<論文>
「チーム学校」は「教員の専門性」の育成を支えうるか
―国際教員指導環境調査(TALIS)と教員勤務実態調査をふまえて―
大家 まゆみ
はじめに
日本の中学校教員の週あたりの勤務時間は 34 の参加国と地域の中で最も長いことが、OECD 国際教員指導環境調査(TALIS2013)によって報告された。日本の中学校教員の週あたりの勤務 時間は 53.9 時間で、参加国平均は 38.3 時間だった(文部科学省「OECD 国際教員指導環境調査
(TALIS2013)のポイント」、2014)。日本の教員が多忙な理由として、昨今の日本の学校では土曜 授業や学校行事などの土曜日の活動、通学路の安全確保、保護者や地域への対応、学校公開日、
地域と連携した協力活動など、「学校や教員の仕事は拡大し、多様化している」ことが挙げられる
(文部科学省初等中等教育分科会チーム学校作業部会、p.2、2014)。ところで、日本の教員の日常 は、欧米の学校とは大きく異なる。欧米の教員の仕事は授業中心であり、部活動など課外活動の 指導はほとんど担当しない。一方日本の教員が抱える業務内容は実に様々で、知識を教えること と授業に関わる業務は教員の仕事のごく一部である。したがって、日本の教員は子供にかかわる あらゆる事柄が「仕事」として入ってくるため、勤務実態の特徴が見えにくいとされてきた(新 谷、2012)。これは、教職の成立過程が日本と欧米諸国とは異なることも一因と考えられる。背景 には、日本の教員養成が欧米の中等教育の教員養成とは異なる成り立ちだった経緯がある。古来 より政治・経済・文化の核がキリスト教であった欧米では、中世の教育思想はキリスト教や神学 を基盤として生み出された。例えば中世初期の教育思想家であるアウグスティヌス(Aurelius Augustinus:354‑430)は、新約聖書の聖句「あなたがたの教師はキリスト一人だけである」(「マ タイによる福音書」第 23 章 10 節)に基づいて、真実を悟る知恵はただ「内なる教師」イエス・
キリストのみであるという信念を『教師論』(389 年)に書き記した(大川、2016)。アウグスティ ヌスに限らず、教職は欧米では古くから神が人間に与えた「神託」(profess)であったため、現代 に至るまで教職は「専門職」(profession)であるとする共通概念がある(岩田、2008)。一方、日 本や中国、韓国など東アジアの教育は儒教や仏教に教育思想のルーツがあり、歴史的、文化的背 景が異なる。このことから、日本の教員の業務内容は多岐にわたり、授業を主な業務とする欧米 の教員よりも勤務時間が長くなったのはある意味で自然の理だったと思われる。
ICT 機器の発展に伴うグローバル化の時代に、日本はこれまで日本の学校教育においてよき伝 統として受け継がれてきた「同僚性」(collegiality)を、地域や各分野の専門家から成る「チーム学 校」の概念に拡大し、様々な人材の協力を仰いで 1 つの共同体としての学校組織を整備する方向 性を模索し始めている。「チーム学校」とは校長のリーダーシップの下、教職員や様々な専門性を 東京女子大学 教職課程・学芸員課程 2018 年 月
持つ専門家がチームとして適切に役割分担する「共同体」(community:佐藤、2002)を体制化し、
実現しようとする施策である。2015 年 12 月に中央教育審議会(以下、中教審と略記)は答申「チー ムとしての学校の在り方と今後の改善方策について」を公表した。少子化に伴い、学校を取り巻 く環境が変貌してきたため、今後は都市部で少子化に伴う公立学校の統廃合や小中一貫教育が推 進されるとともに、高齢化が進む地方の過疎地では小規模な学校が増加し、ICT を用いた遠隔地 教育や地域と協力して学校行事等を実施する機会が増えると予想される。人口が減少し、少子化 が進む現代社会に於いて、学校がチームとして体制を整備していくことが期待され、中教審が教 育政策の中心に掲げる方策として提唱されてきた。
しかし「チーム学校」はこれまで教職員を中心に運営してきた学校の体制を大きく変える方向 に向かうことになる。地方自治体や教育委員会と連携しつつ、心理や福祉の専門家、教育支援員 や ALT、部活動指導員、医療や法律の専門家、そして地域や保護者、公的機関と様々な場面で関 わりあいながら、子供の成長を見守る組織を再編していくことが期待されている。そのため、期 待される点以外にデメリットも予想される。本論文では「チーム学校」が構想化されるに至った 歴史的経緯を概観し、国際教員指導環境調査(TALIS)と教員勤務実態調査をふまえた上で、日 本の教員の多忙さを軽減し、教員の専門性を育むために「チーム学校」が期待される役割と課題 について考察する。
1 教員研修から「教員の専門性」の育成へ:教員の多忙さの視点から
1950 年代以降、欧米を中心に現職教員の研修(in‑service education)が注目を浴び、今日に至 るまで様々な議論がなされてきた。例えばアメリカでは Corey(1957)が、現職教員のニーズに応 えるには学校内の同僚性やスーパービジョンが最も有効な手段であると主張した。その後、各国 で様々な教員が校内研究会に参加して協働し、同僚同士が互いに教授スキルを教え合ったり、時 にはグループに分かれてビデオ録画した授業研究を行ったり、討論したりするなど、校内研修は 様々な形で学校に取り入れられ、発展してきた。また、各国で政府による上からの教育改革が推 し進められる一方で、教員として成長するには教員経験年数や向上心、満足度の違いが影響して おり 1 人 1 人の教員がその都度必要としているニーズに合った研修をきめ細かに構成していく必 要があると考えられるようになった。そのため 1970 年代以降、OECD は学校組織、教育内容や 方法、そして学校の要求に沿った研修に重点を置き、各学校の実情に合わせて「学校に焦点をあ てた研修」(School‑focused in‑service training: SFIT)を行うようになってきた(斎藤、2015)。
そして 1980 年代になると、初任者研修に焦点を当てた教員研修のあり方が問われるようになっ た。たとえば Zeichner & Tabachnick(1981)は、初任者は学生時代に教わった通りのやり方では、
学校現場に出ると通用しない場面に出会うため、各学校の実情に合った文脈で学び直すことが大 事だと実感するケースが多いことを示した。初任者に限らず教員は生涯をかけて学び続けること によって専門性を高め、究めていく職業であり、自らの授業を振り返りつつ教え方を刷新してい く存在であるという認識が広まった。
1990 年代以降は、「学び続ける教員」像が浸透し、教員の専門性は教員が生涯学び続けることに よって高められるとされるようになった(OECD、1996)。その後、1990 年代には世界的に IT 化 が進んだため、グローバル化した社会変動を背景に、教員研修のあり方が改めて国際的に関心を 集めるようになった。OECD(1998)は、教員研修よりもさらに一歩進んで教員の「専門性の育成」
(professional development)に力を注いでいる国として . ドイツ、アイルランド、日本、ルクセン ブルク、スウェーデン、スイス、イングランド、アメリカ合衆国の 8 か国を取り上げ、「教員の専 門性」を育むことがなぜ重要なのか、具体的な実践例を挙げて述べている。
それでは日本の学校は、「教員の専門性」を育むための労働環境に恵まれていると言えるだろう か。OECD は 2008 年と 2013 年に国際教員指導環境調査(Teaching and Learning International Survey, TALIS)を実施し、前期中等教育段階(中学校及び中等教育学校前期課程)の教員の労 働環境について国際的比較を行った。日本は 2008 年の初回調査には加わっておらず、2013 年に 初めて参加した。なお、TALIS2013 には全部で 34 か国と地域、すなわちアルバータ(カナダ)、
オーストラリア、フランドル(ベルギー)、ブラジル、ブルガリア、チリ、クロアチア、チェコ、
キプロス、デンマーク、イングランド(イギリス)、エストニア、フィンランド、フランス、アイ スランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ラトビア、マレーシア、メキシコ、オランダ、
ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、シンガポール、スロバキア、ス ペイン、スウェーデン、アブダビ(アラブ首長国連邦)、アメリカが参加している。
OECD(2017)が刊行した Education at a Glance の Indicator D4 How much time do teachers spend teaching? では、日本の教員の勤務時間は参加 34 か国・地域の中で突出して長いことが示 された(図 1)。OECD 平均よりも「授業外勤務時間」が長く、法定「授業時間」は平均より短い 国・地域はグラフの右下の部分(第 4 象限)に位置し、なかでも日本の教員の授業外勤務時間が もっとも長かった(神林、2015)。
国内でも、2013 年度に実施された第 2 回 OECD 国際教員指導環境調査(TALIS2013)の結果 が公表され、日本の中学校教員は参加国の中で週あたりの全体の平均労働時間が最も長いこと、
また授業以外の業務時間(事務処理や部活動など)も他国と比較して長いことが示された(国立 教育政策研究所編、2014、表 1)。そのため、2014 年 7 月に下村博文文部科学大臣は中央教育審議 会(以下、中教審と略記)に対して「これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の 在り方について」を諮問した。同諮問は「教員が自らの指導力を十分に発揮し、生涯にわたって 伸ばしていくことができるような環境を整備し、教員が魅力ある職となるよう、教員の専門性に ふさわしい勤務や処遇等の在り方について検討を行う」とし、さらに「教員としての専門性や職 務を捉え直し、学校内における教職員の役割分担や連携の在り方を見直し改善していくとともに、
教員とは異なる専門性や経験を有する専門的スタッフを学校に配置し、教員と教員以外の者がそ れぞれ専門性を連携して発揮し、学校組織全体が、一つのチームとして力を発揮することが求め られて」いる学校を取り巻く環境を挙げ、教員の業務負担を軽減するためにチームとしての学校 組織が 1 つになって協働する「チーム学校」の重要性を提言した。
同諮問を受け、2015 年 12 月に中央教育審議会は 3 つの答申、すなわち「チームとしての学校の 在り方と今後の改善方策について」、「新しい時代の教育や地方 創生の実現に向けた学校と地域 の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」、「これからの学校教育を担う教員の資質能力 の向上について〜学び合い、高め合う教員養成コミュニティの構築に向けて〜」を公表した。こ こでは答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」を取り上げる。同答申は
①生徒指導、②特別支援教育、③土曜授業や登下校時の安全対策、帰国・外国人児童の増加、感 染症やアレルギーのある子供への対処などの新たな教育課題に対応するために、学校が保護者や 地域、教員以外の心理や福祉、ICT や ALT、部活動指導員、医療ケアを行う専門家と協力して、
チームとしての学校の資質や能力を高めることに主眼を置き、チーム学校の体制を整えて様々な 今日的課題に対応することを提言した。
しかし、まだ同答申が公表された段階では、教員の長時間労働を改善することが主な目的と銘 打たれていた訳ではなかった。そのためチーム学校を実現するために、地域と学校の仲保者であ る管理職は、地域や専門家との交渉に割く時間が増え、さらに文部科学省や教育委員会の調査に 回答したり、報告書を作成したりする業務が増加した。また同答申では、主幹教諭は「授業時数 が多く、期待される校務を処理できない」のが現状であると報告された。結果として校長、副校
図 OECD 加盟国の教員の法定勤務時間および授業時間
(出典) Education at a Glance 2017(OECD, 2017)Indicator D4 How much time do teachers spend teaching? を もとに、筆者が神林(2015)を参考に作成
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長、教頭等の管理職のリーダーシップやカリキュラム・マネジメントの役割はかえって増大した。
つまり、チーム学校の理念とは裏腹に教員の役割が増大し、より多忙になったと言えるだろう。
教員の多忙さに関しては、神林(2015)が統計的手法を用いて教員の労働時間調査を分析し、
1950〜60 年代と比較して 2000 年以降の方が教員は多忙になっていることを検証した。なお、神 林(2015)が分析対象とした 2000 年以降の文部科学省調査は、2006 年に文部科学省が、国立大学 法人東京大学に委託し、さらに東京大学がベネッセコーポレーションに再委託した「平成 18 年度 文部科学省委託調査『教員勤務実態調査(小・中学校)』」である。10 年後の 2016 年にはリベルタ ス・コンサルティングに委託し、日本国内の小中学校を対象に「平成 28 年度文部科学省委託調査
『教員勤務実態調査(小・中学校)』」を実施した。
本論文では神林(2015)を参考に、週全体の教員の労働時間と個別の業務時間に注目し、ここ 10 年間でどの業務内容において教員の多忙化が顕著になったのかを検証する。これまで文部科 学省が実施した調査について複数の時点で比較し、時系列で教員の多忙化を検証した研究は少な い(油布、2009)。そのため本論文では、どの業務内容が教員の勤務時間の中で占める割合が増え、
原因はどこにあるのか、実態を検証した上で考察する。
表 1 日本の教員の仕事時間(1 週間あたり)
仕 事 時 間 の 合計
指導(授業)
に 使 っ た 時 間
学 校 内 外 で 個 人 で 行 う 授 業 の 計 画 や 準 備 に 使った時間
学 校 内 で の 同 僚 と の 共 同 作 業 や 話 し 合 い に 使った時間
生 徒 の 課 題 の 採 点 や 添 削 に 使 っ た 時間
日本 平均 53.9 17.7 8.7 3.9 4.6
標準誤差 (0.4) (0.1) (0.1) (0.1) (0.1) OECD 加 盟 国
等 34 か国・地 域平均
平均 38.3 19.3 7.1 2.9 4.9
標準誤差 (0.1) (0.0) (0.0) (0.0) (0.0)
生 徒 に 対 す る 教育相談(生徒 の監督指導、イ ン タ ー ネ ッ ト に よ る カ ウ ン セリング、進路 指導、非行防止 指導を含む)に 使った時間
学 校 運 営 業 務 へ の 参 画 に 使った時間
一 般 的 事 務 業 務(教員として 行う連絡事務、
書 類 作 成 そ の 他 の 事 務 業 務 を含む)に使っ た時間
保 護 者 と の 連 絡 や 連 携 に 使った時間
課 外 活 動 の 指 導(例:放課後 の ス ポ ー ツ 活 動や文化活動)
に使った時間
そ の 他 の 業 務 に使った時間
2.7 3.0 5.5 1.3 7.7 2.9
(0.1) (0.1) (0.1) (0.0) (0.2) (0.1)
2.2 1.6 2.9 1.6 2.1 2.0
(0.0) (0.0) (0.0) (0.0) (0.0) (0.0)
文部科学省「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS2013)のポイント」(2014 年 6 月 30 日)および「OECD 国際教 員指導環境調査(TALIS)2013 年調査結果の要約」をもとに作成
2 2006 年から 2016 年の 10 年間で教員の仕事はどの業務内容で多忙になったのか
文部科学省は「教育政策に関する実証研究」の一つとして、教員の勤務実態の実証分析を 2016 年 10 月〜11 月に実施した。調査対象は小学校 400 校と中学校 400 校に勤務する教員であり、校 長、副校長、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭、講師、養護教諭、栄養教諭。当該校のフルタイ ム勤務職員全員である。調査項目は教員の属性(性別、年齢、雇用形態、教職歴等)/学級担任 の有無と担当学年、担当児童生徒数/部活動顧問の状況/校務分掌の状況/ 7 日間の勤務実態の 記録(30 分単位)である。
2017 年 4 月、文部科学省 HP 上に「教員の勤務時間」が公表された。なお、TALIS2013 が中学 校および中等教育学校前期課程を対象にしているため、結果を比較する上で、本論文では中学校 教員の回答のみを扱う。回答があったのは中学校 399 校、中学校教員は 10,687 名に上る。
2006 年度調査と 2016 年度調査の結果を比較すると、「教員の勤務時間」はここ 10 年間で増加 している。2016 年度の中学校教諭の 1 週間あたりの平均勤務時間は 63 時間を超えており、10 年 前より 5 時間以上増加した。さらに「教員の 1 日当たりの学内勤務時間」は 10 年前と比較して、
平日・土日ともに、いずれの職種でも勤務時間が増加した。特に教諭(主幹教諭・指導教諭を含 む)については、1 日あたり平日で 32 分、土日で 1 時間 49 分ほど学内勤務時間が増加している
(表 2)。なお、教諭の学内勤務時間と持ち帰り業務時間を比較すると、学内勤務時間は 10 年前よ りも増加したが、持ち帰り業務時間は若干減少した。
表 2 から分かるように、中学校教諭、副校長・教頭、校長の勤務時間は 10 年前よりも大幅に増 加している。この原因として、2013(平成 25)年 11 月に学校教育法施行規則が改正されたため、
土曜日にも「土曜授業」や教育活動が本格的に実施されるようになったことが挙げられる。また、
小学校にも英語が導入され、教員歴の長いベテランの退職に伴って若い教員が増加したことも、
授業準備にかかる時間が長くなった一因と考えられる。
それでは、教員の仕事はどの分野で特に負担が重いのだろうか。以下、具体的に検討する。教 師の仕事は、大別すると「生徒の指導にかかわる仕事」「学校の運営にかかわる仕事」「外部対応」
「校外」の 4 つに分類できる。さらに「生徒の指導にかかわる仕事」は授業、生徒指導、部活動、
生徒会指導や学校行事などの特別活動、学校・学級経営など 12 種類、「学校の運営にかかわる仕 事」は学校経営、職員会議、事務、学校内の校内研修など 7 種類、「外部対応」は保護者・PTA、
表 2 中学校教員の平均勤務時間(文部科学省「教員勤務実態調査」(平成 28 年度)を基に作成)
平日 土日 一週間
教諭 11 時間 32 分(+ 32 分) 3 時間 22 分(+ 1 時間 49 分) 63 時間 18 分(+ 5 時間 12 分)
副校長・教頭 12 時間 6 分(+ 21 分) 2 時間 6 分(+ 54 分) 63 時間 36 分(+ 2 時間 27 分)
校長 10 時間 37 分(+ 18 分) 1 時間 59 分(+ 1 時間 5 分) 55 時間 57 分(+ 2 時間 34 分)
*( )内は 10 年前と比較した平均勤務時間
地域、行政・関係団体への対応など 3 種類、そして「校外」は校務としての研修、会議・打ち合 わせなど 2 種類、「その他」を合わせると全部で 25 種類もの多様な仕事内容に分けられる(表 3)。
2016 年度の調査結果から、教諭の平日の勤務時間は「授業」の時間が最も長く、次いで「授業 準備」「生徒指導(集団)」の時間が長いことが示された。それでも「生徒指導(集団)」の時間は 10 年前よりも若干減少し、代わりに「授業」と「授業準備」、「成績処理」、「学年・学級経営」が 増加している。
表 3 教員勤務実態調査による中学校教員の仕事の分類および平日の学内勤務時間
2006 年
注 ) 2012 年
注 ) 2016 年 注 )
2016 年 度 調 査
− 2012 年
度調査
業務分類 具体的内容 学内勤務時間 増減
生徒の指導にかかわる業務
朝の業務 朝打合せ、朝学習・朝読書の指導、朝
の会、朝礼、出欠確認 1.70 1.90 1.85 + 0.15 授業(主担当)
主担当として行う授業、試験監督
15.55 17.25 16.30 + 0.75
授業(補助) ティーム・ティーチングの補助的役 割を担う授業
授業準備 指導案作成、教材研究・教材作成、授
業打合せ、総合的な学習の時間・体験
学習の準備 5.55 6.70 6.30 + 0.75
学習指導 正規の授業時間以外に行われる学習
指導(補習指導・個別指導)、質問へ
の対応、水泳指導、宿題への対応 0.25 0.35 0.45 + 0.20
成績処理 成績処理にかかわる事務、試験問題
作成、採点・評価、通知表記入、調査
書作成、指導要録作成 1.25 0.90 1.90 + 0.75 生徒指導(集団) 給食・栄養・清掃指導、登下校・安全
指導、健康・保健指導、全校集会、避
難訓練 5.30 5.25 5.10 − 0.20
生徒指導(個別) 個別面談、進路指導・相談、生活相談、
カウンセリング、課題を抱えた児童
生徒への支援 1.10 0.35 0.90 − 0.20
部活動・クラブ 活動
授業に含まれないクラブ活動・部活 動の指導、対外試合引率(引率の移動
時間も含む。) 1.70 1.70 2.05 + 0.35
生徒会指導 生徒会指導、委員会活動の指導 0.30 0.20 0.30 ± 0.00
学校行事 修学旅行、遠足、体育祭、文化祭、発
表会の行事、学校行事の準備 2.65 1.10 1.30 − 1.35 学年・学級経営 学級活動・HR、連絡帳の記入、学級
通信作成、名簿作成、掲示物作成、教
室環境整理 1.35 1.05 1.90 + 0.55
学校の運営にかかわる業務
学校経営 校務分掌業務、初任者・教育実習生の
指導、安全点検・校内巡視、校舎環境
整理 0.90 1.00 1.05 + 0.15
また、土日の勤務時間については、「部活動・クラブ活動」の時間が 10 年前と比べると 2 倍に なった。この原因について文部科学省は、部活動の際の生徒の安全を確保するためとの見解を示 していたが、後述するように、2017 年 6 月の文部科学大臣の諮問と 11 月の中教審の提言を受け、
今後は部活動指導員に業務を委託する方向で調整するものと期待される。
本論文では、2006 年度と 2016 年度の文部科学省委託調査と、青木・神林(2013)が 2012 年度 に実施した同一内容の調査結果を統計的分析によって比較し、これら 3 種類のデータを用いるこ とによって、ここ 10 年で教員の仕事の中でより多忙になった業務を検討した。分析には SPSS ver. 24 を用い、各業務分類の学内勤務時間(2006 年度)を基準値として、2012 年度と 2016 年度 の各業務分類の学内勤務時間の平均との差について、1 サンプルの t 検定を実施した。
職員会議・学年
会の会議
職員会議、学年会、教科会、成績会議、
学校評議会校内の会議
1.45 1.35 1.25 − 0.20
個別の打合せ 生徒指導等に関する校内の個別の打 合せ・情報交換
事務(調査への
回答)
国、教育委員会等からの調査・統計へ
の回答
0.95 0.50 0.95 ± 0.00 事務(学納金関
連) 給食費や部活動費等に関する処理や
徴収の事務
事務(その他)
業務日誌作成、資料・文書(校長・教 育委員会等への報告書、学校運営に かかわる書類、予算・費用処理関係書 類)の作成
校内研修 校内研修、勉強会・研究会、授業見学 0.20 0.40 0.30 + 0.10 外部対応
保 護 者・PTA 対応
保護者会、保護者との面談や電話連 絡、保護者対応、家庭訪問、PTA 関
連活動、ボランティア対応等 0.50 0.55 0.50 ± 0.00
地域対応 町内会・地域住民への対応・会議、地
域安全活動、地域行事への協力 0.05 0.00 0.05 ± 0.00 行政・関係団体
対応 行政・関係団体、保護者・地域住民以
外の学校関係者、来校者の対応 0.05 0.00 0.05 ± 0.00 校外
校務としての研
修 初任研、校務としての研修、出張を伴
う研修 0.55 0.55 0.60 + 0.05
会議・打合せ(校
外) 校外への会議・打合せ、出張を伴う会
議 0.40 0.45 0.35 − 0.05
その他
その他の校務 上記に分類できない校務、移動時間 0.85 0.08 0.45 − 0.40 注 ) 2006 年度文部科学省委託調査「教員勤務実態調査(小・中学校)」(第 5 期)調査時期:10 月 23 日(月)〜11
月 19 日(日)
注 ) 2012 年度「教員勤務実態調査(小・中学校)」(青木・神林、2013)調査時期:10 月〜12 月 注 ) 2016 年度文部科学省委託調査「教員勤務実態調査(小・中学校)」(10 月期・11 月期)
【10 月期】(小・中各 200 校)10 月 17 日(月)〜10 月 23 日(日)、又は 10 月 24 日(月)〜10 月 30 日(日)(予備 週:11 月 7 日(月)〜11 月 13 日(日)、又は 11 月 14 日(月)〜11 月 20 日(日))
【11 月期】(小・中各 200 校)11 月 7 日(月)〜11 月 13 日(日)、又は 11 月 14 日(月)〜11 月 20 日(日)(予備 週:11 月 28 日(月)〜12 月 4 日(日))
その結果、学校行事(修学旅行、遠足、体育祭、文化祭、発表会の行事、学校行事の準備)の み に 有 意 差 が み ら れ、2006 年 度 は 2012 年 度 と 2016 年 度 の 平 均 値 よ り も 有 意 に 高 か っ た
(t=‑14.50、p=.04)。中学校教員の場合は 2012 年度および 2016 年度を平均すると、学校行事にか かる時間は 2006 年度よりも 2012 年度と 2016 年度の平均値の方が有意に低下していた。しかし、
他の業務内容については 2006 年度と 2012 年度・2016 年度の平均値の間に有意差は見られなかっ た。つまり、ここ 10 年間で教師の多忙さが低減されたとは考えにくく、学校行事以外は忙しいま まの教員の仕事ぶりがうかがえる。
また TALIS2013 の結果から、日本の中学校の授業時間は参加国平均と同程度である一方、課 外活動(スポーツ・文化活動)の週あたりの平均の指導時間が特に長い(日本 7.7 時間、参加国 平均 2.1 時間)ほか、事務業務(日本 5.5 時間、参加国平均 2.9 時間)、授業の計画・準備に使っ た時間(日本 8.7 時間、参加国平均 7.1 時間)等も長いことが報告された。この結果は、1950 年 代〜60 年代に比べて、2000 年代以降の教員の方が、課外活動に従事する時間が長いとされてきた こととも一致する(神林、2015)。
3 「チーム学校」は「教員の専門性」の育成を支えうるか
2017 年 6 月 22 日に、TALIS2013 の結果と答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方 策について」を受け、松野博一文部科学大臣は中教審に対して「新しい時代の教育に向けた持続 可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策につい て」諮問した。同諮問では、教員が教育の専門職として、子供の指導に一層専念することができ るよう、教育基本法第 13 条に則って学校、家庭及び地域住民が、教育におけるそれぞれの役割と 責任を自覚し、相互の連携及び協力に努め、「学校が担うべき業務の在り方」「教職員及び専門ス タッフが担うべき業務の在り方及び役割分担」「教員が子供の指導に使命感を持ってより専念で きる学校の組織運営体制の在り方及び勤務の在り方」の 3 点を見直すべく、早急に対応するため の方策が示された。チーム学校に関しては「『チームとしての学校』の実現に向け、教員が本質的 に担うべき業務は何か。また、事務職員やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、
部活動指導員など様々な専門スタッフや支援人材の役割分担及び連携の在り方はどうあるべき か。」という視点から、様々な人材が学校を支えることによって、教員の業務負担を減らしていく ための議論を進めるための検討を求めた。
この 2017 年 6 月の文部科学大臣からの諮問を受けて、中教審「学校における働き方改革特別部 会」は 2017 年 7 月から 11 月までの間に 8 回にわたる会合を開き、2017 年 11 月 28 日に「新しい 時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関 する総合的な方策について(中間まとめ)」(案)を公表した。同案では「教育委員会が取り組む べき方策」として、「チームとしての学校」として、各学校が別々に行ってきた事務職員の学校事 務の仕事を、学校を超えて共同で実施する等、事務処理の効率化を積極的に行うこと、また、学 校徴収金など、これまで学校が担ってきた業務で、地域内で統一して実施できるものは、できる
限り市町村など地方自治体や教育委員会が担うようにすることを提起した。加えて、これまで学 校や教員が担ってきた代表的な業務、すなわち①登下校に関する対応、②放課後から夜間にかけ ての見回り、児童生徒が補導された際の対応、③学校徴収金の徴収・管理、④地域ボランティア との連絡調整、⑤調査・統計等への回答⑥児童生徒の休み時間における対応、⑦校内清掃、⑧部 活動、⑨給食時の対応、⑩授業準備、⑪学習評価や成績処理、⑫学校行事等の準備・運営、⑬進 路指導、⑭支援が必要な児童生徒・家庭への対応の在り方を見直し、今後は「学校以外が担うべ き業務」は地方自治体や教育委員会など、専門性の高い業務はスクールカウンセラーやスクール ソーシャルワーカー、栄養教諭、部活動指導員等の専門家など外部人材への委託、あるいは地域 や保護者のボランティアが担うことができるように業務分担を検討することとし、議論が進めら れている。
上述の 14 の業務に関して、中教審「学校における働き方改革特別部会」が具体的に方策を挙げ、
教員の業務負担を減らすための政策が打ち出されたことは画期的であり、「チーム学校」の組織編 成の構想として今後は各地方自治体に波及していくと考えられる。しかし残された課題が 2 点挙 げられる。
まず、チーム化する構想により、管理職としての校長のリーダーシップの質がより問われるよ うになると共に、これまで以上に管理職の校長、副校長、教頭、主観教諭が果たす役割、仕事量 が多くなるのではないかと懸念される。様々な外部の専門職と連携しつつ、地方自治体や教育委 員会、警察、福祉などの公的機関とも折衝して、子供たちの成長を見守る責任が管理職の負担過 多とならないよう、法の整備を進めるとともに、管理職のリーダーシップを支える教職員の人的 関わりなど、ソフト面でも新たな視点から関係性を見直していくことが重要であろう。
次に、多様な職種の人材や地域、保護者が学校運営に関わるようになることが、果たして「教 員の専門性」の育成に十分に貢献しうるかという疑問が残る。TALIS2013 の結果から、「教員間 の協力」について日本は「『他の教員の授業を見学し、感想を述べる』という項目に『行っていな い』と回答した教員が参加国平均に比べて極めて低い(日本 6.1%、平均 44.7%)。」「一方、『同 僚と教材のやりとりをしていない』(日本 11.1%、平均 7.4%)、『特定の生徒の学習の向上につい て議論を行っていない』(日本 6.0%、平均 3.5% )、『他の教員と共同して、生徒の学習の進捗状 況を評価する基準を定めることを行っていない』(日本 16.6%、平均 8.8%)、『専門性を高めるた めの勉強会に参加していない』(日本 18.8%、平均 15.7%)と回答した教員の割合は、参加国平 均より高い」ことが報告された(国立教育政策研究所、2014)。すなわち、教員の同僚性が十分に 円滑ではないと回答した教員の割合が、他国よりも多いことが分かる。
教員が互いの授業を参観し、授業の展開に対するそれぞれの意見を自由に述べ、改善点につい て話し合うカンファレンスや授業研究は、「教員の専門性」を高める上で重要である(大家、2008)。
専門家としての教員という職業を、ショーン(1983)は「反省的実践家」と定義した。日本ではこ れまで、学校ごとに校内で定期的に行われる授業観察や、その後に開かれる校内研修、教師同士 のインフォーマルな集まりでお互いの授業を研究しあう自主的な研究会、教師が自らの実践を記
録し出版した印刷物の研究、学内外から自由に参加したり批評したりすることができる公開授業 まで、実にさまざまな形で「反省的実践家」(reflective practitioner)としての教師文化が育まれて きた(佐藤、1996)。
自らの授業のあり方を反省し、次の授業へとつなげていく「リフレクション」は、1 人の教員が 自分の力だけで行うものではない。一緒に歩み、悩み、考えてくれる仲間が有力な助言をしてく れることもある。教師が仲間とともに、お互いの教育観や授業のやり方を尊重しあい、ときには ぶつかりあって進むことで、同僚性がはぐくまれていく。同僚性とは、単に勤務している学校が 同じ同僚の教師を指しているのではなく、「専門家として対峙し、対話し、互いに学校づくりや教 育の未来への展望を共有する関係性であり、絆として作り上げられていくもの」(秋田、2000、
p.184)です。教員は仲間とともにお互いを支えあい、助け合いながら成長していく存在である。
Little(1982)はうまくいっている学校とそうではない学校の違いがどこから生ずるのかを検討し、
専門家としての教員が同僚と連携していくこと、すなわち同僚性によって学校の方向性が分かれ ることを示した。同僚性によって教師の自律性と専門性も磨かれていくと考えられるが(大家、
2008)、TALIS2013 の結果からは、日本の教員は同僚性にもとづく協力が十分に出来ていない現 状が示された。
同僚と協働して育ちあう時間が不十分な現状で、「チーム学校」が本格的に導入されると、これ まで以上に同僚と協力して切磋琢磨し合い「専門性」を育む機会が少なくなる恐れが出てくるの ではないだろうか。具体的に業務内容の役割分担を明確化した点については、「新しい時代の教 育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合 的な方策について(中間まとめ)」(案)に期待できる部分は大きい。しかし、教員同士の同僚性 がより高められ、「教員の専門性」を育成できる土台を「チーム学校」が支えられるよう、チーム 学校の体制を整備していくことが今後の課題である。
引用文献
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(本学国際社会学科社会学専攻教授)