はじめに
山梨県の中央道笹子トンネルの天井板崩落事故 の発生は,我が国の社会資本の「安全神話」を崩 壊させるとともに,我々に社会資本の維持補修の 重要性を認識させた。しかし,その重要性は認識 されながらも,老朽化への対策は万全とは必ずし もいえない状態である。
そこで本稿では,社会資本の老朽化対策に関す る我が国の現状を簡単に説明した上で,橋梁の問 題を例に,後述する長寿命化修繕計画の策定率が
全国市町村の中で最も低い埼玉県内市町村を取り 上げる。そして,計画策定率の低さの要因につい て検討し,取り組むべき政策について議論する。
作ることが優先されてきた社会資本
笹子トンネルの事故以降,様々なところで指摘 されるようになってきたことであるが,これまで 社会資本の維持管理は十分になされてこなかった。
図1は国土交通省所管の社会資本(道路,港湾,
空港,公共賃貸住宅,下水道,都市公園,治水,
海岸)の投資総額の推移を示したものである。こ 社会科学論集 第
140
号2013 . 11
特集寄稿
橋梁長寿命化修繕計画策定に関する分析
☆
埼玉県内市町村を事例に
☆宮 﨑 雅 人
☆ 本稿の作成にあたり,埼玉県県土整備部道路街路課の職員の方に質問にお答えいただいた。ここに記して謝意 を表したい。
25 . 0 20 . 0 15 . 0 10 . 0 5 . 0
0 . 0
19 65
年19 67
年19 69
年19 71
年19 73
年19 75
年19 77
年19 79
年19 81
年19 83
年19 85
年19 87
年19 89
年19 91
年19 93
年19 95
年19 97
年19 99
年20 01
年20 03
年20 05
年20 07
年20 09
年図
1
社会資本の投資総額の推移 出所:『平成21年度国土交通白書』■
維持管理費■
更新費■
災害復旧費■
新設費の図から読みとることができるように,これまで 社会資本に対する投資は新設費が大半を占めてお り,維持管理費のウエイトは投資総額の減少によっ て年々上昇しているものの,全体の1~2割程度 であった。1980年代後半には日本の貿易黒字が もたらす対外摩擦を緩和する内需拡大策として,
バブル崩壊後の1990年代には景気対策として公 共事業が行われたが,それらは新規建設事業が中 心であった。
さらに,維持補修の中身についても十分に検討 されてこなかった。たとえば,公共事業の代表例 である道路について言えば,道路法の第42条第 2項において「道路の維持又は修繕に関する技術 的基準その他必要な事項は,政令で定める」とさ れているにも関わらず,政令は定められていない。
政令が未制定であるため,「道路技術基準」(1962 年)が未制定の政令に代わるものとして運用され ており,これを補足するものとして,国の直轄道 路については「直轄維持修繕実施要領」(1958年,
1962年改正),その他の道路管理者については「道 路の維持修繕等管理要領」(1962年道路局長通達)
が定められている。これらの通達類の他に,日本 道路協会から維持修繕の統一的な技術指南書とし て「道路維持修繕要綱」(1966年,1978年改訂)
が出されている。このように,道路の維持修繕全 体に関する基準には特にまとまったものはなく,
これらと各種調査研究結果を参考にして運用して いるのが実態であるとされる(1)。
橋梁の予防保全型管理のための取り組み の現状
ここまで見てきたように,社会資本の維持補修 は重視されてこなかったものの,国土交通省は数 年前から社会資本の老朽化という問題を認識して おり,社会資本の多くを管理する地方自治体向け に2000年代後半から道路や下水道などの長寿命 化のための補助金制度を創設し,地方自治体が策 定する長寿命化修繕計画とその策定に要する費用 を補助するようになった(2)。この補助金制度は,
社会資本の損傷が深刻化してはじめて修繕を行う
事後保全型管理から損傷が深刻化する前に修繕を 行う予防保全型管理への転換を進め,ライフサイ クルコストの縮減と維持管理費用の平準化を図り,
社会資本を長寿命化させようというのが目的であっ た。
こうした補助金による誘導効果もあり,多くの 地方自治体が社会資本の点検と長寿命化修繕計画 の策定を行うようになりつつある。しかし,地方 自治体によって対応に差が見られることも事実で ある。
ここで,例として橋梁の問題について取り上げ,
より詳しく論じていきたい。先に社会資本の長寿 命化のための補助金制度について言及したが,国 土交通省は老朽化する橋梁の増大に対応するため,
2007年度に長寿命化修繕計画策定事業費補助制度 を創設し,地方自治体が橋梁に係る長寿命化修繕 計画とその策定に要する費用の2分の1を補助す ることとした(3)。また,長寿命化のための計画に 位置づけられた予防的な修繕およびその後の計画 的な架け替えのみを補助対象とすることとした。
国土交通省は「地方公共団体が長寿命化修繕計画 を策定することにより,従来の事後的な修繕およ び架替えから予防的な修繕及び計画的な架替えへ と円滑な政策転換を図る」と補助制度の要綱で謳っ ている。制度創設当初は15メートル以上の計画 策定のみを補助対象としたが,2008年度補正予 算から点検も補助対象とし,2009年度補正予算 からは15メートル未満の計画策定と点検も補助 対象とした。
表1は,都道府県別の橋梁長寿命化修繕計画策 定状況を示したものである。これらの表から読み とることができるように,都道府県レベルでは橋 梁の長寿命化修繕計画の策定率(=長寿命化修繕 計画の策定を行った橋梁の数/橋長15メートル 以上の管理橋梁の数)が高くなっている一方で,
市町村レベルでは都道府県によっては長寿命化修 繕計画の策定率が低くなっているところがある。
つまり,老朽化しつつある橋梁という社会資本に 対して,計画的に維持修繕を行うという形になっ ていないといえる。
非常に残念なことであるが,筆者の勤務先であ
る埼玉大学のある埼玉県の県内市町村の長寿命化 修繕計画の策定率は全国で最も低く,20%にも満 たないのが現状である。
埼玉の名誉のために述べておくが,埼玉県と県 内市町村がこれまで何の取り組みもしてこなかっ たのかいえば,必ずしもそうではない。埼玉県は 2009年度にNPO(社会資本アセットマネジメン トコンソーシアム)との協働によって,橋梁長寿 命化修繕計画策定と市町村における人材育成を行っ ており,取り組みだけみれば,先進的であるとす
らいえる。
この協働事業の具体的な方法としては,NPO が橋梁長寿命化修繕計画策定関連研修会を実施し,
電子掲示板とコールセンター(情報の提供と共有)
を開設する形で行った。この事業はNPO側から の働きかけで行われたものであり,埼玉県NPO 基金を活用した。この基金はNPOに対する活動 資金(上限150万円)を単年度のみ交付するもの である。この事業の総事業費は約190万円であり,
NPO基金からの補助金が150万円,NPOの自己 橋梁長寿命化修繕計画策定に関する分析
表
1
都道府県別の橋梁長寿命化修繕計画策定状況(平成24
年4
月現在)(単位:%)都道府県名 都道府県・政令市 市区町村 都道府県名 都道府県・政令市 市区町村
北 海 道
98 24
滋 賀 県100 21
青 森 県
100 44
京 都 府100 56
岩 手 県
100 72
大 阪 府100 33
宮 城 県
97 36
兵 庫 県73 47
秋 田 県
100 55
奈 良 県100 31
山 形 県
98 48
和歌山県100 56
福 島 県
100 60
鳥 取 県98 66
茨 城 県
98 25
島 根 県100 62
栃 木 県
100 73
岡 山 県100 77
群 馬 県
98 55
広 島 県98 75
埼 玉 県
100 17
山 口 県100 63
千 葉 県
100 27
徳 島 県99 72
東 京 都
96 66
香 川 県100 100
神奈川県
100 23
愛 媛 県100 77
山 梨 県
100 59
高 知 県100 31
長 野 県
100 52
福 岡 県100 33
新 潟 県
100 69
佐 賀 県98 55
富 山 県
100 41
長 崎 県91 98
石 川 県
92 67
熊 本 県95 73
岐 阜 県
100 54
大 分 県97 49
静 岡 県
100 40
宮 崎 県99 53
愛 知 県
93 36
鹿児島県100 50
三 重 県
96 51
沖 縄 県100 71
福 井 県
100 48
出所:国土交通省サイト(道路の予防保全の推進)
資金が40万円であった。ただし,NPO基金から の資金交付は単年度であるため,2009年度限り の事業となってしまった。その後,埼玉県の県土 整備部の職員の方に伺ったところ,県として,市 町村が自主的に進めることを前提に,
・施策推進のため,説明会等を通じて市町村職 員の意識改革,動機付け等を行い計画策定を 促す。
・技術習得のため講習会等を開催し,橋梁の基 礎知識の習得,点検方法や点検のポイントの 解説,修繕技術を紹介する。
・その他,市町村からの個別相談等があれば対 応する。
といった対応をしているようであるが,先にみた ように,長寿命化修繕計画の策定率は依然として 低いままである。
なぜ埼玉県内市町村の長寿命化修繕計画 策定率は低いのか
では,なぜ埼玉県内市町村の長寿命化修繕計画 の策定率は低いのであろうか。まず現状について 確認しておこう。表2は,2011年度末時点の埼 玉県内市町村における15メートル以上の橋梁の 長寿命化修繕計画策定率を示したものである。あ わせて橋梁数についても示している。
この表から読み取ることができるように,2011 年度末時点では長寿命化修繕計画を策定した市町 村の方が少数派であり,63市町村のうち8割を 超える市町村が計画を策定していない。計画策定 率の低さは橋梁数の多さによるものではないかと いうことで橋梁数についても示しているが,橋梁 数が多いほど計画策定率が下がるという傾向はみ られない。
長寿命化修繕計画の策定の流れの一つの例を図 2で示している。長寿命化修繕計画策定にまず必 要となるのは「資料整理・現況分析」であり,そ の一番目には「橋梁台帳,点検結果等の整理」が 挙げられている。この点について埼玉県内市町村 はどのような状況にあるのかを,「県内市町村道 路橋の維持管理状況アンケート調査結果」を手が
かりにみてみたい。
まず「橋梁台帳の整理」についてである。表3 は埼玉県内市町村の道路橋管理台帳の整備状況を 示したものである。この表から読み取ることがで きるように,7割弱の市町村が全ての道路橋につ いて管理台帳を整備している。しかし,そうした 市町村の管理台帳の状況について詳しくみると,
問題が浮かび上がってくる。表4は「全ての道路 橋を整備している」と回答した市町村の管理台帳 の状況を示したものである。「しっかり記載し管 理している」,「一部記載漏れがある(管理に支障 がない程度となっている)」のは半分に満たず,6 割弱が「記載漏れが多い(管理に使えないものが ある)」という状態である。したがって,表3に 示したデータとあわせて考えてみれば,全ての橋 梁についてきちんと管理台帳が整備されているの は全体の3割弱であり,7割強が長寿命化修繕計 画の策定に必要な台帳が十分に整備されていない 状態にある。
次に「点検結果の整理」についてである。表5 は埼玉県内市町村の道路橋点検の実施状況を示し たものである。この表から読み取ることができる ように,最も多いのは「パトロール程度の観察を 行っている」であり,次いで多いのが「あまり点 検していない」である。これらに「国(県経由)
の指示があったときに点検した」を加えると85
%となり,ほとんどの市町村で「点検結果の整理」
以前の状態にあるといえる。
したがって,長寿命化修繕計画の策定の流れで いうところの最初の段階である現状分析のために 必要なデータの未整備が計画策定率の低さの要因 の一つであるかもしれない。
こうしたデータの未整備という要因のほかに,
いくつかの他の要因が考えられる。表6は橋梁長 寿命化修繕計画策定上の課題,問題点は何かとい うこと示したものである。計画策定上の問題とし て挙げている中で最も多いのが「予算措置(庁内 の合意が得られない,今は財政的に厳しい等の理 由から)」である。次いで「人手が足りない」が 多く,「劣化予測システム(4)などよくわからない」,
「計画策定の手順がよくわからない」といった計
橋梁長寿命化修繕計画策定に関する分析
表
2
埼玉県内市町村における橋梁長寿命化修繕計画策定状況,管理橋梁数 市町村名 長寿命化修繕計画策定率(%)
管理橋梁数
(本) 市町村名 長寿命化修繕 計画策定率(%)
管理橋梁数
(本)
さいたま市
100 186
蓮 田 市0 19
川 越 市
0 74
坂 戸 市0 28
熊 谷 市
0 60
幸 手 市0 13
川 口 市
7 73
鶴 ヶ 島 市0 11
行 田 市
64 83
日 高 市0 24
秩 父 市
0 87
吉 川 市0 10
所 沢 市
0 31
ふじみ野市0 8
飯 能 市
0 88
伊 奈 町0 2
加 須 市
79 52
三 芳 町0 23
本 庄 市
90 93
毛 呂 山 町0 23
東 松 山 市
0 73
越 生 町0 12
春 日 部 市
100 18
滑 川 町0 27
狭 山 市
0 10
嵐 山 町0 23
羽 生 市
0 9
小 川 町0 41
鴻 巣 市
0 63
川 島 町0 20
深 谷 市
0 81
吉 見 町0 4
上 尾 市
0 22
鳩 山 町100 10
草 加 市
0 14
ときがわ町0 22
越 谷 市
98 42
横 瀬 町0 13
蕨 市
0 1
皆 野 町0 11
戸 田 市
0 16
長 瀞 町0 1
入 間 市
0 57
小 鹿 野 町31 65
朝 霞 市
0 20
東 秩 父 村0 13
志 木 市
86 7
美 里 町100 29
和 光 市
0 7
神 川 町100 8
新 座 市
0 17
上 里 町0 4
桶 川 市
0 9
寄 居 町0 23
久 喜 市
0 76
宮 代 町0 17
北 本 市
0 1
白 岡 町0 32
八 潮 市
0 5
杉 戸 町0 33
富 士 見 市
0 17
松 伏 町0 3
三 郷 市
0 46
出所:国土交通省サイト(道路の予防保全の推進)
図
2
橋梁長寿命化修繕計画策定の流れ(豊後大野市の例)出所:豊後大野市サイト(橋梁長寿命化修繕計画)
対象橋梁 橋梁長寿命化修繕計画策定(H23年度~H25年度)
525
橋525
橋525
橋学識経験者 等に対する 意見聴取 学識経験者 等に対する 意見聴取
資料整理・現況分析1
. 橋梁台帳,点検結果等の整理2
. 現状分析(統計分析等)・架設年分布及び老朽橋の割合
・構造諸元の内訳(橋種・橋長など)
・劣化傾向の分析(橋種別・部材別の損傷程度,劣化原因など)
基本方針の検討維持管理方針及び長寿命化修繕計画策定における基本方針について検討
・長寿命化修繕計画の目的の明確化
・修繕計画対象橋梁の選定
・健全度の把握及び日常的な維持管理に関する基本的な方針
・管理区分毎の点検及び修繕の基本方針等
・対策工法,費用算出方法等の設定における基本方針 等
修繕に関する検討基本方針を基に,既往の要対策橋梁の対策費及びライフサイクルコスト の算定に必要となる対策工法についで検討
・対象部材・損傷程度の設定
・劣化予測の検討
・対策工法の設定(部材・損傷に応じた工法及び対策費用算出方法)
・対策橋梁の必要対策費の算出
優先順位評価の検討・対策優先順位を決定
国提出資料,公開資料の作成 修繕計画リストの作成・修繕,架け替え時期及び点検時期等についての全体的な計画を作成
LCC算定及びコスト縮減効果の検証
・計画に基づく維持管理を行った場合の
LCCと従来の維持管理を行っ
た場合のLCCを比較,検証
H25
計画策定H24
計画策定H23
計画策定画策定に関わるテクニカルな問題を指摘する回答 が続く。
ただし,これらの回答のうち「今は財政的に厳 しい」と「人手が足りない」ということに関して は,埼玉県内市町村だけが直面している問題では なく,全国の市町村が直面している問題である。
それゆえ,これらは他都道府県内市町村と比較し た埼玉県内市町村における橋梁長寿命化修繕計画 の策定率の低さの要因とは必ずしもいえないよう
に思える。
また,「劣化予測システムなどよくわからない」,
「計画策定の手順がよくわからない」といった計 画策定に関わるテクニカルな問題に関しては,埼 玉県内市町村の土木関係の職員の能力や意欲が他 都道府県に比べて著しく低いということは考えに くい。それゆえ,これらも橋梁長寿命化修繕計画 の策定率の低さの要因とは必ずしもいえないよう に思える。
橋梁長寿命化修繕計画策定に関する分析
表
4「全ての道路橋を整備している」と回答した市町村の管理台帳の状況
項 目 回 答
しっかり記載し管理している
4
市町村(9
%)一部記載漏れがある(管理に支障がない程度となっている)
15
市町村(34%)記載漏れが多い(管理に使えないものがある)
25
市町村(57%)出所:表3に同じ。
表
5
道路橋点検の実施状況項 目 回 答
定期点検を実施している
10
市町村(15%)国(県経由)の指示があったときに点検した(災害後の緊急的なものを含む)
3
市町村(5
%)パトロール程度の観察を行っている
34
市町村(51%)あまり点検していない
19
市町村(29%)出所:表3に同じ。
表
3
管理台帳整備状況項 目 回 答
全ての道路橋について整備している
44
市町村(67%)一部の道路橋について整備している
14
市町村(21%)ほとんど整備していない
8
市町村(12%)出所:「県内市町村道路橋の維持管理状況アンケート調査結果」より作成。
表
6
計画策定上の課題,問題点(複数回答可)項 目 回 答
予算措置(庁内の合意が得られない,今は財政的に厳しい等の理由から)
46
市町村(39%)劣化予測システムなどよくわからない
18
市町村(15%)計画策定の手順がよくわからない
19
市町村(16%)人手が足りない
32
市町村(27%)その他
3
市町村(3
%)出所:表3に同じ。
したがって,「庁内の合意が得られない」とい う市町村の意思決定に関わる問題が橋梁長寿命化 修繕計画の策定率の低さの要因として指摘するこ とができると思われる。市町村として長寿命化修 繕計画を策定しようとする意思が欠如しているこ とが要因といえるのではないだろうか。他都道府 県内市町村も,「財政的に厳しい」し,「人手が足 りない」はずである。また,他都道府県内市町村 の職員も,はじめは「劣化予測システムなどよく わからない」,「計画策定の手順がよくわからない」
はずである。だとすれば,策定率の違いをもたら すのは,市町村の意思決定の問題であろう。
おわりに
本稿では,社会資本の老朽化対策に関する我が 国の現状を簡単に説明した上で,橋梁の問題を例 に,長寿命化修繕計画の策定率が全国市町村の中 で最も低い埼玉県内市町村を取り上げた。計画策 定率の低さの要因として,現状分析のために必要 なデータの未整備と,市町村として長寿命化修繕 計画を策定しようとする意思が欠如していること が要因ではないかと指摘した。もちろん筆者は仮 説を提示したにすぎないので,仮説の検証に必要 な埼玉県内市町村の情報を市町村職員の方々から いただきたいところである。
最後に,分析から一歩踏み込んで,取り組むべ き政策について述べたい。橋梁の損傷が著しくなっ てから対策を講じるのでは長期的にみればコスト はかえって高くなる可能性があるため,筆者は,
橋梁の長寿命化修繕計画が策定されないことは望 ましくないと考えている。では,市町村が計画的 な修繕を行わない,あるいは行うことができない 現状をどのようにして変えるのか。ここで期待し たいのが県の役割である。
奈良県では行政サービス維持のために,市町村 が実施すべき事務を県が支援する垂直補完を推進 しており,2012年度時点で15市町村の橋梁の定 期点検と23市町村の橋梁長寿命化修繕計画策定 を県が行っている。市町村は県が受託する橋梁点 検,長寿命化修繕計画策定の費用を負担する。事
業費は,橋梁点検についてはおおむね10万円以 下/橋,計画策定については,おおむね5~7万 円/橋となっており,市町村が独自で発注するよ りも県でまとめて発注する方が県の既存のシステ ムや委員会を活用できることから事業費の削減が 可能となっている。また,道路だけではなく,農 道・林道の橋梁に対しても台帳の整備,予防保全 型管理への転換について支援を行っている。
こうした事例を踏まえれば,長寿命化修繕計画 の策定率が著しく低い市町村に対して,埼玉県に よる垂直補完があってもよいのではないか。地方 自治法は,都道府県の役割について「その規模又 は性質において一般の市町村が処理することが適 当でないと認められるものを処理するものとする」
と定めており,補完機能は都道府県の役割である。
したがって,計画策定を行っていないという市町 村については,県が管理に関与していくことも必 要ではないだろうか。
(
1
) 小澤(2007),5759
ページ。(
2
) こうした個別の補助金は社会資本整備総合交付 金に統合され,さらに安倍政権下で「防災・安全 交付金」へと再編された。(
3
) 都道府県および政令市に対する補助は2011年 度まで,市町村に対する国の補助は2013年度ま での措置とされた。ただし,この補助金は2010 年度から地方自治体にとって自由度の高い社会資 本整備総合交付金に統合されたため,長寿命化修 繕計画を策定しなくとも交付金が交付されること となった。(
4
)「橋梁建設後の経過年数に応じてどの程度の健 全度に推移するか」を予測するためのシステムの こと。小澤隆(2007)「道路維持管理の現状と課題」『レファ レンス』No.
675 , 53 70
ページ国土交通省編(2010)『平成
21
年度国土交通白書』宮﨑雅人(2011)「高齢化する道路・橋梁――その崩 壊を防ぐために」井手英策編著『雇用連帯社会』
岩波書店
《注》
参考文献
国土交通省サイト(道路の予防保全の推進)
http: //www. ml i t. go. jp/road/si saku/yobohozen/
yobohozen. html
埼玉県サイト(橋りょうの維持管理)「県内市町村道
路橋の維持管理状況アンケート調査結果」
http: //www. pref. sai tama. l g. jp/upl oaded/attach ment/ 413698 . pdf
豊後大野市サイト(橋梁長寿命化修繕計画)
http: //www. bungo- ohno. j p/bungoohno_pl an/
kensetu/kyouryou_pl an. htm
橋梁長寿命化修繕計画策定に関する分析参考ホームページ