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中等教育におけるサービス・ラーニングに関する一考察

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中等教育におけるサービス・ラーニングに関する一考察 

中学校および高等学校における総合的な学習の時間への示唆 

A Study on Service-Learning in Secondary Education:

Suggestion for the Period of Integrated Studies at Junior High School and High School in Japan

加藤  智(Satoshi Kato)

1  はじめに−問題の所在と研究の目的− 

我が国では,2002年度より小学校および中学校で,2003年度より高等学校で「総合的な学習の 時間」が実施されている。しかし,「ゆとり教育」の象徴とみられてきたために,様々な批判を受 け,2008年の学習指導要領の改訂に伴い授業時数が削減された。こうした影響もあり,とりわけ 中学校や高等学校における総合的な学習の時間の取り組みは低調であり,この時間に関する調査 研究も不足している。 

2017年(高等学校は2018年)に改訂された学習指導要領では,「カリキュラム・マネジメント」

の重要性が指摘されている。カリキュラム・マネジメントは総合的な学習の時間との親和性が高 いことが指摘されている1)。それゆえ,より専門性が高くなる中学校や高等学校において,総合的 な学習の時間(2019年度より高等学校では「総合的な探究の時間」となるが,本稿では総合的な 学習の時間とする)の充実が一層求められている。 

さて,米国では,総合的な学習の時間と多くの共通性を有するサービス・ラーニング(Service- Learning,以下,SL)が1980年頃から実施されている。本稿では,中等教育(ミドルスクールお よびハイスクール)のSLに関する研究として,全米レベルの最初のSLに関する評価研究である ラーン&サーブアメリカ全米調査“National Evaluation of Learn and Serve America”  2)(以下,全米評 価)を取り上げる。全米評価は,ミドルスクールおよびハイスクールを対象に,ラーン&サーブ アメリカがブランダイス(Brandeis)大学に委託して行った調査であり,メルキオー(Melchior)

らによってまとめられた。全米評価に関しては,文部科学省による調査研究3 ) や,ガットマン

(Gutman)らによる非認知的スキル(non-cognitive skills)に関する研究4) においても部分的に 取り上げられているが,全米評価は1年後の影響についても追跡調査をしているほか,SLを実施 した学校や教員に関する報告も盛り込まれており,これらの報告について取り上げている論考は 少ない。そのため,全米評価が発表された1999年から四半世紀が過ぎようとしているが,我が国 の中等教育(中学校および高等学校)の総合的な学習の時間を充実させるための方策を考える上 で貴重な資料となると考えた。 

  そこで本稿では,全米評価の結果を概観し,その考察から,我が国の中等教育における総合的 な学習の時間の有する可能性について検討し,総合的な学習の時間およびカリキュラム・マネジ メントの充実のために必要な手立てについて論じたい。 

(2)

 

2  全米評価について

 

  ラーン&サーブアメリカは,1993 年,国家およびコミュニティ・サービス信託法(National and Community Service Trust Act)が制定され,学齢期の若者がコミュニティ・サービスにかかわるた めの学校やコミュニティの取り組みを支援するために設立された。ラーン&サーブのプログラム は,ナショナルサービス公社(CNS:Corporation  for  National  Service,現在は CNCS:

Corporation for National and Community Service)によって運営され,それぞれの州や国家的 な組織,学校区,学校,コミュニティの組織に助成金として資金を提供した。プログラムが実施 された最初の年度である 1994 年から 1995 年の間に,公社は約 30,000 万ドルの助成金を授与 し,2,000 以上の地域の取り組みを支援し,75 万人以上の青少年が SL にかかわった。

1991年から1997年の間に,ブランダイス大学人材資源センター(Center for Human Resource)

とAbt  Associates社は,ナショナルサービス公社の委託を受け,学校およびコミュニティに基づ くプログラムの評価を行った。ラーン&サーブ全米評価の目的は,「プログラム参加者へのプロ グラムの影響は何か?」(ラーン&サーブのプログラムは,どのように参加している生徒に市民 的,教育的,そして社会的なスキルや態度に影響を与えたか?),「学校に参加するラーン&サー ブのプログラムの制度的な影響は何か?」(ラーン&サーブの助成金は,SLの機会を拡大したり,

サービスを学校に統合したりすることに役だったか?),「ラーン&サーブのプログラムがコミュ ニティに与える影響は何か?」(彼らはコミュニティに必要なサービスを提供し,学校とコミュ ニティ機関の間の協働を強化するのに役立ったか?),「ラーン&サーブへのリターン(ドル換 算)は何か?」という4つの根本的な問いに答えるために設定された5)。 

評価にあたっては,様々な質的・量的手法を用いて9州17地域のミドルスクールおよびハイス クールで行われたラーン&サーブのプログラムを分析した。これらには,およそ1,000名のラーン

&サーブのプログラムの参加者と比較群,17校の学校の教員の調査,生徒がサービスをしたコミュ ニティ機関との電話インタビュー,そして現場でのインタビューとプログラムの活動の観察など の調査データの分析が含まれる。評価は主に1995年から1996年の学年の期間に焦点化しており,

1997年の春には教員の追跡調査が行われた。

研究のための場所を選択する際に,評価では,理論的に確立され,適切に策定された SL のプロ グラムの特徴を実演している「完全に実行された」SL のプログラムに焦点を当てた。選ばれたプ ログラムの特徴は以下のようにまとめられる。

・ 生徒たちは,かなり長時間,直接的なサービスに参加していた。個々のプログラムの時間は大き く異なっているが,平均して,評価対象の生徒は,直接的なサービスを 70 時間以上提供してい た。こうしたサービスのほとんどは,教育や福祉に関係するプロジェクトであり,介護施設やホー ムレスシェルターで,チューターや教員の助手として働いていた。 

・  総じて,サービスは,サービスの受け手に直接手を触れるような,直接的に関わる体験を含んで いた。 

・  大多数の生徒(76%)は,少なくとも何らかの形で,サービスの受け手と直に触れ合い,生徒や 年配の市民と直に接していた。多くの生徒(60%)の場合,サービス体験には,個別に割り当て られたサービスとグループプロジェクトが含まれていた。 

(3)

・  サービスに振り返りが含まれていた。76%の参加者が,授業にサービス体験について討議する時 間が確保されていたと報告し,44%は,日誌を記録していたと報告している。本調査の質問では 回答を得てないが,多くのプログラムが,その他の文書形式による振り返り(小論文,報告書,

プレゼンテーション)を用いていた。 

・  サービスには,質の高いサービス体験の要素が含まれていた。60%以上の生徒が,自分たちのサー ビスには大きな責任があり,自力で物事に取り組むチャンスが与えられ,多様な業務があり,討 論の機会も含まれ,自身の考えを発展させて活用する機会もあったと報告した。80%近くは,自 分たちが貢献できたという感想を報告した。6)

選択されたすべてのプログラムは,調査時において1年以上活動されており,平均的なサービ スの時間よりも長い時間報告されており,また,定期的に書面あるいは口頭のリフレクションが 用いられていた。すべては学校を基盤とした取り組みであり,学校の正規のカリキュラムに関連 していた。さらに,研究対象となったプログラムは,国内のラーン&サーブのプログラムが極め て多様であることを反映していた7)

表1は,評価対象の SL 参加者の特性を示したものである。生徒たちは,年齢,民族,社会経済 的背景,過去の SL の経験等,多様性に富んだ若者グループであった。

表1  研究対象の SL 参加者の特性 

特性 割合(%)

性別 男子 40% 

女子 60% 

人種・民族

白人 58% 

黒人・アフリカ系アメリカ人 17% 

ヒスパニック系 19% 

アジア系 2% 

ネイティブアメリカン 1% 

多文化 3% 

その他

経済的弱者 38% 

教育的弱者 30% 

過去6ヶ月間の非行を申告した者(喧嘩,武器の使用,傷害など) 29% 

前年に SL クラスに参加した者 45% 

608名の参加者に関するベースライン調査および学校記録データに基づく Melchior, A. (1999) p.4 より筆者作成 

  全米評価は,すべてのラーン&サーブのプログラムの平均的な影響を検討するようには策定さ れていないことを認識する必要がある。むしろ,ラーン&サーブのプログラムの上位層と考えら れるものについての報告である。これらのプログラムの結果は,プログラムが成熟し,システム 全体で実施が改善するにつれて,SL の潜在的効果が表れると見なすことが適当である。 

 

3  SLが参加者に与えた「短期的な影響」

 

全米評価では,SLの影響を表2のように分類して調査した。 

 

(4)

表2  評価に用いられた結果判定項目 

市民的・社会的態度 

• 個人的・社会的責任感 

• 文化的多様性の受容 

• サービスリーダーシップ 

• 市民意識複合スケール(個人的・社会的責任感,文化的多様性,サービスリー ダーシップを合わせたスコア) 

ボランティア活動  • 過去6ヶ月間におけるボランティア活動への参加 

• 過去6ヶ月間におけるボランティアサービスのおおよその時間 

教育上の影響 

• 学業能力 

• スクールエンゲージメント 

• 個々の科目成績(英語,社会,数学,科学) 

• 主要科目の平均点(英語,社会,数学,理科の合計) 

• 全科目の平均点(選択科目,その他の科目を含む) 

• 1科目または複数科目の落第 

• 欠席日数 

• 停学 

• 進学希望(4年制大学への進学希望) 

• 家庭学習時間(週3時間以上) 

社会性の発達  • コミュニケーション能力 

• 仕事の志向 

非行への関与 

• 過去30日間におけるアルコールの摂取 

• 過去30日間における違法薬物の使用 

• 過去6ヶ月間における逮捕 

• 過去に妊娠したあるいは誰かを妊娠させたことがある。 

• 過去6ヶ月間における喧嘩,傷害,武器使用  Melchior, A. (1999) p.8 より筆者作成 

 

  表3は,表2の結果判定項目について,SL参加者に見られた短期的な影響についてまとめたも のである。「市民的・社会的態度」への影響は,調査対象のハイスクールの生徒において最も顕 著であった。ハイスクールのSLプログラムの参加者は,サービスリーダーシップおよび複合的市 民意識スケールには有意な影響を示し,多様性への意識に対する影響では,有意傾向を示した。

対照的にミドルスクールの生徒は,市民意識の判定においてやや向上したが,統計的に有意な結 果を示した項目はなかった。ラーン&サーブプログラムは,市民意識に肯定的な効果を与えたが,

その影響は全体として小さく,参加者と比較群のスコアには,5%以内の差しか見られなかった。

理由の一つとして,大部分の若者が当初より市民的責任感を発達させていたことを反映している ためである。その点を踏まえると,SLプログラムは,生徒に市民意識をゼロから植え付けるので はなく,市民意識を高めるものとして理解されるのが妥当だろう。 

ラーン&サーブプログラムは,プログラムの全参加者に対し,ボランティアサービスへの参加 について,有意と認められる肯定的な効果を与えている。プログラム参加者は,プログラムに参 加しなかった生徒より,何らかのボランティアサービスに参加し,より長時間サービスに貢献す る傾向が著しく高かった。ハイスクールおよびミドルスクールのいずれの生徒も,サービス活動 への参加は増加したが,ハイスクールの生徒の方が,より大きな影響を示していた。ハイスクー ルの参加者は,比較群より3倍の時間(参加者は約75時間,比較群は約25時間)をボランティア サービスに費やした。 

(5)

表3  SL 参加者に見られた短期的な影響 

特性  全参加者  ハイスクールの 

参加者 

ミドルスクール の参加者  市民的・社会

的態度 

文化的多様性の受容  ✓*

サービスリーダーシップ 

市民意識複合スケール 

ボランティア 活動 

過去6ヶ月間におけるコミュニティ組織でボランティア活

動をした,あるいは他のコミュニティ・サービスへの参加 過去6ヶ月間におけるボランティア活動あるい

はコミュニティ・サービスを行った平均時間 

教育上の影響  スクールエンゲージメント 

数学の成績 

社会の成績 

科学の成績  ✓* ✓*

主要科目の平均点  ✓*

1科目または複数科目の落第 

社 会 性 の 発 達 ・ 非 行 へ の 関与 

過去6ヶ月間における逮捕 

過去に妊娠したあるいは誰かを妊娠させたことがある。 ✓* ✓*

✓は,統計的に有意と認められる肯定的な効果を示している(.05 または.01 レベルに有意である)

✓*は,有意傾向と認められる肯定的な効果を示している(すなわち.10 レベルに有意である) 

Melchior, A. (1999) p.11 より筆者作成   

学習態度や学業成績への影響を見ると,ハイスクールの生徒は,ミドルスクールの生徒よりも やや幅広い項目で有意な効果を示し,スクールエンゲージメント,数学の成績,落第科目に対し ては肯定的な結果を示し,科学の成績に対する影響については,有意傾向が示された。ミドルス クールの生徒は,社会,数学,科学,主要科目の平均点において成績の上昇が見られたが,社会 の成績上昇のみが統計的に有意であった。これらの結果から,SLが生徒の学習態度や成績に著し く肯定的な効果を与えていると結論付けるのは困難である。しかし,複数の判定(スクールエン ゲージメント,科目成績,主要科目の平均点)に影響が見られたという事実は,SLが学習態度や 学業成績に多少なりとも肯定的な効果を与えていることを示唆している。SLを契機に生徒が学校 に一層関与するようになり,その結果として,少なくとも幾つかの授業において成績の向上が見 られたと説明できるだろう。 

ミドルスクールの生徒を見ると,非行への関与に対する影響では,逮捕に関し統計的に有意な 影響を示し,十代での出産への影響については,有意傾向を示した。より年少の若者には,適切 に策定されSLプログラムが,少年の非行を減少させる役割を担う場合があることを示唆している。

さらに広く見ると,ミドルスクールの生徒に対する影響と参加者の十代の出産に関する僅かな影 響は,総じて,SLがより総合的な教育活動における役割を担っている可能性があることを示唆し ている。脱落の恐れのある若者を対象としたプログラムには,コミュニティ・サービスやSLが全 体的な構成に加えられるものが増えており,これらのプログラムの複数の評価から,非行が著し く減少していることがわかる。サービスのみでは,非行への関与を劇的に減らす可能性はないが,

ここでのデータは,他の様々なプログラム戦略において,役割を担っている可能性があることを 示唆している。 

(6)

4  SLが参加者に与えた「1年後の影響」

 

全米評価の目的の一つに,SLにどのような長期的影響を期待できるかを明らかにすることが あった。すなわち,プログラムに参加した翌年では,市民意識や行動,あるいは学業成績への影 響は,どの程度残っているのか,そして,こうした長期的な影響は,継続してサービスに参加し ている若者と,継続していない若者との間で異なるのか,という問いに対する答えを導き出すこ とである。そのために,1996年から97年の年度末に,1年間の追跡調査が実施された。プログラ ム参加者と比較群について,初めてプログラムに参加してから1年後に調査を実施し,まだ学校 に残っている生徒の学校記録を分析した(表4)。全米評価は,参加者と比較群を合わせて764名 に関する追跡情報を収集した。これは元の調査対象の72%に相当する。 

当初のプログラムの終了から1年後,プログラム終了時に見受けられた影響は多くが消えてい た。参加者グループ全体をみると,追跡調査から,サービスリーダーシップ,スクールエンゲー ジメント,科学の成績の3項目の判定に対してのみ,肯定的な効果の有意傾向が認められた。プ ログラム参加者は,引き続き,比較群よりも長時間ボランティアサービスに従事していたが,両 グループの差はかなり縮小され(約2.3倍から約1.5倍となった),有意差は認められなくなった。

有意な影響が認められた範囲でも,参加者と比較群の差は縮小し,サービスリーダーシップとス クールエンゲージメントの判定では,その差は3%未満だった。一方で,科学の成績の差はさらに 有意となった(約11%)。 

(1)ハイスクールとミドルスクールの違い 

表4では,プログラム後の結果と同様に,ハイスクールの生徒はミドルスクールの生徒よりも より多くの影響を示す傾向が見られた。ハイスクールの生徒は,サービスリーダーシップと科学 において肯定的な効果を示し,統計的に有意であったが,スクールエンゲージメントとボランティ アサービスの時間への影響は,有意傾向が認められる程度であった。追跡調査の期間中,ハイス クールの生徒は,比較群のおよそ2倍の時間を継続してボランティアサービスに提供しており,

科学の成績の差は約15%と顕著であった。ミドルスクールの生徒については,逮捕に関する項目 が唯一持続した影響と認められた。 

 

表4  追跡調査によって明らかとなった SL 参加者に残された影響 

特性  全参加者 ハイスクールの 

参加者 

ミドルスクール の参加者  市民的・社会的態度  サービスリーダーシップ  ✓*

ボランティア  過去6ヶ月間におけるボランティア活動あるい

はコミュニティ・サービスを行った平均時間  ✓*

教育上の影響 

スクールエンゲージメント  ✓* ✓*

英語の成績  - -

科学の成績  ✓*

非行への関与  過去6ヶ月間における逮捕  ✓*

✓は,統計的に有意と認められる肯定的な効果を示している(.05 または.01 レベルに有意である)

-は,否定的な影響を示している 

✓*は,有意傾向と認められる肯定的な効果を示している(すなわち.10 レベルに有意である) 

Melchior, A. (1999) p.17 より筆者作成   

(7)

(2)英語の成績への影響 

追跡調査による分析で,参加者グループ全体とハイスクールプログラム参加者に統計的に有意 と認められる英語の成績への否定的な影響が確認された。なお,ミドルスクールの参加者も,英 語の成績が低下したが,有意差は認められなかった。メルキオーらはこの結果について,追跡調 査時の参加者の英語の成績が,ベースライン時の比較群のそれよりも遥かに高かったことに注目 している。つまり,前者の成績が相対的に低下したものの,その低下に関わらず,比較群の成績 よりも依然として高かったのである。この特殊な結果について,メルキオーらは,「サービスに 参加した生徒たちは,より一層学校に関わるようになり,その結果,彼らが普段奮闘していた科 目(例えば,数学や科学)ではよい結果を出したものの,サービスに参加するようになって,す でに好成績だった科目は,やや「惰性で」取り組むようになった可能性がある。」8)と指摘してい る。サービスにより,生徒たちが学校教育から関心を逸らされるという考えは,常にSLの批判へ の懸念となっている。しかし,英語の成績が低下してはいるものの,科学とスクールエンゲージ メントには肯定的な効果を与えたという事実は,サービスへの参加が,必ずしも学業成績に否定 的な影響を与えるわけではなく,全体としてSLが学業成績への「小さな恩恵」をもたらすことを 示唆している。 

(3)リピーターと非リピーターの影響 

全米評価では,追跡調査の一環で,追跡調査の年度中に組織立ったサービスに引き続き参加し ていた参加者(リピーター)と,参加していなかった参加者(非リピーター)に対する効果の差 も検討した(表5)。追跡調査時の影響は,おしなべて限定的であったが,組織立ったサービス プログラムに引き続き参加していた参加者には,より長期にわたって効果が現れる傾向が見られ た。組織立ったサービスに引き続き参加した生徒は,サービスリーダーシップ,ボランティアサー ビス時間,スクールエンゲージメントの3項目の結果において,統計的に有意と認められる肯定 的な効果を示し,ボランティアサービスへの参加,進学希望,アルコールの摂取に対する効果は,

有意傾向を示した。 

表5  追跡調査時のリピーターと非リピーターによる SL 参加者に残された影響の違い 

特性  全参加者 リピーター  非リピーター

市民的・社会的態度  サービスリーダーシップ  ✓*

ボ ラ ン ティ ア   活動 

過去6ヶ月間におけるコミュニティ組織でボランティア活

動をした,あるいは他のコミュニティ・サービスへの参加 ✓*

過去6ヶ月間におけるボランティア活動あるい

はコミュニティ・サービスを行った平均時間 

教育上の影響 

スクールエンゲージメント  ✓*

英語の成績  - -

科学の成績  ✓* ✓*

4年制大学またはそれ以上の進学希望  ✓*

非行への関与  過去 30 日間におけるアルコールの摂取  ✓*

✓は,統計的に有意と認められる肯定的な効果を示している(.05 または.01 レベルに有意である)

-は,否定的な影響を示している 

✓*は,有意傾向と認められる肯定的な効果を示している(すなわち.10 レベルに有意である) 

Melchior, A. (1999) p.18 より筆者作成   

(8)

これらの結果は示唆に富むが,多くの疑問が残っている。なぜ生徒がSLを継続しているのか,

あるいはしていないのかも,詳細に報告されていない。したがって,結果の解釈には慎重でなけ ればならない。しかし,この結果は,サービスに引き続き参加している生徒たちが,サービスの 経験を通して大きく成長する可能性が高いことを示唆している。同時に,SLへの短期的な一度の 参加は,強い持続的な効果を生じにくいということも示唆している。少なくともこの点において,

参加した若者に長期的な効果をもたらすためには,SLを継続的に実施する必要があることが推測 される。 

(4)サブグループ間の影響 

最後に,追跡調査時には,複数のサブグループ間で,その影響に著しい差が見られた。非白人 種と教育的弱者の参加者については,それ以外の生徒(すなわち,白人生徒及び教育的弱者では ない生徒)よりも,SLへの参加により,学業成績(すなわち,評点及び科目の合否)の判定にお いて,非常に肯定的な効果が得られた。少なくともこの結果は,教育的弱者の生徒たちや他の方 法では学校で好成績を残せない生徒にとって,SLが極めて効果的な戦略になり得ることを示唆し ている。さらに一般化して言うならば,この結果は,特定階層のグループに限定される可能性は あるが,SLへの参加により,幾つかのグループの生徒たちは他のグループの生徒たちよりもSLの 学問上の効果を強く受けることとなり,彼らにとってSLは学業成績を向上させる可能性があるこ とを示している。 

 

5  SLがコミュニティに与えた影響

 

  150のコミュニティ機関との電話インタビューによると,ラーン&サーブのプログラムはコ ミュニティに非常に多くのサービスを提供していた。まとめると,17ヶ所の研究対象のコミュニ ティの組織は,1,000人以上のラーン&サーブの生徒が各学期に300以上の特色あるプロジェクト や活動に参加し,年度中およそ154,000時間ものサービスを提供したと概算した。主催団体のイ ンタビューデータによると,平均して生徒は各学期60時間以上のサービスを提供したことになる。 

  生徒たちが行ったサービス活動には,幅広い活動が含まれていた。プロジェクトの約90%は,

教育サービス及び福祉サービスであり,チューターを務めたり,教員の補助としてサービスした り,介護施設や成人向けデイケアセンターで働いたりすることが含まれていた。環境プロジェク ト(リサイクル運動,地域改善運動)と治安維持プロジェクトは,同程度実施された。 

(1)サービスの質の評価 

生徒たちの支援を受けた学校やコミュニティ機関によると,ラーン&サーブプログラムの活動 は,非常に高い評価を得ていた。 

・  99.5%のコミュニティ機関は,地域のラーン&サーブプログラムの全体的な経験を「良い」または「非常に 良い」と評価した。 

・  97%のコミュニティ機関は,なされた活動に対し,少なくとも最低賃金水準の賃金は支払うと回答した。 

・  96%のコミュニティ機関は,またプログラムの参加者を利用するつもりだと回答した。9) 

コミュニティ機関は生徒たちの行った活動の質を,1点を「認められない」,10点を「最高」

とする10段階で,8.6点と評価した。 

(9)

(2)コミュニティ機関とコミュニティへの影響 

ラーン&サーブのプログラムの参加者の取り組みは,生徒がサービスを提供したコミュニティ 機関によると,コミュニティ機関とサービスの受け手の両方に対しても影響を与えていた。 

・  90%のコミュニティ機関が,ラーン&サーブの参加者は,顧客やコミュニティへのサービス改善に役立った と回答した。 

・  68%のコミュニティ機関は,ラーン&サーブの参加者の利用は,コミュニティ機関の新規プロジェクトに乗 り出す能力を高めてくれたと回答した。 

・  66%のコミュニティ機関は,ラーン&サーブへの参加によって,ボランティアの生徒を利用することに関心 が高まったと報告した。 

・  82%のコミュニティ機関は,ラーン&サーブプログラムは,コミュニティ内の若者に肯定的な認識を持つの に役立ったと報告した。 

・  66%のコミュニティ機関は,ラーン&サーブが公立学校と協力することにより積極的になるのを促したと回 答した。 

・  56%のコミュニティ機関は,プログラムへの参加により公立学校との間に新たな関係を築くことができたと 回答した。10) 

コミュニティ機関は,顧客に対する直接的な利益も報告している。生徒たちが教育関連サービ ス(チューターや生徒の補助等)を提供した75%のコミュニティ機関は,生徒たちが,支援を受 けた若者のスキル水準やエンゲージメント,自尊心を高めるのに役立ったと報告した。高齢者へ のサービスや健康関連サービスのプログラムにおいては,インタビューを受けた約65%が,交流 や社会的相互作用,一人一人に合わせた一対一のサービスの提供により,高齢者の気分や意欲,

生活の質を高めるのにプログラムの参加者が貢献したと報告している。 

(3)投資利益率 

SLプログラムの費用と利益を見積もるには,多くの困難が立ちはだかるが,研究対象のプログ ラムのようにSLプログラムが適切に策定されている場合,その利益がプログラムの費用を大きく 上回るのは明らかである。調査対象における参加者一人当たり平均プログラム費用は,149.12ド ルだった。この金額は,ラーン&サーブ助成金,マッチングファンド,プログラムの運営費用を 加え,これをプログラム参加者数で除したものである。一方で,プログラム参加者が提供するサー ビスの平均的な価値を概算すると,一時間当たり8.76ドルだった。この概算額は,同等の質の同 種の業務を同等の生産性で依頼するものとして,主催したコミュニティ機関が見積もった金額に 基づいている。参加者一人当たりのサービスの平均的な価値の概算額は,585.87ドル(時給8.76 ドル,参加者一人当たりのサービス時間を平均66.88時間とする)となる。この投資による費用便 益を概算すると,およそ4対1(585.87ドルを149.12ドルで除す)となる。平均して,評価対象 のSLプログラムの参加者は,プログラムの費用の4倍近い価値のサービスをコミュニティに提供 したことになる。参加者の態度の向上や学業成績の向上を金銭的価値に換算することはできない が,いずれにせよ,SLという公共投資が,最終的に大幅な利益をもたらすことは,疑いようもな い事実であろう。 

 

6  SLの学校への統合

 

ラーン&サーブのプログラムの目的の一つは,学齢期の若者にSLの新たな機会を設けることで

(10)

あり,SLを教育プロセスに統合することによりこれを実現することである。この点において,ラー ン&サーブの助成金は,2つの基本的な目的があるものとみなすことができる。すなわち,恒久 的な学校・コミュニティベースのSLプログラムを開発すること,そして,さらに大々的にSLを学 問的なカリキュラムと指導に大きな規模で統合することである。 

(1)学校におけるサービスの組織化 

非常に多くの点で,評価対象のラーン&サーブの取り組みは,SLの機会を確立あるいは拡大す るという基本的な目的を満たしていた。評価対象の17ヶ所中15ヶ所において,追跡調査の年度中 もSLプログラムが実施されており,その15ヶ所すべてが,ラーン&サーブ助成金の終了後も,SL を継続することを予定していた。 

複数の評価対象で,ラーン&サーブ助成金がSLの拡大を促進していたことが報告されている。 

・  ある地域では,当初はハイスクールのSLコーディネーター向けのラーン&サーブ助成金だったものが,地域 全体の取り組みにつながり,地域レベルのコーディネーターの採用や地域の全学校へのSLの活動の拡大にも 及んだ。 

・  別の地域では,助成期間中,当初のラーン&サーブのプログラムの規模が2倍にふくらみ,プログラム参加 者が組織した定期的な学校全体のサービス活動が開始された。新たな助成に基づき,プログラムコーディネー ターは,関心を持っている教員と協力し,SLをハイスクールにおいて追加の10科目に統合し,地域のミドル スクールと小学校にもSLプログラムを設立した。 

・他の2校のハイスクールでは,SLの教員が第2のSLクラスを追加することでサービスを拡大し,別のコミュ ニティでは,ミドルスクールのSLコーディネーターがハイスクールに異動して,脱落の恐れのある若者向け のハイスクールプログラムにサービスを統合する支援を行った。11) 

結局,17ヶ所の評価対象のうちの9ヶ所でSLの拡大が確認された。しかしほとんどの場合,SL をより広く学校へと統合するような政策レベルの努力が行われたというよりも,その場限りで拡 大したと評価すべきである。SLの質を向上させ,拡大させるような組織的な努力を教員たちが行っ た学校は稀であった。 

(2)教員の意見とサービスに対する支援 

ラーン&サーブの助成金を受けた学校では,SLへの手厚い支援があった。評価期間の開始時と 終了時の双方において,教員たちは,SLと教育におけるその潜在的役割について,全般的に肯定 的な意見を報告した。ここでは,調査終了時(1997年春)の数値を用いる。 

・  調査対象の教員の90%以上は,SLを生徒たちの学校への意識を改善し,キャリア意識を高め,生徒の自尊心 を高め,生徒の社会性の発達を促し,コミュニティにおける問題に参加させる手段とみなしていた。 

・  80%以上の教員は,SLが学業成績を向上させ,社会正義問題に触れる機会を増やす可能性があるという感触 を持った。 

・  70%の教員は,SLは生徒の薬物使用や飲酒に対し,肯定的な効果をもたらすとの考えだった。 

・  ほとんどすべての教員(95%)は,生徒たちにコミュニティ・サービスへの参加を奨励すべきとの意見だっ たが,サービスを義務付けるべきと考える教員は半数のみだった。12) 

(3)SLの利用を高めるための取り組み 

SLのコンセプトには幅広い支持があるものの,学校内でSLの利用と質を高めるための公式の取 り組みは限定されていた。というのも,全米調査の対象となった複数の現場では,他の生徒や学 校にサービスプログラムを拡大させていたが,教員にSLについて教え,情報を与える正式な措置 を講じた学校はほとんどなかったのである。 

(11)

・ どのようにして,学校におけるラーン&サーブのプログラムを知ったかを問うと,ほとんどの教員(77%)

は,他の教員から口伝てに聞いたと回答した。教員会議でのプレゼンテーションでプログラムを知ったのは 半数以下で,3分の1は回覧やニュースレター,通知文書で知っていた。 

・  1997年春の時点で,SLに関する研修や専門的能力開発訓練に参加したと報告した教員は,評価現場の教員の たった27%で,そのうち1日ワークショップに1回以上参加したと報告した教員は24%のみだった。つまり,

1日以上の研修を受けた教員は,調査対象の7%に満たなかった。13) 

専門的能力開発がどの程度実施されたかは,学校種によって大きく異なる。ミドルスクールの 教員は,ハイスクールの教員に比べ,何らかの専門的能力開発の活動に参加する傾向が高かった

(前者は35%,後者は24%)。学校全体でプログラムを実施していた学校の教員は,限定的なSL プログラムを行った学校の教員よりも,専門的能力開発の活動に参加する傾向が3倍程度高かっ た(前者は47%,後者は17%)。サービスへの支援となる専門的能力開発の活動は,SLに全校と して取り組んでいる学校においてより多く実施される傾向があることが明らかとなった。 

(4)教員の間でのSLの利用 

教室におけるSLの利用も,学校種により大きく異なっていた。教室においてSLを利用したと報 告した教員は24%で,ミドルスクールの教員の利用率は,SLの平均利用率よりも高く(36%),

教室でのサービスの利用は,ハイスクールの場合(18%)の2倍と報告されている。SLの利用は,

全校としてSLに取り組んでいる学校の教員の間で最も高く(41%),単一のSLコースを設置して いる学校の利用率(15%)の3倍に近い高い利用率であった。 

(5)SLの組織化の長所と短所 

ほとんどの学校,とりわけ,単一の授業やプログラムに焦点を絞ったサービスに携わっている 学校では,SLへの取り組みは,教員による小規模のグループの間に集中している。学校でSLの利 用を拡大するために,正式に組織立った取り組みに着手した現場は,比較的まれで,正式に訓練 を受けた教員もほとんどいなかった。 

  広範な影響がなく,統合も行われないため,SLに対する積極的な反対も見られないが,そのこ とが,大なり小なり学校内に組織的な変革を引き起こすための障壁となる可能性は高い。教員や プログラムスタッフ,管理者とのインタビューによると,この障壁には以下のものが含まれる。 

・  専門的能力開発のための資金や時間の不足(四半期で1日未満の場合が多い)。 

・  専門的能力開発の優先順位の競合。 

・  新しい内容基準と卒業要件を満たすことへの懸念。 

・  教員が計画をたてる時間が不足していること。 

・  物流上の問題と融通のきかない学校スケジュール。 

・  SLよりもコミュニティ・サービスが引き続き重視されていること。14)   

7  我が国の中等教育における総合的な学習の時間への示唆

 

  ここでは,全米調査で明らかとなった結果を,我が国の中等教育(中学校および高等学校)の 総合的な学習の時間およびカリキュラム・マネジメントと関連させながら考察したい。 

(1)総合的な学習の時間における教育効果をどのように捉えるか 

  全米調査では,ハイスクールとミドルスクールとの比較において,ミドルスクールよりもハイ スクールにおいてSLの影響が多く示されていることが報告されている。この結果をそのまま受け

(12)

取るのであれば,中学校よりも高等学校の方が総合的な学習の時間の実施が効果的ということに なるだろう。確かに,ハイスクールにおけるSLの効果が示されたことは,大いに意義のあること だと言えよう。その一方で,全米調査では,ミドルスクールにおけるSLの効果に関しては十分に 検討されているとは言い難い。

  全米調査に関して考慮しなければならない点は,追跡調査が1年後に行われていることである。

当時においてはSLの長期的な影響を測る調査として評価できるものであるが,年齢が高く,社会 とのつながりが多いハイスクールの生徒の方が,ミドルスクールの生徒に比べてSL の影響が出 やすいのは当然とも言えよう。ミドルスクールの生徒のSLの影響を測定するのであれば,さらに 長期に渡る調査が必要になるであろう。この点については,近年注目されている「非認知的スキ ル」の育成が生涯の社会的な成功に大きく影響していること,そして,その育成には幼児期の教 育が重要であることが指摘されていることからも明らかであろう15)。 

  さて,総合的な学習の時間では,ここで論じた教育効果に関する評価や検証がどの程度なされ ているだろうか。全国学力・学習状況調査16) や,日本生活科・総合的学習教育学会が行った調査 研究17) などがあるが,いずれも短期的な効果の測定と言えよう。より長期的な教育効果の評価や 検証を実施するためには様々な障壁を乗り越える必要があり,その方策について現状では提案で きる段階にはない。しかし,少なくとも総合的な学習の時間の教育効果について,短期的に現れ るものは非常に限定的であることは理解しておく必要があるだろう。 

(2)教育的支援を要する生徒のニーズに応えられる総合的な学習の時間の可能性 

  全米調査では,教育的弱者の参加者にとってSLへの参加が非常に肯定的な効果が得られたこと が明らかになっている。この点は,総合的な学習の時間においても重要な指摘である。中学校や 高等学校では,小学校に比べ,学力差が表面化する傾向が高くなり,特に低学力層の生徒に対す る支援は十分に行われているとは言い難い状況にある。このような生徒の多くは自己肯定感や自 尊感情が低く,さらなる学習意欲の低下を引き起こしている。SLは学業成績を直接的に高めるも のではないが,教育的支援を要する生徒にとって,総合的な学習の時間がもつ可能性は少なくな いと言えるだろう。 

(3)継続的・持続的な社会への参加を促す総合的な学習の時間の可能性 

  全米評価では,サービスに引き続き参加していた参加者(リピーター)と参加していなかった 参加者(非リピーター)に対する効果の差を検討し,組織立ったサービスプログラムに引き続き 参加していた参加者には,より長期にわたる効果が確認された。効果は限定的ではあったものの,

継続的なSLへの参加の有用性が示された。 

  さて,中学校(および小学校)の学習指導要領において,総合的な学習の時間で育成しようと する資質・能力の一つに,「探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを 生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。」18)(下線は筆者による)ことが示 された。この資質・能力は,高等学校の総合的な探究の時間では,「探究に主体的・協働的に取り 組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようと する態度を養う。」となり,単に社会参画の態度を育成することから,「社会を創造する主体」と しての自覚を促すことへと,より高度な目標が設定されている。このような目標をどのように実

(13)

現させるかがこれからの中学校および高等学校の課題と言えるが,全米調査におけるSLへの短期 的な一度の参加は強い持続的な効果を生じにくいという指摘は注目に値する。継続的・持続的な 社会への参加が,社会参画の意識,そして,社会を創造する主体としての自覚を促す可能性を有 していることが推察される。 

こうした意識や自覚を促す上で,生徒が参加するコミュニティに目を向けることも重要である。 

全米調査がSLを実施したコミュニティ機関を対象に追跡調査を実施している点は非常に興味深い。

ラーン&サーブの第一の目的は,SLの参加を通して若者の成長を促すことにあったが,その一方 で,「十分に対処されていない,アメリカ合衆国の人的,教育,環境,治安のニーズを満たすため に,必要とされるサービスをコミュニティに提供する」19)ことも意図していた。全米調査でも明ら かになったように,生徒たちが行ったSLは,コミュニティ機関によって高く評価されている。コ ミュニティのニーズに応えるSLは,継続的・持続的な社会への参加を促す可能性を有している。

しかし,総合的な学習の時間において,コミュニティの評価を取り入れている事例は非常に少な く,この点については改善が必要と言えよう。 

(4)総合的な学習の時間で一層求められる教員の専門的能力開発 

全米調査では,ラーン&サーブの助成金を受けた学校において,SLの拡大が確認されたが,組 織的な取り組みはほとんど行われたかったことが指摘されている。ラーン&サーブは,SLを学校

(カリキュラム)に統合することをねらったが,そこには様々な課題がのしかかったのである。

全米調査では,SLに関する専門的能力開発のための訓練や研修に参加した教員が非常に少なかっ たことが示されている。 

総合的な学習の時間において求められるカリキュラム・マネジメントでは,統合的なカリキュ ラムをデザインするスキルが教員に要求される。こうしたスキルを高めるための訓練や研修の機 会がどの程度整っているのか,甚だ心許ないのが現状である。 

米国における中等教育のSLの実施率は,1999年をピークに減少し続け(ミドルスクールで38%,

ハイスクールで46%)20),2008年の調査では,ミドルスクールで25%,ハイスクールで35%となっ ている21)。メルキオーは、「サービスが幅広く統合されるかどうかは,専門能力開発の重要性が高 まって支援が増えていくか,あるいは学校がこうした根本的な問題に取り組む助けとなるような 努力を行うかにかかっている」22)と指摘しているが,このような支援や努力の増加が十分になされ なかったことが,SLの拡大を阻んだのだろうと推察される。

 

 

8  おわりに 

本稿では,全米評価の結果から我が国の中等教育における総合的な学習の時間の可能性を検討 した。総合的な学習の時間の充実が,教育的支援を要する生徒のニーズに応えられる可能性,そ して,継続的・持続的な社会への参加を促す可能性が明らかとなった。しかし,教員の専門的能 力開発のための機会は限られており,その機会の充実がカリキュラム・マネジメントの充実のた めには不可欠であることを指摘した。また,本稿でも論じたように,総合的な学習の時間の教育 効果をどのように測定するかについては,今後さらに検討が必要である。この点については,今 後の研究の課題としたい。

(14)

〔付記〕本稿は,日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究,課題番号 18K13181,研究課題名:高等 学校の「総合的な探究の時間」に求められる探究型カリキュラム及び教材の開発)および愛知淑徳大学研究 助成費 18TT02(特定課題研究「教職課程科目「総合的な学習の時間の指導法」の教材開発に関する研究」)

の助成を受けた研究成果の一部である。 

注 

1)  例えば,田村知子は「「総合〔的な学習の時間〕」は教師・学校によって開発されるため,必然的に評価と改 善,それに基づく創造的な計画が必要だからである。また,「総合」の目標は第一の目標を踏まえた上で,学 校で定める。学校教育目標,学校が設定した育成すべき資質能力を直接的に反映できる時間であり,特色あ る学校づくりの中核となる。さらに「総合」は,総合的・横断的な学習である。カリキュラム全体を見渡す教 科横断的な視点が必要である。カリ〔キュラム・〕マネ〔ジメント〕がうまくいっているか否かは,「総合」

の充実度をみればわかる」(〔〕は筆者による)と指摘している。田村知子(2018)「今,教育現場で求められ るカリキュラム・マネジメント」公益財団法人理想教育財団『理想』vol.130,p.3 

2) Melchior, A. (1999). Summary Report: National Evaluation of Learn and Serve America (Waltham, Mass.:

Center for Human Resources, Brandeis University).

3)  諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究実行委員会(文部科学省委託調査)「諸外国におけるボラ ンティア活動に関する調査研究報告書」平成 19 年3月,p.52 

4 ) Gutman, L. M., & Schoon, I. (2013). The impact of non-cognitive skills on outcomes for young people.

Education Endowment Foundation, p.34

5) Melchior, A. (1999). op. cit., p.1

6Ibid., p.3

7Ibid., p.4 

具体的には,「プログラムの 10 件はハイスクールプログラムで,7件のプログラムがミドルスクールであっ た」「10 件は科目に統合され,7件は独立した選択的 SL コースとして構成されていた」「9件のプログラム は,学校全体のサービス又は SL 方略の一部となっていた」「4件のラーン&サーブのプログラムが,脱落の恐 れのある若者向けの特別プログラムに統合され,3件がオルタナティブスクールの環境において実施された」

「8件のプログラムが都市部で,5件が主に都市近郊で,4件が地方部で実施された」の4点が示されている。

8Ibid., p.16

9Ibid., p.19

10Ibid., p.20

11Ibid., p.21

12Ibid., p.22

13) Ibid., p.22

14) Ibid., p.23

15)  「非認知的スキル」については,Heckman, J. J. (2013). Giving kids fair chance. MTI Press.(古草秀子訳

『幼児教育の経済学』東洋経済新報社,2015)や Gutman, L. M., & Schoon, I. (2013). The impact of non- cognitive skills on outcomes for young people. Education Endowment Foundation が詳しい。 

16) 2013 年 12 月に発表された「平成 25 年度全国学力・学習状況調査報告書  クロス集計」において,「総合的 な学習の時間における探究活動」に積極的に取り組んでいる学校ほど,教科の平均正答率が高い傾向が見られ ることが報告されている。この傾向は,後年行われた同調査でも同様である。 

17)  久野弘幸他(2015)「総合的な学習で育まれる学力とカリキュラム(2)中学・高校編  (特集  生活科・「総合的 な学習の時間」と学力)」日本生活科・総合的学習教育学会『せいかつか&そうごう』第 22 号,pp.22-31 

18)  文部科学省(2017)『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)』p.159 

19) Melchior, A. (1999). op. cit., p.19

20) Peter, C. S., Eugene, C. R. (2004). Community Service and Service-Learning in U.S. Public Schools, National Youth Leadership Council, p.8 

21) Kimberly, S., Robert, G. Jr., Nathan, D. (2008). Community Service and Service-Learning in America’s Schools, Corporation for National and Community Service, p.12

22) Melchior, A. (1999). op. cit., p.23

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