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「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完)

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「流動動産譲渡担保」と

他の担保権の関係(2・完)

古弊

健三郎

目次 1 はしがき II動産売買先取特権との関係  1 最:高裁昭和62年判決の検討  2 学説の検討(以上・287−288号)

 3 試論

III所有権留保との関係  1 譲渡担保と所有権留保の優劣関係  2 所有権留保から派生する問題 IV むすび(以上・本号) II 動産売買先取特権との関係(つづき)

 3 試論

 (1)従来の学説は多岐に分かれているが,その中において価値判断を重視 する見解が非常に多いということがわかる。また,近時においては,流動動産 譲渡担保の効力を弱めようとする立場が増えてきているが(価値枠論,石田教 授の説,道垣内助教授の説など),これらの立場においても価値判断が大きな役       33) 割を演じている。しかし,流動動産譲渡担保の効力を一般的に弱めようとする 33)下森教授は,動産先取特権を流動動産譲渡担保に優先させるという結論をとっているが,  その背景にも,流動動産譲渡担保の効力をあまり強くする必要がないという価値判断ないノ

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114 彦根論叢 第289号 立場には次のような点で賛成できない。  価値坐論は,流動動産譲渡担保が目的物の流動性という特質を有することか ら,これをいわゆる「特定動産譲渡担保」とは異質のものと捉えて議論を展開 している,と見ることができる。というのは,伊藤教授は,流動動産譲渡担保 を「限定的浮動担保」と位置付け,担保の実行前における個々の動産に対する 担保的支配を否定しているからである。道垣内説も,担保の実行前の効力と実 行段階における効力を区別している点で価値枠論と共通し,流動動産譲渡担保 を「特定動産譲渡担保」とは異質な存在と捉える見解といえる。  確かに,流動動産譲渡担保は目的物の流動性を有する点で,「特定動産譲渡担 保」とは異なる。しかし,このような流動性が直ちに個々の動産に対する担保 的支配を否定する根拠になるとはいえない。支配権(物権)が変動・成立する ための要件は,権利譲渡,設定の合意と客体の特定である。では,流動動産譲 渡担保においてこの要件を充足することは不可能であるのか。このことは特に 客体の特定の点で問題となるが,客体の特定は決して不可能ではない。流動動 産譲渡担保においての権利客体は個々の動産であるという私見に従う場合,こ の点については次のような説明ができる。まず,譲渡担保契約時に現存する個 々の動産が特定されうることには異論はあるまい。次に,契約時に現存してい ない動産についても,契約によって目的物の場所の指定などをすることによっ て,将来において動産が客体として特定されうるのである。例えば,「A倉庫に 搬入された現在および将来の全商品を担保に供する」という約定がなされたと きには,将来の商品もA倉庫に搬入された時点で担保の客体として特定される。 したがって,その時点で支配権の成立を認めることはできるはずである。また, かくして成立する支配権は,流動動産譲渡担保では譲渡担保設定者のする客体 の処分によって消滅することになっているが,そのことは支配権の成立に対し ては何の障害にもならない。なぜなら,少なくともそのような処分までには支 \し政策判断がある(下森定「集合物(流動動産)の譲渡担保」下森=須永編『物権法重要  論点研究』(平成3年)124頁)。なお,松井宏興「動産譲渡担保立法論」法律時報66巻2号  (平成6年)57頁以下は,流動動産譲渡担保の効力を弱める立法論を展開している。

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       「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完) 115 配権は存在するからである。支配権が事後に消滅することは,客体の特定の問 題には影響を与えない。というのは,客体の特定は支配権の成立の段階におい        34) て吟味される要件だからである。問題であるのは,譲渡担保設定者の処分によ って支配権が消滅することを基礎付ける法的構成であるが,これに該当するの が,従来分析論の中で説明されていた構成,すなわち,設定者による処分が譲 渡担保契約の解除条件とされているというものや,譲渡担保権者が設定者に処 分の授権をしているというものである。  このように,個々の動産に対して支配権が成立するかどうかという点につい て決定力を持つのは,客体の特定性であり,それゆえに,流動動産譲渡担保の 物権的効力を認める従来の通説もこの特定の問題に議論の重点を置いてきたと いえよう。もし,流動動産譲渡担保の効力を一般的に弱めようとする諸見解が この点に十分に留意していないならば,それは問題である。もちろん,これら の見解が,流動動産譲渡担保に物権的効力を認めることによって生じるかもし れない害悪,例えば他の債権者が不測の損害を受けることなどを考慮している 点は傾聴に値する。しかし,例えば,ある倉庫の中に存在する商品全部を担保 に供するというような,従来客体の特定が認められてきた事例(例えば,前述 の最高裁昭和62年判決の事案)において,譲渡担保の物権的効力を否定して, 他の債権者を保護するのが本当に妥当な結論といえるのだろうか。このような 事例においては,担保の対象となる財産が債務者ないし設定者の他の一般財産 から明確に区別されているのであるから,この譲渡担保契約に物権的効力を認 めても設定者の生活,営業を不当に抑圧するものではない。そして,かような 設定者の財産のうちの一部から優先弁済を受けるという契約を結んだ以上,そ のような契約締結の労をとった譲渡担保権者を他の債権者よりも優遇するのが 34)本稿では,流動動産譲渡担保に対する関係で,客体の流動性のない動産譲渡担保を「特  定動産譲渡担保」と呼んできたが,流動動産譲渡担保においても客体が特定される点に鑑  みると,この「特定動産譲渡担保」という用語はあまり適切ではないかもしれない。むし  ろ,「固定動産譲渡担保」という名称を用いた方が事物の本性に適合するだろうが,従来,  多くの論者が「特定動産譲渡担保」という用語を使用しているので,さしあたり私もそれ  に従うことにした。

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116  彦根論叢 第289号 妥当ではないのか。もし,このような事例においても流動動産譲渡担保の物権 的効力を否定するのであれば,それは,単に流動動産譲渡担保の有用性を奪い, 金融取引における一担保手段を台無しにする結果となるだけではないのか。私       35) はかっても,政策的見地から価値枠論を支持できない,と主張したが,それは このようなことを意味しているのである。  ただ,この場合に問題になるのは特定の具体的な基準であり,場合によって は客体の特定性が認められるかどうかを決定するのが困難なときもあろう。し かし,譲渡担保契約の内容から直ちにいかなる動産が客体となるのかが客観的 に明確になる場合ならば,客体の特定は肯定されるべきである。少なくとも, ある倉庫の中に存在する商品全部を担保に供するというような場合には,客体       36) の特定は肯定されるべきである。   (2)以上のように,流動動産譲渡担保は,客体の特定が確保される限り, 物権的効力を有するものと見るべきである。そして,他の担保物権,とりわけ 動産売買先取特権との優劣関係の問題は,この客体の特定が確保されてはじめ て生じる。ただ,このように流動動産譲渡担保の物権的効力を肯定する立場を とる場合でも,既に触れたように,担保の優劣の問題における価値判断の重要 性を強調する見解が有力である。確かに,流動動産譲渡担保については制定法 の明文規定がないから,この問題を本来的な解釈論の枠内で処理することは困 難である。それゆえ,この問題において特に価値判断が威力を発揮することも 認めなければならない。しかし,流動動産譲渡担保に関する明文規定が存在し ないということから,直ちにこの問題に関係する制定法の何らかの評価が全く 35)古積「『流動動産譲渡担保』に関する理論的考察(二・完)」法学論叢133巻6号68頁。 36)これに対して,「債務者所有の動産全部を担保に供する」という約定がなされた場合に  は,譲渡担保の物権的効力は否定されるべきものと思われる。この場合には,債i務者の所 有する動産全部が担保の対象になるという点で,担保の客体が客観的に定まってはいるが,  もし,この場合に物権的効力を認めると,債務者の動産はすべて一人の債権者によって独  占され,他の債権者との関係で著しく公平を欠くことになりかねないからである。このよ  うな判断は,流動動産譲渡担保の効力を一般的に弱めようとする諸見解の背景にある価値  判断と共通したものを包含するが,私見はこのような価値判断が妥当する領域を限定する  点でそれらの見解と異なる。

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       「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完)  117 見いだされないとはいえない。民法は,動産売買先取特権と他の物権との優劣 関係を個別に規定しており,これらの規定から譲渡担保と動産売買先取特権の 優劣関係にかかわる民法の評価を読み取ることもできるだろう。そして,価値 判断もかような民法の評価に可能な限り相応しなければならない。  このような見地から特に注意すべき規定が民法333条である。支配的見解によ れば,同条における「第三取得者」は所有権の譲受人とされている。それゆえ, 譲渡旭保が債権の担保を目的とするものであることに鑑みると,これが同条の       37) 「第三取得者」にそのまま該当すると見ることは難しい。だが,この規定は, より一般的に,先取特権の目的物につきその引渡(占有改定を含む)という形 式を伴って権利を取得した者を保護するという評価を包含するものとはいえな いだろうか。そこで,譲渡担保においても引渡(占有改定)を伴って物権変動 が生じるから,譲渡担保と動産売買先取特権が衝突した場合には,この規定に よって譲渡担保が先取特権に優先すると解すべきである。私は既に「民法333条       38) を譲渡担保に類推適用して,譲渡担保を先取特権に優先させるべきである」と 主張しているが,「類推適用」とはこのような意味で用いたのである。  これに対しては,譲渡担保が債権担保を目的とすることに鑑みると,334条を 類推適用する方がよいのではないのか,という疑問が呈されるだろう。しかし, 個別規定によって問題を処理しようとするならば,334条よりも333条を持…ち出 す方が妥当と思われる。譲渡担保においては目的物の現実の引渡が行なわれな いのに対して,質権は現実の引渡をともない,両者を同列には扱えないという 批判に対し,334条を類推適用する立場は,質権が第一順位の動産先取特権と同 順位とされるのは,その約定担保たることに由来し,現実の引渡の存在はこの 37)吉田教授は,「譲渡担保を担保として法的構成するのであれば,民法333条の『第三取得  者』から譲渡担保権者を除外すべきことはいうまでもないし,譲渡担保は,非占有担保で  あるから,譲渡担保権者が占有改定によって占有を取得すると考えることも,理論上困難  であるから,民法333条の『引渡シ』もないというべきであろう。」と主張する(吉田眞澄  「動産の譲渡担保と所有権留保・先取特権」法律時報65巻11号81頁)。 38)古積・前掲70頁。

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118 彦根論叢第289号        39) ことには関係しない,という反論をする。確かに,第一順位の動産先取特権が 当事者の意思の推測に基づくものであることに鑑みると,この反論には一応の      40) 説得力がある。しかし,第一順位の先取特権の中で,旅店宿泊の先取特権と運 輸の先取特権においては,多くの事例において,先取特権者は先取特権成立の 際に目的物を直接占有しているだろうし,不動産賃貸の先取特権においても, 先取特権の目的物となるものは,賃貸不動産に設置された動産と土地の果実で あるから,先取特権成立時に先取特権者が目的物を直接占有するのに準じた状 態になっていると見ることができる。したがって,これらの先取特権が第一順 位とされ,質権がこれらと同順位とされるのは,質権が目的物の現実の引渡を 伴う担保であり,第一順位の先取特権がこれに準ずるものであることにも基づ         41) いているようである。その意味で,譲渡担保と334条の規定の間には隔たりがあ D,むしろ,333条の「引渡」には占有改定も含まれることを考えると,譲渡担       42) 保には333条の方が親和的である。  ただ,従来主張されている333条適用説によると,先取特権は譲渡担保の対象 となった動産に対しては何の効力も及ぼさなくなり,このことは譲渡担保に債 権担保という目的を超える効力を与えるのではないのか,ということが問題に なる。特に,目的物が譲渡担保権者の有する被担保債権の額を超える価値を有 するとき,333条によって先取特権の追及効を切断してしまうと,先取特権者 は,目的物の残余価値から他の一般債権者に優先して弁済を受けることができ    43) なくなり,この結論はやはり問題である。334条類推適用説に従う場合にはこの 39)角「判例研究」ジュリ854号120頁,同「判例研究」法協107巻1号147∼148頁,千葉「集  合動産譲渡担保の効力(3)」判タ763号17頁。 40)我妻博士は,質権が第一順位の先取特権と同順位であるのは,第一順位のものは意思の  推測に基づくものであり,質権はこれと同一に取り扱うことが至当だからである,と述べ  る(我妻「新訂担保物権法」92頁)。同旨,柚木=高木「担保物権法」〔第三版〕74頁,道  垣内「担保物権法」61頁。 41)近江教授は,質権が第一順位の先取特権と同順位とされる理由を,「質権者は,目的物を  占有している関係で,優先権を与えられるのを適当とする」点と見る(近江「担保物権法」  〔新版〕(平成4年)56頁)。 42)三上「判例研究」法学研究62巻2号116頁もほぼ同旨である。 43)鎌田薫・法学セミナー398号(昭和63年)96頁参照。なお,中祖氏は,先取特権の追及効/

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       「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完) 119        44) 問題を回避することができ,これが334条類推適用説の利点かもしれない。しか し,既に触れたように,質権は目的物の現実の引渡を伴うという点に鑑みると, 譲渡担保には334条よりも333条の方がより近い位置にあると見るべきである。 そこで,次のような解釈論は展開できないだろうか。すなわち,この問題は333 条によって処理すべきであるが,この場合に333条によって生じる効果は,先取 特権の効力の喪失ではなく,効力は存続しつつ譲渡担保に劣後することである, と見ることはできないだろうか。というのはこうである。一般的に,333条の趣        45) 旨は「第三取得者」の保護ないしは取引安全の確保であるとされている。例え ば,この「第三取得者」として純粋な所有権の譲受人が登場した場合には,こ の者の保護のためには先取特権の効力が完全に消失することが要請される。こ \はなくなるとしながら,譲渡担保権者が担保を実行した際,設定者が有するべき清算金請  求権に対して,先取特権者は物上代位を主張できるとする(中祖「集合物譲渡担保と動産  売買先取特権の競合」NBL307号12頁)。しかし,先取特権が譲渡担保の成立時点で追及  効を失うとしながら,その後に譲渡担保の実行により生じる清算金請求権について先取特  権の物上代位を語ることは果たして可能であろうか。この説には疑問が残る。 44)なお,千葉助教授は,「集合(流動)動産譲渡担保の法的性質についていかなる見解をと  ろうと,被担保債権が弁済されれば,集合(流動)動産譲渡担保権は消滅し,集合物の所  有権,したがって,個別動産の所有権は設定者の許に復帰するはずである。しかしながら,  民法333条を適用する限り,集合物への組み入れによって個別動産は集合(流動)動産譲渡  担保権者に引き渡されたことになり,動産売買の先取特権は消滅してしまっているのだか  ら,理論的には一旦消滅した先取特権が復活することはないはずである。このような場合  にも,売却された動産は依然として設定者=買主に直接占有されたままであり,売主が先  取特権を行使できないという結果は不自然であるといわざるをえない。」と主張している  (千葉・前掲14頁参照。括弧内の「流動」は筆者の補充による。)。   しかし,この点については疑問の余地がある。この問題は,333条による先取特権の追及  効の制限の意味をどのように理解するのかに関わってくる。確かに,追及効の制限を先取  特権の消滅と見る学説はあり(近江・前掲(注41)53頁,高木「担保物権法」〔新版〕(平  成5年)53頁),これに従う限り,千葉助教授の指摘は正当と言える。しかし,追及効の制  限を先取特権の消滅と理解せず,後に譲渡人=債務者が目的物の所有権を取り戻したとき  には先取特権の効力は復活すると考える立場も有力である(西原道雄「注釈民法(8)」210  頁,星野「民法概論II」216頁)。この立場に従うと,千葉助教授の立論はその基礎を失う  ことになる。いずれにしても,かかる見解の相違がある以上,この問題は333条適用説の大  きな欠点とはいえないだろう。 45)星野・前掲216頁,柚木=高木・前掲76頁。

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120  彦根論叢 第289号 れに対して,譲渡担保権者が登場した場合には,この者の保護のためには先取 特権の効力が消失する必要はなく,ただこれが譲渡担保に劣後することになれ ば足りる。したがって,333条の趣旨に鑑みれば,同条を譲渡担保に類推適用す る際の効果を,「先取特権の効力は存続しつつそれは譲渡担保に劣後する」とい うこととすることも可能である。ただ,このような処理を認めるときには,も はやそれを単に333条の「類推適用」と呼ぶことはできないだろう。しかし,譲 渡担保に対する立法措置のない現段階において,譲渡担保の目的が債権担保で あることを尊重してこのように個別規定を運用することは,必ずしも不可能で      46) はないだろう。 III所有権留保との関係  1 譲渡担保と所有権留保の優劣関係  流動動産譲渡担保が動産売買先取特権に優先することになれば,商品の売主 がこれに対抗する手段として,売買目的物の所有権を代金の完済までに自己に        47) 留保することが予想される(所有権留保)。そこで,譲渡担保と所有権留保の優 劣の問題が浮かび上がってくる。ただ,現在までこの問題を正面から検討した       48) 学説は多くない。したがって,以下においては,所有権留保の法的構成に関し 46)これは,譲渡担保という事物に則した法規の部分的訂正に該当するのかもしれない(磯  村哲「現代法学講義」(昭和53年)103頁参照)。   ところで,先取特権の実行がなされた場合,譲渡担保権者は執行法上これに対していか  なる権利主張をできるのかという点が問題である。判例は,譲渡担保権者に第三者異議の  訴えを認めている。確かに,譲渡担保の目的物の価値が被担保債権額を下回るときには,  判例の結論でよいだろう。しかし,逆に上回る場合には,第三者異議の訴えを認めること  は,目的物の残余価値から他の一般債権者に優先して弁済を受けうる先取特権者の地位を  無視することになる。したがって,この場合には,民事執行法133条を類推適用して,譲渡  担保権者には配当要求を認めるに留めるべきだろう。 47)堀氏は,最高裁昭和62年判決を考慮し,「私は,動産の売主としてはこれから売買基本契  約書とか個別売買契約書や注文書・注文請書等に所有権留保条文を入れる,これしかない  です。」と述べる(「[座談会]動産売買先取特権と譲渡担保権の優劣とその実務〔第3回・  完〕」債権管理11号35頁)。 48)鈴木「最:近担保法判例雑考(13)」判タ524号(昭和59年)45頁以下,吉田・前掲75頁以  下は,この問題に若干の検討を加えている。

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      「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完)  121 いかなる立場をとると,この問題につきどのような推論がなされるのかを簡潔 に示してみる。この問題を検討するに当たっても,流動動産譲渡担保における 権利客体は個々の動産であるということに注意しなければならない。そして, 所有権留保と流動動産譲渡担保の優劣関係の問題も,流動動産譲渡担保の客体 の特定が確保されてはじめて生じるものである。  まず,所有権留保売買では,代金の完済を停止条件とする売買目的物の所有 権の譲渡がなされていると見るならば(所有権的構成),代金の完済までには買 主に目的物の所有権が移転しないので,それまでには目的物につき譲渡担保の 効力が発生しないから,必然的に所有権留保が譲渡担保に優先することになる。 最高裁の判例は,このような所有権的構成を前提にして,所有権留保の客体た        49) る動産につき譲渡担保契約がなされても譲渡担保の効力は生じないと見ている。 所有権留保と譲渡担保は同種の非典型担保であり,かつ,売買目的物が(倉庫 などに搬入さ一れることによって)譲渡担保の目的物として特定される前に,所 有権留保が成立している以上,所有権留保が譲渡担保に優先するという結論自 体は妥当といえる。ただ,代金が完済される前にも買主によって代金の一部が 支払われ,売買目的物の価値が残代金債権の額を明らかに上回っているような 場合でも,かかる所有権網構成を前提にする限り,譲渡担保の設定を受けた債 権者は,担保を実行して目的物の残余価値から他の一般債権者に優先して弁済       50) を受けることはできないことになる。  これに対して,所有権留保が代金債権の担保を目的とするものであることを 重視して,例えば,売買契約と目的物の引渡によって目的物の所有権は買主に 49)最判昭和58年3月18日(判時1095号104頁)。 50)ところで,ドイツの支配的見解は,所有権留保につき所有権的構成を前提にしつつ,買  主は代金を完済する前には売買目的物につき所有権取得の期待権を有するという構成を採  屈している。そして,所有権留保の負担の付いた動産について譲渡担保契約がなされた場  合には,その動産については所有権取得の期待権が譲渡されている,と解釈する。しかし,  この見解も,譲渡担保は所有権留保に劣後することを前提にしている。このような所有権  留保をめぐるドイツでの議論については,戸戸「従物上に存在する複数の担保権の優劣関  係 一所有権留保における期待権構成への疑問一」『奥田昌道先生還暦記念論文集・民事法  理論の諸問題下巻』(所収予定)において検討を加えている。

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122  彦根論叢 第289号 移転し,売主は目的物上に一種の担保権を取得するという立場をとるならば(担 保的構成),代金完済前でも譲渡担保の効力が売買目的物につき発生する。た だ,この場合にも所有権留保が譲渡担保に優先すると見るべきである。なぜな ら,所有権留保は譲渡担保よりも先に成立し,同時に目的物の間接占有という 公示によって対抗力を備えているからである。所有権留保と譲渡担保という同 種の二つの非典型担保の優劣が問題となるときには,物権法の一般原理である 公示の原理によってその優劣関係を決定することができるだろう。  以上のように,所有権留保につきいかなる法的構成を採用するとしても,所 有権留保は譲渡担保に優先すると見るべきである。たださらに問題となるのは, 所有権留保の目的物に対する譲渡担保権の善意取得(民法192条)の成否の点で  51) ある。譲渡担保においては,担保の実行前には目的物が権利者に現実に引渡さ れることはなく,ただ占有改定がなされるのが通例であるから,占有改定によ って善意取得が成立するか否かという点が問題となる。        52>  最:高裁の判例は占有改定による善意取得を否定し,かなり多くの学説もこれ     53) を支持する。これらの見解によれば,善意取得は譲渡担保における担保の実行 前には成立しないことになる。これに対し,学説の一部は,善意取得が取引の 安全を保護するための制度であることを強調し,占有の取得は善意取得にとつ       54) て重要ではないとみて,占有改定による善意取得を肯定する。また,占有改定 51)所有権留保の客体についての譲渡担保権の善意取得を問題にするとき,所有権留保の法  的構成に留意する必要がある。すなわち,所有権留保に関して所有権的構成を前提にする  ときには,譲渡担保設定者を目的物の所有権を有しない者として捉えることができる。こ  れ.に対して,所有権留保について担保的構成を採用するとき,譲渡担保設定者は目的物の  所有権を取得しているので,彼は一応目的物の処分権を有している。しかし,この場合で  も,設定者は所有権留保の負担の付いた状態で目的物を処分する権限しか有しないから,  所有権留保の負担の付かない権利を取得できるかどうかという問題として,譲渡担保権の  善意取得を考えることができる。 52)最:判昭和35年2月11日(民集14巻2号168頁)。 53)’林良平「物権法」(昭和26年)103頁,末川博「物権法」(昭和31年)235頁,好美清光「判  例研究」一橋論叢41巻2号(昭和34年置86頁以下,舟橋諄一「物権法」(昭和35年)245頁,  於保不二雄「物権法(上)」(昭和41年)214頁等。 54)末弘厳太郎「物権法(上)」〔六版〕(大正12年)267∼268頁,我妻「占有改定は民法第一/

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       「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完) 123 によっても善意取得が一応成立するが,その段階では不確定的に所有権が取得 されるだけであり,後に現実の引渡を受けた者が確定的に所有権を取得する,        55) という立場も有力である。さらには,善意取得が問題になる事例を類型化して,        56) 個々の類型ごとに検討を加える立場や,商事取引と民事取引を区別して,前者       57) においては占有の態様を問わないとする見解もある。このように善意取得をめ ぐる議論は複雑であり,安直な立論は控えるべきであるが,現時点での私見は 次のとおりである。  確かに,現代の財産法においては,善意取得は取引の安全を確保するための 制度として理解されるのがよく,取得者への引渡という点を重視したこの制度 の沿革にはあまりこだわる必要はないのかもしれない。すなわち,所有物を自 己の意思で他人の占有の下においた者は,その他人に対してだけ所有物の返還 を請求でき,物が第三者の占有の下に移ったときには,その第三者には物の返       58) 還請求ができない,という思想が善意取得の起源とされているが,取引の安全 を:重視する近代法では,善意取得は第三老の権利を取得しうるという信頼を保        59) 護する制度として理解されるべきである。しかし,このような理解を前提にす \九二条の要件を充たすか」(昭和5年)『民法研究III』(昭和41年)149頁以下(我妻旧説),  石田文次郎「物権法論」〔一六版〕(昭和22年)331∼332頁,金山正信「即時取得と占有改  定」綜合法学1巻7号(昭和33年置24頁以下,柚木=高木「判例物権法総論」〔補訂版〕(昭  和47年)389頁等。 55)我妻=有泉亨「新訂物権法」(昭和58年)223∼224頁,鈴木禄弥「抵当制度の研究」(昭  和43年)416頁。松坂佐一「民法堤要・物権法」〔第四版・増訂〕(昭和59年)104頁も基本  的にこれを支持する。 56)このような立場をとるものとしては,谷口知平「占有改定と即時取得」柚木ほか編『判  例演習物権法』〔増補版〕(昭和48年)98∼99頁,棋悌次「物権法概論」(昭和59年)126∼  129頁,近江「占有改定と即時取得」「民法の基本判例』(昭和61年>70頁,広中俊雄「物権  法」〔第二版増補〕(昭和62年>191∼192頁がある。 57)喜多了祐「外観優越の民法的構成と商法的構成 一いわゆる『善意取得』の法理をめぐ  って一」小樽商科大学創立五十周年記念論文集(昭和36年)463頁。 58)我妻・前掲「民法研究III」152∼154頁,末川・前掲224∼225頁,広中・前掲175頁参照。  但し,安永正昭「動産の善意取得制度についての一考察 一いわゆる占有の権利外観効を  中心として一」法学論叢88巻4・5・6号(昭和46年)272頁以下,284頁はこの点を批判する。 59)我妻・前掲「民法研究III」155頁,川島武宜「新版所有権法の理論」(昭和62年)245∼258  頁参照。

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124 彦根論叢第289号 る場合でも,果たして単なる占有改定が行なわれただけで善意取得の効果を認 めてもよいのだろうか。例えば,占有改定によって誰かが所有権を取得し,他 方で元の所有者がその所有権を失うという結果は,あまりにも一方の利益のみ を偏重することにならないだろうか。というのは,占有改定がなされた段階で は,本来の所有者と,相手方が無権利者であることにつき善意無過失で取引関 係に入った者は,自己が所有権を有しているという信頼と目的物に対する位置 関係の点において,ほぼ同程度の地位にあるからである。むしろ,善意取得は, 本来権利を取得しえない地位の者の信頼を保護するために,特別に権利取得を 認めるものであるから,特別に保護を受ける者は目的物に対してより近い位置 関係にある必要がある。そして,信頼はこのような位置関係ど合体しているか        60) らこそ保護に値するといえよう。その意味で,善意取得が成立するためには, 単なる占有改定がなされただけでは足りず,目的物の現実の引渡を要すると見 るべきである。我妻博士は,善意取得の要件として取得者の占有の取得が要求 されるのは,善意取得の場合に「第三者に対抗しえざる物権の取得を認めるこ とは徒らに権利関係の紛糾を来たして何らの実益なきものなるがためである」 とし,したがって,対抗要件として十分な占有取得を伴うときは善意取得の要        61) 件としてもまた十分である,と主張する。しかし,善意取得に必要な占有は, 上述の点で,単なる対抗要件を超える意味を持つと見るべきである。  したがって,流動動産譲渡担保の場合でも,少なくとも,担保の実行に着手 して動産の現実の引渡を受ける前には,所有権留保の目的物について譲渡担保 権の善意取得は成立しないと考えるべきである。善意取得は,担保の実行段階 においてはじめて問題となる。 2 所有権留保から派生する問題 ところで,ここで問題となっている所有権留保は, 多くの場合に商人間の取 60)占有改定による善意取得を否定する従来の見解も類似の考量をしているものといえる。  好美・前掲192頁,舟橋・前掲246∼247頁参照。 61)我妻・前掲「民法研究III」160頁。

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       「流動動産譲渡担保」と他の担保権の関係(2・完)  125 引においてなされ,客体が在庫商品の一部を構成することになるだろう。する と,所有権留保の客体となっている商品はこれを取得した商人によってさらに 転売される可能性が高い。この際,転売された商品に所有権留保の負担が付い ていることになれば,転得者は不測の損害を受ける危険性がある。他方で,所 有権留保をなした商品の売主も,買主が商品を転売して営業資金を取得するこ とを通じて,自己の代金債権の円満な回収がなされることを期待し,通常は商 品の転売を買主に認めるだろうから,転売の後にも所有権留保の負担が存続す ることは望まないだろう。  そこで第一に問題となるのは,買主が所有権留保の目的物を転売し,しかも 転売された商品には所有権留保の負担が付かないとすることを,どのように法 的に基礎付けるのかという点であるが,これは売主から買主への処分授権の問 題と見ることができる。民法典には授権に関する明文の規定がないが,多くの       62) 見解は処分授権を容認するのではないかと思われる。  第二に聞題となるのは,かくして買主による転売が容認される場合,転売に よって買主が取得する代金債権について売主はいかなる権利を有するのか,と      63) いう点である。というのは,売主としては,単に転売だけを認めていたのでは 自己の債権の優先弁済を確保することができず,転売によって生じる代金債権’ から優先弁済を受けうる地位を確保したいところだからである。この場合,ま ず,所有権留保に民法上の物上代位の規定(304条)を類推適用できるかどうか が問題となるだろう。次に,仮に代金債権への代位が否定されるとしても,売 主が買主の代金債権について他の債権者に対して優先的地位を確保する手段と して,所有権留保付き売買契約の中に,買主が将来の代金債権を売主に譲渡す るという約定を付加するということが考えられる。したがって,将来の債権の 譲渡の有効性が問題となり,譲渡の客体の特定性などが議論の対象となるだろ 62)四宮和夫「民法総則」〔第四版〕(昭和61年)227頁霊智。 63)この問題に関するドイツでの議論の状況を詳細に検討したのが,米倉明「流通過程にお  ける所有権留保(一〉(二)(三・完)」法協81巻5号471頁以下,82巻1号13頁以下,82巻  2号161頁以下(昭和40∼41年)である。

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126 彦根論叢第289号 う。ただ,このような約定が付加された場合でも,買主が売主に対して債務不 履行をしない限り,通常,売主は買主に対して代金の取立てを許容するだろう。 なぜなら,買主は,転売によって生じる代金債権を行使し,現金を回収するこ とによって,自己の営業をさらに継続することができるのであり,これが認め られなくなれば,買主の営業に支障が生じ,その結果,売主に対する円満な弁 済がなされなくなる危険性が生じ,それは売主にとっても不利益であるからで ある。したがって,売主に代金債権が移転しつつ,買主に代金取立の権能が存 することを基礎付ける法的構成が問題となる。これは売主による債権取立権能 の授権の問題といえよう。  これらの問題を本稿において検討するのは控える。ただ,最高裁の判例が流 動動産譲渡担保を動産売買先取特権に優先させる以上,今後は所有権留保の特 約が実務において多く用いられることが予測される。その場合には,所有権留 保の客体が商品であるならば,買主によって商品が転売され,これによって新 たな問題が発生する可能性が高い。 IV むすび  本稿においては,以前に展開した流動動産譲渡担保の法的構成に関する私見 を前提にして,他の担保と流動動産譲渡担保が衝突した場合の優劣の問題を検 討した。結論的に,流動動産譲渡担保は動産売買先取特権には優先するが,善 意取得が問題となる場合を除いて,所有権留保には劣後することになる。既に 最高裁の判例は,流動動産譲渡担保が動産売買先取特権に優先するという結論 を採用しているから,今後は商品の売主による代金債権担保のための所有権留 保が一層普及することが予想される。ただ,既に述べたように,この場合に所 有権留保の客体となっている商品は,通常,売買契約において転売が予定され ているものであり,これによって新たな法的問題が生じる可能性がある。それ ゆえ,所有権留保から派生する問題は将来の検討課題として重要である。

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