中学生が抱く家庭科に対する教科意識 : 学校にお けるジェンダーの再生産から
著者 麓 博之, 杉井 潤子
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 54
号 1
ページ 183‑191
発行年 2005‑10‑31
その他のタイトル Subject Consciousness of Junior‑high Students regarding Home Economics : Reproductive
Structure of Gender in School
URL http://hdl.handle.net/10105/150
1.問題意識および研究の目的
わが国はジェンダーが根強く浸透した社会であるとい っても過言ではない.ジェンダーとは生物学的な性差
(sex)ではなく,社会的・文化的につくられた性差
(gender)である.
生まれ育った国や地域,伝統・宗教・家庭環境・教育な
どの文化,さらには時代の影響によって意識のなかに幼 い頃からすり込まれるかたちでジェンダーが形成される.
「男らしさ」「女らしさ」といった言葉に象徴される性差 の多くは,このジェンダーに属するもので,本質的なも のとは異なる後天的なものであると考えられている.
ジェンダーの語が使われるときには,その性的差異は 価値中立的ではなく,男女という恣意的で階層化された 奈良教育大学紀要 第54巻 第
1
号(人文・社会)平成17年183
Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 54, No.1 (Cult. & Soc. ) , 2005
中学生が抱く家庭科に対する教科意識
― 学校におけるジェンダーの再生産から ―
麓 博 之
*
・ 杉 井 潤 子奈良教育大学生活科学教育講座(家族関係学)
(平成
17
年5月6日受理)Subject Consciousness of Junior-high Students regarding Home Economics:
Reproductive Structure of Gender in School
Hiroshi FUMOTO * and Junko SUGII
(Department of Home Economics Education, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan) (Received May 6 , 2005)
Abstract
In recent years, gender-equality activities have produced growing concern over gender, and only school education has been considered relatively gender equal. However, the presence of a hidden curriculum has been pointed out and it is said that gender is being reproduced uncon- sciously in the school education setting. In this research, we clarified various gender biases in school and the gender consciousness of junior-high students, and examined the reproductive structure of gender in school in connection with the consciousness and current status.
Our research revealed the following result. (1) Students receive entrenched gender-biased words and actions from teachers. (2) Also observed in school education is the gender conscious- ness, which also exits in our society, where males are supposed to seize initiative while females play supportive roles and perform household-like duties. (3) The entrenched gender-biased con- sciousness is affected by the perception that home economics is a subject for girls.
Key Words : junior-high school student, gender home economics
キーワード: 中学生,ジェンダー,家庭科
*奈良教育大学大学院修了
二分法に基づく差別として捉えられるとし,ジェンダー は,性差別(セクシズム),さらには異性愛主義(ヘテ ロセクシズム)を背景に出現する種々の社会的現象であ り,また種々の社会的意味づけであるといわれている
(竹村,
2004
).竹村が「恣意的で階層化された二分法に基づく差別」
と指摘しているように,そもそもわが国におけるジェン ダーは男尊女卑に基づくものが多く,政治,社会,家庭 などの様々な場面においてみられる.ジェンダーは性差 別そのものであり,人の行動や意識を規定し,生き方を 制限するなど大きな問題を抱えているといえる.
世界的にジェンダー是正への取り組みがなされるなか で,近年,わが国においてもジェンダーに強い関心が向 けられるようになり,多くの分野で改革が進められるよ う に な っ て き て い る . し か し , 内 閣 府 の 世 論 調 査
(2005)によると,政治,職場,家庭,社会通念の分野 において,男性優位の社会であると認識する者がなお多 いのである.
しかし,多くの分野で男性が優遇されているとの認識 が高いなか,唯一,学校教育の場においてのみ,「平等」
との認識が最も高くなっている.ジェンダーが根強く残 るわが国の社会のなかにあって,果たして学校教育の場 は本当に平等な場なのであろうか.
社会におけるジェンダーへの関心の高まりのなかで,
近年,学校におけるジェンダーにも関心がよせられ,多 くの研究がなされるようになってきている.亀田(
2000
) によると,学校そのものも,社会が抱えるジェンダー構 造を持っており,学習機会,学習内容,進路,そして学 校生活とあらゆる場においてジェンダー構造が内包され ているという.また,天野(2003
)も,ジェンダー概念 の発見により,男女平等であるとの教育理念のなかに隠 されたジェンダーの存在が明らかとなり,教育の場はジ ェンダーの再生産を担う働きをしているとの指摘をして いる.彼らの指摘にみるように,平等との認識が高い学 校教育の場もまた,実際には政治や職場といった分野と 同様に様々なジェンダーが存在し,さらには,子どもた ちに対してジェンダーが再生産されているのである.そこで本研究では,学校教育の場におけるジェンダー の意識と実態から,ジェンダーの再生産構造を明らかに することを目的とする.具体的には,中学生が学校で受 けている様々なジェンダー・バイアスの実態,中学生が 抱くジェンダー意識を明らかにし,意識と実態の関連性 から学校でのジェンダーの再生産構造の検証を行った.
なお,本研究は二次性徴の時期にあり,性に対する意 識が高まる中学生を対象とした.
NPO法人SEAN
(2004
) が,中学生・高校生を対象として行ったジェンダー教育 プログラムによると,プログラム実施前後の意識の変化 は,高校生に比べ中学生に多くみられる.このことは,高校生では意識は固定化されているが,それに対し,中 学生の意識は形成途上にあることを示唆している.中学 生の時期は意識形成において重要な時期といえる.
2.方 法
2.1.分析枠組
まず,中学生が学校生活のなかで受けているジェンダ ー・バイアスの現状を明らかにするために,学校生活に おける教師の様々な働きかけや,役割分担などの実態に みられるジェンダーについて明らかにする.次に,中学 生が抱く性差観,学校での性差意識を明らかにし,どの ようにジェンダー意識を持っているかを分析する.
さらに,以上の結果を基に,どのようなジェンダー・
バイアスが中学生の性差観形成に影響を及ぼしているか を分析し,学校でのジェンダーの再生産構造の実態につ いて検討した.性差観の形成には学校以外の様々な要因 も考えられるため,家庭での性役割やジェンダー・バイ アスの実態も性差観形成の一要因として分析に加えるこ ととした.なお,性差観とは男性とはこうあるべき,女 性とはこうあるべきという伝統的性役割規範に基づく固 定的二分法的な性差意識を意味する.
2.2.変数の指標化
本調査における質問項目は以下に示すとおりである.
2.2.1.家庭での性役割の実態
性差観の形成に影響を与えるのは,学校だけの影響で はなく,家庭の影響も非常に大きいと考えられる.そこ で,家庭における性役割を把握するために,収入を得る ための働き手,家庭での家事の担い手,家庭での手伝い の頻度,親からの男女別の躾についてたずねた.収入を 得るための働き手については,「祖父」,「祖母」,「父」,
「母」,「兄」,「姉」,「その他の人」の7項目から回答し てもらった.家事の主たる担い手については,「祖父」,
「祖母」,「父」,「母」,「兄」,「姉」,「自分」「その他の人」
の8項目のなかから,家庭で最も家事をしている人を一 人選んで回答してもらった.
家事手伝いの頻度については,炊事・買い物・掃除の 3項目について「よくする」「たまにする」「あまりしな い」「しない」の4件法で回答してもらった.さらに,
きょうだいと比べて家のことをよく手伝っていると思う かについて「とてもそう思う」「まあまあそう思う」「そ う思わない」「まったくそう思わない」の4件法で回答 してもらった.
男女別の躾では,「男だから○○○しなさい,女だか ら○○○しなさい」と言われることがあるかについて
「よくある」「たまにある」「あまりない」「ない」の4件 法で回答してもらった.
2.2.2.学校でのジェンダーの実態
学校でどのようなジェンダー・バイアスを受けている のか,また学校にどのような性役割があるのかについて たずねた.
学校でのジェンダー・バイアスについては,以下の5 項目について,「よくある」「たまにある」「あまりない」
「ない」の4件法で回答してもらった.
1.先生から「男だから○○○しなさい,女だから○
○○しなさい」と言われることがある
2.学校で男の子と女の子が比べられることがある 3.学校で女の子のほうがやさしくされることがある 4.授業中男の子のほうがよくあてられることがある 5.「男の子は女の子に負けるな」といわれることが
ある
学校における性役割については,以下の3項目につい て,「よくある」「たまにある」「あまりない」「ない」の 4件法で回答してもらった.
1.男の子と女の子では係りの仕事に違いがある 2.給食の準備は女の子の方がよくやっている 3.掃除は女の子の方がよくやっている
2.2.3.学校における性差意識
学校生活において感じている性差意識を以下の4項目 たずね,「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「ど ちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の4件 法で回答してもらった.
1.委員長は男の子がする方がよいと思う 2.副委員長は女の子がする方がよいと思う 3.家庭科は女の子の教科だと思う
4.学校の名簿は男の子が先でいいと思う
2.2.4.性差観
伊藤裕子が
1997
年に作成した「性差観スケール」の30
項目と,鈴木淳子が1987
年に作成した「平和主義的 性役割態度スケール短縮版」の15項目のなかから抽出 した11項目をつかって,中学生に対応させた性差観尺 度を独自に作成した.問いそれぞれに対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「あまりそう思わない」
「そう思わない」の4件法で回答してもらった.そして,
各々4点,3点,2点,1点とし,その加算得点を調査 対象者個人の性差観尺度の得点とした.
得点が高いほど,伝統的かつ固定的二分法的な性差観 を強くもっている.
2.2.5.自由記述
上記の質問以外にも様々なジェンダーの現状について 把握するために,学校生活で感じる,不思議に思うこと 疑問に思うことなどを自由記述で回答してもらった.
2.3.データ収集の手続き
調査対象は兵庫県A町の中学校1校の
2
,3
年の生徒382名である.(なお,比較参考のために,同町内の7
つの小学校のうち,複式学級(5,6年生計5名)を採 用している1つの小学校を除く6つの小学校の小学生354
名についても小学生版の同様の調査を行なった.)調査は,A町の教育委員会の了承,協力を得た上で,
学校に調査票を配布し,後に回収する留置法をとった.
調査時期は
2002
年10
月上旬に配布し,10
月下旬に回 収した.回収率は93.7
%(配布数382
,回収数358
)であ った.分析はSPSS12.0Jを用いて行い,有意水準は5%とした.
2.4.調査対象者の属性
性別・学年別に分けると,男子182名(50.8%)女子
174名(48.6%),2年生180名(50.3%),3年生178名
(
49.7
%)であった.家族構成については,父母と同居しているものが父
94.1%,母98. 0%,祖父母と同居しているものが祖父
42.9%,祖母55.4%,きょうだいと同居しているものは
約30
%,一人っ子の割合は7%であった.世帯類型に ついては,核家族の割合が40.4
%であり,全国平均の74.4%(平成12年国勢調査,18歳未満親族がいる核家族
の割合)を大きく下回っている.その他の親族世帯が59.6
%を占めている状況となっている.家族の就労率については,父
98.2
%,母83.1%,祖父 53.0%,祖母39.5%,きょうだい約20%であり,夫婦共
働きの家庭が8割以上であった.母親の就労率の全国平 均は74.3
%であり(平成13
年労働力調査特別調査,13
〜14
歳の子どもをもつ母親の就業率),A町の母親の就労 率のほうが,約1割高くなっている.三世代家族の割合や,母親の就労率が,全国平均より 高いことから,今回の調査対象者は,都市部ではなく,
第一次産業中心の地方にみられる生活形態をとっている.
3.結果および考察
3.1.家庭における性役割
家庭内の役割についてみてみると,就労率は父母が高 く,父親の98.2%,母親の83.1%が仕事をしていた.家 事の主たる担い手は,母親の割合が圧倒的に高く,母親 が就労している家庭においても
88.5
%と高い割合であっ た.このことから調査対象の中学生の家庭は,男性は仕 事・女性は仕事と家事といった新・性別役割分業の形態 が多いことがわかる.次に,家事手伝いの頻度についてみてみると,「よく する」「たまにする」を合わせて割合が高い順にならべ ると,男子では,掃除,食事,買い物,女子では食事,
中学生が抱く家庭科に対する教科意識
185
掃除,買い物であった.項目別に見てみると,「よくす る」と回答したものは,食事の手伝いでは男女共に約
20%,買い物・掃除の手伝いでは男女の約10%であり,
男女の差は非常に小さいものであった(表1).しかし,
「しない」と回答するものは,3項目全てにおいて男子 のほうが女子の2倍近い割合であった.性別による差を みるためにクロス集計(χ2検定)を行ったところ,3 項目全てで有意な差が見られた(食事
p<.05,買い物
p<.05,掃除p<.01).表1 家庭・学校での実態
きょうだいにくらべ,よく手伝いをしているかどうか では,異性のきょうだいがいるもの(男子
107
名,女子110
名)を対象にみてみると,「そう思う」と回答した ものは男子が約10%であるのに対し,女子は約30%で あった(表1).また,「全くそう思わない」と回答した 男子は女子の約4倍であり,性差がみられる(p<.01). 同じ家庭においても,きょうだい間では女子のほうが男 子よりもよく手伝いをしているのである.以上の手伝いに関する4項目から,家庭内において,
中学生の段階から性別役割分業形態が存在していること がわかる.
女子のほうがよく家事手伝いをする要因は,母親が主 に家事を担うなかで育ってきたことに加え,保護者から のジェンダー・バイアスが関係していると考えられる.
家で「男だから○○○,女だから○○○しなさい」とい う発言は男子に比べ女子のほうがよく受けているのであ る(表1,p<.01).
3.2.教師からのジェンダー・バイアス
学校現場において,中学生は教師から様々なジェンダ ー・バイアスを実際に受けている.
学校で「男だから○○○,女だから○○○しなさい」
といわれることがあるでは,「よくある」と回答したも のは男子12.8%,女子9.3%,「たまにある」と回答した ものは男子15.6%,女子15.1%であった(表1).統計的
に有意な性差はみられない.言い換えると,男女共に同 様にバイアスを受けていると感じていることがわかる.
ある女子の自由記述に「○○先生に女の子だから縫い 物・料理をしなさいと言われるのがイヤ」というものが あった.また,他の女子も「どうして○○先生は男女を 比べるの?」という意見を書いている.ジェンダー・バ イアスのかかった発言は,子どもたちに性役割を押し付 けるだけでなく,不快感も与えているのである.
学校で女子のほうがやさしくされているでは,男子の ほうが強く感じており,強い性差が見られた(p<.001). 男子では「よくある」と回答するものが48.9%であるの に対し,女子では17.5%であった(表1).
学校で「男は女に負けるな」と言われるでは,「よく ある」「たまにある」と回答したものを足すと,男子
29.6%,女子26.2%であった(表1)
.性差は見られず,男女共に同様に言われていると感じている.「女に負け るな」の発言には,女子の自尊心を傷つける側面がある ようである.ある女子の自由記述に,「スポーツで男の 子に勝ったら変な扱いをされるから男になりたい」と書 かれていた.この女子の発言からも自尊心が傷つけられ ている実態がわかる.
授業中,男子のほうがよくあてられるでは,「よくあ る 」「 た ま に あ る 」 と 回 答 し た も の を 足 す と , 男 子
24.0%,女子35.8%であり,性差がみられた(表1,p
<.01
).男子に多くの働きかけをする,ジェンダー構造が存在しているといえる.
学校で男女を比べられることがあるでは,「よくある」
「たまにある」と回答したものを足すと,男子40.0%,
女子
35.8
%で,性差がみられた(表1,p<.05).ある 女子の自由記述に興味深いことが書かれている.「先生 が男女差別をする」,「体育で,なんで男女で違うことを するのか,女子はできないと決めつけられている」,「高 校を決めるのに自分の意見を尊重してほしい」といった ものであった.男子が組み体操している横で女子がダン スをしている,このようなことはよく目にする光景であ る.体育の授業で男女異なった種目を行うことは,子ど もたちにジェンダーの再生産とともに不快感をもたらし ている.また,先の女子中学生の進学に対する自由記述 から,今回の調査対象校にも,進路における教師と生徒 の相互作用にみられる隠れたカリキュラムである「トラ ッキング」が存在している事実が確認できる.3.3.学校での性別役割分業
係りの仕事に男女差があるでは,「よくある」「たまに ある」と回答したものをあわせると男子
44.4
%,女子38.7
%であった(表1).給食の準備は女子のほうがやっているでは「よくある」
「 た ま に あ る 」 と 回 答 し た も の を 合 わ せ る と , 男 子
67.6%,女子 75.3
%であった.また掃除は女子のほうが やっているでは,さらに高い割合で「よくある」「たま にある」と回答しており,男子72.5%,女子85.5%であ った(表1).以上の3項目は統計的に有意な性差はなく,男女共の 共通認識として,学校内の仕事において性別役割分担の 実態が存在していることがわかる.このような性別分業 が生まれることからもわかるように,学校内の役割に対 して男子向き・女子向きといった意識を強くもっている 現状がうかがえる.
3.4.学校での性差意識
「委員長は男子がする方がよい」では,「そう思う」
「どちらかといえばそう思う」と回答したものを足すと,
男子36.9%,女子24.4%であり,性差がみられた(表 2,p<.05).「副委員長は女の子がする方がよい」で は,男子
33.7
%,女子24.3
%であり,これについて性差 はみられなかった.「家庭科は女子の教科だと思う」では,「そう思う」
「どちらかといえばそう思う」と回答したものを足すと,
男子で
53.9%,女子で 41.6
%であり,強い性差がみられ た(p<.001).家庭科は男女共修となったにも関わら ず,今なお約半数もの中学生に女性の教科という意識を 持ち続けられているのである.名簿の順番は男子が先でよいでは,「そう思う」と回 答したものは男子
34.8%,女子 27.1%,「そう思わない」
と回答したものは男子34.3%,女子26.5%であり,性差 がみられた(表2,p<.05).男子のほうが,女子に比 べ賛否がはっきりと分かれている.女子は,「どちらか といえば」という回答が男子にくらべ高くなっていた.
以上のことから,主導権をもつ役割は男性,補佐的な 役割は女性,家事的要素を含むものは女性といった社会 に見られるジェンダー意識が,学校教育の場においても 同様に意識されていることがわかる.このように,学校 においてジェンダー意識を抱くようになるには,社会に おけるジェンダーが反映されていることもひとつの要因 であるが,男女別の名簿の使用,教師の管理職および担 当教科の性比の偏り,教師からのジェンダー・バイアス の存在といった,ジェンダーを内包した学校の構造も影 響していると考えられる.
表2 学校での性差意識
3.5.性差観
2
.2
.4.の変数の指標化で示した性差観尺度を得点 化し加算したところ,最高値43点,最低値11点,平均 値26.37点(理論値11−44点)であった.図1に得点分 布を示す.図 1 性差観尺度得点分布
信頼係数はα=.7974であり,この尺度得点は信頼で きるものであった.性別にみると,男子は平均
27.02
点,女子は平均
25.66
点であり,t検定を行ったが統計的に有 意な性差は見られなかった.項目別の平均値は図2に示すとおりである.男女共に 似通った平均値となっている.平均値が高かった項目は,
男女共に「男性は仕事をして家族を支えなくてはならな い」,「男性はたくましく強くなくてはならない」,「男性 のほうが女性より頼りになる」などであった.
以上のことから,女性の対する家庭への期待よりも,
男性に対する職業や強さといったことへ対する期待が高 いことがわかる.
図 2 性差観尺度 項目別平均値
3.6.1.ジェンダーの実態・意識と性差観との関連 家庭・学校でのジェンダーの実態や意識が,彼らの抱 く性差観の形成にどのような影響を与えているか,その 関連をみた.
分析は,性別を媒介変数として,男女別に属性1項 目・家庭生活での実態5項目・学校での実態7項目・学
中学生が抱く家庭科に対する教科意識
187
図3 性差観への影響(パス解析)男子 表3 重回帰分析の結果 男子
中学生が抱く家庭科に対する教科意識
189
図4 性差観への影響(パス解析)女子 表4 重回帰分析の結果 女子
校での性差意識4項目・性差観尺度加算得点を用いたパ ス解析により行う.
まず,性差観を従属変数とし,属性・家庭生活での実 態・学校生活での実態・学校での性差意識のそれぞれの 項目を独立変数とした重回帰分析(分析1)により性差 観への直接影響をみる.次に,学校での性差意識項目そ れぞれを従属変数とし,属性・家庭生活での実態・学校 生活での実態のそれぞれの項目を独立変数とする重回帰 分析(分析2,3,4,5),家庭生活の実態項目それぞ れを従属変数とし,属性を独立変数とした重回帰分析
(分析6,7,8,9,
10)により性差観への間接影響をみ
てみた.結果は図3,図4,表3,表4に示すとおりで ある.男子では,性差観を直接強める要因は,「家庭科は女 子の教科だと思う」「委員長は男子がするほうがよい」
という学校における性差意識であった.この2項目に有 意な影響を与えている項目はなく,性差観に間接的に影 響する統計的に有意な要因はみられなかった(図3).
女子では,性差観を直接強める要因は「家庭科は女子 の教科だと思う」の学校での性差意識と「男は女に負け るなと言われる」という教師の言動であった.また,
「家庭科は女子の教科だと思う」という意識を強める要 因は「母親が就労していない」「掃除は女子のほうがよ くする」「男子のほうがよくあてられる」の3項目であ った.母親の就労,男子を優遇する教師の対応,学校内 での性別役割分業が性差観を間接的に強める有意な要因 となっていた(図4).
分析の参考として,A町の小学生調査においても同様 の分析を行ってみたところ,小学生のほうが中学生より,
複雑な影響がみられたが,性差観に直接強い影響を与え る要因は中学生と同様で,男子では「委員長は男子がす るほうがよい」,女子では「家庭科は女子の教科だと思 う」であった.
以上の結果より,学校における教師からのジェンダ ー・バイアスのかかった言動や性別役割分業は,子ども たちの学校での性差意識を強める要因,性差観を直接ま たは間接的に強める要因となることがわかった.学校に おけるジェンダーの再生産が実在することを証明したと いえる.また,本調査で特筆すべきことは性差観に最も 強い影響を与えるのが「家庭科は女子の教科だと思う」
という意識であることが判明したことである.このこと から,「家庭科は女子の教科だと思う」という意識を弱 め,さらには払拭していくことが大きな意味をもつこと は明らかである.
3.6.2.家庭科への注目
家庭科は男女平等教育の理念の下においても,女子の み履修の時期があった特異な教科であり,ジェンダーを
内包していた教科である.しかし,男女共修となった現 在においても「家庭科は女子の教科だと思う」という意 識が持たれ,その意識が性差観を強めていることが明ら かとなった.今なおジェンダーを内包した教科から脱却 できていないといえる.
女子のみ履修時代に家庭科が「女子の教科」という意 識をもたれるのは当然のことであるが,家庭科が男女共 修となった現在においても,なおその意識が持ち続けら れるのはどうしてなのだろうか.
パス解析の結果からは,中学校の女子では,「家庭科 は女子の教科だと思う」に影響を与える要因は「母親の 不就労」「掃除は女子のほうがよくする」「男子のほうが よくあてられる」であった.男子では影響がみられなか った.
母親が就労しているほうが「家庭科は女子の教科だと 思う」の意識が弱くなることから,家庭での性役割の影 響が家庭科イメージにも影響を与えていることがわか る.母親が専業主婦で家事を行っている家庭では,子ど もが抱く「女性は家事をする」という意識が強くなり,
教科内容に家事を含む家庭科にも女性イメージを抱くと 考えられる.
学校からの要因は,「掃除は女子のほうがよくする」
「男子のほうがよくあてられる」であった.学校内に存 在する性別役割分業と,教師の男子を優遇するジェンダ ー・バイアスが「家庭科は女子の教科だと思う」という 意識を強めていた.
今回,パス解析には含まなかったが,「家庭科は女子の 教科だと思う」という意識に影響を与える学校からの影 響がもう一点考えられる.それは家庭科を担当する教師 が女性に偏っていることである.今回の調査対象の中学 校と小学校は7校全てで家庭科の担当者が女性であった ため,家庭科を女性が教えることと,男性が教えること との比較ができなかったが,教師の性比の偏りは,子ど もの教科に対する性差イメージに影響を与えるとも考え られる.堀内(2001)は,家庭科において,女性の担当 者が大勢を占めていることで,子どもたちは実際に家庭 科の学習内容に接して学ぶ以前の段階で,すでに女性的 なイメージを抱くことになり,家庭科に対するジェンダ ー・バイアスを含んだ「教科へのパースペクティブ(展 望)」が子どもたちのなかに形成される可能性があると指 摘している.この堀内の見解からも,家庭科教師が女性 に偏っていることが,子どもたちに「家庭科は女子の教 科」という意識を生む要因になっていると推察される.
4.結論および今後の課題
学校は一般的に男女平等との認識が高いが,実際には,
教師から子どもたちに「男子は女子に負けるな」といっ
た発言や,男子をよくあてる・女子に甘くなるといった ジェンダー・バイアスがかけられていた.また,学校の 内部構造そのものにも様々な性差が存在し,子どもたち は性別で異なった役割を担っていた.
そうしたなかで,子どもたちは,教師から受けるジェ ンダー・バイアスや,学校内での性役割から受けるジェ ンダー・バイアスによって,学校における性差意識を生 み,結果として男性優位な固定的な二分法的性差意識を 高めることとなっていた.先行研究が指摘したように,
学校内で教師から子どもへジェンダーの再生産がおこな われていることを明らかにすることができたといえる.
そして,ジェンダーの再生産の構造分析のなかから,
「家庭科は女子の教科」という教科に対する性差意識が,
子どもたちの固定的な性差意識を強める要因となってい ることが明らかとなった.
以上の結果から,学校教育の場を,ジェンダーにとら われないで男女が対等に学べる場にするためには,教師 が固定的な二分法的な性差意識から脱却し,ジェンダ ー・ニュートラルな存在として教育を行うことが必要で ある.教育がいくら制度面で男女平等となったとして も,子どもに直に接するのは教師であり,教師が持つ影 響力が最も大きいのである.制度面での改革よりも,教 師一人一人の意識の改革が重要ではないだろうか.
また,家庭科が未だにジェンダーを内包した教科であ り,子どもたちの意識に強い影響を与えていることから,
家庭科に対する女性イメージをなくしていくことが大き な意味をもつことがわかった.家庭科への女性イメージ をなくしていくためには,女性により担われることが多 い家庭科教師という職業への男性の進出に意味があるの ではないだろうか.
付記 本稿は,平成17年1月提出の修士論文の第1部
「学校におけるジェンダーの再生産構造」の一部を書 き改め,再構成したものである.なお,「小・中学生 の性差観に関する研究 ─ 学校でのジェンダー文化と の関連において─」日本家政学会関西支部 第25回 研究発表会(
2003
)において,分析結果の一部を口頭 発表している.引用・参考文献
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伊藤公男(1993)『<男らしさ>のゆくえ』新曜社 伊藤公雄(
1996
)『男性学入門』作品社伊藤公雄・牟田和恵(1998)『ジェンダーで学ぶ社会学』世界 思社
伊藤良徳・大脇雅子・紙子達子・吉岡睦子(
1991
)『教科書の 中の男女差別』明石書店伊藤裕子「性差観スケール」山本眞理子編(2001)『心理測定 尺度集1』サイエンス社
井上輝子(1997)『女性学への招待』有斐閣
NPO法人SEAN(2004)
『だれもがありのままの自分で』(調査報告書)
江原由美子・井上輝子編(1999)『女性のデータブック』有斐 閣
家庭科の男女共修をすすめる会(
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)『家庭科,男子にも ─ 広がる共修への思い』ドメス出版亀田温子・舘かおる(
2000
)『学校をジェンダーフリーに』明 石書店小出寧(1998)『男と女の心理テスト』ナカニシヤ出版 笹原恵(
2003
)「男の子はいつも優先されている? ─ 学校の「かくれたカリキュラム」」天野正子・木村涼子編『ジェン ダーで学ぶ教育』世界思想社 88-101
鈴木敦子「平和主義的性役割態度スケール短縮版」山本眞理子 編(2001)『心理測定尺度集1』サイエンス社
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中学生が抱く家庭科に対する教科意識