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中国・口承長篇物語のテキストと語り : 語りもの 「樂亭大鼓」にもとづいて

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中国・口承長篇物語のテキストと語り : 語りもの

「樂亭大鼓」にもとづいて

著者 井口 淳子

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

巻 20

号 2

ページ 357‑417

発行年 1995‑11‑10

URL http://doi.org/10.15021/00004188

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井 ロ  中 国 ・口承長 篇物 語 の テ キ ス トと語 り

中 国 ・口承 長 篇 物 語 の テ キ ス トと語 り 語 りもの 「樂亭大鼓1)」にもとづいて

子*

Text and Narration of Chinese Oral Narrative:

The Case of the Narrative Music Genre Laoting Dagu

Junko Iaucm

In the rural area of northern China in which orality predominates over literacy in verbal communication, traditional long stories are not read but listened to through regional opera, narrative music and other oral performances. In this paper we deal with the narrative music genre laoting dagu, found throughout Laoting and Luannan county, Hebei province in China. In the dashu (extended tale) of laoting dagu, tradi- tional long stories are presented as alternations of song and narration.

Most of the long stories, e.g. the famous "Yangjiajiang" (the warriors of the Yang family) and "Baogongan" (the Judge of Bao) have been wide- ly diffused. Their plot and content are common, to some degree. But the text, which is orally sung and narrated, differs from region to region, genre to genre and even performer to performer. The main reason for this variability is that the stories have no written text and the performer has no need to memorize one. Nevertheless many performers can narrate the story for several weeks or even several months successively. How is this possible? Performers say that they improvise the text; they com- pose it at the actual moment of performance. On the other hand, Some parts of the text they narrate is a conventional one laid down by tradi- tion. What parts are transmitted and what are composed in actual per- formance is the main question of this paper. Some scholars of literature consider that the dashu belongs to the guci tradition, literary works for singing and narrating published in Beijing and other cities during the late

日本学術振 興会特別研究員,国 立民族学博物館外来研究員

Key Words : rural China, oral narrative, narrative music, laoting dagu, text キ ー ワ ー ド:中 国 農 村,口 承 物 語,語 り も の,樂 亭 大 鼓,テ キ ス ト

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国立民族学博物館研究報 告  20巻2号

Qing and Minguo periods. Most repertories of dashu are included in the list of guci. If guci was diffused to the rural area in past, why was not guci transmitted to and memorized by performers? This is the second question of this paper.

To solve the first question, three versions of the text of "Qingyun- jian" (The Blue Cloud Sword) are compared and analysed. "Qingyun- jian" is a popular oral narrative. An accompanist of laoting dagu ar- ranged and wrote down the text of "Qingyunjian" for his partner, a nar- rator of dashu. This written text and two versions narrated in the village of Luannan in 1990 and 1993 are taken as examples. The narrator read the written text once or twice, but he did not memorize it in general. In performance, he improvised, based on the plot and content of the writ- ten text. While he was narrating, the text was composed, so the written and oral texts are very different from each other. In the process from written to oral, the only unchanged text was a set of verses describing one of the characters. Except for this, the narrator told the story in words familiar to the audience. The two oral texts are very close to one another, in spite of a three year interval and different conditions. This example of "Qingyunjian" makes it clear that once the narrator has im- provised the text, it comes to be relatively fixed. By analogy with this process of transmission and composition of "Qingyunjian", the reason why the guci texts were not transmitted orally or in written form by generations of performers is clarified. For the performers in rural districts, the written text has no priority over oral tradition. In laoting dagu, it can be said that the text exists only in the performance.

は じめ に 1大 書 と鼓 詞

  1.1テ キス トの多 様 性   1.2 「大 書 」 の成 立   1.3「 鼓 詞 」   L4  鼓 詞 と樂 亭 大 鼓 2  大書 の伝 承 と演 唱   2。1小 段 と大 書 の修 得 法

  2.2 澗 水 と死 詞

3パ フ ォー マン ス の な か で生 成 され る テ キ   ス ト

  3.1書 詞 『青 雲 劒 』 の成立 過 程   3.2  書詞 と上 演 テキ ス トの比 較   3.3伝 え られ る もの と新 た に生 み だ され       る もの

お わ りに

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井 口  中 国 ・ロ承 長篇 物 語 の テ キ ス トと語 り

は  じ  め  に

  中 国農 村,そ こは,中 国 とい う文 字 文 化 圏 に あ りな が ら過 去 に おい て も今 日で もい わ ゆ る 「文 字 文 化 」 とは縁 遠 い世 界 で あ りつ づ け て きた 。 当論 が対 象 とす る河北 省 東 部 地 域 も非 識 字 者 の め ず ら し くな い2),典 型 的 な農 村 地 域 で あ る。 そ して,こ の よ う な農 村 に お い て豊 か に い きつ い て い るの が,民 衆 の間 に 伝 わ る無数 の物 語 を 源 泉 とす る 「語 りもの3)」や地 方 劇,影 絵芝 居 な どの 口承 文 化 で あ る。

  当論 で と りあ げ る の は この 河 北 農 村 地 域 の語 りも の 「樂 亭 大 鼓(ラ オ テ ィ ソ タ ー クー)句 で あ る。 語 りもの とは い うま で もな く 「物語 」 を 語 る(と きに は うた う)芸 能 で あ る。 そ して,そ の語 りか た,う た いか た は 地方 に よ って 当然 異 な って い る。 つ

ま り,言 語 音 を 異 にす る方 言 域 ご とに 固有 の 曲種 を 有す るの で あ る。 「樂 亭 大 鼓 」 は, 北 方 に 多 くみ られ る 「大 鼓(タ ー クー)5)」類 の一 種 で あ るが,河 北 省 東部 に位 置 す る 樂 亭(ラ オ テ ィン)県,櫟 南(ル アン ナン)県6)一 帯,つ ま り 「樂 亭 話 」 とい う方 言 が は な され る地 域 を 中 心 に流 布 して い る。樂 亭 大 鼓 に お い て は,従 来,語 り うた わ れ る長 篇 物 語 「大 書(タ ー シ ュー)」 は,主 と して,口 頭 で創 作 され,口 頭 で伝 承 され て きた 。 実 際,農 村 の藝 人(イ ー レ ソ)は,台 本 な ど規 範 的 と よべ る テキ ス トが な い 状 態 で,既 存 の テ キ ス トを 暗 記す るわ け で もな く,毎 晩,数 時 間,1ヶ 月 以 上 の 長 期 間 にわ た って テ キ ス トをつ む ぎだす こ とが で き る。 また逆 に,ふ つ うな ら1ヶ 月 以 上 か か る長 篇 もの を3日 で語 りき る こ と も可 能 で あ る。 つ ま り,一 回 一 回 の上 演 毎 に テ ギ ス トが 口頭 で生 成 され るの で あ る7)。こ の よ うに上 演(パ フ ォー マン ス)の なか で テ キ ス トを つ む ぎだ す こ と8)を 現地 で は 「改編(ガ イ ピエン)」 と称 して い る。 改 編 とは そ の字 の示 す とお り,す で にあ る もの を改 め て編 み な お す こ とであ り,そ れ は, 物 語 を ゼ ロの状 態 か ら新 た に つ く りだ す とい う意 味 での 「創 作 」 で は ない 。 しか し, そ の よ うな営 み が 繰 り返 され るなか で生 まれ て くるさ ま ざ まな レベ ル の創 作 行 為 に 中

国 の民 間 文学 研 究 者 は 「口頭 創 作(コ ウ トウチ ュ ア ン ツオ)」9)とい う用 語 を あて て い る。 曲藝 の な か で も大 書 の よ うに規 範 とな る テキ ス ト,既 存 の テキ ス トが な く,上 演 の場 では じめ て テ キ ス トが生 まれ る とい うよ うな場 合 は,創 作 あ るい は 改変 の契 機 を 多 くは らんで い る とい え る。 しか し,こ こで は,長 期 的 に無 数 の人 々の 口 と耳 とを経 た 結果,達 成 され る 「創 作」 につ い て で は な く,あ る一人 の藝 人 が 大 書 を 演 唱す る際 に テキ ス トが ど の よ うに つ む ぎ だ され るの か,つ ま り通 時 的 に お こなわ れ る 口頭 創 作 の 「一 断面 」 と して の 「改 編 の一 プ ロセ ス 」 を 具体 的 な事 例 を も とに 明 らか に して い

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国立民族学博物館研究報告  20巻2号

きた い 。

  この よ うな伝 承 一 演 唱 の プ ロセ ス の解 明 の なか で あぶ りだ され る の が,口 頭 性 と, そ れ と相対 す る書 面 性 との 関 係 で あ る。 中 国 の語 りも のに お い て は,伝 承 のな か で表 面 的 には 文字 テ キ ス トが 用 い られ て い な くて も,さ まざ ま な形 で 文字 テ キ ス ト,す な わ ち 「書 詞(シ ュー ツ ー)」 の影 響 や 相 互 作 用 を 受 け て きて い る。 書 面 性 との 関 係 を 明 らか に す る こ とは 口頭 性 に つ い て考 え る上 で不 可 欠 な手 続 きで あ る。 したが って 本 論 で はジ語 りもの 「大鼓 」に深 い 関 わ りを もつ 講 唱文 学(ジ ャンチ ャ ン ウ ェ ンシ ュエ:

うた い語 られ る こ とを 目的 と して書 かれ た文 学 作 品)の 一 種 「鼓 詞(ク ー ツー)」 に つ い て,農 村 地域 に おけ る鼓 詞 の 伝 承 を 中心 に考 え て い く。

  以上 の問 題 は,い うま で もな く,現 地(農 村)に 存 在 す る資 料 を も とに して は じめ て 明 らか にで き る問題 で あ る。 しか しな が ら,こ れ まで,大 鼓 に関 す る研 究史 の なか で は農 村 の大 鼓 を農 村 の資 料 に よ って 研究 す る とい うご く当 た り前 の こ とが徹 底 され ず,都 市部 で 出版 され た 刊本 な どの文 字 資料 を 中心 的 に 扱 って きて い た10)。当 論 で は, 農 村 の語 りも のの な か で も,そ の伝 承 が最 も 口頭 的 で あ る長 篇 もの 「大 書 」 を対 象 と す る こ とか ら,必 然 的 に そ こで用 い られ る資 料 は 河 北 省 樂亭 県,藻 南 県 に お け る現 地 調 査11)で 集 め られ た もの に な る。 つ ま り,「現 地 の藝 人 た ち の発 言 」,「か れ らが 自 ら 記 した記 録 」,「実 際 の上 演 で語 りうた わ れ た テ キ ス ト」 が 資 料 の 中心 とな るiz)0

1大 書 と鼓 詞

1.1  テ キ ス トの 多 様 性

  樂 亭 大 鼓 は,こ の地 の他 の 口承 文 化 と同 様 に,民 衆 の間 に 深 く浸透 した 数 多 くの 物 語 を源 泉 と して い る。 では,そ の 「物 語 」 とは どの よ うな も の なの だ ろ うか 。 今 日, 農 村 で語 り うたわ れ て い る長 篇物 語 の多 くが 明,清 代 に成 立 した とい われ る伝 統 的 な 物 語 で あ る。 そ れ らの物 語 は,「 小説(シ ャオ シ ュオ)」13)と い う文 学 ジ ャ ンル や 戯 劇 の題 材 と多 く重 な る も の で あ り,内 容 的 に は 史 実 に も とづ きそ れ を 敷衛 した 歴 史 も の,武 侠 の 活 躍 を え が く侠 義 もの,裁 判 事 件 を あ つ か った公 案 もの が 大勢 を しめ る。

r三 国志 演 義 』 やr水 潜 伝 』 の よ うに有 名 な 物語 の場 合 は も とよ り,長 篇物 語 の多 く が地 理 的 に 非 常 に広 い範 囲 に広 ま って い る。 そ して,そ の筋 や 内容 は,小 説 な どの刊 本 の各 地 へ の普 及 に よ りあ る程 度 の共通 性 を も って い る。 しか し,語 りもの に お い て 用 い られ る個 々の テ キ ス ト(実 際 に 語 られ,う た わ れ るテ キ ス ト)は そ れ ぞれ の地 方

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井 ロ  中 国 ・口承 長 篇 物 語 の テ キ ス トと語 り

に お い て独 自に 口頭 で創 作,伝 承 され て きた もの で あ る。 語 りもの テキ ス トの多 様 性 を 生 み だす 要 因 は,こ れ ら の長篇 物 語 が 規 範 とな るべ き台本 を もた な か った点 にあ る が,同 時 に 曲種 毎 の表 演 様 式 の違 い もテ キ ス トの ヴ ァ リエ イ シ ョソを 生 み だす こ とに 大 き く作用 して い る と考 え られ る。 例 え ぽ,河 北 省 には 語 りもの の ジ ャ ンル が28種 あ る とされ,「 ○ ○大 鼓 」 と よば れ る語 りもの が8種 み られ るが,そ れ ぞ れ が そ の地 の 方 言 とそ の 大鼓 特 有 の 演 唱様 式 を保 持 して い る。 仮 に 同 じ台 本 が伝 わ った と して も, 曲種 が 違 え ぽ それ ぞれ の 様式V'合 うよ うに改 編 され て演 唱 され る。 例 え ぽ,河 北 省 を 含 む 北 方 農 村地 域 にお い て,現 在 も農 民 に支 持 され て い る長 篇 物語 にr呼 家 將 』,r楊 家將 』,『施 公 案』 な どが あ るが,こ れ らの物 語 は大 鼓 の諸 ジ ャ ンル に よっ て共 有 され て い るもの の,そ れ は いわ ば 書 目(シ ュー ム ー:題 目)を 共 有 して い る だけ で あ る。

物 語 の細 部,さ らに演 唱 テキ ス トに い た って は 口伝 の経 路 や 演 唱 ス タイ ルが 違 えば, 異 な るのが 当 た り前 とい うこ とに な る。

1.2  「大 書 」 の 成 立

  河 北 省東 部 の農 村 は 小麦,コ ウ リャ ン,ト ウモ ロ コシな どを主 作 物 とす る華北 の典 型 的 な 農村 地 域 で あ り,そ こで の 農 業 周期 は農 繁 期 の春,夏,秋 と農 閑 期 の 冬(11月 半 ば か ら3月 初 旬 まで)に 分 か れ てい る。長 い農 閑期 や 農 繁 期 の谷 間に は 農 作 業 もな

く,そ の よ うな期 間 に 語 りものは 上 演 され る。 大 書,そ の語 りが蔓 の よ うに 際 限 な く 伸 び て い く こ とか ら別 名 「蔓 子 活(ワ ソ ズ フ オ)」 と よば れ る樂亭 大鼓 の長 篇 もの は

この よ うな農 業 周期 に支 え られ て成 立 して きた と考 え られ る。

  で は,そ もそ も大書 とい う長篇 もの の レパ ー トリーは いつ 頃,ど の よ うに成 立 した の だ ろ うか 。 この 点 につ い て は,考 証 にた え る資 料 が 少 な いた め 定 か で な い。 そ もそ も,樂 亭 大 鼓 とい う曲種 が い つ 頃成 立 した の か に つ い て も定 説 は な い の で あ る。樂亭, 藻 南 県 内 で有 力な 説 とな って い るの は,1850年 前 後 に,す でV'当 地 に存 在 して いた 語 りもの に対 して 「樂亭 大 鼓 」 の 名 が つ け られ た とい うこ とで あ る。 県 内 で伝 え られ て い る も っ と も古 い藝 人,温 榮(温 鉄板)の 存 命 期 間 は1800年 代 の前 半 か ら1900年 代 初 頭 で あ り,こ の期 間 に 演奏 形 態 が そ れ まで の木 板 にか わ って 鉄 片 を用 い る今 日の形 に 固 ま った とい われ て い る。 劉 志 山 氏(元 藻南 県 曲藝 隊隊 長)が 集 め た聞 き書 き集 に よ る と,著 名 藝 人22名(も っ と も古 い人 は1850年 代 に生 まれ て い る)の 書 目が あ げ られ て い るが,そ れ らの書 目は 「鼓 詞 」 とよば れ る語 りもの の台 本 の 書 目 とお おむ ね重 な って い る。 都 市 で 出版 され た 鼓詞 が どの程 度 農 村 に 伝播 した のか は 明 らか で な いが, 今 日で も若 干 の 鼓 詞 が農 村 に 残 って い る ことや,文 革 以前 に は市 や 商店 で売 られ て も

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国立民族学博物館研究報告  20巻2号

い た とい うこ とか ら鼓 詞 は藻 南 県,樂 亭 県 に も少 なか らず 伝 わ って いた と考 え られ る。

以下,北 京 に現 存 す る鼓 詞14)を も とに そ の概 要 に ふ れ て お きた い 。

1.3  「鼓 詞 」

  「鼓詞 」 とは,文 学 史 の なか では 明,'清 代 の講 唱 文学 の一 ジ ャ ソル と とら え られ て い る。 つ ま り,鼓 詞 は,文 学 ジ ャ ンル で あ る と同時 に 大鼓 に先 行 す るあ る語 りもの の ジ ャ ソル 名で あ った。 語 りもの で あ る 「鼓詞 」 が いつ 成立 し,ど の よ うな演 唱 ス タイ ル を 有 して いた の か に つ い て は不 明な 点 が 多 い。 鼓 詞 とい う名 の とお り,鼓(太 鼓) を 伴奏 楽 器 と して 用 い て い た こ とだ け が し られ て い る。説(シxオ:語 り)と 唱(チ ャ ソ:う た)が 規 則 的 に交 替 す る北 方 の 長 篇語 りもの は 明代 末 期 の刊 本r木 皮 散 人 鼓 詞 』(頁 晃西 とい う明 末 清 初 の 作 家 が 鼓詞 を擬iして創 作 した作 品)が 証 明す る よ うに 明代 末 期 に は存 在 してい た と考 え られ て い る。 そ の後,清 代 中期 に な る と北 方 に は各 地 方 に 大 鼓類 が次 々に 誕 生 し,大 鼓 の長 篇 もの に 鼓詞 とい うテ キ ス トの ス タイ ル は受 け 継 が れ て い った と考 え られ る。 地 方 の大 鼓 の 場 合,そ の 分布 地 域 は い うまで もな く 農 村 地 域 で あ る。 農 村 に お いて は 晩秋 か ら初 春 に い た る4,5ヶ 月 にわ た る長 い 農 閑 期 が 存 在 す る た め に大 書 の演 唱 が 可能 で あ り,必 要 とされ る。語 りもの ジ ャ ンル と し て の鼓 詞 が都 市 部 で上 演 され な くな って消 滅 して も,テ キ ス トと して の鼓 詞 は 連 綿 と 創 作,出 版 されつ づ け,鼓 詞 とい う名称 も 「大 鼓 の 書詞 」 の意 味Y'と られ る よ うY'L.な

っ て い った 。

  と くに,樂 亭大 鼓 に関 係 づ け て 考 え るな らば,こ の語 りも の ジ ャ ンルが 成 立 し,そ の後 広 ま って い く清代 末 期 か ら民 国 期 にか け ては,鼓 詞 が北 京 や 上 海 お よび地 方 都 市 で さか ん に 出版 され て い た 時期 に重 な って い る。 当時 の 鼓詞 が ど の よ うな もの で あ っ た の か を現 存 す る刊 本 を も とに のべ てお きた い。

  清 代末 期 か ら民 国 時 代 に か け ては 印刷技 術 の発 達 もあ って,膨 大 な数 の鼓 詞 が発 行 され た。 しか し,そ れ が 正統 な文 学 作 品 で な く保 存 の 対 象 に な る よ うな もの で な か っ た た め,現 存 す る もの は 氷 山 の一 角 にす ぎな い と想 像 され る。例 えば 北 京 市 で は 各 図 書 館 に よ って収 集 内容 に 偏 りが あ り,い くつ もの 図書 館 の 所 蔵 本 を あわ せ て み て は じ め て,上 海,北 京,成 都 な どの 大都 市 には 鼓 詞 を 出版 す る書 店 が 多数 存 在 して い た こ とが わ か る。 しか し,現 在 目に す る こ とので き る これ らが,当 時存 在 して い た書 店 と そ の刊 行物 を どの程 度 網 羅 す るの か につ いて は 見 当 もつ か な い の で あ る。 しか し,清 末 か ら民 国期 にか け て 出版 され た 刊 本 を数 多 く目にす る こ とに よ って鼓 詞Y'共 通 す る 特 徴 が 明 らか に な って きた 。

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井 口  中 国 ・口承 長篇 物語 の テ キ ス トと語 り

  少 数 の 例 外 は あ るが,刊 本 の大 き さは お よそ タ テ15cmヨ コ9cm前 後 と統 一 性 が 高 い。 長 篇 の場 合 は数 十 巻 に の ぼ るた め分 冊 に な るが,一 冊 の 厚 さは 薄 く,手 に も っ て ち ょう ど見 や す い大 き さ と厚 さで あ る。表 紙 や扉 には 題 目の ほ か,出 版年,出 版 地, 書 店 名 な どが 記 され る場 合 もあ る(写 真1)。 題 目の上 に 「絵 図 」,「繍 像 」 とつ くも のは,本 文 の前 に主 な登場 人物 や,場 面 の 絵 図 が数 ペ ー ジにわ た って続 く。 本文 は大 き く分 け て,巻 頭,回 頭 に お か れ る4句(行)の 詩(詞)を の ぞ く と,散 文 と韻 文 の 二 部 分 に分 か れ,散 文 の部 分 に は 白(語 り),韻 文 の部 分 に は 唱(う た)と 記 され て い る場 合 もあ る。 これ は,こ の 刊 本 を 用 い てそ の ま ま演 唱 す るな らば,散 文 の部 分 を 語 り,韻 文 の部 分 を 旋律 をつ け て うた うこ とを 指 示 して い る。 白の 語 りは じめに は 決 ま り文 句 「閑 言 少 叙 書 帰 正 傳(む だ 話 は き りあ げ て 本題 に も どろ う)」,「書 接 上 回 説 的 是 …(前 回 の つ づ きを は じめ よ う)」 な どの こ とばが おか れ,物 語 の叙 述 に入 って い く。 回 の おわ りには 「…再 聴 下 回 書(次 回 を お 楽 しみ に)」 とい った こ とば で しめ く くられ る。 こ うい った 決 ま り文句 は語 りの藝 人 が聴 衆 に む か って語 りかけ る現 場 の 状 況 を再 現 して い る。 こ の散 文 と韻文 の量 的 配 分 と交替 は 終 始 一 貫 して 規則 正 し くお こなわ れ るの が 普 通 で あ る。 しか し,本 ご とに散 文 と韻 文 の 量 的 比率 は異 な って お り, 散 文 が圧 倒 的 に 多 い もの か ら,散 文 が2行 ほ どで韻 文 が数 十 行 とい った 割 合 の もの も あ る。 この よ うな鼓 詞 が 実 際 の上 演 を 記 録 した もの なの か,あ る いは,文 人 が一 個 の 作 品 と して書 き上 げ た もの な のか につ いて は,各 鼓 詞 毎 に 状 況 は異 な ってい るだ ろ う が,ど ち らの性 質 も含 ん で い る と考 え るべ きで あ ろ う。 多 くの 場 合,実 際 の 上 演 に も とづ き なが ら も,文 字 化 す る際 に そ れ を整 理 し,改 良 した に ちが い な い。 例 えば,白 の 部分 の余 計 な 重複 を けず った り,俗 な 口語 を 文 言(書 き こ とぽ)に か え てみ た り, 唱 の 部分 の押 韻 を工 夫 す るな どで あ る。 い ずれ に して も,鼓 詞 はそ れ に 先立 つ小 説 や

写 真1  鼓 詞 『繍 像劉 公 案 鼓 詞 』 民 国9年(1920年)上 海 書 局 石 印(北 京 大 学 蔵)

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国立民族学博物館研究報告  20巻2号

戯 曲 な ど他 ジ ャ ンル の テキ ス トを改 編 して つ く られ る場 合 も多 く,純 粋 な創 作 作 品 で は な い。 作 者 は創 作 者 で は な く,改 編 者 で あ った。

1.4  鼓 詞 と樂 亭 大 鼓

  表1に 示 す とお り,現 在 まで伝 わ る樂 亭 大 鼓 の大 書 の書 目の ほ とん どが 鼓詞 の書 目 と重 な って い る。

  書 目が 一 致 す るゆ え即,大 書 は鼓 詞 を 用 い た もの とい うわ け で は な いが,前 述 の よ うに現 在 も樂 亭,藻 南 両 県 に は鼓 詞 が 保 存 され て い る ことや,お な じ く清 代 に北 京 で 発 行 され た 「子弟 書 」 が 当 地 に数 多 く伝 播 し,小 段 に用 い られ て い る こ とか ら も類 推 す る な らぽ,鼓 詞 も この地 に伝 播 して いた と考 え るのが 自然 で あ る。 た だ,鼓 詞 の刊 本 が伝 播 して い た と して も,ど の よ うに(鼓 詞 の何 が)受 容 され た のか に つ い て留 意 す る必 要 が あ る。 そ の テ キ ス トが そ の ま ま演 唱 され た,あ るい は厳 密 な意 味 で の書 承 が お こなわ れ た とい う こ とは,現 在 の大 書 の テ キ ス トの あ り方 か ら考 え て否 定 で き る。

筆者 が 藻 南 県 に鼓 詞 の刊 本 を 持参 した 際 に も,そ の よ うな刊 本 が文 革前 に は 市 な どで 売 られ て いた こ と,し か し,鼓 詞 が あ った と して もそれ を そ の ま ま暗記 す るの で は な い とい う以 下 の よ うな説 明を うけ た。

  「こ うい った 刊本 は昔 は 農 村Y'も あ って,店 屋 な どで売 って い た よ。 六 〇 年 代 以降 な くな った な。 と くに文 化 大 革命 以降 は燃 や され て しま った 。 … … われ わ れ の 間 で は こ うい った 本 は そ の ま ま使 わ れ るわ け じゃな い 。 た とえば,師 匠 が 教 え る と き も,か れ の語 りを 口づ た い に教 え るの で あ っ て,本 を そ の ま ま教 え るの じ ゃない 。なぜ な ら, 売 って る本 を そ の まま教 え るん だ った らそ の師 匠 に つ く値 打 ち が な い だ ろ う。 師 匠 が 本 を み て そ の故事(物 語)の 筋 を 自分 の頭 の な か で 改編 して つ く り直 した もの,こ れ を 弟子 に伝 え るわ け だ。 故 事 が よけれ ぽ何 だ って大 鼓 に な る しな 。 こ うや って 師 匠 が 自分 の工 夫 を加 え た書 詞 は 値 打 ち が あ るが,こ の 本 そ の もの に は 値 打 ちは な い ん だ」

(1993年7月6日 櫟南 県 県 城 に て趙 恩 潮 氏15)の 発 言)。

  以上 の よ うに,鼓 詞 は 当地 に伝 播 しつ つ も,大 書 の来 源 は 鼓 詞 で あ る,と い うほ ど の 直接 的 なつ な が りが あ った とは考 え に くい 。 そ の こ とを 傍 証 す るの が以 下 の よ うな 地元 研 究 者 の説 明 で あ る。

  地 元 の研 究 者,趙 桂 丹 氏 に よ る と,も とも と,樂 亭 大 鼓 の 形 成 初 期 には 語 るべ きテ キ ス トが豊 富 に 存在 して いた わ け で は な い とい う。藝 人 達 は 書詞 の不 足 のた め 大変 な 苦 労 を し,さ ま ざ まな努 力 の末,1840年 頃 に は お よそ130あ ま りま で書 目を ふや した 。 そ の方 法 は,他 の 曲藝 曲種 や影 絵 芝 居,梛 子 劇 や そ の他 の劇 目を 改編 す る,あ る いは,

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井 口  中国 ・口承長篇物語 のテキス トと語 り

                  表1  藻南 県,樂 亭 県 に 伝 わ る大書 の書 目16)

藻 南 県(伝 承者 数)* 鼓 詞 の 有 無*

包公案 0 有 り

東漢演義 1 有 り

呼家將 1 有 り

回杯 記(中 篇) 1 有 り

回龍傳 3 有 り

劉公案 2 有 り

緑牡丹 4 有 り

千里駒 i 有 り

巧合奇冤 0 有 り

秦英征西 0      , 有 り

三 省 荘(中 篇) 2 有 り

三下南唐 0 有 り

施公案 5 有 り

晴唐演義 i 有 り

響馬傳 4 有 り

小八義 2 有 り

醇家將 1 な し

楊家將 2 有 り

鵬鵡記 3 な し

月唐傳 0 な し

紫金錫 2 有 り

*灘 南 県:数 字 は劉 志 山 の調 査 資 料(22名 の 著 名 藝 人 に 関 す るき き と り)に も とつ く伝 承 者 の 人         数 。

*鼓   詞:筆 者 自身 が 図 書 館 ,資 料館 で存在を確認 した もの,お よび,趙119571に 記 載 の刊 本 名         を参 照 した 。

注)表1に あ げ た 書 目の な か で樂 亭 県 の藝 人 が 伝 承 して い る書 目は17種 で あ る。 き き と り調 査     お よび 各 種 の 記 録 か ら も伝 承 が確 認 で き なか った 書 目は 『回龍 傳 』,『緑 牡 丹 』,『三 省 荘 』,     『鵬 鵡記 』 の4種 で あ る。

貧 苦 の読 書 人 に新 た な書 詞 の創 作 を依 頼 す るな どで あ った。 この よ うな書 詞 の 中身 は 史 籍 故 事 に よる もの,元,明,清 三 代 の雑 劇 と傳 奇 に よる もの,明 清期 の通 俗 小 説 に

よる もの な どが あ った 【趙   1985:19,43】 。

  こ こか ら うか が え る のは,大 鼓 だ か ら鼓 詞 で な け れ ぽ な ら な い とい うよ うな もの で な く,曲 種 や,さ ら に は(曲 藝 と文学 とい うよ うに)ジ ャ ンルが 違 って も きわ め て柔

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国立民族 学博物館研究報告  20巻2号

軟 に と りいれ て 「書 詞化 」 してい た とい う こ とで あ る。 た しか に,大 書 の書 目のな か に は鼓 詞 の書 目で もあ り,か つ 小 説 の題 目で もあ る もの が少 な くない 。 この よ うな 場 合,鼓 詞 を 通 さず,直 接 小 説 か ら故 事 内容 な どを 移 植 した可 能 性 もあ る。 また,少 数 な が ら当地 で 流 布 して い た民 間 故 事 が県 内 の文 人(科 挙 に落 第 した もの な ど)に よ っ て 書 き お こ され る とい う場 合 も あ り,こ れ は今 日で も県 城 に おか れ てい る文 化 行 政 機 関 で あ る文 聯(文 学藝 術 界 聯 合 会)な どで伝 統 書 目の 整理 や 改 編,あ らた な現 代 書 目 の創 作 が お こな わ れ て い る状 況 と一致 す る。

  以上 の こ とが らを ま とめ る な らば,大 書 の テキ ス トの 源 は,そ の書 目か ら推 察 して,

「鼓詞 」,「小 説 」,「他 の 曲種,劇 種 の 唱 本」,「当 地 の 文 人 に よる改 編,創 作」 の4種 に も とめ られ る(こ の他 に文 字 テキ ス ト化 され な か った純 粋 に 口頭 で創 作,伝 承 され た もの が あ るで あ ろ う)。 しか し,大 書 の 書詞 に つ い て は 「不 用 背詞,出 口成 章 」(暗 記 す る必 要 は な く,語 れ ば文 章 に な る)と い うの が 伝 統 的 な藝 人 の態 度 とな って い る

こ とか ら,い った ん は小 説 や 鼓 詞 の よ うな文 字 テキ ス トを受 容 した と して も,そ の後 の伝 承 の なか で 元来 の テ キ ス トが そ の ま まのか た ち で 伝 承 され て い った とい う こ とは

(特別 な例 外 を 除 い て)な か った と考 え られ る。

2  大書 の伝承 と演 唱

2.1小 段 と大 書 の修 得 法

  1で は 大 書 の 来 源 につ い て鼓 詞 との 関わ りを 中 心 に 述 べ た が,こ こ では 現在 上 演 さ れ て い る大 書 に 論 を 移 した い。

  樂亭 大 鼓 の 一 夜 の上 演 は必 ず,短 篇 もの 「小 段 」 に 始 ま り長 篇 も の 「大 書」 に続 く とい う構 成 に な って い る。 上 演 は ふ つ う小 段 が 半 時 間 前 後 うたわ れ,そ の 後 大書 に う つ って い く。 大 書 の 一夜 の演 唱 時 間 は そ の時 そ の場 の 状 況 に よ って左 右 され るた め一 定 して い な いが,2,3時 間 が 一 般 的 で あ る。 小 段 と大 書 で は演 唱者 が交 替 す る場 合 が 多 く,2名 一 組 で 小段 専 門,大 書 専 門 とい うよ うに 役 割 分担 して い る。 しか し,個 々 の藝 人 は そ の修 養 期 間V̀  いて まず,小 段 を 学 んだ あ とは じめ て大 書 に進 む こ とが で きる。 そ こ で大 書 に つ い て のべ る前 に この小 段 に つ い て ふ れ て お きた い。 小 段 は 大 書 に比 べ て は るか に 文字 テ キ ス トと密接 なか か わ りを も って い る。

  樂亭 県 の場 合,小 段 は,現 在 お よそ150篇 の 書 目が 伝 わ っ て い る。 現 在 演 唱 され て い る テ キ ス トの 来 源 は比 較 的 明 らか で,そ の なか に は 清 代 の 講 唱文 学 「子 弟 書 」 の作

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井 口  中 国 ・ロ承 長 篇 物 語 の テキ ス トと語 り

品 と同定 で き る もの,ほ ぼ 同一 と考 え られ る ものが 少 な か らず(10種 前 後)含 まれ て い る。 子 弟書 以 外 に も書 目お よび書 詞 が 他 の 大鼓 類 と共 通 して い る ものが 多 くあ り, そ れ らは,清 代 以 降文 人 に よって 創作 され た作 品 が 樂亭 に伝 わ っ て きた と考 え られ る。

小 段 は 藝 人 で な く作 者 が 創 り,書 き記 した もの が,刊 本 や 抄 本 と して各 地 に伝 播 した とみ る こ とが で きる。

  この よ うな 小段 につ い ては 農 村 の藝 人 た ち の間 に抄 本 が 伝 承 され て い る場 合 もあ る が,実 際 に は,そ れ らは あ くまで も記 憶 の補 助 と して用 い られ,藝 人 は 師 匠か ら 口頭 で書 詞 を伝 授 され る場 合 が 多 か った よ うで あ る。 藝 人 が非 識 字 者 で あ って も小 段 の テ キ ス トは厳 密 に 伝 承 され て い る。 小 段 は七 言 句 な ど形 の整 った韻 文 体 で あ り,語 音 の 響 きや リズ ムは 暗 唱 に 適 して い るか らで あ ろ う(し た が って意 味 が 分 か らな い ま ま, あ るい は と りち が えて 覚 え てい る こ と も多 い)。 藝 人 は この よ うな小 段 の修 得 を経 た の ち に よ うや く中 篇,長 篇 に と りか か る17)。

  樂 亭 大 鼓 の長 篇 も の,「 大 書 」 に つ い て は,す で に の べ た よ うに,鼓 詞 や そ れ に も とつ く写 本 類 は藝 人 の 間 に伝 承 され て い な い の が ふつ うで あ る18)0し た が って,大 書 に お い ては 小段 の よ うな固 定 した テ キ ス トは な く,書か れ た もの との 関 わ りは少 な い。

大 書 に も死 詞(ス ー ツー)と よば れ る固 定 した テ キ ス トが か つ て は あ った よ うだ が19),長 大 な テ キ ス トの暗 唱 の困 難 さゆ え,今 日では 大 書 を 完 全 に暗 唱 して上 演 で き る者 な どい ない とお もわれ る。 で は,長 い も の で数 ヵ月 に及 ぶ 大 書 の 演 唱 は どの よ う に して 可 能 に な るの で あ ろ う。 藻 南 県 の 著 名 な藝 人 で あ った 李 恩 科(1917‑1986)は 盲 目で あ ったが,13種 もの大 書 を 自在 に語 る こ とが で きた とい う。 そ の よ うな こ とが 可 能 に な る長 篇 テ キ ス トの生 成 の プ ロセ ス を探 ってみ た い。

2.2  ilp」水 と 死 詞

 全 て の大 書 の テ キ ス トは 藝 人 に よっ て 「死 詞 」 か,あ るい は 「澗 水(タ ソシ ュイ)」

に分 類 され る。 死詞 とは,字 義 どお り動 か な い 詞,既 存 の固 定 した テ キ ス トを 指 し,

相 口(シ ャン コ ウ)」,「実詞 実 口(シ ー ツー シー コウ)」 と も よぽ れ る。 澗 水 とは 本 来,「 流 れ る水 」 の意 で,上 演 の場 で即 興 的 につ む ぎだ され る テキ ス トを 指 す 。 藝 人 の 発 言 の なか で 異 口同 音 に のべ られ るの が,「 『死 詞 』 が な い とき,あ るい は記 憶 で き ない と きにや む を 得 ず 『澗 水 』 が 使 わ れ る」 とい う説 明 で あ る。 死 詞,つ ま り既 存 の テ キ ス トを な ぞ る可 変 性 の 少 な い テキ ス トは澗 水 に くらべ て は るか に 価 値 の 高 い もの とみ な され て きた 。 した が って,自 ら語 った テ キ ス トが 澗 水 で あ る と,周 囲 に み とめ られ る のを 不名 誉 な こ とと感 じる藝 人 もい る。 しか し,実 際 に は大 書 を 徹 頭徹 尾,死

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国立民族学博物 館研 究報告  20巻2号

詞 で 語 る とい うこ とは 不 可能 に近 い こ とで あ る。 例 え ば,李 恩 科 とい う藝 人 は弟 子 に 大 書 の 書 詞 を6夜 分 だ け 伝授 した とい う。6夜 分 の書 詞 が お そ ら く暗 記 す るの に精 一 杯 の 分 量 で あ った のだ ろ う。 弟 子 達 は この6夜 分 の書 詞 を も とに これ を で き るだ け ひ き のば して 上演 時 間 をか せ い だ と回想 して い る。

  た しか に,長 くて数 週 間 か ら数 ヵ月 に い た る長 篇 テ キ ス トを全 て記 憶 す る こ とは不 可 能 で あ る。 した が って多 くの 場合,前 も って決 ま って い る のは,物 語 の 筋(梁 子(リ

ャ ソズ),穰 子(ラ ソズ)と い う。 と もに建 物 の は りとか植 物 の麦 類 の茎 とい う,も の の骨 格 を 意 味 す る)だ け で,あ とは要 請 され た 日数 に 応 じて物 語 自体 を 伸 縮 自在 に 改編 し,自 分 自身 の こ とば で 語 る こ とに な る。

  大 書 の構 成 は,短 い エ ピ ソ ー ド(登 場 人物 や 場 面 が そ れ ぞれ 少 しず つ 変 化 して い る) が それ ぞれ あ る程 度 の完 結 性 を も って い てそ の エ ピ ソー ドが くさ り状 につ なが って い る,い わ ゆ る小 説 に お け る 「章 回小 説 」 の構 造 と重 な る も ので あ る。 この エ ピ ソー ド に あ た る現 地 の 用語 は 「佗 子(ト ウオ ズ)」 とい う。 佗 子(か た ま りの 意)は あ る程 度独 立 性 の あ る小 故 事 で あ るが,前 後 の蛇 子 とつ な が って よ り大 きな ま とま り(蛇 子) を形 成 し,そ の ま と ま りが 大 き くな って い っ て最 終 的 には 全 体 の 大 故事 を形 成 して い る と説 明 され る。 最 小 の佗 子 か ら全体 の物 語 まで,図1の よ うに 階層 構 造 を な して い る。

  通 常,う た と語 りの交 替 は この蛇 子 の切 れ 目に お こなわ れ る。 とい うの も,語 りか ら うた に移 る ときに 演 奏 され る間 奏 が物 語 内容 にお け る空 間 移 動 や 場面 転 換 を象 徴 す るな ど,語 りと うた の 位 相 の変 化 は そ の まま物 語 内容 の 区切 りに な るか らで あ る。 こ の よ うに,大 書 は,大 小 の さ ま ざ まな レベ ル の エ ピ ソー ドの連 な りに よ って構 成 され て い るた め,上 演 の 際 に時 間 的 余裕 が あれ ぽ 小 さな エ ピ ソー ドを 丁寧 に連 ね て い く し, 逆 に時 間 が な けれ ぽ あ るエ ピ ソー ドを 省略 す る こ とも可能 とな る。 ひ とつ ひ とつ の エ ピ ソー ドが独 立 性 を もつ 小故 事 で あ るか ら こそ,大 書 は伸 縮 自在y'語 る こ とが で きる の で あ る。

  ひ とつ ひ とつ の エ ピ ソー ドは,登 場 人物 の名 や 地 名 な ど固有 名 詞 こそ 違 って も内容 は きわ め て類 型 的 で あ る。北 方 の長 篇 もの の 内容 を 「金ざ 鉄 馬 」 と端 的 に 言 い表 す の もそ の 内容 が武 事,戦 闘 に偏 って い るた め で あ る。 戦 闘 や策 略,逃 亡,離 別,再 会 な どが繰 り返 され る勧 善 懲 悪 的 テ ー マ は書 目を超 え て普 遍 的 で あ る。 そ の よ うな パ ター ソ化 した 内容 に 適 した表 現 と して,文 言(書 き こ とば)を 用 い た韻 文 体 の 「套(タ オ)」,

賛(ツ ァ ソ)」,「賦(フ ー)」20)が あ る。 例 えぽ,「 山」,「行 路 」,「雨 」,「雪 」,「城 門 」,「大 街 」 な どの風 景描 写 のた め の韻 文 や,「 十 八武 藝 」,「二 人 闘 」,「三 人 闘」,「軍

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井 ロ  中 国 ・口承 長篇 物 語 の テ キ ス トと語 り

図1  長篇物語 の構造

    図2  エ ピ ソー ドと表 現 モ ー ドの 対応 関 係 (表2「 『青雲 創 』 の 構 成 と表 現 モ ー ド」 に も とつ い て)

馬 出 場」,「二 將 比 武 」 な ど戦闘 描 写 のた め の韻 文,「 武 将 」,「美人 」,「郷 官 」,「秀 才 」 とい った 典 型 的人 物 を 描 写 す る韻 文 な どが あ り,そ の場 そ の場 の物 語 内 容 に合 わ せ て 既 存 の 多 数 の ス トッ クか ら選択 して挿 入 す る よ うに な って い る。 これ らの ス トックを 多 くもつ こ とが藝 人 の水 準 の一 つ の 目安 と もな って い る。 一 人 の藝 人 が もつ 長 篇 の レ

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国立民族学博物館研究報告  20巻2号 パ ー ト リー は複 数 あ るが,こ れ ら 「成 詞(チ ェ ン ツー)」 と よば れ る韻 文 定 型 詞 は 固 有 名 詞 や 細 部 を変 え るだ け で 臨 機応 変 に どの 書 目に も適 用 で き る。 した が って これ ら の韻 文 は 既 存 の もの であ るに 関 わ らず 澗 水 に 分類 され て い る。

担 い手(藝 人)に よる大 書 の テ キ ス ト分 類 概 念21)

大書=蔓 子 活(つ るの よ うに き りが な く伸 び て い く長 篇 もの)

大書く 鴛禦灘 膿 簸 議

ぎだされるテキスト) 澗水く 繋 繋1議 ㌫ 魏 乳磐 貢) ト(嘲

  この よ うな 分 類概 念 につ い て 藝 人 に説 明を 求 め た 際 に,補 足 的 に述 べ られ た 説 明 を ま とめ る と次 の3点 に な る。

  1)死 詞 とは 刊 本,抄 本 な ど文 字 テ キ ス トの有 無 に か かわ らな い。 文 字 テキ ス トが      伝 承 され な くて も死 詞 とよば れ る固定 した テキ ス トは存 在 す る。

  2)死 詞 も澗 水 もテ キ ス トの長 さは 不定 であ る。 例 え ぽ,一 つ の演 目が 全 体 と して      澗 水 で あ り,そ の なか の一 部 が 死詞 とい う場 合 もあ る。

  3)澗 水 もあ る演 目の なか で固 定 して用 い られ る よ うに なれ ぽ死 詞 に 転 化 す る こ と       が あ る。

  死詞 の定 義 に くらべ る と澗 水 の 定 義 づ け は 明確 さを 欠 くよ うに お もわ れ る。 とい う の も,上 記 の よ うに,澗 水 とい う用 語 は 二 つ の相 異 な る意 味 で 用 い られ るか らで あ る。

まず ひ とつ には,数 行 か ら数 十 行 の長 さの韻 文 であ る 「成 詞 」 を指 す 場 合 で あ る。 こ れ に つ い て は,「 澗 水 とは既 存 の テ キ ス トに も とつ く もの で な い。 が,多 種 多 様 の 固 定 した詞(成 詞)を 掌握 す る ことが 必 須 で あ り,そ の 意 味 に お い て,完 全 に 個 人 の も の とい い きれ な い 。」 と藻 南 の趙 恩 潮 氏が 説 明す る よ うに,成 詞 とい う既 存 の もの が 演 唱 の場 で即 興 的 に選 択 され,そ の 自在性 ゆ え に澗 水 と称 され るわ け で あ る。 しか し そ の選 択 が 固定 的 に お こなわ れ る よ うに な る と,そ の部 分 は澗 水 で は な くな り死 詞 に な る,と い う。つ ま り,扱 わ れ方 しだ い で テキ ス トの 帰 属 が変 わ るの で あ る。 さ ら に, 澗 水 に は も うひ とつ の意 味 が あ る。 そ れ は,固 定 した 筋 に も とづ きなが ら も 自在 に語 られ た テ キ ス トで あ り,そ の場 合,全 て の発 話 され た テ キ ス ト(「整 個 書(チ ェソ ガー シ ュ ー)」 と よぶ)を ひ っ くるめ て澗 水 とい う言 い方 をす る こ とが あ る。 例xぽ,一

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井 口  中 国 ・1コ承 長 篇 物 語 の テキ ス トと語 り

夜 の上 演 が 全 て 澗 水 で あ った とか,こ の書 目は 澗 水 で あ る と藝 人 が の べた 場 合 で あ る。

そ の よ うな澗 水 に は,当 然 さ ま ざ まな こ とぽ の余 剰 部 分(繰 り返 し,語 気 詞 な ど)も 含 まれ る こ とに な る。 余剰 部 分 のな か で も藝 人 の 口癖 の よ うに な っ て い る こ とば は 口 頭 令,廃 語(無 駄 話)な ど とい って 批 判 の 対 象 とな る。 成 詞 は語 り手 で あ る藝 人 が つ く りだ した もの では な く,既 存 の もの で あ る。 整個 書 は 藝 人 自身 の こ とぽ で あ る。 そ れ に もか かわ らず,両 者 が と もに澗 水 と よぽ れ るの は,上 演 の 場 に お いて 語 り手 に よ って 語 られ る瞬 間 に 「テ キ ス ト」 と して 確 定 す る点 に よ る。

3パ フ ォ ー マ ソ ス の な か で 生 成 さ れ る テ キ ス ト

3.1書 詞 『青 雲 剣 』 の 成 立 過 程

  以上 の よ うな担 い手 に よ る大 書 につ いて の説 明 を参 照 しなが ら,実 際,現 地 で 語 ら れ て い る大 書 を と りあげ,テ キ ス トの なか で そ の まま 「伝 え られ る部 分 」 と演 唱 者 に ょ って新 た に 「つ む ぎだ され る部 分 」 を 明 らか に す る こ とに よって,大 書 の テキ ス ト の生 成 の プ ロセ ス を探 っ てい きた い。

  事 例 と して と りあ げ るの は,現 役 の藝 人 兼 作 家,趙 恩 潮氏 が 書 き下 ろ した大 書 『青 雲 剣(チ ソユ ソジエ ン)』zz)と そ の 実 際 の上 演 テ キ ス トで あ る。 このr青 雲 創 』 は, 一般 的 に書 き記 され た テ キ ス トを もた な い大 書 のな か で は例 外 的 と もい え る も ので あ

る。 しか し,伝 承 や上 演 とい うプ ロセ ス を経 て,テ キス トの何 が 変 わ り,何 が 不 変 か を 明 らか にす るた め に は,こ の よ うな書 き記 され た テキ ス ト,す な わ ち 規範 的 な テ キ ス トと,そ れ に も とづ きな が ら も演 唱 の なか で新 た に つ む ぎだ され る もの とを比 較 す る こ とが方 法 と して 妥 当性 を もつ と考 え られ る。 この よ うな書 詞 を もた な い場 合,複 数 の 上 演 テ キ ス トを 比較 し よ うと して も,何 が 規 範 で あ る(と考え られ て い る)の か

を決 定 す る こ とはむ ず か しい。 藝 人 の記 憶 の なか に のみ 存在 す る規 範 的 テ キ ス トとそ れ 以 外 の部 分 とを 識 別 す る こ とが 必 要 とな るか らであ る。

  r青 雲 創』 は た しか に,趙 恩 潮 氏 とい う現 役 の藝 人 に よ って書 き下 ろ され た作 品 と して あ った 。 しか し,こ れ は,い わ ゆ る創 作 作 品 とは ま った く異 な る性 質 の もの で あ る。 つ ま り,も と もと 『青 雲剣 』 とい う物 語 は,は るか 以 前 よ り民 衆 の 間 に広 ま っ て い た の で あ る(主 人 公 の名 を と った 『馬 潜龍 走 国』 とい う故 事 も ヴ ァ リエ イ シ ョソの 一 つ で あ る)。 晋 帝 とそ の 臣 下,王 敦 とい う実在 の 人物 を 中 心 とす る史 実 を敷 衛 した 虚構 の物 語 は 多 くの ヴ ァ リエ イ シ ョンを 生 み な が らさ ま ざ まな 芸能 ジ ャソル に お い て

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      国立民族学博物館研究報告  20巻2号 上 演 され て い た。 そ の な か の ひ とつ を 趙 氏 は 影 絵 芝 居 「樂 亭 影 戯(ラ オ テ ィ ンイ ソ シ ー)」 の上 演 を通 じて知 った 。 影 絵 芝 居 には 影 詞 とい う脚 本 が必 ず 用 い られ るが, 彼 は そ れ をみ た わ け で な く,観 客 と して み た上 演 の記 憶 を た ど りなが ら,巡 業 の合 間 に3ヶ 月 をか け て 約26万 字 の書 き下 ろ し作 品 を生 み だ した 。 そ の作 品 は 原 稿用 紙 に一 字 一 字 丁寧 に刻 まれ,綴 じ られ た 。 ζ の抄本 はす ぐに彼 の パ ー トナ ーで あ る演 唱者, 何 建 春 氏 に手 渡 され,何 氏 は それ を読 み,演 唱 した 。 そ の 後 も何度 も演 唱 は繰 り返 さ れ て い る。 この抄 本 は そ れ 自体 演 唱 用 のテ キ ス トと して 書 き記 され て お り,そ の ま ま 改 編 せ ず と も上 演 す る こ と も可 能 で あ るが,何 氏 は大 書 を 語 る と きの慣 習 に した が っ て,そ れ を 暗記 す るの で な く,い った ん 目を通 した の ち,自 分 自身 の こ とば で演 唱 し た 。 した が って この 何 氏 に よる演 唱は,趙 氏 に よる と 「書 詞 に くらべ る と水 準 の低 い も の,つ ま り書 詞 を 口語 化 して しま った 」,そ して 「一 部 の例 外 は あ る が,全 体 的 に は 澗 水 で あ る」 と評 され て い る。

青 雲 創 』 の伝 承

故 事 『青 雲 劒』(『馬 潜 龍 走 国 』 な どの        民 間 に流 布 。       ヴ ァ リエ イ シ ョン多数)

      ↓

影 絵 芝 居 『青 雲劒 』                    影詞(脚 本)有 り。

      ↓

    作 者 趙 恩潮 は観 客 と して 影絵 芝居 をみ て 物 語 を記 憶       ↓

書詞r青 雲 剣 』      抄 本(26万 字)有 り。

      ↓

    伝 承(た だ し演 唱 者 何 建 春 は 書詞 を暗 記 す るの で な く,目 を通 した のみ)       ↓

上演1        1990年8月22日

      ↓        (この 間,50回 程 度 上 演 を お こな う) 上演 皿      1993年7月10日

  こ こで分 析 の 対 象 とな る の は,書 詞r青 雲 剣 』 の段 階 以 降 で あ る。 まず,書 詞 『青 雲 創 』 で あ るが,体 裁 と して は,こ の 本 を も とに即,演 唱 で き る よ う,語 りと うた が 交 替 され る演 唱 様 式 に あわ せ て構 成 され て い る。 語 られ るべ き散文 と うた わ れ るべ き

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井 口  中 国 ・口承長 篇 物 語 の テキ ス トと語 り

韻 文 は ほ ぼ規 則 正 し く交 替 され る。 韻 文 の部 分 は七 言 を 主 と しなが ら,そ れ 以 下,あ るい は そ れ 以上 の句 も少 な くな いが,で き るだ け押 韻 す る よ うに工 夫 され て い る(資 料1書 詞一317〜347行)。 作 者 に よる と,最 も苦 心 した のが 唱 の 部 分 を い か に 整 合

した 韻文 とす るか であ った とい う。 大 鼓 類 に共 通 す る伝 統 的 な押 韻 の技 法(十 三 道 大 轍23)な ど)を ま もる こ とは 大 鼓作 者 た ちの 最大 の 関心 事 の ひ とつ で あ る。

  何 氏 は この 抄本 に何 度 か 目を 通 した ものの,そ れ を暗 記 しよ うとはせ ず,あ る程 度 頭 に入 れ た の ち,上 演 に臨 んだ 。1990年 と1993年 の現 地 調 査 の 際 に,櫟 南 県 の村(そ れ ぞれ,司 各 荘鎮 と相 各 荘 鎮 貝 口村)の なか で 上 演 され たr青 雲剣 』 を録 音 す る こ と が で きた24)。そ の録 音 テ ー プか ら一 部 を抜 粋 して採 詞 し,こ れ ら3種 の テキ ス トを 比 較 して み た い 。

3.2書 詞 と 上 演 テ キ ス トの 比 較

  資 料1は,趙 恩 潮 氏 が 書 き記 した 「書 詞 」 と,上 演1と ∬ の テ キ ス ト(1990年 1993年 に お こなわ れ た2回 の上 演 の録 音 を採 詞 した もの)の3種 の テ キ ス トを 併 記 し た もの で あ る。 上 演1と 皿に は漢 字(簡 体字)の 下 に ローマ字 ・排 音 で発 音 を 表 記 し てい る25)0テ キ ス ト相互 の対 照 を容 易 にす るた め に,対 応 す る部 分 の 行数 を で き る だ け 一致 させ る よ うに して い る。相 互V'完 全 一致 す る語 句 に つ い ては 下 線 で 明示 して い る。 この3種 の テ キ ス トを 比較 す る ため の対照 表 が 表2で あ る。 表2で は,実 際 の上 演 に お い て 唱(う た)と 説(語 り)の 交 替 に よ って 区切 られ る エ ピ ソー ド(蛇 子)の 単 位 を 「節 」 と名 づ け,各 節 に 番 号 をつ けて い る。 さ らに,い くつ か の節 が連 結 して

も う一 つ 上位 レベ ル の陀 子 を 形 成 して い る とみ な され る場 合,そ れ を 当論 で は 「段 落 」 と名 づ け て い る。 書 詞 のエ ピ ソー ドの概 要 と表 現 モ ー ドの交替 を も とに して,上 演1 と上 演 皿が 対 応部 分 に どの よ うな 表 現 モ ー ドを 用 い,演 唱時 間 を費 や して い るか が わ か る よ うに な って い る。

  い うま で も な く,こ れ ら の テキ ス トは 『青 雲 創 』 全体 の ご く一部 を あつ か った もの で あ る。 大 書 につ い てす で に2.2で の べ た よ うに,r青 雲 剣 』 も他 の 大書 と同様 に, 蛇 子 とい うエ ピソー ドの大 小 の単 位 が連 結す る ことに よって形成 され て い る。 した が っ て,そ の な か の どの部 分 を と ってみ て も,場 面 や 登 場 人物 とい う物 語 内容 が 変 化 す る だ け で,陀 子 の 連結 とい う構 造 に お い て は等 質 の もの とみ なせ る。『青 雲 創 』の ス トー リーの 大部 分 が,主 人 公 で あ る太 子 が 国 を 追 われ,諸 国 を め ぐ り苦 難 の旅 をす る とい う内容 で あ り,抜 粋 部 分 もそ の旅 の あ る地 点 で の エ ピ ソー ドで あ る 。(他 の 部 分 を 抜 粋 した と して も,舞 台 とな る地 点 や登 場 人 物 が変 化 す るだ け で エ ピ ソー ドの 内容 は大

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国立 民族学博物館研究報 告  20巻2号

表2  『青 雲 創』(3種 の テ キス ト)の 構 成 と表 現 モ ー ド 上 演1:1990年8月22日

上 演 皿:1993年7月10日

河北省藻南県司各荘鎮 何建春演唱,趙 恩潮伴奏 河北省藻南県相各荘鎮 貝口村 何建春 演唱,馬 国旺伴奏         説:語 り 唱:う た

段 落* 節* 書 詞(約5000字)

モ ー ド 上 演1 (時間)

上 演 皿 (時間)

      ●

         :

(晋国 の 国母,王 月 英 と太 子,馬 潜 龍 が臣 下,許 江 と王 鳳 に たす け られ る)

1

(1) 太 子,国 母 とは ぐれ 馬 に乗 り流 浪 の旅 へ     00'00"     1'35°

    00"00"

    1"23""

(2) 太子の心中独 白 唱  6'S3' 唱   6"43""

2

(3)

常州府無錫県西安村へ 財主歩球,太 子を罵 る 歩像のいか り

    13'40"

    13'47"

(4) 歩 依,太 子 を追 い 回す 唱   17'40" 唱   17'14"

3

(5) 邪 賛,太 子 を たす け る 説   24"15"" 説   24"22"

(6) 邪賛の家に移動 唱   27'SO" 唱   28'43°

4

(7)

一年が過 ぎ邪賛 の祖母の死 太子の嘆き

棺が必要になる

    33'19"

    33'13"

(s) 李義 とともに陶栄邸へ移動 唱   35'SH° 唱   35'S7"

5

(9) 陶 栄 邸 に 到着,棺 代 の た め に使 用人 に な る 説   41'56" 説   40'33"

        唱 笑 い話         唱     49"36"

(io> 陶麗春の形容 唱   52'21" 唱   43'09"

(麗春 と太子が出会 う,太 子の形 容)            :

       

*段 落:い くつ か の節 が ま と ま って,さ らに 大 きな エ ピ ソー ド(蛇 子)を 形 成 した もの。

*節  :エ ピ ソー ド(蛇 子)の あ る単 位。 上 演 に お け る表 現 モ ー ド(説 と唱)の 交 替 に よ っ て区       切 られ る。

参照

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