ドイツ倒産法における担保権実行の停止
倉 部 真由美
目 次
第一章 はじめに 六 一九九一年の政府草案
一 問題の所在 七 小括
ニ ドイッ倒産法における担保権実行の停止 ゜ 第三章 一九九四年ドイッ倒産法とその後の改正論議 へ 第二章 一九九四年ドイッ倒産法制定以前の改正論議 ︑ 一 一九九四年ドイッ倒産法における担保権実行の停止
一 一九七〇年代の改正論議 ニ ワーキングループによる報告書
二 連邦政府による改正作業の本格化 ・︐ ︑三 二〇〇三年の討議草案
三 倒産法委員会による提案 四 小括
四 一九八八年の討議草案 ︐ 第四章 むすびにかえて
五 一九八九年の参事官草案
ドイッ倒産法における担保権実行の停止 . ︵都法四十四−二︶ 三〇三
三〇四
第一章はじめに
一 問題の所在 ︐
倒産手続と担保権との緊張関係は︑再建型企業倒産手続においては︑一層︑顕著に現われる︒なぜなら︑被担保債
権の減免や担保権実行の中止などの制限を加えることなく担保権の行使を認めれば︑企業は事業継続の基盤となる財
産を失うことになりかねないからである︒担保権はどのように処遇されるべきかという問題は︑そのあり方によって
は企業再建という目的の実現を左右することにもなりかねない問題なのである︒ ︵1︶ それゆえ︑平成八年から進められている倒産法制の全面的な見直し作業の過程においても︑担保権の処遇のあり方
をめぐって様々な提案がなされ︑検討が加えられてきた︒それを受けて︑平成一二年四月に施行された民事再生法に
おいては︑担保権を別除権として扱う︵民再五三条︶一方で︑旧和議法には存在しなかった担保権実行の中止命令が
導入されている︒旧和議法においても︑担保権は別除権として扱われていたが︵旧和議四三条︶︑担保権実行の中止命
令は存在しなかった︒しかしながら︑和議を申し立てる債務者は︑その重要な財産の多くを担保に供している場合が
多く︑担保権が実行されると事業の再建は不可能となるおそれがあったため︑担保権実行を控えてもらうよう︑担保
権者に個別に懇請しなければならなかった︒このように︑担保権の実行を回避するために︑多大な労力が必要であっ ︵2︶ たという点が︑和議手続の欠陥として指摘されていた︒かかる批判を受けて︑民事再生法では︑担保権実行の中止命 ヨ 令が加えられ︑しかも︑会社整理手続における中止命令の発令時期︵商三八四条︶よりも早く︑すなわち︑手続開始
の申立て後の保全段階において発令することが可能とされている︵民再三一条︶︒また︑担保権消滅請求︵同一四八条 ︵4︶ 以下︶という新しい制度が導入されたことは︑民事再生手続の大きな特徴の一つとなっている︒
他方︑平成一五年四月から施行されている新会社更生法においては︑担保権者は次のように処遇されている︒すな
わち︑担保権者は︑更生手続においてのみ弁済を受けることができ︵会更四七条︶︑所定の要件の下で︑更生計画によ ︹
る弁済.権利変更が定められ︵同一六八条︑一九六条五項二号︶︑その実行については︑申立てから手続開始までの間は︑
裁判所の命令により︵同二四条︶︑手続開始後は当然に中止される︵同五〇条︶︒このような従来の会社更生法と同様の
取扱いに加え︑平成一五年の改正では再建手法を強化するために︑裁判所は︑﹁更生会社の事業の継続のために特に
必要がある﹂と認められる場合には︑手続開始前に中止された担保権の実行手続を取り消すことができるものとされ た︵同二四条五項本文︶︒また︑民事再生法上の担保権消滅請求制度を参考に担保権消滅制度︵会更一一四ー一二〇条︶
が創設されたほか︑旧法下では︑手続開始後に認められていた商事留置権の消滅請求が︑手続開始前にも認められる ︵6︶ ようになった︵同二九条︶︒
このように担保権に対する制約の方法は幅広い︒これらを分類すれば︑ω担保権実行の中止︵停止︶︑②担保権消
滅請求︑③計画における弁済の強制と被担保債権の減免の三つのタイプに分けられる︒ωは担保権に対する手続上の
規制であり︑②および③は実体的な規制である︒本稿では︑これらのうちω担保権実行の中止︵停止︶に検討対象を
絞り︑考察を進あることにする︒
ニ ドイツ倒産法における担保権実行の停止 ︵7︶ ︵8︶ ー ドイツ連邦共和国︵以下︑ドイッという︶では︑一八九八年破産法および一九三五年和議法︵<①偏﹂①ざ冨・吋音旨σq︶
に代わり︑一九九四年に清算型と再建型を統一した倒産法︵H房o﹂<Φ壽○巳コ§σq︶が新たに制定され︑一九九九年から
施行されている︒同法においては︑倒産手続が開始される前の担保権実行の停止について︑次のように定められてい
ドイッ倒産法における担保権実行の停止 ︵都法四十四1二︶ 三〇五
三〇六
る︒すなわち︑動産担保目的物の換価権は仮倒産管財人に与えられ︑動産に別除権がある場合︑保全処分︵倒産法二
一条二項三号︶により︑別除権者による換価を停止することができる︒不動産担保権は︑別除権として扱われ︑換価
権は別除権者に残されている︒しかし︑一九九四年ドイッ倒産法の改正に伴い︑強制競売強制管理法︵ΩΦ゜︒Φ訂害隅 ︵9︶ 巳ΦN≦①轟︒︒<隅m§σqΦ巨口σqq昆合ΦNS9σqm<Φ§ゆ#§σq︶も一部改正され︑仮倒産管財人︵O零く︒巳豊︷赫雪ぎm︒一くΦ㌣
N<隅乞p﹂§︶が︑不動産担保権の実行停止が債務者財産の不利益な変更を防止するために必要であると疎明した場合
には︑仮倒産管財人の申立てに基づき︑強制競売の一時的停止が認められるようになった︵強制競売強制管理法三〇条
d四項︶︒一九九四年ドイッ倒産法において︑このような担保権実行を停止する規定が設けられたことは注目に値す
る︒というのも︑改正以前の一八九八年旧破産法の下では︑裁判所は財団の保全のために必要な一切の仮処分を命ず
ることができるとされており︵一〇六条一項︶︑担保権実行の一時的停止も含まれるような文言で定められていたが︑
右の処分禁止命令は︑相対的禁止の効果を有するのみで︑手続開始前に担保権を実行した別除権者には︑別除的に満 ︵10︶ 足を得る権限が与えられると解されており︑判例・学説ともに担保権実行の停止を認めていなかったからである︒
そこで︑本稿では︑一九九四年ドイッ倒産法制定に至るまでの改正論議が開始された一九七〇年代から近時までの
担保権実行停止をめぐる議論の変遷を紹介することにより︑わが国の再建型企業倒産手続における担保権実行中止の
あり方を検討する上での示唆を得たいと思う︒なお︑本稿では︑動産担保権の処遇を中心に扱い︑不動産担保権の処
遇については紙幅の許す限りで言及し︑詳細については他日を期すことにしたい︒
・ 2 ところで︑アメリカ連邦倒産法では︑倒産手続の申立てがなされると︑いわゆる﹁自動的停止︵﹀巨︒9豊︒
ω冨ぺ︶﹂により︑担保権者を含む債権者の個別的な権利行使が停止される︵一九七八年アメリカ連邦倒産塗二六二条㈲︶︒
自動的停止が最初に規定されたのは︑世界大恐慌後に債務者救済立法として整備された一九三〇年代の再建型倒産手
続においてである︒このことは︑担保権実行の制限が債務者の再建に不可欠とされていたことを示している︒すなわ
ち︑債務者︵企業︶の再建を促すためには︑担保権者の権利実行を停止することによって︑再建の基盤となる財産の ︵11︶ 流出を防止し︑その一方で︑利害関係人間における交渉を促すことが必要とされたのである︒その後のアメリカでは︑
再建型倒産手続全体が整備されるにつれて︑当初は限定的であった自動的停止の適用範囲が拡張されていった︒他方︑︑
このような自動的停止の確立を支えたのは﹁適切な保護︵>9ρgg印oけΦ︒江8︶﹂という制度︵同三六一条︶の存在
であった︒すなわち︑自動的停止の効力の拡張により生じうる担保目的物の価値の低下について︑担保権者に保護を ︵12︶ 与える必要があったのである︒
以上のようなアメリカ連邦倒産法における自動的停止の生成過程から︑次の点を指摘することができる︒すなわち︑
①倒産処理手続全体における再建型倒産手続の位置づけとその重要性︑および︑②制限によって担保権者に生ずる損
失に対する保護の程度が︑再建型倒産手続における担保権実行に対する制限のあり方に影響を与えうるということで
ある︒そこで︑本稿では︑これらの二つの視点を中心に︑ドイッ倒産法の改正作業において︑担保権実行に対する制
限について展開された議論をたどっていき︑果たしてドイッ倒産法の場合は︑いかなる結論が導かれるかを検証して ︵13︶ みたいと思う︒
︵1︶ 倒産法改正作業の一連の経緯については︑福永有利﹁破産法改正への動向﹂ジュリ一二三六号六ー七頁︵二〇〇二年︶︒
︵2︶ 青山善充編﹃和議法の実証的研究﹄︵商事法務研究会︑一九九八年︶一一頁﹇青山善充11中島弘雅﹈︒
︵3︶ 会社整理手続においては︑手続開始後の担保権実行の中止命令については定められているが︑申立て後から手続開始前の
保全段階については︑明文規定がない︒しかし︑有力説によれば︑商法三八六条二項で引用される同条一項一号の処分とし
て︑担保権実行としての競売手続を中止する保全処分を認めており︵上柳克郎ほか編代﹃新版注釈会社法︵12︶﹄︵有斐閣︑
一九九〇年︶一六八頁﹇青山善充﹈︶︑これに従う下級審判例も存在する︵福岡高決平成一〇年三月一七日金判一〇五二号ニ
ドイッ倒産法における担保権実行の停止 ︵都法四十四−二︶ 三〇七
三〇八
九頁︶︒なお︑法制審議会倒産法部会では︑会社整理手続を廃止する方向で検討されているとのことである︵福永・前掲注
︵1︶七頁︶︒
︵4︶ 担保権消滅請求制度については︑深山卓也ほか﹃一問一答民事再生法﹄︵商事法務研究会︑二〇〇〇年︶ 一九〇ー二〇五
頁参照︒
︵5︶ 新会社更生法では︑更生計画案を決議に付する旨の決定があるまでの間に︑担保目的物が事業の継続にとって必要がない
ことが明らかな場合には︑管財人の申立てまたは職権で︑裁判所は︑担保権の実行禁止を解除することができるようになっ
た︵新会更五〇条七項︶︒担保権者は︑管財人にかかる申立てをするよう求めることができる︒もっとも︑申立てをするか
否かの判断は管財人に委ねられており︑申立てをしなかった場合には︑その理由を裁判所に報告しなくてはならないことと
されている︵同条八項︶︒
︵6︶ 旧会社更生法下においてであるが︑民事再生法と会社更生法における担保権の処遇を対比するものとして︑佐藤鉄男﹁担
保権の処遇をめぐる会社更生と民事再生の対比﹂銀法六一三号二一頁以下︵二〇〇三年︶︒
︵7︶民・忌ξΦ︒﹃合§σq↑三゜国゜匙゜bdΦぎく°・︒O°⑰一︒︒⑩︒︒︵切ΩbdPΦ右Φ﹂N︶°
︵8︶<Φ品﹂①戸︒冨︒aきσQ<°NΦ゜P﹂⑩ωO︵男Ωbゴ目゜力゜ω・︒一︶°
︵9︶ΩΦc・Φ訂害2§慰9σqω<Φ﹃︒・§σqΦ巨白σq巨巳巳ΦN忌巴σq︒︒<Φ§書§σq戸三゜呵.匹゜bdΦ犀゜<°・︒O°朝﹂︒︒⑩︒︒°
︵10︶出知碧日ΦkΦ♪ζ旨9ΦbΦ﹃民o§旨Φ9隅NξH霧o一くΦ日︒﹃音§σq︵国誘σq°匿890︷\ピ乞o≦の江\°力盲日2︶︑窪゜r
・⊃OO一−㎝い︒﹂印匹弓゜↓P
︵11︶ この点について︑一九七八年アメリカ連邦倒産法の基礎となった下院草案︵口゜国゜°︒︾︒OO︶では︑﹁自動的停止は倒産手続
上の保護の重要な側面であるが︑⁝⁝特に破綻した企業にとっては︑一息つく間と債権者と建設的に交渉する時間が与えら
れる﹂と述べられている︒出゜印゜国Φ℃Zo°q⊃㎝−留伊q⊃○;Oo品こ一︒一ωΦ゜・°力゜︵﹂ロコ︶﹃ふ︑eさミo良↑コ○OoF田卸㌫;
﹃Φ<°aこ声︾︒°︒﹂°
︵12︶ アメリカ連邦倒産法における自動的停止の確立について︑詳細は︑拙稿﹁アメリカ連邦倒産法における自動的停止の生成
と展開︵一︶︵二・完︶﹂都法四一巻二号四二三頁︵二〇〇一年︶︑四二巻一号二八九頁︵二〇〇二年︶︑拙稿﹁アメリカ連邦倒
産法における担保権実行の制限ー自動的停止をめぐる議論の変遷1︵一︶︵二・完︶﹂民商法一二三巻三号三五二頁
︵二〇〇〇年︶︑四11五号七三二頁︵二〇〇一年︶を参照されたい︒
︵13︶ 周知のように︑一九九四年ドイッ倒産法制定に至るまでの改正論議においては︑担保権者による手続費用分担金︵民o°︒冨づ
ロΦ一言巴σq§σq︶の負担も注目を集めた論点のひとつであった︒これは︑担保目的物の換価金の一定割合を換価手続の費用と
して︑破産財団に拠出するという制度である︒一九九四年法においては︑倒産管財人が動産または債権を換価した場合には︑
確定費用四%および換価費用五%が換価金から控除され︑債権者が換価する場合には︑確定費用四%および売上税が控除さ
れることになっている︵ドイッ倒産法一七〇条︑一七一条︶︒わが国においても︑破産法にかかる制度を導入するか否か検
討されており︵﹁破産法等の見直しに関する要綱案﹂NBL七⊥ハ六号五六頁︵二〇〇三年︶︑中間試案については︑田原睦夫
・−﹁別除権について﹂ジュリ一二三六号二九頁以下︵二〇〇二年︶参照︶︑ドイッの右制度について検討することは有益である
と思われるが︑本稿では紙幅の都合により︑手続的規制に限定して紹介する︒
第二章一九九四年ドイツ倒産法制定以前の改正論議
一 一九七〇年代の改正論議
1 一九九四年にドイッ倒産法が制定される以前の状況を︑旧西ドイッを中心に振り返ってみると︑旧西ドイッで
︵14︶ ︵15︶ − は︑一八七七年旧破産法および一九二七年旧和議法が施行されていたが︑前者は一八九八年に︑後者は一九三五年に︑
それぞれ改正されている︒その後︑一九三七年および一九三八年にライヒ司法省が破産法改正草案を作成した︒その
中には︑後の破産法改正作業につながる進歩的な意見がすでに見られており︑別除権に対する制限も含まれていた︒
しかし︑当時の経済状況は︑かかる改正要求を後押しするほどには窮迫しておらず︑また︑第二次世界大戦が勃発し
だために︑改正論議は継続せず︑右改正草案が再び取り上げられることはなかった︒その後︑一九五〇年代に入ると︑ ︵16︶ 再び改正の動きが見られるが︑当時のドイッは好景気にあり︑またしても改正論議が継続することはなかった︒
2 しかし︑一九七〇年代に入ると︑一九七三年のオイルショックによる大幅な景気後退を契機に改正論議が再び
ドイッ倒産法における担保権実行の停止 ︵都法四十四ー二︶ 三〇九
三一〇
活発になり︑この改正論議は中断することなく続けられ︑一九九四年ドイッ倒産法として結実することになる︒オイ
ルショック後の景気後退により︑破産申立て件数が増大したが︑この時期のドイッは︑破産手続が申し立てられても︑ ︵17︶ 手続費用をまかなう財団が不足しているために申立ての七五%が棄却され︑手続が開始されたとしても︑二〇%が廃
止されるという状況であった︒また︑優先権のない無担保債権者に対する平均配当率は三〜五%︑未払労働賃金債権 ︵18︶ などの優先債権者であっても一八%の配当率であったと報告されている︒このように︑当時のドイッ破産法は︑﹁破
︵19︶ ︵20︶ ︵21︶ 産の破産﹂および﹁倒産法の危機﹂といわれる機能不全に陥っていたのである︒他方において︑和議手続も︑多くの
場合に︑三五%および四〇%の法定最低弁済率を満たす配当財団が不足していることが原因で意義を失って
しオ 、( y゜
このような破産法の機能不全を招いた原因は︑担保権との関係においては︑次のような点にあったといえる︒すな
わち︑一八九八年ドイッ破産法においては︑担保権者に対して︑目的物から最優先で満足を得ることができる別除権
という法的地位を与えたが︑そのメルクマールとして︑公示性が要求され︑不動産担保権と動産の占有質に別除権が
与えられた︒その結果︑債務者が占有する動産は破産債権者に与えられるかのように思われた︒ところが︑ドイッ企
業は金融を確保するために︑企業が有する動産や債権に担保を設定する必要が生じ︑債務者自らがそれらを占有しつ
つ︑担保設定の公示を必要としない担保手段として︑譲渡担保や所有権留保などの非占有動産担保権が利用されるよ
うになった︒このような結果︑破産債権者に割り当てられるはずであった財産が担保権の対象となり︑破産財団の欠 ︵23︶ 乏を招くに至ったのである︒
3 以上のような﹁破産法の機能不全﹂という認識を受けて︑一九七六年に開催された第五一回ドイッ法曹大会
︵OΦ巨合Φ巨ユm8暮躍︶では︑﹁動産担保法の改正について法的措置が望まれるか﹂というテーマが取り扱われ︑
O﹃oげ巳σqによる専門的見解︵∩︸已け知O古けΦ白︶の公表の後︑出雲︒吋巴および民一一σq零による研究報告︵出Φ︷胃巴︶がなされた︒
主な論点は︑動産担保の効力が破産において制限されるべきかという点であった︒法曹大会において︑倒産手続にお
ける非占有動産担保の処遇ピいう問題がテーマとして設けられたのは初めてのことである︒以下では︑前述の三名が ︵24> どのような報告を行ったのか︑担保権の処遇︑なかでも担保権実行の制限に焦点をあてて紹介する︒
︵1︶08ぴ巳σqの専門的見解 . お O﹃oぴ巳σqは︑その報告において︑とくに倒産法における担保権の処遇について︑次のような専門的見解を述べてい
る︒ まず︑彼は︑担保権者であっても倒産手続では危険共同体の一員であることを強調する︒しかし︑無担保債権者 あ のために担保権者は目的物の換価金から一定率を財団に拠出すべきである︵いわゆる手続費用分担金︶との主張や︑後 へ れ 述の=Φ5︒冨一のように担保権の順位の変更に関わるような改正には反対し︑むしろ所有権留保の延長.拡張条項の ︵28︶ ︵29︶ 制限によって︑二般債権者への配当可能性を回復すべきものとし︑具体的に次のような提言をしている︒
D 担保の目的物は破産手続においては原則として破産管財人が換価する︒ ︵ ∋ 破産管財人は︑担保権者に利用料を支払った上で︑債務者企業のために目的物を一時的または永続的に使用でき ︵
るものとする︒
鋤 担保権者は手続に参加しなければならず︑目的物の返還請求権は否定され︑担保権者の実力による持出行為につ
いては一括して賠償する義務を課す︒
㈲ 被担保債権の利息は破産手続中は停止する︒
ドイッ倒産法における担保権実行の停止 ︑ ︵都法四十四+二︶ 三=
三一二
ω 和議手続においては︑担保権者の担保目的物の返還請求権は停止し︑担保権者は猶予和議︵ω已昆§σqω<Φお﹂Φ戸合︶
に拘束される︒
︵2︶国窪︒オ巴による研究報告
次に︑出8︒冨﹂の提言を見てみよう︒彼も様々な提言を行っているが︑以下では︑本稿の問題意識に関連する部分 ︵30︶ について︑要点を示すことにする︒
ω 担保設定者が倒産していない限り︑︹平時実体法においてー筆者注︺動産担保の許容性と効果を制限する必要はない︒
⑥ 破産手続において︑別除権は︑公示の原則および特定の原則を満たしている担保権のみに与えられる︒非占有動
産担保権に︑登録︑登記簿などにより公示性を与えるという提言は︑実用的ではない︒
価 個々の動産担保の形態について禁じたり︑あるいは︑破産手続において無効とするような個別的な扱いは︑信用
供与者の間におけるバランスを危険にさらす︒
ω 動産担保目的物の換価権は︑破産管財人に専属的に帰属させる︒
ω 動産担保権者に負わされるリスクは︑早期に破産手続を開始する利益を生じ︑それによって︑破産手続開始時に
多くの財産が存在し︑それゆえ︑多くの割合で︑一般破産債権者にも配当されることになる︒このような倒産手
続の早期開始は︑倒産法の全体的な改正の枠組みにおいて︑再建手続が導入されることによってさらに促進ざれる︒
︵3︶民一﹈σq隅による研究報告 ︵31︶ 最後に︑民巳σq胃の提言を見てみたい︒要旨は次の通りである︒
ω 担保を直接規制することは信用の縮小を招くため同意できない︒
︑ω動産担保の現実が倒産法の現状の中で倒産の顕在化を引きのばし︑その処理を非効率的なものとしている︒かか
る問題の解決は︑破産の申立てを早期にすることを強制することによってではなく︑早期申立ての誘因を作り出
すことによって実現されるべきである︒
⑥ 新しく導入されるべき手続では︑すべての動産担保目的物は管財人によって換価されるものとする︒
め 担保権者であっても倒産処理の上での危険の外に立つものではなく︑これと運命を共にすべきである○具体的に
は︑所有権留保における債権者は︑目的物の価格の一割を費用として拠出する︒これに対し︑国巴筈巴のように︑
非占有動産担保権者を一般債権者の地位におろすべきとの見解は︑信用供与の縮小をもたらすため同意できない︒
の 出①口昆巴のように担保形態の個別性を否定して標準化の途を歩むことは︑規制不能な新たな担保形態を生みやす
いので︑同じく同意できない︒
ω 担保設定契約に文書を要するものとする︒ ︵32︶ . ㈲ 延長された所有権留保の規制にも反対である︒
これらの提言に加え︑民﹄一西隅は︑とくに主たる金融機関の責任を論じ︑債務者企業が主として融資を受けてきた
金融機関が突然信用供与を停止することによって他の債権者を倒産させることが多いという点を批判し︑申立て前三
〇日以内め担保の設定の無効を立法化すべきであると主張する︒
以上が︑O﹃○亘巳の︑寓巴○冨一︑民∈一σq胃の報告の要旨であるが︑かかる提言を踏まえて︑第五一回ドイッ法曹大会で ︵33︶ は︑さらに討議が続けられた︒討議においては︑まず最初に︑倒産手続において非占有動産担保を制限すべきである
ドイツ倒産法における担保権実行の停止 ︵都法四十四ー二︶ 三一三
三一四
との提言に対して︑銀行の法律顧問弁護士からの厳しい反論がなされた︒それに対して︑報告者側は︑﹁担保権者一
般を制約するのではなく︑不十分な信用調査で金を貸した担保権者が報いを受けるに過ぎない﹂と再反論したが︑銀
行側はこのような再反論には納得しなかった︒また︑﹁銀行は担保権を制限されても融資せざるを得ない﹂との報告 ︵34︶ 者側の再反論も説得力に欠けたようである︒
このように︑一九七〇年代に再燃した破産法改正論議においては︑非占有動産担保による破産財団の侵食によって
引き起こされた﹁破産法の機能不全﹂という危機を克服するための方策として︑動産担保への制限が提言されるよう
になった︒前述の三名の報告を概観してみると︑いずれも破産手続あるいは和議手続において動産担保権を何らかの
方法で制限することについては程度の差こそあれ共通認識を有している︒この点︑08ぴ巳σqと民戸﹂σq胃は︑動産担保
権を制限する根拠として︑担保権であっても︑倒産手続においては危険共同体の一員であるということを強調してい
る︒また︑三名とも同様に︑動産担保目的物の換価権を破産管財人に専属的に付与すべきであると提言する︒もっと
も︑このような提言に対する批判が非常に強かったことは︑前述の通りである︒しかし︑それでもなお︑動産担保権
に制限を加える方向で︑改正作業は進められることになる︒
4 その後︑一九七七年にケルンにおいて開催された倒産法会議︵O隅民α﹂g﹃甘切○才①旨﹃Φ○冥切オ8σq器mおぺ︶に
おいて︑破産法の危機について︑さまざまな観点から議論がなされ︑このことが連邦司法大臣の具体的な対応を促す
︵35︶ ことになった︒まず第一歩として︑連邦司法省は︑一九七六年および一九七七年に日本において倒産実務の実態調査
を行い︑また︑ほぼ同時期にドイッ国内においても︑調査を行った︒さらに︑当時の司法長官は︑実態調査の必要性
を説き︑連邦司法省は︑マックスプランク研究所︵7肖P×1﹈︶﹂P白○犀1﹈づ切仲戸け己↑Φ︶にドイッにおける破産実務の実態を調査 ︵36︶ するよう依頼し︑この調査により︑破産法の改正問題が︑経済社会全体に関わる公的な問題であるということが改め
て明らかにされた︒また︑この調査を通じて︑財団不足が原因で破産申立てが棄却される場合が非常に多いこと︑担
保権によって財団が疲弊させられていること︑労働者の未払賃金債権が優先的債権として扱われるため無担保債権 れ 者が破産手続において十分な満足を受けられないことが明確にされ︑倒産法の危機の実情がヨリ具体的に明らかにさ
︵38︶ れた︒
二 連邦政府による改正作業の本格化︐
1 一九七〇年代以降活発化した破産法改正論議は︑一九七八年初頭に︑社会民主党︵oo勺O︶と自由民主党︵呵O勺︶
の連立政権の下で︑社会民主党の司法長官く°西Φ︸が︑政府から独立の倒産法専門家委員会︵O↑・ωp9・隅留ぎ合σq・〒
宮日巨゜︒°︒日⇒一旨H霧○一く①5胃Φ9↑°以下︑倒産法委員会という︶を連邦司法省に設置することにより︑政治的な課題とし
て本格的に取り組まれることになった︒右委員会の構成員として︑倒産法・労働法の学者および実務家のほか︑経済
団体︵製造業界・商業界・銀行業界など︶ならびに労働組合の代表者が招聰されている︒<oσq匹が倒産法委員会を設置し
た目的は︑次の二点にある︒すなわち︑第一に︑破産手続の機能の回復である︒このためには︑担保権者に対して特
別な手続上の負担を課することによって財団の充実を図り︑それによって債権者にとって公平な清算手続を実現する
ことが課題のひとつとされている︒第二には︑倒産に貧した企業の再建を可能にする新たな手続を構築することが挙
︵39︶ ° げられている︒
倒産法委員会による審議の成果は︑企業の更生を容易にするという観点からまとめられ︑一九八二年に公表された︒
︑ その内容については︑同年に開催された第五四回ドイッ法曹大会において︑さらに審議された︒右会議の決議におい
ては︑企業の収益力を回復させる方法により倒産状態を除去し︑併せて︑雇用の場の維持に配慮することを目的とし
ドイッ倒産法における担保権実行の停止 ︵都法四十四ー二︶ 三一五
三一六 ︵40︶ た再建手続を新たに導入することが示されている︒
2 他方︑このような新しい再建手続を導入するという提言に対しては︑当時の破産法の下においても︑破産開始
決定手続の間は︑財団保全のために任命される係争物管理人︵c力ΦρcΦ︒︒§︶が︑破産宣告後は破産管財人が債務者の
営業を継続し︑企業の収益力がある部分を破産財団から切り離して︑第三者に譲渡することにより企業を更生するこ ︵41︶ とが可能であり︵いわゆる営業譲渡による再建︵Oぴ①﹃育①σq窪匹Φo力知巳Φ2づσq︶︶︑かつ︑それに成功しているという理由か
ら︑懐疑的な見解が示された︒しかし︑その一方で︑このような営業譲渡による再建の手法にも次のような問題点が
あるとの指摘もあった︒すなわち︑当時の破産法は︑抵当権者︑所有権留保権者あるいは譲渡担保権者に別除権ない
しは取戻権を与えているため︑営業の譲渡に不可欠な企業財産が財団から流出してしまうという点である︒このよう
な問題に対して︑係争物管理人や破産管財人は︑担保権者との間でプール契約︵勺︒︒一−<Φ旨pσqあるいは勺○︒7<隅Φ日ぴ
巴§σq︶を締結することによって︑一定の債権者グループの担保権を結集して換価プール︵<Φ§Φ昌§西ωo︒o一︶を形 ︵42︶ 成し共同で換価するという実務によって対応しており︑これには破産手続外において個別に合意を取り付けなければ
ならないという難点が伴った︒また︑個別に換価する担保権者に対しては︑不動産競売の一時的停止を破産管財人が
申し立てる︵旧強制競売強制管理法三〇条c︶ほかに︑よそから資金を調達して弁済するしか対処方法がないという限
界もあった︒かかる状況を踏まえて︑企業再建手続には動産担保権者を取り込むことが不可欠であるとの見解も主張
︵43×44︶ されていた︒
倒産法委員会は︑以上のような論調を踏まえつつ︑前述の第五四回ドイッ法曹大会における審議の結果を︑一九八
五年には第一報告書として︑さらに一九八六年には第二報告書としてとりまとめ︑連邦司法省に提出し︑併せて条文
の形に整理された要綱も公表された︒
三 倒産法委員会による提案
1 倒産法委員会による二つの報告書について紹介する前に︑第一報告書の公表に先立ち︑一九八四年四月一二日
にケルンで開催されたドイッ法系民事訴訟法担当者会議︵O①﹃弓①σq巨σq口零くΦ﹃Φ巨σq已品口零N才↑﹂買oN①m奉合け゜︒﹂︒ξ零︶ ︵45︶ において︑倒産法委員会の中心的メンバーである口雪品Φ一によってなされた﹁倒産法の改正﹂と題する報告について
紹介しておきたい︒右報告では︑倒産法委員会における破産法改正の基本的な方向性が示されている︒まず︑特筆す
べきは︑従来の破産手続と和議手続という二つの手続が一つの倒産手続として統一されているという点である︒債務
者︵企業︶あるいは債権者から申立てがなされると︑.統一的な倒産手続が開始され︑事前手続︵<自く雪合汀Φ゜︶に紐
いて︑その債務者︵企業︶には更生の見込みがあるか否かが検討される︒そして︑更生の見込みがあると判断されれ
ば︑更生手続︵因①・品p巳ωp﹇δ昌m<①エ①言巴︶が開始されるのである︒更生手続において︑担保権者は︑次のような処
遇を受けることになる︒まず︑非占有動産担保権者は︑手続が進行している間︑担保目的物の引渡請求権を持たず︑
また︑担保のために譲渡された債権の譲受人である債権者は︑取立権をもたない︒強制執行は不適法とされる︒他方︑
管財人は︑・非占有動産担保の目的物を利用し︑附合︑混和︑加工︑譲渡する権限を有する︒追加担保を設定すれば︑
担保目的物を費消することも可能である︒さらに︑管財人は︑担保のために債権者に譲渡された債権を取り立てるこ
とができる︒しかし︑取り立てられた金額は︑別に管理されなくてはならない︒もっとも︑管財人が︑追加担保を設
定したときは︑取り立てた金額を財団のために利用することができる︒更生計画においては︑非占有動産担保は被担
保債権額を減免されうる︒その際︑すべての担保権者は平等に扱われなければならず︑計画の認可に際しては︑被担 ︵46︶ 保債権総額の八〇%の同意が必要とされる︒
このような非占有動産担保の取扱いに対し︑不動産担保については︑更生手続による影響を受けないこととされて
ドイツ倒産法における担保権実行の停止 ︵都法四十四−二︶ 三一七
﹂