有 価 証 券 報 告 書 の 虚 偽 記 載 と 損 害 額 の 算 定
( 一
)
潘
阿 憲
目 次 一 は じ めに 二 虚 偽 記載 と 損 害 賠償 三 虚 偽 記載 に よ る 損害 額 の 算 定 方法 1 米 国法 2 不 法行 為 法 の 一 般原 則 に よ る算 定
( 1
)取 得 自 体 損 害ケ ー ス
( 以上
、 本 号
)
( 2
) 高値 取 得 損 害ケ ー ス 四 終 わ りに 有
価 証 券 報 告 書 の 虚 偽 記 載 と 損 害 額 の 算 定
( 一
)
( 都 法 五 十 一
―
二
) 一
〇 一
一はじめに
企 業 は
、 資金 調 達 等 のた め に
、 株 式や 社 債 な どの 有 価 証 券(1) を発 行 す る が、 そ の 発 行 する 有 価 証 券が 金 融 商 品取 引 所に 上 場 さ れて い る 場 合
(上 場 有 価 証券
) や
、 流通 状 況 が 上 場有 価 証 券 に準 ず る も の とし て 政 令 で定 め る 有 価証 券 に該 当 す る 場合
( 店頭 売 買 有 価証 券
)な ど に お い ては
、当 該 有 価 証 券の 発 行 会 社 は、 事 業年 度 終 了 後三 カ 月 以 内に
、 有価 証 券 報 告書
( 当 該 会 社の 商 号
、 当該 会 社 の 属す る 企 業 集 団お よ び 当 該会 社 の 経 理 の状 況 そ の 他事 業 の 内 容に 関 する 重 要 な 事項 そ の 他 の 公益 ま た は 投資 者 保 護 のた め 必 要 か つ適 当 な も のと し て 内 閣 府令 で 定 め る事 項 を 記 載 した 報告 書
) を 内閣 総 理 大 臣 に提 出 し な けれ ば な ら な い( 金 商 法 二四 条 一 項
)。 ま た
、 こ のよ う な 有 価 証券 報 告 書 の提 出 義 務 を 負う 会 社 は
、四 半 期 報 告書
( 事 業 年 度が 三 カ 月 を超 え る 場 合 にお ける 当 該 事 業年 度 の 期 間 を三 カ 月 ご とに 区 分 し た 各期 間 ご と に、 当 該 会 社の 属 す る 企 業集 団 の 経 理の 状 況 そ の 他の 公益 ま た は 投資 者 保 護 の ため 必 要 か つ適 当 な も の とし て 内 閣 府令 で 定 め る事 項 を 記 載 した 報 告 書
)か
、 半 期 報 告書
(事 業 年 度 が 六カ 月 を 超 える 場 合 に お ける 当 該 事 業年 度 開 始 日 以 後 六 カ 月 の 当 該 会 社 の 属 す る 企 業 集 団 お よ び 当 該 会社 の 経 理 の 状況 そ の 他 事業 の 内 容 に関 す る 重 要 な事 項 そ の 他の 公 益 ま た は投 資 者 保 護の た め 必 要か つ 適 当 な もの とし て 内 閣 府 令で 定 め る 事項 を 記 載 した 報 告 書
) を提 出 す る 義務 を 負 う ほ か( 金 商 法 二四 条 の 四 の 七第 一 項
・ 二四 条の 五 第 一 項
)、 有 価 証 券の 募 集 ま た は売 出 し が 外 国 に お い て 行 わ れ る と き
、 そ の 他 公 益 ま た は 投 資 者 保 護 の た め 必要 か つ 適 当 なも の と し て内 閣 府 令 で 定め る 場 合 に該 当 す る こと と な っ た とき は(2)
、 さら に
、 そ の 内容 を 記 載 した 報 告書
( 臨 時 報告 書
) を 遅滞 な く 内 閣 総理 大 臣 に 提出 し な け れ ばな ら な い
(金 商 法 二 四 条の 五 第 四 項)
。 一
〇 二
こ の よ う に、 金 商 法 が流 通 市 場 に おけ る 情 報 開示 制 度(3) を 設 けて
、 上 場 有価 証 券 等 の 発行 会 社 に 対し 企 業 情 報の 継 続開 示 の 義 務を 課 し て い るの は
、 有 価証 券 の 発 行時 に
、 有 価 証券 届 出 書 の提 出
( 金 商 法四 条
・ 五 項) と い っ た方 法 で開 示 さ れ た企 業 情 報 だ けで は
、 投 資者 が そ の 後の 合 理 的 な 投資 判 断 を 行う の が 困 難 であ る こ と から
、 発 行 会社 の 財務 状 況 や 経営 成 績 な ど 投資 判 断 に 影響 を 及 ぼ しう る 情 報 を 継続 的 に 開 示さ せ る こ と によ っ て
、 投資 者 に 対 し市 場 で流 通 す る 有価 証 券 に つ いて の タ イ ムリ ー な 情 報を 提 供 し
、 その 合 理 的 な投 資 判 断 を 可能 に す る ため で あ る(4)
。 と こ ろ が
、近 時
、 継 続開 示 制 度 の 対象 で あ る 有価 証 券 報 告 書や 臨 時 報 告書 等
( 以 下
、単 に
「 有 価証 券 報 告 書」 と いう
) に お ける 重 要 な 事 項ま た は 重 要な 事 実 に つい て
、 積 極 的に 虚 偽 の 記載 を 行 っ た り、 記 載 す べき 重 要 な 事項 ま たは 誤 解 を 生じ さ せ な い ため に 必 要 な重 要 な 事 実の 記 載 を あ えて 行 わ な いと い っ た 事 例が 後 を 絶 たな い
( 以 下、 重 要事 実 の 開 示漏 れ を 含 め て「 虚 偽 記 載」 と い う
)。 典 型 的 な 例 と し て は
、 粉 飾 決 算 等 と い っ た 財 務 諸 表(5) に 関 す る 虚 偽記 載 で あ るが(6)
、 主 要 な株 主 の 保 有 する 株 式 数 につ い て 虚 偽 記載 が 行 わ れた 例 も あ る(7)
。 有 価 証 券 報告 書 に お ける 重 要 な 事 項ま た は 重 要な 事 実 に つ いて 虚 偽 記 載が な さ れ る と、 有 価 証 券の 公 正 な 市場 価 格の 形 成 が 著し く 歪 め ら れて し ま う こと は
、 経 験則 上 明 ら か な事 実 で あ り、 こ の 虚 偽 記載 の 事 実 を知 ら ず に 流通 市 場で 取 引 を した 投 資 者 が 損害 を 被 っ てし ま う の は、 言 う ま で もな い
。 そ こで
、 金 商 法 は、 虚 偽 記 載の あ る 有 価証 券 報告 書 の 提 出会 社 お よ び 当該 会 社 の 役員
( 取 締 役、 会 計 参 与
、監 査 役 も しく は 執 行 役 また は こ れ らに 準 ず る 者
)等 に対 し
、 流 通市 場 で 有 価 証券 を 取 得 した 投 資 者 に 対す る 損 害 賠償 責 任 を 課し て い る
( 金商 法 二 一 条の 二 第 一 項
・二 四条 の 四
・ 二二 条(8)
)。 し か し
、 問題 と な る のは
、 虚 偽 記 載の あ る 有 価証 券 報 告 書 に基 づ い て 形成 さ れ た 市 場価 格 で 当 該有 価 証 券 を取 得 した 投 資 者 が、 虚 偽 記 載 公表 後 の 当 該市 場 価 格 の下 落 に よ り 被る 損 害 の 額を ど の よ う に算 定 す べ きか
、 と い う点 で 有 価 証 券 報 告 書 の 虚 偽 記 載 と 損 害 額 の 算 定
( 一
)
( 都 法 五 十 一
―
二
) 一
〇 三
ある
。 有 価 証券 の 市 場 価格 は 多 様 な 要因 に よ っ て変 動 す る た め、 情 報 の 不実 開 示 に よ って 具 体 的 に投 資 者 に どの ぐ らい の 損 害 を生 じ さ せ た かに つ い て
、厳 密 に こ れを 算 定 す る のは
、 容 易 では な い
。 た しか に
、 金 商法 は
、 こ のよ う な虚 偽 記 載 によ る 損 害 を 被っ た 投 資 者の 立 証 困 難を 救 済 す る ため に
、 損 害額 の 推 定 に つい て の 規 定を 設 け て いる が
(金 商 法 二 一 条の 二 第 二 項)
、 こ の 損 害額 推 定 規 定は
、 虚 偽 記 載の 事 実 の 公表 日 前 一 年以 内 に 有 価 証券 を 取 得 し、 か つ公 表 日 に 引き 続 き 当 該 有価 証 券 を 保有 す る 投 資 者に 限 定 し てい る た め
、実 際 に は こ の規 定 の 適 用を 受 け ら れ ない 投資 者 も か なり 存 在 し て いる の で あ る。 そ こ で
、 本稿 は
、 有 価 証券 報 告 書 の虚 偽 記 載 に より 投 資 者 の被 っ た 損 害に 関 し て
、 金商 法 上 の 損害 額 推 定 規 定の 適用 を 受 け られ な い 場 合 にお け る 算 定の 方 法 に つ いて
、 近 時 の裁 判 例 を 踏ま え な が ら
、検 討 し て みる こ と に す る。
二虚偽記載と損害賠償
有 価 証 券 報告 書 に 虚 偽記 載 が な さ れる と
、 当 該企 業 の 業 績 等に 関 し て 誤っ た 情 報 が 市場 に 伝 達 され
、 そ れ に基 づ いて 有 価 証 券の 市 場 価 格 が形 成 さ れ るの で
、 こ の虚 偽 記 載 の 事実 を 知 ら ずに
、 当 該 有 価証 券 を 取 得し た 投 資 者は
、 損害 を 被 る こと に な る
。 投資 者 が 損 害を 被 る 場 合と し て は
、 次の 二 つ の もの が 考 え ら れる
。 一 つ は、 利 益 を 過大 に 計上 し た 有 価証 券 報 告 書 の提 出 に よ り、 有 価 証 券の 市 場 価 格 が不 当 に つ り上 げ ら れ
、 その つ り 上 げら れ た 価 格 で当 該有 価 証 券 を取 得 し た 投 資者 が
、 後 に虚 偽 記 載 の 事実 の 公 表 によ り 市 場 価格 が 下 落 し て損 害 を 被 る場 合 で あ る
。ま た、 も う 一 つは
、 前 記 と は逆 の ケ ー スで
、 利 益 の 繰り 延 べ 等 の目 的 で 利 益を 過 小 に 計 上し た 有 価 証券 報 告 書 の 提出 によ り
、 有 価証 券 の 市 場 価格 が 不 当 に引 き 下 げ ら れ、 そ の 状 態で
、 従 前 から 保 有 し て いる 有 価 証 券を 処 分 し た 投資
一
〇 四
者が
、 損 害 を被 る 場 合 であ る
。 い ず れ の 場合 に お い ても
、 損 害 を 被っ た 投 資 者は
、 当 該 有 価証 券 報 告 書の 提 出 会 社 やそ の 役 員 等に 対 し
、 民法 七
〇九 条 の 不 法行 為 責 任 を 追及 す る こ と
( 9
が)
考 え ら れる1()0
。 た だ
、 不法 行 為 責 任を 追 及 す る ため に は
、 投資 者 は
、 虚偽 記 載と い う 違 法行 為 を 行 っ た会 社 ま た は役 員 等 に「 故 意 また は 過 失
」が あ っ たこ と
、 自 己に
「 損害
」が 発 生 し た こと
、
「虚 偽 記 載 と 損害 と の 間 に因 果 関 係 があ る
」 こ と を 立 証 し な け れ ば な ら な い の で
、 こ の 救 済 手 段 は
、 投 資 者 に と っ ては ハ ー ド ルが 高 い1()1
。 そ こ で
、 金商 法 二 一 条の 二 第 一 項 本文 は
、 虚 偽記 載 の あ る 有価 証 券 報 告書 の 提 出 会 社は
、 当 該 有価 証 券 報 告書 が 公衆 の 縦 覧 に供 さ れ て い る間 に 当 該 会社 の 有 価 証券 を 流 通 市 場で 取 得 し た投 資 者 に 対 し、 同 法 一 九条 一 項 の 規定 の 例に よ り 算 出し た 額 を 超 えな い 限 度 にお い て
、 虚偽 記 載 に よ り生 じ た 損 害を 賠 償 す る 責任 を 負 う
、と 定 め て
、提 出 会社 に 対 す る民 事 責 任 を 法定 し た1()2
。 この 金 商 法 二一 条 の 二 第 一項 の 規 定 に基 づ く 提 出 会社 の 責 任 は、 無 過 失 責任 で あり1()3
、 投 資 者は
、 虚 偽 記載 に つ い て の提 出 会 社 の故 意 ま た は 過失 を 立 証 する こ と な く
、損 害 賠 償 を求 め る こ とが で きる1()4
。 も っ と も
、こ の 規 定 に基 づ き 求 め るこ と の で きる 損 害 賠 償 額は
、 金 商 法一 九 条 一 項 の定 め る 額
(請 求 権 者 が当 該 有価 証 券 の 取得 に つ い て 支払 っ た 額 から
、 損 害 賠償 を 請 求 す る時 に お け る市 場 価 額
( 市場 価 額 が ない と き は その 時 にお け る 処 分推 定 価 額
) また は 当 該 有価 証 券 を 処分 し た 場 合 にお い て は その 処 分 価 額 を控 除 し た 額) に 制 限 され る ので
、 投 資 者の 被 っ た 損 害額 が 実 際 にそ れ を 上 回る 場 合 に は
、投 資 者 は 一般 の 不 法 行 為責 任 を 追 及し て い く し かな い。 ま た
、 金 商法 二 一 条 の 二第 一 項 に 基づ く 提 出 会 社の 民 事 責 任を 追 及 で きる の は
、 当 該有 価 証 券 報告 書 が 公 衆 の縦 有 価 証 券 報 告 書 の 虚 偽 記 載 と 損 害 額 の 算 定
( 一
)
( 都 法 五 十 一
―
二
) 一
〇 五