我が国自動車産業における
「熟練」をめぐって
徳 江和 雄
1 はじめに
1980年代以降,内外において日本企業論が急激に脚光を浴びてきた。それは 二度にわたる石油危機を乗り越えて欧米製造業の停滞を後目にハイ・パフォマ ンスを続けている日本企業の秘密は何かという内外にわき起こった疑問に答え ようとするものであった。
むろん日本企業論の内容は,製造業における労働過程(熟練),労使関係,
株式・資本所有関係(企業集団)から企業を取り巻く労働市場,企業と政府部 門の関係に至るまで多岐にわたっている。
が,小池[1977]はその後の議論の展開に大きな一石を投じたのである。すな わち,小池は日米製造業における労働者の企業内熟練形成を比較し,①アメリ カに比して日本の方が職場における職務経験の範囲がより広いこと,②アメリ カと違い先任権制度ではなくより平等主義的に仕事の配分が行われているこ と,③そして準自律的な職場集団が形成されていることを指摘した。後に小池
[1981],[1991]では,日本の製造業の大企業労働者の熟練形成は「知的熟 練」形成であると積極的に規定し,ここに日本企業の成功の秘密の主因がある
とされた。
小池の投じた一石は大きな波紋を描いている。一つは,M. Aoki[1988],
M.Aoki&R. Dore[1994]の流れである。 Aoki[1988]は,近代経済学の 諸理論とその成果の流れをふまえて,日米比較に基づき,①小池の熟練論をそ のまま生かして日本の大企業の労働過程を「水平的情報構造」とし,②それを 含めてさらに,インセンティブ制度(職階制度),企業金融制度(株式所有制 度),労使関係(団体交渉制度),中小企業制度,政府関係などを考察し,③か
くして,これら諸属性の体系として日本企業のトータル・モデルを提示した。
こうして議論は,製造業大企業労働者の熟練をめぐるものからそれをふまえて
より理論的に現代日本企業論へと展開している。
だが,もう一つの潮流は実証研究である。これは,日本の製造業の各部門に 関して行われてきたが,小池の問題提起を意識しつつ行われた自動車産業の集 団研究として次の3つが注目される。
A [京都グループ]:小山[1985]
B [愛知グループ]:野原/藤田[1988]
C [東京グループ]:戸塚/兵藤[1991]
A,Bはともにトヨタの生産方式とそこに働く労働者に焦点を当てたもので あるが,ともに労働過程(熟練),賃金・職階制度,小集団活動,トヨタ・グ ループと下請け関連企業(地域労働市場),労働者の職場と生活・意識の各側 面にかんする集団による精力的な実態調査に基づいている。Aは1982年のトヨ タ自工・自販合併以前を対象とし,Bは, Aをふまえて80年代半ばぐらいまで を取り扱うが,地域労働市場などAの実証的に不十分なところをカバーしつつ,
さらにトヨタ自動車,関連下請け企業,トヨタ・グループにまたがって展開さ れている経営による「労働者管理」の内実を明らかにしている。
トヨタにおける労働者管理は山下[Bの第5章]によって明らかにされてい る。すなわちトヨタにおける現場労働者の「熟練」形成が賃金・職階制度並び に提案活動=QCサークル活動と結合しつつ行われるが,①その賃金・職階制 度は経営専権の確立として成立していること,②また小集団活動も経営のイニ シャティブが確立していること,③かくして賃金・職階制度と小集団活動との 結合が経営者による「労働者管理」として実現されていること,④そして経営 者による労働者管理は1949−54における労働組合の敗北によって形成された労 使の力関係の現実に基づいていること,が示される。そしてCは以上のA,B
をふまえて「労使関係」という視点から経営専権の確立しているトヨタと対比 しつつ日産自動車の展開に照明を当てている。
小論の課題は,筆者の能力から言って以上の諸側面すべてを扱うことは,言 うまでもなく出来ない。次の点に限定される。
1 トヨタにおける「熟練」とは何か。
2 「熟練」を見る視点,枠組みは何か。
小池の問題提起,それに対する実証研究A,B, Cから以上2点にかんして
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 67
諸成果を整理し自己理解を深めることが課題である。
H 「ものづくり」の面から 表1 生産工場の製造品目と工程編成
工 程 従
名 称 備 考
鋳造 鍛造 焼結 機械加工 熱処理 機械組付
プツ
X成宴N
̀形
プレス 溶接 塗装 組立 車輌検査 業員数
本社工場 トラック専門工場,
Z宅製造 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
2,479
乗用車専門工場元町工場 }ークH,チェイ(クラウン,コロナ, ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 4,760
サー,クレスタ)
エンジン,トラン
上郷工場 スミツション専門 ○ ○ ○ ○ ○ 3,687 工場
乗用車専門工場
高岡工場 (カローラ,スプリ塔^ー,ターセル, ○ ○ ○ ○ ○
5,444
コルサ)
三好工場 足廻り,小物物品
H場 ○ ○ ○ ○ ○
1,822
乗用車専門工場
堤工場 (コロナ,カリーナ, ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
5,543
セリカ)
(アルミ)
明知工場 鋳物部品工場 ○ 825
下山工場 エンジン,排出ガ
X対策部品工場 ○ ○ ○ ○
1,263
駆動関係部品工場
衣浦工場 (トランスアクス ○ ○ ○ ○ ○
1,247
ルなど)
(アルミ)
乗用車(カローラ)
田原工場 小型トラック組立 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 2β54 工場
注:備考については『会社概要』1980年12月,工程分布は『トヨタグループ1000社の実 態,1982年版』株式会社アイアールシー,39頁,従業員数は「有価証券報告書」
1982年6月による。
ソース:小山[1985],p121
図1 トヨタ工場(職場の労働力編成)
<1> 提工場
工 場 長
総 成 車 機 検 工
墾 形 体 械 査 務
部 部 部 部 部 部
rh l rh [十[ 「』 「紬一[
第第塗 製 第第プ 技第第第鋳 技検技 第第日安人事
繰装造暴レ術321術 21全
ァ立 TTス員難犠物員査術灘程笙事務
課課課 課 課課課 室課課課課 室課課 課課課課課課
注:『自工40年史』より作成。なお,堤工場には『40年史』出版段階 では衣浦製造部が含まれているが,衣浦工場完成により分離・移 行したので省略する。
ソース:小山[1988],p122
<2> 元町工場
(1)課一係の構成
雛難〉昼勤(白直)
元町工場・第1機械課 箋1灘〉夜蝋直)
第5作業係 常昼勤
ソース:小」山[1985],p132
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 69
②係一組一班の構成
職場業務 1班 カローラ,スターレット 141組17人 2班 ロアサスペンション
3班 加工,アッシー組付
「1班力゜開ラ ナック珈工
142組8人 L2班アブソーバー溶接
1班 カローラ,アブソーバー 第4作業係 143組12人
2班 加工,組付
1班 スターレット,アブソーバー 144組8人
2班 加L,組付 1班
ターセル,コルサ,カローラ 145組14人 2班
アブソーバー加工,組付 3班
工長 1 組長 5 班長 12 一般 42 合計 60
注:組人員は組長,班長,一般の合計である。
ソース:小山[1985],p133
トヨタでは,トップ・マネージメントを頂点とする管理機構によって10の生 産工場郡が管理されている。表1を参照されたい(D。各工場は,車種別,ユ ニット別に製造品目に関して専門化しているが,各の工場内分業は部・課・係・
組・班から構成される。図1を参照されたい。上段はコロナなど乗用車専用工 場である堤工場で部・課編成を,下段は同様にクラウンなど乗用車専用工場で ある元町工場で第一機械課の内部編成(係・組・班組織)を示している。分業
の基本単位は8〜14人で2〜3班からなる組であり,これが「職場」と呼ばれ、
そこで作業員の「熟練」形成が行われるわけである。辻は141から145組の作業 について「一般労働者の作業形態は,サイクルタイムが数10秒程度の機械組付 作業か,6台から13台程度の多台持ちによる機械加工のいずれかであ」ると述
べている(2)。
職場の「熟練」は,二つの視点から検討される。①「ものづくり」としての 作業,仕事,あるいは役割の面から,②それに関連して形成される労働者相互 の「社会的関係」の面から(後者は「ひとづくり」も含む)。小池[1977]が 電車の運行を例にしてヨコ(分業と協業の関係)とタテ(指導や指揮命令の授 受関係)の視点から熟練を見ると指摘されたことと同じである(3)。(さらに,
③二つの側面がどのように結合されているのかが検討されるべきである)。「も のづくり」の面では,A,Bの成果が注目されねばならない。
表2 〈ラインからの距離〉別職種,サンプル数
所 属 イ 口 ノ、
工 場 現 場 中 間 本 社
部 門
(工場籍・工場配属)
(本社籍・工場配属工場工務・検査)
(本社籍・本社配属)
N=70 N=8
鋳造,鍛造,熱処理,
ライン検査,
1 ライ ン部門 プレス,溶接,機械加 クレーン運転 工,機械組付,
塗装,総組立 1
2 3
N=10 N=16
構内運搬, ライン外検査,
H ライン支援部門
ライン手直, 生産準備,
ライン情報処理 輸送
2 3 4
N=:11 N=17 N=16
ライン保全,
金型製作,木型製作, 試作加工,試作組立,nl ライン外部門 ライン外手直, 工具研摩,工具管理, 試作モデル,走行試験,
衛生管理 動力 試験・実験
3
45
ソース:小山[1985],p165 注:N=サンプル数
辻[A,第二章,第三節]は,自動車完成に至る製造諸工程を完成段階から 逆にたどりながら,そこに働く労働者から作業についての聞き取り調査を紹介
した後,表2のように,工程別作業をくラインからの距離〉を基準にして5つ
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 71 の職種類型に区分している㈲。なお,職種の部門別・工程別関係については 表3を参照されたい。
表3 部門別職種のつながり
部門の性格 労働者 歩合薄 表2の区分(表4の区分) 熟 練 従業員比
@(%)
直接製造部門 技 能 員 A 1一イ(1), H一イ(2), 1一ロ(2) 半 熟 練 44
製造支援部門 技 能 員 B 皿一イ(3),H一ロ(3) 新型熟練
5
製造支援部門 技 能 員 C 皿一ロ(4),皿一ハ(5) 監視型・旧型熟練 25
間接部門 事務・技術員 D
(管理・事務/技術)
26注:歩合部門A=生産計画によって人員予測ができる。B=Aに対応して人員予測が可能。
C=人員予測ができない。D=オフィス部門 ソース:小山[1985],pp124,129,130,165
(1)現場ライン部門
総組立,機械組付などタクト型労働と機械加工,プレスなどサイクルタイム 一般に前者はもっぱら機械システムが作業ペースを 決め,後者は人間の側に作業速度について一定の自由裁量が認められるとされ ている。しかし,トヨタではカンバン方式によるJust−in−timeの徹底と労働 負荷100%の生産方式により「事前に決定された作業標準を一定の時間内に完 了すること」(6)が共通の課題となっている。新人はこの共通課題の遂行だけ が要求されるが,このために職制は彼らを「3日以内に一人前にする」ω。作 業は標準化された単純作業,しかも繰り返し行われる反復作業であが,時間圧 力のもとで多工程をこなさなければならないという高密度作業である。1日あ
るいは3日以内で修得可能と言う限り,「不熟練労働である」が,「長期にわた る適応と習熟」を考慮すれば「半熟練労働」(8)ということができる。
(2)工場現場ライン支援部門,中間ライン部門
構内運搬,ライン外手直,ライン外検査,クレーン運転など「ラインの動き がそのまま伝わるライン従属型労働」で,労働実態は(1)と同じ範疇にはいる。
(3)現場ライン外部門,中間ライン支援部門
ライン保全,ライン外手直,ライン外検査,生産準備など「課題解決型労働」
であり,「新しいタイプの熟練労働」(8)である。生産準備の場合,「従来の熟練 機械工に必要とされた各種工程機械の運転,操作,図面の作成,読みとりなど の能力を備えつつ,それを現場の故障修理や,長期的な工程改善の中で活用す る能力が必要となる。」創意工夫,アイデアを出せること,技術者(間接部門)
との対応も必要。調査では53%が1年以上の修得期間を要す,39%が「なんで もわかる」のに5年以上必要,と回答した。
(4)中間ライン外部門
一つは工場の設備課動力関係の監視型労働で,監視型熟練労働である。もう 一つは本社工機部などの金型製作に関わるが,次の(5)と同様に一品生産とし ての旧型熟練労働である。
(5)本社ライン部門
試作加工,試作組立,モデル製作で,新型車の車体,エンジンなどの試作に 関わる。「最初から最後まで自分の責任で遂行する」佃一品生産で,旧型熟練 労働である。
表4 〈ラインからの距離〉別労働特性,熟練,能力要件
〈ラインからの
距離〉 1 2
3 4 5
典型職種 総 組 立
@械加工 構内運搬
Nレーン運転 生産準備
宴Cン外検査 金 型 製 作
ョ 力 試作加工 cfル製作
労働特性 タク ト型 ライン従属型 課題解決型 一品生産型
ト 視 型 一品生産型 熟練水準・内容 半熟練労働 半熟練労働 新型熟練労働 1日型熟練労働
ト視型熟練労働 旧型熟練労働
能力要件 条件適応力 条件適応力 問題解決力
n意工夫力 手先器用さ
n 練 技 能 手先器用さ
n練技能
仕事で最小限度のこ
ニができるまでの期間 7日以内 1ヵ月 6ヵ月以上 6ヵ月以上 6カ月以上
仕事で何でもできる
謔、になる期間 1 年 1〜3年 3年〜5年 3年〜5年 5年以上 ソース:小山[1985],p168
表4は以上をまとめたものであるが,見られるように生産技術の工程別相違
徳江;我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 73 を反映してトヨタの「熟練」が多様であることがわかる。1982年現在で総従業 員5万1000人(1°)のうちほぼ半数(49%)が直接製造部門での不/半熟練労働 であること,製造補助部門は30%で,うち5%が新型熟練労働,25%が監視型 熟練労働と旧型熟練労働と区分され,そして残り26%が管理・事務及び技術労 働からなる間接部門を構成しているわけである。
B研究グループは「物づくり」の面での調査をトヨタ,トヨタ関連企業グルー プ,下請け企業グループへと拡大した。
野原[B,第一章]は,合併前トヨタ従業員4万5千,一次企業従業者5万6 400人,二次企業1万6806人を確認している(11)。
表5 非職制層(一般職十準指導職)二
「あまたの仕事を一人前にこなせるようになるには,どれくらいの訓練が必要ですか」
1−30日 1ヵ月ん
Uヵ月 年〜2 2〜5年 5年以上 合計
間 接 1(2.0) 3(6.1)
15(30.6)
21(42.9)7(14.3)
49A自 準 直 3(3.7)
16(19,8) 20(24。7)
、31(38.3) 10(12.4) 81動車 直 接
13(ll.3)
¶ 46(40.0)30(26.1) 18(15.7)
2(1.9) 115 一(プ气Oを 間 接 0(0.0) 0(0.0)5(30.5) 6(46.2) 2(15.4)
13 企ル含 準 直 0(0.0)6(27.3) 5(22.7) 10(45.5)
1(4.5) 22業1む )
直 接 2(5.3)
9(23,7) 12(31.6) 11(28.9) 4(10.5)
38 二 次 以 下 1(3.8)5(19.2) 5(19.2)
12(46.2)3(ll.5)
26 非関連・雇用者 3(4.0) 5(6.7) 27(36.0) 27(36.0)8(10.6)
75 註1 実数及び( )は%。2 合計数は無回答者(D.K. N. A)を含むもので,左欄の合計数と必ずしも一致 しない。
3 「地域調査」による。
ソース:野原/藤田[1988],p454
これらトヨタと同グループの従業員の「熟練」に関しては表5を参照された い。これは,非職制(一般職+準指導職)にたいして行われた「あなたの仕事 を一人前にこなせるようになるには,どのくらいの訓練経験が必要ですか」と
言う質問への回答である。見られるように,トヨタの直接部門では6カ月以内 が最大であり,一次企業では半年から2年,二次企業以下では3〜5年の職種 が最大となっている。野原は「傾向として上位規模の企業へ行くほど,おそら
く機械化の進行と作業の細分化によって,労働の単純化が進行しており,逆に 下層に行くほど,熟練的職種が残存している」(12)と述べている。
表6 勤 務 形 態
昼 勤 昼夜二交代 三交代 その他 計
A自動車 間接 90(89.1) 9(8.9)
1(1.0) 1(1.0)
101 準直 42(31.6) 82(61。7)9(6.8) 0(0.0)
133 直接 11(5.4) 192(94.1)0(0.0) 1(0.5)
204 一次企業 間接 68(100.0) 0(0.0)0(0.0) 0(0.0)
68 準直・直接 72(68.6) 30(28.6)3(2.9) 0(0.0)
105 二次以下企業 43(81.1)6(ll.3) 1(1.9) 3(5.7)
53 非関連 雇用者 129(91.5) 10(7.1)0(0.0) 2(1.4)
141註1 実数,( )内は%。
2 その後のデータ修正により[藤i田栄史・猿田正機 1983]の表16(205ページ)
とは若干数字が異なっている。
3 「地域調査」による。
ソース:野原/藤田[1988],p166
また,表6はトヨタと同グループの勤務形態を示している。見られるように,
昼夜二交代制はトヨタの直接・準直接部門の殆どの労働者が行っており,これ に対して一次,二次以下では殆ど行われていない(わずか一次の直接・準直接 部門の29%のみ)。そして表7はこれらの企業群の残業時間を現している。表 7の下段は,直接・準直接部門の夜勤作業員も1時間以内,1時間半以内,2 時間以内と残業を余儀なくされていることが明らかにされる。これは基準時間 における余裕率ゼロのもと,問題が発生した場合ライン・ストップして改善を 図る「自働化」生産方式のもたらしている一面であろう。トヨタの直接・準直 接部門において古典的な熟練が分解されて標準化された単純労働になっている という理解が大切である。それによって,生産量や作業時間,従って作業速度
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 75
表7 残 業 時 間
(1)残業時間(1981年3月,1日当り)昼勤時
なし
一〇.5h
〜1.Oh 一1,5h 一2.Oh 2.lh〜 計 A自動車 間接 10(ll.9) 5(6.0) 17(20.2) 17(20.2) 15(17.9) 20(23.8) 84準直 20(19.2) 2(1.9) 46(44.2) 17(16,3) 16(15.4)
3(2.9)
104 直接5(3.1)
6(3.8) 69(43.1)28(17.5) 46(28.8) 6(3.8)
160 一次企業 間接 26(44.8) 0(0.0) 11(19.0)0(0.0)
10(19.2) ll(19.0) 58 準直・直接 13(13.7) 0(0.0) 29(30.5)4(4.2)
40(42.D9(9.5)
95 二次以下企業 16(32.7) 1(2.0) 9(18.4)1(2.0)
14(28.6) 8(16.3) 49 非関連 雇用者・ 77(61.6) 4(3.2) 22(17.6)0(0.0)
15(12.0)7(5.6)
125註1 実数,( )内は%。
2 「地域調査」による。
(2)二交代者の残業時間(1981年3月,1日当り)夜勤時
なし
一〇,5h
〜1.Oh 〜1.5h 〜2.Oh 2.lh一 計 A自動車 間接 4(44.4)0(0.0)
2(22.2) 1(1LD 2(22。2)0(0.0)
9準直 19(24.7)
4(5.2)
24(31.2) 21(27.3) 8(10。4) 1(1.3) 77 直接18(9.9) 8(4.4)
44(24,3)65(35.9) 42(23.2) 4(2.2)
181 一次企業 3(10.7)1(3.6)
11(39.3) 魑 ♂O(0.0)
12(42.9)1(3.6)
28準直・直接
二次以下企業
0(0,0) 0(0.0)
2(33.3)0(0,0)
3(50.0) 1(16.7) 6 非関連 雇用者 6(75,0) 1(12.5)0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
1(12.5) 8 註1 実数,( )内は%。2 「地域調査」による。
ソース:野原/藤田[1988],p164
についての管理権を経営者は労働者から剥奪し得ているのである。それ故,ト ヨタは決してテーラー主義を克服し得ているのではなく,まさしくテーラー主 義の発展であろう。「発展」というのはコンベア方式の時間圧力のもとで労働 者は多工程持ちを余儀なくされ高密度作業となっているからである。辻はトヨ
タの直接部門の労働を「現代の苦患労働」と総括している(13)。
皿 「社会関係」の面から
職場集団の「社会関係」は,①生産の技術的性格から規定されるだけでなく,
②労使の闘争,それによる労使の力関係,③それにもとつく管理様式によって も規定される。職場の労働条件や作業様式だけでなく,賃金体系,職能階層制 度,昇進制度のあり様もこれらに規定される。前節で見たトヨタの直接製造部 門の労働実態は,生産の技術的側面に規定されつつも,トヨタの労使関係にお ける経営者の圧倒的優位とそれによる経営専権の確立によるものであることが 示唆されよう。
それだけではない。A,B調査団の主要な目的の一つは,トヨタの現場の労 働者が,単調,反復,高密度労働に耐えつつも,同時に相当な割合の労働者が
「仕事にはりあい」を感じ,「積極的な仕事意識」を抱き続けているのは何故か,
という謎を解明することであった(14)。Bは,トヨタが実現している「現代労 働者管理」がその謎の鍵であると回答している。
われわれもBおよびCにしたがい,賃金体系・職務配分制度(職階制度),
小集団活動を検討する。
表8 賃 金 体 系
月例賃金 基準内賃金
El毒li;ilill
賃 家族手当(3.7%)
基準外賃金 時間外手当(18.5%)
金 深夜手当(4.2%)
L特別賃_金.退_め 交替手当(4.8%)チ殊作業手当(0.1%)
注 基準外賃金には,図に表示されたもの以外に休暇手当があり,さらに,諸手当とし て在勤手当と食事手当がある。( )内の%数字は,月例賃金にしめる各賃金 項目の割合であり,調査時点は1984年6月末である。この時点で,月例賃金は,
293,130円であった。自動車総連『1984年版賃金労働条件調査資料』第3分冊から 計画。
ソース:野村[1993],p45
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 77
表8はトヨタの賃金体系を示すが,全体としてトヨタの賃金体系は次の三層 の結合物であると言えよう。
①A,B, C, Dの各歩合部門相互間, A部門内では各組(直)相互間で能 率向上達成のための生産手当(生産手当支給係数)。表3,図1を参照。
②組内における会社目的に向けての階層間競争を促進する基本給および基準 内賃金の職能階層制度。
③同一階層内部における労働者相互間の競争を狙う人事査定。
①について。表8に見るように生産手当が単一項目としては最大であり,そ れによって賃金体系が全体として能率給としての性格を刻印されている。野村
[C,第二章],[1993]は,この生産手当の決定メカニズムを明らかにした。
すなわち,職制による「基準時間」がIEによる標準時間と違ってもっとも能率 の高い作業員の作業時間であること,それをもとに算定される各部門,組(直)
ごとの能率歩合が「社達」に公表されること,それをめぐって部門間,組問の 競争が行われことが明らかにされる(15)。山下[A,第五章]は,その結果,
労働の内包的強化,ライン停止時間率の縮減,QC=提案活動の促進,チーム・
ワークの向上,原価意識の醸成が全社的に進められることを明らかにした⑯。
②について。まず表8に見られるように,退職手当の算定基準となる基本給 のシェアが小さいことは会社のコストを大幅に軽減させている。また,基本給,
生産手当,家族手当からなる基準内賃金のシェアはわずか7割あまりで,住宅 ローンなど債務を負う場合,残業,深夜作業などによる基準外手当によって残 り3割を確保することが不可欠なシステムになっている(表6,7と前節末尾
を再度見られたい。)(17>。
また表9を参照されたい。まず,最左列を見られたい。組内の職場労働者は 1985年時点で9段階の職能階層制度にランク付けされていること,しかもこれ は役職制度と結合しており,一般職と職制(工長,組長,班長)とに大別され ることが示される。すなわち,表の数値は基準内平均賃金昇給額を100とする 職能等級別指数を示している。見られるように,最高・最低比率は実に2.14倍 であり,昇給格差が拡大していること,しかも平均以上の昇給は班長以上の職 制によって初めて可能になっていること,かくして「苦患労働」から脱出し大 幅賃上げを志向する者は小集団活動への積極的参加等によりチームリーダーと
しての潜在能力をアッピールし職制へなんとしても昇進しなければならないこ
表9 基準内賃金平均昇給額=100としたときの各職能等級の指数
1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977
基準内賃金
ス均昇給額(円) 8,360
8β90
10,070 12,900 23,150 14,360 10,400 12,260初級管理職i係長,工長,担当員) 144 140 145 152
151
158 152 152上級指導職i組 長) 127 124 127
131
130 132 132 133中級指導職
i班 長) 一 一 一 一 一 121 122 124
初級指導職i班 長) 110 109 110 110 110 110 112 114 初級指導職i一 級) 108
準 指 導 職 102 101
101
100 100 100 102 99上級一般職 一 一 一 95 94 93 92 89 中級一般職 93 93 92 90 88 85 82 80 初級一般職 一 一 一
79
78 75 72 70補 助 職 85 85 83 一 一 一 一 一
1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985
基準内賃金ス均昇給額(円) 11,140 9,580 11,310 13,250 13,030 9,330 9,730 11,800
初級管理職
i係長,工長担当員) 151
149 147 146 147 150 147 140 上級指導職i組 長) 132
131
129 128 129131
129 123中級指導職
i班 長) 128 122 120 119 119 121 120 115
初級指導職
i班 長) 113 112 111 110 110 112 111 107
初級指導職
i一 級) 107 106 105 104 104 105 102 98 準 指 導 職 98 97 96 95 95 96 93 90
上級一般職 88 88 87 86 85 86 84 82 中級一般職 79 79 78
77
76 77 74 73 初級一般職 70 70 69 68 67 67 66 65補 助 職 一 『 一 一 一 一 一 一
註1 初級管理職の上は中級管理職(課長,主担当員),その上が上級管理職(部長,主査,次長)
であり,非組合員である。
2 A自動車は1987年11月から,上記3つの管理職のなかに職能資格制度を設け,身分・給与に新 たな差をもちもむ。すなわち上級管理職の部長は理事と参事1級に,主査は理事,参事1級,参 事2級に,中級管理職課長と主担当員は,参事2級,副参事1級に,初級管理職の係長,工長,
担当はいずれも副参事2級と主務という名称の資格を設ける。(1987・6・5付「朝日新聞」)
3 A労働組合機関紙「週刊A」各年度の春闘妥結後の配分表により計算。
ソース:野原/藤田[1988],pp247−8
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 79
とことが明らかとなる。
われわれの出発点は,自動車生産という「ものづくり」であった。生産技術 の発展が工程を細分化すればするほど,それらの連続性と調整,そのための集 団の調和が要求される。すなわち,チームワークを編成する調整力・組織力・
統率力,問題が発生した場合それを発見し解決する工程観察力・改善能力,ま た新人や異動者にたいする教育力が求められている。これを果たすのが現場監 督者としての組長・班長である(その上は,管理機構最末端に位置づけられる 工長が数人の組長を監督する。図1を参照)。さらに職制は一般職の個人別査 定を行い,個人別の昇給(上記③),昇進にかかわるが,同時に自分らがその 上の職制,あるいは人事課によって査定される。査定においては,標準化され た日常職務の遂行,その経験年数は自明の要因であり,まさに集団の統率力,
調整力,工程改善能力,新人に対する教育能力の如何が決定的であり,それ故 小集団活動への取り組みが重視されることになる㈹。
QC=提案活動は職場,個人,また職場間,個人間で品質改善,原価低減,
安全,などをテーマとして行われるが,会社組織の各レベルでの発表,それに 対する報償および賞金制度が用意されている。これらへの参加の程度,これら においてリーダーシップを如何に発揮するかが,昇進決定の重要要素であるか ら,会社目標に向けて職場作業員の大衆的活動が展開されることになる。また このような大衆活動によって賃金・職階制度における昇進=選抜が確保され,
職制・平工員関係が維持される。他面ではこの関係は,苦患労働に耐えられな かった労働者や職制への昇進できなかった労働者の大量離職という排除のメカ ニズムを伴っている。
野原/藤田[B,第三章]は,1979年1月末現在の従業員構成と第一次オイ ル・ショック後の中高卒採用者数ならびに中途退職者数の動向を調査し,トヨ タに入職した現場労働者の経路を示している。図2がそれである。見られるよ うに,70年代末において技能員(31,200)が,一般職(24,280),班長(4,570),
組長(1,790),工長(560)に区分されるが,これは70年代後半における毎年1,200 から1700人の中途退職者の存在とこれをカバーするために毎年新規採用された 1,200から1,800人の中高卒業者の存在を前提していることが明らかにされる。
また,図3を参照されたい。このモデルは,トヨタを中心とする地域労働市場
(九州などの労働力供給源を含む)であるが,これがトヨタの大量採用・大量 退職を支えてる市場基盤となっていることを示している。
図2 A自動車に入職した現場労働者の昇進・退職の経路
部・次長200人
課長
630人560人 工長 係長1,270人
組長1,790人
事務・技術員〔含む女子ノ 9.510人 単位:100人 班長4,570人
技能員24,280人
中高卒新規採用1:融 中途退鵬1:鰍〜
ソース :野原/藤田[1988],p105 図3 A自動車を中心とした労働市場モデル
九州(全国各地)
[騒賭層]
〔新卒 者〕 陛萎礫〕名古屋
島隊
一 層 一 一 〇 一 一 一 一 一 畠 「 、
、、
1 lI A l
近畿(関東)
k製造業〕 1 自動車 鍵
一次
驪ニ 非関
労讐
3
1連 場○灘下○ i
、、、
主婦
?コ層農民
新卒者
愛知県
ソース:野原/藤田 [1988],P155
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 81
】V 小 結
われわれはA,B, Cの業績に基づき,「ものづくり」と「社会関係」の二 面から職場における「熟練」に光を当ててきた。その結果,①トヨタにおける
「熟練」は,QC=提案活動と結合した賃金・昇進制度におけるキャリア形成 として実現されること,しかし②このキャリア形成は大量排除と大量新採用,
そしてそれを支える地域労働市場に支えられていることが理解された。それ故,
トヨタの「熟練」は,職場における生産の技術的性格,生産方式,労務・人事 管理方式などの複合産物であると言える。そこで,次のような特徴付けが可能 であろう。
1 小山[A,終章]がいうように,トヨタにおける作業,仕事,役割は職 場におけるローテーションや職場間,工場間の移動によって曖昧になって
いる。
2 しかしくラインからの距離〉からみた部門別,工程別労働特性は,ライ ンを含む直接製造部門における不/半熟練労働,製造補助部門における新 型,旧型熟練,監視型熟練としての基本的規定が与えられる。
3 直接製造部門の職制は,一般職をまとめ,改善活動に組織するための能 力=統率力という特殊な「熟練」を形成している。そして職制はこの集団 統率力という特殊な役割を果たすことによって自らをますます一般職から 区別することになっている。
山下[B,第五章]は,トヨタの経営者が賃金・職階制度と小集団活動を統 合し,次のような「現代労働者管理」を確立していると述べている。
①賃金・職種配分制度とその格差構造は,全職場の労働者にとり不動の枠 組み,一種の経済的強制として与えられていること。
②労働者は,それを与件として自分たちの人生設計を自主的に構想するか ら,改善活動への関わりの如何が昇進の条件になっているという与件のも とでは自らの人生設計を実現するためには「自主的に」小集団活動に参加
せざるを得ない(19)。
この「強制」と「自主性」の関係こそ,トヨタ労働者の「謎」を解明する。
苦患労働に耐えながらの改善活動は,労働者自らの少人化=「ひとべらし」と 労働強化を帰結するにもかかわらず,同時に「仕事にはりあい」を感じるとい
う奇妙な現象がここから説明される㈲。また,かかる作業と改善活動への参 加が「人間性の尊重」であり,「人生の幸福」を実現することに他ならないと
いうイデオロギーがこの上で広められるわけである。
山下は,現行の賃金・職種配分制度の基本的枠組みは,1953〜4年頃に
「50」年争議における経営側の勝利とともに形成されたこと,それと小集団活 動との結合による現代労務管理は1961年に形成され,1960年代中期以降の高度 成長期に本格的に展開したとしている⑳。このように,賃金・昇進制度が,
それをめぐって展開された労使間の熾烈な戦いの結果であるとする理解は決定 的に重要である。勝利した経営者が,現行制度を確立したのであり,またこれ によって現場労働者にたいする経営専権を維持しえているのである。
図4を参照されたい。これは大企業の会社管理機構の一般的な概念図である。
図4 会社管理の概念図
大株主+ トップ・マネジメント
@ ↓
Xタッフ(ホワイトカラー管理機構)
↓
サ場ブルー カ ラ ー労働者
見られるように, 大株主とトップマネージメントが会社支配の中心であるが,
ホワイトカラーをスタッフとして自己の管理機構を組織し,これによってブルー カラーである現場労働者を管理・支配するという,精神的労働と肉体労働の分 離を大前提とする管理機構である。トヨタもこれと同じ構造をふまえているこ とは明らかである(図5を参照のこと)。トヨタでは,このスタッフによるラ イン支配の結節点において経営専権による賃金・昇進制度と経営主導の小集団 活動の統合が実現されていると考えられる。そしてその統合の役割を集中的に 担わされているのが現場の職制に他ならない。その結果,職場においては特殊 な,「自主的」と言う外見を帯びた,しかし実態は経営主導の,「知的労働と肉 体労働の結合」が果たされているのである。
さて,われわれは小池[1977],[1981],[1991]を論評できるところに 来た。小池は,アメリカ及び日本の製造業諸企業にたいする個別的な面接調査 や,統計資料や学術書に基づく国際比較をふまえて,我が国製造業の大企業の
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 83
図5 トヨタ自工の管理組織
ム 長試 社 長
専 務 会
鰹営会議
舗会 難会議 E立到}「
1一一. 一}
l l一一窒V[一1τr} E i一口,一甲一一一「−T一 Tπ1一 一一一一 一』
生踊第簗第第第施生塩安第蛭第第第第第薦ポデ特技
Y 2 1 4 3 2 1 設 酵重産 タ≒ 1i富 8 5 4 3 2 1 デ ザ 許術
ツ1:L牛生生生郎岐鼓衛硯監:筏擢筏撲披枝 fイ郎菅
搴@機産産産魔 術術生究研術体1術繭篠1術設ン 理
ス闇ネ難禽饗郁郎寄細湘部鮒隷部郎
製闘披品住嵩梅甫業第第饒電経教人法広繊監欄秘
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鞭霧 慧器輪瀦震雲霧蓼亨馨霧蓼?馨霧野盤甜雛盤諺雛臨鶴校 所 郁 都郎 製立郁郎鶴藤郎製製郎画製製8郁犠槍郎灘8立郵郁郎郎鋸製立郎郁郎部部 適郎 遭遭 適適 櫨櫨 郁 造郎
部 酪郎 郎郎 郎謡 郎
出典:トヨタ自動車工業株式会社『トヨタのあゆみ』1978年,521〜526頁,および青木茂「トップ・
マネージメントとしての機能別管理一トヨタ自動車工業における概念と進歩のじっさい」『品 質管理』VoL.32, Nd 3,1981年,70頁より作成。
「機能会議」一品質機能会議,原価機能会議,人事・事務機能会議,技術会議,生産機能会議 営業機能会議
「一般会議」一新製品会議,新車進行会議,設備会議,監査改良会議,原価会議,管理会議 ソース:小山[1985],p56
現場労働者の「熟練」について次のように述べる。
①我が国製造業の大企業の現場労働者は,ホワイトカラー化している。
②彼らは,OJTに基づく熟練形成をしている。
③ OJTは,賃金体系とは切り離された平等主義的な職務のローテーショ ンに基づいていること,従って職場には準自律的集団が形成されている。
④彼らの「熟練」は,日常作業に関してではなく,問題発生の異常時に現 場で即座に対応・解決する能力であり,これは機械・設備の構造や運動の 知識を修得し,応用する能力であり,単なる標準作業をこえた「知的熟練」
である。
さて,これらの指摘を上記のトヨタの実態から見てその妥当性を判断するこ とは殆ど意味を持たないであろう。なぜならばこれらの指摘は,トヨタに関す るものと言うよりは,全体としての日本の製造業大企業現場労働者に関しての 特徴付けであり,これによって同様に全体としてのアメリカ製造業現場労働者 の特性と対比することに小池の狙いがあったと思われるからである。しかし敢 えてトヨタに関係させて見るならば,次のように指摘できるであろう。
①直接製造部門と製造補助部門の区分,直接製造部門内部では職制と一般 技能員との区別,などを曖昧にしたときに,小池の言う「知的熟練」は当 てはまる可能性がある。
② 「可能性がある」といったのは,知的労働と肉体労働の結合はあくまで も賃金・昇進制度と小集団改善活動を統合した「現代労働者管理」の内部 で実現されているからである(小池[1991,第五章]はここでは知的熟練 を限定している。すなわちこれはQC=提案活動には関係なく,あくまで も現場作業員の異常時の問題解決能力に限定される(22))。従って彼らの知 的作業は,人間性,主体性,社会性,等々の人間本来の「類的本質」の実 現深化にかかわることでなく,もっぱら生産の量,質,コスト等々に限定
された知的活動である。
③ トヨタの直接製造部門のライン作業においては到底「半自律的職場集 団」㈱が形成されていると言うことは出来ない。その正反対であること を,A, B, Cは明らかにしたのである。
われわれは,「熟練」についての規定や定義ではなく,むしろ小池の分析視 点,分析の枠組みに注目すべきである。小池の視点は,労使関係論の無視,あ
徳江:我が国自動車産業における「熟練」をめぐって 85 るいは労使関係視点の解体,あるいは労使関係視点の労働力タイプ論,熟練タ イブ論への解消であると考えられる。
①職場におけるキャリア形成がOJTによる熟練形成にほかならないこと は小池が強調したところである。しかし,トヨタにおける賃金・昇進制度 は経営による現代労働者管理のテコとなっていることは既に見たところで ある。畑[C,第一章補論]は,日産では相対的に強い労働組合によって 80年代半ばまでは積み上げ方式による年功的性格の強い賃金体系を確立し ていたことを明らかにしている。
②小池の関心は,内部昇進制度と労使関係との関連の解明ではなく,内部 昇進制度それ自体が熟練のタイプであり,それを「人的資本論」や「キャ
リア形成論」によって解明することであろう。熟練をヨコ(分業と協業に もとつく職種間の関連)とタテ(管理の指揮命令の授受関係)の両面から 検討すべきだと指摘したのは小池[1977]であったが,小池の分析の枠組 みにおいては後者の視点は消滅していると判断される。
〈注〉
(1)小山[1985]p121の表2−1から。また,図5を参照されたい。但しこれは 1978年の管理組織であるから,衣浦,田原工場を含んでいない。
(2)同上,P134。
(3)小池[1977],p16。
(4)小山[1985]第二章第三節,p165。
(5)同上p157は,[ケース18]として機械加工についての個別報告をしている。「班 員は10人で機械は100台である。トラック足回り部品の加工(ナックル,アイビー ムなど5品目)。1人約10台の機械を担当して,材料をセットしてボタンを押し次 の機械に移る。タクトの場合1分20秒から20分。」
(6)同上,P166
(7)同上,p66。この文言は大野[1978]のものである。
(8)同上,P167。
(9)同上,P168。
(10)野原/藤田[1988],p24では4万5000人である。
(11)同上,pp23−25,表1−2,3。
(12)同上,P31。
(13) この言葉の意味について,辻は「単純な繰り返しでありながら重い精神的緊張を 強いる自動車製造労働の特徴を表象したいと思い,苦患労働と表現した」(同上,
p217,注16)と述べている。
(14)小山[1985]終章をご覧ください。
(15)野村[1993],pp55−70。
(16)野原/藤田[1988],p245。
(17)戸塚/兵藤[1991],p60,表1−5は他の企業と比較してトヨタの時間外労働時 間が長いことを示している。
(18)澤田[A,第二章,pp199−200]は1980年,81年の第5次,6次調査に基づきト ヨタ従業員に熟練形成の期間について,「仕事に必要な最小限のことが出来るには どのくらいかかるか」,「仕事のことなら何でも出来るにはどのくらいかかるか」と 区分して行った調査結果を示している。表10がそれである。表のA部門は直接製造 部門に,表のB,C部門は製造補助部門に相当する。前者,直接製造部門では,両 暖
イ査共に必要最小限の修得期間が1週間以内が最大であり,また「何でも出来る」
修得期間が長期化し3年以上が過半を占めている。そして後者は職制の能力形成に 必要な期間と考えられる。
表10熟練に要する期間
(1)熟練に要する期間一第5次調査一
熟練に要 「必要最小限」 「何 で も で き る」
する期間 A部門 B・C部門 計 A部門 B・C部門 計
1日以内 11 2 13
1 1
3日以内 11 11
1週間以内 12 2 14
10日以内 3
1
41月以内 7 4 11 1 1
半年以内 9 14 23 5 1 6
1年以内 3 13 16 6 4 10 3年以内 1 5 6 9 3 12 5年以内 2 10 12 23 22 45
5年以上 12 21 33
計 59 51 110 57 51 108
ソース:小山[1985],pp199−200