( 生 物 圏 生 命 科 学 学 専 攻 長 福 崎 智 司
( 副 専 攻 長 吉 岡 基
学位論文審査の結果の要旨
冨 ⑩
専 攻 生物圏生命科学専攻 I 氏 名 I富 田 寿 男
審 査 委 員
論 文 題 目
(題目変更の有無)
@ ・ 無
主 査 教 授 田 丸 浩
⑮
副 査 教 授 苅 田 修 一
藩 )
副 査 教 授 木 村 哲 哉
⑮
Studies on biofuel production from agricultural wastes by using Clostridium cellulovorans (Clostridium cellulovoransを活用した農業系 残漆からのバイオ燃料生産に関する研究)
(論文審査の結果の要旨)
石 油 に 代 表 さ れ る 化 石 燃 料 か ら 得 ら れ る エ ネ ル ギ ー は 、 人 類 に 欠 く こ と の で き な い も の と な っ た。そこで、化石燃料から排出される二酸化炭素による地球温暖化問題から、カーボンニュートラ ルなバイオ燃料への転換が求められている。さらに、これまでのバイオ燃料はトウモロコシなどを 原料としたバイオエタノールが中心であったが、食糧と競合しない非可食バイオマスを原料とする 第二世代バイオ燃料研究が進められている。その一方で、 トウモロコシのような食糧と異なり、非 可食バイオマスの収穫・集荷の物流は確立されておらず、バイオ燃料プラントを稼動させるために は、原料の物流から構築しなければならないことも第二世代バイオ燃料普及の妨げになっている。
植物細胞壁はセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどから構成された強固な構造体を形成し ており、容易に分解・糖化することができず、非可食セルロース系バイオマス利用の課題の一つで ある。中温性嫌気性細菌Clostridiumcellulovoransは「セルロソーム」と呼ばれる酵素複合体を生 産することが特徴で、さらにノンセルロソーマルな酵素も分泌する。セルロソームとノンセルロソ ームな酵素の多様な組み合わせにより、高いセルロース・ヘミセルロース分解能力を有することで 知られている。そこで本研究では、バイオマスとして農業系残漆に着目した。すなわち、農業系残 演は非可食バイオマスであり、すでに一箇所に集荷される。バイオ燃料化のプロセスが確立できれ ばすぐに社会実装が可能で、第二世代バイオ燃料普及の起爆剤と成り得ると考えた。みかん果汁は 世界中でもっとも飲まれている果汁の一つで、みかん果汁工場では大量の皮と搾汁粕が発生する。
搾汁粕はセルロース系バイオマスで糖源を残存しており、有効なバイオ燃料の原料であるにもかか わらす、多くは産業廃棄物として処分されている。一方、柑橘類の皮はペルテノイド系油成分リモ ネンを含有し、リモネンは微生物への生育阻害が報告されており、酵母による残存糖のエタノール 発酵が行えない。 C. cellulovoransと同じ中温性嫌気性菌であるC. bei}erinckiiはIBE(イソプロ
氏 名 富 田 寿 男
パノーループタノールーエタノール)発酵菌として知られている。 C.beijerinckiiがリモネンを含む糖 液からブタノール発酵できれば、酵母では不可能であったみかん果汁残演からのバイオ燃料生産が可 能になる。そこで、グルコース2%(w/v)含むリモネン濃度oo.1%(v/v)の液体培地でC. beijerinckii を72時間培簑し、生成したアルコール濃度を測定した。その結果、リモネン濃度0.05%以下であれば
リモネン濃度0%と同等のアルコール生産が可能であった。パン酵母Saccharomycecerevisiaeを同様 のリモネン濃度で培養したところ、リモネン濃度0.02%以上ではリモネン濃度0%と比べてエタノール 生産が有意に低く、 C. beijerinckiiはリモネン含有に対して優れていた。さらに、残存糖だけでな く み か ん の 皮 や 絞 り 粕 も 糖 化 し て ア ル コ ー ル 発 酵 す る た め に 、 同 様 の リ モ ネ ン 濃 度 に お け るC. cellulovoransによるセルロース分解実験を行った。培養開始10日後にリモネン猿度0%において全糖 是の78%が減少したが、リモネン濃度0.01%以上では25%の減少と1/3程度しか分解が進まなかった。
しかし、その後も全糖緻は継続して減少し続け、 61日後にはリモネン濃度0.05%以下であれば全糖鼠 の約95%が分解され、リモネンによってC. cellulovoransのセルロース分解活性が失われることはな かった。この結果をもとに、市販の温州みかんをジューサーで絞り、皮と絞り粕のC. cellulovorans による分解を試みた。 16日間培養後、全糖量の86%が分解され、その培養上清にC. beijerinckiiを植 菌したところ、絞り粕乾燥重量に対するアルコール収率は0.046(g/g)であった。
上記のエタノールやブタノールなどの液体燃料はガソリン代替を目標としていたが、加工工場で消 費する天然ガスに代替するのであれば、バイオマスをバイオガスに変換することも一つの選択肢とな る。そこで、製糖工場から出される廃棄残澄であるシュガービートパルプ (SBP)からの糖化ーメタ ン発酵実験を行った。メタン発酵は一般に、メタン生成古細菌を含む微生物叢による複合系発酵プロ セスであり、そのメカニズムの詳細は解析が困難で不明な点が多くあった。そこで、次世代シーケン サを用いてメタン発酵菌叢の菌叢解析を行って、メタン生成古細菌Methanomicrobiaらの存在を明ら かにした。構成が明らかとなったメタン発酵菌叢とC. cellulovoransを組み合わせた複合微生物系を 用いて、バイオマス分解とガス生成を一つのタンクで同時進行させた。シュガービートパルプを基質 とした培地では、 11日間培義で全糖量の72%が減少し、バイオマス乾燥璽量収率38(ml/g)のメタンと 水素からなるバイオガス生成を実現した。以上、メタン発酵菌叢の変動を次世代シーケンサで解析す
ることによって、 C. cell ul ovoransに影響を与える微生物の存在とその要因を見出すことが可能とな った。
以上の研究成果は、国際誌「AMBExpress」において 2報の原著論文として公表されている。ま た、国内・国際学会等において上記に関連する研究成果を発表しており、その内容は国内外の研究者 から高い関心が寄せられている。したがって、本審査委員会では申請論文が当該学問分野において十 分な内容と新規性を有し、博士学位論文として適格であると全員一致で判断した。