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Justiz und für Verbraucherschutz)は,報告内容に関わる ₈ つの重点ポイ

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(1)

紹 介

ドイツにおけるメディエーションの発展に対する メディエーション法の影響及びメディエータの 養成・継続教育の状況についての連邦政府報告

Bericht der Bundesregierung über die Auswirkungen des Mediationsgesetzes auf die Entwicklung der Mediation in Deutschland und über die Situation der Aus- und Fortbildung

der Mediatoren

秦   公  正

    目   次

 Ⅰ.はじめに─連邦政府報告の経緯  Ⅱ.連邦政府報告の内容

   ₁ .連邦政府報告の要約

   ₂ .シュパイヤー報告におけるエグゼクティブサマリー(全体要約)

 Ⅲ.メディエーション法に関する法律問題─裁判例と文献の紹介を中心に─

   ₁ .メディエーション及びメディエータ概念    ₂ .メディエーションの任意性とメディエータの選択

   ₃ .メディエーションに関する合意(Mediationsvereinbarungen)

   ₄ .メディエーションの秘密性(Vertraulichkeit)

   ₅ .メディエーションの対象となる請求権の時効    ₆ .メディエーションの財政的な促進

   ₇ .メディエータの養成と継続教育    ₈ .総   括

 Ⅳ.お わ り に

 所員・中央大学法学部教授

(2)

I.はじめに─連邦政府報告の経緯

 2012年 ₇ 月26日にドイツで施行されたメディエーション法1)は,同国に おいて初めてメディエーションに関する基本事項,例えば,メディエーシ ョンの概念,メディエータの資格・義務,メディエータの養成などについ て定めた全 ₉ 条からなる法律である2)。その ₈ 条 ₁ 項は,連邦政府に対し,

2017年 ₇ 月26日までに,メディエーションの発展に対するメディエーショ ン法の影響及びメディエータの養成・継続教育の状況について,連邦議会 への報告を義務付けた。この規定は,立法過程の当初は存在していなかっ たが,法務委員会の推薦決議(Beschlußempfehlung)に基づき挿入され たものである3)

 このような規定が設けられた背景には立法者に次のような意識があっ 4)。すなわち,紛争解決の道具としてのメディエーション及びメディエ ータへの要求はいまなお発展段階にあり,その将来の動向をとくに観察す る必要がある,場合によっては,立法者の側で事後コントロールが必要で あるというものである。

 ところで, ₈ 条 ₁ 項は,連邦政府が報告すべき内容について詳細に規定 していない。唯一,質の保証ならびに消費者保護の理由から,メディエー

1) Gesetz zur Förderung der Mediation und anderer Verfahren der außergericht- lichen Konfliktbeilegung vom. 21. Juli 2012 (BGBl. I S. 1577).

2) 同法の和訳については,拙稿「仲裁文献紹介(228)」JCAジャーナル59巻11 号74頁以下(2012),国分貴之「ドイツにおけるメディエーション法の成立と メディエーション手続の実情」NBL1012号41頁以下(2013)を参照。

3) BT-Drucks. 17/8058参照。なお,ドイツにおいてメディエーション法が制定 されるきっかけとなったメディエーションに関するEU指令(Richtlinie 2008/52/EG des Europäischen Parlaments und der Rates vom 21. Mai 2008 über bestimmte Aspekte der Mediation in Zivil- und Handelssachen)にも,同様の評 価規定が存在する(同指令11条)。

4) Gläßer, in: Klowait/Gläßer, Mediationsgesetz, 2. Aufl., 2018, S. 342 Rn. 2.

(3)

タの養成・継続教育において別の立法措置が必要であるかどうかが検討,

評価されねばならないことだけが定められた(同項 ₂ 文参照)。

 2015年11月, 連邦司法・ 消費者保護省(Das Bundesministerium der

Justiz und für Verbraucherschutz)は,報告内容に関わる ₈ つの重点ポイ

ントを公表した5)。具体的には,①メディエーションの拡大と受容,②メ ディエーションが行われている生活領域とメディエーションの成功率,③ メディエーションの財政的な促進の利用とリスク,④裁判手続の回避ある いは合意による解決へのメディエーションの影響,⑤国家による集中的な メディエータの質の検査のメリット・デメリット,⑥メディエータへの質 の要求の適合の必要性,⑦国家による集中的な養成担当者の検査のメリッ ト・デメリット,⑧養成担当者への質の要求の適合の必要性である。

 連邦司法・消費者保護省は, ₈ 条 ₁ 項の定めに従い,シュパイヤードイ ツ公共行政研究所(Das Deutsche Forschungsinstitut für öffentliche Ver-

waltung in Speyer)に調査を依頼した。その後,同研究所から連邦司法・

消費者保護省に提出された評価報告をもとに,2017年 ₇ 月19日,連邦政府 は,この評価報告を閣議決定し,連邦議会に報告した6)。同日,報告文書 は,インターネット上で公開された7)

 なお,メディエーション法の影響調査を実施すること自体について否定 的な見解は見当たらないが,この間,その調査対象,調査基準,調査方 法,評価基準等については,研究者や各種団体から多くの問題点の指摘も なされていたところである8)

5) BMJV, Ausschreibung vom 6.11.2015, S. 2f.

6) Bundesregierung, Bericht der Bundesregierung über die Auswirkungen des Mediationsgesetzes auf die Entwicklung der Mediation in Deutschland und über die Situation der Aus- und Fortbildung der Mediatoren, 2017; BT-Drucks.

18/13178.

7) 連邦政府の報告内容(BT-Drucks. 18/13178)は,連邦議会のホームページ からPDFファイルを閲覧できる(http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/18/

131/1813178.pdf 2019年 ₂ 月27日アクセス)。

8) 一例として,調査対象について言えば,今回の調査対象にメディエーション

(4)

 以上のような経緯を経て提出された連邦政府報告につき,本稿では,主 に,以下 ₂ つに分けて紹介することにする。まず,連邦政府報告の結論に あたる報告の要約部分について(II.以下),そして,メディエーション 法の制定時から引き続き議論となっている諸問題について,例えば,メデ ィエータの概念,メディエーションの秘密性(Vertraulichkeit),メディエ ーションと時効停止(Verjährungshemmung)などについての学説・裁判 例の紹介(Ⅲ.以下)である。

II.連邦政府報告の内容

 全217頁からなる報告書は,まず,簡潔に ₅ 点でまとめられた報告の要 約(全 ₂ 頁)に始まる。そして,その次に,連邦司法・消費者保護省から 委託を受けたシュパイヤー公共行政研究所が作成したメディエーション法 の評価(Evaluierung)が添付される形となっている(全215頁。以下,こ の部分をシュパイヤー報告9)という)。シュパイヤー報告は,主として,

法律家文書の分析(裁判例と文献の評価),経験的な部分(データ調査,

データ分析,結果の評価),メディエーションの促進のために選び出され の利用者が入っていない,調査対象となったメディエータが団体に所属してい る者が中心となっているといった問題点が指摘されている(Ulla Gläßer, Viel Lärm um nichts? Überlegungen zur Evaluation des Mediationsgesetzes, ZKM 1/2018 S. 5f.)。逆に,メディエーション利用者に対するアンケート調査結果を 主な考察対象とするものとして,Freund/Ittner/Kals, 5 Jahre MediationsG Me- diation aus Sicht von Mediand (inn) nen ─ Eine empirische Untersuchung zur Nutzung von Mediation, ZKM 4/2017, S. 124ff.がある(同文献の概要は,拙稿

「仲裁文献紹介(288)」JCAジャーナル64巻11号69頁(2017)を参照)。

  また,連邦調査報告の問題点の指摘については,Peter Kaiser, Anmerkungen zum Mediationsbericht der Bundesregierung, ZKM 1/2018, S. 25ff.; Klowait/Glä- ßer, s. Fn. 4, S. 347ff.などを参照。

9) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, Evaluierung des Mediationsgesetzes ─ Rechtstatsächliche Untersuchung im Auftrag des Bundesministeriums der Justiz und für Verbraucherschutz, 2017.

(5)

た考えうる法的規律の評価,そして,総括から構成されている。

1 .連邦政府報告の要約

 まず,連邦政府報告の冒頭にある要約には,以下 ₅ 点が示されている

(以下は,私訳)。

・メディエーションの実施数は変わらず低いレベル(auf einem gleich-

bleibenden niedrigen Niveau)にあり,メディエーションは圧倒的に少

数のメディエータに集中している。

・ メディエーション活動はわずかな収入の可能性(Verdienstmöglich-

keit)しか提供しておらず,多くのメディエータは,メディエータ養成

で活動をしている。

・メディエーション費用援助(Mediationskostenhilfe)10)は,メディエ ータからメディエーションを促進するための最善の道具であると評価さ れているが,本報告は,少なくとも現時点において,一般的,かつ,分 野を限定しない(bereichsunabhängig)メディエーション費用援助に向 けた規定を思いとどまるよう助言する。

・ メディエーションで成立した合意の執行可能性(Vollstreckbarkeit)

は,メディエータからメディエーションの促進を前進させる道具として 最も低い程度でしか見られていない。本報告も,メディエーション(成 果)合意(Mediations (ergebnis) vereinbarungen)に執行力を付与する 特別規定が必要であると考えていない。

・現在,整備されているメディエータの認証(Zertifizierung)11)は,利 10) メディエーション費用援助については,後述Ⅲ. 6.を参照。ドイツのメディ エーション費用援助に関する議論状況については,拙稿「ドイツにおけるメデ ィエーションの促進に関する議論状況─メディエーションと費用援助(Kosten- hilfe)の適用対象」青山法学論集59巻 ₄ 号121頁以下(2018)を参照。

11) ドイツの立法者は,メディエータの質保証の方法として,法の定めるメディ エータ養成を修了した者が認証メディエータ(Zertifizierter Mediator)を名乗 れるとの制度を採用した(メディエーション法 ₅ 条 ₂ 項, ₆ 条参照)。詳細は 後述Ⅲ. 7.参照。

(6)

用者にとってほとんど重要でない(wenig Relevanz)。統一的な公法上 の認証システムがこれを変えることができるかは,経験上,裏付けるこ とができない(belegbar)。

2 .シュパイヤー報告におけるエグゼクティブサマリー(全体要約)12)

 次に,シュパイヤー報告では,前記連邦政府報告の要約の各項目につ き,より詳細な説明がなされている。それによれば,連邦全体における 1000人以上のメディエータによるアンケートの結果,メディエーションマ ーケット,すなわち,メディエーションの実施数は,停滞しているとの評 価がなされている。2014年に7,110件であった件数は,2015年に8,285件に なったものの,2016年には7,405件へと減少した(メディエータ ₁ 人につ き約 ₈ 件)。

⑴ メディエーションの実施数について

 シュパイヤー報告の2016年のデータでは,アンケートに回答したメディ エータの67%はメディエーションの実施数が ₅ 件に満たず,13%はそもそ も事件を全く扱ってない。回答者の18%が10~20件未満であり,わずか ₇

%だけが20件以上のメディエーションを行っている。それに関連して,メ ディエーションを副業とする者が全体の42%を占め,27%はメディエーシ ョンを例外的にしか行っていない。

 メディエータの所属に関しては,本業あるいは副業としてメディエーシ ョンを行っている者のうち,42%がコンサルタント業,コーチ業などであ り,弁護士は20%である。

 メディエータが活動する領域は様々である。企業内あるいは組織内(行 政,病院,学校,教会)が最も割合が高く全体の49%(うちビジネス分野 が26%,その他が23%となる),家族とパートナー関係が全体の22%,隣 人関係が全体の10%,そして,ビジネスメディエーション(B to B)が12

%となっている。

12) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 5ff.

(7)

⑵ 収入の可能性について

 メディエーションによる収入も非常にわずかにとどまっている。すなわ ち,メディエーション活動が収入に占める割合は,収入全体の ₄ 分の ₁ 未 満(1~24%)にとどまるという回答が最も多く,メディエーションを主 たる業務としているメディエータの集団でも,メディエーションによる収 入は半分を超えない。メディエータの多く(約25%にあたる)は,メディ エータの養成・継続教育において活動している。

 回答者の大多数(80%)は,団体によって認められた養成(78%),あ るいは,それと同等の養成を修了している。“認証メディエータ”への要 求の変更は,メディエータの養成マーケットへの本質的な影響を有してい る。しかし,他方で,“顧客”は,認証メディエータと非認証メディエー タをほとんど区別できていない。

⑶ メディエーションの効果

 メディエーションを終結する合意は頻繁になされるが,それは紛争を処 理できたことを必ずしも意味しない。メディエーションによる紛争処理の 見込みは約50%である。したがって,メディエーションの成功は例外を意 味する(紛争の終了は,「めったにない,全くない」が42%,「ときおり」

が34%,「いつも,圧倒的に」が24%)となっている。

⑷ メディエーション実施数が少ない理由とその対応

 多くのメディエータ(回答者の61%) の間では,「メディエーション の国民への周知」に関する不満がある。また,保険会社が提供する「電 話 メ デ ィ エ ー シ ョ ン(Telefonmediation)」13),「和 解 裁 判 官(Güterich- 13) Engel, in: Eidenmüller/Wagner, Mediationsrecht, 2015, S. 391によれば, いわ ゆる電話メディエーションは次のように進行する。被保険者が保険会社に紛争 を伝え,保険会社が被保険者に対し,電話によるメディエーションの試みを勧 める。被保険者が同意すれば,保険会社の依頼により,外部のサービス提供者 の従業員(多くは弁護士)が,交互に当事者と電話で往復のやり取りを行うと いうものである。しかし,これがメディエーションと言えるかについては疑問 が投げかけられている(Greger, Unter falscher Flagge ─ Zum Fehlgebrauch des Mediationsbegriffs und seinen Folgen, ZKM 6/2015, S. 173)。

(8)

ter)」

14)などの「代替的な提供者」による競争圧力も,メディエータから は否定的にみられている。

 メディエーションを促進する道具として,メディエーション費用援助 は,回答者の86%から肯定的に評価されている。しかし,シュパイヤー報 告は,現時点において,立法上の措置を思いとどまるよう結論づけた。そ の点に関連して,以下, ₂ 点の指摘がなされている。まず,非常に重要な 領域である組織内のメディエーション及びビジネスメディエーションで は,メディエーションの数を増加させる道具としてのメディエーション費 用援助は無視されていること,パートナー・家族・隣人紛争の場合には,

メディエーション費用援助が相手方との話し合いの用意を増加させること になるか疑問であることである。

 また,メディエーションの(成功)合意に執行力を付与する特別規定も 必要ない。以前,連邦政府案においては,そのような案が提案されていた 15),その手続は弁護士和解(Anwaltsvergleich)16)と同等ではなく,執行 力の付与は現存する規定で収容できる。

⑸ メディエータの養成について

 シュパイヤー報告は,認証メディエータの養成と継続教育に関する規則

(ZMediatAusbV 以下,認証メディエータ養成規則という)17)は基本的に 14) メディエーション法の施行と同時に改正されたドイツ民事訴訟法278条 ₅ 項 に採用された制度である。同項は「受訴裁判所は,訴訟係属中,和解の話し合 い及び和解の試みに向けて,メディエーションその他あらゆる紛争処理方法を 行うことができる裁判官(和解裁判官。ただし,判決権限は持たない)に当事 者を移送することができる」と規定する。

15) BT-Drucks. 17/5335, S. 7参照。民事訴訟法796d条を新設して,メディエー ションが成功した場合に,一定の要件のもとで強制執行を可能にする内容であ った。

16) 民事訴訟法796b条は,弁護士がその名で,その弁護士によって代理される 当事者の授権に基づき,結ばれた和解が一定の要件の下で執行できると規定す る。

17) Verordnung über die Aus- und Fortbildung von zertifizierten Mediatoren vom 21. August 2016 (BGBl. I S. 1994)同規則は2016年 ₈ 月31日に施行された。同規

(9)

歓迎されると結論づけた。もっとも,「認証メディエータ」との表示は,

メディエーションの問い合わせに対し,全く影響がないか,あるいは,あ ってもわずかでしかない。肯定的な効果を得る前提は,メディエータに与 えられる認証の透明性と信頼の確立と考えられる。これに関する議論の中 では,質の基準を順守することを確保する(公法上の)認証システムが必 要であると考えられているが,それにより期待された効果が生じるかは,

経験的な証明はない。

III.

メディエーション法に関する法律問題

─裁判例と文献の紹介を中心に─

 メディエーション法の制定に伴い,同法に関する多くの法律問題が新た に生じた。シュパイヤー報告の27頁以下では,メディエーション法につい ての裁判例・文献などの法律家の文書から,課題として残されている法律 問題の分析が行われている。

 その際,シュパイヤー報告が冒頭に挙げる問題は,以下の ₃ 点である。

・文献と裁判例から,メディエーション法のどのような内容が解明の必 要があるのか,また,修正の必要があるのか。

・現行規定は,どのような法律上の疑問及び実務上の問題を含んでいる か。

・どのような未解決の問題が,メディエーション法施行後も解明されて いないのか。どのような問題が新たに生じているか。

 このような基本的な問題意識から出発して,シュパイヤー報告が扱う問 題は,以下の ₈ 点に集約される。すなわち,①メディエーション及びメデ

則に関する文献に,Peter Röthemeyer, Die Zertifizierung nach der ZMediatAus- bV, ZKM 6/2016, S. 195ff.; Enrico Rennebarth, Aus- und Fortbildung von zertifi- zierten Mediatoren nach der ZMediatAusbV unter Berücksichtigung des Evalua- tionsberichts zum Mediationsgesetz, DStR 2017, S. 1843ff.がある。また,拙稿

「仲裁文献紹介(284)」JCAジャーナル64巻 ₇ 号71頁(2017)も参照。

(10)

ィエータの概念に関する議論(A.1.),②メディエータの選択におけるメ ディエーション法 ₂ 条 ₁ 項の要求(A.2.),③メディエーション手続の契 約による合意(A.3.),④メディエーションの秘密性(Vertraulichkeit)と メディエーションのあとに続く裁判手続における効果の継続(A.4.),⑤ メディエーションの対象となる請求権の時効(A.5.),⑥メディエーショ ン手続を財政的に促進する可能性(A.6.),⑦メディエータの養成及び継 続教育に関する規定(A.7.),⑧メディエーション法の改正時に検討可能 な議論点の短い総括(A.8.)である。

 このように,メディエーション法に関する議論は多岐にわたっており,

また,それらはドイツ固有の問題という側面も多分に有している。そこ で,以下では,上記項目のうち,日本の

ADR

関連法の解釈論や立法論に 役立つ部分については重点的に,それ以外の部分については簡単に紹介す る。

1 .メディエーション及びメディエータ概念18)

 メディエーション及びメディエータの定義については,次の ₃ 点の問題 がシュパイヤー報告において取り上げられている。すなわち,①ドイツ民 事訴訟法278条 ₅ 項に挿入された和解裁判官は,メディエーション法の適 用を受けるのか,また,和解裁判官がメディエーション法 ₁ 条 ₂ 項19)にお ける「メディエータ」の要件を満たしているか20),②いわゆる

Shuttle

18) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 28ff.

19)  ₁ 条 ₂ 項は,「メディエータは,メディエーションにより当事者を案内する,

決定権限を持たない,独立,かつ,中立の者である」と規定する。

20) 学説の対立については,BT-Drucks. 18/13178, S. 28f.参照。この問題の背景 には,2000年初頭から一部の州(ニーダーザクセン,バイエルンなど)で実験 的に実施されていた「裁判所内メディエーション(gerichtsinterne Mediati- on)」の維持を求める裁判所及び多数の州と,その廃止を求めるメディエーシ ョン団体, 弁護士会の意見が激しく対立し, 最終的に調整委員会(Vermitt- lungsausschuss)において,いわば妥協の産物として「和解裁判官」の概念が 導入された経緯がある(立法の経緯については,Klowait/Gläßer, in: Klowait/

(11)

続(Shuttle-Verfahren)21)は,メディエーション法 ₁ 条 ₁ 項の意味での「メ ディエーション」にあたるのか22),③メディエーション法 ₁ 条のメディエ ーション,メディエータの概念は,両当事者が具体的な事件において手続 の実施を決定し,自由にメディエータを決めることを前提とするか23)であ る。

 このうち③に関しては,メディエーション法 ₁ 条 ₁ 項が,メディエーシ ョンは両当事者が任意に行う手続である旨を定めていること,また,同 ₂ 条 ₁ 項が「両当事者はメディエータを選択する」と定めていることから生 じる疑問である。この問題については,すでに裁判例が存在しており,そ こでは権利保護保険会社(弁護士保険会社)と被保険者との間の約款の効 力が争われた24)。その具体的な約款の内容は次のようなものであった。⒜

保険会社と被保険者との間の契約において,メディエーション手続につ き,保険会社は,同社が選択したメディエータによる手続しか費用を負担

Gläßer, s. Fn. 4, S. 51f.を参照)。

21) Shuttle手続(„Pendeldiplomatie“ や„Caucus-Mediation” とも呼ばれる)とは,

紛争の当事者が直接相対することなく,メディエータとの個別のやり取りを通 じて行われるメディエーションのことを指しており,日本でいうところの別席 調停や,アメリカ法であればコーカスと呼ばれるようなやり方にあたると考え られる。なお,メディエーション法 ₂ 条 ₃ 項 ₃ 文は「メディエータは,両当事 者の同意により,当事者との別々の話し合いをすることができる」と規定して いる一方で,同 ₃ 項 ₂ 文は,メディエータは「当事者間のコミュニケーション を促進する…」と規定している。そこで,当事者が一度も同席することなく,

メディエータとそれぞれの当事者間だけで話し合いが行われ,最終的に書面で 終結合意をするような純粋なメディエーションは,当事者間のコミュニケーシ ョンの促進ではなく,単なる仲介に過ぎないとして,メディエーションの該当 性を否定する見解がある(Greger, s. Fn. 13, S. 172f.)。

22) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 29参照。

23) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 29f.参照。

24) LG Frankfurt, Urteil vom 07. Mai 2014─2─06 O 271/13.及びその上級審である OLG Frankfurt, Urteil vom 09. April 2015─6 U 110/14.において扱われた。

(12)

しない25),⒝訴訟手続はそれ以前にメディエーションの試みが行われてい る場合にのみ利用することが許される26)。結論として,LG Frankfurt及び その上級審である

OLG Frankfurt

は, いずれもそのような約款は無効で あるとした。しかし,両者は⒝の約款の有効性に関わる任意性の理解につ いて,異なる立場に立っている。すなわち,LG Frankfurtがメディエーシ ョン条項はメディエーション法が定める任意性原則に反するため無効とし たのに対し,OLG Frankfurtは,被保険者が保険契約の締結に際し,メデ ィエーション条項に任意に合意したことをもって任意性の要求に違反する ものではないと結論づけた。

2 .メディエーションの任意性とメディエータの選択27)

 メディエーションの任意性原則との関係で,メディエータの選択に第三 者が関わった場合に,これがメディエーション法 ₂ 条 ₁ 項の要件を充足す るのかが問題となる。上述した

OLG Frankfurt

は,問題となった約款に は,各人がメディエータを選択する権利を持つことを含んでおらず,ま た,両当事者のイニシアティブによることも含んでいないことを理由に,

権利保護保険の締結に際し,保険会社が提案するメディエータに同意した と解されるとした28)

25)  例 え ば,Ulrich Eberhardt, Rechtsschutzversicherung und außergerichtliche Konfliktlösung, ZKM 3/2014, S. 83ff.は, 保険会社の立場からそのような約款 の現状と有効性を考察している。

26) いわゆるメディエーション条項の有効性は,日本で十分に議論されていると は言えない。ADR合意の効力を検討する主な文献に,山本和彦「ADR合意─

訴権制限合意についての若干の検討─」『民事手続における法と実践─栂善夫 先生・遠藤賢治先生古稀祝賀』(成文堂,2014)41頁以下がある。

27) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 30f.

28) OLG Frankfurt, Urteil vom 09. April 2015 ─6 U 110/14, Rn. 43, juris.しかし,

同裁判所の見解によれば,メディエーションの試みを義務づける条項は,ドイ ツ民法307条 ₁ 項に従い,権利保護保険の目的に反するという理由により無効 であるとされる。

(13)

 また, 別の裁判例29)は, 裁判所付設メディエーション(gerichtsnahe

Mediation)

30)において,家庭裁判所によってなされたメディエータの依頼

は家事非訟事件手続法(FamFG)36条

a,メディエーション法 ₂ 条 ₁ 項に

反するとした31)

 学説は,メディエータは基本的に第三者の提案によって定めることがで きるとしている32)。ただし,その提案に同意しない可能性が存在しなけれ ばならない。

3 .メディエーションに関する合意(Mediationsvereinbarungen)33)

 メディエーションに関する合意につき,メディエーション法は何ら定め を置いていない。シュパイヤー報告は,メディエーションに関する合意 を,①メディエータと紛争当事者との間で締結されるメディエータ契約

(Mediatorvertrag)34),②紛争当事者がお互いにメディエーションの開始

(Aufnahme)を合意するメディエーション実施合意(Mediationsabrede),

③手続の終結時に両当事者がメディエーションの成果を記録するメディエ ーション成果合意(Mediationsergebnisvereinbarung)に分類したうえで,

メディエータ契約の法的性質,メディエーション実施合意の法的拘束力

(それは訴訟障害事由になるか),メディエータ契約及び実施合意の終了に

29) OLG Koblenz, Beschluss vom 21. Januar 2014 ─13 WF43/14─, Rn. 9, juris.

30) ドイツ民事訴訟法278a条 ₁ 項は「裁判所は当事者に対し,メディエーショ ンその他裁判外紛争処理手続を提案できる」と規定する。裁判所付設メディエ ーションとは,訴訟係属をきっかけとする裁判外のメディエーションを指す (Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 114)。

31) メディエータ法律関係(Mediatorrechtsverhältnis)は,当事者とメディエー タの間で発生することを理由とする。

32) Gläßer, in: Klowait/Gläßer, s. Fn. 4, §2 Rn. 59, 63.を参照。

33) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 31ff.

34) 日本のいわゆるADR利用促進法は,民間認証解決手続は「民間事業者が…

紛争の当事者双方からの依頼を受け,当該紛争の当事者との契約に基づき,和 解の仲介を行う裁判外紛争解決手続」と規定する(ADR利用促進法 ₂ 条 ₁ 号)。

(14)

分けて報告している。

 このうち訴訟法的に,日本の議論にも参考になると思われるのは,第 ₂ の問題である。あらかじめ当事者間でメディエーションを実施する合意が なされた場合, この合意は結果として訴訟障害事由(Klagehinderungs-

grund)になるのかどうかがドイツでは争われている。

 いずれもメディエーション法が施行される前のものであるが,仲裁及び メディエーション実施合意に関する最近の裁判例は35),以下に紹介する多 数の学説とは反対に,当事者が一方的にメディエーションを終了すること ができる場合は,法的な拘束力を持たないとして訴訟障害事由にならない と判示した36)

 一方で,従来,学説の多数はメディエーションを実施する合意に法的拘 束力を認めてきた37)。その結果,メディエーション実施合意に反して提起 された訴えは,被告の抗弁により不適法として却下される。そのような拘 束力の主たる根拠は,当事者が自発的にメディエーションを実施する合意 35) OLG Frankfurt, Beschluss vom 12. Mai 2009 ─14 Sch 4/09─ NJW-RR 2010,

788ff.及 びLG Heilbronn, Urteil vom 10 September 2010 ─4 O 259/09, ZKM 2011, S. 29. メディエーション実施合意の効力が問題となった後者の事案では,

原告である請負人が注文主に対し,請負代金の支払いを求めて起こした訴えの 適法性が問題となった。両者の間には,通常訴訟を利用する前に,ビジネスメ ディエーションを実施することを義務づける文言,ならびに,両当事者はいつ でも制限なくメディエーションを終了できるとする文言があった。

36) OLG Frankfurt及びLG Heilbronnは,いつでも当事者がメディエーション 手続を終了できる場合において,「メディエーションを試みる必要がある」と の文言の使用は„単なる決まり文句(bloße Förmelei)“ であるとする。なお,

メディエーション法 ₂ 条 ₅ 項は,「当事者はいつでもメディエーションを終了 できる」と規定する。

37) Tochtermann, Mediationsklauseln ─ Teil II, ZKM 3/2008, S. 90; Unberath, Me- diationsklauseln in der Vertragsgestaltung, NJW 2011, S. 1322; Loos/Brewitz, Hindert eine Mediationsvereinbarung an der Klage? ─ Wie lange?, SchiedsVZ 2012, S. 309; Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 115ff.; Greger, in: Gre- ger/Unberath/Steffek, Recht der alternativen Konfliktlösung, 2. Aufl., 2016, §1 S.

66 Rn. 199ほか。

(15)

をした以上,「契約は拘束される(pacta sunt servanda)」との原則に従う と考えられるからである38)。もっとも,その紛争の対象が当事者の処分に 服するものである必要がある39)。また,メディエーション法が施行される 前の裁判例では,BGH(連邦通常裁判所)も調停(Schlichtung)を実施 する合意についてその拘束力を肯定していた40)。肯定説は,メディエーシ ョン実施合意の法的性質を, 一時的な訴権の放棄の合意(Dilatorischer

Klageverzicht)であると解している

41)

 拘束力を肯定する見解に立つ場合の問題は,いったいどのような行為を すれば,メディエーション実施合意の要求を満たしたことになるのか,と いう点であろう。Tochtermannはこの点について詳しく述べている42)

Tochtermann

は, メディエーションへの参加義務を, 形式的対話義務

(Formelle Verhandlungspflichten)と実質的対話義務(Materielle Verhand-

lungspflichten)に分けて論じている。まず,前者については,例えば,

当事者がメディエーション実施団体でのメディエーションの実施に合意し た場合,当該団体のメディエーション規則に従い,手続を開始するために 予定されているステップをふむことを義務づけられる。具体的には,メデ ィエータの選任,何らかの管理費用やメディエータ費用の予納などであ り,さらに,両当事者は少なくとも最初の期日に実際に参加することも義 務付けられるとする43)。これに対し,後者の問題,つまり,どのように当 事者が話し合いを行わなければならないかという実質的な義務の範囲を積

38) Tochtermann, s. Fn. 37, S. 90; Unberath, s. Fn. 37, S. 1322など。

39) Unberath, s. Fn. 37, S. 1322; Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 116;

40) Unberath, s. Fn. 37, S. 1321。BGHの判例として,Urteil vom 04. Juli 1977 ─ II ZR 55/75─, NJW 1977, 2263; BGH, Urteil vom 23. November 1983 ─ VIII ZR 197/82─, NJW 1984, 669;最近の判例として,BGH, Urteil vom 29. Oktober 2008

─ VII ZR 165/06─, NJW-RR 2009, 637

41) Unberath, s. Fn. 37, S. 1321; Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 115f.

42) Tochtermann, s. Fn. 37, S. 90f.

43) Unberath, s. Fn. 37, S. 1322も,メディエータの選任,少なくとも最初のメデ ィエーション期日への参加を義務内容として挙げている。

(16)

極的に決めることは,Tochtermann自身, 非常に難しい問題であること を認めている44)。しかし,逆に,どのようなことは許されないかとの消極 的な義務として,例えば,相手を欺罔して契約締結に動かすことや違法な 脅迫を行うことは禁止される,などの義務を導くことは可能であるとす る。

4 .メディエーションの秘密性(Vertraulichkeit)45)

 メディエーション手続において,メディエータや当事者が知り得た情報 は,その後どう扱われるかという問題がある。メディエーション法 ₄ 条 ₁ 項 ₁ 文本文は,「メディエータ及びメディエーションの実施に含まれた者 は守秘義務を負う」と規定している。この ₄ 条の規定は,メディエータ等 に守秘義務を課した点でメディエーション指令46)の要請を超えるものであ る。しかし,学説上は, ₄ 条による秘密保護に対する疑問が存在する。

 一番の問題は,純粋に裁判手続では知り得なかった情報がメディエーシ ョン手続において提供された場合に,当事者がその情報を後に行われる訴 訟手続で持ち出した場合の取り扱い(いわゆる外部秘密性

„externe Ver- traulichkeit“)である。メディエーションで明らかとなった内容が秘密と

され,その後に続く訴訟においてもそれが保たれることは,メディエーシ ョンを成功させるための本質的な問題と言えるからである。外部秘密性の

44) 例えば,「信義誠実に紛争の合意による解決にむけて努力し,話し合う」と いった内容では,その義務の実現可能な形になっていないが,他方,あまりに 明確な輪郭を持つ定義は,契約自由の原則,和解締結に向けた自由な話し合い の実施にも矛盾することになるという(Tochtermann, s. Fn. 37, S. 91)。

45) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 34ff.

46) 前掲注3)に掲げたEU指令 ₇ 条(Art. 7)は,「メディエーションは秘密を 守る方法で行われるべきであるから,構成国は,当事者が別段の合意をしない 限り,メディエータならびにメディエーション手続に含まれた者が,民事・商 事事件の訴訟手続,仲裁手続において,メディエーション手続やそれに関連し て明らかとなった情報について証言することを強制されないことを保障する」

と規定していた。つまり,証言拒絶が許されるという要求であった。

(17)

問題が生じた背景には,メディエーション法の立法理由により47), ₄ 条 ₁ 項の守秘義務を負う者に,当事者や両当事者の同意のもと手続に関与する 第三者が含まれないとされたことにある。EU指令 ₇ 条は,広い裁量の余 地を各構成国に与えていた。しかし、 ₄ 条がそのような規定にとどまった のは,これまでも当事者間で秘密保持契約がなされているのが通常である と考えられたことにあるとされる48)。また,立法者も当事者間で秘密保持 契約を締結することを勧めている49)

 他方で,秘密保持契約による対応には,秘密保持の範囲を正確に定めら れるのかなど50),実務的な観点から疑問を呈する見解も存在する。

5 .メディエーションの対象となる請求権の時効51)

 メディエーションの実施中,交渉の対象となる請求権の時効が進行する のかどうかは, 法理論上も, 法政策上も重要な問題の ₁ つと考えられ 52)。2001年11月26日に成立したドイツ債権法現代化法(現行民法)は,

47) BT-Drucks. 17/5335, S. 17.

48) Wagner, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 267.

49) BT-Drucks. 17/5335, S. 17参照。

50) Schekahn, Außergerichtliche Mediation und die drei großen » V « -Vollstre- ckung, Verjährung, Vertraulichkeit, JR 2/2013, S. 56; Thole, Das neue Mediati- onsgesetz, ZZP Heft 3/2014, S. 364.なお,連邦参議院は,立法過程において,

民事訴訟法に処分可能な提出禁止(dispositives Vortragsverbot)を入れること でメディエーションの秘密を守ることができないか検討することを求めてい た。Schekahnも,秘密保持に関する最低限の基準を法律に規定することを勧 めている(Schekahn, S. 58)。

51) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 36f.

52) 主に,民間の裁判外紛争処理(ADR)を想定した場合,日本では,これま で,ADR利用促進法25条が認証紛争解決手続(国の認証を受けた機関におけ る手続)につき,手続実施中の時効完成を防ぐ規定を設けているだけであっ た。これに加えて,今般の民法(債権関係)の改正により,協議中の時効の完 成猶予の規定が新設された(新民法151条)。そこでは,完成猶予の要件とし て,協議を行う合意の存在,書面による合意が必要であり,また,完成猶予期 間に上限が設定されていることなどに特徴がある。

(18)

当事者間の交渉に時効の停止を認める規定(ドイツ民法203条) を設け 53)。その目的は,両当事者において請求権に関する,徹底的な,静穏か つ平和的な交渉を可能にすること,そして,理想的には和解による合意に 到達させることである54)

 なお,訴訟係属中,事件が和解裁判官のもとに付されてメディエーショ ンが行われる場合は,訴えの提起による時効の停止を定めた204条 ₁ 号の 規定により,時効が停止する。

 上述した203条の規定については,抽象的な文言が用いられていること もあって,メディエーション法施行後も,その解釈をめぐって議論が続い ている。そこでの問題点として,例えば,時効停止の対象となる権利,時 効停止を受ける人的範囲,除斥期間と時効の関係などが挙げられるが55) 最も大きな問題は,条文上,時効停止の要件となる「交渉が継続している

(schwebende Verhandlungen)」ことを何を基準に判断するかである。こ の点に関し,シュパイヤー報告では,①交渉の開始と終了及び②法改正の 必要性に関する学説が紹介されている。

 まず,交渉の開始に関しては,メディエーション実施合意などにより生 じる交渉義務の存否によって判断が異なってくるとする学説がある56)。こ の見解によれば,交渉義務がすでに存在する場合には,一方当事者からの

53) 203条は次のように規定する。「債務者は債権者との間において請求権又は請 求権を基礎付ける事情について交渉が継続しているときは,当事者の一方又は 他方が交渉の継続を拒絶する時まで,消滅時効は停止する。停止の終了後 ₃ か 月を経過するまでの間は,消滅時効は,完成しない。」(訳文は法務省民事局参 事官室編『民法(債権関係) 改正に関する比較法資料』 別冊NBL146号33頁

(2014)による)。日本の改正民法151条のように,書面による協議の合意等は 要求されていないし,停止期間の上限も定められていない。

54) Boemke/Dorr, Verjährungshemmung durch Verhandlung, NJOZ 2017, S. 1579.

55) Boemke/Dorr, s. Fn. 54, S. 1578ff.は,203条をめぐる法律問題を網羅的に検 討している。

56) Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 122; Hagel, in: Klowait/Gläßer, s.

Fn. 4, S. 568.

(19)

メディエーション実施の要求をもって交渉が開始することになる。これに 対しては,実際にメディエーションを行うことに相手方当事者が同意をし てはじめて時効停止の効果が生じるとする見解57)が対立している。前者の 見解に立つ

Hacke

58),メディエーション条項(実施合意)がある場合 も,相手方がメディエーションの実施に同意しなければ交渉が開始しない とすれば,時効完成を懸念する当事者は,訴えを提起して時効の停止を図 らねばならなくなるが,このような訴えは,一時的な訴権の放棄の性質を 持つメディエーション実施合意に反してなされる不適法な訴えであるの で,裁判所は提起された訴えを休止するか,中断することになり,これ は,訴訟不経済であるだけでなく,EU指令や立法者の意思にも反すると 主張する。

 次に,交渉の終了の判断基準についても,それを緩やかに解するか,よ り厳格に解するかの見解の対立がある。前者に立つ

Hagel

59),一方の 当事者がメディエーションの継続を明確に拒絶するか,メディエータが ₂ 条 ₅ 項 ₂ 文の規定に従って,メディエーションを終了した場合,さらに,

一方当事者のメディエーション実施の提案に対して,他方がメディエーシ ョンを開始するつもりがないことを明確に知らせた場合であるとする。こ れに対し,Ellenberger60)

Hacke

61)は,いわゆる「二重の否定(doppel-

tes Nein)」,すなわち,請求権の否定とさらなる話し合いの否定が必要で

あると主張している。

 メディエーション法 ₂ 条 ₅ 項 ₁ 文は,「当事者はメディエーションをい つでも終了できる」と規定している。この規定に従い,メディエーション を終了した場合に,時効停止の効果が即座に消滅するのかは条文上明らか

57) Staudinger/Peters/Jacoby, BGB Allgemeiner Teil 5, 2014, §203 Rn. 9; Wagner, Das Mediationsgesetz ─ Ende gut, alles gut ?, ZKM 2012, S. 110.

58) Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 122.

59) Hagel, in: Klowait/Gläßer, s. Fn. 4, S. 570.

60) Ellenberger, in: Palandt, BGB, 2017, §203 Rn. 4.

61) Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 124.

(20)

とされていない。メディエーションの終了が同時に交渉の終了となる場合 にはその通りであるが,メディエーションは終了しても,当事者間での交 渉が継続している場合には,時効停止の効果は継続する62)

 以上のような203条の文言の不明確さを背景に,203条の改正あるいは新 たな規定の必要性を述べる見解がある63)

6 .メディエーションの財政的な促進64)

 すでにⅡ.において確認したように,メディエーションを促進するため に,いわゆるメディエーション費用援助(Mediationskostenhilfe)の規定 を一般的に設けるべきかについて議論が続いている65)。簡潔に述べれば,

メディエーション費用援助とは,メディエーションにかかる費用のすべて 又はその一部を公費(州の財政)で負担する制度のことであり,すでに訴 訟手続や家事事件手続に対しては,訴訟費用等を州財政で負担する制度が 存在する(訴訟費用・家事手続費用援助。ドイツ民事訴訟法114条以下66)

62) Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 124.

63) Hacke, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 123.具体的には,仲裁手続の開 始による時効停止を定めた民法204条 ₁ 項11号に依拠して,書面によるメディ エーションの要求は,これを相手方が書面をもって拒絶するか,関連する話し 合いが終了するまで時効を停止する,との規定を設けるか,あるいは,民法 203条に「交渉」の期間には,書面による話し合いの要求から書面によるその 拒絶までの期間が加えられる,との文言を追加することが考えられるとする。

64) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 37f.

65) これまでのメディエーション費用援助に関する議論の状況については,拙 稿・前掲注10)・121頁以下も参照。

66) ドイツ民訴法114条 ₁ 文は「当事者は,その人的及び経済的関係によって訴 訟追行の費用を負担できないか,また一部しか若しくは割賦(in Raten)でし か負担することができない場合において,意図した権利の追行又は防御につい て勝訴の十分な見込みがあり,かつ,恣意的でないと認められるときには,申 立てにより訴訟費用援助を受けることができる」と規定する(訳文は,法務大 臣官房司法法制部編『ドイツ民事訴訟法典─2011年12月22日現在─』(法曹会,

2012)51頁による)。

(21)

家事非訟事件手続法76条以下参照)。そのような規定の設けることがメデ ィエーションの促進につながりうることは,メディエーション法施行前か ら認識されていた67)

 しかし,現行メディエーション法は,一般的にメディエーション費用援 助の規定を設けることはせず,その ₇ 条 ₁ 項において,学術的な研究計画

(wissenschaftliche Forschungsvorhaben) として,「連邦と州は, 州に対 するメディエーションの財政的な促進の結果を調査する合意をすることが できる」とし,同 ₂ 項は,権利を実現しようとする当事者の申立てに基づ き, 研究計画の枠内で促進を認めることができると定めるにとどまっ 68)。したがって,メディエーション費用援助が実現されるためには,連 邦と州との調査合意が待たれることになるが,少なくともシュパイヤー報 告の時点(2017年 ₆ 月)では,そのような合意はなされていない69)  このような状況を背景に,シュパイヤー報告は,メディエーションの費 用面での刺激を戧り出すための解釈論70)及び立法論を提示する文献を簡潔

67) Koch, Kostenhilfe für außergerichtliche Streitbeilegung, ZKM 3/2007, S. 75;

Greger, Die Reglementierung der Selbstregulierung Zum Referentenentwurf ei- nes Mediationsgesetzes, ZRP 2010, S. 212f.など

68) Greger, in: Greger/Unberath/Steffek, s. Fn. 37, S. 202は, ₂ 項が「促進を…

認めることができる」との規定の仕方では,国家によるメディエーション費用 の引き受けの可能性を定めるにとどまり,市民から求められる履行に対する法 的根拠をなお与えていないという理由で不十分であるとする。

69) Paul/Weber, in: Klowait/Gläßer, s. Fn. 4, S. 332 ただし,ベルリンでは,„Ber- liner Initiative geförderte Familienmediation“ (BIGFAM)という名で, ₇ 条 ₁ 項 による連邦と州の合意に基づかずに,親子関係事件における裁判所付設メディ エーション(gerichtsnahe Mediation)の財政的な促進プロジェクトが実施さ れている(https://www.big-familienmediation.de/ 2019年 ₂ 月27日アクセス)。

70) ドイツ民事訴訟法278a条によって裁判所付設メディエーションが行われる 場合には,そのための費用の一部は,訴訟費用援助の対象になると解される

(Engel, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 395)。また,メディエーション法 施行前の裁判例であるが,OLG Köln, Beschluss v. 3. Juni 2011 ─25 UF 24/10, ZKM 1/2012, S. 29ff.

(22)

に挙げている。Althammerの文献71)はメディエーション法施行前のもの であるが,解釈論として,訴訟費用に関して規定するドイツ民事訴訟法91 条以下につき,「メディエーションに好意的(meditionsfreundlich)」な解 釈が考えられるとした72)。また,Hess73),費用法の裁量規定は,これ まで以上に,メディエーション及び和解に好意的に解釈されるべきである とする。これらの見解は,訴訟費用援助(ドイツ民訴法114条以下)の対 象に,裁判外のメディエーションも含まれるとする解釈を探るものと言え る。

 次に立法論としては,イギリス法に倣って,メディエーションの一方当 事者による拒絶態度や協力の否定があった場合,裁判所の裁量により当該 当事者に対し,費用法上の制裁を与える規定を設ける可能性74)などが紹介 される。また,シュパイヤー報告で引用された文献以外にも,最近の文献 で立法論を挙げるものがある。Engelは,ドイツ民訴法114条以下,家事 非訟事件手続法76条以下と同様に,完全な費用援助により裁判外のメディ エーションを促進することが考えられるとする75)。このような考えを後押 しする理由として,経済的に困窮している当事者がメディエーションの方 が本来よりよいと考えたとしても,訴訟手続を求める事実上の誘いが存在 していること,また,近時,連邦通常裁判所が76),法治国家においては,

争いとなっている問題状況を裁判官による判決ではなく,合意により解決

71) Althammer, Mediation als prozessuale Last, JZ 2/2006, S. 74.

72) Thole, s. Fn. 50, S. 365.

73) Hess, Mediation und weitere Verfahren konsensualer Streitbeilegung ─ Rege- lungsbedarf im Verfahrens- und Berufsrecht?, Gutachten F zum 67. Deutschen Juristentag Erfurt 2008, F117.

74) Thole, s. Fn. 50, S. 366 ただし,ドイツ費用法(KO)には,確固たる費用原 則,つまり,統一原則(Einheitsprinzip),オールオアナッシング原則(Alles- oder-nichts-Prinzip)があるので,イギリス費用法をそのままドイツ法に移植 することはできないとする。

75) Engel, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 399f.

76) BVerfG Beschluss v. 14. Feburar 2007 ─1 BvR 1351/01, NJW-RR 2007, S. 1073

(23)

することが原則として優先すると述べたことが挙げられる。 さらに,

Engel

は,とりわけ家事事件においてはメディエーションによる手続効率

の上昇が経験的に証明されているため,独自のメディエーション費用援助 の意義があるように思われるとする77)

 ところで,前述のように,シュパイヤー報告は,現時点において一般的 かつ領域を限定しないメディエーション費用援助を導入することに消極的 な見解を示していた。その理由は,訴訟費用援助に倣って現行ドイツ民訴 法114条と同様の規定を設けることを考えた場合, ₂ つの問題,すなわち,

①「成功(Erfolg)の見込みが十分にある」という要件をメディエーショ ンの場合どのように設定するかの問題及び②「恣意的(Mutwillig)でな い」との要件を用いることができるかという問題があるためである78)。こ のうち,とくに,①の問題が大きく,何をもって成功(Erfolg)と見るか については,例えば,メディエーション成果合意の締結,メディエーショ ン当事者間の雰囲気の改善,紛争点の一部の解決など,多くの可能性が考 えられることになる。そこで,他の見解は,事件がメディエーションに適 していること(mediationsgeeignet)をその判断の中心に据えることを試 みる。しかし,この見解もまた,メディエーション適性をどのように判断 するのか,という問題を生じることになる79)。その上で,シュパイヤー報 告は,訴訟費用援助を類推してメディエーション費用援助を,一般的に分 野を限定せずに規定することは,重要な事実上・法律上の困難に遭遇し,

部分的には包括的な法政策上の議論を引き出すことが確認され,現時点に 77) Engel, in: Eidenmüller/Wagner, s. Fn. 13, S. 400.

78) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 177ff.

79) シュパイヤー報告では,裁判官にその判断の大きな裁量を与えているイギリ ス法が紹介されているが,その判断基準として,例えば,当事者が合理的に事 件の成功の見込みを判断したか,どの程度他の紛争処理方法が試みられたか,

裁判外紛争処理の費用が争いとなっている額に比べて不釣り合いに高くない か,裁判外紛争処理の試みの遅れがどのような影響を持つか,裁判外紛争処理 が合理的な成功の見込みを提供するかなど諸々の要素が挙げられる(Masser/

Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 178)。

(24)

おいて,それらの問題に対する解決策はなく,あるいは,実施されていな い。さらに,一般化するための認識を供給する可能性があるメディエーシ ョン法 ₇ 条の研究計画もいまだ存在していないとして,メディエーション 費用援助の規定化に消極的な立場を採っている。

7 .メディエータの養成と継続教育80)

 メディエーション法は,メディエータの質保証の観点から,認証メディ エータ制度を導入した。これは,連邦や州による許可モデルでもなけれ ば,定められた養成基準の履行とそれに伴う一定の法律上の優遇や特典を 戧設するモデル(特典メディエータとして公の名簿などに登載される)で もない。ドイツ法が採用した方法は,いわゆる品質保証モデル(Gütesie-

gelmodell)である。この制度は,いわば „自己責任による質保証(eigen-

verantwortliche Qualitätssicherung)

81)であり,メディエーション法に定 められた要件に従った養成を受け,それを修了することによって(そのた めに資格の与えられた機関が修了証を出す),認証メディエータを名乗る ことができる。

 認証メディエータ養成規則82)が定める養成及び継続教育の内容には,次 のようなものがある。 認証メディエータの養成は, 養成講習(Ausbil-

dungslehrgang) と個別監督(Einzelsupervision) から構成され( ₂ 条 ₁

項),講習では同規則の添付別表に挙げられた内容が伝えられ,実務練習 及びロールプレイが含まれねばならない(同 ₃ 項),講習は最低でも120時 間の出席(Präsenzzeitstunden)が必要であり(同 ₄ 項 ₁ 文),その個々の 内容は添付別表の ₃ 段目で示された講習時間を含む必要がある(同 ₂ 文)。

また,継続研修に関して,認証メディエータは定期的に継続教育の講習に 参加しなければならず、その時間数は ₄ 年間に最低40時間である(同 ₃ 条

80) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 38.

81) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 153.

82) Verordnung über die Aus- und Fortbildung von zertifizierten Mediatoren (ZMediatAusbV) vom 21. August 2016 (BGB1. I S. 1994).

(25)

₁ 項)。

 シュパイヤー報告によれば,認証メディエータ養成規則に規定された養 成要件などに対して批判的な文献が存在することが明らかにされる83)。そ の批判の中心は,次の点にある。すなわち,規制を可能な限りなくすこと で,いまだ若いメディエーションの柔軟性および発展の開放性を尊重した 品質保証スタンプモデルを採用したことにある。そのため,一部の学説か らは,公法上の認証システムの規定化の要求がなされている84)。また,規 則が定める講習の内容にも批判がある。すなわち,規則 ₂ 条 ₄ 項が定める 120時間の講習への出席は量的に少ないのではないか85),条文末に添付さ れた別表に挙げられた講習項目とその時間数は詳細に定められ過ぎてお り,より自由度の高い,変更が可能な形にすべきである86)といった意見で ある。

8 .総   括87)

 シュパイヤー報告では,まとめとして,主に以下 ₃ 点につき,将来のメ ディエーション法改正における検討事項が挙げられた。すなわち,①メデ ィエーション法 ₄ 条を拡大し,当事者及びその代理人弁護士に対しても守 83) Fritz, Das Gütesiegel „Zertifizierter Mediator”, ZKM 2/2014, S. 62ff.は,認証

メディエータ養成の政府提案に対して全般的な考察を行っている。

84) Fritz, s. Fn. 83, S. 64.公法上の認証システムの採用に積極な理由として,統 一基準によって国家が信用を与えた場所,そしてそれが透明性の保証と認証の 信頼できる評価を与えること,また,消費者事件のためのEUのADR指令

(Richtlinie/11/EU des Europäischen Parlaments und des Rates vom 21.05.2013 über die alternative Beilegung verbraucherrechtlicher Streitigkeiten, ABl L 165, S. 63ff.)が,調停人(Schlichter)のための試験所を規定しており,裁判外紛 争処理に関する法律の首尾一貫した構造に貢献する(Röthemeyer, Die Zertifi- zierungsfiktion, ZKM 2/2014, S. 67)などが挙げられる。

85) Burchardt/Johnson, in: Haft/Schlieffen, Handbuch Mediation, 3. Aufl., 2016, Rn. 44; Klowait, in: Klowait/Gläßer, s. Fn. 4, S. 493.

86) Eidenmüller. Editorial, ZKM 3/2013, S. 71.

87) Masser/Engewald/Scharpf/Ziekow, s. Fn. 9, S. 38.

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