえば、ボランティ
ア先進国である米国で学校に関わるボランティアが広まった 1970 年代の状
況を報告した志熊(1974)によれば、教員の補助にあたる「教室ボランティ
ア(Classroom Volunteer)」と、各自の知識や経験を子どもたちに紹介する「資
料提供ボランティア(Resource Volunteer)」のそれぞれに保護者が参加して
いたという。日本においても、1990 年前後に学校で活動していたのは、地
域住民や保護者であった。1986 年の臨時教育審議会第 2 次答申において「地
域に開かれた学校づくり」という文脈で地域人材の活用が求められたことが
日本における大学生スクールボランティアの動向と課題 嚆矢となり、1988 年の教育職員免許法改正、1996 年の第 15 期中央教育審議 会第 1 次答申へとこの流れは続いている(内海・堀・柏木 , 2001)。
そうしたなか、日本でボランティアという単語が身近になったのは、「ボ ランティア元年」とも呼ばれている 1995 年以降である(内海 , 2001)。この 年の “ 阪神・淡路大震災 ” という国民的経験により、ボランティアが一般に 知られるようになるとともに、大学生などが積極的にボランティアに参加す る社会風土が醸成された。これ以後、学生たちはサークル活動などを通して 様々な分野のボランティア活動に参加していくことになった。
さて、ふたたび教育関係に目を転ずるならば、障害児教育(特別支援教育)
の領域では若い労働力を必要とする独自のニーズがあり、ボランティアとい う名称が一般化する以前からボランティアと同様の活動が行われていた。そ の歴史の上に、教員養成大学の障害児教育研究室が中心になって構築した「函 教大ボランティアネットワーク」(斉藤・木村 , 1997)のような、大学が学 生のボランティア活動を制度的に支える仕組みが整えられていった。
以上の 1) 開かれた学校づくりに参加するボランティア、2) 大学生全体の ボランティア機運、3) 若い労働力としてのニーズ という 3 つの系譜を引き 継ぎながら 1990 年代後半に誕生したのが、教職志望の学生が教育現場で活 動する形態のボランティアである。まず、1995 年前後から、他の分野の学 生と同じく教職志望の学生たちも自主的なサークル活動やゼミ単位の活動を 通してボランティアを行い始めていた。一方、このころ、いじめや不登校、
学級崩壊などの諸問題によって、教員の指導力不足に対する批判が続いてい
た。批判の矛先はやがて、「座学中心」、「現場との乖離」という表現で教員
養成にも向けられた。これらに呼応して、国の政策としても、大学の自主的
な改革としても、教員養成におけるボランティアの意義が注目されるように
なった。詳しくは後に検討するが、教職志望学生によるスクールボランティ
アは、 「フレンドシップ事業」 (例:森・寺岡・柳澤 , 2003)や「放課後学習チュー
ター」(例:姫野・長瀬・小松・浦野 , 2005;羽賀・豊嶋・小山ら , 2006)等々 の政策により制度的な裏付けを得たこと、学力向上に関する社会的要請が高 まったことなどにより、急速に拡大した。
こうして大学生によるスクールボランティアは全国各地で実践が積まれ、
量的発展を遂げたとともに、質的多様性を内包しながら現在に至っている。
たとえば、ボランティア活動に対する単位認定の有無、手当ての有無、教職 課程カリキュラム改革との連動の有無、行政・地域社会との連携の方法、活 動の評価方法など、スクールボランティアには多様な形態がある。また後述 するように、名称も「スクールボランティア」「学校ボランティア」「学校イ ンターシップ」など様々である(滝沢,2006)。スクールボランティアが活 動の内容に関しても名称に関しても多種多様に存在し、実践報告や実践に基 づく調査研究報告が蓄積したいま、これらを整理し見取り図を描く作業が求 められている。
2.目的
日本において、スクールボランティアの実践が浸透しつつあり、実践例や 実践に基づく調査研究報告が成されている。しかしながら、包括的にレビュー を行った文献は見当たらない。また、実践と同時に課題点が指摘されている が、これらについて総合的に検討を行っている論文は見うけられない。ここ で、本稿は、これまでのスクールボランティアに関する実践研究およびカリ キュラム開発研究などをレビューすることにより、学生を支援するための大 学としての改善点や課題点を検討するものである。
3.日本におけるスクールボランティアの動向
3.1 スクールボランティア概念の整理
「1. 問題」で概観したように、スクールボランティアは内容や名称が多様
日本における大学生スクールボランティアの動向と課題 である。一般に「ボランティア」には、「自発性」「無償性」「公益性」とい う 3 つの条件が必要だと言われる(入江 , 1999)。しかし、これら 3 条件は いずれもきわめて理念的であり、解釈や運用には大きな幅がある。スクール ボランティアの多様性は、その幅に由来している。
たとえば「無償性」について、米国のスクールボランティアに関する統計 では「給与なしに、教師または学校職員の指導のもとで、生徒の教育を強化 するために学校の目標を支援する人」と定義されているが、実際には「年金 生活を送っている人の中には、小額の俸給をもらっている場合もかなり多い」
という(内海,1999, pp. 89-90)。また、一般的なボランティアを論じた金子
(1992)の「ボランティアは新しい価値を発見し、それを授けてもらう人(p.
151)」という意見に拠って、斉藤・木村(1997)は、スクールボランティア とは、「一言で言えば『若い労働力』として貢献し、『専門性を高めることが できる』という報酬を得る、ということになるだろう(p. 146)」と論じてい る。たしかに、教育・養成の枠組みにスクールボランティアを導入するなら ば、たとえ経済的な報酬がなくとも、学習あるいは成長という意味での報酬 が存在していることは前提と考えられる。しかし、学年、実習経験に応じて、
スクールボランティアから学生が得られる学習の報酬の “ 質 ” は異なり、適 切な大学側の支援があれば、原則的には学年の向上とともに専門性が高まる ものと考えてよいだろう。
他方、 「自発性」に関して岡(2008)は、もともと「ボランティア」と「教 育」(教員養成教育を含む)は矛盾する概念であることを認めたうえで、そ の矛盾を引き受けつつ「教育的手法」として両者をつなぐ試みとして現在の ボランティアを解釈し、「サービス・ラーニング」と呼ぶことを積極的に提 案している(サービス・ラーニングの概要は、佐々木 [2004] 参照)。それゆえ、
岡の構想では、大学生活の早期から一定の専門性のある職場にのみ学生のボ
ランティア活動を限ることの難点を鑑み、より専門性が高く(自発性は低く)
なる「インターンシップ」は上級学年に配置されている。ともあれ、岡も述 べているように、ボランティア経験を通した学びのプロセスをいかに保障す るかという問題がもっとも重要であり、教員養成カリキュラム全体の中にボ ランティアを位置づけることが重要である。そうした側面を重視するならば、
佐久間(2003)のように「長期恒常型の『教育実習』(p. 351)」として従来 の教育実習と比較しながら批判的検討を行う視点は貴重である。しかしそれ でもなお、自発性を重視し、ボランティア活動は「大学の授業の必修や単位 化に本来なじまない(p. 185)」とする松浦(2003)のような意見も傾聴する 必要がある。
1997 年に始まった国立の教員養成大学・学部における「フレンドシップ 事業」は、この多様性が拡大する時期と重なった。全国の国立の教員養成大 学・学部は、子どもとの触れ合い、というフレンドシップの目的に沿う活動を、
学生の自主性と大学の制度的指導とのバランスの上に成り立たせたため、ど ちらに重点を置くかによって、立ち上げられた事業に多様性が生まれた。た とえば梶原・小野・鈴木(2004)は、同一大学のフレンドシップ事業であっ ても異なる様態の活動が存在し、単位認定の有無をはじめ教学上の位置が模 索されている当時の状況を報告している。ただ、その後の教員養成 GP など を通して、フレンドシップ事業で多かった触れ合いイベント型から、教員養 成カリキュラム全体のなかに重要な位置を与えられるカリキュラム化の傾向 が増えたと言ってよいであろう。以上の考察から、スクールボランティアの
「カリキュラム制約性」 (あるいはその逆のとらえ方としての「学生の自発性」)
と、 「教職専門性」という 2 軸の平面にスクールボランティアの広がりをプロッ トした(Figure 1)。
ここでは、 「カリキュラム制約性」が低く「教職専門性」も低い「学生サー クル活動としてのボランティア」から、 「カリキュラム制約性」も「教職専門性」
も高い「サービス・ラーニング」や「インターンシップ」に向け、カリキュ
日本における大学生スクールボランティアの動向と課題 ラム化の圧力によるスクールボランティア概念の広がりが示されている。
Figure 1. スクールボランティア概念の広がり
3.2 スクールボランティアの活動形態
原・芦原(2005)は、大学生によるスクールボランティアの体験の有・無 と、必修の教育実習との体験の組み合わせにより、教職志望の目的意識や教 職に対するイメージなどについて相違があるか調査を行った。この調査に先 立ち、原・芦原は、スクールボランティアと教育実習との機能の違いについ て考察している。このなかで、両者の共通点としては、学生が学校現場で生 徒理解を深めることができる点や実践力が養われる点である。一方、決定的 な相違点としては、学生の「自主性」や「柔軟性」であることを指摘している。
この他に、「表I-1スクールボランティアと教育実習の相違点(原・芦原 ,
2005, p. 135)」の比較表では、1) 評価、2 単位認定、3) 免許取得に対しての
強制力、そして、 4) 記録(実習記録簿)、の全ての項目で、 「スクールボランティ ア」は「なし」であり、他方、「教育実習」は「あり」と明記されている。
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しかしながら、近年、創出されつつあるスクールボランティアのなかには、
例えば、玉川大学教育学部の「サービス・ラーニング(教育インターン)」、
および、それを改編させた神田外語大学の「学習支援活動ボランティア」(武
田 , 2008)のように、スクールボランティアが必修科目ではないものの、単
位認定制度が創出されている。この科目は、大学の正規授業であるので、記 録(実習ノート)の提出や評価(実習先の評価・大学の最終評価 [ 認定 / 不
認定 ])を伴う。また、報酬の点では、派遣先の育委員会や NPO 組織によっ
て相違があり、全くの無償の場合から、“ 上乗せ的な ” 交通費支給(均一金 額の場合も)や、時給を銘打ったものなど、いわゆる “ 有償ボランティア ” 形態を取るものも含まれている。このように、有償と無償の両者の境界はま すますあいまいになってきているといえるのではないだろうか。
スクールボランティアの活動内容は多岐に渡るが、その概要別に 6 類型化 を試みた(Table 1)。
Table 1
スクールボランティアの活動類型
類型 活動内容 実践例
1) 学校行事参加型 ・遠足引率や運動会の補助 玉井(2005)
2) 授業実施型 ・理科実験 安藤ら(2005)
3) 授業補佐型 ・補助教員
・放課後学習チューター 平田(1997);
松浦(2003)
4) 特別支援教育補
助型 ・「通級訓練教室」支援
・養護学校行事参加 羽賀ら(2001);
寺田(2005)
5) 校外支援型 ・不登校支援
・「適応指導教室」の学習支援や 自由活動の補助
羽賀ら(2001);
齊藤・木村(1997)
6) 地域社会連携型 ・「少年自然の家」のキャンプ参加 釜田・濁川(2004);
谷塚(2003)
日本における大学生スクールボランティアの動向と課題 Table 1 の説明としては、1)「学校行事参加型」:学生が校外学習や運動会、
バザーなどのPTA行事など、主に単発の活動; 2) 授業実施型:この例として、
神田外語大学の学生による千葉市内 5 つの小学校における総合学習の時間を 活用した学生主導の英語会授業活動、および、学生主体の「土曜スクール」 「放 課後チューター」などの課外学習活動;3) 授業補佐型:「ティーチングアシ スタント」としての授業補助や部活動支援型活動;4) 特別支援教育補助型:
特別支援を要する児童生徒に対する校内の適応指導教室、特別支援を要する 児童生徒の学習支援担当者、および日本語を母国語としない児童生徒ならび に保護者の通訳などを含む;5) 校外支援型(教育委員会教育相談センター や教育 NPO 機関における不登校・ひきこもり支援活動;そして、6)地域社 会連携型:高齢者施設訪問や(少年自然の家におけるキャンプ活動)など地 域社会に密着した活動補佐、などである。
6) に準じ、あるいは 1)・3) の要素を兼ね持つ複合例としては、学内と地域 社会とを “ 橋渡し ” するような地域社会連携型のボランティアも考えられる。
保住(2007)が紹介する川崎医療大学の「福祉学習サポーター」のように、
学生が小学校の総合的学習に出向き高齢者施設訪問活動を行う取り組みもあ げられる。また、遠足やPTAバザーなど学校行事参加の単発ではあるが、
一般市民と一緒に参画する取り組みも紹介されている(是枝・上田 , 2007)。
スクールボランティアの活動範囲は、以上のように多岐にわたり、また、
類型化が困難な複合的で自由度の高いかかわりを持っているケースもあるこ とが理解できる。これらの活動について、その依頼主と送り出す側の大学に おける学生の人的な支援ルートを Figure 2 に示した。この Figure 2 からは、
学生派遣の流れについて、単純化されてはいるものの、学校を核としたさま
ざまなルートが示されていることがわかる。
神田外語大学紀要第 21 号
The Journal of Kanda University of International Studies Vol. 21(2009)
Figure 2. スクールボランティアの参加形態
3.3. 教員採用と教員養成の構造的変化
これまでの教員養成モデルでは、大学が教職志望の学生を養成し、各教育 委員会が採用するという構図であった。そして合格者は、採用後に各配属校 で教師としての実践力を習得していった。しかしながら、大学の教育だけで は実践力を身につけることが必ずしも十分ではなく、このため、採用後の離 職者も増えていた実情がある。ここで、東京都教育委員会は全国に先駆けて、
2004 年に都教育委員会独自の教員養成と採用とを実質上合体させた「東京 教師用成塾」を創出させ、実践的な指導を試みている。つまり、これは、養 成段階から教育委員会が教員志望者に対してコミットしていることを示して いる。ここで、高野(2005)が考察しているように、スクールボランティア 参加者も、教員採用に深く関係する東京都の試みのように、採用的な意味合 いで教育委員会から認知されることも予想されることを指摘している。この 状況は、卒業後直ぐに採用するよりも、採用前に、現場からの学生のボラン ティア態度の情報を教育委員会が把握することも可能であるという点では貴 重な情報源になるであろう。また、採用される側の学生にとっても正採用さ
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