1
熊本大学学位論文
PEG 化薬物担体のシクロデキストリンポリ擬ロタキサン形成を
利用した制御放出システムの構築
2015
林田 佳代子
2
3
PEG 化薬物担体のシクロデキストリンポリ擬ロタキサン形成を
利用した制御放出システムの構築
2015
林田 佳代子
Controlled Release Systems Utilizing Polypseudorotaxane Formation of PEGylated Drug Carriers with Cyclodextrins
Kayoko Hayashida
4
5
本論文は学術雑誌に掲載された次の論文を基礎とするものである。
(1) Motoyama K., Hayashida K., Arima H.
Potential use of polypseudorotaxanes of pegylated polyamidoamine dendrimer with cyclodextrins as novel sustained release systems for DNA.
Chem. Pharm. Bull., 59, 476-479 (2011).
(2) Motoyama K., Hayashida K., Higashi T., Arima H.
Polypseudorotaxanes of pegylated -cyclodextrin/polyamidoamine dendrimer conjugate with cyclodextrins as a sustained release system for DNA.
Bioorg. Med. Chem., 20, 1425-1433 (2012).
(3) Hayashida K., Higashi T., Kono D, Motoyama K., Wada K., Arima H.
Preparation and evaluation of cyclodextrin polypseudorotaxane with PEGylated liposome as a sustained release drug carrier.
Beilstein J. Org. Chem., 10, 2756–2764 (2014).
6
目 次
緒言
1
第 1 章
PEG
化リポソーム/シクロデキストリンポリ擬ロタキサン 形成を利用した低分子抗がん剤ドキソルビシンの持続放出 9第 1 節 序
9
第 2 節 ドキソルビシン封入 PEG 化リポソーム/-シクロデキストリン ポリ擬ロタキサンの調製と構造解析
10
第 1 項 リポソーム構成成分とシクロデキストリンとの相互作用
11
第 2 項
PEG/シクロデキストリンポリ擬ロタキサンの収率に
及ぼすシクロデキストリン濃度の影響12
第
3
項pH
勾配法によるドキソルビシン封入PEG
化リポソームの調製13
第 4 項 シクロデキストリンによるリポソーム膜破壊の有無
14
第 5 項 ポリ擬ロタキサンの調製および肉眼的観察
16
第 6 項 ポリ擬ロタキサンの粒子径および-電位
17
第 7 項 ポリ擬ロタキサン形成の確認および構造解析
17
7-1 フーリエ変換赤外分光光度法 18
7-2 粉末 X
線回折19
7-3 化学量論比 22
第
8
項 ポリ擬ロタキサンの推定構造23
第 3 節
PEG
化リポソーム/-シクロデキストリンポリ擬ロタキサンからの ドキソルビシン放出挙動24
第 1 項 ポリ擬ロタキサンからのドキソルビシン放出挙動
24
第 2 項 ポリ擬ロタキサンからのドキソルビシン放出挙動に及ぼす 溶出溶媒量の影響
26
第 3 項 ポリ擬ロタキサンからのドキソルビシン放出機構
27
第 4 節 考察
31
第
5
節 小括36
7
第
2
章PEG
化デンドリマー/
シクロデキストリンポリ擬ロタキサン形成を利用した遺伝子の持続放出
38
第 1 節 序
38
第 2 節
PEG
化デンドリマーの調製と構造解析41
第
3
節PEG
化デンドリマー/
シクロデキストリン ポリ擬ロタキサンの調製と構造解析43
第 1 項 ポリ擬ロタキサンの調製および肉眼的観察
43
第
2
項 ポリ擬ロタキサンの粒子径および-
電位44
第 3 項 ポリ擬ロタキサンの形成の確認および構造解析
45
3-1 粉末 X
線回折45
3-2 化学量論比 49
第 4 項 ポリ擬ロタキサンの推定構造
50
第
4
節 プラスミドDNA/PEG
化デンドリマー/
シクロデキストリンポリ擬ロタキサンの調製と構造解析
52
第 1 項 プラスミド DNA と PEG 化デンドリマーとの 静電的相互作用
52
第
2
項 プラスミドDNA/PEG
化デンドリマー複合体の 粒子径および-電位 53
第 3 項 プラスミド DNA の酵素安定性に及ぼす PEG 化 デンドリマーの影響
54
第
4
項 プラスミドDNA/PEG
化デンドリマー複合体のin vitro
遺伝子導入効率55
第 5 項 プラスミド DNA/PEG 化デンドリマー複合体の細胞障害性
56
第 6 項 ポリ擬ロタキサンの調製および肉眼的観察
58
第
7
項 ポリ擬ロタキサンの粒子径および-
電位59
第 8 項 ポリ擬ロタキサン形成の確認および構造解析
60
8-1 粉末 X
線回折60
8
8-2 化学量論比 62
8-3
プラスミドDNA
会合率64
第 9 項 ポリ擬ロタキサンの物理化学的安定性
65
第 10 項 ポリ擬ロタキサンからのプラスミド DNA 放出挙動
66
10-1 ポリ擬ロタキサンから放出後のプラスミド DNA
複合体の 存在状態66
10-2
ポリ擬ロタキサンからのプラスミドDNA
放出挙動67
10-3 ポリ擬ロタキサンからのプラスミド DNA
放出挙動に 及ぼす溶出溶媒量の影響68
第
11
項 ポリ擬ロタキサンのin vivo
遺伝子発現効果70
第 5 節 考察
72
第 6 節 小括
80
総括
82
謝辞
85
実験の部
86
参考文献
100
9
緒 言
近年、バイオテクノロジーの進歩にともない、医薬品候補化合物
(Active pharmaceutical ingredient, API)
が低分子物質からペプチド・タンパク質、遺伝子 やオリゴヌクレオチドにまで多様化している。 これにともない、医薬品開発を 行う際には、より高度な製剤技術の構築が必要となった。 例えば、低分子化合 物の場合、溶解性、化学的安定性、バイオアベイラビリティなどの改善が望ま れる 1)。 ペプチド・タンパク質の場合、物理化学的安定性や血中滞留性の改善 が望まれ2)、一方、遺伝子やオリゴヌクレオチドの場合、標的細胞への効率的な 導入方法の構築が必須である 3)。 さらに、いずれの医薬品候補化合物において も、放出制御技術は必須の製剤技術であり、リポソーム (LP)4)、多糖類5, 6)、合成高分子7, 8)、高分子ミセル9)、ナノスフェア10, 11)、マイクロスフェア12)、ナノ
ゲル13)、超分子14) など、数多くの放出制御担体が研究・開発されている。
放出制御とは、「薬物が病変部位に到達した時点で、薬物を適切な濃度-時間パ ターンで放出すること」 と定義され、ドラッグデリバリーシステム
(DDS)
における3
大要素の一つである 15)。 放出制御技術を駆使すると、1) 薬物の血中濃度を 必要な期間、治療域濃度に保つことでその治療効果を最大にする、2) 副作用を 軽減させる、3) 薬物の投与量・投与回数を最少にすることでコンプライアンス を向上させる、などの医薬品として好ましい性質を製剤に付加することが可能 になる。 現在、経口剤、経皮吸収剤、眼科用剤、注射剤など、様々な投与ルー トに対して、1)
速効性を目的とした速放出型、2)
投与後ラグタイムを経て薬物 を放出する遅延放出型、3) 長時間にわたり徐々に薬物を放出する持続放出型、4)
速やかに目的の血中濃度に到達後、一定のレベルを長時間維持するような制 御放出型など、数多くの放出制御製剤の開発が行われている。 例えば、錠剤の 表面を半透膜で覆い、浸透圧を利用して薬物の制御放出を行う OROS®(oral
osmosis)
15) や、水溶性高分子を基剤として利用し、消化管上部で十分にゲル化させることで水分の少ない大腸でも一定の薬物放出が可能な大腸送達システム
OCAS
®(oral-controlled absorption system)
15) などは代表的な経口制御放出システ ムとして知られている。 また、がん性疼痛の治療に用いられる経皮吸収型製剤10
のデュロテップパッチ® は 1 回の貼付で 3 日間ほぼ同じ薬物血中濃度を維持 することができる 15)。 ポリ乳酸
-
グリコール酸共重合体(PLGA)
からなる高分 子内に黄体形成ホルモン放出ホルモン誘導体を封入した製剤であるリュープリ ン® は、皮下組織中で 1 ヶ月あるいは 3 ヶ月にわたり主薬を一定期間放出可能 である15)。 このように、近年、放出制御技術を駆使した製剤が数多く開発され ている。LP
は、リン脂質やコレステロールから構成される脂質二重層の閉鎖小胞であり、1)
脂質組成、粒子径、荷電などを容易に調整できる 16)、2) 生体で代謝され、毒性や免 疫原性が比較的低い 17, 18)、3) 難水溶性薬物、水溶性薬物もしくは両親媒性薬物な ど、様々な薬物を封入可能である 19, 20)、4)
種々の機能性素子を容易に導入可能で あり、多機能化できる 21-23)、など DDS キャリアとして優れた性質を数多く有しているこ とから、低分子薬物、タンパク質、核酸など、種々の薬物を対象に DDS キャリアとし て有効利用されている。 実際に、抗生物質であるアムホテリシン B を含有した LP 製剤 (AmBisomeTM)
が、1990 年に世界で初めて実用化されたのを契機に、抗がん 剤をはじめとして様々なLP
製剤が開発されている(Table 1)
。 しかしながら、LP
製 剤を静脈内投与すると、肝臓や脾臓などの細網内皮系 (Reticuloendothelial system,RES)
に貪食される結果、その治療効果には制限があった。 これに対し、LP の表面にポリエチレングリコール (PEG) を修飾すると、LP の周りに高度な水和層が形成さ れる結果、
RES
を回避することが可能になる(
ステルスLP)
24-26)。 これにより、LP
の 血中滞留性が著しく増大し、Enhanced permeability and retention (EPR) 効果によって がん組織へ薬物が集積する27)。 この PEG 修飾 LP (PEG-LP) は、第 2 世代型のLP
製剤に位置付けられ、ドキソルビシン (DOX) 封入 PEG-LP (DOX/PEG-LP) は、既に臨床で汎用されている
(Table 1)
。 また、葉酸28)、抗体29)、トランスフェリン30)、糖 脂質31) およびペプチド 32, 33) などのターゲティングリガンドを修飾した第 3 世代型、細胞内動態を制御可能な機能を併せ持つ第 4 世代型34, 35)、温度、光、超音波もしく は電磁波などの外部刺激に応答して薬物を放出可能な第 5 世代型 36-38) など、様々 な多機能型
LP
製剤の開発も行われている。 さらに最近では、抗がん剤などを封入 した LP を、ポリ N-イソプロピルアクリルアミド39)、キトサン 40-42)、キトサン/ゼラチン4)、 ポリビニルアルコール43)、PEG 共重合体44) などのマトリックスに分散させた、LP 制御11
放出システムの開発も盛んに行われている。 このように、LP は代表的な DDS 担体 として広く研究・開発されている。
一方、ポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン (PEI)、ポリアミドアミンデンド リマー (デンドリマー) などのカチオン性高分子を遺伝子やオリゴヌクレオチ ドの担体として有効利用する研究が近年活発に行われており 45, 46)、当研究室に おいては、デンドリマーと
-シクロデキストリン (-CyD, Fig. 1)
の結合体(-CDE, Fig. 2)
を基盤分子とした多機能型遺伝子・オリゴヌクレオチド担体の開発を行っている 47-51)。
-CDE
は、1) 混合するだけで簡便に遺伝子やオリゴ ヌクレオチドと複合体を形成する、2) デンドリマー分子のプロトンスポンジ効果と
-CyD
の細胞膜との相互作用が協調し、優れたエンドソーム膜破壊能を有する、3) デンドリマー単独に比べ 100 倍高い遺伝子導入効率を示す、4) 安全 性が高いなど、遺伝子・オリゴヌクレオチド導入用担体として優れた性質を有 している。 最近では、-CDE にターゲティングリガンドを修飾した標的指向 型
-CDE
の開発も行っている。 例えば、-CDE に PEG をスペーサーとし て葉酸を修飾すると、葉酸受容体高発現がん細胞選択的に遺伝子やsiRNA
をデ リバリー可能であった52, 53)。 また、アシアロ糖タンパク質受容体に認識される ラクトースを-CDE
に修飾すると(Lac--CDE)、肝臓選択的 に遺伝子 や
siRNA
を導入可能であった 50, 54-56)。 さらに、Lac--CDE に PEG を修飾する と、血中での複合体の安定性や滞留性が向上し、肝臓におけるsiRNA
導入効率 が改善されることを報告した50, 51, 57)。 このように、-CDE に機能性素子を導 入すると、様々な機能を備えた遺伝子・オリゴヌクレオチドキャリアを構築可 能となる。12
Table 1. LP Products in the Market or Clinical Development
58)Product Drug Indications Year approved
AmBisome
(Gilead) Amphotericin B Fungal infections
Leishmaniasis 1990
Doxil/Caelyx
(Johnson & Johnson) Doxorubicin
Kaposi's sarcoma 1995
Ovarian cancer 1999
Breast cancer 2003
Multiple myeloma + Velcade 2007
DaunoXome (Galen) Daunorubicin Kaposi's sarcoma 1996
Myocet (Cephalon) Doxorubicin Breast cancer
+ cyclophosphamide 2000 Amphotec (Intermune) Amphotericin B Invasive aspergillosis 1996
Abelcet (Enzon) Amphotericin B Aspergillosis 1995
Visudyne (QLT) Verteporphin Wet macular degeneration 2000
DepoDur (Pacira) Morphine sulfate Pain following surgery 2004
DepoCyt (Pacira) Cytosine Lymphomatous meningitis
1999
Arabinoside Neoplastic meningitis
Diprivan (AstraZeneca) Propofol Anesthesia 1986
Estrasorb (King) Estrogen Menopausal therapy 2003
Lipo-Dox
(Taiwan Liposome) Doxorubicin Kaposi's sarcoma, breast and
ovarian cancer 2001
Marqibo (Talon) Vincristine Acute lymphoblastic leukemia 2012
SPI-077 (Alza) Cisplatin Solid tumors
Phase II (development terminated) CPX-351 (Celator) Cytarabine:daunorubicin Acute myeloid leukemia Phase II CPX-1 (Celator) Irinotecan HCI:floxuridine Colorectal cancer Phase II
MM-398 (Merrimack) CPT-11 Gastric and pancreatic cancer Phase II
Glioma and colon cancer Phase I MM-302 (Merrimack) ErbB2/ErbB3-targeted doxorubicin ErbB2-positive breast cancer Phase I MBP-436 (Mebiopharm) Transferrin-targeted oxaliplatin Gastric cancer and
gastro-esophageal junction Phase II
Brakiva (Talon) Topotecan Relapsed solid tumors Phase I
Alocrest (Talon) Vinorelbine Newly diagnosed or relapsed
solid tumors Phase I
Lipoplatin (Regulon) Cisplatin Non-small cell lung cancer Phase III
L-Annamycin (Callisto) Annamycin
Adult relapsed ALL Phase I Pediatric relapsed ALL and
acute myelogenous leukemia Phase I Doxorubicin-resistant breast
cancer
Phase II (development terminated)
ThermoDox (Celsion) Thermosensitive doxorubicin
Primary hepatocellular
carcinoma Phase III
Refractory chest wall breast
cancer Phase II
Colorectal liver metastases Phase II Endo-Tag-1 (Medigene) Cationic liposomal paclitaxel Pancreatic cancer Phase II Triple negative breast cancer Phase II ALN-TTR ALN-PCS
ALN-VSP (Alnylam)
siRNA targeting transthyretin (TTR) siRNA targeting PCSK9 RNAi targeting liver cancer
TTR amyloidosis Phase I Hypercholesterolemia Phase I Liver cancer and liver
metastases Phase I
TKM-PLK1 TKM-ApoB (Tekmira)
RNAi targeting polo-like kinase 1 (PLK-1) RNAi targeting apoB
Liver tumors Phase I
High levels of LDL cholesterol Phase I Stimuvax
(Oncothyreon/Merck) Anti-MUC1 cancer vaccine Non-small cell lung cancer Phase III
Exparel (Pacira) Bupivacaine Nerve block Phase II
Epidural Phase I
13
Fig. 1. Structures and Properties of Natural CyDs
1) In water at 25ºC.
Fig. 2. Chemical Structures of Dendrimer (G2) (A) and -CDE (G2) (B)
OH
HO OH
1135 CyD
-CyD n=3 1297 Molecular
weight
-CyD n=1 973
b-CyD n=2 6.0-6.5
7.5-8.3 Cavity diameter (Å)
4.7-5.3
~ 262
~ 427 Volume of cavity (Å
3)
~ 174
1.85 23.2 Solubility
1)(% w/v) 14.5
O
O
O
O
O O
O
O
O
O O
O HO OH OH
OH OH
OH OH HO
HO
HO HO
HO CH2OH
CH2OH
CH2OH HOH2C
HOH2C
HOH2C
n
NC2H4N N
N N
N
N N N N
N N
N N
(B) -CDE (G2)
NC2H4N N
N N
N
N N N N
N N
N N
(A) Dendrimer (G2)
= -C
2H
4CONHC
2H
4-
14
最近、CyD を構成成分とした超分子化合物の合成が活発に行われている。例 えば、空洞径の小さな
-CyD
はPEG
をネックレス状に包接し、ポリ擬ロタキ サン (polypseudorotaxane, PPRX, Fig. 3A) とよばれる難水溶性の包接複合体を形 成する (Table 2)59-61)。空洞径の大きいb-CyD
および-CyD
はポリプロピレン グリコール (PPG) と PPRX を形成し (Table 2)59, 62)、さらに-CyD
は 2 本のPEG
鎖を包接することで PPRX を形成する (Fig. 3B)63)。 また、PPRX 軸分子 の両末端に嵩高い官能基を導入すると、軸分子内にCyDs
がトラップされたポ リロタキサン (PRX, Fig. 3C) を調製することができる64)。 これら PPRX およ び PRX は、1) 調製が容易である、2) 構成成分の安全性が高い、3) 安価であ る、4)
分子修飾により多彩な機能を付加できる、などの性質を有しており、近年、
PPRX
や PRX を用いた薬物担体の研究・開発が精力的に行われている65)。Fig. 3. Schematic Structures of PEG/-CyD PPRX (A), PEG/-CyD PPRX (B) and CyD PRX (C)
(A) PEG/-CyD PPRX
O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O
O O O O
O O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O O
O O O
O
(B) PEG/-CyD PPRX
(C) CyD PRX
15
Table 2. Formation of PPRXs between CyDs and Polymers
66)1) The value was calculated using data of Ref. 66.
当研究室ではこれまで、PEG 化タンパク質と CyDs との PPRX 形成を有効 活用し、PEG 化タンパク質の溶解性制御に基づく持続放出システムの開発を行 ってきた
(Fig. 4)
65, 67-70)。 まず、モデル薬物として用いたPEG
化インスリンを-CyD
および-CyD
水溶液に添加し、難溶性の PPRX を調製した。 その懸 濁液をラットに皮下投与すると投与部位で PPRX が希釈され、PEG
化インスリ ンが持続放出された。本システムは PEG 化タンパク質に CyDs を添加すると いうシンプルな方法で、その製剤特性を劇的に改善可能であることから、簡便 かつ実用的な PEG 化タンパク質持続放出システムとしての有効利用が期待さ れる。 しかし、PEG 化薬物担体と CyD との PPRX 形成に関する報告は少な い。 さらに、本 PPRX 持続放出システムの有用性を評価するためには、タン パク質性薬物のみならず、低分子薬物や核酸など、様々な医薬品候補化合物を 対象とした検討が必須である。16
Fig. 4. Proposed Scheme for Release of PEGylated Insulin from CyD PPRX after Subcutaneous Administration to Rats
このような背景のもと、本研究では低分子薬物ならびに核酸を対象として、
PEG
化薬物担体と CyDs との PPRX 形成を利用した持続放出システムの構築 を目的とした。 まず、第 1 章では、低分子抗がん剤の DOX を封入した PEG 化リポソーム (DOX/PEG-LP) と CyDs との PPRX を調製し、その構造解析な らびに薬物放出挙動を確認した。 第2
章では、デンドリマーならびに-CDE
を PEG 化し (それぞれ、PEG-DEN および PEG--CDE と略記)、それらとプ ラ ス ミ ドDNA (pDNA)
と の ポ リ プ レ ッ ク ス(pDNA/PEG-DEN
お よ びpDNA/PEG--CDE)
をPPRX
化した。 さらに、PPRX の構造解析ならびにpDNA
のin vitro
放出挙動を検討した。 また、pDNA/PEG--CDE
のPPRX
懸 濁液をマウスに筋肉内投与後の遺伝子導入効率を評価した。以下に得られた知 見を詳述する。Subcutaneous tissue PEGylated insulin
CyD
Capillary vessel PEGylated insulin/CyD
PPRX
Dissolution Suspension
17
第 1 章
PEG
化リポソーム/シクロデキストリンポリ擬ロタキサン形成を 利用した低分子抗がん剤ドキソルビシンの持続放出第 1 節 序
近年、CyD と様々な薬物担体を融合した多機能型 DDS の開発が盛んに行われ ている。 例えば
Zhang
らは、PEG-
ポリ乳酸共重合体の末端にb-CyD
ならびに葉 酸を修飾し、葉酸受容体高発現がん細胞選択的に DOX を送達可能なミセルを開 発した 71)。 Gidwani らは、b-CyD ポリマーと抗がん剤ベンダムスチンの複合体をPLGA
ナノ粒子に封入し、その持続放出に成功した 72)。Namgung
らは、ポリイソブ チレンにb-CyD
を、ポリメチルビニルエーテルに抗がん剤のパクリタキセルをエステ ル結合で導入し、両ポリマーが多価のホスト-ゲスト相互作用を介して安定なナノ粒 子を形成することを明らかにした 73)。 このナノ粒子はがん細胞内で薬物を放出し、優 れた抗腫瘍活性を示した 73)。 一方、当研究室ではこれまで、アシアロフェツイン修飾 カチオン性リポソームに-CyD
を封入すると、その遺伝子導入能を顕著に改善する ことを報告した 74)。 さらに、PEG-LP に DOX/-CyD 複合体を封入すると、DOX 封 入 PEG-LP に比べ、in vivo において抗腫瘍活性が増大することを明らかにした75)。 また、前述のように PPRX 形成を利用した PEG 化タンパク質の持続放出システムの 構築にも成功している 67-70)。 このように、薬物担体にCyDs
を組合せることで、高機 能化でき、新たな DDS 担体を創生することが可能になる。一方、
PEG-LP
は抗がん剤の DDS キャリアとして汎用され、薬物担体の代表格であるにも関わらず、PEG-LP の PPRX 形成に関する報告は皆無である。
PEG-LP
をPPRX
化することで、抗がん剤を持続放出可能な新規LP
製剤が開発でき、簡便かつ汎用性に優れる DDS キャリアを構築可能なことが期待され る。 しかし、-CyD および
-CyD
は、LP の主な構成成分であるリン脂質や コレステロールと相互作用し、高濃度条件下、LP
構造を破壊することが知られ ている76)。一方、PPRX
を調製する際には高濃度の-CyD
もしくは-CyD
水 溶液に PEG を添加する必要がある61, 63, 77)。 すなわち、PEG-LP
と CyDs とのPPRXs
を調製するためには、適切な CyDs の種類や濃度を選択し、PEG-LP が18
破壊されることなく、PPRXs を形成可能な条件を探索することが必須である。
本章では、新規持続放出型抗がん剤封入
PEG-LP
製剤の開発を目的とし、PEG-LP/CyD PPRXs
の調製ならびに抗がん剤の放出性について検討した。モデル薬物には DOX を用いて、まず、PEG-LP を破壊することなく PPRX を形成 可能な条件を探索し、その調製を行った。 次に、
PEG-LP/CyD PPRXs
の構造解 析を行い、さらに、PPRXs からの薬物放出挙動および放出機構について検討し た。 以降、DOX
封入PEG-LP
をDOX/PEG-LP
と略記する。第 2 節 ドキソルビシン封入 PEG 化リポソーム/-シクロデキストリン ポリ擬ロタキサンの調製と構造解析
前述のように、
CyDs
は生体膜成分であるリン脂質やコレステロールと相互作 用し、赤血球や LP 膜を破壊することが報告されている。 例えば、当研究室で は、ヒト赤血球に対し、-CyD < -CyD < b-CyD
の順で高い溶血活性を示し、50%
溶血惹起濃度はそれぞれ、
36.7 mM
、13.8 mM
および5.7 mM
であることを報 告している 78-80)。 また、Miyajima らは、卵黄レシチンのみから成る LP の場 合、-CyD <b-CyD < -CyD
の順に強い LP 膜破壊効果を示し、コレステロー ルとレシチンから成る LP の場合、-CyD < -CyD < b-CyD の順に LP 膜破壊 効 果 が 強 い こ と を 報 告 し た 81)。 さ ら に 、Puskás
ら は 、1,2-Distearoyl-sn- glycero-3-phospho-choline (DPPC)
から成るLP
の物理的安定性に及ぼす各種CyDs
の影響を検討したところ、-CyD > b-CyD > -CyD
の順に LP の安定性を 低下させることを明らかにし、また、-CyD
においては、DPPC
を PPRX 状に 包接した複合体を形成することを推察している 76)。 一方、PPRXs
は一般に、高濃度の CyDs 水溶液と PEG 溶液を混合することにより調製されるため61, 63,
77)、PEG-LP の PPRXs を調製する際には、適切な CyDs の種類や濃度を選択 し、PEG-LP が破壊されない条件を探索する必要がある。
そこで本節では、
PEG-LP
が破壊されることなく、PPRX
を形成可能な条件を 探索するため、まず、CyDs
が主たる LP 膜構成脂質であるリン脂質と相互作用し、
PPRX
状に包接した複合体を形成するか否かを検討した。次に、PEG (M.W.
19
= 2,000)
を用いて、各 CyDs 濃度における PPRX の収率を求め、PEG
と PPRX を形成可能なCyDs
濃度について検討した。第 1 項 リポソーム構成成分とシクロデキストリンとの相互作用
本項では、
-CyD
および-CyD
がリン脂質と相互作用し、PPRX
状に包接し た複合体を形成するか否かを検討するため、リン脂質とCyDs
溶液を混合し、沈殿物形成の有無を確認した。 さらに、沈殿物の粉末
X
線回折を測定し、その 結晶構造解析を行った。 なお、リン脂質には、Doxil
TM に使用されているHydrogenated soy sn-glycero-3-phosphocholine (HSPC)
を用いた。Fig. 5
は、-CyD
もしくは-CyD
飽和水溶液に HSPC を添加し、4C で 12 時 間静置後の反応液の写真を示す。 PBS のみを添加した (CyD 非添加系) 場合、沈殿物は形成されなかったのに対し、-CyD および
-CyD
飽和水溶液を添加する と、速やかに沈殿物を形成した。そこで、これら沈殿物が、
CyDs
とHSPC
とのPPRX
様包接複合体であるか 否かを確認するため、沈殿物を回収・乾燥後、粉末 X 線回折を測定した (Fig. 6)。-CyD
系において得られた沈殿物は、PEG/-CyD PPRX と同様の回折パターンを 示した。 また、-CyD 系において得られた沈殿物は、ピークがブロードニングする傾 向を示したものの、PEG/-CyD PPRX
と同様に、2 = 7.41˚
、16.41˚
および21.35˚
の回折角にピークを示した。 これらの結果より、-CyD および
-CyD は、リン脂
質と PPRX 様包接複合体を形成することが示唆された。Fig. 5. Photographs of Precipitates Formed by Mixing the Solutions Containing CyDs and Suspension Containing HSPC
PBS, -CyD (145 mg/mL) or -CyD (232 mg/mL) solution was added to the suspension containing
HSPC (17 mg/mL), and then the suspensions were placed for 12 h at 4ºC.
20
Fig. 6. Powder X-ray Diffraction Patterns of HSPC/CyDs PPRX-like Inclusion Complexes
(a) -CyD alone, (b) HSPC/-CyD physical mixture, (c) HSPC/-CyD PPRX, (d) PEG/-CyD PPRX, (e) -CyD alone, (f) HSPC/-CyD physical mixture, (g) HSPC/-CyD PPRX, (h) PEG/-CyD PPRX.
第 2 項
PEG/シクロデキストリンポリ擬ロタキサンの収率に及ぼすシクロデ
キストリン濃度の影響前項において、
-CyD
および-CyD
はリン脂質とPPRX
様包接複合体を形成 することが示唆された。 このことから、PEG-LP と CyDs との PPRX を調製する際、CyD
が リ ン 脂 質 とPPRX
様 包 接 複 合 体 を 形 成 し な い 一 方 で 、PEG
化1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine (PEG-DSPE)
分子中の PEG 鎖と は選択的にPPRX
を生成する条件を探索する必要がある。 そこで本項では、PEG-LP
と CyDs との PPRX を調製する際の CyDs 濃度を設定するため、PEG 単 独を用いて、PPRX を形成可能な CyDs 濃度について検討した。Fig. 7
は、PEG (M.W. = 2,000)
溶液に各濃度の CyDs 溶液を添加した際のPPRX
の収率を示す。-CyD
系において、40 ~ 60 mg/mL
付近でPPRX
の形成 が確認され、約 100 mg/mL 以上でプラトーとなった。 また、-CyD
系においては、-CyD
系に比べ、高濃度側 (60 ~ 100 mg/mL) で PPRX を形成し、濃度の上昇に21
ともない収率が増大した。 一方、データは示さないが、b-CyD は、本実験条件下、
PEG
と固体のPPRX
を形成しなかった。 これらの結果より、-CyD
および-CyD
は、それぞれ 40 ~ 60 mg/mL および 60 ~ 100 mg/mL 以上で PEG と PPRX を形 成することが示唆された。Fig. 7. Change in Yield of PEG/CyD PPRXs as a Function of CyD Concentration
-CyD or -CyD solution was added to the PEG solution, and then the solutions were placed for 12 h at 4ºC. After centrifugation (12,000 rpm, 10 min), the supernatant was removed, and the precipitate was dried under reduced pressure. The yield was calculated from the weight of the sample. Each point represents the mean±S.E. of 3 experiments.
第 3 項
pH
勾配法によるドキソルビシン封入 PEG 化リポソームの調製本項では、pH 勾配法 82) を用いて DOX/PEG-LP およびコントロール LP と して、
DOX
封入LP (DOX/LP)
を調製した。DOX
は、塩基性薬物であるため、LP
内水相の pH を酸性 (pH 4.0)、外水相の pH を中性 (pH 7.8) とした pH 勾 配を作り、65C に加温して DOX を外水相から内水相へ移行させた。 また、PEG-LP
および LP の組成は、それぞれ HSPC/CH/PEG-DSPE = 47/47/6 (モル比) およびHSPC/CH/DSPE = 47/47/6
とした。Table 3
に pH 勾配法により調製した DOX/LP および DOX/PEG-LP の粒子 径、多分散指数 (PDI)、-電位および DOX 封入率を示す。 DOX/LP および0 50 100 150
0 50 100 150 200 250
Yield (%)
Concn. of CyDs (mg/mL)
-CyD
-CyD
22
DOX/PEG-LP
の粒子径は、共に約 130 nm、-電位はほぼ中性であり、LP および
PEG-LP
の粒子径および-
電位へのDOX
封入の影響は認められなかった。また、
LP
および PEG-LP への DOX 封入率は、どちらの系においても 99% 以 上と高い値を示した。 PDI 値はどちらの系においても 0.1 以下 83) であり、粒 子径分布の分散度は小さかった。 これらの結果から、粒子径 100 nm 付近で高 い DOX 封入率を示す LP の調製が確認された。Table 3. Particle Sizes, Polydispersity Index, -Potentials and DOX Entrapment of DOX/LP and DOX/PEG-LP
Particle sizes, PDI and -potentials of the samples in PBS were measured by Zetasizer Nano.
Entrapment ratio of DOX in LP was measured by fluorescence spectrometry. Each value represents the mean±S.E. of 3 experiments. a) Polydispersity index.
第 4 項 シクロデキストリンによるリポソーム膜破壊の有無
本節第 1 項より、
-CyD
および-CyD
は HSPC と PPRX 様包接複合体を形 成する可能性が示唆された。 すなわち、DOX/PEG-LP と CyDs の PPRX の調製 を 行 う 過 程 で 、LP
膜 が 破 壊 さ れ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 そ こ で 本 項 で は 、DOX/PEG-LP
にCyDs
を添加後、PEG-LP
内に封入されているDOX
量を算出す ることにより、CyDs の LP 膜破壊の有無を検討した。 なお、本節第 2 項の検討に おいて、-CyD および-CyD
は、PEG とそれぞれ 40 ~ 60 mg/mL および 60 ~100 mg/mL
以上の濃度で PPRX を形成することが示唆されたため、本項における23
-CyD
濃度は 36.3 mg/mL、72.5 mg/mL および 145 mg/mL、-CyD 濃度は 58mg/mL
、116 mg/mL
および232 mg/mL
に設定した。Fig. 8
は、DOX/LP および DOX/PEG-LP に各濃度の-CyD
および-CyD
水 溶液を添加し、4C で 12 時間静置後の DOX 封入率を示す。DOX/LP
およびDOX/PEG-LP
どちらの系においても、36.3 mg/mL、72.5 mg/mL および 145 mg/mL の-CyD
を添加すると、DOX
の封入率が50 ~ 60%
近く減少した。 これは、-CyD
添加により、DOX/PEG-LP
のLP
膜が一部破壊されたことを示唆する。 一 方、232 mg/mL の-CyD
添加系において、DOX の封入率が DOX-LP で73%、
DOX/PEG-LP
で 80% まで低下したが、58 mg/mL および 116 mg/mL 濃度条件下 では、DOX-LP
でそれぞれ95%
および90%
、DOX/PEG-LP
で99%
および95%
といずれも高値を示し、
-CyD
添加 12 時間後もほとんど LP 膜は破壊されていな いことが示唆された。 これらの結果より、-CyD に比べ、-CyD は、LP 膜破壊作用 が弱いこと、また、PEG-LP の CyDs PPRX を調製する際には、58 mg/mL もしくは116 mg/mLの-CyD
が適していることが示唆された。Fig. 8. Effects of CyD Concentration on Entrapment Ratio of DOX into LP and PEG-LP
PBS, -CyD or -CyD solution was added to the solutions containing DOX/LP or DOX/PEG-LP, and then the solutions were placed for 12 h at 4ºC. After centrifugation, entrapment ratio of DOX in LP was determined by measuring the fluorescence intensity of the supernatant. Each value represents the mean±S.E. of 3 experiments. * p < 0.05 versus PBS. † p < 0.05 versus DOX/LP.
0 50 100
0 36.3 72.5 145 58 116 232
D O X e n tr a p p e d ( % )
□:DOX/LP
■:DOX/PEG-LP
PBS -CyD -CyD
Concn. of CyDs (mg/mL)
* * *
*†
* *†
* *†
* *†
* *†
†
24
第 5 項 ポリ擬ロタキサンの調製および肉眼的観察
前項までの検討において、
-CyD
および-CyD
飽和溶液は、リン脂質とPPRX
様包接複合体を形成することが示唆されたものの、58 mg/mL
もしくは 116mg/mLの-CyD
は、DOX/PEG-LP の膜構造をほとんど破壊しないことが明らかとなった。 そこで本項では、DOX/PEG-LP に上記濃度の
-CyD
水溶液を添 加し、PPRX
の調製を行った。DOX/PEG-LP
溶液に 58 mg/mL または 116 mg/mL の-CyD
含有 PBS を添 加し、12 時間静置することにより PPRX を調製した。 なお、PPRX は低温で形成さ れやすいことから、4C
で反応させた 84)。DOX/PEG-LP
溶液に、58 mg/mL
および116 mg/mL
の-CyD
溶液を添加したところ、どちらの系においても、12 時間以内に 沈殿が観察された (Fig. 9)。 一方、PEG を修飾していない DOX/LP の場合、58 mg/mL
および 116 mg/mL の-CyD
水溶液を添加しても、沈殿が観察されなかっ た。 これらの結果より、DOX/PEG-LP
中のPEG
鎖は、水溶液中において58 mg/mL
および116 mg/mL
の-CyD
とPPRX
を形成可能なことが示唆された。なお、高濃度の CyDs の方が、PEG と高収率で
PPRXs
を形成可能であったこと(Fig. 7)
を勘案し、以降の検討では、-CyD 濃度を 116 mg/mL に設定した。Fig. 9. Photographs of DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
-CyD (58 mg/mL or 116 mg/mL) solution was added to the solutions containing DOX-LP or
DOX/PEG-LP, and then the solutions were placed for 12 h at 4ºC.
25
第 6 項 ポリ擬ロタキサンの粒子径および
-電位
懸濁性製剤の粒子径や
-電位等の物性は、粒子の安定性、分散性、体内動態に
影響を与える重要な因子である 85-87)。 さらに、日本薬局方第 16 改正では、筋肉内 や皮下に注射する懸濁性製剤の粒子径は 150m
以下と規定されている。 そこで 本項では、前項で調製した DOX/PEG-LP の-CyD PPRX
の粒子径および-電
位 を 測 定 し 、 そ の 物 性 に つ い て 検 討 し た 。Table 4
に 示 す よ う に 、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
の粒子径は、約 3.10 m であり、DOX 未封入系 (2.54m)
と比較して有意な差は認められなかった。 また、両 PPRXs の-電位は、
PEG-LP
、DOX/PEG-LP (Table 3)
と同様に中性付近であった。 これらの結果より、PEG-LP/-CyD PPRX
および DOX/PEG-LP/-CyD PPRX は、電荷的に中性でマイ クロオーダーの粒子であることが示唆された。Table 4. Particle Sizes, PDI and -Potentials of PEG-LP/-CyD PPRX and DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
Particle sizes, PDI and -potentials of the samples in PBS were measured by Zetasizer Nano. Each value represents the mean±S.E. of 3 experiments.
第 7 項 ポリ擬ロタキサン形成の確認および構造解析
本節第 5 項において、-CyD は、DOX/PEG-LP 中の PEG 鎖と PPRX 由来の 沈殿物を形成することが示唆された。 そこで本項では、フーリエ変換赤外分光光度 計 (FT-IR)、粉末
X
線回折および 1H-NMR
スペクトルにより DOX/PEG-LP/-CyDPPRX
の調製の確認ならびに構造解析を行った。26
7-1 フーリエ変換赤外分光光度法
CyD
が PPRX を形成すると、FT-IR スペクトルにおける CyD の OH 基由 来のピークが高波数側にシフトすることが知られている88)。 そこで、Fig. 9 で 得 ら れ た 沈 殿 物 がP P R X
由 来 の も の で あ る か を 確 認 す る た め に 、DOX/PEG-LP/-CyD
沈殿物の固体試料のFT-IR
スペクトルを測定し、-CyD 単 独や物理的混合物と比較した(Fig. 10)
。-CyD
単独は3354 cm
-1 を中心として4000 ~ 3200 cm
-1 間に OH 基伸縮振動に基づくブロードなピークを与えた。 一方、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX および PEG/-CyD PPRX はそれぞれ 3390 cm-1 および
3382 cm
-1 にピークを与え、-CyD
単独や物理的混合物(3354 cm
-1)
に比 べ て 高 波 数 シ フ ト し た 。 以 上 の 結 果 よ り 、F i g . 9
に お い て 得 ら れ たDOX/PEG-LP/-CyD
の沈殿物は PPRX 由来のものである可能性が示唆された。Fig. 10. FT-IR Spectra of DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
(a) DOX/PEG-LP, (b) -CyD alone, (c) DOX/PEG-LP/-CyD physical mixture,
(d) DOX/PEG-LP/-CyD PPRX, (e) PEG/-CyD PPRX.
27
7-2 粉末 X
線回折CyDs
複合体の結晶構造は主にかご型、層状および筒型構造に分類される(Fig. 11)
89)。PPRX
中の CyDs は筒型に配列しているため、その粉末X
線回折 パターンは CyD 単独や PEG/CyD 物理的混合物と異なることが知られている61-63, 77)。
Fig. 12
は、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
の粉末X
線回折を示す。DOX/PEG- LP/-CyD PPRX
は 2 = 7.43˚、14.16˚、16.65˚
および 21.87˚ に特徴的なピーク を与え(Fig. 12d)、PEG/-CyD PPRX (Fig. 12e) と同様に正方晶系筒型構造 (Fig.13)
の回折パターンを示した90-93)。これらの結果は、-CyD
がDOX/PEG-LP
中 の PEG 鎖を優位に包接し、筒型構造の複合体、すなわち PPRX を形成するこ とを示唆するものである。Fig. 11. Proposed Crystalline Packing Structures of CyD Inclusion
Complexes
28
Fig. 12. Powder X-ray Diffraction Patterns of DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
(a) -CyD alone, (b) DOX/PEG-LP, (c) DOX/PEG-LP/-CyD physical mixture, (d) DOX/PEG-LP/-CyD PPRX, (e) PEG/-CyD PPRX.
Fig. 13. Schematic Representation of Crystal Packing Structure of -CyD
PPRX
29
そこで次に、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX の結晶内充填様式の詳細を明らかに するため、その回折パターンを正方晶系と仮定し、
Takeo
らの方法 90, 91) に準じ て、各回折線の指数配当を行った。まず、観測された粉末 X 線回折をもとに、Bragg
の式 (1) を用いて、各面指数 (hkl) で与えられる格子面間隔d
obs を算出 した。 次に、正方晶系をあらわす式 (2) を用いて、各 (200) 回折線のd
obs か らa
軸およびb
軸を決定したところ、a = b = 23.76 Å と算出された。 この値 を用いて、式(2)
から格子面間隔の計算値d
cal を算出した。Table 5
は、上記 方法によりDOX/PEG-LP/-CyD PPRX
の回折線の指数配当を行った結果を示す。す べ て の 面 指 数
(hkl)
でd
obs とd
cal が よ く 一 致 し た こ と か ら 、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
は結晶内において正方晶系の筒型構造を有するものと推定された (Fig. 13)。
Table 5. Crystallographic Characteristics of DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
1) Calculated assuming a tetragonal unit cell with a = b = 23.76 Å.
d
hkl= a
h
2+ k
2+ l
2√
2d sin = l (1)
(2)
30
7-3 化学量論比
本項では、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX の構造をより詳細に解析するため、
1
H-NMR
スペクトル法による組成分析を行い、DOX/PEG-LP
中の PEG 鎖 1 本 に対する CyD 包接個数 (化学量論比) を算出した。 Fig. 14 は DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
の固体試料を DMSO に溶解後 (LP 構造は破壊) の 1H-NMR
ス ペクトルを示す。4.8 ppm
付近にCyD
の1
位のプロトン、3.5 ppm
付近にPEG-DSPE
分子中の PEG のプロトンピークが観察された。 さらに、CyD および PEG のプロトンピークの積分値を比較した結果、
DOX/PEG-LP
中の PEG 鎖1
本に-CyD
は12.2
個貫通していることが示唆された(Table 6)
。Harada
らの報告によると、-CyD
は、PEG
鎖 1 本と PPRX を形成し、今回用いた平 均分子量約 2,000 の PEG 鎖においては、22~23 個の-CyD
が貫通する 94)。DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
の CyDs 数は-CyD
貫通数の約半数であったこと から、本 PPRX 中の-CyD
は、PEG 鎖 2 本を包接している可能性が示唆さ れた。Fig. 14.
1H-NMR Spectrum of DOX/PEG-LP/-CyD PPRX in DMSO-d
6at
25ºC
31
Table 6. The Inclusion Number of CyDs in DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
1) Number of CyD units in the one PEG chain of PPRX. The value represents the mean±S.E. of 3 experiments.
第
8
項 ポリ擬ロタキサンの推定構造本節での結果を基に推定した DOX/PEG-LP/-CyD PPRX の構造を Fig. 15 に
示す。
DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
は、水溶液中において、電荷的に中性でマイクロオーダーの粒子であることが示唆された。 また、
-CyD
は、DOX/PEG-LP
中の PEG 鎖 2 本を包接し、正方晶系筒型構造に充填していることが示唆された。Fig. 15. Proposed Structure of DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
32
第 3 節
PEG
化リポソーム/-シクロデキストリンポリ擬ロタキサンからのドキソルビシ ン放出挙動前節までに、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX を調製し、物性や構造について検討 した。 そこで本節では、PEG-LP/-CyD PPRX の抗がん剤持続性製剤への応用 を企図して、本 PPRX からの抗がん剤の放出挙動ならびに放出機構を検討した。
第 1 項 ポリ擬ロタキサンからのドキソルビシン放出挙動
Fig. 16
は、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX
にPBS
を添加し、上清中に放出され た DOX 量を定量した結果を示す。 DOX/PEG-LP 単独は、PBS に速やかに溶 解したのに対し、-CyD PPRX からの DOX の放出は遅延した。 これらの結果 より、DOX/PEG-LP/-CyD PPRX は、抗がん剤 DOX を徐放出可能であること が示唆された。Fig. 16. In Vitro Release Profiles of DOX from PEG-LP/-CyD PPRX in PBS
The amount of DOX was 0.2 mg to 1 mg lipid. The PPRX suspension was stirred at 100 rpm. The
concentration of DOX released was measured by a fluorescence spectrophotometer. Excitation
wavelength and fluorescence wavelength were 470 nm and 590 nm, respectively. Each point
represents the mean±S.E. of 3 experiments. * p < 0.05 versus DOX/PEG-LP.
33
-CyD PPRX
から放出される際、DOX は、PEG-LP から遊離した状態もしくは
DOX/PEG-LP
の状態のどちらかで存在しているものと推定される。そこで、Fig. 17
では溶出された試料を超遠心し、DOX/PEG-LP
を沈殿させ、その上清中の DOX 濃度を測定することにより、PEG-LP から遊離して放出された DOX の放出率を算出した。さらに、総 DOX 放出率から上記の遊離 DOX の放出率 を差し引き、
DOX/PEG-LP
としての放出率を算出した。Fig. 17
に示すように、-CyD PPRX
から放出されたDOX
の約30%
は、PEG-LP
から遊離したDOX
として放出されるものの、約 70% は DOX/PEG-LP として放出されることが示 唆された。Fig. 17. In Vitro Release Profiles of DOX/PEG-LP and DOX from PEG-LP/-CyD PPRX in PBS
The amount of DOX was 0.2 mg to 1 mg lipid. The PPRX suspension was stirred at 100 rpm. The
concentration of DOX released was measured by a fluorescence spectrophotometer. Excitation
wavelength and fluorescence wavelength were 470 nm and 590 nm, respectively. Each point
represents the mean±S.E. of 3 experiments. * p < 0.05 versus DOX/PEG-LP.
34
第 2 項 ポリ擬ロタキサンからのドキソルビシン放出挙動に及ぼす溶出溶媒量 の影響
水溶液中において、PEG/CyD PPRX は、遊離 PEG および CyD と平衡状態 で存在する。 したがって、PPRX からの抗がん剤の放出は、溶媒量を制御し、
解離状態を変化させることにより調節できるものと考えられる。 そこで次に、
-CyD PPRX
からのDOX
の放出に及ぼす溶出溶媒量の影響について検討した。なお、以降の DOX 放出率は、PEG-LP から遊離した状態および DOX/PEG-LP の状態を含む総 DOX 量として算出した。
Fig. 18
は、異なる溶出溶媒量(
最終溶媒量:1 mL
、2 mL
、3 mL PBS)
におけ る-CyD PPRX
からのDOX
の放出挙動を示す。 本 PPRX からの DOX の放 出は、溶出溶媒量の減少にともない低下した (3 mL > 2 mL > 1 mL)。 これらの 結果より、-CyD PPRX からの DOX の放出速度は溶媒量により制御可能であ ることが示唆された。Fig. 18. In Vitro Release Profiles of DOX from PEG-LP/-CyD PPRX in Different Volumes of PBS
The amount of DOX was 0.2 mg to 1 mg lipid. The PPRX suspensions were stirred at 100 rpm.
The concentration of DOX released was measured by a fluorescence spectrophotometer. Excitation
wavelength and fluorescence wavelength were 470 nm and 590 nm, respectively. Each point
represents the mean±S.E. of 3 experiments. * p < 0.05 versus DOX/PEG-LP, 2 mL of PBS.
35
第 3 項 ポリ擬ロタキサンからのドキソルビシン放出機構
前項までの検討において、
PEG-LP/-CyD PPRX
からの DOX の放出は持続す ることが示唆された。 薬物制御放出担体からの薬物放出機構を明らかにするこ とは、その性質を理解する上で重要である。 そこで本項では、PEG-LP/-CyDPPRX
からの DOX の放出機構を明らかにするため、以下に示す薬物放出速度式
(3) - (6)
を用いて解析を行った(Fig. 19)
。なお、本解析では最終溶媒量1 mL
、 放出試験開始 12 時間までのデータを用いた。Zero order kinetics
Q
t– Q
0= -k
0t (3)
First order kinetics
ln Q
t– ln Q
0= -k
1t (4)
Higuchi’s model
Q
t= k
Ht
1/2(5)
Hixson-Crowell model Q
01/3– Q
t1/3= k
st (6)
ここで、式 (3)、
(4)
および (6) 中の Qt は時間 t において残存した固体薬物 量、Q
0 は初期薬物量、k
0 は0
次薬物放出定数、k
1 は1
次薬物放出定数、k
s はHixson-Crowell
式における薬物放出定数である。 また、式 (5) 中の Qt は時間t
における薬物放出量、k
H は Higuchi 式における薬物放出定数である。放出試 験開始 12 時間までのプロットを各放出モデルの式に当てはめ、薬物放出速度 定数および相関係数r
を算出し、Table 7
に示した。PEG-LP/-CyD PPRX
から の DOX の放出機構は Higuchi 式と最も適合し、-CyD PPRX
からの DOX の 放出はマトリックスタイプであることが示唆された。36
Fig. 19. Plots of DOX Released from PEG-LP/-CyD PPRX in PBS Based on Zero Order (A), First Order (B), Higuchi (C) and Hixson-Crowell (D) Equations
Each point represents the mean±S.E. of 3 experiments.
Table 7. Release Constants and r
a)Values Calculated from Zero Order, First Order, Higuchi and Hixson-Crowell Equations
Each value represents the mean±S.E. of 3 experiments. * p < 0.05 versus Higuchi’s model.
a) r:correlation coefficient.
37
次に、基剤の溶解と浸食を考慮した
Korsmeyer-Peppas
の式 (7) を用いてPEG-LP/-CyD PPRX
からのDOX
の放出機構を解析した。M
t/M
∞= k・t
n(7)
ここで、Mt は時間 t における薬物放出量、M∞ は時間 ∞ における薬物放出 量、
k
は放出速度定数を表す。 本解析では最終溶媒量1 mL
、放出試験開始12
時間までのデータを用いて n 値を求めた。n = 1
の時、薬物放出は 0 次放出、0.5 < n < 1
の時、非 Fick 拡散、n = 0.5 の時、Fick の拡散法則、n < 0.5 の時、擬
Fick
の拡散法則に従ったパターンとなる(Table 8)
。Fig. 20
に示すように、n
値は 0.17 であったことから、PEG-LP/-CyD PPRX からの DOX の放出は、擬 Fick の拡散法則に従うことが示唆された。
Table 8. The Diffusional Exponent Based on Korsmeyer-Peppas
Equations
38
Fig. 20. Korsmeyer-Peppas Release Profiles of DOX from PEG-LP/-CyD PPRX in PBS
Each point represents the mean±S.E. of 3 experiments.
39
第 4 節 考察
薬物あるいは薬物担体に PEG を修飾すると、その表面に高度な水和層を形成 する結果、溶解性・分散性の改善、免疫原性の低下および血中滞留性の向上が 可能になる 95)。 さらに、肝臓や脾臓などの RES からの認識も軽減するため、
血中滞留性が飛躍的に向上する結果、がん組織においては EPR 効果により、標 的指向性の付与も可能になる27)。 したがって、数多くの薬物や薬物担体を対象 に PEG 化が行われている95)。 例えば、タンパク質性薬物を PEG 化すると、
物理化学的刺激や酵素に対する安定性が向上すると共に、血中滞留性が著しく 増大する。
LP
をPEG
化しても、RES
回避にともなうEPR
効果によって、腫瘍への蓄積が増大する結果、
DOX
などの抗がん剤を腫瘍選択的に送達可能と なる。 さらに、カチオン性リポソームを PEG 化した Stable nucleic acid lipidparticles (SNALP)
が、siRNA 導入用担体として有用であることも報告されている96)。 このように、薬物や薬物担体の製剤特性の改善や機能性の付与を目的と して、数多くの
PEG
化薬物あるいはPEG
化薬物担体の開発が行われており、そのうち、PEG-LP は代表的な PEG 化薬物担体である。 しかし、PEG-LP の
PPRX
形成に関する報告は皆無である。 このような背景のもと、本章では新規持続放出型 PEG-LP 製剤の開発を目的とし、DOX/PEG-LP/CyD PPRX の調製、
構造解析、薬物放出挙動および薬物放出機構に関する検討を行った。
まず、-CyD および
-CyD
が、HSPC と相互作用するか確認したところ、これら CyDs は、HSPC を包接し、PPRX 様筒型構造の包接複合体を形成する ことが示唆された (Figs. 5, 6)。
Puskás
らは、-CyD
が DPPC のアシル鎖 1 本を
PPRX
状に包接した複合体を形成することを推察している76)。また、-CyD
の空洞径は、2 本のアシル鎖を包接するのに適している63)。 そのため、-CyD および
-CyD
は、それぞれ HSPC のアシル鎖 1 本および 2 本を包接し、PPRX
様包接複合体を形成したものと推察される。これらのことより、PEG-LP
と
CyDs
とのPPRX
を調製する際、CyD/
リン脂質PPRX
様包接複合体を生成せず、
PEG-DSPE
分子中の PEG 鎖と PPRX を形成する条件を探索することが必要であった。
40
DOX/PEG-LP
に、36.3 mg/mL、72.5 mg/mL および 145 mg/mL の-CyD
もしく は、232 mg/mL
の-CyD
溶液を添加すると、LP
膜が一部破壊されたのに対し、58 mg/mL
および 116 mg/mL の-CyD
溶液を添加した場合、ほとんど LP 膜は破壊 されなかった (Fig. 8)。 Miyajima らは、卵黄レシチンから成る LP に対し、-CyD は、10 mg/mL 程度でLP
膜を破壊するのに対し、-CyD は、少なくとも 40 mg/mL 程度までLP
膜を破壊しないことを報告している 81)。 つまり、-CyD は-CyD
に比 べ、リン脂質に対する相互作用が弱く、LP
膜を破壊しにくいことがわかる。 したがっ て、PEG/LP と CyDs の PPRX を調製する際には、-CyD よりも-CyD (58 mg/mL および 116 mg/mL) が適しているものと推察された。ここで、
-CyD
は高濃度条件下においても、LP
膜を完全には破壊せず、また、LP
膜破壊効果に、-CyD
濃度依存性は認められなかった (Fig. 8)。 本実験では、DOX
の封入率を求めるため、超遠心により LP もしくは PEG-LP を沈殿させ、上清 中の DOX を定量している。-CyD
添加系においては、HSPC
と-CyD
のPPRX
様包接複合体に由来すると思われる沈殿物を形成していたことから、これら沈殿物に
DOX
が吸着あるいは封入され、実際の値より高くDOX
封入率 が求められた可能性も否定できない。 今後、示差熱分析装置や等温滴定型熱量 計を用いて、CyDs
の LP 膜に対する破壊効果を熱力学的に分析する必要がある。DOX/PEG-LP
に 116 mg/mL の-CyD
溶液を添加したところ、PPRX 由来の沈 殿物が形成され(Fig. 9)
、その粒子径は約3.1 m
であった(Table 4)
。Table 3
でも 示したように、今回調製した DOX/PEG-LP の粒子径は約 132 nm で、その体積は 約 1.2 x 10-3m
3 と算出される。 一方、得られた沈殿物を球形と仮定した場合、その 体積は 15.6m
3 と算出される。 したがって、上記沈殿物は、約 13,000 個のDOX/PEG-LP
がPPRX
を介して集合し、形成されているものと推察される。ここで、本検討で得られた DOX/PEG-LP/-CyD PPRX の構造を分子レベルで考 察する。 FT-IR、粉末