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(2)「第 1 編総則」の規定内容

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(1)

モンゴル民法典の全体構造(2)

蓑 輪 靖 博 *

はじめに

1. 民法改正と民法典の全体構造 2. モンゴル民法典の全体構造 3. モンゴル民法典「第 1 編総則」

(1)「第 1 編総則」の全体構造(以上 54 巻 4 号)

(2)「第 1 編総則」の規定内容

① 第 1 章 民事法上の法律関係、法令

② 第 2 章 民事法上の法律関係の主体

③ 第 3 章 法律行為

④ 第 4 章 民事法上の期間

⑤ 第 5 章 有体または無体の利益に関する権利

(ア) 第 10 節「有体または無体の利益」

(イ) 第 11 節「占有」(以上本号)

4. モンゴル民法典「第 2 編義務」

5. モンゴル民法典「第 3 編契約関係」

6. モンゴル民法典「第 4 編契約以外の義務」

7. モンゴル民法典「第 5 編相続」

8. モンゴル民法典「第 6 編国際民事法律関係」

おわりに

  * 福岡大学法学部教授

(2)

(2) 「第 1 編総則」の規定内容

1

① 第 1 章 民事法上の法律関係、法令

(ア) 第 1 節「一般原則」

この節で最初にあげられる特徴は、民法の目的および基本原則が規定され ている点である(第 1 条)。

すなわち、法的存在の間で生じる有体・無体の利益関係を規律すること が民法の目的とされ(1.1.)、民事上の法令における基本原則として、民事法 的主体の平等と独立、所有権不可侵、契約自由、私事への不介入、民事上 の権利義務の実現、権利の侵害の回復、裁判による保護が挙げられている

(1.2.)。 

これに関連して、民事上の法律関係と行政法上の規制関係との区別も明示 されている(1.3.)。

この規定を踏まえて、民事上の法令、その適用、民事上の法律関係の対 象・主体についての規定が設けられている。

民事上の法令は、憲法・民法のほか、様々な特別法からなるとされ、モン ゴルの締結する国際法がこれに優先するとされる(第 2 条)。

この適用関係に関しては、憲法に反しない範囲で適用されること、法の不 知・誤解が免責原因にならないことなどの一般原則(第 3 条)のほか、民 法の規定や特別法が存在しない法律関係における処理や特別法の適用(第 4 条)、法令によらないかぎり原則不遡及とすることなど(第 5 条)の規定が ある。

1  条文については、拙稿「モンゴル民法典・試訳(1)~(5)」福岡大学法学論叢 53 巻 1・

2 号 83 ~ 93 頁、同 3 号 161 ~ 182 頁、同 4 号 551 ~ 568 頁、54 巻 1 号 171 ~ 187 頁、

同 2・3 号 161 ~ 199 頁参照。なお、本文中の()内の数字は条項を表す。

(3)

法の制限がない範囲で、金銭評価が可能な有体・無体の利益・権利、行 為や情報が民事上の法律関係の対象とされ(第 6 条)、外国人や無国籍者を 含む人・法人・法人格なき団体・国や地方自治体が法律関係の主体とされる

(第 7 条)。

(イ) 第 2 節「民事上の法律関係の発生原因、その保護、民事上の法律関 係における権利、義務の実現」

民事上の法律関係の発生原因として、具体的には、法律に反しない法律行 為、判決、行政決定、知的創造、損害発生、占有などがあげられているほ か、その他法律で定めたものが広く含まれるとされる(第 8 条)。

民事法による保護の目的としては、侵害された権利の回復をかかげ(第 9 条 9.1.)、その方法として、権利の承認、侵害行為の停止、原状回復、義務 の履行、損害賠償(非財産的損害)、罰金の支払、法律関係の変更・終了、

自力救済が具体的にあげられており、民法以外の法令で定める他のものも含 まれるとされる(9.4.)。

これに関連して、日本法では不法行為の中で規定されている正当防衛や緊 急避難に関わる規定がこの節で規定されている。すなわち、違法な侵害行 為から生命・身体・財産を守るため他人に損害を与えた場合の免責(第 10 条)と、自らの危険を回避できない状況下で他人に損害を与えた場合の免責

(第 11 条)の規定である。

さらに興味深い点は、一定の条件の下で自力救済を認めている点である

(第 12 条)。すなわち、国家機関による迅速な救済が見込めない場合に、自 己の権利・法律上正当な利益を救済する目的で、物の占有支配の取得や物の 消滅・損壊、債務不履行をすることは違法とみなされないとする(12.1.)。

これは適切な範囲に限られ(12.3.)、差押や義務者の拘束をする場合には国 家機関への通知が義務付けられており(12.2.)、これに違反した場合には損 害賠償義務を負う(12.4.)とされる。

(4)

権利・義務の実現にあたっては、第 13 条で、真実かつ誠実に実現する 旨が規定されている(13.1.)。これは日本民法の信義則にあたるものといえ る。また、権利・義務の実現にあたって他人に損害を与えた場合や市場に対 する不当な制限を加えた場合には、法令で定められた責任を負うことも規定 されている(13.3.)。

② 第 2 章 民事法上の法律関係の主体

(ア) 第 3 節「人」

「人」は、日本法の自然人にあたるものであり、「人」には権利能力が認め られる旨、第 14 条に規定されている。すなわち、出生により権利能力が始 まり、死亡により終了する旨が規定されている(14.1.)。また、権利能力に 対する制限の禁止も明示されている(14.2.)。

これを踏まえ、人の行為能力に関しては、成年を 18 歳とし(15 条)、

それ以前の行為能力の制限については、14 歳以上(第 16 条、不完全能力 者)、7 歳以上(第 17 条、部分的行為能力者)、7 歳未満(第 18 条 18.1.、行 為無能力者)の 3 段階に区分している点は興味深い。一方、成年者の行為能 力制限者の規定は日本民法に比較して、かなり限定的なものとなっている。

7 歳未満の人は、行為能力がないものとされる(18.1.)。

行為無能力者とされる成年者については、この節中では、精神障害の結果 として自己の行為の原因結果関係を理解できず正確な自己統制ができなく なった者も行為能力がない者として規定する(18.2.)一方で、成年者の制限 行為能力者として、薬物等の依存症や貧困者を規定しているにすぎない(第 19 条)。なお、精神障害による制限行為能力者については第 6 節無効な法律 行為の第 56 条で規定されている。

部分的行為能力者とされる 7 歳以上 14 歳未満の者は損失を受けること のない日常生活上の小額の法律行為以外は、法定代理人が行なうとされる

(5)

(17.2.)。

不完全能力者とされる 14 歳以上 18 歳未満の者は部分的行為能力者に加 え、自己収入や奨学金、自己裁量処分権を与えられた財産につき単独の法律 行為が許され(16.3.)、それ以外の行為については法定代理人の同意が必要 とされる(16.2.)。

なお、行為無能力者や行為能力制限者が単独で行なうことが許されない法 律行為を行なった場合の法律行為の効力については、ここに規定されておら ず、第 5 節法律行為、第 6 節無効な法律行為で規定されている。

このほか、人の住所(第 22 条)、失踪者(第 23 条)、死亡宣告(第 24 条)に関する規定もここに設けられている。

日本法との比較では、人の名の規定があること(第 20 条)、名誉に関する 規定(第 21 条)がこの節に設けられている点が大きな違いである。

人は名を有することを前提に(20.1.)、関係機関に対する名の登録が義務 付けられ、「名」によって、権利・義務の取得を特定できる旨が規定されて いる(20.3.)。「名」は変更できる(20.2.)。人の名を違法に使用することは 禁止される(21.2.)。「名」という表現を用いられているのは、モンゴルに日 本における氏(姓)がないためである。対外的には、父の名を氏(姓)とし て用いている。

名誉等について棄損された場合の訂正義務の規定(21.2.)、本人の承諾な く個人情報(21.4.)や肖像等(21.5.)を利用した場合の損害賠償請求の規定 がある。

(イ)第 4 節「法人」

「法人」は、2つの款、すなわち「一般原則」と「法人の種類」からなる。

第 1 款「一般原則」では、法人の定義規定(第 25 条)の中で、自己の名 で権利を取得し義務を取得できる主体として特定の目的により安定した事業 を行なう組織体と定められている(25.1.)。特定の目的としては、営利・非

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営利いずれの目的でもよく(25.2.)、公的・私的・混合所有形態の法人が認 められ(25.3.)、法により法人の内容を定めるとされる(25.4.)。なお、登録 制度を通じて法人の権利能力が発生・終了する(第 26 条)。

また、法人の名称(第 27 条)については、その組織・法的形態を適切に 反映させ(27.1.)、法人の種類を示すものとし(27.2.)、他法人の名称や法人 の事業上の名誉を保護する一般規定がある(27.3.、27.4.、27.5.)。名称の登 録も義務付けている(27.6.)。住所(第 28 条)に関する規定、支店・代理店 に関する一般的扱いに関する規定(第 29 条)もある。個人・法人の他、国 による法人の設立を認める規定(第 30 条)のほか、法人の変更の規定(31 条)では、法人の統合・合併・分割・私有化についての定義規定を設けてい る。法人の解散(32 条)については、意思決定機関の決定、破産や重大な 法令違反などを解散原因とし(第 32 条)、解散委員会を通じた公示、債権者 の法人に対する保護の一般手続規定(破産の場合を含む)を定めている。

第 2 款「法人の種類」では、まず第 33 条で、営利法人としての組合、

会社(33.1.)、非営利法人としてのホルボー、基金、ホルショーを認め

(33.2.)、以下の条文にそれぞれの定義規定をおく。

会社は営利を基本目的とする株式会社をいい(第 34 条)、組合は構成員の 財産からなる財産を有し、活動に関わる義務・責任は構成員の私有財産で負 担するものとする(第 35 条)。非営利法人の規定(第 35 条)では、共同目 的を有する人の集合体をホルボー(36.1.)、公益目的で財産を集めた人の集 合体でないものを基金(36.2.)、経済的・社会的・文化的な公益目的で設立 する事業体をホルショー(36.4.)とされる。寺院のような宗教団体には基金 の規定が準用される(36.6.)。なお、基金についてのみ、統治・運営(第 37 条)と解散手続(第 38 条)に関する一般規定がそれぞれ設けられている。

(7)

③ 第 3 章 法律行為

(ア) 第 5 節「一般原則」

権利・義務の発生・変更・消滅・終了を目的とした意思表示を行なう人、

法人の作為・不作為を「法律行為」とする(第 39 条 39.1.)。

法律行為は当然のことながら、契約が社会の中で最も重要かつ典型的なも のであるが、1 人の単独による意思表示でも可能である旨が明記されている

(39.2.)。「法律行為」と訳した語はもともと「取引」という意味で用いられ てきた語であるが、上記のように、単独行為を含む者であることから、日本 民法で用いられる「法律行為」という訳語をあてた。

法律行為の要件とされる意思表示は相手方の受領をもって有効となり、法 律行為後の意思表示者の死亡・行為能力喪失は意思表示の効力に影響を与え ない(第 40 条)とされ、日本民法と同様となっている。

これに対し、法律行為の方法や成立、解釈に関して、日本民法には存在し ない規定が設けられている。

法律行為の方法(第 42 条)について、法律に別段の定めがないかぎり、

口頭による法律行為を認めた上で(42.1.)、当事者の合意により意思表示の 代わりに具体的行為による法律行為を認めている(42.8.)。これは、わが国 でも原則として認められているものの、日本民法の規定には存在しないもの である。また、書面による場合の署名義務を負わせている点(42.2.)は、契 約実務の原則といえるが、これも日本民法に規定はないものである。書面要 件が課される法律行為について、書面を用いなかった場合には無効とされ、

相互に原状回復義務を負う旨の規定もある(42.10.)。このほか、当事者の合 意があれば、返答なしに承諾を認めている(42.9.)。

法律行為の成立(第 43 条)について、口頭によって実際に成立する場合 として、主要条件の合意、書面以外の証明物の使用慣行がある場合、法律・

契約で決められた承諾みなし期間の経過があげられている(43.1.)。これに

(8)

対し、書面による成立する場合としては、署名ある書面の存在、手紙・電 報・ファクシミリ等の文書の受領、国家機関に対する登録・公証があげられ ている(43.2.)。このような具体的手続、行為も日本民法には見られないも のである。

法律行為の解釈の方法については、一般的な内容ながら、原則が定められ ている点(第 41 条)は、日本民法にない特色である。すなわち、文言どお りの解釈を原則とし(41.1.)、意思表示の内容が明らかでない場合、字句、

表意者の需要・要求、行為その他の状況を総合的に勘案して解釈するとされ る(41.2.)。

この節では、法律行為の「条件」に関する規定(第 44 条~第 48 条)が設 けられており、日本民法の条件に関する規定に類似する規定が多く認められ る。まず原則として、条件付法律行為の存在を肯定した(44.1.)上で、ほぼ 日本民法の停止条件と解除条件にあたる条件としてそれぞれ、猶予条件付法 律行為(44.2.)と終了条件付法律行為(44.3.)を定める。また、法律の定め る要件に違反し、社会的に容認された慣行・法準則に反する条件が付けられ た法律行為は無効とされ(第 45 条)、日本民法の不法条件に関する規定も存 在する。同様に不能条件を無効とする規定(46.3.)、既成条件に関する規定

(第 47 条)も存在する。条件付法律行為の当事者が条件成就を妨害するこ とを禁ずる旨の規定(第 48 条)も日本民法の第 128 条に見られるものであ る。このほか、期間が定められた条件において、期間内に条件上成就しな かった場合、その条件は無効とされる(46.1.)。

さらに、この節では、第三者の同意が必要な法律行為の形式についての規 定もある。行為能力を制限された者のうち、14 歳以上 18 歳未満の者(不完 全行為能力者)の法定代理人よる同意なき法律行為の規定(第 54 条)を準 用するとされる(第 50 条)。

14 歳以上 18 歳未満の者(不完全行為能力者)による同意なき法律行為に

(9)

ついて定める第 54 条は、相手方が法定代理人による同意の証拠を求めた場 合、14 日以内に書面の通知をするものとされ(54.1.)、通知がない場合は同 意を拒絶したものとされることから(54.2.)、法定代理人の同意は事後の同 意(追認)でもよく、それまでの間に相手方に法律行為の拒絶権を認めてい る(54.4.)。14 歳以上 18 歳未満の者(不完全行為能力者)が単独で法律行 為を行なうことができる場合の要件としては、法定代理人等から処分権限を 与えられたことが定められている(第 55 条、16.3.)。

その他、無権限者の行為も、権限者の追認によって有効とする規定もある

(第 53 条)や、証券取引所で行なわれる取引たる法律行為についての一般 規定も設けられている(第 49 条)。

(イ) 第 6 節「無効な法律行為」

法律行為の効力を否定する場合として、日本民法のように、無効と取消し を認めるという構成をとっておらず、この節中で無効な法律行為に関する規 定を置いている。

すなわち、法律行為を無効とする原因として、法律違反または社会的に容 認された慣行に反する場合、架空の法律行為、他の法律行為の偽装を目的と した場合、真意を欠くことを知りながら過失により行なった場合、行為無能 力者の法律行為、部分的行為能力者の法律行為、精神障害により自己の行為 の原因関係を理解できない制限行為能力者の法律行為、完全行為能力者が 行為能力を喪失して行った法律行為、法律違反し必要な承諾を得ないまま行 なわれた法律行為、法人による事業目的に反する法律行為、これらを基礎と するその他の法律行為をあげている(第 56 条)。無効な法律行為が行われた 場合、当事者は相互に原状回復義務を負うものとされ(56.5.)、これにより 被った損害賠償請求を認める旨の規定もある(56.5.)。

このような原因によって法律行為を無効とする方法・手続(第 57 条)と しては、利害関係人の請求により、裁判所が法に定める要件・手続にした

(10)

がって判断する場合(57.1.)、同様の請求により、契約に定めた方法に反す る法律行為を裁判所が無効とする場合(57.3.)を認め、無効とされた法律行 為は成立時から無効とされる(57.2.)。書面による意思表示を通じて成立す る法律行為の場合に、書面に明白な誤りが存在していたときには無効とせ ず、誤っていた当事者に訂正する権利を認めている(57.4.)。

上記のような法律行為の無効原因のほか、日本民法における錯誤・詐欺・

強迫による意思表示の無効・取消しの規定に対応するものとして、重大な錯 誤(第 58 条)、詐欺(第 59 条)、暴力(第 60 条)による法律行為の無効が 認められている。

重大な錯誤に基づいて意思表示が行なわれた法律行為が無効とされる

(58.1.)。無効となる要件とされる「重大な錯誤」がありとみなされる場合 として、成立させたい法律行為と異なる法律行為に承諾を与えた場合、誤解 して法律行為の成立を求めた場合があげられている(58.2.)。代理人の意思 表示に錯誤があった場合にも、この規定が準用される(58.4.)、その際、本 人が不注意で錯誤に陥っていた場合には、相手方がそれを知り、または知る ことできたときをのぞき、相手方に対する損害賠償義務が発生する(58.7.)。

また、相手方の特性を法律行為成立の主たる要素とした場合にそれに関す る錯誤があったとき、法律行為の目的に関する価値について重要な財産の特 性について錯誤があったとき、法律行為成立の主たる要素である権利につい て錯誤があったとき、合意した目的の動機に錯誤があったときには、重大な 錯誤があったものとみなすことができる(58.3.)とされる。なお、相手方が 錯誤に陥っていることを知った当事者はその旨を直ちに通知する義務がある

(58.6.)。

詐欺による無効については、詐欺者が利益を得たか否かにかかわらず認め られる旨、規定されている(59.1.)。当事者の一方が法律行為成立の妨げに なる事情を隠匿していた場合、その事実を知った相手方は法律行為を無効と

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みなすよう請求できる(59.2.)ほか、第三者の詐欺の場合には、その法律行 為により利益を得た者がその詐欺を知りまたは知ることができたときにか ぎって、騙されたものが法律行為を無効とみなすよう請求できる(59.3.)。

この無効は、無効となる要件を知ったときから 1 年を超えたときは訴えを提 起できないとされること(59.4.)。

また、暴力による無効については、相手方や第三者の暴力行為による強迫 行為の結果法律行為が成立した場合に請求できるとされる(60.1.)。本人、

親族やその財産に危害が及ぶものと信じさせたときも同様である(60.2.)。

法律行為の成立後、1 年を超えた場合は訴えを提起できない(60.3.)。

このように、詐欺・暴力による法律行為の無効は、日本民法の詐欺・強迫 による意思表示における取消権と同様に扱われていることがわかる。

なお、法律行為の一部が無効とされる場合については、残りの部分で法 律行為の目的が達成できるときには、その限度で有効とされる(61.1.)。

無効な部分が契約の主たる部分でない場合は契約全体として有効とされる

(61.2. による 202.5. の準用)。

(ウ) 第 7 節「代理」

代理による法律行為に関する一般的内容は第 62 条に規定されている。

すなわち、法律による禁止・法律行為の性質・内容から代理できないもの をのぞいて(62.2.)、代理による法律行為を認めたうえで(62.1.)、代理を認 める原因として法定代理と任意代理をあげている(62.3.)。

任意代理において、合意または本人の利益のために不可避な場合をのぞい て(62.5.)、代理人本人が代理行為を行なわなければならない(62.4.)。復代 理が行なわれた場合にはその旨の通知義務がある上、復代理人が債務不履行 をしたことの責任は代理人が負い(62.7.)、復代理人の行為はあくまでも代 理人の代理権限の範囲内で認められる(62.6.)。

代理人に関する規定(第 63 条)では、行為能力が制限されている者でも

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法定代理人の同意により(63.5.)代理人になることができること(63.1.)、

与えられた代理権の範囲内で本人の名の下で行い、権利・義務は本人に生ず る(63.2.)とされる。この点は、ほぼ日本民法と同様の規定内容となってい るが、代理人に誠実義務があると規定されている点(63.3.)と、それに違反 した場合に損害賠償義務が発生する旨の規定がある点(63.4.)では、異なっ ている。

代理権については(第 64 条)、口頭または書面で代理人・相手方に通知す ることで授与できるが(64.1.)、書面による委任の場合には、書面には本人 の署名・捺印、法人の場合には代表者・会計監査人の署名、代理権授与年月 日があること、法律に定めがある場合には公証手続を行なうことが要件と され(64.2.)、これを充たさない委任代理は無効とされる(64.3.)。委任期間 は授与した日から 3 年を超えてはならず、期間を定めない場合は 1 年である

(64.5.)。このような任意代理に関する詳細かつ具体的な手続に関する規定 は日本民法には存在しないものである。

無権代理の場合でも、相手方に代理権ありと理解させた場合には代理人か ら無効を主張できず、代理人であることを告げない場合でも相手方が代理人 であることを知っていれば有効な代理となるとされ(第 65 条)、日本民法の 表見代理に該当する規定が一部盛り込まれている。

また、本人の追認があれば、無権代理も有効となり、相手方は本人の追認 前であれば、法律行為を拒絶できるとされる(第 68 条)。無権代理人は、相 手方が無権代理人であることを知り、または知ることができた場合をのぞ き、相手方の請求により、法律行為により負った義務か、損害賠償義務のい ずれかを履行する責任を負う(第 69 条)。

代理の終了に関する規定(第 67 条)では、本人はいつでも代理権の委任 を無効にできるが(67.3.)、代理の無効・変更を相手方に通知する義務があ るとされ(67.1.)、通知がない場合には有効となる(67.6.)。そのほか、代理

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人の終了原因として、代理人による代理権の放棄、本人が代理権を無効とし た場合、本人・代理人の死亡・行為能力の喪失、委任を与えた法人の事業終 了、権限による代理行為の実現、代理権の行使期間の終了、法律によるその 他の原因があげられている(67.2.)。

このほか、代理人の自己契約を禁止する規定もある(第 70 条)。

④ 第 4 章 民事法上の期間

(ア) 第 8 節「期間の確定、計算」

期間は、暦による年、月、日、曜日、または年、四半期、月、週、昼夜で 定めるとされる(第 71 条)。

期間の計算については(第 72 条)、決められた年月日から起算し、一定の 条件・事実の発生を原因とする場合にはその後の日時から起算するとされ

(72.1.)、営業日で計算すること(72.2.)、末日はその 24 時をもって終了と すること(72.3.)、暦年は 12 ヶ月、半年は 6 ヶ月、四半期は 3 ヶ月、昼夜は 24 時間として計算する(72.6.)。

期間の終了については(73 条)、年、半年、四半期、月で定めた場合、

終了する月の同日とし、それがない場合、末日とされ(73.1.)、暦年は 1 月 1 日から起算して 12 月 31 日に終了し(73.2.)、週、昼夜で決めた場合、期 間終了日の同時刻に終了し(73.3.)、曜日で決めた場合、決めた曜日の最後 の時刻に終了し、時間で定めた場合は同時刻の同じ分に終了するとされる

(73.5.)。

(イ) 第 9 節「出訴期間」

日本と異なり、時効ではなく、出訴期間の規定が設けられている。

すなわち、第 74 条では、他人に対するいかなる行為(作為・不作為)請 求権であっても、法律で適用除外されないかぎり、出訴期間が付けられると される(74.1.)。なお、無体財産権(74.2.)や物権(74.3.)に適用されない。

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出訴期間については(第 75 条)、一般的に 10 年とされ(75.1.)、特別の出 訴期間として、契約上の義務に対する請求権は 3 年、不動産に関する契約上 の義務に対する請求権は 3 年、一定期間内に履行すべき義務に対する請求権 は 3 年、他人の財産に損害を与えことから生ずる義務に対する請求権は 5 年 とされる(75.2.)。

出訴期間の計算(第 76 条)については、請求権発生のときから起算し

(76.1.)、例えば、不法行為のような権利侵害の場合には権利侵害を知りま たは知るはずであったとき、保証期間内であれば請求をしたとき(76.2.)。

不作為請求権は義務違反があったとき(76.3.)、債権者の行為を理由とする 請求権については、行為を行なうはずであったとき(76.4.)、がそれぞれ起 算時期になるとされる。

出訴期間の停止が認められる事由として(第 78 条)、義務の履行を猶予し ている期間、請求権者による義務履行を承認している期間、出訴期間終了 の 6 ヶ月以内に生じた突発のまたは不可抗力の性質を有する事情のために請 求権者が裁判所に行くことができない場合などにその事情が消滅するまでの 期間、夫婦の請求について婚姻が有効である期間、親子間の請求について子 が成年になるまでの期間などがあげられている(78.1.)。この停止は日本民 法の時効の停止と同様、停止となった条件が消滅した時からそれ以前の期間 に継続して計算をするものとされる(78.3.)。また、法定代理人がいない行 為無能力者または不完全行為能力者については、完全行為能力者になった か、法定代理人が任命された後 6 ヶ月以内は出訴期間を計算しないとされる

(78.4.)。

出訴期間の中断が認められる事由として(第 79 条)、義務を負った者によ る請求の承認があった(79.1.)、裁判上の訴えによる請求(79.2.)などがあ げられており、中断によりそれまでの期間を継続させず、中断後は新たに起 算するとされる(79.7.)点は日本民法と同様である。

(15)

承継された権利の出訴期間については、前主の期間を合算するとされる

(第 81 条)。

出訴期間経過の効果としては(第 82 条)、義務を履行する義務を免れる

(82.1.)が、出訴期間経過を知らずに履行を承認した場合には、履行の拒絶 ができないし(82.2.)、出訴期間経過を知らず義務を履行した場合にも、原 状回復請求できない(82.3.)。

⑤ 第 5 章 有体または無体の利益に関する権利

(ア) 第 10 節「有体または無体の利益」

いかなる者も、法で禁止されず、社会的に容認された慣行による法準則に 反しないかぎり、有体の利益を有する物、無体利益を有する知的財産、権利 を取得することができるとされ、この場合の利益のことを財産と定義してい る(第 83 条)。

この規定により、何人も法の認める範囲で財産を有する権利を取得できる ことを明らかにするとともに、その対象たる財産に有体・無体の利益が含ま れることを示している。

財産は支配可能なものとされ(84.1.)、有体財産には不動産と動産があり

(84.2.)、不動産は土地と、それから分離できない物とされ(84.3.)、不動 産以外の有体財産を動産といい(84.4.)、保有者に利益を与え、他人に請 求できる権利としての請求権、知的財産としての無体財産も財産とされる

(84.5.)。

この規定にいう不動産には、日本民法同様、土地と土地上の建物が別個の 不動産として含まれる趣旨とされる。モンゴルでは、社会主義時代に、多く の国民が国立集合住宅内の独立居住区画に居住していたところ、社会主義を 放棄して市場経済化に移行するにあたり、様々な財産の急速な私有化を進め た。その際に、憲法が原則として土地を国有としたことから集合住宅との建

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物だけを私有化したかったこと、日本民法の物の規定の文言と解釈を参考に したことなどの理由から、このように解釈されている。

この他、日本民法の物に関連する規定として、物の構成部分(第 85 条)、

従物の規定(第 86 条)、不可分・制限的権利(第 87 条)、果実の規定(第 88 条)がある。

消滅または目的の喪失なしに分離できない構成部分をもって、独立した物 とされ(85.1.)、恒常的目的から分離できない土地工作物は土地の構成物と される(85.2.)。主物に役立たせる目的である構成部分でない動産は従物さ れ(86.1.)、不動産を役立たせるもので自らの価値を喪失・重大な損害なし に分離利用可能な物も従物とされる(86.2.)。

他 の 権 利 と 分 離 で き ず 単 独 で 適 用 で き な い 権 利 を 不 可 分 権 利 と し

(87.1.)、ある権利から派生しその権利から制限される権利を制限的権利と される(87.2.)。

物の種類・性質にしたがって新たに生じ、物を目的にしたがい使用した結 果生ずる産物を物の果実とし(88.1.)、権利をその目的にしたがって使用し た結果生ずる収益を権利の果実とする(88.2.)。これらの果実は法律・契約 の別段の定めがないかぎり、その物・権利の正当な保有者が取得する権利を 有するとされる(88.3.)。

(イ) 第 11 節「占有」

占有については、第 89 条の中で、その意思をもって、権利・物を法律上 正当な支配のもとに取得することで生ずるものと規定する(89.1.)。事実上 の支配を占有から排除している点は、日本民法と大きく異なる点である。そ のため、占有できる権利に基づく占有であったり、法律上正当な占有とされ る者の定義とその権利・義務の他、それと区別される占有者の規定などがこ の節の中心となる。

まず、他人から授与された権限にしたがって、その他人に利益を生じさせ

(17)

るために現実に財産を支配している者は占有者とはされず、権限を授与した 者が占有者とされ(89.2.)。自己の権利・法律上正当な利益にしたがって財 産を占有する権利を取得し義務を負う者が直接占有者で、そのような権利 を取得した者が間接占有者とされる(89.3.)。直接占有と間接占有について は、日本民法に規定はないものの、同様の考え方が一般に受け入れられてい るものである。この他、共同占有を認める旨の規定がある(89.4.、89.5.)。

このように、権利・法律上正当な占有支配をする者のみに占有権を認める ことになるが、この者を誠実な占有者としている(第 90 条)。すなわち、財 産を法律上正当に占有しまたは占有する権利を有することが明白な者を誠実 な占有者とし(90.1.)、誠実な占有者が占有を喪失した財産については、権 限のない現占有者に対して、3 年以内であれば、返還請求が認められるとす る(90.2.)。

また、誠実な占有者については、所有者同様、その占有・使用を妨害する ものに対して、妨害除去請求権が認められる(第 92 条)。この他、誠実な占 有者の権利・義務(第 94 条)としては、誠実な占有者が占有する権利を喪 失した場合は、権利者に対して、その財産を返還する義務があり(94.1.)、

返還までの果実を取得する(94.2.)ほか、所有権者に対しては維持・管理・

修繕等に関する費用の請求権を有し(94.3.)、それにより価値を増加させた 場合には増加分を考慮して請求額を決め(94.4.)、このような請求の履行を 受けるまでは財産の返還を拒絶する留置権を有するとされる(94.6.)。

これに関連して、所有者とみなされる場合(第 91 条)について、国家登 録を根拠とする財産所有権と金銭・有価証券をのぞく所有者の意思によらな い占有離脱物の所有権をのぞいて(91.2.)、第三者からみた場合、財産占有 者を所有者とみなすとされる(91.1.)。

これに対し、権利や正当な利益を有しない者が占有している場合、その者 は誠実でない占有者とされ(第 95 条)、果実返還義務を負う(95.1.)。占有

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している財産の維持・管理・修繕に関する支出費用については、価値増加分 のみ請求できる(95.2.)。

占有の終了(第 96 条)については、占有者による占有の放棄、占有でき る権利の消滅の場合に、占有は終了するとされ(96.1.)。また、所有者や法 律上正当な占有者が正当な根拠に基づいて、現在の占有者に対し、返還請求 を行なった場合にも、同様に占有は終了するとされる(96.3.)。なお、相続 による占有移転について、被相続人に存在した限度で占有移転する旨の規定 もここに設けられている(96.2.)。

いわゆる取得時効との関わりなどで問題となる、占有離脱した場合の占有 期間の中断の扱い(第 97 条)については、中断以前の期間を算入せず、占 有期間が中断した後に新たに起算するとされるが(97.1.)、自らの意思に反 してまたは第三者の請求を原因として、占有を失った場合には、1 年以内に 権利を取戻した場合、占有期間の中断とされないことになる(97.2.)。

知的財産や権利の占有取得については、第 89 条~ 94 条の規定が準用され る(第 98 条)。

(続く)

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