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就業規則不利益変更の合理性判断と その考慮要素の関連性について

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就業規則不利益変更の合理性判断と その考慮要素の関連性について

片 岡 佑 作

目 次

Ⅰ 序

Ⅱ 多数派組合同意と合理性判断

Ⅲ 代償措置の存在と合理性判断

Ⅳ 多数派組合同意と代償措置の存在が重なる場合の合理性判断

Ⅴ (第Ⅱ節から第Ⅳ節への補論)

Ⅵ 合理性判断に関する考慮要素間の相補性(荒木(2001,pp.263269)への解釈)

Ⅶ 結 び Appendix1 Appendix2

要 旨

企業の経営不良回避、あるいは経営強化をはかるためには多様な手段があるが、従業員に対する労働 条件の変更もその1つであり、具体的には労働協約及び、就業規則による不利益変更等があげられる。

不利益変更の具体例としては、1)賃金支給率の低下をもたらす計算方法の変更、2)退職金の減額、3) 定年制の新設、あるいは定年年齢の引下げ、4)勤務時間の延長その他、がある。就業規則不利益変更 については、それが合理的な内容のものである場合においてのみ、効力が生じるとされ、その考慮要素 は、1.就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、2.使用者側の変更の必要性、3.変更後の就 業規則の内容自体の相当性、4.代償措置、5.労働組合との交渉の経緯、6.他の労働組合又は従業員の対 応、7.同種事項に関する我が国社会における一般的状況、である。この論文は過去の労働判例データ

(127件)から2×2の分割表を経由して、以下の点に数量的に光をあてる。つまり、

1.多数派労働組合が変更に同意をしていると、それは合理性肯定となるか

2.特定の不利益変更(例えば、退職金掛け率の縮小)に付随して賃金引き上げなどの代償措置を伴 う場合、合理性判定はどうか

3.多数派組合同意、代償措置存在が同時に重なると、合理性肯定の度合いは強まると予想されるが、

(2)

Ⅰ 序

経営不良による賃下げ、あるいは賃金体系を年功序列から成果主義タイプに変えようとする場合、

まず企業は就業規則を変更し、当該労働基準監督署に新規則を届ける必要がある。こうした(不利益)

変更は労働協約による場合もあるが、協約は対象が労働組合員に限られるから、全従業員に新ルール を適用するには就業規則の変更が避けられない。この場合の不利益変更が法的に認められるかどうか については(合理性の肯定)、最高裁による以下の考慮要素がある(認められない場合は「合理性の 否定」という結果になる。第四銀行事件・最2小判平成9年2月28日民集51巻2号705頁)。

1.就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度 2.使用者側の変更の必要性の内容・程度

3.変更後の就業規則の内容自体の相当性

4.代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況 5.労働組合との交渉の経緯

6.他の労働組合又は他の従業員の対応

7.同種事項に関する我が国社会における一般的状況

ここで「1.不利益の程度、3.相当性」、「2.必要性」がコアとなる要素であり(荒木(2001))、4、5、 6、7は法的判断に外部から影響をあたえるものとして考えられている。

ところで本稿の目的は次のようである。

1)まず、「1、3」、「2」をコア要素として、この2種にはふれず、多数派組合(あるいは従業員の過 半数)が不利益変更に同意をしていると、合理性の肯定、否定はどのようになっているかを昭和43 年12月から平成12年9月までの127件の判例に照らして数量的に追跡する。これには2×2の分 割表作成が有効である。つまり、

n(1,1):多数派組合の同意がある場合の合理性肯定事案数(分割表の左上に入る)

n(1,2):多数派組合の同意がある場合の合理性否定事案数(右上に入る)

n(2,1):多数派組合の同意がないときの合理性肯定事案数(左下に入る)

n(2,2):多数派組合の同意がないときの合理性否定事案数(右下に入る)

として「n(1,1),n(2,2)」が「n(1,2),n(2,1)」に比較して大きい値をとれば、合理性肯定と多数派 組合同意との関連度はプラスの方向に強いと判定するのである。数量的に示す統計量はQ、chi2 乗、などと書かれる。不利益変更に関する研究において、分割表を導入する文献は本稿が最初では

判例データはどう示すか

キーワード:労働条件一般、労働組合、労働運動、労働判例、労委命令

(3)

ない。菅野・諏訪(1994)は7項目の考慮要素から「1.不利益の程度」、「2.必要性」を抽出したう えで、それぞれについて3ランクの順序づけをし、3×3の分割表を示した(しかしながら、それ は統計処理を行うものではない。「1」、「2」の関連を測るというよりは、9箇所のboxのある1つ に特定事件の合理性判断を対応させる手法である)。

2)次に「4.代償措置の存在」と合理性肯定の関連度の議論は、片岡(2004)であたえられたが(も ちろんこれらにはプラスの関連がある)、続いて以下で「4」、「5、6」が重なった場合、この状況と 合理性肯定、否定との関連度はどのようになるかを見る。結論を先取りすれば、こうして考慮要素 が重複されると、関連度は極めて強くなる。

3)また、荒木(2001,pp.263269)は「2.必要性」、「1.不利益の程度(横軸の方向を反対にとる)、

3.相当性」の相補性を主張し、これらの変数の和が、2次平面上のある境界を超えれば、合理性肯 定、それに到達しない場合は合理性否定になる、とした。さらに、この境界線は

・不利益変更が「5、6」をみたしているか

・不利益変更の特定のタイプ、例えば変更は賃金、退職金に関係するものか

にしたがって上、下にシフトすると主張した。つまり、分割表とは別に、彼は合理性判断結果が要 素「5、6」あるいはタイプによって変化するというのである。以下、こうした点を労働判例データ から事後的に確かめる。代償措置の欠落、あるいは不利益変更タイプが賃金、退職金に関係すれば、

2次平面上に引かれる45度線が上方にシフトする点は確認されているので(片岡(2004))、した がって、ここでは不利益変更が

・「5、6」をみたしているか

・「4」、「5、6」が同時に起きる

ときの境界のシフトの問題などを考える。結果は荒木(2001)に見る内容と整合的である。つまり、

不利益変更が「5、6」をみたすと、そうでない場合より境界は下方にシフトし、裁判所の判断は合 理性肯定に傾きやすい(合理性肯定の領域は大きくなる)。

以下、本論に入る前に注意点をあげておこう。つまり

対象とする判例データの採択範囲を昭和43年12月から平成12年9月とする理由は、就業規 則変更法理がこの起点に提示され、これを受けて数多くの判例の積み重ねがあり、平成12年9 月のみちのく銀行事件においてこの分野の議論が頂点に達したと思われるからである(野田

(2003,2001)はみちのく銀行事件が不利益変更法理にいかに大きなインパクトをあたえたかを リポートしている:みちのく銀行事件・最1小判平成12年9月7日民集54巻7号2075頁。野 川(2007a)、中窪・野田・和田(2007)、菅野(2005)、王(2003)にはその後の不利益変更に 関する判例、裁判例がすでに多数ある)。

判例データから何らかの意味を読み取るために、数量的、統計的手法を導入した文献は大竹・

(4)

藤川(2001)であるが、それは整理解雇の4要件(要素)によって解雇有効性を説明するもので あり、ここで扱う就業規則変更法理に関する内容ではない。また、神林(編)(2008)による扱 いもデータからの観点を含めた整理解雇の内容である。

大量の判例データから労働条件変更を賃金関係など4種のタイプ別に分けたうえで、合理性肯 定、否定の再分類を試みたのは、大内(1999)である。また、青野(1998)は変更法理に関する 考慮7要素のうち、どれが、どのタイプの変更に関して効いているかを特定の事案について検討 したものであるが、それら2論文は数量的手法によってはいない。大内(編)(2004)、井上

(2005)も考え方としては、上記先行2文献と同様である。

また、最近の労働契約法の議論においても、これまでの就業規則変更法理に修正が加えられる 可能性はないので、Ⅱ以下に展開する内容は、契約法施行後の就業規則変更に関する紛争の判断 に適用可能である。こうして、7項目の合理性考慮要素と合理性肯定・否定の関連度を統計的に 測るという作業の基本的な部分は、現時点で意味あるものであろう(労働契約法において、先の 考慮要素7項目のうち、4、6、7は1、2、3、5に吸収されている。詳しくは、土田(2008)、山 川(2008)、野川(2007b)、「労働契約法の施行について」平成20・1・23基発0123004号(労 働契約法第9条・第10条関係)、参議院厚生労働委員会平成19年11月20日付議事録)。

Ⅱ 多数派組合同意と合理性判断

はじめに不利益変更をタイプ別に区分したうえで、それぞれについて多数派組合(従業員過半数の 場合も含む)が変更に同意している件数、さらにそのうちで裁判所によって合理性を否定された件数 を表1に掲げた。すぐ気づくように、多数派組合が同意をしている事案数は全体のおよそ1/2、正確 には64/127であり、そのうち合理性が否定された件数も18/64(=0.28125)だけある。すすんで

「多数派組合同意」、「合理性肯定否定」の関連度をプールして見るために、この場合についての分 割表を表2に示した。多数派組合同意と合理性肯定否定の関連係数Q、chi2乗統計量はそれぞれQ

=0.78208、chi2乗 =29.38440であり、他方、自由度1のカイ2乗分布の右側5%、1%点はそれぞ れ3.84、6.63だから、比較すれば、

chi2乗 =29.38440>6.63>3.84 (2.1) となっている。いま、帰無仮説H、対立仮説Kをそれぞれ

H:多数派組合同意と合理性肯定には関連はない K:関連はある

(5)

とすると、(2.1)は仮説Hを棄却することが不可能であることを言っている。つまり、表2の数値 n(i,j)は多数派組合同意と、合理性肯定のあいだにはプラスの強い関連がある点を示している。

Q、chi2乗の計算方法は表2の注を見るとよい。Qは定義上-1と+1のあいだにあり、分割表の n(1,1)、n(2,2)(対角部分)がn(1,2)、n(2,1)(非対角部分)と比較して相対的に大きい場合は1に 近くなり(プラスの関連)、これとは逆の大小関係がある場合は-1に近くなる(マイナスの関連)。

さらに、第1行のn(1,1)、n(1,2)が第2行のn(2,1)、n(2,2)に比例するケースではQは0になる

(列についても同様である)。関連の方向を調べるにはQの方がよいが、Qの確率分布は複雑なため、

統計的な意味での推論を必要とする場合、関連それ自体の有無を見るにはchi2乗統計量をもちいる のが常である。chi2乗はプラスの値をとり、上限はない。当然chi2乗が大きければ、2つのカテゴ リには関連があると判定される。

関連係数Qは多数派組合同意であれば、合理性肯定を導くという方向の指定(あるいはその逆)

を強く意味するものではないが、関連度を統計的に測るchi2乗統計量(29.38440)が上のケースで これだけ大きいという点は、強調されてよい。重ねて言うと多数派組合同意と裁判所による合理性の 肯定は無関係に生じているものではない。

表1 不利益変更のタイプ、多数派組合同意、合理性判断

A:賃金 44 27 10

B:退職金 28 10 3

C:定年制 24 13 2

D:勤務時間等 31 14 3

127 64 18

注:第1列 :タイプ別の標本数

:のうち、多数派組合あるいは従業員の過半数が不利益変更に同意している 件数

:のうちで裁判所によって合理性が否定された件数(単に合理性否定の件数 ではない)

A:賃金に関する不利益変更 B:退職金に関連する不利益変更 C:定年制の新設、定年年齢の引き下げ

D:勤務時間の変更その他(週休2日制の採用に伴い、土曜の勤務時間帯を平日に移し、平 日勤務時間を延長する例など)

(6)

表2の議論は不利益変更のタイプを特定することなく計算したQ、chi2乗の値であるが、続いてタ イプ別、つまり不利益変更の内容を

A:賃金 B:退職金 C:定年制

D:勤務時間その他等

に区分した場合の2×2の分割表を表3、表4、に示す。こうした区分はもちろん大内(1999)にした がっているが、A、B、C、Dを単独で取り出すと、事案数(標本数)が小さくなって統計的判断に 困難をきたすので、

(A,B),(C,D)

のようにプールして考える。この場合のプール自体はそれなりの意味がある。つまり、最高裁は以下 のように言う(大曲市農業協同組合事件・最3小判昭和63年2月16日民集42巻2号60頁)。

「特に、賃金、退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼ す就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍さ せることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的内容のものである場合において、そ の効力を生ずるものというべきである。」

表2 多数派組合同意と合理性判断 合理性肯定 合理性否定

多数派組合同意 46(n(1,1)) 18(n(1,2)) 64(n(1,.))

多数派組合同意なし 15(n(2,1)) 48(n(2,2)) 63(n(2,.))

61(n(.,1)) 66(n(.,2)) 127(n)

注:関連係数Q、chi2乗統計量はそれぞれ次のように計算される(池田ほか(1991)、木下(編)

(1996)、BickelandDoksum(1977)を参照)。

Q=(n(1,1)n(2,2)-n(1,2)n(2,1))/(n(1,1)n(2,2)+n(1,2)n(2,1))

=0.78208

chi2乗 =n((n(1,1)n(2,2)-n(1,2)n(2,1))の2乗)/(n(1,.)n(2,.)n(.,1)n(.,2))

=29.38440

(7)

つまりこれは、(A.賃金、B.退職金)、(C.定年制、D.勤務時間その他)では不利益変更があった 場合、裁判所による合理性審査の度合いには差があり、A、Bについては判断は慎重にされるべきと 言っているから、これに対応して(A,B),(C,D)として分割表を2通りに分けて考えるのである。

表3、表4から以下が読み取れる。

1)(A,B),(C,D)についてそれぞれQ=0.83439,0.77578>0だから多数派組合同意と合理性肯定 にはプラスの関連があるが、(C,D)より(A,B)に関する方が関連度は強い。全体をプールしたと きのQはQ=0.78208で、これは(A,B),(C,D)とタイプを分けた場合のほぼ中間の値をとる。

2)統計的判断を加えるために用いるchi2乗統計量も(A,B),(C,D)について、それぞれchi2乗 = 19.12840,11.83355で、自由度1のカイ2乗分布の右側5%点は3.84だから、関連度は高く、結果 は統計的に有意である点を示している。

3)(A,B)についてn(2,1)=5,(C,D)についてはn(1,2)=5となり、このn(i,j)は小さいので修 表3 多数派組合の意向と合理性判断(A,Bをプールするケ-ス)

合理性肯定 合理性否定

多数派組合同意 24 13 37

多数派組合同意なし 5 30 35

29 43 72

Q=0.83439 chi2乗 =19.12840

修正chi2乗 =n(((n(1,1)n(2,2)-n(1,2)n(2,1))-n/2)の2乗)/(n(.,1)n(.,2)n(1,.)n(2,.))

=17.08352

修正chi2乗 :n(1,2)<6,n(2,1)<6が1カ所でも成立するケースでは、この統計量をもちい るのがよい。詳しくは、池田ほか(1991)を参照。

表4 多数派組合の意向と合理性判断(C,Dをプールするケース)

合理性肯定 合理性否定

多数派組合同意 22 5 27

多数派組合同意なし 10 18 28

32 23 55

Q=0.77578 chi2乗 =11.83355 修正chi2乗 =10.02725

(8)

正されたchi2乗統計量も同時に示すと、修正chi2乗 =17.08352,10.02725であって、これも有意 だからさきの結論が変わることはない。

ところで、片岡(2004)で指摘されたように、C:定年制、に関する不利益変更の内容をC:定 年制の新設、C:定年年齢の引き下げ、に区分したうえで、(A,B,C),(C,D)とプーリングの 方法を変えると、結果は幾分異なった。詳しく言えば、Cは従来白紙であった労働契約の一部分に 新たな不利益変更内容を書き込むものであり、他方、Cはこれまでの労働契約を無視し、予定され、

計画される整理解雇とも解釈可能である。つまり、例えば、定年年齢が55歳のとき、55歳を50歳 に引き下げられた場合、これまでは定年年齢が55として適用を受けるはずであった被用者にとって、

5550歳の部分については、労働力提供の拒絶を使用者から通告されることになる(大内(1999)は 定年年齢の引き下げのケースでは合理性が否定される傾向が現れている、と述べる(広島荷役事件・

広島地判昭和62年5月20日労民集39巻6号609頁)。また、使用者側弁護士の立場から、国府

(1995)は引き下げは不利益変更の最たるもの、とコメントした)。

以下、表5、表6に(A,B,C),(C,D)のようにプールした場合の2×2の分割表を示す。

表5 多数派組合の意向と合理性の判断(A,B,Cをプールするケース)

Q=0.83333 chi2乗 =20.04523 修正chi2乗 =18.01472

合理性肯定 合理性否定

多数派組合同意 25 15 40

多数派組合同意なし 5 33 38

30 48 78

表6 多数派組合の意向と合理性判断(C,Dをプールするケース)

Q=0.82608 chi2乗 =11.88776 修正chi2乗 =9.93175

合理性肯定 合理性否定

多数派組合同意 21 3 24

多数派組合同意なし 10 15 25

31 18 49

(9)

区分(A,B),(C,D)と(A,B,C),(C,D)で多数派組合同意、合理性肯定-否定の関連度はどの ように変化しただろうか。(A,B),(A,B,C)のQ、chi2乗、修正chi2乗を表5、表6で比較しても これら統計量にさほど違いはない。

ケース(A,B) ケース(A,B,C) Q:0.83439 0.83333 chi2乗:19.12840 20.04523 A:賃金

B:退職金

C:定年年齢引き下げによる不利益変更

しかしながら、(C,D),(C,D)のQ、chi2乗、修正chi2乗については幾分違いが見られる(表4、 表6)。つまり

ケース(C,D) ケース(C,D) Q:0.77578 0.82608 chi2乗:11.83355 11.88776 修正chi2乗:10.02725 9.93175

において、Qが0.77578から0.82608へと大きくなり、これは(C,D)よりも(C,D)を対象にした 場合の関連度が強く出ている点を示す。(C,D)の変更事案の内容は先にも述べているように、

C:定年制の新たな導入 D :勤務時間その他

であって、(C,D)については、Cのうちから不利益の程度が極めて大きいC:定年年齢の引き 下げ、を除いているために、不利益変更事案全体の同質性が高まり、多数派組合同意と合理性肯定の 関連度が強く出ていると見ることができる。表6から(C,D)では、多数派組合同意の割合=

24/49、合理性肯定の割合=31/49、の数値にも注目するとよい。

結局、不利益変更のタイプをプーリングする場合、(A,B),(C,D)とするより、(A,B,C),(C,D) で区分し直すのがよい。つまり、大曲市農業協同組合事件(最3小判昭和63年2月16日民集42巻2 号60頁)で最高裁が言うA:賃金、B:退職金、の2通りのタイプに加えて判断を慎重にすべき不

(10)

利益変更として、C:定年年齢の引き下げ、を追加し、そうでない(不利益変更について、高度の 必要性を要求しない)ものとして、

C:定年制の新設 D :勤務時間その他

とするのである。C,Cに数えられる典型的な事案としては、

C:秋北バス事件(Appendix1,C-1) C:広島荷役事件(Appendix1,C-17,C-18) があげられるが、最近の例としては、

定年制新設: 新潟・土木建築請負会社事件(Appendix1,C-24)

定年年齢の引き下げ:佛教大学事件(京都地判平成15年1月29日)、芝浦工業大学事件(東京 地判平成15年5月27日、東京高判平成17年3月30日)、姫路獨協大学 事件(神戸地姫路支判平成17年9月26日)

などが見られる(姫路獨協大学事件については、労働者側が個別契約を経由して先に獲得した定年年 齢を後の就業規則によって引き下げた事案で、通常の定年年齢引き下げとニュアンスが幾分異なる。

つまり、労働契約法10条但書が定める特約優先の例に該当する(土田(2008,p.225)))。

以上を要約すると、以下のようである。

1)就業規則の不利益変更事案全体について、多数派組合同意(そうでない)と、合理性肯定(否定)

の関連度は統計的にもかなり高い、と判定される。

2)不利益変更のタイプを高度の必要性が要求される内容(A.賃金、B.退職金)に、定年年齢引き 下げを含めたグループ(A,B,C)と、高度の必要性が要求されないグループ(C,D)に区分し た場合でも、それぞれの場合について、多数派組合同意と合理性肯定の関連度は、統計的にやはり 極めて高く、(A,B,C)ではその関連の程度が、Q、chi2乗でそれぞれ0.83333,20.04523である。

先の表2から表6までの全体は以下のようである(表7)。

(11)

Ⅲ 代償措置の存在と合理性判断

ところで先に進む前に、不利益変更にともなう代償措置の有無と、合理性肯定否定の関連度につ いての結果を簡単に示しておこう(土田(2003)はアーク証券事件(1審)判決文へのコメントのな かで、合理性判断にあっては1.代償措置があるか、2.経過措置の存在、3.利益調整(相当性)はう まくいっているか、の順序立てを主張した。判例データを経由する計算結果は片岡(2004)による)。

表7 多数派組合同意と合理性肯定の関連度を示す統計量

変更タイプ 全 体 (A,B) (C,D) (A,B,C) (C,D) Q 0.78208 0.83439 0.77578 0.83333 0.82608 chi2乗 29.38440 19.12840 11.83355 20.04523 11.88776 修正chi2乗 - 17.08352 10.02725 18.01472 9.93175

n(事案数) 127 72 55 78 49

n(1,2) 18 13 5 15 3

n(2,1) 15 5 10 5 10

注:n(1,2):2×2分割表の右上の数値、n(2,1):分割表の左下の数値、n(i,j)が小さい場合は chi2乗よりも、修正chi2乗の数値を見るとよい。カイ2乗分布の右側1%点は6.63だから、

表7の統計量はすべて有意である。

表8 代償措置存在と合理性判断に関する事案数(不利益変更をタイプ別に区分)

注:A,B,C,Dの区分は第Ⅱ節と同様(大内(1999))、かつ例えばA:代償措置をともなう賃 金制度の不利益変更、A:代償措置がほとんどない場合の賃金に関する不利益変更,等で ある。ただし、C,Cについてのみ、定年制度新設、定年年齢引き下げで区分した。

合理性肯定 合理性否定

A 13 3 16

A 5 23 28

B 3 1 4

B 8 16 24

C 12 6 18

C 1 5 6

D 8 3 11

D 11 9 20

61 66 127

(12)

表8はタイプ別、かつそれぞれのタイプで代償措置の有無を区分したうえ、当該裁判所が判定した合 理性肯定否定の事案数のリストである。さらに、表8から表9のような2×2の分割表を導くこと ができる。

この場合のQ、chi2乗、修正chi2乗統計量は、Q=0.70891、chi2乗 =20.68240(>3.84)、修正 chi2乗 =19.05639,3.84= 自由度1のカイ2乗分布の上側5%点、となっている。こうした結果から その意味は以下のようになる。就業規則の不利益変更事案について、合理性肯定の割合は、ほぼ 50%(=61/127)であるが、不利益変更の個々のケースを代償措置の有無によって再分類したうえで、

2×2の分割表を作ると、代償措置を伴う不利益変更と、裁判所による合理性肯定の判定には、統計 的に否定することができない強い関連がある、という点である(正確には、2つのカテゴリに関連が ない、という点は強く否定されるという)。繰り返すと、ある不利益変更事案があって、その合理性 肯定否定の判断が裁判所に持ち込まれた場合、事前の情報がなければ、この不利益変更が合理性肯 定になるかを知ることはほとんど不可能に近い(実際、fifty-fiftyである。表8、表9を参照)。しか し、不利益変更事案に代償措置の存在が加われば、この当該事案と合理性肯定にはきわめて強い関連 が生ずるという点である。つまり、これは使用者側がある労働条件について就業規則上、不利益変更 する場合は、これに対応して代償措置を備えることが、合理性肯定の判断につながる点を示唆してい る。こうした考え方については無数の文献がある(例えば、加茂(2005)、河本(2004)、菅野(2005, pp.106113)、水野(2005))。

Ⅳ 多数派組合同意と代償措置の存在が重なる場合の合理性判断

就業規則の不利益変更について、多数派組合同意と裁判所による合理性肯定の判断には強い関連性 がある点をⅡで示した。さらに、Ⅲでは不利益変更に意味ある代償措置が付加されると、その場合と 合理性肯定では、関連が極めて強い点も示した。それでは、多数派組合同意と代償措置の存在が重なっ た場合、合理性肯定の度合いはより強くなると考えられるが、その関連は量的にどの程度になるか、

表9 代償措置存在と合理性判断の2×2分割表

注:ここで、が付してある不利益変更タイプA等は代償措置をともなう。ただし、C:定 年制新設、C:定年年齢引き下げとした。

合理性肯定 合理性否定

A,B,C,D 36 13 49 A,B,C,D 25 53 78

61 66 127

(13)

以下でこの点をつきとめよう。この議論を始める前に、次の内容に気づいておく必要がある。つまり、

1)多数派組合が不利益変更に同意する、2)当該の不利益変更に代償措置が付加される、この2点1)、

2)は無関係に起きていないと、1)、2)が重なった場合の効果と合理性肯定の関連度を調べることに 意味がない、という点である。繰り返すが、1)、2)がともに同時に関連していれば、1)と合理性肯 定に関連があったとしても、それは2)と合理性肯定との関連とほぼ同一の内容のものとなる。しか しながら、この問題を先送りして第Ⅴ節で示すように、1)多数派組合が不利益変更に同意する、2) 当該の不利益変更に代償措置の付加の存在、についての関連度はきわめて低いので、上記1)、2)が 重なるケースと、合理性肯定の関連度を調べるのは意味ある。

Appendix2の表は127の事案数について以下を調べ上げたものである。

R=1 合理性肯定

=0 合理性否定(表ではブランクにしてある)

S=1 代償措置がある

=0 代償措置がない T=1 多数派組合が同意

=0 多数派組合の同意なし、あるいは不明

と定め、表の第4列目に付いては、事案がS=1、かつT=1をみたすとき、1、これ以外は0(ブ ランク)としてある。これは代償措置があり、かつ多数派組合が不利益変更に同意をしている場合に、

変数を1と定義することを意味する。第5列目については、S=1、かつT=1でその上、R=0の とき、1、これ以外は0としてある。つまり、第4列目で1となったもののうち、合理性が否定され る場合に1とする。最後に(第6列)、

T=1で,かつR=0のとき, 1

これ以外, 0

これは多数派組合同意で、かつ合理性否定の場合は、変数を1とすることに等しい。

ここでAppendix2の表を見て、一方のカテゴリを代償措置の存在と多数派組合の同意が重なる ケース(S=1かつT=1)、他方を裁判所による合理性肯定(R=1)として2×2の分割表を作る と以下のようになる。

(14)

この場合、関連係数Q、chi2乗統計量、修正chi2乗統計量の数値はそれぞれ表10の注のようであり、

また、25.07319,23.04552は自由度1のカイ2乗分布の上側5%点である3.84をはるかに超えている から、「S=1かつT=1」とR=1に関連がないとは言えないことになる。繰り返すと、これは、

代償措置の存在(S=1)に多数派組合同意(T=1)が重なる変更事案は、合理性否定にはなりに くいことを統計的にも示唆している。合理性に関するこれら2種の考慮要素が重なっているにもかか わらず、当該裁判所によって合理性が否定された4例は

1)A-9、 第四銀行事件(1審)・新潟地判昭和63年6月6日

2)A-20、第一小型ハイヤー事件(1審)・札幌地判昭和63年4月19日 3)A-21、第一小型ハイヤー事件(控訴審)・札幌高判平成2年12月25日 4)D-17、羽後銀行事件(控訴審)・仙台高秋田支判平成9年5月28日

である。ただし、A-9については、裁判所は就業規則不利益変更の合理性を否定したものの、労働協 約による一般的拘束力の適用を認めて、使用者側勝訴となった事案である。

S=1とT=1が重なると、Q、chi2乗統計量、修正chi2乗統計量がどの程度になるかを表11に 同時に示す。

ここですぐ気づくように、多数派組合同意単独(T=1)のケースとちがってこれに代償措置の存 在が追加されると (S=1かつT=1)、 合理性との関連度を測る記述統計量Qは0.78208から 0.84972へとプラスの度合いが明らかに強まる。また、chi2乗統計量はT=1、「T=1かつS=1」 に対して、それぞれ29.38440,25.07319で、ともに自由度1のカイ2乗の上側5%点3.84をはるかに 超えるから、関連性が統計的に有意である点もわかる。

S=1から「(S=1)かつ(T=1)」を考えた場合も同様な点が見られるが、その程度はT=1 から「(S=1)かつ(T=1)」の場合よりも幾分大きい。つまり、Qは0.70891から0.84972となる。

表10 「多数派組合同意(T=1)、かつ代償措置存在(S=1)」と合理性判断

注:Q=0.84972 chi2乗 =25.07319 修正chi2乗 =23.04552

合理性肯定(R=1) 合理性否定(R=0)

S=1かつT=1 27 4 31

そうでない 34 62 96

61 66 127

(15)

これは1)単独の効果と見た場合、T=1、つまり多数派組合同意の方が代償措置の存在(S=1) よりも合理性肯定との関連度が高い点を意味している。また、2)追加的効果についてもT=1がS

=1よりもまさる点を言っている。

以下、証明をしないが、不利益変更内容をタイプ別に区分した場合に「代償措置の存在、多数派組 合同意の重複(S=1かつT=1)」と合理性肯定の関連度がどのようになっているかを示す(表12)。

あきらかなように、タイプ別に分類をして事案数が小さくなった場合においてさえ、Q、修正chi2 乗統計量はかなり高い。

表12「代償措置の存在と多数派組合同意の重複(S=1かつT=1)」と合理性肯定(R=1) の関連度を表す統計量

注:カイ2乗分布の右側5%点は3.84だから、上の修正chi2乗統計量はすべて有意である。

不利益変更のタイプ 全体 (A,B) (C,D) (A,B,C) (C,D) A Q 0.84972 0.83098 0.88957 0.83962 0.86666 0.90445 chi2乗 25.07319 - - - - 16.92643 修正chi2乗 23.04552 12.24985 8.58207 13.37922 6.64839 14.40560

n:標本数 127 72 55 78 49 44

n(1,2) 4 3 1 3 1 3

n(2,1) 34 16 18 17 17 5

表11「代償措置の存在(S=1)、多数派組合同意(T=1)、重複(S=1かつT= 1)」と 合理性肯定(R=1)の関連性を測る統計量

注:n(1,2),n(2,1)はそれぞれ2×2分割表の右上、左下の事案数である。たとえば、n(1,2)=

13はS=1かつ合理性否定(R=0)の事案数。

S=1 T=1 S=1かつT=1 Q 0.70891 0.78208 0.84972 chi2乗 20.68240 29.38440 25.07319 修正chi2乗 - - 23.04552

n(1,2) 13 18 4

n(2,1) 25 15 34

(16)

Ⅴ (第Ⅱ節から第Ⅳ節への補論)

先のⅡからⅣにあたえた結果は意味あるものではあるが、ここで分割表作成について注意を指摘し ておこう。つまりⅡは多数派組合同意(T=1)と合理性肯定(否定)の関連度を見たが、Ⅳでは

「多数派組合同意(T=1)」と「代償措置の存在(S=1)」が同時に重なったとき、この状況と合理 性肯定(否定)の関連度を議論した。しかしながらすぐわかるように、「T=1」、「S=1」のこれら 2つのカテゴリの関連度が強ければ、

1)「T=1」と「R=1」

2)「(T=1)かつ(S=1)」と「R=1」,R=1:合理性の肯定

の関連度を区分して測る必要はない。極端な場合、「T=1」と「S=1」がつねに連動して生ずれば

「T=1」と「(T=1)かつ(S=1)」は同一内容である。したがって以下、「T=1」、「S=1」の 関連度を表13によって計算しておこう。

表13からQ、chi2乗統計量を計算すると、それぞれQ=0.40271、chi2乗 =5.28758になり、こ こで、自由度1のカイ2乗分布の右側5%点、0.5%点はそれぞれ3.84、7.88だから多数派組合同意

(T=1)と代償措置の存在(S=1)には高度の関連があるとは言えないことがわかる。したがって、

S=1とT=1を統計的にも独立としてあつかってよい。以上の点については、労働条件変更内容 をA.賃金、B.退職金、C.定年制、D.勤務時間その他、のタイプ別に分け、これらをプールした場 合においても同様である。以下にその分割表(表14)を示そう。

表13 多数派組合同意(T=1)と代償措置存在(S=1)の関連性

T=1:多数派組合同意

T=0:多数派組合拒否あるいは不明 S=1:代償措置の存在

S=0:代償措置がない

事案数全体のケース

(S=1) (S=0)

(T=1) 31 33 64

(T=0) 18 45 63

49 78 127

(17)

そうして以上の2×2の分割表から関連度を測る統計量Q、chi2乗などを計算すると、以下のように なる(表15)。

表14 多数派組合同意(T=1)と代償措置存在(S=1)の関連性

(A,B)のケース

(S=1) (S=0)

(T=1) 16 21 37

(T=0) 4 31 35

20 52 72

(C,D)のケース

(S=1) (S=0)

(T=1) 15 12 27

(T=0) 14 14 28

29 26 55

(A,B,C)のケース

(S=1) (S=0)

(T=1) 16 24 40

(T=0) 4 34 38

20 58 78

(C,D)のケース

(S=1) (S=0)

(T=1) 15 9 24

(T=0) 14 11 25

29 20 49

(18)

表15が示すように、Q、chi2乗などの数値はそれほど大きくない。これは代償措置の存在(S= 1)と多数派組合同意(T=1)がたがいに無関係に起きることを言っている。そうであれば、S=1、 T=1が重なった場合、これが合理性の判定にあたえる効果を見るのは意味ある。それゆえ、「(S= 1)かつ(T=1)」とR=1(合理性肯定)の関連度を第Ⅳ節で調べたのである。

Ⅵ 合理性判断に関する考慮要素間の相補性(荒木(2001,pp.263269)への解釈)

就業規則の不利益変更に関する合理性判断は次の7項目の考慮要素、つまり

1.就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度 2.使用者側の変更の必要性の内容・程度

3.変更後の就業規則の内容自体の相当性

4.代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況 5.労働組合等との交渉の経緯

6.他の労働組合又は他の従業員の対応

7.同種事項に関する我が国社会における一般的状況

によってなされるが、ここでもちろん1、2、3が重要な要素であり、特に荒木(2001)は「2」、「1、 3」の大きさをそれぞれ2次平面上の縦軸、横軸にとり、この場合の要素間の相補性を議論した(1

表15多数派組合同意(T=1)と代償措置存在(S=1)の関連度を測る統計量(タイプ別に 分類するケース)

注:ここでQ、chi2乗統計量などはもちろん小さい方が望ましい(以上、2種の考慮要素間に

(1次の)関連性がないという内容は、通常の回帰理論においてZ,Zを連続的説明変数 とした場合、これらの変数間で1次従属の関係がない、とする点に対応する(木下(編)

(1996)))。

不利益変更のタイプ 全体 (A,B) (C,D) (A,B,C) (C,D) Q 0.40271 0.71034 0.11111 0.70000 0.13402 chi2乗 5.28758 9.07452 0.17020 8.87869 0.21411 修正chi2乗 - 7.55796 - 7.40013 -

n:標本数 127 72 55 78 49

n(1,2) 33 21 12 24 9

n(2,1) 18 4 14 4 14

(19)

については3に重ねて横軸の方向を反対にとる;荒木(2001,pp.263269)の図1、図2、図4)。ま た、最近の井上(2005)にも同様の図がある(1.不利益の程度、2.変更の必要性、3.変更後の内容自 体の相当性、をコア要素とする点については、異論はないであろう。村中(2002)はNTT事件(1 審)について、要素1、2、3に照らし合わせ、判決文内容を詳細に検討している。最高裁判所事務総 局(2001)にも、合理性判断と考慮要素間の関係について精密な議論がすでにある)。

x:内容自体の相当性、不利益の程度(方向を反対にとる)

x:変更の必要性の内容・程度

とすると、例えば

合理性肯定の領域:0<x<1,0<x<1,x+x>1+kを同時に満たす部分 k>0:不利益変更がA.賃金、B.退職金、に関係するケース

であり、k=0であれば、x+x>1が合理性肯定の領域を示しており、ある特定の事案につい て「相当性の大きさ、不利益の程度(方向を反対に測る)」、「必要性の大きさ」をそれぞれx*,x* とすると、(x*,x*)が不等式x+x>1を満たせば、この不利益変更事案は合理性肯定とい うことになる。逆にみたさなければ、合理性否定である。この理解のもとに、荒木(2001)は以下を 指摘した。

1)不利益変更がA.賃金、B.退職金、 に関係すると、 境界を示す表現は x+x=1から x+x=1+k,k>0へシフトする。つまり、就業規則不利益変更で十分な注意を払う必要があ るタイプ(A,B)については、C.定年制、D.勤務時間その他、の場合よりも裁判所による合理性 肯定の判断はより厳格になる。

2)境界を示す表現x+x=1+kについて、もし多数派組合が不利益変更に同意をしていれば、

このkは負である(荒木(2001,p.267,図4))。

また、片岡(2004)が示す追加的内容は次のようなものである。ある変更事案について、特定の

(x*,x*)が0<x<1,0<x<1の矩形の中で一様に分布するという仮定のもとで、

n(A,B) :A,Bに関する事案数(矩形の面積そのもの)

n2(A,B):変更タイプA,Bのうちで合理性否定となった事案数 n(C,D) :C,Dに関する事案数(矩形の面積そのもの)

n2(C,D):C,Dのうちで合理性否定となった事案数

(20)

とすると、合理性肯定、否定を区分する45度線はタイプC,Dについては、

x+x=0.91452(<1), A,Bでは

x+x=1.10247(>1)

となった(A,Bの場合において、k,n,n2の関係は((1-k)(1-k))=2(n-n2)/nである)。つま り、Appendix1,2の判例データからもタイプA,Bについては荒木(2001)のいう45度線が上方

(右側)にシフトし、合理性否定となる領域が大きくなっているのが読みとれた。同様の考え方を不 利益変更に多数派組合が同意しているかどうか、についても適用することができる。

以上の留意点としては

1)多数派組合が同意をしたとき、45度線x+x=1+kを考えると、k<0となる

(荒木(2001,p.267)の推論)。

2)多数派組合同意の事案数 =64、このうち合理性否定の事案数は18、したがって、((1+ k)(1+k))/2:1=18:64を解くと、kは-0.25である。

3)一様分布(uniform distribution)の意味:取り上げる変数が1種類であれば、事前情報

(priorinformation)がない場合、当該変数が一定区間内で一様に分布する、という仮定は自 然であり、また頻繁に採用される(Kataoka,MiyashitaandMorimune(1990))。2変数に 拡張されたケースであれば、その同時分布の領域は当然矩形となる。

である。

こうして多数派組合同意の場合、境界を示す表現は、x+x=0.75となる。一般に境界線を x+x=1+kとするときの1+kを各ケースについて計算した結果を示す(表16)。表16のqの 値はAppendix1,2の判例データから計算される合理性否定の割合である。

(21)

表16の境界線(1+k)で判定して、以下を読み取ることができる。

1.就業規則の不利益変更事案において何らかの事前情報がなければ、合理性が肯定される割合は事 案のうちほぼ50%であり、合理性肯定否定の領域を分ける45度線も事案数から事後的に計算す ると、x+x=1+k(=1.01988)となって、1+kはほぼ1である。

2.不利益変更に多数派組合が同意をしている場合、1+kの値は0.75までに低下し、事後的に計算 した合理性肯定の領域は大きくなる。「多数派組合同意」と「代償措置の存在」についてそれぞれ の1+kを比較すると、代償措置の存在による方が肯定となる領域は幾分大きい。つまり、

1+k=0.75,多数派組合同意 1+k=0.72844,代償措置の存在

となって、45度の境界線は代償措置存在の場合では確かに下がる(左側シフト)。

表16 不利益変更に関する状況と、合理性肯定(否定)となる矩形内の領域を区切る1+k

注1:1+kの意味:1+kが大きいとき、合理性否定の領域は広くなる。k=0で合理性肯定 否定の領域(面積)は同一である。

2:q:合理性否定の割合

3:表16の5)から8)は不利益変更をタイプ別に区分したケースである。分類方法は大内

(1999)による。

4:A:賃金、B:退職金、C:定年制、D:勤務時間その他、C:定年制度の新設、C: 定年年齢の引き下げ

5:標本数が大きいとき、q,1+k(qの関数)の真の母数について、統計学でいう信頼区間を あたえることが可能である。しかしながら、今回の場合においては標本数全体が100強で あるので、表16の結果は記述統計の範囲にとどまる(第Ⅱ節Ⅴ節の分割表の検定に関 する標本数については、統計理論から50100強でもちろん十分である(池田ほか(1991))。

1+kの値 n(標本数) q(0<q<1) 1)多数派組合同意、代償措置の存在など

の情報が当該事案についてないケース 1.01988 127 0.51968(=66/127) 2)不利益変更に多数派組合が同意をした

ケース 0.75 64 0.28125

3)代償措置が存在するケース 0.72844 49 0.26530 4)上記の2)、3)が両立するケース 0.50800 31 0.12903 5)(A,B)のタイプに限定 1.10247 72 0.59722 6)(C,D)のタイプに限定 0.91452 55 0.41818 7)(A,B,C)のタイプに限定 1.12293 78 0.61538 8)(C,D)のタイプに限定 0.85714 49 0.36734

(22)

3.多数派組合同意(T=1)と代償措置の存在(S=1)が重なると、1+kは0.50800と小さくな る。つまり、合理性ははるかに肯定されやすくなる(合理性肯定の割合はほぼ0.87である)。必要 があって使用者側が不利益変更をする場合、とるべき対処方法に関する弁護士(使用者側)のコメ ントを見ると、常にこれら2通りの記述がある(加茂(2005)、河本(2004)、水野(2005))。

4.不利益変更内容をA.賃金、B.退職金、C.定年制、D.勤務時間その他、のタイプ別に区分する と、(A,B),(C,D)では(A,B)の方が合理性が肯定されにくい。この結果は最高裁の判断と整合 的である(大曲市農業協同組合事件・最3小判昭和63年2月16日民集42巻2号60頁)。つまり、

事後的な計算結果より、(A,B) で、1+k=1.10247、 他方 (C,D) につ いて1+k=0.91452

(<1.10247)だから、(C,D)に関する合理性肯定の領域があきらかに大きくなっている。1+kの くいちがいの大きさは、0.18795である。

5.ただし、こうした(A,B),(C,D)の2分類よりも、(A,B,C)),(C,D)と再分類する方が、不 利益変更に関する2つのタイプの特性をよりはっきりとさせるのがわかる。つまり、Cを

C:定年年齢の引き下げ

C:定年制の新設

に分割し、(A,B,C),(C,D)について45度線に関するパラメタ1+kを計算すると、

1+k=1.12293:(A,B,C) 1+k=0.85714:(C,D)

となる。こうして、不利益変更のタイプ区分を(A,B,C),(C,D)とする方がそれぞれの1+k の差異(=0.26579>0.18795)が大きくなり、この再分類方法が成功しているのが読み取れる。

Ⅶ 結 び

就業規則の不利益変更に関する合理性判断が裁判所に持ち込まれた場合、その考慮要素は

1.就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度 2.使用者側の変更の必要性の内容・程度

3.変更後の就業規則の内容自体の相当性

4.代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況 5.労働組合との交渉の経緯

6.他の労働組合又は他の従業員の対応

7.同種事項に関する我が国社会における一般的状況 であるが、ここで取り上げた問題の1つは、

(23)

1)5に関連して、多数派組合が不利益変更に同意をしていると、合理性判定はどうか 2)4の代償措置存在をみたすと、判断はどうなるか

3)1)、2)が重なる場合の判断結果はどのようになるか

であった。以上を過去の労働判例データから2×2の分割表を経由して、次の点をつきとめた。

1)、2)ともに、この場合の合理性肯定とは関連度が極めて高い 重複のケース、つまり3)では特にそうである

これらの点は、多数派組合同意、代償措置存在が不利益変更を合理性肯定に導くことを示唆している。

それは、この問題に関する使用者側弁護士のコメントと同様である(代償措置、経過措置の具備、労 働組合との協議の必要性などは繰り返し主張されている(加茂(2005)))。

続いて、不利益変更をタイプ別に区分した場合、A.賃金、B.退職金、C.定年制、D.勤務時間その 他、となるが、表8から

(C,D)よりも(A,B)の方が合理性否定の割合は大きい より詳しく言えば、Cを

C:定年制新設、C:定年年齢引き下げ

と分割し、(A,B,C)、(C,D)とプールすると、(A,B,C)の合理性否定の割合はきわめ て大きくなる。この、は最高裁判決文の内容と整合的である(つまり、それは賃金、退 職金については、変更条項が高度の必要性に基づいた合理的内容のものである場合において、

その効力を生じる、とした(大曲市農業協同組合事件・最3小判昭和63年2月16日))。

以上のからを統合すると、合理性肯定につながり易い不利益変更事案とは、

多数派組合同意と代償措置存在が重なり、かつ不利益変更タイプがC.定年制新設、D.勤 務時間その他、に関係するものであることが予想される。のケースについては、標本サイ ズが小さくなるので、今回は分割表作成を見送った。

最後に第3点として、以下を強調したい。

先の1)多数派組合同意、あるいは、変更タイプをA.賃金、B.退職金に限定するケースに

(24)

ついては、荒木(2001)による合理性判断の推論が先行してある。それは、労働判例データに よらず、2次平面上の幾何に頼るものであるが、彼は1)多数派組合同意、が満たされると、

合理性肯定の度合いは強まる。また、タイプA、BについてはタイプC、Dよりも合理性否定 の可能性が高まる、とした。こうして、荒木(2001)の結論と、本稿の第Ⅵ節で導かれた判例 データに依拠する結果とはほとんどうまく整合的である。

ここで取り上げた事案がカバーする期間は、ラフに言って秋北バス事件(昭和43年12月25日)か らみちのく銀行事件(平成12年9月7日)までであるが、標本サイズを最近のものにまで引き上げ て、2×2の分割表の再計算をすることはもちろん可能である。さらに、みちのく銀行事件最高裁判 決の前後で裁判所による合理性判断に違いはあるか、などを統計処理の点から突き止めることは興味 深いであろう。当該銀行事件判決以後、特にA.賃金、B.退職金、に関係する不利益変更で判断はそ の境界がより明確になっており(野田(2003,2001)、大内(編)(2004))、現時点の予想ではあるが、

判断と考慮要素の分割表を作成し、関連係数Q、chi2乗統計量を計算した場合、その点が反映され ている可能性が極めて高い。

* 本稿は日本経済学会報告(宮下洋氏(京都産業大学経営学部)との共同、H16年9月末、岡山大学)、及び DiscussionPaperSeriesNo.200906(京都産業大学大学院経済学研究科)を加筆、修正したものである。報 告においては、分科会座長の大竹文雄教授(大阪大学)から不利益変更問題の経済学的背景、裁判所の所在地 によって合理性判断に際立った違いはあるかなどについて、多岐にわたる的確なコメントをいただいた。また、

日渡紀夫准教授(京都産業大学法学部)には法学全般の点から数多くお教えを受けた。さらに、論文作成の過 程で田中寧教授(京都産業大学経済学部)、夏川知子さんにはお世話をいただいた。記して謝意を表する。

ここで追加的に改めて注意をしておくと、合理性判断については「変更の必要性」「不利益の程度」が基本 的考慮要素ではある。しかしながら実際には双方は拮抗することが多く、これらは判断に関して決定的ではな い。最終的に決め手となるのは、代償措置・関連する労働条件の改善状況、変更労働条件の性質(変更が賃金、

退職金に関係するか)、多数派組合との合意、利益・リスクの公平な配分(相当性)など、である(土田道夫

(2008)『労働法概説』pp.217219、弘文堂)。同様の主張は土田の講演会記録(労働経済判例速報に掲載)に も見られる。

さらに2人の査読者からは長文で詳細なコメントをいただいき、厚く御礼申し上げたい。以下、補足説明を 簡単に記す。

査読者A:

1.不利益変更事案は多様化し、増加しつつある、とされるが(土田(2008,p.215))、最近の統計データか らもこの点は裏打ちされる。例えば、地方裁判所における労働民事事件新受付数によると、平成3、16年で 通常訴訟は662から2519、仮処分は392から649への数値である(菅野和夫・山川隆一・齊藤友嘉・定塚 誠・男澤聡子(2007)『労働審判制度』第2版、弘文堂、p.4)。

2.不利益変更が一時的措置であれば、使用者側は就業規則変更をせず、労基署へも届け出をしない。他方、

(25)

就業規則変更を経由せずに退職勧奨をすると、継続雇用を求めて当該労働者から訴訟を起こされる可能性が ある。この場合使用者側は就業規則変更を選択するであろう(朝日新聞1994年1月21日、朝刊「聴取」を 招いた規則変更オークマ定年問題)。本稿の対象はもちろん後者であり、就業規則変更が労働者側の同意を 得られず、紛争が裁判所に持ち込まれ、合理性の判断が求められる場合である。

3.本稿が扱う統計解析の利点であるが、事例の個別の背景はほとんど問わないので、主観が入り込む余地が 僅少であり、同一の問題(例えば賃下げ)に対象を限定すれば、この事例集団に対する裁判所の判断の平均 的回答内容(合理性があるかないか)を数値で知ることが可能である。

査読者B:

1.定年制に関して、事例の集団を引下げ、制度の新設と2種類に分けることができる。ここで示したのは、

引下げの集団を、「賃下げ、退職金減額」の事例集団に加える方が統計解析の観点からは整合性がある、と いう点である。定年制新設の事例集団は軽微な不利益変更(例えば、労働時間帯の変更)に分類するのはも ちろんである。査読者がコメントの中で指摘するように、高度の必要性という要請は賃金、退職金に関する 概念であり、(大曲市農業協同組合事件・最3小判昭和63年2月16日判時512号7頁)、したがって、それ は定年制に適用されるものではない。しかしながら、最近の裁判例の判決文の中で、「高度の必要性」を定 年年齢引下げの事例に当てはめている箇所がある。つまり、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要 な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのよ うな不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的 な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」としたうえで、判決文の最 終部分において「平成13年就業規則による定年引下げは、その不利益を労働者に法的に受忍させることを 許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的内容のものであって、少なくとも原告Aにつ いては、その効力を認めるのが相当である。」と総合評価を加えている(定年年齢確認請求事件、芝浦工業 大学(定年引下げ)事件・東京地判平成15年5月27日労判859号51頁)。

2.合理性の有無に関する考慮要素7項目のうち、基本的なものは1.労働者が被る不利益の程度、2.必要性、

である点は文献の多くが指摘するとおりである(大内(編)(2004,p.466))。しかしながら、土田(2008,p.

217)とは異なる文献においても、考慮要素7項目を上げたのち、説明を加える項目は、4.代償措置、5.労 働組合等との交渉の経緯、である(高齢・障がい者雇用支援機構(2007)「最近の人事労務の法律問題」

就業規則の不利益変更に関する判例法理、p.6)。こうした点は、以下のように解釈可能である。2×2の分 割表を作成し、

合理性肯定 合理性否定 必要性の存在 n(1,1) n(1,2) 必要性無 n(2,1) n(2,2)

とするとき、事例データを観察すると、n(1,1),n(1,2)は大きく、n(1,1)=n(1,2)かつn(2,1)はほとんど zeroである。つまり、これは使用者側から見て、必要性があるのは当然であり(必要性があるからこそ、

労働者側の同意を得ることなく、就業規則変更を行う)、必要性があったとしても、n(1,1)=n(1,2)だか ら、裁判所による合理性判断は予測不能であり、また、変更の必要性がない場合、判断が合理性肯定になる はずはない、という点を意味している。さらにこうしたケースn(1,1)=n(1,2)において関連係数Qは

Q={n(1,1)n(2,2)-n(1,2)n(2,1)}/{n(1,1)n(2,2)+n(1,2)n(2,1)}

={1-n(2,1)/n(2,2)}/{1+n(2,1)/n(2,2)}

(26)

となり、Qはn(2,1)/n(2,2)のみに依存する。こうして、Qは関連性を測る統計量としての意味を失う。こ れが、本稿で「必要性」の考慮要素を議論の中心から遠ざけた理由である。そうした点は「不利益の程度」

についても該当する。したがって,「不利益の程度」「必要性」の2要素を扱う場合は、統計解析上改めて何 らかの工夫が必要であろう。同様の例として、整理解雇の4要素(4要件)のうちの1つである必要性と、

解雇有効-無効の関連性がある。神林(編著)(2008,p.165)による調査データからこの場合の2×3の分割 表は

必要性否認 必要性是認 判断なし

解雇無効 18 19 10

解雇有効 0 21 5

となっている。すぐ気づくように、解雇の必要性が裁判所によって認められた場合においてさえも、解雇が 有効となる事例数はほぼ50%に留まり、これは、必要性という要素が最終判断の予測量としては役に立た ないことを意味している。こうした点の解釈としては、例えば以下がある。……裁判例は、この必要性の存 否につき、当該企業の経営状態を詳細に検討するが、結論として大部分の事件ではその要件の具備を認めて いる。要するに裁判所は、人員削減の必要性に関する経営専門家の判断を実際上は尊重しているといえよう……

(菅野(2005,p.430))。

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(28)

Appendix1

判例リスト

読み方:1)A:賃金、B:退職金、C:定年制、D:勤務時間その他

2)-:番号の右に-が付してある事案は合計29件あり、 労働基準関係判例検索http://www.

zenkiren.or.jp/hanrei/から採用した。それ以外は大内(1999)による。

3)*:合理性否定 +:代償措置存在

データ採択に関する補足説明:

1.合理性とは意味あいが幾分異なる事案、合同タクシー事件(C-8)なども一応対象に含めた。このケースは 契約説を採用して定年年齢引き下げの拘束力を否定した(大内(1999)による解釈)。

2.合理性判断によらず、公序良俗に反する立場からのケース、伊豆シャボテン公園事件(静岡地沼津支判、昭 和48年12月11日、労民集26巻1号77頁)などは考察対象からはずした。

3.同一の事件であっても、1審、控訴審、上告審とある場合はそれぞれ別に数えた。例えば、1審で合理性肯 定、控訴審では合理性否定という判断はよくある。仮処分から始まるケースについても、別個のものとして扱っ た。ただし、差戻し審は含めていない。というのは、審級間で裁判所の判断は独立とされるからである。また、

差戻しの場合は、通常、上級審の結果が踏襲されるから、先の判断と無関係ではありえない。これらの内容は、

127件の事案の合理性判断結果は統計的にたがいに独立に起きている、という本稿の仮定の裏づけでもある

(本文では詳しく述べなかったが、2×2の分割表作成、関連性についての仮説検定はこの独立の仮定があって はじめて正当化される(池田ほか(1991)、木下(編)(1996)、BickelandDoksum(1977))。最高裁、差 戻し審、それぞれの判断結果の関係については、例えば、みちのく銀行事件が上げられる:最1小判平成12 年9月7日民集54巻7号2075頁、仙台高判平成14年2月12日労判822号52頁:差戻し控訴審の結果 内容には、最高裁判断に加えて、労働者側に支払われるべき差額賃金の具体的計算手続きが挿入されたのみで ある)。

4.労働者側敗訴であったとしても、合理性否定の判断ももちろんある(第四銀行事件(1審)A-9)。

5.同一事件で1審はタイプC、控訴審はタイプB、に分類したケースもある(朝日火災海上保険事件(高田・

1審(C-19)、控訴審(B-12)):これは大内(1999)にしたがっている)。

6.不利益変更が各タイプに及ぶケースがある。例えば、朝日火災海上保険事件(高田)B-12,13では、会社 合体にともない、A.賃金、B.退職金、C.定年制、のすべてに変更が生じた。簡単のために、Aは無関係とし て、こうした重複を認める統計処理は次のようになる。とりうる変数、結果をそれぞれX=0,1,2として

X=0...Bのみ(Bかつ「Cではない」) 1...Cのみ(Cかつ「Bではない」) 2...B,Cが重複

のように定式化すればよい。つまり、分類されるカテゴリ、「Bのみ」、「Cのみ」に「B,Cの重複」を付け 加えればよい。ただ、対象事案すべてを見る限り、重複するものは少数である。重複のケースに対応する標本 数が、不利益変更タイプの1箇所のみに関連して起こる場合に比較して極端に少ないので、統計処理上、困 難をともなう。ゆえに、本稿において重複分類を認めていない。B-12,13の事案については、控訴審で退職

(29)

金請求が現れ、この部分については合理性否定、と判定され(労働者側勝訴)、その後、使用者側が上告し、

上告棄却となったものである。上告審において1審原告(労働者側)は退職金以外の請求を争わなかった

(大内(1999,p.90)、荒木(2001,p.285))。

7.大内(1999)、あるいは上記のnet上の検索に載らない事件については、非採択とした(未公刊の例として は、天理大学(仮処分)事件・奈良地決平成12年3月(定年制関連)などがある)。

A.賃金

1* 日本貨物検数協会事件(1審)・東京地判昭和46年9月13日労民集22巻5号886頁。

2* 同事件(控訴審)・東京高判昭和50年10月28日判時794号50頁。

3* 全日本検数協会大阪支部事件・大阪地判昭和53年8月9日労民集29巻4号590頁。

4* 山手モータース事件・神戸地判昭和47年12月5日判タ289号254号頁。

5* 都タクシー事件・京都地判昭和49年6月20日労民集27巻6号628頁。

6* 有田交通事件・和歌山地判昭和55年6月30日労判366号付録27頁。

7* 日本近距離航空事件・札幌地判昭和53年11月6日判タ380号144号頁。

8+ 都タクシー事件・新潟地判昭和47年4月7日労経速779号7頁。

9*+ 第四銀行事件(1審)・新潟地判昭和63年6月6日判時1280号25頁。

10+ 同事件(控訴審)・東京高判平成4年8月28日判時1437号60頁。

11+ 同事件(上告審)・最2小判平成9年2月28日民集51巻2号705頁。

12* みちのく銀行事件(1審)・青森地判平成5年3月30日労民集44巻2号353頁。

13 同事件(控訴審)・仙台高判平成8年4月24日労民集47巻1・2号135頁。

14* 同事件(上告審)・最1小判平成12年9月7日労判787号6頁。

15* 駸々堂事件・大阪地決平成7年9月22日労判681号31頁。

16 駸々堂事件・大阪地判平成8年5月20日労判697号42頁。

17+ 高円寺交通事件・東京地判平成2年6月5日労判564号42頁。

18+ 福岡中央郵便局事件・福岡地判平成6年6月22日労判673号138頁。

19+ 安田生命保険事件・東京地判平成7年5月17日労判677号17頁。

20*+第一小型ハイヤー事件(1審)・札幌地判昭和63年4月19日労判630号12頁。

21*+同事件(控訴審)・札幌高判平成2年12月25日労判630号9頁。

22+ 同事件(上告審)・最2小判平成4年7月13日労判630号6頁。

23 基督教視聴覚センター事件・東京地判昭和61年7月29日労判481号付録85頁。

24+ 青森放送事件・青森地判平成5年3月16日労判630号付録19頁。

25+ 大阪相互タクシー事件・大阪地判平成4年12月11日労判620号37頁。

26 三菱重工業事件・長崎地判平成3年4月16日労判591号51頁。

27 三菱重工業事件・長崎地判平成4年7月16日労経速1470号3頁。

28* 大輝交通事件・東京地判平成7年10月4日労判680号34頁。

29*-アーク証券(第1次仮処分)事件・東京地決平成8年12月11日労判711号57頁。

30*-丸萬産業事件・大阪地決平成8年12月17日労判720号95頁。

31+ 安田生命保険事件・東京地判平成9年6月12日労判720号31頁。

表 15 が示すように、Q 、chi 2 乗などの数値はそれほど大きくない。これは代償措置の存在(S = 1 )と多数派組合同意(T= 1 )がたがいに無関係に起きることを言っている。そうであれば、S = 1 、 T= 1 が重なった場合、これが合理性の判定にあたえる効果を見るのは意味ある。それゆえ、「(S = 1 )かつ(T= 1 )」と R= 1 (合理性肯定)の関連度を第Ⅳ節で調べたのである。 Ⅵ 合理性判断に関する考慮要素間の相補性(荒木(2001,pp.263  269 )への解釈) 就業規則の不
表 16 の境界線(1 +k )で判定して、以下を読み取ることができる。 1.就業規則の不利益変更事案において何らかの事前情報がなければ、合理性が肯定される割合は事 案のうちほぼ 50 %であり、合理性肯定  否定の領域を分ける 45 度線も事案数から事後的に計算す ると、x +x  = 1 +k (= 1

参照

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