投票行動に関する理論図式の再構成
その他のタイトル Reconstruction of the theoretical scheme on voting behavior
著者 中道 実, 滝本 佳史
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 11
号 1
ページ 121‑156
発行年 1979‑11‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00022900
中 道 実 ・ 滝 本 佳 史
は じ め に
投票行動研究の究極の目的は,候補者のうちで誰が当選するかという問いに答えることである。
そのためには,当然のことながら, 「人は何故投票するのか」 「何故,そのように投票するの か」という「目的変数」を,いくつかの「説明変数」によって記述し,予測することが必要であ るD。 この立場から,投票行動に影響を与える社会学的,心理学的,政治学的諸要因を種々な研 究方法による経験的・実証的デークに基づいて,発見・抽出し.それらの投票行動に果たす規定 力を測定しようとする試みが,近年盛んに行なわれている。ことに豊富な資金と巨大な人的・組 織的資源を活用しうるマス・コミ媒体機関や選挙産業が実施してきた調査研究の成果は着実に蓄 積され,驚くほど効率のよい選挙予測を可能にしている。しかしながら,これらの研究成果は,
往々にして長い年月にわたる資料の蒐集と蓄積の上に成り立つものであり,それだけに多額の資 金と労力を投資したそれぞれの機関の商品として,従って秘密の財産または武器としての性格を 付与され,一般に公表されることはない。また,選挙予測を可能にする方法論についても, ヴェ ールの内にあるのが実情である2)。 これら主として商業機関が行なう選挙予測の,投票行動研究 の理論的水準向上に対する貢献という点での最大の難点は,それの商品性の故に,いたずらに実 用的な様相を呈したり,また,いたずらに消費者の好奇心を満足させようというような要請に応 えることを避けえない点にあり3), 従って,歴史的・社会的に限定的な状況要因を過度に強調す る記述的・解釈的性質を帯びざるを得ず,科学的理論が要求する普遍化的・一般化的説明志向を 犠牲にする傾向があるという点にある。科学的理論の構築を志向する投票行動の研究が,その要 請に応えるために,個々の個的ないし集合的投票行動に共通の一貫した原理・法則性を表現する 理論的命題体系,従って時間と場所を超越した情報価値の高い諸命題の統合への営みを課題とす るものである4)とすれば,いかに経験的証拠の十分与えられた研究ファインディングズが蓄積さ れようとも,それらが空間的・時間的に限定された情報価値の低い通常の命題群の集合でありつ づける限りにおいて,それらの投票行動理論に対する水準向上の貢献度は低いものにとどまらざ るを得ないといえる。投票行動研究を試みる人々にとって大切なのは,経験的証拠を必要とする
1) 飽戸弘「投票行動の社会心理学」放送学研究,19, 1968年, 83頁。
2) 飽戸弘「政党支持の論理と心理一現代日本人の政党支持の要因と機制についての社会心理学的考察」
埼玉大学教狼学部紀要,第3巻, 1968年, 60頁。
3) 橋本彰「投票行動の心理的側面」政経論叢,35ー3•4, 1967年,324頁。
通常仮説的命題体系としての理論図式を設定することから,それらの命題を構成する諸変数の決 定と測定へと進み,次いで多変量解析その他の統計的方法による仮説的命題の検証を経由した,
経験的証拠の付与された通常定説(調査ファインディソグズ)の選択と,それらの体系としての 修正理論図式の再構成という一定の研究手続きを踏みながら,諸命題の普遍化,一般化を試みて いくと共に,更なる高度な理論的命題への到達をめざして,それらに含まれる通常命題から再構 造化された理論図式の新たなる提示とそれらの反復的検証という継続的なフィード・バック的作 業を積み重ねていくことである。投票行動研究の先駆的業積である P,F・ラザースフェルド等 のエリー研究, B・ベレルソン等のエルミラ研究, A・キャンペル等の全国的な大統領選挙調査 研究等々が投票行動研究の理論的水準の向上に多大の貢献をなしたと評価され常に挙示されるの は,それらの「理論図式の明確性,要因の測定の適確さ,統計的処理の適正さ」5)の故に,その後 の同分野における基本的な研究枠組を提供するものとして,空間的・時間的に限定された個別的 調査研究成果の実効的蓄積を可能にしてきたからである。
I 投 票 行 動 研 究 の 理 論 的 枠 組
これまで,投票とさまざまな社会的・政治的・心理的変数との間の関係に関する実証的研究を 通して,種々の投票行動説明変数の発見・選択がなされ,その規定力測定の試みがなされてきた。
この種の研究の中で,科学的な手続きと方法論によって,投票行動研究領域における先駆的な業 績とされるのは, 1928年に公刊された S•A・ライスの QuantitativeMethod in Politicsであ る。これは投票行動の研究を,社会学に伝統的な数量的方法を用いて,社会変動の研究や態度の 決定因分析等の一般的な社会科学の問題と結びつけようとする最初の注目すべき著作であった。
彼は公的な選挙統計とコロソビア大学の学生集団に対する態度テスト・質問紙調査を併用するこ とによって,政治的態度と政治的行動との因果関係,社会下位集団間の政治的差異,政治的態度 の地域的伝播と配分,政治的態度と政党・候補者選好との間の時間的変化等々の発見と記述・分 析を行なっているが,これらの主題と関心の多くは,その後あらわれる著名な投票行動研究によ って追求された分析ラインの底礎となったものである。しかし,態度測定のはじまったばかりの 初期の段階で,また,世論調査技術の未熟な時期に著わされたこの著作は,用いた資料の限定性 も加わって,要因の操作とアプローチの単純さを否定できず,彼の論議の基礎をなす政治行動モ デルの先駆性と素朴性に難点があったといわなければならない。ライスの功績はむしろ,それま での規範的政治理論や公的行政・公法の研究に主題と関心を集中させていた政治科学分野に実証 的・経験的研究方法を導入し,この分野でのパイオニアとしてその後の経験的投票行動研究を強
4) ハンス.L・ゼクーバーグ著,安積仰也,金丸由雄訳『社会学的思考法』ミネルヴァ書房,1973年.
86ー95頁。
5) 間場寿一「投票行動の研究ーマス・コミュニケーション行動との関連において一」人文学,1966年, 87頁。
<刺激したことにある叫
バネル・デザイン,社会調査技術,測定法の卓越さにおいて,今日の経験的投票行動の標準を 提示する ThePeople's Choiceが P・F・ラザースフェルド, B・ベレルソン等のコロンビア大 学グループによって公刊されたのは1944年(第1版), 1948年(第2版)であった。この著作はラ イスのそれが扱かった主題の多くを引きついでいるが,使用調査技術の発達によって,ライスの 限界を大きく越えている。ライスがその有用性を十分認識しながら,彼の技術がそれを有効に利 用することを許さなかったパネル・デザインはラザースフェルド等によって十分な確立をみるこ とになったし,ライスの態度に対する関心が,大きなスケールでの直接的な測定法の欠如の故に,
思索的・間接的に満足されうるにすぎなかったのに対し,その過程の多くはラザースフェルド等 にとっては接近可能なものとなったからである。この研究の関心は,人々がいかなる仕方で政治 的態度を形成し,変化させ発展させていくかにおかれた。このため,選挙期間中に政党忠誠を変 えた人,選挙期間の終わりまでそれを決定しなかった人,明確な投票意図を明言しながら投票行 動をとらなかった人など,多様なタイプの投票意図変更者や非移行者が研究の中心的対象者とさ れ,彼らの態度形成と変化。安定の過程を観察することが目的とされた。戦略的には,対象者の 個人的属性,他の人々との接触,マス・メディアとの接触が,長期にわたるパネル調査法を援用 して注意深く検討されたのである。その結果,研究者たちは,①選挙市場には強い政党忠誠をも った非常に多くの投票者が存在し,彼らは特定の政党に対する長期的・安定的愛着を示すこと,
②大部分の投票者が選挙期間の初期から投票選好を決定し,彼らの選択を安定して保持しつづけ ること,③投票選好の変更の欠如の故に,マス・メディアとキャンペーンの効果は明白に識別さ れえないこと,④パースナリティ特性は何らかの重みをもつ変数ではないことのファインディン グズを得た反面,⑤三つの属性変数,即ち,社会経済的地位と宗教,農村一都市別居住地が候補 者選択に重要な役割を果し,独立した規定力をもつことを発見したのである。この発見は投票の 差異の多くを説明しうる測度として,三つの社会的属性から成る合成変数としての「政治的先有 傾向の指標 (IPP)」を構築することを可能にし,それによって投票意図の決まっていない人々が,
どのように投票するか,投票意図を変える人々はどのような変化方向をたどるか,をかなりよく 予測することができたのである。ちなみに, 「全ての裕福なプロテスタントの農民は共和党に投 票し,大都市に住むカソリックの貧しい労働者は民主党に投票する傾向がある」との知見に基づ いて社会経済的地位水準と宗教・居住地の層化とスコア化の手続きを行ない合成された IPP は,強力な共和党先有傾向者と強力な民主党先有傾向者を両極におく,有権者の尺度的配分を可 能にすると共に,投票意図が自己の社会的背景と一致する人々はそれを安定して持続させ,投票 意図が自己の所属する社会的背景と異なる逸脱者は,それと合致する方向へ投票意図を変更させ る傾向があることを高い判断率で予測させ得たのである。この一般化は, 「政治的先有傾向の法 6) Peter H. Rossi, "Four Landmarks in Voting Research", in E. Burdick and A. J. Brodbeck,
AmeガcanVoting Behavior, 1959, pp. 8 14 .
則」として定式化されている。このような,いわゆるデモグラフィック要因と投票行動との間の 規定関係に関しては,わが国でも盛んに研究されてきており,様々な興味ある関連が見出され,
多くの成果をあげるに至っている。
The Peoples Choiceにおける政治的先有傾向の定式化は,著者たちの研究課題を必然的に交 差圧力の検討へと発展させることになる。現代の複雑に分化された社会においては,個人は多様 な社会的集団ないし集合に所属している。したがって,個人にとって重要な複数の所属集団ない し集合が投票選好に関して矛盾する方向に圧力をかける場合,彼は常にこの交差圧力をいかに解 決するかの決定に迫られるだろう。この課題に対するラザースフェルド等の応答は, 「交差圧力 を経験する人は,そうでない人に比べ①明確な投票決定に到達するのに,かなり長い時間を要す る,Rいかなる投票決定もすることができない傾向がある,③投票意図を変えやすい」という知 見の提示であった。このような交差圧力の役割に関する発見は,以後の投票行動研究にとっての 典味ある主題となったものであり,交差圧力理論の定式化へ連なる一般化の視点を提供するもの であった。
The People's Choiceの第1次的な強調の一つは,投票者がマス・メディアの流す情報によっ て,いかに影響されるかにおかれていた。しかし,分析の結果著者たちの得たものは投票者に対 するマス・メディアの影響の有効性以上に,個人的影響力の有効性の方が大きいという実証であ った。即ち,マス・メディアの流すキャンペーン情報は,全ゆる社会集団に存在し,結節的で活 動的であるオピニオン・リーダーを媒介として伝達されていくことが発見されたのである。いわ ゆる「情報の2段階の流れ」仮説の提示である。また,マス・メディアの主要な機能に関しても,
それが既に形成された選好を強化する効果を有し,潜在している先有傾向を再活性化する機能を 果すことを発見している。その他,候補者のキャソペーン内容がそれぞれ同一政党を支持する投 票者に到達しやすい傾向があるとの知見は,それまでの常識的なマス・メディア効果に関する通 説をくつがえし, 「情報に対する選択的接触」仮説を提示したものとして注目に値いするもので あった。
個人の投票行動の決定要因を明らかにしようとしたラザースフェルド等が到達したものは,集 団ないし集合内部での政治的選好の等質性,および投票選好の変化過程の集団ないし集合におけ る,また個人における一貫性の増大という発見であり,投票行動が個人的に決定されるというよ りもむしろ集団的,ないし集合的に決定される,即ち, 「社会的特性(属性)が政治的選好を決 定する」との結論であった。その結果,個人の政治的意見の形成・修正の過程は,彼の社会的属 性によって規定される社会環境への同調への過程として主張されたのである 。
The people's Choiceの強調は,個人の社会的諸属性が投票行動に対して有する決定要因とし 7) ibid., pp. 15 23.
Paul F. Lazarsfeld, Bernard Berelson and Hagel Gaudet, The People's Choice, 1968, xxixxxix, pp.16 24, p.174.
飽戸弘, 「投票行動の社会心理学」 71ー73頁。 87ー90頁。
ての役割におかれている。これは投票行動の説明変数に社会生態学的・社会学的要因を溝入した ものとして,後続の諸研究に多大な影聾を与えるものであったが,その限界もまた明らかであっ たといわなければならない。何故なら,このような要因で投票行動を説明しようとする限り,類 似した地域間での,また同一の宗教・社会経済的地位に所属する人々の間での,異なった投票結 果を説明できないばかりでなく,これら諸要因の社会的構成比の安定・変化から逸脱した選挙結 果の変動を正しく説明することができないからである。現実に,われわれは国民の社会的諸属性 の構成比に変化が生じたわけでもないのに,選挙結果が大きく変化した事実を見聞することがあ る。とすれば,この変化の原因として社会的属性変数以外の要因が介在していることを予想する に至るのは必然である。この観点から, 「独立変数としての社会的諸属性と従属変数としての投 票行動の間に両者を媒介する態度とか環境に対する知覚構造のような心理的変数を介在させるこ とによって,いわゆる S‑0‑R学説に基づいて投票行動のモデルを構築する」8)試みが登場してく ることになる。投票行動研究への心理学的接近である。この種の研究の先駆的業績として常に挙 示されるのは, A・キャ ノベル, G・ギュリソ, W・ミラー等のミシカツ大学グループによって 著わされた TheVoter Decides (1954)である。この研究の最大の特徴は投票者の外的事象と彼 の究極的な行動との間に介在し,候補者選好への動機づけを規定する心理学的変数を考慮するこ
とによって, S‑Rモデルを超えた投票行動の動機づけという問題に洞察を与えたことにある。研 究を進めるにさいし,著者たちが提示した動機づけ変数は6つであるが, このうち,政党同一視,
争点党派性,候補者支持性の3つが基本的なものとされ,それらと投票行動の二側面(投票と棄 権,投票の方向)との関係がそれぞれ分析・解明されたのである。その結果,得られた知見の一 般化は「これらの動機づけ変数が全て投票者を一つの方向に圧力をかければかけるほど,彼はそ
の候補者に投票する傾向がある」というものであった。
The Voter Decidesの著者たちは,心理学的説明変数への強い選好を示すことを代償に,投票 者の社会的属性に対してはほとんど注意を払わない。彼らにとって個人的属性は動機づけ変数に 対して有する効果を通じてのみ,投票者の候補者選好に作用しうるにすぎないからであり,従っ て後者が統制され,一定に保たれるならば,個人的属性と投票行動との関係は消減してしまうよ うなみせかけの相関にすぎないと考えられたからである。そこには,明らかに,投票行動の主要 で直接的な決定因として態度変数を位置づけ,先行的態度構造→外的事象の知覚→態度構造の修 正→投票行動というモデルが指示されている。つまり,彼らのアプローチの特徴は,政治学的,
社会学的変数それ自体の意味を認めるのではなく,投票者が自己のおかれた環境をどのように知 覚し,認知しているかによってはじめて意味があると考えるところにあるのである。しかも,そ のような環境の認知・知覚それ自体が先行的態度によって規定されるとみなされたのである。
The Voter Decidesの登場によって開拓された投票行動への心理学的アプローチは,その後,
8) 堀江瀧「選挙における争点の操作と投票行動」慶大新聞研究所年報, 3, 1974年, 81頁。
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多くの研究によって引き継がれ,今日では政治や選挙への関心,政党支持の強さ,候補者評価,
政治的有効性感覚,投票義務感,政党イメージ,政策・争点についての知識• 関心・イメージ等 々,様々の心理学的変数が説明要因として発見・選択され,投票行動を記述し,予測するために 動員されるに至っている。
The Voter Decidesの第1の欠陥は,投票行動への心理学的導入の視角と,それから結果する 心理学的説明変数の発見,およびそれらの精密な測定技術の使用など,多大な貢献が認められる にもかかわらず,諸変数を全て同じレペルで処理している点にある。現今の心理学者が明らかに しているように,態度構造にはある種の 階層性"が存在しているのであり,とすれば,全ての 態度を同ーレベルで扱う説明がどの程度,有効であるかは疑問であるといわなければならない。
「投票行動はこれら態度ハイアラーキーの基層に近いレベルの態度によって基本的に影響される はずであるo」9)からである。第 2の欠陥は, 個人の社会的属性と投票との関係に関する証拠を提 示していない点にある。著者たちはそれを重要でないと主張したが,投票行動を理解し,予測す るための最も重要な要因が態度であり,その態度が外的事象を映し出し,それによって修正され るというモデルを援用する限り,投票行動と関係づけられる環境諸要因を閉却視すべきではない だろうJO)。
今日の投票行動の研究はこれまでの先駆的業績に影響され,反省を加えてきたところで成立し ている。具体的には,一方では, Voting(1948年)の著者たちが主要に試みたように,フォーマ ルな組織活動からはじまり階級・人種等の社会構造的特徴の投票に対する効果といった社会的諸 要因を,また政党の活動や争点の役割等の個人の投票意思決定に対する効果といった政治的諸要 因を可能な限り網羅的に把握し11>,他方では,これらの外的事象と態度的媒介変数との相互関連 を明らかにすることによって,諸説明変数の投票行動に対する規定の性質と量を分析・評価する 作業が行なわれてきている。特定の選挙時点で,特定に働く時間限定的・空間限定的社会状況の 投票行動に及ぼす刺激作用を考慮するならば,投票行動には無限の政治的・社会的・心理的諸要 因が複合して寄与しているといえるのであり,それらを効率よく正確に捉えるための概念図式の 模索が積み重ねられるは必然であった。事実,わが国でも,より適合的な説明のための,より包 括的な概念図式構築へと研究は進んでおり,投票行動を説明する,ないしはより恒常的な態度変 数であり投票行動と同語的・同義的な性格を有する政党支持態度を説明する有効な諸変数の追加
•修正の試みが盛んに行なわれ,それに伴なって多くの知見や一般化が蓄積されてきている。
わが国における投票行動研究のための代表的な概念図式ないし理論図式としては,高橋徹,飽 9) 同上, 82頁。
10) Peter H. Rossi, op. cit., pp. 3643.
飽戸弘「投票行動の社会心理学」 76‑77頁。
飽戸弘「投票行動の心理学」(伊藤正己他編『社会科学を学ぶ』有斐閣, 1970年,所収), 271ー275頁。 11) Peter H. Rossi, op. cit., pp. 2436.
B. R. Berelson, P. F. Lazarsfeld, and W. N. Mcphee, Voting‑A Study of Opinion Formation in Presidential Campaign, Univ. of Chicago Press, 1954.
‑126‑
戸弘,三宅・木下・間場のモデル等がある。高橋のモデルは,政治意識を構成する政治的諸要因 間の連関性や体系的構造に接近する試みとして,それらを一般性ー特殊性の軸によって4つのレ ペルに分け,ゴールである政治的行動に対する作用が最も直接的なものから一般的・基本的では あるが間接的でしかないものまでを順に配置した A,S・コーンハウザーのモデルを参考に作成 されたものであり,政治的行動と直接結びつく政治意識レペル,政治意識から相対的に独立し政 治的行動に間接的に結びつく生活意識レベル,および,それら両者の中間にあって両者の結合を 媒介する「政治と生活をつなぐ中間的行動」レペルの三層を設定することによって構成されてい
第1レベル:
政治的行動
第2レベル:
行動を直接決定する 態度因子
第3レベル:、
政治活動に対する 態度
第4レベル:
組合や政治に対する 一般的態度 第5レベル:
社会行動と関連した 基本的態度
第1図 コーンハウザーのモデル 政 治 的 行 動
(紐したか?誰に?
選挙運動への参加など )
I賢i猛 ・ 候 補 者 に 1
親労働者的な 政治的志向の度合い
組合に対する愛着
政治的活動に対する 関 心
政治の有益・無益の
感 情
それぞれの次元の 態度や政治的行動 を規定する客観的 諸条件:
性 年 齢 人 種 教 育 宗 教 国 籍 出生地 家族の感化 職 業 経済的水準 所属組織 インフォーマルな結社 マス・メデイア
出典: Kornhauser, A., Sheppard, H. L., & Mayer, A. J. When Labor Votes N. Y.: University Books, Inc., 1956, 97頁。
る。この図式から高橋は人々が政治〈行動〉の決定に至る道は,「生活満足度→政治行動」と「政 治的関心→政治的問題に対する意見→政治行動」との2つがあると示唆している12)。しかし,こ のモデルは「政治意識の内部構造を示す理論的仮説,あるいは政治意識と生活意識の構造的関係 を示す理論的仮説」というよりはむしろ,投票行動研究のための分析視角と変数決定のためのガ イドとしての概念図式にとどまるものであった13)。高橋同様,戦後の政治意識の特徴である「私 的生活への自己閉塞」と「現代型無関心」の拡大状況下にあって,生活意識が人々の心的構造の なかで占める位置はますます高まり14>,生活意識の底にある情報的エネルギーがしばしば政治行 動と短絡することを,仮説的に提示したのは飽戸弘である。即ち,彼は階級→イデオロギー→政 党支持ないし政治行動という図式よりも,現代では生活満足→現状肯定→保守政党,あるいは生
12) 高橋徹「生活意識と政治意識」年報社会心理学, 1960年, 93ー119頁。
13) 三宅一郎,木下冨雄,間場寿一「政治意識構造論の試み」日本政治学年報, 1965年, 3頁。 14) 高橋徹,前掲論文, 94頁。
‑127‑
活不満→改革志向→革新政党という図式の方がより現実適合的であることを,経験的研究を経て 主張したのである15)。それは,従来の投票行動アプローチが,投票行動をまず政治的変数で説明 し,その残差を社会学的変数で補ない,更にそれらでは説明しきれない部分を心理学的・社会心 理学的変数によって説明していこうとする手順を採用していたのに対し,最初から生活意識諸要 因によって投票行動のどの程度の部分が説明されうるかを試みることの意義を唱えたものとして 注目されるべきものであった。彼はこのための新しい生活意識変数として価値観やライフ・スク イルを導入することも提唱している16)。
投票行動
第1レベル:
投票行動を直接 規制する要因レベル
第2レベル:
より一般的な 認知的要因のレペル 第3レベル:
社会意識のレベル
社会的条件
第2図三宅・木下・問場モデル
認知構造 感情構造
:‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑,
[ 国 ― ̲ ̲ ̲ ̲ j 雪 」
デモグラフィック要因
投票行動
第1レペル:
投票行動を直接 規制する要因レベル
第2レベル:
より一般的な 党派性のレベル 第3レベル:
党派性を支える 態度レベル
社会的条件 出典:三宅一郎「政治意識と投票行動の要因分析」人文学報 221966 200頁。
現在,我々が獲得しうる,最も意欲的で,体系的な投票行動研究のための理論図式は,先にあ げたコーンハウザーのモデルと H•G· アイゼ ノクによる態度の経験的構造モデルとを統合し た,三宅一郎・木下冨雄・間場寿一のそれであろう。彼らのモデルは, 1961年から2年にかけて 京都府宇治市で実施されたパネル調査を素材として構成されたものであり,一定の科学的手続き と,多変量解析の手法によって確認された理論的仮説体系としての理論図式である。このモデル の作成と検証作業を通して,政治意識は保守ー革新のような党派的方向性をもった態度の感情的 要素のクラスクーとしての感情構造と,政治に関する認知の量的側面や政治関心のような党派的
15) 飽戸弘「政党支持の論理と心理」 58頁。
飽戸弘「生活意識と政治行動に関連はあるか」(松原治郎他編『新しい社会学』有斐閣, 1973年,所収),
207頁。
16) 飽戸弘「生活意識と政治行動に関連はあるか」209頁, 211頁。
‑128‑
方向の蒋い態度のクラスターとしての認知構造を作っていることが確認されている17)。このモデ ルはまた,林の数贔化理論を態度研究の分野に尊入・紹介した飽戸18)の業績を継承したものとし て特記される。この多変量解析手法の採用によって,取り扱うべき変数を連続変量でしかも正規 分布特性を有するものに制約する因子分析法では扱えなかった質的変数をもモデルの中に組み入 れることが可能になったのであり,また,従来の多くのモデルがそうであるように2変数間の関 連分析のみによって構築されるモデルに不可避的な,疑似相関関係のモデルヘの混入を除去しう
るようになったのである。三宅らの研究以降,投票行動研究で数量化理論を使用することが一種 の学問的伝統となった観があるのは,投票行動を説明する要因には質的なものが多く,その手法 の採用に適合的であるという事情によるものである。そして,我々の分析も主として林の数量化 理論を援用して遂行されるだろう。
]I 本稿の研究目的
本稿は, 日本人の投票行動に関する,これまでの経験的定説や知見を基盤に,経時的に変化し ていく社会的状況を越えて,現今なお時と空間にかかわらず,普遍的に妥当するものは何かを明 らかにしていくことを課題としている。最近10余年間のわが国の政治状況の変化には著しいもの がある。政党構成を例にとっても,後発政党である公明党の立法府に占める地位の確立,共産党 における議席数の伸長,新保守である新自由クラプの登場など多党化・多極化の様相を呈してき ている。ことに第10回参議院選挙以降,自民党の安定単独過半数時代は終焉し,与野党伯仲時代 が現出した。また有権者層においても,政党支持なしおよび脱政党化層の増大に代表される政治 からの離反現象が進行し,深刻な政治問題化しつつある。以上のような変化を捉えて,政治研究 者の間から従来の知見や経験的定説が,既に通用しなくなっているのではないかとの指摘がなさ れている19)。とすれば,この時点で従来の研究成果を整理・統合し,それらのうちのいかなるも のが,最早通用しなくなっており,いかなるものが残り,またいかなるものが新たにつけ加えら れるべきかを反省する機会を提供することは,必要であると共に意義あることであろう。我々の 研究課題が設定された所以である。しかし,限られた素材で,厖大な投票行動に関する全ての知 見や経験的定説の通時的・比較空間的妥当性如何を網羅的に検討することは不可能である。しか も,この種の研究の宿命として,調査地の地域的・時間的制約も介入してくるため,ここでの知 見の再検討の結果をもって,そのまま普遍化。一般化を志向することは危険であろう。従って,
17) 三宅一郎,木下冨雄, 問場寿ー『異なるレベルの選挙における投票行動の研究』創文社, 1967年, 191頁。
18) 飽戸弘「数量化理論一社会行動研究における適用の効用と限界について一」年報社会心理学, 1964年, 5号, 70‑103頁。
19) 綿貫譲治「政治意識と選挙行動の実態ー東京都民の政治意識と投票行動ー」選挙調査研究紀要, 1967 年第3集,公盟選挙連盟。
綿貫譲治「政治意識と選挙行動の実態ー大都市有権者の「脱政党化現象」についての調査ー(東京都世 田谷区の場合)」選挙調査研究紀要, 1972年第3集,公盟選挙連盟。
我々の研究ファイソディソグズは他の調査地での,他の時点での研究のフォローによって検証な いし修正を施され,より妥当な一般化・普遍化,より効率のよい理論構築を達成するための一里 塚たる役割を担うものにすぎない。
本研究の素資料は,関西大学社会学部社会調査室が,昭和52年7月に行なわれた参議院選挙に 関し,同年9月,千里ニュー・タウンの吹田市域に居住する有権者を対象として行なったサソフ゜
リソグ調査結果のデータである。調査方法やサソプル特性の紹介に関しては前稿に記したので,
本稿では一切省略する20)。分析は大阪府地方区を対象に行なわれる。この選挙区は少数政党を含 む全政党の候補者が立ち,特に自民・社会・民社・公明・共産,更には新登場の新自由クラブの 6政党の有力候補がしのぎをけずった全国有数の激戦区であった。その意味では,現今の多党化 および与野党伯仲の政治状況を映し出す典型的な選挙区であると共に,有権者に現今特有の政治 状況下に対する選択的態度を迫る典型的な選挙区であったといえる。多党化ないし与野党伯仲状 況が将来にかけてなお継続することを前提にすれば,当選挙区有権者の示した反応は, これから の全国有権者の投票行動形態を予示する特性を有し,この分析で得られたファインディソグズは,
それの先行時間的知見の提示につながることが期待される21)。
20) 中道実,滝本佳史「通常選挙における選挙民の投票態度からみた参議院問題」関西大学社会学部紀要,
第9巻第2号, 1978,71頁。
21) 政党別立候補者とその得票数は下記の通りである。
所属政党 I 候補者氏名(年齢) I 経 歴 I大得阪地票方数区 自 民 党1森 下 泰(55)1森教下審仁丹員社,長昭叩和年?党,品副大書阪&記青塁長年,塁会同昇議中悶所央理執,事行同長物委,価員中等,I (当),,. ... , 公 明 党 田 代 ふ じ お(46) 対参同議組策院特織議別局員委長員2期, (I当)745,548
共 産 党lくつぬぎタケ子(55) 医委区補師員,選大で阪当市選議,社18年会,労昭働和委4員8,参年公議害院・環大境阪地特方別Jc当)655,077
朝年か新で日放すら自送由6年にをク26担問ラ年当プ閻お,政勁退は策務戦委よ,時員う朝日新聞記者, 昭和村4鋭6 新自由クラブ 中 村 鋭 ー(47) パーソナリティ中 (次点)
ー は部長プロデューサー 548,662
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民 社 党 岩 見 豊 明(50)I大川阪支府部長会議,員大阪,監府査連委書記員長,副,議同長副委,民員長社党西淀 307,834
社 会 党1牧 内 正 哉(39)I社会会関党西本セ部ン政タ策ー審事務議会局事長務局長,公害問題研究 1 279,553 社会市民連合I山口たけかず(39)I吹田市議水道,建設,公害,教育,監査委員 I54,233
日本女性党 1平 川 カ ズ 子(43)I日本女性党,関西総連組織委員長 I 18,324
; 贔 讀 叫 山 本 あ き ら(34)Iマル同結成と同時に中央委員,大阪府委員 I 7,364 I上 野 富 男(57)I元創価公明支部役員,国際企業S T代表 I 6,185
日 本 労 働 党 魚 谷 俊 永(32)I日本労働党大阪府委員長 I 4.799
板 東 頼 之(72)I I 3,344
m 理 論 図 式 の 構 成
作業をすすめるにあたり、まず投票行動の科学的研究を導き,仮説的諸命題を定式化させる概 念図式の構成が必要である。飽戸弘は,投票行動現象に含まれる諸要因を投票行動に寵接的規制 力をもつものから,より問接的な規制力をもつものへと配列し,政治行動,政党支持,政治意識,
生活意識,マス・メディア,集団とパーソナルコミュニケーショソ,社会状況の7つの水準に分 類した概念図式を提案している22)。我々はまずこの提案に沿って我々の用意した変数を水準分け した。次いで目的変数として採用した(1)投票の有無, (2)投票の方向と,説明変数として位置づけ た他の要因との間の2変数相関分析を行ない,有意水準の高い変数のみによる概念図式(第3図)
第1表 説 明 変 数 の 図 式 政 治 行 動
(投票行動) :①投票の有無③投票の方向③候補者決定時期(ょ:・*)④投票理由(;‑六:‑;‑) 政 党 支 持 : ① 政 党 支 持(f.三1)⑨政党支持強度(M缶)R政党支持安定性(::::)
④自民党拒否度(~)
政治意識:①政治関心量(自民党イメージ強度)(~ 干‑) ⑨政治的有効性感覚(‑H‑H)
③投票義務感(~召戸)④国政の影響(¼.そ) ⑥政党本位・人物本位(‑..‑H‑;‑)
⑥野党政権暮し(i;丑'.,) ⑦個人一団体選択(¾-曰1)
生 活 意 識 : ① 生 活 満 足 度 ( ¥—)③基本的態度(丹十—)③政策・争点態度(ょ:・*)
④階層帰属態度(~) ⑥階級帰属態度(丑丑'.,)
マス・メディア:①新聞接触・評価(も{‑)⑨テレビ接触・評価(尭+.)R公報接触評価(そ~り
④投票に参考(丑~)
集 団:①地域関与度(岱そ)③社会集団参与度(土+)
社会状況:①性別(~)③年齢(+) @学歴(王+.)④職業(/*¥¥)
⑥世帯収入(岱そ)⑥住居類型(丑丑'..)⑦居住年数(f肘缶‑)⑧定住希望(‑i!..‑)
(投票の有無) * * * * 0.1%水準 * * 2.5%水準 投票の方向 * * * 1%水準 * 5%水準 を作成した。この作業の過程では,従来各研究者によって提示され,その有効性が立証されてき た概念図式が参考にされている。サ値による有意性検定の結果, 目的変数の双方に相関しない変 数は我々の概念図式から排除されたが,我々が最初に測定した全変数のうち,社会階層への帰属 態度,新聞接触・評価,テレビ接触・評価,地域関与度,社会集団参与度,学歴,世帯収入の7 変数がそれに該当した。社会階層への帰属態度は,自己の社会・経済的地位の主親的評価を測定 するものであるが,これは社会階級への帰属態度と共に多くの研究が投票行動を規定する要因と して重視してきたものである。しかし,我々の分析では,第1表にみられるごとく,投票の有無 との関連において,社会階層・社会階級への帰属態度は共に有意性を示さず,また投票の方向と
22) 飽戸弘「投票行動の社会心理学」 83頁。
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