長野盆地の地盤構造と常時微動の方向性について
服部秀人 国井隆弘 島坦
The Directivity of Particle Motion of
Microtremors in the Nagano‑basin.
Hideto HATTORI Takahiro KUNII Hiromu SIMA
TheobseⅣationsofmicrotremorsweremadeintheNaganO‑basin,where192 locationsweretakenatthemeshofinteⅣalsofabout1km.WavemotionsinNS,EW
,
andUDcomponentswerecomparedbetweenrecordsduetotheperiodof2sec.and10 sec.seismometers.Particleorbitsofsurfacemotionweredepictedfrom NSandEW componentsof microtremors.Thepredominantmovementshowingthedirectivityofthenortheast・ southwestorthenorthwest‑Southeastwasratherclearinlongperiodrecordsthanshort periodrecords.ItseemstobeattrilbutedtotheundergroundstructureintheNagano‑
basin.
1
.は じ め に
1985
年のメキシコ地震において,震央か ら約
400km離れた メキシコ市 で大 きな被害 が生 じた(
1)
.この被害の特徴 として,1 )メキシコ盆地の軟弱地盤上 にあ る市中心部 の建物 に被害 が集中 していること
,2)盆地 の軟弱層厚 は
40‑45mで,その地盤上 の地震動 は
2‑ 3秒 の 周期 をもつ繰 り返 し回数の多い波形であったこと
,3)そのため,地盤上の最大加速度が
0.2g程度であったにもかかわ らず
, 2‑ 3秒の固有周期 をも
つ10‑20階程度の建物 に共振現象が 起 こり
,1g 程度の非常に大 きな応答加速度が生 じた ことなどが挙 げられ よう.
この地震被害は,軟弱層の堆積す る盆地独特の地震動 に起因す るものと思われ る.我 国に も同様の盆地が数多 く存在 し,盆地構造の地震動を解明する必要性 は高い.筆者 らはこれ ま で,常時微動観測や実地震観測を通 して長野盆地 の震動特性 を調べてきた( 4 ) ( 5 ) など .その結果, 長野盆地 には
2秒程度の卓越周期が存在 し,その周期 と対応する基盤は深 さ
1km辺 りの
P波速度
6km/S層あるいは
4km/S層であると考 えられること,当盆地の地質波 は北西一 南東の方向に伝播 しやすいことなどが解 ってきた.
本研究では, さらに当盆地の震動特性を知るために,長野盆地平地部の常時微動観測 を実 施 した.そして,卓越振動数の分布 と卓越水平動の方向性を調べた結果,当盆地内には周期
●平成
2年
9月 土木学会年次学術講演会において一部発表
= 土木工学科 助教授
=●東京都立大学工学部 教授
日日 信州大学 名誉教授
40
服部秀人 ・国井隆弘 ・島 坦
1秒程度以上の長周期成分の卓越する場所がかな り広 く分布す ること, またその帯域 におい て卓越 した方向性が認め られること等が明 らか となった.
2.
常 時 微 動 観 測
5 10 X 15 20 25
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午
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勤 //
/ キ // / f l 、 ヽ
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ヽ ヽ 小ヽ ヽ 仏
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ll図
1観測メッシュ
図
1に示す よ うに,盆地を
1kmのメ ッシ ュで覆い,その平地部全域で常時微動観測を行 った.各 メッシュの中心付近の地表面で,固有周期
10秒および
2秒の振動計 を用いて,各々
NS,EW,UD
の
3成分 の同時観測を行 った.観測地点は全部で
192箇所
.Y座標の
12メ ッ シュは犀川河川敷 きで適当な観測場所が得に くいため除外 した.
10秒計では変位を
,2秒計 では速度を各々記録 し,約
40秒間の記録 を
0.02秒刻みでデジタル化 した.
3.
長野盆地の地盤の概要
地震探査によ り長野盆地 のやや深い地盤構造が知 られている
(2).それ によると,厚 さ
100 m程度の
P波速度
1km/S層の下 に厚 さ数
100mの
2km/S層が, さらにその下 に
500m以上 の
4km/S層が,そしてその下 に
6km/S層が存在する.
3‑1
常時微動から推定される基盤
当盆地の常時微動 に現れる
0.5Hz程度の卓越成分 と対応す る基盤 は,千曲川右岸平地部 では深 さ
800‑1500mにある
6km/S層,左岸平地部では
1300‑1400mの深 さにある
6km/S層,左岸 の山裾付近 では深 さ
700mにあ る
4km/S層であると考 えられ る.
SH波の重複反 射 により求め られるこれ ら基盤上 の成層地盤地表面における増幅スペク トルの
1次振動数は
0.30‑0.69Hz
であ り,常時微動の低周波域 の卓越振動数 とよく一致す る( 5 ) .
3‑2
軟弱地盤の分布
図
2に支持層 の深度を示す.長野市防災基本図( 3 ) の深度曲線 を図
1のメッシ ュに重ね合わ
1 5 10 」 」 15 20 25
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図
2支持層深度図
せたものである. ここに言 う支持層の深度 とは,地表か ら
N値
30以上 の層 までの深 さであ る.
この深度曲線 によ り当盆地の軟弱地盤の広が りをかな り知 ることができる.氾濫低地 には厚 さ
30m程度の軟弱層が分布 してい る.
X17Y7( 以下
1707等 と略記)辺 りには
40mの
,1318辺 りには
50mの軟弱層が確認 されている.
X19‑Ⅹ22にかけて存在す る
10m曲線 の東側 は須 坂市のため基本図に記入 されていないが,扇状地先端の低地 には軟弱層が存在す る可能性 は 高い.
4.
観測結果および考察
4‑ 1卓越振動数
10
秒計 と
2秒計 による各記録のフー リエスペク トルか ら求めた卓越振動数を図
3と図
4に 示す.旧道路橋示方書耐震設計編 の地盤種別 の固有周期 と対応 させて,卓越振動数を
1種 か ら
4種 に分類 した.図
3は
10秒計で観測 した変位波形の卓越振動数であ り,図
4は
2秒計 で 観測 した速度波形のそれである.図
3では長周期成分が強調 され, よ り深い層構造 をも反映 した卓越振動数の分布 となっているもの と思われる.図
4では図
3よ り短周期成分が強調 さ れ,表層地盤 の特性が現れやすい と思われる.
図
2の支持層深度図 と対比すると,図
3,図
4共 に図
2の支持層の深い所 とよく対応 して 第
4種 の大 きな黒点があ らわれている.図
3にはそれ以外の所 にも第
4種が多 く現れてい る が, これは表層地盤の特性 とは別 の,おそらくよ り深層の地盤構造を反映 した もの と思われ る.図
3の長周期卓越振動数の分布 は,当盆地の地震動特性を議論す る上で大変興味あるデ ータといえる.
4‑2 水平オービッ ト
42
服部秀人 ・国井隆弘 ・島 坦
1 5 10 」 」 15 20 25
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変位波形
(10 秒計) の卓越振動数
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図4
速度波形
(2秒計) の卓越振動数
1
51
0‑ユー 1 5
2025
図
5長周期成分の水平オービット
X
1 5
1 0 1 5
2025
図
6短周期成分の水平オービット
44
服部秀人 ・国井隆弘 ・島 埴
長周期成分 はよ り深い地盤構造 を,短周期成分 は比較的浅い構造を各々反映するであ ろ う と考 えられるので
,10秒計 のデータか ら
ほ1Hz程度以下 の長周期成分 を
, 2秒計 について はそれ よ り短周期成分 を各々抽 出 してオー ビットを描 いた.結果 を図
5,図
6に示す.図
7にオー ビットの作成手順 を示す.狭帯域抽出 フィルターのバ ン ド幅 は,便宜的 に,長周期 の 場合
0.2Hz,短周期 では
2.0Hzとした.
図
7水平オービットの作成手順
図
5の長周期 のオー ビットには明かな方向性 が見 られ る.図
6の短周期 の場合には方向性 の顕著でない ものが多い.ただ,短周期 において,東西両山地山裾 の扇状地 のオー ビッ トが 特徴的な形状 を示 し,盆地 中央部 のオー ビットとの コン トラス トが興味深い.
図
5のオー ビットの軸 の方向を図
8に示す.
Y12の メ ッシュは前述 のようにデータが無い.
その他の空白は軸 を定めに くいオービッ トの場所 である.実線 は方向性がきわめて強い所, 破線 は実線 ほどではないが方向性明瞭 な所 である.図
8を眺めると,東北一南西方向の実線
1
51 0 」 」 1 5
202 5
1
5
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ヽ′ ふ=
‑ i . . 、 ず ′′ ′ ′ ′
ヽ‑ t t 、 ㌻ 、 / 房 I ‑′ ′ ■ 、
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)Fl1.、、1 1 0
1 ヾこ )
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′7 し ′ 一 丁 ヽ 一 ■
一一〜 二 一二‑ : < ' ‑ I
、 ヾ二
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立 て // 〜 ′′ L‑ 1'ヽ /' t ′
卜,k1// ウ / ′ ヽ さ ヽ‑ i L∫ ‑
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、、い
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ノ一̲ < ̲ /ヽ ヽ . ′ ‑
/‑
、′ ノ ヽ ノ ′ ク
増 ',,.、t'''LJ</l′メ
′ヽ ヽ ミ■ l T
S/ / / , / ,
‑
}{,′ ヽ く } ′
<‑ 一ち■̲′ ′ 一ー 7 、 I ノ 、 、 ヽ ′、
′/ / / / /
Iヽ l
㌔ ̲ ヽ′ ノ′
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ア 1一 一 ヽ}
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一一 一 一
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ヽ一一右,r:ノ 叶 7‑ ′ J l
l′
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t",,,図
8長周期成分の卓越振動方向
が多い ことに気が付 く.破線 もその方向のものがかな り多い.北西一南東方向のものも少 な くない.筆者 らは, ここに見 られ る方向性 は当盆地の地盤構造 と関係が深いのではないか と 考えている.
5.
結 論
本研究の成果 は次のように要約 され よう.
1 ) 長野盆地における常時微動の卓越振動数 と卓越成分の振動方向の分布が得 られた.
2)
長周期 の卓越成分がかな り方向性を示す ことが明 らか となった.北東一南西あ るいは北 西一南東の動 きが多 く確認 された.筆者 らは, この方向性 は当盆地の地盤構造 と関係が深 いのではないか と考 えている.
3)
長周期成分 の卓越 しやすい地域がかな り広範囲に存在す ることが明か となった.
4) 2
秒計で記録 された速度波形の卓越振動数 と支持層深度 との対応が比較的良好 であるこ とがわかった.
以上の成果は当盆地 の地震動を議論する上で有効 な示唆を与 えるもの と思われ る.
6.
お わ り に
本研究によって,長野盆地の卓越振動数 と卓越水平動の特性を具体的に知 ることがで きた.
現在当盆地内数 カ所 において地雷観測を行 ってお り,データが蓄積 されつつある( 6 ) .今後, 実地震の観測結果を中心に検討を進め,当盆地の地震動特性 を表現できる解析 モデルを研究
したい.
謝 辞
常時微動観測に当た り,測定計器 を貸 していただき, また貴重 な助言をいただいた大林組 技術研究所 の菊地敏男氏ならびに神奈川大学の荏本草久氏 にお礼申し上 げる.
卒業研究でご協力いただいた大畑雅之 ( 長野県),北沢健二 ( 東京電力) ,鈴木正幸 ( 守谷 商会)( 以上平成元年卒) ,大 日方淳 ( 高見沢) ,加藤裕之 ( 長野県),佐々木斉 ( 東信土建), 掘内肇 ( 佐田建設)( 以上平成
2年卒)の各氏に感謝申 し上 げる.
参 考 文 献
1 ) 岩崎 :メキシコ地震報告,土木学会誌
,Dec,19852) GeologicalSuⅣeyoりapan:ExplosionseismicstudiesoftheMatsushiroearthquakeswarm area,SpecialReportNo.5,1969
3)
長野市 :長野市防災基本図
,19884)
島,藤井 :地震波伝播の方向性 と盆地構造について,土木学会中部支部研究発表会
,1989 5)服部,菊地,荏本,国井 :常時微動から推定される長野盆地の地震基盤について,土木学会中
部支部研究発表会
,19896)