論文の内容の要旨
氏名:岡 本 真 一
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:自然免疫受容体TLR3を介した気道上皮バリア機能減弱化における基底細胞の役割の検討
気管支喘息(以下喘息)は気道の慢性炎症により, 可逆性の気道狭窄や気道過敏性をきたす疾患である. 気道には上皮細胞が存在し, 上皮細胞間にはTight junctionやAdheren junctionなどの細胞間バリア蛋白 が存在している. この上皮バリアはウイルスやアレルゲンなど環境因の子の侵入を防ぐ重要な生体防御機 構である. 喘息患者の上皮バリア機能は, 健常者と比較して脆弱であり, 喘息の病態形成にはこの上皮バ リア機能が重要な役割を担っている. 幼少期のウイルス感染が, その後の喘息発症を誘導する可能性を示 唆する報告もあり, 上皮バリア機能が形成される初期段階に脆弱化を決定する何らかの機序が存在するこ とが推測される. 気道にはバリアを形成する気道上皮細胞への分化能を有する基底細胞が存在しているが, 基底細胞へのウイルス感染が上皮バリア形成の初期段階におよぼす影響を詳細に検討した報告はない. 本 研究の目的は, 基底細胞に着目し, ウイルス感染による上皮バリアの脆弱化機序を解明し, 喘息病態形成 につながる分子病態を明らかにすることである. 分化前の正常ヒト気道上皮細胞(Normal Human Bronchial Epithelial cells:NHBEC)には基底細胞が存在することを確認した. この基底細胞に対するウイ ルス感染の産物であるdouble stranded RNA(合成dsRNA:polyI:C)による刺激が, 分化誘導後のバリア形 成の減弱を引き起こすことを証明した. 更に, 気道基底細胞株であるVA10を用い, NHBECと同様の分化 前のpolyI:C刺激が, 分化誘導後のバリア形成の減弱を誘導した. polyI:CはToll様受容体3(TLR3)のリ ガンドであり, TIR-domain-containing adapter-inducing interferon-β(TRIF)はそのアダプター蛋白とし て, シグナル伝達に関与している. 基底細胞へのpolyI:C刺激がTLR3/TRIF経路に関与しているか検討す るため, VA10にTLR3及びTRIF特異的siRNAを用いて遺伝子ノックダウンを行った後, 同様にpolyI:C 刺激することでバリア減弱が抑制されることを確認した. 次に, polyI:C刺激により上皮細胞から産生され ることが報告されているⅠ型Interferon(IFNα,β)のVA10 に対する刺激が, 上皮バリア形成に影響を 与えないことを確認した. 以上より, polyI:Cは基底細胞に作用し, TLR3/TRIF経路を介して気道上皮バリ ア形成を減弱させると考えられた. 更に polyI:CによるNHBECのバリア形成減弱の分子病態を解明する ために網羅的遺伝子解析を行った. polyI:C刺激により, 発現が亢進した上位10遺伝子の中には上皮間葉転 換, 及び炎症性サイトカイン関連遺伝子(TAGLN, TNFαIP3, CXCL8 など)を認めた. 基底細胞への
polyI:C 刺激が炎症性サイトカイン産生や上皮の分化異常を誘導し, 上皮バリアの減弱化を誘導する可能
性が推測された.
以上より, polyI:Cは気道上皮分化誘導前の基底細胞に作用し, 気道上皮バリア形成を減弱させると考え
られた. 基底細胞へのウイルス感染が, その後の上皮バリア形成を減弱させ, 喘息病態形成に関与する可 能性が示唆された.