• 検索結果がありません。

首長制と土地所有の諸相 : 中央・西カロリン群島 における土地・血縁・称号

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "首長制と土地所有の諸相 : 中央・西カロリン群島 における土地・血縁・称号"

Copied!
26
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

首長制と土地所有の諸相 : 中央・西カロリン群島 における土地・血縁・称号

著者 牛島 巌

雑誌名 国立民族学博物館研究報告別冊

巻 006

ページ 177‑201

発行年 1989‑02‑20

URL http://doi.org/10.15021/00003733

(2)

牛 島  中央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称 号

中 央 ・西 カ ロ リン 群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称 号

島   巌*

1.土 地 保 有 の主 体 0.妻 方 居 住 婚社 会   1.サ タ ワル 島

  2.ト ラ ック諸 島お よび そ の離 島   3.ラ モ トレ ック島

  4.オ レア イ環 礁 補.マ ー シ ャル群 島

皿1.夫 方 居 住 婚 社 会   1.ウ リ シ ー 環 礁   2.フ ァ イ ス 島   3.ヤ ッ プ 島   4.ベ ラ ウ島 lV.ま と め

1.土 地 保 有 の 主 体

  カ ロ リン群 島 の社 会 体 制 は,顕 在 的 に しろ潜 在 的 に しろ,母 系 を基 調 と して 構 成 さ れ て い る。 中央 カ ロ リ ンで は妻 方 居 住 婚 が,西 カ ロ リ ンで は 夫 方居 住 婚 が優 越 して い る。 つ ま り,オ レア イ環 礁 を境 に して,中 央 部 の 母 系 ・妻 方 居 住婚 社 会 と西 部 の 母 系

・夫 方 居住 婚 社 会 に二 分 され る。 土 地 保有 の主 体 に 目 を 向 けて み る と,母 系 リネ ェ ジ あ るい は疑 似 母 系 リネ ェ ジが 強 くその 機能 を保 持 して い る 中央 部 に対 して,西 部 で は 疑 似 母 系 的 な い し父系 的 屋 敷集 団 にそ の 機 能 が移 行 して い る。 そ の 間 に幾 つ か の 段 階 の 変 異 が見 受 け られ る。 換言 す れ ば,カ ロ リン群 島で は,コ ーポ レー ト ・グル ー プ (団体)は 土 地 にか ら ま る 諸権 利 との 関連 で 構 成 さ れ て いて[ALKIRE  l977:65], この 土 地保 有主 体 の構 成 単 位 に は母 系 リネ ェ ジ,疑 似 母 系 リネ ェ ジ,母 系 的拡 大 家 族, あ る いは 父 系 な い し母 系 的 屋 敷集 団 と幾 つ か の 変異 が見 られ る。0方 で,母 系 リネ ェ ジが 土 地 保有 の主 体 で あ る と ころで は,男 性成 員 の子 供 との関 連 が 注 目さ れ,他 方, 土 地 保 有 の 主 体 が父 系 的屋 敷 集 団 で あ る と ころ で は,潜 在 的 な母 系 の認 知 と兄 弟 の子 供 に対 す る姉 妹 お よ び その 女系 子 孫 の 持 つ権 限 が注 目さ れ る。 しか も,こ れ らは す べ て 土 地 に対 す るあ る種 の権 利 と関連 して い る。

  カ ロ リ ン群 島 に お け る土 地保 有 団体 の構 成 に み られ る 変異 を考 察 す る に あ た っ て,

*筑 波 大 学歴 史 ・人 類学 系

(3)

国立民族学博物館研究報告  別冊6号 こ こ で は 血 縁,土 地 お よ び 称 号 と の 連

結 に眼 を 向 け て み た い 。 血 縁 と 土 地, 血 縁 と称 号(タ イ トル)の 連 結 に加 え

て,土 地 と称 号 と の 連 結 が,カ ロ リ ン 群 島 の そ こ ご こ で 認 め ら れ る 点 が 注 目 され る 。

  1。  まず,血 縁 と土 地 の 概念 的混 融 とい う現 象 が 指 摘 で きる 。 トラ ック諸 島 を 中心 とす る中 央 カ ロ リン群 島で は 土 地 は母 系 リネ ェ ジに よ って 保有 され,

図1  土 地 保有 団体 にお け る 血 縁 ・土地 ・称 号       の関 係

妻 方 婚 的 拡 大 家族 に よ って使 用 され て い る。 こ こで は,土 地 を指 し示 す言 葉 は 「食 物 」 を意 味 し,一 つ あ る い は一 組 の土 地 か ら採 れ た食 物(イ モ と果 樹)を 共 有 す る者 が キ ン シ ッフoを共 有 す る とみ な され て い る[MARsHALL  l972:87]。 同 じ土 地 で採 れ た 食 物 で 養 育 され た人 々が親 族 員 と して行 動 す る。 こ こで肝 要 な点 は,土 地(一 食 物)

を共 有 した つ な が りが,血 縁 のつ な が りに ま して 強 調 さ れて い る こ とで あ る。 こ こで は土 地 保 有 集 団 は母 系 リネ ェ ジの 形 態 を と って い るが,リ ネ ェ ジ成 員 の絶 え ざ る 増減 に対 応 して,養 取 や男 性 成 員 の子 供 を 取 り込 ん で 成 員 の補 充 を して い る。 つ ま り,土 地 保 有 団体 を維 持 す るた め に,親 族 の恒 常 的 な 改 編 が促 さ れ て い る。 この種 の一 定 の 土 地 に連 結 して い る人 々 は 「土 地 の人 」 な ど と呼 ばれ て い る。 こ の親族 の恒 常 的 改編 は,夫 方居 住 婚 を採 用 して い るカ ロ リン群 島 西 部 の珊 瑚 礁 に お い て も み られ る現 象 で あ る。

  ま た,カ ロ リン群 島 で は,人 の 移住 が頻 繁 に行 な わ れた こ とが,氏 族起 源 伝 説 な ど か ら推 定 で き る。 人 があ る島 に移 住 して,そ こに土 地 保 有 団体 が 創 立 され る に あた っ て,そ の基 盤 とな るの は,特 定 の居 住 地 が定 め られ る こ とで あ った 。 こ こで 注 目 され る点 は,カ ロ リン群 島 の 各 島 で 特定 の居 住 地,屋 敷 地 が リネ ェ ジ存 続 の基 礎 と して認 識 さ れ て い る こ とで あ る。 母 系 リネ ェ ジ は,特 定 の土 地 を保 有 し,そ の土 地 に 隣接 し て集 団成 員 が居 住 す る こ とに よ って編 成 され て い る。

  2・ 親 族 と称 号 と の連 結 に関 して見 てみ る と,土 地 保 有 団体 が母 系 リネ ェ ジを基 調 と して構 成 され て い る地 域 にあ って は,先 住 の ク ラ ンが首 長 ク ラ ン層 を構 成 し,後 続 の ク ラ ン が平 民 層 を構 成 して い る。 基 本 的 に は ク ラ ン内 の シニ ヤ ー ・ リネ ェ ジの 年 長

(4)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称号

者 が 首 長職 を継 承 して い く。 そ して,リ ネ ェ ジ内 の年 長 原 理 に よ って称 号 の継 承 順 位 が 定 め られ て い る。 とは いえ,リ ネ ェ ジ成 員 の増 減 に対 応 して,養 取 慣行 を通 じて, あ るい は男 性 成 員 の子 供 の0時 的 な 取 り込 み を通 じて,首 長職 の 継 承 が維 持 され る こ

と も稀 で はな い。 この よ う に系 譜 の 継承 に関 して も血縁 以 外 の要 素 が 介 入 す る余 地 が 生 じて い る。

  3.  カ ロ リ ン群 島 で 注 目 さ れ る の は,土 地 と 称 号 ・権 限 と の 連 結 で あ る 。 第 一 の 側 面 は,土 地 に対 す る権 利 の 重 層 性 と の 関 連 で あ る。 カ ロ リ ン群 島 で は,一 般 に あ る 集 団 が 土 地 を 他 の 集 団 な い し個 人 に 贈 与 した 場 合,そ の 土 地 に 対 して 完 全 に権 利 を 委 譲 し,放 棄 し た こ と に は な ら な い 。 土 地 の 元 来 の 保 有 者 が,そ の 土 地 を 贈 与 な い し譲 渡 した 後 で も,そ の 土 地 に 対 して あ る 種 の 権 限 を 留 保 し て い る。 こ の 権 限 は 残 存 権 (内 容 と して は 最 終 的 処 分 権,復 帰 権 な ど)と 規 定 さ れ る[須 藤  1984:314]。  ト ラ

ッ ク諸 島 及 び 他 の 珊 瑚 島 で は,島 に 最 初 に 移 住 し た と 伝 え て い る 首 長 ク ラ ス が 当 該 地 区 の 大 部 分 の 土 地 を 占 有 して い て,後 続 ク ラ ン,リ ネ ェ ジ に 土 地 を 分 与 した と伝 え て い る。 こ の 場 合,前 者 が 土 地 に 対 す る 残 存 権 を 留 保 し,後 者 が 保 有 権i(使 用 権) を 確 保 す る(Goodenoughは ト ラ ッ ク 諸 島 の 土 地 保 有 の 分 析 に 際 し て,仮 の 保 有 権i (provisional  rights)と 残 存 権(residual  rights)に 分 け,前 者 が 土 壌(soil)に 対 す る 権 利 で,後 者 は 領 域(terri  tory)に 対 す る 権 利 と い う 点 で 異 な る,と 述 べ て い る [GooDENouGH  l951:35])。 後 続 リネ ェ ジ は 首 長 リネ ェ ジ に 対 し て 定 期 ・不 定 期 の 貢 納 を 象 徴 的 に 行 な う 。 首 長 ク ラ ン が 土 地 に 対 す る 残 存 権 を 保 持 し,平 民 ク ラ ン に使 用 権 を 与 え て,前 者 は 初 物 を 受 け と る 特 権 を 享 受 して い る 。 こ こ に 見 られ る 図 式 は, 首 長 ク ラ ン:平 民 ク ラ ン:=先 住 ク ラ ン:後 続 ク ラ ン::残 存 権 保 持 者:保 有 権(使 用 権) 保 持 者 と い う こ と に な ろ う。 な お,こ の 残 存 権 と使 用 権 の 関 係 は,母 系 リ ネ ェ ジ と男 性 成 員 の 子 供 と の 間 の 関 係 に も適 応 さ れ る 。 つ ま り,父 か ら 土 地 の 使 用 権 を 得 て い る 子 供 は,定 期 ・不 定 期 に 象 徴 的 な 貢 納 を 父 の 母 系 リネ ェ ジ に し な け れ ば な ら な い 。   第2の 側 面 は,リ ネ ェ ジ の 基 礎 と な る土 地 区 画(居 住 地)と あ る 種 の 称 号 と の 連 結 で あ る 。 こ れ は しば し ば 土 地 区 画 の 位 付 け と し て 現 わ れ る 。 特 定 の 土 地 区 画 が 他 の そ れ よ り も ラ ン ク が 高 く評 価 さ れ て い て,あ る 特 権,称 号,さ ら に は 職 能 と さ え 連 結 し て い る 。 こ れ ら の 土 地 は 一 定 の ク ラ ン や リ ネ ェ ジ に 固 定 さ れ て い て,他 に 委 譲 しな い 土 地,「 元 来 の 土 地 」 と み な さ れ て お り,「 入 っ て き た 土 地 」 と は 区 別 さ れ る 。 夫 方 居 住 婚 を 採 用 して い る 西 カ ロ リ ン群 島 で は,や や 異 な る方 向 に 発 展 して,特 定 の 土 地 区 画,屋 敷 を 相 続 し た り,手 に 入 れ た 者 が,そ の 土 地 区 画 に付 随 して い る 特 権 な り 職 能 を 享 受 す る 。 つ ま り,土 地 保 有 の 主 体 と して 拡 大 家 族 や 屋 敷 集 団 の 自 立 性 が 高 ま っ て

(5)

国立民族学 博物館研究報告   別冊6号 い る よ う な 西 カ ロ リ ン群 島 で は,屋 敷 と 特 定 の 称 号,特 権 が 連 結 し て い る。 こ こで は, 親 族 に 基 盤 を 置 い た 人 間 関 係 が 土 地 に 基 盤 を 置 い た 人 間 関 係 に 転 換 して い る か の よ う

に 見 え る[ScHNEIDER  l984]。

o

  4  母 系 社 会 にお け る父 と子 供 との 関係 に は種 々の 局 面 が 見 られ るが,カ ロ リ ン群 島 で は,父 か ら子供 へ の あ る種 の 土 地 に対 す る権 利 の 委 譲 関係 が注 目さ れ る。 妻 方 居 住 婚 が主 流 の 中央 カ ロ リ ンで は,母 系集 団 の男 性 成 員 の子 供 が,潜 在 的な 「相 続 者 」 とみ な さ れて い る。 父 か ら土 地 区 画 に対 す る使 用 権 を 委譲 さ れ た子供 は,定 期 的 に父 の 母系 集 団 に初 物 を献 上 す る。 これ は使 用権 を与 え た 集 団 が土 地 に対 す る残 存 権 を留 保 して い るか らで あ る。 しか し,残 存 権 を保 持 して い る集 団 の成 員 が いな くな る と, 使 用権 保 持 者 が完 全 な 権 利 を 獲 得 す る こ とにな る。 この父 の集 団 か ら彼 の 子 供 の集 団 へ の土 地 の権 利 の委 譲 は,結 婚 時 に夫 が妻 に土 地 を 贈 与す る,子 供 の誕 生 時 に父 が土 地 を子 供 の 名 義 に して 贈 与 す る,離 婚 時 に妻 お よ び子 供 に贈 与 す る,養 取 に際 して土 地 の贈 答 が行 な われ るな どの,種 々 の機 会 にな され る。 こ の父 の 集団 か ら彼 の 子供 の 集 団へ の 土 地 の贈 与 が制 度 化 されて い る社 会 とそ うで な い社 会 が あ るが[須 藤1984:

327‑331],何 れ も0時 的な い し恒 久 的 な使 用権 の 委譲 で あ って,父 の 集 団 は これ ら の土 地 に対 す る残 存 権 を 留保 して い る。 土 地 贈与 側 は,こ の権 利 の確 認 の た め の初 物 の献 上,集 団 成員 の葬 送 時 に お け る供 物 の 献 納 な ど を受 け る権 利 を持 ち,処 分 権,復 帰 権 を留 保 して い る。

  これ は親 族 名称 体 系 に も反 映 して,変 形 ク ロ ウ ・タ イ プ を採 用 して い る処 で は,父 の集 団 の 成 員 は 「チ チ」 「ハ ハ 」 扱 い とな り,自 己 の集 団 の 成 員 は 「コ ドモ 」 扱 い さ れ る。 こ こで は土 地 に対 す る残 存 権 を 保 有 す る側 が 「オ ヤ」 で,使 用 権 を 保 有 す る側 は 「コ ドモ」 扱 い とな る。

  これ らの事 情 は,夫 方 居 住 婚 社 会 で は 異 な る。 こ こで は 女性 が移 動 す る 形 態 を と る の で,母 系 リネ ェ ジの成 員 は分 散 す る。 この女 性 お よび そ の女 系 子孫 と リネ ェ ジの基 礎 とな る土 地 との 関 連 は検 討 に値 す る。 こ こ で は 兄 弟 姉 妹集 団(sibling  set)が それ ぞれ 自己 の集 団 の 外 に居 住 して い る。 つ ま り,男 性 は父 の 居住 地 に,女 性 は 夫 の居 住 地 に住 む。 母 系 リネ ェ ジが土 地 保 有 の 主 体 と して機 能 を維 持 して い る と ころ で は,首 長 に選 任 され た 男 性 は,自 己 の リネ ェ ジの 基礎 で あ る居 住 地 あ る いは 特定 の 屋敷 に転 居 して,そ こで リネ ェ ジの土 地 と成 員 を管 財 す る。 また,女 性 は夫 の土 地 と自 己の リ

ネ ェ ジの 土 地 に使 用権 を持 ち,男 性 は 自 己 の リネ ェ ジの土 地 を管 財 し使 用 す る と共 に 父 の土 地 に使 用権 を持 つ 。 さて,土 地保 有 の主 体 が,拡 大 家 族 また は屋 敷 集 団 に替 わ って い る とこ ろで は,父 か ら子 供 へ の土 地 の使 用 権 の 相 続 が累 積 され て きて,そ こ に

(6)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称 号

累 積 的な 父 子 関 係 が 強調 され た 屋敷 集 団 が生 成 され る。 この よ うな 道 筋で 土 地 の父 系 相続 が確 立 した と こ ろ にお いて も,姉 妹 お よ び その女 系 子 孫 の 土 地 に対 す る あ る種 の 権 利 が無 視 され な いで,留 保 され る 。 ヤ ップ島 で は,母 系 は 沈 潜 化 して い る が,姉 妹 (及 び女 系 子孫)は,父(兄 弟)か ら相 続 した 土 地 を使 用 して い る 兄弟 の子 供 に対 し て監 視 す る と共 に保 護 す る。 そ して,慣 習 に反 す る行 為 を した 兄 弟 の 子供 お よ び その 母(兄 弟 の妻)を,そ の 土 地 か ら追 放 す る権 限 を持 つ 。

  以 下,ト ラ ッ ク諸 島 か らベ ラ ウ諸 島 にか け て の 中央 ・西 カ ロ リン群 島の 幾 つ か の 社 会 を 取 り上 げ て,血 縁 と土地,血 縁 と称 号 な らび に土 地 と称 号 と の連 結 につ いて 素描

して み よ う。

皿.妻 方 居住 婚 社 会

1.サ 島1)

  サタ ワル 島 で は,土 地 保 有 の主 体 と して 母 系 出 自集 団 が維 持 され て い る。 母 系 出 自 集 団 は,特 定 の土 地 を保 有 し,そ の土 地 に隣接 して集 団 成 員 が居 住 す る こ とに よ って 編 成 され る。 サ タ ワル 社 会 の 母系 出 自集 団 は,基 本 的 には 三世 代 の間 の女 系 出 自成 員 に よ って 編成 さ れ て お り,そ の成 員 の 間 に女 性子 孫 が おれ ば,出 自集 団 の 絶 滅 と い う 事 態 は生 じな い。 しか し,ク ラ ンが 分裂 し分節 集 団 を形成 し,女 性 後 継 者 が いな い場 合,養 取 が優 先 され る成 員 補充 の方 法 で あ る が,集 団 の男 子 成 員 の 娘 を 養 女 にす る例 も見 られ る。1つ の ク ラ ン内 の複 数 の リネ ェ ジの間 には序 列 が あ り,こ れ は リネ ェ ジ の 創設(分 節)し た 時 期 の新 旧 と年 令 に よ って決 定 され る。 つ ま り,よ り古 くこの 島 に定 住 した母 系子 孫 が優 位 を 占め,分 節 集 団 を形 成 した世 代 に お いて は女 性 キ ョウダ イ の姉 の 系統 が妹 の そ れ よ り高 い地 位 に あ る。

  各 母 系 的 リネ ェ ジは プ コス とよ ば れ る リネ ェ ジ成 員,特 に女 性 成 員 が居 住 して い る 居 住地 区 の 名前 に よ って 同定 され る。 一 つ の 固 有 名(土 地 名)を 持 つ プ コス は,数 軒 の家 屋 と共 同炊 事 小 屋 の建 物 群 で構 成 され る。 各 リネ ェジの 名 称 は そ れ ぞ れ の プ コス の 名 に 由来 し,「 プ コス の 人 」 は,そ この プ コスで 生 まれ た 人 を 意 味 す る。 つ ま り,

リネ ェ ジの成 員 で あ り,そ れ に養 子 は含 まれ るが,婚 入 者 は排 除 さ れ る。 プ コス は リ ネ ェ ジの成 員 が 「足 を つ けた 場所 」 で,リ ネ ェ ジの 「本 拠地 」 と みな せ る。 新 しい居 住 地 を造 って も,旧 居 住 地 は 「先 祖 が足 を踏 み入 れ た 所」 と して記 憶 され る。 この よ う に リネ ェ ジは一 定 の 名 前 の つ いた 土地 区画(居 住 地)と 連 結 して い るが,政 治 的 地

1)資 料 は須藤[1984,1985]に よった。

(7)

国立民族学博物館硯究 報告  別 冊6号 位 の継 承 は母 系 の 原 則 に従 う。

  さて,土 地 保 有 の 主 体 と して の母 系 リネ ェ ジに 目 を向 けて み る と,リ ネ ェ ジの 「 来 の土 地 」 な い し 「元来 の食 料 資 源 」,つ ま り リネ ェ ジの代 々の 祖 先 が保 有 して きた 土 地 は,リ ネ ェ ジの全 成 員 に よ っ て保 有 され,相 続 され る。新 参 リネ ェジ にあ って は,

先 住 リネ ェ ジか ら分 与 さ れ た土 地 が その リネ ェ ジの 「元 来 の土 地 」 とみな され て い る。

これ に対 して,リ ネ ェ ジ に 婚 入 した男 性 が 贈与 した土 地 に対 す る権 利(使 用権)は

「贈 られ た土 地(食 料 資 源)」 とい う。 具 体 的 に は,リ ネ ェ ジの 男性 は彼 の妻 お よび 彼 らの子 供 に,コ コヤ シの木,パ ンの木 とタ ロイ モ 田 を贈 る こ とが 義務 づ け られ て い る。 これ は男 性 の 移 動 に伴 って父 か ら子 供 へ と相 続 継 承 され る。 この贈 与 され た土地 に対 す る権 利 は,贈 与側 と受 贈 側 との間 で,残 存 権 と使 用 権iとに区別 されて い る。残 存権 は 「元 来 の土 地 」 を保 有 して き た リネ ェ ジが,贈 与 した 「元 来 の土 地 」 に対 して 留保 して い る権 利 で あ り,土 地 を貰 った リネ ェ ジは そ の土地 を直 接 的 に使 用 す る権i利 を持 つ。 サ タ ワル 島 で は,そ れ は リネ ェ ジ間 を世 代 と共 に移 動 して い く。 そ の た め に 各 リネ ェ ジは 自分 の 土地 が,ど の リネ ェ ジに よ って保 有 され て い るか を,い つ で も記 憶 して お く必 要 が あ る。 この父 系 ライ ンに沿 って集 団間 を移動 して い く土 地 の使 用権 の 道筋 は 「土 地 の 歴 史 」 と呼 ば れ,各 リネ ェ ジが世 代 を 越 え て 秘 密 裏 に 伝 承 す べ き

「知識 」 で あ る。 この男 性(父 親)が 子 供 に譲 渡 した土 地(使 用権)は,子 供 の リネ ェ ジが共 有 す る土 地 とは 明 白 に 区別 され て い る。

  以 上,サ タ ワル 島 で は,母 系 リネ ェ ジが土 地 保 有 団 体 と して健 在 で,成 員 補 充 の手 段 と して 養 取 が採 用 さ れ て い る。 称 号 は 島 に定 住 した新 旧 と系 譜 の原 理 に従 って お り, 土 地 と ラ ンク との 連結 は弱 く,土 地 区 画 の位 付 け は見 られ な い。 だ が,リ ネ ェ ジは本 拠 地 と して のプ コス(居 住 地)と 結 合 し,「元来 の土 地 」 を母 系 的 に相 続 す る。 他 方,父 の集 団 が彼 の子 供 の集 団 へ土 地 を 贈 与 す る こ とが制 度 化 され て い て,こ れ らの 土地 に 対 す る使 用 権 は 男 性 の移 動 に伴 って,父 か ら子 供 へ と集 団 間 を移 動 す る。 だ が,こ れ らの土 地 に対 す る残 存権 は沈 潜 して いて,土 地 を受 け取 った集 団 が 土 地 を贈 与 した 集 団 に,毎 年 の初 物 を 献 上 す る 義務 はな く,そ こに政 治 的な序 列 関係 は 顕現 して いな い。

2.  トラ ッ ク諸 島 お よ び そ の 離 島2)

ト ラ ッ ク 周 辺 離 島

ト ラ ッ ク 周 辺 離 島 で は,養 育 と い う 概 念 を 媒 介 に し て 血 縁 と 土 地 の 融 合 が み ら れ る 。 2)資 料 はGooden・ugh[1951],  Murdock  and  Go・den・ugh[1947],  Marshall[1972,1976,  1981]

に よ った 。

(8)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン 群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称 号

キ ョ ウ ダ ィ 関 係 に 枠 を は め て い る の は 土 地 で あ る 。 換 言 す れ ば,す べ て の キ ョ ゥ ダ ィ は 土 地(=食 物)を 共 有 して い る と み な さ れ て い る 。 例 え ば,ナ モ ル ッ ク環 礁 で は, 土 地 保 有 の 単 位 は,母 系 リ ネ ェ ジ 内 の 父 母 を 同 じ く す る キ ョ ウ ダ イ(養 子 も含 め て) に 分 化 して い る 。 こ こ で は 土 地 は 「mongo(食 物)」 と よ ば れ,土 地 は 生 命 の 根 源 で あ る 。 サ ブ ク ラ ン ・ レベ ル で 共 有 さ れ て い る土 地 は,全 体 の わ ず か な 部 分 に す ぎ な い が,象 徴 的 な 意 味 で 重 要 で あ る 。 こ こ で は キ ョ ウ ダ イ で あ る こ と は,土 地=食 物 を 共 有 す る こ と,つ ま り生 命 を 共 有 す る こ と を 意 味 す る 。 土 地 を 共 有 す る こ と は 緊 密 な キ ン シ ップ を 共 有 す る こ と と 同 義 で あ り,サ ブ ク ラ ン,リ ネ ェ ジ,デ ィ セ ン ト ・ラ イ ン の そ れ ぞ れ の レ ベ ル で,母 系 関 係 者(mongo  nu  chu)は 食 事 を 共 に す る,換 言 す れ ば 土 地 資 源 を 共 有 す る 。 同 じ 団 体 の 成 員 は 相 互 に 養 育 し維 持 し あ い,そ して 食 料 資 源 を 共 有 す る。

  こ の よ う に 「養 育 」 が トラ ッ ク 周 辺 離 島 の 親 族 関 係 の 本 質 で あ る の で,時 に よ っ て は 食 物(リ土 地)の 共 有 が 血 縁(系 譜)の 共 有 を 凌 駕 す る 。 リ ネ ェ ジ の 成 員 権 に 関 し て 団 体 的 要 素 と系 譜 的 要 素 と が 拮 抗 し た 場 合,優 先 さ れ る の は 前 者 で あ って 後 者 で は な い 。 つ ま り,共 有 さ れ た 土 地 か ら の 食 物 で の 相 互 の 養 育 関 係 が,系 譜 を 共 有 す る 関 係 よ り優 先 さ れ る 。 他 方 に お い て,父 か ら 子 供 へ の 土 地 の 委 譲 が 重 要 で,土 地 委 譲 の 総 件 数 の78%を し め て い る 。 父 が 自 己 の リ ネ ェ ジ の 土 地(一 食 物)を 子 供 に 贈 る こ と に よ り,父 の 土 地 か ら 取 れ た 食 物 を 共 食 す る 人 々 は 連 帯 す る 。 そ し て,父 を 同 じ くす る 子 供 達 が,リ ネ ェ ジ の 他 の 成 員 と共 有 す る母 の 土 地 だ け に 依 存 しな い で,自 立 す る 道 を 開 く。 彼 ら は 父 の 母 系 リネ ェ ジ のco‑childrenで あ る の で,そ の 土 地 の 潜 在 的 な 後 継 者 と み な さ れ て い る 。 こ れ ら の 土 地 の 贈 与 は リネ ェ ジ間 の 婚 姻 に 基 づ く もの で あ

り,こ れ は リネ ェ ジ 間 の 連 帯 と 連 盟 を 強 化 す る。

  こ の よ う に ト ラ ッ ク 周 辺 離 島 で は,土 地 の 食 料 資 源 に よ っ て 相 互 に 養 育 さ れ る こ と が,親 族 関 係 の 基 本 で あ っ て,土 地 の 共 有 関 係 が 系 譜 の 共 有 関 係 に 勝 っ て い る 。

  ト ラ ッ ク 諸 島

  こ こ で も,か つ て は,各 リネ ェ ジ は 特 定 の 屋 敷(JZ7π ω)と 連 結 して い て,リ ネ ェ ジ の ブ珈 ω は リ ネ ェ ジ の 成 員 の 本 当 の 拠 点 で,団 体 と し て の リネ ェ ジの 外 面 的 な 表 現 で あ っ た 。

  さ て,ト ラ ッ ク諸 島 の 各 島 は 幾 つ か の 地 区(district)に 分 か れ る 。 地 区 は 通 常 幾 つ か の リネ ェ ジ で 構 成 さ れ る 。 草 分 け の リネ ェ ジ が 地 区 の す べ て の 土 地 区 画 に 対 し て 残 存 権 を 保 有 し,新 参 の リ ネ ェ ジ は 幾 つ か の 土 地 区 画 に 使 用 権 を 保 有 す る 。 そ れ ら の 区 画 の 利 用 は,草 分 け リネ ェ ジ に よ っ て 管 理 さ れ て い る 。 新 参 リ ネ ェ ジ は 草 分 け リ ネ ェ

(9)

        国立民族学博物館研究報告  別冊6号 ジ(ま た は それ 自身 そ こ か ら由来 す る別 の リネ ェ ジ)か ら 由来 す る とみ られ て い る。

トラ ック諸 島で は一 般 的 に財 の贈 り手 は,そ れ ら に 対 して 残 存権 を保 留 し,受 手 は (仮 の)使 用 権 を もつ 。 使 用 権 を持 つ者 は残 存権 を 持 つ者 に土 地 の生 産 物の0部 を 贈 らな けれ ば な らな い。 毎 年 の初 物 献 上 の行 為 も これ にあ た る。 そ して,残 存 権 を 持 つ 者 の 許可 な く,こ れ らの 財 を他 人 に譲 渡 で きな い。 例 え ば,土 地 区画 が父 か ら子 供 へ 委 譲 され,こ れ が数 世 代 に わ た って 実 施 さ れた 場 合,そ の土 地 の 贈 与 を 受 け た各 リネ ェジは,土 地 の贈 与 経 路 を逆 にた ど って,元 々の 土 地保 有 リネ ェ ジに初 物 の 献 上 を続 け る。

  この原 則 に従 って,土 地 保 有 団体 と して リネ ェ ジは,幾 つ か の土 地 区画 に権 利 を保 有 す るの で あ る が,土 地 区 画 の権 利 は重 層 して い る。 地 区 に古 くあ るい は長 ら く定 住 して い る リネ ェ ジ が,一 連 の土 地 区 画 に完 全 な あ る いは残 存 的な権 利 を保 有 し,新 参 の リネ ェ ジは保 有 す る土 地 に使 用権 の み を持 つ 。

  と ころ で,新 参 の リネ ェ ジ が地 区 に族 籍 を持 つ の は,地 区 の土 地 区 画 に権 利 を保 有 す る こ とに基 礎 づ け られ て い る。 通常,こ れ らの 土地 区画 に対 す る権 利 は,地 区 の首 長 リネ ェ ジ出身 の,あ る い は す で に地 区 に政 治 的 に組 み 入 れ られて い る リネ ェ ジ出身 の父 か らの贈 与(niffag)と して相 続 され る。 トラ ックで は母 系 リネ ェ ジの成 員 か らみ て男 性 成 員 の子 供 はyefekyr(コ ドモな い し潜 在 的後 継 者)と み な され る。 この 点 か ら見 る と,地 区 を構 成 す る リネ ェ ジ は,始 祖 と して 「チチ 」 の立 場 にあ る首 長 リ ネ ェ ジか らの父 方 的 出 自者 で あ る。 新 参 の リネ ェ ジは地 区の 「チ チ」 に 由来 し,移 住 の新 旧 に よ って位 づ け さ れ,「 コ ドモ」 とみ な され る。 重 層 す る土 地 に対 す る権 利 との 関 連 で 見 れ ば,首 長 リネ ェ ジは地 区 の土 地 に対 す る残 存 権保 有 者で あ り,新 参 リネ ェ ジ は使 用 権 保有 者 で,前 者 に毎 年 初 物 を献 上 す る。 土 地 に対 す る残 存 権 を 持 つ 首 長 リネ ェジの 成 員補 充 が途 絶 え る と,使 用 権 を 持 って いた 他 の(yefekyrの 立 場 にあ る)リ ネ ェジが 地 区 の土 地 区画 に完 全 な権 利 を獲得 す る ことが で き る。

  トラ ック諸 島 お よ び 周辺 離 島で は,土 地 保有 の主 体 は母 系 リネ ェ ジな い しは そ の 分 節 で あ るが,共 有 さ れ る 土地 か ら採 れ た食 物 で養 育 され た 人 が キ ン シ ップ を 共 有 す る とみ られ て い て,土 地 と血 縁 が概 念 的 に混 融 され て い る。 時 に よ って は土地(=食 物) の共 有 関係 が系 譜 の共 有 関係 を凌 駕 して い る。 ま た,重 層 して い る土 地 に関 わ る権 利 と政 治 的 地位 との 関連 で見 る と,次 の よ う に図式 で きるで あ ろ う。

  首 長 リ ネ ェ ジ:新 参 リネ ェ ジ::残 存 権 保有 者:使 用 権 保 持者::親(チ チ):yefekyr (コ ドモ)。

(10)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称 号

3.  ラ モ ト レ ッ ク 島3)

  基 本 的 な土 地 保 有 の主 体 は母 系 リネ ェ ジ(各 リネ ェ ジは サ ブ ク ラ ン内 で 位 付 け さ れ る)で あ るが,ボ ガ ッ ト(うω09αの と よ ばれ る居住 地 と連 結 して い る。 ボガ ッ トの 文 字 通 りの 意 味 は一 群 の土 地 区 画 の こ とで,そ れ らの 区画 の1つ の 名前 で集 合 的 に呼 ばれ て い る。 通 常,ボ ガ ッ トは1つ ま た は複 数 の 家 屋 の建 って い る名前 の つ い た土 地 区 画 とそれ に近 接 ・分 散 した 幾 つ か の土 地 区画 で 構 成 され,こ れ らす べ て の土 地 区 画 はま とめて 「某 ボガ ッ トの 土 地 」 とよ ばれ る。 ほ とん どの場 合,こ れ は 母系 リネ ェ ジ が統 括 す る土 地 区画 で あ る。 個 人 の第 一 次 的な 族 籍 は,彼 が相 続 権 を 持 ち人生 の あ る時 期 に居 住 して いた土 地 区画 に あ り,個 人 は 「某 ボガ ッ トの人 」 と よ ばれ る。 この よ うに ボ ガ ッ トは,土 地 とそれ を 保 有 す る人 に も適 用 され る言 葉 で あ る。 個 人 は彼 が忠 誠 を 示 す リネ ェ ジの年 長 者 の 名 前 を あ げ る か,な い しは某 ボ ガ ッ トの 成 員 で あ る と名 乗 る こ とで,自 己が 所属 して い る リネ ェ ジ に同定 され る。 ラモ トレ ック 島で も居 住 地 と リ ネ ェ ジは緊 密 に連 結 して い る。 屋 敷(6ωogαの は リネ ェ ジの 拠 点で あ って,ク ラ ンや サ ブ ク ラ ンの レベ ル以 下 の系 譜 的 に関係 す る人 々 が 「ボガ ッ トの人 」 と表 現 され る。

  土 地 に関 す る権 利 との 関連 で,リ ネ ェ ジか らの分 節 集 団 の分 立 あ る いは リネ ェ ジの 消 滅 に 目を向 け る と,リ ネ ェ ジの 拠 点 で あ る土 地 区画 は残 存 権 が保 有 され て い る土 地 で あ り,こ れ を 保有 す る リネ ェ ジの す べ て の土 地 の 中で 最高 の ラ ンクの 土地 で あ る。

さて,世 代 が経 過 し残存 権 を保 有 して い た リネ ェ ジが 絶 滅 に至 る と,土 地 の再 分 配 が な さ れ,あ る ボガ ッ トは無 住 にな った り,リ ネ ェ ジか ら分節 した系 統 に管 理 され る。

通常,土 地 は最 初 に分節 した系 統 に受 け継 が れ,こ れ は や が て独 立 した リネ ェ ジ に成 長 す る。 他 方,分 節 系 統 が リネ ェ ジが 残 存権 を持 た な い土 地 に移 住 す るの は,父 か ら 贈与 さ れ た土 地 な い し養 取 で 贈 与 され た 土地 へ の場 合 で あ る 。 こ こで も,土 地 の 使 用 権 を贈 られ た系 統 は残 存 権 を保 有 す る贈 与側 の リネ ェ ジ に,葬 送 や カ ヌ ー小 屋 の 改 造 な どの機 会 に不 定 期 的 な貢 納(poliz an)を す る。 そ して 土 地 を贈 られ た集 団 の成 員 は, 当該 の土 地 に居 住 して い た り,権 利 が認 め られ て い る間 は,贈 与 側 の リネ ェ ジ に婚 入 で きな い。

  ラモ トレ ック島 で は,土 地 と ラ ンキ ング との連 結 の萌 芽 を 見 る こ とがで きる。 過 去 に お いて は ク ラ ンの ラ ン ク と これ らの首 長 ク ラ ンが統 括 す る土 地 の 面 積 は比 例 して い た 。さ らに首 長 の ボガ ッ ト(居住 地)はeraoと よば れ る 。eraoは 首 長権 と結 び付 いて い る古 い リネ ェジの 屋 敷 で あ る 。現 実 の首 長 は サ ブ ク ラ ンの 別 の リネ ェ ジか ら選 出 され

3)資 料 はAlkire[1965,1974]に よ っ た 。

(11)

国立民族学 博物館研究報告  別冊6号 た か も 知 れ な い が,継 承 権 の 第 一 はeraoの リ ネ ェ ジ に あ る 。 最 高 首 長 はFairochekh

ボ ガ ッ トか ら 出 て く る が,島 の 最 高 位 の 土 地 は こ の 屋 敷 で は な く,Lamitakhで あ る。

最 高 首 長 が 命 令 を 出 す 際 に,Lamitakhか ら の 言 葉 と して 表 現 さ れ る 。 ま た,  Saur ク ラ ン は 絶 滅 し て い る が,こ の ク ラ ン が か つ て 保 持 し て い たoo加 η9職 は 他 の ク ラ ン に 委 譲 さ れ ず,Saurの 土 地 に 居 住 し て い る,あ る い は そ こ を 統 括 して い る ク ラ ン の 一 人 が こ の 職 を 遂 行 しな け れ ば な らな い。 こ こ で は 土 地,親 族 と 政 治 的 地 位 が 地 区 政 治 に お い て 連 結 し て い る 。 首 長 ク ラ ン(tamollihailang)の 権 威 は,ク ラ ン の 全 員 な ら び に ク ラ ン 財 を 使 用 して い る非 成 員(ク ラ ンの ボ ガ ッ ト に妻 方 居 住 婚 で 居 住 して い た り,ク ラ ンの カ ヌ ー 小 屋 を 使 用 して い る 姻 族,ク ラ ンの 土 地 を 贈 ら れ,定 期 的 に 貢 納 して い る 者)に 及 ぶ 。

4.  レ ア イ 環 礁4)

  基 本 的 に ラモ トレ ック 島 と変 わ らな い が,こ こで も首 長 ク ラ ンと平 民 ク ラ ンの違 い は,移 住 の新 旧 に従 い,ク ラ ンは元 来 特定 の土 地 と結 合 して いた 。 基 本 的 な 土 地保 有 の主 体 は リネ ェ ジ(gailang)で あ る。  リネ ェ ジの 土 地 は 幾 つ か の土 地 区 画 か ら構 成 さ れ,最 も重 要 な 土 地 は居 住 地 区で,こ れ は リネ ェ ジの 拠 点 とさ れて い る。居 住地 区 は リネ ェ ジの拠 点 な い しは そ れ に付属 す る区画 で あ る。 言 い換 え れ ば,リ ネ ェ ジの 拠点 とそ こ に付 属 す る土 地 区画 が ボ ゴ ッ ト(bz ogot)を構成 し,ラ ンク の あ る土 地 の 名前 で 表現 さ れ る。 例 え ば,「E土 地 区 画 は0ボ ゴ ッ トにつ いて い る」 な どで あ る。 こ こで も リネ ェ ジと その 拠 点 とみな され る土地 区画 とは連 結 して い る。

  土 地 とか果 樹 の 贈 与 は,こ れ らの 財 に対 す る完 全 な権 利 の 委譲 で は な く,贈 り手 は 残存 権 を留 保 し,受 け手 は重 要 な儀 礼 な ど にお け る島布 や ヤ シ縄 の献 上 を通 じて,象 徴 的 に この権 利 を 認 知 す る。 仮 に受 け手 が これ らの献 上 を怠 る と,与 え手 は土 地 や 樹

の使 用 を禁 じ,場 合 に よ って は使 用 権 を回収 す る権 利 を行 使 す る。

  環 礁 で は人 口 の減 少 に よ って,リ ネ ェ ジの 成 員 が絶 滅 に至 る と,他 の ク ラ ンに土 地 を 委譲 す る こ とにな るが,他 方 に お い て,土 地 を放 棄 せ ず に養 取 や 非公 式 に居 住 して い る者 を 組 み入 れ る こ とで,延 命 を は か る。 あ る ボ ゴ ッ トに永 住 が 許 さ れ た者 は親 族 集 団 に組 み入 れ られ,真 の 系譜 関係 が あ るか の ご と く,権 利 と義 務 が 認 め られ る。

  オ レア イ環 礁 で も,家 屋 や建 造物 は リネ ェ ジの 拠 点 と同定 され る土 地 区画 に 置 かれ て いて,こ れ に付 属 す る土 地 区画 と共 に財 産 単 位 を構 成 す る。 リネ ェ ジが基 本 的 な土

4)資 料 はAlkire[1974]に よ っ た 。

(12)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称号

地 保 有 単 位 で,居 住 を共 にす る成 員 が労 働 集 団 を構 成 す る。 こ の よ う に カ ロ リ ン群 島 で はlocalityが 政 治構 造 の み な ら ず 親族 組織 にお い て も重 要 で あ る と いえ よ う。

  女性 の移 動 を 伴 わ な い妻 方 居 住 婚 社 会 で は,土 地 保 有 の 主体 と して母 系 リネ ェジが お お き く変 形 され る こ とな く機 能 して い る とい え る。 だ が,成 員 の増 減 に対応 して, 親 族 の 改編 が 常 に行 な わ れて き た。 他方,男 性 成 員 は他 に婚 出 す る構 造 で あ るので, 自 己の族 籍 を同 定 す る リネ ェ ジ の根 拠 地 と して,特 定 の居 住 地 が 意 味 を持 って くる。

これ が,数 軒 の 建 物 群 とそ れ に付 属 す る土 地 区画 か らな る屋 敷 で あ り,そ こ に産 まれ た人 々の族 籍 を示 す 処 で あ る。 これ は ボガ ッ ト系 の言 葉 で よ ばれ て い る。 この よ うに 土 地 に か らま る諸 権 利 で 構成 され る団 体 と して母 系 リネ ェ ジが 機 能 して い る。 この意 味 で,localityが 系 譜 関係 を凌 駕 して くる余地 が あ る。

  草 分 け の首 長 リネ ェ ジ に対 す る,後 続 な い し分節 リネ ェジ に よ る初 物 の定 期 ・不 定 期 の献 上行 為 は,か つ て の ま た は最 近 の 土 地 贈 与者 と して留 保 して い る残 存 権 を,土 地 受 贈 側 と して 使 用権 を 保持 して い る者 が確 認 す る こ とを意 味 して お り,特 定 の土 地

に重 層 して い る諸権 利 と政 治 的地 位 との連 結 を示 す とい え よ う。

補.  マ ー シ ャ ル 群 島5)

  上 述 の 諸 点 は マ ー シ ャ ル 群 島 に も あ て は ま る 。マ ー シ ャル で は 土 地 区 画(zvato)は 長 の 保 有 す る と こ ろ で,彼 ら は 土 地 区 画 を 使 用 す る 者 を 指 名 す る権 利 を 持 つ 。 こ こ で も ト ラ ッ ク と 同 様,土 地 の 与 え 手 は 残 存 権 を 持 ち,受 け 手 は 使 用 権 を も つ 。 残 存 権 は 第 一 次 的 な 権 利 で あ る 。 こ の 土 地 に 関 す る 権 利 の 関 係 は,政 治 的 に は 残 存 権 保 持 者 が 首 長@吻)で,使 用 権 保 持 者 はalabと い う 。 土 地 権 保 有 の 主 体 は,母 系 な い し疑 似 母 系 リネ ェ ジ(伽 の で あ る と み られ る が(マ ー シ ャ ル で は わ吻 は 母 系 と範 躊 化 さ れ て

い る が,現 実 は 疑 似 母 系 的    uterin,e‑cognatic  ambil neality    で あ る[SHIMIzu l987:39]),特 定 の 土 地 区 画(z ato)に 建 て られ た 家(em)を 媒 介 と して 機 能 して い る 。 家 は そ れ が 建 っ て い る 土 地 区 画 の 名 前 で 示 さ れ る 。6ωび は 特 定 の 土 地 に 使 用 権 を 保 有

し て い る こ と で 存 在 が 認 あ ら れ る 。

  人 は 土 地 に 対 す る残 存 権,使 用 権 と な ら ん で,他 の 土 地 で 労 働 す る権 利 を も つ 。 彼 ら は 土 地 の 労 働 者(riブ8吻1)と よ ば れ る 。 γり 〃加Zの 権 利 は,広 くalabの 親 族 関 係 者 に 認 め られ て い る 。alabは ゐ吻 の 年 長 者 で,ゐ 吻 が 使 用 権 を 持 つ 土 地 区 画 の マ ネ ジ ャ ー で,彼 の 下 に,そ の 土 地 で コ ブ ラ生 産 な ど の 労 働 を す る 厚 ノ〃加1が 存 在

5)資 料 はPollock[1974],  Shimizu[1987]に よ っ た 。

(13)

国立民族学博物館研究報 告  別冊6号 す る。

  こ こで は 土 地 に対 す る残 存 権 を保有 す る首 長,使 用権 を保 有 し労 働者 を 監督 す る マ ネ ジ ャ ー,そ して土 地 で 働 く権 利 を もつ労 働 者 に分 れ る。各 土 地 区 画 に は,幾 人 か の 労 働 者 を統 括 す るマ ネ ジャ ー が いて,彼 らが首 長 に責任 を持 つ 。 首 長 は土 地 区 画 を委 譲 した り,再 分与 で き る力 を 持 ち,使 用 権 を 統 制 し,新 しいマ ネ ジ ャ ーや 労 働 者 を 指 定 す る。 彼 らは土 地 か ら採 れ た コブ ラの 数%を 税金 と して 受 け 取 り,土 地 の パ ンノ キ の 初 物 の献 上 を受 け る。

皿.夫 方 居住 婚社 会

1.  ウ リ シ ー 環 礁6)

  ウ リ シーの 土 地保 有 団 体 の 構 成 は,母 系 出 自 の強 調 と夫 方 居 住 婚 の 規制 によ って 定 め られ る。 土 地保 有 の主 体 は ハ イ ラ ン(heilang)と よ ば れ る(疑 似)母 系 リネ ェ ジで あ る。 各 ハ イ ラ ンは,付 与 され て い る政 治 的 職 能 や リーフ お よ び無 人 島 の統 制 に 関 す る権 利 の 継承 と並 ん で,土 地 を め ぐる諸 権 利 の 主 体 で あ る。 それ ぞ れ のハ イ ラ ンは幾 つ か の 土地 区画 と タ ロイ モ 田 の 区画 を保 有 す る と共 に,密 集 村 落 の0画 に伝 統 的 な 居 住 区 を持 ち,こ こ に各 ハ イ ラ ンの 中心 とな る屋 敷 が あ る。 こ こで は夫 方 居 住 婚 が採 用 され て い るの で,ハ イ ラ ンの女 性 成 員 は 他 の ハ ィ ラ ンの 家 屋 に婚 入 して い く。 た だ し, 密 集 村 落 で あ るの で ハ イ ラ ンの 成 員 間 の交 流 は容 易 で あ る。 ハ イ ラ ンの 長(tamol)に

任命 され た年 長 者 は ハ イ ラ ンの 中心 の屋 敷 に引 き移 るの を 原 則 とす る。 この 屋 敷 はハ イ ラ ンの 中軸 で 「ハ イ ラ ンの 家(珈 ωθ1伽1侃g)」 と か 「首 長 の 家(珈 ω6J tamol )」 と よ ばれ る。 こ こで は家 屋 は石 積 み の 土台(廊 の に建 て られ るが,こ のdaifは 家 屋 が 消 滅 した 後 も残 り,そ の 上 に家 屋 を再 建 す る のが 通 常 で あ る。 ハ ィ ラ ンの居 住 区 は定 め られ て い る が,人 は 父方 ・母 方 双 方 の 関係 をた ど ってdaifを 使 用 して い るの で, 必 ず しもハ イ ラ ンの 成 員 で 構 成 され て い るわ けで は な い。 だ が一 貫 して い るの は,ハ イ ラ ンの 長で あ る年 長 者 が居 住 す るの が 「中軸 の 屋敷 」 で,何 らか の 理 由で そ こに家 屋 が 建 て られ て いな くて も,そ の屋 敷 跡 は 「中軸 の屋 敷 」 と して 留保 され,屋 敷 の永 続性 が維 持 され て い る。

  こ の居 住 区 と並 んで 重 要 な の は,特 定 の 特権 が 付与 さ れ て い る土地 区画 で あ る。 モ グ モ グ 島で は 「hafalakの土 地 」とよ ばれ る0定 の数 の土 地 区 画 が あ る。 最 高 首 長 の許

6)資 料 は 牛 島[1983,1987a]に よ っ た 。

(14)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る 土地 ・血 縁 ・称号

に 献 上 さ れ る 魚 ・亀 の 儀 礼 的 分 配 に 際 して,こ のrhafalakの 土 地 」を 保 有 す る ハ イ ラ ン は,魚 ・亀 の 特 定 部 分 を 分 配 さ れ る 特 権 を 持 つ 。 ま た,場 合 に よ っ て は 無 人 島 の 統 制 権 が 付 随 して い る 。 さ ら に 幾 つ か の 随 ψ 鳳 の 土 地 」 は 特 定 の 職 能(7η α嬬g職) と連 結 して い る。 こ れ ら の 土 地 区 画 は ハ イ ラ ン か ら原 則 と し て 離 れ な い,他 の ハ イ ラ ン に 贈 与 す る こ と の な い 土 地 区 画 で あ っ て,ハ イ ラ ン の 長 が 統 括 す る 。

  こ の よ う に ハ イ ラ ン は 土 地 保 有 団 体 で あ る が,こ の ハ イ ラ ン の 成 員 構 成 と そ の 補 充 の 様 式 を 検 討 して み よ う。 基 本 は 母 系 リネ ェ ジ で あ る が,リ ネ ェ ジ の 成 員 の 減 少 ・消 滅 に至 っ た ハ ィ ラ ン は,父 方 関 係 を 通 じ た 編 入 に よ っ て 成 員 を 補 充 す る 。 逆 に 増 加 傾 向 を 持 つ リ ネ ェ ジ は,他 の リ ネ ェ ジ に 侵 入 して い く こ と に な る 。 母 系 の 出 自者 に よ る 成 員 の 補 充 が 困 難 に な る と,父 方 関 係 を 通 じた 成 員 補 充 が 採 用 さ れ る こ と に な る が, 一 時 的 ま た は 中 間 的 に 父 方 関 係 者 を 取 り込 む こ と で,ハ ィ ラ ン の 再 編 成 が な さ れ た 後 は,再 び 可 能 な か ぎ り母 系 の 出 自 を 強 調 す る 傾 向 を 持 ち,母 系 出 自 を 持 続 さ せ よ う と す る傾 向 が み ら れ る か ら で あ る 。 だ が,別 の選 択 と し て 如糀oJ職 の 父 系 的 継 承 の 傾 向 を 中 心 に,土 地 の 相 続 様 式 に お い て,父 系 を 強 調 す る方 向 に む か っ た ハ イ ラ ン も存 在 す る(以 上,モ グ モ グ 島)。 こ の 結 果,個 人 は 場 合 に よ っ て は 複 数 の ハ イ ラ ン,父 と母 方 の ハ イ ラ ン に,さ ら に は 養 取 先 の ハ イ ラ ン に,二 重,三 重 に 帰 属 す る こ と に な る。 こ の よ う な 機 構 を 通 じ て,母 系 の 成 員 が 減 少 ・絶 滅 に 至 っ た ハ イ ラ ン が 土 地 保 有 団 体 と して 維 持 さ れ る 。 こ の 結 果,今 日,モ グ モ グ 島 の ハ イ ラ ンの 構 成 成 員 は,母 成 員37. 6 %,母 系 男 性 成 員 の 子 供17.6%,母 系 男 性 成 員 の 娘 の 子 供20.6%,父 系 を た ど る 成 員31.  2%,で あ る 。

  ハ ィ ラ ン の 構 成 は ハ ィ ラ ン が 統 制 して い る土 地 区 画,タ ロ イ モ 田 に 対 す る権 利 と連 結 して い る 。 こ こで は ハ ィ ラ ンが 統 制 す る 土 地 区 画 や タ ロ イ モ 田 を 利 用 ・使 用 し て い る,あ る い は そ の 資 格 を 持 つ 「ハ イ ラ ン の 人 」 は,「 土 地 の 人(chal  bogat)」 と よ ば れ て い る 。 こ の 「土 地 の 人 」 の 範 囲 に は 母 の 関 係 者 の み な らず 父 方 関 係 者 も含 ま れ て い る 。 土 地 と の 関 連 で い え ば,個 人 は 父 方 の 土 地 を よ く世 話 し,樹 を 植 え,畑 と し て 開 墾 し,手 を 入 れ る の が 適 切 な 行 動 で あ る と考 え ら れ て い る 。 母 方 の 土 地 は 婚 入 し た 女 性 の 子 供 が 守 っ て い る こ と に な る。 だ が,土 地 を 適 切 に 世 話 せ ず,父 方 の 関 係 者 と 仲 が 悪 くな る と,父 の ハ ィ ラ ン の 土 地 か ら追 い 出 さ れ る 。

  「土 地 の 人(chal  bogat)」 は ハ ィ ラ ン の 土 地 を 使 用 し て い る 人 を 意 味 す る の で あ る が,底 流 に は 母 系 出 自 の 強 調 が 保 持 さ れ て い る。 「ハ イ ラ ン の 人 」 の 中 の 母 系 成 員 を togokhと い う の に対 し て,父 方 関 係 者 は 「男 か ら 出 た 来 た 者(rol  mal  thoho)」 と よ ば れ,前 者 が 系 譜 的 に優 越 す る 。togokhが い な く な る と,  rol mal  thohoが 成 員 と して

(15)

国立民族学博物 館観究報告  別冊6号 組 み 入 れ ら れ る。 こ の男 性 成 員 の子 供 が成 員 と して繰 り込 まれ た後 は,再 び女 系 が 強 調 さ れ る。 ま た,父 方 か ら受 け継 い だ土 地 区 画 や タ ロイ モ 田 を使 用 して い る人,お び将 来 父 のハ ィ ラ ンの 土 地 を使 用 す る子 供 は,父 の ハ イ ラ ン(母 系 関係 者)の 葬 送 に 当 た って,特 別 な 贈 与(mogos)を 献 上 しな け れ ば な らな い。 贈 り手 が これ らの 土 地, タ ロイ モ 田 に対 して残 存 権 を 留保 して い るか らで あ る。 ここで も土 地 に関 す る権 利 を あ ぐって,男 性 成 員 の 子 供(使 用権 保 有 者)か ら女 系 成 員(残 存権 保有 者)へ の象 徴 的な 財 の献 上 と い う慣 行 に遭 遇 す る ので あ る 。

  ウ リ シー環 礁 で は,母 系 を た どる 出 自原 理 と夫 方 居 住 婚 の 組 み 合 わせ,成 員 の 増 加, 減少,消 滅 とい う変動 に対応 して,土 地 保 有 団 体 と しての ハ イ ラ ン(疑 似 母 系 リネ ェ

ジ)の 成 員 構 成 は こみ い った 構成 を と る。 つ ま り,土 地 保 有 団 体 と しての ハ イ ラ ンの 維 持 の た め に,親 族 の 恒 常 的 な 改編 が促 され て い る とい え よ う。 そ の 際 に母 系 男 性 成 員 の子 供 が潜 在 的 な 成 員 と して考 慮 され,個 人 の 多重 的帰 属 が容 認 され る。 他 方,こ

こで は特 定 の土地 区 画 が あ る種 の特 権 や 職 能 と連 結 して い る点 が 重要 で あ る。 さ らに 成 員 が分 散 して い く夫 方 居 住婚 社 会 に おけ る リネ ェ ジの拠 点 と して の 「軸 的な 屋 敷 」 の生 成 も注 目 され る。

2.  フ  ァ イ  ス 島7)

  土地 保 有 の主 体 は,ボ ゴタ(ゐogo切 とよ ば れ る男 系 的 居 住 集 団 で あ る。 この ボ ゴタ (屋敷)は 名前 を 持 つ(島 に36ほ どの ボ ゴタ が あ る)。 政 治 的 序 列 は,土 地 つ ま り位 付 け され た ボ ゴタ に内 包 され て い る。 ボ ゴタ に付 随 して い る地 位 は 固定 して いて,ボ ゴ タ の保 有 者 に よ って 保 持 され る。 場 合 によ って は個 人 は2つ の 地 位 を受 け持 った り, 誰 か の 名義 で 遂 行 す る こ ともあ る。 これ らの 高 い 位 の職 能 が 付 随 して い る ボ ゴタ は matangaと よ ば れ,屋 敷 はyarar uと い い,通 常 の 屋敷(dyife)と 区別 され る。 さ ら に,特 定 の 専 門職 や儀 礼 的 知識 も特 定 の ボ ゴ タ に振 り当て られ て い る。 ボ ゴ タは 父 系 的 に相 続 ・継 承 され,男 は ボゴ タ に留 ま り,男 の職 能 は特 定 の ボ ゴタ と連 結 して い る。

  ボ ゴ タ(屋 敷)は 典 型 的 に 男系 男 性 で 構成 さ れ,彼 らは妻 と子供 と共 に,1軒 か ら 5,6軒 の家 屋 群 を な して村 落 内 の名 前 を有 す る土 地 区画 に住 み,炊 事 小 屋,墓 地 そ して 内陸 の 耕 地 を 共 有 す る。 ボゴ タ は父 系 的 に継承 さ れ,安 定 した もので あ る。 だ が, 近 年 で は人 ロ減 少 と外 部 へ の移 住 に よ って 幾 つ か の ボ ゴ タ は無 住 とな って しま って い

るが,先 住 者 の 関 係 者 が いて,こ れ らの ボ ゴタ を先 住 者 の 名義 で 管 理 して い る。

7)資 料 はRubinstein[1976]1こ よ っ た 。

(16)

牛 島  中 央 ・西 カ ロ リン群 島 に お け る土 地 ・血 縁 ・称号

  各 ボ ゴタ は 「永 久 の 土 地 」 と 「入 って きた土 地 」 とい う二 つ の カテ ゴ リーの土 地 を 保 有 して い る。280の 土地 区画 の う ち,171(61%)が 前 者 で,残 りの109(39%)が 後 者 で あ る。後 者 は この20年 か ら30年 の 間 に5,6回 の取 引 を経 て,ボ ゴタ か らボ ゴ

タへ 移 動 した土 地 で あ る。

  これ らの土地 区画 が委 譲 され るの は,婚 姻 と養 取 にお いて で あ る。 婚 姻 時 に妻 の近 親 者 が数 区画 の土 地 を夫 に贈 る。 これ らの 土 地 区画 は夫 の 近 親 者 に分配 され る(「 女 性 に よ って持 ち込 まれ た土 地」)。そ の お返 しに夫 の 親族 は,贈 られ た の と同量 区 画 の 土 地 を,作 物 が植 え られ るよ うに下 ご し らえ して 贈 った り,単 な る土 地 区画 を贈 る。

妻 の親 族 は この 土 地 か ら一 定 の シーズ ン収 穫 で きる(「 畑 を作 るた めの 土 地」 あ るい は 「妻 が持 って きた も の と交 換 す る土 地 」)。妻 方 は土 地 を,夫 方 は労 働 を贈 与 す るわ けで あ る。 この妻 が持 ち込 ん だ 土 地 は,妻 の家 族 が夫 の 家 族 に,彼 女 の子 供 達 を養 育 し住 ま わせ る こ との懇 願 を表 わ して い る とい う。 離 婚 に際 して も この土 地 は夫 の ボ ゴ タ に留 め 置 かれ るが,子 供 が いな い場合 は,稀 で は あ るが 妻 の ボ ゴタ に返 却 され る。

ま た,妻 が妊 娠 中な い し病 気 で 死 亡 す る と,夫 は妻 の ボ ゴタ に土 地 を贈 る(「 血 の 支 払 い」)。養 取 に当 た って,養 取 の 成 立 の 象徴 と して土 地 が交 換 され る。 これ らの 婚 姻, 養 取,妻 の死 に際 して の土 地 の交 換 は,土 地 交 換 の85%を しめ る。

  こ こで母 系 的要 素 を検 討 して おか ね ば な らな い 。 フ ァイ スで は,母 系 ク ラ ンは ア ー カ イ クな概 念 にす ぎず,母 系 の 出 自は 組 織 原 理 と して少 しの役 割 しか 果 た して い な い。

土 地 保 有 の主 体 は父 系 的 な ボ ゴ タ に取 って 代 わ られ て しま っ て い る。 人 は 島 へ の最 初 の移 住 者 か らの母 系 出 自を た ど るが,異 な った 父 系 ボ ゴ タ の系 列 を媒 介 に してた ど る。

この 動 きは,そ れ ぞ れ の ボ ゴタ へ の航 海 で あ る,と 表 現 さ れ る。 だ が,土 地 の 委譲 に つ いて の フ ァイ ス島 人 の 説 明 に,母 系 的 要 素 が み られ る。 そ れ に よ る と,現 実 には女 性 に よ っ て持 ち込 まれ た 土 地 は,必 ず しも子 供 の 財 と して夫 の ボ ゴ タ に保 留 され な いで, 交 換 の 一環 と して 他 の ボ ゴ タ に与 え られ て しま うのだ が,「 女 性 が彼 女 の子供 に土 地 を伝 え る」 と説 明 され て い る。 ま た,第 一 子 の 誕 生,夫 の葬 送 の最 後 の儀 礼 な ど に当 た っ て,妻 の家 族 か ら夫 の家 族 に0連 の 食 物 が 贈 与 され る。 この含 意 は夫 の ボゴ タ に 子 供 が留 ま って い られ る こ との願 望 を表 現 す る こ とで あ る。 これ らの慣 行 の 底 流 には, 子 供 と父 の ボ ゴ タ との 関係 は あ る意 味 で 構 築 され る もの で あ る の に対 して,母 の ボゴ タ と の関 係 は所 与 の もの で あ る,と い う考 え が み られ る。

  ボ ゴ タの 「永 久 の土 地 」 と 「入 って き た土 地 」 との 区 別 は 絶 対 的 な もので はな いが, 男 の子 供 に与 え られ る土 地 と女 の 子供 に与 え られ る土 地 との 差 異 と関連 す る。 フ ァ ィ ス 島 人 の説 明 に よ る と,娘 には 「永 久 の土 地 」 を委 譲 し,最 近 「入 って きた土 地 」 は       191

(17)

国立民族学博物館研究報 告  別冊6号 息 子 に与 え る,と い う。 「入 って きた土 地 」 は娘 の婚 出 に際 して夫 の ボ ゴ タ に与 え ら れ な い し,「 血 の支 払 い」 と して妻 の ボ ゴタ に贈 与 され る 土 地 と して使 用 され る こ と は な い。 フ ァイス 島 民 に よ れ ば,子 供 は権 利 を 侵犯 され る こ との な い土 地 を母 か ら受 け取 って いれ ば,母 の死 後,ボ ゴ タ の土 地 をめ ぐる紛 争 に際 して も土 地 を 失 う こ とは な い,と い う。 か くて,女 の移 動 に伴 な って 委譲 され る土 地 は,娘 の 婚 姻 に際 して の 委 譲 で あ れ,夫 の ボ ゴ タで 彼 女 の子 供 が使 用 す るた め の 委譲 で あれ,彼 女 の死 に対 す る賠 償 と して妻 の ボ ゴ タへ の 委譲 で あ れ,「 永 久 の 土 地 」 の破 られ る こ との な い取 引 で な け れ ば な らな い,と され る。 この女 性 に与 え られ る土 地 は 「永 久 の土 地 」 で な け れ ば な らな い と い う考 え は,「 永 久 の土 地 」 は 常 に同 じボ ゴ タ に 連 結 して いな け れ ば な らな い,と い う島民 の別 の考 え 方 と反 律 す る。

  こ こで は,「 永 久 の 土 地 」 とい って も,委 譲 が古 い過去 にな され て,そ の 取 引 が忘 却 され て しま った土 地 は,ボ ゴ タの 「永 久 の 土地 」 に繰 り込 ま れて くる。 検証 で きる の は,娘 に委譲 さ れ た土 地 は,取 引 が な され た記 憶 がな い土地 で あ る とい う こ とに す ぎな い。 こ こ に フ ァィ ス 島人 の 考 え 方 が 示 され て い る。 す な わ ち,土 地,財,人 の す べ て は 回遊 す る,と み な され て い る。 そ して あ る もの は早 く,あ る もの は遅 く回 遊 す る。 土 地 区画 は幾 度 か 委譲 を繰 り返 して,最 後 には元 の保 有 者 の 手 に 戻 って くる。 男 性 は土 地 に対 して責 任 を 持 ち,土 地 を管 理 し監 視 し保 有 す る。 だ が,女 性 は居 住 して い る ボ ゴ タ に付 随 して い る土 地 で働 くの で,現 実 に土 地 を 保 有 す る の は女 性 で あ る。

母 系 的 に委譲 され る土地 の所 有 権 は 侵 犯 され る こ とがな い,と い う考 え に関 連 して, 島 入 は,人 は 父 の ボ ゴ タ か ら追 放 され る こ とが あ って も,母 の ボ ゴタ か ら切 り離 され

る こ とは な い,と 確 信 して い る。

  さ らに,こ こで姉 妹 とそ の女 系子 孫 が,そ の 生 家 の ボ ゴ タ の土 地 に対 して兄 弟 とそ の 出 自者 よ りも 強 い発 言権 を 持 って い る点 を特 記 で きる。 これ は 変形 ク ロ ウ型 の 親 族 名称 に も反 映 して い る。姉 妹 の女 系 子 孫 は,数 世代 に わ た って,彼 女 の生 家 の ボ ゴタ の土 地 に対 して 残 存権 を留 保 して い る と も解 され,生 家 に住 ん で い る母 方 の イ トコ に 対 す る発 言権 を 保 持 して い る。 父 の ボ ゴ タ に居 住 す る権 利 は,年 長者 や ボ ゴ タ出 身 の 女 性 の子孫 に よ って 剥奪 され る ことが あ って も,母 の ボ ゴ タへ の居 住 権 は犯 され る こ と がな い。 これ らの 考 え は,幾 つ か の ボ ゴタ は この200年 あ ま り絶 え る こ とな く父 系 的 に継 承 され て い る とい う系 譜 上 の 証 拠 か ら もい え る,ボ ゴタ は父 系 出 自集 団 と一 致 す る,と い う表 明 と反 律 す るの で あ る。

フ ァイ ス島 の場 合 で 注 目 され るの は,父 系 の ボ ゴ タが土 地 保 有 の 主 体 に転 換 して い

参照

関連したドキュメント

中国地方整備局 福山河川国道事務所 特別会員 ○井町 和正 スレーキングしやすい材料で盛土 をしたことに よる盛土法面崩

(独)土木研究所寒地土木研究所 ○正 員 角間 恒 (Ko Kakuma) (独)土木研究所寒地土木研究所 正 員 岡田慎哉 (Shinya Okada) 宮地エンジニアリング(株) 正 員

に,レベル 2 地震動に対する液状化抵抗について検証した. 2.実験の概要 土試料として Fc=0%である 5 号相馬硅砂と 5 号,6 号,8

Electron microprobe analysis B and Auger electron spectroscopy C of the coccoid indicated iron-rich cell wall of carbon-rich cell... of cell envelope by

データベースには,1900 年以降に発生した 2 万 2 千件以上の世界中の大規模災 害の情報がある

③委員:関係部局長 ( 名 公害対策事務局長、総務 部長、企画調査部長、衛 生部長、農政部長、商工

[r]

調査地点2(中央防波堤内側埋立地)における建設作業騒音の予測結果によると、評