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メタ認知が運動有能感に及ぼす影響についての一考察

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研究ノート

メタ認知が運動有能感に及ぼす影響についての一考察

―小学校6年生のマット運動の実践から―

創価大学教職大学院 教職研究科教職専攻

は じ め に

小学校学習指導要領1)によると,体育科の目標は「心と体を一体としてとらえ,適 切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して,生涯にわたって運動に親しむ 資質や能力の基礎を育てるとともに健康の保持増進と体力の向上を図り,楽しく明る い生活を営む態度を育てる。」と記されている。体育の目標にあるように,心と体は 密接に関係しており,運動経験や運動に対する姿勢は日常生活にも影響を及ぼす。杉 原2)は幼児期・児童期に運動遊びや体育の授業などで運動の上達や成功の経験をたく さん持った子どもは運動が好きで活動的になるだけでなく,日常の行動においても自 信をもち積極的に行動するようになることを報告している。このことから体育授業の 中で成功経験を積ませていくことは,子どもの自律性を引き出すことにつながると考 えられる。

デシ3)によれば,「内発的に動機づけられた行動とは,有能で自己決定的であること を感知したいという人の欲求によって動機づけられた行動」とされる。内発的動機づ けとは活動すること自体がその活動の目的として動機づけられていることであり,そ のためには有能感が必要であることを示している。

これをもとに,岡澤ら4)は運動場面における自信を運動有能感とし,その運動有能 感が,「身体的有能さの認知」「統制感」「受容感」の3因子から構成されることを示 している。「身体的有能さの認知」とは「自己の運動能力・技能に対する肯定的な認 知」,「統制感」とは「自己の努力や練習によって運動がどの程度できるようになるの かという見通し」,「受容感」とは「運動場面で教師や仲間から自分が受け入れられて いるという認知」である。従来まで運動有能感は「自分はできる」という自信から,

運動能力や運動技術の向上にクローズアップされてきたが,それだけではすべての児 童・生徒の運動有能感を高めることは困難である。小畑ら5)は,運動有能感はあくま でも児童・生徒の主観的な認知である以上,体育授業における運動を楽しいと思える 認知を運動有能感の構成因子ととらえることで,全ての児童・生徒の運動有能感を高

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めることが可能となると述べている。このことから,運動に対する内発的動機づけを 高めるために,運動有能感を高める体育の授業にしていくことが重要であると考えら れる。

一方,平成20年版小学校学習指導要領6)の解説には,体育の改善の基本方針として

「体を動かすことが,身体能力を身に付けるとともに,情緒面や知的な発達を促し,

集団的活動や身体表現などを通じてコミュニケーション能力を育成することや,筋道 を立てて練習や作戦を考え,改善の方法などを互いに話し合う活動などを通じて論理 的思考能力をはぐくむことにも資することを踏まえ,それぞれの運動が有する特性や 魅力に応じて,基礎的な身体能力や知識を身に付け,生涯にわたって運動に親しむこ とができるように,発達の段階にまとまりを考慮し,指導内容を整理し体系化を図 る。」ことが記載されている。このことから,これからの体育では運動能力の向上や 健康の保持増進だけを目標にするのではなく,コミュニケーション能力,思考力,表 現力も含めて身につけさせることを目標に授業を展開しなければならない。こういっ た能力の育成にはメタ認知が必要である。メタ認知7)とは「認知に対する認知」「認知 を対象化して認知すること」であり,三宮8)はコミュニケーションや思考,行動を調 整するためにはメタ認知を働かせることが必要であることを述べている。例えば,コ ミュニケーションにおいては,他者に自分の考えや気持ちを伝え,理解してもらうた めに,自分の中での考えや気持ちと,他者に向かって表出する表現のギャップを埋 め,また,自分の表現と相手の理解のギャップを埋めることができる。またメタ認知 を働かせることで,自分がどの文脈で考えているかをモニターでき,別の文脈を設定 して考え直せることができる。このようにメタ認知は論理的一貫性を保証し,思考し たことを説明できるようにする。

また伊藤9)は家庭での算数の学習における小学生の学習方略,動機づけ,メタ認知,

学業成績の関係として,メタ認知のできている子どもは,自己調整的に学習を進めて いる可能性があり,課題の価値を認知する能力に長けていることを示唆している。ま た,学業成績として「知識・理解」の観点のみを取り上げた場合,自己調整学習方略 と学業成績に正の相関があり,結びついていることが明らかになったことを報告して いる。つまり学習者がプランニングやモニタリングといったメタ認知的過程を含んだ 学習活動を進めれば学業成績が向上することが明らかになっている。

このことは体育における学習においても同様であると予想される。しかしこのメタ 認知を取り入れた学習については算数や理科における先行研究は多いが,体育につい ては非常に少ない。今回はこの点からも体育におけるメタ認知の効果を明らかにした いと考えた。

体育においてメタ認知をすることができれば,体育の評価規準である技能,態度,

思考・判断の育成にとどまらず,一人ひとりのあらゆる学習への取り組む姿勢にも影 響があると考えられる。メタ認知を働かせて練習に取り組めば,より細かく自分の上

−150−

(3)

達を認知することができるので,運動場面における自信につながりやすいと考えられ る。またメタ認知によって適切な学習方略を子ども自身が選択できることで,技能の 上達が早くなるに加えて思考力・判断力の育成にもつながると考えられる。このこと で,運動有能感の向上が期待される。先に述べたように,運動有能感の高まりは内発 的に動機づけされたこととなり,自律性が引き出される。このことから体育の学習で メタ認知をすることは,子どもの自律性や主体性をより引き出し,楽しく明るい生活 を営む態度を育てることができると考えた。

以上のことから体育におけるメタ認知を通した学習はコミュニケーション能力や思 考力を高めると同時に,自分の課題や学習状況を認知することができ,その課題達成 に向けての学習方略が明確になることで,運動能力の向上,運動有能感を高めること につながると考えた。そこでメタ認知を働かせることを意識させないよりも意識させ ることによって,運動有能感を効率的に高められるという仮説のもと,今回はメタ認 知を意識した小学校6年生のマット運動の授業を行った。

よって本研究では,メタ認知を通して運動有能感を高めることをねらった,小学6 年生のマット運動の実践から,メタ認知と運動有能感の関係および児童の変容につい て検討および考察していくことを目的とした。

本研究は,教育実習における授業実践を用いて分析,考察を行った。以下にその期 間,対象,単元および測定項目について述べる。また単元については,学習指導案か ら抜粋したものである。

1 期間

本研究で用いた授業実践が行われた期間は,教育実習期間内の平成22年6月2日 から6月25日までの全6時間である。

2 対象

本研究の対象は,東京都八王子市下のI小学校の第6学年1組の男子11名,女子15 名の計26名である。

3 単元

(1) 単元名 器械運動領域「マット運動」

(2) 単元のねらい

・基本的な回転技や倒立技を安定してできるようにするとともに,その発展技をでき るようにする。(技能)

・場や器械・器具の安全に気をつけながら,自らが運動に進んで取り組むとともに仲 間のよさや課題にも目を向けて,向上心をもつことができる。(態度)

・仲間の課題を教え合うことで見つけ,技をできるようにするための場や練習を選ぶ

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(4)

表1 学習過程

時 1 2 3 4 5 6

学習活動

オリエンテーション 学習の 流 れ を 知る

自分の力を知る

最終目 標 を 決 める

前転系 復習

基礎・基本タイム

・大きな前転

・開脚後転

・跳び前転

・倒立前転 チャレンジタイム

・挑戦した技

後転系 復習

基礎・基本タイム

・安定した後転

・開脚後転

・伸膝後転

チャレンジタイム

・挑戦したい技

倒立・回転系 復習

基礎・基本タイム

・腕 立 て 横 跳 び越し

・側方倒立回転

・ロンダート チャレンジタイム

・挑戦したい技

選択練習 チャレンジタイム 選択し た 技 を 練習

・前転系

・後転系

・倒立・回転系

まとめ 復習

発表会 2グ ル ー プ ず つで行う ことができる。(思考・判断)

(3) 単元計画

①学習過程

全6時間で計画し,1時間目にオリエンテーションを設け,授業の進め方について 確認した後に現在の自分の力を確かめさせた。単元の前半に前転系,後転系,倒立・

回転系の技術指導を1時間ずつ確保し,それぞれの技のポイントを教師や児童の模範 などを通して指導した。この時間の前半は技の系統ごとに今できる技をより大きく,

より美しくする基礎・基本タイムを設け,後半にはできるようになりたい技,挑戦し たい技を練習するチャレンジタイムを設けた。

単元の後半では,発表会に向けて前転系,後転系,倒立・回転系からそれぞれ一つ ずつ自分の力にあったもしくは自分ができる技,できるようになった技を選択させ練 習をするようにした。最後の時間にまとめとしてグループごとに発表会を行った。

②本研究におけるメタ認知

i)教え合いによる技のポイントの定着化

基礎・基本タイムでは3〜4人の固定異質グループ(男女混合)を編成した。また チャレンジタイムでは選択した技ごとにグループを編成した。練習をする際には,図 1のように横から観察と補助をする児童,前から観察する児童をはっきりさせた。グ ループ内で見つけた課題について積極的に教え合うことを取り入れた。しかしただ教 え合って仲間に指摘された課題について意識するだけでなく,自分が仲間に教えた課 題についても自分の運動に対して意識するように指導した。このことによって自分の 課題に対する技のポイントを点検することができるとともに,自分が指摘したポイン トが理解しているだけではなく,実際にできるかどうかを認知できると考えた。

ii)授業中で教え合った課題の学習カードへの記述

毎時間の中で取り組みたい技のポイントの項目を選択させて,授業における目標を 個人でたてさせた。学習後の振り返りでは毎時間,技ごとに教えてもらったこと,教 えたことを具体的に記入させてポートフォリオ化し,練習中に活用することとした。

−152−

(5)

仲間から教えてもらったことを記述することで,自分の課題がどこにあったのかを 認知することができると同時に,仲間に教えた課題の記述をすることによって,技の ポイントを理解することにもつながると考えたためである。

iii )器具(レスキューボックス)の使用

チャレンジタイムにおいて,H市の小教研体育部会で開発された,器具,レス キューボックスを使用した。これは,自分の課題を認知した時に,その課題に見合っ た効果的な練習方法を選択することができる器具である。これを用いることによっ て,選択した練習方法が適切だったかどうか,自分の課題に対する影響を評価できる と考えた。

4 運動有能感の測定

岡澤らによって作成された運動有能感測定尺度0)(3因子各4項目,全12項目)を 用いて児童の運動有能感を測定した。質問項目は表2の通りである。それぞれの項目

表2 運動有能感測定尺度

身体的有能さの 認知

運動能力がすぐれていると思います。

たいていの運動は上手にできます。

運動の上手な見本として,よくえらばれます。

運動について自信をもっているほうです。

統制感

練習をすれば,かならず,技術や記録はのびると思います。

努力さえすれば,たいていの運動は上手にできると思います。

少しむずかしい運動でも,努力すればできると思います。

できない運動でも,あきらめないで練習すればできるようになると思 います。

受容感

運動をしている時,先生がはげましたり,おうえんしてくれます。

運動をしている時,友だちがはげましたり,おうえんしてくれます。

いっしょに運動をしようとさそってくれる友だちがいます。

いっしょに運動する友だちがいます。

図1 教え合いの位置

−153−

(6)

について「よくあてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあて はまらない」「まったくあてはまらない」のいずれかに回答させた。この得点は「よ くあてはまる」を5点,「まったくあてはまらない」を1点として,それぞれの得点 を算出した。測定は単元前,単元終了後の計2回行った。調査を行う際に,自分をよ く見せたいという見せかけの反応を限りなく少なくするために成績とは無関係である こと,今後の指導に生かすために行うことを十分説明した。

1 授業の実際

(1) 第1時:オリエンテーション

マット運動の単元の見通しを学習過程に沿ってもたせ,場の準備の仕方,グループ 分け,学習カードの活用の仕方などのオリエンテーションを行なった。

残りの時間は,5年生の時と比べて現在の自分の力を知ることをめあてとして学習 をすすめた。

①技能面について

この段階では,5年生の時以来のマット運動の授業だったこともあり,このクラス の半数近くの児童は後転で,まっすぐ回れていないこと,勢いが足りないことが原因 となって立つことができていなかった。前転系においても数名立つことができていな い児童が見受けられた。

②教え合いについて

グループでの練習で観察することを教示したが,第1時ということと今までに教え 合う習慣がなかったことから,図1の形で見合うことができたグループはわずかだっ た。教えたり,仲間に自分の課題について訊ねたりする様子はほとんど見られなかっ た。

③学習カードについて

ほとんどの児童が前転,後転はできていると認知としており,実際と認知に食い違 いが見られた。第1時を振り返っての感想として,「マット運動が楽しかった」といっ た記述や「自分のできることとできないことが分かった」といった記述,「この単元 を通して上手になりたい,頑張りたい」といった記述が見られた。

(2) 第2時〜第4時:系統ごとの練習

第2時から第4時までは前転系,後転系,倒立・回転系それぞれの系統を1時間ず つ練習する時間とした。授業のはじめに技のポイントを改めて教示し,確認した。基 礎・基本タイムとチャレンジタイムを導入した。

①技能面について

どの系統においても共通して,回転後に立てていないことが一番の課題だったが,

−154−

(7)

第1時の段階と比較すると,演技の上達が見受けられた。徐々に恐怖感が消えてい き,勢いをつけられるようになっていった。

②教え合いについて

時間が経過する中で積極的に教え合うようになった。具体的には,グループで相談 し,マットを坂にしたり段差にしたりといった工夫が見受けられた。また,手形など の器具を用いようとする姿も見受けられた。

③学習カードについて

また,学習カードは時間にともなって記述量が増加していた。記述内容についても 時間が経つにつれて具体的になった。自分の課題にこだわっていたためか,どの技に 対しても同じ課題を感じている児童も多くいた。

(3) 第5時:選択した技の練習

第5時では第6時で行う発表会に向けて,選択した技の練習を行った。またこの時 間はチャレンジタイムのみを設けた。チャレンジタイムを3回に分けて,前転系,後 転系,倒立・回転系からそれぞれで1つずつ選択した技の練習を行った。

①技能面について

この段階でほとんどの児童が着地までできるようになっていた。また選択した技 は,それぞれの系統で,開脚前転,開脚後転,側転が最も多いという状況だった。次 時に発表会という場で自分の技をクラスメイトに見てもらうということからモチベー ションも高く,今までの授業に比べるとかなり積極的に練習に取り組んでいた。

②教え合いについて

発表会本番を想定して,グループで相談しながら場を工夫した後に平坦な状態に戻 すといった工夫も見られた。その教え合いの中では,見学している児童を中心に補助 を自発的に行っている姿が見受けられた。

③学習カードについて

この時間での学習カードの記述量が全時間の中で最も多く,ほぼ全員が教えても らったことと教えたことを記述できていた。自分の足りない部分や課題について明確 に記述されていた。

(4) 第6時:発表会

単元のまとめとして発表会を行った。3つのグループに分かれて演技発表をした 後,それぞれのグループから一人を選出し,全体の場で発表を行った。

①技能面について

第5時と同様に,発表に向けた技においてはほとんどの児童が立つところまででき ていた。また発表会という場であったが失敗する児童は少なかった。

②教え合いについて

教え合うことは発表会本番ということで少なかったのですが,真剣に仲間の技を見 ている児童や励ましや応援をする児童が多く見られた。

−155−

(8)

③学習カードについて

単元全体の振り返りを通して,上達の実感や仲間の演技の良かった点についての具 体的な記述が見られました。

2 運動有能感測定結果

(1) クラスにおける単元前と単元後の運動有能感得点の比較

運動有能感を測定したところ,3名の児童(男子2名,女子1名)の回答に記入漏 れがあった。そのため今回は3名の児童を対象からはずして運動有能感の得点の平均 値ならびに標準偏差を算出した。

男子も女子も,単元後の3因子および運動有能感合計の得点の平均値は単元前に比 べて,高い値を示した。クラス全体としても単元後の運動有能感の得点の平均値は単 元前に比べて高い値を示した。

また3因子別に見ると,統制感における得点の変化が最も大きいことが示唆され た。身体的有能さの認知における得点の変化が最も小さいことが示唆された。

(2) 上位群・中位群・下位群における単元前と単元後の運動有能感得点の比較 単元前に測定した運動有能感得点をそれぞれの因子および合計の得点の高い順に上 位群・中位群・下位群(総人数の約33.3%ずつ)の3群に分類した。

統制感における上位群の単元後の得点の平均値は,単元前に比べて低い値を示し た。しかしその他の単元後の得点の平均値は単元前に比べて,全て高い値を示した。

3因子別に見ると,中位群と下位群の統制感における得点の平均値の変化が大きい 傾向が示唆された。

表3 男子,女子および全体における単元前,単元後の運動有能感得点

単元前 単元後

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

身体的有能さの認識

男子(n=9) 11.78 ± 2.167 13.00 ± 2.398 女子(n=14) 10.79 ± 2.992 11.00 ± 3.903 全体(n=23) 11.17 ± 2.691 11.78 ± 3.479

統制感

男子(n=9) 16.78 ± 2.489 18.67 ± 1.500 女子(n=14) 15.29 ± 3.361 16.43 ± 2.793 全体(n=23) 15.87 ± 3.079 17.30 ± 2.584

受容感

男子(n=9) 14.56 ± 3.283 16.44 ± 2.351 女子(n=14) 16.79 ± 2.225 17.21 ± 2.607 全体(n=23) 15.91 ± 2.843 16.91 ± 2.485

運動有能感合計

男子(n=9) 43.11 ± 4.729 48.11 ± 3.180 女子(n=14) 42.86 ± 6.383 44.64 ± 7.023 全体(n=23) 42.96 ± 5.677 46.00 ± 5.985

−156−

(9)

1 メタ認知と運動技能の関係

今回の実践では,学習カードに教えたことと教えてもらったことを具体的に書き,

その内容を自分自身にフィードバックして練習に生かすことを軸とした。この学習 カードを用いて,課題を言語化することで,より課題を明確にしたことが考えられ る。また無意識であった自分自身の課題が言語化することで意識されるようになった と考えられる。

クックとメイヤー1)は「ノートをとること」は,学習者の理解を深め記憶を確実に すると考え,この機能の一つとして統合化の促進を挙げている。この統合化の促進と してノートをとることは,提示された情報を既有の知識に関係づけ,統合するのに役 立つとしており,今回の実践での学習カードの使用でも同じ機能が働いたことが示唆 された。技ができなかった原因や,その結果である自分の課題が身体的な感覚であっ たものを言語化することで理解を深めたと推測される。

この結果,レスキューボックスなどの器具の使用や仲間と話し合ったうえでの場の 工夫が,効果的に適用されたことが運動技能の向上を促したことが考えられた。また オータムロッド2)は,メタ認知には,具体的に次のような技能を含むと述べている。

・どんな学習方略が効果的であり,どんな学習方略が効果的でないかを知ること。

・成功すると思われる学習課題への取り組み方を計画すること。

・効果的学習方略を用いること。

・以前に記憶した情報を回復(再生)するための効果的方略を知ること。

今回の児童の授業の様子からもメタ認知をしていたことが考察される。レスキュー 表4 上位群・中位群・下位群における単元前,単元後の運動有能感得点

単元前 単元後

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

身体的有能さの認識

上位群(n=6) 14.33 ± 1.033 14.83 ± 1.472 中位群(n=8) 11.75 ± 0.403 12.88 ± 1.126 下位群(n=9) 8.56 ± 1.878 8.78 ± 3.528

統制感

上位群(n=7) 19.59 ± 0.787 18.57 ± 1.397 中位群(n=9) 15.78 ± 0.833 18.00 ± 1.871 下位群(n=7) 12.29 ± 1.496 15.14 ± 3.132

受容感

上位群(n=8) 18.88 ± 0.991 19.38 ± 0.916 中位群(n=7) 16.14 ± 0.378 16.57 ± 2.149 下位群(n=8) 12.75 ± 1.669 14.75 ± 1.488

運動有能感合計

上位群(n=7) 49.14 ± 3.532 49.71 ± 3.200 中位群(n=9) 43.11 ± 0.782 46.89 ± 4.595 下位群(n=7) 36.57 ± 3.552 41.14 ± 6.939

−157−

(10)

ボックスに記載されていた練習方法,例えば,マットの下に踏切り板を置いて坂にし たり,マットを重ねて段差にしたりといった勢いをつける練習をしていたこともメタ 認知をし,課題とそのための学習法略を用いた結果であったと示唆される。

このように学習カードに書いたことと実際の練習方法を循環的に行った,つまりメ タ認知的にモニタリングした結果に基づいて,メタ認知的にコントロールを行ったこ とが,効果的な運動技能の向上につながったと考えられる。

2 メタ認知と運動有能感の関係

岡沢ら3)によると,「身体的有能さの認知」と「統制感」においては,男子が女子 よりも有意に高いことが明らかになっている。一方,「受容感」においては,女子が 男子よりも有意に高いことが明らかになっている。このことと同様の測定結果が得ら れた。これは「ジェンダー」に影響されていると考えられている。また男子において も女子においても単元前より単元後の得点の平均値が高くなったことと上述の考察か らメタ認知をして練習をすることは運動有能感の向上につながることが示唆された。

また「統制感」の得点の向上の程度が他の因子に比べて大きかったことはメタ認知 が及ぼす影響であったと考えられる。単元前の運動技能と単元後の運動技能の差を普 段より認知したことが原因であったと示唆された。一方で,このクラスの児童の単元 前の「身体的有能さの認知」の得点が他の因子に比べて低かったこととこの得点の向 上の程度が最も小さかったことの原因として,1単元6時間という短い時間では運動 能力の肯定的な認知につながらなかったことが考えられる。

上位群の「統制感」が低下した原因として2つのことが考えられた。まず,中位群 と下位群より運動技能がもともと高かったため向上の認知の程度が他群に比べて低 かったからだと考えられた。逆に中位群や下位群での「統制感」の向上は,メタ認知 をすることで,効果的に練習をしたためだと考えられた。2点目に,学習カードの分 析から,上位群はできていると感じていたことが実際はできていなかったとメタ認知 することで,運動有能感の低下を招いたということが示唆された。

お わ り に

1 今回の実践から明らかになったこと

以上のことから今回明らかになったこととして,1つ目に運動場面でメタ認知をす ることで,運動技能が効果的に向上することが示唆された。2つ目に,メタ認知をす ると,運動有能感の3因子の中で「統制感」に最も影響が出ることが示唆された。最 後に,メタ認知をすると,上位群では,「統制感」が低下する傾向が表れ,中位群と 下位群では向上するという傾向が表れることが示唆された。

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(11)

2 課題とこれからの展望

メタ認知研究の課題4)として,①メタ認知と認知の区別,②メタ認知的知識の活 用,③メタ認知の意識,④メタ認知の測定などが挙げられる。今回の実践において も,本当に児童1人1人がメタ認知をしたかどうかの判断は難しいものである。また メタ認知をして,得られた知識を全ての児童が生かしきれたかという点にも課題が残 る。

また牧口5)は「心身両方面を具備しての出生と同時に,体育と知育とは並行して始 まるわけのものである。」と述べている。このことからも今回は思考の1つであるメ タ認知に焦点を当てたが,他の領域における実践にもメタ認知を取り入れることや 様々な思考と運動の関係を考えていくことが必要である。これからは,本研究で明ら かになったことをさらに発展させていきたい。

引用文献・参考文献

1)小学校学習指導要領体育編,文部科学省,2008

2)杉原 隆:幼児の運動あそびに関する有能さの認知とパーソナリティの関係,体育学研 究,1985

3)デシ:内発的動機づけ―実験心理学的アプローチ―,金子書房,1980 4)岡澤祥訓・北真佐美:運動有能感の構造とその測定方法,体育科教育,1998

5)小畑 治・岡澤祥訓・石川元美:運動有能感を高める体育授業に関する研究―フラッグ フットボールの授業実践から―,教育実践総合センター研究紀要,16,2007

6)2)と同じ

7)三宮真智子:認知心理学からの学習論 自己学習力を支えるメタ認知,鳴門教育大学研 究紀要教育科学編,12,1997

8)三宮真智子:メタ認知 学習力を支える高次認知機能,北大路書房,2008

9)伊藤崇達:小学生における学習方略,動機づけ,メタ認知,学業達成の関連,名古屋大 学紀要,44,1997

10)岡澤祥訓・北真佐美:運動有能感の構造とその測定方法,体育科教育,1998 11)辰野千壽:学習方略の心理学―賢い学習者の育て方―,図書文化社,1997 12)12)と同じ

13)岡沢哲子・北真佐美:運動有能感とジェンダーに関する問題,体育科教育,1998 14)9)と同じ

15)牧口常三郎・古川敦注・解説:創価教育学体系概論,1997

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