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大石秀行1.はじめに

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(1)

国士舘大学地理学報告No.7(1998)

埼玉県外秩父山地大霧山斜面における夜間気温の特性と その発生頻度について

大石秀行

1.はじめに 低温になることを明らかにした。また、盆地 内の気温も一様ではなく、霜害時の被害程度 の分布とよく対応した気温分布であることが 分かった。

ミカン栽培の北限と言われる地域では、斜 面の温暖帯を有効に活用しているところで複 数の研究例が見られる。菊池(1975)は、埼 玉県西部の外秩父山麓及び栃木県南部のミカ ン栽培北限線と言われる地域で、自記温度計 と最低温度計を用いて観測を行い、山腹斜面 における気温の逆転と顕著な温暖帯の存在を 報告している。青島(1978)も、埼玉県寄居 町風布地区で斜面の温暖帯とミカン栽培との 関係について調査し、温暖帯が形成される地 域以外ではミカン栽培がまったく見られない ことを示した。また、青島(1980)は同様の 調査を茨城県筑波山周辺でも実施し、同様の 結果を得ている。埼玉県寄居町風布地区で20 日間の長期観測を行った山口(1987)は、斜 面の温暖帯とミカン農園との関係を確認し、

さらに農家を対象としたアンケート調査を実 施して、地域住民の温暖帯への認識について 調べている。

このように、斜面の温暖帯に関する調査研 究は進んではいるものの、関口(1966)が指 摘するように、その形成機構および出現位置、

出現頻度等の実態に関する情報は必ずしも明 確ではない。それは、過去に行われた調査の 多くが-日ないし二日間の短期観測であり、

長期にわたる観測報告が少ないことに起因す 斜面の温暖帯とは、斜面下の平地や谷底に、

夜間冷気がたまり、気温の逆転が生じる過程 で形成される気候現象である。逆転層上限付 近の比較的温暖な層が地表面と接する斜面の 中腹は、谷底と比べ比較的暖かい温暖帯を形 成する。この斜面の温暖帯は、冬の晴天無風 の夜間における放射冷却を通してもっともよ く発達し、特に谷底に霜が降りる場合には、

比較的温暖な環境としての意義が強調され る。

過去における気温の逆転現象の研究では、

高さ312mの電波塔で行った観測(当舎 1954)で、平野上空の自由大気中でも夜間に 7℃以上の逆転が認められ、地上150m層を 中心に温暖帯が形成されることが分かってい る。また、福島測候所(1957)でも、4月上 旬のゾンデ観測と山腹斜面の同時観測から、

盆地底より約150mを上限として気温の逆転 が確認され、気温逆転層の上限付近が山腹斜 面に接する付近に温暖帯が形成されることが 示されている。

このような斜面の温暖帯は、比較的温暖な 環境としての意義が強調され、霜害が多発す る地域での研究が進んでいる。菊池(1972)

は、晩霜害の常襲地域である宮城県南部の角 田盆地で、5月に夜間の気温調査を実施し、

晴天静穏な夜には、盆地内に冷気湖が形成さ れ、強い逆転が生じ、丘陵上部に比べかなり

-37-

(2)

る。そこで今回は、斜面の温暖帯及び気温の 逆転現象の実態を正確に把握することを目的 とし、冬と夏の延べ16日間の詳細な長期観 測を実施して、斜面における気温分布の特徴 を明らかにし、出現頻度を推定した。

側されている(菊池1975)。

今回の調査地である大霧山(標高7666m)

は外秩父山地の中程にあって、秩父市・東秩 父村・皆野町の境界に位置し、山の中腹から 上部にかけて秩父高原牧場が広がっている (図1,2)。なお、今回の調査では、地域気 象観測網(アメダス)の寄居および秩父測候 所のデータも利用したので、それらの位置を

2.調査地域の概要

埼玉県西部地区を南北に走る外秩父山地 は、2000,級の秩父連山と関東平野に挟まれ た標高1000m以下の高原状の山地で、この 山地内に位置する寄居町風布、同じく小林、

都幾川村大附などの地域で斜面の温暖帯が観

図1に示した。

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図1埼玉県西部地域と大霧山の位置

-38-

(3)

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観測時間は、各日とも、21:00,0:00,3:

Oq6:00の計4回で、一回の観測に要する 時間は東側斜面10分、西側斜面10分の計 20分である。この時間内での気温変化は小さ いと考え、時刻補正は行わなかった。観測条 件を均一にするため、自動車の速度は時速30 kmに保って観測を行った。

3.調査方法

この調査は2つの部分から構成されてい る。一つは移動観測による気温分布に関する 小気候学的調査であり、もう一つは観測で得 たデータと調査地域に近い2つの観測地(ア メダス地点)のデータを用いた出現頻度調査 である。

1)移動観測

観測は、斜面の温暖帯がもっともよく形成 されやすいと言われる(関口1975)冬の晴 れた夜を中心に、1997年2月20日~3月8

日にかけての14日間実施した。また、冬と の比較のために、夏の1997年8月19日~

21日にかけて2日間観測を行った。

観測は自動車による移動観測である。観測 を行う場所が街路灯などの照明の一切無い山 道であるため、事前に2日間の入念な予備調 査を実施し、使用したデジタル温度計(安立 計器株製)の取り付け位置の決定、観測コー スや観測地点の決定を行った。

車へ温度計を取り付けるに際し、河村 (1958)や山口(1987)を参考にしたが、最 終的には右後部座席の窓から50cmほど離れ た状態で、感温部が地上1.5mの高さになる ように設置することで、エンジンや車内の熱 の影響を避けることができた。

大霧山へ登る道は、東側に3本、西側に2 本の計5本あるが、冬季の道路凍結、積雪、

道幅などを考慮して①と④の観測コースに決 めた(図2)。観測地点は一回の観測にかか る所要時間を考慮し、東側斜面に10地点、

西側斜面に9地点、稜線上に2地点の計21 地点とした。各観測地点の間隔は、5地点(E

2)温暖帯の出現頻度調査

大霧山の移動観測で、気温の逆転や斜面の 温暖帯が出現した日としなかった日を分別 しそれぞれの観測日における寄居と秩父の アメダスデータを調べる。晴天・静穏な夜間 で、強い気温の逆転や温暖帯が出現した日に は、秩父盆地底では冷気湖が形成されている はずであるから、冷気湖の外にある寄居と冷 気湖の中にある秩父との気温差(寄居の方が 高温)は大きくなっているものと思われる。

この気温差と大霧山斜.面の気温の垂直分布 (あるいは逆転層の有無)との間に法則性があ るなら、今回の移動観測結果と寄居・秩父間 の気温差との関係から、過去の寄居・秩父の アメダス気温データを用いて、調査地域で発 生する温暖帯(あるいは逆転層)の頻度を推 定することができる。

今回は寒冬年の冬(1983年12月~1984 年2月)と暖冬年の冬(1988年12月~1989 年2月)を対象とし、それぞれの年における 斜面の温暖帯の発生頻度を推定し、比較した。

-39-

(4)

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図2大霧山の観測ルートと観測地点

4.結果 て、気温の逆転現象が存在していた。ここで

は、斜面の温暖帯(気温の逆転)が最もよく 発達した冬の例(図3)と夏の例(図4)を 示す。

図3は2月26日~27日の例であるが、西 側斜面の標高400m~450mにかけて明瞭な 温暖帯が見られる。W1とW6,W7との温 度差は真夜中から早朝にかけて大きく、谷で は氷点下で霜が降りているのに対し、中腹で 冬・夏のいずれの観測日も天気は晴天で

あったが、風については、寄居や秩父の風速 を指標にすると、観測日ごとにまた観測時間 ごとに違いがあった。

冬・夏共2月22日を唯一の例外としてい ずれも、一晩中あるいは特定の観測時間に谷 が低温となり中腹や尾根上でより高温となっ

-40-

(5)

夜間気温変に(2/26~2と27)

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西側斜面における、夜間気温度化(2/26~2ン27)

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天霧Ⅲ東側斜面・西側斜面における夜間気温変化と寄居・秩父アメダス地点の夜間気温

(1997隼2月26日~27日) ・風速変イピ

図3

-型1-

(6)

東側料面における、夜間包墾蜜化(8/20~8/21)

東側料面における、夜間包墾蜜化(8/20~8/21)

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西側斜面における丙夜間豆型変化(8ン20~8ン21)

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天霧山東側斜面・西側斜面におげる夜間気温変化と寄居・秩父アメダス地点の夜間気温・風速変イビ (1997隼8月20~21日)

図'4

-型2-

(7)

は氷点下になっていない。真夜中以降に急に 谷の気温が低下し、その後谷の気温は維持さ れている。中腹より高いところでは、早朝に 向かって気温は徐々に低下している。

一方、東側斜面では、21:00には谷が最も 高温で尾根に向かって気温は低下していた が、時間と共に徐々に谷が低温化し、中腹に 高温部が形成された。ただし、E7は局地的 に低温化しており、ここがフロストポケット のような場所であることを示している。東側 斜面では早朝の谷だけが氷点下となった。

このように、西側・東側斜面共に牧場付近 は気温の高い温暖帯に位置していることが分 かる。なお、この観測日の寄居と秩父の風速 を見ると、21:00からO:00に向かって減 少し、6:00までの間、風の弱い状態が続い ていたことが分かる。

図4は8月20日~21日の夏の例であるが、

西側斜面の標高400m~500m付近に温暖帯 が形成されている。温暖帯の標高は時間と共 に変化しているが、350m付近から急激に温 度が上がり、尾根上では幾分低下している。

東側斜面では、かなり地点間のばらつきが あるものの、やはり300m~400m付近と 520m付近に高温部が出現し、冬の観測と同 じく450mにポケット状に低温部が見られ る。

夏にも西側斜面には明瞭な温暖帯が形成さ れ、牧場は斜面の温暖帯に位置している。こ の日の風速は21:00にはかなり強かったが、

朝の6:00に向かって徐々に低下した。

5.考察

l)移動観測

移動観測の結果と寄居及び秩父のアメダス データを用いて、大霧山斜面における気温の 逆転現象と温暖帯の発達状態、さらにその時 間変化を概観すると次の通りとなる。

①晴天静穏な冬の夜は放射冷却が進むた め、強い気温の逆転が生じ、山腹斜面に 温暖帯が形成される。時間の経過と共に 気温の逆転は進み、6:00の観測におい て最も温暖帯が顕著となる場合が多い。

②秩父測候所において風速4m/sec以 上の風が吹く夜には、秩父盆地に冷気湖 は形成されにくく、従って大霧山斜面に おいても強い気温の逆転は形成されず、

温暖帯も発生しない。

③斜面下部や谷底に冷気湖が発生して、

気温の逆転に至るためには、放射冷却と 斜面の冷気流という二つの現象が必要 で、これらの要素は斜面の温暖帯形成に 不可欠と思われるが、風の影響を受けや すい。

④西側斜面と比べ、東側斜面では温暖帯 の形成が不明確な場合が多い。その理由 として秩父高原牧場の存在や斜面の起伏 が重要であると思われる。東側斜罎面を通 る道路①(図2)は、森林と牧場とが入 り乱れ、両者の境がはっきりしないのに 対し、西側斜面の道路④では、W5とW 6との間に森林と牧場の境があり、上部 はすべて牧場の草地となり開けている。

このことから、西側斜面上部では放射冷 却が進み、冷気の下降流も発達しやすい ものと考えられる。また、西側斜面の道

-43-

(8)

道路に沿って流れ下ってきた冷気が交わ る場所で、さらに地形的に冷気がせき止 められて貯水池のようになっている。

⑥夏の観測では、気温の逆転は小さく温暖 帯の上限高度も低い。冬には最低気温の 出現時間が6:00であったが、夏の6:

00にはすでに太陽は昇っており、直射日 光の影響を受けてしまい、最低気温の出 現時間は3:00頃となっていた。

路④は直線的でカーブが比較的少ないの に対し、東側斜面の道路①は小さなカー ブが多く、そこに小さな冷気湖がポケッ ト状に存在している。このため、東側斜 面の折れ線グラフは変化が激しく、温暖 帯が明確に現れない。

⑤斜面に形成される小冷気湖には二つの 種類がある。一つは直接の放射冷却によ るもので、E7地点がこれに当たる。E 7地点は周辺と比べやや窪地状になって おり、冷気が堆積しやすい。地形的に見 て、周囲からの冷気の流れ込みは考えら れない。もう一つは冷気流の流れ込みに よるもので、W5地点がこれに当たる。

ここは谷に沿って流れ下ってきた冷気と

2)出現頻度調査

大霧山斜面における移動観測の結果と寄居 および秩父のアメダスデータを比較したもの が表lである。この表から大霧山斜面で気温 の逆転と斜面の温暖帯が出現する気象条件と 表1大霧山の移動観測結果と寄居・秩父アメダス地点における気温・風速との関係

注)逆転の強弱:強、中、弱、無(逆転無し)

-44-

秩父の風速 寄居・秩父の気温差

(4m/s以上)

(2m/s以上

4m/s未満)

(2m/s未満)

0時頃から

0時頃から 一晩中ほとんど差が無い

(1.9℃以下) 2/21(無) 3/3(弱)

一晩中中程度の差がある (2.0度~2.9度)

2/23(中)

2/26(中)

2/27(中)

一晩中大きな差がある (3.0度以上)

2/24(強)

3/4(強)

差が次第に小さくなった

差が次第に大きくなった

①交差している

(はじめは秩父が高い)

3/2(中)

3/5(中)

3/6(中)

8/19(弱)

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②交差していない(はじめ から秩父が高い)

2/25(強)

2/28(強)

③0時頃から急に差が大き

くなった 2/22(弱)

(9)

そうでない気象条件とを分類することができ る。

秩父で風速2m/sec以上の日には、大霧 山に強い逆転が生じていないことが分かる。

また、寄居と秩父の温度差を見ると、一晩中 ほとんど差がない(2.0℃未満)場合や0時 頃から急に差が大きくなった場合にも、強い 逆転は生じていない。逆に、大霧山で気温の 逆転が強く出る日は、秩父の風速が2m/sec 未満であり、寄居と秩父の気温差が一晩中3.0

℃以上の場合、もしくは次第に差が大きくな り、6:00の段階で気温差が3.0℃以上にな る場合である。

これらのことから、大霧山に気温の逆転及 び温暖帯が出現する条件は、「寄居と秩父の気 温差が30℃以上で、秩父の夜間風速が20 m/sec未満」ということになるが、この条 件を寒冬年(1983年12月~1984年2月)

と暖冬年(1988年12月~1989年2月)に 当てはめて、どの位の頻度で温暖帯が発生す るかを調べた(図5)。

寒冬年には冬の3ケ月のうちの約80%の 日に気温の逆転と斜面の温暖帯が出現してい る。しかし暖冬年になると、気温の逆転と斜 面の温暖帯の出現日数は全日数の約半分

(53%)に減少する。

寒冬年(1983年)の12月には、寄居と秩 父の気温差が4℃以上あった日が22日 (71%)出現した。また、1984年1月にも同 じ条件の日が20日(645%)あり、そのう ち一晩中気温差が4℃以上の日が15日も あった。2月になると気温差4℃以上の日は 減少するが、代わって気温差3℃以上の日が 増加した。3ヶ月合計で、気温差4℃以上の 日数が50日(53.8%)もあったが、今回の

大霧山の移動観測期間中で、寄居と秩父の気 温差が4℃になった日は一度も出現しなかっ たことから考えても、寒冬年の数値がいかに 大きいものかが分かる。

一方、暖冬年(1988年)には、気温差が 4℃以上となった日数は12月に16日 (516%)あったものの、その後減少し、気温 差が3℃以上となった日数でも1989年1月 で48.4%であった。

以上のことから、寒冬年には気温の逆転と 斜面の温暖帯がより多くの頻度で、かつ明瞭 に発達すること、寒冬年・暖冬年共に12月 に発達のピークが見られ、その後減少するこ とが分かった。ただし、12月の発達のピーク は1983年と1988年の12月が偶然寒い月に 当たっただけのことかも知れず、今後の調査 で確認する必要がある。

-45-

(10)

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|寒冬の年における気温の逆転および斜面の温暖帯の発生頻度(198312~19842)

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19841月 合計:30

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Fig52

暖冬の年における気温の逆転および斜面の温暖帯の発生頻度(198812~19892)

198812月

合計:31 19891月

合計:31

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19892月

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③鰯:瀞蝋瀦八°C未満であり雛と秩父の温度差が一晩中

④□:葵熱辮ii灘蔽璽剛露と秩父の温度差が次第に

⑤図襄鶇:;IEllI連が2,パc以上、または寄居と秩父の温度差が30℃

図5寒冬年(1983年)、暖冬年(1988年)における冬季の気温逆転および斜面温暖帯の発生頻度

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参考文献

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河村武(1958):俊樹貢献級における自動車 による移動観測値に関する二三の問題、地 理学評論、31,15-21.

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参照

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