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雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告

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Academic year: 2021

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全文

(1)

分子軌道法によるLiF表面への水素吸着の計算

著者 松村 佳子

雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告

巻 1

ページ 21‑25

発行年 1978‑03‑25

その他のタイトル A Molecular Orbital Calculation of Hydrogen Adsorption on LiF Surface

URL http://hdl.handle.net/10105/4695

(2)

松村佳子(物理教室)

A Molecular Orbital Calculation of Hydrogen Adsorption on LiF Surface

Keiko Matsumura (Department of Physics)

Abstract

The object of this study is to explain the ionic crystal surface employing a cluster model with several atoms. In this report a molecular orbital (MO) approach to hydrogen adsorption on LiF(OOl) surface is examined. For the system(LiF)9/H, with 73 valence electrons, the unrestricted Hartree Fock(UHF) CNDO/2 calcula‑

tion is carried out.

The calculated results concerned the orientation of hydrogen on the surface, energy band spectra and charge distribution of valence electrons.

Key words:

ョCNDO/2 MO

LiF Surface

(I)研 究 目 的

固体内部の状態は詳しく研究されており教科書などでも説明されてきているが,固体表面の 状態や表面でおこる現象についてはまだ多くの問題が残されている。そこで,半無限個の原子 から成る園体表面を有限個の原子で近似的に表わして,表面でおこる現象の一つである分子(原 子)吸着のメカニズムを分子軌道法によるモデル計算によって調べてみることにした。この報 告では, LiF (OOi;面に水素が吸着する際の配向と電荷分布について述べる。

(Ⅱ)研 究 方 法

これまでに報告された論文のいくつかはイオン結晶や酸化物への水素吸着に関するものがあ

り① ③,金属表面への水素吸着の報告も多い④。吸着現象の計算ではイオン結晶表面を数個の原

子から成るIinear chainモデルで表わしている例もあるが①,表面を考える際に一次元モデル

では不十分であると思われるので,図1に示すような18個の原子から成るクラスター LiF),を

(3)

もって結晶表面を近似することにしたo最近接原子間距離は2.0131A"(実験値)に,吸着する 水素分子の原子間距離は0.742Ao(実験値)に固定して計算を進めた。

水素が吸着する場所は,表面の中心にあるLi‑1とF‑10との上を主に考えた。水素分子が 表面に近づくときの分子軸配向は,図1に示すように, Li‑1側では,分子軸が(I) 〔100〕

(X‑軸)に辛行:m 〔110〕 (E一軸)に平行;d 〔001〕 (Z‑軸)に平行な3つのモデ ルをとり F‑10側では,同様に(IV), (V), (VI)の3つのモデルを考えた。

実際の計算は,今考えている系をクラス タ‑を構成する18原子に水素分子または原 子を加えた20原子または19原子から成る巨 大分子と考えて, CNDO(complete neglect of differential overlap)法⑤を使って, 電子エネルギーおよび電荷分布を計算した。

これらの計算には,京都大学大型計算機 センターと,名古屋大学プラズマ研究所計 算センターの計算機を使用させていただい

>‑

(Ⅲ)結  果

(A)吸着点と配向

水素分子をZ一軸に沿って表面に近づけ るとき,モデルI ‑(C のそれぞれの 系について,全エネルギー(Et)を表面か ら分子の重心までの距離(Z)を変化させ て計算した結果を図2に示す。図からもわ かるようにZを変化させると,それぞれの モデルでエネルギー最小値(Etm)がみつ

かるが,そのうちで最も低いのはモデル(Ⅲ)

・m ‑ ‑,^f一二

I l 1

czI)

Fig.1 (LiF), cluster model for the(OOl) surface.

(水素分子が結晶軸〔110〕と分子軸を平行にし ているとき)に対するもので,そのときの表面からの距離(Z)は1.98A。である。その他のモ デルに対しても水素分子が, Z‑1.5‑2.OA‑の位置にあるときにエネルギーが最小になる。

Zをエネルギーが最小になる値に止めて,水素分子を表面に平行に, Ⅹ方向と E方向に少 し移動させてみると, (I)と(Ⅱ)とでは分子の重心がZ軸上にあるときにエネルギーは最低 になり(I)‑ CW)ではむしろ重心がZ軸上にあるときの方が高いエネルギー値を示す。こ れらのことから,水素分子がLiF表面に近づくときには, Li原子の上で表面と分子軸とが 平行になっている状態で吸着すると云える。

水素原子が中心にある原子Li‑1の上(モデル(D)とF‑10の近傍(Ⅷ)で表面に近づい た場合のZ変化に対するエネルギーカープも図2に示す.

この場合, (LiF).に水素分子が近づく系〔(LiF)9/H2〕と水素原子が近づく系〔(LiF),/H〕

とを比較するために,両方の系の電子数をそろえる必要があるので,次のような操作をして図

2を作製した。

(4)

水素分子が表面に近づくモデル(I)‑(W)に対しては, Et‑Et[(LiF),/H2]+Et[(LiF)9],

水素原子が近づくモデル(1), (1)に対しては, Et‑Et〔(LiF),/H〕×2

とし, Et‑Oは,水素分子が表面から遠くはなれたとき,つまり,今考えている巨大分子が2 つの系 LiF,とH2 とに分離したときのエネルギー値 ‑505. 8644a.u.に選ぶ。

モデル(Ⅶ)において系のエネルギーは Z‑1.90A。 (1 において Z‑1.23A‑ で 最小になる。この場合も Etm を与えるZ l=固定してX方向とf方向とに原子を少し 動かしてみると, (1)ではLi‑1の上に, (1) ではF‑10の近傍, e‑0.20A‑のところにエ ネルギ‑カーブの谷があることがわかったO

モデル(Ⅶ)の場合のEtmは(Ⅶ)の場 合よりも3.5eV低い。この差はFH分子 の結合エネルギーの実測値(6.lleV)とLiH 分子の結合エネルギーの実測値(2.52eV)

との差3.59eVに対応しており,実測値と 計算値とのよい一致がみられる。

(B)エネルギー固有債のスペクトル 今回の計算から得られたェネルギ‑バン ドスペクトルを図3に示す(A)は水素分子 と(LiF),クラスターのバンドスペクトル で, (B)は水素分子が LiF).クラスターに 吸着したときのバンドスペクトルを示し,

し0     乙      3.0     4X5

Z(A)

Fig.2 Et curves of H2 and two H atoms

(C)は(LiF,上でF‑10の近傍に水素原子を吸着させたときのエネルギーバンドを示している。

LiF),のエネルギーの最も低い空の分子軌道(lowestunoccupiedmolecularorbital;

LUMO)は‑6.09eVにあり,占有されている分子軌道の最も高いもの(highestoccupied molecularorbital;HOMO)は‑17.30eVのところにあるLUMOとHOMOの問のエネル

ギーのギャップは11.21eVになり,これは,Laramore等によって計算されたバンドギャップ r‑r l1511の11.27eV⑥,実測値の13.5eV⑥,⑦に近い値であるHOMOを含む27個のレベルは F(2p)によるもので,これらは3.2eVの幅をもつ価電帯を形成している。表面の隣接原子間 距離が大きくなると,エネルギーのギャップは少し小さくなる。

水素分子を(LiF).に吸着させることによって,佃電帯の下方‑26eVのところにH(1S)

によるレベル(4)ができ,バンドギャップはやや増大する。図中の(2),(3)のようを宿退した分子 軌道は水素分子の吸着により系の対称性がこわれて分かれてくるのがわかる。

水素原子をF‑10の近傍に吸着させた場合,Li(2S)とF(2S)の性格をもったレベル(5) ができ,このレベルに対するH(1S)の寄与は小さい(6)の分子軌道は,2P軌道の性格をも ったF‑10にひどく片よっておりH(1S)の成分は全然ないoレベル(7)はH(1S)軌道からの

寄与が大きく,F(2S)価電帯からはなれて存在するバンドの間にできるレベル(5),(6)と(7)は,

(5)

水素分子がLi‑1に近づくときには,価電 帯に近づくようにずれる。

(C)電荷分布

(LiF),と(LiF),/H,, (LiF),/Hの エネルギーが最低値になる位置における電 荷密度を表1に示す。表面に吸着した水素 はエレクトロンドナーになり,表面はアク セプターになっている。

表面のもつ空軌道の対称性をみると, I 軸に沿っていわゆる電子と結合しやすい手, nodeless density がのびている。このこ とは水素分子が表面に近づくとき,モデル (Ⅱ)が他のモデルよりも低いEtm をも つこととよく一致する。表面と水素分子の 配向は,ドナ‑とアクセプターとの関係に よって説明することができる⑧。

(Ⅳ)結論と今後の課題

LiF結晶表面を18原子で近似した今回の

ー20

> ‑30

qJ

gi ‑40

ヽl a>

C LJ

‑50

5)‑

x。臼巨 ∈∃ ∃占

(4)"  (6) 7)'

2)

3 蝣

(LIF). (a) ((3) (n)    (znt) D4h C2

(o)     (b)    (c)

計算結果によれば,図2で水素分子に対す

るエネルギーカーブ mと原子に対する   Fig.3 Energy eigenvalue spectra

カーブ(Ⅷ)とからわかるように,吸着の活性化エネルギーが負(‑2.08eV)になっている。

このことは金属表面への分子吸着の活性化エネルギーが正の値になることと大きくちがう点で ある。吸着の活性化エネルギーが負になるということから, LiF表面に近づいた水素分子は系 にエネルギーを与えることなしに,表面上のF原子のごく近くに原子として解離吸着するであ ろうという推論がこのモデル計算によってなされ得るだろう。

また,水素原子がLiFに吸着するときには遷移エネルギー6eVぐらいの光吸収または光放 射 optical transition)がおこるであろうということがバンドスペクトルから推察できる。

アルカリハライド中の格子間にある水素原子(U2センター)によって電荷移動をおこす状態 が生じてoptical bandができることが知られている。それらのmain bandはヨ‑化物では 3.6‑3.8eV,臭化物では4.4‑4.8eV,塩化物では5.0‑5.7eVになる。今回の計算による LiFの遷移エネルギーはフッ化物のバンド系列から外挿して得られるものと比較することがで

きる。

今後の課題としては,

① もっと大きなクラスターを使って,表面上の原子の中間に吸着する場合の計算, (彰 表面でおこる結晶格子の歪や水素分子の原子間距離を変化させることを含めた計算,

③ マーデルングポテンシャルを考慮した計算

などを通して,半無限個の原子から成る表面をどうすれば有限個の原子で近似してよりリアル

に表わすことができるか。そして吸着のメカニズムがどうなっているかを検討していきたい。

(6)

表1 The charge distribution of valence electrons which is calculated at the coordination with Etm for Models (II) and(H).

Atom No.   LiF Li‑1   。 0.927 F ‑2      7.243 Li‑3      0.650 F ̲       7.243 Li‑5      0.650 F ‑6      7.243 Li‑7      0.650 F ‑8      7.243 Li‑9      0.650 F ‑10     7.190 Li‑11    0.810 F ‑12     7.268 Li‑13     0.810 F ‑14     7.268 Li‑15     0.810 F ‑16     7.268 Li‑17     0.810 F ‑18     7.268

Model II z‑1.98A‑

1.009 7.273 0.663 7.273 0.665 7.273 0.663 7.273 0.665 7.189 0.817 7.272 0.817 7.272 0.817 7.272 0.817 7.272 0.847 0.847

Model (1

」‑0.2A‑, z‑1.23A‑

0.952 7.242 0.669 7,243 0.668 7.243 0.669 7.242 0.670 7.037 ー0.899 7.285 0.883 7.282 0.883 7.285 0.899 7.289

References

l. J.M.Andre, E.G.Derouane, J.G.Fripiat and D.P.Vercauteren, Theort. Chim. Acta (Berl.) 43 (1977) 239.

2. R.L.Burwell, J.R. and K.S.Stec, J.Colloid Interface Sci. 58(1977) 54.

3. N.Rapp and K.P.Lee, J.Mag.Res. 19(1975) 245.

4. E.g., D.E.Rllis, H.Adachi and F.W.Averill, Surface Sci. 58(1976) 497.

5. J.A.Pople and D.L.Beveridge, Approximate Molecular Orbital Theory (McGraw‑Hill, New York, 1970).

6. G.E.Laramore and A.C.Switendick, Phys. Rev. B7(1973) 3615.

7. L.J.Page and E.H.Hgsh, Phys. Rev. Bl(1970) 3472.

8. K.Fukui and H.Fujimoto, Bull. Chem. Soc. Japan 42(1969) 3399.

附記:この研究の一部は昭和52年度文部省特定研究(理科)補助金と教育工学センターからい

ただいた52年度研究費によるものである。ここに附記して,感謝の意を表する。

参照

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