人 文 論 叢 (三重 大 学) 第2 3号 2 0 0 6
グ リ ム童話と 『日本の昔ば な し』 の比較
‑ お礼 結 婚につ いて ‑
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o瓜e H il fe太 田 伸 広
要 旨: お礼 結 婚で は、 父親 ( 家) が、 娘 (あ るいは子、 グ リム童 話では父) の窮 状、 奇 病、 難 病 を 救っ てくれ た男 性に、 お礼と して娘を嫁と し て や る構 成に なっている。 『日本の昔ば な し』
では、 救 助者に お礼の品物と して与え ら れ る女 性に感 情や意 思、 人格が ないが、 グ リム童 話で は、
女 性に強 烈な意 志と感 情、 確 固と し た自分の考え が あ る。 次に、 お礼 結 婚では、 娘 をお礼の品物
の よ う に救 助 者にや る が、 そ う す る父 親に、 意 外にも、 余 り 家 父 長 的な態 度が見ら れ ない。 これ は 『日本の昔ば な し』にもグ リム童 話にも共 通し ている。 『日本の昔ば な し』 で は、 主 人 公が、
占い師や 呪術 師、 魔 術 師のよ う に、 尻 鳴 りや長い鼻な どの奇 病、 大 病、 難 病 を治し たり、 死者を 蘇ら せ たりして、 感 謝さ れ、 お礼に助け た長 者の娘をもらって出 世す る。 し かも、 それ を神 様が 後 押し す る。 これ は、 グ リム童 話で は ありえ ないし、 実 際グ リム童 話 全 体を見 渡し てもない。 こ こに、 独 特の民 俗 宗 教 を作 り上 げ てきた 日本の文 化と西 欧のキ リスト教 文 化の差が現わ れ ている のかも知れ ない。
は じ めに
グ リム童 話と『日本の昔ば な し』を お礼 結 婚に焦 点を当て て比較す る。 分 析の対 象は、 グ リム 童 話の場 合は、 1 8 5 7 年の決 定 版の K H M 2 0 0 篇、 2 0 3 話で、 日本の昔 話の場 合は、 関敬 吾 氏 編 集の 『日本の昔ば な し』 ( 岩 波 文 庫) 第Ⅰ、 第 Ⅱ、 第 Ⅲ 巻の 2 4 0 話であ る。
結 婚は、 そ の種 類と類 型の両 面か ら分 析す ることにす る。 種 類と は、 恋 愛 結 婚、 難 題 解 決 結 婚、 魔 法か らの解 放 結 婚、 政 略 結 婚、 等々であ る。 類 型であ る が、 異な る結 婚、 例え ば、 恋 愛 結 婚と難 題 解 決 結 婚であ っても、 王家 ( 殿 様 家) の男と 王家 ( 殿 様 家) の女の結 婚ということ では同じ型の結 婚であり、 そ れ を結 婚の類 型と呼ぶことにす る。 王家 ( 殿 様 家、 高 貴な身 分) の 男と 王家 ( 殿 様 家、 高 貴な身 分) の女の結 婚 を類型 1、 王家 ( 殿 様 家) の男と庶 民の女の結 婚 を類 型2、 庶 民の男と 王家 ( 殿 樵 家) の女の結 婚を類 型3、 庶 民 同士の結 婚を類型4、 神と神の 結 婚が類型5、 神と人 間 ( 女) の結 婚が類型6、 人 間 ( 男) と神の結 婚が類型7 等々と す る。
お礼 結 婚と は、 不 治の病を治してもらっ た り、 死ん だ娘を生き返ら せてもら った り、 借 金 苦 を助けてもらっ たりし た お礼に、 娘 をそ の恩 人にや る結 婚の ことであ る。
『日本の昔ば な し』 には、 お礼 結 婚は6 話、 6 組の結 婚が あ る が、 グ リム童 話には、 1 篇1 組し か ない。
これ か ら、 『日本の昔ば な し』 と グ リム童 話の お礼 結 婚 を 類型別に具 体 的に見て いくことに す る。
グ リム童 話の テ キス ト は、 B RO D E R G R I M M K i
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1 9 9 9 であ る。 参考にし た訳は、金田鬼 ‑ 氏の 『グ リム童 話 集』 ( 岩 波 書 店) であ る。
第1 章『日本の昔ば な し』 のお礼 結 婚
すで に述べたことであ る が、 『日本の昔ば な し』 には、 お礼 結 婚は6 話あ る。 6 話という と、
少ないよ う な印象を与え る かもし れ ないが、 『日本の昔ば な し』の結 婚の種 類の中では非 常に 多い。 第1 位の不 明の結 婚 (1 0 話、 1 0 組) を 除け ば、 第2 位に位 置す る。 ち な みに第1 位は7
話、 7組あ る 一 方 的 恋 愛 結 婚であ る。 『日本の昔ば な し』 は、 2 4 0 話あ る が、 結 婚が出てくる 話は3 8 話し か ない の で、 6話ということ は非 常に多いということにな る。 『日本の昔ば な し』
の場 合、 第1 位の不 明の結 婚、 第2 位の 一 方 的 恋 愛 結 婚、 第3 位のお礼 結 婚、 第4 位の家父長 的 結 婚 (5 話8 組) 、 第5 位の押し売り結 婚 (4 話4 組) の上位の 5 つの種 類の結 婚で、 3 2 話、
3 5 組にもなり、 全 体 ( 一 つの諸に 2 種 類の結 婚が出て き たりす るの で、 全 体は4 5 話、 4 9 組)
の約7 1 % を占め る。 そ れに、 2 話ずつあ る父の約 束 結 婚、 無 理 矢 理 ・ 略 奪 結 婚、 報 恩 結 婚、
恋 愛 結 婚が続き、 残 りは1 話ずつ し か ない。
第1 節 類 型3 のお礼 結 婚
第1 番 目は 『三人の兄 弟』であ る。
「 昔々、 う ん と昔、 あ る ところに兄 弟三人」 あっ た。 「 ‑ ば ん目の兄 は 一 郎 治、 二ば ん目が 二郎 治、 末 子は 三郎 治とい った」。 三人が大 き くなっ た とき、 「 父 っ つあ ん」 が「 今か ら 三年の あいだ暇を や っか ら、 三人で思いおもい に出世 をして帰っ て こう」 と言い、 「 小 判で五両ずっ の金 をや」 っ た。 二郎 治 も三郎 治 も 「 父 っ つあ ん、 そ んでは 三年の のちには必ず出世して帰 っ
てくっか ら、 体ば かり 気つ けて丈 夫で い てくれの」 と言っ た。 「 一 郎 治ば か り は何ともいわ な
い で」 いた。
三人は 「三つ辻」 のところで別れ、 「 一 郎 治は右の道を、 二郎 治は ま ん中の道 を, 三郎 治は 左の道を行 くことにし」 た。
一 郎 治は、 「 大き な沼」 のな かに、 「 雁が ‑ ばい降りて い」 たの で、 「 懐か ら小 判を出して、
ぶーん と ぶ ちつ け」 た。 金が無 くなっ たの で、 「 道ば たのお堂のな かに入っ て寝」 た。 し ば ら く する と、 「 一 郎 兄、
一 郎 兄」 と呼ぶものが あ るの で、 目 を 覚ま して見る と、 「お椀」 であっ た。
「お椀」 が、 兄は 「 銭一 文 も」 ないん だ か ら 「 己れ とい っ しょに仕 事を し」 よ う というの で、
それ を「 懐に入れて、 町の方
へ
出か けて い」 っ た。 「よく 寝し ず まっ て いる」 「 金 持の家」 に着 くと、 「 措 く ぐりの穴か ら お椀 を 家の な かへ
入れ」、 「お椀が中か ら戸を あ け」 た。一 郎 治は、
「 金だの、 いろいろ な 宝物だのを盗ん」 だ。 「 一 郎 治はこう して、 泥 棒の名 人になっ て し ま」 っ た。
「お と な し」 い 二郎 治は、 「心細 くな っ て、 早 く 人里の方
へ
行こう と思 っ」 た が、 人里に着 か ず、 夜にな って し ま っ た。 「がっ かりして道ば たの草の上に腰を か けて い」 た。 そ して 「 家の こと だの、 兄 弟の こと だのを考えて ぽ んやりして いる と、 尻の下で 『これこれ、 二郎 治や、
二郎 治や』 と呼ぶものが あ」 った。 「びっく りして尻の し たの あ た り を よく 見る と、 箆が 一 本
太田伸広 グ リム童 話と『日本の昔ば な し』の比 較‑ お礼 結 婚に
つ
いて‑お ちて い」 た。 「 箆」 は言う。 「 こ こか ら 一 里 ば か り は な れ た とこ の長 者どの のお姫さ ま が大 病
で」、 「 坊 主」 も 「 山伏」 も 「 医者」 も治せ ず、 病は 日々 「 重 く」 な って いる。 「お姫さ まの病 気を な お す」 のは簡 単だ。 「こ の己 を裏 返しに して、 ちょっ と お姫さ まのけつを なでま わ す と、 け ろっ と な お る」。 「 表でなでる と、 か え って悪 くな」 る。 「だ か ら な、 二郎 兄、 己を あ そこさ
つれて行って、 お姫さ まのけつをなで て見ろ」、 「 今日死ぬか、 あ す死ぬか という病 気だ か ら、 今な ら なでさ せ るで」。
二郎 治は「お と な しいか ら、 とにかくそ ん な大病 人が な お せ る な らこ のう え ない こと だ と思っ
て」、 「 箆 を懐に入れて長 者どの の家
へ
いき」、 「お姫さ まの病 気を な お して上 げま す という と」、「すぐにたのま れ」 た。 「二郎 治は し ば らく人ば らいを して、 お姫さ まの廻りに犀 風 をたてか け」、
「 懐か ら箆を出して、 お姫さ まのけつを そ ろっ と なで」 る と、 「け ろ り と治 って し ま」 っ た。
「 長 者の家では たいそ う喜んで、 二郎 治 をお姫さ まの命の親だ とい って、 下にもお か ないよ う にもて な し」 た。 「そ れ か ら と う と う、 お姫さ まの婿にし」 た。
三郎 治が行 った ところ は 「 山ば か りで、 そ のう ちに日も暮れて し ま った」 の で、 「 松の木の
だ いじゃ
下で」 「 休んで いる と」、 「 遠 くの方で草 をが さ が さ と な び か せ」、 「 大 蛇がぐでんぐでん とひ っ
く り返り な が ら や って釆」 た。 「こりゃ大 変だ と思っ て」、 木に の ぽる と、 大 蛇 も登ってきた。
三郎 治が 「ぶ る ぶ る ふ る えて い」 る と、 「 帯が ゆ る んで、 懐に入れておいた銭が」、 「 大 蛇の 口 の中
へ
、 ぽた ん と落ち た。」 「さ す がの大 蛇 も 喉がつ まっ て、 ぐるりと下の方へ
落ちて し ま」 っ た。 「そこを 殿さ ま が たくさ んの家 来 をつれて通 りか か」 った。 「 大 蛇が苦し んで いるのを 見て『これ は え らい、 今まで こ の大 蛇のた めに、 何 人の人が難 儀を し た か わ か ら ない、 いまこ の大 蛇を退 治に釆た ん だ。 お前が退 治してくれて助かった。 さ あ、 わ しのところに来る が よい』 と
い っ て、 三郎 治をつれて」 帰 り、 「 悪 者を退 治す る ( 侍の) 役 目 をお お せつ」 け た。
さて 「三年 目の秋が や って釆」 た。
一 郎 治は、 盗ん だ 「金は み ん な貧 乏 人にくれてやっ」 たの で、
一 文 無しであ った。 さて故 郷
へ
帰ろ う という だ んにな る と、 何 もない の で、 「お父 っつ あ ん」 の 「土産」 に 「 何かひと盗み」 し よ う と思い立っ た。二郎 治は、 「五百 両の土産の金を とりそ ろ えて、 故 郷に帰る 日をまっ て い」 た。
三郎 治の方では、 「 明日 は故 郷
へ
旅立つという 日に」、 「 長 者の家か ら 五百 両の大 金が、 ゆ うペ盗 人に ぬす ま れ た という訴え が あ」 っ た。 「 泥 棒」 をつか ま えてみ る と、 「 一 郎 治」 であ り、
訴 人は「二郎 治」 で あっ た。 「兄弟は胸がつ まっ て泣い て し ま」 っ た。
さて、 こ こ の 二郎 治と お姫さ まの結 婚であ る が、 長 者の家では、 「 箆」 でお姫さ まの難 病を な お し た二郎 治を「 命の親」 だ と言 って、 感 謝し、 「お姫さ まの婿に し」 たの であ る か ら、 こ の結婚は、 典 型 的な お礼 結 婚であ る。 た だ し、 お礼に娘 を嫁にや ったのは、 家であ る。 恐らく、 そ れを 決め たのは家 長の父 親であ ろ う が、 その様な叙 述は ない。
二郎 治は( 長 者の) お姫さ まに どのよ う な気 持ちを 抱い て いたの であ ろ う か。 二郎 治は、 お 姫さ まの病 気 を 治しに、 長 者の家に行 っ た が、 こ の場 合、 お姫さ まの病 気 を治し た者には お姫 様 を嫁にや る という取 り 決め が あっ た わ けでもなく、 し た が って、 ま た そのよ う な 立て札 もな かっ た。 だ か ら、 二郎 治は、 お姫さ ま との結 婚 を 意 図して、 長 者の家に出か けて行 っ たの では ない。 「お と な しく」 「 気立て の い い」 二郎 治は、 「とにかくそ ん な大 病 人が な お せ る な らこ の う え ない こと だ と思って」 行っ たの であ る。 お姫さ まの病 気 を治しに行け と言 っ た「 箆」 の方 もしゃ れて いる。 「い つもな ら お姫さ まのけつ な ど、 な か な か なでら れ るもんでね え が、 今日