加速する日本のカンボジア投資
タイの補完的拠点としての活用が高まる可能性
○ 日本企業は人件費が高騰する中国、タイからの生産移転先としてCLM(カンボジア、ラオス、ミャ ンマー)に注目するが、このうちカンボジアへの投資が他の2国に先行して拡大している。 ○ カンボジアへの投資が先行する理由として、ミャンマーなどに比べて、受け皿となる工業団地が既 にあること、外国投資法など法・制度面も整備されていることがあげられる。 ○ カンボジアにはタイ、ベトナムとの近接性を活かし、両国との生産分業体制で労働集約工程を担う 分工場的役割が期待されるが、そのためには電力などのインフラ整備、人材育成に取り組む必要。 1990年代初頭まで戦乱や内戦が続いたカンボジアは、内戦が終結した93年以後、先進国や国際機関 から支援を受けながら、経済開発に乗り出した。しかし、97年に大きな政変が発生するなど政情不安 が続いたことから経済開発は順調に進まず、カンボジアはアジアの発展から取り残されてきた。政情 が安定した2000年代に入ると、米国向け縫製品輸出の拡大などを追い風に高成長が続き、2010年まで の年平均成長率は8.0%と、ベトナム(7.2%)を上回るペースで発展を遂げた。さらに、中国やタイ など多くのアジア諸国で労働コストが上昇する中、一人当たりGDPが768ドル(2010年)のカンボジ アは低廉な労働力を提供できる生産拠点として、このところ日本企業の関心が急速に高まっている。 筆者は2012年2月、カンボジア・プノンペンを訪問、政府関係者及び現地日系企業などに、カンボジ アの投資環境及び将来性について聞き取り調査を行った。本稿は、現地調査の成果も踏まえ、日本企 業の投資先としてカンボジアをどう見たらよいか、論じたものである。1.拡大する日本企業のカンボジア投資
(1)2007 年以後、製造業を中心に進出が加速 カンボジアへの投資は従来、中国や韓国が積極的だっ た。国別の投資累計額(1994 年~2011 年 9 月)をみる と、最大は中国で88.7 億ドル、韓国がそれに次いで 40.3 億ドルである(図表1)。 中国は、水力発電建設や鉱物資源開発に多額の投資を 行ってきたほか、縫製・製靴業、観光業などへの進出も 多い。また、韓国からの投資は不動産開発やサービス業 アジア調査部主任研究員 苅込俊二 03-3591-1374 [email protected]アジア
2012 年 3 月 28 日みずほインサイト
図表 1 カンボジアの直接投資受入累計額 88.7 40.3 26.1 23.8 12.9 8.3 8.1 5.2 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 中国 韓国 マレーシア 英国 米国 台湾 ベトナム 日本 (億ドル) (注)1994年~2011年9月までの投資累計額。 (資料)カンボジア投資庁(CIB)、カンボジア経済特別区委員会(CSEZB)の進出が多い。特に、首都プノンペンの主要な不動産開発は地場資本と組んだ韓国資本によって行わ れている。 他方、日本の投資累計額は5.2億ドルと、中国の5.9%にすぎず、中国や韓国に比べると出遅れていた (国別順位11位)。しかし、ここ数年、日本企業のカンボジア進出は加速している(図表2)。2006年 まで合計14件にすぎなかった日本企業のカンボジア進出数は、2007年に大型不動産開発など4件、2008 年に7件と増加した後、2009年は世界金融危機の影響から3件に減ったが、2010年6件、2011年19件と 拡大した。2007年以後、5年間の進出数は39件にのぼる。また、同期間の投資額(2.9億ドル)は、1994 年以後2006年までの累計額(2.2億ドル)を上回る。 日本企業の投資の中心は製造業である。2007年以後、31社が製造業向け投資を行ったが、このうち 縫製・製靴業が18社と全体の約6割を占める。2010年後半以後、ミネベア(2,265万ドル)、住友電装 (1,800万ドル)など大型投資案件も出てきているが、縫製・製靴など軽工業が大半を占めるため、製 造業1件当たりの投資額は500万ドルにとどまる。 現在、カンボジアにおいて製造業の中心は縫製業であり、製造業従事者の約7割が縫製業関連である。 こうした縫製業の発展には中国などからの投資によるところが大きい。1996年以後、米国やEUから カンボジアに最恵国待遇が供与されたことを契機に、中国や香港など華僑系資本が地場資本(中国系 カンボジア人)と組んで工場を設立、Tシャツやジーンズなど低価格品を大量に生産、米国やEU向け に輸出を行ったからだ。その後、カンボジアの縫製業者はナイキ、アディダス、GAPなどブランド品 の加工も請け負うようになり、現在、カンボジアの輸出全体の8割以上が衣料・縫製品である(図表3)。 一方、「短納期、小ロット生産」という特徴を持つ日本向け縫製品の生産は従来、あまり行われてこな かった。しかし、日本企業の進出によって、最近ではユニクロの格安ジーンズがカンボジアで生産さ れるなど、日本向け輸出が拡大している。 図表2 日本のカンボジア向け投資 図表3 カンボジアの輸出(品目別内訳) 0 5,000 10,000 15,000 2000 02 04 06 08 10 (年) (万ドル) 0 5 10 15 20 (件) 不動産開発 農業・資源 製造業 件数( 右目盛) -5 10 15 20 25 30 35 40 45 1995 97 99 01 03 05 07 09 (年) (億ドル) その他 ゴム 木材・木製品 履物 衣料・縫製品 (資料)カンボジア開発評議会資料により作成。 (注)2000年まで衣料・縫製品と履物は合算されている。 (資料)UN, Comtrade Databaseなどにより作成。
(2)カンボジアは低廉な若年労働力を確保できる投資先 日本企業のカンボジア進出が加速した背景には、近年、人件費が高騰している中国やタイ、ベトナ ムなどで、工場労働者によるストライキや人材確保難が顕在化し、現地で生産を行ってきた日本企業 は新たな生産拠点を開拓する必要に迫られたことがある。こうした状況下、低廉な労働コストを提供 できるCLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)への注目が高まり、その一角であるカンボジアへの 進出が増加したとみられる。現地で取材した縫製関連の日本人経営者は、労働コスト上昇に伴い人材 確保が困難になった中国沿海部の拠点を閉鎖して、「カンボジアの発展がハッキリしてから進出したの ではもう遅い」と2010年にカンボジアに拠点を移した。 実際、中国、タイと比べてカンボジアの労働コストの低さは歴然としている。アジアの主要都市に おける労働コスト(一般ワーカー、年間負担額)をみると、プノンペンは中国の沿海部(深圳、上海)、 タイ・バンコクに比べて格段に安い(図表4)。現地日系企業は、縫製業の最低賃金(月額61ドル)を 基本給のベースとし、これに通勤手当などの付加給付を加算し、賃金を決定している。実務経験が3 年程度の一般ワーカーの場合、残業代を含めて現在、月額80~100ドルといわれる1(図表5)。 また、カンボジアの人口は1,400万人と隣国のタイ(6,400万人)やベトナム(8,800万人)と比べて 少ないが、人口は毎年1.6%増加している。人口構成をみると、ポル・ポト期の影響から30~35歳人口 が極端に少ないが、20歳未満が人口全体の46%を占めており、若年層に厚みがある。労働力人口は880 万人で、このうち6割(約500万人)が農業に従事する一方、製造業は5.7%(約50万人)である。若年 労働力は毎年20万人程度、新規に参入してくる。農村部の余剰労働力を製造業部門のワーカーとして 活用することで、安価な労働力というメリットは当面、享受できそうだ。 図表4 労働コスト(一般ワーカーの年間負担額) 図表5 一般ワーカー月額賃金(モデルケース) 1,015 629 1,816 1,891 1,733 5,125 3,897 3,451 3,247 5,615 4,265 5,609 1,504 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 上海 深圳 マレーシア・KL ジャカルタ バタム島 フィリピン・マニラ タイ・バンコク ハノイ ホーチミン ダナン ミャンマー・ヤンゴン バングラディシュ・ダッカ カンボジア・プノンペン (ドル) 中国 ベトナム インドネシア (注)基本給、諸手当、残業代に社会保障、賞与などを含む。 (資料)JETRO「アジア・オセアニア主要都市/地域の投資関 連コスト比較(2011年4月)」により作成。 (注)実務経験3年程度の一般ワーカー。試用期間(3カ月) 中の最低賃金は56ドル。 (資料)カンボジア開発評議会資料により作成。 最低賃金 61 ドル 付加給付 通勤手当 7ドル 年功手当 2 ドル 皆勤手当 7ドル 健康手当 5ドル 残業手当 10~20 ドル 合計 80~100 ドル
2.投資先としてカンボジアがミャンマーに先行する理由
カンボジアに進出するメリットは低廉な労 働力を活用できることだが、こうしたメリッ トはミャンマーやラオスも同様に享受できる はずだ。しかし、現状、カンボジア向けの投 資は他の2 国に大きく先行している(図表 6)。 また、日本人商工会の会員企業数でみても、 カンボジアは2007 年に 35 社だったが 2011 年に83 社まで増加、2012 年に 100 社を超え るとみられている。これに対して、2011 年末 時点でミャンマーは51 社、ラオスは 32 社に とどまる。 たしかに、ラオスは人口が700 万人に満た ず、労働力供給の点で見劣る。しかし、ミャ ンマーは6,000 万人の人口を有し、労働力が豊富な上、カンボジアと同様、若年層も多い。しかも、 現時点で一般ワーカーの労働コストをみると(前掲図表5)、ヤンゴン(ミャンマー)はプノンペンの 半分以下の水準だ。カンボジアが投資先としてミャンマーに先行する理由は何だろうか。 (1)進出した際の受け皿(工業団地)が既にある まず、カンボジアに進出する際、受け皿となる経済特区(工業団地)が既に用意されていることが あげられる。カンボジアには現在、22の経済特区が認可されているが、稼動あるいは入居が可能なの は7カ所である(図表7)。今回、筆者が訪問したプノンペン経済特区(Phnom Penh Special Economic Zone)は、プノンペ ン市内から西に18Km(自動車で約45分)に位置する。プノンペン国際空港からは8Km、プノンペン 港まで15kmと物流上の便は良く、国際港であるシアヌークビル港までの輸送は、国道4号線(完全舗 装、片側1車線)を使って230km(自動車で4時間)である。 日系デベロッパーが資本参加するプノンペン経済特区は総面積360haであり、第1期(141ha)の造 成が完了し、2008年から入居が始まった。2012年1月時点で30社が入居しており、このうち15社が日 系企業である。縫製、製靴業のみならず、ヤマハ、味の素、ミネベアなどの大手企業が進出、操業を 開始している。プノンペン経済特区内には、浄水施設、下水処理施設、通信施設のほか、13メガワッ ト/時の能力を持つ自家発電も備えている。また、投資申請、輸出入申請、通関手続き、原産地証明書 発行、労働許可申請等を工場内で処理できる(ワン・ストップ・サービス)など利便性も高い。 ところで、経済特区の立地場所をみると、プノンペン経済特区のように内陸部中心地に位置するの はむしろ稀で、その多くはタイやベトナムとの国境エリアにある。たとえば、ベトナムとの国境手前 にあるマンハッタン経済特区は台湾資本により開発され、2005年から入居が始まった。現在の総面積 図表 6 日本の CLM 向け直接投資 0 5000 10000 15000 20000 2005 06 07 08 09 10 11 (年) (万ドル) カンボジア ミャンマー ラオス 45,000 40,150 (注)ミャンマー、ラオスは年度(ミャンマ:4月~翌年3月、ラオス:10月~翌年9月)。 2006年のラオスは、発電所建設投資(4億ドル)により額が大きくなっている。 ミャンマーには2008年度376万ドル、2010年度に714万ドルの投資が行われた。 (資料)各国投資委員会資料などをもとにみずほ総合研究所作成。
は125haだが、今後拡張が計画されている。入居企業は20社(2012年1月時点)で日系企業も1社入居 している。ホーチミン港にベトナム国道(22号線)を使って86kmの距離にある。電力はベトナムから 公共送電網を通じて網供給されており、国内より安い電気料金が利用できる。また、タイセン経済特 区もベトナム国境に近く、ベトナムのインフラを活用できることを利点に造成された。入居企業9社の うち、紳士服縫製、手袋メーカーなど日系企業6社が入居している。 図表7 カンボジアの経済特区 (注)経済特区は22の認可がなされているが、稼働中あるいは入居可能な特区のみ掲載。2012年1月時点。 ビジネスコストの項目:①借地料、②電気料金、③水道料、④下水処理費用 (資料)カンボジア開発評議会、JETRO資料などにより作成。 タイセン経済特別区(地場資本) 総面積:125ha 入居企業数:9 社、日系6 社 アクセス:ホーチミン港までベトナム国道 22 号線で 86km。プノンペン市までカンボジア国道1号線で160 km 電力:公共送電線でベトナムから供給、 給水:井戸を掘って対応 ビジネスコスト ①22 ドル/m2 ②0.1265 ドル/kwh ③なし ④なし マンハッタン経済特別区(台湾資本) 総面積:125ha 入居企業数:20 社、日系企業1 社 アクセス:ベトナム国境から 6km。ホーチミン港まで ベトナム国道22 号線で 86km。プノンペン市までカン ボジア国道1 号線で160km 電力:ベトナムから公共送電線を通じて供給 ビジネスコスト: ①25 ドル/m2 99 年リース) ②0.1265 ドル/kwh ③0.15 ドル/m3 ④0.25 ドル/m3 プノンペン経済特別区 (地場資本、日系出資) 総面積:360ha 入居企業数:30 社、日系企業15 社 アクセス:プノンペン国際空港から 8km。プノンペン 中心部から18km。シアヌークビル港まで230km。 電力:公共送電線から供給。自家発電設備(13MW)。 給水:最大供給能力5,300m3/日。 排水:最大処理能力4,500m3/日。 ビジネスコスト: ①55 ドル/m2 99 年リース ②0.193 ドル/kwh ③0.3 ドル/m3 ④0.26 ドル/m3 ポイペト経済特別区(地場資本) 総面積:230ha 入居企業数:1 社 アクセス:タイ国境から 10km。バンコクまで 306km。 レムチャバン港まで 250km。プノンペンから 410km。 電力:タイから公共送電線を通じて供給。 給水:なし。排水:なし。 ビジネスコスト: ①33 ドル/m2 70 年リース②0.12 ドル/kwh ③0.35 ドル/m3 ④なし コッコン経済特別区(地場資本) 総面積:340ha 入居企業数:3 社、日系1 社 アクセス:バンコクから 470km。プノンペンから 297km。レムチャバン港まで 370km。シアヌークビル 港まで 233km。 電力:タイから公共送電線で供給。 給水:最大供給能力5,000m3/日。 排水:なし ビジネスコスト: ①40 ドル/m2 99 年リース ②6.5 バーツ/kwh ③18 バーツ/m3 ④チャージなし シハヌークビル経済特別区(中国資本) 総面積:11ha 入居企業数:22 社、日系1社 アクセス:シハヌークビル港から 12km。プノンペン から 210km。 電力:公共送電線から供給。自家発電設備(2MW)。 給水:開発予定。 排水:開発予定。 ビジネスコスト: ①28 ドル/m2 50 年リース②0.25 ドル/kwh ③0.15 ドル/m3 ④なし シハヌークビル港経済特別区(地場資本) 総面積:70ha 2012 年から入居可能 アクセス:シハヌークビル港に隣接。プノンペンから 230km。 電力:カンボジア電力公社から買電。構内受配電設備 は自営。 給水:地下水2,000m3/日。 排水:集中処理設備2,000m3/日。 ビジネスコスト: ①65 ドル/m2 50 年リース②未定 ③0.3 ドル/m3 ④0.35 ドル/m3
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タイ国境沿いの沿岸部に位置するコッコン経済特区は、総面積340haの広大な経済特区である。自 動車の積み出し港であるタイのレムチャバン港まで370km、シハヌークビル港まで233kmの距離にあ る。現在、地場企業と合弁会社を設立した韓国・現代自動車が、タイの東部臨海工業地帯から同経済 特区に部品を持ち込み、カンボジア初となる乗用車の組立工場を稼働させている(2011年の生産台数 は300台、目標生産台数は1,000台)。 今後、日本企業の本格的な進出が期待されるのはシハヌークビル港経済特区だ。シアヌークビル港 は元々、天然の良港として古くから利用されてきた港で、カンボジアではてプノンペン港と並ぶ重要 な物流拠点である。1999年以後、日本のODAによって港の近代化が順次図られ、岸壁延長160m、水 深11.5m、ガントリー・クレーン2基を備えたコンテナ埠頭が完成し、物流移動の大幅な効率化、高速 化が可能となった。シアヌークビル港経済特区は、こうした大型の国際港に隣接する地域(総面積 70ha)に日本のODAによって造成されたものであり、2011年12月に完成した。2012年から入居が可 能となっており、国際港を活用する輸出指向型業種の進出が期待されている。 このようにカンボジアには外国企業が入居できる工業団地が既に複数ある。一方、ミャンマーには 現在27か所の工業団地があるといわれるが、外資系企業が入居できる環境が整っているのはヤンゴン 市近郊にあるミンガラドン工業団地だけである。そのミンガラドン工業団地においても、電力供給の 不足から停電が頻発しており、自家発電設備は不可欠な状況だ。また、脆弱なインフラに起因して通 信費などビジネスコストが周辺国よりも総じて高い。 (2)外資に対する制度的制約が少なく、進出上の恩典も厚い カンボジアは外資規制が少なく、外資誘致に積極的である点も日本企業進出のフォロー要因となっ ている。 カンボジアでは、「2003年改正投資法」をもとに投資制度が定められているが、外国人の土地所有が 禁止されている以外に、外資への制限は見当たらない。実際、一部事業を除き外資100%での法人設立 が認められている。 また、外国人の土地所有は禁止だが、99年の長期の土地賃借が可能だ(図表8)。さらに、製品価格・ サービス料金を任意に設定できることが保証され、外貨送金も自由であるなど、外資に対し極めて開 放的である。また、外国企業が直接投資を行う場合、カンボジア開発評議会から「適格投資プロジェ クト(QIPs)」の承認を得ることで、最長9年間の法人税免除や原材料、機械、設備の輸入関税免除、付 加価値税免除などの恩典を享受できる。 これに対し、ミャンマーも投資環境の整備に取り組み始めている。2011年1月、外国企業が進出する 上での経済特区(工業団地)設立に関する法律が制定されたほか、外国投資法の改正が現在、国会で 審議されている。しかしながら、ミャンマーの法律、制度は主として1960年代に制定されたものがそ のまま現在まで適用されているため、現実にそぐわないものが少なくない。このため、正式な法律と して制定、施行されるには時間を要するものとみられる。また、ミャンマーでは、政府が定める公定 為替レートと市場の実勢レートが130倍も乖離している二重為替レート問題が解消されていない上2、 外国への外貨送金に厳しい制限が課されるなど、ビジネス上の障害は依然として多い。
図表8 カンボジア、ミャンマー、ラオスの外資規制・投資奨励策 カンボジア ミャンマー ラオス 投資優遇措置 ・適格投資プロジェクトと承認 されれば、最長 9 年間の法 人税を免除。 ・事業の種類に応じ、生産設 備、原材料などの輸入関 税を免除 ・ミャンマー投資委員会の認 可を受けた投資案件は、 事業開始から 3 年間、法人 所得税、原材料などの輸 入関税を免除。 ・創業時の機械設備、原材料 などの輸入関税を減免。 ・事業所得税免除期間が地 域により 1~10 年。さらに、 そ の 後 は 事 業 所 得 税 を 20%減免。 ・生産設備、原材料、輸出の ための半製品について輸 入関税免除。 外国人による土地所有 ・外国人、外国法人は賃借の み認められる。 ・経済特区内では 99 年間の リースが認められており、更 新も可能。 ・外国人、外国法人は土地所 有不可。すべての土地は国 有地であり、10~30 年のリ ース形態での取引が可能。 ・登録資本金 50 万ドル以上 の外国投資家に土地の利 用 権 が 認 め ら れ る 。 た だ し、土地利用権は国有地 に限る。 為替管理・対外送金等 ・外国通貨による国内取引行 為は原則、禁止されている が、国内決済通貨としては 事実上米ドルが使用され ている ・輸入代金、元金・利息、ロイ ヤリティの支払い、利益送 金が自由(ただし、1 万ドル 以上の送金は、国立銀行 への届出が必要)。 ・多重為替制度で、公定為替 レーと実勢レートの間に大 きな乖離あり。 ・外貨口座からの引き出しは 1 回上限 2 万ドル。 ・外貨(米ドル)での収入は、 原則、外国送金が可能と なっているが、当局の許可 が必要な上、承認に時間 かかる。 ・貿易関連以外の対外送金 には厳しい制限あり。 ・外国通 貨によ る国内 取引 は、別途、外貨口座を開設 することにより可能。市中 ではタイ・バーツと米ドル が流通している。 ・利益あるいは資本を本国も しくは第三国に、国内銀行 を経由すれば金額の制限 なく送金が可能。 法人税 ・法人税率:20%、課税所得 の有無に関わらず、最低 税額として、年間総売上高 の1%が課せられる。 ・法人税率:30%。外国法人 はミャンマー源泉所得に対 し、35%もしくは累進税率 で計算した税額の大きい 方を適用。 ・法人税率:35%。最低税率 は製造業の場合、売上高 に 0,25%、販売・サービス の場合は収入額の1%。 源泉徴収税 ・サービス料、ロイヤリティは 15%。非居住者に対する 支払いは一律 14%。 ・居住者に対する支払いは、 利子、ロイヤリティ 15%。 ・居住者、非居住者の区別な く、配当 10%。利子 10%、 ロイヤリティ 5%。 付加価値税 10% 商業税(付加価値税に類似) が輸出入に課される。商業税 の税率は 3~200%。 10% (資料)JETRO(2012)をもとに作成。
3.カンボジア拠点の将来像:タイ、ベトナムの補完的生産拠点としての活用に期待
(1)ミャンマーの投資環境整備の進展で、カンボジアの先行メリットがなくなる可能性 カンボジアと比べて、ミャンマーの投資環境の整備は遅れており、この点がカンボジアへの投資が ミャンマーに先行している最大の理由と考えられる。 しかし、2011年3月に民政移管したミャンマーは外資を積極的に誘致する対外開放策に舵を切り、急 ピッチで投資環境の整備を進めている。また、民主化を進めることで欧米諸国との関係を改善させて おり、発展の大きな障害となってきた経済制裁の解除も秒読み段階に入ったといわれる。ミャンマーは軍事政権下で発展が遅れたが故に一人当たりGDPが470ドル(2009年)とカンボジア を大きく下回る。6,000万人の人口を有するミャンマーはカンボジア以上に低廉な労働力を供給できる 拠点となる可能性を秘めている。欧米諸国の経済制裁解除を契機に、ミャンマーへの援助が再開され れば、脆弱なインフラを整備する動きが強まるだろう。ミャンマーが投資先としてカンボジアを一気 に凌駕するとは考えにくいが、投資環境の整備度で先んじるカンボジアの優位性が中期的に失われて いく可能性は高い。 では、カンボジアは生産拠点として、今後どのように位置づけられるだろうか。結論を先取りすれ ば、カンボジア拠点の存在意義はタイとベトナムに挟まれた地理的近接性に求められよう。 タイやベトナムに進出した日本企業は、生産・販売両面で複数の拠点を展開してきたが、両国にお ける近年の人件費上昇や労働力不足を受けて、既に労働集約的な工程をカンボジアに移す動きが出て いる。実際、カンボジアでは先に見た通り、経済特区がタイ、あるいはベトナム国境周辺に開発され ているが、それはタイ、ベトナム両国における生産体制の一部にカンボジアを組み入れようとした動 きと解釈できよう。 例えば、日系大手精密部品メーカー・ミネベアは2011年、プノンペン郊外の工業団地に進出した。 小型モーターの生産にあたり、タイ工場で生産した部品を、カンボジア工場に陸路で送り、それを低 図表9 インドシナ地域における物流網 (資料)道法清隆(2010)をもとに作成。 南部沿岸回廊 南部回廊 東西回廊 東部回廊 越 南 北 回 廊 南 北 回 廊
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プノンペン廉な労働力を使ってモーターとして組み立てるためだ。このようなオペレーションが可能になってい るのは、インドシナ地域における陸路の整備が進んだためである(図表9)。ホーチミン=プノンペン =バンコクを結ぶ南部回廊に加えて、東西回廊、南北回廊などの道路網が既に完成している。これら 物流網の整備を通じて、インドシナ地域全体で横断的にサプライチェーンを構築することが可能とな ってきた。今後、日本企業はタイ、ベトナムに生産の主軸を置きつつ、労働集約的な工程をカンボジ アに移し補完的な拠点として活用する動きが強まることが予想される。 (2)タイ、ベトナムとの近接性を活かす上で、電力などのインフラ整備、人材育成が必要 ただし、タイ、ベトナムとの地理的近接性という優位性を活かすために、カンボジアが克服すべき 課題がある。 まず、インフラ整備をさらに進める必要がある。現状、道路など物流インフラの整備は進んでいる が、電力不足は深刻だ。カンボジアは電力供給能力(2009年)が386メガワットしかない(図表10)。 また、カンボジア電力公社が供給する電力はプノンペン周辺への供給にとどまり、全国を連携する送 電線網がない。地方では5~15メガワットの小型ディーゼル発電が主流である。こうした環境下、カン ボジアは、国内の電力需要(550メガワット)を賄うことができないため、タイ、ベトナムから電力を 輸入している。このため、電力料金はベトナムの約2倍である。停電も少なくなく、経済特区内での自 家発電に頼る企業が多い。現状、安定的な電力供給が不可欠な電子・精密部品や電力を大量に消費す る業種の進出は難しい。 こうした状況に対し、政府も手をこまねいているわけではない。2011年にカムチャイ水力発電所 (193メガワット)が中国資本の主導で完成、2012年から発電が開始される。さらに、その後も電力 供給力を拡大する計画がある(図表11)。2017年を目処に水力発電を中心とする発電所建設が進めら れており、全て完成すれば1,623メガワットの能力増強となる(カムチャイ水力発電所を含む)。また、 図表10 アジア諸国の発電設備容量(2009年) 図表11 電力供給拡充計画 22,973 15,680 27,802 40,669 13,850 1,840 723 386 - 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 マレーシア フィリピン インドネシア タイ ベトナム ミャンマー ラオス カンボジア (MW)
(資料) EIA “International Energy Statistics”
プロジェクト 資本供給国 発電 方法 発電量 (MW) 操業開始 予定年 カムチャイ 中国 水力 193 2012 キリロム 中国 水力 18 2013 スタンアテイ 中国 水力 120 2013 スタンアテイラッセイ 中国 水力 338 2013 シハヌークビル マレーシア・ カンボジア 火力 200 2013 スタンタテイ 中国 水力 246 2014 セサン川下流及びスレ ポーク川下流 ベトナム 水力 400 2017 ストゥンチャイアレン 中国 水力 108 2017 1,623 合 計 (注)シハヌークビルでは、別途、700MW規模の火力発電所建設 も計画されている。 (資料)カンボジア開発評議会資料などにより作成。
タイとベトナムからの電力輸入に必要な送電線が2012年に完成予定であり、これが完成すればカンボ ジアのほぼ全土に電力が行き渡ることになる。それに加え、ラオスとの間の送電線拡張工事も2016年 を目処に完成が見込まれるなど、電力不足解消に向けた取り組みが海外からの援助や投資を受けなが ら進められている。 第二の課題として、単純作業段階から上の工程 を担える人材や工程管理ができるマネージャクラ スなど、より高い次元の製造工程に対応できる人 材を育成する必要がある。 カンボジアでは若年労働者が豊富な一方、30歳 以上の人口が少ない。また、識字率、就学率とも に低く、教育水準は高くない(図表12)。現状、工 場のラインを任せられる人材が不足しており、現 地日系企業はタイやベトナムの自社工場からマネ ージャーを連れて来ざるをえないという。 当面、カンボジアでは中間管理職クラスはタイ などからの人材に頼らざるを得ないだろうが、中 期的にこうした役割を担うことができるように、 人材の質的な底上げが求められよう。こうした環境下、日本は2002年にODAによって人材開発センタ ーを設立したほか、NGOからの協力も得て2010年までに合計680の学校の建設・補修を行うなど教育 環境の整備や人材育成に対する援助を行っている。 今後、タイを中核とするインドシナ地域のサプライチェーンの中で、労働集約的工程を担う補完的 拠点としてカンボジアが十分に活用されるかは、電力などのインフラ整備や、より高次の技術レベル に対応できる人材育成といった課題をいかに克服していけるかにかかってこよう。 【参考文献】 今村裕二(2011)「カンボジア投資における三つの留意点:立地、物流および人材」日本アセアンセン ター・カンボジア投資セミナー資料(2011 年 5 月) カンボジア開発評議会(2012)『カンボジア投資ガイドブック』 JETRO(2012)「新興メコンの実力」『ジェトロセンサー』(2012 年 3 月号) 道法清隆(2010)「カンボジアの経済、貿易、投資環境と進出日系企業について」日本アセアンセン ター・カンボジア投資セミナー資料(2010 年 5 月) 1 実務経験3 年程度の一般ワーカー賃金は月額 100 ドル程度であるが、これに賞与、社会保険料の負担などが加わることから、年間負担額は 1500 ドル程度になる。 2 ミャンマー政府は、公定レート(1 ドル=6.4 チャット)を実勢レート(1 ドル=800 チャット前後)に近い水準で一本化することで、IMF(国 際通貨基金)と協議していると報道されている(東京新聞(2012 年 3 月 13 日朝刊))。 成人識字率 初等教育就学率 中等教育就学率 高等教育就学率 カンボジア 76.3 79.5 42.0 5.4 ラオス 73.2 74.7 43.5 11.6 ミャンマー 89.9 96.9 49.0 3.1 ベトナム 90.3 96.4 75.7 15.9 タイ 94.2 87.5 83.5 48.3 インドネシア 91.4 108.1 64.2 17.5 フィリピン 93.4 92.3 83.1 28.5 マレーシア 91.9 96.4 69.1 30.2 日本 100 100 101.4 58.1 韓国 97.9 98.7 97.5 94.7 図表 12 アジア諸国の教育水準指標(2008 年) (注)1.ラオス、タイの成人識字率は2005年時点。 2.就学率=全在学者数/就学年齢人口。100%を超える国 があるのは、留年等の要因に加え、在学者の中には無戸 籍者なども含まれるため。