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教 育 政 策 と は 何 か ―そ の 生 成 と 本 質 に つ い て―

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教 育 政 策 と は 何 か

―そ の 生 成 と 本 質 に つ い て―

熊 谷 忠 泰

Was ist das—die Erziehungspolitik?

—über ihre Schöpfung und ihr Wesen—

von

Tadahiro KUMAGAI

は  じ  め  に

  筆 者 は,こ れ まで に教 育 政 策 に 関 して3編 の論 稿 を ま と めて きた。 第1の もの で は,従 来 行 われ て きた教 育 政 策 の定 義(そ こで は,考 察 を宗 像 定 義 と海 老 原 定 義 とに絞 って)を 総 体 的 に比 較 検 討 しな が ら,前 者 の静 態 的形 式 性 と後 者 の特 殊 歴 史 発展 段 階説 的立 場 を批 判 し,教 育 政 策 と い う以上 は,政 策 学 で い う知 的合 理化 機 能 の構 造 を 明 確 な ら しめ な くて は な らな い 所 以 を 明 らか に した1)。

  第2,第3の 論 稿 は,こ の 前 提 に立 って,こ の課 題 に応 え るた め の 本 稿 にい た る まで の 基 礎 的考 察 を行 って きた もの で あ る。 す な わ ち,第2論 稿 で は,ま ず政 策 過 程 は,形 式 的 に は 権 力 の 自己 維持 機 能 と して の入 カ ー 出 カ ー フ ィー ドバ ックの 還 流 過 程 で あ り,実 質 的 に は 政 治 過 程 自体 で あ る と し,つ い で政 治 が 価値 の 権威 的 ・拘束 的 配 分 を 目指 す もの で あ る 以 上,政 策 は正 当 的 な 価値 配 分 権 を もつ 政 治 権 力 の 意 思 の 発 動 と して,権 力 と環 境 間 の適 応 と改 変 の二 重機 能 を果 す もの で あ る こ とを 考 察 した2)。 第3論 稿 で は,前 稿 を う けて, 政策 過 程 の 分析 を行 な い,政 策 の 立 案 過 程 と して の 政 策 形 成 過 程 と,立 法 過 程 と して の政 策 決 定 過 程 の両 面 か ら具体 的 に明 らか に した3)。

  本 稿 は,以 上 の 作 業 を下 地 と して,第1論 稿 で 提 起 した 課 題 に応 え,教 育 政 策 概 念 へ の 接 近 を 試 み よ う と した もの で あ る。

1  社会 と 文化 機 能

  T.パ ー ソ ン ズ(Talcott  Persons,ユ902〜)は,人 間 の 「行 為 」 と 「社 会 」 と の 関 連 に っ い て こ う 語 っ て い る 。 「行 為 は,人 間 が これ に よ っ て 有 意 味 的 な 意 図 を 形 成 し,そ れ を 具 体 的 状 況 に お い て … … 達 成 す る 構 造 と 過 程 と か ら な っ て い る 。 有 意 味 的 と い う 言 葉 に は 象 徴 的 な い し文 化 的 次 元 の 表 現 と 指 示 を も つ と い う こ と が 含 意 さ れ て い る 。  (ま た), 意 図 と そ の 達 成 は,全 体 と して,そ の 状 況 あ る い は 環 境 と の 関 係 を,意 図 し た 方 向 に 変 化

さ せ よ う と す る 行 為 体 系 一 個 人 的 ま た は 集 合 的 な 一 の 性 向 を 意 味 し て い る 。」4)そ し て,

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長崎大学教育学部教育科学研究報告  第26号

「社 会 的 相 互 行 為 の諸 過程 は,… … 第 四 の体 系 を形 づ くって い る。 … … 相 互 行 為 の体 系 は, 社 会 体 系 を 構 成 して い る。 」5)

  パ ー ソン ズ に あ って は,ま ず 何 よ り も実 在 的 な社 会 の前 に 個人 の 「行 為 」 が り,そ れ が 集 合 的 な もの とな る と き 「相 互 行 為 」 が構 成 され,さ らに そ れ は諸 個 人 の 人 格 や 象 徴 的 ・ 文 化 的 パ タ ー ンを そ れ 自 ら の う ち に含 み な が ら 「 行 為 体 系」 を形 成 す る。 そ して,こ の 行 為 体 系 が 「 第 四 の 体 系 」 と して の 「 社 会 体 系 」 を そ の下 位 体 系 と して 包 含 す る とい うの で あ る。 す な わ ち,こ こで は,実 在 の社 会 と第 四 の 体 系 と して の 「社 会 体 系 」 と は 明 らか に 区 別 され て お り,前 者 に相 応 す る もの と して は一 般 的 行 為 体 系 が 想 定 され て い るの で あ る。 で は,パ ー ソ ン ズ のい わ ゆ る 「 第 四 の 体 系」 とは い か な る事 態 を 意 味 す るの だ ろ うか 。   「 社 会 は 一 つ の特 殊 な種 類 の社 会 体 系 で あ る。 私 た ちが 社 会 体 系 を 取 り扱 うの は,人 間 の行 為 体 系 の 基 本 的諸 下 位 体 系 の一 つ と して で あ り,こ の下 位 体 系 には,他 に行 動 有 機 体, 個 人 の人 格 お よ び文 化 体 系 が あ る。 」6)すな わ ち,上 述 の よ うに,「 行 為 体 系」 を 一 つ の総 体 的 な 社 会 とみ る と き,そ の下 に 個 々人 と して の 「 行 動 有 機 体 」,そ して,そ れ が 「 社 会 化 」 を経 て 一 定 の 目 標 ・意 図 を もつ もの と した場 合 の 「 人 格 体 系 」,さ らに集 合 体 に お け る制 度 化 され た客 観 的規 範 と して の 「文 化 体 系 」,ならび に下 位 体 系 と して の 「社 会 体 系 」 が 含 まれ る,つ ま り社 会 体 系 が 第 四 番 目の もの と して 含 ま れ る とい うの で あ る。 そ こで, か れ は 続 けて こ う述 べ て い る。 「社 会 は,い か な る社 会 体 系 の宇 宙 に お い て も,環 境 と の 関 係 に お い て,体 系 と して 最 高 度 の 自足 性 を獲 得 して い る社 会 体 系 の 一 類 型 で あ る」7)。

「私 た ち は,社 会 を も って,他 の 社 会 体 系 を 含 ん だ そ の 環 境 との 関 係 にお い て,最 高 の 自 足 性 の レベ ル に よ って 特 徴 づ け られ た 社 会 体 系 の 類 型 と定 義 す る」8)。 全 体 的 な,行 為 体 系 と して の社 会 は,四 個 の 基 本 的 下 位 体 系 を環 境 と して 含 み な が ら,そ れ 自体,整 合 性 と 統 一 性 を もつ最 高 の 自足 的 類 型 で あ る。

  こ う して,上 記 四 個 の基 本 的下 位 体 系 は,一 般 行 為 体 系 に対 して そ の 「 環 境 」 を 構 成 す る。 そ の場 合,か れ は つ ぎ の こ と を前 提 と して い る。 す な わ ち,四 個 の 基 本 的 下 位 体 系 は, そ の 「 相 互 滲 透 の 原 理 」9)の 適 用 を受 け な が ら も相互 に機 能 的 に区 分 され て い る こ と,つ

ぎ に,ま た 「環 境 」 とい うた め に は,以 上 の 四 個 の ほか に,意 味 の世 界 を構 成す る 「究 極 的実 在 」 と,上 記 諸 体 系 が 非 実 在 的で あ るの に対 して 実 在 的な 自然 的一 有 機 体 的 一 物 理 的 環 境 が追 加 され な くて はな らな い と い う こ とで あ る10)。

  と ころ で,ま た,こ れ ら一 般 的行 為 の 四 個 の基 本 的下 位 体 系 は,「 社 会 的行 為」  (集 合 的行 為)に お い て い か な る 「 機 能 」 を 果 す ので あ ろ うか 。 か れ は,つ ぎの よ うな 四 つ の機 能 的 カテ ゴ リーを 挙 げ て い る。

  (1)体 系 を 統 治 な い し統 制 す る最 も高 位 の型 象 維 持 機 能   ②  体 系 の 内 的統 合機 能

  (3)環 境 と の関 係 に お け る 目標 達 成 へ の志 向機 能

  (4)広 範 な 環 境 の諸 条件 一 た とえ ば 非 行 為 た る 自然 環 境 一 へ の よ り一 般 化 され た 適 応 に       関 す る機 能11)

  す な わ ち,型 象 維 持 機 能 は 「文 化 体 系 」 が,行 為 単 位 の 統 合 機 能 は 「社 会 体 系 」 が,そ

して 目標 達 成 機 能 は 「 人 格 体 系」 が,最 後 に,適 応 機 能 は 「行 動有 機 体」 が そ れ ぞ れ特 殊

的 に 担 当 す る と い うの で あ る。

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教 育 政策 とは何 か  一 そ の 生成 と本 質 に つ い て一(熊 谷)

  以 上 の よ う に して,文 化 体 系 は,象 徴 的 な 意 味 の複 合,こ れ らが 構 造 化 され た 諸 規 範 や 規 典,こ れ らが使 用す る諸 象 徴( の  )の 特 殊 な 集群,そ して 行 為 体 系 の 部 分 と して の これ らの利 用 ・維 持 お よ び変 動 の 条 件 を 中 心 と して 組 織 され て お り,人 格 体 系 は,行 為 過 程 の,し た が っ て文 化 的諸 原 理 と諸 要 請 との 社 会 内へ の実 現 の本 源 的 な 作 動 者 で あ り,目 標 達 成 機 能 が帰 属 させ られ る 当 の対 象 で あ る。 行 動有 機 体 は,他 の諸 体 系 の 基 底 を な す 本 源 的 な,一 般 化 され た行 為 の 適応 的 な下 部 体 系 と考 え られ て い る。 そ れ は,行 為 の 適 応 しな けれ ば な

らな い一 組 の 条件 を具 備 して お り,ま た 情 報 の投 入 と処 理 を 通 して,そ して 物 理 的 環 境 の 緊急 事 態 に対 応す る活動 を通 して,物 理 的 環 境 と相 互 的 に 関 連 す る本 源 的 な メ カニ ズ ムを 含 ん で い る。 以 上 に対 して,社 会 体 系 は,本 源 的 に 社 会 関 係 そ の もの の体 系 に お け る統 合 と関 連 して組 織化 さ れ て い る もの で あ る。 そ れ ゆ え に,社 会 体 系 を,よ り一 般 的 な 行 為 諸 体 系 の一 つ の構 成 要 素 を な す もの と考 え て よ い で あ ろ う12)。

  一 般 行 為 体 系 の 四 個 の 基 本 的 下 位 体 系 が そ の 上 位 体 系 に 占め る環 境 的地 位 と,ま た それ との 関 連 に お け る機能 的役 割 は 大 よそ 以 上 の よ うな もの で あ るが,こ の枠 組 のな か で 特 に 社 会 体 系 と して の 社 会 の 中 核 を な す もの は,そ の 統 合 的 下 位 体 系 で あ る。 この よ うに,社 会 体 系 を 行 為 体 系 に と って 統 合 的 で あ る とみ る以 上,そ れ が さ ま ざ まな 種 類 や 段 階 の統 合 を 達 成 す る様 式 に 対 して,特 別 の 注 意 を は らうの は 当然 で あ ろ う。 か れ は,社 会 の この統 合 的 下 位 体 系 を 社 会 的 共 同 体(societal  community)と 呼 ん だ13)。

  社 会 的 共 同 体 の 最 も一 般 的 な 機 能 は,諸 規 範 の体 系 を 統 一 的 か っ 結 合 的 な集 合 的組 織 に 接 合 しよ うとす る と こ ろ に あ る。 か れ は ウ エ ーバ ー(Max  Weber)に 従 って,こ の規 範 的側 面 を正 当な 秩 序 の体 系 と よ び,社 会 的共 同体 と い うの は そ の集 合 的 側面 を単 一 の結 合 され た集 合 体 と して み る場 合 の ことで あ る と い う。 社 会 的秩 序 は,一 方 に お いて 規 範 的結 合 の意 味 に お け る,他 方 に おい て 社 会 的調 和 と調 整 の意 味 に お け る 明確 な 「 統 合 」 を要 求 す る。 さ らに,規 範 的 に規 定 され た義 務 は,全 体 と して 受 容 さ れ る必 要 が あ り,反 対 に, 集 合 体 は,そ の機 能 を遂 行 し,そ の正 当 な利 益 を促 進 す る に あ た って規 範 的 制裁 を もつ 必 要 が あ る。 したが って,社 会 的段 階 に お け る規 範 的秩 序 は,人 間 聞 の 争 い を調 整 す る とい う問 願 を含 む もので あ る14)。  「 体 系 と して の社 会 の核 と な る の は,そ れ を通 じて人 び と の生 活 が 集 合 的 に組 織 化 され る,定 型 化 され た規 範 的秩 序 で あ る。秩 序 と して,そ れ は, 価 値 お よ び社 会 化 され,特 殊 化 され た規 範 と規 則 とを含 ん で お り,そ れ らは と もに 有 意 味 的 か つ正 当 的で あ る た め に は,文 化 的 な準 拠 を必 要 と して い る」(傍 点筆者)15)。

  以上 に よ って,い か に して 社 会 体 系 が 「文化 的 ・規 範 的秩 序」 を通 じて 統 合 機能 を遂 行 し,社 会 的共 同体 を構 成 して い くの か,ま た型 象 維 持機 能 を もつ 文 化 体 系 と ど の よ うな 関 連 を もつ の か が 明 瞭 に な った で あ ろ う。 文 化体 系 は,社 会 的共 同 体 内 に あ って は,具 体 的 な 「制度 化 され た文 化 型 象 」 と して立 ち現 わ れ,正 当 的機 能 を担 う も ので あ る。 そ れ ゆ え に,「 社会 と文 化 体 系 と の間 の 相互 関 係 の 中心 的 な 緊急 事 態 は,社 会 の規 範 的 秩 序 の 正 当 化 で あ る」16)とか,  「文 化 的 価 値 型 象 は,社 会 の規 範 的秩 序 を正 当 化 す る上 で 社 会体 系 と 文 化体 系 との 間 の最 も直 接 的 な 連 鎖 を 提 供 す る」17)とも い われ て い る の で あ る。

  他 方,社 会 と人 格 体 系 との 関係 は,文 化 体 系 の そ れ とは根 本 的 に異 な って い る。 何 とな

れ ば,人 格 体 系 は,行 動 有 機体 や物 理 的 環 境 と同様 に,社 会 体 系 の下 位 に位 置 して い るか

らで あ る。 体 系 と して の社 会 お よ び そ の 構 成 諸単 位 は,そ の下 位 に 属 して い る これ ら三 つ

の文 脈 に お け る諸 条 件 に従 って い る。 社会 体 系 が含 んで い る行 動 は,常 に生 きて い る人 間

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有 機 体 の 行 動 で あ る。 こ う した有 機 体 は,い つ,い か な る瞬 間 に お いて も物 理 的 空 間 中 に 物 理 的 運 動 を通 じて の み 変 化 し得 る一 定 の位 置 を も って い る。 した が って,諸 個 人 間 お よ び そ の 行 為 間 の 関係 の生 態 学 的 側面 は 無 視 し得 な い ので あ る。

  社 会 体 系 と人 格体 系 との 関 係 に関 す る主 要 な機 能 的問 題 は,社 会 的 に評 価 され,統 制 さ れ た行 為 型 象 へ の参 加 の た め に適 当 な動 機 づ け を生 涯 に わ た って学 習 し,発 展 させ,維 持 す る こと に 関 わ って い る。 他 方,社 会 もま た そ の成 員 の 業 績 に 不 断 に 依 存 す る もの だ とす れ ば,そ の よ うな 行 為 型 象 を通 じて,成 員 に適 切 な満 足 と報 酬 を 与 え な けれ ば な らな い。

この 関係 が 「社 会 化 」 を構 成 して い る18)。 そ して,こ の社 会 が 「 人 格 」 を形 成 す る。 「 人 格 は,行 動 す る個 人 の学 習 され た組 織 で あ るか ら,社 会 化 の過 程 は,そ の形 成 と 活 動 に 対

して つ ね に 決 定 的で あ る 。 」19)

  人 格 は,親 子 一 親 族 を形 成 し,ま た 社 会 的 に一 定 の 自律 的責 任 を 自 ら受 諾 し,集 合 的 組 織 の な か で さ ま ざ ま な 活 動 を遂 行 す る。 そ の 活 動 が 一 定 の 目標 の下 に社 会 に お い て 組 織 化 さ れ,統 一 化 され る と き,組 織 的 な 目標 達 成 機能 を 果 す こ と にな る。 「 意 外 な よ う に見 え るか も しれ ない が,私 た ちが サ ー ヴ ィス(社 会 的 活 動)と よぶ もの を通 じて 社 会 的 に構 造 化 され た 人 格 と 社会 体 系 との 関 係 は,社 会 の政 治 的 側 面 に対 して 基 礎 的単 位 を提 供 す る。

政 治 構 造 は,… …集 合 的 に 有 意 義 的 な 目標 を 達 成 す る た め に,集 合 的行 為 を 組 織 化 す る こ と と関 連 して い る。 」20)「 政 治 は,集 合 的 目標 を 集 合 的 に追 求 す る とい う機 能 に関 連 す る す べ て の行 為 の側 面 と して 分 析 的 に 考 え られ た もので あ る。 この場 合,問 題 の 集 合 体 は, 一 つ ま た は体 系 的 な 集 合 目標 の達 成 に志 向 してい る 多数 の 諸個 人 の 整 合 的 な 行 為 を 含 ん で い るす べ て の 体 系 で あ る。」21)こ う して,人 格 体 系 の 目標 達 成 機 能 は,社 会 的 共 同体 に お い て は 「 政 治」 と して 具 現 す る。

  最 後 に,社 会 体 系 とそ の有 機 体 的 基 礎 と の 関係 は,有 機 体 の生 活 の 物 質 的 諸 条 件 か ら考 察 さ れ な くて は な らない 。 この場 合,根 本 的 な 問題 は,有 機 体 の食 と住 に関 す る もの で あ る。 これ らの も の に関 す る技 術 は,一 般 的 に人 間 の 欲求 や 必 要 のた め に 自然 を積 極 的 に 統 制 し,改 造 す る社 会 的 に組 織 され た能 力で あ る。 そ れ が 高 度 にな れ ば な る ほ ど,よ り広 範 囲 に わ た って,し か も深 く社 会 組 織 に依 存 す る。 しか し,そ の テ ク ニ ック に 関 す る知 識 に つ い て は 文 化 体 系 に依 拠 して い る。 さ ら に,技 術 的 な 仕 事 は,常 に社 会 的 に規 定 され た 役 割 に お い て 遂 行 され る。 した が って,そ の 生 産 物 は,一 般 的 に は集 合 的 に組 織 され た 過 程 の 産 物 で あ って,決 して 単 に個 人 の 産 物 で はな い 。 こ の よ う な 理 由で,技 術 は 「経 済 」 を 社 会 体 系 上 の拠 点 と して 含 ん で い る複 合 的 な,第 一 次 的 な 物 質 的 拠 点 で あ る 。 「 経 済 とは,

… … そ れ(技 術)を 社 会 体 系 に適 合 させ ,個 人 で あれ,集 合 体 で あ れ,社 会 単 位 の利 益 に お い て それ を統 制 す る こ とを 機 能 とす る よ うな社 会 体 系 の側 面 で あ る。 」22)そ こで,現 実 に は,生 産,流 通,配 分,消 費,経 営,財 産,契 約 な らび に雇 用 条 件 の 規 則 とい う よ うな 制 度 的 諸 関 連 が 重 要 な 統 合 的 要 素 と な る。 行 動 有 機 体 の,物 理 的 環 境 内 で の適 応 機 能 は, 社 会 的 共 同体 に お い て は 経 済 活 動 と して 立 ち現 わ れ て くるの で あ る。

  以 上 を 総 括 す るか の よ うな 口吻 で,か れ は こ う述 べ て い る。 「型 象 維 持 的 下 部 体 系 は,

と くに社 会 の文 化 体 系 へ の,そ して これ を通 じて究 極 的 実 在 へ の 関 係 に,目 標 達 成 的下 部

体 系 ま た は政 治 は,個 人 的 成 員 の人 格 へ の 関 係 に,適 応 的下 部 体 系 ま た は 経 済 は,行 動 的

有 機 体 に,そ して これ を 通 じて 物 理界 へ の 関 係 に 関 心 を も って い る。」23)

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教 育 政 策 とは 何 か  一 その 生 成 と本質 につ い て一(熊 谷)

以 上 の 所 論 を パ ー ソ ン ズ に 倣 って 括 め た も の が つ ぎ の 表 で あ る 。 行 為 の下 位 体 系 ・社 会 的共 同体 と そ の環 境

1 皿 皿 V

般 行 為 体 系

下 位 体 系

社 会 体 系 文 化 体 系 人 格 体 系 行動有機体

社会体系の  行 為 の 行為 内環境  諸 環 境

社会体系

文 化 体 系 入 格 体 系 行 動有機体

究極 的実在

物理的環境

行為体系 ・ 社会 内機能

統   合 型象維持 目標達成 適    応

社会 的共同体 の社会 内機能

社会 的共 同体

制度化 された 文化型象維持 政        治 経       済

  こ の表 は,著 者 作 成 の表(「 政 治 と社 会 構 造 」 上p.44〜45所 収)を 筆 者 が ア レン ジ して簡 略化 した もの で あ る。

本 稿 の標 題 か らみ れ ば や や 詳 細 に過 ぎ る感 す らあ る ほ ど にパ ー ソ ンズ の一 般 行 為 体 系 論 に触 れ た のは,か れ の 「 社 会 体 系 論 」 が,い まや 現 代 政 治 論 に大 きな影 響 を 及 ぼ して い る とい う事 実 に基 づ くも ので あ る。 上 述 の所 論 は,い わ ばパ ー ソ ンズ のAGIL図 式 の展 開 な ので あ るが,そ れ は,今 日で は社 会 体 系 の構 造 と過 程 のす べ て を 分析 す る用 具 と され て お り,成 員 の 「 社 会 化 」  (文 化 ・教 育 機 能)や 経 済 の 分析,さ らに は政 治 の 分 析 にま で そ の 試 み が準 備 され つ つ あ る とい わ れ て い る24)。

  そ の 好 例 を挙 げ よ う。 飯 坂 良 明 氏 は,そ の著 書 の な か で,お そ ら くはパ ー ソ ン ズを 祖 述 した もの で あ ろ う大 よ そ つ ぎの よ うな 論 を展 開 して い る。

  一 定 の 関 係 が 存 在 し,そ こ に また 一 定 の 機能 が 行 わ れ て い る限 り,そ の領 域 を 包 括 して 当該 体 系 とい うが,そ れ は,現 実 の 具 体 的 な もの の う ちか ら あ る一 定 の部 分,ま たは 関 係 だ けを 取 り上 げ て 抽 象 化 した もの で あ る。 こ の よ う に,一 定 の関 係 に着 目 した の が体 系 で あ るか ら,そ の 関 係 の な くな った と こ ろで 体 系 の 境 界 線 が 引 か れ る。 そ こで,あ る体 系 が 他 の体 系 の一 部,ま た は 一 面 を な す 場 合 が あ る。 こ の場 合,小 な る体 系 を部 分体 系 と よ ぶ こ と が で きる25)。

  と ころで,社 会 体 系 全 体 の な かで 特 に一 っ の ま と ま りと密 接 さを も った一 群 の 社 会 関 係 が み られ る ことが あ る。 これ らを,そ の性 質 に応 じて文 化 体 系 とか政 治 体 系,あ るい は経 済 体 系 な ど と よぶ 。 これ らは,そ れ ぞ れ全 体 と して の社 会 体 系 の 部 分 で あ るが,分 析 と観

察 の た め に,そ の 環 境 的 特 色,機 能 な ど に応 じて 一 お う個 別 的 に と り扱 わ れ る26)。

  以上 の考 察 を も とに して,全 体 と して の社 会 体 系 と部 分 と して の政 治 体 系 の,区 分 と関 係 を み よ う。 こ こで,「 社 会 体 系」 とは,最 も広 く複 数 の行 為 者 間 に お け る相 互 作 用 的 諸 関 係 と諸 行 為 の体 系 を い う。 こ う した 相 互 作 用 を 特 に 強 調 す る場 合,社 会 過 程 とい う語 が ほ ぼ同 義 に用 い られ る こ とが あ る。 しか し,社 会 体 系 は,そ の 機 能 と い う点 か らみ れ ば,お よ そつ ぎの 四 つ の 機 能 を 包 含 す る。

  (1)形 式 の 維 持    あ る社 会 体 系 に お け る相 互 作 用 的 諸 行 為 は,一 定 の 文 化 的 ・ 規 範 的形

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長崎大学教育学部教育科学 研究報告  第26号

    式 を も って い る。 こ の形 式 が 価 値 や 規 範 と して,あ る い は行 動 様 式 や 思 考 様 式 と して     世 代 か ら世 代 へ と受 け継 が れ る こ とに よ って 体 系 は存 続 す る。 した が って,こ う した     形 式 を 破 壊 しよ うとす る緊 張 を処 理 す る こ と も形 式 の維 持 に含 ま れ る。 この 問 題 は,     一 般 に 社 会 の 「文 化 ・教 育 」 の問 題 と して 担 わ れ る。

  (2)適    応    社 会 体 系 は,自 らを 囲 僥 す る 自然 的 ・社 会 的 環 境 に適 応 す る とい う課     題 を もつ 。 社 会 体 系 に対 して この機 能 を 最 も多 く果 す も の は 「 経 済 」で あ る。 経 済 は,     環 境 を統 御 した り,あ る い は それ に適 応 した りす る も ので あ る。

  (3)目 標 達 成    社 会 の共 同 目標 を達 成 す るた め に は,協 力 を確 保 し,抗 争 を緩 和 した     りす る 機能 が 不 可 欠 で あ る。 こ れ は,主 に 「政 治」 に よ って 担 わ れ る。

  (4)統  合  社 会 に お け る個 人 や 集 団 の 間 に合 意 や 連 帯 感 を維 持 す る こ とに よ って     協 働 行 為 が 可 能 とな るが,こ れ は,物 事 を お こな う手 続 に 関す る合 意 と か,承 認 され た     統 制 の形 式 とか,社 会 的 と りき め を必 要 とす る。 これ らす べ て の制 度 化 さ れ た 行 為 の     型 は,統 合 機 能 を 果 す もので あ る。 ま た,権 威 の 存 在 も体 系 統 合 に役 立 つ 。 統 合 は,     政 治 体 系 や 文 化 ・教 育 な ど に よ って 担 わ れ る27)。

  パ ー ソ ンズ の 場 合 は,  「 社 会 体 系 」 は他 の三 体 系 と並 ん で 「 一 般 行 為 体 系 」 の下 位 体 系 を 構 成 す る もの と され て い たが,飯 坂 氏 は,い わ ゆ る社 会 体 系 を上 位 体 系 と して,そ の下 に他 の三 下 位 体 系 を 位 置 づ け,ま た,特 に 統 合 機能 を 政 治 体 系(パ ー ソ ンズ で は人 格 体 系 と 呼称 され た)と 文 化 体 系 が 担 う(パ ー ソ ン ズ に あ って は,上 記 機 能 を前 提 と した 社 会 体 系 固有 の 機能 と され て い た)も の と して い るな ど,多 少 の相 違 は み られ る もの の,全 体 と

して,社 会 の 機 能 区分 は ほ ぼ 同様 の もの と され て い る。

  と もあ れ,以 上 に よ って,「 社 会 」 に は 本 源 的 に文 化 ・教 育 機 能 が 固有 の もの と して 潜 在 して い る こ とを 確 認 で きよ う。 この事 実 は,現 代 社 会 科 学 の洗 礼 を受 け る以 前 か ら,す で に 多 くの 人 び と に よ って 指 摘 され て きた と こ ろで あ り,ま た極 めて 素 朴 な 発 想 に立 っ た

と して も容 易 に了 解 され る と ころで もあ ろ う。 こ の 意 味 だ け に 限定 す れ ば,上 述 の こ と は,本 稿 に と って ほ とん ど無 意 味 だ とい え な くもな い。

  しか しな が ら,こ と 「 教 育 政 策 」 の生 成 の 問 題 とな る と,必 ず し もそ う とだ け は い え な くな る の で あ る。 歴 史 的 に極 めて 早 い 時 期 とか,私 的 な単 な る人 間 関 係 の集 合 態 に お い て, 文 化 ・教育 機 能 と して の素 朴 な人 間 関 係 ま た は 状 況 が 展 開 して い る と して も,人 は 直 ち に そ こに 教育 政 策 の存 在 や そ の存 在 理 由 を見 出す こ と はで き な いで あ ろ う。 しか も,逆 に, 社 会 に本 源 的 な もの と して そ れ らの機 能 ま た は 活 動 が な い とす れ ば,教 育 政策 は 全 く所 与

的 な もの と して,社 会 で の そ の存 在 は 任 意 な も の とな るで あ ろ う。 した が って,社 会 機 能 の この本 源 性 と任 意 性 と のパ ラ ドッ クス の な か に,教 育 政 策 は そ の存 在 根 拠 を もつ ので あ る 。

  本 源 的 機 能 と して の,あ るい は ま た 原 初 的 形 態 と して の文 化 ・教育 作 用 が,ど の よ うに

して 「教 育 政 策 」 を 含 む もの と して立 ち現 わ れ る ので あ ろ うか。 結 論 を先 取 りす れ ば,そ

れ は,形 式 論 理 的 に は社 会 に お け る人 間 の政 治 的行 為 で の知 的合 理 化 機能 現 象 の発 生,歴

史 的 実 質 的 に は それ らの機 能 が 権 力 を 仲 介 と した 時点 に お い て で あ る とい え よ う。 そ こ

で,以 下 に お いて,権 力機 構 そ の もの と して の 「国家 の本 質 」 に 関 して触 れ な くて は な ら

な い 。

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教 育 政 策 とは何 か  一 その 生 成 と本 質 に つ い て 一(熊 谷)

2  国 家 の 機 能 と本 質

  国 家 は,一 定 の 領 土 を 有 し,そ こ に 生 存 す る 人 び と に 対 し て 他 の 干 渉 を 許 さ な い 排 他 的 な 支 配 を 行 う 統 治 組 織 を もつ 政 治 団 体 だ と い わ れ る28)。 そ の 基 本 的 条 件 と し て は,一 般 的 に,国 民,領 土,統 治 組 織 の 三 要 素 を 欠 く こ と は で き な い と さ れ て き た が,さ ら に 加 え て,主 権,独 立 な ど の 要 素 を あ げ る 場 合 も あ る 。 し か し,国 家 に だ け 特 徴 的 な 要 素 は,何 よ り も 強 制 的 な 権 力 を も つ 機 構 を 備 え て い る 点 で,特 に そ の 統 治 組 織 と そ の 強 力 な 支 配 現 象 に あ る と い っ て も過 言 で は な い29)。

  時 に,国 家 は い か な る 種 類 の 社 会 か と の 論 が あ る 。 た しか に,国 家 は 一 つ の 社 会 で は あ る 。 し か し,今 日 で は,か つ て の よ う に 包 括 的 な 全 体 社 会 で は な く,部 分 社 会 の 一 つ だ と さ れ て い る 。 国 家 を 前 者 だ と す る 立 場 は,一 元 的 国 家 至 上 主 義(国 家 主 義)で あ る と い わ れ,往 時 の ド イ ツ,日 本 で の 考 え 方 に 代 表 さ れ る 。 マ ッ キ ー バ ー  (Robert  Morrison Maciver,..〜1970)や ラ ス キ(Harold  Joseph  Laski,1893〜1950)な ど の 多 元 的 国

家 論 者 は,後 者 の 立 場 を と り,そ れ は 民 主 主 義 的 国 家 観 と い わ れ,国 家 と い え ど も会 社, 学 校,組 合 な ど と 同 様 に 部 分 社 会 に す ぎ な い と い う の で あ る 。 し か し,そ う だ と し て も, 国 家 の 特 徴 は 依 然 と し て 統 治 権 を 通 じて の 強 制 作 用 に あ っ て,独 立,最 高 の 権 力 を 意 味 す る 主 権 を も つ 団 体 だ と さ れ て い る 事 実 に は 注 意 を 払 わ な くて は な ら な い30)。

  上 述 の 諸 点 を ふ ま え て,国 家 の 本 質 は 何 か と い う問 題 が 改 あ て 提 出 さ れ る。 こ こで は, そ の た め の 事 前 作 業 と し て 当 然 通 過 しな け れ ば な ら な い で あ ろ う国 家 に 関 す る 諸 学 説 の 比 較 検 討 は 不 本 意 な が ら省 略 せ ざ る を 得 な い が,観 点 を か え て,国 家 の 生 成 に 関 す る 問 題 と

そ の 機 能 の 考 察 を 通 し て そ の 間 に答 え て い き た い 。

  ま ず,政 治 現 象 の 生 成 に つ い て で あ る が,こ れ に 関 す る 学 説 は,神 権 説 や 契 約 説 な ど 思 弁 的 で す で に 過 去 に 淘 汰 さ れ た も の を 別 と す れ ば,大 よ そ 二 つ の 立 場 に わ か れ る 。 す な わ ち,氏 族 社 会 の 成 立 と 事 実 上 同 一 視 す る 政 治 原 始 存 在 説 と,氏 族 社 会 の 変 容 な い し 崩 壊 過 程 に お い て そ れ を と ら え る 歴 史 的 段 階 成 立 説 と で も い う べ き も の が そ れ で あ る 。 前 者 に は マ イ ヤ ー(Edward  Meyer,1855〜1930)や ポ サ ダ  (Adolfo  Gonzalez  Posada,1860〜

1944)の 学 説 が あ り,後 者 に は モ ル ガ ン(Lewis  Henry  Morgan,1818〜1881)や エ ン ゲ ル ス(Friedrich  Engels,ユ820〜1895,の そ れ を あ げ る こ と が で き る 。 し か し な が ら,両 説 と も に,政 治 の 生 成 の 問 題 を 国 家 の 生 成 の 問 題 と し て と ら え て い た こ と は 共 通 で あ る 。

と こ ろ が,国 家 生 成 の 要 因 を め ぐる 学 説 に 関 し て は,最 初 か ら 国 家 の 存 在 を 認 あ る も の は 別 と して,そ こ に は,生 成 要 因 を 外 部 に 求 め る 見 解 と,内 的 要 因 に 求 め る 見 解 の 二 つ が あ

る 。 前 者 に は,征 服 国 家 論 者 の グ ン プ ロ ヴ イ ッ ッ(Ludwig  Gumplowicz,1838〜1909)

と オ ッペ ン ハ イ マ ー(Franz  Oppenheimer,1864〜1943)が あ り,後 者 に は,モ ル ガ ン と エ ン ゲ ル ス が あ る 。 た だ,エ ン ゲ ル ス の 場 合 は,ギ リシ ャ,mマ と異 な っ て,ゲ ル マ ン に つ い て は,mマ 征 服 が そ の 契 機 を な す と と ら え られ て お り,し た が っ て,こ の 点 で は 必 ず し も 後 者 の 典 型 と は い え な い が,方 法 論 的 に は 内 部 要 因,と り わ け 階 級 の 発 生 が 国 家 を 生 み 出 す と い う 視 点 で 一 貫 さ れ て い る と み る べ き で あ る31)。

  と こ ろ で,国 家 生 成 の 始 源 と も み な さ れ る べ き 社 会 的 凝 聚 の 原 理 と し て は,血 縁 的 原 理

と 地 縁 的 原 理 の 二 見 解 が あ る が,一 般 に は,歴 史 的 に は 前 者 が 後 者 に 先 行 す る と い う 「血

縁 か ら地 縁 へ 」 の 理 論 図 式 が 支 持 さ れ て き た 。 こ の こ と に 関 して は,必 ず し も一 般 に 周 知

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長崎大学教育学部教育科学研究報告  第26号

の こ と で は な い が,実 は マ ル ク ス(Karl  Marx,1818〜1883)が1857〜8年 に 書 い た 遺 稿r資 本 制 生 産 に 先 行 す る 諸 形 態 』(Formen,  die  der  Kapitalistischen  Production vorhergehen.)の な か で,極 め て 抽 象 的 で は あ る が 初 め て そ れ に 論 及 し た と い わ れ て い

る32)。  こ の マ ル ク ス の 観 方 を さ ら に 明 確 に し た の が,先 の 理 論 図 式 の 開 拓 者 と い わ れ る メ ー ン(Sir  Henry‑Sumner  Maine.1x22〜1888)で あ っ て,か れ は,ギ リ シ ャ,ロ ー マ の 古 代 国 家 の 行 政 機 構 か ら 「血 縁 か ら地 縁 へ 」 の 発 展 の 跡 を 見 出 し,家 族 一 氏 族 一 種 族 一 国 家 と い う 一 連 の 血 縁 的 構 成 物 に よ っ て 古 代 社 会 が 編 成 さ れ て い た と 考 え た 。 そ し て,か れ は,こ の よ う な 血 縁 的 な 社 会 原 理 を 《 地 域 的 近 接 性 の 原 理 》 の 前 段 階 に 位 置 づ け た の で あ る33)。

  メー ン の 主 著 『古 代 法 』(Ancient  Law.1861)が 出 た 後,ポ ス ト(Albert  Helmann Post.1839〜1895)は 『原 始 血 縁 共 同 体 論 』(Die  Geschleclztsgenossenschaft  der  Urzeit

und  die  Entstehllng  der  Ehe.1875)に お い て,血 縁 共 同 体 か ら 地 縁 的 な 《 ガ ウ=デ イ ン ク 共 同 体 》(Gen‐oder  Dinggenossenschaft.)へ の 発 展 を 論 じ た が,こ の 血 縁 共 同 体 の 最 も原 初 的 な 形 態 が 《 ホ ー ル ド》(Hord)で あ っ て,後 に 種 族(stamm)一 胞 族(Geschl‑

echtsverband)一 氏 族(Geschlecht)と い う 一 連 の 上 下 的 な 血 縁 構 成 物 が 現 わ れ た と み た の で あ る 。 モ ル ガ ン は,ま さ に,先 行 す る こ れ ら二 人 の 理 論 的 研 究 を 基 盤 と し,そ の 上 に 現 実 の 未 開 民 族 に お け る 原 始 血 縁 共 同 体 の 実 証 的 研 究 を 展 開 す る こ と に よ っ て,現 代 実 証 的 民 族 学 の 置 礎 者 と な っ た の で あ る 。 か れ は,婚 姻 と 家 族 の 歴 史 に つ い て 体 系 的 な 理 論 を 展 開 し た 『古 代 社 会 』(Ancientsociety.1877)に お い て,「 血 縁 か ら地 縁 へ 」 の 図 式 を 具 体 的 資 料 を も と に 実 証 的 に 論 証 し た の で あ る34)。

  モ ル ガ ン は,統 治 形 態 を 二 分 し,「 人 お よ び 純 粋 に 人 的 な 関 係 に 基 礎 を お く も の 」 を 《 社 会 的 組 織 》(Social  organization)と 呼 び,「 地 域 と 財 産 に 基 礎 を お く も の 」 を 《 政 治 的 組 織 》(Political  organization)と 称 し た 。 そ して,前 者 に は 「氏 族 」 と そ れ を 単 位 と す る 「胞 族 」  「種 族 」  「種 族 連 合 」 と い う一 連 の 継 次 的 構 成 物 を 含 ま せ,後 者 に は そ の 基 礎 単 位 た る 「町 区 」 か ら 「州 」 「国 家 」 を 包 括 さ せ た の で あ る35)。  つ い で,こ の 両 組 織 の も と で 編 成 さ れ た 社 会 体 制 を,そ れ ぞ れ 「氏 族 制 社 会 」,「 政 治 的 社 会 」 と 呼 び,そ し て, 前 者 こ そ 「人 類 の 最 も古 い,そ して 最 も広 汎 に 普 及 せ る 制 度 の 一 っ 」 で あ っ た と し36), 地 域 的 原 理 に よ る 政 治 的 社 会 に 先 行 す る も の で あ る こ と を 実 証 した の で あ る 。 か れ は,

「氏 族 制 度 が ゆ き わ た っ て い た と こ ろ や,政 治 的 社 会 が 確 立 さ れ る 以 前 に は,わ れ わ れ は ど こ で も 氏 族 制 社 会 の も と に 生 存 し て い る 民 族 を 見 出 す の で あ っ て,… … 国 家 は 存 在 し な か っ た の で あ る 」37)と 論 ず る の で あ る 。 そ れ で は,い わ ゆ る 文 明 時 代 に 入 っ て 政 治 的 社 会 が 編 成 さ れ る の は い つ の 時 点 で あ っ た の だ ろ う か 。

  モ ル ガ ン は,こ の 問 題 に 関 して,古 代 ギ リ シ ャ ーmマ 人 の 場 合 を こ う述 べ て い る 。 「ギ リ シ ャ 人 やmマ 人 が 文 明 時 代 に 到 達 し た の ち,彼 ら の 全 能 力 を つ く す べ く彼 ら に 課 せ ら れ た こ と は,デ ィ ー ム(deme)す な わ ち 町 区,市 区 を 考 案 し,し か し て 現 時 の 文 明 国 民 の 間 に な お も保 持 さ れ て い る 第 二 の 偉 大 な 統 治 方 式 の 開 始 を 宣 告 す る こ と で あ っ た 。」38)っ

ま り,ギ リ シ ャ に お い て は ソ ロ ン の 改 革(の     り)(B.C.594年(   り  ))を 経 て ク レ イ ス テ ネ ス の 立 法

(B.C.509年)に39),  mマ に 関 し て は セ ル ヴ イ ゥ ス ・ トウ リ ゥ ス(B。C.576〜533)の

変 革 に お い て40),そ れ ぞ れ 氏 族 制 社 会 か ら政 治 的 社 会 へ の 転 換 が 観 取 さ れ る と し た の で

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教 育政 策 とは 何 か  一 そ の生 成 と本 質 に つ いて 一(熊 谷)

あ る 。 そ し て,こ の よ う な モ ル ガ ン の 研 究 成 果 が,マ ル ク ス と と り わ け エ ン ゲ ル ス に 大 き な 影 響 を 与 え た こ と は す で に 広 く知 られ て い る と こ ろ で あ る41)。

  す な わ ち,モ ル ガ ン と そ の 信 奉 者 コ ヴ ァ レ フ ス キ ー(Maksim  Maksimovich  Kovale‑

vskij.1851〜1916)の 仲 介 を 経 た マ ル ク ス は,そ の 原 始 血 縁 共 同 体 に 関 す る 認 識 の 一 層 の 深 ま り を1881年3月 の 「ヴ ェ ラ ・ザ ス リ ッ チ へ の 書 簡 」(草 稿)の な か で 展 開 し た 結 果, つ い に 血 縁 的 な 社 会 構 成 原 理 を 揚 棄 す る 方 向 で,第 二 次 的 な 共 同 体 一 地 縁 的 な 《 農 業 共 同 体 》(commune  agricole,  Agralgemeinde)を 見 出 す の で あ る42)。 そ し て,こ の 理 論 が さ ら に エ ン ゲ ル ス に 継 承 さ れ て い く の で あ る 。 つ ま り,エ ン ゲ ル ス は,そ の 副 題 に 「リ ュ ウ イ ス ・H・ モ ル ガ ン の 研 究 に 因 み て 」と 添 え た 『家 族 ・私 有 財 産 及 び 国 家 の 起 源 』(Der Ursprung  der  Familie,  des  Privateigentums  und  des  Staats.1848)に お い て,血 縁 か ら 地 縁 へ の 社 会 凝 聚 原 理 の 転 換 が 原 始 共 産 制 社 会 と 私 有 財 産 制 社 会 の 二 大 範 疇 を 画 期 づ

け る 歴 史 的 現 象 で あ る と し て 捉 え た の で あ る43)。

  エ ン ゲ ル ス は,同 書 の 序 文 で こ う い っ て い る 。r血 縁 団 体 に 基 づ く古 い 社 会 は 新 た に 発 展 し た 社 会 階 級 と 衝 突 して 粉 砕 さ れ,そ の 代 り に 国 家 に 結 成 さ れ た 。 そ の 単 位 は も は や 血 族 団 体 で は な くて 地 域 団 体 た る,一 つ の 新 しい 社 会,そ の な か で は 家 族 秩 序 は 全 く財 産 秩 序 に よ っ て 支 配 さ れ,ま た そ の な か で は 今 や す べ て の 従 来 の 書 か れ た 歴 史 の 内 容 を な す 階 級 対 立 及 び 階 級 斗 争 が 自 由 に 展 開 す る と こ ろ の 一 つ の 社 会 が 出 現(   )す る の で あ る 。」44)か(り)れ

は,社 会 編 成 の 原 理 が 血 縁 か ら地 縁 へ と 移 行 す る ま さ に そ の 時 期 こ そ が,私 有 財 産 制 の 成 立 と 階 級 制 社 会 の 政 治 的 構 成 物 た る 国 家 出 現 の 起 点 で あ る と 考 え た の で あ る 。 そ し て,か れ は,こ の よ う な 移 行 の 具 体 例 を ヨmッ パ 古(・・e・・)代 民 族 の 史 実 の な か に 求 め た の で あ る 。 ギ

リ シ ャ で は,か の ク レ イ ス テ ネ ス の 改 革 を 例 証 し て,「 ク レ イ ス テ ネ ス は,そ の 新 し い 制 度 に お い て,氏 族 及 び フ ラ ト リー(胞 族)を 基 礎 と す る 四 つ の 古 い 種 族 を 無 視 し た 。 そ の 代 り に,… 単 な る居 住 の 場 所 に よ る 市 民 の 区 分 を 基 礎 と す る 全 く新 し い 組 織 が 現 わ れ た 。 も は や 血 族 団 体 へ の 所 属 で は な くて,住 所 の み が 決 定 し た 。 区 分 さ れ る は 人 民 で は な く て 領 土 と な り,住 民 は 政 治 上 領 土 の 単 な る 付 属 物 と な っ た 。」45)と 述 べ て い る 。 同 様 の こ と は ロ ー マ に 関 し て も,「 か く してmマ に お い て も ま た,既 に 所 謂 王 政 の 廃 止 以 前 に,個 人 的 な 血 縁 紐 帯 に 基 く古 い 社 会 秩 序 は 破 壊 さ れ て,領 土 区 分 と 財 産 差 別 と に 基 く新 し い 現 実 の 国 家 制 度 が,こ れ に 代 え られ た の で あ る 。」46)と い って い る 。 だ が,ド イ ツ で は,例 外 的 に ゲ ル マ ン 族 のmマ 征 服 に 伴 な っ て 生 起 し た と さ れ て い る47)。

  以 上 の よ う に し て,国 家 が 歴 史 的 に 発 生 し た の は,エ ン ゲ ル ス が 「氏 族 制 度 の 廃 嘘 の

上 に 国 家 が 生 ず る」48)と い っ た よ う に,氏 族 制 社 会 の 末 期,母 権 制 と 原 始 共 産 体 が 崩 壊

し て 父 権 制,私 有 財 産 制 が 拾 頭 し た こ と に 関 係 が あ り,そ れ に 基 づ く 階 級 分 化 が 進 行 し た

こ と に 原 因 し て い る 。 階 級 分 化 は,原 始 社 会 の 生 産 力 の 発 展 と 私 有 財 産 制 の 結 果 に よ る も

の で あ る こ と は い う ま で も な い 。 エ ン ゲ ル ス も こ う い っ て い る 。 「国 家 は 永 却 の 昔 ら存 在

す る も の で は な い 。 国 家 な く し て す み,国 家 及 び 国 家 権 力 を 夢 想 だ に し な か っ た 社 会 が 存

在 し た 。 階 級 へ の 社 会 の 分 裂 と 必 然 的 に 結 び つ け られ た 経 済 的 発 展 の 一 定 の 段 階 に お い

て,こ の 分 裂 に よ っ て 国 家 が 必 要 と な っ た の で あ る 。,49)重 ね て か れ に 聞 こ う 。 「国 家 は

決 し て 外 部 か ら社 会 に 押 し つ け ら れ た 権 力 で は な い 。 … … そ れ は 寧 ろ 一 定 の 発 展 段 階 に お

け る社 会 の 生 産 物 で あ る 。 そ れ は こ の 社 会 が そ れ 自 体 と の 解 き が た い 矛 盾 に 絡 ま り,自 ら

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長崎大学教育学部教育科学 研究報告  第26号

除去 し得 な い,融 和 しが た い対 立 に 分 裂 し た こ と の告 白 で あ る 。 しか し この 対 立 が,対 抗 す る経 済 的 利 益 を有 す る諸 階 級 が,自 己及 び社 会 を無 益 な 斗争 の う ちに 滅 亡 させ な い た め に,こ の 軋 礫 を 抑 圧 し且 つ 「 秩 序 」 の 博 内 に保 つ べ き外 観 上 社 会 の上 に立 つ 権 力 を 必 要 と す る に 至 った 。 そ して この,社 会 か ら 出て,而 もそ の上 に位 し,そ れ か ら益 々遠 ざか る権

力 が,国 家 で あ る。 」50)

  上 記 の 引 用 を通 じて,所 論 はす で に 国 家 の 機 能 の問 題 に 進入 す る 。一 口 に 国 家 の機 能 と い っ て も,そ れ は歴 史 的 に変 遷 し,古 代 国 家 や 封 建 国家 と近 代 国家 と は そ の 機能 の範 囲 も 異 な り,ま た 機 能 間 に軽 重 もあ る で あ ろ う。 しか し,国 家 と い え ど も一 個 の 社 会 を 形 成 す

る もの で あ る以 上,1で 述 べ た 「 社 会 的行 為 の四 機 能 」 を遂 行 す る もの で な くて はな らな い 。 そ こで,そ れ を 国家 機能 に 当 て は め る とつ ぎ の よ うに な る で あ ろ う。

  (1)国 家 統 治 の た め の最 高 の型 象 維 持 機能   (2)国 家 体 制 の 内 的統 合 機 能

  (3)国 家 の 目標 達 成 へ の志 向機 能   (4}一 般 化 され た環 境 へ の適 応 機能

  これ らは,そ れ ぞ れ 文 化 ・教 育 機能,国 内統 治 の た め の行 政 機 能,広 義 の政 治 的 機 能, そ して 国家 維 持 のた め の経 済 機 能 と み る こ とが で き る。 い ま少 し詳 述 す れ ば,こ うい うこ と に な ろ う。 国 家 の文 化 ・教 育 機 能 で あ り,統 治 の た め の最 高 の型 象 維 持 機 能 は,現 体 制 お よ び権 力 の 維 持 を 図 る た め に,期 待 され る最 高 型 象 を民 心 に敷 循 す る もの で あ るか ら, そ の た め に は 種 々 の手 段 が 利 用 され る で あ ろ うが,根 本 的 に は体 制 と権 力 の正 当 化 を 目的 と した一 定 の イデ オ ロ ギ ー支 配 を画 す こ とに な る。 また,行 政 機 能 と して の体 制 内 統 合 機 能 は 積 極 面 と 消極 面 とに 区 分 して 考 え る こ と が便 利 で あ る。 っ ま り,治 安 維 持 や秩 序 保 全 の た め の行 政 権 力 の強 権 的側 面(警 察 ・司 法行 政)は 前 者 で あ り,福 祉 増 進 や 国民 生 活 機 能 の 円滑 化(狭 義 の行 政)と い う側 面 は後 者 に 属 す る も ので あ る。 さ らに,広 義 の 政 治 機 能 と して の 目標 達 成 志 向機 能 は,上 記 の 「内 的 統 合」 を 可 能 な ら しめ る前 提 条件 と して, 平 時 に は 国 内 安 定 と生 活 擁 護 を図 る(外 交)こ と と,臨 機 に は 国家 の 防 衛 ・保 全(戦 軍 備) 機 能 と して発 動 す る。 最 後 に,経 済 機 能 と して の環 境 へ の 適 応 は,国 民 生 活 ひ い て は 国 家 維 持 の た め の 生 産 ・産 業 ・貿 易 ・金 融 な どの 振 興 発 展 を 図 る こ とで あ ろ う。 以 上 を 要 す る に, 国 家 の一 般 的 機 能 は,国 内 に お い て は経 済 を 安 定 させ,治 安 を維 持 し,人 心 を 統 合 しな が ら外 部 か の 侵 入 に対 して は防 衛 を完 備 し,そ して 国 民 の生 命 ・自由 ・財 産 を擁 護 して,そ の 活動 を 自由 ・積 極 的 た ら しめ る よ うな秩 序 を 維 持 す る こ と に あ る で あ ろ う。

  しか し,本 来,私 有 財 産 制 の創 出 と そ れ に 起 因 す る階 級 分 化 と い う事 実 が 国家 の 出現 を 促 した もの で あ る以 上,現 実 の国 家 機 能 は,一 般 論 で は律 しきれ な い複 雑 な屈 折 した 側 面 を もっ て い る。 近 代 国 家,と りわ け資 本 主 義 国 家 に あ って は,建 前 上 自由主 義 を 標 榜 し, 個 人 の 自由 と尊 厳 を た た えて は い る が,実 際 に は 大 多 数 の労 働 者 は資 本 家 ・支 配 階 級 に対

して 平 等 を もつ に はい た って い な い。 そ れ ゆ え に,エ ンゲ ル ス は,国 家 は一 体 誰 の 所 有 な

の か に つ い て,「 国 家 は 階級 対 立 を抑 圧 す る必 要 か ら発 生 し た も の で あ る か ら,然 し それ

は ま た 同 時 に これ らの 階 級 の軋 礫 の真 唯 中 に 発 生 した もの で あ るか ら,そ れ は,通 常 最 も

有 力 な,経 済 的 に支 配 す る階 級 の国 家 で あ る。 そ して こ の階 級 は,ま た彼 の 国 家 に よ って

政 治 的 に支 配 す る階 級 と な り,ま た か く して 被圧 迫 階 級 の抑 圧 及 び搾 取 の た め の 新 し い手

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ユ1

教 育 政 策 とは 何 か  一 その 生 成 と本 質 に つ いて 一(熊 谷)

段 を獲 得 す る。 」51)と い い,し たが って,ま た国 家 の機 能 にっ いて は,「 階 級対 立 の 形 で 運 動 して きた これ まで の社 会 に は,国 家 が 必 要 で あ っ た。 す な わ ち,搾 取 階 級 の 外 的 な 生 産 条 件 を 維 持 す るた め の,従 って と くに,現 存 の生 産 様 式 に よ って定 め られ る抑圧 の諸 条 件(奴 隷 制,農 奴 制 あ るい は隷 農 制,賃 労 働 制)の な か に,被 搾 取 階級 を暴 力 的 に お さ え つ けて お くた め の,そ の と き ど き の搾 取 階 級 の 組 織 が必 要 で あ った 。 」52)と 語 って い る。

ま た,レ ー ニ ン(Vladimir  I1'ich Lenin.1870〜1924)も 資 本 主 義 下 の 国 家 の機 能 と性 格 につ い て,「 一 階 級 が 他 の 階級 を抑 圧 す る た め の,し か も少 数 者 が 多数 者 を抑 圧 す る た め の特 殊 な 機 構 」53)で あ る と述 べ て い る。

  い まや,国 家 の本 質 につ いて 総 括 す べ きと ころ に きた 。 国 家 が 私有 財 産 制 を基 礎 とす る 階 級 社 会 の必 要 のな か か ら生 成 し,そ の長 い歴 史 を対 立 緩 和 一 妥 協 一 抑圧 と搾 取 の過 程 に よ って 構 築 して きた とみ る な らば,そ の本 質 は 自 ら明 白 とな る で あ ろ う。改 め て い うま で もな く,国 家 は権 力 に よ って 国 民 を統 制 す る と と もに,こ れ に反 す る場 合 には 刑 罰 権 を行 使 す る こと もで きる唯 一 の機 関 で あ る。 そ の 国家 の権 力 は,背 後 に物 理 的 強 制 力(警 察, 刑 務 所,軍 隊)を もつ の で極 め て強 力 で あ り,時 と して暴 力 的 で す らあ る。 この よ うに, 国家 は,そ の 目的達 成 の た あ に装 置 され た暴 力 的 権 力機 構 で あ る とい え る。 レー ニ ンは,

「国家 は階 級 支 配 の機 関 で あ り,一 つ の 階級 に よ る他 の 階 級 の 抑圧 の 機 関 で あ り,階 級 の 衝 突 を 緩 和 しつ つ,こ の 抑 圧 を 合 法 化 し強 固 な も の に す る 〈 秩 序 〉 を創 出す る もの で あ る。 」54)と い い,ま た エ ンゲル ス も,「 国 家 の 内 部 にお け る階 級 対 立 が 尖 鋭 化 す る につ れ て,ま た互 に境 を接 す る 国 家 が よ り大 き くな り,人 ロが ふ え る につ れ て,公 的 暴 力 は ます ま す 強 化 す る一 階級 斗 争 と征 服 競 争 とが公 的暴 力 を高 所 に お しあ げ て,全 社 会 を,ま た 国 家 を さえ も呑 み つ くそ う と して い る」55)と 述 べ て,国 家 権 力 の 暴 力 性 を指 摘 して い る。

こ う した 国 家 の実 体 は,古 今 を 問 わ ず不 変 で あ る とエ ンゲ ル ス は 考 え た 。 それ ゆ え に,か れ は,「 近 代 の代 議 制 国 家 も,資 本 に よ る賃 労 働 の 搾取 の 道 具 で あ る。 」56)と い い,し た が って,「 あ らゆ る国 家 は被 抑圧 階 級 を く 抑 圧 す るた め の 特 殊 権 力 〉 で あ る。 」57)と す ら 断 言 す る。 そ して,「 常 備軍 と警 察 とは,国 家 権 力 の 暴 力行 使 の 重 要 な 道 具 で あ る 。 」58)

とみ た の で あ る。以 上 は,ま さ に,抑 圧 ・搾 取 ・暴 力 の ヘ ゲ モ ニ ー装 置 で あ る こ と こ そ国 家 の本 質 で あ る とい う,か れ 一 流 の 評価 で あ る とい わ な くて はな ら な い。

  しか し,今 日の 国 家 は,議 会 制 デ モ ク ラ シ ーや 大 衆 デ モ ク ラ シ ー の 出現 もあ り,経 済 構 造 そ の もの の 巨大 化 な ど もあ って,ヘ ゲ モ ニ ー装 置 も,か つ て の よ うに そ の ま ま の形 で は 発 動 し難 くな って きた 。 そ こで,そ の 抑圧 ・搾 取 一 支 配 の 態 様 も し だ い に変 化 し,ま た巧 妙 化 して 隠 徴 に行 わ れ るよ うに な って きた 。 レー ニ ン は,こ の 現 実 に つ い て,「 今 日で は, 帝 国主 義 と銀 行 の支 配 は,任 意 の どの民 主 共 和 国 で も,富 の 全 能 を擁 護 し実 現 す る た め の

これ ら二 つ の方 法(官 吏 買 収 と政 府 と取 引 所 との 同 盟)を 並 はず れ た技 備 に ま でく 発 達 〉 させ て い る。 」59)と 述 べ て,そ の 実 態 を あ ば き 出 して い る。

  この よ うに,今 日で は,新 しい 制 度 や 法(こ れ ら も権 力 や 支 配 の座 に あ る もの に と って は 任 意 に作 り 出せ る もの)に よ って,「支 配」 は 「正 当性」 の 名 の 下 に公 然 と,し か も公 認 的 にす ら行 わ れ て い る。 しか し,そ の 実 態 が な い わ けで はな い。 そ れ は,隠 蔽 的 に,む し

ろ 「 観 念 的 権 力」 を通 して 国民 生 活 の 日常性 の な か で,そ の 本 質 を機 能 させ て い る ので あ

る。 そ れ が,イ デ オ ロギ ー支 配 で あ る。 さ き に,国 家 の 機 能 と して,「 統 治 の た め の最 高

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長崎大学教育学 部教育科学研究報告  第26号

の型 象 維 持 機 能 」 な る もの を挙 げ た が,現 代 国 家 の 特 徴 は,ま さ に 「 正 当 的合 法 性 」 の イ メー ジや シ ン ボル を 通 して 権 力 行 使 の観 念 的 地 盤 を 構 築 し,そ の な か で国 民 の 「日常 性 」 を遂 行 させ る形 で そ の 目的 を達 成 す る とい う点 に あ る よ うで あ る。 こ う して,暴 力 的 抑 圧 装 置 か らヘ ゲ モ ニ ー装 置 へ,夜 警 国 家 か ら福 祉 国 家 へ の転 換 の な か に,現 代 国 家 機 能 の本

質 を み る思 い がす る。

3  教 育 政 策 と は な に か

  本 質 的 に は 抑圧 と搾 取 を 内在 させ る国 家 が現 実 に は そ の 非 情 性 や 残 忍 性 を む き 出 しに は しな い と い って も,そ れ に はや は り 限度 が あ る 。 制度 や 組 織 の 運 営,法 の 運 用 いか ん に よ って は,裁 量 上 の は ば が あ る。 それ に加 え て,裁 量 の は ば を 可 能 な か ぎ り拡 大 す る方 法 も あ る。 権 力 は,政 治 目的(ま さ に それ が公 的 な もの で あ ろ う と否 とを 問 わ ず)達 成 の た め に,コ ンパ ク トな 合 理 的か つ 合 法 的 な 手 段 を 考 案 す る。 そ れ が,政 策 で あ る。 政 治 的 矛 盾 が 激 しい 国 家 ほ ど,そ の権 力 は,民 衆 の具 体 的 利 益 を 増 進 す る と い う幻 想 性 を か きた て る

こと に よ って,自 らの安 定 を 図 る の が最 もオ ー ソ ド ック スな 方 法 で あ る。

  D.イ ー ス トン(David  Easton.ユ913〜)は,政 治 シ ス テ ム の安 定 を 「 入 力」と 「出力」

の均 衡 に求 め,政 治 的 に そ の 均衡 を 図 る方 法 を つ ぎの よ うに述 べ て い る。

  ま ず,か れ は,入 力 を 「 要 求 」 と 「 支 持」 に分 類 す る。 そ して,要 求 を,「 特 殊 な 主 題 に 関す る権 威 的 配 分 が,そ うす る こ とに責 任 を もつ 人 び と に よ って な さ るべ きで あ り,或 は な さ るべ きで な い と い う意見 の表 現 」60)だ と し,も し要 求 が満 た され な い な ら,そ の

シス テ ムへ の支 持 は 減 少 す るで あ ろ う とい う。 つ い で,「 支 持 は,あ る者 が 他 の者 に好 意 的 な 態 度 を 明 らか にす る時,ま た は あ る者 が 他 の者 に代 って 行 動 す る 時 に存 在 す る」61)

もの で あ る と し,そ の 上 で両 者 の 均 衡 を い か に図 る か に つ い て語 って い る。

  第 一 は,「 な さ れ る要求 の 内 容,要 求 を 表 現 し う る社 会 の 人 び とお よび 要 求 が 表 現 され る方 法 に,制 限 を 加 え る文 化 的 規 範 が 発 展 され な くて は な らな い 。 こ う して,政 治 シ ス テ ムが 変 化 の な か で 持続 す る第 一 の 理 由 は,文 化 的規 範 が 要求 の 流 れ を 制 御 す る こ と に よ っ て 緊 迫 状 態 を 制 限 す る とい う こ とで あ る。 」62)

  第 二 は,も し人 び との 要 求 が 満 た され な い場 合 で も,政 治 体 制 お よ び権 威 者 へ の 拡 散 的 支 持 を 喚起 す る こ と に よ って,人 び との政 治 シ ステ ムへ の反 対 を抑 制 す る こ とで あ る63)。

拡 散 的支 持 とは,体 制 や 権 威 者 に対 して,そ の公 正 さ と正 統 性 を信 じ,ま た そ れ との 共 通 利 益 が あ る とい う感 覚 に よ って 惹 きお こさ れ る支 持 で あ って,要 求 実 現 の代 償 と して 与 え

られ る特 殊 的支 持 とは 異 る もの で あ る64)。

  第 三 は,「 出力 の 概 念 の な か に」 そ の方 法 が あ る と い う。 す な わ ち,権 力 は 「人 び とや

集 団 の特 殊 的 要 求 が 満 た され,ま た は効 果 的 に抑 圧 され た時,も し くは 人 び とや 集 団 が そ

の要 求 の満 た され た こ と,ま た は達 成 され な い こ と を信 じる 時,政 治 シス テ ムへ の 支 持 ま

た は黙 認 が 生 ず る」65)よ うな 出 力 を 作 り出 す こ とが で きる と い うの で あ る。 出力 は,価

値 の権 威 的 配 分 また は社 会 の人 的,物 的 資 源 が か か り合 わ さ れ る で あ ろ う 目標 につ い て の

権 威 者 の 決 定 で あ る。 一 般 に,そ れ は,「 要 求 へ の応 答 」 で あ り,ま た は要 求 を満 た し或

は抑 圧 す べ き努 力 を表 わす もの で あ る か ら,そ の 「 応 答 」 の仕 方 い か ん で は人 び と の 「 支

持 ま た は 黙 認 」 を 得 る こと が で きる とい うの で あ る。

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教 育 政 策 とは何 か  一 そ の生 成 と本 質 につ い て一(熊 谷)

  以 上 を要 す るに,政 治 シス テ ム ー権 力 機 構 が 安 泰 で あ るた め に は,大 衆 の要 求 を制 限 す る こと が で き るよ うな 文 化 的 規 範 を 創 出 した り,ま た 権 力 へ の 信 頼 と共 感 を喚 起 す る こと に よ って 大 衆 の 盲 目的 ・無 制 限 な支 持 を獲 得 し,そ の 支 持 の も と に要 求 を抑 圧 した り,或 は また,出 力e政 策 に よ って 大 衆 を 操 作 して 支 持 また は 黙 認 を 得 た りす る よ うにせ よ,と い うの で あ る。 これ は,ま さに 「政 策」 に よ る大 衆 支 配 の 典 型 的 モ デ ル だ と い わな けれ ば な らな い 。 この よ うに 考 え て くる と,政 策 とは 一 体 な にか とい う困 難 な政 治 倫 理 の問 題 に 直 面 す る。

  た しか に,政 策 は,内 容 的 に み れ ば 社 会 的 に有 用 か っ 有 効 な 価 値 の 合 理 的配 分 を 目指 す もの で あ る 。 しか し,そ の 配 分 は,一 方 で は い わ ゆ る正 当的 な 強 制 また は制 裁 の援 助 の 下 に行 わ れ る。 そ れ は,価 値 の権 威 的配 分 を本 質 とす る政 治 の本 質 か ら して,不 可 避 で あ る。

そ うだ とす れ ば,政 策 は,権 力 と密 接 な 関 係 に あ る もの だ と考 え られ る。 な ぜ な ら,権 力 は,政 策 決 定 に対 す る 関 係 ま た は 影 響 と して 理 解 で き るか らで あ る。 「 権 力 は,影 響 力 の 行 使 に 関 す る特 殊 な場 合 で あ って,制 裁 とい う よ うな 価 値 剥 奪 を 手 毅 と して 政 策 に影 響 を 及 ぼ す 過 程 で あ る 。 した が って,権 力 とは,価 値 を 自由 に処 分 し得 る こと と いえ る。 ゆ え に,政 策 決 定 は,権 力 関 係 に よ って 影 響 され ざ るを 得 な い 。 む しろ,政 策 決 定 過 程 は権 力 過 程 そ の もの だ と い え る 。 」66)こ う して,政 策 は,一 方 で は社 会 的 価 値 の権 威 的配 分 で あ る が,他 方,配 分 の 意 図,目 的,さ らに 配 分 の 仕 方 を 通 して い か よ うに も大 衆 操 作 の実 を あ げ,ま た 権 力 が 自 らの 保 身 を 図 る こ との で き る両 匁の 剣 で あ る と いえ る。 この意 味 に お い て,政 策 は,ど こま で も権 力 の もの で あ る とい う命 題 が 成 立 す る。

  さて,こ こで 一 応 以 上 を 整 理 して つ ぎの 問 題 に入 る こ と に した い。 そ こで,ま ず,再 び 1を 想 起 して い た だ きた い 。 す る と,国 家 は 一 つ の 社 会 と して,経 済 活 動 を営 み,国 民 を 統 合 しな が らそ れ 自体 一 つ の 目標 を 追 求 しつ つ あ る機 構 だ とい うこ とが 想 起 され る。 当然 の こ とな が ら,国 家 に は 本 源 的 に 「型 象 維 持 」 機 能 もそな わ り,そ れ は他 機 能 と相 互 に滲 透 し合 い な が ら国 家 の 究 極 目的 達 成 を 補 完 して い く もの だ とい う こと も理解 で きる。 と こ ろ が,他 面 で は,国 家 は ま た,本 質 的 に 抑 圧 ・搾 取 の 暴 力 機 構 を そ な え た ヘゲ モ ニ ー装 置 で あ って,政 策 に よ る 強 権 的 大 衆 統 治 を 遂 行 す る もの で あ るが,現 実 に は そ の暴 力 性 は巧 妙 に 隠 蔽 され て い る と い わ れ た 。 い ま や,こ の 二 つ の 国 家 観 を 論 理 的 に い か に融 和 させ る か が 問題 で あ る 。 そ こで,ま ず つ ぎの 文 章 を 味 わ って い た だ きた い 。rそ の政 治 支 配 の暴 力 的 本 質 を 消去 す る た め,社 会 的 機能 を とお して そ の 支 配 を 遂 行 す る こ と は,社 会 的 職 務 の 執 行 者 とい う側 面 を ク ロー ズ ァ ップ す る必 要 が あ る。 そ の た め に支 配 階 級 の特 殊 利 益 か ら 独 立 した 国 家 と い う く 幻想 的 な共 同 社 会性 〉(「 ドイツ ・イデオ ロギー」岩波文庫,P.44)の 観 念 に よ る社 会 的職 務 の 合 理 性 とい う 被 支 配 階 級 の 意 識 支 配 の 重 要 性 が 登 場 す る こ と にな る 。 つ ま り,政 治 支 配 の 暴 力 的 機 能 に よ って 最 終 的 な保 障 は確 保 しつ つ も,政 治 的 機 能 を社 会 的機 能 の形 式 を通 す こと に よ って,社 会 一 般 の承 認 と支 持 とを か ち と るた め,政 治 的 機 能 の も う一 つ の側 面 で あ る く精 神 的 抑 圧 力 〉 とい う教 化 的 側 面 が 登 場 す る こ とに な る。 」67)   す な わ ち,文 化 ・教育 政策 に よ って 国 民 の 間 に一 定 の 心 理 的 支 持 の姿 勢 をつ く り出 し,

そ の 「国民 的合 意」 と い う精 神 的 雰 囲 気 を 利 用 す る こ とに よ って,政 治 的 な暴 力 的 本 質 を

隠 蔽 しな が ら目 標達 成 が で きる とい うの で あ ろ う。 そ こで,上 記 二 つ の国 家 観 は,一 お う

態 様 的 に み て,二 律 排 反 的(形 式 相 と本 質 相)な 関 係 に あ る もの と考 え て よ いが,現 実 に

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は,そ の本 質 相 は,教 育 政 策 の 介 入 に よ って機 能 的 に 擬 態 化 され る とみ る こ と が で き る。

つ ま り,現 実 の 国 家 は,本 質 的 に は暴 力 性 を 内蔵 しつ つ も,教 育 政 策 を媒 体 と した 社 会 的 職 務 の執 行 者 と して 立 ち現 われ る こと に よ って,そ の 本 質 を 隠 蔽 しつ つ 最 終 目 的 を 達 成 す る と い うの で あ る。 この よ うな国 家 は,そ れ ゆえ に,政 策 と して イー ス トン の い わ ゆ る 「文 化 的規 範 の 創 出」 を通 して 「 精 神 的合 意」 を 形 成 しつ つ,そ の 「 最 高 の型 象 維 持」 と,ひ

い て は 「目標 達 成 」 機 能 を完 壁 に遂 行 す る もの で あ る。 こ こ に教 育 政 策 の大 きな 役 割 を 見 る こ とが で きよ う。

  教育 政 策 に関 連 して,そ の役 割 を再 確 認 す るた め,現 代 国 家 に お け る 教育 機 能 の 位 置 と 役 割 に つ い て 考 え て み よ う。 ま ず,海 老 原 治 善 氏 の い う と こ ろ を 聞 こ う。 す な わ ち,社 会 現 象 と して の 教 育 は,現 代 国家 に お い て は,国 家 統 治 の 重 要 な手 段 と して登 場 して くる。

現 代 国 家 で は,階 級 抑 圧 の 直接 的 な機 構 と して 常 備 軍,警 察,つ い で検 察,刑 務 所,諜 報 機 関,税 務 署 等 が あ り,間 接 的 な 精 神 的 抑 圧 機 構 と して 宗 教,教 育(学 校 教 育,社 会 教 育), マ ス コ ミ諸 機 関 が あ る。 しか も,教 育 機 関 は,他 の諸 機 関 に比 べ て 意 図 的,計 画 的 か つ 系 統 的 で あ る点 で優 位 を示 し,間 接 的 抑 圧 機 構 の な か で は そ の 中核 的地 位 を 占有 す る。 もち ろん,教 育 は,こ う した イデ オ ロ ギ ー統 制 を行 う だ け で な く,他 面 で は専 ら労 働 力 再 生 産 の た め の基 礎 的 な 労 働 力 陶 冶 を 目的 とす る教 育 政 策 を展 開す る68)。  と ころ で,イ デ オ ロ ギ ー 統 制 と は,単 に現 体 制 を 支 持 す る漠 然 た る 「 意 識 」 を形 成 す る こ とだ け に 止 ま らず, さ らに 「 思 想 」  「信念 」 まで へ の 形 成 を含 み,そ れ も,露 骨 な現 体 制 の 謳 歌 とい う形 を と らず,民 族 独 立 を 目指 す ナ シ ョナ リズ ム と か,個 人 の 自由 と幸 福 を 追求 す る現 代 社 会 の建 設 とか,総 じて 国 家 の 使 命 観 や 価 値 観 の理 念 を媒 介 と しな が ら国民 精 神 を 統 一 し,画 一 化 す る こ と で あ る。 しか も,現 実 に は,「 文 化 の伝 達 」 と か 「伝統 の 保 持」,あ るい は 「 社 会 へ の 適 応 」 を謳 い,さ ら に実 利 的 技 能,能 力 の育 成 とい う手 段 を通 して,そ れ が あ た か も当然 の こ とだ とい う仕 方 で行 わ れ る の で あ る。 要 す るに,教 育 は,本 務 的 に は生 産 向上 に 役 立 つ 基 礎 的 な 労 働 力 陶冶 を営 み つ つ,他 方 で は 間 接 的 な 精 神 的 抑 圧 装 置 の 中核 と して, 権 力 の た め の イデ オ ロギ ー 支 配 を 徹 底 的 に担 当す る機 能 を果 して い るの で あ る。 で は,こ の よ うな教 育 の 仕 方 を作 り出す もの,つ ま りは教 育 政 策 は,歴 史 的 にい つ ご ろ か ら 出現 し た の だ ろ うか 。

  統 治 権 力 が 極 端 に強 大 で あ り,社 会 も ほん の 一 握 りの 支 配 階 級 と大 多 数 の被 抑 圧 階 級 に 明 確 に二 分 され,ま た 生 産 も直 接 消 費 の み を 目 的 と して 剰 余 を 期 待 しな い よ うな小 規 模 段 階 に あ った 古 代 奴 隷 制 国 家 や,農 奴 制 を基 礎 と し,地 方 分 権 的 な 領 主 国 家 に分 割 され,さ

らに社 会 的 生 産 も い ま だ無 政 府 的状 態 に あ った 中 世 封 建 制 国 家 で は,そ の社 会 的 需 要 に対 応 す る た め の 教 育 は い ま だ 明確 に は 意識 され ず,そ れ は な お 同 化,感 化 の域 を 出 ず,私 的 に,極 め て 素 朴 な形 態 で行 わ れ て い た に す ぎな か った で あ ろ う。 こ う した 時 代 に は,広 義 の文 化 政 策 は と もか くと して,少 くと も意 図 的 ・計 画 的 ・系 統 的 な教 育 は見 られ ず,し た が って教 育 政 策 もい ま だ歴 史 の 表 面 に 現 わ れ る こ と は なか っ た し,そ の必 要 性 す ら も み ら れ な か った で あ ろ う。 そ こで,教 育 が 多 少 と も計 画 的 か つ 組 識 的 に,そ して 素 朴 で は あ る が 政 策 的 な もの が 企 図 され る よ うに な った の は,恐 ら く封 建 制 も末 期,絶 対 主 義 時 代 の 国 家 か ら で あ ろ う と思 わ れ る。

  この 時 代 に は,生 産 形 態 も よ うや く一 応 の進 展 を示 し,生 産 手 段 の 集 中 化 と社 会 化,生

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